説明

蛍光による分析対象物質の決定における多機能参照システム

本発明は液体試料中の分析対象物質をルミネセンスによって検出するためのシステムに関し、そのシステムは分析対象物質に特異的な物質と比較参照物質を含む担体を包含する。さらに、本発明は前記システムを使って液体試料中の分析対象物質を検出する方法に関する。本発明によるシステムは、分析対象物質の検出以外に、分析試料量の決定、分析対象物質量の決定、および/または検出用担体の使用準備状態の確認にも適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体試料中の分析対象物質をルミネセンスによって検出するためのシステムに係り、そのシステムは分析対象物質に特異的な物質と比較参照物質を含む担体を包含する。さらに、本発明は前記システムを使って液体試料中の分析対象物質を検出する方法にも係る。本発明によるシステムは、分析対象物質の検出以外に、分析試料量の決定、分析対象物質量の決定、および/または検出用担体の使用準備状態の確認にも適する。
【0002】
分析対象物質を検出する、本発明によるシステムおよび方法は、ルミネセンスによる検出、特に蛍光による検出に基づいている。
【背景技術】
【0003】
このようなシステムは、現在の技術水準において、すでに古くから知られている。現在の分析法にあって、分析検査エレメントの光度測定による評価は、試料中の分析対象物質の迅速な検出または濃度の迅速な決定を行うために、最もよく使用されている方法の一つである。一般に、光度測定評価は、分析、環境分析の分野に加えて、特に医療診断の分野で使用されている。特に、毛細血管から採取した血液の分野では光度測定によって評価される検査エレメントが、非常に重要な位置を占めている。
【0004】
蛍光分光光度測定による検出システムの場合、蛍光を発する物質の発光強度は、励起強度に直接に比例する。励起強度は、多くの要因、たとえば光源の時間的変化や光路の変化によって影響を受ける。正に、確定目的以外に使用される検査室の小型機器では、光路に変化があると励起強度にも変化が生じる。それゆえ、再現性を維持して蛍光の絶対強度を測定することはきわめて困難である。
【0005】
したがって、現在使用されている蛍光検査システムは、これとの関連づけが可能な比較参照物質が使われる。そのような比較参照物質にはさまざまな種類のものが知られている。
【0006】
たとえば、現在の技術水準では、蛍光物質に基づく検出系に、分析対象物質に特異的な蛍光物質とは異なる波長で発光する第二の蛍光物質が使用されることが知られている。それゆえ、この第二の蛍光物質を比較参照物質として使用できる。その場合、両蛍光物質の区別は、二つの異なるフィルター(および二つの検出器)によって行うことができ、その場合、一方の蛍光物質は化学反応を受けず、比較参照物質として使用できる。この検出システムは、たとえば文献:Principles of Fluoresence Spectroscopy, J.R. Lackowicz, Kluver Academic/Plenum Publishers, New York, Boston, Dordrecht, Moscow 1999年、第2版に記載されている。
【0007】
別の手法として、時間を分割して参照する方法と位相を変調する方法とがある。これらの方法では、分析対象物質に特異的な蛍光物質が短寿命なのに対してそれより寿命の長いきわめて長寿命な蛍光物質が比較参照物質として使用される。寿命の長いルミネセンスは分析対象物質のパラメーターに影響を及ぼさないのに対して、分析対象物質に特異的な短寿命発光物質の強度は、分析対象物質のそのときどきの濃度によって変化する。そこで、最初に分析対象物質の蛍光物質を時間分割法で測定し、そのあとで比較参照物質の(蛍光の)減衰を測定する。減衰信号と、分析対象物質の信号と比較参照物質の信号との比は、入射強度に関係なく常に一定でなくてはならない。
【0008】
WO第99/06821号はそのようなシステムを開示している。それによれば、少なくとも2種類の発光物質が一つの共通担体上に固定化され、そのうちの第一の発光物質は、少なくともルミネセンス強度が、分析対象物質の決定すべきパラメータに対応し、そして第二の発光物質は、少なくともルミネセンス強度および減衰時間が、測定すべきパラメーターには対応しない。発光物質は減衰時間がそれぞれ異なっている。それゆえ、生じるルミネセンス応答の時間的および位相的挙動を、比較対照物質の測定すべきパラメーターを決定するための比較参照量の形成に使用することができる。
【0009】
WO第02/056023号は、試料の少なくとも一つのパラメーターを決定するための光学センサーを開示しているが、ここでもパラメーターに対応する、減衰時間の短い表示物質とパラメーターに対応しない、減衰時間の長い比較参照物質が使われる。その場合、表示物質および比較参照物質は一つの共通短体上に固体され、試料側は光透過性の層で被覆される。
【0010】
異なる波長で測定される第二の蛍光物質を通じて参照することは、当然に、機器面で必要コストが高くなる。たとえば、励起光を遮蔽できるようにするため、ただ一つのフィルターに替わって二つのフィルターが必要となり、普通それに合わせて検出器も二つ必要になる。それに加えて、励起後の光路を異なる検出器に分離することで、両光路の一方に間違いが生じるおそれがあり、その場合は間違った比較参照が行われることになる。
【0011】
時間分割または位相分割による比較参照には、常に発光性バックグラウンドを背景にして分析対象物質の測定を行わなければならないという欠点がある。このことは、測定範囲を制限するある一定のオフセットまたはシグナルバックグラウンドがあることを意味している。この原理は、図1に例示されている。
【0012】
図1には比較参照を使用した場合の分析シグナルの測定範囲と使用しない場合の測定範囲があげてある。参照蛍光物質を使用しない場合、測定範囲は、包含すべきダイナミックレンジに最もよく合致する。それに対して参照蛍光物質を使用する場合は、比較参照の測定範囲の一部が要求される。
【0013】
比較参照物質または比較対照発光物質は、分析対象物質と比較するための比較参照物質としてのみ使用でき、それ以外の機能を満たすことはできない。
【0014】
しかし、検査の場(Testfeld)が湿っていることを認識することと充填状態を監視することも、診断分野で分析対象物質を決定するときの重要なテーマである。
【0015】
この領域にも、現在の技術水準において、既存の方法を改善すべき点がある。WO第83/00931号は、液体試料のつける量が十分か判定し、検出するための装置および方法を開示している。それは、光源を包む液滴検知器から、水吸収バンドの中に置かれた試料に光が当たるようにすることで実現される。まず乾燥状態で試料の担体に光を当て、それから湿潤状態で光を当てて水分を測定する。つづいて、検出した信号の差から試料の水分含量を計算する。
【0016】
米国特許第5,114,350号は、体液試料中の分析対象物質の濃度を決定する方法および装置を開示している。水分量が増すほど減少する反射光の強さを測定することで、反応担体の水分量が測定される。
【0017】
DE第10248555 A1号は、検査ストリップの用量不足を知り、それを補償するための方法を開示している。この明細書には、試料中の分析対象物と相互作用する、分析対象物質に特異的な試薬と、試料の試料マトリックスと相互作用する対照物質とを、包含する検査エレメントが記載されている。分析対象物質と特異的に反応する試薬は、検出波長領域における分析対象物質の濃度に依存して、分析対象物質の濃度と相互作用する。対照シーケンスは、検査場に照射すると、検査場に供される試料の量に依存して、試料マトリックスと相互作用する。その場合、対照物質は、試料マトリックスに含まれる水分とも反応する。DE第10248555号に挙げられている例は、試料量を決定するための、分析対象物質に依存しない色素形成物質としてクロロフェノールレッドを、また、試料中の、たとえば血液中のブドウ糖の濃度を決定するための、分析対象物質に特異的な試薬として2,18−リンモリブデン酸を使用している。したがって、この明細書の上に挙げた例では、2つの波長領域で検出を行う必要があり、そのためこの検査システムは装置的にコストがかかる。
【0018】
本発明の根底にある課題は、比較参照物質と、分析対象物質に特異的な物質とを使用し、その際、現在の技術水準に記載されているコストのかかる装置を購入する必要がない、液体試料中の分析対象物質を検出するためのシステムおよび方法を提供することにある。
【発明の開示】
【0019】
本発明の課題は、担体を包含し、分析対象物質と接触してルミネセンスを放射できる、分析対象物質に特異的な物質と、液体試料接触することによって実質的に消される(消光される)第二のルミネセンスシグナルを発することができる比較参照物質とを包含し、液体試料中の分析対象物質のルミネセンスを検出するシステムによって解決される。
【0020】
驚いたことに、本発明による比較参照物質を使用すれば、試料が存在しなければ比較参照シグナルとして使用できるルミネセンスシグナルを発生し、現在の技術水準によって公知の検出法を単純化することができる。このルミネセンスは、試料を添加すると実質的に消され、もはや実質的にシグナルが発生しないか、少なくとも大幅にシグナルが減衰する。
【0021】
分析対象物質に特異的な物質に見られるように、励起波長と発光波長とが実質的に同じ場合は、本発明にとって特に有利である。このことはルミネセンスの検出に必要な検出器が一つですむことを意味している。
【0022】
比較参照物質の特性により、試料の不在で発生するルミネセンスシグナルは、試料と接触させると消されるため、比較参照物質は、分析対象物質の検出だけでなく、試料量の決定、分析対象物質量および/または担体機能の準備状態の確認にも使用できる。比較参照物質は、たとえば、濡れるとシグナルが消されるように選択することができる。そうすれば、検査システムが機能する準備ができているかを目で見て確認できるようにすることができる。すなわち、検査システムを含む担体が保存時に湿ってしまうか、そのような物質あるいは別の物質が担体と接触すると、比較参照物質のこのルミネセンスシグナルが消されるため、この検査システムが機能する準備ができていないことがわかる。
【0023】
消光は、好ましくは可逆的である、すなわち試料を取り去るか、具体的には、湿潤状態を取り去るか、もとの状態に戻せば、ルミネセンスシグナルを再度発生させることができる。
【0024】
そうすれば、比較参照することとならんで、湿潤状態を知ること、および/または充填状態の監視が、本発明によるシステムで実現可能となる。たとえば、検査場が担体上に準備されていて、その検査場が試料で十分湿潤されなかった場合、ルミネセンスシグナルは残ったままになる。その場合は、残ったルミネセンスを使ってコンピューターで計算し、分析対象物質に対する補正を行うことができる。
【0025】
ルミネセンスの特性が、環境の水分に対して可逆的な場合は、このような比較参照物質を水分インジケーターとして使うことができる。その場合、水分インジケーターは、検査システムの保存条件および、このシステムが機能するための準備状態に関する情報をもたらす。この比較参照物質は、検査システムの選択すべき使用期限に対するインジケーターとして使用することもできる。
【0026】
このような特性を持つルミネセンス物質、そして特に蛍光物質は、現在の技術水準ではほとんど知られていない。ほとんどの蛍光物質は湿潤環境で蛍光性を高め、消されない。
【0027】
分析対象物質に特異的な物質のルミネセンス特性がpH値に依存する場合は、分析対象物質に特異的な物質をpH値の決定に使用できる。それゆえ、一つの実施形態において、本発明によるシステムは、pHセンサー、すなわち、そのルミネセンスシグナルがpH値に依存する物質から、分析対象物質に特異的な物質が選択される。この実施形態において、比較参照物質は、好ましくは、pH値が変動したときにそのルミネセンスシグナルが実質的に消されてしまうような物質であってはならない。たとえば、約3.5ないし約7.0または約4.5ないし約6.0の範囲でpH値を決定するには、分析対象物質に特異的な物質としては、好ましくはLysoSensor Blue DND−167か、またはその誘導体である。
【0028】
本発明によるpHセンサーの担体は、好ましくは、試料をつける前に、分析対象物質に特異的な物質が実質的にルミネセンスを示さないpH値を有する。LysoSensor Blue DND−167の場合、約7ないし約10か、または約8ないし約9の範囲から選択されるpHが可能である。
【0029】
また、緩衝作用によって、担体のpH値が事実上完全に試料のpH値に変わるよう、あらかじめ担体のpH値を設定しておくことができる。当業者は、どのようにして担体にこのような緩衝能力を設定すべきか、その方法を知っている。
【0030】
試料と接触することによって、実質的に消されるルミネセンスシグナルを発生することができる物質であれば、いかなる物質であっても、原理的には比較参照物質の対象となりうる。すなわち、試料成分と接触することにより、そのルミネセンスシグナルが消される物質であればあらゆる種類の物質が使用できる。検査試料中にあって、消光を引き起こすことのできる成分は、たとえば水、カルシウム、マグネシウムもしくはその他の金属、またはそれらのイオン、pH値、およびその他の要因である。
【0031】
消光を引き起こす要因が水の場合は、好ましくは、式Iで表されるカルコン類から比較参照物質が選ばれる。
【0032】
現在の技術水準において、カルコンは公知である(B.M. Krasovitskii, D.G. Pereyaslova, ZH.Vsesoyuznogo Obscchestva im. D.I. Mendeleeva, 10(6), 704(1965); G.E. Dobretsov, V.A. Petrov, Yu.A. Vladimirov, Studia Biophysica Berlin, 71(3), 181-187(1978))。
【0033】
好ましい物質は一般式Iで表される:
【化1】

式中、残基R2、R3、およびR5の一つはNR1112およびSO3Naの中から選択され、残りの置換基R1、R4、R6、R7、R8、R9およびR10は任意の置換基が可能であるが、好ましくは水素またはハロゲン、特にF,Cl,BrおよびIである。
【0034】
11およびR12は、好ましくは水素、C1−C4アルキル、特にメチル、エチル、プロピルおよびブチルであり、その場合、C1−C4アルキルは−OH、−SH、ホスファート、−COOH、−NH2、−SO3Na、−NO2、ハロゲン、特にF,Cl,BrおよびIで置換が可能である。好ましい置換アルキル基はCH2CH2−SO3Naである。
【0035】
本発明による比較参照物質として好適な、特に好ましい物質は、特に式II、IIIおよびIVで表されるアミノカルコンおよびクロロカルコンである。
【化2】

【化3】

【化4】

【0036】
クロロカルコンは、Krasovitskiiの方法によって合成した(B.M. Krasovitskii, D.G. Pereyaslova, ZH. Vsesoyuznogo Obscchestva im. D.I. Mendeleeva, 10(6), 704(1965))。
【0037】
11およびR12がメチル基のアミノカルコンは、市販品が入手可能であり、方向づけの研究に使用した。
【0038】
一般式Vで表され、R11およびR12の両方が、CH2CH2−SO3Naであるアミノカルコンは、多段階合成によって調製した。
【0039】
さらに別の好ましい物質は、式Vで表される物質である。
【化5】

【0040】
消光反応は、金属イオンでも引き起こすことができる。それゆえ、この種の化合物も本発明による比較参照物質として好適であり、そのルミネセンスシグナルは、金属イオンと接触すると実質的に消される。
【0041】
特に、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンと接触するとルミネセンスシグナルが消されるように、比較参照物質を選択することが可能である。それには、たとえばCa2+および/またはMg2+と錯形成したとき、蛍光が停止するか、大きく減衰する蛍光色素が考慮の対象になる。
【0042】
このような蛍光色素の一例は、Molprobes社から入手できるFuraREDである。FuraREDの構造は次式で表される:
【化6】

【0043】
本発明による好適な第三の比較参照物質は、pH変化に応答する物質である。pH値が変化すると、そのルミネセンスシグナルが実質的に消される物質がこれに該当する。
【0044】
これは、たとえば血液のような試料に対して特に有利である。血液はきわめて大きな緩衝能力を持つため、あらかじめ検査システムに設定されたpH値をカバーできる。たとえば検査システムを低いpH値(たとえばpH5)に設定しても、血液試料をつけたときに検査システムのpH値は7に変化する。
【0045】
このような比較参照物質の例はMolprobesのLysoSensor Blue DND−167(カタログ番号L7533、ABS/EM’nm):373/425, PKA:5.1、好適なpH範囲:4.5〜6.0)である。
【0046】
LysoSensor Blue DND−167
【化7】

【0047】
さらに、本発明によるシステムまたは本発明による方法には、LysoSensor Blue DND−167より水溶性に優れたLysoSensor Blue DND−167の誘導体を使用することができる。水溶性が高いと分析対象物質を含む試料との反応速度を高めることができる。
【0048】
本発明によるLysoSensor Blue DND−167の誘導体において、一つ以上の水素原子が互いに独立に置換基で置換され、その際、一つの炭素原子が複数個の置換基を持つことができる。特に好適な置換基は、少なくとも一つの正電荷および/または負電荷を有することのできる極性置換基である。
【0049】
LysoSensor Blue DND−167のアントラセン骨格の水素が結合するすべての位置、二つのモルホリニル基および二つのメチレン基が、本発明による置換に適している。
【0050】
LysoSensor Blue DND−167の本発明による誘導体は、正確には、1個、2個、3個または4個の置換基を有することが好ましい。
【0051】
好ましい置換基として、は−OH、−SH、ホスファート、−COOR11、−NR1112、−SO3Na、−NO2、ハロゲン、特にF,Cl,BrおよびIを挙げることができる。R11およびR12は、好ましくは水素、C1−C4アルキル、特にメチル、エチル、プロピルおよびブチルから選択され、その場合、C1−C4アルキルは−OH、−SH、ホスファート、−COOH、−NH2、−SO3Na、−NO2、ハロゲン、特にF,Cl,BrおよびIで置換が可能である。好ましい置換アルキル基はCH2CH2−SO3Naである。
【0052】
LysoSensor Blue DND−167の誘導体は、たとえば式VIIで表される化合物である:
【化8】

【0053】
好ましい実施形態において、本発明によるシステムはブドウ糖、特に血糖を決定するためのシステムである。分析対象物質に特異的な物質としては、たとえばNADまたはNADPが使用可能であり、両者は、適当な酵素、たとえばグルコースデヒドロゲナーゼの存在で、ルミネセンスを示すNADHまたはNADPHを形成する。ブドウ糖を決定するための本発明によるシステムにおいて、比較参照物質には、たとえばpHが変化するとルミネセンスが実質的に消される物質、たとえばLysoSensor Blue DND−167またはその誘導体が使用される。
【0054】
本発明のさらにもう一つの対象は、液体試料中の分析対象物質をルミネセンスによって検出する方法であって、その方法は:
(i)分析対象物質と接触して第一のルミネセンスを発生することができる分析対象物質に特異的な物質を含み、そして液体試料と接触することによって、実質的に消される第二のルミネセンスシグナルを発生することができる比較参照物質を含む担体を準備することと、
(ii)担体を、検出すべき分析対象物質を含む液体試料と接触させることと、
(iii)ルミネセンス信号を測定し、そしてルミネセンス信号を比較することによって、分析対象物質を検出することと、を含む。
【0055】
この方法においても、すでに説明したように、実質的に同じ波長領域で励起され、発光する、参照物質および分析対象物質を使用することが好ましい。好ましくは、まず試料不在下で比較参照物質のルミネセンスシグナルを測定して、それから液体試料をつけて、試料が引き起こすルミネセンス信号を測定する。これは、好ましくはただ一つの検出器を使って行うことができる。しかし、特に、参照物質の波長領域と分析対象物質の波長領域とが異なる場合は、複数個の検出器を使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
実施例1
単純な処方でジメチルアミノカルコンの機能を調べた。このカルコンは水に溶けないため、水にメタノールを加えたものを使用した。
【0057】
その場合、乾燥状態ではUV光の下で強い蛍光を発するカルコンにMeOHを1滴加えると、急速に蛍光は消えるのを目で見ることができる。
【0058】
検査用処方1
【表1】

【0059】
カルコンをMeOHに溶かし、トランスパフィル(Transpafill)を加えた。この混合物にプロピオファン(Propiofan)を添加して均一な粥状にした。つづいて、混合物をポカロン(Pokalon)ホイル上につけ、50℃で5分間乾燥した。
【0060】
図2に示した測定曲線は、ポカロン(Pokalon)ホイル上に付着した緑色に輝く層に、メタノール1滴を加えたときの消光の動的変化を表す。このグラフから、メタノールを加えるとほとんど瞬時に消されること、そしてメタノールがカルコン層から揮発すると、すなわち乾燥すると、可逆的に復帰することがはっきりと見て取れる。
【0061】
実施例2
1.蛍光のpH依存性
色素LysoSensor Blue DND−167をpH値の異なる各種緩衝液に溶解し、その溶液を、光沢あるホイルだけを滴下面とする検査ストリップ上に滴下する。これを測定器にかけて測定する。
【0062】
励起波長:375nm(Roithner社製UV−LED)、Schott社製長光路蛍光フィルターKV 418、検出器BPW34を使用して、420nmで検出した。
【0063】
結果を図7に示す(ブランク値=色素を含まない溶液)。pH値が高くなるほど蛍光は弱くなっている。pH=8ではブランク値に近い値にまで低下している。
【0064】
2.pH5の層における色素LysoSensor Blue DND−167
グルコースデヒドロゲナーゼ、NADおよび緩衝液を含む層を作った。層のpH値は5であった。
【0065】
図8は、pH7の緩衝液を滴下したときに蛍光が減衰する様子を示したものである。層のpH値はpH5からpH7に変化した。pHの変化によって蛍光は減衰した。
【0066】
さらに別の実験では、緩衝化したブドウ糖溶液を層に滴下した。層状に覆われた反応を認めることができた;一方で、色素のpHが変化したことによって蛍光が減衰し(図8を参照)、他方で、ブドウ糖の反応により、ブドウ糖の濃度に対応する蛍光性NADHが生成した。その結果を図9に示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】現在の技術水準の方法による、比較参照物質を使用する場合と使用しない場合の、分析対象物質のルミネセンスを測定するための測定範囲を示す。
【図2】湿潤時におけるジメチルアミノカルコンの消光の動力学を示す。
【図3】0.05%の固体含量で、カルコンを使用した検査システムである。試料には、ブドウ糖をそれぞれ0mg/dl、100mg/dl、300mg/dlおよび700mg/dl含む4種類の溶液を使用した。ルミネセンスを測定し、ブドウ糖が0mg/dlの対照試料について得られた、消されたシグナルと比較した。試料を十分つけた場合に示差カウントは最大となる。この示差カウントは、つける試料の量が少ないほど小さくなる。
【図4】図3で記述した検査フォーマットにおける、体積当たりのカウント数である。約1μlからプラトー(曲線平坦部)に達しているが、これより試料が少ないと信頼できる測定は不可能である。
【図5】FuraREDの吸収スペクトルおよび発光スペクトルである。
【図6】LysoSensor Blue DND−167の蛍光発光のpH依存性。
【図7】LysoSensor Blue DND−167の蛍光発光のpH依存性。
【図8】LysoSensor Blue DND−167、NADおよびpH=5緩衝液を使用した検査システムである。試料には、ブドウ糖をそれぞれ0mg/dl、1mg/dlおよび2mg/dl含む3種類の溶液およびpH=7の緩衝液を使用した。試料をつけてから24秒間にわたるルミネセンス強度の変化を測定した。pH=7の試料液を加えて、LysoSensor Blue DND−167を含む層のpHを変化させた。時間の経過とともにルミネセンスが減衰するのが観察された。24秒後にはルミネセンスの変化はほとんど測定できなかった。
【図9】LysoSensor Blue DND−167、NADおよびpH=5緩衝液を使用した検査システムである。試料には、ブドウ糖をそれぞれ0mg/dl、90mg/dl、300mg/dlおよび700mg/dl含む4種類の溶液およびpH=7の緩衝液を使用した。試料をつけてから24秒間にわたるルミネセンス強度の変化を測定した。pH=7の試料液を加えて、LysoSensor Blue DND−167を含む層のpHを変化させた。ブドウ糖を0mg/dl含む試料での結果は図8から得た結果と合致する。ブドウ糖の濃度が高くなるにつれて時間に依存するルミネセンスは弱くなるか(90mg/dl)、初期値まで増す(ブドウ糖濃度300mg/dlおよび700mg/dl)。LysoSensor Blue DND−167およびNADHに依存するルミネセンスの時間的変化の違いがはっきり見て取れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の分析対象物質をルミネセンスによって検出するためのシステムであって、分析対象物質と接触すると、第一のルミネセンスシグナルを発生することができる、分析対象物質に特異的な物質と、
液体試料と接触することによって実質的に消される、第二のルミネセンスシグナルを発生することができる比較参照物質とを含む担体を具備するシステム。
【請求項2】
さらに、分析対象物質に特異的な物質のシグナルと比較参照物質のシグナルとを測定するための、少なくとも一つの検出器を具備する請求項1記載のシステム。
【請求項3】
さらに、試料の量、分析対象物質の量、および/または担体の準備状態を確認する評価ユニットを具備する請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
分析対象物質および比較参照物質が、蛍光物質である請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
水と接触するとルミネセンスが実質的に消される物質の中から、比較参照物質が選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
比較参照物質が式Iで表される化合物である請求項5記載のシステム。
【請求項7】
金属イオンと接触するとルミネセンスが実質的に消される物質の中から、比較参照物質が選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
比較参照物質がFuraREDである請求項7記載のシステム。
【請求項9】
pHが変化するとルミネセンスが実質的に消される物質の中から、比較参照物質が選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
比較参照物質が、LysoSensor Blue DND−167か、またはその誘導体である請求項9記載のシステム。
【請求項11】
ルミネセンスがpHに依存する物質から、分析対象物質に特異的な物質が選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
分析対象物質に特異的な物質が、LysoSensor Blue DND−167か、またはその誘導体である請求項12記載のシステム。
【請求項13】
分析対象物質および比較参照物質が、実質的に同じ波長領域で励起され、発光する請求項1〜12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
分析対象物質のルミネセンスシグナルおよび比較参照物質のルミネセンスシグナルを測定するためにただ一つの検出器が使用される請求項1〜13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
液体と接触すると実質的に消されるルミネセンスシグナルを発生することができる物質を、比較参照物質として、分析対象物質を検出する方法に使用する用途。
【請求項16】
液体と接触すると実質的に消されるルミネセンスシグナルを発生することができる物質を、試料量を決定するための比較参照物質として使用する用途。
【請求項17】
液体と接触すると実質的に消されるルミネセンスシグナルを発生することができる物質を、分析対象物質を検出するためのシステムが機能する準備ができているかを確認するための比較参照物質として使用する用途。
【請求項18】
ルミネセンスによって液体試料中の分析対象物質を検出する方法であって、
(i)分析対象物質と接触して第一のルミネセンスを発生することができる分析対象物質に特異的な物質を含み、そして液体試料と接触することによって、実質的に消される第二のルミネセンスシグナルを発生することができる比較参照物質を含む担体を準備することと、
(ii)担体を、検出すべき分析対象物質を含む液体試料と接触させることと、
(iii)ルミネセンス信号を測定し、そしてルミネセンス信号を比較することによって、分析対象物質を検出することとを含む方法。
【請求項19】
担体が液体試料と接触する前に比較参照物質のルミネセンスシグナルを測定する請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−518199(P2008−518199A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537234(P2007−537234)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011448
【国際公開番号】WO2006/045596
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】