説明

薬液入り複室容器、およびその製造方法

【課題】部品点数の増加などによるコストアップを抑制するとともに、薬液の充填量に制約が生じたり運搬時の衝撃により薬液が混合されてしまうのを防止しつつ、薬液が混合されずに患者へ投与されるのを確実に防止して信頼性の向上を図ることができる薬液入り複室容器、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】薬液が収納される第1収納室2、第2収納室3を備え、これら収納室同士が剥離可能な弱シール部7により仕切られ、略平面状の可撓性を有した複数のフィルムFを張り合わせて形成される薬液入り複室容器1において、薬液により膨らむ第1収納室2の胴部4および第2収納室3の胴部5の外表面同士が対向配置され、これら外表面同士を剥離可能に固定する固定部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液入り複室容器、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸輸液とブドウ糖輸液とが互いに混合された状態や、抗生物質とその溶解液とが互いに混合された状態にあっては経時的な変質を生じる虞があることから、従来、区画された複数の薬液収納室を有した複室容器が用いられる。この複室容器は、薬液収納室内の薬液を使用直前に混合して点滴などに使用する。
例えば、複室容器は、外部から圧力が加えられることで剥離する弱シール部などの仕切部を有しており、この仕切部により隔てられてそれぞれの薬液収納室が液密に区画される。そして、使用の直前に、外部から圧力を加えることで仕切部が剥離して各薬液収納室が連通され、薬液が混合される。その後、混合された薬液を排出口から排出されて、点滴などにより患者へ投与されることとなる。
【0003】
この複室容器にあっては、弱シール部を開通し忘れ、本来混合調剤されるべき薬液が混合されず、混合される前の一方の薬液のみが患者へ投与されてしまう虞があることから、近年、患者への投与前の混合を確実にするために様々な技術が提案されている。
例えば、複室容器が折り曲げられた状態で複室容器の側端部同士が接着され、折り曲げられた複室容器を開くときの接着部が剥がれる衝撃で弱シール部を剥がれるようにして、二つの薬液が使用前に混合されるようにするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、折り曲げられた複室容器の表面と、頂点部を有する山形形状の弱シール部とが頂点部で接着され、折り曲げを開く際に弱シール部の頂点部から剥離が開始されて、二つの薬液収納室が連通して各薬液が混合されるようにするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、薬剤排出部に取り付けられて開口を塞ぐ開封防止部材が設けられ、薬剤を混合すると、開封防止部材を取り外すことが可能となり、開口から刺栓針が刺入して薬剤の投与ができる複室容器が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】意匠登録第1383528号公報
【特許文献2】特許第4238667号公報
【特許文献3】特開2006−150120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術のうち、最初に述べた従来技術は、薬液充填前に側端部を接着により固定すると薬液充填により収納室が膨らみ、接着剤等により固定された側端部に剥離方向の応力が加わってしまう。例えば、最初の薬液を充填した後、次の薬液を充填する際に接着部が剥がれないように充填する必要があるなど、側端部が充填作業の障害になり、薬液を充填する作業の難易度が高くなってしまう。また、薬液充填後に側端部を接着剤等により固定する場合、薬液が収納室内で移動し易いことから、面積の狭い側端部同士の位置を容易に一致させることができない。さらに、側端部のみを固定する場合、収納室が薬液により膨出することを考えると、固定時の状態を維持することが困難であり輸送時の衝撃などで側端部が剥がれてしまう虞がある。そして、複室容器の薬液収容部への薬液充填量が多く充填率が高くなると収納室が大きく膨れて胴部の厚みが増すことから、側端部の固定作業の難易度がさらに上昇し、また輸送時に固定された側端部が剥がれてしまう可能性も高くなってしまう。
【0006】
また、上述した従来技術のうち、2番目に述べたものは、最初に述べたものと同様に、輸送時の衝撃、振動等が加わった際に、弱シール部に直接的に応力が加わり易い。さらに、応力集中しやすい弱シール部頂部に衝撃や振動等による応力が加わるため、弱シール部が剥離して収納室同士が連通し、2つの薬液が混合される虞がある。さらに、弱シール部は収納室の内圧上昇により剥離されて収納室同士が連通されるように設計されているが、弱シール部の剥離方法を誤って、外部からの引っ張り力で剥離させようとした場合、引っ張り力が加わる部分で容器本体を形成するフィルムが破れて、薬液が流出してしまう虞がある。
【0007】
さらに、上述した従来技術のうち、最後に述べたものは、開封防止部材を用意する必要があるため、開封防止部材を外してしまった場合に用をなさなくなる虞があり、また、部品点数増加によるコストアップや、廃棄物が増加するという課題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、部品点数の増加などによるコストアップを抑制するとともに、薬液の充填量に制約が生じたり運搬時の衝撃により薬液が混合されてしまうのを防止しつつ、薬液が混合されずに患者へ投与されるのを確実に防止して信頼性の向上を図ることができる薬液入り複室容器、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、薬液が収納される複数の収納室を備え、該収納室同士が剥離可能な弱シール部により仕切られ、略平面状の可撓性を有した複数のフィルムを張り合わせて形成される薬液入り複室容器において、前記薬液により膨らむ前記収納室の胴部の外表面同士が対向配置され、これら外表面同士を剥離可能に固定する固定部を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の発明において、前記固定部は、ブロッキング、接着剤、粘着剤または複室容器表面に設けられた接着部材により、前記胴部の外表面同士を固定する。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記胴部の外表面同士を対向配置させる際に折り曲げられる折り曲げ部に対して、前記弱シール部が、前記収納室の配列方向にずらして配置される。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項3に記載の発明において、前記折り曲げ部は、折り曲げを容易にする折り曲げ補助部を備える。
【0013】
請求項5に記載した発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の発明において、前記フィルムは、ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を有する多層フィルムであって、外層のポリエチレン系樹脂の融点が、内層ポリエチレン系樹脂の融点より低い。
【0014】
請求項6に記載した発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の発明において、前記フィルムは、外層及び内層を有する多層フィルムであって、外層の樹脂がプロピレンランダム共重合体またはプロピレンブロック共重合体である。
【0015】
請求項7に記載した発明は、請求項1乃至6に記載の薬液入り複室容器の製造方法において、前記胴部の外表面同士を対向配置させ、該外表面同士が密着した状態で加熱してブロッキングにより前記外表面同士を固定して前記固定部を形成することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載した発明は、請求項3又は4に記載の薬液入り複室容器の製造方法において、前記胴部の外表面同士を上下方向で対向配置させ、前記弱シール部を前記折り曲げ部よりも上下方向の下側に配置させ、前記外表面同士が密着した状態で加熱してブロッキングにより前記外表面同士を固定して前記固定部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載した発明によれば、収納室の胴部の外表面同士を対向配置した状態で、固定部によって外表面同士を剥離可能に固定することで、比較的広い面積を固定用に利用可能であることから、必要十分な固定力を得ることができる。したがって、運搬時に胴部同士が固定された初期状態を維持することができるとともに、運搬時の衝撃により弱シール部が剥離して薬液が混合されるのを防止することができる効果がある。
また、固定部によって必要十分な固定力が得られることで、看護師など利用者が薬液の使用を開始する際に、固定された収納室の胴部同士を剥離方向に引っ張り展開するだけで、展開時の反動で収納室の内圧が上昇して弱シール部が剥離開通し、隣り合う収納室同士が連通して薬液が混合される。したがって、従来のように部品点数の増加などによるコストアップを抑制しつつ、薬液が混合されずに患者へ投与されるのを確実に防止して信頼性の向上を図ることができる効果がある。
【0018】
請求項2に記載した発明によれば、ブロッキング、接着剤、粘着剤または複室容器表面に設けられた接着部材によって胴部の外表面同士を固定することができるため、容易に固定部を形成することができる効果がある。
【0019】
請求項3に記載した発明によれば、折り曲げられることによる応力が弱シール部に加わるのを防止することができるため、不要な弱シール部の剥離を防止することができる。
【0020】
請求項4に記載した発明によれば、折り曲げ補助部により容易に折り曲げることができるため、折り曲げ部が意図しない場所に形成されるのを防止することができる効果がある。
【0021】
請求項5に記載した発明によれば、内層がブロッキングするのを防止しつつ、胴部の外層同士をブロッキングにより容易に固定して固定部を形成することができる効果がある。
【0022】
請求項6に記載した発明によれば、外層の樹脂としてプロピレンランダム共重合体又はプロピレンブロック共重合体を用いることで、安価で、透明性、柔軟性に優れる熱可塑性を有するフィルムを構成できる効果がある。
【0023】
請求項7に記載した発明によれば、胴部の外表面同士を対向させて外表面同士を密着させた状態で、例えばレトルト等によって加熱するだけで、固定部を形成することができるため、製造工数を低減しつつ固定部を備えた信頼性の高い薬液入り複室容器を容易に製造することができる効果がある。
【0024】
請求項8に記載した発明によれば、通常、加熱用のトレイ等の金属容器内に載置されるなど、下方から薬液入り複室容器が加熱されることとなるが、弱シール部が折り曲げ部よりも下側に配置されていることで、弱シール部が形成された部分と金属容器とが接し、加熱後に速やかに冷却されることとなるため、弱シール部への不要な加熱により負担が増加するのを防止することができる効果がある。また、弱シール部への加熱を効率よく行うことができるため、この加熱により弱シール部の剥離強度を適正に低下させることにより収納室間の開通強度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態における薬液入り複室容器の斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1のB方向から見た矢視図である。
【図4】本発明の第1実施形態における薬液入り複室容器の展開図である。
【図5】図2の薬液入り複室容器において固定部を剥離させる引っ張り方向を示す断面図である。
【図6】図5の固定部の剥離時の反動による引っ張り方向および各部の圧力が作用する方向を示す断面図である。
【図7】固定部の剥離時の反動によって弱シール部が開通された状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態における図2に相当する断面図である。
【図9】図8の薬液入り複室容器を金属トレイ内に載置した状態を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態における図4に相当する展開図である。
【図11】本発明の第3実施形態における第1変形例の治具の側面図である。
【図12】本発明の第3実施形態における第1変形例の図4に相当する展開図である。
【図13】本発明の第3実施形態における第2変形例の図4に相当する展開図である。
【図14】本発明の第1〜3実施形態の他の態様における図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、この発明の第1実施形態の薬液入り複室容器およびその製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1、図2は、この実施形態における薬液入り複室容器1の搬送時の状態(以下、単に搬送状態と称す)を示している。この薬液入り複室容器1は、略平面状の可撓性を有した複数、具体的には2枚のフィルムFを、ヒートシールにより張り合わせて形成され、例えば、ビタミン剤等の薬液を収納する第1収納室2と、生理食塩水、アミノ酸等の薬液を収納する第2収納室3とをそれぞれ備えて構成される。
【0027】
薬液入り複室容器1は、薬液により膨らんだ第1収納室2の胴部4と、同じく薬液により膨らんだ第2収納室3の胴部5との各外表面が対向配置されるように折り曲げ部6で屈曲される。そして、胴部4,5の外表面の少なくとも一部、より具体的には図3中の二点鎖線で示す範囲には固定部10が形成され、胴部4,5が互いに剥離可能に固定される。固定部10は、ブロッキング、接着剤、粘着剤、または、胴部4および胴部5の表面に設けられた接着部材により形成される。接着部材としては、粘着テープ、マジックテープ(登録商標)などの面ファスナー、嵌合部を有する嵌合部材などがあげられる(以下、第2、第3実施形態も同様)。
【0028】
第1収納室2には、上記折り曲げ部6とは反対側の縁部であるボトムシール部11の幅方向略中央に、混合された薬液を容器外へ排出するためのポート8が取り付けられる一方、第2収納室には、上記折り曲げ部6とは反対側の縁部に円形の吊孔9が形成される。なお、吊孔9の形状は適宜設定すればよい。
【0029】
ここで、上述したフィルムFおよびポート8は熱可塑性樹脂からなるが、医療用分野で用いられる熱可塑性樹脂であればよい。医療用分野で用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルサルホン、環状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン共重合体、エチレン系エラストマー、スチレン系エラストマー、これらの樹脂の混合物、があげられる。
【0030】
また、熱可塑性樹脂は、耐熱性向上等の目的で一部架橋されていたり、積極的にブロッキングさせるために、超低密度ポリエチレン、エチレン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの低融点成分を混合したりしてもよい。これら熱可塑性樹脂のうち、安価でもあり、透明性、柔軟性に優れるためポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−ブタジエンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ホモポリプロピレン、エチレンまたはα−オレフィンとプロピレンからなるプロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレン共重合体エラストマーを含有するポリプロピレンブロック共重合体系樹脂があげられる。
【0031】
さらに、フィルムFは、一種類のフィルムからなる単層フィルムであっても、複数の種類のフィルムが積層した形態の多層フィルムであってもよい。単層フィルムの場合には、透明性、柔軟性に優れることから直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンプロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンブロック共重合体、ポリプロピレン系樹脂とスチレン系エラストマーとの混合物などのフィルムが好ましい。
【0032】
多層フィルムの場合、ポリエチレン系樹脂系からなる外層及び内層を有する場合に、外層のポリエチレン系樹脂の密度が、内層のポリエチレン系樹脂の密度より低いものであることが好ましい。これにより、容器表面を構成する外層のポリエチレン系樹脂の融点が内層のポリエチレン系樹脂の融点よりも低くなるため、加熱により、胴部4,5の外面同士が内面同士よりブロッキングされやすくなる。さらに、内層表面同士が密着した後述する弱シール部7の剥離強度が、外層をブロッキングさせる際の加熱により大きく変化することがないため、固定部10の形成が容易になる。
【0033】
つまり、ポリエチレン系樹脂の中で最も密度が高く、融点も高い高密度ポリエチレンを内層として用いたポリエチレン系樹脂のフィルムFを用いることで、内層よりも多種の低密度のポリエチレン系樹脂を外層として用いることが容易になるため好ましい。また、具体的な層構成としては、外側から、低密度ポリエチレン/直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/直鎖状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン/直鎖状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンなどの順で有するものが例示できる。なお、JIS K 7112 D法により測定したときの密度として、低密度ポリエチレンは0.905〜0.930g/cm3、直鎖状低密度ポリエチレンは0.900〜0.940g/cm3、高密度ポリエチレンは0.940〜0.965g/cm3のものを用いることが好ましい。また、融点の観点からは、内層には融点が123℃以上、好ましくは130℃以上のポリエチレン系樹脂が好ましく、外層には融点が121℃以下のポリエチレン系樹脂を用いることが好ましい。なお、融点は、JIS K 7121に準拠して測定した値である。
【0034】
上述したフィルムFが多層フィルムの場合に、外層にプロピレンランダム共重合体またはプロピレンブロック共重合体のプロピレン系樹脂を用いてもよい。プロピレンランダム共重合体は、低融点の成分を樹脂中に一部に含むため、加熱時にフィルムFの外表面同士のブロッキングが生じやすく、また、プロピレンブロック共重合体は、低融点のエラストマーを含むため、加熱時に容器表面同士のブロッキングが生じやすいからである。具体的な層構成としては、外側から、プロピレンランダム共重合体/プロピレンブロック共重合体+スチレン系エラストマー/ホモポリプロピレンの順で有するものが例示できる。
【0035】
また、上述したフィルムFは、Tダイ成形、水冷または空冷インフレーション成形、ラミネート成形などによる製造方法により製造することができる。透明性の観点からはTダイ成形、水冷インフレーション成形が好ましく、特に、水冷インフレーション成形は、異物混入を避けることが容易であり、衛生性に優れることから好ましい。フィルムFの厚さは、5〜1000μm、好ましくは50〜500μm程度のものが使用される。また、2層フィルムの場合、内層が主要な層となるため、内層の厚さが全厚さの70%以上とされるのが好ましい。また、3層フィルムの場合、内外層以外を占める中間層が主要な層となるため、中間層の厚さが全厚さの50%以上とされるのが好ましい。
【0036】
図4は、薬液入り複室容器1を展開した状態、より具体的には、固定部10により胴部4,5を固定する前の状態を示したものである。上述した第1収納室2と第2収納室3とは、弱シール部7を隔てて分断されている。この弱シール部7は、薬液入り複室容器1の左右側縁間に亘って一定幅の帯状に形成されている。弱シール部7は、第1収納室2と第2収納室3とのうち少なくとも何れか一方の内圧が所定の内圧以上となった場合に、図4の紙面表裏方向に剥離して開通される。この弱シール部7が剥離することで第1収納室2と第2収納室3とが連通され、第1収納室2と第2収納室3とに収納されている異なった薬液が混合される。
【0037】
弱シール部7は、ボトムシール部11などフィルムFの通常のヒートシールにより溶着された部分の、JIS Z 0238に準拠し引張速度100mm/分で測定した15mm幅あたりのT型剥離での剥離強度が50N/15mm幅程度であるのに比べて、10N/15mm幅程度となっている。そして、弱シール部7の形成は、フィルムFの最内面同士をヒートシールする際の温度、圧力及び時間を、通常のヒートシールと比較して剥離し易いように調整することで形成される。また、弱シール部7の他の形成方法としては、最内層の樹脂を非相溶性の樹脂組成物、例えばポリエチレンとポリプロピレンの組成物としてイージーピール性を持たせたフィルムとすることができる。さらに、イージーピール性を有する帯状フィルムを2枚の平面部間に挟持してシールする方法や、特定の凹凸を有するシールバーで強シール部と弱シール部を特定割合で形成する方法や、接着阻害物質をシール部に塗布してシールするなどの方法でも形成することができる。
【0038】
次に、上述した薬液入り複室容器1の作用について図5〜図7を参照しながら説明する。
まず、薬液入り複室容器1の縁部を図5の白抜き矢印方向へ引っ張り、固定部10で固定された胴部4と胴部5と剥離する。固定部10による固定力が、運搬時の振動等により剥離することがない程度に設定されているため、展開の際に、途中で引っかかったりして容易に剥離されない。そのため、固定部10が全て剥離して薬液入り複室容器1が展開した瞬間に、その反動によって薬液入り複室容器1に、図6の白抜き矢印で示す方向への引張力が加わる。そして、この引張力により、第1収納室2と第2収納室3とを形成する2枚のフィルムFが、胴部4および胴部5で互いに接近する方向(図6中、実線矢印で示す方向)に変移しようとし、この結果、第1収納室2および第2収納室3の内圧が上昇する。
【0039】
第1収納室2および第2収納室3の内圧が上昇すると、とりわけ弱シール部7の近傍のフィルムFが外方(図6中、実線矢印で示す方向)に向かって変移しようとする力が作用し、予め設定された所定の内圧以上となった時点で、この力が弱シール部7による固定力を上回り、2枚のフィルムFが剥離して弱シール部7が開通し、図7に示すように、第1収納室2と第2収納室3とが連通されることとなる。ここで、固定部10の固定力は、固定部10を剥離する時の反動による引張力と略比例しているため、弱シール部7のシール力に対応した固定力に設定される。
【0040】
なお、上述した作用の説明においては、薬液入り複室容器1を左右に展開する例で説明したが、これに限られるものではない。薬液入り複室容器1は、点滴スタンドのフックを吊孔9に通して、下方にポート8が配置されるように吊り下げて用いられる。そして、吊孔9により点滴スタンドのフックに吊り下げようとすると、薬液の自重によりポート8が設けられたボトムシール11側が下方に移動し固定部10が剥離する、このときにも一旦引っかかったりしてブレーキがかかった後に、固定部10が剥離される。このときに発生する瞬間的な反動で弱シール部7が剥離し、第1収納部2と第2収納部3とが連通される。このように通常の一連の点滴準備作業中に第1収納部2と第2収納部3とを連通させることができる。
【0041】
つまり、胴部4,5の外表面に固定部10を設けていることで、比較的広い面積で固定することが可能であり、弱い剥離強度で固定していても、固定部10の全体を剥離させるためには大きなエネルギーが必要となる。そして、剥離後に展開される際の力の差を大とすることができるため、大きな反動が得られ、確実に弱シール部7を剥離可能となる。例えば、比較的狭い範囲の固定部を設けた場合、狭い範囲に力が集中して加わるからフィルムFの破壊につながるおそれもあるが、このようなフィルムFの破壊が防止される。なお、弱シール部7が完全剥離せず、一部未剥離部分が残っている場合であっても使用には差し支えないが、完全に弱シール部7を剥離させるためには、通常の手順すなわち、第1収納室2又は第2収納室3を外側から押圧することにより未剥離部分を剥離させることが可能である。
【0042】
次に、この実施形態の薬液入り複室容器1の製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、この製造方法は、固定部10をブロッキングにより形成する場合を一例に説明する。
まず、通常のヒートシールにより2枚のフィルムFの周縁を溶着させると共に、フィルムFの長手方向略中央の幅方向に帯状の弱シール部7を形成する。これにより、2つの収納室2,3が形成される。なお、収納室2,3には薬液を充填するために外部と連通する開口(不図示)が形成される。また、薬液の注出入口となるポート8が2枚のフィルムFの間にヒートシールなどにより狭持される。
【0043】
次いで、収納室2,3へ異なる薬液を充填して上記開口を封止する。その後、弱シール部7上、または、その近傍を、弱シール部7に沿って屈曲させて折り曲げ部6を形成し、その際、胴部4,5を対向配置させて互いに当接させる。そして、この状態で加熱を行う。
すると、加熱により折り曲げ部6のフィルムFに折ぐせが付くとともに、互いに当接された胴部4,5がブロッキングされる。ここで、上記固定部10の固定力は、加熱温度、及び、加熱時間等を調整することで調整される。なお、弱シール部7は剥離しやすく薬液入り複室容器1の中で最も外力に対して弱い部分であるため、薬液の充填時には弱シール部7を剥離させないように、例えば、充填時に弱シール部7を治具により挟持したり、弱シール部7に力が加わり難い第1収納室2および第2収納室3の側方からの充填が行われる。
【0044】
その後、加熱を停止し、胴部4,5の温度が低下すると、ブロッキングによる胴部4,5同士の固定状態が維持される。なお、上述した加熱は、レトルト、例えば薬液の高圧蒸気滅菌工程の加熱等を利用することができる。
【0045】
したがって、上述した第1実施形態によれば、収納室2,3の胴部4,5の外表面同士を対向配置した状態で、固定部10によって該表面同士を剥離可能に固定することで、比較的広い面積を固定用に利用可能であることから、必要十分な固定力を得ることができ、この結果、運搬時に胴部4,5同士が固定された初期状態を維持することができるとともに、運搬時の衝撃により弱シール部7が剥離して薬液が混合されるのを防止することができる。
【0046】
また、固定部10によって必要十分な固定力が得られることで、看護師など利用者が薬液の使用を開始する際に、固定された収納室2,3の胴部4,5同士を剥離方向に引っ張り展開するだけで、展開時の反動で収納室2,3の内圧が上昇して弱シール部7が剥離開通し、隣り合う収納室2,3同士が連通して薬液が混合されることとなるため、従来のように部品点数の増加などによるコストアップを抑制しつつ、薬液が混合されずに患者へ投与されるのを確実に防止して信頼性の向上を図ることができる。
【0047】
さらに、ブロッキング、接着剤、粘着剤または複室容器表面に設けられた面ファスナー等の接着部材によって胴部4,5の外表面同士を固定することができるため、容易に固定部10を形成することができる。
また、相対的にフィルムFの内層の融点を高く、外層の融点を低くすることで、内層がブロッキングするのを防止しつつ、胴部4,5の外層同士をブロッキングにより容易に固定して固定部10を形成することができる。
【0048】
そして、フィルムFの外層の樹脂としてプロピレンランダム共重合体又はプロピレンブロック共重合体を用いることで、安価で、透明性、柔軟性に優れる熱可塑性を有するフィルムを構成できる。
また、胴部4,5の外表面同士を対向させて、それぞれの外表面同士を当接させた状態で、例えばレトルト等によって加熱するだけで、固定部10を形成することができるため、製造工数を低減しつつ固定部10を備えた信頼性の高い薬液入り複室容器1を容易に製造することができる。
【0049】
次に、この発明の第2実施形態の薬液入り複室容器について図面を参照しながら説明する。なお、第2実施形態の薬液入り複室容器は、上述した第1実施形態の薬液入り複室容器1の折り曲げ部の配置が異なるだけであるため、同一部分に同一符号を付して説明する。
図8は、この実施形態の薬液入り複室容器101の搬送状態を示している。この薬液入り複室容器101は、上述した第1実施形態の薬液入り複室容器1と同様に、略平面状の可撓性を有した複数(2枚)のフィルムFを、ヒートシールにより張り合わせて形成され、例えば、ビタミン剤等の薬液を収納する第1収納室2と、生理食塩水等の薬液を収納する第2収納室3とをそれぞれ備えて構成される。
【0050】
この薬液入り複室容器101は、胴部4と胴部5との各外表面が対向配置されるように折り曲げ部6により屈曲され、これら胴部4,5の外表面の少なくとも一部に固定部110が形成される。この固定部110は、第1実施形態の固定部10と同様に、ブロッキング、接着剤、粘着剤、または、胴部4および胴部5の表面に設けられた接着部材により胴部4および胴部5を剥離可能に固定する。
【0051】
さらに、第1収納室2には、上記折り曲げ部6とは反対側のボトムシール部11の幅方向略中央に、混合された薬液を容器外へ排出するためのポート8が取り付けられ、第2収納室3には、上記折り曲げ部6とは反対側の縁部に吊孔9が形成される。なお、上述したフィルムFは、上述した第1実施形態の熱可塑性樹脂と同様であるため、重複説明を省略する。
【0052】
薬液入り複室容器101の第1収納室2と第2収納室3とは、弱シール部107を隔てて分断されている。この弱シール部107は、上述した弱シール部7と同様に、薬液入り複室容器1の幅方向に亘り一定幅の帯状に形成される。そして弱シール部107は、第1収納室2と第2収納室3とのうち少なくとも何れか一方の内圧が所定の内圧以上となった場合に剥離開通され、これにより第1収納室2と第2収納室3とが連通されて、第1収納室2と第2収納室3とに収納されている異なった薬液が混合されることとなる。
【0053】
ところで、この実施形態の薬液入り複室容器101は、弱シール部107が折り曲げ部6よりも第2収納室3側に配置される。例えば、第2収納室3が上下方向の下側となるように、薬液入り複室容器101をトレイ内などの平面h上に載置した場合に、弱シール部107が形成されている部分が、第2収納室3の外壁112とともに平面hに接することとなる。
【0054】
次に、この実施形態の薬液入り複室容器101の製造方法を説明する。なお、薬液入り複室容器101は、上述した第1実施形態の薬液入り複室容器1と同様に、固定部110を剥離させる際の反動により弱シール部107が開通されるため、薬液を混合する際の作用についての説明は省略する。
【0055】
まず、通常のヒートシールにより2枚のフィルムFの周縁を溶着させると共に、フィルムFの長手方向略中央を渡る帯状の弱シール部107を形成する。これにより、2つの収納室2,3が形成される。なお、収納室2,3には薬液を充填するために外部と連通する開口(不図示)が形成される。また、薬液の注出入口となるポート8が2枚のフィルムFの間にヒートシールなどにより狭持される。
【0056】
次いで、第1収納室2および第2収納室3にそれぞれ異なる薬液を充填して上記開口を封止する。その後、弱シール部107よりも第1収納室2側に、弱シール部107に沿ってフィルムFを屈曲させて折り曲げ部6を形成し、その際、胴部4,5を対向配置させて互いに当接させる。そして、この状態で、第1実施形態と同様に加熱を行う。
【0057】
この加熱は、例えば、図9に示す金属トレイtに薬液入り複室容器101を載置して高圧蒸気滅菌等により行われる。この際、弱シール部107が金属トレイtの底面bに接するように載置する。このように載置することで、弱シール部107に効率よく金属トレイtの熱を伝達させることができ弱シール部107の開通強度を適正に(例えば、10%程度)低下させることができる。これにより、高圧蒸気滅菌を行う前の薬液充填時の弱シール部107の開通強度を、高圧蒸気滅菌を行った後の開通強度よりも相対的に増加させることが可能になる。すなわち弱シール部107を剥離させるような力が加わりやすい薬液充填時には、開通し難く、薬液充填後には開通し易くなるように開通強度を調整できる。また、加熱によって折り曲げ部6のフィルムFに折ぐせが付くとともに、胴部4,5がブロッキングされる。なお、図示を省略しているが、金属トレイtには複数の孔が穿設されている。
【0058】
ここで、薬液入り複室容器101のヒートシールされた部分のうち、弱シール部107は最も剥離し易い部分であり、例えば、薬液入り複室容器101の取扱において何らかの外力が加わると容易に剥離してしまい、使用直前に混合されるべき薬液が混合されてしまう場合がある。また、薬液が混合されるまで至らずに、弱シール部107と第1収納室2、第2収納室3の境界であるシール際の一部が剥離する、いわゆるシール後退が発生し、帯状の弱シール部107の幅が一部狭くなってしまうことがある。これは、弱シール部107の両側の第1収納室2および第2収納室3に加わった圧力が薬液を通して弱シール部107のシール際に加わるからである。
【0059】
折り曲げ部6は、フィルムFの内面同士が接触した状態で屈曲されるため、第1収納室2の薬液に圧力が加わった場合に、折り曲げ部6の内面同士が接触された部分によって圧力が緩和されて、弱シール部107の折り曲げ部6側のシール際に直接的に圧力がかかるのが防止される。なお、弱シール部107の第1収納室2側に折り曲げ部6を形成する場合について説明したが、弱シール部107の第2収納室3側に折り曲げ部6を形成するようにしても良い。
【0060】
したがって、上述した第2実施形態の薬液入り複室容器101によれば、折り曲げ部6の位置と弱シール部107の位置とがずれており、折り曲げられることによる応力が弱シール部107に加わるのを防止することができるため、不要な弱シール部107の剥離を防止することができる。また、折り曲げ部6が配置される第1収納室2に薬液を充填する際に、薬液の充填圧力により弱シール部107に衝撃が加わるのを防止することができる。
【0061】
さらに、弱シール部107と折り曲げ部6とがずれていることで、内面同士が接触している折り曲げ部6によって、弱シール部107の折り曲げ部6側のシール際に圧力が直接的にかかるのを防止することができるため、弱シール部107の折り曲げ部6側のシール際が後退するのを抑制することができる。また、薬液入り複室容器101を使用するために展開する際に、折り曲げ部6が伸ばされて、展開時の反動による薬液の圧力が弱シール部107の両側に直接的に加わるため、弱シール部107を確実に剥離させて薬液を混合することができる。
【0062】
次に、この発明の第3実施形態の薬液入り複室容器について図10〜図13を参照しながら説明する。なお、この第3実施形態の薬液入り複室容器201は、第2実施形態の薬液入り複室容器101に対して折り曲げ部6の折り曲げ位置を安定させるための構成を追加したものであるため、第2実施形態と同一部分に同一符号を付して説明する。
図10は、この実施形態の薬液入り複室容器201を展開した状態、より具体的には、固定部110により胴部4,5を固定する前の状態を示している。この図10に示すように、薬液入り複室容器201は、それぞれ異なった薬液を収納する第1収納室2と第2収納室3とを有している。なお、図10、図12では、薬液入り複室容器201の左右側縁をヒートシールが不要なインフレーション成形により製造された筒状フィルムを用いた例を示している。
【0063】
第1収納室2と第2収納室3との間には、第2実施形態と同様に、幅方向に亘って帯状の弱シール部107が形成されている。この弱シール部107により、第1収納室2と第2収納室3とが分断されている。
そして、第1収納室2には、折り曲げ部6の折れ線が形成される予定箇所(図10中、破線oで示す)の左右端部に、折り曲げを容易にするための折り曲げ補助部120が、薬液入り複室容器201の上下の縁部と同様にヒートシールにより溶着されて形成される。
この折り曲げ補助部120は、薬液入り複室容器201の内側に向かって延びる略三角形状に形成され、その頂点121は互いに対向して配置される。これにより、折り曲げ補助部120の近傍を屈曲させて折り曲げ部6を形成しようとした際に、とりわけ第1収納室2に薬液が充填されている場合、折り曲げ補助部120の部分で括れることとなり、これら頂点同士を結んだ線上に折り曲げ部6の折れ線が配置され易くなる。
【0064】
なお、折り曲げ補助部120は上述したヒートシールにより形成するものに限られず、例えば、図11、図12に示す第1変形例ように、側面視で略コの字状の治具210を、薬液入り複室容器301の弱シール部107と重ならない位置の左右端部を挟み込むことで括れを形成させ、折り曲げを容易にするようにしてもよい。この場合、治具210を取り付ければよいため、折り曲げ部6の位置を安定的且つ容易に設定できる。なお、図11,12では折り曲げ部6を第2収納室3側に設ける場合の一例を示しているが、第1収納室2側に形成してもよいのは言うまでもない。
【0065】
さらに、図13に示すように、薬液入り複室容器401の折り曲げ部6を形成したい箇所の両サイドに、台形状に切り欠いた切り欠き部220を設けるようにしてもよい。この切り欠き部220が配置される位置では、薬液入り複室容器401を折り曲げ易くなり、折り曲げ部6が形成される位置を安定させることができる。なお、図13では、第1実施形態のように、弱シール部7の位置と折り曲げ部6の位置とを一致させる場合を示しているが、第2実施形態のように弱シール部107の位置と折り曲げ部6の位置とをずらす場合には、切り欠き部220の位置を弱シール部7の位置から第1収納部2又は第2収納部3側にずらして形成すれば良い。また、切り欠き部220を台形に切り欠く場合について説明したが、台形に限られず、例えば、三角形状でもよい。また、上述した折り曲げ補助部120、治具210、および、切り欠き部220は、左右のいずれか一端にのみ設けるようにしてもよい。
【0066】
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
フィルムFの外層/中間層/内層をそれぞれ直鎖状低密度ポリエチレン/直鎖状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンとし、厚さ[μm]を外層から順に25/200/25とした。また、密度[g/cm]は、外層から順に0.921/0.910/0.956であり、融点[℃]は外層から順に121/110/132であった。
また、この実施例のフィルムFは、水冷インフレーションにより作成した。
薬液入り複室容器1のサイズは、縦横30cm×18cmとし、一端にポート8を設け、他端に吊孔9を設けた。弱シール部7はポート8のある一端から長尺方向に18cmの位置に幅1cmで両側部に渡って直線帯状に設けた、その弱シール部7を折り曲げ部6として折り畳み、滅菌温度105℃で30分、シャワー式高圧蒸気滅菌器で加熱した。
冷却後接触していた胴部4,5の外表面同士はブロッキングしており固定されていた。薬液入り複室容器1を展開する際に抵抗はあったが、展開することができた。展開と同時に弱シール部7が剥離し薬液が混合された。滅菌前後での弱シール部7の開通強度は、略同じであった。
【0067】
<実施例2>
上述した実施例1と同様のフィルム1を用いて薬液入り複室容器201を作成し、ポート8のある側から長尺方向に15cmの位置に折り曲げ部6を設けた。折り曲げ部6の位置は弱シール部107とずらして配置されている。熱滅菌時に金属トレイtの底面bに弱シール部107が形成されている部分が接するように薬液入り複室容器201を載置して、滅菌温度105℃で30分、シャワー式高圧蒸気滅菌器で行った。冷却後、接触していた胴部4,5の外表面同士はブロッキングしており、固定されていた。薬液入り複室容器201を展開する際に抵抗はあったが、展開することができた。展開と同時に弱シール部107が剥離し薬液が混合された。滅菌前後での弱シール部107の開通強度は、滅菌前より滅菌後の方が10N程度低下していた。なお、実施例2における開通強度は、圧縮試験機(オリエンテック社製RTC1250A)を使用し、10cm×10cmの平板で収納室を速度200mm/分で押圧して得られる値の最大値である(以下、実施例3も同様)。
【0068】
<実施例3>
実施例1と同様のフィルムFを用いて、弱シール部107よりずれたポート8側から長尺方向に15cmの位置に折り曲げ部6を設けた。弱シール部107が熱滅菌時に容器を載せるトレイtの底面bにくるようにおいて、滅菌温度105℃で30分、シャワー式高圧蒸気滅菌器で行った。冷却後接触していた胴部4,5の外表面同士はブロッキングしており、ポート8が固定されていた為、滅菌前後での形状の変化が無く、固定されていた。薬液入り複室容器201を展開する際に抵抗はあったが、展開することができた。展開と同時に弱シール部107が剥離し薬液が混合された。
滅菌前後での弱シール部107の開通強度は、滅菌前より滅菌後の方が10N程度低下した。
【0069】
<実施例4>
フィルムFを多層とし、外層/中間層/内層=プロピレンランダム共重合体/プロピレンブロック共重合体+スチレン系エラストマー/ホモポリプロピレンとした。また、フィルムFの厚み[μm]を、外層から25/200/25とし、融点[℃]を外層から130/160/160とした。
本構成のフィルムFを水冷インフレーションにより作成した。滅菌温度121℃で30分、シャワー式高圧蒸気滅菌器で行った。冷却後接触していた胴部4,5の外表面同士はブロッキングしており、固定されていた。薬液入り複室容器1を展開する際に抵抗はあったが、展開することができた。展開と同時に弱シール部7が剥離し薬液が混合された。
【0070】
なお、この発明は上述した各実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上述した各実施形態では収納室2,3に充填される薬液が、ビタミン剤と生理食塩水の場合について説明したが、薬液はこれらビタミン剤と食塩水に限られるものではない。また、収納室2,3に充填される薬液が両方とも液体薬剤である場合について説明したが、少なくとも収納室2,3のうち一室が液体薬剤であればよく、例えば、液剤と粉剤等の組合せであってもよい。また、収納室2,3を設ける場合について説明したが、混合する薬剤の種類に応じて3室以上の収納室を適宜設けるようにしてもよい。
【0071】
また、上述した各実施形態では、2枚のフィルムFをヒートシールして薬液入り複室容器1,101,201,301,401,501を形成する場合について説明したが、フィルムFの枚数は2枚に限られず、3枚以上のフィルムにより形成するようにしても良い。
【0072】
そして、薬液入り複室容器1,101,201,301,401,501の折り曲げた形状がくずれないように、搬送状態を保持するようにしてもよい。保持する方法としては、折り曲げた状態の薬液入り複室容器1,101、201,301,401,501を帯状のテープで巻いて動かないように固定する方法や、薬液入り複室容器1,101、201,301,401,501をさらに外包装で包装する際に真空包装して折り曲げた搬送状態を保持するようにしてもよい。
【0073】
また、上述した各実施形態の他の態様として、例えば、図14に示すように、上述した吊孔9をポート8が挿通可能な形状とし、薬液入り複室容器501が搬送状態の場合に、吊孔9にポート8を通して吊孔9をポート8に係止させるようにしても良い。これにより、折り曲げ部6の位置が安定し、搬送状態のときに常に一定の形状にすることができる。さらに、薬液入り複室容器501が一定の形状で拘束されることで、外包装やテープで巻いて固定する等を行うことなしに、搬送中等の際の不測の力で形状がくずれて固定部110が剥離してしまうのを防止することができる。
【符号の説明】
【0074】
2 第1収納室(収納室)
3 第2収納室(収納室)
7,107 弱シール部
4,5 胴部
6 折り曲げ部
10 固定部
120 折り曲げ補助部
210 治具(折り曲げ補助部)
220 切り欠き部(折り曲げ補助部)
F フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が収納される複数の収納室を備え、該収納室同士が剥離可能な弱シール部により仕切られ、略平面状の可撓性を有した複数のフィルムを張り合わせて形成される薬液入り複室容器において、
前記薬液により膨らむ前記収納室の胴部の外表面同士が対向配置され、これら外表面同士を剥離可能に固定する固定部を備えることを特徴とする薬液入り複室容器。
【請求項2】
前記固定部は、ブロッキング、接着剤、粘着剤または複室容器表面に設けられた接着部材により、前記胴部の外表面同士を固定する請求項1に記載の薬液入り複室容器。
【請求項3】
前記胴部の外表面同士を対向配置させる際に折り曲げられる折り曲げ部に対して、前記弱シール部が、前記収納室の配列方向にずらして配置される請求項1又は2に記載の薬液入り複室容器。
【請求項4】
前記折り曲げ部は、折り曲げを容易にする折り曲げ補助部を備える請求項3に記載の薬液入り複室容器。
【請求項5】
前記フィルムは、ポリエチレン系樹脂からなる外層及び内層を有する多層フィルムであって、外層のポリエチレン系樹脂の融点が、内層ポリエチレン系樹脂の融点より低い請求項1乃至4の何れか一項に記載の薬液入り複室容器。
【請求項6】
前記フィルムは、外層及び内層を有する多層フィルムであって、外層の樹脂がプロピレンランダム共重合体またはプロピレンブロック共重合体である請求項1乃至4の何れか一項に記載の薬液入り複室容器。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の薬液入り複室容器の製造方法において、
前記胴部の外表面同士を対向配置させ、該外表面同士が当接した状態で加熱してブロッキングにより前記外表面同士を固定して前記固定部を形成することを特徴とする薬液入り複室容器の製造方法。
【請求項8】
請求項3又は4に記載の薬液入り複室容器の製造方法において、
前記胴部の外表面同士を上下方向で対向配置させ、前記弱シール部を前記折り曲げ部よりも上下方向の下側に配置させ、前記外表面同士が密着した状態で加熱してブロッキングにより前記外表面同士を固定して前記固定部を形成することを特徴とする薬液入り複室容器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−105716(P2012−105716A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255074(P2010−255074)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】