説明

薬液注入用ポート

【課題】
化学療法には、留置用のカテーテルに薬液注入用の隔膜を有するポートを接続して行う持続的な療法の他に、留置カテーテルの内腔にマイクロカテーテルを導入し、抹消に薬剤を投入する方法がある。両者の方法は各々有用であるが、留置カテーテルを一旦ポートと接続すると、ポートの入り口である隔膜と出口であるチューブとの接続部の角度が90°であることから、マイクロカテーテルを折り曲げることなく内腔に導入することが困難となり、両手技を同時には行えないという課題があった。
【解決手段】
本発明では、薬液注入用隔膜およびチューブとの接続部を有する薬液注入用ポートであって、前記隔膜の平面方向と、前記チューブとの接続部の軸方向とが為す角度(傾斜角)が0°より大きく、90°より小さいことを特徴とする薬液注入用ポートを提供する。隔膜が傾斜角を有することで、マイクロカテーテルを折り曲げることなく導入することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者体内に薬液を送達するための薬液注入用ポートに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルを用いた治療は、外科手術と比較して患者への負担が軽く、治療費も安価に抑えられることから、盛んに行われている。
【0003】
例えば癌治療の一領域においては、留置用のカテーテルの先端を目的病変部近傍の血管まで挿入・留置し、少量且つ高濃度の抗癌剤を癌細胞部へ直接投与する動脈注入化学療法(以下、動注化学療法)という手法が行なわれることがある。
【0004】
図1は動注化学療法、特に肝臓に対する動注化学療法におけるカテーテルの留置方法を示す一例である。1は血管であり、2はカテーテルである。カテーテル2は単独でも用いられるが、薬液注入用ポート(以下ポート)と呼ばれる繰返し穿刺可能な隔膜を有するタンクと接続されて使用されるケースが多い(例えば、特許文献1に記載のポート)。
【0005】
カテーテル先端部分は、患者の体動による位置移動を防ぐために、肝臓への栄養の供給に与える影響の少ない胃十二指腸動脈(GDA)などの動脈に配置され、次いで金属製の塞栓コイル3で塞栓することにより血管壁に固定される。このとき、カテーテル先端部分も塞栓コイル3で封止するため、抗癌剤の導出口を別途予め設けておく必要があり、先端部近傍に側孔4が付与される。
【0006】
図2は上記したポートの一例である。6は隔膜であり、7はポートノズルである。ポート5は皮下に埋設されたあと、皮膚越しに隔膜6を注射針で穿刺し、抗癌剤などの薬剤を注入することで、繰返し任意のタイミングでの化学療法が可能となっている。ポートノズル7はカテーテル2の内径より大きな外径を有する部分8を備えており、カテーテル2をポートノズル7の大きな外径を有する部分8を乗り越えて外装させることで、固定力を付与している。また固定力をより強固にするために固定用部材9を備えている。
【0007】
ポートノズル7の外径はカテーテルの内径より大きな外径を有する部分8を備えているが、その他の部分の外径はカテーテルと接続させ易くするために、カテーテル内径以下の寸法となっているのが通常である。即ち、ポートノズル7の内腔は必然的にカテーテルの内腔より更に小さくなることから、抗癌剤などの薬剤の流量を制限するほか、カテーテルの手元部分に備えられているコネクターなどの操作用部材を接続する前に切り落とす必要があり、手技を煩雑にさせる要因となっている。図3にカテーテル2と接続したポートの一例を示す。
【0008】
また、癌治療の別領域においては、留置されたカテーテルより更に細径のカテーテル、通常マイクロカテーテル10と呼称される細径のカテーテルを留置カテーテルの内腔を通して抹消血管領域まで進めて、抗癌剤を投与する超選択的化学療法、或いは塞栓コイルや油性造影剤等を用いた塞栓術が行われることがある。図4に超選択的化学療法において、留置されたカテーテル2の側孔からマイクロカテーテル10を導出させている状態を示す。超選択的化学療法や塞栓術は、抹消血管領域且つ特定の肝癌細胞にターゲットを絞って治療できるため治療効果が高く、副作用も通常の動注化学療法より低減できる上で有用である。
【0009】
しかしながら、従来、留置目的のカテーテルを一旦ポートと接続した後はポートの入り口である隔膜の平面方向と出口であるポートノズルの軸方向とが90°となるよう配置されているため、ポートの隔膜に穿刺針を刺し、穿刺針の内腔にマイクロカテーテルを導入するといった手技を行うと、マイクロカテーテルが折れ曲がってしまう問題が発生し、使用不可能となる。そのため、あらためてマイクロカテーテルを使用した手技を行う際は、ポートを埋設した箇所とは別の血管部分を穿刺針により穿刺し、通路を確保した上で導入する必要があり、患者に更なる負担を強いることになっている。
【0010】
従って、皮下に埋設されたポートを介してマイクロカテーテルを導入することができれば、患者の負担も軽減され、且つ治療していないときにポートは皮下に埋設されているため、感染症の危険性も低く、患者QOLも高く維持できることが期待されるが、ポートとカテーテルを使用した化学療法と、マイクロカテーテルを使用した超選択的化学療法、塞栓術を併用できるような装置や、治療システムは充分に確立されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2007−236836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上述した問題の解決のため、ポート留置後もマイクロカテーテルの挿入可能な手段を備えた薬液注入用ポートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、薬液注入用の隔膜とカテーテルチューブとの接続部を有する薬液注入用ポートにおいて、その平面方向がチューブとの接続部の軸方向に対して為す角度(以下、単に「傾斜角」ということがある)が0°より大きく、90°より小さい角度にて配置されている隔膜を有することを特徴とする薬液注入用ポートに関する。隔膜が傾斜角を有して配置されていることで、マイクロカテーテル外径よりも大きな内径を有する穿刺針で隔膜を穿刺し、穿刺針の内腔にマイクロカテーテルを通す手技ができるようになっており、マイクロカテーテルが折れ曲がる危険性を防止できる。
【0013】
更に本発明の薬液注入用ポートは、チューブとの接続部の軸方向に対して傾斜角を有して配置されている隔膜に加えて、傾斜角を有しない隔膜を、少なくとも1つ以上備えていることが好ましい。傾斜角を有しない隔膜は、ポートノズル部と傾斜角を有する隔膜の間に隣接して配置されることがポートを小型化する上で好ましい。また、傾斜角を有しない隔膜は複数個であることが好ましく、水平に配置された各々の隔膜はそれぞれ化学療法の一定の投薬期間ごとに使い分けることで、同じ隔膜を繰返し穿刺し、隔膜を劣化させ、劣化箇所から薬液の漏出を来たすといった合併症発生の危険性を低下させることが可能である。
【0014】
更に本発明の薬液注入用ポートは、チューブとの接続部に嵌合部材を備えていることが好ましい。嵌合部材を備えることで、留置用のカテーテルに取り付けられているコネクターを切り落とすことなく、ポートにそのまま取り付けることができる。嵌合部材はポートノズルの雄ルアー形状の外側に回転可能に取り付けられており、内腔にネジ溝を有することから、カテーテルコネクターのフランジ、或いは二条ネジ部とネジ止めすることが可能である。回転可能に取り付けられている利点として、ポートを回転してネジ止めするのではなく、嵌合部材を回転させてネジ止めできるため、皮下組織部に対してポート底部を水平に保つことができ、嵌合固定を完了したところ、ポートが裏返って固定されてしまった、といった問題を回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポートを用いれば、留置用カテーテルにポートを接続して体内に埋設した後も、マイクロカテーテルによる超選択的化学療法、塞栓術がポートの隔膜を介して可能であり、より幅広い治療を効果的に患者に提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施態様の一例について図を用いて以下に説明する。尚、表面から見えない内部の構造については破線で示す。
【0017】
本発明におけるポートの一例について、側面図及び上面図をそれぞれ図5及び図6として示す。図5及び図6において、薬液注入用ポートはポート11及び固定用部材12で構成されており、ポート11は「傾斜角を有して」配置されている隔膜13に加えて従来の、傾斜角が0°である隔膜14を3つ含んでいる。隔膜13の傾斜角については特に限定はされないが、ポート11の底面に対して0°より大きく、90°より小さい範囲内で任意に選択すればよい。穿刺針の穿刺、及びマイクロカテーテルの導入を円滑に行う上では、好ましくは15°より大きく、45°より小さい範囲、さらに好ましくは20°より大きく、30°より小さい範囲内であることである。固定用部材12の材料としては特に限定はされないが、ABS樹脂、ポリスルフォンなどの樹脂製であることが好ましい。ポート11の底面に対して傾斜角を有して配置されている隔膜13、及び傾斜角が0°である通常の隔膜14の材質としては特に限定されないが、シリコーンまたは天然ゴムなどが挙げられる。ポート11は、エポキシ、ポリスルフォン、またはシリコーンなどが挙げられるが、耐薬品性が高いエポキシ製であることが好ましい。図7にタンク部の構造の側面図を示す。ポートノズル15とタンク16の材料としては、X線造影下で視認できるよう、チタンまたはステンレス等の金属製であることが好ましく、軽量化できる点からチタンが特に好ましい。ポートノズル15とタンク16とは超音波溶着等の方法で一体化されており、それぞれの上部には円柱状の隔膜13及び14が配置されている。また、ポートノズル15及びタンク16の更に上部には隔膜13及び14を配置した後に蓋をするためのシール部材17及び18がそれぞれ存在する。シール部材17及び18を用いたシール方法としては特に限定されないが、器械的に嵌め込む方法や、超音波溶着を行う方法が挙げられる。
【0018】
本発明における薬液注入用ポートの別の実施態様として、側面図及び上面図をそれぞれ図8及び図9に示す。図8及び図9において、ポート19には、嵌合部材20がポートノズル部21に対して回転可能にとりつけられている。嵌合部材20には内側にネジ溝22が入っている。このような嵌合部材20は通常ロック機能付きの二方活栓や、三方活栓として公知の機構である。嵌合部材20の材料としては特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリアミドエラストマー等の樹脂が挙げられる。図10に嵌合部材20及びポートノズル部21を介してカテーテル2のコネクター23と固定した状態の側面図を示す。コネクター23はメスルアー部24を有しており、手元端部は二条ネジ部25が備えられている構造となっており、メスルアー部24でポートノズル部21と接続し、二条ネジ部25で嵌合部材20とネジ止めすることが可能である。このように、嵌合部材20を備えた構造とすることで、コネクター23を切断する作業を省略することができ、ポートとカテーテルを接続する手技を簡略化できる。コネクター23の材料としては、通常使用される材料であれば特に限定はしないが、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の樹脂が挙げられる。また二条ネジ部25についてはフランジタイプであってもよい。
【0019】
カテーテル2の材料は通常使用される材料であれば特に限定せず、シリコーン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、或いはナイロン等の樹脂が挙げられる。カテーテル2の外径寸法として、動注化学療法に用いられるサイズは、5フレンチサイズが主流であるが、本発明におけるカテーテルの寸法は、特に限定されず、2〜6フレンチサイズであれば、血管への侵襲性を低減する上で十分である。従って、ポートノズルの寸法は使用するカテーテルのサイズに適合するよう任意に変更すればよく特に限定はされない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】動注化学療法においてカテーテル先端を胃十二指腸動脈に固定する場合を示す留置概略図である。
【図2】ポート及び固定部材を側面図である。
【図3】ポートとカテーテルを固定部材で接続した状態を示す側面図である。
【図4】胃十二指腸動脈に固定したカテーテルの側孔からマイクロカテーテルを導出している状態を示す概略図である。
【図5】本発明における薬液注入用ポートの一例を示す側面図である。
【図6】本発明における薬液注入用ポートの一例を示す上面図である。
【図7】本発明における薬液注入用ポートの一例についてタンク部の構造の側面図である。
【図8】本発明における薬液注入用ポートの別の一例を示す側面図である。
【図9】本発明における薬液注入用ポートの別の一例を示す上面図である。
【図10】本発明における薬液注入用ポートの別の一例についてカテーテルと接続した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0021】
1・・・血管
2・・・カテーテル
3・・・塞栓コイル
4・・・側孔
5・・・ポート
6・・・隔膜
7・・・ポートノズル
8・・・ポートノズル6の大きな外径を有する部分
9・・・固定用部材
10・・・マイクロカテーテル
11・・・本発明におけるポートの一例
12・・・固定用部材
13・・・傾斜角を有して配置されている隔膜
14・・・水平の角度で配置されている隔膜
15・・・ポートノズル
16・・・タンク
17・・・シール部材
18・・・シール部材
19・・・本発明におけるポートの別の一例
20・・・嵌合部材
21・・・ポートノズル
22・・・ネジ溝
23・・・コネクター
24・・・メスルアー部
25・・・二条ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液注入用隔膜およびチューブとの接続部を有する薬液注入用ポートであって、前記隔膜の平面方向と前記チューブとの接続部の軸方向とが為す角度が0°より大きく、90°より小さいことを特徴とする薬液注入用ポート。
【請求項2】
前記隔膜の平面方向と前記チューブとの接続部の軸方向とが為す角度が10°より大きく、45°より小さいことを特徴とする請求項1に記載の薬液注入用ポート
【請求項3】
前記隔膜に加えて、その平面方向と前記チューブ接続部の軸方向と為す角度が0°の隔膜が1つ以上備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の薬液注入用ポート。
【請求項4】
前記カテーテルとの接続部が雄ルアー形状との嵌合機構を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薬液注入用ポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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