説明

薬剤含浸体及びファン式薬剤拡散装置

【課題】単位時間当たりの薬剤蒸散量の多い薬剤含浸体を大型化せずに得る。
【解決手段】連通気孔を有する基材に揮発性の薬剤を含浸させて薬剤含浸体1を得る。薬剤含浸体1は、ファン式薬剤拡散装置10の薬剤カートリッジ2に収容する。ファン式薬剤拡散装置10の送風機12により空気を薬剤含浸体1に当て、薬剤を拡散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば害虫防除剤等の揮発性を有する薬剤を含浸させた薬剤含浸体及びその薬剤含浸体を備えたファン式薬剤拡散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に開示されているように、ファン式薬剤拡散装置には薬剤を含浸させた薬剤含浸体が設けられている。薬剤含浸体の薬剤は使用によって減っていくので、薬剤による効果が期待できなくなると新たな薬剤含浸体に交換可能となっている。
【0003】
特許文献1には、薬剤含浸体として発泡ウレタンに薬剤を含浸させることが開示されている。この薬剤含浸体にファンから送られる空気を当てることにより、薬剤含浸体に染み込んでいる薬剤を空気中に徐々に蒸散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−318857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、薬剤含浸体に含浸させる薬剤としては例えば害虫防除剤や芳香剤等があるが、これらの持つ効果を高めるためには、単位時間当たりの薬剤蒸散量をできるだけ多くしたいという要求がある。
【0006】
このことに対し、薬剤含浸体の大きさを大きくしてファンから送られてきた空気の当たる面積を広く確保することが考えられる。しかしながら、このようにした場合には、大型の薬剤含浸体を取り付けることができるように装置本体を構成しなければならないので装置本体が大型化してしまう。装置本体が大型化すると、例えば使用者が携帯するのに不向きなものになってしまう恐れがあるとともに、据置型であっても設置スペースの確保が問題となったりする。
【0007】
また、特許文献1のように薬剤含浸体を発泡ウレタンで構成した場合には、発泡ウレタンに形成された各気孔の内部に薬剤が存在することになる。ところが、気孔の内部には空気が出入りしにくいので、内部の薬剤が揮発しにくく留まったままになりがちであり、薬剤の蒸散量を多くできない要因となっていた。
【0008】
加えて、特許文献1の発泡ウレタンを用いた場合には、ファンから送られてきた空気が発泡ウレタン自体を通過しにくいことが考えられる。そのため、発泡ウレタンに含浸されている薬剤の蒸散効率が悪化してしまう。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、薬剤含浸体を大型化せずに、単位時間当たりの薬剤蒸散量を多くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、連通気孔を有する基材に薬剤を含浸させるようにした。
【0011】
第1の発明は、基材に揮発性を有する薬剤が含浸されて構成された薬剤含浸体において、上記基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が20個以上50個以下とされていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、基材に含浸する薬剤は、連通気孔を構成する壁面に付着した状態で連通気孔の内部に存在することになる。連通気孔は、複数の気孔が連通してなるものなので、この連通気孔には空気が出入りし易い。このため、ファン式薬剤拡散装置が有するファンから基材に送られた空気が連通気孔を通って基材を容易に通過するようになり、この空気の通過時に連通気孔の内部の薬剤が効率よく蒸散する。これにより、連通気孔の内部に留まったままとなってしまう薬剤の量が減少し、単位時間当たりの薬剤蒸散量が多くなる。
【0013】
また、基材に連通気孔を形成するだけなので、基材が大型化することはない。さらに、連通気孔の内部に十分な量の薬剤を存在させておくことが可能になるので、長期間に亘って薬剤蒸散量を多く確保することが可能である。
【0014】
また、基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が20個よりも少ないと連通気孔の空気に触れる壁面の合計面積が小さくなり、薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。さらに、薬剤の含浸量も少なくなり、このことによっても薬剤の蒸散量が低下する。
【0015】
一方、基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が50個よりも多いと、1つ当たりの連通気孔が小さくなり過ぎて基材の通気抵抗が増大するとともに、そのような小さな連通気孔には薬剤が入り込みにくく基材への薬剤の含浸量が少なくなってしまう。これらのことにより、薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。
【0016】
つまり、基材の連通気孔の数を上記範囲に設定することで、連通気孔を有する基材を用いた場合に、薬剤の蒸散量をより一層多くすることが可能になる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、基材は、発泡ウレタンで構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、連通気孔を有する基材が容易に、かつ、低コストで得られる。また、発泡ウレタンを構成するウレタン自体には薬剤が浸透していかないので、含浸した薬剤は連通気孔の内部に存在した状態で保持され、全ての薬剤が蒸散し易くなる。
【0019】
第3の発明は、第1または2の発明において、基材の空気流れ方向の寸法は2mm以上5mm以下に設定されていることを特徴とするものである。
【0020】
すなわち、基材の空気流れ方向の寸法が2mmよりも短いと、薄くなり過ぎて連通気孔を持った基材の製造が困難になる。
【0021】
一方、基材の空気流れ方向の寸法が5mmよりも長いと、基材の通気抵抗が増大して薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。また、ファン式薬剤拡散装置の本体が大きくなり過ぎて実用に不向きとなってしまう。
【0022】
第4の発明は、第1から3のいずれか1つの発明にかかる薬剤含浸体と、上記薬剤含浸体に空気を送るためのファンとを備え、上記ファンから送られた空気を上記薬剤含浸体に当てて薬剤を蒸散させるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、連通気孔を有する基材に薬剤を含浸させたので、連通気孔の内部に存在する薬剤が蒸散し易くなる。これにより、薬剤含浸体を大型化することなく、単位時間当たりの薬剤蒸散量を多くすることができる。また、基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数を20個以上50個以下にしたので、薬剤の蒸散量をより一層多くすることができ、薬剤の持つ効果を十分に得ることができる。
【0024】
第2の発明によれば、基材を発泡ウレタンで構成したので、連通気孔を有する基材の製造が容易に行えるとともに、含浸した全ての薬剤を効果的に蒸散させることができる。
【0025】
第3の発明によれば、基材の空気通過方向の寸法を2mm以上5mm以下に設定したので、薬剤蒸散量を多く確保できるファン式薬剤拡散装置をコンパクトにすることができる。
【0026】
第4の発明によれば、単位時間当たりの薬剤蒸散量の多いファン式薬剤拡散装置をコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態にかかるファン式薬剤拡散装置の斜視図である。
【図2】ファン式薬剤拡散装置の平面図である。
【図3】ファン式薬剤拡散装置の正面図である。
【図4】ファン式薬剤拡散装置の左側面図である。
【図5】ファン式薬剤拡散装置の底面図である。
【図6】図2のVI−VI線における断面図である。
【図7】薬剤カートリッジの斜視図である。
【図8】薬剤カートリッジの分解図である。
【図9】薬剤カートリッジの正面図である。
【図10】薬剤カートリッジの側面図である。
【図11】図9のXI−XI線における断面図である。
【図12】薬剤含浸体の製造要領を示す図である。
【図13】基材の種類と薬剤蒸散量との関係を示すグラフである。
【図14】薬剤含浸体の別の製造要領を示す図である。
【図15】基材が1つである場合の図12相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態にかかる薬剤含浸体1(図8等に示す)を備えたファン式薬剤拡散装置10を示すものである。ファン式薬剤拡散装置10は、害虫としての蚊等を主に防除するためのものである。
【0030】
ファン式薬剤拡散装置10は、上記薬剤含浸体1を有する薬剤カートリッジ2(図7に示す)と、図6に示す送風機12及び電池13,13と、これらを収容する略矩形箱状のケース14とを備えており、バンド15(図1にのみ示す)により使用者の手首等に取り付けられるようになっている。
【0031】
尚、バンド15は、手首以外にも様々な所にファン式薬剤拡散装置10を取り付けるのに利用することができる。バンド15は、周知の面ファスナーを利用した固定方法や各種の長さ調整機構を設けることもできる。また、ファン式薬剤拡散装置10は、屋内等に置いて使用することも可能である。
【0032】
この実施形態の説明では、ファン式薬剤拡散装置10を使用者の手首に取り付けた状態を想定して、図1〜図6に示すように、仮に、手前側、奥側、左側、右側を定義する。
【0033】
ケース14は、上方に開放する本体部20と、本体部20の開放部分を覆う蓋21とを備えている。これら本体部20及び蓋21は、樹脂材で構成されている。
【0034】
図4や図6に示すように、本体部20の底壁部20aは、全体として、手前側及び奥側が最も下に位置してその中央部が最も上に位置するように湾曲形成されている。この底壁部20aの形状により、ファン式薬剤拡散装置10が手首にフィットし易くなり、手首への装着感が向上するとともに、装着時の位置ずれが起こり難くなる。
【0035】
ケース14の本体部20における左側壁部20bの上部には、ケース14内の空気を外部に放出するための左側空気放出口30が形成されている。図1に示すように、左側壁部20bは、左側空気放出口30に近い部位ほどケース14内側に位置するように湾曲形成されており、空気が左側空気放出口30からスムーズに放出されるようになっている。
【0036】
また、左側壁部20bには、一対の整流板32,32が左側空気放出口30の開口に対応して設けられている。各整流板32は、上下方向に延びるとともに、ケース14の内外方向に延びている。整流板32,32により、空気の流れがスムーズになるととともに、異物がケース14内に侵入するのを抑制することが可能になる。
【0037】
左側壁部20bには、左側空気放出口30の下側にスイッチ34と運転表示ランプ35とが設けられている。スイッチ34は、送風機12を運転状態と停止状態とに切り替えるためのものである。運転表示ランプ35は、送風機12が運転状態にあるときに点灯し、停止状態にあるときに消灯する。
【0038】
右側壁部20cにも、左側壁部20bと同様に右側空気放出口(図示せず)と、一対の整流板(図示せず)とが形成されている。また、右側壁部20cも右側空気放出口に近い部位ほどケース14内側に位置するように湾曲形成されている。
【0039】
図1に示すように、ケース14の本体部20における手前側壁部20dには、3つの手前側空気放出口38,38,38が左右方向に間隔をあけて形成されている。手前側壁部20dの手前側空気放出口38よりも下側には、バンド15が取り付けられるバンド取付部40が設けられている。このバンド取付部40は、バンド15が巻き付けられる棒状部分を有しており、本体部20に一体成形されている。
【0040】
図6に示すように、ケース14の本体部20における奥側壁部20eにも、手前側壁部20dと同様に3つの奥側空気放出口42と、バンド取付部43とが形成されている。
【0041】
図1及び図2に示すように、蓋21の中央部には、手前側から奥側へ延びる複数のスリット(空気吸込口)44,44,…が左右方向に間隔をあけて設けられている。左端のスリット44は蓋21の左端部近傍に位置しており、また、右端のスリット44は蓋21の右端部近傍に位置している。また、各スリット44の長手方向両端部は、蓋21の手前側端部及び奥側端部近傍に位置している。つまり、蓋21の広い範囲に亘って空気放出口が形成されている。また、スリット44の長さについては、左右方向の中央部に位置するスリット44が最も長く、左端及び右端に近いスリット44が短くなっている。
【0042】
尚、スリット44の形状や数は、任意に設定することができ、形状としては、例えば、円を描くように延びる形状やケース14の対角線方向に延びる形状であってもよい。
【0043】
図6に示すように、蓋21の手前側は、下方へ湾曲するように形成されており、その下端部には爪21aが形成されている。この爪21aは、本体部20の手前側空気放出口38の上縁部に引っ掛かった状態で係合するようになっている。また、蓋21の奥側も、手前側と同様に、下方へ湾曲しており、その下端部には爪21aが形成され、その爪21aが本体部20の奥側空気放出口42の上縁部に引っ掛かった状態で係合するようになっている。蓋21は、爪21a,21aの係脱により使用者が簡単に着脱できるようになっている。
【0044】
2本の電池13,13は、本体部20の下部において手前側と奥側とにそれぞれ収容されている。上記した本体部20の底壁部20aの手前側及び奥側が最も下に位置する形状となっているのは、電池13,13をその部分に収容するためである。電池13,13は、電池ホルダ50によって上方から押さえられて本体部20に固定されるようになっている。
【0045】
送風機12は、モーター60と、ファン61とを備えている。モーター60は、ケース14の本体部20において手前側の電池13と奥側の電池13との間に収容されている。モーター60の姿勢は、出力軸60aがケース14の上下方向に延び、かつ、モーター60の本体部分から上方へ突出する姿勢となっている。
【0046】
ケース14の本体部20には、モーター60を固定するためのモーターホルダ51が設けられている。モーター60は、モーターホルダ51によって上方から押さえられて本体部20に固定されるようになっている。
【0047】
モーター60と、スイッチ34と、運転表示ランプ35と、電池13,13とは電気的に接続されている。スイッチ34をONにすると、モーター60と運転表示ランプ35に電流が流れ、OFFにするとそれらへの電流が遮断されるようになっている。
【0048】
ファン61は、樹脂材の一体成形品であり、図6に示すように、モーター60の出力軸60aに固定されている。ファン61の外径はモーター60の外径よりも大きく設定されており、ファン61の外周部は、本体部20の左右側壁部20b,20cの近傍に位置している。
【0049】
ファン61の上方には、グリル59が設けられている。このグリル59は、ケース14の本体部20における上部の開放部分を覆う板状に形成され、本体部20に固定されている。グリル59には、ファン61に対応する部分に貫通孔59aが形成されている。この貫通孔59aを介して空気が流通するようになっている。
【0050】
ファン61の上方には、薬剤カートリッジ2が設けられている。図7に示すように薬剤カートリッジ2は、全体として円形の板状に形成されており、図6に示すように蓋21の内部に位置している。すなわち、蓋21の裏側には、薬剤カートリッジ2を収容可能な空間で構成された薬剤カートリッジ収容部Sが設けられている。
【0051】
グリル59の外周寄りの部位には、薬剤カートリッジ2を所定位置に保持するための突起59b、59bが上方へ突出するように形成されている。これら突起59b,59bは、薬剤カートリッジ2の外周部に当接するように配置されており、薬剤カートリッジ2が径方向に移動するのを阻止する。薬剤カートリッジ2は、蓋21とグリル59とで挟まれた状態でケース14に固定される。
【0052】
図8〜図11に示すように、薬剤カートリッジ2は、薬剤含浸体1の他に、厚み方向に分割された第1分割体67と、第2分割体68とからなる容器66を備えている。図8に示すように、第1分割体67は、円盤部70と、円盤部70の周縁部に設けれた周壁部71とを備えている。円盤部70の内周側には、6つの内周側開口部70a,70a,…が互いに周方向に間隔をあけて形成されている。各内周側開口部70aの形状は、円盤部70の中心部近傍に頂点が位置する略三角形である。
【0053】
円盤部70の外周側には、6つの外周側開口部70b,70b,…が互いに周方向に間隔をあけて形成されている。各外周側開口部70bの形状は、円盤部70の周方向に長い形状である。複数の内周側開口部70a及び外周側開口部70bを形成することで、薬剤含浸体1の露出面積を増やしている。
【0054】
各外周側開口部70bにおける径方向外側の縁部70cには、該外周側開口部70bの内側へ向けて延出する延出板部70dが形成されている。延出板部70dの縁部は、平面視で略円弧状に延びている。延出板部70dにおける薬剤カートリッジ2内に臨む面には、突起70eが薬剤カートリッジ2内へ向けて突出するように形成されている。
【0055】
また、円盤部70における薬剤カートリッジ2内に臨む面の中心部には、略円形の凸部70fが薬剤カートリッジ2内へ向けて突出するように形成されている。この凸部70fの形成により、図11に示すように、円盤部70における薬剤カートリッジ2外面には、凸部70fに対応する略円形の凹部70gが形成されることになる。
【0056】
また、図8に示すように、円盤部70における薬剤カートリッジ2内に臨む面には、隣り合う内周側開口部70a,70aの間、及び隣り合う外周側開口部70b,70bの間に、突条部70hが薬剤カートリッジ2内へ向けて突出するように形成されている。この突条部70hは、円盤部70の中心部の凸部70fから周壁部71近傍まで延びている。
【0057】
円盤部70の外周部は、周壁部71よりも外側へ延出している。また、図11にも示すように、周壁部71の外側面には、外方へ突出して周方向に延びる係合突起71aが形成されている。
【0058】
図8に示すように、第2分割体68も、第1分割体67と同様に、円盤部72と周壁部73とを備えており、円盤部72には、内周側開口部72a、外周側開口部72b、延出板部72d、突起72e(図11に示す)、凸部72f、凹部72g及び突条部72(図示せず)が形成されている。第2分割体68の円盤部72と第1分割体67の円盤部70とは略同じ大きさである。また、第1分割体67の円盤部70の内周側開口部70a、外周側開口部70b、延出板部70d、突起70e、凸部70f、凹部70g及び突条部70hの形成位置は、それぞれ、第2分割体68の円盤部72の内周側開口部72a、外周側開口部72b、延出板部72d、突起72e、凸部72f、凹部72g及び突条部72hの形成位置と一致している。
【0059】
また、第2分割体68の周壁部73は円盤部72の最外部に位置している。従って、第2分割体68の周壁部73は、第1分割体67の周壁部71よりも大径となる。第2分割体68の周壁部73の内側に、第1分割体67の周壁部71が嵌るようになっている。第2分割体68の周壁部73の内側面には、内方へ突出して周方向に延びる係合突起73a(図11に示す)が上記係合突起71aと係合するように形成されている。
【0060】
図8に示すように、薬剤含浸体1は、共に円盤状の第1基材1aと第2基材1bとを備えている。第1基材1aは、弾性変形可能な樹脂材で構成されている。この実施形態では、第1基材1aを発泡ウレタンで構成しているが、これに限られるものではない。また、害虫防除剤は、周知の蚊取り器等で使用されている薬剤であり、揮発性を有している。薬剤には、例えば揮発性溶剤や活性剤を添加してもよい。第2基材1bは第1基材1aと同じものである。
【0061】
第1基材1aについて詳しく説明する。発泡構造は、多数の気孔が互いに連通した状態の連通気孔を有する構造となっている。従って、空気は第1基材1aの表裏方向に容易に流通するようになっている。また、第1基材1aは、圧縮して完全に押し潰しても外力を除けば元の形状に復元する形状復元性を備えている。
【0062】
第1基材1aに含浸した薬剤は、連通気孔の内部に存在しており、連通気孔を構成する壁面に付着している。
【0063】
第1基材1aの表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数は、20個以上50個以下に設定されている。ここで、「第1基材1aの表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数」とは、第1基材1aの表面に長さ25mmの仮想直線を引いたとき、平面視でこの仮想直線と重複して開口している連通気孔の数のことであり、開口の一部が仮想直線と重複している場合にはその連通気孔は数に含める。
【0064】
尚、各基材1a,1bの直径は、30mm以上40mm以下に設定されている。
【0065】
また、各基材1a,1bの厚みは2mmに設定されており、従って、薬剤含浸体1の厚みは4mmとなる。尚、各基材1a,1bの厚みは上記した厚みに限られるものではなく、例えば2.5mmであってもよい。この場合、薬剤含浸体1の厚みは5mmとなる。
【0066】
この薬剤含浸体1の厚み寸法は、薬剤カートリッジ2の第1分割体67の円盤部70内面と第2分割体68の円盤部72内面との離間寸法よりも長めに設定されている。
【0067】
薬剤含浸体1は、次のようにして製造される。まず、連通気孔の密度が上記範囲にある発泡ウレタンを用意する。連通気孔の密度は、従来周知の発泡剤や成形条件等によって変更することが可能である。
【0068】
その後、発泡ウレタン材料を、第1基材1a及び第2基材1bの厚さにスライスする。スライスした第1基材1aを固定盤(図示せず)上に置き(図12(a)参照)、一方側の面(上面)に上記薬剤を塗布する(図12(b)参照)。薬剤はスプレー装置(図示せず)により噴霧して塗布するようにしてもよいし、ノズルや刷毛、ローラー等(図示せず)で塗布するようにしてもよい。ノズルで塗布する場合には、例えば複数のノズルから薬剤を吐出させながら、そのノズルを第1基材1a上で移動させて広範囲に塗布するのが好ましい。
【0069】
尚、第1基材1aを固定盤に置く前に薬剤を塗布してもよい。また、固定盤及び可動盤は、樹脂材で構成するのが好ましい。
【0070】
しかる後、第1基材1aの上面に第2基材1bを重ねる(図12(c)参照)。次いで、第2基材1bの上方から可動盤(図示せず)を下降させ、第1基材1a及び第2基材1bを固定盤と可動盤とで完全に潰れるまで圧縮する(図12(d)参照)。このときの圧縮量は第1基材1a及び第2基材1bの厚みが自由状態のときの10%以下となる量である。このように圧縮すると、第1基材1aの上面の薬剤が第1基材1aの厚み方向中間部に強制的に押し込まれ、染みていき、やがて、第1基材1aの下面に達する。また、第1基材1aの上面の薬剤は、第2基材1bの厚み方向中間部に強制的に押し込まれ、染みていき、第2基材1bの上面に達する。これにより、第1基材1a及び第2基材1bの上面から下面に亘って薬剤が行き渡り、薬剤含浸体1が得られる(図12(d)参照)。
【0071】
上記のようにして製造された薬剤含浸体1は、完成状態の薬剤含浸体1よりも薄い第1基材1a及び第2基材1bの間に薬剤を存在させてから第1基材1a及び第2基材1bに染み込ませるようにしたので、厚み方向全体に亘って均一に薬剤を行き渡らせることができる。
【0072】
尚、第2基材1bに薬剤を塗布し、第1基材1aには薬剤を塗布しないようにしてもよい。この場合、第2基材1bの薬剤が塗布された面に第1基材1aを重ねる。
【0073】
薬剤含浸体1は薬剤カートリッジ2に収容する。すなわち、図8に示すように、第1分割体67の周壁部71の内側に薬剤含浸体1を入れ、第1分割体67の周壁部71を第2分割体68の周壁部73の内側に嵌め、第1分割体67の係合突起71aと第2分割体68の係合突起73aとを係合させる。
【0074】
すると、第1分割体67の突起70eと、第2分割体68の突起72eとが薬剤含浸体1の外周側に食い込み、薬剤含浸体1が両突起70e,72eにより厚み方向に挟持されることになる。しかも、このとき、突起70e,72eは、薬剤カートリッジ2の周方向に間隔をあけて複数存在しているので、使用者が薬剤含浸体1の外周側を厚み方向に不用意に押した際に、薬剤含浸体1が外周側開口部70b、72bからはみ出るように変形してしまうのを抑制できる。
【0075】
さらに、第1基材1a及び第2基材1bの外面は、連通気孔が開口していることにより粗くなっている。このため、突起70e,72eが第1基材1a及び第2基材1bに対して滑り難くなり、このことによっても薬剤含浸体1が外周側開口部70b、72bからはみ出にくくなる。
【0076】
また、第1分割体67の凸部70f及び第2分割体68の凸部72fが薬剤含浸体1に食い込むとともに、第1分割体67の突条部70h及び第2分割体68の突条部(図示せず)も薬剤含浸体1に食い込む。
【0077】
尚、第1分割体67の突起70eと第2分割体68の突起72eとのうち、一方を省略してもよい。また、突起70e,72eの数は、6つに限られるものではなく、例えば1つや2つであってもよい。また、図示しないが、薬剤含浸体1に食い込む突起は、薬剤含浸体1の中心側に食い込むように配置してもよい。
【0078】
次に、上記のように構成されたファン式薬剤拡散装置10を使用する場合について説明する。使用者がスイッチ34をONにすると、モーター60と運転表示ランプ35に電流が流れてモーター60が回転するとともに運転表示ランプ35が点灯する。
【0079】
モーター60によりファン61が回転する。ファン61が回転すると、スリット44から空気がケース14内に吸いこまれる。ケース14内に吸い込まれた空気は薬剤カートリッジ収容部Sに流入する。この空気は、薬剤カートリッジ2の第1分割体67の内周側開口部70a及び外周側開口部70bを流通して薬剤含浸体1に達し、薬剤含浸体1の連通気孔を通る。この連通気孔内には薬剤が存在しているので、薬剤が空気によって連通気孔内から運び出されて第2分割体68側へ流出し、第2分割体68の内周側開口部72a及び外周側開口部72bを流通した後、グリル59の貫通孔59aを流通してケース14の左右の空気放出口30と、手前側の空気放出口38と、奥側の空気放出口42とを流通して外部に放出される。このとき、空気放出口30,38,42がケース14の4方向に開口しているので、薬剤はケース14の4方向に吹き出すことになり、薬剤を広範囲に拡散させることができる。
【0080】
薬剤含浸体1の表面の長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数を20個以上50個以下としているので、薬剤の単位時間当たりの蒸散量が多くなっている。すなわち、連通気孔の数が20個よりも少ないと連通気孔の空気に触れる壁面の合計面積が小さくなり、薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。さらに、薬剤の含浸量も少なくなり、このことによっても薬剤の蒸散量が低下する。
【0081】
一方、薬剤含浸体1の表面の長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が50個よりも多いと、1つ当たりの連通気孔が小さくなり過ぎて基材1a,1bの通気抵抗が増大するとともに、そのような小さな連通気孔には薬剤が入り込みにくく基材1a,1bへの薬剤の含浸量が少なくなってしまう。これらのことにより、薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。つまり、連通気孔の数を上記範囲に設定することで、連通気孔を有する基材1a,1bを用いた場合に、薬剤の蒸散量をより一層多くすることが可能になる。
【0082】
このことを図13に示すグラフに基づいて説明する。このグラフは、連通気孔の密度を変えた複数の薬剤含浸体1を用いて単位時間当たりの薬剤蒸散量を測定した結果を示すものである。基材1a,1bの直径は36mmである。また、風量は30l/minである。
【0083】
グラフの縦軸は、単位時間当たりの薬剤蒸散量を示しており、単位はmg/hr、即ち、1時間当たりにどれだけ薬剤が蒸散したかを表している。グラフの横軸は、薬剤含浸体1の厚みを示している。
【0084】
「連通気孔13個の含浸体」とは、薬剤含浸体1の基材1a,1bの表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が13個である場合である。この「連通気孔13個の含浸体」では、厚みが2mm〜3.5mmくらいの範囲では薬剤蒸散量が0.20mg/hrを下回っており、薬剤蒸散量が十分でない。尚、薬剤蒸散量は、屋外等での使用時を考慮すると、少なくとも0.20mg/hrを確保する必要がある。
【0085】
「連通気孔20個の含浸体」は、同様に、開口する連通気孔の数が20個である基材1a,1bを用いた場合である。この「連通気孔20個の含浸体」では、厚みが2mmであっても薬剤蒸散量を0.20mg/hr以上確保でき、薬剤蒸散量が十分である。
【0086】
「連通気孔30個の含浸体」は、同様に、開口する連通気孔の数が30個である基材1a,1bを用いた場合である。この「連通気孔30個の含浸体」では、厚みが2mmであっても薬剤蒸散量を0.40mg/hr以上確保でき、薬剤蒸散量が十分である。
【0087】
「連通気孔40個の含浸体」は、同様に、開口する連通気孔の数が40個である基材1a,1bを用いた場合である。この「連通気孔40個の含浸体」では、厚みが2mmであっても蒸散量を0.40mg/hr以上確保でき、薬剤蒸散量が十分である。
【0088】
「連通気孔50個の含浸体」は、同様に、開口する連通気孔の数が50個である基材1a,1bを用いた場合である。この「連通気孔50個の含浸体」では、厚みが2mmであっても薬剤蒸散量を0.40mg/hr以上確保でき、薬剤蒸散量が十分である。
【0089】
「連通気孔80個の含浸体」は、同様に、開口する連通気孔の数が80個である基材1a,1bを用いた場合である。この「連通気孔80個の含浸体」では、厚みが2mm〜7mmの全ての範囲で薬剤蒸散量が0.10mg/hr以下であり、薬剤蒸散量が十分でない。
【0090】
グラフに示す結果より、薬剤含浸体1の基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数としてより好ましいのは、30個以上40個以下である。
【0091】
さらに、この実施形態では、薬剤含浸体1の2枚の基材1a,1bの合計の厚み(空気通過方向)寸法を2mm以上5mm以下の範囲内で設定しており、このことによっても、薬剤の単位時間当たりの蒸散量が多くなっている。薬剤含浸体1の2枚の基材の合計の厚みとしてより好ましいのは、3mm以上4mm以下である。
【0092】
すなわち、薬剤含浸体1の基材1a,1bの厚み寸法が2mmよりも短いと、薄すぎて製造が困難になり、一方、基材1a,1bの空気通過方向の寸法が5mmよりも長いと、基材1a,1bの通気抵抗が増大して薬剤の蒸散量が著しく低下してしまう。また、そのような厚い薬剤含浸体1を収容可能にケース14を構成すると、ファン式薬剤拡散装置1の本体が大きくなり過ぎて実用に不向きとなってしまう。
【0093】
薬剤カートリッジ2の薬剤含浸体1の薬剤が減少して寿命を迎えると、新たな薬剤カートリッジ2に交換することができる。薬剤カートリッジ2の交換の際には、蓋21の爪21a,21aを本体部20から外し、蓋21を開ける。そして、古い薬剤カートリッジ2を取り外して新たな薬剤カートリッジ2をグリル59の上に置き、突起59b、59bで保持した後、蓋21を本体部20に取り付ける。
【0094】
薬剤カートリッジ2の交換時、例えば、薬剤カートリッジ2の外周側開口部72bに指等が入り、薬剤含浸体1に触れることが考えられる。この薬剤含浸体1には、容器66の突起70e,72eが食い込んでいるので、薬剤含浸体1の一部が外周側開口部72bから外部にはみ出るのが抑制される。
【0095】
以上説明したように、この実施形態にかかる薬剤含浸体1によれば、連通気孔を有する基材1a,1bに薬剤を含浸させたので、連通気孔の内部に存在する薬剤が蒸散し易くなる。これにより、単位時間当たりの薬剤蒸散量の多い薬剤含浸体1を大型化せずに得ることができる。
【0096】
また、基材1a,1bを発泡ウレタンで構成したので、連通気孔を有する基材1a,1bの製造が容易に行えるとともに、含浸した薬剤を効果的に蒸散させることができる。
【0097】
また、基材1a,1bの表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数を20個以上50個以下にしたので、薬剤の蒸散量をより一層多くすることができ、薬剤の持つ効果を十分に得ることができる。
【0098】
また、基材1a,1bの空気通過方向の寸法を2mm以上5mm以下に設定したので、薬剤蒸散量を多く確保可能なファン式薬剤拡散装置1をコンパクトにすることができる。
【0099】
尚、上記実施形態では、薬剤含浸体1を第1基材1a及び第2基材1bからなるものとしているが、これに限らず、薬剤含浸体1を1つの基材からなるものとしてもよいし、3つ以上の基材からなるものとしてもよい。
【0100】
また、上記実施形態では、薬剤含浸体1を製造する際に固定盤と可動盤とを用いているが、これに限らず、例えば、図14に示すように第1ローラー110及び第2ローラー111を備えた装置を用意し、これらローラー110,111により基材1a,1bを圧縮するようにしてもよい。第1ローラー110及び第2ローラー111は、互いの回転中心線が平行となるように配置され、回転駆動装置(図示せず)によって矢印で示すように互いに反対方向に回転するようになっている。第1ローラー110及び第2ローラー111の隙間は、基材1a,1bの厚みよりも十分に狭くなっている。上面に薬剤が塗布された基材1a,1bを第1ローラー110及び第2ローラー111の間に通すことで薬剤が基材1a,1bの厚み方向全体に行き渡る。この場合、基材1aと基材1bとを1枚づつ第1ローラー110及び第2ローラー111の間に通してもよいし、基材1aと基材1bとを厚み方向に重ねた状態で第1ローラー110及び第2ローラー111の間に通してもよい。基材1aと基材1bとを重ねる場合には、基材1aにおける基材1bに接触する面に薬剤を塗布するようにしてもよい。
【0101】
また、図15に示すように、1枚の基材1aの上面に薬剤を塗布した後(図15(b)参照)、圧縮変形させることにより(図15(c)参照)、薬剤を含浸させるようにしてもよい。
【0102】
また、第1基材1a及び第2基材1bの厚みを2mmとしているので、圧縮変形させた際に、薬剤が全体に行き渡りやすくなる。すなわち、第1基材1aの厚みを5mmよりも厚く設定すると、第1基材1aの上面に薬剤を付着させていても、その薬剤が第1基材1aの下面にまで到達しにくくなり、薬剤を均一に含浸させるのが難しくなる。これは本発明者らが様々な厚みの基材を用意して実験を行った結果である。従って、第1基材1a及び第2基材1bの厚みは、5mm以下が好ましい。より好ましくは4mm以下である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明したように、本発明にかかる薬剤含浸体は、例えば、携帯型のファン式薬剤拡散装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 薬剤含浸体
1a 第1基材
1b 第2基材
2 カートリッジ
10 ファン式薬剤拡散装置
61 ファン
66 容器
70e 突起
72e 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に揮発性を有する薬剤が含浸されて構成された薬剤含浸体において、
上記基材の表面における長さ25mmの直線上に開口する連通気孔の数が20個以上50個以下とされていることを特徴とする薬剤含浸体。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤含浸体において、
基材は、発泡ウレタンで構成されていることを特徴とする薬剤含浸体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薬剤含浸体において、
基材の空気流れ方向の寸法は2mm以上5mm以下に設定されていることを特徴とする薬剤含浸体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載された薬剤含浸体と、
上記薬剤含浸体に空気を送るためのファンとを備え、
上記ファンから送られた空気を上記薬剤含浸体に当てて薬剤を蒸散させるように構成されていることを特徴とするファン式薬剤拡散装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−147707(P2012−147707A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7791(P2011−7791)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【Fターム(参考)】