説明

薬液セット及び薬液投与方法

【課題】容易かつ迅速に薬液供給部を替えられ、かつ薬液の暴露が生じない薬液セット及び薬液投与方法を提供する。
【解決手段】薬液バッグの薬液排出部に穿刺される瓶針と、接続部に一端が接続される給液チューブと、を備えてなる複数の薬液供給部と、前記給液チューブの他端の全てに接続され、且つ、排液口を有する薬液統合部と、一端が前記排液口に接続され、他端が留置器具に接続された排液チューブと、を備え、薬液供給部が、給液チューブの途中に設けられて薬液の流通を開閉する流路開閉部を備え、薬液統合部が、複数の薬液供給部のそれぞれの給液チューブの他端が接続される複数の給液口と、一つの排液口を備え、エアベントフィルター及び薬液フィルターを備えたフィルターユニットが、前記薬液統合部と一体に、もしくは前記排液チューブの途中に設けられている薬液セットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液セット及び薬液投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤等の毒性を有する危険薬は薬理効果を持つとともに、重大な副作用を示すものがあり、近年、そのような抗がん剤の医療従事者に対する暴露が問題となっている。抗がん剤等の危険薬を取り扱う医療機関では医療従事者への暴露防止には細心の注意が払われている。その中でも抗がん剤の注射(点滴)は、注射ラインを薬液で満たすプライミング操作や、瓶針等の接続部の抜き差し等、医療従事者と危険薬が直接接触することから、次に例示するように、最も注意が払われる作業とされている。
【0003】
例えば、2種類の抗がん剤を投与する場合、図7(a)に示すように、先ず、三方活栓105a,105b,105cが3つ装着され、生理食塩水101をメインルートとした回路を組み立てる。次に、生理食塩水101によってメインルートをプライミングし、そのまま抗がん剤A102および制吐剤等の前投薬104のラインをバッグプライミングする。その後、前投薬104のバッグおよび抗がん剤A102のバッグに瓶針の穿刺を行う。次いで、前投薬104に接続された第1の三方活栓105aをオフにし、抗がん剤A102に接続された第2の三方活栓105bを操作することで、抗がん剤A102の投与を開始する。尚、第3の三方活栓105cはオープンになっている。抗がん剤A102の投与が終了次第、第1の三方活栓105aと第2の三方活栓105bを操作し、抗がん剤A102からのラインをオフにし、前投薬104の投与を開始する。前投薬104の投与が終了した後、図7(b)に示すように、前投薬104のバッグから抗がん剤B103のバッグに瓶針を差し替えて、抗がん剤B103の投与を開始する。抗がん剤B103の投与が終了次第、第1の三方活栓105aを操作し、抗がん剤B103からのラインをオフにし、生理食塩水101で回路内に残った抗がん剤を洗い流す(例えば、非特許文献1参照)。そして、投与後は患者側の接続部を外し、回路全体を密閉して廃棄する。ここで、抗がん剤A102のバッグと第2の三方活栓105bに接続されているラインおよび抗がん剤B103のバッグと第1の三方活栓105aに接続されているラインは外されることなく廃棄される。
【0004】
このような煩雑な操作によって危険薬の暴露を防止しているが、操作が煩雑なため、誤操作によって危険薬が瓶針等から漏れる場合がある。特に、投与する薬液の種類が増えると操作がより煩雑になるので、操作者にとって大きな負担となる。
【0005】
一方、複数の薬液ルートを確保するために薬液ライン(薬液ルート)を増設可能な薬液チューブセットが開示されている(例えば、特許文献1参照)。図8に示す薬液チューブセット513は、患者に対し、薬液を投与する薬液投与部515と、複数の薬液チューブ517,519と、を有している。薬液チューブ517,519は、それぞれ、薬液の流路となるチューブ521と、該チューブ521の一方の端部に設けられたコネクタ523と、チューブ521の他方の端部に設けられ、薬液が収納された薬液バッグ525に接続される瓶針535とを備えている。コネクタ523は、2つの雌コネクタ527,529と、雄コネクタ531と、操作レバー533とを有しており、この操作レバー533により、雌コネクタ527,529の内腔と、雄コネクタ531の内腔との連通パターンを選択し得るよう構成されている。
【0006】
コネクタ523の雌コネクタ529は、雄コネクタ531と同形状の他の雄コネクタ531と液密に接続可能な形状をなしている。これにより、他の薬液チューブ519のコネクタ523の雄コネクタ531を、薬液チューブ517のコネクタ523の雌コネクタ529に液密に接続させることができ、容易かつ迅速に薬液ラインを増設することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−160452号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「月刊ナーシング」、Vol.30、No.6、学研メディカル秀潤社、2010.5、p.137−140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、薬液バッグごとに薬液ラインの瓶針を付け替えるなどの工程を含む手法では、薬液バッグの交換時に中の薬液製剤が漏れる場合があり、それを回避できたとしても煩雑な操作が必要となる。薬液が危険薬である抗がん剤等の場合、漏れた抗がん剤に医療従事者が接触すると、身体に悪影響を来たすことがある。化学療法で使用される抗がん剤の多くは、細胞傷害性抗がん剤であり、変異原性や染色体異常などの遺伝毒性、発がん性、胎児奇形性など種々の毒性を有している。そのため、医療従事者を危険製剤の曝露から保護する必要性が強く求められており、容易かつ迅速に薬液ラインを替えることのできる薬液セットが望まれている。また、抗がん剤等の薬液の投与を始める際、若しくは、投与が終了する際に、ラインから液体が無くなるとエアが患者に流れ込む危険性がある。
【0010】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、容易かつ迅速に薬液ラインを替えることができ、薬液ラインにエアが流れ込むことなく投与でき、さらに薬液製剤の暴露が生じない薬液セット及び薬液投与方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る上記目的は、下記(1)〜(8)の構成により達成される。
(1)薬液排出部を有する薬液バッグの該薬液排出部に穿刺される接続部と、該接続部に一端が接続される給液チューブと、を備えてなる複数の薬液供給部と、前記給液チューブの他端の全てに接続され、且つ、排液口を有する薬液統合部と、一端が前記排液口に接続され、他端が留置器具に接続された排液チューブと、を備えた薬液セットであって、前記薬液供給部が、前記給液チューブの途中に設けられて前記薬液バッグに収容された薬液の流通を開閉する流路開閉部を備え、前記薬液統合部が、前記複数の薬液供給部のそれぞれの給液チューブの他端が接続される複数の給液口と、一つの排液口を備え、エアベントフィルター及び薬液フィルターを備えたフィルターユニットが、前記薬液統合部と一体に、もしくは前記排液チューブの途中に設けられていることを特徴とする薬液セット。
(2)前記薬液供給部が、前記薬液排出部に係止することにより前記薬液排出部と前記接続部とを離脱防止する固定具を有することを特徴とする前記(1)に記載の薬液セット。
(3)前記固定具は、前記接続部に装着された固定基部と、該固定基部に一端を固定された連結帯部と、該連結帯部の他端に連結された本体部と、から構成され、該本体部が前記薬液排出部に固定されることにより、前記固定具が前記薬液排出部に係止することを特徴とする前記(2)に記載の薬液セット。
(4)前記本体部が、長尺帯状であることを特徴とする前記(3)に記載の薬液セット。
(5)前記本体部が、クリップであることを特徴とする前記(3)に記載の薬液セット。
(6)前記薬液が、皮膚に対して接触禁忌とされる薬剤であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の薬液セット。
(7)前記薬液が、抗がん剤であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の薬液セット。
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の薬液セットを用い、前記複数の薬液バッグの前記薬液排出部それぞれに、前記給液チューブの一端に設けられた前記接続部を接続するステップと、前記各接続部と前記各薬液排出部とを固定具で固定するステップと、前記各給液チューブの他端が接続された薬液統合部の合流空間及び該合流空間に排液チューブを介して接続される留置器具までの流路をプライミングするステップと、前記給液チューブに設けられる前記流路開閉部を選択的に操作して前記薬液の流通を開閉することにより該薬液を投与するステップとを含むことを特徴とする薬液投与方法。
【0012】
上記(1)の薬液セットによれば、複数の薬液供給部を同時に薬液統合部の合流空間に接続可能となる。それぞれの給液チューブに設けられている流路開閉部により薬液の流通(供給)を制御することで、所望の薬液が薬液統合部を介して留置器具へ流れるので、薬液供給部(薬液ライン)を接続替えすることなく、患者への複数の薬液の投与を選択的に行うことができる。また、フィルターユニットによってエアが患者に流れ込むことを自動的に防止することが出来る。
上記(2)の薬液セットによれば、接続部が固定具によって薬液バッグの薬液排出部に固定されるので、使用後においても接続部が薬液バッグから抜けず、より高い閉鎖性が確保される。
上記(3)の薬液セットによれば、固定具の本体部を薬液排出部に固定するので、接続部が薬液排出部から脱落するのを確実に防止することができる。
上記(4)の薬液セットによれば、本体部を薬液排出部に巻回固定することにより、より確実に連結固定することができ、緊急時においても容易、かつ確実に薬液排出部と接続部との抜けが防止され、閉鎖性が確保される。
上記(5)の薬液セットによれば、クリップを薬液排出部に挟持させることでより簡単に薬液排出部と接続部とを連結固定することができる。
上記(6)の薬液セットによれば、皮膚に対して接触禁忌とされる薬剤を用いるので、薬剤の毒性の危険から操作者を守ることができる。
上記(7)の薬液セットによれば、特に、薬液製剤が抗がん剤を用いる場合、細胞傷害性、変異原性や染色体異常などの遺伝毒性、発がん性、胎児奇形性など種々の毒性からの危険を回避できる。
上記(8)の薬液投与方法によれば、異なる複数の薬液を収容した薬液バッグのそれぞれに、それぞれの給液チューブに設けられた接続部が接続されると、複数の薬液バッグが同時に薬液統合部の合流空間に接続可能となる。それぞれの薬液バッグと合流空間とは流路開閉部の調節により容易に行うことができる。これにより、従来のように、接続部をそれぞれの薬液バッグに接続替えすることなく、流路開閉部を解除するのみで所望の薬液の投与が迅速、かつ容易に可能となる。また、これらの薬液の供給が閉鎖空間で行われ、かつ完了するので、いずれの薬液も暴露することがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る薬液セットによれば、容易かつ迅速に薬液供給部(薬液ライン)を切り替えることができ、薬液ラインにエアが流れ込むことなく投与できる。そして、高い閉鎖性を実現できるので、薬液製剤による暴露が生じない。
【0014】
また、本発明に係る薬液投与方法によれば、複数の薬液バッグを接続替えすることなく、選択的に投与できるので、接続替え時に生じる薬液製剤による暴露を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る薬液セットの全体図である。
【図2】薬液バッグの薬液排出部に固定具を固定する作業手順を説明する要部拡大図であって、(a)は薬液バッグの薬液排出部に固定具を固定する前の図、(b)は薬液バッグの薬液排出部に固定具を固定する途中の状態を説明する図、(c)は薬液バッグの薬液排出部に固定具を固定した図である。
【図3】フィルターユニットが薬液統合部と別体に設けられた本発明に係る薬液セットの別の実施形態の要部を示す概略図である。
【図4】図3のフィルターユニットの断面図である。
【図5】(a)はクリップの平面図、(b)はクリップを薬液バッグの薬液排出部に挟持させて瓶針を固定した変形例に係る固定具の側面図である。
【図6】本発明に係る薬液セットを用いた薬液投与方法の説明図であり、(a)〜(d)は、各ステップを説明する図である。
【図7】(a)および(b)は、異なる薬液ラインを接続替えできる従来の薬液チューブセットの操作方法を説明する図である。
【図8】従来の輸液セットに係る図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。尚、本発明において、薬液セットの患者等に近い部分を「先端」といい、薬液セットの患者等に遠い部分を「基端」という。
【0017】
図1は本発明に係る薬液セットの全体図である。
薬液セット11は、生体(患者)に薬液13を注入(投与)する装置(セット)である。薬液13としては、接続可能な輸液であれば特に限定することなく用いることができ、例えば、生理食塩水等の電解質液、栄養輸液製剤、抗がん剤、制吐剤、鎮静薬、静脈麻酔薬、麻酔系鎮痛薬、局所麻酔薬、非脱分極性筋弛緩薬、昇圧薬、降圧薬、冠血管拡張薬、利尿薬、抗不整脈薬、気管支拡張薬、止血剤、ビタミン剤、抗生剤、脂肪乳剤等が挙げられる。
【0018】
本実施形態では、薬液13 として、生理食塩水17と、制吐剤21と、抗がん剤19,23が用いられる。薬液セット11では、薬液13として抗がん剤19を用いる場合、高い密閉構造により、細胞傷害性、変異原性や染色体異常などの遺伝毒性、発がん性、胎児奇形性など種々の毒性からの危険を回避できる。
【0019】
薬液セット11は、薬液13を収容する薬液バッグ25に接続し得る接続部41と、給液チューブ27と、流路開閉部35とを備えた薬液供給部67と、フィルターユニット61が設けられた薬液統合部33と、排液チューブ31と、に大別して構成されている。本実施形態において、薬液供給部67は複数部(図例では4つ)設けられている。
【0020】
薬液バッグ25の先端部には薬液排出部37が設けられ、薬液バッグ25内の薬液は前記薬液排出部37を通って排出される。また、薬液排出部37にはゴム栓39が設けられており、ゴム栓39に接続部41を穿刺することにより、薬液が排出される。ゴム栓39には、ゴムや熱可塑性エラストマーなどが用いられる。
【0021】
接続部41は基端側が尖鋭な針部を有する中空の筒状部材であり、その側面部には鍔部41aを有している(図2参照)。従って、接続部41を薬液排出部37のゴム栓39に穿刺した際には、鍔部41aにより接続部41の進入が規制される。
【0022】
本発明において、接続部41には固定具29が取り付けられている。固定具29は、図2(a)に示したように、環状の固定基部47aと、該固定基部47aに一端を固定された連結帯部47と、該連結帯部47の他端に連結された長尺帯状の本体部43と、該本体部43の一端に設けられた抜止め部45と、からなる。固定基部47aを接続部41の先端側に外嵌することにより、固定具29を接続部41に装着する。
【0023】
給液チューブ27は、接続部41の先端側に接続され、該給液チューブ27の途中には流路開閉部35が設けられている。流路開閉部35は、薬液バッグ25に収容された薬液13の流通(供給)を制御するものであり、薬液13を送液する際には流路開閉部35をロック解除して開状態とし、送液を止める際には流路開閉部35をロックして閉状態とする。
【0024】
本発明において、このように構成された薬液供給部67は複数個設けられ、各々の給液チューブ27の全てが薬液統合部33に接続される。薬液統合部33の形状は、複数本ある薬液供給部67を一つの流路にまとめられるものであればいずれでもよいが、例えば、内部に合流空間53を有する略円板形状に形成されていてもよい。基端側の半円外周部には複数の給液口55が設けられ(図例では4つ)、先端側の半円外周部には一つの排液口57が設けられている。前記給液口55には前記給液チューブ27の先端部が接続され、排液口57は排液チューブ31と接続される。前記複数の給液口55と前記排液口57は、薬液統合部33の内部の合流空間53で通じており、いずれの給液口55に流入した薬液13も排液チューブ31から導出可能となっている。
【0025】
本実施形態では、薬液統合部33には、エアベントフィルター63と薬液フィルター65を備えたフィルターユニット61が一体に設けられている。エアベントフィルター63は疎水性フィルターを用い、薬液供給部67内の空気を排除するものであり、薬液供給部67内の空気(エア)がエアベントフィルター63から排除されることで、薬液供給部67内のプライミング操作(空気抜き操作)が不要となり、抗がん剤等の危険薬からの汚染を防止することができる。薬液供給部67からの薬液供給が停止した場合においても、フィルター面以下の薬液減少が起こらず、より先端部への空気の混入は起きない。したがって、薬液13がバッグ内から無くなるのを監視する必要も無くなる。一方、薬液フィルター65によって、過飽和状態の薬剤が析出することを防ぐことが出来る。
【0026】
排液チューブ31は、先端に留置器具59を備えており、留置器具59としては、患者の血管に留置される留置針60またはカテーテル(本実施形態では、留置針)等が挙げられる。また、排液チューブ31の途中には、薬液13の流量を調節する流量調節装置、点滴筒、混注口などが設けられても良い。この流量調節装置としては、ローラークレンメ69(ローラー型のクレンメ)が設けることができる。ローラークレンメ69は、移動可能に設置されたローラー(操作部)を有している。ローラーと、クレンメ本体の傾斜底面との間に排液チューブ31を挟み、ローラーを移動させることによって、排液チューブ31を挟む度合いを変化させて、薬液13の流量を調節可能としている。
【0027】
このように、複数の薬液供給部67のそれぞれの給液チューブ27を薬液統合部33の給液口55に接続し、排液チューブ31を薬液統合部33の排液口57に接続することで、本発明の薬液セット11を得る。
【0028】
本発明において、薬液13を収容した薬液バッグ25に給液チューブ27に設けられた接続部41が接続されると、接続部41に設けた固定具29によって薬液バッグ25と接続部41とを固定する。
薬液バッグ25の薬液排出部37に接続部41を穿刺したときは、図2(a)に示したように、固定具29は連結帯部47の固定基部47aが接続部41に装着され、連結帯部47及び本体部43はぶら下げられた状態になっている。その状態から、図2(b)に示したように、連結帯部47を薬液バッグ25の薬液排出部37に沿うように曲げ(矢印A)、本体部43を薬液排出部37の外周に当てる。そして、図2(c)に示したように、本体部43を薬液排出部37の外周に沿って巻き付け、本体部43の先端を抜止め部45に挿入して固定する。これにより、本体部43が薬液排出部37に締結され、接続部41が固定具29により薬液排出部37に固定され、薬液排出部37から離脱しなくなる。
【0029】
なお、上記実施形態では、薬液統合部33とフィルターユニット61とが一体に設けられているが、それぞれ別の部材としてもよい。
図3に示すように、フィルターユニット61を薬液統合部33の下流側の排液チューブ31の途中に設ける。フィルターユニット61は、エアベントフィルター63と薬液フィルター65を備え、図4に示すように、薬液統合部33を通過した薬液13は薬液フィルター65を通過して排液チューブ31へ流れる際に、薬液供給部67や薬液統合部33に残った空気(エア)はエアベントフィルター63を通過してフィルターユニット61外へ排出される。尚、エアベントフィルター63はフィルターの開口孔径が0.45μm以下であることが好ましく、0.22μm以下であることがより好ましい。薬液フィルター65はフィルターの開口孔径が0.45μm以下であることが好ましく、0.22μm以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明において、薬液セット11にフィルターユニット61を備えることで、薬液の投与開始時や投与終了後にライン上に残ったエアが患者に流れ込むことを防ぐことができる。
【0031】
また、本発明において、固定具51の本体部49がクリップであってもよい。図5(a)はクリップの平面図、図5(b)はクリップを薬液バッグの薬液排出部に挟持させて接続部を固定した変形例に係る固定具の側面図である。
クリップ49は、図5(a)に示したように、一端の側部を開放した略円筒状の弾性部材であり、固定具51の連結帯部47の先端に一体的に設けられている。図5(b)に示したように、直接薬液排出部37に挟持させることで接続部41と薬液排出部37とを迅速、かつ簡単に固定できる。従って、容易かつ確実に薬液排出部37と接続部41との抜けが防止され、閉鎖性が確保される。尚、クリップ49の形状は、薬液排出部37を挟持できるものであれば特に限定されない。
【0032】
そして、薬液セット11は、それぞれの給液チューブ27に流路開閉部35が設けられているので、それぞれの薬液バッグ25からの薬液13を選択的に薬液統合部33へ流入させることができる。なお、選択的とは、一つ以上の複数が選択される意味も含む。
【0033】
次に、上記構成を有する薬液セット11の作用を説明する。
薬液セット11では、複数の給液チューブ27が接続部41を介してそれぞれの薬液バッグ25に接続されると、複数の薬液バッグ25が薬液統合部33の合流空間53に接続可能となる。合流空間53には排液チューブ31を介して留置器具59が接続されている。それぞれの給液チューブ27に設けられている流路開閉部35がロック解除される(開状態)ことで、所望の薬液バッグ25に収容される薬液13が薬液統合部33を介して留置器具59へ流れる。つまり、薬液供給部67を接続替えせずに、患者への複数の薬液13の投与が選択的になされる。また、薬液バッグ25の薬液排出部37に接続した接続部41が固定具29によって薬液排出部37に固定されて離脱不可とされているので、使用後においても接続部41が薬液バッグ25から抜けず、より高い閉鎖性が確保され続ける。
【0034】
次に、上記薬液セット11を用いた薬液投与方法について説明する。
図6は本発明に係る薬液セットを用いた薬液投与方法の説明図であり、(a)〜(d)は、各ステップを説明する図である。
まず、異なる薬液13を収容した薬液バッグ25に、流路開閉部35により流路が閉塞された複数の給液チューブ27の接続部41をそれぞれに接続する。薬液バッグ25には、例えば、所定の薬液13(生理食塩水17、制吐剤21、抗がん剤19,23)が収容されており、接続部41がこの薬液バッグ25の薬液排出部37に設けられたゴム栓39に穿刺されると、接続部41を介し、薬液バッグ25と給液チューブ27とが接続され、薬液バッグ25から給液チューブ27へ薬液13が供給され得る状態となる。
【0035】
これを、生理食塩水17、制吐剤21、抗がん剤19、抗がん剤23のそれぞれの薬液13が収容されている薬液バッグ25に対して行う。そして、接続部41と薬液バッグ25の薬液排出部37とは固定具29にて固定し、互いに離脱しないようにする。
【0036】
次いで、生理食塩水17の給液チューブ27が通じる薬液統合部33の合流空間53及び合流空間53に排液チューブ31を介して接続される留置器具59までの流路をプライミングする。プライミングは、生理食塩水17の給液チューブ27に設けられる流路開閉部35を選択的にロック解除して行う(図6(a)参照)。
【0037】
生理食塩水17でのプライミングおよび患者への接続が終了したら、生理食塩水17を収容した薬液バッグ25に接続される給液チューブ27の流路開閉部35をロックする。その後、図6(b)に示したように、制吐剤21を収容した薬液バッグ25に接続される給液チューブ27の流路開閉部35をロック解除し、制吐剤21を投与する。以下、同様に、図6(c)および図6(d)に示したように、抗がん剤19、抗がん剤23を投与する。最後に再び図6(a)の生理食塩水17の投与を行う。
【0038】
この薬液投与方法では、異なる複数の薬液13を収容した薬液バッグ25のそれぞれに、それぞれの給液チューブ27に設けられた接続部41が接続されると、複数の薬液バッグ25が薬液統合部33の合流空間53に接続可能となる。それぞれの薬液バッグ25と合流空間53とは流路開閉部35をロック解除するのみで容易に可能となる。これにより、従来のように、接続部41をそれぞれの薬液バッグ25に接続替えせずに、流路開閉部35を解除するのみで所望の薬液13の投与が迅速、かつ容易に可能となる。また、これらの薬液13の供給が閉鎖空間で行われ、かつ完了するので、いずれの薬液13も暴露することがない。さらに、予め薬液バッグ25と流路開閉部35とに、同一符号などによる標識を付しておくことで、投与薬剤の判別が明確となり、緊急時において誤接続による過誤が生じ難くなる。
【0039】
したがって、本発明に係る薬液セット11によれば、容易かつ迅速に薬液供給部67を替えられ、かつ、高い閉鎖性を実現できるので、薬液13の暴露が生じない。
【0040】
また、本発明に係る薬液投与方法によれば、複数の薬液バッグ25を接続替えすることなく、選択的に投与できるので、接続替え時に生じる薬液13の暴露を防止できる。
【0041】
また、フィルターユニット61によって、各薬液13の投与開始時および終了時に各ラインから流れ込むエアがブロック(外部に排出)されるので、エアが患者に入ることを防止できる。
【0042】
そして、廃棄時には、薬液バッグ25から留置針60までを全てまとめて廃棄することで、より確実に薬液製剤の漏洩による暴露を防止することができる。
【0043】
また、組み立て、包装後は通常の輸液セットと同様に、エチレンオキサイドガスや電子線等で処理を行い、滅菌を行う。
【0044】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の薬液セット及び薬液投与方法は、薬液バッグからの薬液製剤の漏洩を確実に防ぐことができるので、特に、抗がん剤等の危険薬を扱う医療分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
11 薬液セット
13 薬液
17 生理食塩水
19,23 抗がん剤
21 制吐剤
25 薬液バッグ
27 給液チューブ
29 固定具
31 排液チューブ
33 薬液統合部
35 流路開閉部
37 薬液排出部
39 ゴム栓
41 接続部
41a 鍔部
43 本体部
45 抜止め部
47 連結帯部
47a 固定基部
49 クリップ(本体部)
51 固定具
53 合流空間
55 給液口
57 排液口
59 留置器具
60 留置針
61 フィルターユニット
63 エアベントフィルター
65 薬液フィルター
67 薬液供給部
69 ローラークレンメ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液排出部を有する薬液バッグの該薬液排出部に穿刺される接続部と、該接続部に一端が接続される給液チューブと、を備えてなる複数の薬液供給部と、
前記給液チューブの他端の全てに接続され、且つ、排液口を有する薬液統合部と、
一端が前記排液口に接続され、他端が留置器具に接続された排液チューブと、
を備えた薬液セットであって、
前記薬液供給部が、前記給液チューブの途中に設けられて前記薬液バッグに収容された薬液の流通を開閉する流路開閉部を備え、
前記薬液統合部が、前記複数の薬液供給部のそれぞれの給液チューブの他端が接続される複数の給液口と、一つの排液口を備え、
エアベントフィルター及び薬液フィルターを備えたフィルターユニットが、前記薬液統合部と一体に、もしくは前記排液チューブの途中に設けられている
ことを特徴とする薬液セット。
【請求項2】
前記薬液供給部が、前記薬液排出部に係止することにより前記薬液排出部と前記接続部とを離脱防止する固定具を有することを特徴とする請求項1に記載の薬液セット。
【請求項3】
前記固定具は、前記接続部に装着された固定基部と、該固定基部に一端を固定された連結帯部と、該連結帯部の他端に連結された本体部と、から構成され、
該本体部が前記薬液排出部に固定されることにより、前記固定具が前記薬液排出部に係止することを特徴とする請求項2に記載の薬液セット。
【請求項4】
前記本体部が、長尺帯状であることを特徴とする請求項3に記載の薬液セット。
【請求項5】
前記本体部が、クリップであることを特徴とする請求項3に記載の薬液セット。
【請求項6】
前記薬液が、皮膚に対して接触禁忌とされる薬剤であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の薬液セット。
【請求項7】
前記薬液が、抗がん剤であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の薬液セット。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の薬液セットを用い、
前記複数の薬液バッグの前記薬液排出部それぞれに、前記給液チューブの一端に設けられた前記接続部を接続するステップと、
前記各接続部と前記各薬液排出部とを固定具で固定するステップと、
前記各給液チューブの他端が接続された薬液統合部の合流空間及び該合流空間に排液チューブを介して接続される留置器具までの流路をプライミングするステップと、
前記給液チューブに設けられる前記流路開閉部を選択的に操作して前記薬液の流通を開閉することにより該薬液を投与するステップと
を含むことを特徴とする薬液投与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−85822(P2013−85822A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230817(P2011−230817)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】