説明

薬物送達のためのジケトピペラジン塩、ジケトモルホリン塩、又はジケトジオキサン塩

ジケトピペラジンカルボン酸塩を含む生物活性剤の送達組成物が提供される。この生物活性剤送達組成物を作製して使用するための関連した方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下で、米国仮特許出願番号60/603,761(2004年8月23日出願)に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、低分子と高分子の両方の薬物に関連した薬物送達の分野にある。より具体的には、本発明は、2,5−ジケトピペラジン塩、治療薬剤、予防薬剤、診断薬剤が含まれるそのような薬物と安定化剤の製剤におけるそれらの使用、並びにそれらの送達用の系に関する。
【0003】
背景技術
薬物送達(ドラッグデリバリー)は、製剤技術の分野における永続的な課題であり、薬物が不安定である、及び/又はそれが投与される体内の部位でほとんど吸収されない場合に特にそうである。1つのそのような薬物のクラスに2,5−ジケトピペラジンが含まれ、これは、以下に示す一般式1(ここで、E=N)の化合物によって表される。
【0004】
【化1】

【0005】
これらの2,5−ジケトピペラジン、特に、酸性のR基を担うものは、薬物送達に有用であることが示されてきた(例えば、「自己構築するジケトピペラジン薬物送達系」と題された米国特許第5,352,461号;「自己構築するジケトピペラジン薬物送達系を作製するための方法」と題した5,503,852号;「ジケトピペラジンを含んでなる肺送達用の微粒子」と題した6,071,497号;及び「炭素置換ジケトピペラジン送達系」と題した6,331,318号を参照のこと。これらのいずれも、ジケトピペラジンとジケトピペラジン仲介性の薬物送達に関してそれが教示するすべてについてそのまま参照により本明細書に組み込まれる)。ジケトピペラジンは、薬物を取り込む粒子又は薬物をその上へ吸着させることができる粒子へ形成することができる。薬物とジケトピペラジンの組合せは、改善された薬物安定性を付与することができる。これらの粒子は、様々な投与経路により投与してよい。乾燥粉剤(a dry powder)として、これらの粒子は、粒径に依存して、呼吸系の特定領域へ吸入により送達することができる。さらに、この粒子は、静脈内の懸濁剤形への取込みのために十分に小さくすることができる。懸濁剤、錠剤、又はカプセル剤へ取り込むか、又は適切な溶媒に溶かした粒子では、経口送達も可能である。ジケトピペラジンは、会合した薬物の吸収を促進することもできる。それでも、ジケトピペラジンが二酸であるか又は二酸型であるときは、これら二酸の非塩基性pH(即ち、中性又は酸性のpH)での限られた溶解性により、種々の難題が生じる場合がある。別の難題が生じるのは、これら二酸ジケトピペラジンがある薬物と不利な会合を形成する
場合があるからである。
【0006】
故に、中性及び/又は酸性のpHでより高い溶解度を有するジケトピペラジン組成物と、治療組成物の製造におけるそれらの使用の方法へのニーズがある。
発明の要約
本発明は、複素環式化合物のカルボン酸塩を1以上の薬物と組み合わせて含んでなる改善された薬物送達系を提供する。本発明の1つの態様において、複素環式化合物は、送達される単数又は複数の薬物を取り込む微粒子を形成する。これらの微粒子には、複素環式化合物単独か又は1以上の薬物との組合せのいずれかより構成される外殻を有するマイクロカプセル剤が含まれる。本発明の複素環式化合物には、限定なしに、ジケトピペラジン、ジケトモルホリン、及びジケトジオキサンとそれらの置換類似体が含まれる。本発明の複素環式組成物は、対向するヘテロ原子と非結合性の電子対がある固定した六角形の環を含む。
【0007】
特に好ましい態様には、限定なしに、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(シトラコニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、及び3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(以下、フマリルジケトピペラジン又はFDPK)のような3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体が含まれる。さらに、上記の非対称的な誘導体も考慮することができる。しかしながら、本明細書において特に留意されるのは、2,5−ジアスパルチル−3,6−ジケトピペラジン及び2,5−ジグルタミル−3,6−ジケトピペラジン(以下にさらに定義する)のリチウム塩が本発明の範囲内では考慮されず、これによりそれ自体は、特に特許請求されないことである。
【0008】
本発明の薬物送達系で有用な代表的な薬物には、限定なしに、インスリンと他のホルモン、ペプチド、タンパク質、ヘパリンのような多糖、核酸(プラスミド、オリゴヌクレオチド、アンチセンス、又はsiRNAのような)、脂質及びリポ多糖、抗凝固薬、細胞毒性剤、抗原及び抗体と、抗生物質、抗炎症薬、抗ウイルス薬、血管及び神経作用剤の多くのように、生物活性を有する有機分子が含まれる。
【0009】
本発明の1つの態様では、複素環式化合物の医薬的に許容される塩が式1:
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み、EとEは、N又はOを含む]により提供されて、該塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。別の態様において、該複素環式化合物は、ジケトピペラジンを含む。なお別の態様に
おいて、カルボキシレート基は、末端に位置する。医薬的に許容される塩の別の態様において、RとRは4−X−アミノブチルを含み、Xは、スクシニル、グルタリル、マレイル、及びフマリルからなる群より選択される。なお別の態様において、カチオンは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群より選択される。
【0012】
本発明の別の態様において、医薬的に許容される塩は、2,5−ジアスパルチル−3,6−ジケトピペラジンのリチウム塩、又は2,5−ジグルタミル−3,6−ジケトピペラジンのリチウム塩、ではない。
【0013】
本発明の態様では、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;EとEは、N又はOを含む]による複素環式化合物の医薬的に許容される塩を含んでなる治療組成物が提供され;該塩は少なくとも1つのカチオンをさらに含み;そして該組成物は、生物活性剤(a biologically active agent)をさらに含む。本発明の組成物における包含に適した生物活性剤には、ホルモン、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイルス薬、アンチセンス、抗原、抗体、並びにこれらの活性な断片及び類似体が含まれる。1つの態様において、生物活性剤は、インスリンである。
【0014】
別の態様において、本発明の治療組成物は、溶液剤又は懸濁液剤のような液剤において製剤化される。
なお別の態様において、本発明の治療組成物は沈殿であり、その沈殿は、経口、口腔、直腸、又は膣の投与に適した固体剤形へ製剤化される。固体剤形は、カプセル剤、錠剤、及び坐剤であってよい。
【0015】
1つの態様において、本発明の治療組成物は乾燥粉剤であり、前記乾燥粉剤の粒子は、約0.5ミクロンと10ミクロンの間の直径を有する。この態様の1つの側面において、乾燥粉剤は、肺投与に適している。
【0016】
本発明の別の態様では、薬物送達用の固体組成物を調製する方法が提供され、該方法は:生物活性剤と複素環式化合物の医薬的に許容される塩を溶媒中に含有する溶液剤を調製する工程と、蒸留、蒸発、及び凍結乾燥からなる群より選択される方法によって前記溶媒を除去する工程を含んでなる。1つの態様において、複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み、EとEは、N又はOを含む]による構造を有し、該塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。
【0017】
本発明のなお別の態様において、薬物送達用の固体組成物を調製する方法は、固形物を微小化して、乾燥粉剤を形成する工程をさらに含む。
本発明の態様では、薬物送達用の乾燥粉剤を調製する方法が提供され、該方法は:複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の溶液をスプレー乾燥させて乾燥粉剤を形成する工程を含んでなり、ここで乾燥粉剤は、生物活性剤を放出する。1つの態様において、複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み、EとEは、N又はOを含む]による構造を有し、そして該塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。別の態様において、乾燥粉剤の粒子は、肺送達に適している。なお別の態様において、乾燥粉剤の粒子は、2未満の皺度(rugosity)を有する。
【0018】
本発明の態様では、生物活性剤を送達するための組成物が提供され、ここで該組成物は、乾燥粉剤が前記生物活性剤を放出するような乾燥粉剤を形成するようにスプレー乾燥させた、複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤を含む。1つの態様において
、複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み、EとEは、N又はOを含む]による構造を有し、そして該塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。別の態様において、乾燥粉剤の粒子は、肺送達に適している。なお別の態様において、乾燥粉剤の粒子は、2未満の皺度を有する。
【0019】
本発明の別の態様では、複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の組成物を含んでなる薬物送達用の微粒子系が提供され、ここで該組成物は、生物活性剤を放出する。1つの態様において、複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;EとEは、N又はOを含む]による構造を有し、そして該塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。生物活性剤には、ホルモン、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイルス薬、アンチセンス、抗原、抗体、及びこれらの活性な断片及び類似体を含めてよい。
【0020】
本発明のなお別の態様において、微粒子系の組成物は、生物活性剤を肺系において放出する乾燥粉剤である。さらに、該組成物は、肺系へ送達することができる。微粒子系の組成物は、全身の血液循環へ吸収されても、肺系への送達後に肺で局所的に作用してもよい。
【0021】
本発明の態様において、微粒子系の組成物は、薬物送達用の液剤を含み、ここで生物活性剤の吸収は、ジケトピペラジンによって促進される。1つの態様において、液剤は、経口投与される。
【0022】
本発明の別の態様において、微粒子系の組成物は沈殿を含み、ここで生物活性剤の吸収は、ジケトピペラジンによって促進される。1つの態様において、沈殿は、経口投与される。
【0023】
本発明の態様では、粒子の肺系への送達のための方法が提供され、該方法は:治療の必要な患者へ乾燥粉剤の形態の生物活性剤の有効量を吸入により投与する工程を含んでなり、乾燥粉剤は、複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の組成物を含んでなる溶液剤をスプレー乾燥させることによって調製され、ここで乾燥粉剤は、前記生物活性剤を肺系において放出する。1つの態様において、複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み、EとEは、N又はOを含む]による構造を有し、そして前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む。
【0024】
用語の定義
本発明を説明することに先立って、下記に使用するいくつかの用語の意味を提供することは有用であろう。
【0025】
酸性:本明細書に使用する「酸性」は、0〜6まで(但し、6は含めない)のpH範囲を意味する。
塩基性:本明細書に使用する「塩基性」は、8〜14まで(14を含める)のpH範囲を意味する。
【0026】
生物薬剤(biological agent):以下の「薬物」を参照のこと。
荷重(cargo):以下の「薬物」を参照のこと。
ジケトピペラジン:本明細書に使用する「ジケトピペラジン」又は「DKP」には、式1の範囲に該当するジケトピペラジンとその誘導体及び修飾体が含まれる。
【0027】
薬物:本明細書に使用する「薬物」、「荷重」又は「生物薬剤」は、本明細書において考察する微粒子とともに取り込まれる薬理学的に有効な薬剤を意味する。例には、インスリンと他のホルモンのようなタンパク質及びペプチド(ここで、タンパク質は、100以上のアミノ酸残基からなると定義され、ペプチドは、100未満のアミノ酸残基である);ヘパリンのような多糖;プラスミド、オリゴヌクレオチド、アンチセンス、又はsiRNAのような核酸;脂質及びリポ多糖;並びに、抗生物質、抗炎症薬、抗ウイルス薬、血管及び神経作用剤の多くのように、生物活性を有する有機分子が含まれる。具体的な例には、ホルモン、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイルス薬、アンチセンス、抗原、及び抗体が含まれる。
【0028】
乾燥粉剤:本明細書に使用する「乾燥粉剤」は、推進剤(propellant)、担体、又は他の液体に懸濁も溶解もしていない微細粒子の組成物を意味する。それは、すべての水分子の完全な非存在を含意するわけではない。
【0029】
微粒子:本明細書に使用する用語「微粒子」には、ジケトピペラジン単独か又はジケトピペラジンと1以上の薬物の組合せのいずれかより構成される外殻を有するマイクロカプセル剤が含まれる。それには、球体全体に分散した薬物を含有するマイクロスフィア剤;不規則な形状の粒子;及び、薬物が粒子の表面に被覆されるか又はその中の空隙を満たす粒子も含まれる。
【0030】
中性:本明細書に使用する「中性」は、6〜8まで(但し、8は含めない)のpH範囲を意味する。
弱アルカリ性:本明細書に使用する「弱アルカリ性」は、8〜10まで(但し、10は含めない)のpH範囲を意味する。
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、複素環式化合物のカルボン酸塩を1以上の薬物と組み合わせて含んでなる改善された薬物送達系を提供する。本発明の1つの態様において、該複素環式化合物は、送達すべき単数又は複数の薬物を取り込む微粒子を形成する。これらの微粒子には、複素環式化合物単独か又は1以上の薬物との組合せのいずれかより構成される外殻を有するマイクロカプセル剤が含まれる。本発明の複素環式化合物には、限定なしに、ジケトピペラジン、ジケトモルホリン、及びジケトジオキサンとそれらの置換類似体が含まれる。本発明の複素環式組成物は、対向するヘテロ原子と非結合性の電子対がある固定した六角形の環を含む。
【0032】
本発明の1つの側面には、複素環式化合物のカルボン酸塩を1以上の薬物と組み合わせて含んでなる薬物送達系が含まれる。本発明の1つの態様において、該複素環式化合物は、送達すべき単数又は複数の薬物を取り込む微粒子を形成する。これらの微粒子には、複素環式化合物単独か又は1以上の薬物との組合せのいずれかより構成される外殻を有するマイクロカプセル剤が含まれる。この外殻は、芯材料を取り囲んでよい。この外殻はまた、球体全体に分散した、及び/又は球体の表面上へ吸着した1以上の薬物を含有する、中実の又は空洞のいずれかであるか又はその組合せであるマイクロスフィア剤を取り囲んでも、それを構成してもよい。外殻はまた、単独で、又は上記のマイクロスフェアと組み合わせて、不規則な形状を有する微粒子を取り囲んでもよい。
【0033】
肺送達に好ましい態様において、微粒子は、約0.1ミクロン〜約10ミクロンの直径である。薬物送達系の内部で、これらの微粒子は、良好な荷重耐性だけでなく、望ましいサイズ分布を示す。
【0034】
本発明の複素環式化合物には、限定なしに、ジケトピペラジン、ジケトモルホリン、及
びジケトジオキサンとそれらの置換類似体が含まれる。これらの複素環式組成物は、対向するヘテロ原子と非結合性の電子対がある固定した六角形の環を含む。ジケトピペラジンとその類似体の一般式を式1の化合物において以下に示す。
【0035】
【化3】

【0036】
式1の化合物において、1及び4位の環原子:E及びEは、O又はNのいずれかである。3及び6位にそれぞれ位置する側鎖:R及びRの少なくとも1つは、カルボキシレート基(即ち、OR)を含有する。本発明の1つの態様において、これらのカルボキシレート基は、随伴基(pendent group)として側鎖(R及び/又はR)に沿って位置し、別の態様において、該カルボキシレートは、鎖内に位置して(エステル)、なお別の態様において、カルボキシレート基は、末端にある。
【0037】
ジケトピペラジンの合成の一般的な方法が当該技術分野で知られていて、すでに引用されて、上記に参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,352,461号、5,503,852号、及び6,331,318号に記載されている。本発明の好ましい態様において、ジケトピペラジンは、アミノ酸、リシンの縮合により形成され得る、3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体である。例示の誘導体には、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−(スクシニルジケトピペラジン又はSDKP)、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(シトラコニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−、及び3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(以下、フマリルジケトピペラジン又はFDPK)が含まれる。さらに、上記化合物の非対称的な誘導体も考慮される。しかしながら、本明細書において特に留意されるのは、2,5−ジアスパルチル−3,6−ジケトピペラジン及び2,5−ジグルタミル−3,6−ジケトピペラジンのリチウム塩が本発明の範囲内では考慮されず、これによりそれ自体は、特に特許請求されないことである。これらの特許請求されない化合物の遊離酸を以下の式2及び式3にそれぞれ示す。
【0038】
【化4】

【0039】
便宜上、式2の化合物を以下2,5−ジアスパルチル−3,6−ジケトピペラジンと呼ぶ。式3の化合物を、以下2,5−ジグルタミル−3,6−ジケトピペラジンと呼ぶ。式1に基づいた他のすべての複素環式化合物が本発明の範囲内で考察されると理解される。
【0040】
例示の目的のために、ジケトピペラジンとそれらの誘導体について詳しく記載する。これらの化合物は、本発明の好ましい態様である。しかしながら、このことは、式1の化合物に基づいた他の複素環式化合物を排除するものではない。
【0041】
ホスホジエステラーゼ5型阻害剤の送達へのDKP塩の使用は、2005年8月23日に出願されて、「ホスホジエステラーゼ5型の阻害剤の肺送達」と題する、同時出願中の米国特許出願番号XX/XXX,XXXに記載され、参照によりそのまま本明細書に組み込まれる米国仮特許出願番号60/603,764により知られている。DKP微粒子を使用する肺への薬物送達は、参照によりそのまま本明細書に組み込まれる「肺系への薬物送達の方法」と題した米国特許第6,428,771号に開示されている。
【0042】
ジケトピペラジンは、生物活性剤が生体組織を通過する細胞間輸送を促進するが、それらは、浸透エンハンサーではない。浸透エンハンサーは、細胞膜を破壊することによって生体組織を通過する薬物の動きを向上させる化合物である。浸透エンハンサーの例は、界面活性剤と石鹸である。ジケトピペラジンは、細胞膜をin vitroでもin vivoでも破壊しない。in vitroの試験では、FDPKが細胞膜も密着結合も破壊せず、細胞の生存能力を低下させないと実証されている。ジケトピペラジン/インスリン粉剤組成物は、肺表面の生理学的pHで可溶性であり、吸入後速やかに溶解する。ひとたび溶解すると、DKPは、インスリンの細胞間受動輸送を促進する。
【0043】
出願人は、中性及び/又は酸性のpHでより高い溶解度を有する、改善されたジケトピペラジン組成物を発見した。出願人はまた、改善されたジケトピペラジンと注目の薬物との間で治療複合体が形成され得ることを発見した。
【0044】
本発明の塩は、以下の実施例1及び2に記載するように、ジケトピペラジン遊離酸を適切な塩基の溶液と反応させることによって調製することができる。好ましい態様において、該塩は、例えば、ジケトピペラジンのナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アンモニウム、又はモノ、ジ又はトリアルキルアンモニウム(トリエチルアミン、ブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、又はピリジン、等より誘導されるような)塩のような医薬的に許容される塩である。その塩は、モノ−塩、ジ−塩または混合塩であってよい。R基が1より多い酸基を含有するジケトピペラジンでは、より高い次数の塩も考慮される。本発明の他の側面では、薬剤の塩基型を、その薬物がDKPの対カチオンとなるようにDKPと混合して、DKPの薬物塩を形成してよい。
【0045】
薬物送達では、ジケトピペラジンを使用して、治療、予防、又は診断の活性を有する生物活性剤又は薬物を送達することができる。本質的には、生物活性剤は、本発明のジケトピペラジン粒子と会合する。本明細書に使用する「会合する」は、他の方法の中でも、ジケトピペラジンの生物活性剤との共沈殿、スプレー乾燥、又は結合(複合化)により生物活性剤−ジケトピペラジンの組成物が形成されることを意味する。生じるジケトピペラジン粒子には、生物活性剤を捕捉、被包化した、及び/又はそれで被覆されたものが含まれる。会合の正確な機序は決定的には確認されていないが、この会合は、水素結合、ファンデルワールス力、及び吸着が含まれる静電気的な誘引力に加えて、物理的な捕捉(分子のもつれ)の機能であると考えられている。
【0046】
本発明のジケトピペラジン粒子と会合し得る生物活性剤には、限定されないが、有機又は無機化合物、タンパク質、又は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、炭水化物、糖、及び脂肪のような栄養剤が含まれる、多種多様な他の化合物が含まれる。好ましい態様において、薬物には、経口送達に続くGI管からの輸送後に循環系で放出される生物活性剤が含まれる。他の好ましい態様において、材料は、肺又は経鼻の送達に続いて循環系で放出される生物活性剤である。他の好ましい態様において、材料は、経鼻送達に続いて中枢神経系で放出される生物活性剤である。さらに、薬物は、直腸、膣、及び/又は口腔の組織のような粘膜組織を介して吸収することができる。生物活性剤の非限定的な例には、インスリンと他のホルモンのようなタンパク質及びペプチド(ここで、タンパク質は、100以上のアミノ酸残基からなると定義され、ペプチドは、100未満のアミノ酸残基である)、ヘパリンのような多糖、核酸(プラスミド、オリゴヌクレオチド、アンチセンス、又はsiRNAのような)、脂質及びリポ多糖、並びに、抗生物質、抗炎症薬、血管作用剤(勃起不全を治療するために使用する薬剤が含まれる)及び神経作用剤の多くのような、生物活性を有する有機分子が含まれる。具体的な非限定例には、ステロイド、ホルモン、鬱血除去剤、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイルス薬、麻酔薬、鎮静薬、抗うつ薬、カンナビノイド、抗凝固薬、アンチセンス薬剤、抗原、及び抗体が含まれる。ある事例において、タンパク質は、他のやり方では適切な応答を引き起こすために注射により投与しなければならない、抗体又は抗原であってよい。より具体的には、本発明のジケトピペラジン組成物と会合し得る化合物には、インスリン、ヘパリン、カルシトニン、フェルバメート(ferbamate)、副甲状腺ホルモンとその断片、成長ホルモン、エリスロポエチン、グルカゴン様ペプチド−1、ソマトトロピン放出ホルモン、卵胞刺激ホルモン、クロモリン、アジポネクチン、RNアーゼ、グレリン、ジドブジン、ジダノシン、テトラヒドロカンナビノール(即ち、カンナビノイド)、アトロピン、顆粒球コロニー刺激因子、ラモトリジン、絨毛性ゴナドトロピン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、β−ガラクトシダーゼ、及びアルガトロバン(Argatroban)が含まれる。広範囲の分子量、例えば、モルあたり100と500,000グラムの間の化合物が会合し得る。
【0047】
金属、放射活性同位体、放射線不透過剤、及び放射線透過剤が含まれる造影剤も、ジケトピペラジン送達系へ取り込むことができる。放射性同位体と放射線不透過剤には、ガリ
ウム、テクネチウム、インジウム、ストロンチウム、ヨウ素、バリウム、及びリンが含まれる。
【0048】
付言すると、薬物は、非荷電分子、金属塩又は有機塩、又はプロドラッグのような、様々な形態であり得る。酸性の薬物では、場合により、金属塩、アミン、又は有機カチオン(例、四級アンモニウム)を使用してよい。
【0049】
ある態様において、薬物には、経口送達に続く胃腸管からの輸送後に循環系において放出される生物活性剤が含まれる。他の態様において、生物活性剤は、肺又は経鼻送達に続いて循環系で放出される。なお他の態様において、生物活性剤は、経鼻送達に続いて中枢神経系で放出される。さらには、薬物は、直腸、膣、及び/又は口腔の組織のような粘膜組織を通して吸収され得る。
【0050】
これら生物薬剤のいくつかは、胃酸中で不安定であり、胃腸膜を通してゆっくり拡散し、生理学的pHでほとんど溶けず、及び/又は胃腸管において酵素分解を受けやすい。この生物薬剤を血流における放出に先立って胃腸管において保護するために、それらをジケトピペラジン塩と配合する。好ましい態様において、ジケトピペラジンは生物学的に有効ではなく、治療薬剤の薬理学的特性を改変しない。
【0051】
1以上の薬物をDKP塩と会合させるために、好ましくは、薬物とDKP塩を溶液又は懸濁液において混合して、その後で乾燥させる。どの成分も溶質又は懸濁質(suspendate)として存在してよい。異なる態様において、この混合物は、スプレー乾燥又は凍結乾燥させる。
【0052】
スプレー乾燥は、粒状の固形物を多様な溶液剤又は懸濁液剤より形成する、ロードする、又は乾燥させるために使用する熱処理法である。乾燥した粒状医薬品の形成へのスプレー乾燥の使用が当該技術分野で知られているが、過去において、その使用は、スプレー乾燥法の本質による、タンパク質、ペプチド、及び核酸が含まれる生体高分子薬とのその不適合性により制限されてきた。スプレー乾燥の間に、溶液剤又は懸濁液剤をエーロゾル化により液滴へ成型してから、十分な熱エネルギーを有する加熱ガス流を通過させて、粒子中の水分及び溶媒を所望のレベルまで蒸発させて、その後で微粒子を採取する。入口温度は、その源より出るガス流の温度であり、そのレベルは、処理する高分子の不安定性に基づいて選択する。出口温度は、入口温度、生成物を乾燥させるのに必要とされる熱負荷、並びに他の要因の関数になる。
【0053】
本発明者は、期せずして、本発明の粒子が生物活性剤の含量の増加に伴って改善する、他の粒子で見たことのない空気力学性能を有することを確認した。本発明のスプレー乾燥した粒子の呼吸性画分(respirable fraction)(%rf)[直径が0.5と5.8ミクロンの間の粒子の百分率]は、インスリン含量の増加に伴って、(予期されたように減少するのではなく)増加する。故に、本発明の方法を使用して、かつて達成可能であったものより高い生物活性剤の含量を有するジケトピペラジン微粒子を形成することができる。
【0054】
さらに、本発明者は、驚くべきことに、スプレー乾燥したFDKP二ナトリウム塩/インスリン組成物では、出発溶液中のFDKP二ナトリウム塩の濃度が増加するにつれてインスリン安定性が増加することを確認した。安定性は、40℃/75%相対湿度で17日後のインスリン損失によって測定した。例えば、37mg/mlの固形物(FDKP二ナトリウム塩/インスリンの全重量)を含有する溶液よりスプレー乾燥させた粉剤からは8.5%のインスリンが失われた。比較によると、45mg/mlの固形物を含有する溶液よりスプレー乾燥させた粉剤からは4.5%のインスリンが失われて、67mg/mlの固形物を含有する溶液よりスプレー乾燥させた粉剤からは2.7%のインスリンが失われ
た。
【0055】
さらなる観察において、入口温度は、インスリン安定性に対して驚くべき効果があることが見出された。データは、40℃/75% RHで17日後のインスリン損失によって測定する、粉剤中のインスリン安定性が入口温度の増加に伴って増加することを示している。例えば、180℃の入口温度でスプレー乾燥させた粉剤からは約4%のインスリンが失われた。比較によると、200℃の入口温度でスプレー乾燥させた粉剤からは1%未満のインスリンが失われた。
【0056】
本発明の態様では、微粒子が2未満の皺度を有する、肺系への送達に適した微粒子が提供される。スプレー乾燥により影響を受ける本発明の別の側面は、粒径分布及び粒子密度より計算される特定領域と表面積の比である皺度により測定される粒子形態(particle morphology)である。乾燥操作を制御して、皺度のような特別な特徴を有する乾燥粒子を提供することができる。スプレー乾燥した粒子の皺度は、畳み込み(フォールディング)又は渦巻きの度合いのような、粒子の表面の形態(morphology)の尺度となる。
【0057】
これまでは、自由浮遊性の粉剤を形成するのに十分な分散可能性のある粒子を得るには、2より高い皺度が必要であると考えられてきた。驚くべきことに、本発明者は、肺送達に適した2未満の皺度のある粒子を製造した。
【0058】
本発明の微粒子製剤は、液体又は固体の形態として投与することができる。これらには、溶液剤、懸濁液剤、乾燥粉剤、錠剤、カプセル剤、坐剤、経皮送達用パッチ剤、等を含めることができる。これらの異なる形態は、独自の、しかし重複する利点を提供する。この固体形態は、薬物の簡便なバルク輸送を提供して、その安定性を改善させる。それらはまた、微粒子のサイズに依存して、特に鼻粘膜又は肺深部への吸入による投与を可能にする微粒子へ成型することもできる。ジケトピペラジンはまた、溶液剤として送達されるときでも、会合される薬物の吸収を促進することができる。DKP塩のいくつか(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)は、遊離酸に比較して中性及び酸性のpHで改善された溶解度を提供して、このことが経口投与された固体形態の胃における吸収改善をもたらす場合がある。
【0059】
ジケトピペラジン塩の対カチオンを選択して、変動する溶解度を有する塩を生成することができる。これらの変動する溶解度は、溶解速度及び/又は固有溶解度における差の結果であり得る。DKP塩溶解の速度を制御することによって、DKP塩/薬物組合せからの薬物吸収の速度を制御して、即時及び/又は持続放出プロフィールを有する製剤を提供することもできる。例えば、有機化合物のナトリウム塩は、生体系において特徴的にきわめてよく溶けるが、カルシウム塩は、生体系において特徴的にごくわずかしか溶けない。従って、DKPナトリウム塩/薬物の組合せからなる製剤は即時性の薬物吸収を提供するだろうが、DKPカルシウム塩/薬物の組合せからなる製剤はより遅い薬物吸収を提供するだろう。後者の製剤の両方の組合せを含有する製剤を使用すれば、即時性の薬物吸収に続く持続吸収の時期を提供することができよう。
【0060】
生物活性剤のジケトピペラジン塩製剤は、経口投与してよい。微粒子は、化学的な性質及び大きさに依存して、胃腸管の上皮内層を通過して血流又はリンパ系へ吸収される。あるいは、組成物は、DKP塩が薬物の吸収を促進することに役立つ溶液剤として投与してよい。さらに、微粒子は、完全に溶けて溶解後に吸収される懸濁液剤又は固体剤形として投与することができる。
【0061】
非経口投与では、5ミクロン未満の微粒子が静脈内投与用の注射針を容易に通過する。好適な医薬担体、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水が知られていて、市販されている。同
様に、微粒子は、皮下、筋肉内、又は腹腔内に注射又は移植してよい。さらに、微粒子は、移植可能デバイスに入れて、持続及び/又は制御送達を促進することができる。
【0062】
局所又は経皮投与では、投与の担体及び部位に適した方法を使用して、投与に適した医薬担体に微粒子を懸濁させることができる。例えば、微粒子は、ほぼ7.4のpHでの緩衝化生理食塩水溶液において、又は鉱油のような軟膏剤において眼へ投与する。投与量は、放出される化合物と放出の速度に依存するものである。微粒子、又は微粒子の集合体を取り込む化合物とともにフィルム、ディスク、又は錠剤へ入れて、軟膏剤、クリーム剤、又はパッチ剤において皮膚へ投与することができる。好適な医薬担体が当業者に知られていて、市販されている。口腔、膣、直腸、経鼻の投与が含まれる粘膜投与も考慮される。
【0063】
本発明の微粒子を含んでなる乾燥粉剤を使用して肺送達をきわめて有効に達成することができて、循環(血流)への迅速な吸収をもたらすことができる。乾燥粉剤吸入器が当該技術分野で知られていて、特に好適な吸入器システムが、いずれも「単位用量カプセル剤と乾燥粉剤吸入器」と題された米国特許出願番号09/621,092及び10/655,153(これらは、参照により本明細書にそのまま組み込まれる)に記載されている。ジケトピペラジンを含んでなる微粒子を使用する肺送達に関する情報は、参照により本明細書にそのまま組み込まれる「肺系への薬物送達の方法」と題した米国特許第6,428,771号に見出すことができる。以下の実施例は、本発明の1以上の態様を例示するためのものであり、以下に記載するものへ本発明を限定するものではない。
【0064】
実施例
実施例1.FDKP二ナトリウム塩の製造A
還流冷却器、磁気撹拌子、及び温度計の付いた250mLの3つ口丸底フラスコへ13グラムのフマリルジケトピペラジン(FDKP)(28.73ミリモル、1当量)を入れた。反応は、窒素雰囲気下で行った。フラスコへ水(150mL)と50%水酸化ナトリウム(4.48g,1.95当量)を連続的に加えた。生じる黄色い溶液を50℃へ加熱して、2時間維持した。次いで、この溶液を熱いまま濾過して、不溶性の材料を除去した。ロータリーエバポレーションを介して試料より水分を除去した。回収した固形物を真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。次いで、この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とナトリウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約90%〜約95%であった。
【0065】
分子式:C2026Na・1.4809H
カール・フィッシャー滴定による水分(%):5.1%
元素分析:
計算値 C 45.92 H 5.58 N 10.71 Na 8.79
実測値 C 45.05 H 5.23 N 10.34 Na 9.18
滴定:97% 二ナトリウム塩(重量百分率)
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2.FDKP二ナトリウム塩の製造B
還流冷却器、磁気撹拌子、及び温度計の付いた250mLの3つ口丸底フラスコへ13グラムのFDKP(28.73ミリモル、1当量)とエタノール(150mL)を入れた。反応は、窒素雰囲気下で行った。このスラリーを50℃へ加熱した。水酸化ナトリウムの50%(w/w)水溶液(4.71g,2.05当量)を1分量で加えた。生じるスラリーを50℃で2時間維持した。次いで、この反応内容物を周囲温度(20〜30℃)へ冷やして、固形物を真空濾過により単離した。回収した塩をエタノール(300mL)とアセトン(150mL)で洗浄して、真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。さらなる精製は必要とされなかった。次いで、この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とナトリウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約90%〜約95%であった。
【0068】
分子式:C2026Na・1.4503H
カール・フィッシャー滴定による水分(%):5%
元素分析:
計算値 C 45.97 H 5.57 N 10.72 Na 8.8
実測値 C 46.28 H 5.26 N 10.60 Na 8.96
滴定:98.8% 二ナトリウム塩(重量百分率)
【0069】
【表2】

【0070】
実施例3.FDKP二リチウム塩の製造A
還流冷却器、磁気撹拌子、及び温度計の付いた200mLの3つ口丸底フラスコへ10グラムのFDKP(22.10ミリモル、1当量)と100mLの水を入れた。反応は、窒素雰囲気下で行った。別のフラスコにおいて、40mLの水中の水酸化リチウム(1.81g,1.95当量)の水溶液を調製した。すべての水酸化リチウムが溶けたならば、この溶液をFDKPの水性スラリーへ1分量で加えた。生じる溶液を50℃へ加熱して、1時間維持した。次いで、この反応内容物を周囲温度へ冷やし、濾過して、あらゆる不溶性の粒子を除去した。ロータリーエバポレーションを介して試料より水分を除去した。回収した固形物を真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。次いで、この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とリチウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約98%であった。
【0071】
分子式:C2026Li・0.0801H
カール・フィッシャー:0.31%
元素分析:
計算値 C 51.57 H 5.66 N 12.03 Li 2.98
実測値 C 50.98 H 5.74 N 11.95 Li 2.91
滴定:98.3% 二リチウム塩(重量百分率)
実施例4.FDKP二カリウム塩の製造A
還流冷却器、磁気撹拌子、及び温度計の付いた250mLの3つ口丸底フラスコへ12グラムのFDKP(26.52ミリモル、1当量)を入れた。反応は、窒素雰囲気下で行った。フラスコへ水酸化カリウム(0.5N,105g,1.98当量)を加えた。生じる溶液を50℃へ加熱して、2時間維持した。この反応体を周囲温度へ冷やして、ロータリーエバポレーションを介して試料より水分を除去した。回収した固形物を真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。次いで、この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とカリウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約95%〜約98%であった。
【0072】
分子式:C2026・0.4529H
カール・フィッシャー:4.98%
元素分析:
計算値 C 44.75 H 5.05 N 10.44 K 14.56
実測値 C 44.88 H 4.74 N 10.36 K 14.34
滴定:97.0% 二カリウム塩(重量百分率)
実施例5.FDKP二カリウム塩の製造B
還流冷却器、磁気撹拌子、及び温度計の付いた250mLの3つ口丸底フラスコへ10グラムのFDKP(22.10ミリモル、1当量)とエタノール(150mL)を入れた。反応は、窒素雰囲気下で行った。このスラリーを50℃へ加熱した。水酸化カリウム(10N,4.64g,2.10当量)を1分量で加えた。生じるスラリーを50℃で少なくとも3時間維持した。この反応内容物を周囲温度(20〜30℃)へ冷やして、固形物を真空濾過により単離した。回収した塩をエタノール(100mL)とアセトン(200mL)で洗浄して、真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。さらなる精製は必要とされなかった。次いで、この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とカリウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約94%〜約98%であった。
【0073】
分子式:C2026・0.6386H
カール・フィッシャー:2.13%
元素分析:
計算値 C 44.47 H 5.09 N 10.37 K 14.47
実測値 C 44.48 H 5.03 N 10.31 K 13.92
滴定:97% 二カリウム塩(重量百分率)
実施例6.二ナトリウムFDKP−インスリン微粒子の製造A
磁気撹拌子入りの250mLビーカーへ2.5グラムのFDKP二ナトリウム塩(製造A)を入れた。この材料を75mLの脱イオン水に懸濁させた。このFDKP塩懸濁液へインスリン(0.84g)を加えた。生じるスラリーをNHOHで8.3のpHへ滴定して、溶液を生成した。このFDKP二ナトリウム塩及びインスリンの溶液を脱イオン水で100mLの容量として、0.22μmポリエーテルスルホン膜を通して濾過した。BUCHI(登録商標)Mini Spray Dryer B−191(Bichi Labortechnik AG,スイス)を以下の条件で使用して、この溶液をスプレー乾燥させた。
【0074】
入口温度:170℃に設定
出口温度=75℃
吸引速度:最大値の80%
微粒化=乾燥窒素の600l/時間
供給ポンプ速度:最大値の25%(8.5ml/分)
ノズル冷却リターン水:22℃。
【0075】
実施例7.二ナトリウムFDKP−インスリン微粒子の製造B
磁気撹拌子入りの250mLビーカーへ5グラムのFDKP二ナトリウム塩(製造B)を入れた。この材料を75mLの脱イオン水に懸濁させた。このFDKP塩懸濁液へインスリン(1.68g)を加えた。生じるスラリーをNHOHで8.3のpHへ滴定して、溶液を生成した。このFDKP二ナトリウム塩及びインスリンの溶液を脱イオン水で100mLの容量として、0.22μmポリエーテルスルホン膜を通して濾過した。BUCHI(登録商標)Mini Spray Dryer B−191(Bichi Labortechnik AG,スイス)を以下の条件で使用して、この溶液をスプレー乾燥させた。
【0076】
入口温度:149℃に設定
出口温度=75℃
吸引速度:最大値の80%
微粒化=乾燥窒素の600l/時間
供給ポンプ速度:最大値の25%(8.5ml/分)
ノズル冷却リターン水:23℃。
【0077】
実施例8.二ナトリウムFDKP−インスリン微粒子の特性決定
実施例6及び7に記載した微粒子をレーザー回折粒径分析(Sympatec GmbH,ドイツ)へ処した(図1A及び1B)。実施例6の粒子は、87.93%の平均呼吸性画分(0.5〜5.8ミクロン、USPの定義による)を1.60の標準偏差と1.82の%CV(変動係数)とともに示した。実施例7の粒子は、81.36%の平均呼吸性画分を4.20の標準偏差と5.16の%CVとともに示した。
【0078】
実施例9.二ナトリウムFDKP−インスリンの肺投与
二ナトリウムFDKP塩及びインスリンを含有する乾燥粉剤を食事のはじめに吸入する。この乾燥粉剤を含む粒子は、好ましくは、ほぼ0.5〜5.8ミクロンのサイズの範囲にある。正確な投与量は患者特異的であるが、概して5〜150単位のインスリン/用量のオーダーにある。この投与方式からのインスリン吸収は、生理学的な第一相インスリン放出を模倣して、食後血糖の急増を抑える。
【0079】
実施例10.経口剤形の調製
実施例6又は7に記載のようなスプレー乾燥二ナトリウムFDKP/インスリン粉剤を硬ゼラチンカプセルへ充填する。このカプセル剤は、ほぼ50〜100mgの粉剤を含有することができる。実施例6及び7において調製したFDKP塩/インスリン粉剤は、25重量%のインスリンで、インスリン活性は、約26単位/mgであった。従って、50mgは1300単位のオーダーとなり、典型的な用量より有意に大きい。約2〜30mgのFDKP塩/インスリン粉剤をメチルセルロース(他の増量剤も当該技術分野でよく知られている)と混合して、所望される量のバランスを補う。
【0080】
実施例11.二ナトリウムFDKP−インスリンの経口投与
上記のFDKP塩及びインスリンを含有するカプセル剤を食事の前に服用する。正確な投与量は患者特異的であるが、概して、用量あたりほぼ10〜150単位のオーダーのインスリンを投与する。後続のインスリン吸収は、食後血糖の急増を抑える。この経口インスリン製剤を使用して、糖尿病の患者における食前インスリン注射に置き換える。付言すると、胃腸管を通って吸収されるインスリンは、内因性のインスリン分泌を模倣する。内因性のインスリンは、膵臓により門脈循環へ分泌される。経口投与に続いて吸収されるインスリンも門脈循環へ直接入る。従って、経口経路のインスリン投与によりインスリンが肝臓中のその作用部位へ送達されて、インスリンへの全身曝露が制限されると同時に血糖レベルを制御する可能性を提供する。インスリンとFDKPの二酸型の組合せを使用する経口インスリン送達は、胃腸管の低pH環境におけるFDKP二酸の低い溶解性により妨害される。しかしながら、FDKP塩は、局所の緩衝化効果を提供して、低pHにおけるその溶解を促進する。
【0081】
実施例12.FDKP二ナトリウム塩の製造C
還流冷却器、オーバーヘッド撹拌子、窒素インレット、及び温度計の付いた1リットルの4つ口丸底フラスコへ50グラムのフマリルジケトピペラジン(FDKP,221.01ミリモル、1当量)、水(200mL)、及び10N水酸化ナトリウム(21.9mL,437.61ミリモル、1.98当量)を入れた。この混合物を50℃へ加熱して黄色い溶液として、エタノール(650mL)を15分にわたり加えた。この添加が完了したとき、このスラリーを50℃で30〜60分間維持した。この反応混合物を真空濾過して、単離した固形物をエタノール(150mL)とアセトン(150mLx2)で洗浄してから、真空オーブン(50℃,30インチの水銀)において一晩乾燥させた。さらなる精製は必要とされなかった。この塩について水分含量(カール・フィッシャー)とナトリウム含量(元素分析と滴定)をアッセイした。この塩の収率は、約90%〜約95%であっ
た。
【0082】
カール・フィッシャー:7.19%
元素分析:
計算値 C 44.91 H 5.70 N 10.47 Na 8.6
実測値 C 45.29 H 5.47 N 10.59 Na 8.24
滴定:98.8% 二ナトリウム塩(重量百分率)
以下は、本発明の様々な製剤に関して記載する様々な製法である。
【0083】
実施例13.スプレー乾燥により調製するFDKP塩/インスリン粉剤
FDKPの二ナトリウム塩(5g)を脱イオン水(150mL)に溶かして、インスリン(1.69g)を加えた。この懸濁液のpHを水酸化アンモニウム(NHOH)で8.3へ調整して溶液を得て、これを引き続き脱イオン水で200mLへ希釈して、濾過した。以下の条件を使用して、この溶液をスプレー乾燥させた:
入口温度−200℃
出口温度−80℃
微粒化ガス−600リットルN/時間
プロセスガス:最大値の80%
スプレーノズルは、28℃へ冷却した。
【0084】
生じる粒子についてその空気力学特性を分析して、そのデータを表3に報告する。
【0085】
【表3】

【0086】
表3は、直径が0.5と5.8ミクロンの間の粒子の百分率である呼吸性画分(%rf)、放出時にカートリッジより除かれる粉剤の百分率(空虚(empty)%)、呼吸性画分の充填百分率(%rf充填、%rfX空虚%)−これは、カートリッジより除かれる粉剤中の呼吸適合粒子の百分率を測定する、空気力学的粒径(mmad)、入口℃(摂氏での入口温度)、負荷百分率(負荷%−粒子のインスリン含量、重量%)、及び乾燥時の損失(LOD)、粉剤をオーブンにおいて一晩乾燥させるときに除去される揮発材料(%)として表される、粉剤中の残留水分の尺度を示す。
【0087】
レーザー回折により測定される粒径は、ほぼ2μm〜15μmのサイズ範囲を示して、このデータを表4と図2に表示する。
【0088】
【表4】

【0089】
走査電子顕微鏡(SEM)を利用して、粒子形態を試験した。代表的なSEMを図3に示す。粒子の形態は、壊れた中空の球体に一致する。
二ナトリウム塩/インスリン粒子の安定性を加速室温条件(40℃/75%相対湿度[RH])で評価した。凍結乾燥により調製した対照製剤と比較して、スプレー乾燥粒子は、インスリン分解により測定されるように、より優れたインスリン安定性を示した(図4)。
【0090】
FDKP二ナトリウム塩/25%インスリン溶液のスプレー乾燥に先立つ出発濃度について、最終の粒子安定性に対するその効果を評価した。データ(図5)は、40℃/75% RHで17日後のインスリン損失により測定されるように、溶液濃度の増加に伴って粒子上のインスリン安定性が増加することを示す。
【0091】
実施例14.FDKP塩/インスリンの溶液の有機溶媒での溶媒/逆溶媒沈殿
調和超音波微粒化(harmonic ultrasonic atomization)を使用して、沈殿を制御した。代わりの空隙法、並びに高剪断混合及び均質化も適用可能である。
【0092】
FDPKの二ナトリウム塩(5g)を脱イオン水(80mL)に溶かした。この溶液へインスリン(0.65g)を加えて、懸濁液を産生した。この懸濁液のpHをNHOHで8.3へ調整して溶液を得て、これを脱イオン水で100mLへ希釈して、濾過した。インスリン/FDKPの二ナトリウム塩の溶液とエタノールを20kHzと40kHzの間の周波数で振動する両口微粒化ホーンを通して1:5の比で注入することによって粒子を沈殿させた。この沈殿を、エタノール(200mL)を含有する媒体ボトルに採取した。沈殿後、材料をエタノールで洗浄して、ロータリーエバポレーションを介するか又はこの懸濁液に窒素を泡立てて通すことによって乾燥させた。粒子は、12.5重量%のインスリンを含有していた。粒子の形態をSEMにより評価した(図6)。
【0093】
図6A(10kx)及び図6B(20Kx)に例示する粒子は1〜5ミクロンの範囲にあるが、低倍率(図6C,2.5kxと図6D,1.0kx)では、10〜40ミクロン範囲の粒子が見られる。本試験において利用した乾燥法が一次粒子のより大きな二次粒子への再結晶をもたらしたこと、そしてスプレー乾燥のような乾燥法を通して有機成分の水系成分に対する一定比を維持する方法の使用により、有意数の二次粒子の形成を排除するまで一次粒子を保存することができることは、本発明者の自由な仮説である。
【0094】
実施例15.in situ 二アンモニウム塩形成と製剤化
FDKP又はSDKP(スクシニルDKP)二アンモニウム塩/インスリン粒子をスプレー乾燥により形成した。25%インスリンを含有するFDKPアンモニウム塩/インスリン製剤について代表的な手順を示す。
【0095】
FDKP(5g)を脱イオン水(150mL)に懸濁させて、水酸化アンモニウム(NHOH)で7.5〜8.0のpHへ滴定した。生じる溶液(FDKP)へインスリン(1.69g)を加えて、懸濁液を得た。この懸濁液のpHを水酸化アンモニウム(NHOH)で8.3へ調整して溶液を得て、これを脱イオン水で200mLへ希釈して、濾過した。この溶液を以下の条件でスプレー乾燥させることによって粉剤を形成した:
入口温度−200℃
出口温度−80℃
微粒化ガス−600リットルN/時間
プロセスガス:最大値の80%
スプレーノズルは、28℃へ冷却した。
【0096】
この二アンモニウム塩の%rfは、二ナトリウム塩の%rfより約10%高い。対カチ
オンは、粒子性能に大きな効果を及ぼす。また、50% FDKPアンモニウム塩/インスリン粉剤は、対応する25% FDKPアンモニウム塩/インスリン粉剤のそれに匹敵する%rfを有する。このことは、FDKP遊離酸からの凍結乾燥により調製される粉剤では、インスリン含量が増加するにつれて%rfが減少するので、驚くべきことである。
【0097】
生じる粒子についてその空気力学特性を分析して、そのデータを表5に報告する。
【0098】
【表5】

【0099】
粒径をレーザー回折により測定して、そのデータを表6と図7〜9に表示する。
【0100】
【表6】

【0101】
25%インスリン(w:w)を含有するFDKPの二アンモニウム塩の調製物の粒径をレーザー回折により決定すると、25%インスリンで製剤化したFDKPアンモニウム塩ではほぼ1.7μm〜8.4μmのサイズ範囲を示した(図7及び表7)。
【0102】
【表7】

【0103】
50%インスリン(w:w)を含有するFDKPの二アンモニウム塩の調製物の粒径をレーザー回折により決定すると、50%インスリンで製剤化したFDKPアンモニウム塩ではほぼ1.6μm〜8.8μmのサイズ範囲を示した(表8)。
【0104】
【表8】

【0105】
25%インスリン(w:w)で製剤化したSDKP二アンモニウム塩の粒径をレーザー回折により決定して、25%インスリンで製剤化したSDKP二アンモニウム塩ではほぼ1.7μm〜9.3μmのサイズ範囲を示した。
【0106】
走査電子顕微鏡を利用して、粒子形態を試験した。代表的なSEMを図10(FDKP)と図11(SDKP)に示す。粒子の形態は、壊れた中空の球体に一致する。
二アンモニウム塩/インスリン粒子の in situ 塩生成及び製剤の安定性を加速室温条件(40℃/75% RH)で評価した。凍結乾燥により調製した対照製剤と比較して、スプレー乾燥した粒子は、インスリン分解により測定されるように、より優れたインスリン安定性(FDKP,図12とSDKP,図14)とデスアミノ分解産物(A21)の生成(FDKP,図13とSDKP,図15)を示した。
【0107】
実施例16.スプレー乾燥した微粒子の特性決定
スプレー乾燥したFDKP塩/インスリン粒子は、空気力学性能において驚くべき予期せぬ傾向を示す。以前観察されたインスリン含有微粒子(その上へインスリンを負荷して、溶媒を凍結乾燥により除去したDKP遊離酸微粒子より形成した)は、インスリン含量の増加に伴って減少する空気力学性能を示した。例えば、25%負荷粒子の%rf(呼吸性画分)は、5%負荷粒子の%rfより有意に低かった。インスリンを含有するスプレー乾燥FDKP塩微粒子では、反対の傾向が観察される。インスリン負荷が高まるにつれて、%rfが増加するのである。
【0108】
FDKP二ナトリウム塩のスプレー乾燥粉剤を11.4%、50.0%、70.0%、又は90.0%(w:w)のインスリン含量とともに調製した。図16は、インスリン負荷の増加に伴って%rfが増加することを示す。
【0109】
11.4%、50.0%、70.0%、又は90.0%(w:w)のインスリン含量を有するスプレー乾燥FDKP二アンモニウム塩/インスリン粉剤においても同様の傾向が観察された。%rfは、インスリン負荷とともに増加した(図17)。
【0110】
スプレー乾燥に先立つFDKP二ナトリウム塩溶液の出発濃度について、最終粒子のインスリン安定性に及ぼすその効果を評価した。データは、40℃/75% RHで17日後のインスリン損失によって測定するように、粉剤中のインスリン安定性が溶液濃度の増加に伴って増加することを示す。例えば、37mg/mLの固形物を含有する溶液よりスプレー乾燥した粉剤からは、8.5%のインスリンが失われた。比較すると、45mg/mLの固形物を含有する溶液よりスプレー乾燥した粉剤からは、4.5%のインスリンが失われて、67mg/mLの固形物を含有する溶液よりスプレー乾燥した粉剤からは、2.7%のインスリンが失われた。
【0111】
FDKP二ナトリウム塩及びインスリンの溶液をスプレー乾燥させて50%インスリンを含有する粒子を形成するために使用する入口温度について、最終粒子のインスリン安定性に及ぼすその効果を評価した。データは、40℃/75% RHで17日後のインスリ
ン損失によって測定するように、粉剤中のインスリン安定性が入口温度の上昇に伴って増加することを示す。例えば、180℃の入口温度でスプレー乾燥した粉剤からは、約4%のインスリンが失われた。比較すると、200℃の入口温度でスプレー乾燥した粉剤からは、1%未満のインスリンが失われた。
【0112】
さらに、本発明者は、期せずして、肺送達に適している上記粒子がほぼ1の皺度を有することを見出した。
他に述べなければ、本明細書及び特許請求項に使用する、成分の量、分子量のような特性、反応条件、等を表すすべての数字は、すべての事例において、用語「約」により修飾されると理解されたい。故に、反対に示さなければ、以下の明細書と付帯の特許請求項に示す数的変数は近似値であり、本発明により得られることが求められる所望の特性に依存して変動してよい。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を制限する企図としてではなく、それぞれの数的変数は、少なくとも報告される有効桁の数字に照らして、通常の丸め技術を適用することによって解釈すべきである。本発明の広い範囲を示す数的範囲及び変数は近似値であるが、具体的な実施例において示す数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、どの数値も、それぞれの試験測定に見出される標準偏差より必然的に生じるいくらかの誤差を本来含有するものである。
【0113】
本発明を記載する文脈において(特に、以下の特許請求項の文脈において)使用する用語、不定冠詞(「a」及び「an」)と定冠詞(「the」)、そして同様の参照には、本明細書において他に示さなければ、あるいは文脈により明確に矛盾しなければ、単数と複数の両方が含まれると解釈されたい。本明細書における数値の範囲の引用は、その範囲に該当するそれぞれ別々の値を個別に引用する手近な方法として役立つことを単に企図する。本明細書において他に示さなければ、それぞれの個々の値は、本明細書において個別に引用されるかのように、本明細書へ組み込まれる。本明細書に記載するすべての方法は、本明細書において他に示さなければ、あるいはまた、文脈により明確に矛盾しなければ、どの好適な順序で実施してもよい。本明細書に提供するいくつか、及びすべての実施例、又は例示の言葉(例、「のような」)の使用は、本発明をよりよく例示することのみを企図していて、他に特許請求される本発明の範囲に対して制限を加えるものではない。明細書中のどの言葉も、本発明の実施に本質的な特許請求されない要素を示すものと解釈してはならない。
【0114】
本明細書に開示する本発明の代わりの要素又は態様の群分けは、制限事項として解釈してはならない。それぞれの群のメンバーは、個別に、又は本明細書に見出される群の他のメンバー又は他の要素と組み合わせて参照して特許請求してよい。ある群の1以上のメンバーを簡便性及び/又は特許可能性の理由のためにある群に含めても、それより削除してもよい。そのような包含又は削除が生じる場合、本明細書は、付帯の特許請求項において使用するあらゆる、そしてすべてのマーカッシュ(Markush)グループの書面記載をこのように充足するように修飾された群が含まれると考えられる。
【0115】
本発明を実施するための本発明者に知られた最良の形式が含まれる、本発明の好ましい態様を本明細書に記載する。当然ながら、上記の記載を読めば、当業者には、好ましい態様に対するバリエーションが明らかになろう。本発明者は、当業者がそのようなバリエーションを適宜利用することを予期して、そして本発明者は、本発明が本明細書において具体的に記載したものとは別のやり方で実施されると考える。故に、本発明には、適用可能な法律によって許可されるように、付帯の特許請求項に引用される主題内容のすべての修飾及び均等物が含まれる。さらに、上記の要素のそのすべての可能なバリエーションにおけるあらゆる組合せが、本明細書において他に示さなければ、あるいはまた、文脈により明確に矛盾しなければ、本発明に含まれる。
【0116】
さらに、本明細書を通して、特許及び刊行物を参照した。上記の引用した参考文献と刊行物のそれぞれは、そのまま参照により本明細書に個別に組み込まれる。
終わりに、本明細書に開示する本発明の態様は、本発明の原理を例示するものであると理解されたい。利用することができる他の態様も本発明の範囲内にある。従って、限定ではなく、例示として、本発明の代わりの構成を本明細書の教示に従って利用してよい。故に、本発明は、正確に示して記載したものへ限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1は、本発明の1つの側面によるフマリルジケトピペラジン(FDKP)二ナトリウム塩を使用して作製した粒子のレーザー回折粒径分析を図示する。(A)製造A;(B)製造B。
【図2】図2は、本発明の教示に従って作製した25%インスリン(w/w)を含有するFDKP二ナトリウム塩の製剤のレーザー回折による粒径決定を図示する。
【図3】図3は、本発明の教示に従って作製した25%インスリン(w/w)を含有するFDKP二ナトリウム塩のスプレー乾燥した微粒子調製物の走査電子顕微鏡(SEM)を図示する。
【図4】図4は、本発明の教示に従って作製した25%インスリンを含有するFDKP二ナトリウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子(点刻)の対照凍結乾燥粉剤(斜線)と比較した加速安定性試験を図示する。
【図5】図5は、本発明の教示に従って作製した25%インスリンを含有するFDKP二ナトリウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子のインスリン安定性に及ぼす溶液濃度の効果を対照の凍結乾燥粉剤と比較して図示する。
【図6】図6は、本発明の教示による溶媒/逆溶媒沈殿により形成されたインスリン/二ナトリウムFDKP塩微粒子のSEM分析を図示する。
【図7】図7は、本発明の教示に従って作製した25%インスリン(w/w)を含有するFDKP二ナトリウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子のレーザー回折による粒径決定を図示する。
【図8】図8は、本発明の教示に従って作製した50%インスリン(w/w)を含有するFDKP二ナトリウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子のレーザー回折による粒径決定を図示する。
【図9】図9は、本発明の教示に従って作製した25%インスリン(w/w)を含有するスクシニルジケトピペラジン(SDKP)の二アンモニウム塩のスプレー乾燥した微粒子のレーザー回折による粒径決定を図示する。
【図10】図10は、本発明の教示に従って25%インスリンとともに製剤化したFDKPアンモニウム塩のSEMを図示する。
【図11】図11は、本発明の教示に従って25%インスリンとともに製剤化したSDKPアンモニウム塩のSEMを図示する。
【図12】図12は、本発明の教示に従って作製した25%又は50%インスリンを含有するFDKP二アンモニウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子の対照凍結乾燥粉剤と比較した加速安定性試験を図示する。
【図13】図13は、本発明の教示に従って作製した25%又は50%インスリンを含有するFDKP二アンモニウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子の対照凍結乾燥粉剤と比較した加速安定性試験の間のA21分解産物の生成を図示する。
【図14】図14は、本発明の教示に従って作製した25%インスリンを含有するSDKP二アンモニウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子の対照凍結乾燥粉剤と比較した加速安定性試験を図示する。
【図15】図15は、本発明の教示に従って作製した25%インスリンを含有するSDKP二アンモニウム塩/インスリン製剤のスプレー乾燥した微粒子の対照凍結乾燥粉剤と比較した加速安定性試験の間のA21分解産物の生成を図示する。
【図16】図16は、本発明の教示に従って作製した増加するインスリン濃度を含有する、スプレー乾燥したFDKP二ナトリウム塩/インスリン粒子の空気力学性能を図示する。
【図17】図17は、本発明の教示に従って作製した増加するインスリン濃度を含有する、スプレー乾燥したFDKP二アンモニウム塩/インスリン粒子の空気力学性能を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
【化1】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による複素環式化合物の医薬的に許容される塩であって、少なくとも1つのカチオンをさらに含み;そして、2,5−ジアスパルチル−3,6−ジケトピペラジンのリチウム塩又は2,5−ジグルタミル−3,6−ジケトピペラジンのリチウム塩ではない、前記塩。
【請求項2】
複素環式化合物がジケトピペラジンを含む、請求項1の医薬的に許容される塩。
【請求項3】
前記カルボキシレート基が末端に位置する、請求項1の医薬的に許容される塩。
【請求項4】
とRが4−X−アミノブチルを含み、ここでXは、スクシニル、グルタリル、マレイル、及びフマリルからなる群より選択される、請求項3の医薬的に許容される塩。
【請求項5】
Xがフマリルである、請求項4の医薬的に許容される塩。
【請求項6】
前記カチオンが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リチウム、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群より選択される、請求項1の医薬的に許容される塩。
【請求項7】
前記カチオンがナトリウムである、請求項6の医薬的に許容される塩。
【請求項8】
式1:
【化2】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による複素環式化合物の医薬的に許容される塩を含んでなる治療組成物であって、前記塩は少なくとも1つのカチオンをさらに含み;そして、生物活性剤(a biologically active agent)をさらに含む、前記組成物。
【請求項9】
前記生物活性剤が、ホルモン、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイルス薬、アンチセンス、抗原、抗体、並びにこれらの活性な断片及び類似体からなる群より選択される、請求項8の治療組成物。
【請求項10】
前記生物活性剤がインスリンを含む、請求項9の治療組成物。
【請求項11】
液剤として製剤化される、請求項8の治療組成物。
【請求項12】
前記液剤が溶液剤又は懸濁液剤である、請求項11の治療組成物。
【請求項13】
沈殿を含む、請求項8の治療組成物。
【請求項14】
前記沈殿を経口、口腔、直腸、又は膣の投与に適した固体剤形へ製剤化する、請求項13の治療組成物。
【請求項15】
前記固体剤形が、カプセル剤、錠剤、及び坐剤からなる群より選択される、請求項14の治療組成物。
【請求項16】
乾燥粉剤(a dry powder)を含む、請求項8の治療組成物。
【請求項17】
前記乾燥粉剤の粒子が約0.5ミクロンと約10ミクロンの間の直径を有する、請求項16の治療組成物。
【請求項18】
薬物送達用の固体組成物を調製する方法であって:
生物活性剤と複素環式化合物の医薬的に許容される塩を溶媒中に含有する溶液剤を調製する工程;
蒸留、蒸発、スプレー乾燥、及び凍結乾燥からなる群より選択される方法によって前記溶媒を除去する工程を含んでなり;
ここで前記複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1:
【化3】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による構造を有し、そして
前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む、前記方法。
【請求項19】
前記固形物を微小化して、乾燥粉剤を形成する工程をさらに含んでなる、請求項18の方法。
【請求項20】
薬物送達用の乾燥粉剤を調製する方法であって:
複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の溶液をスプレー乾燥させて、乾燥粉剤を形成する工程を含んでなり;
ここで乾燥粉剤は生物活性剤を放出し;そして
ここで前記複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1:
【化4】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による構造を有し、
そして前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む、前記方法。
【請求項21】
前記乾燥粉剤の粒子が肺送達に適している、請求項20の方法。
【請求項22】
前記乾燥粉剤の粒子が2未満の皺度(rugosity)を有する、請求項20の方法。
【請求項23】
生物活性剤を送達するための組成物であって、乾燥粉剤が前記生物活性剤を放出するような乾燥粉剤を形成するようにスプレー乾燥させた、複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤を含み、そして前記複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1:
【化5】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による構造を有し;そして
前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む、前記組成物。
【請求項24】
前記乾燥粉剤の粒子が肺送達に適している、請求項23の組成物。
【請求項25】
前記乾燥粉剤の粒子が2未満の皺度を有する、請求項23の組成物。
【請求項26】
複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の組成物を含んでなり、ここで前記組成物は、生物活性剤を放出し、そして前記複素環式化合物は、式1:
【化6】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による構造を有し;そして
前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む、薬物送達用の微粒子系。
【請求項27】
前記生物活性剤が、ホルモン、抗凝固薬、免疫調節剤、細胞毒性剤、抗生物質、抗ウイ
ルス薬、アンチセンス、抗原、抗体、及びこれらの活性な断片及び類似体からなる群より選択される、請求項26の微粒子系。
【請求項28】
前記組成物が、肺系において前記生物活性剤を放出する乾燥粉剤である、請求項26の微粒子系。
【請求項29】
前記薬物送達が肺系へのものである、請求項26の微粒子系。
【請求項30】
生物活性剤が全身の血液循環へ吸収される、請求項26の微粒子系。
【請求項31】
生物活性剤が肺で局所的に作用する、請求項26の微粒子系。
【請求項32】
前記組成物が薬物送達用の液剤を含み、ここで生物活性剤の吸収は、前記ジケトピペラジンによって促進される、請求項26の微粒子系。
【請求項33】
前記液剤を経口投与する、請求項32の微粒子系。
【請求項34】
前記組成物が沈殿を含み、ここで生物活性剤の吸収は、前記ジケトピペラジンによって促進される、請求項26の微粒子系。
【請求項35】
前記沈殿を経口投与する、請求項34の微粒子系。
【請求項36】
粒子の肺系への送達のための方法であって:
治療の必要な患者へ乾燥粉剤の形態の生物活性剤の有効量を吸入により投与する工程を含んでなり、前記乾燥粉剤は、複素環式化合物の医薬的に許容される塩と生物活性剤の組成物を含んでなる溶液剤をスプレー乾燥させることによって調製され;
ここで前記乾燥粉剤は、前記生物活性剤を肺系において放出し;そして
ここで前記複素環式化合物の医薬的に許容される塩は、式1:
【化7】

[式中、R又はRは、少なくとも1つのカルボキシレート官能基を含み;
とEは、N又はOを含む]による構造を有し;そして
前記塩は、少なくとも1つのカチオンをさらに含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2008−510824(P2008−510824A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530062(P2007−530062)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/030026
【国際公開番号】WO2006/023943
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】