説明

薬物を含有した生分解性微粒子の調製方法

本開示は、生分解性ポリマーを有する徐放性の薬物含有微粒子を形成する方法を提供している。当該方法は、ポリマー−薬物−有機溶剤相を形成するステップ、及び、ポリマー−薬物−有機溶剤相を、水酸燐灰石であり得る無機ゲルの水性懸濁液に分散するステップを含む。水酸燐灰石は、ポリマー−薬物−溶剤の液滴をコートしてそれらが合体するのを防いでいるように見える。次に、分散液の撹拌と共に溶剤は蒸発し、その時、液滴は薬物含有微粒子に凝固する。無機ゲルは、有機乳化剤を使用することなく適切に小さい微粒子が形を成すことを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物含有微粒子を調製する方法、及び、該方法によって調製された薬物含有微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の剤形が、長期投与を要する薬物に対して使用されてきた。与えられる必要のある服用の数を減らすために、及び、安定したレベルの薬物を体内に提供するために、これらの薬物は徐放性の製剤で与えられることが好ましい。使用されてきた徐放性製剤形態のうち1つのタイプは生分解性ミクロスフェアであり、ミクロスフェア内部に閉じこめられた薬物を含有している。そのような製品の1つは、黄体形成ホルモン放出ホルモン(ロイプロリド又はLHRH)を含有した生分解性ミクロスフェアであるLUPRON Depotである。ロイプロリドは、ホルモン依存性癌、特に、前立腺癌及び思春期早発症の治療に使用される。
【0003】
微粒子は、約1から1000ミクロンの直径を有した粒子である。注射目的のため、125ミクロンよりも小さい微粒子が好ましい。このサイズの微粒子は、外科的に移植する代わりに、標準的な皮下針を用いて注射することができる。微粒子のうち1つのタイプは、薬物を捕捉する生分解性ポリマーのネットワークで構成される。ポリマーは体内で生分解するため、薬物が放出される。最も一般的に使用される生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、並びに、乳酸及びグリコール酸のコポリマーである。
【0004】
最も広く使用される生分解性微粒子を調製する方法は、相分離、噴霧乾燥、及び、溶剤蒸発である。コアセルべーションとしても知られる相分離は、非溶剤の添加によるポリマー溶解度の減少を使用する。典型的な手順において、生分解性ポリマーは、(例えばジクロロメタン等の)有機溶剤に溶解される。脂溶性薬物はポリマー溶液に溶解される。親水性薬物は水に溶解され、従って、ポリマー溶液では分散する(油中水型(w/o)乳剤)か、又は、固体の粉末として分散する。非溶剤(一般的にシリコーン油)が徐々に添加される。2つの相:ポリマーが豊富なシリコーン油相及びポリマーが激減した液体有機溶剤相が形を成す。有機溶剤が抽出されるか又は蒸発するに従い、捕捉された薬物を有したポリマー微粒子はシリコーン油相において凝固する。コアセルベート(シリコーン油)は、ポリマー微粒子に吸着する。
【0005】
噴霧乾燥では、生分解性ポリマーはジクロロメタン等の揮発性有機溶剤に溶解される。薬物は、ポリマー溶液において溶解されるか又は分散する。その溶液又は分散液は、加熱された空気内に噴霧される。溶剤は蒸発し、固体の微粒子を形成する。
【0006】
溶剤蒸発は、最も一般的に使用される微粒子の調製方法である。この方法では、薬物含有有機ポリマー溶液は、一般的には水性であるが油でもあり得る分散媒に乳化される。前記方法は、水中油型(o/w)、水中油中水型(w/o/w)、及び、油中油型(o/o)乳剤方法にさらに分類することができる。
【0007】
o/wの方法において、薬物及びポリマーは、ジクロロメタン又はメタノール/ジクロロメタンの混合液等の有機溶剤に溶解される。薬物−ポリマー−有機溶剤溶液は、水性相に分散する。乳化剤、一般的にはポリ(ビニルアルコール)は、水性相において小さい有機溶剤の液滴の形成に寄与するよう水性相に含まれる。有機溶剤は撹拌されながら蒸発し、その蒸発と共に、液滴は、捕捉された薬物を有するポリマー微粒子に凝固する。
【0008】
w/o/wの二重乳剤では、水性薬液が調製され、有機溶剤中のポリマーの溶液に分配して薬物及びポリマーを含有した油中水型乳剤を形成する。w/oポリマー−薬物乳剤は、次に、水性相に乳化されてw/o/wの乳剤を形成する。撹拌と共に、有機溶剤は蒸発し、乳剤中のポリマー−薬物の液滴が微粒子に凝固するのを可能にする。
【0009】
o/o乳剤の方法では、薬物及びポリマーは(例えばアセトニトリル等の)水混和性溶剤に溶解される。その溶液は、SPAN80等の乳化剤の存在下で油性の相に乳化され、油中油型乳剤を形成する。有機溶剤は油によって抽出され、濾過によって微粒子を収穫することができる。
【0010】
生分解性ポリマー薬物含有微粒子を形成する先行技術の方法は、いくつかの欠点を有している。乳化剤又は油は、微粒子に付着してそれらを汚染する恐れがある。一部の方法は、スケールアップするのが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
生分解性ポリマー薬物含有微粒子を形成する新たな方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、微粒子を形成する新たな方法を発見した。1つの方法において、ロイプロリドがメタノールに溶解され、PLGAがジクロロメタンに溶解される。ロイプロリド及びPLGAの溶液は混合されて薬物−ポリマー−有機溶剤溶液を形成する。薬物−ポリマー溶液は、インサイツで形成された水酸燐灰石(Ca10(PO(OH))ゲルを含有したより大きな水性相に添加される。水酸燐灰石ゲルは、有機の液滴をコートして、小さい液滴サイズを維持し、液滴が合体するのを防いでいるように見える。有機溶剤は、まさに有機乳化剤を使用した標準的な水中油型乳剤の方法のように、蒸発し、捕捉されたロイプロリドを有した凝固されたポリマー微粒子を残す。HClが、次に、懸濁液に添加され、水酸燐灰石を溶解する。微粒子は、遠心分離又は濾過によってほかの透明な溶液から回収することができる。
【0013】
本発明の一実施形態は、薬物含有微粒子を調製する方法を提供し、当該方法は:(a)生分解性ポリマーを有機溶剤に溶解してポリマー溶液を形成するステップ;(b)前記ポリマー溶液に薬物を溶解するか又は分散してポリマー−薬物−溶剤相を形成するステップ;(c)無機ゲルを含んだ水性懸濁液と前記ポリマー−薬物−溶剤相を混合して、前記水性懸濁液に分散したポリマー−薬物−の液滴を含んだ分散液を形成するステップ;(d)前記分散液から前記有機溶剤を蒸発させ、前記ポリマー−薬物−の液滴を薬物含有微粒子に変えるステップ;及び、(e)前記薬物含有微粒子を前記分散液から回収するステップを含む。
【0014】
好ましくは、前記無機ゲルは酸によって溶解することができ、前記薬物含有微粒子を前記分散液から回収するステップは、酸を前記分散液に添加して前記無機ゲルを溶解するステップを含む。
【0015】
本発明の他の実施形態は、本明細書に記述された方法によって調製された薬物含有微粒子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で記述するように調製したPLGAミクロスフェアからのロイプロリドアセテートの放出率(fractional release)対時間のグラフである。
【図2】実施例1で調製した10%PLGAミクロスフェアを使用した図1からのロイプロリドアセテートの薬物放出の動態特性(○)の比較、及び、比較のために、慣例的に調製したミクロスフェアからのロイプロリドアセテートの公表された時間放出特性(●)(D‘Souza SS et al.,AAPS PHARM.Sci.Tech.6(4)、E553−564,2005)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、薬物含有微粒子を調製する方法を提供し、当該方法は:(a)生分解性ポリマーを有機溶剤に溶解してポリマー溶液を形成するステップ;(b)前記ポリマー溶液に薬物を溶解するか又は分散してポリマー−薬物−溶剤相を形成するステップ;(c)無機ゲルを含んだ水性懸濁液と前記ポリマー−薬物−溶剤相を混合して、前記水性懸濁液に分散したポリマー−薬物−の液滴を含んだ分散液を形成するステップ;(d)前記分散液から前記有機溶剤を蒸発させ、前記ポリマー−薬物−の液滴を薬物含有微粒子に変えるステップ;及び、(e)前記薬物含有微粒子を前記分散液から回収するステップを含む。
【0018】
生分解性ポリマーを有機溶剤に溶解してポリマー溶液を形成するステップは、前記ポリマー溶液に薬物を溶解するか又は分散してポリマー−薬物−溶剤相を形成するステップと同時に発生し得る。例えば、疎水性薬物はジクロロメタンに溶解することができ、次に、固体のポリマーを薬物−ジクロロメタン溶液に添加することができる。ポリマーが溶解するに従い、薬物は、当然ながら、ポリマー溶液に分散する。
【0019】
これは、微粒子を形成するための水中油型乳剤の方法に類似しているが、有機乳化剤を必要とすることはない。水中油型乳剤を使用した伝統的な蒸発方法において、生分解性ポリマーは有機溶剤に溶解され、薬物は、ポリマー溶液中の同じ溶剤に溶解されるか、又は、ポリマー溶液に分散する。薬物は、水溶液及びポリマー有機溶剤溶液に分散した水溶液に溶解することができるか、又は、薬物は、乾燥した粉末の形状でポリマー溶液に分散することができる。
【0020】
従来の水中油型乳剤の方法では、薬物−ポリマーの油相が、界面活性剤又は乳化剤の補助で水溶液に分散する。界面活性剤又は乳化剤は、液滴のサイズ、従って、微粒子のサイズを小さいまま保つのに必要である。
【0021】
水酸燐灰石ゲルも薬物−ポリマー相の液滴を合体から保護し、一貫した小さい微粒子を与えることができるということを本発明者は発見した。薬物含有微粒子は、好収量で、高い薬物の被包効率で生成される。粒径は一貫している。ポリ(ビニルアルコール)又は他の乳化剤が使用される必要はないため、微粒子を付着のポリ(ビニルアルコール)で汚染されないように調製することができる。この方法は、費用のかからない材料を使用し、容易にスケールアップされる。凝固された微粒子は、単に水酸燐灰石を酸で溶解し、次に、遠心分離又は濾過により透明な水溶液から微粒子を回収することによって回収することができる。
【0022】
当該方法を使用して、ペプチド薬物、蛋白質薬物、及び、小分子薬物を捕捉することができる。陽イオンの小分子薬物も陰イオンの小分子薬物も、当該方法を使用して微粒子内に捕捉することに成功した。
【0023】
水酸燐灰石は、当該方法に使用するのに好ましい無機ゲルである。しかし、他の無機ゲルも使用することができる。
【0024】
好ましくは、無機ゲルは、酸によって溶解することができる。好ましくは、薬物含有微粒子を分散液から回収するステップは、酸を分散液に添加して無機ゲルを溶解するステップを含む。
【0025】
水酸燐灰石以外の燐灰石も、無機ゲルとして使用することができる。特定の実施形態では、無機ゲルは、フッ素燐灰石(Ca(POF)、塩素燐灰石(Ca(POCl)、ヨウ素燐灰石(iodapatite)(Ca(POI)、又は、炭素燐灰石(carbapatite)(Ca10(PO(CO))である。
【0026】
Mg(OH)及びAl(OH)も試験され、無機ゲルのように申し分なく遂行された。他の特定の実施形態において、無機ゲルは、アミノ酢酸ジヒドロキシアルミニウム[アルミニウム及びグリシンの塩基性塩、(NHCHCOO)Al(OH)]又はリン酸アルミニウム(AlPO)である。
【0027】
リン酸アルミニウムは、水酸化アルミニウムの溶液にリン酸を添加することによって形を成し、水酸燐灰石よりも低いpH、特に、約pH6から7でゲルを形成し、さらに、約pH1又は2という低いpHで溶解する。従って、リン酸アルミニウムは、薬物上のカルボキシル基が部分的又は完全にプロトン化される低いpHで陰イオン性薬物を被包することに適している。
【0028】
特定の実施形態では、分散液は、ポリマー−薬物の液滴の水性懸濁液における分散に寄与する有機界面活性剤又は有機乳化剤を含まない。無機ゲルが同じ機能を果たすため、界面活性剤又は乳化剤は必要ではない。さらに、無機ゲルは、酸で完全に溶解し、微粒子から分離することが容易である。これとは対照的に、有機の界面活性剤及び乳化剤は、微粒子に結合されることがわかる。
【0029】
従って、特定の実施形態において、分散液はポリ(ビニルアルコール)を含まない。
【0030】
一部の実施形態では、無機ゲルを溶解するよう酸を添加する前に、帯電防止剤が分散液に添加される。適した帯電防止剤の例は、ポリ(ビニルアルコール)及びビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体である。帯電防止剤は、微粒子の凝集を防ぐよう添加される。帯電防止剤がないと、微粒子は凝集することができ、濾過によって最もいい具合に回収される場合が多くある。帯電防止剤があると、微粒子はそれほど凝集せず、微粒子はより小さいことを意味する。その場合微粒子は、通常、遠心分離によって最もいい具合に回収される。凝集は微粒子のサイズを変えず、凝集された微粒子は、何度か水性懸濁液において皮下針を通過させる等、物理的剪断によって脱凝集することができる。凝集された微粒子は、界面活性剤を含有する水溶液に微粒子を再懸濁することによって脱凝集することもできる。一般的に、微粒子が注射のために再懸濁される溶液にツイーン20、ツイーン40、又は、ツイーン80が含まれる。微粒子は、凍結乾燥によっても脱凝集され、一般的に、収穫された微粒子は、貯蔵のため凍結乾燥される。
【0031】
ポリ(ビニルアルコール)及び他のポリマーは、帯電防止剤として、又は、乳化剤として役立ち得る。しかし、ポリマー−薬物−溶剤相を従来の先行技術の水中油型乳剤に添加する前に、乳化剤が水性懸濁液に添加される。微粒子に凝固する前に、ポリマー−薬物有機溶剤の液滴を乳化するよう乳化剤は存在しなければならない。これとは対照的に、帯電防止剤は、微粒子が形成された後、微粒子を収穫するすぐ前に添加することができる。
【0032】
このように、特定の実施形態において、分散液は、薬物含有微粒子が形成される前(すなわち、有機溶剤の蒸発を用いてポリマー−薬物の液滴が微粒子に凝固する前)には有機界面活性剤又は有機乳化剤を含まない。
【0033】
帯電防止剤として使用されるポリ(ビニルアルコール)の量は、乳化剤として使用されるポリ(ビニルアルコール)の量よりもはるかに少ない。従来の先行技術の水中油型乳剤では、ポリ(ビニルアルコール)は、乳化剤として使用するために水性懸濁液中0.25%〜0.5%(w/v)の濃度である。本発明者は、ポリ(ビニルアルコール)を帯電防止剤として使用する場合、無機ゲルを溶解するようHClを添加するすぐ前に、0.025という量の0.5%(w/v)ポリ(ビニルアルコール)溶液を分散液に添加した。従って、この場合の分散液中のポリ(ビニルアルコール)の最終濃度は0.0125%であり、乳化剤として使用される場合よりもはるかに少ない。
【0034】
このように、特定の実施形態において、分散液は、0.05重量%以下若しくは0.02重量%以下の有機界面活性剤、有機乳化剤、又は、有機帯電防止剤を含む。
【0035】
本発明の方法に使用するための2つの好ましい生分解性ポリマーは、ポリ乳酸(PLA)及び乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)である。他の実施形態では、生分解性ポリマーはポリグリコール酸である。特定の実施形態では、生分解性ポリマーはポリ酸無水物又はポリオルトエステルである。
【0036】
当該方法は、疎水性薬物とも親水性薬物とも効果的である。疎水性薬物は、有機溶剤中のポリマーと同時溶解(codissolve)することができる。親水性薬物は、メタノール等、より極性の高い有機溶剤に第一に溶解することができ、次に、ジクロロメタン等、より極性の低い溶剤に溶解されたポリマーと混合される。あるいは、親水性薬物は、水溶液に溶解することができ、ポリマーを含有した有機溶剤溶液に水性薬液を分散することができる。これは、薬物−ポリマー相に対して油中水型分散を形成する。親水性薬物は、固体の粉末として有機溶剤中のポリマー溶液に直接分散することもできる。
【0037】
いかなる適した有機溶剤も、ポリマー−薬物相に使用することができる。これらの有機溶剤は、ジクロロメタン、酢酸エチル、アセトニトリル、及び、メタノール、並びに、その混合液を含む。有機溶剤は、ジクロロメタン又は酢酸エチル等、水と混合することのできない有機溶剤を少なくとも含むべきである。メタノール又はアセトニトリル等の水混和性溶剤は、水不混和性溶剤と混合することができる。親水性薬物を溶解してその薬物を分散液中の油相に動かすことに寄与するよう水混和性溶剤を使用することができる。
【0038】
最大の被包効率、並びに、ロイプロリド及びベラパミルHCl、ニカルジピンHClを含めた塩基性アミン含有薬物を有した微粒子収量を、約9.0から10.0のpHで達成したことを本発明者は発見した。pH10を超えると、PLA及びPLGAポリマーは、加水分解及び可溶化し始める。これは、微粒子収量を減らす。塩基性の薬物は、pH9から10において、低いpHにあるよりもイオン化されない状態にあり、これは、塩基性の薬物をポリマーとより結合させたままにすると信じられている。しかし、pH7.0でさえも、ロイプロリドに対する被包効率は90%であった。従って、種々のpHの水性懸濁液を使用することができる。
【0039】
ピロキシカム、ナプロキセンの酸、及び、サリチル酸を含めた、酸性のカルボキシル含有薬物を用いて、約pH5.0にて最大の被包効率が得られることを本発明者は発見した。これは、より酸性のpHで酸性薬物はよりイオン化されず、イオン化されていない状態において前記薬物はポリマーとより結合し、それほど水性相に分割する傾向がないためであると信じられている。
【0040】
約pH5未満で、水酸燐灰石は結晶化し、結晶形で、薬物−ポリマー相の液滴の合体を防ぐ能力を失う。従って、水酸燐灰石を少なくとも用いて、水性懸濁液は、約5以上のpHであることが好ましい。
【0041】
以下の実施例では、20%のPLGA及び10%のロイプロリドアセテートを含有した薬物−ポリマー溶液2又は3mlを、6gのCaOで調製した水酸燐灰石を含有した水性懸濁液400mlと混合した。より多い量の薬物−ポリマー溶液を無機ゲル水性懸濁液と混合することができるが、より高い濃度の無機ゲルも使用されなければならない。本発明者は、より多い量の水酸燐灰石を含有した水性懸濁液400mlと混合した100mlほどの薬物−ポリマー溶液を使用した。
【0042】
薬物−ポリマー相を水性懸濁液と混合することにおいて、高い混合速度を第一に使用して、小さい液滴を形成する。以下の実施例では、5000rpm以上を5分間使用した。小さい薬物−ポリマーの液滴を有した分散液を形成するためのこの短期間での急速な混合の後、撹拌速度は例えば600rpmまで下げられる。撹拌は、有機溶剤の蒸発を可能にするよう、より長い期間、一般的には1時間以上続けられる。この時間の間、溶剤が蒸発するに従い、凝固した微粒子が形を成す。
【0043】
微粒子のサイズは、当技術分野において既知の方法によって変わり得る。薬物−ポリマー相を水性懸濁液と混合する混合相中のより早い撹拌速度によって、より小さな液滴、従って、より小さな微粒子が生成される。薬物−ポリマー相中のより低いポリマー濃度によって、より低いポリマー濃度がより小さい液滴を形成する傾向があるより粘性の少ない溶液を生成するため、より小さい粒子が生成される。より長いポリマーは、短いポリマーよりも粘性の高い溶液を同じ濃度で生成する、従って、より長いポリマーは、より大きな微粒子を生成する傾向がある。有機溶剤も微粒子のサイズに影響を与える。ポリマーが溶剤において非常に溶けやすい場合、薬物−ポリマー相はより粘性が低く、より小さい微粒子が形成されることになる。ポリマーが有機溶剤においてより溶けやすくない場合、より大きな微粒子が形成されることになる。
【0044】
いかなる適した薬物も、これらの薬物含有微粒子に調合することができる。一実施形態において、薬物は蛋白質である。別の実施形態において、薬物はペプチド(例えば、長さが2から50個のアミノ酸のペプチド)である。別の実施形態では、薬物は、例えば1000未満又は500未満の分子量を有した分子等の小分子である。一部の実施形態では、小分子は非ペプチジルである。
【0045】
一実施形態において、薬物は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)のペプチド類似体である。適したLHRHペプチド類似体の例は、ロイプロリド、トレプトレイン、及び、ゴセレリン、並びに、その薬剤的に受け入れられる塩である。
【0046】
特定の実施形態において、薬物は、リスペリドン、オクトレオチド、ソマトスタチン、ヒト成長ホルモン、デスロレリン、ブセレリン、フェリプレシン、ゴナドレリン、オキシトシン、バソプレシン、フェルチレリン、ヒストレリン、ナファレリン、シンカリド、チモペンチンアセテート、ナルトレキソン、又は、その薬剤的に受け入れられる塩である。
【0047】
他の実施形態では、薬物は、ベラパミル、ニカルジピン、ピロキシカム、ナプロキセンの酸、サリチル酸、又は、その薬剤的に受け入れられる塩である。
【実施例1】
【0048】
材料及び方法:
ロイプロリドアセテート及び乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)RG502H又はPLA R202Hを、20%のポリマー及び10%のロイプロリドの濃度(w/v)で24/76(v/v)メタノール/ジクロロメタン混合液に溶解し、ポリマー−薬物溶液を調製した。水酸燐灰石の水性懸濁液を、6gのCaOを400mlの水に溶解することによって調製した。次に、リン酸を添加して、水性懸濁液のpHを9.0から10.0に調整した。水酸燐灰石ゲルを、10CaO+6HPO=Ca10(PO(OH)+8HOの反応によってこれらの条件下で水性懸濁液においてインサイツで形成した。薬物/ポリマー溶液(2又は3ml)を水性懸濁液媒体に分散した。その分散液を、第一に、高剪断混合機によって5000以上のrpmで5分間均質化した。その溶剤を、次に、600rpmで1時間以上撹拌することによって蒸発した。次に、濃縮されたHClを、水酸燐灰石が溶解して懸濁液が透明になるまで徐々に添加した。水酸燐灰石は、Ca10(PO(OH)+20HCl=10CaCl+6HPO+2HOの反応によって溶解される。凝固した微粒子を、遠心分離及び濾過によって回収した。
【0049】
結果及び考察:
PLA及びPLGA微粒子を、顕微鏡的に検査及び撮影した(データは示さず)。微粒子の大部分が、注射に適したサイズである10〜20ミクロンのサイズ範囲であるわかった。
【0050】
ロイプロリドアセテートの被包効率は、懸濁媒のpHがpH9.0からpH10.0である場合に、95%以上であった。被包効率は、ポリマー−薬物相中の薬物の開始質量によって割られた微粒子に回収された薬物の質量を意味している。微粒子中の薬物を定量化するために、微粒子を第一にエタノール/ジクロロエタン(28/72v/v)混合液に溶解した。その溶液の薬物含有量を、次に、紫外吸収によって測定した。
【0051】
他の実験において、懸濁媒のpHを変更した。ロイプロリドアセテートの被包効率は、pH7.0にて90%まで減少し、より低いpHでさらに減少した。陰イオン性及び陽イオン性の小分子薬剤も試験した。アミン含有陽イオン性薬物の被包は、ほぼpH9.0から10.0で最大であった。これは、高めのpHでアミン基が十分に非プロトン化されるためであると信じられている。薬物のアミン基がプロトン化されるより低いpHで、薬物はより水に溶けやすく、従って、ポリマー−薬物の液滴から離れてより分割される。カルボキシル基を含有した陰イオン性薬物では、pHの関係は逆になる。カルボキシル基は、より低いpHではイオン化されず、従って、これらの薬物は低いpHではより水に溶けにくい。このように、陰イオン性薬物は、例えば約pH5.0等の低いpHでより優れた被包効率を有するとわかった。ベラパミルHCl及びニカルジピンHClは、検査した小分子アミン含有薬物であった。ピロキシカム、リドカイン、及び、サリチル酸は、検査した小分子陰イオン性薬物であった。
【0052】
pH10を超えて、PLA及びPLGAポリマーはある程度まで加水分解され、これによって、微粒子の収量は減少する。収量は、本明細書において、(ポリマー+薬物)の開始質量によって割られた微粒子の回収された質量として規定される。約5未満のpHで、水酸燐灰石は、ゲルを形成する代わりに結晶化する。水酸燐灰石ゲルなしでは、ポリマー−薬物の液滴は合体し、形成される固体の粒子は大きすぎる。
【0053】
本明細書に記述したように調製したPLGA微粒子からのロイプロリドアセテートの放出の動力学を決定し、結果は図1に示されている。上澄み中の薬物の濃度を、紫外吸収によって測定した。PLGA微粒子からのロイプロリドアセテートの放出は、典型的な3つの相を示している。最初のバースト放出は、4〜5日のタイムラグを伴う微粒子の表面に位置するペプチドの高速溶解により発生する。4〜5日後、微粒子は有意に水和し、次に、ポリマーの崩壊により腐食した。曲線の中間部分の間、ペプチド放出はほぼ低速度で発生している。
【0054】
図2は、10%のRG502Hに対する図1の放出曲線を、従来のポリ(ビニルアルコール)を乳化剤として用いた水中油型乳剤によって形成された微粒子からのロイプロリドアセテートにおける公表された放出曲線(D‘Souza et al.,2005,AAPS PHARM.Sci.Tech.6(4)、E553)と比較している。放出曲線は、ほぼ同一である。
【0055】
引用された全ての特許、特許書類、及び、他の出版物の全内容を本願に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーを有機溶剤に溶解してポリマー溶液を形成するステップと、
前記ポリマー溶液に薬物を溶解するか又は分散してポリマー−薬物−溶剤相を形成するステップと、
無機ゲルを含んだ水性懸濁液と前記ポリマー−薬物−溶剤相を混合して、前記水性懸濁液に分散したポリマー−薬物−の液滴を含んだ分散液を形成するステップであって、前記無機ゲルは酸によって溶解することができる、ステップと、
前記分散液から前記有機溶剤を蒸発させ、前記ポリマー−薬物−の液滴を薬物含有微粒子に変えるステップと、
前記薬物含有微粒子を前記分散液から回収するステップであって、前記薬物含有微粒子を前記分散液から回収するステップは、酸を前記分散液に添加して前記無機ゲルを溶解するステップを含む、ステップと、
を含む、薬物含有微粒子を調製する方法。
【請求項2】
前記有機溶剤が、複数の有機溶剤の混合液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、メタノール及びジクロロメタンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記薬物が疎水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記薬物が親水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記薬物が、ペプチド又はポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薬物がロイプロリドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記薬物が水溶液に溶解され、前記薬物含有水溶液が前記ポリマー溶液に分散して前記ポリマー−薬物−溶剤相を形成する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記無機ゲルが燐灰石である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記燐灰石が水酸燐灰石である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記燐灰石が、炭素燐灰石、フッ素燐灰石、又は、塩素燐灰石である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記無機ゲルが、アミノ酢酸ジヒドロキシアルミニウム、Al(OH)、AlPO、又は、Mg(OH)である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分散液は、ポリマー−薬物の液滴の水性懸濁液における分散に寄与する有機界面活性剤又は有機乳化剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記分散液は、ポリ(ビニルアルコール)を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分散液は、0.05重量%以下の有機界面活性剤、有機乳化剤、又は、有機帯電防止剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又は、乳酸−グリコール酸共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法によって調製される薬物含有微粒子。
【請求項18】
前記分散液が、ポリマー−薬物の液滴の水性懸濁液における分散に寄与する有機界面活性剤又は有機乳化剤を含まない、請求項17に記載の薬物含有微粒子。
【請求項19】
前記分散液は、0.05重量%以下の有機界面活性剤、有機乳化剤、又は、有機帯電防止剤を含む、請求項17に記載の薬物含有微粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−529878(P2011−529878A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521111(P2011−521111)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/004273
【国際公開番号】WO2010/014176
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(500517271)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ アーカンソー システム (4)
【Fターム(参考)】