薬物送達のためのエトポシドおよびドキソルビシン複合体
【課題】 本発明は、薬物送達の分野における改善に関する。
【解決手段】 より詳細には本発明は、エトポシド、エトポシド4′-ジメチルグリシンまたはドキソルビシンなどの治療薬に対する加水分解性共有結合を有するポリペプチドに関する。これらのポリペプチド複合体をベクターとして用いて、ポドフィロトキシン誘導体を血液脳関門(BBB)を通過して輸送したり、卵巣、肝臓、肺または腎臓などの特定の細胞型中に輸送することができる。本発明はまた、本発明の化合物を含む医薬組成物ならびに治療方法でのそれらの使用に関するものでもある。
【解決手段】 より詳細には本発明は、エトポシド、エトポシド4′-ジメチルグリシンまたはドキソルビシンなどの治療薬に対する加水分解性共有結合を有するポリペプチドに関する。これらのポリペプチド複合体をベクターとして用いて、ポドフィロトキシン誘導体を血液脳関門(BBB)を通過して輸送したり、卵巣、肝臓、肺または腎臓などの特定の細胞型中に輸送することができる。本発明はまた、本発明の化合物を含む医薬組成物ならびに治療方法でのそれらの使用に関するものでもある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達の分野における改善に関するものである。詳細には本発明は、ポドフィロトキシン誘導体 (例えば、エトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンなどのエトポシド誘導体)などの治療薬またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体に対して加水分解性共有結合を有するポリペプチドに関する。これらのポリペプチド複合体は、血液脳関門(BBB)を通過して、卵巣、肝臓、肺もしくは腎臓などの特定の細胞種中に治療薬を輸送するためのベクターとして用いることができる。これらの複合体は、複合体化していない治療薬と比較して改善された物理化学的特性(例えば、溶解度上昇)および医薬特性(例えば、治療量以下の用量を可能とするターゲティングの向上または治療量以下の用量を可能とする毒性の軽減)を示すことができる。本発明はまた、本発明の化合物を含む医薬組成物ならびに治療方法でのそれの使用に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
そのような疾患に対する多くの治療薬が、望ましくない副作用(例えば、化学療法薬)を有するか、イン・ビボ安定性、輸送、または他の薬物動態特性のために、標的組織において十分に高い濃度でまたは標的組織での最大の治療効果を可能とするだけの長い期間にわたって提供することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、脳、卵巣、肝臓または肺などの標的の臓器または組織において治療薬および診断薬の濃度を高める方法および組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、エトポシドが加水分解性グルタル酸リンカーを介して2″ヒドロキシルでAngiopep-2ポリペプチド(配列番号97)に共有結合的に結合しているペプチド-治療薬複合体およびそれの製薬上許容される塩を開発した(例えば、図式1に示した化合物(1))。エトポシドに代えてエトポシド4′-ジメチルグリシンを用いた関連するペプチド-治療薬複合体も製造しており、改善された特性(例えば、溶解度)が認められる。
【0005】
図式1
【化1】
【0006】
ドキソルビシンは、コハク酸リンカーを用いてAngiopep-2ポリペプチドに14-ヒドロキシルでも共有結合的に結合されている(例えば、図式2に示した化合物(2)の三塩酸塩)。ドキソルビシン塩酸塩の共有結合によっても、特性(例えば、溶解度)を改善することができる。
【0007】
図式2
【化2】
【0008】
これらの複合体は、改善された物理化学的特性(例えば、溶解度上昇)および医薬特性(例えば、治療量以下の用量を可能とするターゲティングの向上または治療量以下の用量を可能とする毒性の軽減)などの、相当する複合体化していない治療薬を比較して改善された特性を示すことができる。エトポシドDMGおよびドキソルビシン塩酸塩複合体の溶解度は、投与法を調節する上で有用ともなり得る。従って本発明は、これらの化合物ならびに関連する化合物を特徴とする。これらの化合物の製造方法および使用方法も提供される。
【0009】
従って、1態様において本発明は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、またはそれの製薬上許容される塩、またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からポドフィロトキシン誘導体への共有結合を含むものを特徴とする。一部の実施形態において、前記ポドフィロトキシン誘導体は、下記式(I)による構造を有する化合物またはそれの立体異性体もしくは製薬上許容される塩である。
【化3】
【0010】
式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、または置換されていても良いアリールから選択され;
nは1、2、3、4、5、6、7または8であり;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つがYであり、R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの1個以下がYである。
【0011】
一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、nは3である。
【0012】
一部の実施形態において、当該化合物の製薬上許容される塩は一、二もしくは三酸付加塩(例えば、1、2もしくは3塩酸塩)である。
【0013】
一部の実施形態において、各式(I)の化合物は独立に、下記のものから選択され、
【化4】
【0014】
式中、
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2またはC(O)CH2N(CH3)2であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-;-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-;-S(O)2(CH2)nS(O)2-;-[S(O)2{OCH2CH2}nOS(O)2]-;-[{P(O)(OR9)}(CH2)n{P(O)(OR9)}]-;および-[{P(O)(OR9)}(OCH2CH2)nO{P(O)(OR9)}]-から選択され;各nは独立に、1、2、3、4、5または6であり;各Yは共有結合的に、アミノ酸に結合している。一部の実施形態において、各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。一部の実施形態において、各R2はC(O)CH2N(CH3)2である。一部の実施形態において、各式(I)の化合物は下記のものである。
【化5】
【0015】
一部の実施形態において、本発明の化合物は下記の構造を有する。
【化6】
【0016】
式中、
各(-(式(I))基は、指定されたアミノ酸と式(I)の化合物の間の適宜の共有結合を表し、ポリペプチドのアミノ酸と前記式(I)の化合物の間には少なくとも1個の共有結合がある。一部の実施形態において、アミノ酸配列には2個の式(I)の化合物が結合している。他の実施形態において、ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(I)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む。
【0017】
一部の実施形態において、R2はHまたは-C(O)CH2N(CH3)2(すなわち、C-連結N,N-ジメチルグリシン)である。他の実施形態において、各R2はHである。さらに別の実施形態において、各R2は-C(O)CH2N(CH3)2である。
【0018】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いC1-6アルキルは独立に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、sec-ペンチル、イソ-ペンチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルまたはsec-ヘキシルから選択される。一部の実施形態において、前記C1-6アルキルは、いずれかの炭素で少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)で置換されている。
【0019】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いC3-10シクロアルキルは独立に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルから選択される。
【0020】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いアリール基は独立に、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニルまたはインデニルから選択される。
【0021】
一部の実施形態において、前記置換されていても良い複素環基は独立に、アザシクロプロパニル、アザシクロブタニル、1,3-ジアザチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、チラニル、チエタニル、テトラヒドロチオフェニル、ジチオラニル、テトラヒドロチオピラニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、オキサチオラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオキサニルおよびキヌクリジニルから選択される。
【0022】
一部の実施形態において、前記置換されていても良い複素環基は、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、テトラジニル、ピロリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、キノリジニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキザリニル、チオフェニル、チエピニル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリルおよびオキサジアゾリルから選択される。
【0023】
一部の実施形態において、置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール、複素環またはヘテロアリールは、C1-6アルキル;ハロゲン;アジド(-N3)、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、アシルオキシ、アシル(-C(O)R)、(-OC(O)R)、アルコキシ(-OR)、アミド(-NRC(O)R′または-C(O)NRR′)、アミノ(-NRR′)、アリール、カルボン酸(-CO2H)、カルボン酸エステル(-CO2R)、カルバモイル(-OC(O)NRR′または-NRC(O)OR′)、シクロアルキル、複素環、ヒドロキシ(-OH)、イソシアノ(-NC)、ホスフェート(-P(O)(OR)(OR′))、スルホネート(-SO2OR)またはスルホニル(-SO2R)から選択される1、2、3、4、5または6個の置換基で置換されており、各RまたはR′は独立に、本明細書で定義のH、C1-6アルキル、シクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリールから選択される。一部の実施形態において、これらの置換基はそれ以上置換されていない。他の実施形態において、前記置換基自体が、1、2、3、4、5もしくは6個の置換基でさらに置換されていても良い。
【0024】
一部の実施形態において、R4はYである。他の実施形態において、R5はYである。
【0025】
他の実施形態において、アミノ酸配列は、前記アミノ酸配列の第2、第3、第4もしくは第5のアミノ酸を介して別のポドフィロトキシン誘導体に共有結合的に結合している。一部の実施形態において、前記ポドフィロトキシン誘導体は式(I)の化合物である。
【0026】
ある種の実施形態において、式Iの化合物は、下記の構造を有する。
【化7】
【0027】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0028】
他の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化8】
【0029】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0030】
さらに別の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化9】
【0031】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0032】
他の実施形態において、各式(I)の化合物は独立に、下記のものから選択される。
【化10】
【0033】
式中、各R8AおよびR8Bは独立に、Hまたは置換されていても良いC1-6アルキルであり、あるいはR8AとR8Bが一体となって、置換されていても良い3から7員環を形成している。一部の実施形態において、各R8AおよびR8Bは置換されていても良いC1-6アルキルである。他の実施形態において、各式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化11】
【0034】
別の実施形態において、前記化合物は下記の構造を有する。
【化12】
【0035】
特定の実施形態において、前記化合物は下記の構造:
【化13】
【0036】
を有するか、それの製薬上許容される塩(例えば、三塩酸塩)であり、化合物(I)の式中において、エトポシドはエトポシド4′-ジメチルグリシンを指す。
【0037】
ある種の実施形態において、加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸は、前記アミノ酸のアミノ、グアニジノ、ヒドロキシル、フェノールまたはチオール官能基を介して結合している。一部の実施形態において、加水分解性リンカーYに共有結合的に結合しているアミノ酸は、リシン、チロシン、セリン、トレオニン、またはアルギニンである。
【0038】
第2の態様において、本発明は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、またはそれの製薬上許容される塩、またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からドキソルビシン誘導体への共有結合を含み、前記ドキソルビシン誘導体が下記式(II)による構造を有する化合物または立体異性体もしくは製薬上許容される塩であるものを特徴とする。
【化14】
【0039】
式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択されるか、加水分解性リンカーYであり;
R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの1個および1個のみがYである。
【0040】
一部の実施形態において、前記化合物の前記製薬上許容される塩は、一、二もしくは三酸付加塩(例えば、1、2または3塩酸塩)である。
【0041】
ある種の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有する。
【化15】
【0042】
式中、X2R18はHまたはNH2であり;X3R19はHまたはOHであり;X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;Yは本明細書に記載の加水分解性リンカーである。別の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化16】
【0043】
別の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有する。
【化17】
【0044】
ある種の実施形態において、当該化合物は、下記の構造を有する。
【化18】
【0045】
式中、各(-(式(II))は、指定されたアミノ酸と式(II)の化合物の間の適宜の共有結合を表し、ポリペプチドのアミノ酸と前記式(II)の化合物の間には少なくとも1個の共有結合がある。一部の実施形態において、ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(II)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む。
【0046】
一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、nは2である。他の実施形態において、アミノ酸配列は、アミノ酸配列の2番目、3番目、4番目または5番目のアミノ酸を介して式(II)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している。別の実施形態において、前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸は、前記アミノ酸のアミノ、グアニジノ、ヒドロキシル、フェノールまたはチオール官能基を介して結合している。ある種の実施形態において、前記アミノ酸はリシンまたはトレオニンである。
【0047】
一部の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化19】
【0048】
特定の実施形態において、前記化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩(例えば、三塩酸塩)である。
【化20】
【0049】
別の態様において、本発明は、下記の化合物
【化21】
【0050】
(「エトポシド4′-ジメチルグリシン」または「エトポシドDMG」)またはそれの立体異性体、または製薬上許容される塩もしくは溶媒を特徴とする。
【0051】
上記の態様のいずれにおいても、アミノ酸配列は、表1に示した配列のいずれかまたはそれの断片またはそれの製薬上許容される塩と実質的に同一であることができる。ある種の実施形態において、アミノ酸配列はAngiopep-1(配列番号67)、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-3(配列番号107)、Angiopep-4a(配列番号108)、Angiopep-4b(配列番号109)、Angiopep-5(配列番号110)、Angiopep-6(配列番号111)またはAngiopep-7(配列番号112)の配列を有する。本発明のアミノ酸配列または化合物は、特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓および筋肉のうちのいずれか1、2、3、4もしくは5個)に効率的に輸送され得るか、効率的に哺乳動物BBBを通過することができる(例えば、Angiopep-1、-2、-3、-4a、-4b、-5および-6)。一部の実施形態において、細胞は卵巣細胞である。別の実施形態において、複合体は特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓および筋肉のうちのいずれか1、2、3、4もしくは5個)に進入することができるが、BBBを効率的には通過しない(例えば、Angiopep-7などの複合体)。一部の実施形態において、細胞は卵巣細胞である。ポリペプチドは、いかなる長さのものであっても良く、例えば、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、25、35、50、75、100、200または500アミノ酸である。ある種の実施形態において、ポリペプチドは10から50アミノ酸の長さのものである。複合体は実質的に純粋であることができる。ポリペプチドは、組換え遺伝子工学または化学合成によって製造することができる。複合体は、製薬上許容される担体とともに製剤することができる。
【0052】
表1:ポリペプチドの例
【表1】
【0053】
ポリペプチド番号5、67、76および91は、それぞれ配列番号5、67、76および91の配列を含み、C末端でアミド化されている。
ポリペプチド番号107、109および110はそれぞれ配列番号97、109および110の配列を含み、N末端でアセチル化されている。
【0054】
上記の態様のいずれにおいても、ポリペプチドは下記式を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【化22】
【0055】
式中、X1からX19のそれぞれ(例えば、X1からX6、X8、X9、X11からX14、およびX16からX19)は、独立にいずれかのアミノ酸(例えば、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrおよびValなどの天然アミノ酸)または非存在であり、X1、X10およびX15のうち少なくとも一つ(例えば、2または3)はアルギニンである。一部の実施形態では、X7はSerまたはCysであり;X10およびX15はそれぞれ独立にArgまたはLysである。一部の実施形態では、X1からX19(両端を含む)の残基は、配列番号1から105および107から112(例えば、AngioPep-1、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6、およびAngioPep-7)のうちのいずれか一つのアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一である。一部の実施形態では、アミノ酸X1からX19の少なくとも1個(例えば、2、3、4または5個)がArgである。一部の実施形態において、ポリペプチドは、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端またはその両方に1以上の別のシステイン残基を有する。
【0056】
上記いずれかの態様のある種の実施形態において、ポリペプチドは修飾されている(例えば、本明細書に記載のように)。ポリペプチドは、アミド化、アセチル化またはその両方を受けていても良い。ポリペプチドに対するそのような修飾は、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端であり得る。本発明の複合体は、本明細書に記載のいずれかのポリペプチドのペプチド模倣薬(例えば、本明細書に記載されるもの)も包含し得る。ポリペプチドは多量体型、例えば二量体であることができる(例えば、システイン残基を介したジスルフィド結合によって形成される)。
【0057】
ある種の実施形態において、ポリペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸置換(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個の置換)を有する本明細書に記載のアミノ酸配列を有する。ポリペプチドは、例えば、1から12、1から10、1から5、または1から3個のアミノ酸置換、例えば1から10個(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2個まで)のアミノ酸置換を有することができる。アミノ酸置換は保存的または非保存的であることができる。例えば、ポリペプチドは、配列番号1、Angiopep-1、Angiopep-2、Angiopep-3、Angiopep-4a、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7のうちのいずれかのアミノ酸配列の1位、10位および15位に相当する位置の一つ、二つまたは三つにアルギニンを有することができる。
【0058】
上記態様のいずれにおいても、複合体は、配列番号1から105および107から116のいずれかを含むかそれからなるポリペプチド(例えば、Angiopep-1、Angiopep-2、Angiopep-3、Angiopep-4a、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7)を特に排除することができる。一部の実施形態において、本発明のポリペプチドおよび複合体は、配列番号102、103、104および105のポリペプチドを排除している。
【0059】
一部の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれらの官能基誘導体と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一性を有する。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有する。さらに別の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有する。
【0060】
一部の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含む。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のものである。
【0061】
さらに別の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体からなる。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のものである。
【0062】
一部の実施形態において、本発明の化合物は、相当する複合体化していない生理活性物質と比較して、標的細胞型または組織での生理活性物質(例えば、式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体または式(II)の化合物などのドキソルビシン誘導体)の蓄積を変えることができる。さらに別の実施形態において、本発明の化合物は、標的細胞型または組織での生理活性物質の蓄積を促進する。ある種の実施形態において、生理活性物質の濃度は、複合体化していない生理活性物質で認められる濃度と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、1000%、2000%、3000%、4000%、5000%、6000%、7000%、8000%、9000%、10000%、12500%、15000%、17500%または20000%上昇する。一部の実施形態において、標的細胞型または組織は、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉である。一部の実施形態において、標的細胞型は脳または卵巣である。ある種の実施形態において、生理活性物質はエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、ドキソルビシンまたはエピルビシンから選択される。他の実施形態において、本発明の化合物は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6もしくはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含む。
【0063】
第3の態様において、本発明は、本明細書に記載のいずれかの本発明の化合物(例えば、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体または製薬上許容される塩を含み、そのアミノ酸配列がそのアミノ酸配列のアミノ酸から式(I)もしくは(II)の化合物(例えば、化合物(1)または(2))への共有結合を含む化合物)および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を特徴とする。第4の態様において、本発明は、治療上有効量の本明細書に記載のいずれかの本発明の化合物(例えば、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含み、そのアミノ酸配列がそのアミノ酸配列のアミノ酸から式(I)もしくは(II)の化合物への共有結合を含む化合物)を患者に対して投与する段階を含む癌を治療または予防的に処置する方法を特徴とする。一部の実施形態において、前記化合物は化合物(1)または(2)である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、下記のものから選択される。
【化23】
【0064】
式中、YはHであり;各R2は独立に、HまたはP(O)(OH)2、または-C(O)R8であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;各nは独立に、2、3または4である。一部の実施形態において、nは3である。一部の実施形態において、各R2は-C(O)R8である。一部の実施形態において、R8は、少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)を含むC1-6アルキルである。ある種の実施形態において、-C(O)R8は、C-連結アミノ酸である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体はエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド4′-ジメチルグリシン(エトポシドDMG)、またはテニポシドである。さらに別の実施形態において、前記化合物はドキソルビシンまたは本明細書に記載のいずれかのドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)である。
【0065】
一部の実施形態において、前記方法は、第2の薬剤を投与する段階も含む。さらに別の実施形態において、その薬剤は治療薬である。ある種の実施形態において、第2の治療薬も、本発明の化合物に共有結合的に結合している。さらに別の実施形態において、第2の治療薬は、本発明の化合物に共有結合的に結合していない。一部の実施形態において、その治療薬は、疾患を治療するための薬物、医薬、放射線を放出する物質、細胞毒、それの生理活性断片またはこれらの混合物である。他の実施形態において、投与は別の治療法と同時に行う。一部の実施形態において、その治療法は、放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱治療である。一部の実施形態において、第2の治療薬は、Angiopep-2(配列番号97)の配列を含むかその配列からなるポリペプチドであり、好ましくはAngiopep-2が抗癌剤(例えば、パクリタキセル)にコンジュゲートしているもの、例えばANG1005であり、それは下記の構造を有する。
【化24】
【0066】
さらに別の第2の治療薬の例が、米国特許第7557182号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0067】
一部の実施形態において、癌は、脳の癌である。他の実施形態において、脳の癌は、膠芽細胞腫、神経膠腫、聴神経腫、腺腫、星細胞腫、脈絡叢乳頭腫、CNSリンパ腫、上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫または神経線維腫症である。さらに別の実施形態において、癌は、急性リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、副腎皮質癌、静脈性および膀胱内膀胱癌、骨肉腫、乳癌、カルチノイド症候群(小腸)、子宮体癌、ユーイング肉腫、婦人科肉腫、頭部癌および頸部癌(扁平細胞)、肝臓癌、ホジキン病、島細胞癌、白血病、肺癌、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、骨原性肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、膀胱移行上皮癌、軟組織肉腫またはウィルムス腫瘍である。
【0068】
本明細書に記載の治療方法において、本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))またはそれの製薬上許容される塩は、複合体化していない治療薬(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド4-ジメチルグリシンまたはドキソルビシン)と比較して、治療量以下の用量または治療量より高い用量として患者に投与することができる。
【0069】
別の態様において、本発明は、二官能性加水分解性連結基を用いて、本明細書に記載のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体にポドフィロトキシン誘導体を共有結合的に結合させる段階を含む、本発明の化合物の製造方法を特徴とする。一部の実施形態において、前記アミノ酸配列は配列番号1から105および107から116またはそれの官能基誘導体から選択される。他の実施形態において、前記アミノ酸配列には、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列などがある。
【0070】
一部の実施形態において、本発明の化合物の製造方法は、
(a)前記式(I)の化合物を前記二官能性加水分解性連結基と組み合わせて、共有結合付加物を形成する段階;および
(b)(a)の付加物を前記アミノ酸配列を組み合わせる段階
を含み;
前記(a)の付加物を、(b)で用いる前に精製しても良い。
【0071】
一部の実施形態において、式(I)の化合物に対して1.0から10.0当量の二官能性加水分解性連結基を用いる。例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2.、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9または3.0当量を用いることができる。他の実施形態において、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、または10.0当量の二官能性加水分解性連結基を用いる。ある種の実施形態において、その方法は、ペプチドカップリング剤の使用を含む。一部の実施形態において、ペプチドカップリング剤は、N,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU)である。
【0072】
一部の実施形態において、加水分解性二官能性連結基は、ジカルボン酸類、ジカーボネート類、無水カルボン酸類、ジイソシアネート類またはジホスホン酸類から選択される。ある種の実施形態において、加水分解性二官能性連結基は、コハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸または酪(butaric)酸から選択される。
【0073】
一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、下記のものから選択される。
【化25】
【0074】
式中、
YはHであり;各R2は独立に、HまたはP(O)(OH)2または-C(O)R8であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;各nは独立に、2、3または4である。一部の実施形態において、nは3である。一部の実施形態において、各R2は-C(O)R8である。一部の実施形態において、R8は、少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)を含むC1-6アルキルである。ある種の実施形態において、-C(O)R8はC-連結アミノ酸である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、またはテニポシドである。
【0075】
本明細書に記載の方法または組成物では、化合物の製薬上許容される塩は、一、二、三または四酸付加塩(例えば、三塩酸塩)であることができる。本明細書に記載のいずれの実施形態においても、ポリペプチドに共有結合的に結合している式(I)の化合物または(II)(例えば、エトポシド、エトポシドDMG、またはドキソルビシン)は、プロトン化の部位である。例えば、化合物(1)において、エトポシドDMG部分のうちの1、2または3個がプロトン化されており、または化合物(2)では、ドキソルビシン部分のうちの1、2または3個がプロトン化されて、酸付加塩を形成している(例えば、一、二または三塩酸塩)。
【0076】
本明細書で使用される場合の「C1-6アルキル」または「アルキル」という用語は、置換されていても良いC1-6飽和炭化水素基を指す。アルキル基は、直鎖または分岐であることができる。アルキル基の例には、1以上の置換基を有していても良いメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、sec-ペンチル、イソ-ペンチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、sec-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、n-ウンデシル、ドデシルなどがあるが、これらに限定されるものではない。例えば、置換されたアルキル基は、1、2、3、4、5または6個の置換基を有することができる。
【0077】
本明細書で使用される場合の「アリール」という用語は、5から14個の炭素原子を有する置換されていても良い単環式または多環式で芳香族性の全て炭素の部分を指す。本発明のある種の実施形態において、「アリール」は、置換されたまたは置換されていない単環式または二環式の基を指す。アリール基の例には、1以上の置換基を有していても良いフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。アリールには、ヘテロアリールも含まれる。
【0078】
本明細書で使用される場合の「C-連結アミノ酸」という用語は、アミノ酸のC末端によって別の化合物(例えば、本明細書に記載のポドフィロトキシン誘導体のいずれか)に共有結合的に結合しているアミノ酸を指す。
【0079】
本明細書で使用される場合の「C3-10シクロアルキル」または「シクロアルキル」という用語は、置換されていても良い飽和の3から10員単環式もしくは二環式炭化水素環系を指す。シクロアルキルの例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルなどがある。置換されたシクロアルキルは、例えば1、2、3、4、5、6または7個の置換基を有することができる。
【0080】
本明細書で使用される場合の「ヘテロアリール」という用語は、1、2、3または4個の環原子がS、OおよびNから選択されていることができ、残りの環原子が炭素である5から14個の環原子を有する置換されたまたは置換されていない単環式または多環式の芳香族部分を指す。ヘテロアリール基の例には、1以上の置換基を有していても良いピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、テトラジニル、ピロリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、キノリジニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキザリニル、チオフェニル、チエピニル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本明細書で使用される場合の「複素環式」または「複素環」という用語は、3から8個の原子の大きさの単一の環を含む置換されていても良い非芳香族の部分不飽和または完全飽和の3から10員環系、および非芳香族環に縮合した芳香族の5員もしくは6員アリールまたはヘテロアリール基を含むことができる二環式および三環式環系を指す。これらの複素環には、独立に酸素、硫黄および窒素から選択される1から3個のヘテロ原子を有するものなどがあり、窒素および硫黄ヘテロ原子は酸化されていても良く、窒素ヘテロ原子は四級化または置換されていても良い。ある種の実施形態において、複素環という用語は、少なくとも1個の環原子がO、SおよびN(窒素および硫黄ヘテロ原子は酸化されていても良い)から選択されるヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素であり、その基がいずれかの環原子を介して分子の残りの部分に結合している非芳香族の5、6または7員の単環式環を指す。複素環の例には、1以上の置換基を有していても良いアザシクロプロパニル、アザシクロブタニル、1,3-ジアザチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、チラニル、チエタニル、テトラヒドロチオフェニル、ジチオラニル、テトラヒドロチオピラニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、オキサチオラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオオキサニル、キヌクリジニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本明細書で使用される場合の「製薬上許容される塩」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを起こすことなくヒトおよび動物の組織と接触しての使用に好適であり、妥当な利益/リスク比を与える酸付加塩を表す。製薬上許容される塩は当業界で公知である。例えば、製薬上許容される塩は、バージらの報告(Berge et al., J. Pharmaceutical Sciences 66:1-19, 1977)およびスタールらの編著(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, (Eds. P.H. Stahl and C.G. Wermuth), Wiley-VCH, 2008)に記載されている。その塩は、本明細書に記載の化合物の最終的な単離および精製時にイン・サイツで、または1以上の塩基性の基(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個)を有する化合物を所望の当量の好適な有機酸もしくは無機酸と反応させることで別個に製造することができる。代表的な酸付加塩には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、ウンデカン酸塩および吉草酸塩などがある。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなど(これらに限定されるものではない)の無毒性のアンモニウム、四級アンモニウムおよびアミンカチオン類などがある。望ましくは、「製薬上許容される酸付加塩」は、本明細書に記載のいずれかの化合物の一、二、三もしくは四酸付加塩である(例えば、本明細書に記載のいずれかの化合物の一、二、三もしくは四塩酸塩)。
【0083】
本明細書で使用される場合の「ホスフェート」という用語は、式-OP(=O)(OR′)(OR″)を有する5価のリン基(各R′およびR″は独立に、水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-10シクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリールから選択される)を指す。
【0084】
ある基が「置換されていても良い」と記述されている場合、適宜の置換基は、独立にC1-6アルキル;ハロゲン;アジド(-N3)、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、アシルオキシ、アシル(-C(O)R)、(-OC(O)R)、アルコキシ(-OR)、アミド(-NRC(O)R′または-C(O)NRR′)、アミノ(-NRR′)、アリール、カルボン酸(-CO2H)、カルボン酸エステル(-CO2R)、カルバモイル(-OC(O)NRR′または-NRC(O)OR′)、シクロアルキル、複素環、ヒドロキシ(-OH)、イソシアノ(-NC)、ホスフェート(-P(O)(OR)(OR′))、スルホネート(-SO2OR)、またはスルホニル(-SO2R)(各RまたはR′は独立に、H、C1-6アルキル、シクロアルキル、複素環、アリールまたはヘテロアリールから選択される)など(これらに限定されるものではない)の基から選択することができる。置換される基は例えば1、2、3、4、5、6、7、8または9個の置換基を有することができる。一部の実施形態において、置換基自体が、水素を本明細書に記載のものなどの置換基で置き換えることでさらに置換されていても良い。
【0085】
「ベクター」とは、特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓または筋肉)中に、またはBBBを通過して輸送され得るポリペプチドのような化合物または分子を意味する。ベクターは、薬剤に結合しているか(共有結合的にまたは共有結合的ではなく)、コンジュゲートしていることができ、それによって特定の細胞型中に、またはBBBを通過してその薬剤を輸送することができる。ある種の実施形態において、ベクターは、癌細胞または脳の内皮細胞上に存在する受容体に結合することで、癌細胞中に、またはトランスサイトーシスによってBBBを通過して輸送され得る。ベクターは、細胞や血液脳関門の完全性に影響を及ぼすことなく高レベルの経内皮輸送が得られる分子であることができる。ベクターはポリペプチドまたはペプチド模倣薬であることができ、天然物であるか化学合成もしくは遺伝子組換え技術によって製造することができる。
【0086】
「複合体」とは、薬剤に連結されたベクターを意味する。コンジュゲーションは、リンカーを介するような化学的なものであってもよく、または、例えば、リポーター分子(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、Histagなど)との融合タンパク質のような遺伝子組み換え技術による遺伝学的なものであってもよい。
【0087】
「効率的にBBBを通過して輸送される」ベクターとは、少なくともAngioPep-6と同等に効率的に(すなわち、本明細書に記載のイン・サイツ脳潅流アッセイでAngioPep-1(250nM)の38.5%より大きい)、BBBを通過することができるベクターを意味する。従って、「効率的にBBBを通過して輸送されない」ベクターまたは複合体は、それより低いレベルで脳に輸送される(例えば、AngioPep-6より低い効率で輸送される)。
「特定の細胞型に効率的に輸送される」ベクターまたは複合体とは、対照物質より、または複合体の場合には、複合体化していない薬剤と比較して少なくとも10%(例えば、25%、50%、100%、200%、500%、1000%、5000%または10000%)大きい程度で、その細胞型に蓄積する(例えば、細胞への輸送増加、細胞からの流出低下、またはそれらの組み合わせが原因で)ことができるベクターまたは複合体を意味する。
【0088】
「実質的に純粋な」または「単離された」とは、他の化学成分から分離された化合物(例えば、ポリペプチドもしくは複合体)を意味する。代表的には、少なくとも30重量%他の成分を含まない場合、化合物は実質的に純粋である。ある種の実施形態において、調製物は、重量で少なくとも50%、60%、75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%他の化合物を含まない。精製されたポリペプチドは、例えば、このようなポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドの発現によって、またはポリペプチドの化学合成によって得ることができる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0089】
「アナログ」とは、元の配列または元の配列の部分に由来し、1個以上の修飾;例えば、アミノ酸配列中の1個以上の修飾(例えば、アミノ酸付加、欠失、挿入または置換)、1以上のアミノ酸の主鎖または側鎖中の1以上の修飾、または1以上のアミノ酸(側鎖または主鎖)への基または別の分子の付加を含むポリペプチドを意味する。アナログは、ポリペプチドの片方もしくは両方の末端に、またはポリペプチドのアミノ酸配列内に1以上のアミノ酸挿入を有していても良い。アナログは、元の配列または元の配列の部分と配列類似性および/または配列同一性を有しても良い(例えば、実質的に同一であって良い)。アナログは、例えば本明細書に記載の、その構造の修飾を含むことができる。二つの配列間の類似性の程度は、同一性(同一アミノ酸)および保存的置換のパーセントに基づく。アナログは、アミノ酸の主鎖または側鎖中の1以上の修飾、または基もしくは別の分子の付加とともに、元の配列に対して少なくとも35%、50%、60%、70%、80%、90%または95%(例えば、96%、97%、98%、99%および100%)の配列類似性を有することができる。他のアミノ酸に類似であるとされるアミノ酸の例(保存されたアミノ酸)は当技術分野において公知であり、それには、例えば、表3に列挙されるものが含まれる。
【0090】
「実質的に同一の」とは、基準のアミノ酸または核酸配列に対して少なくとも35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、85%、90%、95%または99%もの同一性を示すポリペプチドまたは核酸を意味する。ポリペプチドでは、比較配列の長さは、少なくとも4(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、50または100)アミノ酸である。核酸では、比較配列の長さは、少なくとも60ヌクレオチド、好ましくは少なくとも90ヌクレオチド、およびさらに好ましくは少なくとも120ヌクレオチド、または全長である。理解すべき点として、元のポリペプチドのアミノ酸と同一または類似であるアナログのアミノ酸間にギャップが見出される。ギャップは、アミノ酸を含まないか、元のポリペプチドと同一または類似でない1以上のアミノ酸を含んでよい。本発明のベクター(ポリペプチド)の生物活性アナログは、これとともに包含される。同一性パーセントは、例えば、Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0のアルゴリズムであるGAP、BESTFITまたはFASTAで、デフォルトギャップウエイトを使用して求めることができる。
【0091】
「機能的誘導体」とは、本発明のベクターまたは物質または複合体およびその塩の生理活性配列または部分の「化学誘導体」、「断片」または「変異体」を意味する。ベクターの機能的誘導体は、物質に取り付けるかまたはコンジュゲートすることが可能であり、かつ特定の細胞型に進入し、それによってその物質を細胞内に輸送することが可能である。
【0092】
「化学誘導体」とは、共有結合による修飾を含む、ベクター、物質またはベクター-物質複合体の部分でない追加の化学部分を含有する本発明のベクター、物質または複合体を意味する。化学誘導体は、当技術分野において公知の方法を使用して直接化学合成することによって製造することができる。そのような修飾は、選択側鎖または末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と、標的のアミノ酸残基を反応させることによってタンパク質またはペプチドベクター、物質、またはベクター-物質複合体に導入することができる。ベクターの化学誘導体は、BBBを通過するかまたは特定の細胞型(例えば、卵巣などの本明細書中に記載のもの)に進入するかもしくはそこに蓄積することが可能である。好ましい実施形態では、BBBを通過する非常に高レベルの経内皮輸送が、BBBの完全性に影響することなく達成される。
【0093】
「断片」とは、元の配列もしくは親配列の部分またはその親配列のアナログに由来するポリペプチドを意味する。断片は、1以上のアミノ酸の切断を有するポリペプチドを包含し、その切断はタンパク質のアミノ末端(N末端)、カルボキシ末端(C末端)に由来するか、またはタンパク質の内部に由来することができる。断片は元の配列の対応する部分と同一の配列を含んでよい。本明細書中に記載のベクター(ポリペプチド)の機能的断片は本発明によって包含される。断片は、少なくとも5(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、25、28、30、35、40、45、50、60、75、100、または150)アミノ酸であることができる。本発明の断片は、例えば、7、8、9または10アミノ酸から18アミノ酸のポリペプチドを含んでいることができる。断片は、本明細書中に記載の任意の修飾(例えば、アセチル化、アミド化、アミノ酸置換)を含有していても良い。
【0094】
「非天然アミノ酸」は、哺乳類で天然に生産されないかまたは見出されないアミノ酸である。
【0095】
「物質(薬剤)」とは、任意の化合物、例えば抗体、または治療剤、マーカー、トレーサー、または造影剤化合物を意味する。
【0096】
「治療剤」とは、生理活性を有する物質を意味する。場合により、治療剤は、疾患の徴候、身体的または精神的状態、傷害、または感染を治療するために使用され、それには、抗癌剤、抗生物質、抗血管新生物質、および中枢神経系のレベルで活性な分子が含まれる。
【0097】
「小分子薬物」とは、1000g/mol以下(例えば、800、600、500、400または200g/mol未満)の分子量を有する薬物を意味する。
【0098】
「対象者」とは、ヒトまたは非ヒト動物(例えば哺乳類)を意味する。
【0099】
対象者での疾患、障害または状態を「治療する」とは、治療薬を対象者に投与することで、その疾患、障害または状態の少なくとも一つの症状を軽減することを意味する。
【0100】
対象者での疾患、障害または状態を「予防的に処置する」とは、治療薬を対象者に投与することで、その疾患、障害または状態の発生頻度を低下させる(例えば、予防する)ことを意味する。
【0101】
「癌」とは、無秩序な増殖、分化の欠如、または組織に侵入しかつ転移する能力を生じさせうる、正常な制御の喪失がその特有の形質である細胞の増殖を意味する。癌は、あらゆる組織またはあらゆる臓器において発症し得る。癌には、非限定的に、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓または脾臓の癌などがあるが、これらに限定されるものではない。別の癌については、本明細書中に記載されている。
【0102】
「提供する」とは、本発明のベクターまたは複合体の関連で、ベクターまたは複合体を標的細胞または組織とイン・ビボまたはイン・ビトロで接触させることを意味する。ベクターまたは複合体を対象者に投与することによってベクターまたは複合体を提供することができる。
【0103】
「投与する」および「投与」とは、送達の形態を意味し、それには、動脈内、鼻腔内、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、経皮または経口の形態などがあるが、これらに限定されるものではない。一日量は、一定期間を通して1回、2回またはそれ以上の回数で投与されるために好適な形式で1、2またはそれ以上の用量に分割することができる。
【0104】
「治療上有効な」または「有効量」とは、治療対象の疾患または症状の任意の徴候を改善し、減少させ、予防し、遅延させ、抑制し、または停止させるために十分な治療剤の量を意味する。物質の治療有効量は疾患または症状を治癒する必要はないが、疾患または症状の治療を提供して、疾患または症状の発症を遅延させ、妨害し、または予防するか、または疾患または症状の徴候を軽減するか、または疾患または症状の期間を変化させるか、または、例えば、あまり重度を下げるか、個体において回復を早めるものである。「治療量以下の用量」は、患者による臨床的使用に承認されている治療薬の最小有効量未満の用量である。「治療量より大きい用量」は、患者による臨床的使用に承認されている治療薬の最大有効量より大きい用量である。治療量以下の用量または治療量より大きい用量の量は、患者の人口統計(例えば、成人、小児または老人)または別の治療薬の投与と組み合わせて使用する時点(例えば、癌化学療法などの他の治療薬または治療法と同時に投与する場合)に応じて変動し得る。
【0105】
「状態(障害)」とは、個体に対してまたは個体において、疼痛、不快感、病気、疾患または能力障害(精神的または身体的)を引き起こす状況を意味し、それには、神経系疾患、傷害、感染、または慢性または急性痛などがある。神経系疾患には、脳腫瘍、脳転移、統合失調症、癲癇、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および発作などがある。
【0106】
「医薬組成物」とは、製薬上許容される希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、または補助剤、例えば本明細書中に記載のものを伴う治療有効量の物質を意味する。
【0107】
「治療用量」とは、毒性または効力に関して臨床使用に許容される、物質、例えば薬物(ベクターを含まない)の用量を意味する。物質を本発明のベクターにコンジュゲートすることによって、治療用量より低用量または高用量の当該物質を投与することが可能である。
【0108】
特定の特徴(例えば、温度、濃度、時間等)に関して「範囲」または「物質の群」が記載される場合、本発明は、それぞれおよびすべての具体的な構成員およびその部分的な範囲または部分的な群の組み合わせに関するものであり、それらを明示的にここに組み入れる。従って、例えば、9から18アミノ酸の長さに関して、それぞれおよびすべての個々の長さ、例えば、18、17、15、10、9、およびそれらの間の任意の数の長さがここに明確に組み入れられると理解されるものとする。従って、具体的な言及がない限り、本明細書中に記載のすべての範囲は両端を含むと理解されるものとする。例えば、5から19アミノ酸長という表現には、5および19が含まれるものとする。このことは、他のパラメータ、例えば配列、長さ、濃度、要素などに関しても同様に適用される。
【0109】
本明細書中で定義される配列、領域、部分は、それぞれ、それによって記載されるそれぞれおよびすべての個々の配列、領域、および部分ならびにそれぞれおよびすべての可能な下位配列、下位領域および下位部分を含み、そのような下位配列、下位領域および下位部分が、明確に特定の可能性を含むか、特定の可能性を除外するか、またはその組み合わせとして定義されるかどうかにかかわらない。例えば、領域に関する排他的定義は以下のように規定されうる:「そのポリペプチドが、4、5、6、7、8または9アミノ酸より短くないことを条件とする」。消極的な限定の別の例には、配列番号Yのポリペプチドを除いて配列番号Xを含む配列などがある。消極的限定の別の例は、そのポリペプチドは配列番号Zではない(配列番号Zを含まないかまたは配列番号Zからなるものではない)ことを条件とするというものである。
【0110】
本発明の他の特徴および利点については、下記の「発明を実施するための形態」、図面および特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】ドキソルビシン-An2(3:1)(「ドキソルビシン-An2(3:1)」)複合体を用いる皮下U87(s.c.U87)異種移植腫瘍増殖の阻害を示す図である。
【図2A】イン・サイツ脳潅流によって測定される3:1エトポシド:Angiopep-2複合体(「Etop-An2(3:1)」)の脳取り込みを示す図である。
【図2B】イン・サイツ脳潅流によって測定される3:1エトポシド4′-ジメチルグリシン:Angiopep-2複合体(「EtopDMG-An2(3:1)」)の脳取り込みを示す図である。
【図2C】イン・サイツ脳潅流によって測定されるドキソルビシン-An2(3:1)の脳取り込みを示す図である。
【図3】Etop-An2(3:1)のイン・サイツ潅流を示す図である。
【図4A】Etop-An2(3:1)と比較した複合体化していないエトポシドの実質取り込みを示す図である。
【図4B】脳毛細血管欠乏後のEtop-An2(3:1)の脳再区分を示す図である。
【図5】CD-1対P-gpノックアウトマウスでの複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)のイン・サイツ脳潅流を示す図である。
【図6】Angiopep-2によるEtop-An2(3:1)の脳取り込みの阻害を示す図である。
【図7】CD-1対P-gpノックアウトマウスでの複合体化していないEtopDMGと比較したEtopDMG-An2のイン・サイツ脳潅流を示す図である。
【図8】Etop-An2(3:1)の血漿動態に関するデータを示す図である。
【図9】マウスにおけるIVボラス投与後のEtopDMG-An2の脳分布を示す図である。
【図10】Etop-An2(3:1)の脳分布を示す図である。
【図11】IVボラス投与から30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の脳分布を示す図である。
【図12】IVボラス投与から30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の組織分布を示す図である。
【図13A】U87膠芽細胞腫細胞を頭蓋内注射したマウスでの(DoxSu)3-An2のイン・ビボ効果を示すものであり、第1の試験(試験1)で得られた結果を示す図である。
【図13B】U87膠芽細胞腫細胞を頭蓋内注射したマウスでの(DoxSu)3-An2のイン・ビボ効果を示すものであり、化合物(2)の投与によって平均生存時間に統計的に有意な延長が生じることを示す第2の試験(試験2)で得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
本発明は、本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、配列番号1から105および107から116)と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物またはそれの製薬上許容される塩またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸から抗癌剤(例えば、ポドフィロトキシン誘導体、ドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体)への共有結合を含むものを特徴とする。ポドフィロトキシン誘導体の例には、例えば下記式(I)による構造を有する化合物またはそれの立体異性体もしくは製薬上許容される塩などがある。
【化26】
【0113】
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8(例えば、C(O)CH2N(CH3)2)、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキル(例えば、CH2N(CH3)2)または置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
nは2、3または4であり;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つがYである。一部の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの1個以下がYである。一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-である。一部の実施形態において、各R2はHまたはC(O)CH2N(CH3)2である。ある種の実施形態において、ポリペプチドは、本明細書に記載のポリペプチドと少なくとも35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%もの同一性を有することができる。ポリペプチドは、本明細書に記載の配列のうちの一つと比較して、1以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の)置換を有することができる。ある種の実施形態において、前記アミノ酸配列は、前記アミノ酸配列の第2、第3、第4、第5または第6のアミノ酸を介して、アミノ酸配列のいずれかの位置で、別のポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)に共有結合的に結合している。
【0114】
本発明の化合物の例には、(配列番号97)によるポリペプチド配列を有するものなどがあるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態において、前記化合物は下記の構造を有する。
【化27】
【0115】
式中、各(-式(I))は、指定されたアミノ酸と式(I)の化合物の間の共有結合を表す。ある種の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化28】
【0116】
式中、nは1、2または3であり、R6はCH3または2-チエニルであり、R2はH、-OP(O)(OH)2または-C(O)CH2N(CH3)2である。一部の実施形態において、nは3であり、R6はCH3であり、R2はHである。他の実施形態において、nは3であり、R6はCH3であり、R2は-C(O)CH2N(CH3)2である。
【0117】
他の実施形態について、下記により詳細に説明する。
【0118】
ポドフィロトキシン誘導体
ポドフィロトキシン誘導体には、式(I)によって記載されるものなどの化合物などがあり、例えばエトポシド、テニポシドおよびそれらの誘導体またはそれらの製薬上許容される塩である。ポドフィロトキシン誘導体は治療薬の例であり、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-2)におけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。これらの化合物は、例えば、抗悪性腫瘍活性を有することができ、トポイソメラーゼIIの活性を阻害することができ、または抗ウィルス活性を有することができる。
【0119】
エトポシドおよびエトポシド誘導体
エトポシド(トポサール(Toposar)、ベペシド(Vepesid)またはVP16とも称される)は、下記の構造を有するポドフィロトキシン誘導体である。
【化29】
【0120】
エトポシドの化学構造を変えることで、エトポシド誘導体を得ることができる。エトポシド誘導体の例としては、フェノール性-OHが-OP(O)(OH)2で置き換わっているエトポシドホスフェート(ETOPOPHOS;登録商標)またはそれの製薬上許容される塩(例えば、-OP(O)(ONa)2)がある。エトポシドホスフェートは、エトポシドと比較して水溶解度が高くなっている。
【0121】
他のエトポシド誘導体には、下記の化合物のようなフェノール性-OHがアシルオキシ基(例えば、本明細書に記載の-OC(O)R8)と置き換わっているものなどがある。
【化30】
【0122】
(「エトポシド4′-ジメチルグリシン」または「エトポシドDMG」)
これらのアシル化エトポシド誘導体も、本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合している場合に、エトポシドと比較して改善された水溶解度を示すことができる。
【0123】
加水分解性共有結合リンカーYを例えば分子の2″ヒドロキシルまたは3″ヒドロキシルに結合させることで、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはそれらの誘導体を、ポリペプチド中のアミノ酸に共有結合的に結合させることができる。例示的なリンカーは、ジカルボン酸、例えばコハク酸、グルタル酸および酪(butaric)酸またはそれの無水物から誘導することができる。さらに、共有結合リンカーは、フェノール-OH基でエトポシドまたはそれの誘導体に結合させることができる。
【0124】
エトポシド誘導体は、下記式によって記述することができるか、それの立体異性体である。
【化31】
【0125】
式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)またはS(O)2(OR9)から選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたはC(O)R8から選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択される。
【0126】
本発明の化合物が式(I)によるエトポシド誘導体を含む場合、R1からR6のうちの一つが、本明細書に記載の加水分解性リンカーYを含む。一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。R2がC(O)R8である例示的な非限定的実施形態では、R8は、アミノ置換基を含み、適宜の別の置換基を有するC1-6アルキルであることができる。一部の実施形態において、C(O)R8はC-連結α-アミノ酸である。C-連結α-アミノ酸は、天然または非天然アミノ酸であることができる。
【0127】
本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合していることができる他の例示的な式(I)のポドフィロトキシン誘導体には、テニポシドおよびNK611などがある(図式3)。
【0128】
図式3
【化32】
【0129】
別のポドフィロトキシン誘導体
本発明での使用に好適なさらに別のポドフィロトキシン誘導体が、米国特許第4567253号;同4609644号;同4900814号;同4958010号;同5489698号;同5536847号;同5571914号;同6051721号;同6107284号;同6475486号;同6610299号;同6878746号;同6894075号;同7087641号;同7176236号;同7241595号;同7342114号;および同7378419号;ならびに米国特許公開第20030064482号、同20030162722号、同20040044058号、同20060148728号および同20070249651号(これらはそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0130】
例えば、米国特許第7176236号に記載のエトポシド誘導体は、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-2)におけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。従って、1実施形態において、本発明の化合物は下記式(I)による構造を含む。
【化33】
【0131】
式中、
R2およびYは式(I)について記載の通りであり;
X2は、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CH=N-または-CH2NH-であり;
X3はOR2またはN(R2)2であり;
Z1は共有結合、-NHCO-、-CONH-、-OCO-または-COO-であり;
Z2は共有結合-(CH2)oR15であり、または-(CH2)o5から8員環としてZ2に組み込まれており;
R14は、共有結合または置換されていても良いアルキル、アルケニルまたはフェニルであり;
R15は、置換されているアルキル、置換されているアルケニルまたは置換されているアリールであり、前記置換されている基は少なくとも1個のアミノ基を含む。
【0132】
一部の実施形態において、X3は-OH、-OC(O)CH2NH2、-OC(O)CH2NHCH3または-OC(O)CH2N(CH3)2である。他の実施形態において、Xは-NH-である。一部の実施形態において、-R14-Z1-Z2-は-(p-C6H4-R16)-であり、R16は-NO2、-F、-CONHCH2CH2C6H5または-CONHCH2CH2(p-C6H4OH)である。
【0133】
式(I)または(I-A)の化合物において、基OR2は-OC(O)R8であることができる。
【0134】
一部の実施形態において、使用される式(I)の化合物またはそれの製薬上許容される塩によって、物理化学的特性(例えば、溶解度)を改善することができる。例えば、溶解度の上昇が望まれる場合、式(I)の化合物は好ましくはエトポシドDMGである。
【0135】
ドキソルビシン誘導体
一部の実施形態において、抗癌剤はドキソルビシン(ヒドロキシダウノルビシンまたはアドリアマイシン(登録商標))またはエピルビシン(エレンス(登録商標)またはファルモルビシン(登録商標))などのドキソルビシン誘導体またはそれらの製薬上許容される塩である。これらの例示的化合物の構造を図式4に示してある。ドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体は、共有結合的に例えば14-ヒドロキシル基に結合している本明細書で定義の加水分解性共有結合リンカーYを介して本明細書に記載のポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。
【0136】
図式4
【化34】
【0137】
ドキソルビシン誘導体は、概して下記式(II)によって記述することができる。
【化35】
【0138】
式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択され、本明細書で定義の加水分解性リンカーYである。
【0139】
式(II)の化合物が本明細書に記載のポリペプチドに結語している場合、R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの一つがYである。ある種の実施形態において、R21はYである。式(II)の化合物には、式(II-A)による構造を有する化合物などがある。
【化36】
【0140】
式中、
Yは、本明細書に記載の加水分解性リンカーであり;X2R18はHまたはNH2であり;X3R19はHまたはOHであり;X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルである。一部の実施形態において、加水分解性リンカーYは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、式(II)の化合物は下記のものである。
【化37】
【0141】
他のドキソルビシン誘導体は、米国特許第4098884号、同4301277号、同4314054号、同4464529号、同4585859号、同4672057号、同4684629号、同4826964号、同5200513号、同5304687号、同5594158号、同5625043号および同5874412号(これらはそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0142】
一部の実施形態において、使用される式(II)の化合物またはそれの製薬上許容される塩によって、物理化学的特性(例えば、溶解度)を改善することができる。例えば、溶解度の上昇が望まれる場合、式(II)の化合物は好ましくはドキソルビシンの塩酸塩である。
【0143】
Angiopep-2に加えて、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、NK611および他の式(I)および(I-A)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシン、エピルビシンおよび他のドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)を、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7)にコンジュゲートすることもできる。エステル基を含むリンカーなどの加水分解性リンカーを用いて、ポリペプチド(例えば、本明細書に記載の実施例1)に抗癌剤(例えば、ポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシン誘導体)を共有結合的に結合させることができる。エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、それの他のポドフィロトキシン誘導体、ドキソルビシン、エピルビシンおよび他のドキソルビシン誘導体は、複数の戦略上重要な位置を有する(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェートおよびエトポシドDMGの2″および3″ヒドロキシルおよびドキソルビシンおよびエピルビシンの14ヒドロキシル)。例えば、2官能基(例えば、コハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸もしくは酪(butaric)酸から誘導される試薬またはそれらの無水物)を、2″ヒドロキシルでエトポシドに、または14ヒドロキシルでドキソルビシンに結合させることができる。次に、これらの例示的な中間体を、BTTUなどのペプチドカップリング試薬で活性化し、ポリペプチドで処理することができる。他のペプチドカップリング剤には、カルボジイミド類(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(EDC-HCl))、トリアゾール類(例えば、1-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール(HOBt)および1-ヒドロキシ-7-アザ-ベンゾトリアゾール(HOAt))、O-ベンゾトリアゾール-N,N,N′,N′-テトラメチル-ウロニウム-ヘキサフルオロ-ホスフェート(HBTU)、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、2-(1H-9-アゾベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート(HATU)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(BOP試薬)およびベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)および3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(DEPBT)などの関連するベンゾトリアゾールペプチドカップリング剤などがある。次に、複合体を精製することができる。この合成手順の各中間体または生成物を、HPLC、薄層クロマトグラフィー、NMR(13Cまたは1H交換)、融点、質量分析などの各種手法を用いて精製およびバリデーションすることができる。最終の複合体を、質量分析およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析する。これによって、各ベクターにコンジュゲートしている(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、ドキソルビシンまたはエピルビシンの)分子数を求めることができる。
【0144】
加水分解性リンカー
式(I)の化合物が加水分解性リンカーYによってポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している場合、そのリンカーはR1、R2、R3、R4、R5またはR7に位置することができる。同様に、式(II)の化合物が加水分解性リンカーYによってポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している場合、そのリンカーはR17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちのいずれかに位置することができる。例示的な非限定的加水分解性リンカーは、ジカルボン酸、ジカーボネート、カルボン酸無水物、ジイソシアネートまたはジホスホン酸から製造することができる。本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれかにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している式(I)または(II)の化合物を含む化合物は、下記式によっても記述することができる。
【0145】
D-G-X-G′-A (III)
式中、各GおよびG′は、独立に-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-S(O)2O-、-OS(O)2-、-S(O)2NH-、-NHS(O)2-および-OP(O)(OR11)O-から選択される基であり;
Gは、Dに共有結合的に結合しており、Dはポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)またはドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)であり;
G′は、Aに共有結合的に結合しており、Aは本明細書に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸(例えば、表1に記載のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体)であり;
Xは、-(置換されていても良いアリール)-、-(CR12R13)n-、-O{(CR12R13)2O}n-、-{(CR12R13)2O(CR12R13)2}n-または-(CR12R13)oY(CR12R13)p-であり、各n、oおよびpは独立に、1から10の整数であり;
R11はHまたは低級C1-6アルキルであり;
R12およびR13はそれぞれ、独立にH、OHまたは低級C1-6アルキルから選択され;
Yは、O、NH、N(低級C1-6アルキル)または-置換されていても良いアリールである。
【0146】
各n、oおよびpは、独立に1、2、3、4、5、6、7、8、9または10であることができる。
【0147】
一部の実施形態において、式(III)におけるG-X-G′部分は、-C(O)CH2C(O)-、-C(O)(CH2)2C(O)-、-C(O)(CH2)3C(O)-、-C(O)(CH2)4C(O)-、-C(O)(CH2)5C(O)-、-C(O)(CH2)6C(O)-、-C(O)(OCH2CH2)OC(O)-、-C(O)(OCH2CH2)2OC(O)-、-C(O)(OCH2CH2)3OC(O)-および-C(O)(OCH2CH2)4OC(O)-から選択される。
【0148】
ポリペプチド
本発明の化合物で有用なアミノ酸配列の例には、表1に記載のアミノ酸配列などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0149】
表1に記載のアミノ酸配列に加えて、本発明はまた、これらのアミノ酸配列の断片(例えば機能的断片)を特徴とする。特定の実施形態では、断片は、特定の細胞型(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓、または筋肉)中に進入するかまたは特定の細胞型中で蓄積することが可能であるか、またはBBBを通過することが可能である。ポリペプチドの切断は、ポリペプチドのN末端から、ポリペプチドのC末端から、またはその組み合わせの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、またはそれ以上のアミノ酸であることができる。他の断片としては、ポリペプチドの内部部分が欠失している配列が挙げられる。
【0150】
米国特許出願公開第2006/0189515号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のアッセイまたは方法の一つを使用することによって、または当技術分野において公知の方法によって、追加の本発明のポリペプチドを確認することができる。例えば、ベクター候補を慣用のポリペプチド合成によって製造し、例えば式(I)もしくは(II)の化合物とコンジュゲートし、実験動物に投与することができる。生理活性ベクターを、例えば、腫瘍細胞を注射されかつその複合体で治療された動物の生存を、複合体で治療されていない(例えばコンジュゲートされていない物質で治療された)対照と比較して増加させるその効力に基づいて確認することができる。
【0151】
別の例では、本発明の生理活性ポリペプチドを、イン・サイツ脳潅流アッセイにおける実質中のその位置に基づいて確認することができる。イン・ビトロBBBアッセイ、例えばCELLIAL(商標名)Technologiesによって開発されたモデルを使用して、そのようなベクターを特定することができる。
【0152】
他の組織中の蓄積を求めるためのアッセイを同様に実施することができ、アッセイの例については本明細書に記載されている。本発明の標識されたポリペプチドを動物に投与して、異なる臓器中の蓄積を測定することができる。例えば、検出可能な標識(例えば、近赤外蛍光分光標識、例えばCy5.5)にコンジュゲートされたポリペプチドによって、生存イン・ビボ可視化が可能となる。そのようなポリペプチドを動物に投与して、臓器中のポリペプチドの存在を決定することができることから、所望の臓器中のポリペプチドの蓄積の割合および量の測定を行うことができる。他の実施形態では、放射性同位体(例えば125I)で本発明のポリペプチドを標識することができる。そしてそのポリペプチドを動物に投与する。一定期間後、動物を犠牲にして、動物の臓器を摘出する。そして当技術分野において公知の任意の手段を使用して各臓器中の放射性同位体の量を測定することができる。標識された対照の量と、特定の臓器中の標識された候補ポリペプチドの量を比較することによって、候補ポリペプチドの能力、特定の組織での候補ポリペプチドの蓄積の割合または量を確認することができる。適切な陰性対照には、特定の細胞型内に輸送されないことが知られている任意のポリペプチドなどがある。
【0153】
例えば、Angiopep-1(配列番号67)およびAngiopep-2(配列番号97)のアミン基を、物質のコンジュゲーションの部位として用いることができる。コンジュゲーションにおけるアミン基の役割およびこれらベクターの全体的な輸送能力における影響を調べるため、Angiopep-1およびAngiopep-2配列に基づいて他のベクターが開発されている。これらのベクターは、反応性アミン基が異なり、全体の電荷が異なっている。これらのポリペプチドを表2に示してある。
【0154】
表2:可変のアミン基標的を有するベクター
【表2】
【0155】
修飾ポリペプチド
本発明はまた、本明細書中に記載のアミノ酸配列の修飾を有するポリペプチド(例えば、Angiopep-3、-4a、-4b、-5、-6、または-7等の配列番号1から105および107から116のいずれかに記載の配列を有するポリペプチド)を含み、ポリペプチドは式(I)または(II)の化合物に共有結合的に結合しているアミノ酸を含む。特定の実施形態では、修飾は所望の生理活性を顕著には破壊しない。いくつかの実施形態では、修飾は生理活性の(例えば、少なくとも5%、10%、20%、25%、35%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%の)低減を生じさせる。他の実施形態では、修飾は生理活性に対して影響を有さないか、または元のポリペプチドの生理活性を(例えば、少なくとも5%、10%、25%、50%、100%、200%、500%または1,000%)増加させる。修飾ポリペプチドは、ある場合に必要であるかまたは望ましい本発明のポリペプチドの1以上の特性を有するか、または最適化する。そのような特性には、イン・ビボでの安定性、生物学的利用能、毒性、免疫学的活性、または免疫学的同一性などがある。
【0156】
本発明のポリペプチドは、翻訳後プロセシング等の天然のプロセシングによって、または当技術分野において公知の化学修飾技術によって修飾されたアミノ酸または配列を含んでよい。修飾は、ポリペプチド主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシ末端を含むポリペプチド中のどこかに存在してよい。所定のポリペプチド中のいくつかの部位で同程度または多様な程度に同種の修飾を存在させてよく、ポリペプチドは2種以上の種類の修飾を含有してよい。ポリペプチドは、ユビキチン結合の結果、分岐していてよく、それは分岐を有するか有さない環状ポリペプチドであってよい。環状、分岐、および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後の天然プロセシングから生じるか、または合成によって製造することができる。他の修飾には、ペグ化、アセチル化、アシル化、アセトミドメチル(acetomidomethyl)(Acm)基の付加、ADP-リボシル化、アルキル化、アミド化、ビオチニル化、カルバモイル化、カルボキシエチル化、エステル化、フィアビン(fiavin)への共有結合性結合、ヘム部分への共有結合性結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合性結合、薬物の共有結合性結合、マーカー(例えば蛍光または放射性マーカー)の共有結合性結合、脂質または脂質誘導体の共有結合性結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合性結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル、共有結合性架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニル化およびユビキチン結合等の、タンパク質に対するアミノ酸のトランスファー-RNA介在付加などがある。
【0157】
本発明の修飾ポリペプチドは、ポリペプチド配列中に、保存的または非保存的(例えば、D-アミノ酸、デスアミノ酸(desamino acids))なアミノ酸挿入、欠失、または置換をさらに含んでよい(例えば、そのような変化が該ポリペプチドの生理活性を実質的に変化させない場合)。
【0158】
例えば、一部の実施形態において、ペプチドのN末端、ペプチドのC末端または両方で1以上の別のシステイン残基を挿入することで、アミノ酸配列(例えば、配列番号1から105または107から116)を修飾する。本明細書に記載のアミノ酸配列のアミノ末端またはカルボキシ末端への1以上のシステイン残基の付加により、例えばジスルフィド結合による核酸(例えば、siRNA分子)または脂質ベクターへのこれらポリペプチドのコンジュゲーションを促進することができる。例えば、Angiopep-1(配列番号67)、Angiopep-2(配列番号97)またはAngiopep-7(配列番号112)を修飾することで、アミノ末端に単一のシステイン残基(それぞれ配列番号71、113および115)またはカルボキシ末端に単一のシステイン残基(それぞれ配列番号72、114および116)を含めることができる。
【0159】
置換は保存的(すなわち、残基が別の同一の一般的種類または基によって置換される)または非保存的(すなわち、残基が別の種類のアミノ酸によって置換される)である。さらに、天然に存在するアミノ酸の代わりに天然に存在しないアミノ酸を使用してよい(すなわち、天然に存在しない保存的アミノ酸置換または天然に存在しない非保存的アミノ酸置換)。
【0160】
合成によって作製されるポリペプチドに、DNAによって天然にコードされないアミノ酸(例えば、天然に存在しない、すなわち非天然アミノ酸)の置換を含んでよい。天然に存在しないアミノ酸の例には、D-アミノ酸、システインの硫黄原子に結合しているアセチルアミノメチル基を有するアミノ酸、ペグ化アミノ酸、式:NH2(CH2)nCOOH(式中、nは2から6である)のオメガアミノ酸、中性非極性アミノ酸、例えばサルコシン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、およびノルロイシンが含まれる。フェニルグリシンは、Trp、Tyr、またはPheの代わりになり;シトルリンおよびメチオニンスルホキシドは中性非極性であり、システイン酸は酸性であり、オルニチンは塩基性である。プロリンをヒドロキシプロリンで置換し、特性を付与するコンフォメーションを保持することができる。
【0161】
置換的突然変異誘発によってアナログを作製し、元のポリペプチドの生理活性を保持することができる。「保存的置換」として特定される置換の例を表3に示す。そのような置換が望ましくない変化を生じさせる場合、表3中の「代表的な置換」と称される他の種類の置換、またはアミノ酸クラスに関して本明細書中でさらに記載される他の種類の置換を導入し、生成物をスクリーニングする。
【0162】
機能または免疫学的同一性の実質的改変は、(a)例えばシートまたは螺旋(ヘリカル)コンフォメーションである、置換の領域におけるポリペプチド主鎖の構造、(b)標的部位での分子の荷電または疎水性、または(c)側鎖の容積、の維持に関するその影響が顕著に異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は共通の側鎖特性に基づく群に分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン(Met)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、
(2)中性親水性:システイン(Cys)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)
(3)酸性/負電荷:アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)
(4)塩基性:アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)
(5)鎖の向きに影響する残基:グリシン(Gly)、プロリン(Pro);
(6)芳香族:トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、
(7)極性:Ser、Thr、Asn、Gln
(8)塩基性正電荷:Arg、Lys、His、および;
(9)荷電:Asp、Glu、Arg、Lys、His。
【0163】
他の保存的アミノ酸置換を表3に列挙する。
【0164】
表3
【表3】
【0165】
追加のポリペプチドアナログ
本発明の化合物は、当業界で公知のアプロチニンのポリペプチドアナログを含むことができ、そのアナログにはポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)に共有結合的に結合しているアミノ酸などがある。例えば、米国特許第5807980号では、配列番号102のポリペプチドを含む、ウシ膵臓トリプシン阻害薬(アプロチニン)由来の阻害薬ならびにその製造方法および治療上の使用が記載されている。これらのポリペプチドは、異常な血栓症等の組織因子および/または因子VIIIaの異常な出現または量を特徴とする症状の治療に使用されている。米国特許第5780265号では、配列番号103を含む、血漿カリクレインを阻害可能なセリンプロテアーゼ阻害薬が記載されている。米国特許第5118668号では、配列番号105を含む、ウシ膵臓トリプシン阻害薬変異体が記載されている。アプロチニンのアミノ酸配列(配列番号98)、Angiopep-1アミノ酸配列(配列番号67)、および配列番号104、ならびにいくつかの生理活性アナログ配列が国際出願公開第WO2004/060403号にある。
【0166】
アプロチニンアナログをコードする典型的なヌクレオチド配列は配列番号106に示される(atgagaccag atttctgcct cgagccgccg tacactgggc cctgcaaagc tcgtatcatc cgttacttct acaatgcaaa ggcaggcctg tgtcagacct tcgtatacgg cggctgcaga gctaagcgta acaacttcaa atccgcggaa gactgcatgc gtacttgcgg tggtgcttag; Genbankアクセッション番号X04666)。この配列は第16位で配列番号98に見出されるバリンの代わりにリシンをコードする。配列番号106のヌクレオチド配列中の突然変異を当技術分野において公知の方法によって導入して、第16位にバリンを有する配列番号98のポリペプチド産物を変化させることができる。追加の突然変異または断片は、当技術分野において公知の任意の技術を使用して取得することができる。
【0167】
アプロチニンアナログの他の例は、国際出願第PCT/CA2004/000011号に開示される合成アプロチニン配列(またはその部分)を使用してタンパク質BLAST(Genebank:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を実施することによって見出すことができる。代表的なアプロチニンアナログは寄託番号CAA37967(GI:58005)および1405218C(GI:3604747)の下に見出せる。
【0168】
ポリペプチド誘導体およびペプチド模倣体の製造
天然に存在するアミノ酸のみから構成されるポリペプチドに加えて、ペプチド模倣体またはポリペプチドアナログもまた、本発明によって包含される。ポリペプチドアナログは、一般に、鋳型ポリペプチドの特性と類似の特性を有する非ポリペプチド薬物として製薬業界で使用される。非ポリペプチド化合物は「ポリペプチド模倣体」またはペプチド模倣体と称される(Fauchere et al., Infect. Immun. 54:283-287,1986; Evans et al., J. Med. Chem. 30:1229-1239, 1987)。治療上有用なポリペプチドに構造的に関連しているポリペプチド模倣体を使用して、等価なまたは向上した治療的もしくは予防的効果を得ることができる。概して、ペプチド模倣体は、天然に存在する受容体結合ポリペプチド等の模範ポリペプチド(すなわち、生理活性または薬理活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、当技術分野において公知の方法によって、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CH2SO-、-CH(OH)CH2-、-COCH2-等の結合によって置換されていても良い1以上のペプチド結合を有する(Spatola, Peptide Backbone Modifications, Vega Data, 1(3):267, 1983); Spatola et al. (Life Sci. 38:1243-1249, 1986); Hudson et al. (Int. J. Pept. Res. 14:177-185, 1979); およびWeinstein. B., 1983, Chemistry and Biochemistry, of Amino Acids, Peptides and Proteins, Weinstein eds, Marcel Dekker, New-York)。そのようなポリペプチド模倣体は、天然に存在するポリペプチドより優れた顕著な利点を有し、それには、経済的な生産、高い化学的安定性、増強された薬理特性(例えば、半減期、吸収、効力、効率)、低減された抗原性および他の利点が含まれる。
【0169】
本発明のポリペプチドは、特定の細胞型(例えば本明細書中に記載の細胞型)への進入に関して有効であるが、その有効性はプロテアーゼの存在によって低減する。血清プロテアーゼは特異的基質要求性を有する。基質は、切断のためにL-アミノ酸およびペプチド結合をともに有する必要がある。さらにまた、血清中のプロテアーゼ活性の最大成分であるエキソペプチダーゼは、通常、ポリペプチドの第一のペプチド結合に作用し、遊離のN末端を必要とする(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。このことを考慮すると、修飾型のポリペプチドを使用することが有益である場合が多い。修飾ポリペプチドは、IGF-1に関する生理活性を与える元のL-アミノ酸ポリペプチドの構造上の特徴を保持するが、有益には、プロテアーゼおよび/またはエキソペプチダーゼによる切断に容易には感受性でない。
【0170】
コンセンサス配列の1以上のアミノ酸を同種のD-アミノ酸(例えば、L-リシンの代わりのD-リシン)で系統的に置換することにより、より安定なポリペプチドを作製することができる。ゆえに、本発明のポリペプチド誘導体またはペプチド模倣体は、すべてL、すべてDまたは混合D、Lポリペプチドであってよい。N末端またはC末端D-アミノ酸の存在は、ポリペプチドのイン・ビボで安定性を高める。その理由は、ペプチダーゼがD-アミノ酸を基質として利用できないからである(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。リバース-Dポリペプチドは、L-アミノ酸を含有するポリペプチドと比較して逆配列に並べられたD-アミノ酸を含有するポリペプチドである。ゆえに、L-アミノ酸ポリペプチドのC末端残基はD-アミノ酸ポリペプチドのN末端になる、等である。リバースD-ポリペプチドはL-アミノ酸ポリペプチドと同一の三次コンフォメーションを保持し、したがって同一の活性を保持するが、元のポリペプチドより、イン・ビトロおよびイン・ビボでの酵素分解に対して安定であり、ゆえに高い治療効力を有する(Brady and Dodson, Nature 368:692-693, 1994; Jameson et al., Nature 368:744-746, 1994)。リバース-D-ポリペプチドに加えて、コンセンサス配列または実質的に同一のコンセンサス配列変異を含む拘束(constrained)ポリペプチドを当技術分野において公知の方法によって作製してよい(Rizo and Gierasch, Ann. Rev. Biochem. 61:387-418, 1992)。例えば、拘束ポリペプチドは、ジスルフィド結合を形成可能なシステイン残基を付加し、それによって環状ポリペプチドを生じさせることによって作製してよい。環状ポリペプチドは遊離のN末端またはC末端を有さない。したがって、それらはエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して感受性でないが、ペプチド末端を切断しないエンドペプチダーゼに対しては、当然、感受性である。N末端またはC末端D-アミノ酸を有するポリペプチドのアミノ酸配列および環状ポリペプチドのアミノ酸配列は、通常、それぞれN末端もしくはC末端D-アミノ酸残基の存在、ま
たはその環状構造を除き、それらが相当するポリペプチドの配列と同一である。
【0171】
分子内ジスルフィド結合を含有する環状誘導体を従来の固相合成によって製造し、アミノおよびカルボキシ末端等の、環化のために選択された位置で、好適なS-保護システインまたはホモシステイン残基を組み入れることができる(Sah et al., J. Pharm. Pharmacol. 48:197, 1996)。鎖の組立ての完了後、(1)S-保護基を選択的に除去し、その結果として対応する二つの遊離SH官能基が支持体上で酸化されてS-S結合が形成され、次いで生成物を支持体から従来法で除去し、適切な精製手順を行うことによって、または(2)ポリペプチドを支持体から除去するとともに側鎖を完全に脱保護し、次いで高度に希釈された水溶液中で遊離SH官能基を酸化することによって、環化を実施することができる。
【0172】
分子内アミド結合を含有する環状誘導体を従来の固相合成によって製造し、環化のために選択された位置で、好適なアミノおよびカルボキシル側鎖保護アミノ酸誘導体を組み入れることができる。分子内-S-アルキル結合を含有する環状誘導体を従来の固相化学によって製造し、環化のために選択された位置で、好適なアミノ保護側鎖を有するアミノ酸残基および好適なS-保護システインまたはホモシステイン残基を組み入れることができる。
【0173】
ポリペプチドのN末端またはC末端残基に対して作用するペプチダーゼに対する耐性を付与するための別の有効な手法は、ポリペプチド末端に化学基を付加して、修飾ポリペプチドがもはやそのペプチダーゼの基質ではないようにすることである。そのような化学修飾の一つは、片方または両方の末端でのポリペプチドのグリコシル化である。特定の化学修飾、特にN末端グリコシル化はヒト血清中のポリペプチドの安定性を高めることが示されている(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。血清安定性を増強する他の化学修飾には、アセチル基等の1から20炭素の低級アルキルからなるN末端アルキル基の付加、および/またはC末端アミドまたは置換アミド基の付加などがあるが、これらに限定されるものではない。特に、本発明は、N末端アセチル基および/またはC末端アミド基を保持するポリペプチドからなる修飾ポリペプチドを含む。
【0174】
通常はポリペプチドの部分ではない追加の化学部分を含有する他の種類のポリペプチド誘導体もまた、その誘導体が当該ポリペプチドの所望の機能的活性を保持する限り、本発明に含まれる。そのような誘導体の例には、(1)アミノ末端の、または別の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(そのアシル基はアルカノイル基(例えば、アセチル、ヘキサノイル、オクタノイル)、アロイル基(例えばベンゾイル)またはF-moc(フルオレニルメチル-O-CO-)等の保護基であってよい);(2)カルボキシ末端の、または別の遊離カルボキシもしくはヒドロキシル基のエステル;(3)アンモニアまたは好適なアミンとの反応によって生じるカルボキシ末端の、または別の遊離カルボキシル基のアミド;(4)リン酸化誘導体;(5)抗体または他の生物学的リガンドにコンジュゲートされた誘導体、および他の種類の誘導体などがある。
【0175】
本発明のポリペプチドに対する追加のアミノ酸残基の付加から生じる長いポリペプチド配列もまた、本発明に包含される。そのような長いポリペプチド配列は上記ポリペプチドと同一の生理活性(例えば特定の細胞型への進入)を有すると予測される。相当な数の追加のアミノ酸を有するポリペプチドは除外されないが、いくつかの大きいポリペプチドは、有効な配列を遮蔽する立体配置をとり、それによって標的(例えばLRPまたはLRP2等のLRP受容体ファミリーの構成員)に対する結合を妨げることがわかる。これらの誘導体は競合的拮抗薬として作用しうる。ゆえに、本発明は、伸長を有する本明細書中に記載のポリペプチドまたはポリペプチドの誘導体を包含するが、望ましくは、その伸長は当該ポリペプチドまたは誘導体の細胞ターゲティング活性を破壊しない。
【0176】
本発明に含まれる他の誘導体は、直接またはスペーサーを介して、例えばアラニン残基の短い伸長によってまたはタンパク質分解のための推定部位によって(例えば、カテプシンによる連結。例えば米国特許第5126249号および欧州特許第495049号を参照)、互いに共有結合により連結された二つの同一または二つの異なる本発明のポリペプチドからなる二重ポリペプチドである。本発明のポリペプチドの多量体は、同一または異なるポリペプチドまたはその誘導体から形成された分子のポリマーから構成される。
【0177】
本発明はまた、異なるタンパク質のアミノ酸配列にアミノ末端もしくはカルボキシ末端またはその両方で連結されている本明細書に記載のポリペプチド、またはその断片を含有するキメラまたは融合タンパク質であるポリペプチド誘導体をも特徴とする。そのようなキメラまたは融合タンパク質は、そのタンパク質をコードする核酸の組換え発現によって製造することができる。例えば、キメラまたは融合タンパク質は、本発明のポリペプチドの少なくとも6アミノ酸を含有し、望ましくは本発明のポリペプチドと等価なまたはそれより高い機能的活性を有する。
【0178】
本発明のポリペプチド誘導体は、置換、付加もしくは欠失またはアミノ酸残基によってアミノ酸配列を変化させて、所望のように、機能的に等価な分子、または機能的に増強もしくは減弱された分子を得ることによって製造することができる。本発明の誘導体には、非限定的に、機能的に等価なアミノ酸残基の置換を含有する修飾配列を含む本明細書中に記載のポリペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号1から105および107から112のいずれか)の全体または部分を一次アミノ酸配列として含有するものが含まれる。例えば、配列内の1以上のアミノ酸残基を、機能的等価物として機能する類似の極性の別のアミノ酸によって置換して、サイレント変化を生じさせることができる。配列内のアミノ酸に関する置換は、そのアミノ酸が属する種類の他の構成員から選択してよい。例えば、正電荷(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リシンおよびヒスチジンが含まれる。無極性(疎水性)アミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、トリプトファンおよびメチオニンが含まれる。無電荷極性アミノ酸には、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。負電荷(酸性)アミノ酸には、グルタミン酸およびアスパラギン酸が含まれる。アミノ酸グリシンは無極性アミノ酸ファミリーまたは無電荷(中性)極性アミノ酸ファミリーに含まれる。アミノ酸のファミリー内で施される置換は概して保存的置換であると理解される。
【0179】
ペプチド模倣体を特定するためのアッセイ
上記のように、本発明の方法によって特定されたポリペプチドの主鎖形状およびファルマコフォア表示を再現するように作製された非ペプチジル化合物(ペプチド模倣体)は、高い代謝安定性、高い効力、長い作用期間および良好な生物学的利用能の属性を有することが多い。
【0180】
本発明のペプチド模倣体化合物は、生物学的ライブラリー;空間的にアドレス可能なパラレル固相または液相ライブラリー;逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを使用して取得することができる。生物学的ライブラリーアプローチはポリペプチドライブラリーに限定されるが、他の四つのアプローチはポリペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは小分子ライブラリーの化合物に適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145, 1997)。分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当技術分野において、例えばDeWitt et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909, 1993); Erb et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422, 1994); Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678, 1994); Cho et al. (Science 261:1303, 1993); Carell et al. (Angew. Chem, Int. Ed. Engl. 33:2059, 1994および同書2061);およびGallop et al. (Med. Chem. 37:1233, 1994)にある。化合物のライブラリーは、溶解状態で(例えばHoughten, Biotechniques 13:412-421, 1992)またはビーズ上(Lam, Nature 354:82-84, 1991)、チップ(Fodor, Nature 364:555-556, 1993)、細菌または胞子(米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869, 1992)またはファージ上(Scott and Smith, Science 249:386-390, 1990)に存在させてよく、またはルシフェラーゼ、および酵素標識を、適切な基質から生成物への変換を決定することによって検出することができる。
【0181】
本発明のポリペプチドを特定した後、溶解度差(例えば沈降)、遠心分離、クロマトグラフィー(例えば、アフィニティー、イオン交換、サイズ排除、等)を非限定的に含む任意の数の標準的方法によってまたは、ポリペプチド、ペプチド模倣体またはタンパク質の精製に使用される任意の他の標準的技術によって単離および精製することができる。当技術分野において公知の任意の機能アッセイを使用して、特定された目的のポリペプチドの機能的特性を評価してよい。望ましくは、細胞内シグナル伝達における下流の受容体機能を評価するためのアッセイを使用する(例えば細胞増殖)。
【0182】
例えば、以下の3相のプロセス:(1)本発明のポリペプチドをスキャンして、本明細書に記載の特定の細胞型のターゲティングに必要な二次構造の領域を特定する段階;(2)コンフォメーションが制約されたジペプチド代用物を使用して、主鎖形状を絞り込み、これらの代用物に対応する有機物プラットフォームを提供する段階;および(3)最良の有機物プラットフォームを使用して、天然ポリペプチドの所望の活性を模倣するように設計された候補のライブラリー中で有機物ファルマコフォア(pharmocophores)を表示する段階を使用して本発明のペプチド模倣体化合物を取得することができる。さらに詳細には、該3つの相は以下の通りである。相1では、リード候補ポリペプチドをスキャンし、その構造を制約してその活性に関する必要条件を特定する。元のポリペプチドの一連のポリペプチドアナログを合成する。相2では、コンフォメーションが制約されたジペプチド代用物を使用して最良のポリペプチドアナログを調査する。最良のポリペプチド候補の主鎖形状を研究するために、インドリジジン-2-オン、インドリジジン-9-オンおよびキノリジジノンアミノ酸(それぞれI2aa、I9aaおよびQaa)をプラットフォームとして使用する。これらのプラットフォームおよび関連プラットフォーム(Halab et al., Biopolymers 55:101-122, 2000;およびHanessian et al. Tetrahedron 53:12789-12854, 1997に総覧がある)をポリペプチドの特定領域に導入して、ファルマコフォアを異なる方向に向けることができる。これらのアナログの生物学的評価によって、活性に関する形状的必要条件を模倣する、改善されたリードポリペプチドを特定する。相3では、最も活性なリードポリペプチド由来のプラットフォームを使用して、ネイティブポリペプチドの活性を担うファルマコフォアの有機代用物をディスプレイする。ファルマコフォアおよび骨格をパラレル合成形式で組み合わせる。ポリペプチドの誘導および上記相は、当技術分野において公知の方法を使用する他の手段によって達成することができる。
【0183】
本発明のポリペプチド、ポリペプチド誘導体、ペプチド模倣体、または他の小分子から決定された構造機能関連性を使用して、類似またはより良好な特性を有する類似の分子構造を絞り込みかつ製造することができる。したがって、本発明の化合物はまた、本明細書中に記載のポリペプチドの構造、極性、荷電特性、および側鎖特性を共有する分子を含む。
【0184】
要約すれば、本明細書の開示に基づいて、当業者は、特定の細胞型(例えば本明細書中に記載の細胞型)に物質をターゲティングするための化合物を特定するために有用なポリペプチドおよびペプチド模倣体スクリーニングアッセイを開発することができる。本発明のアッセイは、低処理、高処理、または超高処理スクリーニングフォーマット用に開発することができる。本発明のアッセイには、自動化しやすいアッセイが含まれる。
【0185】
別の物質に共有結合的に結合したポリペプチド複合体
本明細書に記載の化合物またはそれの官能基誘導体は、ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)による構造を有する化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)にアミノ酸を介して共有結合的に結合したアミノ酸配列に加えて、別の物質(例えば、別の治療剤、診断剤または標識)への共有結合をも含むことができる。ある種の実施形態ではまた、疾患または障害の診断のための、放射性イメージング物質等の検出可能な標識にアミノ酸配列を連結するか、またはその標識で標識する。これらの物質の例には、抗体が疾患または障害特異的抗原に結合する、放射性イメージング物質-抗体-ベクター複合体(例えば診断または治療用)が含まれる。他の結合分子もまた、本発明によって想定される。他の場合では、本発明の化合物またはそれの官能基誘導体を、疾患または障害を治療するための別の治療剤に連結するか、またはその混合物に連結するかもしくはその混合物で標識することができる。BBBを横切る物質の輸送または特定の細胞型内への物質の輸送を可能にする条件下でベクター-物質複合体を個体に投与することによって、その疾患または障害を治療することができる。各ポリペプチドは、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7個の物質を含んでよい。他の実施形態では、各物質は、それに結合している少なくとも1、2、3、4、5、6、7、10、15、20個、またはそれ以上のポリペプチドを有する。本発明の複合体は、対象者の特定の細胞型または組織、例えば脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉における物質の(例えば取り込みの増加または除去の低減に起因する)蓄積を促進することができる。
【0186】
本明細書に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸に対する共有結合を有する物質(例えば式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)、別の治療薬、診断薬または標識)(例えば、表1に挙げたもの、またはそれらの官能基誘導体)は、特定の細胞型内への輸送またはBBBを通過する輸送後にベクターから放出可能であることができる。物質は、例えばベクターと物質の間の化学結合の、酵素による切断または他の切断によって放出させることができる。そして、放出された物質は、ベクターの非存在下で、その所期の能力に関して機能する。
【0187】
他の方法および架橋剤を用いて、本発明のポリペプチドおよびRNAi剤を結合することができる。例えば、5′または3′チオール含有siRNAセンス鎖を、ジスルフィド結合によって、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端にあるシステイン残基に連結させることができる。ムラトウスカらの報告(Muratovska et al., FEBS Letters 558:63-68, 2004)およびターナーらの報告(Turner et al., Blood Cells, Molecules and Diseases 38:1-7, 2007)によって、RNA分子にポリペプチドをコンジュゲートするための化学結合法の例が提供されており、それらは参照によって本明細書に組み込まれる。
【0188】
治療剤
治療剤は任意の生理活性物質であることができる。例えば、治療薬は、疾患を治療するための(例えば癌細胞を死滅させるための)薬物、医薬、放射能を放出する物質、細胞毒素(例えば化学療法剤)、その生理活性断片、またはその混合物であるか、または個体の疾患または障害を治療するための物質であってよい。ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)およびドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)が有用な種類の治療薬の例である。治療剤は、合成品または、真菌、細菌または他の微生物(例えばマイコプラズマまたはウイルス)、動物、例えば爬虫類、または植物起源の産物であってよい。治療剤および/またはその生理活性断片は酵素活性物質および/またはその断片であるか、または重要なかつ/または必須の細胞経路を阻害もしくは遮断することによって、または重要なかつ/または必須の天然に存在する細胞成分と競合することによって働く。他の治療剤には、抗体および抗体断片などがある。
【0189】
当技術分野において公知の任意の抗癌剤が本発明の複合体の部分であることができる。ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)およびドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)は抗癌剤であることができる。別の抗癌剤を、本明細書に記載の方法に従って、本発明の化合物にコンジュゲートすることもできる。BBBを通過して効率的に輸送されるベクター(例えば、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、またはAngioPep-6)を含有する複合体で脳の癌を治療することができる。適切な細胞型内に効率的に輸送されるベクター(例えばAngioPep-7)にコンジュゲートされた抗癌剤で、卵巣、肝臓、肺、腎臓、または脾臓の癌を治療することができる。
【0190】
複合体活性
アミノ酸配列を含み、そのアミノ酸配列がアミノ酸を介してポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)による構造を有する化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)に共有結合的に結合している化合物またはそれの製薬上許容される塩は、複合体化していない生理活性物質と比較した薬物動態の変化または組織分布の変化(例えば、卵巣、肝臓、脳、肺、脾臓または腎臓などの特定の組織組織または細胞型への送達増加)などの望ましい特性を与えることができる。従って、本発明の化合物をベクターとして用いることができる。AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5およびAngioPep-6などのポリペプチドは、BBBを通過して物質を効率的に運搬する。AngioPep-2のように、これらのポリペプチドは、他の細胞型または組織(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)に物質をターゲティングすることもできる。効率的にBBBを通過して輸送されないAngioPep-7ポリペプチドは、特定の組織(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)に輸送される。この活性は、BBBを通過しての輸送が望ましくない場合に有用となり得る。例えば、本発明の化合物を用いることで、複合体化していない生理活性物質(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、ドキソルビシンまたはエピルビシン)で認められるものと比較して10%から20000%の範囲のいずれかの値だけ、標的組織における治療薬濃度を高めることができる。
【0191】
本発明の化合物は特定の組織に物質を輸送することができることから、コンジュゲートされた物質によって、毒性が低下し(例えば、副作用が少なくなる)、効力が高くなり(例えば、取り込み増加または組織からの流出の低下のために標的組織で物質が濃縮されるため、またはコンジュゲートした際に物質の安定性が高くなるため)、またはその両方が達成される可能性がある。そのような活性について下記に記載しており、国際公開番号第2007/009229号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0192】
場合により、物質をベクターにコンジュゲートすることで、P-糖タンパク質(P-gp)の作用、すなわち細胞からある種の物質を追い出すことができる排出ポンプからその物質を回避させることができる。P-gpが細胞から物質を排出する能力を低下させることで、細胞でのその物質の効力を高めることができる。従って、これらの複合体は癌細胞増殖を活発に阻害することができる。さらに、イン・ビボの腫瘍増殖について得られた結果から、本発明のベクターが受容体LRPを標的とし得ることがわかる。さらに、コンジュゲーションによって、コンジュゲートしていない物質の薬物動態または生体分布を変えることができる。
【0193】
総合すると、卵巣癌、乳癌、肺癌および皮膚癌などの原発腫瘍ならびに原発腫瘍を起源とする転移に対して、複合体を用いることができる、
治療方法
本発明は、本明細書に記載の本発明の化合物またはそれの医薬組成物を用いる治療方法も特徴とする。BBBを通過して効率的に輸送される本発明の化合物(例えば、式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)にアミノ酸を介して共有結合的に結合しているアミノ酸配列を含む化合物)(例えば、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5およびAngioPep-6)を用いて、脳または中枢神経系疾患を治療することができる。神経疾患の例には、脳腫瘍、脊髄腫瘍(例えば、脊索腫)および脳転移などの脳の癌などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0194】
脳腫瘍は、原発性・転移性の脳腫瘍であることができる。脳内を起源とする脳腫瘍は、原発性脳腫瘍である。身体の別の場所での癌(例えば、肺癌、乳癌、メラノーマ、結腸癌、腎臓癌および他の癌)の拡散によって生じる脳腫瘍は、転移性脳腫瘍である。脳での位置によって記述される腫瘍のカテゴリーの例には、脳幹腫瘍、小脳橋角腫瘍(例えば、内耳神経腫瘍)、大脳半球腫瘍、前頭葉腫瘍、頭頂葉腫瘍、松果体部腫瘍、後頭葉腫瘍、側頭葉腫瘍、皮質下腫瘍、髄膜脳腫瘍、正中部腫瘍(例えば、頭蓋咽頭腫、視神経神経膠腫ならびに視床およびトルコ鞍部領域の腫瘍)、後頭蓋窩腫瘍(例えば、第四脳室の腫瘍および小脳腫瘍)などがある。
【0195】
脳腫瘍の例には、聴神経腫(神経鞘腫、シュワン細胞腫、神経線維腫症)、腺腫、星細胞腫(例えば、若年性毛様細胞性星細胞腫、上衣下巨細胞性星細胞腫、大円形細胞性星細胞腫、異型性星細胞腫、悪性星細胞腫、多形性膠芽細胞腫および神経膠肉腫)、脳幹神経膠腫(星細胞腫、異型性星細胞腫、多形性膠芽細胞腫または混合腫瘍であり得る)、脈絡叢乳頭腫、cnsリンパ腫、上衣細胞腫(例えば、異型性上衣細胞腫)、神経節細胞腫、神経節膠腫、神経膠腫、多形性膠芽細胞腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫、混合神経膠腫、神経線維腫症(フォン・レックリングハウゼン病)、乏突起細胞腫および視神経膠腫(例えば、毛様細胞性星細胞腫)などがある。
【0196】
複合体は、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓または筋肉にも効率的に輸送可能であることから、適切な治療薬と併用して、これらの組織に関連する疾患を治療することもできる(例えば、癌)。AngioPep-7は脳には効率的に輸送されないが、肝臓、肺、腎臓、脾臓および筋肉などの組織および細胞には効率的に輸送されることから、AngioPep-7を含む本発明の化合物は、脳への物質のターゲティングが望ましくない場合に、これらの組織に関連する疾患のベクター治療として特に適したものとなり得る。肝臓の疾患の例には、肝細胞癌(肝細胞腫)および肝臓癌などがある。肺疾患の例には、小細胞癌(例えば、燕麦細胞癌)、混合型小細胞/大細胞癌、混合型小細胞癌および転移腫瘍などの肺癌などがある。転移腫瘍は、乳癌(例えば、転移乳癌)、結腸癌、前立腺癌(例えば、転移前立腺癌)、肉腫、膀胱癌、神経芽細胞腫およびウィルムス腫瘍(腎芽腫)などのあらゆる組織の癌を起源とし得る。脾臓疾患には、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫およびある種のT細胞リンパ腫などの癌などがある。
【0197】
本発明の複合体または組成物を用いて治療可能な別の癌の例には、乳癌、マントル細胞リンパ腫などの各種リンパ腫のような頭部および頸部の癌、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、網膜の癌、食道の癌、多発性骨髄腫、卵巣癌(例えば、卵巣胚細胞腫瘍および卵巣癌)、子宮癌、メラノーマ、結腸直腸癌、膀胱癌、前立腺癌、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌など)、膵臓癌、子宮頸癌、頭部および頸部の癌、皮膚癌、上咽頭癌、脂肪肉腫、上皮性癌、腎細胞癌、胆嚢腺癌、耳下腺癌、子宮内膜肉腫、多剤耐性癌;ならびに腫瘍血管新生関連の新血管新生、黄斑変性(例えば、湿/乾AMD)、角膜血管新生、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、近視性変性および再狭窄および多発性嚢胞腎などの他の増殖性の疾患および障害のような増殖性の疾患および障害などがある。
【0198】
本明細書に記載のように、BBBを通過して効率的に輸送される本発明の化合物または組成物で治療可能な脳の癌には、星細胞腫、毛様細胞性星細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、多形性膠芽細胞腫、混合神経膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、胚細胞腫および奇形腫などがある。本発明の化合物または組成物で治療可能な他の癌の例には、菌状息肉腫(アリバート-バザン(Alibert-Bazin)症候群またはポリープ状肉芽腫とも称される)、ホジキン病(ホジキンリンパ腫)、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、後天性免疫不全症候群(AIDS)関連のカポジ肉腫、AIDS関連非ホジキンリンパ腫、妊娠性絨毛性腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、難治性進行乳癌、精巣癌(例えば、睾丸の悪性腫瘍、難治性精巣睾丸悪性腫瘍および精巣生殖細胞腫瘍癌)、難治性進行悪性新生物、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、骨肉腫、バーキットリンパ腫、成人急性リンパ性白血病、バーキット白血病、縦隔腫瘍、リンパ芽球性リンパ腫、大細胞異型性リンパ腫、形質細胞腫などがある。
【0199】
本発明の化合物または組成物は、対象者に対して当業界で公知の手段によって投与することができ、例えば経口投与、動脈投与、鼻腔内投与、腹腔内投与、静脈投与、筋肉投与、皮下投与、経皮投与または経口投与される。当該物質は例えば、血管新生阻害剤化合物であることができる。
【0200】
併用療法
本発明の化合物は、他の治療薬または他の治療法と同時に投与することができる。一部の実施形態において、その別の治療薬または物質は、本明細書に記載のポリペプチドまたはそれの誘導体(例えば、表1のポリペプチドおよびそれの誘導体)に対して共有結合を有することもできる。他の実施形態において、別の治療薬または物質は、本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合していない。本発明の化合物との併用両方で用いることができる治療法および治療薬の例には、放射線療法、化学療法、大量化学療法、幹細胞移植(例えば、自己幹細胞移植)、骨髄移植、手術、腫瘍除去手術、温熱治療、シスプラチン、イリノテカン、イリノテカン塩酸塩、カルボプラチン、クロラムブシル(リュークラン(登録商標))、トシツモマブ(ベキサール(登録商標))、リツキシマブ(リツキサン(登録商標)およびマブセラ(登録商標))、ブレオマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、シクロホスファミド、プロカルバジン、ミトキサントロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、イホスファミド、メトトレキセート、ドキソルビシン、(アドリアマイシン(登録商標))、デキサメサゾン、シクロスポリン、Rad-001(サーティカン)、シタラビン(Ara-C)、ダウノルビシン、フルダラビン、イダルビシン、ボリノスタット(SAHA)、ナイアシンアミド、AZD2171、ミトタン、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ(登録商標))、ミトキサントロン、クロファラビン、アスパラギナーゼ、メルカプトプリン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSFまたはGCSF)、ビンデシン、チオグアニン、VM26、VP16、ダカルバジン、ダクチノマイシン、テモゾロマイド、チオテパ、エピルビシン塩酸塩、カルムスチン、フィルグラスチム、ドセタキセル、ゲフィチニブもしくはそれの製薬上許容される塩またはこれらのいずれかの組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0201】
本明細書に記載の方法で使用される第2の治療薬は、Angiopep-2の配列(配列番号97)を含むかその配列からなるポリペプチドであることもでき、好ましくはAngiopep-2は抗癌剤(例えば、パクリタキセル)にコンジュゲートしている。本明細書に記載の化合物と併用可能な治療薬の例には、下記の構造を有するANG1005がある。
【化38】
【0202】
さらに別の第2の治療薬の例が、米国特許第7557182号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0203】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は本明細書に記載の本発明の化合物を製薬上許容される担体とともに含む。そのような組成物は液体または凍結乾燥製剤もしくは別の方法で乾燥された製剤であり、種々のバッファー内容物(例えば、Tris-HCl、酢酸、リン酸)、pHおよびイオン強度の希釈剤、表面への吸収を防ぐための添加物、例えばアルブミンまたはゼラチン、界面活性剤(例えば、Tween20、Tween80、PluronicF68、胆汁酸塩)を含む。可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量物質または張度調節剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、タンパク質に対するポリエチレングリコール等のポリマーの共有結合的付加、金属イオンとの錯体形成、またはポリマー化合物、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル等の微粒子調製物内または微粒子調製物上への物質の取り込み、またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単ラメラもしくは多ラメラ小胞、赤血球ゴースト、またはスフェロプラスト上への物質の取り込みを含む。そのような組成物は、物理的状態、溶解度、安定性、イン・ビボでの放出の割合、およびイン・ビボでのクリアランスの割合に影響する。徐放性または持続性組成物には、親油性デポー(例えば、脂肪酸、ろう、油)中の製剤などがある。また、ポリマー(例えばポロキサマーまたはポロキサミン類)でコーティングされた微粒子組成物も本発明に含まれる。本発明の組成物の他の実施形態は、微粒子形式保護コーティング、プロテアーゼ阻害薬または、各種投与経路、例えば非経口、肺、鼻、経口、膣、経直腸経路用の浸透促進剤を含む。1実施形態では、非経口、癌の近く(paracancerally)、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、頭蓋内および腫瘍内で医薬組成物を投与する。
【0204】
製薬上許容される担体は0.01から0.1Mまたは0.05Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水をさらに含む。さらに、そのような製薬上許容される担体は、水系または非水系の溶液、懸濁液および乳濁液であることができる。非水系溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。水系担体には、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液などがある(生理食塩水および緩衝化された媒体を含む)。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルまたは固定油などがある。静脈投与媒体には、液体および栄養補充液、電解質補充液、例えばリンゲルデキストロースに基づくものなどがある。例えば、抗菌剤、酸化防止剤、照合物質、不活性ガス等の保存剤および他の添加物を加えても良い。
【0205】
他の製剤には、脂肪酸(例えば12-ヒドロキシステアリン酸)のポリ-オキシエチレンエステル、例えばソルトール(Solutol;登録商標)HS15が含まれる。ゆえに、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、a)本明細書中に記載の複合体、b)ソルトール(登録商標)HS15およびc)水系溶液または緩衝液(例えばpH5から7のリンゲル/Hepes溶液)を含んでも良い。製剤中のソルトール(登録商標)HS15の濃度は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、または60%(例えば30%)であるか、またはこれらの数値のいずれか2つの間の任意の範囲内であってよい。対象者を効率的に治療するために必要とされる用量、または投与される複合体の溶解性に必要とされるエステルの量に基づいて複合体の濃度を決定することができる。タキソール複合体の投与のための製剤中でのソルトールの使用については、例えば国際公開第WO2007/009229号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0206】
非経口組成物
医薬組成物は、従来の無毒性で製薬上許容される担体および補助剤を含む剤形、製剤で、または好適な送達機器もしくは埋め込み物を介して、注射、注入または埋め込み(皮下、静脈、筋肉、腹腔内投与など)によって非経口的に投与することができる。そのような組成物の製剤および調製物は、医薬製剤における当業者には公知である。
【0207】
非経口用の組成物は、単位製剤(例えば、単一用量アンプル中)で、または数用量を含み好適な保存剤を添加しても良い(下記参照)バイアル中で提供することができる。その組成物は、液剤、懸濁液、乳濁液、注入機器または埋め込み用の送達機器の形態であることができるか、使用前に水または別の好適な媒体で再生する乾燥粉末として提供することができる。活性剤は別として、その組成物は、好適な非経口的に許容される担体および/または賦形剤を含むことができる。活性剤は、徐放用のミクロスフィア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソームなどに組み込むことができる。さらに、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、張度調節剤および/または分散化剤を含むことができる。
【0208】
上記で示したように、本発明による医薬組成物は、無菌注射に好適な形態であることができる。そのような組成物を調製するため、好適な活性剤を、非経口的に許容される液体媒体に溶解または懸濁させる。使用可能な許容される媒体および溶媒の中には、水、適切な量の塩酸、水酸化ナトリウムもしくは好適な緩衝剤を加えることで好適なpHに調整された水、1,3-ブタンジオール、リンゲル液、ブドウ糖溶液および等張性塩化ナトリウム溶液がある。水系製剤は、1以上の保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチルまたはn-プロピル)を含むこともできる。これら化合物のうちの一つが水に難溶であるかわずかしか溶けない場合、溶解促進剤または可溶化剤を加えることができるか、溶媒に10から60重量%のプロピレングリコールなどを含有させることができる。
【0209】
本発明の化合物を含む非経口組成物または製剤は、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115または120分の期間をかけて、または例えば0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5または5.0時間かけて患者に投与することができる。
【0210】
徐放非経口組成物
徐放非経口組成物は、水系懸濁液、ミクロスフィア、マイクロカプセル、磁性ミクロスフィア、オイル溶液、オイル懸濁液または乳濁液の形態であることができる。その組成物は、生体適合性の担体、リポソーム、ナノ粒子、埋め込み物または注入機器に組み込むこともできる。
【0211】
ミクロスフィアおよび/またはマイクロカプセルの製造に使用される材料は、例えばポリガラクチン、ポリ-(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-L-グルタミン)、ポリ(乳酸)、ポリグリコール酸およびこれらの混合物などの生体分解性/生体内分解性ポリマーである。徐放非経口製剤を製剤する際に使用することができる生体適合性担体は、炭化水素(例えば、デキストラン類)、タンパク質(例えば、アルブミン)、リポタンパク質または抗体である。埋め込み物に使用される材料は、非生体分解性(例えば、ポリジメチルシロキサン)または生体分解性(例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)またはポリ(オルトエステル))またはこれらの組み合わせであることができる。
【0212】
経口使用向けの固体製剤
経口用の製剤には、無毒の製薬上許容される賦形剤との混合物中で有効成分を含有する錠剤が含まれ、そのような製剤は当業者に公知である(例えば、米国特許第5817307号、同5824300号、同5830456号、同5846526号、同5882640号、同5910304号、同6036949号、同6036949号、同6372218号(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる))。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または充填剤(例えば、ショ糖、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);造粒剤および崩壊剤(例えば、微結晶性セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例えば、ショ糖、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);および潤滑剤、流動促進剤、および付着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油、またはタルク)であることができる。他の製薬上許容される賦形剤には、着色剤、香味剤、可塑剤、湿展剤、緩衝剤などがあり得る。
【0213】
錠剤はコーティングされていないか、または、場合により消化管での崩壊および吸収を遅延させて長期間にわたる持続作用を提供するために、公知技術によってコーティングされていることができる。コーティングは、(例えば徐放製剤を達成するために)あらかじめ決められたパターンで物質を放出するように構成されるか、または胃を通過する後まで物質を放出しないように構成される(腸溶コーティング)。コーティングは、糖衣、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリラートコポリマー、ポリエチレングリコール、および/またはポリビニルピロリドンに基づくコーティング)、または腸溶コーティング(例えば、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、シェラック、および/またはエチルセルロースに基づくコーティング)であることができる。さらにまた、時間遅延物質、例えばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルを用いてもよい。
【0214】
固体錠剤組成物は、望ましくない化学変化(例えば活性物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように構成されたコーティングを含んでよい。上記Encyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載の様式と類似の様式で固体製剤にコーティングを施しても良い。
【0215】
本発明の組成物を錠剤中でともに混合するか、または分割してよい。1例では、第1の物質を錠剤内部に含有させ、かつ第2の物質を外部に含有させ、第2の物質のかなりの部分が第1の物質の放出前に放出されるようにする。
【0216】
経口用途の製剤は、咀嚼錠として、または有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、ラクトース、微結晶性セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセルとして、または有効成分が水または油媒体、例えば、落花生油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合されている軟ゼラチンカプセルとして提供してもよい。例えばミキサー、流動床装置、または噴霧乾燥装置を使用する従来の方式で、錠剤およびカプセルに関して前述した成分を使用して粉剤および粒剤を製造することができる。
【0217】
投与法
本明細書に記載の、または本明細書に記載の方法を使用して特定される化合物、複合体または組成物の用量は、投与方法、治療対象の疾患(例えば癌)、疾患の重度、癌を治療するか予防するか、ならびに治療を受ける対象者の年齢、体重および健康状態などのいくつかの要素によって決まる。
【0218】
本発明の治療方法に関して、対象者へのベクター、複合体または組成物の投与は、投与、用量または投与回数についての特定の様式に限定されないものとする。本発明はすべての投与様式を想定するものである。複合体または組成物を1回量でまたは複数用量で対象者に投与することができる。例えば、本明細書に記載のまたは本発明のスクリーニング方法を使用して特定される化合物、複合体を、例えば、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって週1回投与することができる。本発明の化合物は、例えば、1、2、3、4、5、6または7日間にわたって、または1、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって1日1回投与することもできる。
【0219】
本発明の化合物を投与する期間の後または前に、化合物を投与しない期間があっても良い。例えば、本明細書に記載の化合物を投与した後に、1、2、3、4、5、6もしくは7日間、または1、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって、患者への本発明の化合物の投与を行わない。一部の実施形態において、患者には、前記期間中に他の治療薬を投与することができる。本発明の化合物を患者に投与する期間とそれに続いてその患者に本発明の化合物を投与しない期間を含む化学療法のこれらのサイクルは、医学的な必要に応じて繰り返すことができる(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20回)。
【0220】
理解すべき点として、特定の対象者に関して、個別の必要性およびベクター、複合体または組成物を投与するかまたはその投与を指揮する者の専門的判断にしたがって、具体的な投与方式を経時的に調節すべきであろう。例えば、本明細書に記載の疾患または障害(例えば癌)の治療において低用量が十分な活性を提供しなければ、複合体の用量を増加させることができる。逆に、疾患(例えば癌)が軽減または排除されれば、化合物の用量を減少させることができる。
【0221】
最終的に担当医が適切な量および投与方式を決定するが、本明細書に記載の化合物、ベクター、複合体または組成物の治療上有効量は、例えば、0.0035μgから20μg/kg/日または0.010μgから140μg/kg/週の範囲であることができる。望ましくは、治療上有効量は、毎日、1日おき、または週2回投与される0.025μgから10μg/kgの範囲、例えば、少なくとも0.025、0.035、0.05、0.075、0.1、0.25、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0または9.0μg/kgである。さらに、治療上有効量は、毎週、1週おき、または月1回投与される0.05μgから20μg/kgの範囲、例えば、少なくとも0.05、0.7、0.15、0.2、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、10.0、12.0、14.0、16.0または18.0μg/kgであることができる。さらにまた、化合物の治療上有効量は、例えば、1日おき、週1回、または1週おきに投与される0.100mg/m2から2000mg/m2の範囲であってよい。望ましい実施形態では、治療上有効量は、毎日、1日おき、週2回、毎週、または1週おきに投与される1mg/m2から1000mg/m2の範囲、例えば、少なくとも100、150、400または800mg/m2の化合物である。
【0222】
例えば、本発明の化合物(例えば、化合物(1))を用いて、本明細書に記載の投与方法、投与量および投与計画のいずれかを用いて、患者にポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGおよびテニポシドなどの式(I)の化合物)を投与したり、ドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体(例えば、化合物(2)または式(II)の化合物を含む本発明の化合物)を投与することができる。本発明の化合物は、例えば、式(I)のもの(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGおよびテニポシド)または式(II)のもの(例えば、ドキソルビシンまたはエピルビシン)などの1、2、3、4または5分子のポドフィロトキシン誘導体に対する共有結合を含むことができることから、この化学量論を用いて、投与すべき用量(「等価な用量」)を計算および調節することができる。例えば、エトポシド:Angiopep-2(3:1)複合体(「Etop-An2(3:1)」)は、4354g/molの分子量を有し、エトポシド含有量は分子量の40%を占める。同様に、ドキソルビシン:Angiopep-2(3:1)複合体は4178g/molの分子量を有し、ドキソルビシンは分子量の40%を占める。このデータを用いて、投与(例えば、非経口または経口)用の組成物に含める本発明の化合物のを計算して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475または500mgs/m2/日のポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはエトポシド)を患者に投与することができる。この用量を、2、3、4、5、6または7日間にわたって患者に1日1回投与することができる。投与期間の後に、1、2、3、4、5、6または7日間または2、3、4、5、6、7または8週間の本発明の化合物を投与しない休薬期間を設けることができ、投与期間/休薬期間のサイクルを例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回以上繰り返す。
【0223】
本発明の化合物(例えば、化合物(1)および(2)またはそれらの製薬上許容される塩)は、個々の複合体化していない治療薬(例えば、エトポシド、エトポシド4-ジメチルグリシンまたはドキソルビシン)と比較して改善された物理化学特性および医薬特性を示すことができる。例えば、本明細書に記載の例示的な細胞型、組織または臓器(例えば、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)のターゲティングを高めることで、治療量以下の用量の化合物(例えば、化合物(1)または(2))を患者に投与することで可能となる。本発明の化合物は、個々の複合体化していない治療薬と比較して低い毒性を示すこともできることから、それによって治療量より多い用量の化合物を患者に投与することが可能となる。例えば、複合体化していないドキソルビシンは代表的には、単回の静脈注射として単独で投与する場合には60から75mg/m2または別の化学療法薬と併用投与する場合には40から50mg/m2の範囲になる用量計画で投与される。複合体化していないエトポシドまたはエトポシドホスフェートについての代表的な用量計画は、1から5mg/m2/日、1から50mg/m2/日、35から50mg/m2/日または50から100mg/m2/日の範囲とすることができる。本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))による細胞型、組織または臓器のターゲティングの改善により、相当する複合体化していない治療薬について用いられる用量と比較して低い治療薬用量が可能となる(「治療量以下の用量」、すなわち、例えば、相当する複合体化していない治療薬の最低有効用量の25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、2000、3000、4000または5000倍低い有効用量)。本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))に関連し得る毒性低下によって、相当する複合体化していない治療薬について使用される用量と比較して高い用量を患者に対して安全に投与することが可能となる(「治療量以上の用量」、すなわち、例えば複合体
化していない治療薬の最大許容用量の25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、2000、3000、4000または5000倍である有効用量)。同様に、改善された物理化学特性も、患者に投与される用量に影響を与え得る。例えば、改善された溶解度によって、治療量以下の用量の投与が可能となる。これらの改善された物理化学的医薬特性によって、例えば小児患者群または老年患者群への本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))の安全な投与が可能となる。
【0224】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0225】
実施例1 3:1エトポシド:Angiopep-2複合体の合成
本発明の化合物の合成は、ポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはテニポシドなどの式(I)の化合物)、二官能性加水分解性連結基(例えば、ジカルボン酸またはジイソシアネート)および本明細書に記載のアミノ酸配列もしくはそれの官能基誘導体の組み合わせによって行うことができる。誘導体化ポドフィロトキシン中間体(例えば、2″-グルタリルエトポシド)のポリペプチドに対する当量を変えることで、異なる化学量論でポリペプチド複合体の合成を行うことが可能である(例えば、「Etop-An2(1:1)」または「Eto-An2(1:1)」であり、エトポシド1分子がAngiopep-2ポリペプチドに結合している)。
【0226】
図式5には、3個のエトポシド分子に共有結合的に結合しているAngiopep-2ポリペプチドを含む化合物の合成を示してある(「Etop-An2(3:1)」または(「Eto-An2(3:1)」)。
【0227】
図式5
【化39】
【0228】
(2″-グルタリル)-エトポシド
エトポシド(10g、17mmol)のCHCl3(120mL)中溶液に、無水グルタル酸(3.13g、27.4mmol)およびDMAP(115mg、0.942mmol)を加えた。室温で72時間後、混合物を溶媒留去し、ポリスチレン/DVBカラム(15から35%アセトニトリル(ACN)/H2O、トリフルオロ酢酸(TFA)を含まない)を用いる逆相クロマトグラフィーによって精製した。粗生成物のHPLCは、位置異性体である2″-グルタリルエトポシド(2″-glu-Etop)および3″-グルタリルエトポシド(3″-glu-Etop)の2:1の比での混合物を示した。溶媒留去および凍結乾燥後に、(2″-グルタリル)-エトポシドを白色粉末として得た(4.1g、34%)。位置異性体(3″-グルタリル)-エトポシドも白色固体として単離した(2.4g、20%)。2″-glu-Etopおよび3″-glu-Etopの純度をRP-HPLCによって求めた。MetaChem Taxsil-3カラムおよび勾配溶離(1mL/分;15分間かけての10%から65%(0.05%TFA/H2O):(0.05%TFA/ACN))を用いると、2″-glu-Etopは9.00分の保持時間を有し、3″-glu-Etopは9.42分の保持時間を有する。2″-glu-Etop(保持時間=9.00分)の純度は>98%(99.4%)であり、3″-glu-Etopの純度は>98%(99.6%)であった。
【0229】
((2″-グルタリル)-Etop)3-(Angiopep2)(Etop-An2(3:1))
(2″-グルタリル)-エトポシド(2.83g、4.025mmol)の脱水DMF(400mL)中溶液に、トリエチルアミン(Et3N;0.84mL、6.037mmol)およびN,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU;1.32g、4.628mmol)を加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌した(pH=9.3)。10N NaOHでpHを調整することで(pH7.3とする)、AN2(Angiopep-2、含有率75%、3.68g、1.207mmol)のPBS10倍緩衝液(pH7.3;200mL)中溶液を調製した。ドライアイス浴で冷却した後、活性化しておいた酸をAngiopep-2に加え(100mLで4回)、10N NaOHを加えることで混合物のpHを7.2に調整した。室温で1時間後、反応液を濾過してリン酸塩を除去し、溶媒留去して粗混合物35mLを得た。粗生成物のHPLCでは、3:1の比率での(3:1)複合体および(2:1)複合体の混合物が示された。残留物を、ポリスチレン/DVBカラム(15から37.5%ACN/H2O)を用いる逆相クロマトグラフィーによって精製した。精製後、合わせた分画に0.1%酢酸を加えて、溶解度を高めた。混合物の溶媒留去および凍結乾燥によって、Etop-An2(3:1)生成物を白色固体として得た(596mg、12%)。MetaChem Taxsil-3カラムおよび勾配溶離(1mL/分;15分間かけての10%から65%(0.05%TFA/H2O):(0.05%TFA/ACN))を用いて、単離された生成物が9.36分の保持時間を有し、純度>95%(97.3%)であることが認められた。m/z(ESI-TOF):2178(+2)、1452(+3)。
【0230】
実施例2 3:1エトポシドDMG:Angiopep-2複合体の合成
実施例1に記載の手順を用いて、他のポドフィロトキシン誘導体にコンジュゲートされたペプチドを含む化合物を製造することができる。例えば、図式6に示した合成手順を用い、エトポシドDMGを用いて、図式7に示した複合体を製造することができる(「EtopDMG-An2(3:1)」)。
【0231】
図式6
【化40】
【0232】
図式7
【化41】
【0233】
エトポシド4′-ジメチルグリシン
エトポシド(235mg、0.4mmol)およびDMAP(73mg、0.6mmol)のDMF(4mL)中混合物を室温で20分間撹拌し、撹拌しながらN,N-ジメチルアセチルクロライド(96mg、0.52mmol)を1回で加えた。30分後、HPLCによって反応は完結した。ギ酸(1MのDMF中溶液、0.5mL)を加え、溶媒を濃縮して1mLとした。得られた溶液をAKTA RPCカラムに乗せて精製を行った(勾配10%から30%の0.1%ギ酸含有MeCN/H2O)。凍結乾燥後、エトポシド4′-ジメチルグリシン(「エトポシドDMG」または「EtopDMG」;180mg、67%)を無色粉末として得た。1H NMR(CD3OD)δ7.01(1H、s)、6.56(1H、s)、6.39(2H、s)、5.98(2H、d、J=2.9Hz)、5.05(1H、d、J=3.4Hz)、4.77(1H、q、J=4.9Hz)、4.68(1H、d、J=5.4Hz)、4.66(1H、d、J=7.8Hz)、4.46(2H、s)、4.45(1H、dd、J=10.3、8.8Hz)、4.31(1H、t、J=8.0Hz)、4.17(1H、dd、J=10.3、4.9Hz)、3.68(6H、s)、3.56(1H、q、J=10Hz)、3.54(1H、t、J=9.3Hz)、3.52(1H、dd、J=14.2、5.6Hz)、3.32(1H、m)、3.26(1H、dd、J=9.1、4.1Hz)、3.24(1H、dd、J=9.2、5.4Hz)、3.02(6H、s)、2.96(1H、m)、1.33(3H、d、J=4.9Hz)。13C NMR(DMSO)δ175.26、168.68、151.35、148.49、147.01、139.39、132.74、129.6、127.28、110.65、110.45、108.02、102.19、102.02、99.25、80.78、75.06、73.39、72.41、68.43、68.01、66.44、59.73、56.63、56.47、45.03、43.86、37.89、20.99;C33H39NO14についてのHRMS(MicroTOF)計算値673.2371、実測値274.2534(M+1)。
【0234】
エトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸
エトポシド4′-ジメチルグリシン(655mg、0.97mmol)およびDMAP(18mg、0.15mmol)のクロロホルム(11mL)中混合物を冷却して0℃とした。DMF(3mL)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA;0.25mL、1.46mmol)を連続的に加え、次に無水グルタル酸(222mg、1.94mmol)を加えた。反応混合物を室温で撹拌し、HPLCによってモニタリングした。2日後、溶媒を濃縮して3mLとした。得られた溶液をAKTA RPCカラムに乗せて精製を行った(勾配溶離、10%から30%MeCN/H2O)およびエトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸(305mg、40%)を凍結乾燥後に白色粉末として得た。1H NMR(CD3OD)δ7.0(1H、s)、6.53(1H、s)、6.39(2H、s)、5.99(2H、d、J=4.6Hz)、4.97(1H、q、J=7.9Hz)、4.78(1H、q、J=4.75Hz)、4.74(1H、d、J=7.9Hz)、4.68(1H、d、J=5.6Hz)、4.45(2H、s)、4.41(1H、dd、J=9.6、8.8Hz)、4.29(1H、t.J=8.2Hz)、4.15(1H、dd、J=10.0、4.5Hz)、3.78(1H、t、J=9.4Hz)、3.69(6H、s)、3.61(1H、t、J=10.2Hz)、3.42(1H、td、J=9.6、5.2Hz)、3.33(1H、dd、J=8.7、8.2Hz)、3.3(1H、dd、J=13.4、5.3Hz)、3.02(6H、s)、2.93(1H、m)、2.26(1H、m)、2.16(2H、m)、2.02(1H、m)、1.64(2H、m)、1.32(3H、d、J=4.9Hz)。13C NMR(DMSO)δ175.96、175.33、172.46、163.74、151.14、148.96、147.43、139.53、131.90、129.83、126.42、110.20、109.18、107.40、101.91、100.65、99.63、80.39、74.55、73.95、71.55、71.29、68.43、67.82、66.46、56.43、55.35、43.90、43.15、40.82、38.0、32.86、32.59、19.93、19.39。HRMS(MicroTOF)C38H45NO17の計算値787.2687、実測値788.2432(M+1)。
【0235】
(エトポシド-4′-ジメチルグリシン-2″-グルタリック)3-Angiopep-2複合体(「Etop-4′-DMGly-2″-Glu)3-An2」または「EtopDMG-An2(3:1)」)
エトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸(330mg、0.42mmol)およびTBTU(145mg、0.46mmol)のDMF(24mL)中混合物に、DIEA(0.17mL、0.98mmol)を滴下した。混合物を室温で50分間撹拌した。Angpep-2(422mg、0.14mmol)のDMSO(1.5mL)およびDMF(9mL)中溶液を加え、次にDIEA(0.084mL、0.48mmol)を加えた。混合物を室温で20分間撹拌した。少量サンプル(10mL)をUPLC分析用に取ったが、それは反応が完結したことを示した。さらに10分間撹拌した後、反応溶液を濃縮して3mLとし、AKTA RPCカラムを用いて精製した(勾配溶離、10%から25%の0.05%ギ酸含有MeCN/H2O)。凍結乾燥後に、(Etop-4′-DMGly-2″-Glu)3-An2(172mg、26%)を無色粉末として得た。MS(MicroTOF)、m/z、2305.9327(2+)、1537.6443(3+)、1153.7463(4+)、922.7970(5+)。
【0236】
実施例3 3:1ドキソルビシン:Angiopep-2複合体(「(DoxSu)3-An2」)の合成
図式8に示し、本明細書で説明した合成図式に従って、3:1ドキソルビシン:angiopep-2複合体を製造した。
【0237】
図式8
【化42】
【0238】
Fmocドキソルビシン
ドキソルビシン(2.0g、3.45mmol)および9-フルオレニルメチルN-スクシニミジルカーボネート(FmocOSu;2.32g、6.9mmol)のDMF(35mL)中溶液を撹拌しながら、それにDIEA(1.5mL、8.63mmol)を滴下した。混合物を室温で3時間撹拌し、濃縮した。得られた残留物を0.1%TFA/H2Oで磨砕し(20mLで3回)、Et2Oで洗浄した(20mLで8回)。得られた赤色固体を回収し、真空乾燥してFmocドキソルビシンを赤色粉末として得た(2.1g、収率80%)。UPLC純度、98%.MS(ESI、MicroTOF)、788.2411(M+Na)。
【0239】
FmocDoxSuOH
Fmocドキソルビシン(0.28g、0.366mmol)および無水コハク酸(0.11g、1.1mmol)のDMF(20mL)中溶液に撹拌下で、DIEA(0.17mL、1.0mmol)を滴下した。混合物を室温で撹拌し、UPLCによってモニタリングした。2日後、溶媒を除去し、得られた残留物をバイオテージ(Biotage)カラム(シリカゲル、2%から9%MeOH/DCM)を用いて精製して、FmocDoxSuOHを赤色粉末として得た(100mg、収率33%)。UPLC純度:95%.MS(ESI、MicroTOF)、888.2577(M+Na)。
【0240】
(FmocDoxSu)3-An2
FmocDoxSuOH(599mg、0.692mmol)およびTBTU(231mg、0.72mmol)のDMF(21mL)中溶液に撹拌下で、DIEA(0.25mL、1.44mmol)を滴下した。混合物を室温で50分間撹拌し、Angpep-2(671mg、0.229mmol)のDMSO(2mL)およびDMF(12mL)中溶液を加えた。混合物を室温で20分間撹拌し、その時点でのHPLCで反応が完結していることが示された。さらに10分間撹拌後、溶媒を除去し、残留物をバイオテージC18カラム(40%から80%MeCN/水および0.05%TFA)で精製して、(FmocDoxSu)3An-2を赤色粉末として得た(500mg、収率45%)。UPLC純度、95%.MS(ESI、MicroTOF)、m/z2423.4239(2+)、1615.6190(3+)。
【0241】
(DoxSu)3-An2
(FmocDoxSu)3An-2(260mg、0.053mmol)のDMSO(1mL)およびDMF(12mL)中溶液に、ピペリシン(20%のDMF中溶液、1.5mL)を加えた。その溶液は青色になった。10分間撹拌後、溶液を冷却して0℃とし、ギ酸(0.5MのDMF中溶液、6mL)で処理して透明赤色溶液を得た。真空ポンプを用いて溶媒を除去し、得られた残留物をEt2O(10mlで3回)およびAcOEt(10mlで3回)で磨砕した。得られた赤色固体を、AKTA RPC30カラム(10%から40%MeCN/水および0.15%ギ酸)を用いて精製して、(DoxSu)3An-2を赤色粉末として得た(82mg、収率37%)。UPLC純度:95%.MS(ESI、MicroTOF)、m/z2089.9674(2+)、1393.2419(3+)、1045.4395(4+)。
【0242】
実施例3 細胞増殖に対するエトポシド、エトポシド-Angiopep複合体、ドキソルビシンおよびドキソルビシン-Angiopep複合体の効果
イン・ビトロ細胞増殖アッセイのため、24ウェルの組織培養マイクロプレートにおいて、10%血清を含む培地1mLの最終容量で2.5から5×104個のU87またはSK-HEP-1細胞を接種し、37°Cおよび5%CO2で24時間インキュベートした。培地を、血清を含まない培地と交換し、終夜インキュベートした。翌朝、薬剤をジメチルスルホキシド(DMSO)に新鮮に溶解させ、3重反復での各種濃度でその薬剤を含む完全培地に培地を交換した。DMSOの最終濃度は0.1%であった。使用した対照は、細胞を含むが薬剤を含まないマイクロプレートウェルとした。細胞を37°Cおよび5%CO2で48から72時間インキュベートした。インキュベーション後、培地を変え、[3H]-チミジン(1pCi/アッセイ)を含む完全培地1mLと交換した。プレートを37°Cおよび5%CO2で4時間インキュベートした。培地を除去し、細胞を37°CにてPBSで洗浄した。細胞をエタノール:酢酸の混合物(3:1)で固定し、水で洗浄し、10%の氷冷TCA(トリクロロ酢酸)で3回沈澱させた。最終的にPCA(過塩素酸)500μLをウェルに加え、マイクロプレートを65℃で30分、75℃で30分加熱した。次に、各ウェルの内容物を、シンチレーションカクテル10mLの入ったシンチレーションバイアルに移し、パッカード(Packard)からの液体シンチレーションカウンターTri-CarbでのCPM(カウント/分)で活性を測定した。複合体化していないエトポシド、Etop-An2(1:1)およびEtop-An2(3:1)を用いた細胞増殖アッセイの結果を表4に示してある。表5には、EtopDMG-An2(3:1)、複合体化していないエトポシドDMG、ドキソルビシン/Angiopep-2(3:1)複合体(「ドキソルビシン-An2(3:1)」)および複合体化していないドキソルビシンについて得られた結果を示してある。
【0243】
イン・ビトロ試験に加えて、細胞増殖の阻害を異種移植腫瘍モデルにおいて調べており、その結果を図1に示してある。U87膠芽細胞腫細胞(2.5×106)を、ヌードマウスの右脇腹に皮下的に埋め込んだ。腫瘍容量が約150から200mm3に達した埋め込みから15日後に(図1に示したグラフでは第0日に相当)、処理を開始した。ドキソルビシン(6mg/kg)およびドキソルビシン-An2複合体(20および40mg/kg)の静脈ボラス注射によって週1回で3週間にわたってマウスを処理した。ドキソルビシン-An2複合体は、5mg/mlの酸性化D5W(5%ブドウ糖/水)で希釈した。
【0244】
表4
【表4】
【0245】
表5
【表5】
【0246】
実施例3 イン・サイツ脳潅流試験
米国特許公開第20060189515号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載の手順を、イン・サイツ脳潅流試験に用いた。それらの手順について本明細書でさらに説明する。
【0247】
実施例3a:Etop-An2(3:1)
相当する複合体化していない薬剤と比較した本発明の化合物(例えば、Etop-An2(3:1)、EtopDMG-An2(3:1)およびドキソルビシン-An2(3:1))の脳取り込みを、本明細書および文献(Dagenais et al., J. Cereb. Blood Flow Metab. 20(2):381-386 (2000))に記載のイン・サイツ脳潅流技術を用いて測定した。マウス脳毛細血管の腔側への[125I]-ポリペプチドの取り込みを、マウス脳での薬剤取り込み試験に関して本発明者らの研究室で採用されているイン・サイツ脳潅流方法を用いて測定した。
【0248】
シグマ(Sigma)からのヨードビーズを用いる標準的な手順によって、ポリペプチドをヨウ素化した。すなわち、ポリペプチドを0.1Mホスフェート緩衝液、pH6.5(PB)で希釈した。各タンパク質について二つのヨードビーズを用いた。これらのビーズをワットマン(Whatman)フィルター上でPB 3mLで2回洗浄し、PB 60μLに再懸濁させた。アマシャム-ファルマシア・バイオテク(Amersham-Pharmacia biotech)からの125I(1mCi)を、ビーズ懸濁液に加えて室温で5分間経過させた。ポリペプチド(100μg)を加えることで、各ヨウ素化を開始した。室温で10分間インキュベートした後、遊離のヨウ素をHPLCによって除去した。
【0249】
すなわち、ケタミン/キシラジン(140/8mg/kg、腹腔内)麻酔マウスの右総頸動脈を露出させ、後頭動脈に対して吻側の総頸動脈の分岐の高さで結紮した。ヘパリン(25U/mL)を充填し、26ゲージの針を取り付けたポリエチレンチューブを吻側にて総頸動脈にカテーテル挿管した。潅流液(95%O2および5%CO2の気体充填を行ったpH7.4のKrebs/重炭酸塩緩衝液中の[125I]-ポリペプチドまたは[14C]-イヌリン)の入った注射器を注入ポンプ(ハーバード・ポンプ(Harvard pump)PHD 2000; Harvard Apparatus)に入れ、カテーテルにつないだ。潅流に先だって、心室を切断することで、反対側の血流の寄与を除外した。1.15mL/分の流量で指定の期間にわたって、脳を潅流した。14.5分間の潅流後、クレブス緩衝液で脳を60秒間さらに潅流して、過剰の[125I]-タンパク質を洗った。マウスの頭部を切断して潅流を停止し、右半球を氷上に摘出してから、毛細血管枯渇を行った。ホモジネート、上清、ペレットおよび潅流液の少量サンプルを取って、TCA沈澱によって[125I]-複合体中のそれらの含有量を測定し、見かけの分布容積を評価した。
【0250】
これらの実験の結果を、図2AからDおよび3に示した。図2Aでは、イン・サイツ脳潅流により、複合体化していないエトポシドよりEtop-An2(3:1)の方がVdが高い(すなわち、Etop-An2(3:1)について認められる勾配が、複合体化していないエトポシドについて認められる勾配より大きい)ことがわかる。同様の傾向が、複合体化していないエトポシドDMGと比較したEtopDMG-An2(3:1)(図2B)および複合体化していないドキソルビシンと比較したドキソルビシン-An2(3:1)(図2C)についても認められる。図2Cからわかるように、ドキソルビシン-An2(3:1):複合体化していないドキソルビシンについてのKinの比は15である。この手順は、反管腔側内皮膜を通過して脳実質に進入したものから脳血管区画に残っている化合物間も区別するものである。図3に、Etop-An2(3:1)のイン・サイツ潅流を示してある。このグラフの各群分けにおいて、左の棒線は複合体化していないエトポシドを表し、中央の棒線はEtopDMG-An2(3:1)(バッチ1)を表し、右側の棒線はEtopDMG-An2(3:1)(バッチ2)を表す。脳毛細血管枯渇後のEtop-An2(3:1)の脳再区分を、図4Aおよび4Bに示してある。さらに、エトポシドとは対照的に、Etop-An2(3:1)の脳取り込みは野生型およびP-gpノックアウトマウスで同様であり、それはEtop-An2(3:1)がP-gp基質ではないことを示している(図5)。この図では、各群の左の棒線がCD-1マウスを用いて得られた結果を示し、右の棒線がP-gpノックアウトマウスを用いて得られた結果を示す。Etop-An2(3:1)の脳取り込みは、複合体化していないポリペプチドの同時投与によって阻害することができる。図6は、[125I]-Etop-An2(3:1)の2倍過剰の複合体化していないAngiopep-2との同時潅流によって実質Vdが27%低下することを示している。
【0251】
実施例3b:EtopDMG-An2(3:1)およびドキソルビシン-An2(3:1)
複合体化していないEtopDMGと比較したEtopDMG-An2(3:1)の脳取り込みを、実施例3aについて記載の方法を用いて測定し、その結果を表6および図7に示した。表6には、ドキソルビシン-An2(3:1)およびドキソルビシンについての相当するデータも含めてある。複合体化していないEtopDMGとは対照的に、ドキソルビシン-An2(3:1)の脳取り込みは、野生型およびP-gpノックアウトマウスで同様であり、そのことはドキソルビシン-An2(3:1)がP-gp基質ではないことを示している。
【0252】
表6
【表6】
【0253】
実施例4 3:1エトポシド-Angiopep-2複合体の血漿中動態
図8に、ボラスとして投与した後のEtop-An2(3:1)の血漿中動態を記載してある。体重約25から30gのCD-1マウスにおいて、静脈(i.v.)経路または腹腔内(i.p.)経路で放射性標識(125I)Etop-An2(20mg/kg)を注射した。注射液は、12.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)、12.5%脱水エタノール、25%ポリエチレングリコール400(PEG400)および50%NaCl/グリシン緩衝液から構成されたものであった。数回の時間間隔で(0.5、1、2および6時間)、心臓穿刺によって採血を行い、動物を犠牲にした。血液を遠心した後、血漿の放射能をガンマカウンター(Wizard1470自動ガンマカウンター)で測定した。放射能は、血漿1g当たりの注射用量%として解釈した。結果をGraphPadプリズムソフトウェアを用いてプロットし、各注射モードについての曲線下面積(AUC)を計算した。次に、腹腔内注射後のAUCを静脈注射後のAUCで割ることで、腹腔内Etop-An2複合体の生物学的利用能を推算した。腹腔内投与後の推算生物学的利用能は、46%と計算される。マウスでのIVボラス投与後のEtop-An2(3:1)の薬物動態パラメータを表7に示してある。複合体化していないエトポシドについての文献データは、T1/2α=0.13時間を示している(Reddy et al., Journal of drug targeting, 13(10): 543-553 (2005))。
【0254】
表7
【表7】
【0255】
実施例5 3:1エトポシドDMG-Angiopep-2複合体および3:1エトポシド-Angiopep-2複合体の組織分布
標識ポリペプチドまたは複合体を動物に投与し、ポリペプチドまたは複合体のマウスでの臓器の分布を測定することで(例えば、3Hまたは125I標識複合体を使用)、ベクターへの薬剤のコンジュゲーションが薬剤の分布または薬剤とコンジュゲートしたポリペプチドの薬物動態に与える効果を評価した。同様の実験を、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6およびAngioPep-7またはそれらのアナログなどの表1に記載のポリペプチド)を含む化合物を用いて実施することができる。ここで、複合体化していない抗癌剤および複合体を、マウスにボラスとして静脈注射した。組織を異なる時点で採取し(0.25、0.5、1および4時間)、均質化した。3H-標識複合体の量を定量するため、組織ホモジネートを組織溶解剤で消化させ、液体シンチレーター10mLをサンプルに加えた。異なる組織での125I標識複合体の量を、TCA沈澱後に測定する。組織に関連する放射能を定量する。曲線下面積(AUC0-4)をプリズムソフトウェアを用いて推算し、異なる組織についてプロットする。
【0256】
図9に、マウスでのIVボラス投与後のEtopDMG-An2の脳分布を示してある。この図では、各群分けの左の棒線は複合体化していないエトポシドで得られた結果を示し、右の棒線はEtop-An2(3:1)で得られた結果を示す。図10は、マウスでのIVまたはIPボラス投与後のEtop-An2(3:1)の脳分布を示す。図11は、マウスにIVボラス投与してから30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の脳分布を比較するものである。図12は、複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の組織分布を示すものである。この図において、各群分けの左の棒線は複合体化していないエトポシドで得られた結果を示し、右の棒線はEtop-An2(3:1)で得られた結果を示す。Etop-An2(3:1)を用いることで、調べた組織での濃度が上昇している。
【0257】
実施例6:ヒト脳腫瘍のマウスモデルでのドキソルビシン-An2(3:1)複合体の抗腫瘍効果
これらの試験で用いた動物は全て、動物ケアに関するカナダ委員会ガイドライン(the Guidelines of the Canadian Council on Animal Care;CCAC)に準拠して取り扱い、維持した。動物プロトコールは、モントリオールのケベック大学学内動物ケア・使用委員会(the Institutional Animal CareおよびUse Committee of Universite du Quebec a Montreal)によって承認された。
【0258】
ヌードマウス脳で5×105個のU87細胞を定位接種することで、脳内ヒト脳腫瘍モデルを作った。雌胸腺欠損ヌードマウス(Crl:Nu/Nu-nuBR;20から25g、4から6週齢; Charles River Canada, St-Constant, QC)を腫瘍モデルに用い、病原体のない環境に維持した。手術の1時間前に、マウスにブプレノルフィン(0.1mgkg-1)を皮下注射した。腫瘍細胞接種のため、ケタミン/キシラジン(120/10mgkg-1)の腹腔内投与によってマウスに麻酔を施し、定位装置(Kopf;Tujunga,CA)に置いた。十字縫合の前1.5mmおよび横2.5mmに穿頭孔をあけた。血清を含まない細胞培地5μL中の細胞懸濁液を、深さ3.5mmでハミルトン(Hamilton)注射器を用いて5分間かけて注射した。
【0259】
接種から3日後に薬剤投与を開始した(表8)。治療化合物(例えば、ドキソルビシンまたはドキソルビシン-An2(3:1)複合体)を、ボラス尾静脈注射によって静脈投与した(週1回)。薬剤溶液をブドウ糖5%水(D5W)中で調製した。注射液は、各投与の前に新鮮に調製した。疾患進行の臨床兆候および体重を毎日モニタリングした。マウスが最終エンドポイント(20%の体重低下)に達した時点で、動物を二酸化炭素窒息によって犠牲にした。
【0260】
表8
【表8】
【0261】
図13Aおよび13Bのそれぞれに、単独またはパクリタキセル-Angiopep2複合体との併用で投与した場合の(DoxSu)3-An2複合体の効力を示した。図13Aには、一つの試験で得られた結果を示してあり、図13Bには第2の実験セットで得られた結果を示してある。試験2から得られたデータ(図13B)の統計解析で、認められた27%改善が統計的に有意(p<0.007)であることがわかった。
【0262】
他の実施形態
本願で言及される各刊行物、特許および特許出願の内容は、参照によって組み込まれるものである。本発明について本明細書で詳細に説明し、添付の図面で示したが、理解すべき点として、本発明は本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲または精神から逸脱しない限りにおいて、各種の変更および修正を行うことは可能である。
【0263】
以上、本発明についてそれの具体的な実施形態との関連で説明したが、さらなる改善が可能であり、本願が、本発明の原理に従い、本発明が関係する分野に含まれる公知もしくは従来の実務に包含され、本明細書において前述の必須の特徴に適用可能で、添付の特許請求の範囲に従う本発明の開示からのそのような逸脱を含む本発明の変形形態、使用または適応化を包含するものであることは明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達の分野における改善に関するものである。詳細には本発明は、ポドフィロトキシン誘導体 (例えば、エトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンなどのエトポシド誘導体)などの治療薬またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体に対して加水分解性共有結合を有するポリペプチドに関する。これらのポリペプチド複合体は、血液脳関門(BBB)を通過して、卵巣、肝臓、肺もしくは腎臓などの特定の細胞種中に治療薬を輸送するためのベクターとして用いることができる。これらの複合体は、複合体化していない治療薬と比較して改善された物理化学的特性(例えば、溶解度上昇)および医薬特性(例えば、治療量以下の用量を可能とするターゲティングの向上または治療量以下の用量を可能とする毒性の軽減)を示すことができる。本発明はまた、本発明の化合物を含む医薬組成物ならびに治療方法でのそれの使用に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
そのような疾患に対する多くの治療薬が、望ましくない副作用(例えば、化学療法薬)を有するか、イン・ビボ安定性、輸送、または他の薬物動態特性のために、標的組織において十分に高い濃度でまたは標的組織での最大の治療効果を可能とするだけの長い期間にわたって提供することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、脳、卵巣、肝臓または肺などの標的の臓器または組織において治療薬および診断薬の濃度を高める方法および組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、エトポシドが加水分解性グルタル酸リンカーを介して2″ヒドロキシルでAngiopep-2ポリペプチド(配列番号97)に共有結合的に結合しているペプチド-治療薬複合体およびそれの製薬上許容される塩を開発した(例えば、図式1に示した化合物(1))。エトポシドに代えてエトポシド4′-ジメチルグリシンを用いた関連するペプチド-治療薬複合体も製造しており、改善された特性(例えば、溶解度)が認められる。
【0005】
図式1
【化1】
【0006】
ドキソルビシンは、コハク酸リンカーを用いてAngiopep-2ポリペプチドに14-ヒドロキシルでも共有結合的に結合されている(例えば、図式2に示した化合物(2)の三塩酸塩)。ドキソルビシン塩酸塩の共有結合によっても、特性(例えば、溶解度)を改善することができる。
【0007】
図式2
【化2】
【0008】
これらの複合体は、改善された物理化学的特性(例えば、溶解度上昇)および医薬特性(例えば、治療量以下の用量を可能とするターゲティングの向上または治療量以下の用量を可能とする毒性の軽減)などの、相当する複合体化していない治療薬を比較して改善された特性を示すことができる。エトポシドDMGおよびドキソルビシン塩酸塩複合体の溶解度は、投与法を調節する上で有用ともなり得る。従って本発明は、これらの化合物ならびに関連する化合物を特徴とする。これらの化合物の製造方法および使用方法も提供される。
【0009】
従って、1態様において本発明は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、またはそれの製薬上許容される塩、またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からポドフィロトキシン誘導体への共有結合を含むものを特徴とする。一部の実施形態において、前記ポドフィロトキシン誘導体は、下記式(I)による構造を有する化合物またはそれの立体異性体もしくは製薬上許容される塩である。
【化3】
【0010】
式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、または置換されていても良いアリールから選択され;
nは1、2、3、4、5、6、7または8であり;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つがYであり、R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの1個以下がYである。
【0011】
一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、nは3である。
【0012】
一部の実施形態において、当該化合物の製薬上許容される塩は一、二もしくは三酸付加塩(例えば、1、2もしくは3塩酸塩)である。
【0013】
一部の実施形態において、各式(I)の化合物は独立に、下記のものから選択され、
【化4】
【0014】
式中、
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2またはC(O)CH2N(CH3)2であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-;-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-;-S(O)2(CH2)nS(O)2-;-[S(O)2{OCH2CH2}nOS(O)2]-;-[{P(O)(OR9)}(CH2)n{P(O)(OR9)}]-;および-[{P(O)(OR9)}(OCH2CH2)nO{P(O)(OR9)}]-から選択され;各nは独立に、1、2、3、4、5または6であり;各Yは共有結合的に、アミノ酸に結合している。一部の実施形態において、各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。一部の実施形態において、各R2はC(O)CH2N(CH3)2である。一部の実施形態において、各式(I)の化合物は下記のものである。
【化5】
【0015】
一部の実施形態において、本発明の化合物は下記の構造を有する。
【化6】
【0016】
式中、
各(-(式(I))基は、指定されたアミノ酸と式(I)の化合物の間の適宜の共有結合を表し、ポリペプチドのアミノ酸と前記式(I)の化合物の間には少なくとも1個の共有結合がある。一部の実施形態において、アミノ酸配列には2個の式(I)の化合物が結合している。他の実施形態において、ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(I)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む。
【0017】
一部の実施形態において、R2はHまたは-C(O)CH2N(CH3)2(すなわち、C-連結N,N-ジメチルグリシン)である。他の実施形態において、各R2はHである。さらに別の実施形態において、各R2は-C(O)CH2N(CH3)2である。
【0018】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いC1-6アルキルは独立に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、sec-ペンチル、イソ-ペンチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルまたはsec-ヘキシルから選択される。一部の実施形態において、前記C1-6アルキルは、いずれかの炭素で少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)で置換されている。
【0019】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いC3-10シクロアルキルは独立に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルから選択される。
【0020】
一部の実施形態において、前記置換されていても良いアリール基は独立に、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニルまたはインデニルから選択される。
【0021】
一部の実施形態において、前記置換されていても良い複素環基は独立に、アザシクロプロパニル、アザシクロブタニル、1,3-ジアザチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、チラニル、チエタニル、テトラヒドロチオフェニル、ジチオラニル、テトラヒドロチオピラニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、オキサチオラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオキサニルおよびキヌクリジニルから選択される。
【0022】
一部の実施形態において、前記置換されていても良い複素環基は、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、テトラジニル、ピロリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、キノリジニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキザリニル、チオフェニル、チエピニル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリルおよびオキサジアゾリルから選択される。
【0023】
一部の実施形態において、置換されたアルキル、シクロアルキル、アリール、複素環またはヘテロアリールは、C1-6アルキル;ハロゲン;アジド(-N3)、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、アシルオキシ、アシル(-C(O)R)、(-OC(O)R)、アルコキシ(-OR)、アミド(-NRC(O)R′または-C(O)NRR′)、アミノ(-NRR′)、アリール、カルボン酸(-CO2H)、カルボン酸エステル(-CO2R)、カルバモイル(-OC(O)NRR′または-NRC(O)OR′)、シクロアルキル、複素環、ヒドロキシ(-OH)、イソシアノ(-NC)、ホスフェート(-P(O)(OR)(OR′))、スルホネート(-SO2OR)またはスルホニル(-SO2R)から選択される1、2、3、4、5または6個の置換基で置換されており、各RまたはR′は独立に、本明細書で定義のH、C1-6アルキル、シクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリールから選択される。一部の実施形態において、これらの置換基はそれ以上置換されていない。他の実施形態において、前記置換基自体が、1、2、3、4、5もしくは6個の置換基でさらに置換されていても良い。
【0024】
一部の実施形態において、R4はYである。他の実施形態において、R5はYである。
【0025】
他の実施形態において、アミノ酸配列は、前記アミノ酸配列の第2、第3、第4もしくは第5のアミノ酸を介して別のポドフィロトキシン誘導体に共有結合的に結合している。一部の実施形態において、前記ポドフィロトキシン誘導体は式(I)の化合物である。
【0026】
ある種の実施形態において、式Iの化合物は、下記の構造を有する。
【化7】
【0027】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0028】
他の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化8】
【0029】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0030】
さらに別の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化9】
【0031】
式中、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-または-[C(O){OCH2CH2}nOC(O)]-であり、nは2、3または4である。
【0032】
他の実施形態において、各式(I)の化合物は独立に、下記のものから選択される。
【化10】
【0033】
式中、各R8AおよびR8Bは独立に、Hまたは置換されていても良いC1-6アルキルであり、あるいはR8AとR8Bが一体となって、置換されていても良い3から7員環を形成している。一部の実施形態において、各R8AおよびR8Bは置換されていても良いC1-6アルキルである。他の実施形態において、各式(I)の化合物は下記の構造を有する。
【化11】
【0034】
別の実施形態において、前記化合物は下記の構造を有する。
【化12】
【0035】
特定の実施形態において、前記化合物は下記の構造:
【化13】
【0036】
を有するか、それの製薬上許容される塩(例えば、三塩酸塩)であり、化合物(I)の式中において、エトポシドはエトポシド4′-ジメチルグリシンを指す。
【0037】
ある種の実施形態において、加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸は、前記アミノ酸のアミノ、グアニジノ、ヒドロキシル、フェノールまたはチオール官能基を介して結合している。一部の実施形態において、加水分解性リンカーYに共有結合的に結合しているアミノ酸は、リシン、チロシン、セリン、トレオニン、またはアルギニンである。
【0038】
第2の態様において、本発明は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、またはそれの製薬上許容される塩、またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からドキソルビシン誘導体への共有結合を含み、前記ドキソルビシン誘導体が下記式(II)による構造を有する化合物または立体異性体もしくは製薬上許容される塩であるものを特徴とする。
【化14】
【0039】
式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択されるか、加水分解性リンカーYであり;
R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの1個および1個のみがYである。
【0040】
一部の実施形態において、前記化合物の前記製薬上許容される塩は、一、二もしくは三酸付加塩(例えば、1、2または3塩酸塩)である。
【0041】
ある種の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有する。
【化15】
【0042】
式中、X2R18はHまたはNH2であり;X3R19はHまたはOHであり;X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;Yは本明細書に記載の加水分解性リンカーである。別の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化16】
【0043】
別の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有する。
【化17】
【0044】
ある種の実施形態において、当該化合物は、下記の構造を有する。
【化18】
【0045】
式中、各(-(式(II))は、指定されたアミノ酸と式(II)の化合物の間の適宜の共有結合を表し、ポリペプチドのアミノ酸と前記式(II)の化合物の間には少なくとも1個の共有結合がある。一部の実施形態において、ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(II)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む。
【0046】
一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、nは2である。他の実施形態において、アミノ酸配列は、アミノ酸配列の2番目、3番目、4番目または5番目のアミノ酸を介して式(II)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している。別の実施形態において、前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸は、前記アミノ酸のアミノ、グアニジノ、ヒドロキシル、フェノールまたはチオール官能基を介して結合している。ある種の実施形態において、前記アミノ酸はリシンまたはトレオニンである。
【0047】
一部の実施形態において、式(II)の化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化19】
【0048】
特定の実施形態において、前記化合物は、下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩(例えば、三塩酸塩)である。
【化20】
【0049】
別の態様において、本発明は、下記の化合物
【化21】
【0050】
(「エトポシド4′-ジメチルグリシン」または「エトポシドDMG」)またはそれの立体異性体、または製薬上許容される塩もしくは溶媒を特徴とする。
【0051】
上記の態様のいずれにおいても、アミノ酸配列は、表1に示した配列のいずれかまたはそれの断片またはそれの製薬上許容される塩と実質的に同一であることができる。ある種の実施形態において、アミノ酸配列はAngiopep-1(配列番号67)、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-3(配列番号107)、Angiopep-4a(配列番号108)、Angiopep-4b(配列番号109)、Angiopep-5(配列番号110)、Angiopep-6(配列番号111)またはAngiopep-7(配列番号112)の配列を有する。本発明のアミノ酸配列または化合物は、特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓および筋肉のうちのいずれか1、2、3、4もしくは5個)に効率的に輸送され得るか、効率的に哺乳動物BBBを通過することができる(例えば、Angiopep-1、-2、-3、-4a、-4b、-5および-6)。一部の実施形態において、細胞は卵巣細胞である。別の実施形態において、複合体は特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓および筋肉のうちのいずれか1、2、3、4もしくは5個)に進入することができるが、BBBを効率的には通過しない(例えば、Angiopep-7などの複合体)。一部の実施形態において、細胞は卵巣細胞である。ポリペプチドは、いかなる長さのものであっても良く、例えば、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、25、35、50、75、100、200または500アミノ酸である。ある種の実施形態において、ポリペプチドは10から50アミノ酸の長さのものである。複合体は実質的に純粋であることができる。ポリペプチドは、組換え遺伝子工学または化学合成によって製造することができる。複合体は、製薬上許容される担体とともに製剤することができる。
【0052】
表1:ポリペプチドの例
【表1】
【0053】
ポリペプチド番号5、67、76および91は、それぞれ配列番号5、67、76および91の配列を含み、C末端でアミド化されている。
ポリペプチド番号107、109および110はそれぞれ配列番号97、109および110の配列を含み、N末端でアセチル化されている。
【0054】
上記の態様のいずれにおいても、ポリペプチドは下記式を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【化22】
【0055】
式中、X1からX19のそれぞれ(例えば、X1からX6、X8、X9、X11からX14、およびX16からX19)は、独立にいずれかのアミノ酸(例えば、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrおよびValなどの天然アミノ酸)または非存在であり、X1、X10およびX15のうち少なくとも一つ(例えば、2または3)はアルギニンである。一部の実施形態では、X7はSerまたはCysであり;X10およびX15はそれぞれ独立にArgまたはLysである。一部の実施形態では、X1からX19(両端を含む)の残基は、配列番号1から105および107から112(例えば、AngioPep-1、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6、およびAngioPep-7)のうちのいずれか一つのアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一である。一部の実施形態では、アミノ酸X1からX19の少なくとも1個(例えば、2、3、4または5個)がArgである。一部の実施形態において、ポリペプチドは、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端またはその両方に1以上の別のシステイン残基を有する。
【0056】
上記いずれかの態様のある種の実施形態において、ポリペプチドは修飾されている(例えば、本明細書に記載のように)。ポリペプチドは、アミド化、アセチル化またはその両方を受けていても良い。ポリペプチドに対するそのような修飾は、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端であり得る。本発明の複合体は、本明細書に記載のいずれかのポリペプチドのペプチド模倣薬(例えば、本明細書に記載されるもの)も包含し得る。ポリペプチドは多量体型、例えば二量体であることができる(例えば、システイン残基を介したジスルフィド結合によって形成される)。
【0057】
ある種の実施形態において、ポリペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸置換(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個の置換)を有する本明細書に記載のアミノ酸配列を有する。ポリペプチドは、例えば、1から12、1から10、1から5、または1から3個のアミノ酸置換、例えば1から10個(例えば、9、8、7、6、5、4、3、2個まで)のアミノ酸置換を有することができる。アミノ酸置換は保存的または非保存的であることができる。例えば、ポリペプチドは、配列番号1、Angiopep-1、Angiopep-2、Angiopep-3、Angiopep-4a、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7のうちのいずれかのアミノ酸配列の1位、10位および15位に相当する位置の一つ、二つまたは三つにアルギニンを有することができる。
【0058】
上記態様のいずれにおいても、複合体は、配列番号1から105および107から116のいずれかを含むかそれからなるポリペプチド(例えば、Angiopep-1、Angiopep-2、Angiopep-3、Angiopep-4a、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7)を特に排除することができる。一部の実施形態において、本発明のポリペプチドおよび複合体は、配列番号102、103、104および105のポリペプチドを排除している。
【0059】
一部の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれらの官能基誘導体と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一性を有する。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有する。さらに別の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも35%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有する。
【0060】
一部の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含む。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のものである。
【0061】
さらに別の実施形態において、アミノ酸配列は、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体からなる。ある種の実施形態において、アミノ酸配列は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のものである。
【0062】
一部の実施形態において、本発明の化合物は、相当する複合体化していない生理活性物質と比較して、標的細胞型または組織での生理活性物質(例えば、式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体または式(II)の化合物などのドキソルビシン誘導体)の蓄積を変えることができる。さらに別の実施形態において、本発明の化合物は、標的細胞型または組織での生理活性物質の蓄積を促進する。ある種の実施形態において、生理活性物質の濃度は、複合体化していない生理活性物質で認められる濃度と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、1000%、2000%、3000%、4000%、5000%、6000%、7000%、8000%、9000%、10000%、12500%、15000%、17500%または20000%上昇する。一部の実施形態において、標的細胞型または組織は、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉である。一部の実施形態において、標的細胞型は脳または卵巣である。ある種の実施形態において、生理活性物質はエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、ドキソルビシンまたはエピルビシンから選択される。他の実施形態において、本発明の化合物は、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6もしくはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含む。
【0063】
第3の態様において、本発明は、本明細書に記載のいずれかの本発明の化合物(例えば、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体または製薬上許容される塩を含み、そのアミノ酸配列がそのアミノ酸配列のアミノ酸から式(I)もしくは(II)の化合物(例えば、化合物(1)または(2))への共有結合を含む化合物)および製薬上許容される担体を含む医薬組成物を特徴とする。第4の態様において、本発明は、治療上有効量の本明細書に記載のいずれかの本発明の化合物(例えば、配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含み、そのアミノ酸配列がそのアミノ酸配列のアミノ酸から式(I)もしくは(II)の化合物への共有結合を含む化合物)を患者に対して投与する段階を含む癌を治療または予防的に処置する方法を特徴とする。一部の実施形態において、前記化合物は化合物(1)または(2)である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、下記のものから選択される。
【化23】
【0064】
式中、YはHであり;各R2は独立に、HまたはP(O)(OH)2、または-C(O)R8であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;各nは独立に、2、3または4である。一部の実施形態において、nは3である。一部の実施形態において、各R2は-C(O)R8である。一部の実施形態において、R8は、少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)を含むC1-6アルキルである。ある種の実施形態において、-C(O)R8は、C-連結アミノ酸である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体はエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド4′-ジメチルグリシン(エトポシドDMG)、またはテニポシドである。さらに別の実施形態において、前記化合物はドキソルビシンまたは本明細書に記載のいずれかのドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)である。
【0065】
一部の実施形態において、前記方法は、第2の薬剤を投与する段階も含む。さらに別の実施形態において、その薬剤は治療薬である。ある種の実施形態において、第2の治療薬も、本発明の化合物に共有結合的に結合している。さらに別の実施形態において、第2の治療薬は、本発明の化合物に共有結合的に結合していない。一部の実施形態において、その治療薬は、疾患を治療するための薬物、医薬、放射線を放出する物質、細胞毒、それの生理活性断片またはこれらの混合物である。他の実施形態において、投与は別の治療法と同時に行う。一部の実施形態において、その治療法は、放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱治療である。一部の実施形態において、第2の治療薬は、Angiopep-2(配列番号97)の配列を含むかその配列からなるポリペプチドであり、好ましくはAngiopep-2が抗癌剤(例えば、パクリタキセル)にコンジュゲートしているもの、例えばANG1005であり、それは下記の構造を有する。
【化24】
【0066】
さらに別の第2の治療薬の例が、米国特許第7557182号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0067】
一部の実施形態において、癌は、脳の癌である。他の実施形態において、脳の癌は、膠芽細胞腫、神経膠腫、聴神経腫、腺腫、星細胞腫、脈絡叢乳頭腫、CNSリンパ腫、上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫または神経線維腫症である。さらに別の実施形態において、癌は、急性リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、副腎皮質癌、静脈性および膀胱内膀胱癌、骨肉腫、乳癌、カルチノイド症候群(小腸)、子宮体癌、ユーイング肉腫、婦人科肉腫、頭部癌および頸部癌(扁平細胞)、肝臓癌、ホジキン病、島細胞癌、白血病、肺癌、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、骨原性肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、膀胱移行上皮癌、軟組織肉腫またはウィルムス腫瘍である。
【0068】
本明細書に記載の治療方法において、本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))またはそれの製薬上許容される塩は、複合体化していない治療薬(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド4-ジメチルグリシンまたはドキソルビシン)と比較して、治療量以下の用量または治療量より高い用量として患者に投与することができる。
【0069】
別の態様において、本発明は、二官能性加水分解性連結基を用いて、本明細書に記載のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体にポドフィロトキシン誘導体を共有結合的に結合させる段階を含む、本発明の化合物の製造方法を特徴とする。一部の実施形態において、前記アミノ酸配列は配列番号1から105および107から116またはそれの官能基誘導体から選択される。他の実施形態において、前記アミノ酸配列には、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6、またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列などがある。
【0070】
一部の実施形態において、本発明の化合物の製造方法は、
(a)前記式(I)の化合物を前記二官能性加水分解性連結基と組み合わせて、共有結合付加物を形成する段階;および
(b)(a)の付加物を前記アミノ酸配列を組み合わせる段階
を含み;
前記(a)の付加物を、(b)で用いる前に精製しても良い。
【0071】
一部の実施形態において、式(I)の化合物に対して1.0から10.0当量の二官能性加水分解性連結基を用いる。例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2.、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9または3.0当量を用いることができる。他の実施形態において、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、または10.0当量の二官能性加水分解性連結基を用いる。ある種の実施形態において、その方法は、ペプチドカップリング剤の使用を含む。一部の実施形態において、ペプチドカップリング剤は、N,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU)である。
【0072】
一部の実施形態において、加水分解性二官能性連結基は、ジカルボン酸類、ジカーボネート類、無水カルボン酸類、ジイソシアネート類またはジホスホン酸類から選択される。ある種の実施形態において、加水分解性二官能性連結基は、コハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸または酪(butaric)酸から選択される。
【0073】
一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、下記のものから選択される。
【化25】
【0074】
式中、
YはHであり;各R2は独立に、HまたはP(O)(OH)2または-C(O)R8であり;各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;各nは独立に、2、3または4である。一部の実施形態において、nは3である。一部の実施形態において、各R2は-C(O)R8である。一部の実施形態において、R8は、少なくとも1個の置換されていても良いアミノ基(例えば、NH2またはN(CH3)2)を含むC1-6アルキルである。ある種の実施形態において、-C(O)R8はC-連結アミノ酸である。一部の実施形態において、ポドフィロトキシン誘導体は、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、またはテニポシドである。
【0075】
本明細書に記載の方法または組成物では、化合物の製薬上許容される塩は、一、二、三または四酸付加塩(例えば、三塩酸塩)であることができる。本明細書に記載のいずれの実施形態においても、ポリペプチドに共有結合的に結合している式(I)の化合物または(II)(例えば、エトポシド、エトポシドDMG、またはドキソルビシン)は、プロトン化の部位である。例えば、化合物(1)において、エトポシドDMG部分のうちの1、2または3個がプロトン化されており、または化合物(2)では、ドキソルビシン部分のうちの1、2または3個がプロトン化されて、酸付加塩を形成している(例えば、一、二または三塩酸塩)。
【0076】
本明細書で使用される場合の「C1-6アルキル」または「アルキル」という用語は、置換されていても良いC1-6飽和炭化水素基を指す。アルキル基は、直鎖または分岐であることができる。アルキル基の例には、1以上の置換基を有していても良いメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、sec-ペンチル、イソ-ペンチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、sec-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、n-ウンデシル、ドデシルなどがあるが、これらに限定されるものではない。例えば、置換されたアルキル基は、1、2、3、4、5または6個の置換基を有することができる。
【0077】
本明細書で使用される場合の「アリール」という用語は、5から14個の炭素原子を有する置換されていても良い単環式または多環式で芳香族性の全て炭素の部分を指す。本発明のある種の実施形態において、「アリール」は、置換されたまたは置換されていない単環式または二環式の基を指す。アリール基の例には、1以上の置換基を有していても良いフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。アリールには、ヘテロアリールも含まれる。
【0078】
本明細書で使用される場合の「C-連結アミノ酸」という用語は、アミノ酸のC末端によって別の化合物(例えば、本明細書に記載のポドフィロトキシン誘導体のいずれか)に共有結合的に結合しているアミノ酸を指す。
【0079】
本明細書で使用される場合の「C3-10シクロアルキル」または「シクロアルキル」という用語は、置換されていても良い飽和の3から10員単環式もしくは二環式炭化水素環系を指す。シクロアルキルの例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルなどがある。置換されたシクロアルキルは、例えば1、2、3、4、5、6または7個の置換基を有することができる。
【0080】
本明細書で使用される場合の「ヘテロアリール」という用語は、1、2、3または4個の環原子がS、OおよびNから選択されていることができ、残りの環原子が炭素である5から14個の環原子を有する置換されたまたは置換されていない単環式または多環式の芳香族部分を指す。ヘテロアリール基の例には、1以上の置換基を有していても良いピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、テトラジニル、ピロリジニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、キノリジニル、シンノリニル、キナゾリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキザリニル、チオフェニル、チエピニル、フラニル、ベンゾフラニル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本明細書で使用される場合の「複素環式」または「複素環」という用語は、3から8個の原子の大きさの単一の環を含む置換されていても良い非芳香族の部分不飽和または完全飽和の3から10員環系、および非芳香族環に縮合した芳香族の5員もしくは6員アリールまたはヘテロアリール基を含むことができる二環式および三環式環系を指す。これらの複素環には、独立に酸素、硫黄および窒素から選択される1から3個のヘテロ原子を有するものなどがあり、窒素および硫黄ヘテロ原子は酸化されていても良く、窒素ヘテロ原子は四級化または置換されていても良い。ある種の実施形態において、複素環という用語は、少なくとも1個の環原子がO、SおよびN(窒素および硫黄ヘテロ原子は酸化されていても良い)から選択されるヘテロ原子であり、残りの環原子が炭素であり、その基がいずれかの環原子を介して分子の残りの部分に結合している非芳香族の5、6または7員の単環式環を指す。複素環の例には、1以上の置換基を有していても良いアザシクロプロパニル、アザシクロブタニル、1,3-ジアザチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、チラニル、チエタニル、テトラヒドロチオフェニル、ジチオラニル、テトラヒドロチオピラニル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニル、オキサチオラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオオキサニル、キヌクリジニルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本明細書で使用される場合の「製薬上許容される塩」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを起こすことなくヒトおよび動物の組織と接触しての使用に好適であり、妥当な利益/リスク比を与える酸付加塩を表す。製薬上許容される塩は当業界で公知である。例えば、製薬上許容される塩は、バージらの報告(Berge et al., J. Pharmaceutical Sciences 66:1-19, 1977)およびスタールらの編著(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, (Eds. P.H. Stahl and C.G. Wermuth), Wiley-VCH, 2008)に記載されている。その塩は、本明細書に記載の化合物の最終的な単離および精製時にイン・サイツで、または1以上の塩基性の基(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個)を有する化合物を所望の当量の好適な有機酸もしくは無機酸と反応させることで別個に製造することができる。代表的な酸付加塩には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、ウンデカン酸塩および吉草酸塩などがある。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなど(これらに限定されるものではない)の無毒性のアンモニウム、四級アンモニウムおよびアミンカチオン類などがある。望ましくは、「製薬上許容される酸付加塩」は、本明細書に記載のいずれかの化合物の一、二、三もしくは四酸付加塩である(例えば、本明細書に記載のいずれかの化合物の一、二、三もしくは四塩酸塩)。
【0083】
本明細書で使用される場合の「ホスフェート」という用語は、式-OP(=O)(OR′)(OR″)を有する5価のリン基(各R′およびR″は独立に、水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-10シクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリールから選択される)を指す。
【0084】
ある基が「置換されていても良い」と記述されている場合、適宜の置換基は、独立にC1-6アルキル;ハロゲン;アジド(-N3)、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、アシルオキシ、アシル(-C(O)R)、(-OC(O)R)、アルコキシ(-OR)、アミド(-NRC(O)R′または-C(O)NRR′)、アミノ(-NRR′)、アリール、カルボン酸(-CO2H)、カルボン酸エステル(-CO2R)、カルバモイル(-OC(O)NRR′または-NRC(O)OR′)、シクロアルキル、複素環、ヒドロキシ(-OH)、イソシアノ(-NC)、ホスフェート(-P(O)(OR)(OR′))、スルホネート(-SO2OR)、またはスルホニル(-SO2R)(各RまたはR′は独立に、H、C1-6アルキル、シクロアルキル、複素環、アリールまたはヘテロアリールから選択される)など(これらに限定されるものではない)の基から選択することができる。置換される基は例えば1、2、3、4、5、6、7、8または9個の置換基を有することができる。一部の実施形態において、置換基自体が、水素を本明細書に記載のものなどの置換基で置き換えることでさらに置換されていても良い。
【0085】
「ベクター」とは、特定の細胞型(例えば、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓または筋肉)中に、またはBBBを通過して輸送され得るポリペプチドのような化合物または分子を意味する。ベクターは、薬剤に結合しているか(共有結合的にまたは共有結合的ではなく)、コンジュゲートしていることができ、それによって特定の細胞型中に、またはBBBを通過してその薬剤を輸送することができる。ある種の実施形態において、ベクターは、癌細胞または脳の内皮細胞上に存在する受容体に結合することで、癌細胞中に、またはトランスサイトーシスによってBBBを通過して輸送され得る。ベクターは、細胞や血液脳関門の完全性に影響を及ぼすことなく高レベルの経内皮輸送が得られる分子であることができる。ベクターはポリペプチドまたはペプチド模倣薬であることができ、天然物であるか化学合成もしくは遺伝子組換え技術によって製造することができる。
【0086】
「複合体」とは、薬剤に連結されたベクターを意味する。コンジュゲーションは、リンカーを介するような化学的なものであってもよく、または、例えば、リポーター分子(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、Histagなど)との融合タンパク質のような遺伝子組み換え技術による遺伝学的なものであってもよい。
【0087】
「効率的にBBBを通過して輸送される」ベクターとは、少なくともAngioPep-6と同等に効率的に(すなわち、本明細書に記載のイン・サイツ脳潅流アッセイでAngioPep-1(250nM)の38.5%より大きい)、BBBを通過することができるベクターを意味する。従って、「効率的にBBBを通過して輸送されない」ベクターまたは複合体は、それより低いレベルで脳に輸送される(例えば、AngioPep-6より低い効率で輸送される)。
「特定の細胞型に効率的に輸送される」ベクターまたは複合体とは、対照物質より、または複合体の場合には、複合体化していない薬剤と比較して少なくとも10%(例えば、25%、50%、100%、200%、500%、1000%、5000%または10000%)大きい程度で、その細胞型に蓄積する(例えば、細胞への輸送増加、細胞からの流出低下、またはそれらの組み合わせが原因で)ことができるベクターまたは複合体を意味する。
【0088】
「実質的に純粋な」または「単離された」とは、他の化学成分から分離された化合物(例えば、ポリペプチドもしくは複合体)を意味する。代表的には、少なくとも30重量%他の成分を含まない場合、化合物は実質的に純粋である。ある種の実施形態において、調製物は、重量で少なくとも50%、60%、75%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%他の化合物を含まない。精製されたポリペプチドは、例えば、このようなポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドの発現によって、またはポリペプチドの化学合成によって得ることができる。純度は、任意の適切な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0089】
「アナログ」とは、元の配列または元の配列の部分に由来し、1個以上の修飾;例えば、アミノ酸配列中の1個以上の修飾(例えば、アミノ酸付加、欠失、挿入または置換)、1以上のアミノ酸の主鎖または側鎖中の1以上の修飾、または1以上のアミノ酸(側鎖または主鎖)への基または別の分子の付加を含むポリペプチドを意味する。アナログは、ポリペプチドの片方もしくは両方の末端に、またはポリペプチドのアミノ酸配列内に1以上のアミノ酸挿入を有していても良い。アナログは、元の配列または元の配列の部分と配列類似性および/または配列同一性を有しても良い(例えば、実質的に同一であって良い)。アナログは、例えば本明細書に記載の、その構造の修飾を含むことができる。二つの配列間の類似性の程度は、同一性(同一アミノ酸)および保存的置換のパーセントに基づく。アナログは、アミノ酸の主鎖または側鎖中の1以上の修飾、または基もしくは別の分子の付加とともに、元の配列に対して少なくとも35%、50%、60%、70%、80%、90%または95%(例えば、96%、97%、98%、99%および100%)の配列類似性を有することができる。他のアミノ酸に類似であるとされるアミノ酸の例(保存されたアミノ酸)は当技術分野において公知であり、それには、例えば、表3に列挙されるものが含まれる。
【0090】
「実質的に同一の」とは、基準のアミノ酸または核酸配列に対して少なくとも35%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、85%、90%、95%または99%もの同一性を示すポリペプチドまたは核酸を意味する。ポリペプチドでは、比較配列の長さは、少なくとも4(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、50または100)アミノ酸である。核酸では、比較配列の長さは、少なくとも60ヌクレオチド、好ましくは少なくとも90ヌクレオチド、およびさらに好ましくは少なくとも120ヌクレオチド、または全長である。理解すべき点として、元のポリペプチドのアミノ酸と同一または類似であるアナログのアミノ酸間にギャップが見出される。ギャップは、アミノ酸を含まないか、元のポリペプチドと同一または類似でない1以上のアミノ酸を含んでよい。本発明のベクター(ポリペプチド)の生物活性アナログは、これとともに包含される。同一性パーセントは、例えば、Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0のアルゴリズムであるGAP、BESTFITまたはFASTAで、デフォルトギャップウエイトを使用して求めることができる。
【0091】
「機能的誘導体」とは、本発明のベクターまたは物質または複合体およびその塩の生理活性配列または部分の「化学誘導体」、「断片」または「変異体」を意味する。ベクターの機能的誘導体は、物質に取り付けるかまたはコンジュゲートすることが可能であり、かつ特定の細胞型に進入し、それによってその物質を細胞内に輸送することが可能である。
【0092】
「化学誘導体」とは、共有結合による修飾を含む、ベクター、物質またはベクター-物質複合体の部分でない追加の化学部分を含有する本発明のベクター、物質または複合体を意味する。化学誘導体は、当技術分野において公知の方法を使用して直接化学合成することによって製造することができる。そのような修飾は、選択側鎖または末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と、標的のアミノ酸残基を反応させることによってタンパク質またはペプチドベクター、物質、またはベクター-物質複合体に導入することができる。ベクターの化学誘導体は、BBBを通過するかまたは特定の細胞型(例えば、卵巣などの本明細書中に記載のもの)に進入するかもしくはそこに蓄積することが可能である。好ましい実施形態では、BBBを通過する非常に高レベルの経内皮輸送が、BBBの完全性に影響することなく達成される。
【0093】
「断片」とは、元の配列もしくは親配列の部分またはその親配列のアナログに由来するポリペプチドを意味する。断片は、1以上のアミノ酸の切断を有するポリペプチドを包含し、その切断はタンパク質のアミノ末端(N末端)、カルボキシ末端(C末端)に由来するか、またはタンパク質の内部に由来することができる。断片は元の配列の対応する部分と同一の配列を含んでよい。本明細書中に記載のベクター(ポリペプチド)の機能的断片は本発明によって包含される。断片は、少なくとも5(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、25、28、30、35、40、45、50、60、75、100、または150)アミノ酸であることができる。本発明の断片は、例えば、7、8、9または10アミノ酸から18アミノ酸のポリペプチドを含んでいることができる。断片は、本明細書中に記載の任意の修飾(例えば、アセチル化、アミド化、アミノ酸置換)を含有していても良い。
【0094】
「非天然アミノ酸」は、哺乳類で天然に生産されないかまたは見出されないアミノ酸である。
【0095】
「物質(薬剤)」とは、任意の化合物、例えば抗体、または治療剤、マーカー、トレーサー、または造影剤化合物を意味する。
【0096】
「治療剤」とは、生理活性を有する物質を意味する。場合により、治療剤は、疾患の徴候、身体的または精神的状態、傷害、または感染を治療するために使用され、それには、抗癌剤、抗生物質、抗血管新生物質、および中枢神経系のレベルで活性な分子が含まれる。
【0097】
「小分子薬物」とは、1000g/mol以下(例えば、800、600、500、400または200g/mol未満)の分子量を有する薬物を意味する。
【0098】
「対象者」とは、ヒトまたは非ヒト動物(例えば哺乳類)を意味する。
【0099】
対象者での疾患、障害または状態を「治療する」とは、治療薬を対象者に投与することで、その疾患、障害または状態の少なくとも一つの症状を軽減することを意味する。
【0100】
対象者での疾患、障害または状態を「予防的に処置する」とは、治療薬を対象者に投与することで、その疾患、障害または状態の発生頻度を低下させる(例えば、予防する)ことを意味する。
【0101】
「癌」とは、無秩序な増殖、分化の欠如、または組織に侵入しかつ転移する能力を生じさせうる、正常な制御の喪失がその特有の形質である細胞の増殖を意味する。癌は、あらゆる組織またはあらゆる臓器において発症し得る。癌には、非限定的に、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓または脾臓の癌などがあるが、これらに限定されるものではない。別の癌については、本明細書中に記載されている。
【0102】
「提供する」とは、本発明のベクターまたは複合体の関連で、ベクターまたは複合体を標的細胞または組織とイン・ビボまたはイン・ビトロで接触させることを意味する。ベクターまたは複合体を対象者に投与することによってベクターまたは複合体を提供することができる。
【0103】
「投与する」および「投与」とは、送達の形態を意味し、それには、動脈内、鼻腔内、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、経皮または経口の形態などがあるが、これらに限定されるものではない。一日量は、一定期間を通して1回、2回またはそれ以上の回数で投与されるために好適な形式で1、2またはそれ以上の用量に分割することができる。
【0104】
「治療上有効な」または「有効量」とは、治療対象の疾患または症状の任意の徴候を改善し、減少させ、予防し、遅延させ、抑制し、または停止させるために十分な治療剤の量を意味する。物質の治療有効量は疾患または症状を治癒する必要はないが、疾患または症状の治療を提供して、疾患または症状の発症を遅延させ、妨害し、または予防するか、または疾患または症状の徴候を軽減するか、または疾患または症状の期間を変化させるか、または、例えば、あまり重度を下げるか、個体において回復を早めるものである。「治療量以下の用量」は、患者による臨床的使用に承認されている治療薬の最小有効量未満の用量である。「治療量より大きい用量」は、患者による臨床的使用に承認されている治療薬の最大有効量より大きい用量である。治療量以下の用量または治療量より大きい用量の量は、患者の人口統計(例えば、成人、小児または老人)または別の治療薬の投与と組み合わせて使用する時点(例えば、癌化学療法などの他の治療薬または治療法と同時に投与する場合)に応じて変動し得る。
【0105】
「状態(障害)」とは、個体に対してまたは個体において、疼痛、不快感、病気、疾患または能力障害(精神的または身体的)を引き起こす状況を意味し、それには、神経系疾患、傷害、感染、または慢性または急性痛などがある。神経系疾患には、脳腫瘍、脳転移、統合失調症、癲癇、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および発作などがある。
【0106】
「医薬組成物」とは、製薬上許容される希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、または補助剤、例えば本明細書中に記載のものを伴う治療有効量の物質を意味する。
【0107】
「治療用量」とは、毒性または効力に関して臨床使用に許容される、物質、例えば薬物(ベクターを含まない)の用量を意味する。物質を本発明のベクターにコンジュゲートすることによって、治療用量より低用量または高用量の当該物質を投与することが可能である。
【0108】
特定の特徴(例えば、温度、濃度、時間等)に関して「範囲」または「物質の群」が記載される場合、本発明は、それぞれおよびすべての具体的な構成員およびその部分的な範囲または部分的な群の組み合わせに関するものであり、それらを明示的にここに組み入れる。従って、例えば、9から18アミノ酸の長さに関して、それぞれおよびすべての個々の長さ、例えば、18、17、15、10、9、およびそれらの間の任意の数の長さがここに明確に組み入れられると理解されるものとする。従って、具体的な言及がない限り、本明細書中に記載のすべての範囲は両端を含むと理解されるものとする。例えば、5から19アミノ酸長という表現には、5および19が含まれるものとする。このことは、他のパラメータ、例えば配列、長さ、濃度、要素などに関しても同様に適用される。
【0109】
本明細書中で定義される配列、領域、部分は、それぞれ、それによって記載されるそれぞれおよびすべての個々の配列、領域、および部分ならびにそれぞれおよびすべての可能な下位配列、下位領域および下位部分を含み、そのような下位配列、下位領域および下位部分が、明確に特定の可能性を含むか、特定の可能性を除外するか、またはその組み合わせとして定義されるかどうかにかかわらない。例えば、領域に関する排他的定義は以下のように規定されうる:「そのポリペプチドが、4、5、6、7、8または9アミノ酸より短くないことを条件とする」。消極的な限定の別の例には、配列番号Yのポリペプチドを除いて配列番号Xを含む配列などがある。消極的限定の別の例は、そのポリペプチドは配列番号Zではない(配列番号Zを含まないかまたは配列番号Zからなるものではない)ことを条件とするというものである。
【0110】
本発明の他の特徴および利点については、下記の「発明を実施するための形態」、図面および特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】ドキソルビシン-An2(3:1)(「ドキソルビシン-An2(3:1)」)複合体を用いる皮下U87(s.c.U87)異種移植腫瘍増殖の阻害を示す図である。
【図2A】イン・サイツ脳潅流によって測定される3:1エトポシド:Angiopep-2複合体(「Etop-An2(3:1)」)の脳取り込みを示す図である。
【図2B】イン・サイツ脳潅流によって測定される3:1エトポシド4′-ジメチルグリシン:Angiopep-2複合体(「EtopDMG-An2(3:1)」)の脳取り込みを示す図である。
【図2C】イン・サイツ脳潅流によって測定されるドキソルビシン-An2(3:1)の脳取り込みを示す図である。
【図3】Etop-An2(3:1)のイン・サイツ潅流を示す図である。
【図4A】Etop-An2(3:1)と比較した複合体化していないエトポシドの実質取り込みを示す図である。
【図4B】脳毛細血管欠乏後のEtop-An2(3:1)の脳再区分を示す図である。
【図5】CD-1対P-gpノックアウトマウスでの複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)のイン・サイツ脳潅流を示す図である。
【図6】Angiopep-2によるEtop-An2(3:1)の脳取り込みの阻害を示す図である。
【図7】CD-1対P-gpノックアウトマウスでの複合体化していないEtopDMGと比較したEtopDMG-An2のイン・サイツ脳潅流を示す図である。
【図8】Etop-An2(3:1)の血漿動態に関するデータを示す図である。
【図9】マウスにおけるIVボラス投与後のEtopDMG-An2の脳分布を示す図である。
【図10】Etop-An2(3:1)の脳分布を示す図である。
【図11】IVボラス投与から30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の脳分布を示す図である。
【図12】IVボラス投与から30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の組織分布を示す図である。
【図13A】U87膠芽細胞腫細胞を頭蓋内注射したマウスでの(DoxSu)3-An2のイン・ビボ効果を示すものであり、第1の試験(試験1)で得られた結果を示す図である。
【図13B】U87膠芽細胞腫細胞を頭蓋内注射したマウスでの(DoxSu)3-An2のイン・ビボ効果を示すものであり、化合物(2)の投与によって平均生存時間に統計的に有意な延長が生じることを示す第2の試験(試験2)で得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0112】
本発明は、本明細書に記載のアミノ酸配列(例えば、配列番号1から105および107から116)と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物またはそれの製薬上許容される塩またはそれの官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸から抗癌剤(例えば、ポドフィロトキシン誘導体、ドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体)への共有結合を含むものを特徴とする。ポドフィロトキシン誘導体の例には、例えば下記式(I)による構造を有する化合物またはそれの立体異性体もしくは製薬上許容される塩などがある。
【化26】
【0113】
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8(例えば、C(O)CH2N(CH3)2)、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキル(例えば、CH2N(CH3)2)または置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
nは2、3または4であり;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つがYである。一部の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの1個以下がYである。一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-である。一部の実施形態において、各R2はHまたはC(O)CH2N(CH3)2である。ある種の実施形態において、ポリペプチドは、本明細書に記載のポリペプチドと少なくとも35%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%もの同一性を有することができる。ポリペプチドは、本明細書に記載の配列のうちの一つと比較して、1以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の)置換を有することができる。ある種の実施形態において、前記アミノ酸配列は、前記アミノ酸配列の第2、第3、第4、第5または第6のアミノ酸を介して、アミノ酸配列のいずれかの位置で、別のポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)に共有結合的に結合している。
【0114】
本発明の化合物の例には、(配列番号97)によるポリペプチド配列を有するものなどがあるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態において、前記化合物は下記の構造を有する。
【化27】
【0115】
式中、各(-式(I))は、指定されたアミノ酸と式(I)の化合物の間の共有結合を表す。ある種の実施形態において、式(I)の化合物は下記の構造を有するか、それの製薬上許容される塩である。
【化28】
【0116】
式中、nは1、2または3であり、R6はCH3または2-チエニルであり、R2はH、-OP(O)(OH)2または-C(O)CH2N(CH3)2である。一部の実施形態において、nは3であり、R6はCH3であり、R2はHである。他の実施形態において、nは3であり、R6はCH3であり、R2は-C(O)CH2N(CH3)2である。
【0117】
他の実施形態について、下記により詳細に説明する。
【0118】
ポドフィロトキシン誘導体
ポドフィロトキシン誘導体には、式(I)によって記載されるものなどの化合物などがあり、例えばエトポシド、テニポシドおよびそれらの誘導体またはそれらの製薬上許容される塩である。ポドフィロトキシン誘導体は治療薬の例であり、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-2)におけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。これらの化合物は、例えば、抗悪性腫瘍活性を有することができ、トポイソメラーゼIIの活性を阻害することができ、または抗ウィルス活性を有することができる。
【0119】
エトポシドおよびエトポシド誘導体
エトポシド(トポサール(Toposar)、ベペシド(Vepesid)またはVP16とも称される)は、下記の構造を有するポドフィロトキシン誘導体である。
【化29】
【0120】
エトポシドの化学構造を変えることで、エトポシド誘導体を得ることができる。エトポシド誘導体の例としては、フェノール性-OHが-OP(O)(OH)2で置き換わっているエトポシドホスフェート(ETOPOPHOS;登録商標)またはそれの製薬上許容される塩(例えば、-OP(O)(ONa)2)がある。エトポシドホスフェートは、エトポシドと比較して水溶解度が高くなっている。
【0121】
他のエトポシド誘導体には、下記の化合物のようなフェノール性-OHがアシルオキシ基(例えば、本明細書に記載の-OC(O)R8)と置き換わっているものなどがある。
【化30】
【0122】
(「エトポシド4′-ジメチルグリシン」または「エトポシドDMG」)
これらのアシル化エトポシド誘導体も、本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合している場合に、エトポシドと比較して改善された水溶解度を示すことができる。
【0123】
加水分解性共有結合リンカーYを例えば分子の2″ヒドロキシルまたは3″ヒドロキシルに結合させることで、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはそれらの誘導体を、ポリペプチド中のアミノ酸に共有結合的に結合させることができる。例示的なリンカーは、ジカルボン酸、例えばコハク酸、グルタル酸および酪(butaric)酸またはそれの無水物から誘導することができる。さらに、共有結合リンカーは、フェノール-OH基でエトポシドまたはそれの誘導体に結合させることができる。
【0124】
エトポシド誘導体は、下記式によって記述することができるか、それの立体異性体である。
【化31】
【0125】
式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)またはS(O)2(OR9)から選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたはC(O)R8から選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択される。
【0126】
本発明の化合物が式(I)によるエトポシド誘導体を含む場合、R1からR6のうちの一つが、本明細書に記載の加水分解性リンカーYを含む。一部の実施形態において、Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。R2がC(O)R8である例示的な非限定的実施形態では、R8は、アミノ置換基を含み、適宜の別の置換基を有するC1-6アルキルであることができる。一部の実施形態において、C(O)R8はC-連結α-アミノ酸である。C-連結α-アミノ酸は、天然または非天然アミノ酸であることができる。
【0127】
本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合していることができる他の例示的な式(I)のポドフィロトキシン誘導体には、テニポシドおよびNK611などがある(図式3)。
【0128】
図式3
【化32】
【0129】
別のポドフィロトキシン誘導体
本発明での使用に好適なさらに別のポドフィロトキシン誘導体が、米国特許第4567253号;同4609644号;同4900814号;同4958010号;同5489698号;同5536847号;同5571914号;同6051721号;同6107284号;同6475486号;同6610299号;同6878746号;同6894075号;同7087641号;同7176236号;同7241595号;同7342114号;および同7378419号;ならびに米国特許公開第20030064482号、同20030162722号、同20040044058号、同20060148728号および同20070249651号(これらはそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0130】
例えば、米国特許第7176236号に記載のエトポシド誘導体は、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-2)におけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。従って、1実施形態において、本発明の化合物は下記式(I)による構造を含む。
【化33】
【0131】
式中、
R2およびYは式(I)について記載の通りであり;
X2は、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CH=N-または-CH2NH-であり;
X3はOR2またはN(R2)2であり;
Z1は共有結合、-NHCO-、-CONH-、-OCO-または-COO-であり;
Z2は共有結合-(CH2)oR15であり、または-(CH2)o5から8員環としてZ2に組み込まれており;
R14は、共有結合または置換されていても良いアルキル、アルケニルまたはフェニルであり;
R15は、置換されているアルキル、置換されているアルケニルまたは置換されているアリールであり、前記置換されている基は少なくとも1個のアミノ基を含む。
【0132】
一部の実施形態において、X3は-OH、-OC(O)CH2NH2、-OC(O)CH2NHCH3または-OC(O)CH2N(CH3)2である。他の実施形態において、Xは-NH-である。一部の実施形態において、-R14-Z1-Z2-は-(p-C6H4-R16)-であり、R16は-NO2、-F、-CONHCH2CH2C6H5または-CONHCH2CH2(p-C6H4OH)である。
【0133】
式(I)または(I-A)の化合物において、基OR2は-OC(O)R8であることができる。
【0134】
一部の実施形態において、使用される式(I)の化合物またはそれの製薬上許容される塩によって、物理化学的特性(例えば、溶解度)を改善することができる。例えば、溶解度の上昇が望まれる場合、式(I)の化合物は好ましくはエトポシドDMGである。
【0135】
ドキソルビシン誘導体
一部の実施形態において、抗癌剤はドキソルビシン(ヒドロキシダウノルビシンまたはアドリアマイシン(登録商標))またはエピルビシン(エレンス(登録商標)またはファルモルビシン(登録商標))などのドキソルビシン誘導体またはそれらの製薬上許容される塩である。これらの例示的化合物の構造を図式4に示してある。ドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体は、共有結合的に例えば14-ヒドロキシル基に結合している本明細書で定義の加水分解性共有結合リンカーYを介して本明細書に記載のポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合していることができる。
【0136】
図式4
【化34】
【0137】
ドキソルビシン誘導体は、概して下記式(II)によって記述することができる。
【化35】
【0138】
式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択され、本明細書で定義の加水分解性リンカーYである。
【0139】
式(II)の化合物が本明細書に記載のポリペプチドに結語している場合、R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの一つがYである。ある種の実施形態において、R21はYである。式(II)の化合物には、式(II-A)による構造を有する化合物などがある。
【化36】
【0140】
式中、
Yは、本明細書に記載の加水分解性リンカーであり;X2R18はHまたはNH2であり;X3R19はHまたはOHであり;X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルである。一部の実施形態において、加水分解性リンカーYは-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nは2、3または4である。ある種の実施形態において、式(II)の化合物は下記のものである。
【化37】
【0141】
他のドキソルビシン誘導体は、米国特許第4098884号、同4301277号、同4314054号、同4464529号、同4585859号、同4672057号、同4684629号、同4826964号、同5200513号、同5304687号、同5594158号、同5625043号および同5874412号(これらはそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0142】
一部の実施形態において、使用される式(II)の化合物またはそれの製薬上許容される塩によって、物理化学的特性(例えば、溶解度)を改善することができる。例えば、溶解度の上昇が望まれる場合、式(II)の化合物は好ましくはドキソルビシンの塩酸塩である。
【0143】
Angiopep-2に加えて、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、NK611および他の式(I)および(I-A)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシン、エピルビシンおよび他のドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)を、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7)にコンジュゲートすることもできる。エステル基を含むリンカーなどの加水分解性リンカーを用いて、ポリペプチド(例えば、本明細書に記載の実施例1)に抗癌剤(例えば、ポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシン誘導体)を共有結合的に結合させることができる。エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、それの他のポドフィロトキシン誘導体、ドキソルビシン、エピルビシンおよび他のドキソルビシン誘導体は、複数の戦略上重要な位置を有する(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェートおよびエトポシドDMGの2″および3″ヒドロキシルおよびドキソルビシンおよびエピルビシンの14ヒドロキシル)。例えば、2官能基(例えば、コハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸もしくは酪(butaric)酸から誘導される試薬またはそれらの無水物)を、2″ヒドロキシルでエトポシドに、または14ヒドロキシルでドキソルビシンに結合させることができる。次に、これらの例示的な中間体を、BTTUなどのペプチドカップリング試薬で活性化し、ポリペプチドで処理することができる。他のペプチドカップリング剤には、カルボジイミド類(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(EDC-HCl))、トリアゾール類(例えば、1-ヒドロキシ-ベンゾトリアゾール(HOBt)および1-ヒドロキシ-7-アザ-ベンゾトリアゾール(HOAt))、O-ベンゾトリアゾール-N,N,N′,N′-テトラメチル-ウロニウム-ヘキサフルオロ-ホスフェート(HBTU)、2-(6-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、2-(1H-9-アゾベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート(HATU)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-(ジメチルアミノ)-ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(BOP試薬)およびベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)および3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(DEPBT)などの関連するベンゾトリアゾールペプチドカップリング剤などがある。次に、複合体を精製することができる。この合成手順の各中間体または生成物を、HPLC、薄層クロマトグラフィー、NMR(13Cまたは1H交換)、融点、質量分析などの各種手法を用いて精製およびバリデーションすることができる。最終の複合体を、質量分析およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析する。これによって、各ベクターにコンジュゲートしている(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、ドキソルビシンまたはエピルビシンの)分子数を求めることができる。
【0144】
加水分解性リンカー
式(I)の化合物が加水分解性リンカーYによってポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している場合、そのリンカーはR1、R2、R3、R4、R5またはR7に位置することができる。同様に、式(II)の化合物が加水分解性リンカーYによってポリペプチドにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している場合、そのリンカーはR17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちのいずれかに位置することができる。例示的な非限定的加水分解性リンカーは、ジカルボン酸、ジカーボネート、カルボン酸無水物、ジイソシアネートまたはジホスホン酸から製造することができる。本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれかにおけるアミノ酸に共有結合的に結合している式(I)または(II)の化合物を含む化合物は、下記式によっても記述することができる。
【0145】
D-G-X-G′-A (III)
式中、各GおよびG′は、独立に-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-S(O)2O-、-OS(O)2-、-S(O)2NH-、-NHS(O)2-および-OP(O)(OR11)O-から選択される基であり;
Gは、Dに共有結合的に結合しており、Dはポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)またはドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)であり;
G′は、Aに共有結合的に結合しており、Aは本明細書に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸(例えば、表1に記載のアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体)であり;
Xは、-(置換されていても良いアリール)-、-(CR12R13)n-、-O{(CR12R13)2O}n-、-{(CR12R13)2O(CR12R13)2}n-または-(CR12R13)oY(CR12R13)p-であり、各n、oおよびpは独立に、1から10の整数であり;
R11はHまたは低級C1-6アルキルであり;
R12およびR13はそれぞれ、独立にH、OHまたは低級C1-6アルキルから選択され;
Yは、O、NH、N(低級C1-6アルキル)または-置換されていても良いアリールである。
【0146】
各n、oおよびpは、独立に1、2、3、4、5、6、7、8、9または10であることができる。
【0147】
一部の実施形態において、式(III)におけるG-X-G′部分は、-C(O)CH2C(O)-、-C(O)(CH2)2C(O)-、-C(O)(CH2)3C(O)-、-C(O)(CH2)4C(O)-、-C(O)(CH2)5C(O)-、-C(O)(CH2)6C(O)-、-C(O)(OCH2CH2)OC(O)-、-C(O)(OCH2CH2)2OC(O)-、-C(O)(OCH2CH2)3OC(O)-および-C(O)(OCH2CH2)4OC(O)-から選択される。
【0148】
ポリペプチド
本発明の化合物で有用なアミノ酸配列の例には、表1に記載のアミノ酸配列などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0149】
表1に記載のアミノ酸配列に加えて、本発明はまた、これらのアミノ酸配列の断片(例えば機能的断片)を特徴とする。特定の実施形態では、断片は、特定の細胞型(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓、または筋肉)中に進入するかまたは特定の細胞型中で蓄積することが可能であるか、またはBBBを通過することが可能である。ポリペプチドの切断は、ポリペプチドのN末端から、ポリペプチドのC末端から、またはその組み合わせの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、またはそれ以上のアミノ酸であることができる。他の断片としては、ポリペプチドの内部部分が欠失している配列が挙げられる。
【0150】
米国特許出願公開第2006/0189515号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のアッセイまたは方法の一つを使用することによって、または当技術分野において公知の方法によって、追加の本発明のポリペプチドを確認することができる。例えば、ベクター候補を慣用のポリペプチド合成によって製造し、例えば式(I)もしくは(II)の化合物とコンジュゲートし、実験動物に投与することができる。生理活性ベクターを、例えば、腫瘍細胞を注射されかつその複合体で治療された動物の生存を、複合体で治療されていない(例えばコンジュゲートされていない物質で治療された)対照と比較して増加させるその効力に基づいて確認することができる。
【0151】
別の例では、本発明の生理活性ポリペプチドを、イン・サイツ脳潅流アッセイにおける実質中のその位置に基づいて確認することができる。イン・ビトロBBBアッセイ、例えばCELLIAL(商標名)Technologiesによって開発されたモデルを使用して、そのようなベクターを特定することができる。
【0152】
他の組織中の蓄積を求めるためのアッセイを同様に実施することができ、アッセイの例については本明細書に記載されている。本発明の標識されたポリペプチドを動物に投与して、異なる臓器中の蓄積を測定することができる。例えば、検出可能な標識(例えば、近赤外蛍光分光標識、例えばCy5.5)にコンジュゲートされたポリペプチドによって、生存イン・ビボ可視化が可能となる。そのようなポリペプチドを動物に投与して、臓器中のポリペプチドの存在を決定することができることから、所望の臓器中のポリペプチドの蓄積の割合および量の測定を行うことができる。他の実施形態では、放射性同位体(例えば125I)で本発明のポリペプチドを標識することができる。そしてそのポリペプチドを動物に投与する。一定期間後、動物を犠牲にして、動物の臓器を摘出する。そして当技術分野において公知の任意の手段を使用して各臓器中の放射性同位体の量を測定することができる。標識された対照の量と、特定の臓器中の標識された候補ポリペプチドの量を比較することによって、候補ポリペプチドの能力、特定の組織での候補ポリペプチドの蓄積の割合または量を確認することができる。適切な陰性対照には、特定の細胞型内に輸送されないことが知られている任意のポリペプチドなどがある。
【0153】
例えば、Angiopep-1(配列番号67)およびAngiopep-2(配列番号97)のアミン基を、物質のコンジュゲーションの部位として用いることができる。コンジュゲーションにおけるアミン基の役割およびこれらベクターの全体的な輸送能力における影響を調べるため、Angiopep-1およびAngiopep-2配列に基づいて他のベクターが開発されている。これらのベクターは、反応性アミン基が異なり、全体の電荷が異なっている。これらのポリペプチドを表2に示してある。
【0154】
表2:可変のアミン基標的を有するベクター
【表2】
【0155】
修飾ポリペプチド
本発明はまた、本明細書中に記載のアミノ酸配列の修飾を有するポリペプチド(例えば、Angiopep-3、-4a、-4b、-5、-6、または-7等の配列番号1から105および107から116のいずれかに記載の配列を有するポリペプチド)を含み、ポリペプチドは式(I)または(II)の化合物に共有結合的に結合しているアミノ酸を含む。特定の実施形態では、修飾は所望の生理活性を顕著には破壊しない。いくつかの実施形態では、修飾は生理活性の(例えば、少なくとも5%、10%、20%、25%、35%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%の)低減を生じさせる。他の実施形態では、修飾は生理活性に対して影響を有さないか、または元のポリペプチドの生理活性を(例えば、少なくとも5%、10%、25%、50%、100%、200%、500%または1,000%)増加させる。修飾ポリペプチドは、ある場合に必要であるかまたは望ましい本発明のポリペプチドの1以上の特性を有するか、または最適化する。そのような特性には、イン・ビボでの安定性、生物学的利用能、毒性、免疫学的活性、または免疫学的同一性などがある。
【0156】
本発明のポリペプチドは、翻訳後プロセシング等の天然のプロセシングによって、または当技術分野において公知の化学修飾技術によって修飾されたアミノ酸または配列を含んでよい。修飾は、ポリペプチド主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシ末端を含むポリペプチド中のどこかに存在してよい。所定のポリペプチド中のいくつかの部位で同程度または多様な程度に同種の修飾を存在させてよく、ポリペプチドは2種以上の種類の修飾を含有してよい。ポリペプチドは、ユビキチン結合の結果、分岐していてよく、それは分岐を有するか有さない環状ポリペプチドであってよい。環状、分岐、および分岐環状ポリペプチドは、翻訳後の天然プロセシングから生じるか、または合成によって製造することができる。他の修飾には、ペグ化、アセチル化、アシル化、アセトミドメチル(acetomidomethyl)(Acm)基の付加、ADP-リボシル化、アルキル化、アミド化、ビオチニル化、カルバモイル化、カルボキシエチル化、エステル化、フィアビン(fiavin)への共有結合性結合、ヘム部分への共有結合性結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合性結合、薬物の共有結合性結合、マーカー(例えば蛍光または放射性マーカー)の共有結合性結合、脂質または脂質誘導体の共有結合性結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合性結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル、共有結合性架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニル化およびユビキチン結合等の、タンパク質に対するアミノ酸のトランスファー-RNA介在付加などがある。
【0157】
本発明の修飾ポリペプチドは、ポリペプチド配列中に、保存的または非保存的(例えば、D-アミノ酸、デスアミノ酸(desamino acids))なアミノ酸挿入、欠失、または置換をさらに含んでよい(例えば、そのような変化が該ポリペプチドの生理活性を実質的に変化させない場合)。
【0158】
例えば、一部の実施形態において、ペプチドのN末端、ペプチドのC末端または両方で1以上の別のシステイン残基を挿入することで、アミノ酸配列(例えば、配列番号1から105または107から116)を修飾する。本明細書に記載のアミノ酸配列のアミノ末端またはカルボキシ末端への1以上のシステイン残基の付加により、例えばジスルフィド結合による核酸(例えば、siRNA分子)または脂質ベクターへのこれらポリペプチドのコンジュゲーションを促進することができる。例えば、Angiopep-1(配列番号67)、Angiopep-2(配列番号97)またはAngiopep-7(配列番号112)を修飾することで、アミノ末端に単一のシステイン残基(それぞれ配列番号71、113および115)またはカルボキシ末端に単一のシステイン残基(それぞれ配列番号72、114および116)を含めることができる。
【0159】
置換は保存的(すなわち、残基が別の同一の一般的種類または基によって置換される)または非保存的(すなわち、残基が別の種類のアミノ酸によって置換される)である。さらに、天然に存在するアミノ酸の代わりに天然に存在しないアミノ酸を使用してよい(すなわち、天然に存在しない保存的アミノ酸置換または天然に存在しない非保存的アミノ酸置換)。
【0160】
合成によって作製されるポリペプチドに、DNAによって天然にコードされないアミノ酸(例えば、天然に存在しない、すなわち非天然アミノ酸)の置換を含んでよい。天然に存在しないアミノ酸の例には、D-アミノ酸、システインの硫黄原子に結合しているアセチルアミノメチル基を有するアミノ酸、ペグ化アミノ酸、式:NH2(CH2)nCOOH(式中、nは2から6である)のオメガアミノ酸、中性非極性アミノ酸、例えばサルコシン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン、およびノルロイシンが含まれる。フェニルグリシンは、Trp、Tyr、またはPheの代わりになり;シトルリンおよびメチオニンスルホキシドは中性非極性であり、システイン酸は酸性であり、オルニチンは塩基性である。プロリンをヒドロキシプロリンで置換し、特性を付与するコンフォメーションを保持することができる。
【0161】
置換的突然変異誘発によってアナログを作製し、元のポリペプチドの生理活性を保持することができる。「保存的置換」として特定される置換の例を表3に示す。そのような置換が望ましくない変化を生じさせる場合、表3中の「代表的な置換」と称される他の種類の置換、またはアミノ酸クラスに関して本明細書中でさらに記載される他の種類の置換を導入し、生成物をスクリーニングする。
【0162】
機能または免疫学的同一性の実質的改変は、(a)例えばシートまたは螺旋(ヘリカル)コンフォメーションである、置換の領域におけるポリペプチド主鎖の構造、(b)標的部位での分子の荷電または疎水性、または(c)側鎖の容積、の維持に関するその影響が顕著に異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は共通の側鎖特性に基づく群に分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン(Met)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、
(2)中性親水性:システイン(Cys)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)
(3)酸性/負電荷:アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)
(4)塩基性:アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)
(5)鎖の向きに影響する残基:グリシン(Gly)、プロリン(Pro);
(6)芳香族:トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、
(7)極性:Ser、Thr、Asn、Gln
(8)塩基性正電荷:Arg、Lys、His、および;
(9)荷電:Asp、Glu、Arg、Lys、His。
【0163】
他の保存的アミノ酸置換を表3に列挙する。
【0164】
表3
【表3】
【0165】
追加のポリペプチドアナログ
本発明の化合物は、当業界で公知のアプロチニンのポリペプチドアナログを含むことができ、そのアナログにはポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)に共有結合的に結合しているアミノ酸などがある。例えば、米国特許第5807980号では、配列番号102のポリペプチドを含む、ウシ膵臓トリプシン阻害薬(アプロチニン)由来の阻害薬ならびにその製造方法および治療上の使用が記載されている。これらのポリペプチドは、異常な血栓症等の組織因子および/または因子VIIIaの異常な出現または量を特徴とする症状の治療に使用されている。米国特許第5780265号では、配列番号103を含む、血漿カリクレインを阻害可能なセリンプロテアーゼ阻害薬が記載されている。米国特許第5118668号では、配列番号105を含む、ウシ膵臓トリプシン阻害薬変異体が記載されている。アプロチニンのアミノ酸配列(配列番号98)、Angiopep-1アミノ酸配列(配列番号67)、および配列番号104、ならびにいくつかの生理活性アナログ配列が国際出願公開第WO2004/060403号にある。
【0166】
アプロチニンアナログをコードする典型的なヌクレオチド配列は配列番号106に示される(atgagaccag atttctgcct cgagccgccg tacactgggc cctgcaaagc tcgtatcatc cgttacttct acaatgcaaa ggcaggcctg tgtcagacct tcgtatacgg cggctgcaga gctaagcgta acaacttcaa atccgcggaa gactgcatgc gtacttgcgg tggtgcttag; Genbankアクセッション番号X04666)。この配列は第16位で配列番号98に見出されるバリンの代わりにリシンをコードする。配列番号106のヌクレオチド配列中の突然変異を当技術分野において公知の方法によって導入して、第16位にバリンを有する配列番号98のポリペプチド産物を変化させることができる。追加の突然変異または断片は、当技術分野において公知の任意の技術を使用して取得することができる。
【0167】
アプロチニンアナログの他の例は、国際出願第PCT/CA2004/000011号に開示される合成アプロチニン配列(またはその部分)を使用してタンパク質BLAST(Genebank:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を実施することによって見出すことができる。代表的なアプロチニンアナログは寄託番号CAA37967(GI:58005)および1405218C(GI:3604747)の下に見出せる。
【0168】
ポリペプチド誘導体およびペプチド模倣体の製造
天然に存在するアミノ酸のみから構成されるポリペプチドに加えて、ペプチド模倣体またはポリペプチドアナログもまた、本発明によって包含される。ポリペプチドアナログは、一般に、鋳型ポリペプチドの特性と類似の特性を有する非ポリペプチド薬物として製薬業界で使用される。非ポリペプチド化合物は「ポリペプチド模倣体」またはペプチド模倣体と称される(Fauchere et al., Infect. Immun. 54:283-287,1986; Evans et al., J. Med. Chem. 30:1229-1239, 1987)。治療上有用なポリペプチドに構造的に関連しているポリペプチド模倣体を使用して、等価なまたは向上した治療的もしくは予防的効果を得ることができる。概して、ペプチド模倣体は、天然に存在する受容体結合ポリペプチド等の模範ポリペプチド(すなわち、生理活性または薬理活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、当技術分野において公知の方法によって、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CH2SO-、-CH(OH)CH2-、-COCH2-等の結合によって置換されていても良い1以上のペプチド結合を有する(Spatola, Peptide Backbone Modifications, Vega Data, 1(3):267, 1983); Spatola et al. (Life Sci. 38:1243-1249, 1986); Hudson et al. (Int. J. Pept. Res. 14:177-185, 1979); およびWeinstein. B., 1983, Chemistry and Biochemistry, of Amino Acids, Peptides and Proteins, Weinstein eds, Marcel Dekker, New-York)。そのようなポリペプチド模倣体は、天然に存在するポリペプチドより優れた顕著な利点を有し、それには、経済的な生産、高い化学的安定性、増強された薬理特性(例えば、半減期、吸収、効力、効率)、低減された抗原性および他の利点が含まれる。
【0169】
本発明のポリペプチドは、特定の細胞型(例えば本明細書中に記載の細胞型)への進入に関して有効であるが、その有効性はプロテアーゼの存在によって低減する。血清プロテアーゼは特異的基質要求性を有する。基質は、切断のためにL-アミノ酸およびペプチド結合をともに有する必要がある。さらにまた、血清中のプロテアーゼ活性の最大成分であるエキソペプチダーゼは、通常、ポリペプチドの第一のペプチド結合に作用し、遊離のN末端を必要とする(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。このことを考慮すると、修飾型のポリペプチドを使用することが有益である場合が多い。修飾ポリペプチドは、IGF-1に関する生理活性を与える元のL-アミノ酸ポリペプチドの構造上の特徴を保持するが、有益には、プロテアーゼおよび/またはエキソペプチダーゼによる切断に容易には感受性でない。
【0170】
コンセンサス配列の1以上のアミノ酸を同種のD-アミノ酸(例えば、L-リシンの代わりのD-リシン)で系統的に置換することにより、より安定なポリペプチドを作製することができる。ゆえに、本発明のポリペプチド誘導体またはペプチド模倣体は、すべてL、すべてDまたは混合D、Lポリペプチドであってよい。N末端またはC末端D-アミノ酸の存在は、ポリペプチドのイン・ビボで安定性を高める。その理由は、ペプチダーゼがD-アミノ酸を基質として利用できないからである(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。リバース-Dポリペプチドは、L-アミノ酸を含有するポリペプチドと比較して逆配列に並べられたD-アミノ酸を含有するポリペプチドである。ゆえに、L-アミノ酸ポリペプチドのC末端残基はD-アミノ酸ポリペプチドのN末端になる、等である。リバースD-ポリペプチドはL-アミノ酸ポリペプチドと同一の三次コンフォメーションを保持し、したがって同一の活性を保持するが、元のポリペプチドより、イン・ビトロおよびイン・ビボでの酵素分解に対して安定であり、ゆえに高い治療効力を有する(Brady and Dodson, Nature 368:692-693, 1994; Jameson et al., Nature 368:744-746, 1994)。リバース-D-ポリペプチドに加えて、コンセンサス配列または実質的に同一のコンセンサス配列変異を含む拘束(constrained)ポリペプチドを当技術分野において公知の方法によって作製してよい(Rizo and Gierasch, Ann. Rev. Biochem. 61:387-418, 1992)。例えば、拘束ポリペプチドは、ジスルフィド結合を形成可能なシステイン残基を付加し、それによって環状ポリペプチドを生じさせることによって作製してよい。環状ポリペプチドは遊離のN末端またはC末端を有さない。したがって、それらはエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対して感受性でないが、ペプチド末端を切断しないエンドペプチダーゼに対しては、当然、感受性である。N末端またはC末端D-アミノ酸を有するポリペプチドのアミノ酸配列および環状ポリペプチドのアミノ酸配列は、通常、それぞれN末端もしくはC末端D-アミノ酸残基の存在、ま
たはその環状構造を除き、それらが相当するポリペプチドの配列と同一である。
【0171】
分子内ジスルフィド結合を含有する環状誘導体を従来の固相合成によって製造し、アミノおよびカルボキシ末端等の、環化のために選択された位置で、好適なS-保護システインまたはホモシステイン残基を組み入れることができる(Sah et al., J. Pharm. Pharmacol. 48:197, 1996)。鎖の組立ての完了後、(1)S-保護基を選択的に除去し、その結果として対応する二つの遊離SH官能基が支持体上で酸化されてS-S結合が形成され、次いで生成物を支持体から従来法で除去し、適切な精製手順を行うことによって、または(2)ポリペプチドを支持体から除去するとともに側鎖を完全に脱保護し、次いで高度に希釈された水溶液中で遊離SH官能基を酸化することによって、環化を実施することができる。
【0172】
分子内アミド結合を含有する環状誘導体を従来の固相合成によって製造し、環化のために選択された位置で、好適なアミノおよびカルボキシル側鎖保護アミノ酸誘導体を組み入れることができる。分子内-S-アルキル結合を含有する環状誘導体を従来の固相化学によって製造し、環化のために選択された位置で、好適なアミノ保護側鎖を有するアミノ酸残基および好適なS-保護システインまたはホモシステイン残基を組み入れることができる。
【0173】
ポリペプチドのN末端またはC末端残基に対して作用するペプチダーゼに対する耐性を付与するための別の有効な手法は、ポリペプチド末端に化学基を付加して、修飾ポリペプチドがもはやそのペプチダーゼの基質ではないようにすることである。そのような化学修飾の一つは、片方または両方の末端でのポリペプチドのグリコシル化である。特定の化学修飾、特にN末端グリコシル化はヒト血清中のポリペプチドの安定性を高めることが示されている(Powell et al., Pharm. Res. 10:1268-1273, 1993)。血清安定性を増強する他の化学修飾には、アセチル基等の1から20炭素の低級アルキルからなるN末端アルキル基の付加、および/またはC末端アミドまたは置換アミド基の付加などがあるが、これらに限定されるものではない。特に、本発明は、N末端アセチル基および/またはC末端アミド基を保持するポリペプチドからなる修飾ポリペプチドを含む。
【0174】
通常はポリペプチドの部分ではない追加の化学部分を含有する他の種類のポリペプチド誘導体もまた、その誘導体が当該ポリペプチドの所望の機能的活性を保持する限り、本発明に含まれる。そのような誘導体の例には、(1)アミノ末端の、または別の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(そのアシル基はアルカノイル基(例えば、アセチル、ヘキサノイル、オクタノイル)、アロイル基(例えばベンゾイル)またはF-moc(フルオレニルメチル-O-CO-)等の保護基であってよい);(2)カルボキシ末端の、または別の遊離カルボキシもしくはヒドロキシル基のエステル;(3)アンモニアまたは好適なアミンとの反応によって生じるカルボキシ末端の、または別の遊離カルボキシル基のアミド;(4)リン酸化誘導体;(5)抗体または他の生物学的リガンドにコンジュゲートされた誘導体、および他の種類の誘導体などがある。
【0175】
本発明のポリペプチドに対する追加のアミノ酸残基の付加から生じる長いポリペプチド配列もまた、本発明に包含される。そのような長いポリペプチド配列は上記ポリペプチドと同一の生理活性(例えば特定の細胞型への進入)を有すると予測される。相当な数の追加のアミノ酸を有するポリペプチドは除外されないが、いくつかの大きいポリペプチドは、有効な配列を遮蔽する立体配置をとり、それによって標的(例えばLRPまたはLRP2等のLRP受容体ファミリーの構成員)に対する結合を妨げることがわかる。これらの誘導体は競合的拮抗薬として作用しうる。ゆえに、本発明は、伸長を有する本明細書中に記載のポリペプチドまたはポリペプチドの誘導体を包含するが、望ましくは、その伸長は当該ポリペプチドまたは誘導体の細胞ターゲティング活性を破壊しない。
【0176】
本発明に含まれる他の誘導体は、直接またはスペーサーを介して、例えばアラニン残基の短い伸長によってまたはタンパク質分解のための推定部位によって(例えば、カテプシンによる連結。例えば米国特許第5126249号および欧州特許第495049号を参照)、互いに共有結合により連結された二つの同一または二つの異なる本発明のポリペプチドからなる二重ポリペプチドである。本発明のポリペプチドの多量体は、同一または異なるポリペプチドまたはその誘導体から形成された分子のポリマーから構成される。
【0177】
本発明はまた、異なるタンパク質のアミノ酸配列にアミノ末端もしくはカルボキシ末端またはその両方で連結されている本明細書に記載のポリペプチド、またはその断片を含有するキメラまたは融合タンパク質であるポリペプチド誘導体をも特徴とする。そのようなキメラまたは融合タンパク質は、そのタンパク質をコードする核酸の組換え発現によって製造することができる。例えば、キメラまたは融合タンパク質は、本発明のポリペプチドの少なくとも6アミノ酸を含有し、望ましくは本発明のポリペプチドと等価なまたはそれより高い機能的活性を有する。
【0178】
本発明のポリペプチド誘導体は、置換、付加もしくは欠失またはアミノ酸残基によってアミノ酸配列を変化させて、所望のように、機能的に等価な分子、または機能的に増強もしくは減弱された分子を得ることによって製造することができる。本発明の誘導体には、非限定的に、機能的に等価なアミノ酸残基の置換を含有する修飾配列を含む本明細書中に記載のポリペプチドのアミノ酸配列(例えば配列番号1から105および107から112のいずれか)の全体または部分を一次アミノ酸配列として含有するものが含まれる。例えば、配列内の1以上のアミノ酸残基を、機能的等価物として機能する類似の極性の別のアミノ酸によって置換して、サイレント変化を生じさせることができる。配列内のアミノ酸に関する置換は、そのアミノ酸が属する種類の他の構成員から選択してよい。例えば、正電荷(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リシンおよびヒスチジンが含まれる。無極性(疎水性)アミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、トリプトファンおよびメチオニンが含まれる。無電荷極性アミノ酸には、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。負電荷(酸性)アミノ酸には、グルタミン酸およびアスパラギン酸が含まれる。アミノ酸グリシンは無極性アミノ酸ファミリーまたは無電荷(中性)極性アミノ酸ファミリーに含まれる。アミノ酸のファミリー内で施される置換は概して保存的置換であると理解される。
【0179】
ペプチド模倣体を特定するためのアッセイ
上記のように、本発明の方法によって特定されたポリペプチドの主鎖形状およびファルマコフォア表示を再現するように作製された非ペプチジル化合物(ペプチド模倣体)は、高い代謝安定性、高い効力、長い作用期間および良好な生物学的利用能の属性を有することが多い。
【0180】
本発明のペプチド模倣体化合物は、生物学的ライブラリー;空間的にアドレス可能なパラレル固相または液相ライブラリー;逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー法を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを使用して取得することができる。生物学的ライブラリーアプローチはポリペプチドライブラリーに限定されるが、他の四つのアプローチはポリペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは小分子ライブラリーの化合物に適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145, 1997)。分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当技術分野において、例えばDeWitt et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909, 1993); Erb et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422, 1994); Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37:2678, 1994); Cho et al. (Science 261:1303, 1993); Carell et al. (Angew. Chem, Int. Ed. Engl. 33:2059, 1994および同書2061);およびGallop et al. (Med. Chem. 37:1233, 1994)にある。化合物のライブラリーは、溶解状態で(例えばHoughten, Biotechniques 13:412-421, 1992)またはビーズ上(Lam, Nature 354:82-84, 1991)、チップ(Fodor, Nature 364:555-556, 1993)、細菌または胞子(米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869, 1992)またはファージ上(Scott and Smith, Science 249:386-390, 1990)に存在させてよく、またはルシフェラーゼ、および酵素標識を、適切な基質から生成物への変換を決定することによって検出することができる。
【0181】
本発明のポリペプチドを特定した後、溶解度差(例えば沈降)、遠心分離、クロマトグラフィー(例えば、アフィニティー、イオン交換、サイズ排除、等)を非限定的に含む任意の数の標準的方法によってまたは、ポリペプチド、ペプチド模倣体またはタンパク質の精製に使用される任意の他の標準的技術によって単離および精製することができる。当技術分野において公知の任意の機能アッセイを使用して、特定された目的のポリペプチドの機能的特性を評価してよい。望ましくは、細胞内シグナル伝達における下流の受容体機能を評価するためのアッセイを使用する(例えば細胞増殖)。
【0182】
例えば、以下の3相のプロセス:(1)本発明のポリペプチドをスキャンして、本明細書に記載の特定の細胞型のターゲティングに必要な二次構造の領域を特定する段階;(2)コンフォメーションが制約されたジペプチド代用物を使用して、主鎖形状を絞り込み、これらの代用物に対応する有機物プラットフォームを提供する段階;および(3)最良の有機物プラットフォームを使用して、天然ポリペプチドの所望の活性を模倣するように設計された候補のライブラリー中で有機物ファルマコフォア(pharmocophores)を表示する段階を使用して本発明のペプチド模倣体化合物を取得することができる。さらに詳細には、該3つの相は以下の通りである。相1では、リード候補ポリペプチドをスキャンし、その構造を制約してその活性に関する必要条件を特定する。元のポリペプチドの一連のポリペプチドアナログを合成する。相2では、コンフォメーションが制約されたジペプチド代用物を使用して最良のポリペプチドアナログを調査する。最良のポリペプチド候補の主鎖形状を研究するために、インドリジジン-2-オン、インドリジジン-9-オンおよびキノリジジノンアミノ酸(それぞれI2aa、I9aaおよびQaa)をプラットフォームとして使用する。これらのプラットフォームおよび関連プラットフォーム(Halab et al., Biopolymers 55:101-122, 2000;およびHanessian et al. Tetrahedron 53:12789-12854, 1997に総覧がある)をポリペプチドの特定領域に導入して、ファルマコフォアを異なる方向に向けることができる。これらのアナログの生物学的評価によって、活性に関する形状的必要条件を模倣する、改善されたリードポリペプチドを特定する。相3では、最も活性なリードポリペプチド由来のプラットフォームを使用して、ネイティブポリペプチドの活性を担うファルマコフォアの有機代用物をディスプレイする。ファルマコフォアおよび骨格をパラレル合成形式で組み合わせる。ポリペプチドの誘導および上記相は、当技術分野において公知の方法を使用する他の手段によって達成することができる。
【0183】
本発明のポリペプチド、ポリペプチド誘導体、ペプチド模倣体、または他の小分子から決定された構造機能関連性を使用して、類似またはより良好な特性を有する類似の分子構造を絞り込みかつ製造することができる。したがって、本発明の化合物はまた、本明細書中に記載のポリペプチドの構造、極性、荷電特性、および側鎖特性を共有する分子を含む。
【0184】
要約すれば、本明細書の開示に基づいて、当業者は、特定の細胞型(例えば本明細書中に記載の細胞型)に物質をターゲティングするための化合物を特定するために有用なポリペプチドおよびペプチド模倣体スクリーニングアッセイを開発することができる。本発明のアッセイは、低処理、高処理、または超高処理スクリーニングフォーマット用に開発することができる。本発明のアッセイには、自動化しやすいアッセイが含まれる。
【0185】
別の物質に共有結合的に結合したポリペプチド複合体
本明細書に記載の化合物またはそれの官能基誘導体は、ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)による構造を有する化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)にアミノ酸を介して共有結合的に結合したアミノ酸配列に加えて、別の物質(例えば、別の治療剤、診断剤または標識)への共有結合をも含むことができる。ある種の実施形態ではまた、疾患または障害の診断のための、放射性イメージング物質等の検出可能な標識にアミノ酸配列を連結するか、またはその標識で標識する。これらの物質の例には、抗体が疾患または障害特異的抗原に結合する、放射性イメージング物質-抗体-ベクター複合体(例えば診断または治療用)が含まれる。他の結合分子もまた、本発明によって想定される。他の場合では、本発明の化合物またはそれの官能基誘導体を、疾患または障害を治療するための別の治療剤に連結するか、またはその混合物に連結するかもしくはその混合物で標識することができる。BBBを横切る物質の輸送または特定の細胞型内への物質の輸送を可能にする条件下でベクター-物質複合体を個体に投与することによって、その疾患または障害を治療することができる。各ポリペプチドは、少なくとも1、2、3、4、5、6、または7個の物質を含んでよい。他の実施形態では、各物質は、それに結合している少なくとも1、2、3、4、5、6、7、10、15、20個、またはそれ以上のポリペプチドを有する。本発明の複合体は、対象者の特定の細胞型または組織、例えば脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉における物質の(例えば取り込みの増加または除去の低減に起因する)蓄積を促進することができる。
【0186】
本明細書に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸に対する共有結合を有する物質(例えば式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)、別の治療薬、診断薬または標識)(例えば、表1に挙げたもの、またはそれらの官能基誘導体)は、特定の細胞型内への輸送またはBBBを通過する輸送後にベクターから放出可能であることができる。物質は、例えばベクターと物質の間の化学結合の、酵素による切断または他の切断によって放出させることができる。そして、放出された物質は、ベクターの非存在下で、その所期の能力に関して機能する。
【0187】
他の方法および架橋剤を用いて、本発明のポリペプチドおよびRNAi剤を結合することができる。例えば、5′または3′チオール含有siRNAセンス鎖を、ジスルフィド結合によって、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端にあるシステイン残基に連結させることができる。ムラトウスカらの報告(Muratovska et al., FEBS Letters 558:63-68, 2004)およびターナーらの報告(Turner et al., Blood Cells, Molecules and Diseases 38:1-7, 2007)によって、RNA分子にポリペプチドをコンジュゲートするための化学結合法の例が提供されており、それらは参照によって本明細書に組み込まれる。
【0188】
治療剤
治療剤は任意の生理活性物質であることができる。例えば、治療薬は、疾患を治療するための(例えば癌細胞を死滅させるための)薬物、医薬、放射能を放出する物質、細胞毒素(例えば化学療法剤)、その生理活性断片、またはその混合物であるか、または個体の疾患または障害を治療するための物質であってよい。ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)およびドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)が有用な種類の治療薬の例である。治療剤は、合成品または、真菌、細菌または他の微生物(例えばマイコプラズマまたはウイルス)、動物、例えば爬虫類、または植物起源の産物であってよい。治療剤および/またはその生理活性断片は酵素活性物質および/またはその断片であるか、または重要なかつ/または必須の細胞経路を阻害もしくは遮断することによって、または重要なかつ/または必須の天然に存在する細胞成分と競合することによって働く。他の治療剤には、抗体および抗体断片などがある。
【0189】
当技術分野において公知の任意の抗癌剤が本発明の複合体の部分であることができる。ポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)の化合物)およびドキソルビシンおよびドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)は抗癌剤であることができる。別の抗癌剤を、本明細書に記載の方法に従って、本発明の化合物にコンジュゲートすることもできる。BBBを通過して効率的に輸送されるベクター(例えば、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、またはAngioPep-6)を含有する複合体で脳の癌を治療することができる。適切な細胞型内に効率的に輸送されるベクター(例えばAngioPep-7)にコンジュゲートされた抗癌剤で、卵巣、肝臓、肺、腎臓、または脾臓の癌を治療することができる。
【0190】
複合体活性
アミノ酸配列を含み、そのアミノ酸配列がアミノ酸を介してポドフィロトキシン誘導体(例えば、式(I)による構造を有する化合物)またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)に共有結合的に結合している化合物またはそれの製薬上許容される塩は、複合体化していない生理活性物質と比較した薬物動態の変化または組織分布の変化(例えば、卵巣、肝臓、脳、肺、脾臓または腎臓などの特定の組織組織または細胞型への送達増加)などの望ましい特性を与えることができる。従って、本発明の化合物をベクターとして用いることができる。AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5およびAngioPep-6などのポリペプチドは、BBBを通過して物質を効率的に運搬する。AngioPep-2のように、これらのポリペプチドは、他の細胞型または組織(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)に物質をターゲティングすることもできる。効率的にBBBを通過して輸送されないAngioPep-7ポリペプチドは、特定の組織(例えば、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)に輸送される。この活性は、BBBを通過しての輸送が望ましくない場合に有用となり得る。例えば、本発明の化合物を用いることで、複合体化していない生理活性物質(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMG、テニポシド、ドキソルビシンまたはエピルビシン)で認められるものと比較して10%から20000%の範囲のいずれかの値だけ、標的組織における治療薬濃度を高めることができる。
【0191】
本発明の化合物は特定の組織に物質を輸送することができることから、コンジュゲートされた物質によって、毒性が低下し(例えば、副作用が少なくなる)、効力が高くなり(例えば、取り込み増加または組織からの流出の低下のために標的組織で物質が濃縮されるため、またはコンジュゲートした際に物質の安定性が高くなるため)、またはその両方が達成される可能性がある。そのような活性について下記に記載しており、国際公開番号第2007/009229号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0192】
場合により、物質をベクターにコンジュゲートすることで、P-糖タンパク質(P-gp)の作用、すなわち細胞からある種の物質を追い出すことができる排出ポンプからその物質を回避させることができる。P-gpが細胞から物質を排出する能力を低下させることで、細胞でのその物質の効力を高めることができる。従って、これらの複合体は癌細胞増殖を活発に阻害することができる。さらに、イン・ビボの腫瘍増殖について得られた結果から、本発明のベクターが受容体LRPを標的とし得ることがわかる。さらに、コンジュゲーションによって、コンジュゲートしていない物質の薬物動態または生体分布を変えることができる。
【0193】
総合すると、卵巣癌、乳癌、肺癌および皮膚癌などの原発腫瘍ならびに原発腫瘍を起源とする転移に対して、複合体を用いることができる、
治療方法
本発明は、本明細書に記載の本発明の化合物またはそれの医薬組成物を用いる治療方法も特徴とする。BBBを通過して効率的に輸送される本発明の化合物(例えば、式(I)の化合物などのポドフィロトキシン誘導体またはドキソルビシンもしくはドキソルビシン誘導体(例えば、式(II)の化合物)にアミノ酸を介して共有結合的に結合しているアミノ酸配列を含む化合物)(例えば、AngioPep-2、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5およびAngioPep-6)を用いて、脳または中枢神経系疾患を治療することができる。神経疾患の例には、脳腫瘍、脊髄腫瘍(例えば、脊索腫)および脳転移などの脳の癌などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0194】
脳腫瘍は、原発性・転移性の脳腫瘍であることができる。脳内を起源とする脳腫瘍は、原発性脳腫瘍である。身体の別の場所での癌(例えば、肺癌、乳癌、メラノーマ、結腸癌、腎臓癌および他の癌)の拡散によって生じる脳腫瘍は、転移性脳腫瘍である。脳での位置によって記述される腫瘍のカテゴリーの例には、脳幹腫瘍、小脳橋角腫瘍(例えば、内耳神経腫瘍)、大脳半球腫瘍、前頭葉腫瘍、頭頂葉腫瘍、松果体部腫瘍、後頭葉腫瘍、側頭葉腫瘍、皮質下腫瘍、髄膜脳腫瘍、正中部腫瘍(例えば、頭蓋咽頭腫、視神経神経膠腫ならびに視床およびトルコ鞍部領域の腫瘍)、後頭蓋窩腫瘍(例えば、第四脳室の腫瘍および小脳腫瘍)などがある。
【0195】
脳腫瘍の例には、聴神経腫(神経鞘腫、シュワン細胞腫、神経線維腫症)、腺腫、星細胞腫(例えば、若年性毛様細胞性星細胞腫、上衣下巨細胞性星細胞腫、大円形細胞性星細胞腫、異型性星細胞腫、悪性星細胞腫、多形性膠芽細胞腫および神経膠肉腫)、脳幹神経膠腫(星細胞腫、異型性星細胞腫、多形性膠芽細胞腫または混合腫瘍であり得る)、脈絡叢乳頭腫、cnsリンパ腫、上衣細胞腫(例えば、異型性上衣細胞腫)、神経節細胞腫、神経節膠腫、神経膠腫、多形性膠芽細胞腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫、混合神経膠腫、神経線維腫症(フォン・レックリングハウゼン病)、乏突起細胞腫および視神経膠腫(例えば、毛様細胞性星細胞腫)などがある。
【0196】
複合体は、肝臓、卵巣、肺、腎臓、脾臓または筋肉にも効率的に輸送可能であることから、適切な治療薬と併用して、これらの組織に関連する疾患を治療することもできる(例えば、癌)。AngioPep-7は脳には効率的に輸送されないが、肝臓、肺、腎臓、脾臓および筋肉などの組織および細胞には効率的に輸送されることから、AngioPep-7を含む本発明の化合物は、脳への物質のターゲティングが望ましくない場合に、これらの組織に関連する疾患のベクター治療として特に適したものとなり得る。肝臓の疾患の例には、肝細胞癌(肝細胞腫)および肝臓癌などがある。肺疾患の例には、小細胞癌(例えば、燕麦細胞癌)、混合型小細胞/大細胞癌、混合型小細胞癌および転移腫瘍などの肺癌などがある。転移腫瘍は、乳癌(例えば、転移乳癌)、結腸癌、前立腺癌(例えば、転移前立腺癌)、肉腫、膀胱癌、神経芽細胞腫およびウィルムス腫瘍(腎芽腫)などのあらゆる組織の癌を起源とし得る。脾臓疾患には、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫およびある種のT細胞リンパ腫などの癌などがある。
【0197】
本発明の複合体または組成物を用いて治療可能な別の癌の例には、乳癌、マントル細胞リンパ腫などの各種リンパ腫のような頭部および頸部の癌、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、網膜の癌、食道の癌、多発性骨髄腫、卵巣癌(例えば、卵巣胚細胞腫瘍および卵巣癌)、子宮癌、メラノーマ、結腸直腸癌、膀胱癌、前立腺癌、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌など)、膵臓癌、子宮頸癌、頭部および頸部の癌、皮膚癌、上咽頭癌、脂肪肉腫、上皮性癌、腎細胞癌、胆嚢腺癌、耳下腺癌、子宮内膜肉腫、多剤耐性癌;ならびに腫瘍血管新生関連の新血管新生、黄斑変性(例えば、湿/乾AMD)、角膜血管新生、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、近視性変性および再狭窄および多発性嚢胞腎などの他の増殖性の疾患および障害のような増殖性の疾患および障害などがある。
【0198】
本明細書に記載のように、BBBを通過して効率的に輸送される本発明の化合物または組成物で治療可能な脳の癌には、星細胞腫、毛様細胞性星細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、乏突起細胞腫、上衣細胞腫、多形性膠芽細胞腫、混合神経膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、胚細胞腫および奇形腫などがある。本発明の化合物または組成物で治療可能な他の癌の例には、菌状息肉腫(アリバート-バザン(Alibert-Bazin)症候群またはポリープ状肉芽腫とも称される)、ホジキン病(ホジキンリンパ腫)、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、後天性免疫不全症候群(AIDS)関連のカポジ肉腫、AIDS関連非ホジキンリンパ腫、妊娠性絨毛性腫瘍、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、難治性進行乳癌、精巣癌(例えば、睾丸の悪性腫瘍、難治性精巣睾丸悪性腫瘍および精巣生殖細胞腫瘍癌)、難治性進行悪性新生物、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、骨肉腫、バーキットリンパ腫、成人急性リンパ性白血病、バーキット白血病、縦隔腫瘍、リンパ芽球性リンパ腫、大細胞異型性リンパ腫、形質細胞腫などがある。
【0199】
本発明の化合物または組成物は、対象者に対して当業界で公知の手段によって投与することができ、例えば経口投与、動脈投与、鼻腔内投与、腹腔内投与、静脈投与、筋肉投与、皮下投与、経皮投与または経口投与される。当該物質は例えば、血管新生阻害剤化合物であることができる。
【0200】
併用療法
本発明の化合物は、他の治療薬または他の治療法と同時に投与することができる。一部の実施形態において、その別の治療薬または物質は、本明細書に記載のポリペプチドまたはそれの誘導体(例えば、表1のポリペプチドおよびそれの誘導体)に対して共有結合を有することもできる。他の実施形態において、別の治療薬または物質は、本明細書に記載のポリペプチドに共有結合的に結合していない。本発明の化合物との併用両方で用いることができる治療法および治療薬の例には、放射線療法、化学療法、大量化学療法、幹細胞移植(例えば、自己幹細胞移植)、骨髄移植、手術、腫瘍除去手術、温熱治療、シスプラチン、イリノテカン、イリノテカン塩酸塩、カルボプラチン、クロラムブシル(リュークラン(登録商標))、トシツモマブ(ベキサール(登録商標))、リツキシマブ(リツキサン(登録商標)およびマブセラ(登録商標))、ブレオマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、シクロホスファミド、プロカルバジン、ミトキサントロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、パクリタキセル(タキソール(登録商標))、イホスファミド、メトトレキセート、ドキソルビシン、(アドリアマイシン(登録商標))、デキサメサゾン、シクロスポリン、Rad-001(サーティカン)、シタラビン(Ara-C)、ダウノルビシン、フルダラビン、イダルビシン、ボリノスタット(SAHA)、ナイアシンアミド、AZD2171、ミトタン、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ(登録商標))、ミトキサントロン、クロファラビン、アスパラギナーゼ、メルカプトプリン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSFまたはGCSF)、ビンデシン、チオグアニン、VM26、VP16、ダカルバジン、ダクチノマイシン、テモゾロマイド、チオテパ、エピルビシン塩酸塩、カルムスチン、フィルグラスチム、ドセタキセル、ゲフィチニブもしくはそれの製薬上許容される塩またはこれらのいずれかの組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0201】
本明細書に記載の方法で使用される第2の治療薬は、Angiopep-2の配列(配列番号97)を含むかその配列からなるポリペプチドであることもでき、好ましくはAngiopep-2は抗癌剤(例えば、パクリタキセル)にコンジュゲートしている。本明細書に記載の化合物と併用可能な治療薬の例には、下記の構造を有するANG1005がある。
【化38】
【0202】
さらに別の第2の治療薬の例が、米国特許第7557182号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0203】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は本明細書に記載の本発明の化合物を製薬上許容される担体とともに含む。そのような組成物は液体または凍結乾燥製剤もしくは別の方法で乾燥された製剤であり、種々のバッファー内容物(例えば、Tris-HCl、酢酸、リン酸)、pHおよびイオン強度の希釈剤、表面への吸収を防ぐための添加物、例えばアルブミンまたはゼラチン、界面活性剤(例えば、Tween20、Tween80、PluronicF68、胆汁酸塩)を含む。可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングリセロール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量物質または張度調節剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、タンパク質に対するポリエチレングリコール等のポリマーの共有結合的付加、金属イオンとの錯体形成、またはポリマー化合物、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル等の微粒子調製物内または微粒子調製物上への物質の取り込み、またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単ラメラもしくは多ラメラ小胞、赤血球ゴースト、またはスフェロプラスト上への物質の取り込みを含む。そのような組成物は、物理的状態、溶解度、安定性、イン・ビボでの放出の割合、およびイン・ビボでのクリアランスの割合に影響する。徐放性または持続性組成物には、親油性デポー(例えば、脂肪酸、ろう、油)中の製剤などがある。また、ポリマー(例えばポロキサマーまたはポロキサミン類)でコーティングされた微粒子組成物も本発明に含まれる。本発明の組成物の他の実施形態は、微粒子形式保護コーティング、プロテアーゼ阻害薬または、各種投与経路、例えば非経口、肺、鼻、経口、膣、経直腸経路用の浸透促進剤を含む。1実施形態では、非経口、癌の近く(paracancerally)、経粘膜、経皮、筋肉内、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、頭蓋内および腫瘍内で医薬組成物を投与する。
【0204】
製薬上許容される担体は0.01から0.1Mまたは0.05Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水をさらに含む。さらに、そのような製薬上許容される担体は、水系または非水系の溶液、懸濁液および乳濁液であることができる。非水系溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。水系担体には、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液などがある(生理食塩水および緩衝化された媒体を含む)。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルまたは固定油などがある。静脈投与媒体には、液体および栄養補充液、電解質補充液、例えばリンゲルデキストロースに基づくものなどがある。例えば、抗菌剤、酸化防止剤、照合物質、不活性ガス等の保存剤および他の添加物を加えても良い。
【0205】
他の製剤には、脂肪酸(例えば12-ヒドロキシステアリン酸)のポリ-オキシエチレンエステル、例えばソルトール(Solutol;登録商標)HS15が含まれる。ゆえに、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、a)本明細書中に記載の複合体、b)ソルトール(登録商標)HS15およびc)水系溶液または緩衝液(例えばpH5から7のリンゲル/Hepes溶液)を含んでも良い。製剤中のソルトール(登録商標)HS15の濃度は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、または60%(例えば30%)であるか、またはこれらの数値のいずれか2つの間の任意の範囲内であってよい。対象者を効率的に治療するために必要とされる用量、または投与される複合体の溶解性に必要とされるエステルの量に基づいて複合体の濃度を決定することができる。タキソール複合体の投与のための製剤中でのソルトールの使用については、例えば国際公開第WO2007/009229号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0206】
非経口組成物
医薬組成物は、従来の無毒性で製薬上許容される担体および補助剤を含む剤形、製剤で、または好適な送達機器もしくは埋め込み物を介して、注射、注入または埋め込み(皮下、静脈、筋肉、腹腔内投与など)によって非経口的に投与することができる。そのような組成物の製剤および調製物は、医薬製剤における当業者には公知である。
【0207】
非経口用の組成物は、単位製剤(例えば、単一用量アンプル中)で、または数用量を含み好適な保存剤を添加しても良い(下記参照)バイアル中で提供することができる。その組成物は、液剤、懸濁液、乳濁液、注入機器または埋め込み用の送達機器の形態であることができるか、使用前に水または別の好適な媒体で再生する乾燥粉末として提供することができる。活性剤は別として、その組成物は、好適な非経口的に許容される担体および/または賦形剤を含むことができる。活性剤は、徐放用のミクロスフィア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソームなどに組み込むことができる。さらに、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、張度調節剤および/または分散化剤を含むことができる。
【0208】
上記で示したように、本発明による医薬組成物は、無菌注射に好適な形態であることができる。そのような組成物を調製するため、好適な活性剤を、非経口的に許容される液体媒体に溶解または懸濁させる。使用可能な許容される媒体および溶媒の中には、水、適切な量の塩酸、水酸化ナトリウムもしくは好適な緩衝剤を加えることで好適なpHに調整された水、1,3-ブタンジオール、リンゲル液、ブドウ糖溶液および等張性塩化ナトリウム溶液がある。水系製剤は、1以上の保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチルまたはn-プロピル)を含むこともできる。これら化合物のうちの一つが水に難溶であるかわずかしか溶けない場合、溶解促進剤または可溶化剤を加えることができるか、溶媒に10から60重量%のプロピレングリコールなどを含有させることができる。
【0209】
本発明の化合物を含む非経口組成物または製剤は、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115または120分の期間をかけて、または例えば0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5または5.0時間かけて患者に投与することができる。
【0210】
徐放非経口組成物
徐放非経口組成物は、水系懸濁液、ミクロスフィア、マイクロカプセル、磁性ミクロスフィア、オイル溶液、オイル懸濁液または乳濁液の形態であることができる。その組成物は、生体適合性の担体、リポソーム、ナノ粒子、埋め込み物または注入機器に組み込むこともできる。
【0211】
ミクロスフィアおよび/またはマイクロカプセルの製造に使用される材料は、例えばポリガラクチン、ポリ-(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-L-グルタミン)、ポリ(乳酸)、ポリグリコール酸およびこれらの混合物などの生体分解性/生体内分解性ポリマーである。徐放非経口製剤を製剤する際に使用することができる生体適合性担体は、炭化水素(例えば、デキストラン類)、タンパク質(例えば、アルブミン)、リポタンパク質または抗体である。埋め込み物に使用される材料は、非生体分解性(例えば、ポリジメチルシロキサン)または生体分解性(例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)またはポリ(オルトエステル))またはこれらの組み合わせであることができる。
【0212】
経口使用向けの固体製剤
経口用の製剤には、無毒の製薬上許容される賦形剤との混合物中で有効成分を含有する錠剤が含まれ、そのような製剤は当業者に公知である(例えば、米国特許第5817307号、同5824300号、同5830456号、同5846526号、同5882640号、同5910304号、同6036949号、同6036949号、同6372218号(これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる))。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または充填剤(例えば、ショ糖、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);造粒剤および崩壊剤(例えば、微結晶性セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例えば、ショ糖、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);および潤滑剤、流動促進剤、および付着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油、またはタルク)であることができる。他の製薬上許容される賦形剤には、着色剤、香味剤、可塑剤、湿展剤、緩衝剤などがあり得る。
【0213】
錠剤はコーティングされていないか、または、場合により消化管での崩壊および吸収を遅延させて長期間にわたる持続作用を提供するために、公知技術によってコーティングされていることができる。コーティングは、(例えば徐放製剤を達成するために)あらかじめ決められたパターンで物質を放出するように構成されるか、または胃を通過する後まで物質を放出しないように構成される(腸溶コーティング)。コーティングは、糖衣、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリラートコポリマー、ポリエチレングリコール、および/またはポリビニルピロリドンに基づくコーティング)、または腸溶コーティング(例えば、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、シェラック、および/またはエチルセルロースに基づくコーティング)であることができる。さらにまた、時間遅延物質、例えばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルを用いてもよい。
【0214】
固体錠剤組成物は、望ましくない化学変化(例えば活性物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように構成されたコーティングを含んでよい。上記Encyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載の様式と類似の様式で固体製剤にコーティングを施しても良い。
【0215】
本発明の組成物を錠剤中でともに混合するか、または分割してよい。1例では、第1の物質を錠剤内部に含有させ、かつ第2の物質を外部に含有させ、第2の物質のかなりの部分が第1の物質の放出前に放出されるようにする。
【0216】
経口用途の製剤は、咀嚼錠として、または有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、ラクトース、微結晶性セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセルとして、または有効成分が水または油媒体、例えば、落花生油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合されている軟ゼラチンカプセルとして提供してもよい。例えばミキサー、流動床装置、または噴霧乾燥装置を使用する従来の方式で、錠剤およびカプセルに関して前述した成分を使用して粉剤および粒剤を製造することができる。
【0217】
投与法
本明細書に記載の、または本明細書に記載の方法を使用して特定される化合物、複合体または組成物の用量は、投与方法、治療対象の疾患(例えば癌)、疾患の重度、癌を治療するか予防するか、ならびに治療を受ける対象者の年齢、体重および健康状態などのいくつかの要素によって決まる。
【0218】
本発明の治療方法に関して、対象者へのベクター、複合体または組成物の投与は、投与、用量または投与回数についての特定の様式に限定されないものとする。本発明はすべての投与様式を想定するものである。複合体または組成物を1回量でまたは複数用量で対象者に投与することができる。例えば、本明細書に記載のまたは本発明のスクリーニング方法を使用して特定される化合物、複合体を、例えば、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって週1回投与することができる。本発明の化合物は、例えば、1、2、3、4、5、6または7日間にわたって、または1、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって1日1回投与することもできる。
【0219】
本発明の化合物を投与する期間の後または前に、化合物を投与しない期間があっても良い。例えば、本明細書に記載の化合物を投与した後に、1、2、3、4、5、6もしくは7日間、または1、2、3、4、5、6、7、8、10、15、20またはそれ以上の週にわたって、患者への本発明の化合物の投与を行わない。一部の実施形態において、患者には、前記期間中に他の治療薬を投与することができる。本発明の化合物を患者に投与する期間とそれに続いてその患者に本発明の化合物を投与しない期間を含む化学療法のこれらのサイクルは、医学的な必要に応じて繰り返すことができる(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20回)。
【0220】
理解すべき点として、特定の対象者に関して、個別の必要性およびベクター、複合体または組成物を投与するかまたはその投与を指揮する者の専門的判断にしたがって、具体的な投与方式を経時的に調節すべきであろう。例えば、本明細書に記載の疾患または障害(例えば癌)の治療において低用量が十分な活性を提供しなければ、複合体の用量を増加させることができる。逆に、疾患(例えば癌)が軽減または排除されれば、化合物の用量を減少させることができる。
【0221】
最終的に担当医が適切な量および投与方式を決定するが、本明細書に記載の化合物、ベクター、複合体または組成物の治療上有効量は、例えば、0.0035μgから20μg/kg/日または0.010μgから140μg/kg/週の範囲であることができる。望ましくは、治療上有効量は、毎日、1日おき、または週2回投与される0.025μgから10μg/kgの範囲、例えば、少なくとも0.025、0.035、0.05、0.075、0.1、0.25、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0または9.0μg/kgである。さらに、治療上有効量は、毎週、1週おき、または月1回投与される0.05μgから20μg/kgの範囲、例えば、少なくとも0.05、0.7、0.15、0.2、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、10.0、12.0、14.0、16.0または18.0μg/kgであることができる。さらにまた、化合物の治療上有効量は、例えば、1日おき、週1回、または1週おきに投与される0.100mg/m2から2000mg/m2の範囲であってよい。望ましい実施形態では、治療上有効量は、毎日、1日おき、週2回、毎週、または1週おきに投与される1mg/m2から1000mg/m2の範囲、例えば、少なくとも100、150、400または800mg/m2の化合物である。
【0222】
例えば、本発明の化合物(例えば、化合物(1))を用いて、本明細書に記載の投与方法、投与量および投与計画のいずれかを用いて、患者にポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGおよびテニポシドなどの式(I)の化合物)を投与したり、ドキソルビシンまたはドキソルビシン誘導体(例えば、化合物(2)または式(II)の化合物を含む本発明の化合物)を投与することができる。本発明の化合物は、例えば、式(I)のもの(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGおよびテニポシド)または式(II)のもの(例えば、ドキソルビシンまたはエピルビシン)などの1、2、3、4または5分子のポドフィロトキシン誘導体に対する共有結合を含むことができることから、この化学量論を用いて、投与すべき用量(「等価な用量」)を計算および調節することができる。例えば、エトポシド:Angiopep-2(3:1)複合体(「Etop-An2(3:1)」)は、4354g/molの分子量を有し、エトポシド含有量は分子量の40%を占める。同様に、ドキソルビシン:Angiopep-2(3:1)複合体は4178g/molの分子量を有し、ドキソルビシンは分子量の40%を占める。このデータを用いて、投与(例えば、非経口または経口)用の組成物に含める本発明の化合物のを計算して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475または500mgs/m2/日のポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはエトポシド)を患者に投与することができる。この用量を、2、3、4、5、6または7日間にわたって患者に1日1回投与することができる。投与期間の後に、1、2、3、4、5、6または7日間または2、3、4、5、6、7または8週間の本発明の化合物を投与しない休薬期間を設けることができ、投与期間/休薬期間のサイクルを例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回以上繰り返す。
【0223】
本発明の化合物(例えば、化合物(1)および(2)またはそれらの製薬上許容される塩)は、個々の複合体化していない治療薬(例えば、エトポシド、エトポシド4-ジメチルグリシンまたはドキソルビシン)と比較して改善された物理化学特性および医薬特性を示すことができる。例えば、本明細書に記載の例示的な細胞型、組織または臓器(例えば、脳、卵巣、肝臓、肺、腎臓、脾臓または筋肉)のターゲティングを高めることで、治療量以下の用量の化合物(例えば、化合物(1)または(2))を患者に投与することで可能となる。本発明の化合物は、個々の複合体化していない治療薬と比較して低い毒性を示すこともできることから、それによって治療量より多い用量の化合物を患者に投与することが可能となる。例えば、複合体化していないドキソルビシンは代表的には、単回の静脈注射として単独で投与する場合には60から75mg/m2または別の化学療法薬と併用投与する場合には40から50mg/m2の範囲になる用量計画で投与される。複合体化していないエトポシドまたはエトポシドホスフェートについての代表的な用量計画は、1から5mg/m2/日、1から50mg/m2/日、35から50mg/m2/日または50から100mg/m2/日の範囲とすることができる。本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))による細胞型、組織または臓器のターゲティングの改善により、相当する複合体化していない治療薬について用いられる用量と比較して低い治療薬用量が可能となる(「治療量以下の用量」、すなわち、例えば、相当する複合体化していない治療薬の最低有効用量の25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、2000、3000、4000または5000倍低い有効用量)。本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))に関連し得る毒性低下によって、相当する複合体化していない治療薬について使用される用量と比較して高い用量を患者に対して安全に投与することが可能となる(「治療量以上の用量」、すなわち、例えば複合体
化していない治療薬の最大許容用量の25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、2000、3000、4000または5000倍である有効用量)。同様に、改善された物理化学特性も、患者に投与される用量に影響を与え得る。例えば、改善された溶解度によって、治療量以下の用量の投与が可能となる。これらの改善された物理化学的医薬特性によって、例えば小児患者群または老年患者群への本発明の化合物(例えば、化合物(1)または(2))の安全な投与が可能となる。
【0224】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0225】
実施例1 3:1エトポシド:Angiopep-2複合体の合成
本発明の化合物の合成は、ポドフィロトキシン誘導体(例えば、エトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシドDMGまたはテニポシドなどの式(I)の化合物)、二官能性加水分解性連結基(例えば、ジカルボン酸またはジイソシアネート)および本明細書に記載のアミノ酸配列もしくはそれの官能基誘導体の組み合わせによって行うことができる。誘導体化ポドフィロトキシン中間体(例えば、2″-グルタリルエトポシド)のポリペプチドに対する当量を変えることで、異なる化学量論でポリペプチド複合体の合成を行うことが可能である(例えば、「Etop-An2(1:1)」または「Eto-An2(1:1)」であり、エトポシド1分子がAngiopep-2ポリペプチドに結合している)。
【0226】
図式5には、3個のエトポシド分子に共有結合的に結合しているAngiopep-2ポリペプチドを含む化合物の合成を示してある(「Etop-An2(3:1)」または(「Eto-An2(3:1)」)。
【0227】
図式5
【化39】
【0228】
(2″-グルタリル)-エトポシド
エトポシド(10g、17mmol)のCHCl3(120mL)中溶液に、無水グルタル酸(3.13g、27.4mmol)およびDMAP(115mg、0.942mmol)を加えた。室温で72時間後、混合物を溶媒留去し、ポリスチレン/DVBカラム(15から35%アセトニトリル(ACN)/H2O、トリフルオロ酢酸(TFA)を含まない)を用いる逆相クロマトグラフィーによって精製した。粗生成物のHPLCは、位置異性体である2″-グルタリルエトポシド(2″-glu-Etop)および3″-グルタリルエトポシド(3″-glu-Etop)の2:1の比での混合物を示した。溶媒留去および凍結乾燥後に、(2″-グルタリル)-エトポシドを白色粉末として得た(4.1g、34%)。位置異性体(3″-グルタリル)-エトポシドも白色固体として単離した(2.4g、20%)。2″-glu-Etopおよび3″-glu-Etopの純度をRP-HPLCによって求めた。MetaChem Taxsil-3カラムおよび勾配溶離(1mL/分;15分間かけての10%から65%(0.05%TFA/H2O):(0.05%TFA/ACN))を用いると、2″-glu-Etopは9.00分の保持時間を有し、3″-glu-Etopは9.42分の保持時間を有する。2″-glu-Etop(保持時間=9.00分)の純度は>98%(99.4%)であり、3″-glu-Etopの純度は>98%(99.6%)であった。
【0229】
((2″-グルタリル)-Etop)3-(Angiopep2)(Etop-An2(3:1))
(2″-グルタリル)-エトポシド(2.83g、4.025mmol)の脱水DMF(400mL)中溶液に、トリエチルアミン(Et3N;0.84mL、6.037mmol)およびN,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU;1.32g、4.628mmol)を加えた。反応混合物を室温で1時間撹拌した(pH=9.3)。10N NaOHでpHを調整することで(pH7.3とする)、AN2(Angiopep-2、含有率75%、3.68g、1.207mmol)のPBS10倍緩衝液(pH7.3;200mL)中溶液を調製した。ドライアイス浴で冷却した後、活性化しておいた酸をAngiopep-2に加え(100mLで4回)、10N NaOHを加えることで混合物のpHを7.2に調整した。室温で1時間後、反応液を濾過してリン酸塩を除去し、溶媒留去して粗混合物35mLを得た。粗生成物のHPLCでは、3:1の比率での(3:1)複合体および(2:1)複合体の混合物が示された。残留物を、ポリスチレン/DVBカラム(15から37.5%ACN/H2O)を用いる逆相クロマトグラフィーによって精製した。精製後、合わせた分画に0.1%酢酸を加えて、溶解度を高めた。混合物の溶媒留去および凍結乾燥によって、Etop-An2(3:1)生成物を白色固体として得た(596mg、12%)。MetaChem Taxsil-3カラムおよび勾配溶離(1mL/分;15分間かけての10%から65%(0.05%TFA/H2O):(0.05%TFA/ACN))を用いて、単離された生成物が9.36分の保持時間を有し、純度>95%(97.3%)であることが認められた。m/z(ESI-TOF):2178(+2)、1452(+3)。
【0230】
実施例2 3:1エトポシドDMG:Angiopep-2複合体の合成
実施例1に記載の手順を用いて、他のポドフィロトキシン誘導体にコンジュゲートされたペプチドを含む化合物を製造することができる。例えば、図式6に示した合成手順を用い、エトポシドDMGを用いて、図式7に示した複合体を製造することができる(「EtopDMG-An2(3:1)」)。
【0231】
図式6
【化40】
【0232】
図式7
【化41】
【0233】
エトポシド4′-ジメチルグリシン
エトポシド(235mg、0.4mmol)およびDMAP(73mg、0.6mmol)のDMF(4mL)中混合物を室温で20分間撹拌し、撹拌しながらN,N-ジメチルアセチルクロライド(96mg、0.52mmol)を1回で加えた。30分後、HPLCによって反応は完結した。ギ酸(1MのDMF中溶液、0.5mL)を加え、溶媒を濃縮して1mLとした。得られた溶液をAKTA RPCカラムに乗せて精製を行った(勾配10%から30%の0.1%ギ酸含有MeCN/H2O)。凍結乾燥後、エトポシド4′-ジメチルグリシン(「エトポシドDMG」または「EtopDMG」;180mg、67%)を無色粉末として得た。1H NMR(CD3OD)δ7.01(1H、s)、6.56(1H、s)、6.39(2H、s)、5.98(2H、d、J=2.9Hz)、5.05(1H、d、J=3.4Hz)、4.77(1H、q、J=4.9Hz)、4.68(1H、d、J=5.4Hz)、4.66(1H、d、J=7.8Hz)、4.46(2H、s)、4.45(1H、dd、J=10.3、8.8Hz)、4.31(1H、t、J=8.0Hz)、4.17(1H、dd、J=10.3、4.9Hz)、3.68(6H、s)、3.56(1H、q、J=10Hz)、3.54(1H、t、J=9.3Hz)、3.52(1H、dd、J=14.2、5.6Hz)、3.32(1H、m)、3.26(1H、dd、J=9.1、4.1Hz)、3.24(1H、dd、J=9.2、5.4Hz)、3.02(6H、s)、2.96(1H、m)、1.33(3H、d、J=4.9Hz)。13C NMR(DMSO)δ175.26、168.68、151.35、148.49、147.01、139.39、132.74、129.6、127.28、110.65、110.45、108.02、102.19、102.02、99.25、80.78、75.06、73.39、72.41、68.43、68.01、66.44、59.73、56.63、56.47、45.03、43.86、37.89、20.99;C33H39NO14についてのHRMS(MicroTOF)計算値673.2371、実測値274.2534(M+1)。
【0234】
エトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸
エトポシド4′-ジメチルグリシン(655mg、0.97mmol)およびDMAP(18mg、0.15mmol)のクロロホルム(11mL)中混合物を冷却して0℃とした。DMF(3mL)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA;0.25mL、1.46mmol)を連続的に加え、次に無水グルタル酸(222mg、1.94mmol)を加えた。反応混合物を室温で撹拌し、HPLCによってモニタリングした。2日後、溶媒を濃縮して3mLとした。得られた溶液をAKTA RPCカラムに乗せて精製を行った(勾配溶離、10%から30%MeCN/H2O)およびエトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸(305mg、40%)を凍結乾燥後に白色粉末として得た。1H NMR(CD3OD)δ7.0(1H、s)、6.53(1H、s)、6.39(2H、s)、5.99(2H、d、J=4.6Hz)、4.97(1H、q、J=7.9Hz)、4.78(1H、q、J=4.75Hz)、4.74(1H、d、J=7.9Hz)、4.68(1H、d、J=5.6Hz)、4.45(2H、s)、4.41(1H、dd、J=9.6、8.8Hz)、4.29(1H、t.J=8.2Hz)、4.15(1H、dd、J=10.0、4.5Hz)、3.78(1H、t、J=9.4Hz)、3.69(6H、s)、3.61(1H、t、J=10.2Hz)、3.42(1H、td、J=9.6、5.2Hz)、3.33(1H、dd、J=8.7、8.2Hz)、3.3(1H、dd、J=13.4、5.3Hz)、3.02(6H、s)、2.93(1H、m)、2.26(1H、m)、2.16(2H、m)、2.02(1H、m)、1.64(2H、m)、1.32(3H、d、J=4.9Hz)。13C NMR(DMSO)δ175.96、175.33、172.46、163.74、151.14、148.96、147.43、139.53、131.90、129.83、126.42、110.20、109.18、107.40、101.91、100.65、99.63、80.39、74.55、73.95、71.55、71.29、68.43、67.82、66.46、56.43、55.35、43.90、43.15、40.82、38.0、32.86、32.59、19.93、19.39。HRMS(MicroTOF)C38H45NO17の計算値787.2687、実測値788.2432(M+1)。
【0235】
(エトポシド-4′-ジメチルグリシン-2″-グルタリック)3-Angiopep-2複合体(「Etop-4′-DMGly-2″-Glu)3-An2」または「EtopDMG-An2(3:1)」)
エトポシド4′-ジメチルグリシン2″-グルタル酸(330mg、0.42mmol)およびTBTU(145mg、0.46mmol)のDMF(24mL)中混合物に、DIEA(0.17mL、0.98mmol)を滴下した。混合物を室温で50分間撹拌した。Angpep-2(422mg、0.14mmol)のDMSO(1.5mL)およびDMF(9mL)中溶液を加え、次にDIEA(0.084mL、0.48mmol)を加えた。混合物を室温で20分間撹拌した。少量サンプル(10mL)をUPLC分析用に取ったが、それは反応が完結したことを示した。さらに10分間撹拌した後、反応溶液を濃縮して3mLとし、AKTA RPCカラムを用いて精製した(勾配溶離、10%から25%の0.05%ギ酸含有MeCN/H2O)。凍結乾燥後に、(Etop-4′-DMGly-2″-Glu)3-An2(172mg、26%)を無色粉末として得た。MS(MicroTOF)、m/z、2305.9327(2+)、1537.6443(3+)、1153.7463(4+)、922.7970(5+)。
【0236】
実施例3 3:1ドキソルビシン:Angiopep-2複合体(「(DoxSu)3-An2」)の合成
図式8に示し、本明細書で説明した合成図式に従って、3:1ドキソルビシン:angiopep-2複合体を製造した。
【0237】
図式8
【化42】
【0238】
Fmocドキソルビシン
ドキソルビシン(2.0g、3.45mmol)および9-フルオレニルメチルN-スクシニミジルカーボネート(FmocOSu;2.32g、6.9mmol)のDMF(35mL)中溶液を撹拌しながら、それにDIEA(1.5mL、8.63mmol)を滴下した。混合物を室温で3時間撹拌し、濃縮した。得られた残留物を0.1%TFA/H2Oで磨砕し(20mLで3回)、Et2Oで洗浄した(20mLで8回)。得られた赤色固体を回収し、真空乾燥してFmocドキソルビシンを赤色粉末として得た(2.1g、収率80%)。UPLC純度、98%.MS(ESI、MicroTOF)、788.2411(M+Na)。
【0239】
FmocDoxSuOH
Fmocドキソルビシン(0.28g、0.366mmol)および無水コハク酸(0.11g、1.1mmol)のDMF(20mL)中溶液に撹拌下で、DIEA(0.17mL、1.0mmol)を滴下した。混合物を室温で撹拌し、UPLCによってモニタリングした。2日後、溶媒を除去し、得られた残留物をバイオテージ(Biotage)カラム(シリカゲル、2%から9%MeOH/DCM)を用いて精製して、FmocDoxSuOHを赤色粉末として得た(100mg、収率33%)。UPLC純度:95%.MS(ESI、MicroTOF)、888.2577(M+Na)。
【0240】
(FmocDoxSu)3-An2
FmocDoxSuOH(599mg、0.692mmol)およびTBTU(231mg、0.72mmol)のDMF(21mL)中溶液に撹拌下で、DIEA(0.25mL、1.44mmol)を滴下した。混合物を室温で50分間撹拌し、Angpep-2(671mg、0.229mmol)のDMSO(2mL)およびDMF(12mL)中溶液を加えた。混合物を室温で20分間撹拌し、その時点でのHPLCで反応が完結していることが示された。さらに10分間撹拌後、溶媒を除去し、残留物をバイオテージC18カラム(40%から80%MeCN/水および0.05%TFA)で精製して、(FmocDoxSu)3An-2を赤色粉末として得た(500mg、収率45%)。UPLC純度、95%.MS(ESI、MicroTOF)、m/z2423.4239(2+)、1615.6190(3+)。
【0241】
(DoxSu)3-An2
(FmocDoxSu)3An-2(260mg、0.053mmol)のDMSO(1mL)およびDMF(12mL)中溶液に、ピペリシン(20%のDMF中溶液、1.5mL)を加えた。その溶液は青色になった。10分間撹拌後、溶液を冷却して0℃とし、ギ酸(0.5MのDMF中溶液、6mL)で処理して透明赤色溶液を得た。真空ポンプを用いて溶媒を除去し、得られた残留物をEt2O(10mlで3回)およびAcOEt(10mlで3回)で磨砕した。得られた赤色固体を、AKTA RPC30カラム(10%から40%MeCN/水および0.15%ギ酸)を用いて精製して、(DoxSu)3An-2を赤色粉末として得た(82mg、収率37%)。UPLC純度:95%.MS(ESI、MicroTOF)、m/z2089.9674(2+)、1393.2419(3+)、1045.4395(4+)。
【0242】
実施例3 細胞増殖に対するエトポシド、エトポシド-Angiopep複合体、ドキソルビシンおよびドキソルビシン-Angiopep複合体の効果
イン・ビトロ細胞増殖アッセイのため、24ウェルの組織培養マイクロプレートにおいて、10%血清を含む培地1mLの最終容量で2.5から5×104個のU87またはSK-HEP-1細胞を接種し、37°Cおよび5%CO2で24時間インキュベートした。培地を、血清を含まない培地と交換し、終夜インキュベートした。翌朝、薬剤をジメチルスルホキシド(DMSO)に新鮮に溶解させ、3重反復での各種濃度でその薬剤を含む完全培地に培地を交換した。DMSOの最終濃度は0.1%であった。使用した対照は、細胞を含むが薬剤を含まないマイクロプレートウェルとした。細胞を37°Cおよび5%CO2で48から72時間インキュベートした。インキュベーション後、培地を変え、[3H]-チミジン(1pCi/アッセイ)を含む完全培地1mLと交換した。プレートを37°Cおよび5%CO2で4時間インキュベートした。培地を除去し、細胞を37°CにてPBSで洗浄した。細胞をエタノール:酢酸の混合物(3:1)で固定し、水で洗浄し、10%の氷冷TCA(トリクロロ酢酸)で3回沈澱させた。最終的にPCA(過塩素酸)500μLをウェルに加え、マイクロプレートを65℃で30分、75℃で30分加熱した。次に、各ウェルの内容物を、シンチレーションカクテル10mLの入ったシンチレーションバイアルに移し、パッカード(Packard)からの液体シンチレーションカウンターTri-CarbでのCPM(カウント/分)で活性を測定した。複合体化していないエトポシド、Etop-An2(1:1)およびEtop-An2(3:1)を用いた細胞増殖アッセイの結果を表4に示してある。表5には、EtopDMG-An2(3:1)、複合体化していないエトポシドDMG、ドキソルビシン/Angiopep-2(3:1)複合体(「ドキソルビシン-An2(3:1)」)および複合体化していないドキソルビシンについて得られた結果を示してある。
【0243】
イン・ビトロ試験に加えて、細胞増殖の阻害を異種移植腫瘍モデルにおいて調べており、その結果を図1に示してある。U87膠芽細胞腫細胞(2.5×106)を、ヌードマウスの右脇腹に皮下的に埋め込んだ。腫瘍容量が約150から200mm3に達した埋め込みから15日後に(図1に示したグラフでは第0日に相当)、処理を開始した。ドキソルビシン(6mg/kg)およびドキソルビシン-An2複合体(20および40mg/kg)の静脈ボラス注射によって週1回で3週間にわたってマウスを処理した。ドキソルビシン-An2複合体は、5mg/mlの酸性化D5W(5%ブドウ糖/水)で希釈した。
【0244】
表4
【表4】
【0245】
表5
【表5】
【0246】
実施例3 イン・サイツ脳潅流試験
米国特許公開第20060189515号(参照によって本明細書に組み込まれる)に記載の手順を、イン・サイツ脳潅流試験に用いた。それらの手順について本明細書でさらに説明する。
【0247】
実施例3a:Etop-An2(3:1)
相当する複合体化していない薬剤と比較した本発明の化合物(例えば、Etop-An2(3:1)、EtopDMG-An2(3:1)およびドキソルビシン-An2(3:1))の脳取り込みを、本明細書および文献(Dagenais et al., J. Cereb. Blood Flow Metab. 20(2):381-386 (2000))に記載のイン・サイツ脳潅流技術を用いて測定した。マウス脳毛細血管の腔側への[125I]-ポリペプチドの取り込みを、マウス脳での薬剤取り込み試験に関して本発明者らの研究室で採用されているイン・サイツ脳潅流方法を用いて測定した。
【0248】
シグマ(Sigma)からのヨードビーズを用いる標準的な手順によって、ポリペプチドをヨウ素化した。すなわち、ポリペプチドを0.1Mホスフェート緩衝液、pH6.5(PB)で希釈した。各タンパク質について二つのヨードビーズを用いた。これらのビーズをワットマン(Whatman)フィルター上でPB 3mLで2回洗浄し、PB 60μLに再懸濁させた。アマシャム-ファルマシア・バイオテク(Amersham-Pharmacia biotech)からの125I(1mCi)を、ビーズ懸濁液に加えて室温で5分間経過させた。ポリペプチド(100μg)を加えることで、各ヨウ素化を開始した。室温で10分間インキュベートした後、遊離のヨウ素をHPLCによって除去した。
【0249】
すなわち、ケタミン/キシラジン(140/8mg/kg、腹腔内)麻酔マウスの右総頸動脈を露出させ、後頭動脈に対して吻側の総頸動脈の分岐の高さで結紮した。ヘパリン(25U/mL)を充填し、26ゲージの針を取り付けたポリエチレンチューブを吻側にて総頸動脈にカテーテル挿管した。潅流液(95%O2および5%CO2の気体充填を行ったpH7.4のKrebs/重炭酸塩緩衝液中の[125I]-ポリペプチドまたは[14C]-イヌリン)の入った注射器を注入ポンプ(ハーバード・ポンプ(Harvard pump)PHD 2000; Harvard Apparatus)に入れ、カテーテルにつないだ。潅流に先だって、心室を切断することで、反対側の血流の寄与を除外した。1.15mL/分の流量で指定の期間にわたって、脳を潅流した。14.5分間の潅流後、クレブス緩衝液で脳を60秒間さらに潅流して、過剰の[125I]-タンパク質を洗った。マウスの頭部を切断して潅流を停止し、右半球を氷上に摘出してから、毛細血管枯渇を行った。ホモジネート、上清、ペレットおよび潅流液の少量サンプルを取って、TCA沈澱によって[125I]-複合体中のそれらの含有量を測定し、見かけの分布容積を評価した。
【0250】
これらの実験の結果を、図2AからDおよび3に示した。図2Aでは、イン・サイツ脳潅流により、複合体化していないエトポシドよりEtop-An2(3:1)の方がVdが高い(すなわち、Etop-An2(3:1)について認められる勾配が、複合体化していないエトポシドについて認められる勾配より大きい)ことがわかる。同様の傾向が、複合体化していないエトポシドDMGと比較したEtopDMG-An2(3:1)(図2B)および複合体化していないドキソルビシンと比較したドキソルビシン-An2(3:1)(図2C)についても認められる。図2Cからわかるように、ドキソルビシン-An2(3:1):複合体化していないドキソルビシンについてのKinの比は15である。この手順は、反管腔側内皮膜を通過して脳実質に進入したものから脳血管区画に残っている化合物間も区別するものである。図3に、Etop-An2(3:1)のイン・サイツ潅流を示してある。このグラフの各群分けにおいて、左の棒線は複合体化していないエトポシドを表し、中央の棒線はEtopDMG-An2(3:1)(バッチ1)を表し、右側の棒線はEtopDMG-An2(3:1)(バッチ2)を表す。脳毛細血管枯渇後のEtop-An2(3:1)の脳再区分を、図4Aおよび4Bに示してある。さらに、エトポシドとは対照的に、Etop-An2(3:1)の脳取り込みは野生型およびP-gpノックアウトマウスで同様であり、それはEtop-An2(3:1)がP-gp基質ではないことを示している(図5)。この図では、各群の左の棒線がCD-1マウスを用いて得られた結果を示し、右の棒線がP-gpノックアウトマウスを用いて得られた結果を示す。Etop-An2(3:1)の脳取り込みは、複合体化していないポリペプチドの同時投与によって阻害することができる。図6は、[125I]-Etop-An2(3:1)の2倍過剰の複合体化していないAngiopep-2との同時潅流によって実質Vdが27%低下することを示している。
【0251】
実施例3b:EtopDMG-An2(3:1)およびドキソルビシン-An2(3:1)
複合体化していないEtopDMGと比較したEtopDMG-An2(3:1)の脳取り込みを、実施例3aについて記載の方法を用いて測定し、その結果を表6および図7に示した。表6には、ドキソルビシン-An2(3:1)およびドキソルビシンについての相当するデータも含めてある。複合体化していないEtopDMGとは対照的に、ドキソルビシン-An2(3:1)の脳取り込みは、野生型およびP-gpノックアウトマウスで同様であり、そのことはドキソルビシン-An2(3:1)がP-gp基質ではないことを示している。
【0252】
表6
【表6】
【0253】
実施例4 3:1エトポシド-Angiopep-2複合体の血漿中動態
図8に、ボラスとして投与した後のEtop-An2(3:1)の血漿中動態を記載してある。体重約25から30gのCD-1マウスにおいて、静脈(i.v.)経路または腹腔内(i.p.)経路で放射性標識(125I)Etop-An2(20mg/kg)を注射した。注射液は、12.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)、12.5%脱水エタノール、25%ポリエチレングリコール400(PEG400)および50%NaCl/グリシン緩衝液から構成されたものであった。数回の時間間隔で(0.5、1、2および6時間)、心臓穿刺によって採血を行い、動物を犠牲にした。血液を遠心した後、血漿の放射能をガンマカウンター(Wizard1470自動ガンマカウンター)で測定した。放射能は、血漿1g当たりの注射用量%として解釈した。結果をGraphPadプリズムソフトウェアを用いてプロットし、各注射モードについての曲線下面積(AUC)を計算した。次に、腹腔内注射後のAUCを静脈注射後のAUCで割ることで、腹腔内Etop-An2複合体の生物学的利用能を推算した。腹腔内投与後の推算生物学的利用能は、46%と計算される。マウスでのIVボラス投与後のEtop-An2(3:1)の薬物動態パラメータを表7に示してある。複合体化していないエトポシドについての文献データは、T1/2α=0.13時間を示している(Reddy et al., Journal of drug targeting, 13(10): 543-553 (2005))。
【0254】
表7
【表7】
【0255】
実施例5 3:1エトポシドDMG-Angiopep-2複合体および3:1エトポシド-Angiopep-2複合体の組織分布
標識ポリペプチドまたは複合体を動物に投与し、ポリペプチドまたは複合体のマウスでの臓器の分布を測定することで(例えば、3Hまたは125I標識複合体を使用)、ベクターへの薬剤のコンジュゲーションが薬剤の分布または薬剤とコンジュゲートしたポリペプチドの薬物動態に与える効果を評価した。同様の実験を、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、AngioPep-3、AngioPep-4a、AngioPep-4b、AngioPep-5、AngioPep-6およびAngioPep-7またはそれらのアナログなどの表1に記載のポリペプチド)を含む化合物を用いて実施することができる。ここで、複合体化していない抗癌剤および複合体を、マウスにボラスとして静脈注射した。組織を異なる時点で採取し(0.25、0.5、1および4時間)、均質化した。3H-標識複合体の量を定量するため、組織ホモジネートを組織溶解剤で消化させ、液体シンチレーター10mLをサンプルに加えた。異なる組織での125I標識複合体の量を、TCA沈澱後に測定する。組織に関連する放射能を定量する。曲線下面積(AUC0-4)をプリズムソフトウェアを用いて推算し、異なる組織についてプロットする。
【0256】
図9に、マウスでのIVボラス投与後のEtopDMG-An2の脳分布を示してある。この図では、各群分けの左の棒線は複合体化していないエトポシドで得られた結果を示し、右の棒線はEtop-An2(3:1)で得られた結果を示す。図10は、マウスでのIVまたはIPボラス投与後のEtop-An2(3:1)の脳分布を示す。図11は、マウスにIVボラス投与してから30分後の複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の脳分布を比較するものである。図12は、複合体化していないエトポシドと比較したEtop-An2(3:1)の組織分布を示すものである。この図において、各群分けの左の棒線は複合体化していないエトポシドで得られた結果を示し、右の棒線はEtop-An2(3:1)で得られた結果を示す。Etop-An2(3:1)を用いることで、調べた組織での濃度が上昇している。
【0257】
実施例6:ヒト脳腫瘍のマウスモデルでのドキソルビシン-An2(3:1)複合体の抗腫瘍効果
これらの試験で用いた動物は全て、動物ケアに関するカナダ委員会ガイドライン(the Guidelines of the Canadian Council on Animal Care;CCAC)に準拠して取り扱い、維持した。動物プロトコールは、モントリオールのケベック大学学内動物ケア・使用委員会(the Institutional Animal CareおよびUse Committee of Universite du Quebec a Montreal)によって承認された。
【0258】
ヌードマウス脳で5×105個のU87細胞を定位接種することで、脳内ヒト脳腫瘍モデルを作った。雌胸腺欠損ヌードマウス(Crl:Nu/Nu-nuBR;20から25g、4から6週齢; Charles River Canada, St-Constant, QC)を腫瘍モデルに用い、病原体のない環境に維持した。手術の1時間前に、マウスにブプレノルフィン(0.1mgkg-1)を皮下注射した。腫瘍細胞接種のため、ケタミン/キシラジン(120/10mgkg-1)の腹腔内投与によってマウスに麻酔を施し、定位装置(Kopf;Tujunga,CA)に置いた。十字縫合の前1.5mmおよび横2.5mmに穿頭孔をあけた。血清を含まない細胞培地5μL中の細胞懸濁液を、深さ3.5mmでハミルトン(Hamilton)注射器を用いて5分間かけて注射した。
【0259】
接種から3日後に薬剤投与を開始した(表8)。治療化合物(例えば、ドキソルビシンまたはドキソルビシン-An2(3:1)複合体)を、ボラス尾静脈注射によって静脈投与した(週1回)。薬剤溶液をブドウ糖5%水(D5W)中で調製した。注射液は、各投与の前に新鮮に調製した。疾患進行の臨床兆候および体重を毎日モニタリングした。マウスが最終エンドポイント(20%の体重低下)に達した時点で、動物を二酸化炭素窒息によって犠牲にした。
【0260】
表8
【表8】
【0261】
図13Aおよび13Bのそれぞれに、単独またはパクリタキセル-Angiopep2複合体との併用で投与した場合の(DoxSu)3-An2複合体の効力を示した。図13Aには、一つの試験で得られた結果を示してあり、図13Bには第2の実験セットで得られた結果を示してある。試験2から得られたデータ(図13B)の統計解析で、認められた27%改善が統計的に有意(p<0.007)であることがわかった。
【0262】
他の実施形態
本願で言及される各刊行物、特許および特許出願の内容は、参照によって組み込まれるものである。本発明について本明細書で詳細に説明し、添付の図面で示したが、理解すべき点として、本発明は本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲または精神から逸脱しない限りにおいて、各種の変更および修正を行うことは可能である。
【0263】
以上、本発明についてそれの具体的な実施形態との関連で説明したが、さらなる改善が可能であり、本願が、本発明の原理に従い、本発明が関係する分野に含まれる公知もしくは従来の実務に包含され、本明細書において前述の必須の特徴に適用可能で、添付の特許請求の範囲に従う本発明の開示からのそのような逸脱を含む本発明の変形形態、使用または適応化を包含するものであることは明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、または該化合物の製薬上許容される塩、または該化合物の官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からポドフィロトキシン誘導体への共有結合を含み、前記ポドフィロトキシン誘導体が下記式(I)による構造を有する化合物または該化合物の立体異性体もしくは製薬上許容される塩。
【化1】
[式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、または置換されていても良いアリールから選択され;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つおよび一つのみがYであり、R7はYである。]
【請求項2】
各式(I)の化合物が独立に、下記のものから選択される請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式中、
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;
各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
各nは独立に、2、3または4であり;
各Yは共有結合的に、アミノ酸に結合している。]
【請求項3】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2、3またはである請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
各R2が-C(O)CH2N(CH3)2である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第2のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第3のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
共有結合的に前記加水分解性リンカーYに結合している各アミノ酸が前記アミノ酸のアミノ-、グアニジノ-、ヒドロキシル-、フェノール-またはチオール官能基を介して結合している請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
共有結合的に前記加水分解性リンカーYに結合している各アミノ酸が、アミノ官能基を介して結合している請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記アミノ酸がリシンまたはトレオニンである請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有する請求項1または2に記載の化合物。
【請求項11】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項1または2に記載の化合物。
【請求項14】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列からなる請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列からなる請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
下記構造を有する請求項12に記載の化合物。
【化3】
[式中、各-(式(I))は指定されたアミノ酸と式(I)の化合物またはそれの製薬上許容される塩との間の適宜の共有結合を表し、前記ポリペプチドのアミノ酸と前記式(I)の化合物との間には少なくとも一つの共有結合がある。]
【請求項17】
前記ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(I)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
各R2が独立に、HまたはP(O)(OH)2である請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
各式(I)の化合物が下記の構造を有する請求項16に記載の化合物。
【化4】
【請求項20】
nが3である請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
各R2がC-連結α-アミノ酸である請求項16に記載の化合物。
【請求項22】
R8が、アミノ置換基を含むC1-6アルキルである請求項16に記載の化合物。
【請求項23】
-C(O)R8がジメチルグリシンである請求項16に記載の化合物。
【請求項24】
各式(I)の化合物が独立に、下記のものから選択される請求項16に記載の化合物。
【化5】
[式中、各R8AおよびR8Bは独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルであり、またはR8AおよびR8Bが一体となって、置換されていても良い3から7員環を形成している。]
【請求項25】
各R8AおよびR8Bが置換されていても良いC1-6アルキルである請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
各式(I)の化合物が下記のものである請求項16に記載の化合物。
【化6】
【請求項27】
前記化合物が、下記の構造を有する請求項1に記載の化合物。
【化7】
[式中、各「エトポシド」は、2″ヒドロキシルでカルボニル基に結合したエトポシド4′-ジメチルグリシンまたはそれの製薬上許容される塩を表す。]
【請求項28】
請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の化合物または該化合物の製薬上許容される塩および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項29】
治療上有効量の請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の化合物または該化合物の製薬上許容される塩を患者に投与する段階を有する癌の治療方法。
【請求項30】
第2の治療薬を投与する段階をさらに有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記投与が別の治療法と同時に行われる請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記治療法が放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱療法である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物または該化合物の製薬上許容される塩が下記の構造を有する請求項29から32のうちのいずれか1項に記載の方法。
【化8】
[式中、各(-式(I))基は指定されたアミノ酸と下記の構造を有する式(I)の化合物との間の共有結合を表し、
【化9】
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;
各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
各nは独立に、2、3または4である。]
【請求項34】
各R2が独立に、HまたはP(O)(OH)2である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
各R2が-C(O)R8であり、R8が置換されていても良いアミノ基を有するC1-6アルキルである請求項33に記載の方法。
【請求項36】
各式(I)の化合物が下記のものから選択される請求項35に記載の方法。
【化10】
【請求項37】
nが3である請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の治療薬がAngiopep-2(配列番号97)の配列を有するポリペプチドであり、前記Angiopep-2が抗癌剤にコンジュゲートしている請求項29から37のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記抗癌剤がパクリタキセルである請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記第2の治療薬が下記のANG1005である請求項38または39に記載の方法。
【化11】
【請求項41】
前記癌が脳の癌である請求項29に記載の方法。
【請求項42】
前記癌が、膠芽細胞腫、神経膠腫、聴神経腫、腺腫、星細胞腫、脈絡叢乳頭腫、CNSリンパ腫、上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫または神経線維腫症である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記癌が膠芽細胞腫である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
二官能性加水分解性連結基を用いて、配列番号1から105および107から116から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体にポドフィロトキシン誘導体を共有結合的に結合させる段階を有する、請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記ポドフィロトキシン誘導体が下記のものから選択される請求項44に記載の方法。
【化12】
[式中、
YはHであり;
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルである。]
【請求項46】
各R2が独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり、R8がアミノ置換基を有するC1-6アルキルである請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記二官能性加水分解性連結基がコハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸または酪酸から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項47に記載の方法。
【請求項49】
(a)前記式(I)の化合物を最初に前記二官能性加水分解性連結基と組み合わせて共有結合付加物を形成し;
(b)次に、(a)の前記付加物を前記アミノ酸配列と組み合わせ;
(a)の付加物を(b)で使用する前に場合により精製しても良い請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記式(I)の化合物に対して1.1から3.0当量の前記二官能性加水分解性連結基を用いる請求項44に記載の方法。
【請求項51】
(a)の前記二官能性加水分解性連結基が無水グルタル酸である請求項44に記載の方法。
【請求項52】
前記式(I)の化合物がエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド-4′-ジメチルグリシンまたはテニポシドまたはこれらの製薬上許容される塩である請求項44に記載の方法。
【請求項53】
ペプチドカップリング剤の使用をさらに含む請求項44または49に記載の方法。
【請求項54】
前記ペプチドカップリング剤がN,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU)である請求項53に記載の方法。
【請求項55】
配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含み、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からドキソルビシン誘導体への共有結合を有し、前記ドキソルビシン誘導体が下記式(II)による構造を有する化合物または該化合物の立体異性体もしくは製薬上許容される塩である化合物または該化合物の製薬上許容される塩。
【化13】
[式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択されるか、加水分解性リンカーYであり;
R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの一つおよび一つのみがYである。]
【請求項56】
前記式(II)の化合物が、下記の構造を有する請求項55に記載の化合物。
【化14】
[式中、
X2R18は、HまたはNH2であり;
X3R19は、HまたはOHであり;
X4R20は、Hまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;
Yは、-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
nは2、3または4である。]
【請求項57】
前記化合物が下記の構造を有する請求項56に記載の化合物。
【化15】
【請求項58】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2、3または4である請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項59】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第2のアミノ酸を介して式(II)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項60】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第3のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項61】
前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸が、前記アミノ酸のアミノ-、グアニジノ-、ヒドロキシル-、フェノール-またはチオール官能基を介して結合している請求項60に記載の化合物。
【請求項62】
前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸がアミノ官能基を介して結合している請求項61に記載の化合物。
【請求項63】
前記アミノ酸がリシンまたはトレオニンである請求項61に記載の化合物。
【請求項64】
前記アミノ酸配列が、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有する請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項65】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する請求項64に記載の化合物。
【請求項66】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する請求項65に記載の化合物。
【請求項67】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項66に記載の化合物。
【請求項68】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列からなる請求項67に記載の化合物。
【請求項69】
アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列からなる請求項68に記載の化合物。
【請求項70】
下記の構造を有する請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【化16】
[式中、各(-(式(II))は指定されたアミノ酸と式(II)の化合物もしくはそれの製薬上許容される塩との間の適宜の共有結合を表し、前記ポリペプチドのアミノ酸と前記式(II)の化合物との間に少なくとも一つの共有結合がある。]
【請求項71】
前記ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ式(II)による構造を有する化合物に対する共有結合を有する請求項70に記載の化合物。
【請求項72】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2である請求項70に記載の化合物。
【請求項73】
前記化合物が、下記の構造を有する請求項55に記載の化合物。
【化17】
[式中、各ドキソルビシンまたはそれの製薬上許容される塩は、C14ヒドロキシル基でコハク酸基によって結合している。]
【請求項74】
前記化合物が1、2または3個の共有結合的に結合したドキソルビシン部分の塩酸塩を含む請求項73に記載の化合物。
【請求項75】
前記化合物が化合物(2)の三塩酸塩である請求項73または74に記載の化合物。
【請求項76】
請求項55から75のうちのいずれか1項に記載の化合物および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項77】
治療上有効量の請求項55から75のうちのいずれか1項に記載の化合物を患者に投与する段階を有する、癌の治療方法。
【請求項78】
第2の治療薬の投与を行う段階をさらに有する請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記投与を、別の治療法と同時に行う請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記治療法が放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱治療である請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記化合物が下記の構造を有する請求項77から80のうちのいずれか1項に記載の方法。
【化18】
[各(-式(II))基は指定されたアミノ酸と下記の構造を有する式(II)の化合物またはそれの製薬上許容される塩の間の共有結合を表し、
【化19】
X2R18はHまたはNH2であり;
X3R19はHまたはOHであり;
X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;
Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
nは2、3または4である。]
【請求項82】
前記化合物が下記の構造を有するかそれの製薬上許容される塩である請求項81に記載の方法。
【化20】
【請求項83】
前記第2の治療薬がAngiopep-2(配列番号97)の配列を有するポリペプチドであり、前記Angiopep-2が抗癌剤にコンジュゲートしている請求項77から82のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項84】
前記抗癌剤がパクリタキセルである請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記第2の治療薬が、下記の構造を有するANG1005である請求項83または84に記載の方法。
【化21】
【請求項86】
前記癌が、急性リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、副腎皮質癌、静脈性および膀胱内膀胱癌、骨肉腫、乳癌、カルチノイド症候群(小腸)、子宮体癌、ユーイング肉腫、婦人科肉腫、頭部癌および頸部癌(扁平細胞)、肝臓癌、ホジキン病、島細胞癌、白血病、肺癌、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、骨原性肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、膀胱移行上皮癌、軟組織肉腫またはウィルムス腫瘍である請求項77に記載の方法。
【請求項87】
前記方法が治療量以下の用量の前記ポドフィロトキシン誘導体またはそれの製薬上許容される塩を投与する段階を有する請求項29に記載の方法、または前記方法が治療量以下の用量の前記ドキソルビシン誘導体またはそれの製薬上許容される塩を投与する段階を有する請求項77に記載の方法。
【請求項88】
前記方法が治療量以下の用量のエトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンを投与する段階を有する請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記方法が治療量以下の用量のドキソルビシンを投与する段階を有する請求項87に記載の方法。
【請求項90】
前記方法が治療量以上の用量の前記ポドフィロトキシン誘導体を投与する段階を有する請求項29に記載の方法、または前記方法が治療量以上の用量の前記ドキソルビシン誘導体を投与する段階を有する請求項77に記載の方法。
【請求項91】
前記方法が治療量以上の用量のエトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンの投与を行う段階を有する請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記方法が治療量以上の用量のドキソルビシンの投与を行う段階を有する請求項90に記載の方法。
【請求項1】
配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む化合物、または該化合物の製薬上許容される塩、または該化合物の官能基誘導体であって、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からポドフィロトキシン誘導体への共有結合を含み、前記ポドフィロトキシン誘導体が下記式(I)による構造を有する化合物または該化合物の立体異性体もしくは製薬上許容される塩。
【化1】
[式中、
各R1、R2およびR3は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、P(O)(OR9)(OR10)、S(O)2(OR9)またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
XはOまたはNR7であり;
各R4、R5およびR7は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、C(O)R8、またはポリペプチドのアミノ酸に対する共有結合を含む加水分解性リンカーYから選択され;
R6は、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いアリール、置換されていても良いヘテロアリールであり、
R8は置換されていても良いC1-6アルキルまたは置換されていても良いアリールから選択され;
各R9およびR10は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、または置換されていても良いアリールから選択され;
R1、R2、R3、R4、R5およびR7のうちの一つおよび一つのみがYであり、R7はYである。]
【請求項2】
各式(I)の化合物が独立に、下記のものから選択される請求項1に記載の化合物。
【化2】
[式中、
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;
各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
各nは独立に、2、3または4であり;
各Yは共有結合的に、アミノ酸に結合している。]
【請求項3】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2、3またはである請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
各R2が-C(O)CH2N(CH3)2である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第2のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第3のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
共有結合的に前記加水分解性リンカーYに結合している各アミノ酸が前記アミノ酸のアミノ-、グアニジノ-、ヒドロキシル-、フェノール-またはチオール官能基を介して結合している請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
共有結合的に前記加水分解性リンカーYに結合している各アミノ酸が、アミノ官能基を介して結合している請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記アミノ酸がリシンまたはトレオニンである請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有する請求項1または2に記載の化合物。
【請求項11】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項1または2に記載の化合物。
【請求項14】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列からなる請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列からなる請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
下記構造を有する請求項12に記載の化合物。
【化3】
[式中、各-(式(I))は指定されたアミノ酸と式(I)の化合物またはそれの製薬上許容される塩との間の適宜の共有結合を表し、前記ポリペプチドのアミノ酸と前記式(I)の化合物との間には少なくとも一つの共有結合がある。]
【請求項17】
前記ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ、式(I)による構造を有する化合物に対する共有結合を含む請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
各R2が独立に、HまたはP(O)(OH)2である請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
各式(I)の化合物が下記の構造を有する請求項16に記載の化合物。
【化4】
【請求項20】
nが3である請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
各R2がC-連結α-アミノ酸である請求項16に記載の化合物。
【請求項22】
R8が、アミノ置換基を含むC1-6アルキルである請求項16に記載の化合物。
【請求項23】
-C(O)R8がジメチルグリシンである請求項16に記載の化合物。
【請求項24】
各式(I)の化合物が独立に、下記のものから選択される請求項16に記載の化合物。
【化5】
[式中、各R8AおよびR8Bは独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキルであり、またはR8AおよびR8Bが一体となって、置換されていても良い3から7員環を形成している。]
【請求項25】
各R8AおよびR8Bが置換されていても良いC1-6アルキルである請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
各式(I)の化合物が下記のものである請求項16に記載の化合物。
【化6】
【請求項27】
前記化合物が、下記の構造を有する請求項1に記載の化合物。
【化7】
[式中、各「エトポシド」は、2″ヒドロキシルでカルボニル基に結合したエトポシド4′-ジメチルグリシンまたはそれの製薬上許容される塩を表す。]
【請求項28】
請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の化合物または該化合物の製薬上許容される塩および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項29】
治療上有効量の請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の化合物または該化合物の製薬上許容される塩を患者に投与する段階を有する癌の治療方法。
【請求項30】
第2の治療薬を投与する段階をさらに有する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記投与が別の治療法と同時に行われる請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記治療法が放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱療法である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記化合物または該化合物の製薬上許容される塩が下記の構造を有する請求項29から32のうちのいずれか1項に記載の方法。
【化8】
[式中、各(-式(I))基は指定されたアミノ酸と下記の構造を有する式(I)の化合物との間の共有結合を表し、
【化9】
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルであり;
各Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
各nは独立に、2、3または4である。]
【請求項34】
各R2が独立に、HまたはP(O)(OH)2である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
各R2が-C(O)R8であり、R8が置換されていても良いアミノ基を有するC1-6アルキルである請求項33に記載の方法。
【請求項36】
各式(I)の化合物が下記のものから選択される請求項35に記載の方法。
【化10】
【請求項37】
nが3である請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の治療薬がAngiopep-2(配列番号97)の配列を有するポリペプチドであり、前記Angiopep-2が抗癌剤にコンジュゲートしている請求項29から37のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記抗癌剤がパクリタキセルである請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記第2の治療薬が下記のANG1005である請求項38または39に記載の方法。
【化11】
【請求項41】
前記癌が脳の癌である請求項29に記載の方法。
【請求項42】
前記癌が、膠芽細胞腫、神経膠腫、聴神経腫、腺腫、星細胞腫、脈絡叢乳頭腫、CNSリンパ腫、上衣細胞腫、神経節細胞腫、神経節膠腫、髄芽腫(mdl)、異型性(悪性)髄膜腫または神経線維腫症である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記癌が膠芽細胞腫である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
二官能性加水分解性連結基を用いて、配列番号1から105および107から116から選択されるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体にポドフィロトキシン誘導体を共有結合的に結合させる段階を有する、請求項1から27のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記ポドフィロトキシン誘導体が下記のものから選択される請求項44に記載の方法。
【化12】
[式中、
YはHであり;
各R2は独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり;
各R6は独立に、CH3または2-チオフェンであり;
各R8は独立に、置換されていても良いC1-6アルキルである。]
【請求項46】
各R2が独立に、H、P(O)(OH)2または-C(O)R8であり、R8がアミノ置換基を有するC1-6アルキルである請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記二官能性加水分解性連結基がコハク酸、グルタル酸、無水グルタル酸または酪酸から選択される請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項47に記載の方法。
【請求項49】
(a)前記式(I)の化合物を最初に前記二官能性加水分解性連結基と組み合わせて共有結合付加物を形成し;
(b)次に、(a)の前記付加物を前記アミノ酸配列と組み合わせ;
(a)の付加物を(b)で使用する前に場合により精製しても良い請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記式(I)の化合物に対して1.1から3.0当量の前記二官能性加水分解性連結基を用いる請求項44に記載の方法。
【請求項51】
(a)の前記二官能性加水分解性連結基が無水グルタル酸である請求項44に記載の方法。
【請求項52】
前記式(I)の化合物がエトポシド、エトポシドホスフェート、エトポシド-4′-ジメチルグリシンまたはテニポシドまたはこれらの製薬上許容される塩である請求項44に記載の方法。
【請求項53】
ペプチドカップリング剤の使用をさらに含む請求項44または49に記載の方法。
【請求項54】
前記ペプチドカップリング剤がN,N,N′,N′-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU)である請求項53に記載の方法。
【請求項55】
配列番号1から105および107から116からなる群から選択されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列またはそれの官能基誘導体を含み、前記アミノ酸配列が前記アミノ酸配列のアミノ酸からドキソルビシン誘導体への共有結合を有し、前記ドキソルビシン誘導体が下記式(II)による構造を有する化合物または該化合物の立体異性体もしくは製薬上許容される塩である化合物または該化合物の製薬上許容される塩。
【化13】
[式中、
各X1、X2、X3、X4およびX5は独立に、共有結合、OまたはNR25から選択され;
各R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は独立に、H、置換されていても良いC1-6アルキル、置換されていても良いC2-6アルケニル、置換されていても良いC2-6アルキニル、置換されていても良いシクロアルキル、置換されていても良い複素環から選択されるか、加水分解性リンカーYであり;
R17、R18、R19、R20、R20、R21、R22、R23、R24およびR25のうちの一つおよび一つのみがYである。]
【請求項56】
前記式(II)の化合物が、下記の構造を有する請求項55に記載の化合物。
【化14】
[式中、
X2R18は、HまたはNH2であり;
X3R19は、HまたはOHであり;
X4R20は、Hまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;
Yは、-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
nは2、3または4である。]
【請求項57】
前記化合物が下記の構造を有する請求項56に記載の化合物。
【化15】
【請求項58】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2、3または4である請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項59】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第2のアミノ酸を介して式(II)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項60】
前記アミノ酸配列が、前記アミノ酸配列の第3のアミノ酸を介して式(I)による構造を有する化合物に共有結合的に結合している請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項61】
前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸が、前記アミノ酸のアミノ-、グアニジノ-、ヒドロキシル-、フェノール-またはチオール官能基を介して結合している請求項60に記載の化合物。
【請求項62】
前記加水分解性リンカーYに共有結合的に結合している各アミノ酸がアミノ官能基を介して結合している請求項61に記載の化合物。
【請求項63】
前記アミノ酸がリシンまたはトレオニンである請求項61に記載の化合物。
【請求項64】
前記アミノ酸配列が、Angiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6およびAngiopep-7(配列番号109から112)からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有する請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項65】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する請求項64に記載の化合物。
【請求項66】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する請求項65に記載の化合物。
【請求項67】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列を含む請求項66に記載の化合物。
【請求項68】
前記アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)、Angiopep-4b、Angiopep-5、Angiopep-6またはAngiopep-7(配列番号109から112)のアミノ酸配列からなる請求項67に記載の化合物。
【請求項69】
アミノ酸配列がAngiopep-2(配列番号97)のアミノ酸配列からなる請求項68に記載の化合物。
【請求項70】
下記の構造を有する請求項55から57のうちのいずれか1項に記載の化合物。
【化16】
[式中、各(-(式(II))は指定されたアミノ酸と式(II)の化合物もしくはそれの製薬上許容される塩との間の適宜の共有結合を表し、前記ポリペプチドのアミノ酸と前記式(II)の化合物との間に少なくとも一つの共有結合がある。]
【請求項71】
前記ポリペプチドの1位のトレオニンおよび10位および15位のリシンがそれぞれ式(II)による構造を有する化合物に対する共有結合を有する請求項70に記載の化合物。
【請求項72】
Yが-C(O)(CH2)nC(O)-であり、nが2である請求項70に記載の化合物。
【請求項73】
前記化合物が、下記の構造を有する請求項55に記載の化合物。
【化17】
[式中、各ドキソルビシンまたはそれの製薬上許容される塩は、C14ヒドロキシル基でコハク酸基によって結合している。]
【請求項74】
前記化合物が1、2または3個の共有結合的に結合したドキソルビシン部分の塩酸塩を含む請求項73に記載の化合物。
【請求項75】
前記化合物が化合物(2)の三塩酸塩である請求項73または74に記載の化合物。
【請求項76】
請求項55から75のうちのいずれか1項に記載の化合物および製薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項77】
治療上有効量の請求項55から75のうちのいずれか1項に記載の化合物を患者に投与する段階を有する、癌の治療方法。
【請求項78】
第2の治療薬の投与を行う段階をさらに有する請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記投与を、別の治療法と同時に行う請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記治療法が放射線療法、化学療法、幹細胞移植、骨髄移植、手術または温熱治療である請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記化合物が下記の構造を有する請求項77から80のうちのいずれか1項に記載の方法。
【化18】
[各(-式(II))基は指定されたアミノ酸と下記の構造を有する式(II)の化合物またはそれの製薬上許容される塩の間の共有結合を表し、
【化19】
X2R18はHまたはNH2であり;
X3R19はHまたはOHであり;
X4R20はHまたは置換されていても良いC1-3アルキルであり;
Yは-C(O)(CH2)nC(O)-であり;
nは2、3または4である。]
【請求項82】
前記化合物が下記の構造を有するかそれの製薬上許容される塩である請求項81に記載の方法。
【化20】
【請求項83】
前記第2の治療薬がAngiopep-2(配列番号97)の配列を有するポリペプチドであり、前記Angiopep-2が抗癌剤にコンジュゲートしている請求項77から82のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項84】
前記抗癌剤がパクリタキセルである請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記第2の治療薬が、下記の構造を有するANG1005である請求項83または84に記載の方法。
【化21】
【請求項86】
前記癌が、急性リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、副腎皮質癌、静脈性および膀胱内膀胱癌、骨肉腫、乳癌、カルチノイド症候群(小腸)、子宮体癌、ユーイング肉腫、婦人科肉腫、頭部癌および頸部癌(扁平細胞)、肝臓癌、ホジキン病、島細胞癌、白血病、肺癌、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓癌、前立腺癌、骨原性肉腫、卵巣癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、膀胱移行上皮癌、軟組織肉腫またはウィルムス腫瘍である請求項77に記載の方法。
【請求項87】
前記方法が治療量以下の用量の前記ポドフィロトキシン誘導体またはそれの製薬上許容される塩を投与する段階を有する請求項29に記載の方法、または前記方法が治療量以下の用量の前記ドキソルビシン誘導体またはそれの製薬上許容される塩を投与する段階を有する請求項77に記載の方法。
【請求項88】
前記方法が治療量以下の用量のエトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンを投与する段階を有する請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記方法が治療量以下の用量のドキソルビシンを投与する段階を有する請求項87に記載の方法。
【請求項90】
前記方法が治療量以上の用量の前記ポドフィロトキシン誘導体を投与する段階を有する請求項29に記載の方法、または前記方法が治療量以上の用量の前記ドキソルビシン誘導体を投与する段階を有する請求項77に記載の方法。
【請求項91】
前記方法が治療量以上の用量のエトポシドまたはエトポシド4′-ジメチルグリシンの投与を行う段階を有する請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記方法が治療量以上の用量のドキソルビシンの投与を行う段階を有する請求項90に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【公表番号】特表2012−505838(P2012−505838A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531314(P2011−531314)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001481
【国際公開番号】WO2010/043049
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(511093410)アンジオケム インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001481
【国際公開番号】WO2010/043049
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(511093410)アンジオケム インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】
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