説明

薬効性組成物

【課題】 廃棄物として処分されていた魚卵外皮を、社会的にも、産業的にも有益なものにするために、その分解物の特性を検討し、その特性を利用して、前記組成物の有効利用を図ることを目的とする。
【解決手段】 鱈、ニシン、鮭の腹子外皮の、収縮蛋白の分解物、特に、バチルス属が産生する蛋白分解酵素による分解物であるアミノ酸およびペプチドを、膵臓および肝臓機能低下抑制作用を有する薬効性組成物とし、健康食品や医薬の原料として利用し、廃棄物とされていた魚卵外皮の再利用の道を広げるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鱈、ニシン、鮭などの腹子外皮の、収縮蛋白の分解物であるアミノ酸およびペプチドからなる薬効性を有する組成物に関するものであって、健康食品の原料として、さらには、各種疾病の予防又は治療用の医薬として使用される可能性の高いもので、それらの健康食品調製、医薬調製技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水産加工に伴い発生し廃棄される、魚体の魚肉、魚皮、魚骨などは、魚粉、魚油、畜産用飼料、農業用肥料等に加工し利用されているが、魚卵の加工ならびに水産加工により発生する魚卵外皮については、ほとんどが産業廃棄物として処分されてきていた。
【0003】
すなわち、魚肉に関しては、魚介類を高温処理し、魚介類に含まれている自己分解酵素を不活化した後、枯草菌産生蛋白分解酵素および麹菌産生蛋白分解酵素により、成分中の蛋白をペプチドおよびアミノ酸に分解して、抗潰瘍作用、インシュリン樣作用、高脂血症治癒作用等の医薬効果を有する魚介類エキスを得ることが、特許文献1に報告されている。
また、魚皮、魚骨、魚鱗等に関しては、魚皮、魚骨を蛋白質分解酵素による処理などにより得られたゼラチンを食品素材として利用する方法が特許文献2において、さらに、魚鱗や魚皮から抽出したコラーゲンを医療用生体材料あるいは化粧品材料などとして利用する方法等特許文献3および4において提案されている。
【0004】
これらに対して、魚卵外皮に関しては、その成分が、筋原線維蛋白質である収縮蛋白質(ミオシン)であるにもかかわらず、その有効利用についての提案は、長い間なされることがなかった。
【0005】
ところが、最近になって、小高によって、魚卵外皮を構成する収縮蛋白質(ミオシン)を分解する方法が提案されている。
その方法によれば、種々の必須アミノ酸とペプチドを含む組成物が得られ、この組成物は、各種食品の栄養強化のための食品強化剤として、また、ペプチドを含み、ACE阻害活性を有し、生理活性物質として有用であることが、特許文献5に報告されている。
【特許文献1】特公平1−14885号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−276680号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平5−93000号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2000−50811号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特許3691497号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小高の提案する方法は、産業廃棄物として処分されていた魚卵外皮を有効利用するもので、環境汚染防止の面からも、極めて有意義なものであるが、その前提として、小高の提案する方法で得られた、アミノ酸およびペプチドを含む組成物が幅広く活用されることが必要である。
【0007】
そこで、発明者は、上記方法を活用し、廃棄物として処分されていた魚卵外皮を、社会的にも、産業的にも有益なものにするために、前記組成物の特性を検討し、その特性を利用して、前記組成物の有効利用を図るべく検討を行った。
【0008】
その結果、発明者は、前記組成物が、膵臓および肝臓機能低下抑制作用を有することを見出し、その特性に基づいて、前記組成物が、健康食品や医薬の調製に有用なものであることを見出して、この発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
魚卵外皮の収縮蛋白の分解物であるアミノ酸およびペプチドからなり、
膵臓および肝臓機能低下抑制作用を有すること
を特徴とする薬効性組成物である。
【0010】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の薬効性組成物において、
前記アミノ酸およびペプチドが、
オゾン水処理した魚卵外皮を、バチルス属が産生する蛋白分解酵素で分解して得られたものであること
を特徴とするものである。
【0011】
さらに、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の薬効性組成物において、
前記魚卵外皮が、
鱈、ニシン、鮭の腹子外皮であること
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の薬効性組成物は、膵臓および肝臓機能低下抑制作用を有するもので、健康食品の素材として、また、医薬の原料として、有効に利用されるものであって、かつ、産業廃棄物として処分されていた魚卵外皮を有効利用するもので、環境汚染の上からも、優れた効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の薬効性組成物は、魚卵外皮の収縮蛋白の分解物であるアミノ酸およびペプチドからなるものである。
その調製方法としては、特許文献5記載の方法が挙げられ、その方法では、分解物は、以下の様に調製される。
【0014】
すなわち、魚卵外皮の収縮蛋白の分解物であるアミノ酸およびペプチドは、魚卵外皮を冷水で洗浄し、洗浄後、好ましくは室温以下のオゾン水で処理する。
低温のオゾン水での処理により、付着細菌の除菌及び脱脂肪等が行なわれ、さらに、構成蛋白である筋原線維蛋白の収縮蛋白質(ミオシン)の変性が防止される。
その結果として、格別精製を行なうことなく、後工程の酵素分解反応により、溶液として、また、当該溶液を濃縮・乾燥することにより、食品用の栄養強化剤や健康食品の素材として、また医薬の原料として利用することができるアミノ酸およびペプチドを粉末として得ることができる。
【0015】
オゾン水処理は、洗浄、脱水した魚卵外皮を、冷水を入れたタンク中で撹拌しながら、オゾン発生装置から、オゾン濃度0.2〜10ppm/Lで供給し、5〜30分間室温以下で処理される。
魚卵外皮が分散状態で存在しているオゾン処理液は、溶存しているオゾンを消失させるために、撹拌しながら酵素反応温度35〜50℃付近まで加温される。
【0016】
オゾンが消失した後、バチルス属(Bacillus subtilis)の産生する蛋白分解酵素により、収縮蛋白質(ミオシン)を分解する。
この分解液に、直接あるいは分解液中の酵素を温度80℃以上に加温し、15分間以上撹拌し酵素を失活させた後、糸状菌(Aspergillus oryzae)の産生する蛋白分解酵素を用いて、さらに低分子化と他種類の魚卵蛋白に由来する苦味やアミノ酸臭等の分解処理を行なう。
この両酵素による処理は、魚卵外皮に対し、0.02〜0.2重量%の酵素を用いて、撹拌の下、処理温度35〜55℃、処理時間2〜5時間、いずれもほぼ同じ条件で行なわれる。
【0017】
酵素処理を終えた処理液は、酵素を失活させた後、800メッシュの濾布を用いた遠心分離により固形物を、さらに限外濾過法によりコロイド状不純物を除去する。
得られたアミノ酸およびペプチドを含む濾液は、使用目的により、そのままの状態で、あるいは適度の濃度に濃縮して、液状で利用することができる。
アミノ酸およびペプチドを粉末として得る場合は、濾液を常圧乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥法などにより、成分の分解を極力回避する観点から、水分を速やかに除去することが望ましい。
かかる観点から、乾燥方法としては、減圧乾燥法あるいは噴霧乾燥法が適している。
また、乾燥温度についても、温度130℃以下で行うことが望ましく、この温度を超えると有効成分の分解が始まり、品質の低下を招く。好ましい乾燥温度は70〜130℃である。
【0018】
このようにして得られた魚卵外皮の収縮蛋白の分解物には、ペプチドおよび各種のアミノ酸が含まれ、蛋白分解酵素、特に、バチルス属(Bacillus subtilis)の産生する蛋白分解酵素の使用量が少ない場合(0.05重量%以下)、ペプチドが多く含まれた組成物が得られる。
【0019】
この分解物は、種々のアミノ酸とペプチドを含有する組成物で、食品に栄養強化を目的に補助添加剤として用いられる他、後述する特性を有するものであるので、健康食品の素材として、また、医薬の原料として、有効に利用されるものである。
【実施例】
【0020】
<組成物の調製>
明太子の卵粒が除かれた魚卵外皮5kgを、洗浄糟で冷水20Lで3回洗浄し、籠型遠心脱水装置で脱水した。
酵素分解タンク(5L)内に脱水魚卵外皮1.5kgと冷水4.5Lを入れ、攪拌しながらオゾン発生装置((株)ジャール・400型)から、オゾンを濃度0.5ppm/Lで供給し、10分間、温度約10℃のオゾン水で処理を行なった後、溶存するオゾンを消失させるため、攪拌を行ないながら酵素反応温度付近まで加温した。
つぎに、この処理液に、温度約45℃で筋原線維蛋白である収縮蛋白(ミオシン)を分解するため、バチルス属(Bacillus subtilis)が産生する蛋白分解酵素(ヤクルト薬品(株)・アロアーゼAP−10)を、乾燥魚卵外皮換算で0.2重量%添加し、約2.5時間撹拌処理して収縮蛋白(ミオシン)を分解した。
【0021】
さらに、この分解液に、糸状菌(Aspergillus oryzae)が産生する蛋白分解酵素(ヤクルト薬品・パンチダーゼNP−2)を、魚卵外皮換算で0.2重量%添加し、同温度で、同時間撹拌処理して、魚卵外皮が持つ魚肉蛋白等に由来する苦味成分や、アミノ酸臭等を分解除去し、さらに低分子化を行った。
上記2種の蛋白分解酵素で酵素分解を行った後、処理液を液温80℃に加温し、残留酵素の失活並びに減菌処理を行った。
【0022】
失活処理した分解液(液温・60℃)を、定量ポンプで噴霧乾燥装置に時間当たり200mL供給し、乾燥入口熱風温度130℃、乾燥出口熱風温度70℃で乾燥を行い、含水率7%以下の乾燥魚卵外皮由来の、各種アミノ酸およびペプチドを含有する組成物を粉末として得た。
【0023】
<安全性試験>
得られた組成物をラットに投与し、その毒性を以下のように試験した。
1.試験方法
(1)試験動物
6週齢の雄、雌のWistar系SPFラット(平均体重、雄226.4g、雌160.0g、(株)ケービーティーオリエンタルより購入)を、それぞれ12匹使用し、雌雄別にI〜IVの4群(n=6)に割り付けた。
(2)飼育方法
室温(23±2℃)、相対湿度50〜60%、12時間の明暗サイクル(7:00〜19:00)の環境下で、個別のステンレスケージを用いて飼育した。
固形飼料MF(オリエンタル(株)製)と飲水は、自由摂取とした。
(3)投与方法
組成物を蒸留水にて溶解し、II群(雄ラット)、IV群(雌ラット)のラットに一匹当たり2.5g/kgを、胃ゾンデを用いて単回投与し、投与2週間後に屠殺した。
なお、I群(雄ラット)、III群(雌ラット)のラットには、同量の蒸留水を投与した。
また、試験期間中の飼料摂取量は、毎日測定した。
(4)観察項目
イ.体重
ロ.解剖前の呼吸状態、痙攣、毛並み、皮膚、糞
ハ.解剖時の内臓状態
ニ.血液生化学検査
(5)屠殺方法
2週間の組成物投与終了後に、エーテルおよびネンブタール(大日本製薬(株)製)麻酔下で開腹し、腹大動脈から採血した。解剖時は、8週齢であった。
【0024】
<安全性試験結果>
血液生化学検査の結果を示した表1、表2を含め、試験結果は以下の通りである。
この発明の組成物には毒性がなく、安全性には問題が認められなかった。
むしろ、肝機能(LDH、アルカリフォスファターゼ、γ−GTP)が改善され、後述のSTZ(ストレプトゾトシン)投与試験の結果と併せると、この発明の組成物は、積極的抗毒性作用を持つことが示唆された。
(1)一般状態および経口死亡
対照群と組成物投与群のどちらにも、運動、呼吸状態、痙攣、毛並み、皮膚、糞の異常は認められなかった。
また、経口による死亡も認められなかった。
(2)体重
順調な体重推移を示し、いずれの測定日にも、対照群と組成物投与群との間に有意差は認められなかった。
(3)内臓状態
いずれの群にも異常はなく、対照群と組成物投与群との間に、有意差は認められなかった。また、肝重量も同様であった。
(4)血液生化学
表1および表2に示したように、組成物投与群の雄では、LDH、アルカリフォスファターゼ、γ−GTPで対照群に比し有意に低値を示し、雌でもLDHにおいて、有意な低下を示した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
<生体での機能測定>
この発明の薬効性組成物の生体に与える影響について、糖尿病モデルラットを用い、以下のように試験した。
1.試験方法
(1)試験動物
8週齢の雄、雌のWistar系SPFラット(平均体重、雄267.2g、(株)ケービーティーオリエンタルより購入)を24匹使用し、8匹づつ、I〜IIIの3群に割り付けた。
(2)飼育方法
室温(23±2℃)、相対湿度50〜60%、12時間の明暗サイクル(7:00〜19:00)の環境下で、個別のステンレスケージを用いて飼育した。
固形飼料MF(オリエンタル(株)製)と飲水は、自由摂取とした。
(3)投与方法
組成物を蒸留水にて溶解し、III群のラットに、1匹当たり1日1回0.75g(飼料30g中2.5%相当)を、胃ゾンデを用いて連続投与し、組成物投与後5日後にSTZ(35mg/kg)を飽食時に腹腔内投与した。
STZ投与後、組成物を引き続き平日のみ3週間連続投与した。
なお、I群、II群には同量の蒸留水を胃ゾンデを用いて投与した。
試験期間中飼料と飲水は、自由摂取させ、飼料摂取量は平日のみ毎日測定した。
(4)糖尿病モデルの作製
組成物投与5日後にII群のラットに、STZ(35mg/kg)を飽食時に腹腔内投与した。
投与時は、エーテル麻酔をかけた。
(5)観察項目
イ.体重
ロ.血糖値
エーテル麻酔下で尾静脈から採血し、グルテストエース((株)三和科学研究所製)を用いて測定した。
ハ.血液検査
採血した血液から得られた血清で生化学検査を行った。
なお、検査は(株)CRCおよび日本バイオリサーチセンターに委託した。
(6)屠殺方法
4週間の組成物投与終了後に、エーテルおよびネンブタール(大日本製薬(株)製)麻酔下で開腹し、腹大動脈から採血した。
解剖時は13週齢であった。
【0028】
<生体機能検査結果>
血液生化学検査の結果を示した表3を含め、試験結果は以下のとおりである。
STZという高度の酸化剤の投与されたII群(DM対照群)のラットは、膵臓のみならず(高血糖)肝機能の種々の低下が認められる。
これに対し、この発明の組成物(薬剤)の投与されたIII群(薬剤投与群)のラットは、STZが投与されているにもかかわらず、膵機能低下、肝機能低下が抑制されており、この発明の組成物が抗毒性効果を有することが示されている。
(1)一般状態および経口死亡
いずれの群にも異常はなく、経口死亡は認められなかった。
(2)剖検
組成物投与群のラット1匹に、胃と小腸に消化管出血が認められ、その他に異常は認められなかった。
(3)血液生化学
組成物(薬剤)投与群と、正常対照群との間に有意差は認められなかった。
しかしながら、DM対照群と比較すると、血糖,AST,ALT、LDHで増大が抑制される傾向が、総蛋白、HDL、体重で減少を抑制する傾向が認められた。
【0029】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明の薬効性組成物は、上記のような優れた特性を有し、かつ毒性を有するものではないので、健康食品産業や医薬業界で、それらの原料として、広く利用される可能性の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚卵外皮の収縮蛋白の分解物であるアミノ酸およびペプチドからなり、
膵臓および肝臓機能低下抑制作用を有すること
を特徴とする薬効性組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸およびペプチドが、
オゾン水処理した魚卵外皮を、バチルス属が産生する蛋白分解酵素で分解して得られたものであること
を特徴とする請求項1に記載の薬効性組成物。
【請求項3】
前記魚卵外皮が、
鱈、ニシン、鮭の腹子外皮であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の薬効性組成物。

【公開番号】特開2008−88143(P2008−88143A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274174(P2006−274174)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(396006697)有限会社フジ・バイオ研究所 (1)
【出願人】(304030486)北日本化学株式会社 (4)
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【Fターム(参考)】