説明

薬液噴霧投与装置

【課題】生体の体内の患部に薬液を短時間に適正量投与することができる薬液噴霧投与装置を提供することを目的としている。
【解決手段】内部に薬液Xが充填される薬液充填部2と、基端が薬液充填部2に接続されるとともに先端に薬液Xを吐出する吐出孔30が形成されたカテーテル3と、薬液充填部2内の薬液Xを、カテーテル3内を通して吐出孔30から吐出させる吐出機構4と、吐出機構4によって吐出孔30に送られる薬液Xに電圧を印加する電圧印加部5と、を備え、吐出孔30がカテーテル3の先端に複数形成されているとともに、これら複数の吐出孔30が20μm以上の間隔をあけて配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を生体(人間又は動物)の体内の患部に噴霧投与するための薬液噴霧投与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、例えば副作用の発症を弱めたりあるいは薬効の低下を防止したりする等のために、可能な限り患部に近い位置で薬液を吐出することにより、必要最小限の薬液を患部に限定して投与することが要望されている。
そこで、従来、例えば下記特許文献1に示されるような、カテーテルの先端部分(一端部分)にノズルが設けられ、このノズルの基端側(他端側)に与圧室が形成され、この与圧室の基端側(他端側)に貯留部が形成された構成の薬液投与装置が提供されている。この薬液投与装置には、ノズルと与圧室とを連通、遮断する射出弁と、与圧室と貯留部とを連通、遮断する装填弁と、がカテーテルの内部に設けられている。また、与圧室には加圧ガス源と連通する加圧ガス導管が接続されている。
【0003】
以上の構成において、貯留部内に薬液を装填し、かつカテーテルを体内に挿入してノズルを患部に近づけた状態で前記装填弁を開くことにより、貯留部内の薬液を与圧室内に導入する。その後、前記装填弁を閉じた状態で前記加圧ガス導管から与圧室内に加圧ガスを導入して、この与圧室内の圧力が十分に高められたときに前記射出弁を開き、ノズルの吐出孔から患部に向けて薬液を吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−527023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の薬液噴霧投与装置では、カテーテル内でエアロゾル化した薬液がカテーテルの内面に付着するため、カテーテル内への薬液の充填量に比べて吐出孔からの薬液の吐出量が少なくなる。したがって、患部に投与される薬液の量が不安定となり、正確な量の薬液を投与することがむずかしいという問題がある。仮に、患部に投与される薬液の量が少ないと、所望の薬効を得られなくなる場合がある。
【0006】
また、患者の負担を考慮すると、投与時間をなるべく短時間に完了する要望があるが、上記した従来の薬液噴霧投与装置では、薬液の投与効率が低い。ここで、薬液の投与効率を上げるために吐出孔を増やすことが考えられるが、吐出孔間の距離が近いと、複数の吐出孔からそれぞれ吐出された薬液同士が吐出直後に接触し、患部に投与される薬液の量が不均一になり易いという問題がある。また、吐出孔間の距離が近いと、吐出孔が形成されたノズル先端面に薬液が溜まり易くなり、その結果、吐出孔が目詰まりを起こしたり、薬液が液滴となって垂れ落ちて患部周辺に必要以上の薬液が投与されたりする問題がある。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、生体の体内の患部に薬液を短時間に適正量投与することができる薬液噴霧投与装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、内部に薬液が充填される薬液充填部と、基端が前記薬液充填部に接続されるとともに先端に前記薬液を吐出する吐出孔が形成されたカテーテルと、前記薬液充填部内の前記薬液を、前記カテーテル内を通して前記吐出孔から吐出させる吐出機構と、該吐出機構によって前記吐出孔に送られる前記薬液に電圧を印加する電圧印加部と、を備え、前記吐出孔が前記カテーテルの先端に複数形成されているとともに、これら複数の前記吐出孔が20μm以上の間隔をあけて配設されていることを特徴としている。
【0009】
このような特徴により、患者の体内にカテーテルを先端から挿入した後、薬液充填部内の薬液を吐出機構によってカテーテルの基端から先端側に向けて送り込むことで、吐出孔から薬液が吐出される。また、カテーテル内を流通する薬液に電圧印加部によって電圧を印加することにより、電圧が印加された薬液が外気に曝されることで霧状に分裂されるとともに、カテーテル内の薬液と生体の患部との間に電位差が生じ、薬液微粒子が吐出孔から患部に向かう電気力線に沿って患部に到達する。このとき、患部に到達した薬液微粒子は帯電しているため、電位が0Vである生体(患部)に確実に付着する。また、吐出孔が複数形成されているため、吐出孔が1つである場合に比べて、一度に噴霧される薬液の量が増加し、効率良く患部に薬液が投与される。さらに、それら複数の吐出孔が20μm以上の間隔をあけて配設されているので、各吐出孔からそれぞれ噴霧された薬液(液糸)同士が接触せずに分離される。これにより、安定した粒径の薬液微粒子が噴霧され、薬液が液滴となって垂れ落ちることが防止される。
【0010】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記カテーテルに、前記薬液充填部内に連通する一つの内部空間が形成されており、該内部空間に各吐出孔がそれぞれ連通されていることが好ましい。
【0011】
これにより、薬液充填部内から送り出された薬液はカテーテルの一つの内部空間内を流通して複数の吐出孔にそれぞれ到達するため、各吐出孔毎の流路がカテーテル内に形成されている場合に比べて、薬液流通が容易となり、薬液充填部内の薬液が短時間で各吐出孔にそれぞれ送達される。また、薬液を一つの内部空間を通して各吐出孔にそれぞれ送達させることにより、薬液を薬液充填部から吐出孔に送達する際の液体圧力損失が抑制される。
【0012】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記複数の吐出孔が、前記カテーテルの内部空間の中心軸線に対して略回転対称となる位置に配設されていることが好ましい。
【0013】
これにより、各吐出孔からの薬液吐出速度が均一化され、各吐出孔における薬液の霧化位置が均一化される。
【0014】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記複数の吐出孔が形成された前記カテーテルの先端面が、前記カテーテルの中心軸線を中心とする回転曲面状に形成されていることが好ましい。
【0015】
これにより、各吐出孔の出口側(終端側)の開口端面がカテーテルの中心軸線に対して傾いた状態となり、各吐出孔からそれぞれ噴霧された薬液同士がより確実に分離される。これにより、より安定した粒径の薬液微粒子が噴霧され、薬液が液滴となって垂れ落ちることが確実に防止される。
また、各吐出孔からそれぞれ吐出された薬液(複数の液糸)がカテーテルの径方向外側に広がって放出されるので、広範囲に薬液が噴霧される。
さらに、カテーテル先端が、鋭角な稜線(角)が無い形状になるため、カテーテルの先端が生体の内腔面に接触した際の生体に与える影響が軽減される。
【0016】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記吐出孔が、カテーテル内部側からカテーテル外部側に向かうに従い漸次縮径されていることが好ましい。
【0017】
これにより、薬液が吐出孔を通る際に、吐出孔の入口側(始端側)の開口端から出口側(終端側)の開口端に向けて漸次縮径されるように整流される。また、吐出孔の終端部分の内周面とカテーテル先端面との成す角が鋭角になる。その結果、吐出孔から吐出される薬液(液糸)は、円錐状に広がりにくく、吐出方向(出口側の開口端面に垂直な方向)にのみ放出され易くなり、各吐出孔からそれぞれ吐出された薬液(液糸)同士が接触しにくくなる。これにより、より安定した粒径の薬液微粒子が噴霧され、薬液が液滴となって垂れ落ちることが確実に防止される。
【0018】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記カテーテルには、圧送された気体が流通する気体流通路が設けられ、該気体流通路の先端開口端は前記カテーテルの先端面に形成されており、前記先端開口端の周りに前記複数の吐出孔が配設されていることが好ましい。
【0019】
これにより、気体流通路の先端開口端から放出された気体によって、各吐出孔からそれぞれ吐出された薬液(液糸)同士が接触しにくくなって分離される。また、気体流通路の先端開口端から放出された気体によって、カテーテル先端面に付着した体内粘液等が吹き飛ばされる。さらに、吐出孔から噴霧された薬液(薬液微粒子)は、気体流通路の先端開口端から放出された気体の流れに乗ってより遠方に送達される。
【0020】
また、本願発明に係る薬液噴霧投与装置は、前記複数の吐出孔からそれぞれ吐出される各薬液が、前記電圧印加部によって同一極性に帯電されていることが好ましい。
【0021】
これにより、各吐出孔からそれぞれ吐出された薬液(液糸)同士が互いに反発し合って接触しにくくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る薬液噴霧投与装置によれば、一度に噴霧される薬液の量が増加し、効率良く患部に薬液が投与されるので、薬液の投与を短時間で行うことができる。また、安定した粒径の薬液微粒子が噴霧され、薬液が液滴となって垂れ落ちることが防止されるので、患部に適正量の薬液を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するための薬液噴霧投与装置の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を説明するための薬液充填部及びカテーテルの断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端部の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端側の端面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態を説明するための薬液の噴霧状況を表した模式図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端部の断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を説明するための薬液の噴霧状況を表した模式図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端部の断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端側の端面図である。
【図10】図8に示すZ−Z間の断面図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端部の断面図である。
【図12】本発明の第4の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端側の端面図である。
【図13】本発明の他の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端側の端面図である。
【図14】本発明の他の実施の形態を説明するためのカテーテルの先端側の端面図である。
【図15】本発明の他の実施の形態を説明するための薬液の噴霧状況を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る薬液噴霧投与装置の第1から第4の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態について、図1から図5に基いて説明する。
図1は本実施形態における薬液噴霧投与装置1の概略構成を模式的に表した図であり、図2は薬液噴霧投与装置1に備えられた薬液充填部2及びカテーテル3を模式的に表した断面図であり、図3はカテーテル3の先端部分を軸方向に切断した断面図であり、図4はカテーテル3の先端面を表した端面図であり、図5は薬液Xの噴霧状態を表した模式図である。
なお、図2に示す鎖線Oはカテーテル3の中心軸線を示しており、以下、単に「軸線O」と記す。また、本実施の形態においては、前記した軸線Oの長さ方向を「軸方向」と記し、軸線Oに直交する方向を「径方向」と記す。
【0026】
図1に示すように、薬液噴霧投与装置1は、生体の内腔Yにある患部Yに薬液Xを投与するための装置であり、液体状の薬液Xを霧状の薬液微粒子Xとして患部Yに噴霧する装置である。薬液噴霧投与装置1の概略構成としては、内部に薬液Xが充填される薬液充填部2と、基端が薬液充填部2に接続されるとともに先端に薬液Xを吐出する吐出孔30が形成されたカテーテル3と、薬液充填部2内の薬液Xを、カテーテル3内を通して吐出孔30から吐出させる吐出機構4と、吐出機構4によって吐出孔30に送られる薬液Xに電圧を印加する電圧印加部5と、を備えている。
【0027】
図1、図2に示すように、薬液充填部2には、薬液Xを収容する薬液タンクであるディスポシリンジ20と、ディスポシリンジ20内の薬液Xをカテーテル3に圧送するピストン21と、が備えられている。この薬液充填部2は、上記したピストン21がディスポシリンジ20の長手軸方向に沿ってカテーテル3側に移動することで、ディスポシリンジ20内の薬液Xをその先端からカテーテル3内に送液するものである。
【0028】
カテーテル3は、生体の内腔Y内に挿入される管であり、非直線的な内腔Yに挿入可能な程度の柔軟な可撓性を有する。このカテーテル3の内部には、軸方向に延在する一つの内部空間31が略全長に亘って形成されている。カテーテル3としては、例えば、非導電性材料の四フッ化エチレン樹脂製であって、外径略1.6mm、内径略0.9mm、長さ略2000mmの細管が用いられる。
【0029】
カテーテル3の一端(基端)は、後述する電圧印加電極52を介してディスポシリンジ20の先端に接続されており、カテーテル3の内部空間31とディスポシリンジ20の内部空間22とは連通されている。なお、ディスポシリンジ20は、生体の体外に配置されるものであり、カテーテル3の基端は体外に配置される。
【0030】
図3、図4に示すように、カテーテル3の他端(先端)には、カテーテル3の内部空間31を閉塞する先端壁32が設けられている。この先端壁32は、軸線Oに対して垂直に設けられた壁部であり、その厚さTは例えば0.1〜5.0mm程度になっている。この先端壁32には、複数の吐出孔30が形成されている。吐出孔30は、薬液Xを吐出する微細な貫通孔であり、例えば直径が約0.075mmの丸孔が形成されている。複数の吐出孔30は、内部空間31の中心軸線(軸線O)に対して略回転対称となる位置に配設されている。具体的に説明すると、先端壁32には、三つの吐出孔30が軸線O周りに均等に配設されている。また、複数の吐出孔30の間隔Lは20μm以上に設定されている。
【0031】
また、カテーテル3は、図1に示すように内視鏡6の鉗子チャンネル60内に挿通されており、カテーテル3の先端面(吐出孔30)は患部Yに対向配置される。このとき、吐出孔30は、カテーテル3が軸方向に沿って進退移動することで、患部Yに接近、または離間される。
【0032】
上記した構成のカテーテル3は、精密押出成形により、軸方向に延びた複数の貫通孔を有するマルチルーメンパイプを薄板状に切断した後、その薄板片を、軸方向に延びた一つの貫通孔を有する四フッ化エチレン樹脂製パイプの端面に溶融接合乃至は接着剤等により接合することにより製作することができる。なお、カテーテル3は、例えば四フッ化エチレン樹脂等の撥水性を有する材質で形成することが好ましく、さらに、図3に示すように、撥水性を向上させるための撥水膜33をカテーテル3の外部表面に被覆させることが望ましい。
【0033】
図1に示すように、吐出機構4は、ピストン21をディスポシリンジ20の内周面に沿って往復移動させるための機構であり、その概略構成としては、モータ40と、制御回路41と、ボールネジ42と、可動部43と、を備えている。
【0034】
モータ40は、制御回路41からの信号に基づいて回転駆動する駆動部であり、電源部7に接続されている。ボールネジ42は、モータ40の回転運動が伝達されるものであり、モータ40の回転駆動に連動して軸回転するものである。可動部43は、ボールネジ42に螺合された部材であり、ボールネジ42の軸回転に伴いディスポシリンジ20の長手軸方向に沿って移動する。この可動部43は、ピストン21に脱着可能に取り付けられており、可動部43の移動に伴いピストン21がディスポシリンジ20の長手軸方向に沿って移動する構成になっている。制御回路41は、モータ40の回転数を制御することでディスポシリンジ20からカテーテル3に送り出される薬液Xの送液量及び送液速度をそれぞれ制御し、吐出孔30から吐出される薬液Xの吐出量及び吐出速度を制御するものである。制御回路41には、図示せぬ動作開始スイッチ等が接続されており、動作開始スイッチ等が操作されることにより制御回路41からモータ40に信号を送信するとともに、後述する電圧発生回路50に信号を送信する。
【0035】
なお、制御回路41は、ディスポシリンジ20から吐出孔30までの予め設定された薬液Xの送液量(モータ40の回転数)や薬液Xの送液速度(モータ40の回転速度)の組み合わせデータを格納しているテーブルを記憶する図示しない記憶部を有していても良い。また、その場合、制御回路41は、薬液Xを送液する際、薬液Xの使用用途に応じてテーブルを呼び出し、使用用途に対応する送液量や送液速度等の少なくとも1つを規定してもよい。
また、制御回路41には、図示しない外部スイッチと接続している図示しないコントロール端子が内蔵されても良い。例えばダイヤルである外部スイッチが使用者によって操作されることで、制御回路41は、例えば薬液Xの送液量(モータ40の回転数)や送液速度(モータ40の回転速度)の少なくとも1つを調節しながら設定し、制御しても良い。
なお、制御回路41によって薬液Xの送液速度を変えると、薬液微粒子Xの径が変化する。
【0036】
電圧印加部5は、薬液充填部2からカテーテル3に送り出された薬液Xに電圧を印加する手段であり、その概略構成としては、電圧発生回路50と、電極コンタクト部材51と、電圧印加電極52と、グランドバンド53と、を備えている。この電圧印加部5は、電源部7から供給された電力によって電圧発生回路50で例えば4kV以上の印加電圧である高電圧を発生させ、この高電圧を電極コンタクト部材51を介して電圧印加電極52に供給する構成になっている。
【0037】
電圧発生回路50は、電源部7に電気的に接続されており、電源部7から電力が供給される。また、電圧発生回路50は、制御回路41に電気的に接続されており、制御回路41から送信された信号に応じて電圧を発生させる。具体的に説明すると、図示しない動作開始スイッチ等が操作されることにより制御回路41から電圧発生回路50に信号が送信され、その信号に基いて電圧発生回路50の動作が制御され、高電圧の発生が制御される。また、電圧発生回路50は、高電圧の極性をプラス側極性またはマイナス側極性の何れか一方に択一的に選択する。
【0038】
また、電圧発生回路50には、予め設定された印加電圧の極性や印加電圧の大きさや印加継続時間の組み合わせデータ等を格納しているテーブルを記憶する図示しない記憶部が設けられていても良い。印加継続時間とは、例えば電圧印加電極52に高電圧を供給して薬液Xに高電圧を印加させる印加時間である。電圧発生回路50は、電圧印加電極52に高電圧を供給する際、薬液Xの使用用途に応じてテーブルを呼び出し、使用用途に対応する印加電圧の極性や印加電圧の大きさや印加継続時間の少なくとも1つを規定しても良い。
また、電圧発生回路50には、図示しない外部スイッチと接続している図示しないコントロール端子が内蔵されても良い。例えばダイヤルである外部スイッチが使用者によって操作されることで、電圧発生回路50は、例えば印加電圧の極性と、印加電圧の大きさと、印加電圧の印加継続時間等の少なくとも1つを調節しながら設定し、制御しても良い。
なお、電圧発生回路50によって印加電圧の大きさを変えると、薬液微粒子Xの径は変化する。
【0039】
電極コンタクト部材51は、電圧印加電極52における高電圧の印加を集中させるために、印加方向に先細な針形状を有し、例えばステンレス製の電極が好適である。また電極コンタクト部材51は、一般的な電気接触子の金メッキされたコンタクトプローブなどでもよい。また、電極コンタクト部材51の先端は、後述する筒状電極部54の外周面に着脱自在に当接されている。
【0040】
グランドバンド53は、生体の一部と接触して0V電位となるものであり、電圧発生回路50に接続されている。このグランドバンド53は、例えば指等に取り付けられる。これにより、生体内の患部Yは電気的なグランドとなる。つまり患部Yは、高電圧が印加する部位である吐出孔30における薬液Xとは電位の異なる部位となる。
【0041】
電圧印加電極52は、導電性の金属製や導電性樹脂製や導電性膜が形成された樹脂製の円管形状を成した筒状電極部54と、筒状電極部54の内周面に接続された線状電極部55と、を備えている。
【0042】
筒状電極部54は、薬液充填部2の先端部とカテーテル3の基端部との間に介装されている。筒状電極部54の一端は、ディスポシリンジ20の先端部に螺合により脱着自在に締結されている。一方、筒状電極部54の他端は、例えば図示しない接着剤等によりカテーテル3の基端部に強固に接合されている。また、筒状電極部54の内径は、薬液充填部2の先端部の内径及びカテーテル3の内径と略同一であり、筒状電極部54の内側は、薬液充填部2の内部空間22及びカテーテル3の内部空間31にそれぞれ連通されている。
【0043】
線状電極部55は、カテーテル3内に挿通されているとともに軸線O上に延設されており、カテーテル3の先端部(吐出孔30付近)まで延びている。この線状電極部55の材質は、電気抵抗が少なく、薬液Xに対する特性が安定していることが好ましく、例えば白金製や金製や銀製、またはステンレス製等がさらに好適である。また、線状電極部55の径は、カテーテル3の内部空間31の内径よりも小さい。また、線状電極部55の長さは、カテーテル3の全長よりも短くなっており、吐出孔30から突出せず、吐出孔30の近傍まで延在する長さを有している。例えば、カテーテル31が、外径略1.6mm、内径略0.9mm、長さ略2000mmである場合、線状電極部55は、直径略0.3mm、長さ略1980mmのものを用いることができる。
【0044】
また、電圧印加部5には、高電圧の安全性対策として、図示しない例えば高抵抗回路や過電流検出回路等が組み込まれている。高抵抗回路としては、スパークや生体への電撃を防止する保護用の高抵抗が電極コンタクト部材51に直列に配置されている。また、過電流検出回路は、電圧発生回路50から電圧印加電極52に高電圧を供給した際に流れる電流を検出し、電流値が予め設定された設定値以上になったときに、電圧発生回路50を停止させ、高電圧の発生を停止させるものである。なお、生体への安全性を加味すると、過電流検出回路における設定値は、約100μA以下、または望ましくは約10μA以下に設定されることが好適である。
【0045】
なお、高電圧の安全性対策として上記に限定する必要はなく、例えば電圧発生回路50は、吐出機構4と連携し、ディスポシリンジ20内の薬液Xが無くなると(例えばピストン21がカテーテル3側にまで移動すると)、高電圧の発生を停止する構成にしてもよい。言い換えると電圧発生回路50は、吐出機構4による薬液Xの送液中にのみ、高電圧を発生させて、高電圧を供給する構成とする。
また、電圧発生回路50には、電源部7を高電圧にまで昇圧(発生)させる図示しないトランス等が内蔵されている。
【0046】
上記した吐出機構4と電圧発生回路50と電極コンタクト部材51と電源部7とは、筐体8内に内蔵されており、電極コンタクト部材51の先端は筐体8から突出されている。また、上記したディスポシリンジ20の先端部と電圧印加電極52(筒状電極部54)とカテーテル3の基端部とは、例えばゴムなどの電気絶縁部であるディスポシリンジ固定枠9内に挿通されている。このディスポシリンジ固定枠9は、筐体8に固定されている。電圧印加電極52と電極コンタクト部材51とは、ディスポシリンジ固定枠9と筐体8によって外部との接触を防止されている。
【0047】
また、ピストン21が移動する部分には、指等の挟みこみ防止する開閉式の透明な樹脂製のカバー10が設けられている。
また、ディスポシリンジ20とピストン21とカテーテル3及び電圧印加電極52は、可動部43及び電極コンタクト部材51から着脱自在の構成である。すなわち、ディスポシリンジ20、ピストン21、カテーテル3及び電圧印加電極52は、可動部43や電極コンタクト部材51から脱着可能であり、ディスポーザブル部品として症例に応じて使用後廃棄される。そして、電圧発生回路50、電極コンタクト部材51、薬液送液機構6、電源部7、筐体8、ディスポシリンジ固定枠9、及びカバー10は、例えば未使用のディスポシリンジ20、ピストン21、カテーテル3及び電圧印加電極52に接続し、リユース部品として再利用可能である。
【0048】
また、カテーテル3に用いる材料は特に限定されることはなく、目的に合わせて一般的な高分子材料の中から最適なものを選定することができる。また、単一材料に限定されることはなく、複数の高分子材料を組み合わせた材料、高分子材料に無機材料を添加した材料などを用いることができる。本実施例では例えば四フッ化エチレン樹脂を例に用いているが、他のフッ素樹脂を用いてもよいし、またフッ素樹脂に限定されることなく力学的特性などで不具合が生じない範囲であらゆる高分子材料を使用して良い。
ここで、オートクレーブ滅菌処理温度より低い融点を有する材料をカテーテル3の少なくとも一部に用いることにより、滅菌処理により破壊され、再利用を不可能とすることで、再利用による感染症を未然に防ぐことができる。例えば135℃でのオートクレーブ滅菌に対しては融点135℃以下の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などを用いることで、滅菌処理により破壊され、再利用が不可能となる。
【0049】
次に、上記した構成からなる薬液噴霧投与装置1の作用について説明する。
【0050】
まず、カテーテル3が接合された電圧印加電極52の筒状電極部54にディスポシリンジ20を螺合して連結する。
次に、所望量の薬液Xをディスポシリンジ20に充填した後、ピストン21をディスポシリンジ20内に挿嵌させる。上記した「所望量」とは、薬液Xによって患部Yを治療するための適正量であり、吐出機構4によってディスポシリンジ20から吐出孔30に送液される量である。
【0051】
次に、ピストン21を吐出機構4の可動部43に係合させるとともに、カテーテル3、筒状電極部54及びディスポシリンジ20の先端部をディスポシリンジ固定枠9内に挿通し、筒状電極部54の外周面に電極コンタクト部材51の先端を接触させ、その後、カバー10を閉じる。
これにより、薬液噴霧投与装置1が構成され、薬液噴霧投与装置1の準備が完了する。
【0052】
次に、カテーテル3を先端から患者の内腔Y内に挿入する。詳しく説明すると、カテーテル3を内視鏡6の鉗子チャンネル60内に挿通し、内視鏡6に設けられている図示せぬ観察光学系によって患部Yを観察しながらカテーテル3を移動させ、吐出孔30を患部Yに対向させる。
【0053】
次に、図示しない動作開始スイッチ等が操作されて動作開始が指示されると、制御回路41からモータ40に駆動開始の信号が送信され、モータ40が回転駆動する。モータ40が駆動するとボールネジ42が軸回転し、このボールネジ42の軸回転によって可動部43がディスポシリンジ20の長手軸に沿って移動し、ピストン21がディスポシリンジ20の長手軸に沿ってカテーテル3側(ディスポシリンジ20の先端側)に移動する。これにより、ディスポシリンジ20内の薬液Xがディスポシリンジ20の先端から押し出され、筒状電極部54を通ってカテーテル3内に圧送される。カテーテル3には、一つの内部空間31が形成されており、この内部空間31に各吐出孔30がそれぞれ連通されているので、カテーテル3内に圧送された薬液Xは、一つの内部空間31を通って各吐出孔30にそれぞれ到達する。
【0054】
また、図示しない動作開始スイッチ等が操作されて動作開始が指示されると、制御回路41から電圧発生回路50に駆動開始の信号が送信され、電圧発生回路50から高電圧が発生する。この高電圧は、電極コンタクト部材51を介して電圧印加電極52に供給される。そして、筒状電極部54の内周面からその筒状電極部54内を流通する薬液Xに高電圧が印加されるとともに、線状電極部55からカテーテル3内を流通する薬液Xに高電圧が印加される。
【0055】
上述したように吐出機構4によって圧送されるとともに電圧印加部5によって電圧が印加された薬液Xは、カテーテル3の複数の吐出孔30から霧化状の帯電した薬液微粒子Xとして噴霧される。
詳細に説明すると、吐出孔30における薬液Xは、カテーテル3の外部の気体との間に、気液界面を形成している。この気液界面に電圧が作用すると、薬液Xの表面に働く静電気力によって気液界面が電気流体力学的に不安定になり、不安定点が発生する。この不安定点から帯電した霧化状態の薬液微粒子Xが噴霧される。また気液界面に高電圧が作用し、吐出孔30における気液界面の電界密度が臨界値に達すると、薬液Xの表面から細い液糸(糸状の薬液X)が引き出され、さらにその液糸が伸縮する。このとき、液糸の先端から薬液Xが、多数の薬液微粒子Xとして、細い液糸から分裂する。さらに、高電圧の値が大きくなると、細い液糸における界面はさらに不安定になり、多数の不安定点が同時に発生する。薬液Xは、これら不安定点から、帯電した完全な霧化状態の薬液微粒子Xとして吐出孔30から多数噴霧される。
なおカテーテル3は非導電性材料の四フッ化エチレン樹脂製であるため、薬液Xはカテーテル3内に滞留することなく噴霧される。
【0056】
上述したように高電圧が薬液Xに印加された際、吐出孔30における薬液Xと患部Yとの間に電位差が生じ、図5に示すように吐出孔30から患部Yに向かって電気力線Eが形成される。吐出孔30から噴霧された薬液微粒子Xは、プラス側極性又はマイナス側極性に帯電しているため、図5に示すように、吐出孔30から上記した電気力線Eに沿って患部Yに到達する。そして、帯電している薬液微粒子Xは、電位が0Vである患部Yに確実に付着する。すなわち、高電圧がプラス側極性の場合は、薬液微粒子Xはプラス側極性に帯電し、高電圧がマイナス側極性の場合は、薬液微粒子Xはマイナス側極性に帯電する。一般に生体は0V近傍になっており、また本実施形態ではグランドバンド53によって生体は0Vになっているため、生体の患部Yと吐出孔30における薬液X(帯電している薬液微粒子X)は電位が異なる。よって、プラス側極性、又はマイナス側極性に帯電している薬液微粒子Xは患部Yに付着する。
【0057】
また、上記したカテーテル3の先端には複数の吐出孔30が形成されているため、吐出孔30が1つである場合に比べて多量の薬液Xが一度に噴霧される。これにより、効率良く患部Yに薬液Xが投与される。
また、複数の吐出孔30が軸線Oに対して略回転対称となる位置に配設されているので、各吐出孔30からの薬液吐出速度が均一化され、各吐出孔30から吐出される各液糸の霧化位置が均一化される。
【0058】
ところで、複数の吐出孔30の間隔Lが近い場合は、各吐出孔30から吐出される薬液X同士が接触したり、カテーテル3の先端面に薬液Xが付着して吐出孔30が目詰まりを起こしたりし、その結果、薬液Xの噴霧が停止したり不安定になったりする。このため、各吐出孔30からそれぞれ吐出される細い液糸を各々分離した状態にすることが、細かな薬液微粒子Xを形成するために重要となる。仮に、複数の吐出孔30の間隔Lが20μm未満の場合には、各吐出孔30から吐出される薬液X同士が接触する場合がある。つまり、複数の吐出孔30の間隔Lは可能な限り大きくした方が薬液Xの噴霧が停止したり不安定になったりしにくくなり、望ましくはカテーテル3の先端面の外縁近傍に配設される方が好適である。上記した構成からなる薬液噴霧投与装置1では、複数の吐出孔30が20μm以上の間隔をあけて配設されているので、各吐出孔30からそれぞれ噴霧された薬液X(液糸)同士が接触せずに分離される。
【0059】
上記した構成からなる薬液噴霧投与装置1によれば、吐出孔30が複数形成されており、一度に噴霧される薬液Xの量が増加し、効率良く患部Yに薬液Xが投与されるので、薬液Xの患部Yへの投与時間を短縮することができる。これにより、患者の負担を軽減することができる。
なお、図4、図5では、3つの吐出孔30が形成されているが、吐出孔30の数をより多く形成することにより、短時間により大量の薬液Xを投与できることは言うまでも無い。
【0060】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、複数の吐出孔30が20μm以上の間隔をあけて配設されており、各吐出孔30からそれぞれ噴霧された薬液X(液糸)同士が接触せずに分離されるので、安定した粒径の薬液微粒子Xが噴霧され、薬液Xが液滴となって垂れ落ちることが防止されるので、吐出孔30近傍の内腔Yの表面に必要量以上の薬液Xが投与されることを防止することができ、患部Yに適正量の薬液Xを投与することができる。これにより、薬液Xの薬効を確実に発揮させることができるとともに、薬液Xの副作用を軽減させることができる。
【0061】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、薬液充填部2内から送り出された薬液Xはカテーテル3の一つの内部空間31内を流通して複数の吐出孔30にそれぞれ到達するため、各吐出孔30毎の流路がカテーテル3内に形成されている場合に比べて、薬液流通が容易となり、薬液充填部2内の薬液Xが短時間で各吐出孔30にそれぞれ送達される。これにより、薬液Xを効率良く噴霧することができ、薬液Xの患部Yへの投与時間を短縮することができる。
また、薬液Xが一つの内部空間31内を流通して複数の吐出孔30にそれぞれ到達するため、薬液Xを吐出孔30に送達する際の液体圧力損失が抑制される。これにより、出力(送液力)が小さい吐出機構4を用いることができる。
【0062】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、複数の吐出孔30が軸線Oに対して略回転対称となる位置に配設されており、各吐出孔30からの薬液吐出速度が均一化され、各吐出孔30から吐出される液糸の霧化位置が均一化されるので、噴霧量や噴霧範囲を全方向において略均一化することができる。
【0063】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、複数の吐出孔30からそれぞれ吐出される各薬液X(液糸)が同一極性に帯電されているので、各吐出孔30からそれぞれ吐出された薬液X(液糸)同士が互いに反発し合って接触しにくくなる。これにより、安定した粒径の薬液微粒子Xを噴霧させることができ、薬液Xが液滴となって垂れ落ちることを防止することができるとともに、より広範囲に薬液Xを噴霧することができる。例えば、カテーテル3の先端に3つの吐出孔30が形成されていると、図5に示すように、薬液微粒子Xが噴き付けられる領域として、略3つの噴霧領域A〜Aが形成される。
【0064】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、薬液Xを吐出孔30にて霧化し、電気力線Eに沿って患部Yに投与しており、薬液Xをディスポシリンジ20内やカテーテル3内にて霧化せず、また、薬液Xを霧化した状態で吐出孔30まで送気せず、また、薬液Xの患部Yへの投与に気体圧力を用いていない。よって、薬液Xがカテーテル3内に残留することを防止でき、ディスポシリンジ20から吐出孔30に送液される薬液Xの量は、患部Yに付着する薬液Xの量と略同一になる。言い換えると、ディスポシリンジ20内に最初に充填した薬液Xの量と、患部Yへの投与量は略同一となる。したがって、生体内の患部Yに薬液Xを適正量投与することができる。
【0065】
また、仮に、薬液微粒子が帯電していない場合、薬液微粒子には、薬液微粒子の表面張力により球状形状を維持しようとする力が働く。この力は、薬液微粒子の径が小さいほど強く作用する。このため、薬液微粒子は内腔Yの表面に付着しにくく、薬液微粒子が舞い上がるドライフォグ現象が発生しやすい。これに対し、上記した薬液噴霧投与装置1では、薬液微粒子Xを帯電させているため、薬液微粒子Xを患部Yに積極的に付着させることができ、患部Yから薬液微粒子Xが舞い上がることが防止される。これにより、薬液微粒子Xが飛散して患部Y以外の内腔Yの表面に薬液Xが投与されることを防止でき、患部Yに適正量の薬液Xを投与することができ、患部Yへの薬液Xの投与量を正確に管理することができる。
【0066】
特に、呼吸器系の肺や肺胞などに薬液Xを投与する場合、帯電していない薬液微粒子は、呼吸の吐き出しにより、口から排出されやすい。このため、吸入療法等で使用されるネブライザーなどには、吸い込み時に合わせて薬液Xを噴霧するなどの呼気と連動した薬液噴霧動作が必要である。一方、上記した薬液噴霧投与装置1では、薬液微粒子Xを帯電させているため、呼吸の吐き出しに関わらず、薬液Xを患部Yに付着させることができる。
【0067】
また、仮に、筒状電極部54の内径部分のみにて、高電圧がカテーテル3内の薬液Xに印加する場合、薬液Xが吐出孔30に到達するまでの間に電圧が低下し、吐出孔30における薬液Xに作用する電圧が、電圧発生回路50により発生した高電圧よりも低くなるおそれがある。このため、この電圧降下分を上乗せした電圧を電圧発生回路50で発生させなければならない。これに対し、上記した薬液噴霧投与装置1では、線状電極部55が吐出孔30の近傍にまで延在し、線状電極部55の先端が吐出孔30に近接されているので、電圧降下が抑えられ、吐出孔30における薬液Xには電圧発生回路50から発生する高電圧が線状電極部55を通してそのまま作用する。これにより、電圧発生回路50において電圧降下分を上乗せした電圧を発生させる必要がなく、電圧発生回路50で発生させる電圧値を下げることができる。
【0068】
また、薬液Xによっては、カテーテル3内において薬液Xに溶け込んでいる気体が外気温によって膨張したり集合して気体層を形成したりすることがある。仮に、カテーテル3内に線状電極部55が配設されていない場合、カテーテル3の内部において気体が膨張したり集合したりすると、吐出孔30における薬液Xに電圧が作用されず、薬液Xが霧化されない場合がある。一方、上記した薬液噴霧投与装置1では、線状電極部55の先端が吐出孔30の近傍まで延在されているので、吐出孔30における薬液Xに確実に電圧を作用させることができ、薬液Xを確実に霧化させることができる。
【0069】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、薬液Xの導電率が1×10-10(S/m)〜1×10-1(S/m)の範囲内であれば、吐出機構4によって制御される薬液Xの送液速度、及び、電圧発生回路50によって制御される印加電圧の大きさ、のうちの少なくとも一方を変えることによって、薬液微粒子Xの径を変化させることができる。
また、吐出機構4によって送液速度を大きくさせ、電圧発生回路50によって印加電圧を大きくさせることで、薬液微粒子Xの径を維持したまま、単位時間当りの薬液Xの投与量を増加させることができる。
【0070】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、内視鏡6の鉗子チャンネル60にカテーテル3を挿通させており、内視鏡6の図示せぬ観察光学系によって患部Yを観察しながら薬液Xを噴霧することができ、患部Yに確実に薬液Xを投与することができる。
【0071】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、図示せぬ動作開始スイッチ等による電圧発生回路50のON、OFFにより高電圧の発生を制御でき、この高電圧の印加の有無に応じて噴霧を瞬時に開始及び停止することができる。これにより本実施形態は、電圧発生回路50にて任意の印加継続時間を設定し、電圧発生回路50のON、OFFによる印加の有無を制御することで、患部Yに必要な時間だけ適正量の薬液微粒子Xを投与することができる。つまり本実施形態によれば、正確な投与時間、言い換えれば投与量を管理することができる。
【0072】
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、電圧発生回路50は内腔Yの外側に配置され、吐出孔30は内腔Yの内側に配置されている。これにより、電圧発生回路50を生体から遠ざけることができ、より安全である。
また、上記した薬液噴霧投与装置1では、カテーテル3は非導電材料である。これにより、生体に電圧が作用することがないため安全である。
【0073】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について、図6、図7に基いて説明する。
図6はカテーテル3の先端部分を軸方向に切断した断面図であり、図7は薬液Xの噴霧状態を表した模式図である。
なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0074】
図6に示すように、複数の吐出孔30が形成されたカテーテル3の先端面3aは、軸線Oを中心とする回転曲面状に形成されている。
詳しく説明すると、カテーテル3の先端面は、略回転楕円体の形状を成している。具体的には、カテーテル3の内部空間31を閉塞する先端壁132はカテーテル3の先端側に膨出した半球カップ状に形成されており、先端壁132の壁厚さは例えば0.3mm程度に形成されている。この先端壁132には、複数の吐出孔30が軸線Oに対して略回転対称となる位置に形成されている。これら複数の吐出孔30は、それぞれ軸線Oに対して斜めに延在されている。
【0075】
上記した先端壁132は、例えば四フッ化エチレン樹脂等を機械加工することにより製造されている。四フッ化エチレン樹脂は十分な圧縮強さ、曲げ強さを有しており、生体表面に押圧されても回転楕円体形状を維持することができる。
カテーテル3は、半球カップ状に加工されるとともに複数の吐出孔30が形成されたカップ部品(先端壁132)を、軸方向に延びた一つの貫通孔(内部空間31)を有する四フッ化エチレン樹脂製パイプの端面に溶融接合乃至は接着剤等により接合することにより製作することができる。
【0076】
上記したカテーテル3を備える薬液噴霧投与装置1によれば、各吐出孔30の出口側(終端側)の開口端面30aが軸線Oに対して傾いた状態となり、各吐出孔30からそれぞれ噴霧された薬液X同士がより確実に分離されるので、より安定した粒径の薬液微粒子Xが噴霧され、薬液Xが液滴となって垂れ落ちることが確実に防止される。これにより、吐出孔30近傍の内腔Yの表面に必要量以上の薬液Xが投与されることを防止することができ、患部Yに適正量の薬液Xを短時間で投与することができる。
【0077】
また、図7に示すように、各吐出孔30からそれぞれ吐出された薬液X(複数の液糸)が径方向外側に広がって放出されるので、より広範囲に薬液Xが噴霧される。つまり、各吐出孔30から噴霧される薬液微粒子Xの噴霧領域B〜Bが、上述した第1の実施の形態における噴霧領域A〜Aよりも大きくなる。これにより、広い患部Yに効率的に薬液Xを投与することができる。
さらに、カテーテル3の先端が、鋭角な稜線(角)が無い形状になるため、カテーテル3の先端が内腔Yの表面に接触した際の生体に与える影響が軽減される。これにり、生体に対する安全性を一層向上させることができる。
【0078】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態について、図8から図10に基いて説明する。
図8はカテーテル3の先端部分を軸方向に切断した断面図であり、図9はカテーテル3の先端面を表した端面図であり、図10は図8に示すZ−Z間の断面図である。
なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0079】
図8から図10に示すように、複数の吐出孔130は、カテーテル3の内部側からカテーテル3の外部側に向かうに従い漸次縮径された形状を成している。
詳しく説明すると、カテーテル3の内部空間31を閉塞する先端壁32には、複数のコーン形状の吐出孔130が形成されている。この吐出孔130は、入口側(始端側)の開口端面130aから出口側(終端側)の開口端面130bに向かうに従い漸次縮径されたテーパー形状を成している。すなわち、始端側の開口端面130aの開口面積Sと終端側の開口端面130bの開口面積Sとは、[S>S]の関係が成立している。具体的に説明すると、例えば、始端側の開口端面130aが内径約0.1mmで形成され、終端側の開口端面130bが内径約0.05mmで形成される。
【0080】
上記したコーン形状の吐出孔130は、例えば精密レーザー加工により、容易に形成することが可能であり、テーパー角度も自由に設定可能である。
なお、吐出孔130は、内周面130cが直線的に傾斜されたテーパー形状でなくてもよく、例えば、吐出孔の内周面が径方向内側に膨出したすり鉢形状の吐出孔であってもよく、或いは、吐出孔の内周面が径方向外側に膨出した椀形状の吐出孔であってもよい。
【0081】
上記した吐出孔130を有する薬液噴霧投与装置1によれば、薬液Xが吐出孔130を通る際に、吐出孔130の始端側の開口端130aから終端側の開口端130bに向けて漸次縮径されるように整流される。また、吐出孔の終端部分の内周面130cとカテーテル3の先端面3a(先端壁32の外表面)との成す角θが鋭角になる。その結果、吐出孔130から吐出される薬液X(液糸)は、円錐状に広がりにくく、吐出方向(終端側の開口端面130bに垂直な方向)にのみ放出され易くなり、各吐出孔130からそれぞれ吐出された薬液X(液糸)同士が接触しにくくなる。これにより、より安定した粒径の薬液微粒子Xが噴霧され、薬液Xが液滴となって垂れ落ちることが確実に防止され、吐出孔130近傍の内腔Yの表面に必要量以上の薬液Xが投与されることを防止することができ、患部Yに適正量の薬液Xを短時間で投与することができる。
【0082】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態について、図11、図12に基いて説明する。
図11はカテーテル3の先端部分を軸方向に切断した断面図であり、図12はカテーテル3の先端面を表した端面図である。
なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0083】
図11、図12に示すように、カテーテル3には、圧送された気体が流通する気体流通路134が設けられ、この気体流通路134の先端開口端134aはカテーテル3の先端面3aに形成されており、この先端開口端134aの周りに複数の吐出孔30が配設されている。
詳しく説明すると、カテーテル3の内部空間31には、気体を送風するエア用パイプ135が配設されている。このエア用パイプ135の内周孔が上記した気体流通路134となる。エア用パイプ135は、軸線Oを共通軸にしてカテーテル3と同軸上に配置されている。エア用パイプ135の一端(基端)は、図示せぬエアポンプに接続されている。一方、エア用パイプ135の他端(先端)は、カテーテル3の先端壁32に貫設されており、エア用パイプ135の先端面はカテーテル3の先端面3a(先端壁32の外表面)と略面一に形成されている。複数の吐出孔30は、エア用パイプ135の先端部を取り囲むようにエア用パイプ135の径方向外側に配設されており、エア用パイプ135の先端部と平行に延設されている。
具体的に説明すると、例えば、外径約2.0mmのカテーテル3の中心に外径約1.0mmのエア用パイプ135が配置され、このエア用パイプ135を取り囲むように、直径の略0.075mmの吐出孔30が複数配設されている。なお、このときの吐出孔30間の間隔Lは約0.05mmとなる。
また、電圧印加電極52の線状電極部155は、エア用パイプ135の径方向外側に配設されており、エア用パイプ135の外周面とカテーテル3の内周面との間に配置されている。
【0084】
上記した気体流通路134を有する薬液噴霧投与装置1によれば、気体流通路134の先端開口端134aから放出された気体によって、各吐出孔30からそれぞれ吐出された薬液X(液糸)同士が接触しにくくなって分離される。これにより、より安定した粒径の薬液微粒子Xが噴霧され、薬液Xが液滴となって垂れ落ちることが確実に防止され、吐出孔30近傍の内腔Yの表面に必要量以上の薬液Xが投与されることを防止することができ、患部Yに適正量の薬液Xを短時間で投与することができる。
【0085】
また、気体流通路134の先端開口端134aから放出された気体によって、カテーテル3の先端面3aに付着した体内粘液等が吹き飛ばされる。これにより、体内粘液等による吐出孔30の目詰まりを防止することができる。
さらに、吐出孔30から噴霧された薬液X(薬液微粒子X)は、気体流通路134の先端開口端134aから放出された気体の流れに乗ってより遠方に送達される。これにより、カテーテル3の先端を近づけることが困難な患部Yに対して薬液Xを投与することができ、薬液投与処置に要する時間を短縮することができる。例えば、肺胞等の患部Yに対して、手前の気管支から薬液Xの噴霧を実施し、肺胞に薬液Xを投与することができる。
【0086】
以上、本発明に係る薬液噴霧投与装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、3つの吐出孔30が形成されているが、本発明は、吐出孔30が複数形成されていればよく、吐出孔30の数は適宜変更可能である。例えば、図13に示すように、5つの吐出孔30が形成されていてもよい。ここで、中心に位置する吐出孔30Aの内径Dと周囲に位置する4つの吐出孔30Bの内径Dは必ずしも一致している必要はなく、カテーテル3内の薬液Xの流速などに応じて最適な値を取ることができる。
【0087】
また、上記した実施の形態では、断面視円形状のカテーテル3の先端に、断面視円形状の吐出孔30,130が形成されているが、本発明は、カテーテル3や吐出孔30,130の断面視形状は適宜変更可能である。例えば、図14に示すように、断面形状六角形のカテーテル203を用いることも可能であり、また、断面視形状三角形の吐出孔230が形成されていてもよい。このような形状のカテーテル203、及び吐出孔230はそれぞれ押出成形や機械加工などにより容易に製造することができる。
このようにカテーテル形状を円形以外とすることにより、内視鏡管内でのカテーテルとの摩擦抵抗を低減し容易に目的部位へ挿入可能となり、処置時間の短縮が実現できる。また、断面視三角形の吐出孔230を形成することにより、図15に示すように、各吐出孔230における噴霧領域C〜Cが明確に分けられ、患部Yに対して薬液Xを均一に投与することができる。
【0088】
また、上記した実施の形態では、複数の吐出孔30,130が軸線Oに対して略回転対称となる位置に配設されているが、本発明は、複数の吐出孔が軸線Oに対して回転対称とならない位置に配設された構成にすることも可能であり、例えば、吐出孔が不均一に配設されていてもよい。
【0089】
また、上記した実施の形態では、カテーテル3には一つの内部空間31が形成されており、この内部空間31に各吐出孔30,130が連通されているが、本発明は、カテーテル3に複数の内部空間が形成された構成にすることも可能である。例えば、各吐出孔毎に内部空間が形成されていてもよい。つまり、カテーテル3に複数の内部空間が形成され、これらの内部空間にそれぞれ吐出孔が1つ連通された構成にすることも可能である。
【0090】
また、上記した実施の形態では、複数の吐出孔30,130からそれぞれ吐出される各薬液Xが、電圧印加部5によって同一極性に帯電されているが、本発明は、複数の吐出孔から吐出された薬液が異なる極性に帯電される構成にすることも可能である。例えば、上述したように、カテーテルが複数の内部空間を有する場合、複数の内部空間のうちの一部の内部空間を流通する薬液には、電圧印加部によってプラス側極性の電圧を印加し、残りの内部空間を流通する薬液には、電圧印加部によってマイナス側極性の電圧を印加してもよい。
【0091】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した第1から第4の実施の形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 薬液噴霧投与装置
2 薬液充填部
3、203 カテーテル
30、130、230 吐出孔
31 内部空間
4 吐出機構
5 電圧印加部
134 気体流通路
134a 先端開口端
O 軸線(中心軸線)
X 薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬液が充填される薬液充填部と、
基端が前記薬液充填部に接続されるとともに先端に前記薬液を吐出する吐出孔が形成されたカテーテルと、
前記薬液充填部内の前記薬液を、前記カテーテル内を通して前記吐出孔から吐出させる吐出機構と、
該吐出機構によって前記吐出孔に送られる前記薬液に電圧を印加する電圧印加部と、
を備え、
前記吐出孔が前記カテーテルの先端に複数形成されているとともに、これら複数の前記吐出孔が20μm以上の間隔をあけて配設されていることを特徴とする薬液噴霧投与装置。
【請求項2】
前記カテーテルには、前記薬液充填部内に連通する一つの内部空間が形成されており、該内部空間に各吐出孔がそれぞれ連通されていることを特徴とする請求項1に記載の薬液噴霧投与装置。
【請求項3】
前記複数の吐出孔は、前記カテーテルの内部空間の中心軸線に対して略回転対称となる位置に配設されていることを特徴とする請求項1乃至2に記載の薬液噴霧投与装置。
【請求項4】
前記複数の吐出孔が形成された前記カテーテルの先端面は、前記カテーテルの中心軸線を中心とする回転曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薬液噴霧投与装置。
【請求項5】
前記吐出孔は、カテーテル内部側からカテーテル外部側に向かうに従い漸次縮径されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の薬液噴霧投与装置。
【請求項6】
前記カテーテルには、圧送された気体が流通する気体流通路が設けられ、該気体流通路の先端開口端は前記カテーテルの先端面に形成されており、前記先端開口端の周りに前記複数の吐出孔が配設されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薬液噴霧投与装置。
【請求項7】
前記複数の吐出孔からそれぞれ吐出される各薬液は、前記電圧印加部によって同一極性に帯電されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の薬液噴霧投与装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2010−213939(P2010−213939A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65087(P2009−65087)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】