説明

薬液塗布具及び薬液塗布用キット

【課題】セルローススポンジに軸部を固着する場合に、接着破壊を生じさせず、且つ薬液抱液量を低下させることなく固着することができるようにする。
【解決手段】セルローススポンジからなる薬液塗布部2と、薬液塗布部に固着してなる樹脂製の軸部3とを備えた薬液塗布具1であって、当該軸部3を構成する樹脂の一部が、薬液塗布部2を構成するスポンジの内部に侵入し物理的に係合することにより、薬液塗布部2と軸部3を固着させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消毒薬などの薬液を患部に塗布するのに用いる薬液塗布具、及び薬液塗布用キット、すなわち開封すれば即座に薬液を患部に塗布することができるように薬液塗布具を容器内に収容してなる薬液塗布用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
患部に消毒薬などの薬液を塗布する場合、綿棒や綿球などに薬液を含浸させて塗布するのが一般的である。しかし、患部に薬液を塗布するたびに薬液を別途用意して含浸させることは面倒であるため、予め薬液を含浸させた綿球や綿棒などを容器に封入して薬液塗布用キットして提供することが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、薬液を含浸させた複数の綿球を、容器に複数形成された収容凹部にそれぞれ挿入し、各収容凹部の開口部をシール部材によって密封してなる構成の薬液塗布用キットが開示されている。
【0004】
特許文献2には、軸体の端部に塗布液含浸部を設けた塗布液含浸綿棒と、前記塗布液含浸部を収容する凹部、および、この凹部から連続し塗布液含浸部に隣接する軸体を収容する溝部が形成されたカップ部材と、このカップ部材の開口面上に配置して凹部内を密閉する被覆フィルムとを備えた薬液塗布用キットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−172449号公報の請求項1及び図1
【特許文献2】特開2007−319535号公報の請求項1及び図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来使用されていた薬液塗布具は、薬液を吸収した後薬液を放液する量(以下「放液量」ともいう)が十分でないため、含浸した薬液量に対して十分な薬液を塗布することが難しいという課題を抱えていた。この課題を解決するために、多くの薬液を塗布具と共に容器内に収容すると、塗布具の薬液を吸収し保持し得る量(以下「抱液可能量」ともいう)が十分ではないため、容器内で薬液がダブつき、綿棒を摘み上げた際に薬液が滴り落ちたり、多くの薬液が使用後に残って無駄を生じたり、薬液により軸が汚れてしまったり、蓋体をシールする時にシール部分に薬液が付着して密閉性を妨げたりするなどの問題を生じることになる。
【0007】
そこで本発明者は、厚さ方向にのみ圧縮成型してなるセルローススポンジから薬液塗布部を形成し、この薬液塗布部に樹脂製の軸部を固着させて薬液塗布具を提供することを発案した。厚さ方向にのみ圧縮成型してなるセルローススポンジから薬液塗布部を形成することによって、該薬液塗布部の薬液抱液量・放液量を高め、必要最低限の薬液を薬液塗布部に含浸させるようにして、患部に薬液を容易に塗布することができ、しかも、使用する際に、薬液が滴り落ちたり、使用後に余分な薬液が過剰に残ったり、薬液により軸が汚れてしまったり、製造時にシール部分に薬液が付着して密閉性を妨げることがない。
【0008】
ところが、セルローススポンジからなる薬液塗布部に樹脂製の軸部を、接着剤を用いて固着させると接着破壊が生じる一方、接着剤を用いず固着させると薬液抱液量が低下すると言った新たな課題が新たに判明した。
また、厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジは、それだけであれば復元力を発揮し、薬液を吸収しつつ厚さ方向に膨らんで十分な量の薬液を抱液する(すなわち、吸収して保持する)ことができるが、樹脂製の軸部を固着させると、樹脂がスポンジ内に入り込み復元力が低下して薬液抱液量が低下することが新たに判明した。
【0009】
そこで本発明は、セルローススポンジに軸部を固着する場合に、接着破壊を生じさせず、且つ薬液抱液量を低下させることなく固着することができ、さらに好ましくは厚さ方向のみに圧縮成形されたスポンジの復元力が低下する原因を究明し、十分な量の薬液を抱液する(すなわち、吸収して保持する)ことができ、効率よく薬液を放液することができる新たな薬液塗布具を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のため、本発明は、セルローススポンジからなる薬液塗布部と、薬液塗布部に固着してなる樹脂製の軸部とを備えた薬液塗布具であって、当該軸部を構成する樹脂の一部が、薬液塗布部を構成するスポンジの内部空隙に侵入して係合することにより、薬液塗布部と軸部は固着してなる構成を備えた薬液塗布具を提案する。
【0011】
軸部を構成する樹脂を溶融させるなどして、軸部を構成する樹脂の一部をスポンジの内部空隙、すなわちスポンジの空隙孔内に侵入させて冷却固化させて物理的に係合させることにより、接着破壊などを生じることなく、薬液塗布部と軸部を固着することができる。
【0012】
また、厚さ方向のみに圧縮成形されたスポンジの復元力が低下する原因を究明した結果、薬液塗布部の上面全体に固着させた場合に復元力が低下することが分かった。そこで、厚さ方向にのみ圧縮成形されたセルローススポンジから薬液塗布具を形成する場合には、軸部の基端部を、薬液塗布部の上面の2〜90%の面積部分に固着することにより、薬液塗布部の抱液力を保持しつつ、薬液塗布部に軸部をしっかりと固着することができるようになった。
【0013】
本発明はまた、上記の薬液塗布具と、
前記薬液塗布部を収容する薬液塗布部収容凹部、及びこの薬液塗布部収容凹部と連通した、軸部を収容する軸部収容凹部を有する収容容器と、
薬液塗布部収容凹部及び軸部収容凹部を被覆し得るシート蓋体と、を備えた薬液塗布用キットであって、
薬液塗布部収容凹部内に、薬液塗布部と共に当該薬液塗布部の抱液可能量の15〜95質量%量の薬液を収容し、軸部収容凹部内に軸部を収容し、前記薬液塗布部収容凹部及び軸部収容凹部をシート蓋体で密閉してなる構成を備えた薬液塗布用キットを提案する。
【0014】
このように、薬液塗布部に吸収保持させる薬液量を、抱液可能量の15〜95質量%量としても、患部に必要十分な量の薬液を塗布することができるばかりか、余分な薬液が薬液塗布部収容凹部内に存在しないから、患部に薬液を塗布する際に薬液が滴り落ちたり、使用後に余分な薬液が過剰に残ったり、薬液により軸が汚れてしまったり、製造時にシール部分に薬液が付着して密閉性を妨げることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の薬液塗布具及びその容器の一実施形態の一例を示した斜視図である。
【図2】本発明の薬液塗布具の使用状態の一例を示した斜視図である。
【図3】固着試験で使用した薬液塗布具の軸部を示した平面図である。
【図4】固着試験で使用した薬液塗布具の軸部と薬液塗布部を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。但し、本発明が下記に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の一実施形態に係る薬液塗布用キット(以下「本薬液塗布用キット」という)は、図1及び図2に示すように、スポンジからなる薬液塗布部2、及び軸部3を有する薬液塗布具1と、前記薬液塗布部2を収容する薬液塗布部収容凹部5、及び軸部3を収容する軸部収容凹部4aを有する収容容器4と、薬液塗布部収容凹部5内に収容する薬液と、薬液塗布部収容凹部5及び軸部収容凹部4aを被覆し得るシート蓋体(図示せず)と、を備えたものである。
【0018】
(薬液塗布部2)
薬液塗布部2の形状は任意であるが、製造工程の簡略化と、薬液を塗布し易いという観点とから、扁平な板状であるのが好ましい。上面視した際の形状は、円状、楕円状、四角状、多角形状などの任意である。
【0019】
薬液塗布部2は、OH基を有するセルロースを主成分とするスポンジから形成するのが好ましい。
親水基であるOH基を有するセルロースを主成分とするスポンジから薬液塗布部2を形成すれば、薬液、特に水溶液からなる薬液(例えばポビドンヨード液)となじみ易く、薬液を吸収し保持し得る量、すなわち抱液可能量を高めることができる。しかも、薬液を含んだウェット状態になると表面が柔らかくなり、柔らかい感触で塗布することができる。
【0020】
この際、前記スポンジは、例えば強度を高めるために、母材繊維であるセルロースに補強繊維を含んでいてもよい。補強繊維としては、綿(コットン)や亜麻、ラミー、パルプ等を単独またはそれらを組合せて使用することができる。
例えば、セルロース100重量部に対して補強繊維、例えば綿繊維を20〜50重量部含有するものが好ましく、特に20〜40重量部含有するものが好ましい。補強繊維を20〜50重量部含有させることによって、引張強度や保形性を高めることができ、多くの薬液を含んでいてもスポンジの形状を保つことができ、患部に薬液を塗布し易くなる。
【0021】
薬液塗布部2のスポンジの空隙率は95〜99%であるのが好ましい。スポンジの空隙率が95〜99%であれば、薬液を吸収し保持する量、すなわち抱液可能量を高めることができ、しかも、吸収保持した薬液を容易に放出するから、薬液を容易に塗布することができる。
空隙率は、下記式(1)で算出される値である。
(1)・・空隙率=(真密度−見掛密度)×100/真密度
なお、見掛密度とは、スポンジの見掛体積(空隙含)に対する重量の割合であり、真密度とは、スポンジの見掛体積から空隙の容積を差し引いたスポンジ構成材料の実質体積に対する重量の割合である。
【0022】
薬液塗布部2のスポンジの空隙は、外部に連通した空隙であるのが好ましい。後述するように、添加した芒硝結晶を溶出させる方法で空隙を形成する場合には、空隙は外部に連通した空隙となる。
【0023】
薬液塗布部2のスポンジの空隙の平均径は、0.1mm〜3.3mmであるのが好ましく、特に0.5mm〜2.0mm、中でも特に0.7mm〜0.9mmであるのが好ましい。
スポンジの空隙率の平均径が3.3mm以下、特に2.0mm以下であれば、薬液を吸収し保持する量、すなわち抱液可能量を高めることができる。
なお、空隙の平均径は、電子顕微鏡で観察して求めることもできるが、後述するように、添加した芒硝結晶を溶出させることにより空隙を形成する製造方法においては、芒硝結晶の粒径と空隙の平均径は略一致するから、芒硝結晶の平均径に読み替えることができる。
【0024】
薬液塗布部2を構成するスポンジの、単位体積当たりの薬液(例えば10w/v%ポビドンヨード液(比重約1.03))の抱液可能量は、該スポンジの体積と同量であるのが好ましい。具体的には、0.95〜1.10g/cm3、特に0.98〜1.10g/cm3であるのが好ましい。
単位体積当たりの抱液可能量が0.95〜1.10g/cm3であれば、患部に塗布するのに十分な量の薬液を比較的小さな体積のスポンジで吸収保持できるから、薬液塗布部2及び薬液塗布部収容凹部5を小さくすることができ、しかも薬液塗布部収容凹部5内に余分な薬液を収容する必要を無くすことができる。
【0025】
単位体積当たりの抱液可能量は、式(2)で算出される値である。
(2)・・単位体積当たりの抱液可能量=吸液時の単位体積重量−乾燥時の単位体積重量
この際、吸液時の単位体積重量は、検体(スポンジの直方体)全体を10w/v%ポビドンヨード液に浸し、5分間浸漬させた後、金属メッシュ上に置いて検体から液滴を取り除いた上で測定する単位体積重量である。
なお、抱液とは、スポンジが液を吸収保持することの意である。
【0026】
薬液塗布部2は、薬液、特に10w/v%ポビドンヨード液の吸液速度が0.03〜0.5s/g、特に0.04〜0.5s/gであるスポンジを使用するのが好ましい。
吸液速度が0.03〜0.5s/gであるスポンジであれば、収容容器4に薬液塗布具1を挿入した後、薬液塗布部収容凹部5内の薬液塗布部2に薬液を供給する場合に、薬液塗布部2が極めて短時間のうちに薬液を吸収するため、薬液塗布部2に薬液を供給してからシート蓋体をシールするまでの工程を一連の生産ライン上で実施することができ、本薬液塗布用キットの製造をオンラインで行うことができる。また、薬液塗布部2に薬液を注いだ際に瞬時に吸収できるから、薬液がシール部分に跳ねることがなく、シール性をより確実に確保することができる。
【0027】
薬液の吸液速度は、ステンレス製パッド内に10w/v%ポビドンヨード液を注ぎ、次いで検体(スポンジの直方体)をステンレス製パッド内に置いて下部をポビドンヨード液に浸し、検体(スポンジ)をステンレス製パッド内に置いてから検体の上面部まで吸液するまでの時間を測定し、次の式(4)より算出することができる。
(4)・・吸液速度=測定値(sec)/検体の吸液前の重量(g)
【0028】
薬液塗布部2は、圧縮前に比べて厚さが1/4〜1/10となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジ、言い換えれば、薬液を吸収すると圧縮された分だけ厚さ方向に膨張して復元するスポンジであるのが好ましい。
圧縮前に比べて厚さが1/4以下となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジを使用することにより、形態が安定するため、インサート成形時スポンジを金型に挿入しやすかったり、吸液速度を上記の如く高めることができると共に、薬液を吸収した際に厚さ方向に復元膨張し、しかも吸収後の形状が安定するから、薬液塗布部収容凹部5の平面視形状を、薬液塗布部2の平面視形状に沿って若干大きく形成すればよく、しかも安定した状態に薬液塗布部2を収容したりすることができる。なお、圧縮前に比べて厚さが1/10未満となるように厚さ方向にのみ圧縮することは、現在の成形技術上困難である。
かかる観点から、薬液塗布部2は、圧縮前に比べて厚さが1/4〜1/10、中でも1/5〜1/10となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジであるのがより一層好ましい。
【0029】
(スポンジの製造方法)
上記のようなスポンジの製造方法は特に限定するものではない。好ましい一例としては、木材等からのチップを溶解して繊維素とし、これを水酸化ナトリウム等のアルカリで処理してから二硫化炭素等を添加してビスコースをつくる。このビスコースに硫酸ナトリウム(芒硝)からなる微小芒硝結晶を混合し、シート状あるいはブロック状に成型し、煮沸及び酸凝固させて微小芒硝結晶を溶出させて多孔質化させ、水洗、乾燥、さらには厚み方向に加圧して圧縮させることによって得ることができる。
【0030】
より具体的な一例としては、木材パルプを水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、圧搾後に粉砕してアルカリセルロース(クラム)とし、その後17℃で10時間老成後、二硫化炭素を加えセルロースザンテートを得、このセルロースザンテートに繊維長0.1〜5mmの未老成のクラムと水酸化ナトリウム、水を加えて溶解し、ビスコースを得る。
得られたビスコースと平均粒径0.1mm〜3.3mmの微小芒硝結晶とを混合機の中で16〜20℃に保ちながら混合する。この混合物を金型に押出機を介して加圧充填する。その際、押出機周辺の温度も16〜20℃になるように温度調節する。混合物が充填された金型を約90℃の芒硝浴の中で約8時間煮沸し、凝固させて前記微小芒硝結晶を溶出させて多孔質化させ、そして得られた成形体を水洗、乾燥、さらには厚み方向に加圧して圧縮させることによって得ることができる。
但し、かかる方法において、各温度や時間等は調整可能である。
【0031】
なお、スポンジを厚さ方向にのみ圧縮成形する方法としては、例えばスポンジをインサート成形して軸部を固着する場合に、インサートした際にスポンジを圧縮して成形することもできる。
【0032】
この際、芒硝結晶の平均粒径を変化させることにより、スポンジ内の空隙の大きさを調整することができ、平均粒径の小さな芒硝結晶を使用することによってスポンジの空隙を小さくすることができる。よって、芒硝結晶の平均粒径は0.5mm〜2.0mmであるのが特に好ましく、中でも特に0.7mm〜0.9mmであるのがさらに好ましい。
【0033】
厚み方向に圧縮成型して製造されたスポンジは、薬液を保持し得る量(抱液可能量)が多いばかりか、吸液速度が速く、しかも薬液を吸収すると所定の厚み(例えば9割前後)に正確に回復するため、薬液の供給量とスポンジの体積に応じて薬液塗布部収容凹部5の大きさを正確に設計することができる。
【0034】
薬液塗布部2の形状は特に限定するものではないが、できるだけ少ない量の薬液を効率良く広範囲に塗布できるように、図1に示すように、扁平な板状体とするのが好ましい。
【0035】
(軸部3)
薬液塗布具1の軸部3は、樹脂製であれば、その材質は特に限定するものではないが、成形性及び価格を考慮すると、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどが好ましい。
【0036】
軸部3は、棒状の掴み部3aの基端部に薄板状の固着片部3bを備えていればよい。
固着片部3bの形状は、特に限定するものではないが、平面視した際に円状、半円状、楕円状であるのが好ましい。中でも、半円状であるのが好ましい。
【0037】
固着片部3bの大きさ、すなわち上面視した際の面積、言い換えれば軸部3の基端部を薬液塗布部2の上面に固着する際の固着面積は、薬液塗布部2の上面、すなわちスポンジ上面の面積の2〜90%を占めるように設計することが好ましい。
薬液塗布部2の上面全面に固着させると、溶融した樹脂がスポンジの内部空隙に入り込んでしまい、抱液可能量を低下させてしまう。他方、固着面積が小さい場合でも薬液塗布部2に軸部3を固定することは可能であるが、スポンジを薬液に含浸した際自重に耐え切れず、スポンジが垂れてしまう。
かかる観点から、薬液塗布部2の上面に軸部3を固着する面積は、薬液塗布部2の上面の面積の2〜90%とするのが好ましく、特に30〜85%、その中でも特に60〜75%とするのが好ましい。
【0038】
薬液塗布部2に軸部3を固定する手段は、接着剤によって固着するのではなく、軸部を構成する樹脂を溶融させるなどして、軸部を構成する樹脂の一部をスポンジの内部空隙、すなわちスポンジの空隙孔内に侵入させて冷却固化させて物理的に係合させることにより固着することが重要である。
具体的には、例えばインサート成形(アウトサート成形を含む)や熱融着のように固着するのが好ましい。
接着剤によって薬液塗布部2に軸部3を固着すると、長期保存しているうちに接着剤が薬液に溶解して汚染する可能性があるばかりか、経時的に接着力が低下するため長期保存していると剥がれてしまうおそれがある。これに対して、インサート成形(アウトサート成形を含む)や熱融着の場合には、軸部3を形成する樹脂が薬液塗布部2のスポンジの空隙孔内に侵入して物理的に係合するため、接着破壊を生じることもないし、固着力が経時的に低下することもなく、しかも薬液を汚染する心配もない。
より具体的には、インサート品としての薬液塗布部2を金型内に装填し固定し、軸部3を形成する溶融樹脂を、該薬液塗布部2の上面に射出するようにして軸部3を成形すると共に薬液塗布部2と固着するようにすればよい。
なお、インサート成形する場合には、固着片部3bの外周縁部を、薬液塗布部2の上面の外周縁部より内側に配置する。言い換えれば、固着片部3bの外周縁部と薬液塗布部2の上面の外周縁部との間に距離を置くように配置するのが好ましい。インサート成形する場合、固着片部3bの外周縁部と薬液塗布部2の上面の外周縁部と重ねて面一に配置すると、軸部3を構成する樹脂が薬液塗布部2の側面にまで回り込むことが判明した。
【0039】
(収容容器4)
収容容器4は、例えば薬液塗布部2を収容する薬液塗布部収容凹部5と、軸部3を収容する軸部収容凹部4aとを有し、これら薬液塗布部収容凹部5及び軸部3をとり囲むようにシール鍔部4eを備える構成に形成することができる。
【0040】
収容容器4の材質は、特に限定するものではないが、保形性、耐薬品性、薬液の浸透及び揮発を抑えるバリア性などを備えた樹脂からなるシート乃至フィルムから形成されているものが好ましい。例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどを好ましく用いることができる。
【0041】
薬液塗布部収容凹部5は、薬液塗布部2を隙間なくすっぽりと収容することができるように、その平面視形状を、薬液塗布部2の平面視形状に沿って一回り大きく形成するのが好ましい。図1の例では、扁平板状の薬液塗布部2に沿って浅底の凹部として形成してある。
この際、一回り大きくとは、薬液塗布部2は薬液を吸収すると横方向に若干、すなわち全体の15〜25%程度横方向に膨張するため、薬液を供給する前の乾燥状態の平面視幅の15〜25%に加えて若干の余裕(0.5mm〜5mm)を加えて大きい平面視幅に形成するのが好ましい。
他方、薬液塗布部収容凹部5の深さは、薬液塗布部2が薬液を吸収して厚さ方向に復元膨張した際の厚さに若干の余裕(0.5mm〜5mm)を加えた長さの深さに形成するのが好ましい。
【0042】
軸部収容凹部4aは、薬液塗布部収容凹部5と連通し、且つ軸部3を完全に収容できるように形成すればよい。例えば軸部3の平面視形状に沿って細長い溝状の平面視形状に形成してもよいし、また、薬液塗布部収容凹部5とは反対側寄り部位に幅広部を設けておき、軸部3を指で掴み易くするようにしてもよい。
【0043】
シール鍔部4eは、シート蓋体を重ねてシールするための部分であり、適宜幅をもって形成するのが好ましい。
【0044】
(薬液)
収容する薬液の種類は特に制限するものではない。例えばポビドンヨード液、アルコール、過酸化水素などの消毒用薬液、ローション、ベビーオイルなどの化粧液、その他液状の薬液、蒸留水などを挙げることができる。中でも、OH基を有するセルロースを主成分とするスポンジとのなじみ易さの観点から、水溶液からなる薬液(例えばポビドンヨード液)が特に好ましい。
【0045】
薬液は、薬液塗布部2と共に薬液塗布部収容凹部5内に収容するものであるが、本発明においては、薬液塗布部収容凹部5内に収容する量が重要である。すなわち、薬液塗布部収容凹部5内に、薬液塗布部2と共に薬液塗布部2の抱液可能量と同量、具体的な数値で言えば、抱液可能量の15〜95質量%量の薬液を収容することが重要である。
薬液塗布部2の抱液可能量と同量、すなわち抱液可能量の15〜95質量%量の薬液を収容することで、患部に必要十分な量の薬液を塗布することができるばかりか、余分な薬液が薬液塗布部収容凹部内に存在しないから、薬液が滴り落ちたり、使用後に余分な薬液が過剰に残ったり、製造時にシール部分に薬液が付着して密閉性を妨げるようなことを無くすことができる。
かかる観点から、薬液塗布部収容凹部5内に収容する薬液の量は、薬液塗布部2の抱液可能量の15〜95質量%量が好ましく、特に20〜90質量%量、中でも特に50〜70質量%量であるのがさらに好ましい。
【0046】
薬液塗布部収容凹部5内に収容する薬液の量は、患部の種類や大きさ、或いは薬液塗布部収容凹部5の大きさなどにより適宜変更するのが好ましいから、それに合わせて薬液塗布部2の大きさ・収容する薬液の量を調整するのが好ましい。
【0047】
(シート蓋体)
シート蓋体は、その材質を特に限定するものではないが、防水性、耐薬品性を備えている必要がある。例えば、樹脂基材シートのシート面に金属薄膜層を積層してなる複合シートを好ましい一例として挙げることができ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂基材シートに、アルミ等の金属を蒸着乃至ラミネートして金属薄膜層を積層してなる複合シートなどを好ましく用いることができる。
【0048】
(製造方法)
本薬液塗布用キットの製造方法については、特に制限するものではない。例えば、薬液塗布部収容凹部5内に薬液塗布部2を挿入すると共に、軸部収容凹部4a内に軸部3を挿入するようにして収容容器4内に薬液塗布具1を挿入した後、薬液を薬液塗布部2に注いで供給し、次いで薬液塗布部収容凹部5及び軸部収容凹部4aを被覆するようにシート蓋体を被覆シールするようにして薬液塗布用キットを製造するのが好ましい。
【0049】
薬液よりも先に薬液塗布具1を収容容器4内に収容し、その後、薬液塗布部収容凹部5内の薬液塗布部2に薬液を供給することにより、薬液を薬液塗布部2が吸収するから薬液を零すことなく供給することができる。
この際、薬液塗布部2に対して、当該薬液塗布部2の抱液可能量と同量の薬液、すなわち抱液可能量の15〜95質量%量の薬液を、薬液塗布部収容凹部5内の薬液塗布部2に供給することにより、シール鍔部4e等に薬液が飛び散るのを防ぐことができ、シート蓋体を密閉状態に被覆シールすることができる。
【0050】
かかる製造方法においては、前述したように、圧縮前に比べて厚さが1/4〜1/10となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジ、言い換えれば、薬液を吸収すると圧縮された分だけ厚さ方向に膨張して復元するスポンジから薬液塗布部2を形成するのが好ましい。
圧縮前に比べて厚さが1/4〜1/10となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジを使用することにより、吸液速度を高めることができると共に、薬液を吸収した際に厚さ方向に復元膨張し、しかも吸収後の形状が安定しているから、薬液塗布部収容凹部5の平面視形状を、薬液塗布部2の平面視形状に沿って若干大きく形成すればよく、しかも安定した状態に薬液塗布部2を収容することができる。
かかる観点から、薬液塗布部2は、圧縮前に比べて厚さが1/4〜1/10、中でも特に1/5〜1/10となるように厚さ方向にのみ圧縮成形されたスポンジであるのがより一層好ましい。
【0051】
また、同じく前述したように、薬液、特に10w/v%ポビドンヨード液の吸液速度が0.03〜0.5s/g、特に0.04〜0.5s/gであるスポンジからなる薬液塗布部2を使用するのが好ましい。
吸液速度が0.03〜0.5s/gであるスポンジであれば、薬液塗布部収容凹部5内の薬液塗布部2に薬液を注ぐと、薬液塗布部2が瞬時のうちに全体が濡れて薬液を吸収するため、薬液を薬液塗布部2に注いだ際に薬液が飛散することがないばかりか、薬液の供給からシート蓋体をシールするまでの時間が短くて済み、一連の工程を一つの生産ラインで実施することができ、本薬液塗布用キットの生産をオンラインで行うことができる。
【0052】
(使用方法)
本薬液塗布用キットは、シート蓋体を収容容器4から剥がした後、図2に示すように、収容容器4から薬液塗布具1を取り出して薬液塗布具1の薬液塗布部2を患部に当てて移動させれば、薬液塗布部2に含浸した薬液を患部に塗布することができ、過剰な薬液が薬液塗布部収容凹部5内に収容されていないため、薬液が滴り落ちたり、使用後に余分な薬液が過剰に残ったり、薬液による軸汚れによって手が汚れたりすることがない。
その際、上記のようなスポンジからなる薬液塗布部2であれば、薬液を含浸させた状態で柔軟性があるので、患部にソフトな塗り心地で薬液を塗布することができる。さらに、セルローススポンジ2を患部に乗せただけで、押圧しなくても薬液が浸み出すから、薬液を患部に均一かつ十分に塗布することができる。
【0053】
(他の実施形態)
薬液塗布部収容凹部5及び軸部3を収容する軸部収容凹部4aのほかに、仕切りを設けると共に、ピンセット、ガーゼ、包帯、止血テープなどの医療器具を収容する医療器具収容凹部を設け、医療器具収容凹部内に医療器具を収容して、医療用キットとして形成することもできる。
【0054】
(用語の説明)
本発明において「セルローススポンジ」とは、セルロースを主成分とするスポンジの意味である。
本発明において「主成分」とは、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)が組成物中の50質量%以上、特に70質量%以上、中でも特に90質量%以上(100%含む)を占めるのが好ましい。
【0055】
本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0056】
以下、各種試験及び実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
<薬液塗布部の材料選択試験>
薬液塗布部の材料を選択するために、異なる材料からなる下記検体について下記試験を行い、各検体の物性を比較し、薬液塗布部の材料について検討した。
た。
【0058】
(検体)
検体A:OH基を有するセルロースを主成分とし、セルロース100重量部に対して補強繊維としての綿繊維を30重量部含有する圧縮スポンジ(圧縮率1/5、空隙率98%、空隙の平均径0.8mm、タテ50.1mm×ヨコ50.6mm×高さ0.8mm、体積2,114mm3
検体B:市販の綿球(20番、タテ24.0mm×ヨコ21.7mm×高さ19.7mm)
検体C:市販の綿棒(5インチ綿棒 小)
【0059】
スポンジAは、木材パルプを水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、圧搾後に粉砕してアルカリセルロース(クラム)とし、その後17℃で10時間老成後、二硫化炭素を加えセルロースザンテートを得、このセルロースザンテートに繊維長0.1〜5mmの未老成のクラムと水酸化ナトリウム、水を加えて溶解し、ビスコースを得、得られたビスコースと平均粒径0.8mmの芒硝結晶を混合機の中で16〜20℃に保ちながら混合し、途中で水を添加し混合物を馴染ませた。この混合物を金型に押出機を介して加圧充填した。その際、押出機周辺の温度も16〜20℃になるように温度調節した。混合物が充填された金型を約90℃の芒硝浴の中で約8時間煮沸し凝固させ、そして得られた成形体を水洗、乾燥、さらには厚み方向に、厚さが1/5となるように加圧して圧縮成型することによって得た圧縮スポンジを所定の大きさにカットしたものを用いた。
【0060】
(抱液可能量の測定)
ステンレス製パッド内に検体全体が十分に浸かる量の10w/v%ポビドンヨード液を注ぎ、検体全体をポビドンヨード液内に浸して5分間浸漬させた後、金属メッシュ上に置いて検体から液滴を取り除いた上で、吸液時の単位体積重量を測定した。
予め、乾燥状態の検体の重量を測定しておき、下記式(2)より、単位体積当たりの抱液可能量を算出した。
(2)・・単位体積当たりの抱液可能量=吸液時の単位体積重量−乾燥時の単位体積重量
【0061】
(放液率の測定)
上記の如く、吸液時の単位体積重量を測定し後、検体に200gの加重を掛けて30秒放置した後に検体の重量(:放液後の単位体積重量)を測定し、式(3)より放液率を算出した。
(3)・・放液率=(吸液時の単位体積重量−放液後の単位体積重量)×100/(吸液時の単位体積重量−乾燥時の単位体積重量)
なお、消毒作業を実施する場合、200g以下の荷重で消毒箇所に薬液塗布具を押し当てられていると考えられるため、200gの荷重で放液率を測定した。
【0062】
(吸液速度)
ステンレス製パッド内に10w/v%ポビドンヨード液を注ぎ、次いで検体(スポンジの直方体)をステンレス製パッド内に置いて下部をポビドンヨード液に浸し、検体(スポンジ)をステンレス製パッド内に置いてから検体の上面部まで吸液するまでの時間を測定し、次の式(4)より算出した。
(4)・・吸液速度=測定値(sec)/検体の吸液前の重量(g)
【0063】
(圧縮率)
検体を含水後、液垂れしない程度に軽く水を絞った状態として、圧縮率を測定した。
圧縮率の測定は、圧縮弾性試験機を用いて測定サンプルに50g/cm2の荷重をかけた時の厚み(T0:初期荷重厚み、mm)を測定した後、200g/cm2の荷重をかけた時の厚み(T1:初期荷重厚み、mm)を測定し、次の式(5)から圧縮率(%)を算出した。
(5)・・圧縮率=(T0−T1)×100/T0
表1には、n=3の平均値を示した。
【0064】
【表1】

【0065】
検体Aの抱液可能量及び吸液速度は検体Bに比べて極めて大きく、検体Aは多量の薬液を吸収し保持できることが分かった。
また、検体Aの放液率及び圧縮率は検体Cに比べて極めて大きく、検体Aは吸収保持した薬液の多くを放出させることができ、しかも圧縮率が検体C(綿棒)に比べて高いことから、柔らかくて肌に優しいことが分かった。
【0066】
(薬液塗布試験)
ステンレス製パッド内に各検体を置き、10w/v%ポビドンヨード液2000mLを、に注いで薬液を吸収させた後、すぐに肌の上に載せて移動させて、塗布状態を比較検討した。その結果、検体Aは、薬液を瞬時に吸収し、注いだ薬液を全て吸収したが、検体Bは、薬液を全ては吸収できなかった。
また、検体Aは、薬液を吸収した状態で肌の上に載せて移動させただけで薬液を均等に塗布することができ、薬液が垂れるようなことがなかったが、他の検体は、最初に多くの薬液が浸み出して薬液が垂れてしまい、均等に塗布することはできなかった。
【0067】
<固着試験>
薬液塗布部に対する軸部の固着手段並びに固着面積を種種変更して、好ましい固着手段を検討した。
【0068】
(各種接着剤による固着)
検体Aのスポンジを使用し、厚さ5mm、半径30mmのスポンジ2枚を貼り合わせ、扁平な円板状(上面の面積706.5mm2)の薬液塗布部2を形成した。
他方、図3に示すように、ポリプロピレンからなり、その軸端部に、楕円薄板状(面積100.48mm2)の固着片部3bを形成するようにして軸部3を形成した。
そして、軸部3の固着片部3bの裏面に、ポリビニルアルコール系接着剤、エチレンビニルアルコール系接着剤、アクリル系接着剤、オレフィン系ホットメルト接着剤、合成ゴム系ホットメルト接着剤の何れかを塗布して、図4に示すように、軸部3の固着片部3bを薬液塗布部2の上面に固着した。
その後、10w/v%ポビドンヨード液に含浸し、アルミニウムを含む多層フィルムで密閉し、40℃、湿度75%環境下で2週間・1か月保存した後、島津社製引張試験機によって引張強度を測定した。
【0069】
ポリビニルアルコール系接着剤及びアクリル系接着剤は、2週間後の引張強度が極めて低いという結果を得た。
エチレンビニルアルコール系接着剤は、2週間後の引張強度は良好であったが、液状であるため、薬液塗布部2のスポンジ内に浸透してしまい、厚さ方向に復元しながら薬液を吸収する能力(復元力)が低下して薬液の抱液量が低下するという問題があることが分かった。
オレフィン系ホットメルト接着剤及び合成ゴム系ホットメルト接着剤は、1か月保存すると、接着力が低下して引張強度が低下することが判明した。
ただし、全ての接着剤において、軸部と検体Aのスポンジを直接接着させた場合、凝集破壊若しくは接着破壊が起こっており、接着剤による接着には問題があると考えられた。
【0070】
(インサート成形による固着)
検体Aのスポンジ、すなわちセルローススポンジを使用し、圧縮後の厚さ1mm(圧縮前の厚さ5、7、10mm)、半径20mmの扁平な円板状(上面の面積314mm2)の薬液塗布部2を形成した。
この薬液塗布部2を金型内にセットし、薬液塗布部2の上面にポリプロピレンの溶融樹脂を射出させるようにして軸部3を形成すると共に薬液塗布部2の上面に固着した。この際、軸部3は、図4に示すように、その軸端部に楕円薄板状の固着片部3bを形成するようにしたが、この固着片部3bの面積を0〜100%の範囲で変更した。
上記試験同様に、10w/v%ポビドンヨード液に含浸し、アルミニウムを含む多層フィルムで密閉し、40℃、湿度75%環境下で2週間・1か月保存した後、島津社製引張試験機によって引張強度を測定した。また、上記同様に抱液可能量を測定し、その際、スポンジの様子を観察した。
【0071】
なお、スポンジの垂れの様子を次の基準で評価し、表2に示した。
○:問題なし。
△:少し垂れている。
×:激しく垂れている
−:接着していない。
【0072】
【表2】

【0073】
このようにインサート成形すると、接着剤のように経時的に固着力が低下することがなく、長期保存しても薬液塗布部2に軸部3をしっかりと固着できることが判明した。この場合、検体Aのスポンジが破壊される基材破壊が起こっており、接着力は十分であることが考えることができた。
また、薬液塗布部2を剥がし、軸部3の接着面表面を観察したところ、凹凸ができていることが確認された。この凹凸は溶融樹脂がスポンジ内の空隙(孔)に入り込んで物理的に係合して固着しているものと考えることができる。
【0074】
このことより固着力の問題は解決したが、薬液塗布部2が薬液を吸収して厚さ方向に復元する際の復元力(言い換えれば抱液力)が低下する場合があることが判明した。
これについては、着片部3bの大きさ、すなわち固着面積を小さくすることによって解決できることが分かった。よって、抱液力を維持するためには、薬液塗布部2の上面の固着面積を90%以下にするのが好ましく、特に85%以下、中でも特に75%以下にするのが好ましいことが分かった。
他方、薬液塗布部2の上面の固着面積を2%以上(幅1mm以上)にすると、固着力を維持することができ、30%以上(幅4mm以上)にすると、薬液塗布部2が薬液を吸収した際の自重によって薬液塗布部2が激しく垂れないようにすることができ、60%以下(幅12mm以下)にすると少しも垂れてないようにすることができることも判明した。
よって、固着片部3bの大きさ、すなわち薬液塗布部2に対する軸部3の固着面積は、薬液塗布部2の上面の2〜90%であるのが好ましく、特に30〜85%、中でも特に60〜75%であるのが好ましいことが分かった。
【0075】
(実施例)
上記のようにインサート成形によって軸部3を形成し、固着片部3bの面積を50%として、上記検体Aのスポンジからなる薬液塗布部2と軸部3とを一体化させて薬液塗布具1を形成した。このときの抱液可能量は平均で約1.8g(最大約2.1g〜最小約1.6g)、回収可能量は約80%となる。
そして、薬液塗布部収容凹部5に薬液塗布部2を挿入すると共に軸部収容凹部4aに軸部3を挿入するようにして収容容器4内に薬液塗布具1を収容した後、前記薬液塗布部2内の薬液塗布部2に対して上方から、薬液塗布部2に0.103〜2.06(0.103、0.206、0.309、0.412、0.515、1.03、1.133、1.236、1.339、1.442、1.545、1.648、1.751、1.854、1.957、2.06)gの薬液を注ぎ、次いで薬液塗布部収容凹部5及び軸部収容凹部4aを被覆するようにシート蓋体を被覆シールして薬液塗布用キットを製造した。
【0076】
【表3】

【0077】
この結果、薬液塗布部収容凹部5内に収納する薬液の量、すなわち薬液塗布部2に注ぐ薬液の量は、患部に必要十分な量の薬液を塗布することができる点、薬液塗布部収容凹部5から薬液塗布部2を取り出した際に薬液が滴り落ちる点、使用後に余分な薬液が残る点、製造時にシール部分に薬液が付着する点などから、薬液塗布部2の抱液可能量の15〜95質量%量とするのが好ましく、特に20〜90質量%量、中でも特に50〜70質量%量であるのが好ましいことが分かった。
【符号の説明】
【0078】
1 薬液塗布具
2 薬液塗布部
3 軸部
3a 掴み部
3b 固着片部
4 収容容器
4a 軸部収容凹部
4e シール鍔部
5 薬液塗布部収容凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルローススポンジからなる薬液塗布部と、薬液塗布部に固着してなる樹脂製の軸部とを備えた薬液塗布具であって、当該軸部を構成する樹脂の一部が、薬液塗布部を構成するスポンジの内部空隙に侵入して係合することにより、薬液塗布部と軸部は固着してなる構成を備えた薬液塗布具。
【請求項2】
厚さ方向にのみ圧縮成形されたセルローススポンジからなる薬液塗布具の軸部の基端部が、薬液塗布部の上面の2〜90%の面積部分に固着してなる構成を備えた請求項1記載の薬液塗布具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の薬液塗布具と、
前記薬液塗布部を収容する薬液塗布部収容凹部、及びこの薬液塗布部収容凹部と連通した、軸部を収容する軸部収容凹部を有する収容容器と、
薬液塗布部収容凹部及び軸部収容凹部を被覆し得るシート蓋体と、を備えた薬液塗布用キットであって、
薬液塗布部収容凹部内に、薬液塗布部と共に当該薬液塗布部の抱液可能量の15〜95質量%量の薬液を収容し、軸部収容凹部内に軸部を収容し、前記薬液塗布部収容凹部及び軸部収容凹部をシート蓋体で密閉してなる構成を備えた薬液塗布用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−156024(P2011−156024A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18074(P2010−18074)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(391057889)株式会社アグリス (7)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】