虚血性疾患の治療方法および治療装置
本発明は、虚血性疾患の治療に関し、より詳細には網膜組織および脈絡膜組織の糖尿病性網膜症および虚血の治療に関する。該治療は、硝子体切除眼および硝子体非切除眼において作用するであろうし、硝子体液の選択的かつ分別的な電気分解に基づいて酸素および必要に応じて活性塩素を生成すると同時に、pHを制御する。酸素または活性塩素は糖尿病性網膜症、他の網膜血管疾患、および脈絡膜血管新生の発症を抑制または反転しうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、虚血性疾患の治療方法および治療装置に関し、より詳細には、糖尿病性網膜症および他の生体組織の虚血の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
糖尿病は網膜の循環系に悪影響を及ぼすことが知られている。通常、これは数段階を経て起こり、そのうちの2つが背景糖尿病性網膜症および増殖性糖尿病性網膜症である。糖尿病性網膜症の増殖段階では、網膜の循環不良のために網膜が酸欠状態となる(そして、網膜組織および脈絡膜組織の虚血を引き起こす)。この酸素欠乏に反応して、新生血管形成が生じ、この際、網膜中に十分な酸素を保持させようとして血管が発達する。しかし、新たに作られた血管は繊細であり、容易に出血して、血液を硝子体液中に漏出させ、これにより視力低下が引き起こされる。病気の後者の段階では、続いて起こる血管増殖および瘢痕組織によって網膜剥離や緑内障を引き起こすおそれがある。
【0003】
糖尿病性網膜症の発症と網膜の酸素欠乏との間に密接な関係があることは周知である。例えば、O.P.Van Bijsterveld(編者),Diabetic Retinopathy,Martin Dunitz Ltd.,London,(2000年);N.D.Wangsa−WirawanおよびR.A.Linsenmeier,『Retinal Oxygen:Fundamental and Clinical Aspects』,Arch.Opthalmol.121,547〜557頁(2003年);B.A.Berkowitz,R.A.Kowluru,R.N.Frank,T.S.Kern,T.C.Hohman,およびM.Prakash,『Subnormal Retinal Oxygenation Response Precedes Diabetic−like Retinopathy』,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.40,2100〜2105頁(1999年);ならびにR.Roberts,W.Zhang,Y.Ito,およびB.A.Berkowitz,『Spatial Pattern and Temporal Evolution of Retinal Oxygenation Response in Oxygen−Induced Retinopathy』,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.44,5315〜5320頁(2003年)を参照されたい。
【0004】
脈絡膜新生血管形成は脈絡膜虚血に起因するとも考えられてきた(Choroidal Neovascularization Correlated With Choroidal Ischemia,Ann−Pascale Guagnini,MD;Bemadette Snyers,MD;Alexandra Kozyreff,MD;Laurent Levecq,MD;Patrick De Potter,MD,PhD Arch Ophthalmol.(2006年)124:1063)。脈絡膜新生血管形成は加齢性黄斑変性症の状態で起こる可能性があり、西洋諸国では65歳以上の年齢層における失明の主要原因である。
【0005】
様々な特許が網膜症や眼球虚血の治療用の化合物および医薬製剤の使用について開示している。例えば、米国特許第7,064,141号明細書はアンギオテンシンII拮抗活性を有する医薬組成物を用いた単純型網膜症および前増殖性網膜症の予防方法、治療方法または進行抑制方法を開示する。米国特許第6,943,145号明細書は糖尿病性網膜症の予防および治療のための化合物および方法を開示する。米国特許第6,916,824号明細書は三環系ピロンを用いた白内障および糖尿病性網膜症の治療方法を開示する。米国特許第6,156,785号明細書は炭酸脱水酵素阻害剤の投与により視神経および網膜中の酸素圧を増大させる方法を開示する。米国特許第5,919,813号明細書は糖尿病性網膜症の治療におけるタンパク質チロシンキナーゼ経路阻害剤の使用を開示する。
【0006】
米国特許第7,074,307号明細書は生体液中の被検物質の測定用電気化学センサを開示する。この特許の開示によれば、電気化学センサが周囲環境の酸素濃度に依存せずに十分な酸素レベルで機能できるようにするために、電極により酸素が生成される。
【0007】
米国特許第5,855,570号明細書は酸素生成包帯を開示する。この発明は皮膚創傷の治癒促進を目的とした酸素の局所適用のための携帯用自給式装置である。その装置は高純度酸素の生成用の電気化学的手段、化学的手段、または熱的手段を内蔵する創傷包帯を含む。その装置は創傷の上部領域への酸素の供給を様々な濃度、圧力、および用量に調節することができる。その装置は内蔵のまたは付属の動力源によって駆動される。周囲空気をガス透過性カソードと接触させる。空気中に存在する酸素をカソードで還元して、陰イオン(すなわち、過酸化水素、スーパーオキシド、もしくはヒドロキシイオン)および/またはこれらの非プロトン化もしくはプロトン化中性種とする。これらの種の1以上は電解質を通して拡散し、次いでガス透過性アノードで酸化されて創傷の上部に直接高濃度の酸素を生成する。
【0008】
米国特許第4,795,423号明細書は、虚血性網膜症の治療のための、眼球の酸素化パーフルオロ化かん流を開示する。2つの小さなカニューレで眼球を貫通させ、酸素化パーフルオロ化エマルジョンまたは他の生理適合性酸素化液体を用いて、自然治癒過程の生成が可能となるのに十分な速度と持続期間で、流入および流出かん流を構築する。
【0009】
しかし、依然として、哺乳動物の虚血状態および前虚血状態を正確にかつ制御可能に治療することが必要とされている。生体組織に化学物質を投与することなくこのような状態を治療するならば特に有利であろう。糖尿病性網膜症を患う患者によく見られるように、眼においては、このような方法で虚血状態および前虚血状態を正確にかつ制御可能に治療することが特に必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
(発明の要約)
このような目的および他の目的は当業者には明白であろうし、これらは虚血組織および前虚血組織の正確かつ制御可能な治療方法および治療装置を提供することによって達成された。
【0011】
本治療は、虚血体内組織の近位または内部にある体液の電気分解によって、虚血体内組織または前虚血体内組織に酸素を供給することを含む。この治療は、眼の虚血組織を対象とする場合に、硝子体切除眼および硝子体非切除眼において有利に作用する。本方法は、硝子体液の選択的かつ分別的な電気分解に基づいて酸素および必要に応じて活性塩素を生成すると同時に、pHを制御する。
【0012】
本装置は、第1カソード電極と電気的に接触したアノード電極を有する組織移植型の電気化学システムを含む。電気化学システムは、流体を含有する生体組織に移植可能かつ作動可能であり、適切な電力供給部から電力を供給する場合に虚血組織の近位または内部にある組織液から酸素を電解により生成することができるように設計されている。
【0013】
本発明の目的は、患者の虚血性疾患を治療することである。本発明の他の目的は、糖尿病性網膜症の発症を遅延または抑制させることである。これは、硝子体液の選択的電気分解と硝子体切除眼および硝子体非切除眼の両方におけるpH制御とによって達成される。遊離塩素(すなわち、塩化物以外の塩素物質)の生成を許容してもよいし、あるいは、抑制制御してもよい。上記の方法は適切な臓器および組織に適用され、虚血性疾患全般を治療することができる。
【0014】
網膜症(例えば、糖尿病性疾患または他の網膜血管疾患)の治療のために、硝子体液を選択的に電気分解して、分子酸素を主として生成することができる。一実施形態においては、遊離塩素の生成を回避する。これは、適切な単相または多相の電解パルスパターンの選択や硝子体液の天然の抗酸化特性の活用によって達成されうる。眼房水を連続的に生成して、眼をリフレッシュする。
【0015】
第2の実施形態は遊離塩素の生成を許容する。網膜症の発症はチトクロームまたは低酸素誘導因子のようなレドックス感受性の分子にあると考えられているため、次亜塩素酸イオンや次亜塩素酸の形態で高電位の遊離塩素が存在すると、新規で脆弱な血管形成の開始を回避するシグナル伝達機構が提供されうる。
【0016】
本発明の一形態によれば、上述した目的および他の目的は、水の単相、二相、または多相のパルス電解により、選択的に酸素を生成させて遊離塩素の生成を回避することによって達成される。酸素の選択的生成は多様な方法により達成されうる。
【0017】
第一に、硝子体液のような塩化ナトリウム溶液中で金属電極の表面に自然に生成する電気二重層は電極表面近傍の塩化物イオンを排除する。的確な単相または多相パルスの時間プロファイルを用いて慎重に電荷を注入することによって、硝子体液の水性成分である水を選択的に酸化して分子酸素にすると同時に、塩化物イオンの酸化による遊離塩素の生成を回避することができる。選択された時間プロファイルは単相、二相、または多相であってよい。
【0018】
第二に、硝子体液の場合には、低レベルの遊離塩素が生成されたとしても、アスコルビン酸塩、グルコース、および硝子体液の天然由来成分である他の還元性有機化学種の抗酸化特性のおかげで、これらは塩化物に変換されるだろう。
【0019】
第三に、一実施形態では、遊離塩素が電解生成されて、高い酸化電位を有するClO−/Cl−対により酸化還元電位が維持され、その結果、新規で脆弱な血管形成の開始を回避するシグナル機構が提供される。
【0020】
第四に、硝子体液のような体液の電気分解によって引き起こされうるpHの逸脱は「pHクランプ」によって修正されうる。かようなpH制御装置がない場合、pHの逸脱が硝子体液の生化学を不利に変化させるおそれがある。pHクランプは3つの電極に加えて酸素センサおよび/またはpHセンサを利用することが好ましい。硝子体液の場合には、好ましくは2つの電極を硝子体液中に配置し、3つ目の電極を眼腔(ocular cavity)の外側とする(例えば、患者の耳の裏側に移植する)ことが好ましい。センサにより収集された情報は特定の電極の動作を選択するために使用される。
【0021】
さらに以下に詳述するように、特定の電極の動作はpHを調節し、pHを特定の範囲に維持する。この試みは、硝子体液のような体液の正常な生化学に悪影響を及ぼすおそれがあるpHの範囲外への逸脱を有利に防止する。
【0022】
本発明は、有利なことに、正確かつ制御された方法による哺乳動物の虚血組織および前虚血組織の治療を提供する。これに加えて、本発明は、生体組織に化学物質を投与することなくこれを達成することもできる。眼は化学物質や侵襲的治療に特に敏感であるため、本発明の利点は眼の治療にとって特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、硝子体液の主要な電解質媒体である塩化ナトリウムなどの電解液中に浸漬した金属電極の電気二重層の構造を示す概略図である。金属電極表面に近接した水層はバルク領域に比べて塩化物イオンの濃度が低いことがよく知られている(Buttら,Physics and Chemistry of Interfaces,Wiley−VCH,2003年)。
【図2】図2は、有限量の正電荷を電極に単相注入して、金属表面に近接しかつ塩化物イオンを奪う水を酸化することを示す図面である。酸素収率の向上のために、正電荷の注入よりも短時間の負電荷の注入を先行させ、電極表面から離れたところに塩化物イオンをさらに追いやることができる。
【図3】図3は遊離塩素の生成を反転するために適用されうる二相パルスを図示したものである。この場合、アノード相の間に生成された遊離塩素を、アノード相の直後に生じるカソード相の間に塩化物へと還元することができる。
【図4】図4は、流体の自然流を有するヒトの眼の断面および眼房水の生成を図示したものである。
【図5】図5はpHクランプの一実施形態を図示したものである。カソード、アノード、pHセンサ、および酸素センサを、酸素化領域に近接して配置する。第2のカソードを眼腔の外側に配置する。以下に記載するように、この電極配置で硝子体液のpHを所望の範囲内に維持する。
【図6】図6は、眼および3電極pHクランプにおける電気分解の物理化学を再現する模式的なガラス眼房である。これはpHクランプが作用することを証明するデータを収集するために使用される。
【図7】図7はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の酸素および塩素の生成に関するデータを示す。このデータは横軸に示した対応持続時間を有する800μA振幅についてのものである。パルス間の時間幅は10msである。酸素の生成は塩素の生成よりも優先して起こる。
【図8】図8はPBS中での水素および酸素の同時生成を示すデータを含む。パルスの振幅は800μAであった。パルスの持続時間を横軸に示す。パルス間の時間幅は10msである。
【図9】図9は図8のデータ点についての水素対酸素の化学量論比をデータ点ごとに計算したものを示す。
【図10】図10は硝子体液用の合成化学製剤を含む媒体中での水素および酸素の電気化学的同時生成に関するデータを含む。パルスの振幅は800μAであった。パルスの持続時間を横軸に示す。パルス間の時間幅は10msである。
【図11】図11はウサギにおける光血栓性網膜静脈閉塞のデータを示す。
【図12】図12は光血栓性静脈閉塞後に硝子体液で治療したウサギのサブグループから得られた結果を示す。
【図13】図13は網膜動脈閉塞の前および後の網膜内酸素測定を示す。
【図14】図14はイヌの眼の光血栓症から1週間後の眼底撮影を示す。
【図15】図15はイヌ網膜の光血栓性閉塞の前および後のOCTデータを示す。
【図16】図16はイヌにおける短期間の電解による酸素生成の結果を示す。
【図17】図17は閉塞を生じて治療および酸素化処置を全く受けなかった対照のイヌの眼、閉塞後3日目および7日目に硝子体の酸素化処置を受けたイヌの眼から得られた組織構造を示す。
【図18】図18はごくわずかに全体的な炎症があるものの感染症や網膜剥離の兆候は全くない、移植から6月後のイヌの眼のパリレン電極アレイを示す顕微鏡写真である。
【図19】図19は酸素発生器(OXYGENERATOR)の電気化学システムのシステムレベルの設計を示す一般概略図である。
【図20】図20は移植案のおおよそのサイズを示す概略図である。
【図21】図21はリン酸緩衝生理食塩水中での、100Hz、800μAの振幅の繰り返しパルス下におけるO2またはCl2の定常状態での生成量とパルス持続時間との相関関係を示すグラフである。
【図22】図22は本発明のpH制御の概念を示す図面である。
【図23】図23はエームス(Ames)媒体および200μg/mlのヒアルロン酸を電気分解した際のpH変化を示すグラフである。
【図24】図24はパリレン封入電極およびコイルの写真を示す。
【図25】図25は図5に示すpHクランプの別の方向を図示したものである。第2のカソードを眼腔の外側に配置する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
一形態において、本発明は、対応する虚血組織の治療を行うことによる哺乳動物の虚血状態または虚血疾患の治療方法を対象とする。虚血組織は、正常レベル未満の酸素に苦しむ任意の生体組織、または、低レベルの酸素状態になりやすいもしくはその影響を受けやすい(すなわち前虚血性)と判断される任意の組織である。低レベルの酸素は一般に、特定の生体組織への血液供給が必要量未満となる結果生じる。治療を必要とする哺乳動物は任意の哺乳動物であってよく、最も注目すべきはヒトである。
【0025】
治療されうる虚血組織の例としては以下に制限されないが、患者の眼の糖尿病性網膜症、糖尿病以外の網膜血管疾患(例えば、静脈閉塞および動脈閉塞)に起因する患者の眼の網膜症、脈絡膜虚血(例えば、黄斑変性症の種々の形態)に起因する網膜症、関節腔(例えば、膝および肩)の虚血、皮膚空間および皮下腔についての虚血、中枢神経系および末梢神経系(例えば、脳および脊髄)の虚血、臓器(例えば、心臓、腎臓、および胃腸系の臓器)の虚血、ならびに幹細胞移植などの移植された臓器および組織の虚血に関係する組織が挙げられる。
【0026】
本方法は、虚血組織に密着または密接した状態で(すなわち虚血組織の近位または内部で)体液を電気分解して、虚血組織の酸素レベルを増大させることを含む。「近位(proximal)」とは、虚血組織内部に必ずしも存在するとは限らないが、治療中の虚血組織と生体液を交換することにより密接な接触を維持している生体液含有組織の領域を意味する。近位の組織には、流体由来の酸素が虚血組織に拡散しうるような高酸素濃度の貯留部として機能しうる流体含有組織が含まれてもよい。流体の一部の例としては、硝子体液、房水、脳脊髄液、またはリンパ管のような間質液が挙げられる。
【0027】
好適な実施形態において、電気分解は、虚血組織の流体への電気化学システムの移植および電気操作によって実施される。移植された電気化学システムは、アノードおよびカソード(本明細書において、第1のアノードまたは第1のカソードとも称する)を含むことが好ましい。
【0028】
生体液中で動作するカソードは主として下記の半反応に従って水を水素に還元するであろう。
【0029】
【化1】
【0030】
スーパーオキシドアニオンおよび過酸化水素は溶存酸素のカソード還元によっても生成しうる。これらの種は生物学的に有毒である傾向があるが、通常、これらの種を無害種へと効率的に変換するのに、細胞性酵素であるスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼを使用することができる。
【0031】
生体液中で動作するアノードは下記の半反応に従って水を水素へと酸化するであろう。
【0032】
【化2】
【0033】
生体液は通常、塩化物塩を含有するため、アノードは付加的に下記の半反応に従って塩化物イオンを塩素分子へと酸化するであろう。
【0034】
【化3】
【0035】
塩素の半反応は酸素の半反応に比べて標準電位が高いが、過電圧が低い。このため塩素の酸化反応はアノードの正常動作時に重要となる。
【0036】
アノードで生成した塩素分子(Cl2)は直ちに水と反応して様々な塩素の加水分解生成物を生成する。主要な塩素の加水分解生成物としてはHOCl(次亜塩素酸)およびそのClO−塩がある。本出願においては、塩素およびその加水分解生成物を「塩素物質(chlorinous substance)」とも称する。
【0037】
一実施形態では、電気分解中の生体液における塩素物質の生成を制御しない。この実施形態は塩素物質が有益な効果を発揮すると考えられる特定の状況において有利となりうる。例えば、酸素と同様に、活性塩素は糖尿病性網膜症、他の網膜血管疾患、および脈絡膜新生血管形成の発症を抑制または反転しうる。また、塩素物質が有利となり得ない、あるいは有害でさえあるかもしれない場合に、これらの物質は、特定の環境下で、細胞の天然の抗酸化過程によって無害化されうる。さらに以下に詳説するように、これは特に硝子体液にあてはまる。
【0038】
他の実施形態では、電気分解中の生体液における塩素物質の生成を制御する。この実施形態は塩素物質が何らかの他の点で有毒、炎症性、または有害であると知られている、あるいは考えられる特定の状況において有利となりうる。塩素物質の生成は電気分解が実施されている電極の近傍から塩化物イオンを除去することによって制御されうる。塩化物イオンの除去は、化学的方法または物理的方法などの当技術分野で知られている任意の好適な方法で実現されうる。あるいは、生成された塩素物質を、塩化物または同様の悪影響を及ぼさない他の化合物に戻すことにより塩素物質の生成を制御することができる。この変換は、化学的方法または物理的方法をなどの当技術分野で知られている任意の手法によって達成されうる。
【0039】
好適な実施形態では、塩素物質の生成を電気分解法によって制御する。「制御」とは、塩素物質の生成を任意の量だけ(例えば、塩素物質が存在しないかあるいは悪影響を及ぼす閾値未満の極微量と判断される点まで)減少させることを意味する。一実施形態によれば、電気分解法は、塩化物でなく水を選択的に酸化することを可能とする方法でアノード電極の電気二重層内部の塩化物イオンの配置または濃度プロファイルを変更することのできるパルス電解技術である。パルス電解技術は単相、二相、または多相であってよく、1つのパルスを含んでいてもよいが、より好ましくは、均一な、パターン化された、または可変的な時間遅延によって分離された数個の連続的なパルスを含む。任意の好適な電気(電極)パルス発生器を本明細書に記載する電解パルスの生成に使用することができる。
【0040】
上記のパルス電解技術は、例えば、アノードの電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する一連の単相正パルスを印加することによって、このような水の選択的酸化を実現しうる。この方法では、水のみを含む電気二重層の微細層への侵入に必要とされる時間が塩化物イオンに与えられないため、電解パルス時に水が塩化物に優先して選択的に酸化されている。塩化物の酸化を低減するために、パルス持続時間は電気二重層の再構築に必要な緩和時間よりも短いことが必要とされる。緩和時間は電極の種類、サイズ、ならびに化学的および物理的条件によって異なる。したがって、好適なパルス持続時間は遭遇する条件に非常に依存し、このため、適切なパルス持続時間は状況によって大幅に異なりうる。例えば、一実施形態において、正パルスは、最小パルス時間が約50マイクロ秒(50μs)であり、最大パルスが約10ミリ秒(10ms)である範囲内である。より好ましくは、正パルスは最小パルス時間が約50μsであり、最大パルス時間が約500μsである範囲内である。さらに好ましくは、パルス持続時間は約100〜200μsの範囲でありうる。
【0041】
正パルスは好適な時間遅延によって分離される。時間遅延はアノードが電気二重層を再構築するのに十分長い時間であることが好ましい。例えば、一実施形態において、時間遅延は、最小値が約500μmであり、最大値が約10msである範囲内であることが好ましい。他の実施形態において、時間遅延は約500μs〜5msの範囲、または5ms〜10msの範囲でありうる。
【0042】
上述したように、アノードにおける水−塩化物分離効果は、適当な持続時間を有する負パルスを正パルスの前に起こす(前処理する)ことによって、増強されうる。負パルスは電極表面からさらに離れたところに塩化物イオンを追いやるという一次作用を有し、これにより電極表面における水と塩化物イオンの分離が促進される。この方法は、塩素化合物の生成が開始する前に長時間の正パルス持続時間を許容するという有益な効果をもたらす。上記目的に特に有効とするために、負パルスは好ましくは約1〜1000μsの範囲の持続時間を有する。より好ましくは、負パルスは約500〜1000μsの範囲である。負パルスと正パルスとの間の時間経過は好ましくは約1〜1000μsの範囲、より好ましくは約500〜1000μsの範囲である。前処理電圧の大きさは電気分解の閾値未満であることが好ましい。
【0043】
他の実施形態において、塩素物質の生成は、水の酸化のための正パルスの印加後に、いずれかの残留塩素物質を塩化物イオン塩に還元するのに十分な持続時間および電圧を有する負パルスを印加することにより制御される。例えば、次亜塩素酸イオンは、負パルスにより下記半反応に従って塩化物イオンに変換される。
【0044】
【化4】
【0045】
アノードにおける水の酸化反応およびカソードにおける水の還元反応はそれ自体でpHの変化を伴うことなく組み合わさる。しかし、水の還元反応が塩素およびその加水分解生成物の生成を伴う場合、より低いpHへの移動が起こる。塩素物質の生成以外の細胞におけるプロセスも生体液の電気分解時にpHの移動を引き起こしうる。
【0046】
pHが悪影響を及ぼしうる範囲を超えないようにするため、当技術分野で知られている任意の好適な方法によってpHを制御することができる。好適な実施形態では、好適な電気分解法によってpHを制御する。好ましくは、電気分解法は、第1のアノードおよび第1のカソードが移植された領域の近位にまたはこの領域に隣接して存在する生体組織または生体液中に第2のカソードを移植すること、すなわち、上述した「pHクランプ」を含む。第2のカソードは第1のアノード/カソード対と電気化学的に接触させない(すなわち、同一の電解質区画内に存在させない)ことが好ましい。例えば、本方法を眼球の虚血に適用する場合、第2のカソードは眼腔の外部とすることが好ましい。図25を参照されたい。水中での酸素の生成はpHを低下させるため、第2の操作可能なカソードを包有して水酸化物イオンを生成することにより、低下したpHを平衡化させる効果が生じるであろう。電気分解が行われている場所の近傍に適当なpHセンサを含むことによって電気分解中の生体液のpHをモニターすることができる。同様に、電気分解が行われている場所の近傍に適当な酸素センサを含むことによって電気分解中の生体液の酸素レベルをモニターすることができる。
【0047】
第2のカソードは第1のアノードおよび第1のカソードシステムの一部ではない電気化学システム内部で(すなわち、別個の電気化学的区画の一部として)操作されるか、あるいは虚血組織の生体液中に移植されている第1のアノードおよび第1のカソードに電気的に接続されうる。pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報は、pHを所望の範囲に調節するために、第1のアノードおよび第1のカソード、もしくは第2のカソードの一方、またはこの両方を常時動作させるであろう。
【0048】
生体組織の正常な生理的範囲は約6.5〜約8.5の範囲である。多くの場合、生体組織のpHをこの範囲内に制限することが望ましい。用途および必要とされるpH制御のレベルに応じて、異なる方法により(例えば、塩素物質の生成制御、もしくは塩素物質の生成制御と第2のカソードの使用との併用によって、または第2のカソードの単独使用によって)、pHを制御することができる。pHは、約6.5〜約8.5の範囲内、より好ましくは約6.5〜約8.0の範囲内、さらに好ましくは約6.5〜約7.5の範囲内に留まるように制御されうる。
【0049】
他の形態において、本発明は上記の方法を実現するための装置を対象とする。本装置は、上記の組織移植型の電気化学システムを含む。電極が移植され、電力供給源へ連結することにより動作するように作られる場合に、電気化学システムは虚血組織の近位にある組織液から酸素を電気分解により生成することができる。
【0050】
電力供給源への連結は、物理的(例えば、配線による)連結である必要はない。連結は非物理的連結、例えば、電気化学システムと無線の電力供給源との間の無線電磁伝達リンクのような形態であってもよく、場合によってはこのような形態が好ましい。無線伝達装置において、送電は通常、ファラデーの電磁誘導の法則によってエネルギーを伝達するコイルなどの隣接した相互誘導性装置間の相互作用によって実現される。無線の動力供給源は電磁周波数を介して送電可能である必要があるが、電気化学システムは電磁伝達の受信が可能である必要がある。電磁伝達には電力または情報の伝達について当技術分野で知られている任意の適当な電磁周波数を使用することができる。使用される電磁周波数は、例えば、赤外線の、マイクロ波の、またはラジオ波の周波数でありうる。より好ましくは、伝達はラジオ波の周波数を基準とする。必要に応じて、後で使用するための伝達電力を貯蔵するように電気化学システムを構築してもよい。
【0051】
本発明に関して、電気分解を行うために使用されうる物理的に連結した電力供給の例としては、慣用の電池、燃料電池、生物燃料電池、もしくは生物電池、または生物運動により駆動される電池、および太陽電源装置が挙げられる。
【0052】
医療用途の移植型電極の使用は周知である(例えば、J.Weiland,W.LiuおよびM.S.Humayun,『Retinal Prosthesis』,Ann.Rev.Biomed.Eng.7,361〜401頁(2005年)を参照されたい)。生体組織への移植に適していると当技術分野で知られている電極はいずれも本発明に好適であると考えられる。電極は、移植可能で、治療中の検体に有害とならない限り、任意の適切なサイズ、形状、および構成であってよい。例えば、一実施形態において、電極は形状が球形であり、白金で構成されている。電極のサイズは好ましくは約0.1〜10mmの範囲内であり、より好ましくは、特に眼に使用される場合には、約0.5〜2mmの範囲であり、さらに好ましくは約1mmである。電極および触媒の機能表面積を見かけ上の幾何学的面積に比べて大幅に増大させることができることは周知である。これらの技術を本発明に有利に採用することができるであろう。
【0053】
第1のアノードと第1のカソードとの距離は好ましくは約20〜80ミクロンの範囲である。より好ましくは、電極間距離は約30〜70ミクロンであり、例えば50ミクロンである。
【実施例】
【0054】
例示目的および現時点での本発明のベストモードを記載する目的で、実施例を以下に記載した。ただし、本発明の範囲は本明細書に記載される実施例によって決して制限されるべきではない。
【0055】
[実施例1]
図1は金属電解質界面における電気二重層の構造を示す図面である。電極12を直ちに取り囲む水溶性領域10はバルクの水相16に比べて塩化物イオン濃度が小さい。塩化物イオン濃度はバルク値に達するまで電極表面からの距離とともに増大する。外部ヘルムホルツ面14における塩化物イオン濃度は中間の値を有する。
【0056】
図2は電極への正電荷10の注入を図示したものである。パルスの持続時間12が塩化物イオンが電極表面へと運動するための固有の運動時間定数よりも短いと、遊離塩素の過剰な生成を回避しつつ、アノードで水が主として分子酸素へと酸化されるであろう。このことが、図2の第1式16(2H2O−→O2+4H++4e−)によって説明される。塩素ガスは、生成すると直ちに水と反応して次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸を生成する。これらを示す式(2Cl−→Cl2+2e−およびCl2+H2O→OCl−+2H++Cl−)には網掛けが施されてあり、酸化的電荷注入のために使用された速度論的方法のおかげで、これらの反応が起こらないことを示している。この注入の後には、電気二重層の元の構造を再構築するために必要とされる天然の運動緩和時間がある。このことは他の正電荷の注入前の待機時間14を示唆する。
【0057】
図2への挿入図に図示されるように、繰り返しパルスを使用して、電気二重層の再構築に必要とされる緩和時間と同じ時間またはより長い時間待機することによって、塩素の代わりに酸素を選択的に生成することができる。図7のデータは本発明の当該形態を実証するものである。酸素は100〜200μsのパルス持続時間で生成するが、このパルス持続時間の範囲において塩素の生成は検出されなかった。アノード/電解質界面における塩化物イオンの酸化による塩素の生成の開始は水の電気化学的酸化による酸素生成の開始に比べて速度論的に遅い。図8のデータはPBSのパルス電解による酸素および水素の電気化学的同時生成を含む。酸素データは図7に示すものと同一である。図8はPBS中の対応する水素対酸素の化学量論比を含む。注入電荷の絶対量が界面の二重層の電気容量を飽和するにつれてその比は2に近づく。
【0058】
[実施例2]
負電荷を予備注入した直後に酸素の生成のためのファラデー正電荷を注入することにより、遊離塩素に優先した酸素の選択的な生成を促進することができる。負電位の絶対値がより高く形成されることにより、金属電解質界面に密接する塩化物イオンのさらなる減少がもたらされるであろう。このことは遊離塩素生成の開始前の許容可能なパルス持続時間を長くするという有益な効果を生じるであろう。
【0059】
[実施例3]
遊離塩素の生成を減少させる他の方法を図3に図示する。持続時間12の正電荷注入10によって酸素が生成した後、反応18に示すように、不要な次亜塩素酸イオンが生成する可能性がある。即時の持続時間16の負反転パルス14は、次亜塩素酸塩/次亜塩素酸を還元して塩化物イオンに戻すであろう。これを反応20(2e−+2H++OCl−→H2O+Cl−)に示す。
【0060】
[実施例4]
金属電極−電解質界面における塩化物イオン濃度の変化はボルツマン分布に従い、これは連続指数関数的に距離に依存する。したがって、パルス持続時間の増加に伴い、遊離塩素の生成がいくらか予想される。硝子体液の天然の抗酸化特性が遊離塩素の生成をさらに抑制するのに利用されうる。硝子体液は以下の組成:水、コラーゲン原線維、糖類、アスコルビン酸、ヒアルロン酸および無機塩(主に塩化ナトリウム)を有する。糖類およびアスコルビン酸は遊離塩素と反応するという意味で優れた抗酸化剤である。さらに、(上述したスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの作用に加えて)これらはカソードで生成する可能性のあるスーパーオキシドアニオンおよび過酸化水素と反応するという意味でも優れた抗酸化剤である。
【0061】
硝子体液はグルコース濃度が3.4mMであり、アスコルビン酸濃度が2.0mMである。また、図4に示すように、眼房水10は2〜3μL/分の速度で眼12に自然に生成される。したがって、グルコースおよびアスコルビン酸の両方が定常供給14される。遊離塩素の生成速度の上限を設定し、眼房水の天然の抗酸化作用およびその生成速度を考慮することにより、遊離塩素の生成速度の上限を設定することができる。図10は硝子体液の合成媒体中における水素および酸素の電気化学的同時生成に関するデータを示す。これらの条件下では、アスコルビン酸塩との迅速な反応やグルコースとの少々遅速な反応によってアノードにおける塩素生成が速やかに排除される。
【0062】
[実施例5−pHクランプ]
硝子体液の電気分解を行う場合には、少なくとも3つの主要な電気化学反応が起こる。2つのアノード反応は、H2O(液体)→1/2O2(気体)+2H+(aq)+2e−および2Cl−(aq)→Cl2(気体)+2e−である。主要なカソード反応は2H2O(液体)+2e−→H2(気体)+2OH−である。水素および酸素の排他的生成により、補償量の水素イオンが生成され、pHが変化しない。しかし、塩化物イオンの酸化による遊離塩素の生成は水素イオン生成を伴わない。このためpH変動が生じうる。pH変動に対する解決策が図5に示すpHクランプ(またはその代わりに図25に示すもの)の使用である。pHクランプは2つの眼球内部電極10および12と、pHセンサ14およびO2センサ16とから構成されている。酸素センサが網膜や脈略膜の組織の虚血の発生の信号を送る場合、酸素/遊離塩素(および水素)の電解生成が進行する可能性がある。代替カソードとして使用される第3の電極18もまた存在する。
【0063】
この第2のカソードは、物理的には眼球内腔の外側に位置するが、組織の自然流体中に存在する導電性のイオン経路によって硝子体液に電解的に接続している。pHに応じて、pHを特定の範囲内に維持するような適当な電極対を接続するために、電子スイッチを使用してもよい。図6はpHクランプの概念の原理を検証する模式的な眼房である。図6は
硝子体液を示す化学混合物を含有する。10はpHプローブである。14と符号付けされた2つの電極は「眼腔」の中に存在するが、第3の電極(第2のカソード)16は腔の外部(「耳の裏側」)に位置し、合成硝子体液で満たされた管状経路中の微細フリットによって分離されている。下記表に、2つの電極の構造について、pHを時間の関数として示した実験データを記載する。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
これらのデータはpHを所定レベルに留める方法を実証する。セル空洞が単一のアノードを含み、サイドアームが単一のカソードを含むと、反応:H2O→1/2O2+2H++2e−に従った水の酸化を介して水素イオンが生成するため、セル空洞の局所的なpHは徐々に酸性化するであろう。カソードにおける補償的な水素イオンの消費反応は眼球内腔から取り除かれ、局所的なpHの変動にほとんど影響を及ぼさない。しかし、両方の電極が眼球内腔に存在すると、水の酸化と塩化物イオンの酸化との間で水素イオンの生成が異なるために、pHはより塩基性の値の方へ反対方向に変動する。前者の場合には水素イオンが生成し、後者の場合には水素イオンが生成しない。水素放出カソードは、酸素反応を介した水素イオンの生成量を酸化される当量の塩化物イオンの分だけ超えるという化学量論的な原則に基づいて水素イオンを消費する。
【0067】
[実施例6−静脈閉塞を患う動物の硝子体液の酸素化]
過去の研究において、光血栓性静脈閉塞をウサギとイヌの両方に生成させることに成功した。そして、両方を間欠的な硝子体の酸素化で治療した。閉塞を蛍光眼底血管撮影(FA)によって確認し、網膜浮腫を光コヒーレンス断層撮影(OCT)を用いて分析した。VEGF用の硝子体液サンプルのELISA分析である、光ファイバー蛍光消光システムを用いて眼球内の酸素圧測定も行った。網膜の酸素消費を直接測定するための侵襲的技術が必要とされるせいで、ヒトの網膜の酸素消費速度の確固たる値は全く確立されていない。ホロアンギオチックな(holangiotic)網膜における酸素消費(Q O2)の定量化を試みる多数の実験技術を実施してきており、明るい所で3.4〜8.3ml O2/100g/分の範囲であろうと推定された。この範囲の中間である5.0ml O2/100g/分の速度とイヌ科動物/ネコ科動物の網膜の湿重量である122mgとを仮定すると、網膜の総酸素消費量を6.1μl O2/分と算出することができる。霊長類{れいちょうるい}の網膜由来のデータには明るい所で0.5μl O2/分/cmの消費速度が示されるが、これは、ヒトにおいて11.89cm2の網膜領域を使用し、推定酸素消費速度が網膜全体に対しておおよそ5.94μl O2/分であることを示す。これらの網膜酸素消費量の推算値を使用して、さらなる実験的な酸素化への試みを進めた。
【0068】
網膜内部の血流が不足し、前網膜の大きな酸素圧勾配が血管新生化髄質ウイングおよび無血管性網膜にわたって存在するため、まず、ウサギをイヌの代わりに使用し、酸素を測定する方法論を確立した。これにより酸素プローブを容易に較正することが可能となる。さらに、静脈閉塞は酸素測定を容易にする重大な網膜の虚血をもたらす。端的に言うと、着色ウサギに蛍光眼底血管撮影(FA)、カラー眼底撮影、および光コヒーレンス断層撮影(OCT)を行い、開始時点およびその後の閉塞時のVEGF用の硝子体液サンプルを光血栓的に右眼中に作成した。この後に、動物を3つの実験グループ:対照、仮病、および酸素化に分割した。最初のグループでは、酸素を硝子体液への直接投与を介して輸送し、効果が達成された時点で電気分解を使用して酸素を生成した。最初のグループでは、対照動物は硝子体液の治療を全く受けなかった。一方、仮病グループの動物にはその後の3日目と7日目に6μL 02/分の速度で1時間、室内空気(21%O2)を注入し、酸素化グループの動物には同様にその後の3日目と7日目に6μL O2/分の速度で1時間、100%O2を注入した。それぞれの追跡調査時に、すべての動物の反復カラー写真、FA、硝子体液サンプル、硝子体液注入前後の酸素記録、およびOCT画像をとった。14日目に、動物を犠牲にして組織学的分析のために眼を採取した。光ファイバーの酸素感受性プローブ(Oxford Optronix)を用いて酸素測定を開始時およびその後の閉塞時に(硝子体液の中間および前網膜の)多数の点で行った。蛍光消光に基づくこのシステムは0〜100mmHg O2の範囲を有し、ヒトの眼球内部の酸素記録に従来使用されてきた。測定を最低30秒間または読み込みが安定するまでの間ごとに各時点において記録した。
【0069】
ウサギ(N=4)の試験的な系では、下記結果が見出された。1)全てのウサギにおいて静脈閉塞の作成に成功し、FAを用いて確認した。OCTでは関連した網膜浮腫が確認された。2)眼球内部の酸素記録はa)測定開始時にはウサギ由来の刊行データと一致しており、b)閉塞後のウサギにおいては著しい減少が示された(図11を参照)。3)酸素化後、前網膜および硝子体液のVEGFのレベルをELISAによって測定すると、酸素化を受ける動物では上昇がはるかに抑えられていた(図12を参照)。研究のこの取り組みでは、酸素が間欠的に短時間適用され、したがって、VEGFレベルを正常に回復する可能性はないことに留意されたい。
【0070】
図11に示すように、網膜の静脈閉塞を4匹のウサギにおいて実施した。示したデータは開始時(前閉塞)および光血栓性閉塞後3日目のものである。標準偏差を括弧書きで示す。硝子体液の異なる位置で取られた眼球内部の酸素記録により閉塞後の酸素レベルの著しい減少が示された。OCT記録により、臨床検査で観察される浮腫と一致する網膜厚さの増大が示された。VEGFのために分析された硝子体液のサンプルから、閉塞後状態においてVEGFレベルが大幅に増加することが示された。
【0071】
図12は光血栓性静脈閉塞後に硝子体液の酸素化治療を受けたウサギのサブグループから得られた結果を示す。10A:閉塞後7日間が経過し、6μL O2/分の速度で硝子体液に1時間の酸素輸送を行う前およびその直後の酸素記録。網膜全体の酸素レベルは酸素化前のRVOを有する動物で観測される非常に低い酸素レベル(すなわち、基準記録)に比べてかなり高かった。P値を括弧書きで示す。10B:閉塞後7日目の硝子体液のVEGFレベルの前閉塞レベルに対する割合の増加。閉塞後3日目に治療動物に1時間の酸素化を行った。酸素化された動物では硝子体液内部のVEGFの上方調整の程度が小さくなった。1時間の酸素のみの投与であったため、VEGFレベルの正常化は期待されなかった。
【0072】
硝子体液および前網膜の酸素レベルに加えて、網膜内部の酸素レベルもRVOの動物モデルで増大することが示された(図13を参照)。図13Aから、網膜の動脈閉塞後に網膜内部の酸素レベルが顕著に減少することが示される。図13Bから、網膜の動脈閉塞後および硝子体液中の酸素の増加後に、前網膜の酸素レベルの増大ならびに網膜内、特に網膜内部に酸素化が増大することが示される。
【0073】
RVOのウサギにおける硝子体の酸素化によって肯定的な結果が既に得られたので、第2段階では、電気分解テストをイヌに進展させた。イヌの眼はホロアンギオチック(holoangiotic)網膜を提供し、網膜血管は自動調節を受ける。これらはヒトに近く、電気分解電極を移植するのに十分大きいサイズでもある。図14および図15はイヌにおいてRVOを引き起こす手順の結果を示す(図14、15を参照)。
【0074】
図14に、写真AおよびBはイヌにおける光血栓症後1週間目の眼底撮影を示す。写真は拡張した蛇行性の網膜血管、網膜内部の出血および浮腫を示す。蛍光眼底血管撮影写真CおよびDは同様の研究結果と色素の漏出によって取り囲まれた閉塞サイトとを示す(D中の矢印を参照)。
【0075】
図15はイヌの網膜における光血栓性閉塞の前後で得られたOCTデータを示す。写真Aは閉塞前の内面層の外側の下方に位置するイヌ科の動物の網膜の部位から得られたOCT画像を示す。写真Bは閉塞後4日目の同部位の網膜から得られたOCT画像であり、顕著な網膜浮腫、網膜内部の嚢胞性変化(白矢印)、ならびに漿液の網膜剥離(赤矢印)を示す。画像はそれぞれ2mm×5mmである。
【0076】
図16はあるイヌの短期電解酸素生成の結果を示す。正常の網膜の全体にわたる前網膜部位および光血栓性静脈閉塞を受けた網膜の全体にわたる前網膜部位において、1時間の電解酸素化の前と後の両方で、酸素記録を行った。閉塞を有する前網膜の酸素の低下が、1時間の電解酸素生成後の前網膜の酸素レベルの回復と同様に示される。気泡成長は観察されず、pH記録は常に7.5に安定したままであった。
【0077】
閉塞後、硝子体液内部で1時間の電解酸素生成を行う前と後とに眼球内部の酸素記録をとった。計画部位を介して外科的に導入され、前部硝子体液中に配置された2つの1mmの白金球電極を用いて電気分解を行い、時間遅延が100μsであり、持続時間が200μsである800μAの単相パルスを用いて刺激した。硝子体液内部の酸素勾配の顕著な上昇が観察された(図16を参照)。電極金属の半減期を延長する目的で、二相パルスも研究されている。
【0078】
図17に示すように、組織学的分析(TUNELおよびGFAP染色)により、RVOを有する対照イヌの眼と間欠的な酸素化治療された眼との間に差異はないことが明らかとなった。これは、硝子体液を通じた酸素輸送が網膜に毒性の増強をもたらさなかったという有望な結果と考えられる。予防作用の観察としては有益な反応であると期待されるものはなかったが、この理由は、酸素化が間欠的であり、RVO後の14日間にわたり毎回1時間につき2回しか輸送を行わなかったためである。
【0079】
図17は、閉塞を受けて全く治療を受けなかった対照のイヌの眼(A、C)および閉塞を受けた後に硝子体の酸素化を3日目と7日目に行った酸素化された眼(B、D)から得た組織構造を示す。眼を閉塞後14日目に採取した。画像AおよびBは対照(A)および酸素化された眼(B)におけるTUNEL染色を示す。TUNEL陽性細胞を黒矢印で示すが、これは両方のグループで同等のものであった。画像C/Dは対照(C)および酸素化された眼(D)におけるGFAP(緑)およびDAPI(青)染色を示す。GFAPおよびDAPI染色の両方のレベルに有意な差異はなかった。棒線=100ミクロン。
【0080】
[実施例7−バイオ電子装置の動物における外科的移植]
強膜に固定したバイオ電子装置と眼球内電極とを接続した小さな結膜下経強膜ワイヤを動物に移植した。この試みは眼の内側に電極のみを配置させる一方で、電子装置を外部に据え置く。電気的、熱的、および機械的作用への網膜組織の暴露を最小化するとともに、外科的な移植や外植がより容易なものとなるため、これは理想的である。ある設計においては、折りたたみ式の酸素発生(OXYGENERATOR)電極が使用される。これらは直径1mmの切開を通して挿入されうるが、装置の残りの部分は結膜下の強膜に眼球外で接合される。
【0081】
図18はごくわずかな全体的な炎症があるものの感染症や網膜剥離の兆候は全くない、移植から6月後のイヌの眼のパリレン電極アレイを示す顕微鏡写真である。矢印は電極アレイが経強膜的である部位を示す。ここに示すように、酸素発生(OXYGENERATOR)電極に向かって、眼球内電極アレイは眼球壁のすぐ内側で途切れており、網膜上に連結される必要はない。
【0082】
[実施例8−バイオ電子酸素発生器の理工学]
眼球内流体の精選された電気分解によって溶存O2のレベルを上昇させるような移植可能な装置が設計されてきた。酸素の生成に加えて、センサを用いて溶存酸素レベルやpHのような生理学的に重要なパラメータを測定する。電気分解回路はセンサのフィードバック制御下にある。移植された装置と外部の(着用型/携帯型)電子装置との間の電力およびデータの伝達にRFコイルが使用される。図19はシステムのブロック図を示す。
【0083】
装置の移植部分は、遠隔測定の受信コイルならびにこのラジオ周波数(RF)データおよび電力リンクを受信する超小型回路を有するだけでなく、センサ電極からの入力や電気分解電極を通した駆動電力を受信する能力を有する。図19には、pHクランプ用の第2のカソード電極(第3の電極)を示していない。外部装置は移植部分を活性化するであろう送信コイル、電子装置、および電池(図示せず)を含む。この無線(例えば、ラジオ周波数、RF)制御装置は昼夜を問わず使用されうる。夜には、送信コイルを枕の中に置くことも可能である。
【0084】
特定用途向け集積回路(ASIC)を除く主要な電気分解要素は、マイクロ電気化学システム(MEMS)工学により、パリレンという最高のFDA生体適合性評価を有すると期待される生体材料、すなわちクラスVI FDA生体材料を用いて試作製造されてきた。革新的な白金の電気めっき技術を用いると、実際の電極面積の50倍(50×)を超える有効表面積を得ることができる。これにより電気分解の効率が増加し、したがって、必要とされる電力が少なくなり、見かけ上の幾何学的面積あたりより多くのO2が生成する。同様に、アノードとカソードとの間の距離を50ミクロンに制御することにより、pH変動が防止されうる。
【0085】
具体的には、電解電極設計の効率を考慮すると、非常にわずかな3mWの電力を用いて9nL/分の眼球内流体(眼で1秒あたりに通常生成する量の1%未満)のみを消費する間に、必要とされるT=37℃およびP=15mmHgにおける6μL/分の速度の酸素生成を達成することができる。実際、誘導性(RF)リンクのための個別要素ならびにASICおよびカンチレバーセンサを含む装置全体の総電力消費は10mW未満であり、組織の観測可能な温度上昇は全く生じないであろう。その上、柔軟な5層の移植可能コイルが形成されている。この移植された受信コイルは、外径10mm、内径3mmであり、2MHzの周波数で動作して、必要とされる電力レベルを無線送信することが可能である。ASIC設計には組み立てを容易とする標準的なCMOSプロセスも使用される。ASICと組み合わされ、個別電子部品の数を制限したコイル、および電解電極は、長期移植に適した小型で柔軟なパッケージを生み出す。折りたたみ式電極を導入するための眼球壁の切開は直径1mm未満で、軟質ポリマーの硬さを有する柔軟な基板上の装置の残りの部分は、暴露の危険が制限される結膜下の眼球壁に容易に接合される。移植のおおよそのサイズを示す図面を図20に示す。
【0086】
[実施例9−食塩水の選択的電気分解]
有意なpH変動または有毒な副生成物の存在を感知しかつこれに反応することのできる最新式のセンサおよびシャットダウン機能を含んでもよいが、そのような防御装備プロセスでさえも、このような不都合となるおそれのある状況に対して絶対的に確実であるわけではない。したがって、追加の防御的特徴、例えば、塩素の副生成物よりも酸素を選択的に生成するためのパルス電解法を含んでもよい。さらに、O2およびH2は幾何学的設計と低温(37℃)のおかげで白金電極上で逆反応しないであろう。
【0087】
図21はPBSを用いた直径が0.85mmの白金電極についての速度論的データを含み、酸素および塩素の発生開始についての速度論的経時変化を示す。PBSである0.15M NaCl緩衝溶液は、ヒトの硝子体液と同程度の濃度のNAClを含有する。上述したように、低レベルの特定の化学吸着を除き、塩化物アニオンの大部分は、内部および外部ヘルムホルツ面、すなわち電極に直接隣接した電解領域から除外される。除外範囲はデバイ長(λD)から算出され、生理学的温度、生理食塩水の場合(37℃および0.15M NaCl)には、λD=0.78nmである。各データ点は800μAで0〜400μsパルス持続時間の100Hz繰り返し陽極パルスに対する酸素または塩素の定常状態生成を示す。塩素生成の開始は200μsパルス幅で起こる。すなわち、アノードへの正電荷の注入が十分に迅速なので、Cl−が塩素に酸化される電極表面へバルクの塩化物イオンが移動する前に、水の分子酸素への酸化を完結することができる。酸素およびこれと共に放出される水素を、酸素センサ用のエレクトロガルバニック(electrogalvanic)セルおよび水素センサ用の酸化スズ半導体から構成される流体を用いた気相中で検出した。遊離塩素の生成をアスコルビン酸の迅速かつ定量的な酸化に基づいた標準的な分光学的定量法で検出した。パルス間の時間は10msであり、ナノ秒領域にある電気二重層の緩和時間よりはるかに大きい値であった。それは二重層の電気容量のRC放電時間定数よりも長い。図21は、本提案に関連する最初の発見であり、電気二重層の構造が、遊離塩素の電解生成を伴うことなく、塩化物イオン含有流体中の組織を選択的に酸素化するために使用されうることを示す。興味深いことに、これは最古の工業プロセスの1つである塩素アルカリプロセスの反対の目的である。すなわち、該プロセスでは塩水の電気分解による塩素の生成を最大化することを目的とする。電荷バランスが対称の二相電流パルスおよび非対称の二相電流パルスを用いて白金電極の半減期を延長することも可能となりうる。
【0088】
(pHクランプ)
硝子体液は主として生理食塩水であるが、ヒアルロン酸、グルコース、アスコルビン酸塩、コラーゲン原線維などのような他の成分を含有する。たとえ塩素の生成が完全に抑制されたとしても、pHは依然として変動しうる。したがって、本発明向けに特別に設計されたpHクランプを使用してもよい。pHクランプは3電極構造を利用し、硝子体液のあらゆる酸素化条件下で一定のpHを維持する。図22および図23は概念を図示したものである。アノードは酸素の供給源である。カソードは水素の供給源である。2つのカソードを図示する。一方のカソードはアノードの近位の眼球内腔に存在する。他方のカソードは眼腔の外側に位置するが、組織のイオン伝導性によってこれに電気的に接続している。どちらの電極対を電気分解に使用するかはpHセンサと電極を選択する電気的なフィードバック切り替え回路とによって決定される。実験室の写真を図22に挿入図として示す。図23のデータはエームス(Ames)媒体+200μg/mlのヒアルロン酸を800μAで1時間電気分解した結果を示す。この溶液の開始pHは7.4であり、内部電極を使用する間に眼のpHは硝子体液によって緩衝されるはずであり、pHがわずかに増加することに留意されたい。しかし、電気分解が眼の中でかようなpH変動を示し始める(すなわち、塩素アルカリプロセスのために次第に塩基性となり、pHが上昇するであろう)なら、カンチレバーのpHセンサはこれを検出し、眼球外部の電極を使用する方法へと装置を切り替えるであろう。硝子体液の腔の外側のカソードを使用すると、pHが酸性になる。これは、水の酸化により酸素1モルあたりプロトン4モルが生成する(2H2O→O2+4H++4e−)ためである。外部電極の選択によって、pHを低下させ、これによりpHを最初の値に回復させることができる。適当な電極対を交互に選択するこのような能力が、眼内部に一定のpH制御をもたらすのである。この方法は、硝子体液をpHの中性条件下で酸素化するという問題に対する技術的な解決となるが、これはもちろん電気分解の化学全体を変更するものではない。これは、眼球外部のpHの問題を、結膜下流体の体積が106倍(100万倍)大きく、緩衝材として作用するために、pH変化を容易に取り扱うことができる結膜下空間中の眼球外部のカソード領域に「移出」する。これらのデータは、本試みの実現可能性を実証する。
【0089】
酸素および水素の発生はアノードおよびカソードにおいて圧倒的に主要な電気分解反応である。繰り返しパルス法の目的は、遊離塩素であるCl2の生成の抑制である。しかし、万が一塩素が生成すると、これは直ちに水と反応して次亜塩素酸イオン(OCl−)および次亜塩素酸(HOCl)を生成する。このpKaは7.53である。分子水素(H2)の電解生成は無視することができる。これは眼における実験条件下では非反応性である。図22における挿入図はスーパーオキシドアニオン(O2−)および過酸化水素(H2O2)を潜在的に生成しうる小さな経路を示す。ただし、これらの種は通常、硝子体液中の天然のスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの活性によって効率的に除去される。さらに、アスコルビン酸塩およびグルコースは抗酸化活性を有し、硝子体液中にミリモル濃度で存在する。
【0090】
現状で本発明の好ましい実施形態と考えられるものを図示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書内で多様な変更及び修正を加えられることは当業者には自明であろう。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、虚血性疾患の治療方法および治療装置に関し、より詳細には、糖尿病性網膜症および他の生体組織の虚血の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
糖尿病は網膜の循環系に悪影響を及ぼすことが知られている。通常、これは数段階を経て起こり、そのうちの2つが背景糖尿病性網膜症および増殖性糖尿病性網膜症である。糖尿病性網膜症の増殖段階では、網膜の循環不良のために網膜が酸欠状態となる(そして、網膜組織および脈絡膜組織の虚血を引き起こす)。この酸素欠乏に反応して、新生血管形成が生じ、この際、網膜中に十分な酸素を保持させようとして血管が発達する。しかし、新たに作られた血管は繊細であり、容易に出血して、血液を硝子体液中に漏出させ、これにより視力低下が引き起こされる。病気の後者の段階では、続いて起こる血管増殖および瘢痕組織によって網膜剥離や緑内障を引き起こすおそれがある。
【0003】
糖尿病性網膜症の発症と網膜の酸素欠乏との間に密接な関係があることは周知である。例えば、O.P.Van Bijsterveld(編者),Diabetic Retinopathy,Martin Dunitz Ltd.,London,(2000年);N.D.Wangsa−WirawanおよびR.A.Linsenmeier,『Retinal Oxygen:Fundamental and Clinical Aspects』,Arch.Opthalmol.121,547〜557頁(2003年);B.A.Berkowitz,R.A.Kowluru,R.N.Frank,T.S.Kern,T.C.Hohman,およびM.Prakash,『Subnormal Retinal Oxygenation Response Precedes Diabetic−like Retinopathy』,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.40,2100〜2105頁(1999年);ならびにR.Roberts,W.Zhang,Y.Ito,およびB.A.Berkowitz,『Spatial Pattern and Temporal Evolution of Retinal Oxygenation Response in Oxygen−Induced Retinopathy』,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.44,5315〜5320頁(2003年)を参照されたい。
【0004】
脈絡膜新生血管形成は脈絡膜虚血に起因するとも考えられてきた(Choroidal Neovascularization Correlated With Choroidal Ischemia,Ann−Pascale Guagnini,MD;Bemadette Snyers,MD;Alexandra Kozyreff,MD;Laurent Levecq,MD;Patrick De Potter,MD,PhD Arch Ophthalmol.(2006年)124:1063)。脈絡膜新生血管形成は加齢性黄斑変性症の状態で起こる可能性があり、西洋諸国では65歳以上の年齢層における失明の主要原因である。
【0005】
様々な特許が網膜症や眼球虚血の治療用の化合物および医薬製剤の使用について開示している。例えば、米国特許第7,064,141号明細書はアンギオテンシンII拮抗活性を有する医薬組成物を用いた単純型網膜症および前増殖性網膜症の予防方法、治療方法または進行抑制方法を開示する。米国特許第6,943,145号明細書は糖尿病性網膜症の予防および治療のための化合物および方法を開示する。米国特許第6,916,824号明細書は三環系ピロンを用いた白内障および糖尿病性網膜症の治療方法を開示する。米国特許第6,156,785号明細書は炭酸脱水酵素阻害剤の投与により視神経および網膜中の酸素圧を増大させる方法を開示する。米国特許第5,919,813号明細書は糖尿病性網膜症の治療におけるタンパク質チロシンキナーゼ経路阻害剤の使用を開示する。
【0006】
米国特許第7,074,307号明細書は生体液中の被検物質の測定用電気化学センサを開示する。この特許の開示によれば、電気化学センサが周囲環境の酸素濃度に依存せずに十分な酸素レベルで機能できるようにするために、電極により酸素が生成される。
【0007】
米国特許第5,855,570号明細書は酸素生成包帯を開示する。この発明は皮膚創傷の治癒促進を目的とした酸素の局所適用のための携帯用自給式装置である。その装置は高純度酸素の生成用の電気化学的手段、化学的手段、または熱的手段を内蔵する創傷包帯を含む。その装置は創傷の上部領域への酸素の供給を様々な濃度、圧力、および用量に調節することができる。その装置は内蔵のまたは付属の動力源によって駆動される。周囲空気をガス透過性カソードと接触させる。空気中に存在する酸素をカソードで還元して、陰イオン(すなわち、過酸化水素、スーパーオキシド、もしくはヒドロキシイオン)および/またはこれらの非プロトン化もしくはプロトン化中性種とする。これらの種の1以上は電解質を通して拡散し、次いでガス透過性アノードで酸化されて創傷の上部に直接高濃度の酸素を生成する。
【0008】
米国特許第4,795,423号明細書は、虚血性網膜症の治療のための、眼球の酸素化パーフルオロ化かん流を開示する。2つの小さなカニューレで眼球を貫通させ、酸素化パーフルオロ化エマルジョンまたは他の生理適合性酸素化液体を用いて、自然治癒過程の生成が可能となるのに十分な速度と持続期間で、流入および流出かん流を構築する。
【0009】
しかし、依然として、哺乳動物の虚血状態および前虚血状態を正確にかつ制御可能に治療することが必要とされている。生体組織に化学物質を投与することなくこのような状態を治療するならば特に有利であろう。糖尿病性網膜症を患う患者によく見られるように、眼においては、このような方法で虚血状態および前虚血状態を正確にかつ制御可能に治療することが特に必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
(発明の要約)
このような目的および他の目的は当業者には明白であろうし、これらは虚血組織および前虚血組織の正確かつ制御可能な治療方法および治療装置を提供することによって達成された。
【0011】
本治療は、虚血体内組織の近位または内部にある体液の電気分解によって、虚血体内組織または前虚血体内組織に酸素を供給することを含む。この治療は、眼の虚血組織を対象とする場合に、硝子体切除眼および硝子体非切除眼において有利に作用する。本方法は、硝子体液の選択的かつ分別的な電気分解に基づいて酸素および必要に応じて活性塩素を生成すると同時に、pHを制御する。
【0012】
本装置は、第1カソード電極と電気的に接触したアノード電極を有する組織移植型の電気化学システムを含む。電気化学システムは、流体を含有する生体組織に移植可能かつ作動可能であり、適切な電力供給部から電力を供給する場合に虚血組織の近位または内部にある組織液から酸素を電解により生成することができるように設計されている。
【0013】
本発明の目的は、患者の虚血性疾患を治療することである。本発明の他の目的は、糖尿病性網膜症の発症を遅延または抑制させることである。これは、硝子体液の選択的電気分解と硝子体切除眼および硝子体非切除眼の両方におけるpH制御とによって達成される。遊離塩素(すなわち、塩化物以外の塩素物質)の生成を許容してもよいし、あるいは、抑制制御してもよい。上記の方法は適切な臓器および組織に適用され、虚血性疾患全般を治療することができる。
【0014】
網膜症(例えば、糖尿病性疾患または他の網膜血管疾患)の治療のために、硝子体液を選択的に電気分解して、分子酸素を主として生成することができる。一実施形態においては、遊離塩素の生成を回避する。これは、適切な単相または多相の電解パルスパターンの選択や硝子体液の天然の抗酸化特性の活用によって達成されうる。眼房水を連続的に生成して、眼をリフレッシュする。
【0015】
第2の実施形態は遊離塩素の生成を許容する。網膜症の発症はチトクロームまたは低酸素誘導因子のようなレドックス感受性の分子にあると考えられているため、次亜塩素酸イオンや次亜塩素酸の形態で高電位の遊離塩素が存在すると、新規で脆弱な血管形成の開始を回避するシグナル伝達機構が提供されうる。
【0016】
本発明の一形態によれば、上述した目的および他の目的は、水の単相、二相、または多相のパルス電解により、選択的に酸素を生成させて遊離塩素の生成を回避することによって達成される。酸素の選択的生成は多様な方法により達成されうる。
【0017】
第一に、硝子体液のような塩化ナトリウム溶液中で金属電極の表面に自然に生成する電気二重層は電極表面近傍の塩化物イオンを排除する。的確な単相または多相パルスの時間プロファイルを用いて慎重に電荷を注入することによって、硝子体液の水性成分である水を選択的に酸化して分子酸素にすると同時に、塩化物イオンの酸化による遊離塩素の生成を回避することができる。選択された時間プロファイルは単相、二相、または多相であってよい。
【0018】
第二に、硝子体液の場合には、低レベルの遊離塩素が生成されたとしても、アスコルビン酸塩、グルコース、および硝子体液の天然由来成分である他の還元性有機化学種の抗酸化特性のおかげで、これらは塩化物に変換されるだろう。
【0019】
第三に、一実施形態では、遊離塩素が電解生成されて、高い酸化電位を有するClO−/Cl−対により酸化還元電位が維持され、その結果、新規で脆弱な血管形成の開始を回避するシグナル機構が提供される。
【0020】
第四に、硝子体液のような体液の電気分解によって引き起こされうるpHの逸脱は「pHクランプ」によって修正されうる。かようなpH制御装置がない場合、pHの逸脱が硝子体液の生化学を不利に変化させるおそれがある。pHクランプは3つの電極に加えて酸素センサおよび/またはpHセンサを利用することが好ましい。硝子体液の場合には、好ましくは2つの電極を硝子体液中に配置し、3つ目の電極を眼腔(ocular cavity)の外側とする(例えば、患者の耳の裏側に移植する)ことが好ましい。センサにより収集された情報は特定の電極の動作を選択するために使用される。
【0021】
さらに以下に詳述するように、特定の電極の動作はpHを調節し、pHを特定の範囲に維持する。この試みは、硝子体液のような体液の正常な生化学に悪影響を及ぼすおそれがあるpHの範囲外への逸脱を有利に防止する。
【0022】
本発明は、有利なことに、正確かつ制御された方法による哺乳動物の虚血組織および前虚血組織の治療を提供する。これに加えて、本発明は、生体組織に化学物質を投与することなくこれを達成することもできる。眼は化学物質や侵襲的治療に特に敏感であるため、本発明の利点は眼の治療にとって特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、硝子体液の主要な電解質媒体である塩化ナトリウムなどの電解液中に浸漬した金属電極の電気二重層の構造を示す概略図である。金属電極表面に近接した水層はバルク領域に比べて塩化物イオンの濃度が低いことがよく知られている(Buttら,Physics and Chemistry of Interfaces,Wiley−VCH,2003年)。
【図2】図2は、有限量の正電荷を電極に単相注入して、金属表面に近接しかつ塩化物イオンを奪う水を酸化することを示す図面である。酸素収率の向上のために、正電荷の注入よりも短時間の負電荷の注入を先行させ、電極表面から離れたところに塩化物イオンをさらに追いやることができる。
【図3】図3は遊離塩素の生成を反転するために適用されうる二相パルスを図示したものである。この場合、アノード相の間に生成された遊離塩素を、アノード相の直後に生じるカソード相の間に塩化物へと還元することができる。
【図4】図4は、流体の自然流を有するヒトの眼の断面および眼房水の生成を図示したものである。
【図5】図5はpHクランプの一実施形態を図示したものである。カソード、アノード、pHセンサ、および酸素センサを、酸素化領域に近接して配置する。第2のカソードを眼腔の外側に配置する。以下に記載するように、この電極配置で硝子体液のpHを所望の範囲内に維持する。
【図6】図6は、眼および3電極pHクランプにおける電気分解の物理化学を再現する模式的なガラス眼房である。これはpHクランプが作用することを証明するデータを収集するために使用される。
【図7】図7はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の酸素および塩素の生成に関するデータを示す。このデータは横軸に示した対応持続時間を有する800μA振幅についてのものである。パルス間の時間幅は10msである。酸素の生成は塩素の生成よりも優先して起こる。
【図8】図8はPBS中での水素および酸素の同時生成を示すデータを含む。パルスの振幅は800μAであった。パルスの持続時間を横軸に示す。パルス間の時間幅は10msである。
【図9】図9は図8のデータ点についての水素対酸素の化学量論比をデータ点ごとに計算したものを示す。
【図10】図10は硝子体液用の合成化学製剤を含む媒体中での水素および酸素の電気化学的同時生成に関するデータを含む。パルスの振幅は800μAであった。パルスの持続時間を横軸に示す。パルス間の時間幅は10msである。
【図11】図11はウサギにおける光血栓性網膜静脈閉塞のデータを示す。
【図12】図12は光血栓性静脈閉塞後に硝子体液で治療したウサギのサブグループから得られた結果を示す。
【図13】図13は網膜動脈閉塞の前および後の網膜内酸素測定を示す。
【図14】図14はイヌの眼の光血栓症から1週間後の眼底撮影を示す。
【図15】図15はイヌ網膜の光血栓性閉塞の前および後のOCTデータを示す。
【図16】図16はイヌにおける短期間の電解による酸素生成の結果を示す。
【図17】図17は閉塞を生じて治療および酸素化処置を全く受けなかった対照のイヌの眼、閉塞後3日目および7日目に硝子体の酸素化処置を受けたイヌの眼から得られた組織構造を示す。
【図18】図18はごくわずかに全体的な炎症があるものの感染症や網膜剥離の兆候は全くない、移植から6月後のイヌの眼のパリレン電極アレイを示す顕微鏡写真である。
【図19】図19は酸素発生器(OXYGENERATOR)の電気化学システムのシステムレベルの設計を示す一般概略図である。
【図20】図20は移植案のおおよそのサイズを示す概略図である。
【図21】図21はリン酸緩衝生理食塩水中での、100Hz、800μAの振幅の繰り返しパルス下におけるO2またはCl2の定常状態での生成量とパルス持続時間との相関関係を示すグラフである。
【図22】図22は本発明のpH制御の概念を示す図面である。
【図23】図23はエームス(Ames)媒体および200μg/mlのヒアルロン酸を電気分解した際のpH変化を示すグラフである。
【図24】図24はパリレン封入電極およびコイルの写真を示す。
【図25】図25は図5に示すpHクランプの別の方向を図示したものである。第2のカソードを眼腔の外側に配置する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
一形態において、本発明は、対応する虚血組織の治療を行うことによる哺乳動物の虚血状態または虚血疾患の治療方法を対象とする。虚血組織は、正常レベル未満の酸素に苦しむ任意の生体組織、または、低レベルの酸素状態になりやすいもしくはその影響を受けやすい(すなわち前虚血性)と判断される任意の組織である。低レベルの酸素は一般に、特定の生体組織への血液供給が必要量未満となる結果生じる。治療を必要とする哺乳動物は任意の哺乳動物であってよく、最も注目すべきはヒトである。
【0025】
治療されうる虚血組織の例としては以下に制限されないが、患者の眼の糖尿病性網膜症、糖尿病以外の網膜血管疾患(例えば、静脈閉塞および動脈閉塞)に起因する患者の眼の網膜症、脈絡膜虚血(例えば、黄斑変性症の種々の形態)に起因する網膜症、関節腔(例えば、膝および肩)の虚血、皮膚空間および皮下腔についての虚血、中枢神経系および末梢神経系(例えば、脳および脊髄)の虚血、臓器(例えば、心臓、腎臓、および胃腸系の臓器)の虚血、ならびに幹細胞移植などの移植された臓器および組織の虚血に関係する組織が挙げられる。
【0026】
本方法は、虚血組織に密着または密接した状態で(すなわち虚血組織の近位または内部で)体液を電気分解して、虚血組織の酸素レベルを増大させることを含む。「近位(proximal)」とは、虚血組織内部に必ずしも存在するとは限らないが、治療中の虚血組織と生体液を交換することにより密接な接触を維持している生体液含有組織の領域を意味する。近位の組織には、流体由来の酸素が虚血組織に拡散しうるような高酸素濃度の貯留部として機能しうる流体含有組織が含まれてもよい。流体の一部の例としては、硝子体液、房水、脳脊髄液、またはリンパ管のような間質液が挙げられる。
【0027】
好適な実施形態において、電気分解は、虚血組織の流体への電気化学システムの移植および電気操作によって実施される。移植された電気化学システムは、アノードおよびカソード(本明細書において、第1のアノードまたは第1のカソードとも称する)を含むことが好ましい。
【0028】
生体液中で動作するカソードは主として下記の半反応に従って水を水素に還元するであろう。
【0029】
【化1】
【0030】
スーパーオキシドアニオンおよび過酸化水素は溶存酸素のカソード還元によっても生成しうる。これらの種は生物学的に有毒である傾向があるが、通常、これらの種を無害種へと効率的に変換するのに、細胞性酵素であるスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼを使用することができる。
【0031】
生体液中で動作するアノードは下記の半反応に従って水を水素へと酸化するであろう。
【0032】
【化2】
【0033】
生体液は通常、塩化物塩を含有するため、アノードは付加的に下記の半反応に従って塩化物イオンを塩素分子へと酸化するであろう。
【0034】
【化3】
【0035】
塩素の半反応は酸素の半反応に比べて標準電位が高いが、過電圧が低い。このため塩素の酸化反応はアノードの正常動作時に重要となる。
【0036】
アノードで生成した塩素分子(Cl2)は直ちに水と反応して様々な塩素の加水分解生成物を生成する。主要な塩素の加水分解生成物としてはHOCl(次亜塩素酸)およびそのClO−塩がある。本出願においては、塩素およびその加水分解生成物を「塩素物質(chlorinous substance)」とも称する。
【0037】
一実施形態では、電気分解中の生体液における塩素物質の生成を制御しない。この実施形態は塩素物質が有益な効果を発揮すると考えられる特定の状況において有利となりうる。例えば、酸素と同様に、活性塩素は糖尿病性網膜症、他の網膜血管疾患、および脈絡膜新生血管形成の発症を抑制または反転しうる。また、塩素物質が有利となり得ない、あるいは有害でさえあるかもしれない場合に、これらの物質は、特定の環境下で、細胞の天然の抗酸化過程によって無害化されうる。さらに以下に詳説するように、これは特に硝子体液にあてはまる。
【0038】
他の実施形態では、電気分解中の生体液における塩素物質の生成を制御する。この実施形態は塩素物質が何らかの他の点で有毒、炎症性、または有害であると知られている、あるいは考えられる特定の状況において有利となりうる。塩素物質の生成は電気分解が実施されている電極の近傍から塩化物イオンを除去することによって制御されうる。塩化物イオンの除去は、化学的方法または物理的方法などの当技術分野で知られている任意の好適な方法で実現されうる。あるいは、生成された塩素物質を、塩化物または同様の悪影響を及ぼさない他の化合物に戻すことにより塩素物質の生成を制御することができる。この変換は、化学的方法または物理的方法をなどの当技術分野で知られている任意の手法によって達成されうる。
【0039】
好適な実施形態では、塩素物質の生成を電気分解法によって制御する。「制御」とは、塩素物質の生成を任意の量だけ(例えば、塩素物質が存在しないかあるいは悪影響を及ぼす閾値未満の極微量と判断される点まで)減少させることを意味する。一実施形態によれば、電気分解法は、塩化物でなく水を選択的に酸化することを可能とする方法でアノード電極の電気二重層内部の塩化物イオンの配置または濃度プロファイルを変更することのできるパルス電解技術である。パルス電解技術は単相、二相、または多相であってよく、1つのパルスを含んでいてもよいが、より好ましくは、均一な、パターン化された、または可変的な時間遅延によって分離された数個の連続的なパルスを含む。任意の好適な電気(電極)パルス発生器を本明細書に記載する電解パルスの生成に使用することができる。
【0040】
上記のパルス電解技術は、例えば、アノードの電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する一連の単相正パルスを印加することによって、このような水の選択的酸化を実現しうる。この方法では、水のみを含む電気二重層の微細層への侵入に必要とされる時間が塩化物イオンに与えられないため、電解パルス時に水が塩化物に優先して選択的に酸化されている。塩化物の酸化を低減するために、パルス持続時間は電気二重層の再構築に必要な緩和時間よりも短いことが必要とされる。緩和時間は電極の種類、サイズ、ならびに化学的および物理的条件によって異なる。したがって、好適なパルス持続時間は遭遇する条件に非常に依存し、このため、適切なパルス持続時間は状況によって大幅に異なりうる。例えば、一実施形態において、正パルスは、最小パルス時間が約50マイクロ秒(50μs)であり、最大パルスが約10ミリ秒(10ms)である範囲内である。より好ましくは、正パルスは最小パルス時間が約50μsであり、最大パルス時間が約500μsである範囲内である。さらに好ましくは、パルス持続時間は約100〜200μsの範囲でありうる。
【0041】
正パルスは好適な時間遅延によって分離される。時間遅延はアノードが電気二重層を再構築するのに十分長い時間であることが好ましい。例えば、一実施形態において、時間遅延は、最小値が約500μmであり、最大値が約10msである範囲内であることが好ましい。他の実施形態において、時間遅延は約500μs〜5msの範囲、または5ms〜10msの範囲でありうる。
【0042】
上述したように、アノードにおける水−塩化物分離効果は、適当な持続時間を有する負パルスを正パルスの前に起こす(前処理する)ことによって、増強されうる。負パルスは電極表面からさらに離れたところに塩化物イオンを追いやるという一次作用を有し、これにより電極表面における水と塩化物イオンの分離が促進される。この方法は、塩素化合物の生成が開始する前に長時間の正パルス持続時間を許容するという有益な効果をもたらす。上記目的に特に有効とするために、負パルスは好ましくは約1〜1000μsの範囲の持続時間を有する。より好ましくは、負パルスは約500〜1000μsの範囲である。負パルスと正パルスとの間の時間経過は好ましくは約1〜1000μsの範囲、より好ましくは約500〜1000μsの範囲である。前処理電圧の大きさは電気分解の閾値未満であることが好ましい。
【0043】
他の実施形態において、塩素物質の生成は、水の酸化のための正パルスの印加後に、いずれかの残留塩素物質を塩化物イオン塩に還元するのに十分な持続時間および電圧を有する負パルスを印加することにより制御される。例えば、次亜塩素酸イオンは、負パルスにより下記半反応に従って塩化物イオンに変換される。
【0044】
【化4】
【0045】
アノードにおける水の酸化反応およびカソードにおける水の還元反応はそれ自体でpHの変化を伴うことなく組み合わさる。しかし、水の還元反応が塩素およびその加水分解生成物の生成を伴う場合、より低いpHへの移動が起こる。塩素物質の生成以外の細胞におけるプロセスも生体液の電気分解時にpHの移動を引き起こしうる。
【0046】
pHが悪影響を及ぼしうる範囲を超えないようにするため、当技術分野で知られている任意の好適な方法によってpHを制御することができる。好適な実施形態では、好適な電気分解法によってpHを制御する。好ましくは、電気分解法は、第1のアノードおよび第1のカソードが移植された領域の近位にまたはこの領域に隣接して存在する生体組織または生体液中に第2のカソードを移植すること、すなわち、上述した「pHクランプ」を含む。第2のカソードは第1のアノード/カソード対と電気化学的に接触させない(すなわち、同一の電解質区画内に存在させない)ことが好ましい。例えば、本方法を眼球の虚血に適用する場合、第2のカソードは眼腔の外部とすることが好ましい。図25を参照されたい。水中での酸素の生成はpHを低下させるため、第2の操作可能なカソードを包有して水酸化物イオンを生成することにより、低下したpHを平衡化させる効果が生じるであろう。電気分解が行われている場所の近傍に適当なpHセンサを含むことによって電気分解中の生体液のpHをモニターすることができる。同様に、電気分解が行われている場所の近傍に適当な酸素センサを含むことによって電気分解中の生体液の酸素レベルをモニターすることができる。
【0047】
第2のカソードは第1のアノードおよび第1のカソードシステムの一部ではない電気化学システム内部で(すなわち、別個の電気化学的区画の一部として)操作されるか、あるいは虚血組織の生体液中に移植されている第1のアノードおよび第1のカソードに電気的に接続されうる。pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報は、pHを所望の範囲に調節するために、第1のアノードおよび第1のカソード、もしくは第2のカソードの一方、またはこの両方を常時動作させるであろう。
【0048】
生体組織の正常な生理的範囲は約6.5〜約8.5の範囲である。多くの場合、生体組織のpHをこの範囲内に制限することが望ましい。用途および必要とされるpH制御のレベルに応じて、異なる方法により(例えば、塩素物質の生成制御、もしくは塩素物質の生成制御と第2のカソードの使用との併用によって、または第2のカソードの単独使用によって)、pHを制御することができる。pHは、約6.5〜約8.5の範囲内、より好ましくは約6.5〜約8.0の範囲内、さらに好ましくは約6.5〜約7.5の範囲内に留まるように制御されうる。
【0049】
他の形態において、本発明は上記の方法を実現するための装置を対象とする。本装置は、上記の組織移植型の電気化学システムを含む。電極が移植され、電力供給源へ連結することにより動作するように作られる場合に、電気化学システムは虚血組織の近位にある組織液から酸素を電気分解により生成することができる。
【0050】
電力供給源への連結は、物理的(例えば、配線による)連結である必要はない。連結は非物理的連結、例えば、電気化学システムと無線の電力供給源との間の無線電磁伝達リンクのような形態であってもよく、場合によってはこのような形態が好ましい。無線伝達装置において、送電は通常、ファラデーの電磁誘導の法則によってエネルギーを伝達するコイルなどの隣接した相互誘導性装置間の相互作用によって実現される。無線の動力供給源は電磁周波数を介して送電可能である必要があるが、電気化学システムは電磁伝達の受信が可能である必要がある。電磁伝達には電力または情報の伝達について当技術分野で知られている任意の適当な電磁周波数を使用することができる。使用される電磁周波数は、例えば、赤外線の、マイクロ波の、またはラジオ波の周波数でありうる。より好ましくは、伝達はラジオ波の周波数を基準とする。必要に応じて、後で使用するための伝達電力を貯蔵するように電気化学システムを構築してもよい。
【0051】
本発明に関して、電気分解を行うために使用されうる物理的に連結した電力供給の例としては、慣用の電池、燃料電池、生物燃料電池、もしくは生物電池、または生物運動により駆動される電池、および太陽電源装置が挙げられる。
【0052】
医療用途の移植型電極の使用は周知である(例えば、J.Weiland,W.LiuおよびM.S.Humayun,『Retinal Prosthesis』,Ann.Rev.Biomed.Eng.7,361〜401頁(2005年)を参照されたい)。生体組織への移植に適していると当技術分野で知られている電極はいずれも本発明に好適であると考えられる。電極は、移植可能で、治療中の検体に有害とならない限り、任意の適切なサイズ、形状、および構成であってよい。例えば、一実施形態において、電極は形状が球形であり、白金で構成されている。電極のサイズは好ましくは約0.1〜10mmの範囲内であり、より好ましくは、特に眼に使用される場合には、約0.5〜2mmの範囲であり、さらに好ましくは約1mmである。電極および触媒の機能表面積を見かけ上の幾何学的面積に比べて大幅に増大させることができることは周知である。これらの技術を本発明に有利に採用することができるであろう。
【0053】
第1のアノードと第1のカソードとの距離は好ましくは約20〜80ミクロンの範囲である。より好ましくは、電極間距離は約30〜70ミクロンであり、例えば50ミクロンである。
【実施例】
【0054】
例示目的および現時点での本発明のベストモードを記載する目的で、実施例を以下に記載した。ただし、本発明の範囲は本明細書に記載される実施例によって決して制限されるべきではない。
【0055】
[実施例1]
図1は金属電解質界面における電気二重層の構造を示す図面である。電極12を直ちに取り囲む水溶性領域10はバルクの水相16に比べて塩化物イオン濃度が小さい。塩化物イオン濃度はバルク値に達するまで電極表面からの距離とともに増大する。外部ヘルムホルツ面14における塩化物イオン濃度は中間の値を有する。
【0056】
図2は電極への正電荷10の注入を図示したものである。パルスの持続時間12が塩化物イオンが電極表面へと運動するための固有の運動時間定数よりも短いと、遊離塩素の過剰な生成を回避しつつ、アノードで水が主として分子酸素へと酸化されるであろう。このことが、図2の第1式16(2H2O−→O2+4H++4e−)によって説明される。塩素ガスは、生成すると直ちに水と反応して次亜塩素酸イオンおよび次亜塩素酸を生成する。これらを示す式(2Cl−→Cl2+2e−およびCl2+H2O→OCl−+2H++Cl−)には網掛けが施されてあり、酸化的電荷注入のために使用された速度論的方法のおかげで、これらの反応が起こらないことを示している。この注入の後には、電気二重層の元の構造を再構築するために必要とされる天然の運動緩和時間がある。このことは他の正電荷の注入前の待機時間14を示唆する。
【0057】
図2への挿入図に図示されるように、繰り返しパルスを使用して、電気二重層の再構築に必要とされる緩和時間と同じ時間またはより長い時間待機することによって、塩素の代わりに酸素を選択的に生成することができる。図7のデータは本発明の当該形態を実証するものである。酸素は100〜200μsのパルス持続時間で生成するが、このパルス持続時間の範囲において塩素の生成は検出されなかった。アノード/電解質界面における塩化物イオンの酸化による塩素の生成の開始は水の電気化学的酸化による酸素生成の開始に比べて速度論的に遅い。図8のデータはPBSのパルス電解による酸素および水素の電気化学的同時生成を含む。酸素データは図7に示すものと同一である。図8はPBS中の対応する水素対酸素の化学量論比を含む。注入電荷の絶対量が界面の二重層の電気容量を飽和するにつれてその比は2に近づく。
【0058】
[実施例2]
負電荷を予備注入した直後に酸素の生成のためのファラデー正電荷を注入することにより、遊離塩素に優先した酸素の選択的な生成を促進することができる。負電位の絶対値がより高く形成されることにより、金属電解質界面に密接する塩化物イオンのさらなる減少がもたらされるであろう。このことは遊離塩素生成の開始前の許容可能なパルス持続時間を長くするという有益な効果を生じるであろう。
【0059】
[実施例3]
遊離塩素の生成を減少させる他の方法を図3に図示する。持続時間12の正電荷注入10によって酸素が生成した後、反応18に示すように、不要な次亜塩素酸イオンが生成する可能性がある。即時の持続時間16の負反転パルス14は、次亜塩素酸塩/次亜塩素酸を還元して塩化物イオンに戻すであろう。これを反応20(2e−+2H++OCl−→H2O+Cl−)に示す。
【0060】
[実施例4]
金属電極−電解質界面における塩化物イオン濃度の変化はボルツマン分布に従い、これは連続指数関数的に距離に依存する。したがって、パルス持続時間の増加に伴い、遊離塩素の生成がいくらか予想される。硝子体液の天然の抗酸化特性が遊離塩素の生成をさらに抑制するのに利用されうる。硝子体液は以下の組成:水、コラーゲン原線維、糖類、アスコルビン酸、ヒアルロン酸および無機塩(主に塩化ナトリウム)を有する。糖類およびアスコルビン酸は遊離塩素と反応するという意味で優れた抗酸化剤である。さらに、(上述したスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの作用に加えて)これらはカソードで生成する可能性のあるスーパーオキシドアニオンおよび過酸化水素と反応するという意味でも優れた抗酸化剤である。
【0061】
硝子体液はグルコース濃度が3.4mMであり、アスコルビン酸濃度が2.0mMである。また、図4に示すように、眼房水10は2〜3μL/分の速度で眼12に自然に生成される。したがって、グルコースおよびアスコルビン酸の両方が定常供給14される。遊離塩素の生成速度の上限を設定し、眼房水の天然の抗酸化作用およびその生成速度を考慮することにより、遊離塩素の生成速度の上限を設定することができる。図10は硝子体液の合成媒体中における水素および酸素の電気化学的同時生成に関するデータを示す。これらの条件下では、アスコルビン酸塩との迅速な反応やグルコースとの少々遅速な反応によってアノードにおける塩素生成が速やかに排除される。
【0062】
[実施例5−pHクランプ]
硝子体液の電気分解を行う場合には、少なくとも3つの主要な電気化学反応が起こる。2つのアノード反応は、H2O(液体)→1/2O2(気体)+2H+(aq)+2e−および2Cl−(aq)→Cl2(気体)+2e−である。主要なカソード反応は2H2O(液体)+2e−→H2(気体)+2OH−である。水素および酸素の排他的生成により、補償量の水素イオンが生成され、pHが変化しない。しかし、塩化物イオンの酸化による遊離塩素の生成は水素イオン生成を伴わない。このためpH変動が生じうる。pH変動に対する解決策が図5に示すpHクランプ(またはその代わりに図25に示すもの)の使用である。pHクランプは2つの眼球内部電極10および12と、pHセンサ14およびO2センサ16とから構成されている。酸素センサが網膜や脈略膜の組織の虚血の発生の信号を送る場合、酸素/遊離塩素(および水素)の電解生成が進行する可能性がある。代替カソードとして使用される第3の電極18もまた存在する。
【0063】
この第2のカソードは、物理的には眼球内腔の外側に位置するが、組織の自然流体中に存在する導電性のイオン経路によって硝子体液に電解的に接続している。pHに応じて、pHを特定の範囲内に維持するような適当な電極対を接続するために、電子スイッチを使用してもよい。図6はpHクランプの概念の原理を検証する模式的な眼房である。図6は
硝子体液を示す化学混合物を含有する。10はpHプローブである。14と符号付けされた2つの電極は「眼腔」の中に存在するが、第3の電極(第2のカソード)16は腔の外部(「耳の裏側」)に位置し、合成硝子体液で満たされた管状経路中の微細フリットによって分離されている。下記表に、2つの電極の構造について、pHを時間の関数として示した実験データを記載する。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
これらのデータはpHを所定レベルに留める方法を実証する。セル空洞が単一のアノードを含み、サイドアームが単一のカソードを含むと、反応:H2O→1/2O2+2H++2e−に従った水の酸化を介して水素イオンが生成するため、セル空洞の局所的なpHは徐々に酸性化するであろう。カソードにおける補償的な水素イオンの消費反応は眼球内腔から取り除かれ、局所的なpHの変動にほとんど影響を及ぼさない。しかし、両方の電極が眼球内腔に存在すると、水の酸化と塩化物イオンの酸化との間で水素イオンの生成が異なるために、pHはより塩基性の値の方へ反対方向に変動する。前者の場合には水素イオンが生成し、後者の場合には水素イオンが生成しない。水素放出カソードは、酸素反応を介した水素イオンの生成量を酸化される当量の塩化物イオンの分だけ超えるという化学量論的な原則に基づいて水素イオンを消費する。
【0067】
[実施例6−静脈閉塞を患う動物の硝子体液の酸素化]
過去の研究において、光血栓性静脈閉塞をウサギとイヌの両方に生成させることに成功した。そして、両方を間欠的な硝子体の酸素化で治療した。閉塞を蛍光眼底血管撮影(FA)によって確認し、網膜浮腫を光コヒーレンス断層撮影(OCT)を用いて分析した。VEGF用の硝子体液サンプルのELISA分析である、光ファイバー蛍光消光システムを用いて眼球内の酸素圧測定も行った。網膜の酸素消費を直接測定するための侵襲的技術が必要とされるせいで、ヒトの網膜の酸素消費速度の確固たる値は全く確立されていない。ホロアンギオチックな(holangiotic)網膜における酸素消費(Q O2)の定量化を試みる多数の実験技術を実施してきており、明るい所で3.4〜8.3ml O2/100g/分の範囲であろうと推定された。この範囲の中間である5.0ml O2/100g/分の速度とイヌ科動物/ネコ科動物の網膜の湿重量である122mgとを仮定すると、網膜の総酸素消費量を6.1μl O2/分と算出することができる。霊長類{れいちょうるい}の網膜由来のデータには明るい所で0.5μl O2/分/cmの消費速度が示されるが、これは、ヒトにおいて11.89cm2の網膜領域を使用し、推定酸素消費速度が網膜全体に対しておおよそ5.94μl O2/分であることを示す。これらの網膜酸素消費量の推算値を使用して、さらなる実験的な酸素化への試みを進めた。
【0068】
網膜内部の血流が不足し、前網膜の大きな酸素圧勾配が血管新生化髄質ウイングおよび無血管性網膜にわたって存在するため、まず、ウサギをイヌの代わりに使用し、酸素を測定する方法論を確立した。これにより酸素プローブを容易に較正することが可能となる。さらに、静脈閉塞は酸素測定を容易にする重大な網膜の虚血をもたらす。端的に言うと、着色ウサギに蛍光眼底血管撮影(FA)、カラー眼底撮影、および光コヒーレンス断層撮影(OCT)を行い、開始時点およびその後の閉塞時のVEGF用の硝子体液サンプルを光血栓的に右眼中に作成した。この後に、動物を3つの実験グループ:対照、仮病、および酸素化に分割した。最初のグループでは、酸素を硝子体液への直接投与を介して輸送し、効果が達成された時点で電気分解を使用して酸素を生成した。最初のグループでは、対照動物は硝子体液の治療を全く受けなかった。一方、仮病グループの動物にはその後の3日目と7日目に6μL 02/分の速度で1時間、室内空気(21%O2)を注入し、酸素化グループの動物には同様にその後の3日目と7日目に6μL O2/分の速度で1時間、100%O2を注入した。それぞれの追跡調査時に、すべての動物の反復カラー写真、FA、硝子体液サンプル、硝子体液注入前後の酸素記録、およびOCT画像をとった。14日目に、動物を犠牲にして組織学的分析のために眼を採取した。光ファイバーの酸素感受性プローブ(Oxford Optronix)を用いて酸素測定を開始時およびその後の閉塞時に(硝子体液の中間および前網膜の)多数の点で行った。蛍光消光に基づくこのシステムは0〜100mmHg O2の範囲を有し、ヒトの眼球内部の酸素記録に従来使用されてきた。測定を最低30秒間または読み込みが安定するまでの間ごとに各時点において記録した。
【0069】
ウサギ(N=4)の試験的な系では、下記結果が見出された。1)全てのウサギにおいて静脈閉塞の作成に成功し、FAを用いて確認した。OCTでは関連した網膜浮腫が確認された。2)眼球内部の酸素記録はa)測定開始時にはウサギ由来の刊行データと一致しており、b)閉塞後のウサギにおいては著しい減少が示された(図11を参照)。3)酸素化後、前網膜および硝子体液のVEGFのレベルをELISAによって測定すると、酸素化を受ける動物では上昇がはるかに抑えられていた(図12を参照)。研究のこの取り組みでは、酸素が間欠的に短時間適用され、したがって、VEGFレベルを正常に回復する可能性はないことに留意されたい。
【0070】
図11に示すように、網膜の静脈閉塞を4匹のウサギにおいて実施した。示したデータは開始時(前閉塞)および光血栓性閉塞後3日目のものである。標準偏差を括弧書きで示す。硝子体液の異なる位置で取られた眼球内部の酸素記録により閉塞後の酸素レベルの著しい減少が示された。OCT記録により、臨床検査で観察される浮腫と一致する網膜厚さの増大が示された。VEGFのために分析された硝子体液のサンプルから、閉塞後状態においてVEGFレベルが大幅に増加することが示された。
【0071】
図12は光血栓性静脈閉塞後に硝子体液の酸素化治療を受けたウサギのサブグループから得られた結果を示す。10A:閉塞後7日間が経過し、6μL O2/分の速度で硝子体液に1時間の酸素輸送を行う前およびその直後の酸素記録。網膜全体の酸素レベルは酸素化前のRVOを有する動物で観測される非常に低い酸素レベル(すなわち、基準記録)に比べてかなり高かった。P値を括弧書きで示す。10B:閉塞後7日目の硝子体液のVEGFレベルの前閉塞レベルに対する割合の増加。閉塞後3日目に治療動物に1時間の酸素化を行った。酸素化された動物では硝子体液内部のVEGFの上方調整の程度が小さくなった。1時間の酸素のみの投与であったため、VEGFレベルの正常化は期待されなかった。
【0072】
硝子体液および前網膜の酸素レベルに加えて、網膜内部の酸素レベルもRVOの動物モデルで増大することが示された(図13を参照)。図13Aから、網膜の動脈閉塞後に網膜内部の酸素レベルが顕著に減少することが示される。図13Bから、網膜の動脈閉塞後および硝子体液中の酸素の増加後に、前網膜の酸素レベルの増大ならびに網膜内、特に網膜内部に酸素化が増大することが示される。
【0073】
RVOのウサギにおける硝子体の酸素化によって肯定的な結果が既に得られたので、第2段階では、電気分解テストをイヌに進展させた。イヌの眼はホロアンギオチック(holoangiotic)網膜を提供し、網膜血管は自動調節を受ける。これらはヒトに近く、電気分解電極を移植するのに十分大きいサイズでもある。図14および図15はイヌにおいてRVOを引き起こす手順の結果を示す(図14、15を参照)。
【0074】
図14に、写真AおよびBはイヌにおける光血栓症後1週間目の眼底撮影を示す。写真は拡張した蛇行性の網膜血管、網膜内部の出血および浮腫を示す。蛍光眼底血管撮影写真CおよびDは同様の研究結果と色素の漏出によって取り囲まれた閉塞サイトとを示す(D中の矢印を参照)。
【0075】
図15はイヌの網膜における光血栓性閉塞の前後で得られたOCTデータを示す。写真Aは閉塞前の内面層の外側の下方に位置するイヌ科の動物の網膜の部位から得られたOCT画像を示す。写真Bは閉塞後4日目の同部位の網膜から得られたOCT画像であり、顕著な網膜浮腫、網膜内部の嚢胞性変化(白矢印)、ならびに漿液の網膜剥離(赤矢印)を示す。画像はそれぞれ2mm×5mmである。
【0076】
図16はあるイヌの短期電解酸素生成の結果を示す。正常の網膜の全体にわたる前網膜部位および光血栓性静脈閉塞を受けた網膜の全体にわたる前網膜部位において、1時間の電解酸素化の前と後の両方で、酸素記録を行った。閉塞を有する前網膜の酸素の低下が、1時間の電解酸素生成後の前網膜の酸素レベルの回復と同様に示される。気泡成長は観察されず、pH記録は常に7.5に安定したままであった。
【0077】
閉塞後、硝子体液内部で1時間の電解酸素生成を行う前と後とに眼球内部の酸素記録をとった。計画部位を介して外科的に導入され、前部硝子体液中に配置された2つの1mmの白金球電極を用いて電気分解を行い、時間遅延が100μsであり、持続時間が200μsである800μAの単相パルスを用いて刺激した。硝子体液内部の酸素勾配の顕著な上昇が観察された(図16を参照)。電極金属の半減期を延長する目的で、二相パルスも研究されている。
【0078】
図17に示すように、組織学的分析(TUNELおよびGFAP染色)により、RVOを有する対照イヌの眼と間欠的な酸素化治療された眼との間に差異はないことが明らかとなった。これは、硝子体液を通じた酸素輸送が網膜に毒性の増強をもたらさなかったという有望な結果と考えられる。予防作用の観察としては有益な反応であると期待されるものはなかったが、この理由は、酸素化が間欠的であり、RVO後の14日間にわたり毎回1時間につき2回しか輸送を行わなかったためである。
【0079】
図17は、閉塞を受けて全く治療を受けなかった対照のイヌの眼(A、C)および閉塞を受けた後に硝子体の酸素化を3日目と7日目に行った酸素化された眼(B、D)から得た組織構造を示す。眼を閉塞後14日目に採取した。画像AおよびBは対照(A)および酸素化された眼(B)におけるTUNEL染色を示す。TUNEL陽性細胞を黒矢印で示すが、これは両方のグループで同等のものであった。画像C/Dは対照(C)および酸素化された眼(D)におけるGFAP(緑)およびDAPI(青)染色を示す。GFAPおよびDAPI染色の両方のレベルに有意な差異はなかった。棒線=100ミクロン。
【0080】
[実施例7−バイオ電子装置の動物における外科的移植]
強膜に固定したバイオ電子装置と眼球内電極とを接続した小さな結膜下経強膜ワイヤを動物に移植した。この試みは眼の内側に電極のみを配置させる一方で、電子装置を外部に据え置く。電気的、熱的、および機械的作用への網膜組織の暴露を最小化するとともに、外科的な移植や外植がより容易なものとなるため、これは理想的である。ある設計においては、折りたたみ式の酸素発生(OXYGENERATOR)電極が使用される。これらは直径1mmの切開を通して挿入されうるが、装置の残りの部分は結膜下の強膜に眼球外で接合される。
【0081】
図18はごくわずかな全体的な炎症があるものの感染症や網膜剥離の兆候は全くない、移植から6月後のイヌの眼のパリレン電極アレイを示す顕微鏡写真である。矢印は電極アレイが経強膜的である部位を示す。ここに示すように、酸素発生(OXYGENERATOR)電極に向かって、眼球内電極アレイは眼球壁のすぐ内側で途切れており、網膜上に連結される必要はない。
【0082】
[実施例8−バイオ電子酸素発生器の理工学]
眼球内流体の精選された電気分解によって溶存O2のレベルを上昇させるような移植可能な装置が設計されてきた。酸素の生成に加えて、センサを用いて溶存酸素レベルやpHのような生理学的に重要なパラメータを測定する。電気分解回路はセンサのフィードバック制御下にある。移植された装置と外部の(着用型/携帯型)電子装置との間の電力およびデータの伝達にRFコイルが使用される。図19はシステムのブロック図を示す。
【0083】
装置の移植部分は、遠隔測定の受信コイルならびにこのラジオ周波数(RF)データおよび電力リンクを受信する超小型回路を有するだけでなく、センサ電極からの入力や電気分解電極を通した駆動電力を受信する能力を有する。図19には、pHクランプ用の第2のカソード電極(第3の電極)を示していない。外部装置は移植部分を活性化するであろう送信コイル、電子装置、および電池(図示せず)を含む。この無線(例えば、ラジオ周波数、RF)制御装置は昼夜を問わず使用されうる。夜には、送信コイルを枕の中に置くことも可能である。
【0084】
特定用途向け集積回路(ASIC)を除く主要な電気分解要素は、マイクロ電気化学システム(MEMS)工学により、パリレンという最高のFDA生体適合性評価を有すると期待される生体材料、すなわちクラスVI FDA生体材料を用いて試作製造されてきた。革新的な白金の電気めっき技術を用いると、実際の電極面積の50倍(50×)を超える有効表面積を得ることができる。これにより電気分解の効率が増加し、したがって、必要とされる電力が少なくなり、見かけ上の幾何学的面積あたりより多くのO2が生成する。同様に、アノードとカソードとの間の距離を50ミクロンに制御することにより、pH変動が防止されうる。
【0085】
具体的には、電解電極設計の効率を考慮すると、非常にわずかな3mWの電力を用いて9nL/分の眼球内流体(眼で1秒あたりに通常生成する量の1%未満)のみを消費する間に、必要とされるT=37℃およびP=15mmHgにおける6μL/分の速度の酸素生成を達成することができる。実際、誘導性(RF)リンクのための個別要素ならびにASICおよびカンチレバーセンサを含む装置全体の総電力消費は10mW未満であり、組織の観測可能な温度上昇は全く生じないであろう。その上、柔軟な5層の移植可能コイルが形成されている。この移植された受信コイルは、外径10mm、内径3mmであり、2MHzの周波数で動作して、必要とされる電力レベルを無線送信することが可能である。ASIC設計には組み立てを容易とする標準的なCMOSプロセスも使用される。ASICと組み合わされ、個別電子部品の数を制限したコイル、および電解電極は、長期移植に適した小型で柔軟なパッケージを生み出す。折りたたみ式電極を導入するための眼球壁の切開は直径1mm未満で、軟質ポリマーの硬さを有する柔軟な基板上の装置の残りの部分は、暴露の危険が制限される結膜下の眼球壁に容易に接合される。移植のおおよそのサイズを示す図面を図20に示す。
【0086】
[実施例9−食塩水の選択的電気分解]
有意なpH変動または有毒な副生成物の存在を感知しかつこれに反応することのできる最新式のセンサおよびシャットダウン機能を含んでもよいが、そのような防御装備プロセスでさえも、このような不都合となるおそれのある状況に対して絶対的に確実であるわけではない。したがって、追加の防御的特徴、例えば、塩素の副生成物よりも酸素を選択的に生成するためのパルス電解法を含んでもよい。さらに、O2およびH2は幾何学的設計と低温(37℃)のおかげで白金電極上で逆反応しないであろう。
【0087】
図21はPBSを用いた直径が0.85mmの白金電極についての速度論的データを含み、酸素および塩素の発生開始についての速度論的経時変化を示す。PBSである0.15M NaCl緩衝溶液は、ヒトの硝子体液と同程度の濃度のNAClを含有する。上述したように、低レベルの特定の化学吸着を除き、塩化物アニオンの大部分は、内部および外部ヘルムホルツ面、すなわち電極に直接隣接した電解領域から除外される。除外範囲はデバイ長(λD)から算出され、生理学的温度、生理食塩水の場合(37℃および0.15M NaCl)には、λD=0.78nmである。各データ点は800μAで0〜400μsパルス持続時間の100Hz繰り返し陽極パルスに対する酸素または塩素の定常状態生成を示す。塩素生成の開始は200μsパルス幅で起こる。すなわち、アノードへの正電荷の注入が十分に迅速なので、Cl−が塩素に酸化される電極表面へバルクの塩化物イオンが移動する前に、水の分子酸素への酸化を完結することができる。酸素およびこれと共に放出される水素を、酸素センサ用のエレクトロガルバニック(electrogalvanic)セルおよび水素センサ用の酸化スズ半導体から構成される流体を用いた気相中で検出した。遊離塩素の生成をアスコルビン酸の迅速かつ定量的な酸化に基づいた標準的な分光学的定量法で検出した。パルス間の時間は10msであり、ナノ秒領域にある電気二重層の緩和時間よりはるかに大きい値であった。それは二重層の電気容量のRC放電時間定数よりも長い。図21は、本提案に関連する最初の発見であり、電気二重層の構造が、遊離塩素の電解生成を伴うことなく、塩化物イオン含有流体中の組織を選択的に酸素化するために使用されうることを示す。興味深いことに、これは最古の工業プロセスの1つである塩素アルカリプロセスの反対の目的である。すなわち、該プロセスでは塩水の電気分解による塩素の生成を最大化することを目的とする。電荷バランスが対称の二相電流パルスおよび非対称の二相電流パルスを用いて白金電極の半減期を延長することも可能となりうる。
【0088】
(pHクランプ)
硝子体液は主として生理食塩水であるが、ヒアルロン酸、グルコース、アスコルビン酸塩、コラーゲン原線維などのような他の成分を含有する。たとえ塩素の生成が完全に抑制されたとしても、pHは依然として変動しうる。したがって、本発明向けに特別に設計されたpHクランプを使用してもよい。pHクランプは3電極構造を利用し、硝子体液のあらゆる酸素化条件下で一定のpHを維持する。図22および図23は概念を図示したものである。アノードは酸素の供給源である。カソードは水素の供給源である。2つのカソードを図示する。一方のカソードはアノードの近位の眼球内腔に存在する。他方のカソードは眼腔の外側に位置するが、組織のイオン伝導性によってこれに電気的に接続している。どちらの電極対を電気分解に使用するかはpHセンサと電極を選択する電気的なフィードバック切り替え回路とによって決定される。実験室の写真を図22に挿入図として示す。図23のデータはエームス(Ames)媒体+200μg/mlのヒアルロン酸を800μAで1時間電気分解した結果を示す。この溶液の開始pHは7.4であり、内部電極を使用する間に眼のpHは硝子体液によって緩衝されるはずであり、pHがわずかに増加することに留意されたい。しかし、電気分解が眼の中でかようなpH変動を示し始める(すなわち、塩素アルカリプロセスのために次第に塩基性となり、pHが上昇するであろう)なら、カンチレバーのpHセンサはこれを検出し、眼球外部の電極を使用する方法へと装置を切り替えるであろう。硝子体液の腔の外側のカソードを使用すると、pHが酸性になる。これは、水の酸化により酸素1モルあたりプロトン4モルが生成する(2H2O→O2+4H++4e−)ためである。外部電極の選択によって、pHを低下させ、これによりpHを最初の値に回復させることができる。適当な電極対を交互に選択するこのような能力が、眼内部に一定のpH制御をもたらすのである。この方法は、硝子体液をpHの中性条件下で酸素化するという問題に対する技術的な解決となるが、これはもちろん電気分解の化学全体を変更するものではない。これは、眼球外部のpHの問題を、結膜下流体の体積が106倍(100万倍)大きく、緩衝材として作用するために、pH変化を容易に取り扱うことができる結膜下空間中の眼球外部のカソード領域に「移出」する。これらのデータは、本試みの実現可能性を実証する。
【0089】
酸素および水素の発生はアノードおよびカソードにおいて圧倒的に主要な電気分解反応である。繰り返しパルス法の目的は、遊離塩素であるCl2の生成の抑制である。しかし、万が一塩素が生成すると、これは直ちに水と反応して次亜塩素酸イオン(OCl−)および次亜塩素酸(HOCl)を生成する。このpKaは7.53である。分子水素(H2)の電解生成は無視することができる。これは眼における実験条件下では非反応性である。図22における挿入図はスーパーオキシドアニオン(O2−)および過酸化水素(H2O2)を潜在的に生成しうる小さな経路を示す。ただし、これらの種は通常、硝子体液中の天然のスーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの活性によって効率的に除去される。さらに、アスコルビン酸塩およびグルコースは抗酸化活性を有し、硝子体液中にミリモル濃度で存在する。
【0090】
現状で本発明の好ましい実施形態と考えられるものを図示し説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書内で多様な変更及び修正を加えられることは当業者には自明であろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の虚血組織の治療方法であって、
虚血体内組織に酸素を供給するように、前記哺乳動物中に存在する虚血組織の近位/および内部にある生体液を電気分解することを含む、治療方法。
【請求項2】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
電気分解される前記生体液のpHを制御する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項4】
アノードと、虚血体内組織の近位または内部にある生体液中で前記アノードと電気的に接続した第1のカソードとを移植して電気的に動作させることにより電気分解を行う、請求項1に記載の治療方法。
【請求項5】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する、請求項4に記載の治療方法。
【請求項6】
体内組織中の水から酸素への選択的酸化が可能となるようにアノード電極の電気二重層内部の塩化物イオンの配置または濃度プロファイルを変更することができるパルス電解技術により、前記塩素物質の生成を制御する、請求項5に記載の治療方法。
【請求項7】
前記パルス電解技術は単相、二相、または多相の電気パルス技術を使用する、請求項6に記載の治療方法。
【請求項8】
前記技術は電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する単相正パルスを含む、請求項7に記載の治療方法。
【請求項9】
アノードの電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する正パルスに先行して電極表面において塩化物の水からの除去を高めるための負パルスを起こす、請求項6に記載の治療方法。
【請求項10】
前記技術は水の酸化のための正パルスの後に、いずれかの残留塩素物質を塩化物イオン塩に還元するのに十分な持続時間および電圧を有する負パルスが続く、請求項6に記載の治療方法。
【請求項11】
電気分解される前記生体液のpHを制御する、請求項4に記載の治療方法。
【請求項12】
前記pHを電気分解法によって制御する、請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記電気分解法は、前記アノードの近位の組織に位置し、電気的に動作する第2のカソード電極と、虚血組織の近位または内部にある組織に位置し、電気的に動作する第1のカソードとをさらに含み、
前記第2のカソード電極は前記アノードおよび前記第1のカソードと電気的に接続され、
pHセンサおよび/または酸素センサは虚血組織の近位または内部にある組織内で動作し、かつ、前記pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報によって前記アノードおよび第1のカソード、もしくは前記第2のカソードの一方、またはこの両方が常時動作するような方法で、前記アノード、前記第1のカソード、および前記第2のカソードと電気的に接続される、請求項12に記載の治療方法。
【請求項14】
前記虚血組織は眼の中に位置し、前記生体液は硝子体液である、請求項1に記載の治療方法。
【請求項15】
哺乳動物の虚血組織への酸素の供給装置であって、
第1のカソード電極に電気的に接続したアノード電極を含む組織移植型の電気化学システムを含み、
前記電気化学システムは電力供給源に接続された場合に前記哺乳動物の虚血組織の近位または内部にある生体液からの酸素の電解生成が可能である、供給装置。
【請求項16】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する手段をさらに含む、請求項15に記載の供給装置。
【請求項17】
前記塩素物質の生成の制御手段は、アノード電極に接触する電極パルス発生器である、請求項16に記載の供給装置。
【請求項18】
電気分解される前記生体液のpHを制御する手段をさらに含む、請求項15に記載の供給装置。
【請求項19】
電気分解される前記生体液のpHを制御する手段は、前記アノードの近位にある生体液中に移植されて電気的に動作するように設計された第2のカソード電極と、虚血組織の近位または内部にある組織の生体液内に位置し、動作する第1のカソードとを含み、
前記第2のカソード電極は動作時に前記アノードおよび前記カソードと電気的に接続され、
pHセンサおよび/または酸素センサは虚血組織の近位または内部にある組織内で動作可能であり、かつ、前記pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報により前記アノードおよび第1のカソード、もしくは前記第2のカソードの一方、またはこの両方が常時動作するような方法で、前記アノード、前記第1のカソード、および前記第2のカソードと電気的に接続される、請求項18に記載の供給装置。
【請求項20】
前記電力供給源は、無線の電力伝達装置、電池、燃料電池、太陽電源装置、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項15に記載の供給装置。
【請求項21】
前記組織移植型の電気化学システムは無線電力供給源から無線電磁電力伝達により電力を供給される、請求項15に記載の供給装置。
【請求項22】
前記電磁伝達はラジオ周波数伝達である、請求項21に記載の供給装置。
【請求項1】
哺乳動物の虚血組織の治療方法であって、
虚血体内組織に酸素を供給するように、前記哺乳動物中に存在する虚血組織の近位/および内部にある生体液を電気分解することを含む、治療方法。
【請求項2】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
電気分解される前記生体液のpHを制御する、請求項1に記載の治療方法。
【請求項4】
アノードと、虚血体内組織の近位または内部にある生体液中で前記アノードと電気的に接続した第1のカソードとを移植して電気的に動作させることにより電気分解を行う、請求項1に記載の治療方法。
【請求項5】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する、請求項4に記載の治療方法。
【請求項6】
体内組織中の水から酸素への選択的酸化が可能となるようにアノード電極の電気二重層内部の塩化物イオンの配置または濃度プロファイルを変更することができるパルス電解技術により、前記塩素物質の生成を制御する、請求項5に記載の治療方法。
【請求項7】
前記パルス電解技術は単相、二相、または多相の電気パルス技術を使用する、請求項6に記載の治療方法。
【請求項8】
前記技術は電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する単相正パルスを含む、請求項7に記載の治療方法。
【請求項9】
アノードの電気二重層を再構築するための運動緩和時間定数よりも短い持続時間を有する正パルスに先行して電極表面において塩化物の水からの除去を高めるための負パルスを起こす、請求項6に記載の治療方法。
【請求項10】
前記技術は水の酸化のための正パルスの後に、いずれかの残留塩素物質を塩化物イオン塩に還元するのに十分な持続時間および電圧を有する負パルスが続く、請求項6に記載の治療方法。
【請求項11】
電気分解される前記生体液のpHを制御する、請求項4に記載の治療方法。
【請求項12】
前記pHを電気分解法によって制御する、請求項11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記電気分解法は、前記アノードの近位の組織に位置し、電気的に動作する第2のカソード電極と、虚血組織の近位または内部にある組織に位置し、電気的に動作する第1のカソードとをさらに含み、
前記第2のカソード電極は前記アノードおよび前記第1のカソードと電気的に接続され、
pHセンサおよび/または酸素センサは虚血組織の近位または内部にある組織内で動作し、かつ、前記pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報によって前記アノードおよび第1のカソード、もしくは前記第2のカソードの一方、またはこの両方が常時動作するような方法で、前記アノード、前記第1のカソード、および前記第2のカソードと電気的に接続される、請求項12に記載の治療方法。
【請求項14】
前記虚血組織は眼の中に位置し、前記生体液は硝子体液である、請求項1に記載の治療方法。
【請求項15】
哺乳動物の虚血組織への酸素の供給装置であって、
第1のカソード電極に電気的に接続したアノード電極を含む組織移植型の電気化学システムを含み、
前記電気化学システムは電力供給源に接続された場合に前記哺乳動物の虚血組織の近位または内部にある生体液からの酸素の電解生成が可能である、供給装置。
【請求項16】
電気分解される前記生体液中の塩素物質の生成を制御する手段をさらに含む、請求項15に記載の供給装置。
【請求項17】
前記塩素物質の生成の制御手段は、アノード電極に接触する電極パルス発生器である、請求項16に記載の供給装置。
【請求項18】
電気分解される前記生体液のpHを制御する手段をさらに含む、請求項15に記載の供給装置。
【請求項19】
電気分解される前記生体液のpHを制御する手段は、前記アノードの近位にある生体液中に移植されて電気的に動作するように設計された第2のカソード電極と、虚血組織の近位または内部にある組織の生体液内に位置し、動作する第1のカソードとを含み、
前記第2のカソード電極は動作時に前記アノードおよび前記カソードと電気的に接続され、
pHセンサおよび/または酸素センサは虚血組織の近位または内部にある組織内で動作可能であり、かつ、前記pHセンサおよび/または酸素センサからのフィードバック情報により前記アノードおよび第1のカソード、もしくは前記第2のカソードの一方、またはこの両方が常時動作するような方法で、前記アノード、前記第1のカソード、および前記第2のカソードと電気的に接続される、請求項18に記載の供給装置。
【請求項20】
前記電力供給源は、無線の電力伝達装置、電池、燃料電池、太陽電源装置、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項15に記載の供給装置。
【請求項21】
前記組織移植型の電気化学システムは無線電力供給源から無線電磁電力伝達により電力を供給される、請求項15に記載の供給装置。
【請求項22】
前記電磁伝達はラジオ周波数伝達である、請求項21に記載の供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2010−516389(P2010−516389A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547267(P2009−547267)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/000742
【国際公開番号】WO2008/091559
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509206501)
【出願人】(509206475)
【出願人】(509206464)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/000742
【国際公開番号】WO2008/091559
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(509206501)
【出願人】(509206475)
【出願人】(509206464)
【Fターム(参考)】
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