虚血関連眼疾患予防乃至治療剤
【課題】虚血に関連する眼疾患の予防乃至治療に有用な薬剤を提供すること。
【解決手段】P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤。
【解決手段】P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血が関連する眼疾患、例えば、糖尿病網膜症、緑内障等の疾患の予防乃至治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病網膜症、緑内障など、虚血が関連する眼疾患に対しては、これまで、Ca拮抗薬や、末梢循環改善薬などの虚血を改善するための薬剤が用いられてきた。しかし、これらの薬剤では、血圧低下や皮膚紅潮などの副作用が起こる可能性があり、症例によっては使用できない場合があった。
【0003】
一方、網膜神経節細胞におけるP2X7受容体が、細胞内Ca2+を上昇させ、細胞死に関わることが報告されている(非特許文献1参照)。また、培養脳細胞の虚血モデルにおいてP2X7受容体の発現が亢進することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、本発明者らは、P2X7受容体が網膜微小血管細胞の細胞死に関連していること(非特許文献3参照)、P2X7受容体が糖尿病における網膜血流減少に関与していること(非特許文献4参照)を明らかにしている。
【0005】
しかし、これまで、虚血による網膜神経細胞死とP2X7受容体を関連づける報告はない。
【非特許文献1】Zhang X et al, IOVS, 2005,46(6):2183-91
【非特許文献2】Wirkner K et al, J Neurochem, 2005,95,1421-1437
【非特許文献3】Sugiyama T et al, IOVS, 2004,45(3):1026-32
【非特許文献4】Sugiyama T et al, Arch Ophthalmol, 2006,124(8):1143-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、虚血に関連する眼疾患の予防乃至治療に有用な薬剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、網膜神経細胞とP2X7受容体の関係について鋭意検討した結果、虚血により惹起される網膜神経細胞死にP2X7受容体が関与していることを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤に関する。
【0009】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0010】
1.P2X7受容体アンタゴニスト
本発明において、P2X7受容体のアンタゴニストとは、P2X7受容体の活性を完全にまたは部分的に抑制し得る化合物を意味する。P2X7受容体アンタゴニストは、P2X7受容体拮抗薬とも換言することができる。
【0011】
P2X7受容体に対する化合物の作用の確認は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、P2X7受容体を臭化エチジウム(蛍光DNAプローブ)の存在下、P2X7受容体アゴニストにより活性化した場合、細胞内DNA−結合臭化エチジウムの蛍光の増大が認められる。このように、蛍光の変化を定量することにより、P2X7受容体に対する物質の作用を確認することができる。
【0012】
具体的に、P2X 7受容体アンタゴニストとしては、KN-62(1-[N,O-dis-(5-iso
-quinolinesulfonyl)-N-methyl-L-tyrosyl]-4-phenylpiperazine)、HMA(hexamethylene amiloride)、Oxidized-ATP(periodate-oxidized adenosine triphosphate)、またはBBG(Brilliant blue G)などを挙げることができる。
【0013】
また、以下の化合物を例示することができる:
2−クロロ−5−[[2−(2−ヒドロキシ−エチルアミノ)−エチルアミノ]−メチル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・二塩酸塩;
2−クロロ−5−[3−[(3−ヒドロキシプロピル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
(R)−2−クロロ−5−[3−[(2−ヒドロキシ−1−メチルエチル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[[2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エトキシ]メチル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・酢酸(1:1)塩、 2−クロロ−5−[3−[3−(メチルアミノ)プロポキシ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[3−(3−ヒドロキシ−プロピルアミノ)−プロポキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[2−(3−ヒドロキシプロピルアミノ)エチルアミノ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・酢酸(1:1)塩;
2−クロロ−5−[2−(3−ヒドロキシプロピルスルホニル)エトキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
2−クロロ−5−[2−[2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エトキシ]エトキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[[2−[[2−(1−メチル−1H−イミダゾール−4−イル)エチル]アミノ]エチル]アミノ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
2−クロロ−5−ピペラジン−1−イルメチル−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・二塩酸塩;
2−クロロ−5−(4−ピペリジニルオキシ)−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−(2,5−ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルメチル)−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−(ピペリジン−4−イルスルフィニル)−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
5−クロロ−2−[3−[(3−ヒドロキシプロピル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド;
2−クロロ−5−[3−[[(1R)−2−ヒドロキシ−1−メチルエチル]アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−3−ピリジンカルボキサミド;
5−クロロ−2−[3−(エチルアミノ)プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド塩酸塩;
5−クロロ−2−[3−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド塩酸塩;
5−クロロ−2−[3−[[(2S)−2−ヒドロキシプロピル]アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド・二塩酸塩;および
N−[2−メチル−5−(9−オキサ−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナ−3−イルカルボニル)フェニル]−トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン−1−アセトアミド塩酸塩。
【0014】
このうち、本発明においては、P2X 7受容体に選択性の高いアンタゴニスト、例えば、Oxidized-ATPが好ましく用いられる。
【0015】
2.虚血関連眼疾患予防乃至治療剤
本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とすることにより、公知の医薬製剤の調製方法に従って、調製することができる。
【0016】
当該製剤には、P2X7受容体アンタゴニスト以外に、適当な添加剤又は薬学的に許容し得る担体を含むことができる。また、他の薬学的に活性な成分を含むこともできる。例えば、Ca拮抗薬、末梢循環改善薬等の作用機序の異なる薬効成分を含むことができる。
【0017】
製剤形態も特に限定されず、予防乃至治療目的等に応じて選択できる。例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤、エアゾール剤、シロップ剤、点眼剤、眼軟膏剤等の形に調製することができる。
【0018】
例えば、点眼剤、眼軟膏剤等の製剤は、通常の眼科用製剤担体を用い、常法にしたがって製造される。例えば、点眼剤を製造するには、基剤として滅菌蒸留水を使用し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調整剤等を配合して調製することができる。また、例えば、眼軟膏剤を製造するには、公知の乳剤性基剤、水溶性基剤、懸濁性基剤等を使用して調製できる。基剤の代表例としては、例えば白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等を例示できる。
【0019】
虚血関連眼疾患予防乃至治療剤におけるP2X7受容体アンタゴニストの配合量は、疾患の程度や種類、製剤形態、患者の年令、性別その他の条件などに応じて設定することができ、特に限定されないが、例えば、Oxidized-ATP の場合は、通常、組織内有効濃度10〜1000μM程度、特に、30〜100μM程度を生じるのに適当な用量で配合される。また、BBGの場合、通常、組織内有効濃度5〜500μM程度、特に、10〜50μM程度を生じるのに適当な用量で配合される。
【0020】
また、投与方法も特に制限されず、各種製剤形態、患者の年令、性別その他の条件、疾患の程度などに応じた方法で投与される。例えば、経口投与、静脈内投与、皮内又は皮下投与などとすることができる。また、例えば、点眼剤の場合は、点滴容器から眼に1〜2滴滴下することにより投与できる。眼軟膏剤の場合には眼に塗布することにより投与することができる。
【0021】
投与量も、投与方法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜設定することができる。
【0022】
本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、虚血関連眼疾患の予防乃至治療に有用である。虚血関連眼疾患とは、虚血が関連する可能性のある眼疾患であり、虚血によって惹起される眼疾患を意味する。
【0023】
具体的に、虚血関連眼疾患には、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、緑内障、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、脈なし病などが含まれる。
【0024】
特に、本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、虚血が網膜神経細胞死と関連している眼疾患、換言すると、虚血による網膜神経細胞死関連眼疾患の予防乃至治療に有用である。
【0025】
また、本発明は、虚血による網膜神経細胞死の抑制や虚血又は低酸素状態に対する網膜神経細胞の保護のために使用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、緑内障、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、脈なし病など、虚血が関連する眼疾患の予防乃至治療に有用である。従来、これらの疾患に適用されていたCa拮抗薬、末梢循環改善薬等とは作用機序が異なり、新たな治療法となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明をより具体的に説明するために、実施例及び実験例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0028】
尚、以下で、特に断りのない限り、「%」は「重量%」を表す。
【実施例】
【0029】
1.網膜神経細胞の調製
胎生18〜19日の胎児ウィスターラットから網膜を採取し、その細胞浮遊液(1.0×106cell/ml)をカバースリップ上に播種し、培養に供した。培養液には2mM glutamine, penicillin-streptomycin (100 units/ml-50μg/ml), 25mM HEPES、10%牛胎児血清を有含させたEarle’s Minimal Essential Medium (MEM)を用い、5%CO2を含むair下で培養した。非神経細胞を除去する目的で培養5日目に10μM cytosine arabinoside (ara-C)を培養液に添加した。実験には、培養10日目の網膜神経細胞を供した。
【0030】
また、当該細胞は、アマクリン細胞の特異的マーカーであるSyntaxin-1を用いて染色したところ、約8割が染まり、特にアマクリン細胞が大半を占めていることがわかった。
【0031】
2.免疫組織化学的染色によるP2X7受容体の確認
上記1で調製した細胞が、P2X7受容体をもつかどうかを、免疫組織化学染色(蛍光法)で検討した。
【0032】
(免疫組織化学的染色)
網膜神経細胞を100%エタノールで固定した後、5%ロバ血清、1%牛胎児血清含有PBS中に1時間室温で留置した。PBSで5分間洗った後、一次抗体であるウサギ抗P2X7抗体溶液(1:1000、シグマ)に1時間浸し、その後、二次抗体であるFITC接合ロバ抗ウサギIgG抗体(1:300)に45分間浸した。いずれも室温で留置した。最後にDAPIで核染色を行い、倒立型蛍光顕微鏡システム(VZ-8000, キーエンス)で観察及び撮影した。
【0033】
図1に免疫組織化学染色の結果を示す。この結果、ほとんどの神経細胞が染色され、当該細胞におけるP2X7受容体の存在が確認できた。
【0034】
3.低酸素負荷による網膜神経細胞死の検討
(3−1)酸素・二酸化炭素制御装置(PROOX Model 110, フィジオテック)を用いて、二酸化炭素を通常の条件どおり5%に保ったまま、酸素を通常の酸素濃度約20%から1%、3%、5%に減少させた状態で、網膜神経細胞を培養した。培養時間は、24時間、あるいは、12または6時間とした。細胞死は、下記トリパンブルー排出能により確認した。
【0035】
(トリパンブルー排出能)
培養網膜神経細胞を、1.5%トリパンブルー液に室温で10分間浸し、等張ホルマリン液(pH 7.0, 2-4℃)で固定後、生理食塩液で洗い、Hoffman modulation microscope (オリンパス、東京)で、200倍の倍率下で観察した。各カバースリップ当り200個以上の細胞を数え、トリパンブルーに染まっている細胞を死細胞、染まっていない細胞を生細胞として、細胞死率(%)、即ち、計測した細胞数全体に対する死細胞の率(%)を算出した。なお、固まっている細胞は数えず、また計測者には処置内容を知られないようにした。
【0036】
図2に、24時間低酸素負荷した網膜神経細胞の細胞死の例を示す。
【0037】
その結果、酸素濃度1%では大部分の細胞がトリパンブルーで染まり、細胞死を起こしていることが示された。
【0038】
(3−2)上記実験の結果を統計学的に検討した。上記(3−1)に記述した手法で、8匹の動物を用いてn=6〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0039】
図3に低酸素負荷による細胞死の酸素濃度依存性をグラフ化して示す。その結果、酸素濃度が低いほど細胞死が有意に増加することがわかった。
【0040】
(3−3)更に、低酸素負荷による細胞死の経時的変化を調べた。実験は、上記(3−1)と同様の手法で、5匹の動物を用いてn=5〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0041】
図4に酸素濃度1%で培養した場合における細胞死の経時的変化をグラフ化して示す。
【0042】
その結果、低酸素下6時間後まではほとんど有意な細胞死は生じなかったが、12時間、24時間と経つにつれ細胞死が有意に増加することがわかった。
【0043】
4.P2X7受容体アンタゴニストの影響
(4−1)低酸素負荷による網膜神経細胞死へのP2X7受容体アンタゴニストの影響について検討を行った。P2X7受容体アンタゴニストとしてOxidized ATP(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用い、培養液にOxidized ATPを溶解して24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、低酸素負荷による網膜神経細胞死の検討を行った。以下、Oxidized ATPは、「Ox-ATP」とも称する。
【0044】
図5に低酸素負荷による網膜神経細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果の例を示す。
【0045】
この結果、P2X7受容体アンタゴニストであるOxidized ATPを暴露する場合、低酸素負荷における細胞死が抑制されることがわかった。
【0046】
(4−2)更に、Oxidized ATPの添加濃度を変えて検討を行った。実験は、上記(4−1)と同様の手法で、8匹の動物を用いてn=9〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0047】
図6に低酸素負荷による網膜神経細胞死へのOx-ATPの抑制効果を、濃度を変えて調べた結果をグラフ化して示す。
【0048】
その結果、Oxidized ATPの濃度依存的に細胞死が抑制されることがわかった。
【0049】
(4−3)更に、P2X 7受容体アンタゴニストとして、BBG(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いて、同様の検討を行った。実験は、P2X7受容体アンタゴニストとして、BBGを用いる以外は、上記(4−1)と同様の手法で行った。8匹の動物を用いてn=5〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0050】
図7に低酸素負荷による網膜神経細胞死へのBBGの抑制効果を、濃度を変えて解析した結果を示す。
【0051】
その結果、上述のOx-ATPの場合と同様に、BBGの濃度依存的に細胞死が抑制されることがわかった。但し、P2X7受容体に対してより選択性の高いOxidized ATPに比べると、その作用は弱いものであった。
【0052】
(4−4)更に、上記(4−1)における網膜神経細胞死について、下記TUNEL染色(蛍光法)により検討を行った。TUNEL染色は主にアポトーシスを確認できるとされている。
【0053】
(TUNEL染色)
TdT-mediated dUTP nick-end labelling (TUNEL) assayに先立って、4%パラフォルムアルデヒド含有PBSに室温で25分浸して固定した。0.2% Triton X-100 含有PBSに5分間浸した。その後はDeadEnd Fluometric TUNEL System (Promega社)を添付書のプロトコールに従って使用した。最後に核染色としてDAPIを用い、倒立型蛍光顕微鏡システム(VZ-8000, キーエンス)で観察及び撮影した。各カバースリップ当り200個以上の細胞を数え、TUNEL陽性細胞、陰性細胞に区別した。
【0054】
図8に、低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色により解析した結果の例を示す。
【0055】
その結果、低酸素負荷によってアポトーシスが増えることが同様に確認できた。また、P2X7受容体アンタゴニストの存在によって、アポトーシスが抑制されることが同様に確認された。
【0056】
(4−5)更に、低酸素負荷におけるアポトーシスの割合を検討した。実験は、上記(4−4)と同様の手法で、1匹の動物を用いてカバースリップ上の164〜186個の網膜神経細胞について行い、陽性・陰性の細胞各々の百分率(%)として表現した。統計学的有意差はFisher’s exact testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0057】
図9に低酸素負荷によるアポトーシス(TUNEL陽性細胞)の割合とP2X7受容体アンタゴニストの影響を解析した結果を示す。
【0058】
その結果、P2X7受容体アンタゴニストによりアポトーシスも有意に抑制されていることが確認できた。
【0059】
5.ATPによる細胞死とP2X7受容体アンタゴニストの影響
更に、ATPによる細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。
【0060】
培養液に、ATPを溶解し、通常の酸素濃度20%で24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、網膜神経細胞死の検討を行った。更に、ATPに加えて、P2X7受容体アンタゴニストを溶解し、ATPによる細胞死に対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。 8匹の動物を用いてn=4〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0061】
図10にATPによる網膜神経細胞死とP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す。
【0062】
その結果、ATPの用量依存的に細胞死が増加することがわかった。また、P2X7受容体アンタゴニストの存在により、ATPによる細胞死が抑制されることがわかった。
【0063】
6.P2X7受容体刺激薬(アゴニスト)による細胞死とP2X7受容体アンタゴニストの影響
(6−1)P2X7受容体アゴニストによる細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。
【0064】
培養液に、P2X 7受容体アゴニストを溶解し、通常の酸素濃度約20%で24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、網膜神経細胞死の検討を行った。更に、P2X7受容体アゴニストに加えて、P2X 7受容体アンタゴニストを溶解し、ATPによる細胞死に対するP2X 7受容体アンタゴニストの影響を検討した。8匹の動物を用いてn=7〜13のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0065】
P2X7受容体アゴニストとしてはBzATP(benzoylbenzoyl-adenosine triphosphate、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いた。また、P2X7受容体アンタゴニストとしてはOx-ATPを用いた。
【0066】
図11にP2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストの影響を解析した結果を示す。
【0067】
その結果、P2X7受容体アゴニストの濃度依存的に細胞死が増加することがわかった。また、P2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されていることがわかった。
【0068】
(6−2)更に、上記(6−1)におけるP2X7受容体刺激薬(アゴニスト)による細胞死を、上記(4−4)に記載のTUNEL染色により検討した。図12に、P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死をTUNEL染色により解析した結果の例を示す。
【0069】
その結果、P2X7受容体刺アゴニストでアポトーシスが増加することが同様に確認できた。またP2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されることが確認できた。
【0070】
(6−3)更に、P2X7受容体刺激薬(アゴニスト)によるアポトーシスの割合と、それに対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。実験は、上記(6−2)と同様の手法とし、1匹の動物を用いてカバースリップ上の158〜172個の網膜神経細胞について行い、陽性・陰性の細胞各々の百分率(%)として表現した。統計学的有意差はFisher’s exact testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0071】
図13にP2X7受容体アゴニストによるアポトーシス(TUNEL陽性細胞)の割合とP2X7受容体アンタゴニストの抑制効果を解析した結果を示す。
【0072】
その結果、P2X7受容体アンタゴニストによってアポトーシスも有意に抑制されていることが確認できた。
【0073】
7.ATPによる細胞内Ca濃度の変化とP2X7受容体アンタゴニストの影響
ATPにより細胞内Ca濃度の変化と、それに対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。細胞内Ca濃度の変化は、下記のように調べた。
【0074】
(細胞内Ca測定)
カバースリップ上に付着した網膜神経細胞を、2μM fura2-AM(細胞内カルシウム指示蛍光色素のエステル体)を含む溶液中に遮光下37℃で30分間処理し、fura-2を細胞内に負荷した。fura-2を負荷した細胞を洗浄後、実験に使用した。微小血管標本の付着したカバースリップを画像分析システム(ARGUS/HISCA、浜松ホトニクス)に接続した倒立型顕微鏡(IX70 OLYMPUS、東京)上の灌流チャンバーにセットした。実験は37℃で行った。灌流チャンバーの容量は約80μlであった。fura2は340/380nmの2波長で励起し、510nmの蛍光強度を測定した。細胞内カルシウム濃度変化は蛍光強度比(F340/F380)として表現した。1つの実験は3匹の動物から得られた4〜7枚のカバースリップについて行い、mean±SDとして表現した。
【0075】
図14にATPによる細胞内Ca濃度の変化とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す。その結果、細胞内Ca濃度はATP添加により経時的に増加するが、P2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されることがわかった。
【0076】
8.上記のことから、低酸素による網膜神経細胞死(アポトーシスを含む)にP2X 7受容体が関与することが示唆された。更に、P2X7受容体の活性を抑制することで、虚血による網膜神経細胞死(アポトーシスを含む)を抑制し得ることが示唆された。また、この細胞死(アポトーシスを含む)とその抑制効果の機序に、細胞内Ca濃度の上昇とその抑制が関与している可能性が示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】網膜神経細胞の免疫組織化学染色の結果を示す。図1左はDAPIによる核染色の結果を示す。図1右はFITCにより受容体の免疫活性を調べた結果を示す。
【図2】低酸素負荷による網膜神経細胞死をトリパンブルー排出能により調べた結果の例を示す。図2左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果である。図2中央は、酸素濃度5%で培養した結果である。図2右は酸素濃度1%で培養した結果である。
【図3】低酸素負荷による網膜神経細胞死の酸素濃度依存性をグラフ化した図面である。図3の縦軸は細胞死(%)の値を示す。図3の横軸は酸素濃度(%)を示す。図3のCはコントロールであり、酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図4】酸素濃度1%で培養した場合における網膜神経細胞死の経時的変化を示すグラフである。図4の縦軸は細胞死(%)を示す。図4の横軸はこの酸素濃度に変えてからの時間、Controlは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図5】低酸素負荷による網膜神経細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果の例を示す図面である。図5左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果である。図5中央は、酸素濃度5%で培養した結果である。図5右は酸素濃度5%において、培養液にOxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の検討結果を示す。
【図6】低酸素負荷による網膜神経細胞死へのOx-ATPの抑制効果について濃度を変えて解析した結果を示す図面である。図6縦軸は細胞死(%)を示す。図6横軸は、酸素濃度5%の条件で培養した場合におけるOxidized ATPの添加濃度を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図7】低酸素負荷による網膜神経細胞死へのBBGの抑制効果について濃度を変えて解析した結果を示す図面である。図7縦軸は細胞死(%)を示す。図7横軸は、酸素濃度5%の条件で培養した場合におけるBBGの添加濃度を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図8】低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色により解析した結果の例を示す図面である。図8左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図8中央は、酸素濃度5%で培養した結果を示す。図8右は酸素濃度5%において、Oxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の結果を示す。
【図9】低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスの割合を解析した結果を示す図面である。図9の縦軸は細胞数を示す。図9のControlは、通常の酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図9中央は、酸素濃度5%で培養した結果を示す。図9右は酸素濃度5%において、培養液にOxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の結果を示す。
【図10】ATPによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図10の縦軸は細胞死(%)を示す。図10の横軸の数値はATPの溶解濃度を示す。また向かって一番右端のデータは、300μMのATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図11】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図11の縦軸は細胞死(%)を示す。図11の横軸の数値はBzATPの溶解濃度を示す。また向かって一番右端のデータは、100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。CはBzATPを添加せずに酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図12】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色(蛍光法)により解析した結果を示す図面である。図12左は、対照としてBzATPを加えずに酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図12中央は、100μMのBzATPを添加した場合の結果を示す。図12右は100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを溶解した場合の結果を示す。
【図13】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞のアポトーシスとP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図13の縦軸は細胞数(%)を示す。図13のControlは、BzATPを加えずに培養した結果を示す。図13中央は、100μMのBzATPを添加した場合の結果を示す。図13右は100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。
【図14】ATPによる網膜神経細胞内Ca濃度の変化とP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図14左は、300μMのATPを添加した場合を示す。図14右は、300μMのATP添加前に、100μMのOx-ATPを添加した場合を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血が関連する眼疾患、例えば、糖尿病網膜症、緑内障等の疾患の予防乃至治療に有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病網膜症、緑内障など、虚血が関連する眼疾患に対しては、これまで、Ca拮抗薬や、末梢循環改善薬などの虚血を改善するための薬剤が用いられてきた。しかし、これらの薬剤では、血圧低下や皮膚紅潮などの副作用が起こる可能性があり、症例によっては使用できない場合があった。
【0003】
一方、網膜神経節細胞におけるP2X7受容体が、細胞内Ca2+を上昇させ、細胞死に関わることが報告されている(非特許文献1参照)。また、培養脳細胞の虚血モデルにおいてP2X7受容体の発現が亢進することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、本発明者らは、P2X7受容体が網膜微小血管細胞の細胞死に関連していること(非特許文献3参照)、P2X7受容体が糖尿病における網膜血流減少に関与していること(非特許文献4参照)を明らかにしている。
【0005】
しかし、これまで、虚血による網膜神経細胞死とP2X7受容体を関連づける報告はない。
【非特許文献1】Zhang X et al, IOVS, 2005,46(6):2183-91
【非特許文献2】Wirkner K et al, J Neurochem, 2005,95,1421-1437
【非特許文献3】Sugiyama T et al, IOVS, 2004,45(3):1026-32
【非特許文献4】Sugiyama T et al, Arch Ophthalmol, 2006,124(8):1143-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、虚血に関連する眼疾患の予防乃至治療に有用な薬剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、網膜神経細胞とP2X7受容体の関係について鋭意検討した結果、虚血により惹起される網膜神経細胞死にP2X7受容体が関与していることを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤に関する。
【0009】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0010】
1.P2X7受容体アンタゴニスト
本発明において、P2X7受容体のアンタゴニストとは、P2X7受容体の活性を完全にまたは部分的に抑制し得る化合物を意味する。P2X7受容体アンタゴニストは、P2X7受容体拮抗薬とも換言することができる。
【0011】
P2X7受容体に対する化合物の作用の確認は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、P2X7受容体を臭化エチジウム(蛍光DNAプローブ)の存在下、P2X7受容体アゴニストにより活性化した場合、細胞内DNA−結合臭化エチジウムの蛍光の増大が認められる。このように、蛍光の変化を定量することにより、P2X7受容体に対する物質の作用を確認することができる。
【0012】
具体的に、P2X 7受容体アンタゴニストとしては、KN-62(1-[N,O-dis-(5-iso
-quinolinesulfonyl)-N-methyl-L-tyrosyl]-4-phenylpiperazine)、HMA(hexamethylene amiloride)、Oxidized-ATP(periodate-oxidized adenosine triphosphate)、またはBBG(Brilliant blue G)などを挙げることができる。
【0013】
また、以下の化合物を例示することができる:
2−クロロ−5−[[2−(2−ヒドロキシ−エチルアミノ)−エチルアミノ]−メチル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・二塩酸塩;
2−クロロ−5−[3−[(3−ヒドロキシプロピル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
(R)−2−クロロ−5−[3−[(2−ヒドロキシ−1−メチルエチル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[[2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エトキシ]メチル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・酢酸(1:1)塩、 2−クロロ−5−[3−[3−(メチルアミノ)プロポキシ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[3−(3−ヒドロキシ−プロピルアミノ)−プロポキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[2−(3−ヒドロキシプロピルアミノ)エチルアミノ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・酢酸(1:1)塩;
2−クロロ−5−[2−(3−ヒドロキシプロピルスルホニル)エトキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
2−クロロ−5−[2−[2−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エトキシ]エトキシ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−[[2−[[2−(1−メチル−1H−イミダゾール−4−イル)エチル]アミノ]エチル]アミノ]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
2−クロロ−5−ピペラジン−1−イルメチル−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド・二塩酸塩;
2−クロロ−5−(4−ピペリジニルオキシ)−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−(2,5−ジアザビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−イルメチル)−N−(トリシクロ[3.3.1.1]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド塩酸塩;
2−クロロ−5−(ピペリジン−4−イルスルフィニル)−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−ベンズアミド;
5−クロロ−2−[3−[(3−ヒドロキシプロピル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド;
2−クロロ−5−[3−[[(1R)−2−ヒドロキシ−1−メチルエチル]アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−3−ピリジンカルボキサミド;
5−クロロ−2−[3−(エチルアミノ)プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド塩酸塩;
5−クロロ−2−[3−[(2−ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド塩酸塩;
5−クロロ−2−[3−[[(2S)−2−ヒドロキシプロピル]アミノ]プロピル]−N−(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イルメチル)−4−ピリジンカルボキサミド・二塩酸塩;および
N−[2−メチル−5−(9−オキサ−3,7−ジアザビシクロ[3.3.1]ノナ−3−イルカルボニル)フェニル]−トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン−1−アセトアミド塩酸塩。
【0014】
このうち、本発明においては、P2X 7受容体に選択性の高いアンタゴニスト、例えば、Oxidized-ATPが好ましく用いられる。
【0015】
2.虚血関連眼疾患予防乃至治療剤
本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とすることにより、公知の医薬製剤の調製方法に従って、調製することができる。
【0016】
当該製剤には、P2X7受容体アンタゴニスト以外に、適当な添加剤又は薬学的に許容し得る担体を含むことができる。また、他の薬学的に活性な成分を含むこともできる。例えば、Ca拮抗薬、末梢循環改善薬等の作用機序の異なる薬効成分を含むことができる。
【0017】
製剤形態も特に限定されず、予防乃至治療目的等に応じて選択できる。例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤、エアゾール剤、シロップ剤、点眼剤、眼軟膏剤等の形に調製することができる。
【0018】
例えば、点眼剤、眼軟膏剤等の製剤は、通常の眼科用製剤担体を用い、常法にしたがって製造される。例えば、点眼剤を製造するには、基剤として滅菌蒸留水を使用し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調整剤等を配合して調製することができる。また、例えば、眼軟膏剤を製造するには、公知の乳剤性基剤、水溶性基剤、懸濁性基剤等を使用して調製できる。基剤の代表例としては、例えば白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等を例示できる。
【0019】
虚血関連眼疾患予防乃至治療剤におけるP2X7受容体アンタゴニストの配合量は、疾患の程度や種類、製剤形態、患者の年令、性別その他の条件などに応じて設定することができ、特に限定されないが、例えば、Oxidized-ATP の場合は、通常、組織内有効濃度10〜1000μM程度、特に、30〜100μM程度を生じるのに適当な用量で配合される。また、BBGの場合、通常、組織内有効濃度5〜500μM程度、特に、10〜50μM程度を生じるのに適当な用量で配合される。
【0020】
また、投与方法も特に制限されず、各種製剤形態、患者の年令、性別その他の条件、疾患の程度などに応じた方法で投与される。例えば、経口投与、静脈内投与、皮内又は皮下投与などとすることができる。また、例えば、点眼剤の場合は、点滴容器から眼に1〜2滴滴下することにより投与できる。眼軟膏剤の場合には眼に塗布することにより投与することができる。
【0021】
投与量も、投与方法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜設定することができる。
【0022】
本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、虚血関連眼疾患の予防乃至治療に有用である。虚血関連眼疾患とは、虚血が関連する可能性のある眼疾患であり、虚血によって惹起される眼疾患を意味する。
【0023】
具体的に、虚血関連眼疾患には、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、緑内障、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、脈なし病などが含まれる。
【0024】
特に、本発明の眼疾患予防乃至治療剤は、虚血が網膜神経細胞死と関連している眼疾患、換言すると、虚血による網膜神経細胞死関連眼疾患の予防乃至治療に有用である。
【0025】
また、本発明は、虚血による網膜神経細胞死の抑制や虚血又は低酸素状態に対する網膜神経細胞の保護のために使用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、糖尿病網膜症、虚血性視神経症、緑内障、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症、脈なし病など、虚血が関連する眼疾患の予防乃至治療に有用である。従来、これらの疾患に適用されていたCa拮抗薬、末梢循環改善薬等とは作用機序が異なり、新たな治療法となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明をより具体的に説明するために、実施例及び実験例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0028】
尚、以下で、特に断りのない限り、「%」は「重量%」を表す。
【実施例】
【0029】
1.網膜神経細胞の調製
胎生18〜19日の胎児ウィスターラットから網膜を採取し、その細胞浮遊液(1.0×106cell/ml)をカバースリップ上に播種し、培養に供した。培養液には2mM glutamine, penicillin-streptomycin (100 units/ml-50μg/ml), 25mM HEPES、10%牛胎児血清を有含させたEarle’s Minimal Essential Medium (MEM)を用い、5%CO2を含むair下で培養した。非神経細胞を除去する目的で培養5日目に10μM cytosine arabinoside (ara-C)を培養液に添加した。実験には、培養10日目の網膜神経細胞を供した。
【0030】
また、当該細胞は、アマクリン細胞の特異的マーカーであるSyntaxin-1を用いて染色したところ、約8割が染まり、特にアマクリン細胞が大半を占めていることがわかった。
【0031】
2.免疫組織化学的染色によるP2X7受容体の確認
上記1で調製した細胞が、P2X7受容体をもつかどうかを、免疫組織化学染色(蛍光法)で検討した。
【0032】
(免疫組織化学的染色)
網膜神経細胞を100%エタノールで固定した後、5%ロバ血清、1%牛胎児血清含有PBS中に1時間室温で留置した。PBSで5分間洗った後、一次抗体であるウサギ抗P2X7抗体溶液(1:1000、シグマ)に1時間浸し、その後、二次抗体であるFITC接合ロバ抗ウサギIgG抗体(1:300)に45分間浸した。いずれも室温で留置した。最後にDAPIで核染色を行い、倒立型蛍光顕微鏡システム(VZ-8000, キーエンス)で観察及び撮影した。
【0033】
図1に免疫組織化学染色の結果を示す。この結果、ほとんどの神経細胞が染色され、当該細胞におけるP2X7受容体の存在が確認できた。
【0034】
3.低酸素負荷による網膜神経細胞死の検討
(3−1)酸素・二酸化炭素制御装置(PROOX Model 110, フィジオテック)を用いて、二酸化炭素を通常の条件どおり5%に保ったまま、酸素を通常の酸素濃度約20%から1%、3%、5%に減少させた状態で、網膜神経細胞を培養した。培養時間は、24時間、あるいは、12または6時間とした。細胞死は、下記トリパンブルー排出能により確認した。
【0035】
(トリパンブルー排出能)
培養網膜神経細胞を、1.5%トリパンブルー液に室温で10分間浸し、等張ホルマリン液(pH 7.0, 2-4℃)で固定後、生理食塩液で洗い、Hoffman modulation microscope (オリンパス、東京)で、200倍の倍率下で観察した。各カバースリップ当り200個以上の細胞を数え、トリパンブルーに染まっている細胞を死細胞、染まっていない細胞を生細胞として、細胞死率(%)、即ち、計測した細胞数全体に対する死細胞の率(%)を算出した。なお、固まっている細胞は数えず、また計測者には処置内容を知られないようにした。
【0036】
図2に、24時間低酸素負荷した網膜神経細胞の細胞死の例を示す。
【0037】
その結果、酸素濃度1%では大部分の細胞がトリパンブルーで染まり、細胞死を起こしていることが示された。
【0038】
(3−2)上記実験の結果を統計学的に検討した。上記(3−1)に記述した手法で、8匹の動物を用いてn=6〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0039】
図3に低酸素負荷による細胞死の酸素濃度依存性をグラフ化して示す。その結果、酸素濃度が低いほど細胞死が有意に増加することがわかった。
【0040】
(3−3)更に、低酸素負荷による細胞死の経時的変化を調べた。実験は、上記(3−1)と同様の手法で、5匹の動物を用いてn=5〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0041】
図4に酸素濃度1%で培養した場合における細胞死の経時的変化をグラフ化して示す。
【0042】
その結果、低酸素下6時間後まではほとんど有意な細胞死は生じなかったが、12時間、24時間と経つにつれ細胞死が有意に増加することがわかった。
【0043】
4.P2X7受容体アンタゴニストの影響
(4−1)低酸素負荷による網膜神経細胞死へのP2X7受容体アンタゴニストの影響について検討を行った。P2X7受容体アンタゴニストとしてOxidized ATP(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用い、培養液にOxidized ATPを溶解して24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、低酸素負荷による網膜神経細胞死の検討を行った。以下、Oxidized ATPは、「Ox-ATP」とも称する。
【0044】
図5に低酸素負荷による網膜神経細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果の例を示す。
【0045】
この結果、P2X7受容体アンタゴニストであるOxidized ATPを暴露する場合、低酸素負荷における細胞死が抑制されることがわかった。
【0046】
(4−2)更に、Oxidized ATPの添加濃度を変えて検討を行った。実験は、上記(4−1)と同様の手法で、8匹の動物を用いてn=9〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0047】
図6に低酸素負荷による網膜神経細胞死へのOx-ATPの抑制効果を、濃度を変えて調べた結果をグラフ化して示す。
【0048】
その結果、Oxidized ATPの濃度依存的に細胞死が抑制されることがわかった。
【0049】
(4−3)更に、P2X 7受容体アンタゴニストとして、BBG(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いて、同様の検討を行った。実験は、P2X7受容体アンタゴニストとして、BBGを用いる以外は、上記(4−1)と同様の手法で行った。8匹の動物を用いてn=5〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0050】
図7に低酸素負荷による網膜神経細胞死へのBBGの抑制効果を、濃度を変えて解析した結果を示す。
【0051】
その結果、上述のOx-ATPの場合と同様に、BBGの濃度依存的に細胞死が抑制されることがわかった。但し、P2X7受容体に対してより選択性の高いOxidized ATPに比べると、その作用は弱いものであった。
【0052】
(4−4)更に、上記(4−1)における網膜神経細胞死について、下記TUNEL染色(蛍光法)により検討を行った。TUNEL染色は主にアポトーシスを確認できるとされている。
【0053】
(TUNEL染色)
TdT-mediated dUTP nick-end labelling (TUNEL) assayに先立って、4%パラフォルムアルデヒド含有PBSに室温で25分浸して固定した。0.2% Triton X-100 含有PBSに5分間浸した。その後はDeadEnd Fluometric TUNEL System (Promega社)を添付書のプロトコールに従って使用した。最後に核染色としてDAPIを用い、倒立型蛍光顕微鏡システム(VZ-8000, キーエンス)で観察及び撮影した。各カバースリップ当り200個以上の細胞を数え、TUNEL陽性細胞、陰性細胞に区別した。
【0054】
図8に、低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色により解析した結果の例を示す。
【0055】
その結果、低酸素負荷によってアポトーシスが増えることが同様に確認できた。また、P2X7受容体アンタゴニストの存在によって、アポトーシスが抑制されることが同様に確認された。
【0056】
(4−5)更に、低酸素負荷におけるアポトーシスの割合を検討した。実験は、上記(4−4)と同様の手法で、1匹の動物を用いてカバースリップ上の164〜186個の網膜神経細胞について行い、陽性・陰性の細胞各々の百分率(%)として表現した。統計学的有意差はFisher’s exact testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0057】
図9に低酸素負荷によるアポトーシス(TUNEL陽性細胞)の割合とP2X7受容体アンタゴニストの影響を解析した結果を示す。
【0058】
その結果、P2X7受容体アンタゴニストによりアポトーシスも有意に抑制されていることが確認できた。
【0059】
5.ATPによる細胞死とP2X7受容体アンタゴニストの影響
更に、ATPによる細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。
【0060】
培養液に、ATPを溶解し、通常の酸素濃度20%で24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、網膜神経細胞死の検討を行った。更に、ATPに加えて、P2X7受容体アンタゴニストを溶解し、ATPによる細胞死に対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。 8匹の動物を用いてn=4〜10のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0061】
図10にATPによる網膜神経細胞死とP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す。
【0062】
その結果、ATPの用量依存的に細胞死が増加することがわかった。また、P2X7受容体アンタゴニストの存在により、ATPによる細胞死が抑制されることがわかった。
【0063】
6.P2X7受容体刺激薬(アゴニスト)による細胞死とP2X7受容体アンタゴニストの影響
(6−1)P2X7受容体アゴニストによる細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。
【0064】
培養液に、P2X 7受容体アゴニストを溶解し、通常の酸素濃度約20%で24時間暴露する以外は、上記(3−1)と同様にして、網膜神経細胞死の検討を行った。更に、P2X7受容体アゴニストに加えて、P2X 7受容体アンタゴニストを溶解し、ATPによる細胞死に対するP2X 7受容体アンタゴニストの影響を検討した。8匹の動物を用いてn=7〜13のカバースリップについて行い、mean±SEとして表現した。統計学的有意差はBonferroni-testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0065】
P2X7受容体アゴニストとしてはBzATP(benzoylbenzoyl-adenosine triphosphate、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いた。また、P2X7受容体アンタゴニストとしてはOx-ATPを用いた。
【0066】
図11にP2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストの影響を解析した結果を示す。
【0067】
その結果、P2X7受容体アゴニストの濃度依存的に細胞死が増加することがわかった。また、P2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されていることがわかった。
【0068】
(6−2)更に、上記(6−1)におけるP2X7受容体刺激薬(アゴニスト)による細胞死を、上記(4−4)に記載のTUNEL染色により検討した。図12に、P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死をTUNEL染色により解析した結果の例を示す。
【0069】
その結果、P2X7受容体刺アゴニストでアポトーシスが増加することが同様に確認できた。またP2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されることが確認できた。
【0070】
(6−3)更に、P2X7受容体刺激薬(アゴニスト)によるアポトーシスの割合と、それに対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。実験は、上記(6−2)と同様の手法とし、1匹の動物を用いてカバースリップ上の158〜172個の網膜神経細胞について行い、陽性・陰性の細胞各々の百分率(%)として表現した。統計学的有意差はFisher’s exact testを用い検定し、5%未満を有意とした。
【0071】
図13にP2X7受容体アゴニストによるアポトーシス(TUNEL陽性細胞)の割合とP2X7受容体アンタゴニストの抑制効果を解析した結果を示す。
【0072】
その結果、P2X7受容体アンタゴニストによってアポトーシスも有意に抑制されていることが確認できた。
【0073】
7.ATPによる細胞内Ca濃度の変化とP2X7受容体アンタゴニストの影響
ATPにより細胞内Ca濃度の変化と、それに対するP2X7受容体アンタゴニストの影響を検討した。細胞内Ca濃度の変化は、下記のように調べた。
【0074】
(細胞内Ca測定)
カバースリップ上に付着した網膜神経細胞を、2μM fura2-AM(細胞内カルシウム指示蛍光色素のエステル体)を含む溶液中に遮光下37℃で30分間処理し、fura-2を細胞内に負荷した。fura-2を負荷した細胞を洗浄後、実験に使用した。微小血管標本の付着したカバースリップを画像分析システム(ARGUS/HISCA、浜松ホトニクス)に接続した倒立型顕微鏡(IX70 OLYMPUS、東京)上の灌流チャンバーにセットした。実験は37℃で行った。灌流チャンバーの容量は約80μlであった。fura2は340/380nmの2波長で励起し、510nmの蛍光強度を測定した。細胞内カルシウム濃度変化は蛍光強度比(F340/F380)として表現した。1つの実験は3匹の動物から得られた4〜7枚のカバースリップについて行い、mean±SDとして表現した。
【0075】
図14にATPによる細胞内Ca濃度の変化とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す。その結果、細胞内Ca濃度はATP添加により経時的に増加するが、P2X7受容体アンタゴニストによってそれが抑制されることがわかった。
【0076】
8.上記のことから、低酸素による網膜神経細胞死(アポトーシスを含む)にP2X 7受容体が関与することが示唆された。更に、P2X7受容体の活性を抑制することで、虚血による網膜神経細胞死(アポトーシスを含む)を抑制し得ることが示唆された。また、この細胞死(アポトーシスを含む)とその抑制効果の機序に、細胞内Ca濃度の上昇とその抑制が関与している可能性が示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】網膜神経細胞の免疫組織化学染色の結果を示す。図1左はDAPIによる核染色の結果を示す。図1右はFITCにより受容体の免疫活性を調べた結果を示す。
【図2】低酸素負荷による網膜神経細胞死をトリパンブルー排出能により調べた結果の例を示す。図2左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果である。図2中央は、酸素濃度5%で培養した結果である。図2右は酸素濃度1%で培養した結果である。
【図3】低酸素負荷による網膜神経細胞死の酸素濃度依存性をグラフ化した図面である。図3の縦軸は細胞死(%)の値を示す。図3の横軸は酸素濃度(%)を示す。図3のCはコントロールであり、酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図4】酸素濃度1%で培養した場合における網膜神経細胞死の経時的変化を示すグラフである。図4の縦軸は細胞死(%)を示す。図4の横軸はこの酸素濃度に変えてからの時間、Controlは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図5】低酸素負荷による網膜神経細胞死と、P2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果の例を示す図面である。図5左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果である。図5中央は、酸素濃度5%で培養した結果である。図5右は酸素濃度5%において、培養液にOxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の検討結果を示す。
【図6】低酸素負荷による網膜神経細胞死へのOx-ATPの抑制効果について濃度を変えて解析した結果を示す図面である。図6縦軸は細胞死(%)を示す。図6横軸は、酸素濃度5%の条件で培養した場合におけるOxidized ATPの添加濃度を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図7】低酸素負荷による網膜神経細胞死へのBBGの抑制効果について濃度を変えて解析した結果を示す図面である。図7縦軸は細胞死(%)を示す。図7横軸は、酸素濃度5%の条件で培養した場合におけるBBGの添加濃度を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図8】低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色により解析した結果の例を示す図面である。図8左は、対照のために通常の酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図8中央は、酸素濃度5%で培養した結果を示す。図8右は酸素濃度5%において、Oxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の結果を示す。
【図9】低酸素負荷による網膜神経細胞のアポトーシスの割合を解析した結果を示す図面である。図9の縦軸は細胞数を示す。図9のControlは、通常の酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図9中央は、酸素濃度5%で培養した結果を示す。図9右は酸素濃度5%において、培養液にOxidized ATPを100μMの濃度で添加した場合の結果を示す。
【図10】ATPによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図10の縦軸は細胞死(%)を示す。図10の横軸の数値はATPの溶解濃度を示す。また向かって一番右端のデータは、300μMのATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。Cは酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図11】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞死とP2X 7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図11の縦軸は細胞死(%)を示す。図11の横軸の数値はBzATPの溶解濃度を示す。また向かって一番右端のデータは、100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。CはBzATPを添加せずに酸素濃度約20%で培養した場合の値を示す。
【図12】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞のアポトーシスをTUNEL染色(蛍光法)により解析した結果を示す図面である。図12左は、対照としてBzATPを加えずに酸素濃度約20%で培養した結果を示す。図12中央は、100μMのBzATPを添加した場合の結果を示す。図12右は100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを溶解した場合の結果を示す。
【図13】P2X7受容体アゴニストによる網膜神経細胞のアポトーシスとP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図13の縦軸は細胞数(%)を示す。図13のControlは、BzATPを加えずに培養した結果を示す。図13中央は、100μMのBzATPを添加した場合の結果を示す。図13右は100μMのBzATPに加えて、100μMのOx-ATPを添加した場合の結果を示す。
【図14】ATPによる網膜神経細胞内Ca濃度の変化とP2X7受容体アンタゴニストによる抑制を解析した結果を示す図面である。図14左は、300μMのATPを添加した場合を示す。図14右は、300μMのATP添加前に、100μMのOx-ATPを添加した場合を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤。
【請求項1】
P2X7受容体アンタゴニストを有効成分とする虚血関連眼疾患予防乃至治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−67738(P2009−67738A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239127(P2007−239127)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 財団法人日本眼科学会 刊行物名 日眼会誌第111回臨時増刊号第111回日本眼科学会総会講演抄録 発行年月日 平成19年3月15日
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 財団法人日本眼科学会 刊行物名 日眼会誌第111回臨時増刊号第111回日本眼科学会総会講演抄録 発行年月日 平成19年3月15日
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】
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