説明

薬剤輸送システム

【課題】新規な薬剤輸送システム、その使用、及びそれを用いた薬剤輸送方法の提供。
【解決手段】磁気部分、及びそれに結合しているケージド(caged)薬剤を含んでなり、当該薬剤が、所定の波長及び/又は強度の放射線に反応して活性化及び/又は放出されうる、薬剤輸送システム。患者に前記システムを投与するステップと、磁場の印加によって標的部位に前記システムを局在化するステップと、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を照射し、標的部位で当該ケージド薬剤を活性化させ、放出させるステップを含んでなる、前記システムの使用若しくは薬剤輸送システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤輸送システムに関する。具体的には、限定されないが、本発明は眼内薬剤輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内薬剤輸送のための様々な方法が公知である。例えば、薬剤を目に点眼することにより、局所投与できる。しかしながら、局所投与は通常、目の前部分上の、目の表面及び狭い範囲の症状を治療するのに効果的なだけであり、角膜を越えた部位へ治療的濃度の薬を輸送することは困難である。
【0003】
また、治療的濃度で薬剤を眼内に輸送するために、眼内注入が行われることもある。しかしながら、薬剤輸送のこの種の侵襲的方法では高度な技術が必要となり、また患者にとっても極めて不快なものである。また、それらに伴う感染、炎症、張力低下、脈絡膜分離、網膜剥離及び出血の危険性が生じ、それにより失明に至るおそれのある合併症へとつながりうる。
【0004】
目への直接的な薬剤注射を回避するため、薬剤を腸内(例えば経口的)若しくは他の非経口経路(例えば静脈注射)により投与し、それらを体内の循環経路を利用して目に到達させる方法も存在する。しかしながら、これらの薬剤は、有効成分が血管内及び血管外の体液で希釈されるため、通常高濃度で投与する必要がある。しかしながらそれにより他の器官系及び組織に対して毒性を及ぼす危険性が生じる。一方、毒性及び他の副作用を回避するために低い濃度とした場合には、それらが目に到達する前に、例えば肝臓及び腎臓によって有効成分の不活化及び/又は排出(特に化合物がこれらの器官を繰り返し循環する場合)が行われるため、治療が不成功に終わる可能性が大きくなる。
【0005】
特許文献1では、光力学治療法(PDT)を使用して目の血管新生病を治療する方法を記載している。PDTにおいて、感光性化合物を、全身的又は局所的に患者に投与する。感光性化合物は特徴的な光吸収スペクトルを有し、その波長帯の光照射を受けた場合、反応性核種(例えば一重項酸素原子)を生じさせるが、それは周囲の細胞に損傷を与える。特許文献1の方法では、例えば感光性化合物を、血管新生組織を裏打ちする内皮に結合することにより複合体を形成できる、抗体及び抗体断片とコンジュゲートさせることを特徴とする。すなわち、内皮に結合した後、コンジュゲートした感光性化合物は活性化されると、標的の内皮細胞に損傷を及ぼすこととなる。
【0006】
PDTの使用目的は非常に特殊であり、その効果も限られている。その使用目的は、意図された治療効果を得るために標的組織を殺すことであり、治療用薬剤を輸送することではない。その場合、有益な効果は、異なる及び/又は多様な方法(必ずしも病理組織に対する毒性に基づくものではない)によって得られる。PDTの更なる欠点は、感光性化合物の活性化に応じて生じる反応性核種が、無差別に周囲(非病理)組織に作用しうることである。したがって、この形態による治療は、ごく限られた症状(周囲組織への損傷が許容される場合、及び標的組織の破壊が所望のである場合)の治療にのみ適している。他の症状の場合、標的部位に治療薬又は薬剤を輸送することによる効果が、必ずしも標的組織又は細胞を殺さないことが好ましい場合もある。むしろ、かかる薬剤は、標的組織及び細胞を破壊するのみならず、生化学プロセス(例えば炎症)を阻害するか、感染を抑制(例えば抗生物質及び抗ウイルス剤)するか、内在性物質(例えば血管内皮細胞増殖因子(VEGF))のアゴニスト又はアンタゴニストとして作用するか、又は何らかの形で細胞内経路を調整するように設計するのが望ましいとも考えられる。
【特許文献1】国際公開第01/51087号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、薬剤輸送システムの提供に関する。
【0008】
本発明は、磁気部分、及びそれに結合しているケージド(caged)薬剤を含んでなり、当該薬剤が、所定の波長及び/又は強度の放射線に反応して活性化及び/又は放出されうる、薬剤輸送システムの提供に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本出願において、用語「放射線」とは、光線、波又は粒子の流れとして伝播されるいかなるものも包含される。放射線の好ましい形態としては、電磁放射及び音波が挙げられる。好適な電磁放射の例としては、赤外光、可視光及び/又は紫外光が挙げられる。好適な音波の例としては、可聴音波及び超音波が挙げられる。
【0010】
好ましくは、磁気部分は磁気ナノ粒子である。
【0011】
本発明の更に別の態様では、本発明は、薬剤輸送方法への上記システムの使用の提供に関する。前記方法は、以下のステップを含んでなる:患者に上記システムを投与するステップと、磁場を印加して標的部位でシステムを局在化するステップと、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を与え、標的部位において、ケージド薬剤を活性化させ、放出させるステップ。
【0012】
以下で詳細に説明するように、本発明のシステムは、経腸的又は非経口的に患者に投与することが可能である。当該システムは、局所的に、例えば吸入又は点眼によって投与することもできる。その後、磁場を用いて、治療しようとする標的部位に当該システムを局在化することができる。更に放射線を標的部位に対して照射し、所望の部位でケージド薬剤を活性化させ、放出させてもよい。いかなる形の放射線も使用できる。例えば、電磁放射(例えば光)及び音波放射(例えば超音波)などが挙げられる。好ましくは、電磁放射は光(例えばレーザー光)を用いて行う。
【0013】
本発明のシステムは特に、外部放射線(例えば光)源を用いてケージド薬剤を活性化させ及び/又は放出させるのに使用できる場合には、透明及び/又は半透明の組織の治療に適する。本発明の好ましい実施形態では、当該システムを用いて薬剤を眼内へ投与する。所定の波長及び/又は強度の放射線(例えば光)を、目に照射することにより、標的部位でケージド薬剤を活性化させ及び/又は放出させることが可能となる。
【0014】
本発明のシステムは、ケージド薬剤を含んでなる。当該ケージド薬剤とは、保護リガンド又はケージング基によって生物学的に不活性な状態となっている治療薬を含んでなる薬剤のことを指す。ケージド薬剤が所定の波長及び/又は強度の電磁放射(例えば光)によって活性化される場合、当該ケージド薬剤を光活性化型ケージド薬剤と称する。典型的には、治療薬は、切断可能な結合(例えば光により切断可能な結合)を介して、リガンド又はケージング基に結合している。適当な波長及び/又は強度の放射線(例えば光)で照射された場合、当該切断可能な結合は破壊される。これにより、治療薬を、保護リガンド又はケージング基から遊離させることができる。その代替として、又はそれに加えて、切断可能(例えば光切断可能)な結合を破壊することにより、1つ以上の活性部位を活性化させ、それによって治療薬の治療効果を発生させてもよい。当該治療薬は、放出され及び/又は活性化した後、その通常の治療活性を発揮する。
【0015】
ケージド薬剤(例えば光活性化型ケージド薬剤)には、いかなる適切な治療薬も包含されうる。適当な例としては、高分子(例えば抗体及びアプタマー)などが挙げられるが、これらに限定されない。かかる高分子は、病原性分子(例えばVEGF(例えば目の血管新生病の場合)、及びTNF(例えば関節炎の場合、それに関連する目のブドウ膜炎の治療の場合)と結合する能力を有する。治療薬の他の例としては、アンチセンスDNA、RNA又はsiRNAなどが挙げられる。かかる薬剤と投与する目的としては、遺伝子の発現を阻害し、それにより疾患を変調させること(例えば、色素性網膜炎の幾つかの形態においては、グアニル酸シクラーゼなどの構成的に活性を有する変異体タンパク質の活性を抑制することによる)、又は、タンパク質を抑制すること(色素性網膜炎の幾つかの形態においては、当該タンパク質(例えばグアニル酸シクラーゼ)が、そのアンタゴニスト(例えばホスホジエステラーゼβ)の突然変異のためにもはやアンタゴナイズされない場合)が挙げられる。更なる例としては、限定されないが、抗生物質(例えば急性若しくは抵抗性眼内感染症の治療用)、抗ウイルス剤、抗真菌剤、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、鎮痛剤、眼圧に影響を与える薬剤、スタチン及び神経保護剤が挙げられる。
【0016】
当該治療薬は、任意に適切なケージング基と結合させてもよい。好適なケージング基は、感光性のケージング基である。感光性ケージング基の適切な例としては、限定されないが以下のものが挙げられる:
置換された(2−)ニトロベンジル、ジメトキシニトロベンジル、ニトロベラトリルオキシカルボニル、2−(ジメチルアミノ)−5−ニトロフェニル、ビス(o−ニトロフェニル)エタンジオール、臭素化ヒドロキシキノリン、クマリン−4−イルメチル誘導剤、7−ニトロインドリン、ベンゾフェノン、アジリジン、有機ルテニウム(II)錯体。ケージング基は、光変化しやすい架橋結合基であってもよい。上記の基の例としては、限定されないがα−メチル2−ニトロベンジル基を有するアミノ、ヒドロキシ、ブロモ及びメチルアミノ基、並びに、4−ニトロフェノキシカルボニル基で活性化されたOH及びNH基が挙げられる。
【0017】
ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、磁気部分と結合している。当該磁気部分は好ましくはナノ粒子である。適切なナノ粒子は、1〜1000nmのサイズ、好ましくは50〜200nm、より好ましくは20〜300nmのサイズである。一実施形態では、当該ナノ粒子は、約70〜100nmのサイズである。かかるナノ粒子の存在により、血管内のコンパートメント中での保持性が向上する。
【0018】
当該磁気部分(例えば磁気ナノ粒子)は、磁場勾配によって磁気誘引される材料から形成されている磁気コアを含んでなってもよい。鉄及び/又は鉄含有材料を用いてもよい。一実施形態では、当該磁気コアは1種類以上の酸化鉄(例えば磁鉄鉱及び/又は磁赤鉄鉱(maghaemetite))から形成される。当該磁気コアは強磁性でもよく、常磁性でもよい。好ましくは、当該磁気コアは超常磁性である。超常磁性の核は、磁場の印加がない場合、磁性を有さない。したがって、かかるコアを有する粒子は、使用中に凝集する傾向が少ない。
【0019】
磁気コアは、限定されないが<1nm〜1000nmのサイズであってもよく、好ましくは5〜20nmのサイズである。
【0020】
磁気コアは、コーティング(例えば生物学的適合性のコーティング)によって提供されてもよい。適当なコーティング材料としては、シクロデクストリン及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
当該コーティングを官能化し、有機及び/又は無機部分を、例えば共有結合及び/又はイオン結合によってコーティングと結合させてもよい。一実施形態では、当該ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤を、例えばかかる結合を介して、直接又は間接的にコーティングと結合させることができる。あるいは、又はそれに加えて、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤を、選択的に磁気部分(例えば磁気ナノ粒子)と結合するコーティングにより提供することもできる。一実施形態では、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、選択的に磁気部分(例えばナノ粒子)上のコーティングに結合する表層官能基により修飾される。例えば、磁気部分(例えばナノ粒子)にストレプトアビジンコーティングが施された場合、当該ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、磁気ナノ粒子上のコーティングと結合する、ビオチン/ビオチン由来官能基、又はコーティング又は部分的コーティングを施されることができる(またその逆であってもよい)。
【0022】
連結剤を介してケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤を、磁気部分(例えばナノ粒子)に結合することも可能である。当該連結剤は、それ自体修飾されたナノ粒子であってもよく、また複合体に更なる機能を付与するものであってもよい。当該連結剤は、選択的に磁気部分(例えばナノ粒子)に結合するコーティングを施されていてもよい。一実施形態では、当該連結剤は、磁気部分(例えばナノ粒子)上のコーティングと同時に、薬剤上の官能基に選択的に結合するコーティングを施されている。例えば、磁気部分(例えばナノ粒子)がビオチン/ビオチン由来コーティングを施され、薬剤もビオチン由来官能基を有する場合、当該連結剤はストレプトアビジンコーティングを施されてもよく、それにより、磁気ナノ粒子上のコーティング、及び薬剤上の官能基と結合する。あるいは、磁気ナノ粒子及び/又は薬剤がストレプトアビジンコーティングを施されている場合、当該連結剤はビオチン/ビオチン由来コーティング若しくは部分コーティングを施されてもよく、それにより、磁気ナノ粒子及び薬剤上のコーティングと結合する。
【0023】
あるいは、又はそれに加えて、当該連結剤上のコーティングを官能化し、有機及び/又は無機部分が、例えば共有結合及び/又はイオン結合を介して直接コーティングに結合することを可能にしてもよい。一実施形態では、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤又は治療薬(例えばタンパク質又はRNA分子)、並びに表面修飾された磁気部分は、かかる結合を介して連結コーティングに結合している。ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤又は治療薬は、かかる結合を可能にするためにそれらの構造の一部として特異的にデザインされた1つ以上の結合基を有しても良く、又はかかる基は既にそれらの構造の一部であってもよい。
【0024】
一実施形態では、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、選択的に連結剤上のコーティングに結合する結合基を有する。これらの結合基は、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤上のコーティングに存在してもよい。例えば、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、ストレプトアビジンコーティングを施されてもよく、それにより連結剤上のビオチンコーティングと結合する。あるいは、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤は、連結剤上のストレプトアビジンコーティングと結合するビオチンによるコーティング又は部分コーティングを施されてもよく、又は、ビオチン誘導体を薬剤構造中に共有結合により組み込んでもよい。
【0025】
当該連結剤は1〜100nmのサイズであってもよく、好ましくは5〜50nmのサイズである、好ましくは5〜50nmのサイズである。
【0026】
また、本発明のシステムには標識を付与してもよく、それにより例えば、薬剤を投与する医師又は外科医などに対して、当該システムがその標的部位に存在するか否かに関する情報が提供される。当該標識は、可視標識(例えば色素)であってもよい。当該色素は、肉眼で視認可能であってもよく、又は適切なイメージング装置や、任意にカメラによって視覚化されるものであってもよい。特定の用途の場合には、ある特定の形の照射(短波長光による照射(例えば400〜490nmの範囲)、又は長波長光による照射(例えば750〜850nmの範囲))下で視覚化できる色素を使用するのが適切である。
【0027】
一実施形態では、当該標識は発光標識である。当該発光標識は、自発的に光を発するものであってもよい。当該発光が自発的な発光であり、化学プロセス(例えば発光酵素によって触媒されるルシフェリンの酸化)によって生じる場合は、当該発光は、適切な基質の存在下で連続的に生じる。あるいは、当該標識は、所定の波長及び/又は光の強度により活性化された後で蛍光を発するものであってもよい。すなわち、所定の波長の光を目的部位に向けることによって、薬を投与する医師は発光標識を活性化し、当該システムがその標的部位に到達したが否かを判断することができる。発光標識が蛍光を発する場合には、活性化に用いる光源が除去された直後に発光が終了する。対照的に、発光標識がリン光を発する場合には、活性化に用いる光源が除去された後、発光がしばらくの間持続する。自発的な発光、蛍光及びリン光標識を使用してもよい。
【0028】
標識の発光/色の強度から、投与する医師は、標的部位におけるシステムの濃度に関する情報を得ることができる。
【0029】
本発明のシステムにおいて使用できる適切な標識の例としては、限定されないがフルオレセイン、インドシアニングリーン及び量子ドットなどが挙げられる。適切な量子ドットは、米国特許出願公開第2002/0127224号に記載されている。
【0030】
量子ドットは、最高約数百アトムの小型の分子クラスタである。ゆえに量子ドットは個々の原子よりは大きいが、量子ドットは通常、個々の原子の性質を支配する量子力学の原則に従って挙動する。このような挙動のため、量子ドットはしばしば「人工原子」と称されることもある。量子ドットは約1nm〜約20nmのサイズであり、典型的にはほんの2、3nmである。
【0031】
量子ドットは典型的には、1つ以上の半導体材料、又は特定のバンドギャップエネルギーを示す金属若しくは金属酸化物から構成される。TiOなどの生物学的適合性の発光ナノ粒子の使用が、本発明の実施において好ましいが、一般に生物学的適合性であると考えられないナノ粒子を用いてもよい。限定されないが、TiO、Al、AgBr、CdSe、CdS、CdSSe1−x、CuCl、CdTe1−x、ZnTe、Se、ZnS、GaN、InGaN、InP、CdS/HgS/CdS及びInAs/GaAsなどの様々な材料をナノ粒子形成に利用できる。後述する第II−VI族及び第I−VII族の半導体、並びに第IV族金属及び量子ドット由来の合金、並び他のナノ粒子を、十分小さいサイズに形成して用いてもよい。量子ドットは、より広いバンドギャップエネルギーを有する1つ以上の材料(例えばZnS−でキャップされたCdS)で包囲されてもよく、特に、ナノ粒子の生体適合性を改良する材料で包囲されてもよい。
【0032】
量子ドットは、光子エネルギーが量子ドットを形成する発光材料のバンドギャップエネルギーに少なくとも等しくなる波長を有する光で励起された場合に蛍光を発する。したがって、量子ドットは、第1の波長の光を吸収して、第1の波長より長い第2の波長の光を発する。ゆえに、例えばレーザー又は発光ダイオード(「LED」)アレイ、又は他の光源から出力されるポンプ光又は光子(少なくとも量子ドットのバンドギャップエネルギーに等しいエネルギーを有する)は量子ドットにより吸収される。量子ドットは、異なる波長の光の形で、多方向にエネルギーを放射する。
【0033】
量子ドットは非常に小型で、ゆえに量子力学の法則に従うため、当該量子ドットのサイズにより、その蛍光の波長(すなわち色)が規定される。量子ドットの直径又は幅が大きいほど、量子ドットが発する光の波長はより長くなる。例えば、CdSe量子のバンドギャップは、200オングストロームから20オングストロームまで、量子ドットの直径を減少させることにより、濃い赤(1.7eV)から緑(2.4eV)まで色を調節できる。
【0034】
量子ドットを調製するための多くの方法が公知である。トリオクチルホスフィン酸化物(TOPO)中の、300℃における小型の半導体クラスタの合成により、多くの半導体材料(例えばCdSe、InP及びInAs)を含んでなる小方の蛍光粒子(50%>の量子収率)が得られることが示されている。結晶化時間、モノマー濃度及び温度などの結晶成長条件により、量子ドットのサイズ、すなわち量子ドットから発される光の色が規定される。かかる方法は、M.Green and P.O’Brien,”Recent advances in the preparation of semiconductors as isolated nanometric particles;new routes to quantum dots,”Chem.Commun.,1999,2235−41(「Greenらの論文」)に記載されている。また、米国特許第5909670号、第5943354号及び第5882779号を参照。
【0035】
当該標識は、あらゆる適切な方法を使用して磁気部分(例えばナノ粒子)と結合させてもよい。例えば、当該標識にコーティングを施して官能化し、それにより、生物学的適合性を付与してもよく、また、例えばイオン結合及び/又は共有結合を介して磁気部分(例えばナノ粒子)に結合させてもよい。あるいは、又はそれに加えて、当該標識に、選択的に磁気部分(例えばナノ粒子)と結合するコーティングを施してもよい。一実施形態では、当該標識に、選択的に磁気部分(例えばナノ粒子)上のコーティングに結合するコーティングを施す。例えば、磁気部分(例えばナノ粒子)にビオチンコーティングを施した場合、標識にはストレプトアビジンのコーティングを施すことができる(またその逆であってもよい)。
【0036】
当該標識は、磁気部分(例えばナノ粒子)と結合するだけでなく、光活性化型ケージド薬剤と結合してもよい。この意味では、当該標識を上記のような連結剤として機能させてもよい。
【0037】
本発明のシステムは、任意の適切な方法を使用して患者に投与することができる。例えば、当該システムは経腸的に、又は非経口的に投与できる。局所投与(例えば吸入、点眼)の形態としてもよい。上述の通り、磁場勾配を用いることにより、治療しようとする標的部位に当該システムを局在化することができる。好ましくは、磁場源を患者の身体の外側に設置する。
【0038】
典型的には、1テスラ(104ガウス)のオーダーの磁気強度が用いられる。当該磁場は、任意の適切な磁石によって印加することができる。例えば、ネオジム磁石が使用できる。
【0039】
本発明のシステムは、透明若しくは半透明の組織への薬剤の輸送に特に適している。例えば、本発明のシステムを用いて、皮膚若しくはその表面の直下に、又は目を覆う結膜表面の下に位置する治療部位に薬剤を輸送することができる。これによって、外部の放射線(例えば光)源を使用してケージド(光活性化型ケージド)薬剤を活性化することができる。例えば、可視標識を用いる場合、この標識を外側から観察することができる。発光標識を、任意に外部放射線源を使用して活性化してもよい。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のシステムを用いて眼内へ薬剤を輸送する。目は実質的に透明である(角膜及びレンズを透視できる)ため、ケージド(光活性化型ケージド)薬剤は、目に外部放射線(例えば光)源からの放射線を当てることにより活性化されうる。システムに存在するいかなる標識も、外側から見ることができる。同様に、あらゆる発光標識を、外部光源を使用して活性化できる。
【0041】
本発明のシステムを局在化させた後、所定の波長及び/又は強度の放射線(例えば電磁気若しくは頑丈な)を標的部位に照射することにより、標的部位でケージド(光活性化型ケージド)薬剤を活性化させ及び/又は放出させることができる。いかなる適切なタイプの放射線も使用できる。例えば音波、超音波、UV、可視光又は近赤外光が使用できるが、好ましくは可視光を使用して、単一光子又は2光子/多光子励起により薬剤を活性化させる。2光子/多光子法では、2つ以上の光子(個々は活性化のために十分なエネルギーを有しない)が相互作用することにより活性化がなされる。当該技術は通常、非常に短時間における2つ以上の光子に依存する。
【0042】
適切な励起波長は300〜1000nm、好ましくは400〜800nmの範囲であり、例えばHeNeレーザーからの632nmの光である。
【0043】
いかなる適切な強度の放射線を用いてもよい。本発明の視覚化及び光活性化/脱ケージングには、従来眼科的に使用されていた典型的な放射線強度で十分対応できる。
【0044】
本発明のシステムにおいて蛍光標識を用いる場合、所定の波長及び/又は強度の放射線(例えば光)を標的部位に照射することにより、当該システムが標的部位に局在化しているか否かを確認することができる。好ましくは、この所定の波長及び/又は強度の光を標的部位に照射した後で、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤を活性化させる。任意に適切な波長の光を用いて、発光を生じさせてもよい。適切な波長は、350〜1000nm(好ましくは400〜850nm)の範囲である。但し実際に使用する波長は、標識の性質に依存する。当該活性化は、単一光子又は2光子/多光子による励起により実施できる。
【0045】
好ましくは、発光を生じさせるのに必要な光の波長及び/又は強度は、ケージド(例えば光活性化型ケージド)薬剤を活性化させるのに必要となる光の波長とは異なる。
【実施例】
【0046】
本発明を、図1を参照しながら以下で詳述する。図1は本発明のシステムの一実施形態を示すブロック線図である。
【0047】
システム10は、光活性化型ケージド薬剤12が、発光標識16を介して、磁気ナノ粒子14に結合している。磁気ナノ粒子14は、ビオチン18が結合する生物学的適合性コーティングを施された磁気コアを有する。
【0048】
発光標識16は、量子ドットから形成されるコアを有する。当該コアは、内側のポリマー性コーティングと、外側のストレプトアビジンコーティングから構成される。外側のコーティングは選択的に磁気ナノ粒子14上のビオチンコーティング18に結合し、磁気ナノ粒子14と発光標識16がコンジュゲートを形成する。
【0049】
光活性化型ケージド薬剤12は、治療薬(R)が、光により切断可能な結合を介して、保護リガンド又はケージングとコンジュゲートしている構造を有する。光活性化型ケージド薬剤12はまた、選択的に発光標識16上のストレプトアビジンコーティングと結合する、ビオチン担持サイドアームを有してもよい。
【0050】
システム10は、患者に非経口的に投与して使用する。患者の目に向けて外部磁場を印加し、この標的部位においてシステム10を局在化させる。薬剤が局在化されているか否かを確認するため、第1の波長の光を、透明な媒介物を通して目に導入し、発光標識16を活性化させる。標識16は活性化した後に蛍光を発し、それにより、システム10がその標的部位にするか否かを、医師は確認することができる。また、その発光強度から、システムが適当な濃度で目に到達しているか否かを、医師は確認することができる。
【0051】
システム10が局在化した後、第2の波長の光を目に導入し、光活性化型ケージド薬剤12を活性化させる。この活性化により、治療薬が、その標的部位で放出される。第2の波長の光は、第1の波長の光とは異なり、それにより、標識16とフォトケージド薬剤12の活性化を、2つの別個のステップで実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のシステムの一実施形態を示すブロック線図である。
【符号の説明】
【0053】
10 システム
12 光活性化型ケージド薬剤
14 磁気ナノ粒子
16 発光標識
R 治療薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気部分及びそれに結合するケージド薬剤を含んでなり、薬剤が、所定の波長及び/又は強度の放射線に反応して活性化及び/又は放出されうる、薬剤輸送システム。
【請求項2】
更に標識を含んでなる、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
当該標識が発光である、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
透明若しくは半透明の組織への薬剤輸送に適する、請求項1から3のいずれか1項記載のシステム。
【請求項5】
眼内薬剤輸送システムである、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記磁気部分が1〜20nmのサイズの磁気コアを有する、請求項1から5のいずれか1項記載のシステム。
【請求項7】
前記ケージド薬剤が光活性化型ケージド薬剤である、請求項1から6のいずれか1項記載のシステム。
【請求項8】
薬剤輸送方法への、請求項1から7のいずれか1項記載のシステムの使用であって、前記方法が、患者に請求項1から7のいずれか1項記載のシステムを投与するステップと、磁場の印加によって標的部位に前記システムを局在化するステップと、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を照射し、標的部位で当該ケージド薬剤を活性化させ、放出させるステップを含んでなる、前記使用。
【請求項9】
前記システムが非経口的に患者に投与される、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記システムが経腸的に患者に投与される、請求項8記載の使用。
【請求項11】
前記システムが発光標識を含んでなり、前記方法が更に、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を照射して標識を活性化させ、前記システムが標的部位に存在するか否かを確認するステップを含んでなる、請求項8から10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
外部磁場を用いて、標的部位で前記システムを局在化させる、請求項8から10のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
薬剤輸送方法であって、患者に請求項1から6のいずれか1項記載のシステムを投与するステップと、磁場の印加により、標的部位で前記システムを局在化させるステップと、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を照射し、標的部位でケージド薬剤を活性化させ、放出させるステップを含んでなる方法。
【請求項14】
前記システムが非経口的に患者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記システムが経腸的に患者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記システムが発光標識を含んでなり、前記方法が更に、標的部位に所定の波長及び/又は強度の放射線を照射して標識を活性化させ、前記システムが標的部位に存在するか否かを確認するステップを含んでなる、請求項13から15のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−524631(P2009−524631A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551857(P2008−551857)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000187
【国際公開番号】WO2007/085804
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508222564)ルメメッド リミテッド (1)
【Fターム(参考)】