説明

蘚苔類植物担持体の固定方法

【課題】建造物の屋上に蘚苔類植物担持体を敷設する際に、屋上躯体を損傷させることなく蘚苔類植物担持体を固定する方法を提供する。
【解決手段】2つの繊維集合体21a、21bの間に少なくとも蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により2つの繊維集合体21a、21bをその繊維同士を部分的に絡ませて積層一体化し、人工芝葉状体23を植設した蘚苔類植物担持体2の下面を、被固定面に、一液硬化型変成シリコーン接着剤1により接着するようにすれば、所謂アンカーを屋上躯体Hに打ち込むことがないため、屋上躯体Hの表面下に敷設され雨水が建造物内に浸入するのを防止する防水層を損傷することがなく、長期にわたり防水効果を保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の屋上や壁面、道路構造物等を蘚苔類植物により緑化するのに好適に用いることができる蘚苔類植物担持体の固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夏場において、とりわけ大都市においては、都心の温度が郊外と比べ4〜6度も高くなる、いわゆるヒートアイランド現象が問題視されており、例えば東京都においては、既に条例により建造物の占める面積に対し、一定の割合で緑化を義務づける条例が施工されている区も出てきている。
【0003】
建造物において、緑化を行うのであれば、緑化が可能な部位は、屋上か壁面に限られる。これらの箇所に樹木や芝生等の土壌を必要とする植物を適用する場合、まず問題となるのがその重量であり、土壌の重量を建造物が支えることが出来ない場合には、それらを用いて緑化を行うことは困難である。また、壁面に緑化を施す場合においては植栽枡を設ける等、複雑な機構を必要とするものとなる。また、灌漑設備が必要である場合も多く、設備が複雑となるとともにメンテナンスが必要である。植物自体も定期的な手入れを行う必要もあり、壁面等は非常に手間がかかる作業となる。
【0004】
これらの解決方法として、蘚苔類植物を用いて緑化を行う提案が近年なされてきている。蘚苔類植物を用いることで、従来用いられてきた例えば樹木や芝生、セダム等の多肉植物等とは異なり、殆ど土壌を必要とすることなく生育させて建造物の屋上や壁面等を緑地とすることができる、また、蘚苔類植物は、保水性が高く、自重の10〜20倍の水分を保水することができ、保持した水分や、その水分の蒸散により、建造物の温度を下げてヒートアイランド現象の軽減を好適に図ることができる。
【0005】
また蘚苔類植物は乾燥状態が続いても仮死状態となるだけで枯死することがなく、降雨等により再度水が与えられると再生することから潅水する必要がなく、従って潅水にかかわる設備も必要としない。さらには、光合成の効率も樹木や芝生と大差ないものであるから、炭酸ガスの固定化にも高いレベルで貢献できるものである。
【0006】
これらの蘚苔類植物の特性を活用し、緑化に用いるべく種々の発明が提案されてきており、シート状やマット状に蘚苔類植物担持体を形成し、それらを屋上や壁面に取り付けたり、また蘚苔類植物を含有した塗物を、壁面や法面に吹き付けるといった方法が提案されてきている。
【0007】
例えば特許文献1には、長手方向に延在する水平状の取付け板部と、該取付け板部の一側縁から垂直状に立ち上がる仕切り板部とを備えた断面L形の長尺状金属薄板からなり、人工地盤に固定される仕切り材と、根通し口が形成された長尺状金属薄板からなり、前記取付け板部上に植生マットを介して配設されて人工地盤に固定される押え部材とを備えてなることを特徴とする植栽用仕切り装置に、人工地盤に立設した螺子杆からなる固定杆を挿通させ、その突出端側にナットを螺合して固定する方法や、前記取付け板部に挿通したビスからなる固定杆の下端を人工地盤に埋入したプラグに螺合させて固定する方法が開示されている。勿論、これに用いられる植栽マットには、蘚苔類植物を適応することができるものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001―190152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この固定方法を用いて蘚苔類植物担持体を建造物の屋上躯体に固定する場合、屋上躯体に螺子杆を打ち込む必要があるため、屋上表面下に敷設され、雨水が建造物内に浸入するのを防止する防水層を貫通してしまい、防水機能を損なってしまう懸念があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、建造物の屋上に蘚苔類植物担持体を敷設する際に、屋上躯体を損傷させることなく蘚苔類植物担持体を固定する方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。すなわち、2つの繊維集合体の間に少なくとも蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により2つの繊維集合体をその繊維同士を部分的に絡ませて積層一体化し、人工芝葉状体を植設した蘚苔類植物担持体の下面を、被固定面に、一液硬化型変成シリコーン接着剤により接着することを特徴とするものである。
【0012】
また、前記一液硬化型変成シリコーン接着剤は、粘度が20℃において1000〜1400Pa・Sであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2つの繊維集合体の間に少なくとも蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により2つの繊維集合体をその繊維同士を部分的に絡ませて積層一体化し、人工芝葉状体を植設した蘚苔類植物担持体の下面を、被固定面に、一液硬化型変成シリコーン接着剤により接着するようにすれば、所謂アンカーを屋上躯体に打ち込むことがないため、屋上躯体の表面下に敷設され雨水が建造物内に浸入するのを防止する防水層を損傷することがなく、長期にわたり防水効果を保持することができる。
【0014】
また、上述した接着に用いる一液硬化型変成シリコーン接着剤の粘度が、20℃において1000〜1400Pa・Sであるものを用いるようにすれば、蘚苔類植物担持体の下面に塗布する場合、接着剤が垂れることが少ないため塗布しやすく、また蘚苔類植物担持体の下面の繊維間にもさほど浸透せずに、接着力を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係わる実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
図1は、本発明の蘚苔類植物担持体の固定方法の、実施の一形態を示す断面図である。図2は、蘚苔類植物担持体を示す斜視図である。Hは屋上躯体であり、1は一液硬化型変成シリコーン系接着剤であり、2は蘚苔類植物担持体であり、蘚苔類植物担持体2の下面が屋上躯体Hの上面に接着されてなされており、図2に示す矩形の蘚苔類植物担持体2が複数体、屋上躯体Hの上面の所望の区域に敷設される。
【0016】
一液硬化型変成シリコーン系接着剤1は、例えば、メトキシシリル基を有するポリオキシプロピレンエーテル等の変成シリコーン樹脂を主成分とする一液タイプの接着剤であって、空気中の水分によって硬化するものである。従って、一液硬化型変成シリコーン系接着剤1には、ベンゼン、キシレン、トルエン等の有機溶剤が含まれないため、有機溶剤により蘚苔類植物が変色したり枯死する等、溶剤の蘚苔類植物への悪影響を防ぐことができる。
【0017】
蘚苔類植物担持体2は、2つの繊維集合体21a、21bとの間に蘚苔類植物22が挟み込まれて、ニードルパンチ等の機械的絡合手段により繊維同士が絡まり合い積層一体化されてシート化されている。また、蘚苔類植物保持体2表面には、機械的絡合手段により主に繊維集合体21bを表面に突出させた部分cが平行に複数本設けられ、更に、主に繊維集合体21bを表面に突出させた部分cと垂直に交わるように人工芝葉状体23が植設されている。この人工芝葉状体23は、蘚苔類植物担持体2を貫くように植設されており、人工芝葉状体23が抜け落ちないように裏面シート24が取り付けられている。
【0018】
蘚苔類植物担持体2を屋上躯体Hに固定する際の方法としては、一液硬化型変成シリコーン系接着剤1を屋上躯体Hの上面に塗布し、その上に蘚苔類植物担持体2を設置してもよいし、裏面シート24に一液硬化型変成シリコーン系接着剤1を塗布した状態の蘚苔類植物担持体2を屋上躯体Hの上面に設置してもよい。また、一液硬化型変成シリコーン系接着剤1は、通常、ノズルが装着されたカートリッジ容器に充填されており、使用時にはカートリッジ容器に圧力を加えてノズルの先から押出しながら塗布する方法が一般的に採用されており、それを塗布する部位としては、裏面シート24或いは屋上躯体Hの上面の全面に塗布してもよいし、裏面シート24の外周近傍と裏面シート24の中心を通る十文字形の部位とに塗布してもよい。
【0019】
蘚苔類植物担持体2に用いる蘚苔類植物22の種類は、設置場所によって選定することができる。蘚苔類植物22には大きく分けて、好日性、半日陰性、日陰性のものがあり、それぞれ生育に太陽光が必要なもの、太陽光があまり必要でないもの、太陽光が不要なものがある。例えば、設置方向の関係で太陽光が当たらない場所や、当たりにくい場所には、日陰性、半日陰性の蘚苔類植物22を用いると良い。例えば、スナゴケ、ハイスナゴケ、ハイゴケ等は、太陽光が当たるところで用いるとよく、シッポゴケ、カモジゴケ、トヤマシノブゴケ、ヒノキゴケ等は、日陰で用いるのがよい。
【0020】
また、2つの繊維集合体21a、21bに蘚苔類植物22を挟み込むときに、蘚苔類植物22とともに他の機能性材料を加えてもよく、例えば保水性を有する材料や、蘚苔類植物22の成長を助ける材料等が挙げられる。この時加える材料は、シート状に一体化しやすいように、蘚苔類植物22と絡み合いやすいものがよい。具体的には、例えばミズゴケを加熱して死滅させたものを加えてもよく、保水効果が高く、蘚苔類植物22との絡み合いもしやすい。また、植物どうしであるので蘚苔類植物22の生育に悪影響を及ぼすこともない。
【0021】
また、繊維集合体21a、21bの材質や形態は、繊維からなるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、セルロース、ポリウレタン、芳香族ナイロン、ポリベンズイミダゾール、ノボロイド等の合成繊維やそれらの複合繊維、アセテート等の半合成繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、絹、綿、羊毛等の天然繊維、またはそれらの混合繊維等からなる織布や不織布等のシート状のもの、繊維ウェッブ状のものを組み合わせて用いることができる。例えば、下側の繊維集合体21aには不織布シートを用い、上側の繊維集合体21bには、繊維ウェブを用いるとよい。また、生分解性の樹脂繊維を用いてもよく、上記繊維に混合して用いても良い。
【0022】
前項で記述した繊維ウェッブ状のものは、ワタ状の繊維のかたまりであって、繊維と繊維のすき間が多い。この繊維ウェッブ状のものをニードルパンチのような機械的絡合手段で押し込めば、繊維の一本一本が内部に侵入しやすく、また絡まりやすいため、比較的少ない量で好適に蘚苔類植物22を固定することができる。また、すき間が大きく、繊維の使用量も比較的少ないので、蘚苔類植物22の生育を阻害しにくいとともに、生育に必要な太陽光も内部の蘚苔類植物22まで行き届く。
【0023】
繊維集合体21a、21bの繊維の太さは、機械的絡合手段により蘚苔類植物22や繊維集合体に入り込んで一体化できる太さであれば、特に限定されるものではないが、0.1〜50デニール程度が好ましい。これ以上細いと、繊維は抜けやすくなりまた、接合強度が弱くなってしまう。また、絡合の密度は1平方センチメートルあたり10〜80回程度が好ましい。これ以上絡合点が多いと、接合の強度は大きくなるが、植物の自由度が下がり生育が阻害される可能性がある。また逆に絡合点が少ないと十分に固定されなく、蘚苔類植物22や繊維が脱落する恐れがある。
【0024】
また、繊維集合体21a、21bの繊維には水溶性繊維と非水溶性繊維を混合して用いてもよい。その配合量は、繊維量の20〜90パーセント程度が好ましく、さらには、50〜80パーセントが好ましい。水溶性繊維の配合量が大きすぎると、水溶性繊維が溶解した後に、蘚苔類植物22を担持する繊維が少なくなるため、蘚苔類植物22が脱落しやすくなる。また、配合量が小さいと、溶解した後の繊維の間隙が少なく、蘚苔類植物22が生育するスペースが限られ、生育を阻害する可能性がある。また、水溶性繊維の配合量が少ないとその粘着性が十分に発現しない。
【0025】
水溶性繊維は特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコールが好適である。ポリビニルアルコールは、水溶したときに中性を示し、蘚苔類植物22の生育に害を与えることが無いため、好適である。また、非水溶性繊維は、特に限定されるものではなく、前記の繊維集合体に用いることのできる繊維で示したものを用いればよい。繊維に水溶性繊維を混合する際は、上下両方の繊維集合体21a、21bに入れてもよいが、上側の繊維集合体21bにのみ水溶性繊維を混合するだけでもよい。上側の繊維集合体21bに水溶性繊維を添加していれば、蘚苔類植物22は上方に向かって生育するので、繊維の溶解後、繊維密度が小さくなり植物の生育を阻害しない。また、粘着成分が蘚苔類植物22の上部から覆い被さり、十分に粘着性を発現できる。
【0026】
また、蘚苔類植物担持体2の、下側の繊維集合体21aと、蘚苔類植物22との間に比較的伸縮の少ない繊維シート25を挟んでもよく、この比較的伸縮の少ない繊維シート25としてはスパンボンドを好適に用いることができる。また、このとき繊維集合体21aと比較的伸縮の少ない繊維シート25は予めニードルパンチ法で一体化しておくとよい。
【0027】
更に、裏面シート24は、保水効果を有するものであってもよく、例えばポリエチレンテレフタラート樹脂系保湿材やグラスウール、ロックウール等の合繊繊維等と言った繊維状物質等が好適に用いられる。この裏面シート24についても、繊維シート25と同様、予めニードルパンチにより一体化しておくことで、蘚苔類植物担持体2の形成を簡便な者とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の蘚苔類植物担持体の固定方法の、実施の一形態を示す断面図である。
【図2】蘚苔類植物担持体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 一液硬化型変成シリコーン系接着剤
2 蘚苔類植物植物担持体
21a 繊維集合体
21b 繊維集合体
22 蘚苔類植物
23 人工芝葉状体
24 裏面シート
25 伸縮の少ない繊維シート
H 屋上躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの繊維集合体の間に少なくとも蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により2つの繊維集合体をその繊維同士を部分的に絡ませて積層一体化し、人工芝葉状体を植設した蘚苔類植物担持体の下面を、被固定面に、一液硬化型変成シリコーン接着剤により接着することを特徴とする蘚苔類植物担持体の固定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の一液硬化型変成シリコーン接着剤は、粘度が20℃において1000〜1400Pa・Sであることを特徴とする蘚苔類植物担持体の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−230310(P2006−230310A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51140(P2005−51140)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】