説明

蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置

【課題】フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を高くすることができ、更には、光量のロスを抑えて効率よく、高精度に蛍光を検出することができる音響光学素子を用いた蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】音響光学素子12と、偏光ビームスプリッタ11と、偏光回転素子としてのλ/2板15を有し、偏光ビームスプリッタ11とλ/2板15を介して、蛍光が音響光学素子12を2回通過するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響光学素子を用いた蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音響光学素子(AOTF)を用いた蛍光フィルタとして、例えば、次の特許文献1に走査型レーザ顕微鏡装置に用いた蛍光フィルタが知られている。
【特許文献1】特開2003-177329号公報(図1)
【0003】
特許文献1に記載の蛍光フィルタは、音響光学素子で波長を選択(分光)することで蛍光を検出するように構成されている。音響光学素子は、通常、図示しない結晶と、RFトランスデューサとを備えている。RFトランスデューサに所望の周波数の高周波電圧(RF)が印加されると、結晶の中に所望の周波数の音波が発生する。RFの周波数と入射する光の波長との間で、ブラッグ反射の条件が満たされた波長のみ、±1次回折光として回折、偏向され、光検出器(「PMT」)によって受光されて光量が検出される。
【0004】
特許文献1に記載の蛍光フィルタのように、音響光学素子を用いた蛍光フィルタによれば、複数種類のフィルタを交換することなく、音響光学素子に印加する高周波電圧を制御することにより所望の蛍光波長を検出することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、音響光学素子は、その特性上、1次回折光中に所望の蛍光波長以外の波長を完全に遮断することは困難である。このため、音響光学素子で回折、偏向された1次回折光には、わずかな割合で所望の波長以外の波長が含まれてしまう。
また、蛍光は、試料から反射されるその他の波長の光に比べて光量が非常に小さい。このため、所望の蛍光波長以外の波長を遮断するバリア性能が高くないと、蛍光を高精度に検出することが困難になる。
しかるに、特許文献1に記載のような従来の音響光学素子を用いた蛍光フィルタでは、所望の蛍光波長以外の波長を遮断するバリア性能を高くすることが困難であり、高精度な蛍光検出が困難であった。
【0006】
また、音響光学素子は、±1次回折光が、二つの偏光成分に応じてそれぞれ異なる方向に偏向するという特性を有している。しかるに、特許文献1に記載の蛍光フィルタでは、音響光学素子により回折、偏向した±1次回折光のうち一方の1次回折光、即ち、一方の偏光成分だけしか一つの検出器で検出できない。これでは、一つの検出器で検出できる蛍光の光量が少なく、高精度な蛍光検出が困難になる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を高くすることができ、更には、光量のロスを抑えて効率よく、高精度に蛍光を検出することができる音響光学素子を用いた蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による蛍光フィルタは、少なくとも一つの音響光学素子を有し、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明による蛍光フィルタは、少なくとも一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子を有し、前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子を介して、蛍光が前記音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、上記いずれかの構成の蛍光フィルタを二つ組み合わせて構成してもよい。
【0011】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、蛍光が2回通過するようになされた音響光学素子を二つ有し、該二つの音響光学素子を通過した蛍光がそれぞれ別の検出器で検出されるようにするのが好ましい。
【0012】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子と、異なる方向から入射された光を同一方向に射出する合成プリズムを有し、前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子と前記合成プリズムを介して、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにするのが好ましい。
【0013】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、前記偏光回転素子を、λ/2板で構成するのが好ましい。
【0014】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、前記偏光回転素子を、λ/4板とミラーと偏光ビームスプリッタとを組み合わせて構成してもよい。
【0015】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、前記合成プリズムを、アキシコーンプリズムで構成するのが好ましい。
【0016】
また、本発明による顕微鏡は、上記本発明のいずれかの蛍光フィルタを備えたことを特徴としている。
【0017】
また、本発明による顕微鏡は、少なくとも一つの音響光学素子を有し、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴とする蛍光フィルタ、又は、少なくとも一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子を有し、前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子を介して、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴とする蛍光フィルタを備え、かつ、該蛍光フィルタに備わる前記音響光学素子の0次回折光の光路上を光源からの照明光が通過するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を高くすることができ、更には、光量のロスを抑えて効率よく、高精度に蛍光を検出することができる音響光学素子を用いた蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施例の説明に先立ち、本発明の作用効果について説明する。
本発明の蛍光フィルタによれば、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたので、フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を格段に向上させることができ、高精度に蛍光を検出することができる。
即ち、1回目に音響光学素子に入射する光には、試料で発した所望の蛍光波長の他に、試料で反射した励起波長等、所望の蛍光波長以外の波長の光が、蛍光に比べて遥かに多くの割合で含まれている。音響光学素子では、所望の蛍光波長を±1次回折光として回折、偏向するとともに、多くの割合で含まれている蛍光以外の波長を0次回折光として通過させる。(なお、0次回折光について使用の用途がない場合には、0次回折光の光路上に、迷光を防ぐための光学的な遮光部材を設けて0次回折光を遮断する。)このとき、音響光学素子で回折、偏向された±1次回折光には、所望の蛍光波長の他に、わずかな割合で蛍光波長以外の波長が含まれる。(ここで、音響光学素子での回折に際し、±1次回折光中に含まれる蛍光波長以外の波長の割合をn/100とする)。本発明では、この音響光学素子で1回回折、偏向された1次回折光を、さらに音響光学素子に入射させる(2回目の入射)。このとき、音響光学素子で遮断対象となる波長の光量は、1回目に遮断対象となる波長の光量に比べて遥かに小さくなっている。この遥かに小さい光量の波長の光を音響光学素子で0次回折光として通過させ、光学的な遮光部材を設けて遮断して、1次回折光から除外することになるため、音響光学素子で回折、偏向された光に含まれる蛍光波長以外の波長の割合が2乗倍(即ち、(n/100)2)に少なくなる。これにより、本発明の蛍光フィルタによれば、バリア性能を格段に向上させることができる。
【0020】
また、本発明の蛍光フィルタにおいて、偏光ビームスプリッタと偏光回転素子を介して蛍光が音響光学素子を2回通過するようにすれば、蛍光を構成する互いに直交する2つの偏光成分の光をいずれか一方と同じ偏光成分に偏光して音響光学素子を介しての回折時に同じ方向に偏向できる。このため、一つの音響光学素子で蛍光を検出することができる。
【0021】
また、本発明の蛍光フィルタにおいて、上記いずれかの構成の蛍光フィルタを二つ組み合わせれば、P波とS波の両方の偏光成分の蛍光を同じ一つの検出器で検出することができる。このため、検出器で検出される蛍光の光量が大きくなり、光量ロスなく、高効率で、高精度に蛍光を検出することが可能となる。
なお、本発明の蛍光フィルタにおいて、蛍光が2回通過する音響光学素子を2つ有し、該2つの音響光学素子を通過した蛍光がそれぞれ別の検出器で検出されるようにしてもよい。このようにすれば、蛍光の偏光成分ごとの信号強度を検出することができる。
【0022】
また、本発明の蛍光フィルタにおいて、少なくとも一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子と、異なる方向から入射された光を同一方向に射出する合成プリズムを有し、前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子と前記合成プリズムを介して、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにすれば、一つの音響光学素子でP波とS波の両方の偏光成分の蛍光を検出することができ、光量ロスなく有効に蛍光を検出することが可能となる。
【0023】
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、偏光回転素子をλ/4板とミラーと偏光ビームスプリッタとを組み合わせて構成することができる。また、偏光回転素子をλ/2板で構成することもできる。λ/2板で構成すれば、蛍光フィルタの構成が簡素化できるので好ましい。
また、本発明の蛍光フィルタにおいては、前記光合成素子をアキシコーンプリズムで構成するのが好ましい。
【0024】
そして、本発明の顕微鏡装置のように、上記本発明のいずれかの蛍光フィルタを備えれば、上記蛍光フィルタの効果を備えた顕微鏡装置が得られる。
【0025】
また、本発明の顕微鏡装置のように、少なくとも一つの音響光学素子を有し、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにした蛍光フィルタ、又は、少なくとも一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子を有し、前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子を介して、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにした蛍光フィルタを備え、かつ、該蛍光フィルタに備わる前記音響光学素子の0次回折光の光路上を光源からの照明光が通過するようにして構成すれば、上記蛍光フィルタの効果に加えて、顕微鏡装置全体の構成を小型化することができる。
【0026】
ここで、音響光学素子を1回通過させたときと、2回通過させたときとでのバリア性能の差異について具体的に説明する。
図10は、音響光学素子に印加するRF周波数に対する回折効率の関係を示すグラフである。
ここで、音響光学素子の回折効率をη、音響光学素子に印加する高周波電圧(RF)のパワーをP0、音響光学素子に印加する電圧の周波数をf、1次回折光の強度が最大となる周波数をf0、Δf=f−f0、カットオフ周波数をΔfcとする。すると、回折効率ηは次式のように表すことができる。

音響光学素子を2回通過させたときの回折効率は、η2で表すことができる。図10のグラフに示すように、2回通過させたときの回折効率は二乗で効いてくる。このため、同じ周波数Δfずれた光のバリア性能は格段に向上する。
【0027】
以下、本発明の蛍光フィルタ及びそれを備えた顕微鏡装置の実施例について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施例1〜実施例5にかかる蛍光フィルタを備えた顕微鏡装置の一構成例を示す概略構成図である。
本構成例における実施例1〜実施例5にかかる蛍光フィルタを備えた顕微鏡装置は、レーザ光源51と、ファイバ52と、走査ユニット62と、瞳投影レンズ56aと、結像レンズ56bと、対物レンズ56と、制御部63を有している。
走査ユニット62は、コリメータレンズ53と、ビームスプリッタ54と、光走査手段55と、反射ミラー58と、共焦点レンズ59と、共焦点ピンホール60と、レンズ61と蛍光フィルタユニット部1を有している。
蛍光フィルタユニット部1は後述する実施例1〜5のいずれかの蛍光フィルタと検出器(PMT)を有して構成されている。なお、図1では、制御部と蛍光フィルタユニット部1とを接続する回線は便宜上一つのみ示してあるが、実際の回線の個数は、各実施例において用いる検出器の個数及び蛍光フィルタを構成する音響光学素子の個数によって異なり、それぞれの検出器及び音響光学素子に接続されている。
【0028】
図1の顕微鏡装置では、レーザ光源51から発振されたレーザ光は、ファイバ52を介して走査ユニット52に導かれる。導かれたレーザ光は、コリメータレンズ53で平行光に変換され、ビームスプリッタ54に導かれる。ビームスプリッタ52で反射されたレーザ光は、光走査手段55を構成するガルバノメータスキャナである光走査ミラー55a,55bにより偏向される。光走査ミラー55で偏向されたレーザ光は、瞳投影レンズ56a、結像レンズ56b、対物レンズ56を経て、試料57上に集光、照射される。試料57は、レーザ光の照射により蛍光を発する。試料57から発した蛍光及び試料57で反射したその他の光は、ビームスプリッタ54まで同一光路を逆に辿る。ビームスプリッタ54を透過した光は、反射ミラー58で反射された後、共焦点レンズ59により、共焦点ピンホール60上に結像される。共焦点ピンホール60を透過した光は、レンズ61により平行光に変換され、蛍光フィルタ部1に導かれる。導かれた光は、蛍光フィルタ部1の音響光学素子(図1では不図示)を2回通過して所望の蛍光以外の波長が含まれる割合が極めて少ない状態で抽出され検出器(図1では不図示)を介して光量が検出される。
【0029】
なお、制御部63は、光走査ミラー55a,55bの走査に同期して、光検出器に入射する光量を検出する機能、音響光学素子に印加するRF周波数の走査に同期して光検出器の光量を検出する機能、光走査ミラー55a,55bの走査に同期して、音響光学素子に印加するRF周波数を走査し、かつ音響光学素子に印加するRF周波数の走査に同期して光検出器の光量を検出する機能等を有している。
なお、本発明の蛍光フィルタが適用される顕微鏡装置は、図1のレーザ走査型共焦点顕微鏡に限定されるものではない。蛍光観察が可能な顕微鏡装置であれば、どのような光学構成の顕微鏡装置にも本発明の蛍光フィルタは適用可能である。
【実施例1】
【0030】
図2は本発明の実施例1にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
実施例1の蛍光フィルタ101は、偏光ビームスプリッタ11と、音響光学素子(ATOF)12と、ミラー13,14と、λ/2板15を有して構成されている。なお、16は検出器(PMT)である。蛍光フィルタ101と検出器16とで図1の顕微鏡装置における蛍光フィルタ部1を構成している。(なお、図2においては、図示を省略したが、0次回折光について使用の用途がない場合には、音響光学素子12の0次回折光の光路上に、迷光を防ぐための光学的な遮光部材を設けて0次回折光を遮断するように構成する。)
【0031】
実施例1の蛍光フィルタ101では、図1に示した試料57から発した蛍光及び試料57で反射したその他の光は、偏光ビームスプリッタ11に入射する。偏光ビームスプリッタ11に入射した光のうちP偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11を透過して音響光学素子12に導かれる。音響光学素子12に入射したP偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長は、音響光学素子12を介して±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折され、ミラー13方向に偏向される。
【0032】
±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折されたP偏光成分の光は、ミラー13,14で反射し、λ/2板15に導かれ、λ/2板15を通過することによりS偏光成分の光に偏光されて、偏光ビームスプリッタ11に入射する。
偏光ビームスプリッタ11に入射したS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11で反射して、音響光学素子12に導かれる。音響光学素子12に入射したS偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長は、音響光学素子12を介して±1次回折光のうち他方の1次回折光として回折され、検出器16方向に偏向され、検出器16で検出される。
【0033】
ここで、音響光学素子12に2回目に入射するS偏光成分の光は、既に1回目にP偏光成分の光として音響光学素子12に入射したときに所望の周波数の波長に回折されている。しかしながら、音響光学素子12の回折効率は100%ではないため、音響光学素子12に2回目に入射するS偏光成分の光には、所望の周波数以外の波長帯域の光がわずかな割合で含まれている。しかるに、実施例1では蛍光を含む光が音響光学素子12を2回通過するようにしたので、1回目の通過ではカットできずにわずかに含まれている所望の波長の周波数以外の波長帯域の光をさらに除去することができる。即ち、実施例1の蛍光フィルタ101によれば、音響光学素子12を1回通過させたときに比べて、不要な波長領域の光の割合が2乗倍に少なくなるように除去される。
このため、実施例1の蛍光フィルタ101によれば、従来の蛍光フィルタに比べて、フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を格段に向上させることができ、高精度に蛍光を検出することができる。
【実施例2】
【0034】
図3は本発明の実施例2にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
実施例2の蛍光フィルタ102は、偏光ビームスプリッタ11と、音響光学素子(AOTF)12と、ミラー13,14と、λ/2板15とを有して構成される第1の蛍光フィルタ系10Aと、偏光ビームスプリッタ21と、音響光学素子(AOTF)22と、ミラー23,24,25と、λ/2板26と、ミラー27とを有して構成される第2の蛍光フィルタ系10Bとを有して構成されている。なお、16は第1のフィルタ系10Aの音響光学素子12からの±1次回折光のうちの他方の1次回折光及び第2のフィルタ系10Bの音響光学素子22からの±1次回折光のうちの一方の1次回折光を検出する検出器(PMT)である。蛍光フィルタ102と検出器16とで図1の蛍光フィルタ部1を構成している。(なお、図3においては、図示を省略したが、0次回折光について使用の用途がない場合には、音響光学素子12,22のそれぞれの0次回折光の光路上に、迷光を防ぐための光学的な遮光部材を設けて0次回折光を遮断するように構成する。)
【0035】
実施例2の蛍光フィルタ102では、図1に示した試料57から発した蛍光及び試料57で反射したその他の光は、偏光ビームスプリッタ11に入射する。偏光ビームスプリッタ11に入射した光のうちP偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11を透過して音響光学素子12に導かれる。一方、偏光ビームスプリッタ11に入射した光のうちS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11で反射し、偏光ビームスプリッタ21に入射する。
【0036】
音響光学素子12に入射した光は、実施例1と同様に、音響光学素子12に入射したP偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長が、音響光学素子12を介して±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折され、ミラー13方向に偏向される。
±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折されたP偏光成分の光は、ミラー13,14で反射し、λ/2板15に導かれ、λ/2板15を通過することによりS偏光成分の光に偏光されて、偏光ビームスプリッタ11に入射する。
偏光ビームスプリッタ11に入射したS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11で反射して、音響光学素子12に導かれる。音響光学素子12に入射したS偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長は、音響光学素子12を介して±1次回折光のうち他方の1次回折光として回折され、検出器16方向に偏向され、検出器16で検出される。
【0037】
ここで、音響光学素子12に2回目に入射するS偏光成分の光は、既に1回目にP偏光成分の光として音響光学素子12に入射したときに所望の周波数の波長に回折されている。しかしながら、音響光学素子12の回折効率は100%ではないため、音響光学素子12に2回目に入射するS偏光成分の光には、所望の周波数以外の波長帯域の光がわずかな割合で含まれている。しかるに、実施例2では蛍光を含む光が音響光学素子12を2回通過するようにしたので、1回目の通過ではカットできずにわずかに含まれている所望の波長の周波数以外の波長帯域の光をさらに除去することができる。即ち、実施例2の蛍光フィルタ102によれば、音響光学素子12を1回通過させたときに比べて、不要な波長領域の光の割合が2乗倍に少なくなるように除去される。
【0038】
一方、偏光ビームスプリッタ21に入射したS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ21で反射して、音響光学素子22に導かれる。音響光学素子22に入射した光は、音響光学素子22に入射したS偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長が音響光学素子22を介して±1次回折光のうちの他方の1次回折光として回折され、ミラー23方向に偏向される。
±1次回折光のうちの他方の1次回折光として回折されたS偏光成分の光は、ミラー23,24,25で反射し、λ/2板26に導かれ、λ/2板26を通過することによりP偏光成分に偏光されて、偏光ビームスプリッタ21に入射する。
偏光ビームスプリッタ21に入射したP偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ21を透過して、音響光学素子22に導かれる。音響光学素子22に入射したP偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長は、音響光学素子22を介して±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折され、ミラー27方向に偏向される。偏向された光は、ミラー27で反射して、検出器16で検出される。
【0039】
ここで、音響光学素子22に2回目に入射するP偏光成分の光は、既に1回目にS偏光成分の光として音響光学素子22に入射したときに所望の周波数の波長に回折されている。しかしながら、音響光学素子22の回折効率は100%ではないため、音響光学素子22に2回目に入射するP偏光成分の光には、所望の周波数以外の波長帯域の光がわずかな割合で含まれている。しかるに、実施例2では蛍光を含む光が音響光学素子22を2回通過するようにしたので、1回目の通過ではカットできずにわずかに含まれている所望の波長の周波数以外の波長帯域の光をさらに除去することができる。即ち、実施例2の蛍光フィルタ102によれば、音響光学素子22を1回通過させたときに比べて、不要な波長領域の光の割合が2乗倍に少なくなるように除去される。
【0040】
このため、実施例2の蛍光フィルタ102によれば、従来の蛍光フィルタに比べて、フィルタを交換することなく、簡単な構成で、バリア性能を格段に向上させることができ、高精度に蛍光を検出することができる。
また、実施例2の蛍光フィルタ102によれば、一つの検出器でP波とS波の両方の偏光成分の蛍光を検出することができ、光量ロスなく効率よく蛍光を検出することができる。
なお、第1のフィルタ系10Aから検出器16に向かう光と第2のフィルタ系10Bから検出器16に向かう光は、互いに平行な光線になり重ならないが、検出器16は、互いに平行な光線のいずれも受光できる大きさの受光面を備えている。
【実施例3】
【0041】
図4は本発明の実施例3にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
実施例3の蛍光フィルタ103は、第1のフィルタ系10Aの音響光学素子12からの回折光を検出する検出器(PMT)16とは別個に、第2のフィルタ系10Bの音響光学素子22からの回折光を検出する検出器(PMT)28を有している。蛍光フィルタ103と検出器16,28とで図1の蛍光フィルタ部1を構成している。(なお、図4においては、図示を省略したが、0次回折光について使用の用途がない場合には、音響光学素子12,22のそれぞれの0次回折光の光路上に、迷光を防ぐための光学的な遮光部材を設けて0次回折光を遮断するように構成する。)
実施例3の蛍光フィルタ103によれば、第1のフィルタ系10Aと第2のフィルタ系10Bとでそれぞれ別個に検出器を設けたので、別個の検出器でもって蛍光の偏光成分ごとの信号強度を検出することができる。
その他の構成及び作用効果は実施例2の蛍光フィルタとほぼ同じである。
【実施例4】
【0042】
図5は本発明の実施例4にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。図6は実施例4の蛍光フィルタに用いる合成プリズムの機能を示す説明図である。
実施例4の蛍光フィルタ104は、偏光ビームスプリッタ11と、合成プリズムとしてのアキシコーンプリズム31と、音響光学素子(AOTF)12と、ミラー13と、1/2λ板15と、ミラー14と、ミラー32と、λ/2板33を有して構成されている。なお、16は検出器(PMT)である。蛍光フィルタ104と検出器16とで図1の蛍光フィルタ部1が構成される。(なお、図5においては、図示を省略したが、0次回折光について使用の用途がない場合には、音響光学素子12の0次回折光の光路上に、迷光を防ぐための光学的な遮光部材を設けて0次回折光を遮断するように構成する。)
アキシコーンプリズム31は、図6に示すように、異なる2方向から入射された光線を平行に出射する、即ち、同じ方向に導く機能を有している。
【0043】
実施例4の蛍光フィルタ104では、図1に示した試料57から発した蛍光及び試料57で反射したその他の光は、偏光ビームスプリッタ11に入射する。偏光ビームスプリッタ11に入射した光のうちP偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11を透過してアキシコーンプリズム31に入射する。一方、偏光ビームスプリッタ11に入射した光のうちS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ11で反射し、ミラー32で反射し、λ/2板33に導かれ、λ/2板33を通過することによりP偏光成分の光に偏光されて、上記「偏光ビームスプリッタ11を透過したP偏光成分の光」とは異なる方向からアキシコーンプリズム31に入射する。
【0044】
アキシコーンプリズム31に入射した異なる2方向からのP偏光成分の光は、アキシコーンプリズム31で互いに平行になって出射され、音響光学素子12に導かれる。
音響光学素子12に入射した互いに平行な光は、互いに平行な状態のまま、実施例1と同様に、音響光学素子12に入射したP偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長が、音響光学素子12を介して±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折され、ミラー13方向に偏向される。
【0045】
±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折された、互いに平行なP偏光成分の光は、互いに平行な状態のまま、ミラー13で反射し、λ/2板15に導かれ、λ/2板15を通過することによりS偏光成分の光に偏光され、ミラー14で反射して、偏光ビームスプリッタ11に入射する。
偏光ビームスプリッタ11に入射した互いに平行なS偏光成分の光は、互いに平行な状態のまま、偏光ビームスプリッタ11で反射して、アキシコーンプリズム31に入射する。
【0046】
アキシコーンプリズム31に入射した互いに平行なS偏光成分の光は、互いに平行な状態のまま、アキシコーンプリズム31から出射され、音響光学素子12に導かれる。音響光学素子12に入射した互いに平行なS偏光成分の光のうち所望の蛍光の周波数に合わせて設定されたRF周波数に一致する周波数の波長は、互いに平行な状態のまま、音響光学素子12を介して±1次回折光のうちの他方の1次回折光として回折され、検出器16方向に偏向され、検出器16で検出される。
なお、異なる2方向からの光は、アキシコーンプリズム31を介して平行な光線になり、重ならないが、検出器16は、互いに平行な光線のいずれも受光できる大きさの受光面を備えている。
【0047】
実施例4の蛍光フィルタ104によれば、異なる方向から入射された光を同一方向に射出する合成プリズムとしてのアキシコーンプリズムを有して構成したので、1つの音響光学素子16だけで、P波とS波の両方の偏光成分の蛍光を光量をロスすることなく同じ偏光成分にして検出することができる。
その他の作用効果は、実施例1の蛍光フィルタとほぼ同じである。
【0048】
なお、上記各実施例では、偏光回転素子をλ/2板で構成したが、偏光回転素子は、図7に示すように、偏光ビームスプリッタ41と、λ/4板42と、ミラー43とを有して構成してもよい。次に、その一例を示す。
【実施例5】
【0049】
図8は本発明の実施例5にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
実施例5の蛍光フィルタ105は、実施例4の蛍光フィルタ105における偏光回転素子を図7に示した偏光ビームスプリッタとλ/4板とミラーを有して構成したものである。
即ち、実施例5の蛍光フィルタ105は、図5に示した構成におけるλ/2板15に代えて、偏光ビームスプリッタ41と、λ/4板42と、ミラー43を有し、さらに、ミラー44を有して構成されている。その他の構成は、実施例4の蛍光フィルタ104とほぼ同じである。
【0050】
実施例5の蛍光フィルタ105によれば、±1次回折光のうちの一方の1次回折光として回折された、互いに平行なP偏光成分の光は、互いに平行な状態のまま、ミラー13で反射して、偏光ビームスプリッタ41に入射する。偏光ビームスプリッタ41に入射した互いに平行なP偏光成分の光は、互いに平行な状態のまま、偏光ビームスプリッタ41を透過して、λ/4板42に導かれ、λ/4板42を通過することにより円偏光となってミラー43に入射する。ミラー43に入射した互いに平行な円偏光は、互いに平行な状態のまま、ミラー43で反射して、λ/4板42に導かれ、λ/4板42を通過することによりS偏光成分の光となって偏光ビームスプリッタ41に入射する。偏光ビームスプリッタ41に入射した互いに平行なS偏光成分の光は、偏光ビームスプリッタ41で反射し、ミラー44で反射して、ミラー14に入射する。その他の作用効果は、実施例4の蛍光フィルタ104とほぼ同じである。
【実施例6】
【0051】
図9は本発明の実施例6にかかる、蛍光フィルタを備えた顕微鏡装置の概略構成図である。
実施例6の顕微鏡装置は、図2に示した実施例1の蛍光フィルタ101の音響光学素子12の0次回折光の光路上をレーザ光源51からのレーザ光が通過するように蛍光フィルタ部1を配置して構成されている。また、コリメータレンズ53と蛍光フィルタ101の音響光学素子12との間には、コリメータレンズ53からのレーザ光の偏光成分をP偏光に変換する偏光板64が設けられている。
【0052】
実施例6の顕微鏡装置では、レーザ光源51から発振されたレーザ光は、コリメータレンズ53で平行光に変換され、偏光板64でP偏光に変換された後、蛍光フィルタ部1の音響光学素子12に入射する。このときP偏光は、本来音響光学素子12から出射される0次回折光の進む向きとは正反対から入射される。このため、音響光学素子12に印加されるRF周波数の影響を受けることなく音響光学素子12を通過する。
音響光学素子12を通過したP偏光は偏光ビームスプリッタ11を透過し、レンズ61、共焦点ピンホール60、共焦点レンズ59を経て平行光の状態で、光走査手段55で所定方向に偏向され、結像レンズ56b、対物レンズ56を経て、試料57上に集光、照射される。
【0053】
試料57は、レーザ光の照射により蛍光を発する。試料57から発した蛍光及び試料57で反射したその他の光は、偏光ビームスプリッタ11まで同一光路を逆に辿る。
偏光ビームスプリッタ11に入射した光は、実施例1と同様の経路を辿り、所望蛍光波長が検出器16で検出される。
【0054】
実施例6の顕微鏡装置によれば、実施例1の蛍光フィルタ101の効果に加えて、蛍光フィルタが照明光路を兼ね備えているので、その分、省スペース化でき、顕微鏡装置全体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1〜実施例5にかかる蛍光フィルタを備えた顕微鏡装置の一構成例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例2にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例3にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例4にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
【図6】実施例4の蛍光フィルタに用いる合成プリズムの機能を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例1〜4の蛍光フィルタに用いる偏光回転素子の変形例を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例5にかかる蛍光フィルタの概略構成及び光の経路を示す説明図である。
【図9】本発明の実施例6にかかる、蛍光フィルタを備えた顕微鏡装置の概略構成図である。
【図10】音響光学素子に印加するRF周波数に対する回折効率の関係を、音響光学素子を1回通過させたときと2回通過させたときのそれぞれにおいて示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 蛍光フィルタ部
10A 第1の蛍光フィルタ系
10B 第2の蛍光フィルタ系
11、21、41 偏光ビームスプリッタ
12、22 音響光学素子
13、14、23、24、25、27、32、43、44 ミラー
15、26、33 λ/2板
16、28 検出器(PMT)
31 合成手段(アキシコーンプリズム)
42 λ/4板
51 レーザ光源
52 ファイバ
53 コリメータレンズ
54 ビームスプリッタ
55 走査手段
55a、55b 光走査ミラー
56 対物レンズ
56a 瞳投影レンズ
56b 結像レンズ
57 試料
58 反射ミラー
59 共焦点レンズ
60 共焦点ピンホール
61 レンズ
62 走査ユニット
63 制御部
64 偏光板
101、102、103、104、105 蛍光フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの音響光学素子を有し、
蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴とする蛍光フィルタ。
【請求項2】
少なくとも一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子を有し、
前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子を介して、蛍光が前記音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴とする蛍光フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光フィルタを二つ組み合わせてなることを特徴とする蛍光フィルタ。
【請求項4】
蛍光が2回通過するようになされた音響光学素子を二つ有し、
該二つの音響光学素子を通過した蛍光がそれぞれ別の検出器で検出されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光フィルタ。
【請求項5】
一つの音響光学素子と、偏光ビームスプリッタと、偏光回転素子と、異なる方向から入射された光を同一方向に射出する合成プリズムを有し、
前記偏光ビームスプリッタと前記偏光回転素子と前記合成プリズムを介して、蛍光が音響光学素子を2回通過するようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光フィルタ。
【請求項6】
前記偏光回転素子が、λ/2板で構成されていることを特徴とする請求項2、請求項2に従属する請求項3又は4、請求項5のいずれかに記載の蛍光フィルタ。
【請求項7】
前記偏光回転素子が、λ/4板とミラーと偏光ビームスプリッタとを組み合わせて構成されていることを特徴とする請求項2、請求項2に従属する請求項3又は4、請求項5のいずれかに記載の蛍光フィルタ。
【請求項8】
前記合成プリズムが、アキシコーンプリズムで構成されていることを特徴とする請求項5、請求項5に従属する請求項6又は7のいずれかに記載の蛍光フィルタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光フィルタを備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の蛍光フィルタを備え、かつ、該蛍光フィルタに備わる前記音響光学素子の0次回折光の光路上を光源からの照明光が通過するようにしたことを特徴とする顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−162983(P2006−162983A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354461(P2004−354461)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】