説明

蛍光体、蛍光体含有組成物、発光装置、画像表示装置、及び照明装置

【課題】近紫外領域ないし青色領域の光で励起されて、深赤色領域に発光ピークを有する蛍光を発する蛍光体を提供する。
【解決手段】蛍光体を下記式で表わされる化学組成にする。
1a2bc3d43e
(M1は、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、及びPbを表わし、M2は、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd及びBaを1種以上含むM1として挙げられた元素以外の2価の金属元素を表わし、Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びSbを表わし、M3は3価の金属元素を表わし、M4は4価の金属元素を表わし、a、b、c、d、及びeは各々0<a≦1.5、1.5≦b≦3.3、0<c≦0.5、1.5≦d≦2.2、及び、11≦e≦13を満たす正の数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体と、その蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。より詳しくは、黄色ないし深赤色に発光する蛍光体と、その蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置、並びにその発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光素子としての窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオード(LED)と、波長変換材料としての蛍光体とを組み合わせて構成される発光装置が、消費電力が小さく寿命が長いことから、画像表示装置や照明装置の光源として注目されている。
【0003】
また、本発明者らは、前記の発光装置に用いることができる蛍光体を発明し、特許出願を行なっている(特許文献1,2)。これらの特許文献1,2に記載の蛍光体は、Ca3Sc2Si312:Ce3+を基本構造とし、通常は黄緑色から橙色の発光を示す蛍光体である。ただし、特許文献1には、発光中心イオンを2種類以上用いる場合の具体的な例示はない。また、特許文献2には、Ceと共に用いる発光中心イオンの例としてPrが記載されている。
【0004】
一方、波長650nmよりも長波に発光ピークを有し、深赤色に発光する蛍光体としては、例えば、蛍光ランプ用の蛍光体である6MgO・As25:Mn4+(発光ピーク波長は655nmである。)や、高圧水銀ランプ用の蛍光体である3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+(発光ピーク波長は655nmである。)が知られている(非特許文献1)。なお、これらの蛍光体は、いずれも紫外光を深赤色光に変換するために開発されたものである(非特許文献1では、励起光として、蛍光ランプ用では185nm及び254nmの光を、また、高圧水銀ランプ用では波長300nm〜360nmの光を用いている)。
【0005】
【非特許文献1】S.Shionoya et al ”Phosphor Handbook”(1999) CRC Press.
【特許文献1】特開2003−64358号公報
【特許文献2】国際公開第2006/041168号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LED等の光源(第1の発光体)と蛍光体(第2の発光体)とを組み合わせた発光装置において、多種多様な発光色を得るためには、複数の蛍光体を適宜組み合わせて使用することが好ましい。特に、白色に発光する発光装置において、演色性を高めるためには、赤色領域の色の再現性を高めることが望まれており、これを実現するため、深赤色光を発する蛍光体を含むことが希求されていた。
【0007】
しかしながら、非特許文献1記載の深赤色蛍光体は、現在実用化されているLEDから発せられる近紫外領域ないし青色領域の光に対しては光の変換効率が低く、第1の発光体(LED等)と第2の発光体(蛍光体等)とを組み合わせた発光装置に用いることは困難であった。また、前記のタイプの発光装置では、上記のLEDの発光波長の範囲と蛍光体の励起波長の範囲とが重なっている必要がある。このため、近紫外領域ないし青色領域の光で励起可能な深赤色に発光する蛍光体が求められている。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みて創案されたもので、近紫外領域ないし青色領域の光で励起されて、深赤色領域に発光ピークを有する蛍光を発する蛍光体と、この蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置と、その発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するべく、蛍光体の母体結晶、発光中心イオンの組み合わせ等について詳細に検討した結果、380nm以上500nm以下の波長範囲の光で励起しても、670nm以上750nm以下の波長範囲の光を効率よく発光する新規な蛍光体を見出した。この蛍光体の結晶母体の代表的な組成としては、例えば、Ca3Sc2Si312が挙げられる。
【0010】
さらに、本発明者らは、前記の蛍光体は発光中心イオンを2種類以上含有することがより好ましく、2種類以上の発光中心イオンのうち、1種類の発光中心イオン(例えば、Mnが挙げられる)の含有量に応じて発光スペクトルの形状がダイナミックに変化することも見出した。
また、本発明者らは、この蛍光体が黄色ないし深赤色の光を発する発光体として優れた特性を示し、発光装置等の用途に好適に使用できることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、380nm以上500nm以下の波長範囲の光により励起される蛍光体であって、670nm以上750nm以下の波長範囲に発光ピークを有することを特徴とする蛍光体に存する(請求項1)。
【0012】
また、前記の蛍光体は、発光中心イオンを2種類以上含有することが好ましい(請求項2)。
さらに、前記の蛍光体は、ガーネット結晶構造を有することが好ましい(請求項3)。
【0013】
本発明の別の要旨は、下記式[1]で表わされる化学組成を有することを特徴とする蛍光体に存する(請求項4)。
1a2bc3d43e [1]
(前記式[1]において、M1は、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、及びPbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、M2は、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd及びBaからなる群より選ばれる金属元素を1種以上含む、前記M1として挙げられた金属元素以外の1種以上の2価の金属元素を表わし、Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びSbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、M3は、1種以上の3価の金属元素を表わし、M4は、1種以上の4価の金属元素を表わし、a、b、c、d、及びeは、各々、0<a≦1.5、1.5≦b≦3.3、0<c≦0.5、1.5≦d≦2.2、及び、11≦e≦13を満たす正の数を表わす。)
【0014】
このとき、前記M1がMnであるとともに、前記XがCeであることが好ましい(請求項5)。
また、前記式[1]において、aの値が0.3≦a≦1.5を満たすことが好ましい(請求項6)。
【0015】
本発明の更に別の要旨は、前記の蛍光体と、液状媒体とを含有することを特徴とする蛍光体含有組成物に存する(請求項7)。
【0016】
本発明の更に別の要旨は、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、該第2の発光体が、前記の蛍光体を含有することを特徴とする、発光装置に存する(請求項8)。
【0017】
本発明の更に別の要旨は、前記の発光装置を光源として備えることを特徴とする、画像表示装置に存する(請求項9)。
【0018】
本発明の更に別の要旨は、前記の発光装置を光源として備えることを特徴とする、照明装置に存する(請求項10)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、近紫外領域ないし青色領域の光で励起されて、深赤色領域(即ち、670nm以上750nm以下の波長領域)に発光ピークを有する蛍光を発する蛍光体と、この蛍光体を用いた蛍光体含有組成物及び発光装置と、その発光装置を用いた画像表示装置及び照明装置とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について例示物及び実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物や実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
なお、本明細書において「〜」を用いて表わされる数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書における色名と色度座標との関係は、JIS規格(JISZ8110)に基づき、演色評価数、特殊演色評価数はJIS規格(JISZ8113)に基づく。
【0021】
さらに、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu」という組成式は、「BaAl24:Eu」と、「SrAl24:Eu」と、「CaAl24:Eu」と、「Ba1-xSrxAl24:Eu」と、「Ba1-xCaxAl24:Eu」と、「Sr1-xCaxAl24:Eu」と、「Ba1-x-ySrxCayAl24:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0022】
[1.蛍光体]
本発明のある蛍光体(所定波長励起蛍光体という)は、380nm以上500nm以下の波長範囲(以下適宜、「所定の励起波長範囲」という)の光により励起される蛍光体であって、670nm以上750nm以下の波長範囲(以下、「深赤色領域」と称する場合がある。)に発光ピークを有するものである。また、本発明のある蛍光体(特定組成蛍光体という)は、後述する式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体である。なお、特定組成蛍光体は、所定波長励起蛍光体とその大部分が重複するものである。また、以下の説明において、本発明の蛍光体という場合、特に断らない限り、本発明の所定波長蛍光体及び本発明の特定組成蛍光体を区別せずに指すものとする。
【0023】
[1−1.蛍光体の発光スペクトル]
本発明の所定波長励起蛍光体は、380nm以上500nm以下の波長範囲(即ち、所定の励起波長範囲)の光で励起されて蛍光を発すると共に、当該蛍光のスペクトル(即ち、発光スペクトル)の670nm以上750nm以下の波長範囲(即ち、深赤色領域)に発光ピークを有する。また、本発明の特定組成蛍光体も、通常は、前記所定の励起波長範囲の光で励起されて蛍光を発すると共に、深赤色領域に発光ピークを有する。また、本発明の蛍光体は、深赤色領域以外の領域に発光ピークを有していても良い。以下、この点について説明する。
【0024】
本発明の蛍光体は、所定の波長領域の光で励起された場合に、赤色領域である610nm以上の領域において、通常670nm以上、中でも680nm以上、また、通常750nm以下、中でも730nm以下の範囲に発光ピークを有する。即ち、所定の波長領域の光で励起された場合、本発明の蛍光体から発せられる光は、深赤色成分を有する。このように深赤色領域の発光波長を有する蛍光体を発光装置等に使用すると、JIS Z 8105に規定された特殊演色評価数R9を向上させることができる。
なお、深赤色領域に存在する発光ピークの発光ピーク波長λpが短過ぎると橙色を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると視感度が低下する傾向があり、何れも深赤色発光としての特性が低下する可能性がある。
【0025】
また、本発明の蛍光体において、前記の深赤色領域に存在する発光ピークの相対強度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5%以上、中でも10%以上、特には15%以上が好ましい。相対強度が弱すぎると蛍光体として機能しなくなる可能性がある。なお、前記の相対強度は、25℃において蛍光体BaMgAl1017:Eu2+(KX501A、化成オプトニクス社製)に波長365nmの光を照射した場合に、発光波長440nm〜460nmに現われる発光ピークの強度を100%とした相対的な強度である。
【0026】
さらに、本発明の蛍光体は、前記の深赤色領域に存在する発光ピークの半値幅(FWHM)が、通常50nm以上、中でも70nm以上、特には100nm以上が好ましく、また、通常200nm以下であることが好ましい。半値幅が狭過ぎると演色性向上効果が低下する可能性があり、広過ぎると深赤色成分以外の光(特に、赤外光)が多くなるため、可視光が少なくなり、輝度が低下する可能性がある。
【0027】
また、本発明の蛍光体は、蛍光体の組成等を調整することにより、上記の深赤色領域に存在する発光ピーク以外にも発光ピークを有するように発光スペクトルを調整することが可能である。より具体的には、本発明の蛍光体は、所定の波長領域の光で励起された場合に、前記の深赤色領域に発光ピークを有すると共に、480nm以上670nm以下の波長範囲に発光ピークを有していても良い。これにより、本発明の蛍光体は、その発光に深赤色成分と共に、例えば、緑色成分、黄緑色成分、黄色成分、橙色成分、赤色成分等の非深赤色成分を含むことができる。したがって、本発明の蛍光体は、その組成を調整することにより発光色を変化させることが可能であり、深赤色のみならず、黄色ないし深赤色の間で発光色を調整できる。
【0028】
また、特に、本発明の蛍光体が深赤色領域の発光ピークと共に、緑色ないし橙色領域にも発光ピークを併有している場合、この蛍光体を用いると、LED等の第1の発光体と本発明の蛍光体とを組み合わせることで、演色性の高い白色発光装置を構成することができ、好ましい。
このように本発明の蛍光体が発する蛍光が深赤色成分と非深赤色成分とを共に有するようにするには、例えば、本発明の蛍光体に発光中心イオンとなる金属元素を2種類以上含有させるようにすればよい。
【0029】
なお、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定、発光ピーク波長及び半値幅の算出は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを用い、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)用いて測定することができる。なお、測定時の温度は25℃とする。
【0030】
[1−2.蛍光体の励起スペクトル]
本発明の所定波長励起蛍光体は、所定の励起波長範囲の光により励起され、蛍光を発する。即ち、本発明の所定波長励起蛍光体は、通常380nm以上、好ましくは400nm以上、より好ましくは430nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは490nm以下、より好ましくは470nm以下の波長範囲の光により励起可能である。これにより、近紫外領域ないし青色領域において発光するLEDなどにより当該蛍光体を励起することが可能となる。なお、本発明の特定組成蛍光体においても、通常は、本発明の所定波長励起蛍光体と同様に、所定の励起波長範囲の光により励起され、蛍光を発する。
【0031】
[1−3.蛍光体の組成]
本発明の特定組成蛍光体は、下記式[1]で表わされる化学組成を有する。また、本発明の所定波長励起蛍光体も、下記式[1]で表わされる化学組成を有することが好ましい。
1a2bc3d43e [1]
(前記式[1]において、
1は、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、及びPbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、
2は、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd及びBaからなる群より選ばれる金属元素を1種以上含む、前記M1として挙げられた金属元素以外の1種以上の2価の金属元素を表わし、
Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びSbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、
3は、1種以上の3価の金属元素を表わし、
4は、1種以上の4価の金属元素を表わし、
a、b、c、d、及びeは、各々、
0<a≦1.5、
1.5≦b≦3.3、
0<c≦0.5、
1.5≦d≦2.2、及び、
11≦e≦13
を満たす正の数を表わす。)
【0032】
前記式[1]において、M1は、発光中心イオンとして挙げられるXと共に発光中心イオンとして機能する元素(即ち、共付活元素)であり、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、及びPbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わす。これらの群の中でも、Mn、Cr、Feからなる群より選ばれる1種以上のものが好ましく、特にMnが好ましい。Mnは、半値幅が広く好ましいためである。なお、M1は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0033】
前記式[1]中、M2は、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd及びBaからなる群より選ばれる金属元素を1種以上含む、前記M1として挙げられた金属元素以外の1種以上の2価の金属元素を表わす。これらの群の中でも、Mg、Ca及びZnからなる群より選ばれる1種以上のものが好ましく、特に、Caが好ましい。蛍光体の結晶母体がCa3Sc2Si312となり、発光効率が向上するためである。なお、M2としてCaを用いる場合、Caは単独系で用いても好ましく、Mgとの複合系で用いても好ましい。また、M2は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0034】
また、M2は、基本的に、上記の好ましいとされる元素からなることが好ましいが、他の2価の金属元素で置換した蛍光体の発光効率が、置換前の蛍光体の発光効率の70%以上を維持できる範囲にあれば、他の2価の金属元素を含んでいてもよい。なお、その際の他の2価の金属元素の使用割合は、M2に対し、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、更に好ましくは1モル%以下である。
【0035】
前記式[1]中、Xは、発光中心イオンとして挙げられている元素であって、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びSbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わす。これらの群の中でも、Ce、Sm、Eu、Tb、Dy、Yb及びSbからなる群より選ばれる1種以上の2価〜4価の元素が好ましく、3価のCe、2価〜3価のEu、及び、3価のTbからなる群より選ばれる1種以上の元素であることが更に好ましく、3価のCeであることが特に好ましい。青色光に対する吸収効率が向上するためである。なお、Xは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
前記式[1]中、M3は、1種以上の3価の金属元素を表わす。中でも、M3としては、Al、Sc、Ga、Y、In、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる1種以上のものであることが好ましく、Al、Sc、Y及びLuからなる群より選ばれる1種以上のものであるのが更に好ましく、Scが特に好ましい。蛍光体の結晶母体がCa3Sc2Si312となり、発光効率が向上するためである。なお、M3としてScを用いる場合、Scは単独系で用いても好ましく、Y又はLuとの複合系で用いても好ましい。また、M3は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
また、M3としては、前記の好ましいとされる元素以外のその他の3価の金属元素を使用すること(即ち、結晶構造のM3の位置をその他の3価の金属元素で置換すること)も可能である。しかし、基本的にM3は前記の好ましいとされる元素からなることが好ましいため、当該その他の3価の金属元素の使用割合は少ないことが好ましい。具体的には、他の3価の金属元素の使用割合を、他の3価の金属元素で置換した蛍光体の発光効率が、置換していない場合の蛍光体の発光効率の70%以上を維持できる範囲に抑制することが好ましい。なお、その際の他の3価の金属元素の具体的な使用割合は、M3に対し、通常10モル%以下、中でも5モル%以下、特には1モル%以下であることが好ましい。
【0038】
前記式[1]中、M4は、1種以上の4価の金属元素を表わす。中でも、M4としては、少なくともSiを含むことが好ましい。蛍光体の結晶母体がCa3Sc2Si312となり、発光効率が向上するためである。また、Siを用いる場合、M4で表わされる金属元素のうちでSiの占める割合は、通常50モル%以上、中でも70モル%以上、更には80モル%以上、特には90モル%以上であることが好ましく、その中でも、M4がSiのみであることが最も好ましい。
【0039】
また、Si以外の4価の金属元素M4としては、Ti、Ge、Zr、Sn及びHfからなる群より選ばれる1種以上のものが好ましく、Ti、Zr、Sn及びHfからなる群より選ばれる1種以上のものがより好ましく、Ge及びSnからなる群より選ばれる1種以上のものが更に好ましく、Snであることが特に好ましい。なお、M4は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0040】
また、M4としては、前記の好ましいとされる元素以外のその他の4価の金属元素を使用すること(即ち、結晶構造のM4の位置をその他の4価の金属元素で置換すること)も可能である。しかし、基本的にM4は前記の好ましいとされる元素からなることが好ましいため、当該その他の4価の金属元素の使用割合は少ないことが好ましい。具体的には、他の4価の金属元素の使用割合を、他の4価の金属元素で置換した蛍光体の発光効率が、置換していない場合の蛍光体の発光効率の70%以上を維持できる範囲に抑制することが好ましい。なお、その際の他の4価の金属元素の具体的な使用割合は、M4に対し、通常10モル%以下、中でも5モル%以下、特には1モル%以下であることが好ましい。
【0041】
前記式[1]中、aは、M1のモル数を表わす数である。具体的には、aは、通常0より大きく、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上、特に好ましくは0.3以上、また、通常1.5以下、好ましくは1.4以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下の数を表わす。このaの値を変化させると発光スペクトルの形状が大きく変化する。具体的には、aの値を増加させていくに従い、深赤色領域における発光スペクトルの発光強度が増し、a≧1においては概ね深赤色の発光のみとなる。したがって、式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体においては、必要に応じてaの値を変更すること、即ち、M1のモル数を変化させることによって、所望の発光特性を有する蛍光体を得ることができる。特に、aが0.3以上である場合には、充分な深赤色発光が得られる。
【0042】
前記式[1]中、bは、M2のモル数を表わす数である。具体的には、bは、通常1.5以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.8以上、また、通常3.3以下、好ましくは3.2以下、より好ましくは3.1以下の数を表わす。bの値が小さすぎても大きすぎても、異相結晶が現れ、発光特性が低下する傾向がある。
【0043】
前記式[1]中、cは、Xのモル数を表わす数である。具体的には、cは、通常0より大きく、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.05以上、また、通常0.5以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下の数を表わす。cが小さすぎると青色光に対する吸収効率が低下し、特性の高い蛍光体が得られなくなる可能性があり、大きすぎるとXが蛍光体の母体結晶中に完全に含有されずに異相を生じる可能性がある。
【0044】
前記式[1]中、dは、M3のモル数を表わす数である。具体的には、dは、通常1.5以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.8以上、特に好ましくは1.9以上、また、通常2.2以下、好ましくは2.1以下の数を表わす。dの値が小さすぎても大きすぎても、異相結晶が現れ、発光特性が低下する傾向がある。
【0045】
前記式[1]中、eは、Oのモル数を表わす数である。具体的には、eは、通常、11以上、好ましくは11.3以上、より好ましくは11.6以上、また、通常13以下、好ましくは12.7以下、より好ましくは12.4以下の数を表わす。eの値が小さすぎても大きすぎても、異相結晶が現れ、発光特性が低下する傾向がある。
【0046】
式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体の好ましい組成の具体例を以下に挙げるが、式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体の組成は以下の例示に制限されるものではない。
式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体の組成の例としては、Ca2.8Sc2Si312:Ce0.1,Mn0.1、Ca2.6Sc2Si312:Ce0.1,Mn0.3、Ca1.9Sc2Si312:Ce0.1,Mn、Ca2.8Sc2Si312:Ce0.1,Mn0.1、Ca2.6Sc2Si312:Ce0.1,Mn0.3、Ca1.9Sc2Si312:Ce0.1,Mnなどが挙げられる。
【0047】
上述したように、本発明の蛍光体は、[1−1.蛍光体の発光スペクトル]で説明した発光スペクトルを有する。この際、式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体の組成との関係で説明すると、深赤色領域における発光ピークは、2価の金属元素M1由来であり、緑色ないし赤色領域における発光ピークは、金属元素X由来であると考えられる。また、金属元素Xは、増感剤の働きをしているものと推測される。
【0048】
上述した式[1]の組成を有する蛍光体の中でも、特に、M1がMnであるとともに、XがCeであることが好ましい。CeからMnへのエネルギー伝達が効率良く起こり、深赤色発光の効率が向上するためである。
【0049】
[1−4.蛍光体のその他の特性]
〔結晶構造〕
本発明の蛍光体の結晶構造は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でもガーネット結晶構造を有することが好ましい。ガーネット結晶構造とは、一般式A32312(前記一般式で、Aは2価の金属元素を、Bは3価の金属元素を、Cは4価の金属元素を表わす)で表され、空間群記号Ia3dで表わされる体心立方晶の結晶構造である。前記A、B、Cイオンは、それぞれ12、8、4面体配位のサイトに位置し、それぞれ、酸素原子が8、6、4個配位しており、天然の柘榴石(Garnet)と同一の構造である。
【0050】
前記式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体は、ガーネット結晶構造の一般式A32312におけるAイオンの位置を2価金属元素M2が占め、Bイオンの位置を3価金属元素M3が占め、Cイオンの位置を4価の金属元素M4が占める。さらに、式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体においては、発光に関与するイオン、即ち、発光中心イオンとして金属元素Xを含有すると共に金属元素M1を含むが、これらの発光中心イオンとなるM1及びXは、M2、M3、M4のいずれかの金属元素の結晶格子の位置に置換するか、あるいは、結晶格子間の隙間に配置すると考えられる。そして、これにより、前記式[1]におけるa、b、c、d、及びeの値が、前述の範囲の値となるものと推察される。なお、実施例にて後述する粉末X線回折の結果により、前記式[1]を満足する蛍光体であれば、当該蛍光体はガーネット結晶構造をとるものと考えられる。
【0051】
〔重量メジアン径〕
本発明の蛍光体は、その重量メジアン径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10μm以上、中でも15μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径が小さすぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集する傾向がある。一方、重量メジアン径が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。なお、重量メジアン径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等の装置を用いて測定することができる。
【0052】
[1−5.蛍光体の製造方法]
本発明の蛍光体の製造方法は特に制限されないが、例えば、前記式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体を製造する場合には、前記式[1]における、金属元素M1の原料(以下適宜「M1源」という。)、2価の金属元素M2の原料(以下適宜「M2源」という。)、金属元素Xの原料(以下適宜「X源」という)、3価の金属元素M3の原料(以下適宜「M3源」という。)及び4価の金属元素M4の原料(以下適宜「M4源」という。)を混合し(混合工程)、得られた混合物を焼成する(焼成工程)ことにより製造することができる。また、この場合、上記の工程以外の工程を行なってもよい。以下、この製造方法について説明する。
【0053】
[1−5−1.原料]
本発明の蛍光体の製造に使用されるM1源、M2源、M3源、X源及びM4源としては、例えば、M1、M2、X、M3、及びM4の各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。これらの化合物の中から、複合酸化物への反応性や、焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0054】
1源のうちMn源の例を挙げると、MnO2、Mn23、Mn34、MnOOH、MnCO3、Mn(NO32、MnSO4、Mn(OCOCH32、Mn(OCOCH33、MnCl2、MnCl3等が挙げられる。
【0055】
2源のうちMg源の例を挙げると、MgO、Mg(OH)2、MgCO3、Mg(OH)2・3MgCO3・3H2O、Mg(NO32・6H2O、MgSO4、Mg(OCO)2・2H2O、Mg(OCOCH32・4H2O、MgCl2等が挙げられる。
2源のうちCa源の例を挙げると、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(NO32・4H2O、CaSO4・2H2O、Ca(OCO)2・H2O、Ca(OCOCH32・H2O、CaCl2等が挙げられる。
2源のうちZn源の例を挙げると、ZnO、Zn(OH)2、ZnCO3、Zn(NO32、Zn(OCO)2、Zn(OCOCH32、ZnCl2等が挙げられる。
【0056】
X源のうちCe源の例を挙げると、Ce23、CeO2、Ce(OH)3、Ce(OH)4、Ce2(CO33、Ce(NO33、Ce2(SO43、Ce(SO42、Ce2(OCO)6、Ce(OCOCH33、CeCl3、CeCl4等が挙げられる。
X源のうちEu源の例を挙げると、Eu23、Eu2(SO43、Eu2(OCO)6、EuCl2、EuCl3等が挙げられる。
X源のうちTb源の例を挙げると、Tb23、Tb47、Tb2(CO33、Tb2(SO43、TbCl3等が挙げられる。
X源のうち、Sm源、Tm源、Yb源等の例を挙げると、Eu源の例として挙げた各化合物において、EuをそれぞれSm、Tm、Yb等に置き換えた化合物が挙げられる。
【0057】
3源のうちAl源の例を挙げると、Al23、Al(OH)3、AlOOH、Al(NO33・9H2O、Al2(SO43、AlCl3等が挙げられる。
3源のうちSc源の例を挙げると、Sc23、Sc(OH)3、Sc2(CO33、Sc(NO33、Sc2(SO43、Sc2(OCO)6、Sc(OCOCH33、ScCl3等が挙げられる。
3源のうちY源の例を挙げると、Y23、Y(OH)3、Y2(CO33、Y(NO33、Y2(SO43、Y2(OCO)6、YCl3等が挙げられる。
3源のうちLu源の例を挙げると、Lu23、Lu2(SO43、LuCl3等が挙げられる。
【0058】
4源のうちSi源の例を挙げると、SiO2、H4SiO4、Si(OCOCH34等が挙げられる。
4源のうちGe源の例を挙げると、GeO2、Ge(OH)4、Ge(OCOCH34、GeCl4等が挙げられる。
4源のうちSn源の例を挙げると、SnO2、SnO2・nH2O、Sn(NO34、Sn(OCOCH34、SnCl4等が挙げられる。
【0059】
なお、M1源、M2源、M3源、X源及びM4源は、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
[1−5−2.混合工程]
1源、M2源、X源、M3源、及びM4源を混合する手法は特に制限されない。したがって、乾式混合法、湿式混合法のいずれを用いてもよい。この際、乾式混合法及び湿式混合法の例としては、下記の(A)及び(B)の手法が挙げられる。
【0061】
(A)ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、M1源、M2源、X源、M3源、及びM4源の原料を粉砕混合する乾式混合法。
【0062】
(B)M1源、M2源、X源、M3源、及びM4源等の原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0063】
[1−5−3.焼成工程]
焼成工程は、上述の混合工程により得られたM1源、M2源、X源、M3源、及びM4源等の原料の混合物(原料混合物)を加熱することにより行なう。この際、原料混合物は、通常は、各原料との反応性が低い材料からなるルツボやトレイ等の耐熱容器中に入れて加熱する。また、原料化合物を、例えば白金箔等の材料からなる部材で包めば、原料と反応しうる材料で形成された耐熱容器を用いて加熱を行なうことも可能である。
【0064】
〔焼成条件〕
焼成時の温度は、本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、通常850℃以上、好ましくは950℃以上、また、通常1700℃以下、好ましくは1600℃以下の範囲である。焼成温度が低過ぎると充分に結晶が成長せず、粒径が小さくなる場合がある一方で、焼成温度が高過ぎると結晶が成長しすぎて粒径が大きくなりすぎる場合がある。
【0065】
焼成時の圧力は、本発明の蛍光体が得られる限り任意である。焼成温度等によっても異なるが、通常は常圧以上である。
焼成時間は、本発明の蛍光体が得られる限り任意である。焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常10分以上、好ましくは1時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは6時間以下の範囲である。
【0066】
焼成時の雰囲気は、本発明の蛍光体が得られる限り任意である。後述するように、焼成工程は、複数の工程に分けて(例えば、一次焼成工程と二次焼成工程に分けて)実施することができるが、各工程において異なる焼成雰囲気を用いても良い。焼成雰囲気の具体例としては、空気を用いることも可能であり、また、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、水素、アルゴン等も使用できる。なお、雰囲気ガスが1種のみである単独雰囲気下であってもよく、2種以上の雰囲気ガスを任意の組み合わせ及び比率で併用した混合雰囲気下であってもよい。
【0067】
ただし、得られる蛍光体の特性を向上させるためには、還元性雰囲気下で焼成を行なうことが好ましい。また、焼成工程を複数の工程に分けて行なう場合には、少なくとも1回は、還元性雰囲気下で焼成を行なうことが好ましい。ここで、還元性雰囲気の具体例としては、一酸化炭素、水素等の気体を含む雰囲気が挙げられ、中でも、水素含有窒素雰囲気が好ましく、特に、水素含有窒素雰囲気(水素:窒素=4:96(体積比))がより好ましい。
【0068】
〔フラックス〕
焼成工程においては、良好な結晶を成長させる観点から、反応系にフラックスを共存させることが好ましい。フラックスの種類は特に制限されないが、例としては、NH4Cl、LiCl、NaCl、KCl、CsCl、CaCl2、BaCl2、SrCl2等の塩化物、LiF、NaF、KF、CsF、CaF2、BaF2、SrF2、AlF3等のフッ化物などが挙げられる。特に母体結晶構成元素であるアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、中でも塩化物及びフッ化物がさらに好ましく、更にその中でも塩化物が特に好ましい。
【0069】
フラックスの使用量は、原料の種類やフラックスの材料等によっても異なるが、通常0.01重量%以上、更には0.1重量%以上、また、通常20重量%以下、更には10重量%以下の範囲が好ましい。フラックスの使用量が少な過ぎると、フラックスの効果が現れない可能性があり、フラックスの使用量が多過ぎると、フラックス効果が飽和したり、母体結晶に取り込まれて発光色を変化させたり、輝度低下を引き起こしたりする可能性がある。なお、フラックスは1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0070】
〔一次焼成工程及び二次焼成工程〕
焼成工程は、複数の工程に分割して行なっても良い。例えば、一次焼成工程と二次焼成工程とに分割して行なってもよい。この場合、混合工程により得られた原料混合物をまず一次焼成した後、ボールミル等で再度粉砕してから二次焼成を行なうようにすることが好ましい。
【0071】
焼成工程を複数の工程に分割して行なう場合、各工程における焼成条件は任意であり、同じでもよく、異なっていても良い。例えば、前記のように2つの工程に分けて行なう場合には、まず一次焼成工程において下記の焼成条件で焼成を行なった後で、上記の焼成条件で二次焼成工程を行なうようにすることが好ましい。
【0072】
一次焼成工程の雰囲気は、空気等の酸化雰囲気下であることが、より好ましい。これにより、炭酸塩等の、加熱により分解してガスを放出する原料の熱分解を促進できる。
一次焼成工程の温度は、通常1000℃以上、好ましくは1050℃以上、また、通常1600℃以下、好ましくは1500℃以下の範囲である。また、一次焼成の時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、また、通常15時間以下、好ましくは12時間以下の範囲である。このような焼成条件で一次焼成工程を行なってから二次焼成工程を行なうことにより、固相反応が充分に進み、組成が均一な蛍光体が得られる。
【0073】
[1−5−4.後処理工程]
上述の焼成工程の後、必要に応じて、解砕、洗浄、乾燥、分級等の処理を行なうことにより、本発明の蛍光体を得ることができる。
なお、本発明の蛍光体を用いて、後述の方法で発光装置を製造する際には、必要に応じて公知の表面処理、例えば燐酸カルシウム処理を行なってから、使用に供することが好ましい。
【0074】
[1−5−5.アニール工程]
前記の後処理の後に、蛍光体の結晶欠陥を低減させる等の目的で、前記の焼成工程における加熱温度より低い温度で再加熱するアニール工程を行なうことが好ましい。これにより、蛍光体の表面及び内部の結晶欠陥をなくし、蛍光体の輝度を向上させることが可能となる。また、アニール工程を行なう際の雰囲気に制限はないが、窒素、アルゴン、水素を少量含む窒素等の還元性雰囲気下とすることが好ましい。
【0075】
なお、この加熱の際の具体的な温度範囲は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常850℃以上、好ましくは950℃以上であり、また、通常1700℃以下、好ましくは1600℃以下である。中でも、二次焼成における焼成温度よりも10℃〜150℃低い温度で焼成することがより好ましい。
【0076】
[1−6.蛍光体の用途]
本発明の蛍光体は、青色ないし近紫外光に対する変換効率に優れているという特性を生かして、各種の発光装置(後述する「本発明の発光装置」)に好適に用いることができる。例えば、本発明の蛍光体をLED等との光源と組み合わせれば、高効率の白色ないし深赤色の発光装置を実現することができる。また、前記のような発光装置を構成する場合に、LED等と組み合わせる蛍光体として本発明の蛍光体のみを用いて白色発光装置を構成することが可能である。
【0077】
また、前記のような発光装置を構成する場合、本発明の蛍光体とその他の蛍光体とを組み合わせて白色発光装置を構成することも可能である。本発明の蛍光体と組み合わせて用いることが可能なその他の蛍光体としては、例えば、黄色の光を発する蛍光体(黄色蛍光体)、赤色の光を発する蛍光体(赤色蛍光体)、緑色の光を発する蛍光体(緑色蛍光体)、青色の光を発する蛍光体(青色蛍光体)、橙色の光を発する蛍光体(橙色蛍光体)等が挙げられる。これにより、演色性に優れた白色発光装置や、所望の色に発光する発光装置を実現することができる。
【0078】
こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライトなど)や照明装置として使用することができる。中でも、本発明の蛍光体は、画像形成装置よりも照明装置用途に適している。多くの色の成分を含み、演色性が高い光を発するためである。
【0079】
また、本発明の蛍光体は、他の蛍光体と混合(ここで、混合とは、必ずしも蛍光体同士が混ざり合っている必要はなく、異種の蛍光体が組み合わされていることを意味する。)して用いることができる。特に、後述する第2の蛍光体と組み合わせて混合すると、好ましい蛍光体混合物が得られる。なお、混合する蛍光体の種類や、その割合に特に制限はない。
【0080】
[2.蛍光体含有組成物]
本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液状媒体中に分散させた形態で用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液状媒体中に分散させたものを、適宜「本発明の蛍光体含有組成物」と呼ぶものとする。
【0081】
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な液状媒体としては、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することが可能である。液状媒体の例としては、硬化前の熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。また、無機系材料、例えば、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液を用いることができる。これらの液状媒体は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の液状媒体に有機溶媒を含有させることもできる。
【0082】
液状媒体の使用量は、用途等に応じて適宜調整すればよいが、本発明の蛍光体に対する液状媒体の重量比で、通常3重量%以上、中でも5重量%以上が好ましく、また、通常30重量%以下、中でも15重量%以下が好ましい。液状媒体が少な過ぎると蛍光体からの発光が強くなり過ぎて輝度が低下する可能性があり、多過ぎると蛍光体からの発光が弱くなり過ぎて輝度が低下する可能性がある。
【0083】
また、本発明の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体及び液状媒体に加え、その用途等に応じて、その他の任意の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、本発明の蛍光体以外の蛍光体、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。
なお、これらその他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0084】
[3.発光装置]
次に、本発明の発光装置について説明する。本発明の発光装置は、第1の発光体と、第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを、少なくとも備えて構成される。
【0085】
[3−1.第1の発光体]
本発明の発光装置における第1の発光体は、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。第1の発光体の発光波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、近紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用され、具体的数値としては、通常380nm以上、好ましくは400nm以上、より好ましくは430nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは490nm以下、より好ましくは470nm以下の発光波長を有する発光体が使用される。この第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的にはLEDや半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode。以下適宜「LD」と略称する。)等が使用できる。他には、例えば、有機エレクトロルミネッセンス発光素子、無機エレクトロルミネッセンス発光素子等も使用できる。但し、勿論これらに限るものではない。
【0086】
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDにおいては、AlXGaYN発光層、GaN発光層、又はInXGaYN発光層を有しているものが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でInXGaYN発光層を有するものが発光強度が非常に強いので、特に好ましく、GaN系LDにおいては、InXGaYN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが発光強度が非常に強いので、特に好ましい。
【0087】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
【0088】
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlXGaYN層、GaN層、又はInXGaYN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高く、好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高く、より好ましい。
【0089】
[3−2.第2の発光体]
本発明の発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、第1の蛍光体として上述した本発明の蛍光体を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、第2の蛍光体(その他の蛍光体)を含有する。また、例えば、第2の発光体は、通常は、第1及び第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0090】
[3−2−1.第1の蛍光体]
第1の蛍光体としては、本発明の蛍光体を用いる。この際、第1の蛍光体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体として使用する本発明の蛍光体の組成は、発光装置の用途に応じて任意に選択すればよい。
【0091】
[3−2−2.第2の蛍光体]
第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にもその他の蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体以外の任意の蛍光体のことを指す。
また、第2の蛍光体としては、1種類の蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体と第2の蛍光体との比率も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。従って、第2の蛍光体の使用量、並びに、第2の蛍光体として用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率などは、発光装置の用途などに応じて任意に設定すればよい。
【0092】
通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用される。したがって、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。本発明の蛍光体はその発光成分として深赤色成分及び緑色成分を有しうるため、第2の蛍光体としては、青色蛍光体、黄色蛍光体、橙色蛍光体などを用いることが多い。
ただし、第2の蛍光体としては、本発明の蛍光体と同色の蛍光を発する蛍光体(同色併用蛍光体)を用いることも可能である。よって、第2の蛍光体として、赤色蛍光体、緑色蛍光体などを用いることも可能である。
【0093】
第2の蛍光体の組成には特に制限はないが、結晶母体であるY3Al512、Sr2SiO4等に代表される金属酸化物、Sr2Si58等に代表される金属窒化物、Ca5(PO43Cl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS等に代表される硫化物に、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Cu、Au、Al、Mn、Sb等の金属のイオンを付活元素又は共付活元素として組み合わせたものが好ましい。
【0094】
結晶母体の好ましい例としては、(Zn,Cd)S、SrGa24、SrS、ZnS等の硫化物、Y22S等の酸硫化物、(Y,Gd)3Al512、YAlO3、BaMgAl1017、(Ba,Sr)(Mg,Mn)Al1017、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn,Mn)Al1017、BaAl1219、CeMgAl1119、(Ba,Sr,Mg)O・Al23、BaAl2Si28、SrAl24、Sr4Al1425、Y3Al512等のアルミン酸塩、Y2SiO5、Zn2SiO4等の珪酸塩、SnO2、Y23等の酸化物、GdMgB510、(Y,Gd)BO3等の硼酸塩、Ca10(PO46(F,Cl)2、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2等のハロリン酸塩、Sr227、(La,Ce)PO4等のリン酸塩等を挙げることができる。
【0095】
但し、上記の結晶母体及び付活元素又は共付活元素は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は近紫外から可視領域の光を吸収して可視光を発するものであれば用いることが可能である。
具体的には、第2の蛍光体の例として、以下に挙げる青色蛍光体、黄色蛍光体、赤色蛍光体、橙色蛍光体、緑色蛍光体などを用いることが可能であるが、これらはあくまでも例示であり、本発明で使用できる蛍光体はこれらに限られるものではない。
【0096】
〔青色蛍光体〕
第2の蛍光体として青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは470nm以下、より好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0097】
このような青色蛍光体の例としては、規則的な結晶成長形状としてほぼ六角形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なうBaMgAl1017:Euで表わされるユウロピウム付活バリウムマグネシウムアルミネート系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)5(PO43Cl:Euで表わされるユウロピウム付活ハロリン酸カルシウム系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ立方体形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)259Cl:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類クロロボレート系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、青緑色領域の発光を行なう(Sr,Ca,Ba)Al24:Eu又は(Sr,Ca,Ba)4Al1425:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類アルミネート系蛍光体等が挙げられる。
【0098】
また、その他、青色蛍光体としては、例えば、Sr227:Sn等のSn付活リン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)Al24:Eu、(Sr,Ca,Ba)4Al1425:Eu、BaMgAl1017:Eu、BaAl813:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa24:Ce、CaGa24:Ce等のCe付活チオガレート蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、BaMgAl1017:Eu,Tb,Sm等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu、(Ba,Sr,Ca)5(PO43(Cl,F,Br,OH):Eu,Mn,Sb等のEu付活ハロリン酸塩蛍光体、BaAl2Si28:Eu、(Sr,Ba)3MgSi28:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Sr227:Eu等のEu付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Ag、ZnS:Ag,Al等の硫化物蛍光体、Y2SiO5:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaWO4等のタングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)BPO5:Eu,Mn、(Sr,Ca)10(PO46・nB23:Eu、2SrO・0.84P25・0.16B23:Eu等のEu,Mn付活硼酸リン酸塩蛍光体、Sr2Si38・2SrCl2:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、SrSi9Al19ON31:Eu、EuSi9Al19ON31等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0099】
また、青色蛍光体としては、例えば、ナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラゾリン系、トリアゾール系化合物の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体等を用いることも可能である。
【0100】
以上の例示の中でも、青色蛍光体としては、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Ca,Mg)2SiO4:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Euが好ましく、BaMgAl1017:Euが特に好ましい。
なお、青色蛍光体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
【0101】
〔黄色蛍光体〕
第2の蛍光体として黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0102】
このような黄色蛍光体の例としては、各種の酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、硫化物系、酸硫化物系等の蛍光体が挙げられる。特に、RE3512:Ce(ここで、REは、Y、Tb、Gd、Lu、及びSmからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わし、Mは、Al、Ga、及びScからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わす。)やMa3b2c312:Ce(ここで、Maは2価の金属元素、Mbは3価の金属元素、Mcは4価の金属元素を表わす。)等で表わされるガーネット構造を有するガーネット系蛍光体、AE2d4:Eu(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg、及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わし、Mdは、Si、及び/又はGeを表わす。)等で表わされるオルソシリケート系蛍光体、これらの系の蛍光体の構成元素の酸素の一部を窒素で置換した酸窒化物系蛍光体、AEAlSiN3:Ce(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表わす。)等のCaAlSiN3構造を有する窒化物系蛍光体等のCeで付活した蛍光体などが挙げられる。
【0103】
また、その他、黄色蛍光体としては、例えば、CaGa24:Eu、(Ca,Sr)Ga24:Eu、(Ca,Sr)(Ga,Al)24:Eu等の硫化物系蛍光体、Cax(Si,Al)12(O,N)16:Eu等のSiAlON構造を有する酸窒化物系蛍光体等のEuで付活した蛍光体を用いることも可能である。
【0104】
また、黄色蛍光体としては、例えば、brilliant sulfoflavine FF (Colour Index Number 56205)、basic yellow HG (Colour Index Number 46040)、eosine (Colour Index Number 45380)、rhodamine 6G (Colour Index Number 45160)等の蛍光染料等を用いることも可能である。
なお、黄色蛍光体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
【0105】
〔橙色ないし赤色蛍光体〕
第2の蛍光体として橙色ないし赤色蛍光体を使用する場合、当該橙色ないし赤色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常580nm以上、好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0106】
このような橙色ないし赤色蛍光体の例としては、赤色破断面を有する破断粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Y,La,Gd,Lu)22S:Euで表わされるユウロピウム付活希土類オキシカルコゲナイド系蛍光体等が挙げられる。
【0107】
更に、特開2004−300247号公報に記載された、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、及びMoよりなる群から選ばれる少なくも1種の元素を含有する酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体であって、Al元素の一部又は全てがGa元素で置換されたアルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体も、第2の蛍光体として用いることができる。なお、これらは酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体である。
【0108】
また、その他、赤色蛍光体としては、例えば、(La,Y)22S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、Y(V,P)O4:Eu、Y23:Eu等のEu付活酸化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu,Mn、(Ba,Mg)2SiO4:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、LiW28:Eu、LiW28:Eu,Sm、Eu229、Eu229:Nb、Eu229:Sm等のEu付活タングステン酸塩蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、YAlO3:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、LiY9(SiO462:Eu、Ca28(SiO462:Eu、(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu、Sr2BaSiO5:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Y,Gd)3Al512:Ce、(Tb,Gd)3Al512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)SiN2:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Eu等のEu付活窒化物蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Ce等のCe付活窒化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、Ba3MgSi28:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)3(Zn,Mg)Si28:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等のMn付活ゲルマン酸塩蛍光体、Eu付活αサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)23:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)22S:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸硫化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)VO4:Eu,Bi等のEu,Bi付活バナジン酸塩蛍光体、SrY24:Eu,Ce等のEu,Ce付活硫化物蛍光体、CaLa24:Ce等のCe付活硫化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgP27:Eu,Mn、(Sr,Ca,Ba,Mg,Zn)227:Eu,Mn等のEu,Mn付活リン酸塩蛍光体、(Y,Lu)2WO6:Eu,Mo等のEu,Mo付活タングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)xSiyNz:Eu,Ce(但し、x、y、zは、1以上の整数を表わす。)等のEu,Ce付活窒化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO46(F,Cl,Br,OH)2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、((Y,Lu,Gd,Tb)1-x-yScxCey2(Ca,Mg)1-r(Mg,Zn)2+rSiz-qGeq12+δ等のCe付活珪酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0109】
さらに、赤色蛍光体としては、例えば、β−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、又は、ブレンステッド酸等のアニオンを配位子とする希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体、ペリレン系顔料(例えば、ジベンゾ{[f,f’]−4,4’,7,7’−テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3−cd:1’,2’,3’−lm]ペリレン)、アントラキノン系顔料、レーキ系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラセン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料を用いることも可能である。
【0110】
また、赤色蛍光体のうち、ピーク波長が580nm以上、好ましくは590nm以上、また、620nm以下、好ましくは610nm以下の範囲内にあるものは、橙色蛍光体として好適に用いることができる。このような橙色蛍光体の例としては、(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu、Sr2BaSiO5:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Mg)3(PO42:Sn2+等のSn付活リン酸塩蛍光体等が挙げられる。
【0111】
以上の例示の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSiN3:Ce、(La,Y)22S:Euが好ましく、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、(La,Y)22S:Euが特に好ましい。また、以上例示の中でも、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)3SiO5:Euが好ましい。
なお、橙色ないし赤色蛍光体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
【0112】
〔緑色蛍光体〕
第2の蛍光体として緑色蛍光体を使用する場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、緑色蛍光体の発光ピーク波長は、通常500nm以上、中でも510nm以上、また、通常535nm未満、中でも525nm以下の範囲にあることが好適である。
【0113】
このような緑色蛍光体の例としては、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si222:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Euで表わされるユウロピウム付活アルカリ土類シリケート系蛍光体等が挙げられる。
【0114】
また、その他、緑色蛍光体としては、例えば、Sr4Al1425:Eu、(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ba)Al2Si28:Eu、(Ba,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si27:Eu、(Ba,Ca,Sr,Mg)9(Sc,Y,Lu,Gd)2(Si,Ge)624:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Y2SiO5:Ce,Tb等のCe,Tb付活珪酸塩蛍光体、Sr227−Sr225:Eu等のEu付活硼酸リン酸塩蛍光体、Sr2Si38−2SrCl2:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、Zn2SiO4:Mn等のMn付活珪酸塩蛍光体、CeMgAl1119:Tb、Y3Al512:Tb等のTb付活アルミン酸塩蛍光体、Ca28(SiO462:Tb、La3Ga5SiO14:Tb等のTb付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Ga24:Eu,Tb,Sm等のEu,Tb,Sm付活チオガレート蛍光体、Y3(Al,Ga)512:Ce、(Y,Ga,Tb,La,Sm,Pr,Lu)3(Al,Ga)512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、Ca3Sc2Si312:Ce、Ca3(Sc,Mg,Na,Li)2Si312:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaSc24:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、SrSi222:Eu、(Sr,Ba,Ca,Mg)Si222:Eu、Eu付活βサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、BaMgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、SrAl24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)22S:Tb等のTb付活酸硫化物蛍光体、LaPO4:Ce,Tb等のCe,Tb付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al等の硫化物蛍光体、(Y,Ga,Lu,Sc,La)BO3:Ce,Tb、Na2Gd227:Ce,Tb、(Ba,Sr)2(Ca,Mg,Zn)B26:K,Ce,Tb等のCe,Tb付活硼酸塩蛍光体、Ca8Mg(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga,In)24:Eu等のEu付活チオアルミネート蛍光体やチオガレート蛍光体、(Ca,Sr)8(Mg,Zn)(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、MSi222:Eu、M3Si694:Eu、M3Si6122:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表わす。)等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0115】
また、緑色蛍光体としては、ピリジン−フタルイミド縮合誘導体、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体等の有機蛍光体を用いることも可能である。
なお、緑色蛍光体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
【0116】
〔第2の蛍光体の物性〕
第2の蛍光体の重量メジアン径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10μm以上、中でも15μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集する傾向がある。一方、重量メジアン径が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0117】
[3−2−3.蛍光体の選択]
第2の発光体に含有させる蛍光体としては、少なくとも第1の蛍光体、即ち、本発明の蛍光体を用いる。また、第2の発光体には、第1の蛍光体と第2の蛍光体とを組み合わせて含有させることも可能である。この際、第2の蛍光体の使用の有無及びその種類は、発光装置の用途に応じて適宜選択すればよい。したがって、第2の発光体に蛍光体として第1の蛍光体のみを含有させて本発明の発光装置を構成することが可能である。具体例を挙げると、本発明の蛍光体は深赤色領域に発光ピークを有すると共に、その組成によっては緑色ないし橙色領域にも発光ピークを併有しているのであるから、深赤色ないし緑色に発光する発光装置を構成する場合は、第2の発光体に含有させる蛍光体としては第1の蛍光体(即ち、深赤色ないし緑色蛍光体)のみを使用すればよく、第2の蛍光体の使用は通常は不要である。
【0118】
一方、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合には、所望の白色光が得られるように、第1の発光体と、第1の蛍光体(本発明の蛍光体)と、第2の蛍光体とを適切に組み合わせればよい。具体的に、本発明の発光装置を白色発光の発光装置として構成する場合における、第1の発光体と、第1の蛍光体と、第2の蛍光体との好ましい組み合わせの例としては、以下の(i)、(ii)の組み合わせが挙げられる。
【0119】
(i)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色領域ないし深赤色領域に発光ピークを有する本発明の蛍光体を使用し、第2の蛍光体として橙色ないし赤色蛍光体を使用する。この場合、橙色ないし赤色蛍光体としては、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、及び(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Euからなる群より選ばれる1種又は2種以上の蛍光体を用いることが好ましい。
【0120】
(ii)第1の発光体として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色領域ないし深赤色領域に発光ピークを有する本発明の蛍光体を使用し、第2の蛍光体として青色蛍光体及び橙色ないし赤色蛍光体を併用する。この場合、青色蛍光体としては、BaMgAl1017:Euが好ましい。また、橙色ないし赤色蛍光体としては、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、La22S:Eu、及び(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Euからなる群より選ばれる1種又は2種以上の蛍光体が好ましい。中でも、近紫外LEDと、本発明の蛍光体と、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euと、橙色ないし赤色蛍光体として(Sr,Ca)AlSiN3:Euとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0121】
前記の例(i)、(ii)のように、本発明の蛍光体を、橙色ないし赤色蛍光体と併用することにより、特殊演色評価数R9を向上させることができる。これにより、本発明の発光装置の赤色領域での色再現性を高め、演色性をさらに向上させることができる。
【0122】
[3−2−4.封止材料]
第2の発光体は上述した蛍光体のみで形成することも可能であるが、例えば、上述した蛍光体を、封止材料に分散させて構成することもできる。
【0123】
封止材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。封止材料の例を挙げると、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。また、無機系材料、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液又はこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えばシロキサン結合を有する無機系材料を用いることができる。
【0124】
これらのうち、耐熱性、耐紫外線(UV)性等の点から、シリコーン樹脂や金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液又はこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えばシロキサン結合を有する無機系材料が好ましい。
【0125】
上記の中でも、本発明の蛍光体と共に用いる場合、シリコーン樹脂やシリコーン系材料を用いることが好ましく、シリコーン樹脂を用いることがより好ましい。
シリコーン系樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂が挙げられ、中でも、フェニル基を含む縮合反応型シリコーン樹脂が好ましい。また、シリコーン樹脂やシリコーン系材料は屈折率が1.45以上であるものがより好ましい。
【0126】
また、このような封止材料のうちでは、特に、以下の特徴〈1〉〜〈3〉のうち1つ以上を有するシリコーン系材料やシリコーン樹脂が好ましい。
〈1〉固体Si−核磁気共鳴(NMR)スペクトルにおいて、下記(a)及び/又は(b)のピークを少なくとも1つ有する。
(a)ピークトップの位置がケミカルシフト−40ppm以上、0ppm以下の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上、3.0ppm以下であるピーク。
(b)ピークトップの位置がケミカルシフト−80ppm以上、−40ppm未満の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上5.0ppm以下であるピーク。
〈2〉ケイ素含有率が20重量%以上である。
〈3〉シラノール含有率が0.1重量%以上、10重量%以下である。
【0127】
中でも、上記の特徴〈1〉〜〈3〉のうち特徴〈2〉を有するシリコーン系材料やシリコーン樹脂が好ましい。より好ましくは、上記の特徴〈1〉及び〈2〉を有するシリコーン系材料やシリコーン樹脂が好ましい。特に好ましくは、上記の特徴〈1〉〜〈3〉を全て有するシリコーン系材料やシリコーン樹脂が好ましい。
【0128】
以下、これらの特徴〈1〉〜〈3〉について説明する。なお、以下において、上記の特徴〈1〉〜〈3〉を有するシリコーン系材料を「本発明に用いられるシリコーン系材料」と称する。
【0129】
〔固体Si−NMRスペクトル〕
ケイ素を主成分とする化合物は、SiO2・nH2Oの示性式で表わされるが、構造的には、ケイ素原子Siの四面体の各頂点に酸素原子Oが結合され、これらの酸素原子Oに更にケイ素原子Siが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、以下に示す模式図は、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を表わしたものであるが、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、酸素原子Oの一部が他の成員(例えば−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのケイ素原子Siに注目した場合、模式図の(A)に示す様に4個の−OSiを有するケイ素原子Si(Q4)、模式図の(B)に示す様に3個の−OSiを有するケイ素原子Si(Q3)等が存在する。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各ケイ素原子Siに基づくピークは、順次に、Q4ピーク、Q3ピーク、・・・と呼ばれる。
【0130】
【化1】

【0131】
これら酸素原子が4つ結合したケイ素原子は、一般にQサイトと総称される。本発明においてはQサイトに由来するQ0〜Q4の各ピークをQnピーク群と呼ぶこととする。有機置換基を含まないシリカ膜のQnピーク群は、通常ケミカルシフト−80ppm〜−130ppmの領域に連続した多峰性のピークとして観測される。
【0132】
これに対し、酸素原子が3つ結合し、それ以外の原子(通常は炭素である。)が1つ結合しているケイ素原子は、一般にTサイトと総称される。Tサイトに由来するピークはQサイトの場合と同様に、T0〜T3の各ピークとして観測される。本発明においてはTサイトに由来する各ピークをTnピーク群と呼ぶこととする。Tnピーク群は一般にQnピーク群より高磁場側(通常ケミカルシフト−80ppm〜−40ppm)の領域に連続した多峰性のピークとして観測される。
【0133】
更に、酸素原子が2つ結合するとともに、それ以外の原子(通常は炭素である。)が2つ結合しているケイ素原子は、一般にDサイトと総称される。Dサイトに由来するピークも、QサイトやTサイトに由来するピーク群と同様に、D0〜Dnの各ピーク(Dnピーク群と称す。)として観測され、QnやTnのピーク群より更に、高磁場側の領域(通常ケミカルシフト0ppm〜−40ppmの領域)に、多峰性のピークとして観測される。これらのDn、Tn、Qnの各ピーク群の面積の比は、各ピーク群に対応する環境におかれたケイ素原子のモル比と夫々等しいので、全ピークの面積を全ケイ素原子のモル量とすれば、Dnピーク群及びTnピーク群の合計面積は通常これに対する炭素原子と直接結合した全ケイ素のモル量と対応することになる。
【0134】
本発明に用いられるシリコーン系材料の固体Si−NMRスペクトルを測定すると、有機基の炭素原子が直接結合したケイ素原子に由来するDnピーク群及びTnピーク群と、有機基の炭素原子と結合していないケイ素原子に由来するQnピーク群とが、各々異なる領域に出現する。これらのピークのうち−80ppm未満のピークは前述の通りQnピークに該当し、−80ppm以上のピークはDn、Tnピークに該当する。本発明に用いられるシリコーン系材料においてはQnピークは必須ではないが、Dn、Tnピーク領域に少なくとも1本、好ましくは複数本のピークが観測される。
【0135】
また、本発明に用いられるシリコーン系材料において、−80ppm以上の領域に観測されるピークの半値幅は、これまでにゾルゲル法にて知られているシリコーン系材料の半値幅範囲より小さい(狭い)ことを特徴とする。
【0136】
ケミカルシフト毎に整理すると、本発明に用いられるシリコーン系材料において、ピークトップの位置が−80ppm以上−40ppm未満に観測されるTnピーク群の半値幅は、通常5.0ppm以下、好ましくは4.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上、好ましくは0.4ppm以上の範囲である。
【0137】
同様に、ピークトップの位置が−40ppm以上0ppm以下に観測されるDnピーク群の半値幅は、分子運動の拘束が小さいために全般にTnピーク群の場合より小さく、通常3.0ppm以下、好ましくは2.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上の範囲である。
【0138】
上記のケミカルシフト領域において観測されるピークの半値幅が上記の範囲より大きいと、分子運動の拘束が大きくひずみの大きな状態となり、クラックが発生し易く、耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。例えば、四官能シランを多用した場合や、乾燥工程において急速な乾燥を行ない大きな内部応力を蓄えた状態などにおいて、半値幅範囲が上記の範囲より大きくなる。
【0139】
また、ピークの半値幅が上記の範囲より小さい場合、その環境にあるSi原子はシロキサン架橋に関わらないことになり、三官能シランが未架橋状態で残留する例など、シロキサン結合主体で形成される物質より耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる場合がある。
【0140】
なお、本発明に用いられるシリコーン系材料の組成は、系内の架橋が主としてシリカを始めとする無機成分により形成される場合に限定される。即ち、大量の有機成分中に少量のSi成分が含まれるシリコーン系材料において−80ppm以上に上述の半値幅範囲のピークが認められても、良好な耐熱・耐光性及び塗布性能は得ることができない。
【0141】
本発明に用いられるシリコーン系材料のケミカルシフトの値は、例えば以下の方法を用いて固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(半値幅やシラノール量解析)は、例えばガウス関数やローレンツ関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0142】
{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}
シリコーン系材料について固体Si−NMRスペクトルを行なう場合、以下の条件で固体Si−NMRスペクトル測定及び波形分離解析を行なう。また、得られた波形データより、シリコーン系材料について、各々のピークの半値幅を求める。また、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することによりシラノール含有率を求める。
【0143】
{装置条件}
装置:Chemagnetics社 Infinity CMX-400 核磁気共鳴分光装置
29Si共鳴周波数:79.436MHz
プローブ:7.5mmφCP/MAS用プローブ
測定温度:室温
試料回転数:4kHz
測定法:シングルパルス法
1Hデカップリング周波数:50kHz
29Siフリップ角:90゜
29Si90゜パルス幅:5.0μs
繰り返し時間:600s
積算回数:128回
観測幅:30kHz
ブロードニングファクター:20Hz
【0144】
{データ処理法}
シリコーン系材料については、512ポイントを測定データとして取り込み、8192ポイントにゼロフィリングしてフーリエ変換する。
【0145】
{波形分離解析法}
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについてローレンツ波形及びガウス波形或いは両者の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行なう。
なお、ピークの同定は、AIChE Journal, 44(5), p.1141, 1998年等を参考にする。
【0146】
〔ケイ素含有率〕
本発明に用いられるシリコーン系材料は、ケイ素含有率が20重量%以上である(特徴〈2〉)。
【0147】
従来のシリコーン系材料の基本骨格は炭素−炭素及び炭素−酸素結合を基本骨格としたエポキシ樹脂等の有機樹脂であるが、これに対し本発明に用いられるシリコーン系材料の基本骨格はガラス(ケイ酸塩ガラス)などと同じ無機質のシロキサン結合である。このシロキサン結合は、下記表1の化学結合の比較表からも明らかなように、シリコーン系材料として優れた以下の特徴がある。
(I)結合エネルギーが大きく、熱分解・光分解し難いため、耐光性が良好である。
(II)電気的に若干分極している。
(III)鎖状構造の自由度は大きく、フレキシブル性に富む構造が可能であり、シロキサン鎖中心に自由回転可能である。
(IV)酸化度が大きく、これ以上酸化されない。
(V)電気絶縁性に富む。
【0148】
【表1】

【0149】
これらの特徴から、シロキサン結合が3次元的に、しかも高架橋度で結合した骨格で形成されるシリコーン系のシリコーン系材料は、ガラス或いは岩石などの無機質に近く、耐熱性・耐光性に富む保護皮膜となることが理解できる。特にメチル基を置換基とするシリコーン系材料は、紫外領域に吸収を持たないため光分解が起こり難く、耐光性に優れる。
【0150】
本発明に用いられるシリコーン系材料のケイ素含有率は、上述の様に20重量%以上であることが好ましいが、中でも25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。一方、上限としては、SiO2のみからなるガラスのケイ素含有率が47重量%であるという理由から、通常47重量%以下の範囲である。
【0151】
なお、シリコーン系材料のケイ素含有率は、例えば以下の方法を用いて誘導結合高周波プラズマ分光(inductively coupled plasma spectrometry:以下適宜「ICP」と略する。)分析を行ない、その結果に基づいて算出することができる。
【0152】
{ケイ素含有率の測定}
シリコーン系材料の単独硬化物を100μm程度に粉砕し、白金るつぼ中にて大気中、450℃で1時間、次いで750℃で1時間、950℃で1.5時間保持して焼成し、炭素成分を除去した後、得られた残渣少量に10倍量以上の炭酸ナトリウムを加えてバーナー加熱し溶融させ、これを冷却して脱塩水を加え、更に塩酸にてpHを中性程度に調整しつつケイ素として数ppm程度になるよう定容し、ICP分析を行なう。
【0153】
〔シラノール含有率〕
本発明に用いられるシリコーン系材料は、シラノール含有率が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の範囲である(特徴〈3〉)。本発明に用いられるシリコーン系材料は、シラノール含有率が低いため経時変化が少なく、長期の性能安定性に優れ、吸湿・透湿性何れも低い優れた性能を有する。但し、シラノールが全く含まれない部材は密着性に劣るため、シラノール含有率に上記のごとく最適な範囲が存在する。
【0154】
なお、シリコーン系材料のシラノール含有率は、例えば〔固体Si−NMRスペクトル〕の項の{固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出}において説明した方法を用いて固体Si−NMRスペクトル測定を行ない、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することにより算出することができる。
【0155】
また、本発明に用いられるシリコーン系材料は、適当量のシラノールを含有しているため、デバイス表面に存在する極性部分にシラノールが水素結合し、密着性が発現する。極性部分としては、例えば、水酸基やメタロキサン結合の酸素等が挙げられる。
【0156】
また、本発明に用いられるシリコーン系材料は、適当な触媒の存在下で加熱することにより、デバイス表面の水酸基との間に脱水縮合による共有結合を形成し、更に強固な密着性を発現することができる。
【0157】
一方、シラノールが多過ぎると、系内が増粘して塗布が困難になったり、活性が高くなり加熱により軽沸分が揮発する前に固化したりすることによって、発泡や内部応力の増大が生じ、クラックなどを誘起する場合がある。
【0158】
〔硬度測定値〕
本発明に用いられるシリコーン系材料は、エラストマー状を呈することが好ましい。具体的には、デュロメータタイプAによる硬度測定値(ショアA)が、通常5以上、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、また、通常90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下である(特徴〈4〉)。上記範囲の硬度測定値を有することにより、クラックが発生し難く、耐リフロー性及び耐温度サイクル性に優れるという利点を得ることができる。
【0159】
なお、上記の硬度測定値(ショアA)は、JIS K6253に記載の方法により測定することができる。具体的には、古里精機製作所製のA型ゴム硬度計を用いて測定を行なうことができる。また、リフローとは、はんだペーストを基板に印刷し、その上に部品を搭載して加熱、接合するはんだ付け工法のことをいう。そして、耐リフロー性とは、最高温度260℃、10秒間の熱衝撃に耐え得る性質のことを指す。
【0160】
〔その他〕
本発明に用いられるシリコーン系材料としては、具体的には、例えば特願2006−176468号明細書に記載のシリコーン系材料を挙げることができる。
【0161】
[3−2−5.その他の成分]
第2の発光体には、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した蛍光体及び封止材料以外の成分を含有させても良い。例えば、封止材料として上述した本発明に用いられるシリコーン系材料を用いる場合、封止材料の屈折率を調整するために、高い屈折率を有する金属酸化物を与えることのできる金属元素を封止材料中に存在させることができる。高い屈折率を有する金属酸化物を与える金属元素の例としては、Si、Al、Zr、Ti、Y、Nb、B等が挙げられる。これらの金属元素は単独で使用されてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されてもよい。
【0162】
このような金属元素の存在形態は、封止材料の透明度を損なわなければ特に限定されず、例えば、メタロキサン結合として均一なガラス層を形成していても、封止材料中に粒子状で存在していてもよい。粒子状で存在している場合、その粒子内部の構造はアモルファス状であっても結晶構造であってもよいが、高屈折率を与えるためには結晶構造であることが好ましい。また、その粒子径は、封止材料の透明度を損なわないために、通常は、半導体発光素子の発光波長以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。例えばシリコーン系材料に、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ニオブ等の粒子を混合することにより、上記の金属元素を封止材料中に粒子状で存在させることができる。
【0163】
また、その他の成分としては、拡散剤、フィラー、粘度調整剤、紫外線吸収剤等公知の添加剤を含有していてもよい。
なお、その他の成分は、1種のみで含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0164】
[3−3.発光装置の構成]
本発明の発光装置は、上述の第1の発光体及び第2の発光体を備えていれば、その他の構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム上に上述の第1の発光体及び第2の発光体を配置してなる。この際、第1の発光体の発光によって第2の発光体が励起されて(即ち、第1及び第2の蛍光体が励起されて)発光を生じ、且つ、この第1の発光体の発光及び/又は第2の発光体の発光が、外部に取り出されるように配置されることになる。この場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体とは必ずしも同一の層中に混合されなくてもよく、例えば、第1の蛍光体を含有する層の上に第2の蛍光体を含有する層が積層する等、蛍光体の発色毎に別々の層に蛍光体を含有するようにしてもよい。
【0165】
また、本発明の発光装置では、上述の第1の発光体、第2の発光体及びフレーム以外の部材を備えていてもよい。その例としては、[3−2−4.封止材料]で述べた封止材料が挙げられる。具体例を挙げると、封止材料は、発光装置において、第2の発光体を分散させる目的で用いたり、第1の発光体、第2の発光体及びフレーム間を接着する目的で用いたりすることができる。
【0166】
なお、封止材料としては、上記のように、例えば、[3−2−4.封止材料]で第2の発光体の構成材料として例示したものと同様のものが使用できるが、その他にも、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体例を挙げると、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等を用いることができる。また、無機系材料、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液又はこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えばシロキサン結合を有する無機系材料を用いることもできる。なお、これらの封止材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0167】
[3−4.発光装置の実施形態]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0168】
図1は、本発明の一実施形態に係る発光装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態の発光装置1は、フレーム2と、光源である青色LED(第1の発光体)3と、青色LED3から発せられる光の一部を吸収し、それとは異なる波長を有する光を発する蛍光体含有部(第2の発光体)4からなる。
【0169】
フレーム2は、青色LED3、蛍光体含有部4を保持するための金属製の基部である。フレーム2の上面には、図1中上側に開口した断面台形状の凹部(窪み)2Aが形成されている。これにより、フレーム2はカップ形状となっているため、発光装置1から放出される光に指向性をもたせることができ、放出する光を有効に利用できるようになっている。
【0170】
フレーム2の凹部2Aの底部には、光源として青色LED3が設置されている。青色LED3は、電力を供給されることにより青色の光を発するLEDである。この青色LED3から発せられた青色光の一部は、蛍光体含有部4内の発光物質(第1の蛍光体及び第2の蛍光体)に励起光として吸収され、また別の一部は、発光装置1から所定方向に向けて放出されるようになっている。
【0171】
また、青色LED3は前記のようにフレーム2の凹部2Aの底部に設置されているが、ここではフレーム2と青色LED3との間は接着剤5によって接着され、これにより、青色LED3はフレーム2に設置されている。
【0172】
更に、フレーム2には、青色LED3に電力を供給するための金製のワイヤ6が取り付けられている。つまり、青色LED3の上面に設けられた電極(図示省略)とは、ワイヤ6を用いてワイヤボンディングによって結線されていて、このワイヤ6を通電することによって青色LED3に電力が供給され、青色LED3が青色光を発するようになっている。なお、ワイヤ6は青色LED3の構造にあわせて1本又は複数本が取り付けられる。
【0173】
更に、フレーム2の凹部2Aには、青色LED3から発せられる光の一部を吸収し異なる波長を有する光を発する蛍光体含有部4が設けられている。蛍光体含有部4は、蛍光体と透明樹脂(封止材料)とで形成されている。蛍光体は、青色LED3が発する青色光により励起されて、青色光よりも長波長の光である光を発する物質である。蛍光体含有部4を構成する蛍光体は1種類であってもよいし、複数種からなる混合物であってもよく、青色LED3の発する光と蛍光体発光部4の発する光の総和が所望の色になるように選べばよい。色は白色だけでなく、黄色、オレンジ、ピンク、紫、青緑等であってもよい。また、これらの色と白色との間の中間的な色であってもよい。ここでは、蛍光体として、緑色領域及び深赤色領域に発光ピークを有する本発明の蛍光体(第1の蛍光体)と赤色蛍光体(第2の蛍光体)とを用い、発光装置から白色光が発せられるようになっているものとする。
【0174】
モールド部7は、青色LED3、蛍光体含有部4、ワイヤ6などを外部から保護するとともに、配光特性を制御するためのレンズとしての機能を持つ。モールド部7には例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0175】
本実施形態の発光装置は以上のように構成されているので、青色LED3が発光すると、蛍光体発光部4内の本発明の蛍光体と第2の蛍光体とが励起されて発光する。これにより、発光装置からは、青色LED3が発する青色光、本発明の蛍光体が発する緑色領域及び深赤色領域に発光ピークを有する光、並びに、第2の蛍光体が発する赤色光からなる白色の光が発せられることになるのである。
【0176】
本実施形態の発光装置は本発明の蛍光体を有しているため、当該発光装置から発せられる光は深赤色成分を含む。したがって、本実施形態の発光装置は、従来の蛍光体を用いた発光装置には無かった領域の発光成分を有する光を発光できるため、従来よりも色再現範囲が広く、演色性に優れた光を発することができる。
【0177】
本発明の発光装置は、上記の実施形態のものに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
例えば、蛍光体含有部4に第2の蛍光体を含有させず、蛍光体として第1の蛍光体のみを用いるようにしてもよい。
【0178】
また、例えば、第1の発光体として面発光型のものを使用し、第2の発光体として膜状のものを用いることができる。この場合、第1の発光体の発光面に、直接膜状の第2の発光体を接触させた形状とすることが好ましい。なお、ここでいう接触とは、第1の発光体と第2の発光体とが空気や気体を介さないでぴたりと接している状態をつくることを言う。その結果、第1の発光体からの光が第2の発光体の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
【0179】
図2は、このように、第1の発光体として面発光型のものを用い、第2の発光体として膜状のものを適用した発光装置の一例を示す模式的な斜視図である。図2に示す発光装置8では、基板9上に第1の発光体としての面発光型GaN系LD10が設けられ、面発光型GaN系LD10の上に膜状の第2の発光体11が形成されている。ここで、相互に接触した状態をつくるためには、第1の発光体であるLD10と第2の発光体11とそれぞれ別個に用意して、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD10の発光面上に第2の発光体11を成膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD11と第2の発光体11とを接触した状態とすることができる。
このような構成の発光装置8によれば、上記実施形態と同様の利点に加え、光量損失を避けて発光効率を向上させることが可能である。
【0180】
[3−5.発光装置の用途]
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも画像表示装置や照明装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。なお、本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0181】
発光装置1を組み込んだ面発光照明装置12の一例を図3に模式的に示す。この面発光照明装置12では、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース13の底面に、多数の発光装置1を、その外側に発光装置1の駆動のための電源及び回路等(図示は省略している。)を設けて配置してある。また、発光の均一化のために、保持ケース13の蓋部に相当する箇所には、乳白色としたアクリル板等の拡散板14が固定されている。この面発光照明装置12の使用時には、発光装置1を発光させる。この光が拡散板14を透過して、図面上方に出射され、保持ケース13の拡散板14面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【実施例】
【0182】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
【0183】
[蛍光体の測定・評価等]
後述の各実施例及び各比較例において、各種の評価は、以下の手法で行なった。
(発光スペクトルの測定)
蛍光体の発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)をそれぞれ用いて測定した。
【0184】
励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長455nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。
【0185】
(粉末X線回折測定)
粉末X線回折は、PANalytical製粉末X線回折装置X’Pertにて、X線源としてCuKα線(管球動作条件=40kV、30mA)を用いて測定した。
【0186】
[蛍光体の製造]
(実施例1〜3、及び比較例1)
1源としてMnCO3、M2源としてCaCO3、X源としてCeO2、M3源としてSc23、及び、M4源としてSiO2をそれぞれ用いた。各原料を表2に記載の仕込み組成となるように秤量し、乳鉢を用いて湿式で混合した。
得られた原料混合物を乾燥した後、アルミナ製ルツボに充填し、空気中、1400℃で3時間加熱した(一次焼成工程)。冷却後、得られた焼成物を取り出し、乳鉢で軽く粉砕した。得られた粉砕物を白金箔に包み、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))中、1400℃で3時間加熱した(二次焼成工程)。冷却後、得られた焼成物を取り出して、乳鉢で軽く粉砕した。得られた粉砕物をナイロンメッシュ(エヌビーシー社製 HD250、目開き60μm)に通し、蛍光体を得た。
【0187】
(実施例4〜6、及び比較例2)
二次焼成工程の焼成温度を1500℃とした以外は、前記の(実施例1〜3、及び比較例1)と同様にして、蛍光体を得た。
【0188】
(比較例3)
MgO、MgF2、GeO2、MnCO3の各原料を3.5:0.5:1:0.01(モル比)となるように秤量し、充分に混合した。得られた原料混合物を空気中1200℃で2時間焼成した。得られた粉末を粉砕して3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+蛍光体を得た。
【0189】
【表2】

【0190】
[蛍光体の評価]
得られた蛍光体それぞれについて、前述の方法により、発光スペクトルの測定、及び粉末X線回折測定を行なった。
図4(a)に、実施例1〜3及び比較例1で得られた蛍光体(即ち、二次焼成工程の焼成温度を1400℃とした蛍光体)の発光スペクトルを示す。比較例1のようにMnを含有しない蛍光体は波長508nm付近に発光ピークを有し、深赤色発光領域(波長670nm以上750nm以下の範囲)の発光は非常に弱くなっている。一方、実施例1〜3のようにMnを含有する本発明の蛍光体は、Mn量が増加するに連れて、波長508nm付近にある発光ピークのピーク強度は低下していくが、深赤色発光領域に発光ピークが現れ、そのピーク強度が増大していく。特に、実施例3のようにMnの含有量が多い場合は、波長508nm付近での発光は非常に弱く、深赤色に発光することが分かる。
【0191】
図4(b)に、実施例4〜6及び比較例2で得られた蛍光体(即ち、二次焼成工程の焼成温度を1400℃とした蛍光体)の発光スペクトルを示す。比較例2のようにMnを含有しない蛍光体は波長508nm付近に発光ピークを有し、深赤色発光領域(波長670nm以上750nm以下の範囲)の発光は非常に弱くなっている。一方、実施例4〜6のようにMnを含有する本発明の蛍光体は、Mn量が増加するに連れて、波長508nm付近にある発光ピークのピーク強度は低下していくが、深赤色発光領域に発光ピークが現れ、そのピーク強度が増大していく。特に、実施例6のようにMnの含有量が多い場合は、波長508nm付近での発光は非常に弱く、深赤色に発光することが分かる。
【0192】
以上のように、本発明の蛍光体は式[1]のM1に当たるMnの含有量を調整することにより、発光ピーク波長を調整することができ、緑色、黄色、赤色、深赤色等に発光する蛍光体を提供することが可能である。
【0193】
また、実施例1〜3及び比較例1で得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果を図5(a)、実施例4〜6及び比較例2で得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果を図5(b)に、それぞれ示す。図5(a)及び図5(b)により、いずれの蛍光体もガーネット構造の結晶であることがわかった。
【0194】
また、比較例3で得られた蛍光体の発光スペクトルを図6に示す。図6により、比較例3の蛍光体は、波長455nmで励起可能であっても670nm以上750nm以下の波長範囲に発光ピークを有していないことがわかる。
また、図6の発光スペクトルは、その形状が図4(a),(b)の発光スペクトルとは異なることがわかる。図6の発光スペクトルは、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn4+蛍光体のものであり、Mn4+の発光とされる。したがって、前記の実施例に代表されるような本発明の蛍光体の発光は、Mn2+の発光と考えられる。ここで、Ceは増感剤の働きをしていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の蛍光体の用途は特に制限されず、通常の蛍光体が用いられる各種の分野に使用可能であるが、青色光又は近紫外光に対する変換効率及び色純度に優れているという特性を生かして、近紫外LEDや青色LED等の光源で励起される一般照明用発光体、とりわけ高輝度で色再現範囲の広いバックライト用白色発光体を実現する目的に適している。
また、上述のような特性を有する本発明の蛍光体を用いた本発明の発光装置は、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、中でも画像表示装置や照明装置の光源としてとりわけ好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光装置を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の発光装置の他の実施の形態を示す模式的な斜視図である。
【図3】本発明の発光装置を用いた面発光照明装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例の結果を示す図であって、(a)は実施例1〜3及び比較例1で得られた蛍光体の発光スペクトルを示し、(b)は実施例4〜6及び比較例2で得られた蛍光体の発光スペクトルを示す。
【図5】本発明の実施例及び比較例の結果を示す図であって、(a)は実施例1〜3及び比較例1で得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果を示し、(b)は実施例4〜6及び比較例2で得られた蛍光体の粉末X線回折測定の結果を示す。
【図6】比較例3で得られた蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0197】
1 発光装置
2 フレーム
2A フレームの凹部
3 青色LED(第1の発光体)
4 蛍光体含有部(第2の発光体)
5 銀ペースト
6 ワイヤ
7 モールド部
8 発光装置
9 基板
10 面発光型GaN系LD(第1の発光体)
11 第2の発光体
12 面発光照明装置
13 保持ケース
14 拡散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
380nm以上500nm以下の波長範囲の光により励起される蛍光体であって、
670nm以上750nm以下の波長範囲に発光ピークを有する
ことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
発光中心イオンを2種類以上含有する
ことを特徴とする、請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
ガーネット結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
下記式[1]で表わされる化学組成を有する
ことを特徴とする蛍光体。
1a2bc3d43e [1]
(前記式[1]において、
1は、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、及びPbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、
2は、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd及びBaからなる群より選ばれる金属元素を1種以上含む、前記M1として挙げられた金属元素以外の1種以上の2価の金属元素を表わし、
Xは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びSbからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を表わし、
3は、1種以上の3価の金属元素を表わし、
4は、1種以上の4価の金属元素を表わし、
a、b、c、d、及びeは、各々、
0<a≦1.5、
1.5≦b≦3.3、
0<c≦0.5、
1.5≦d≦2.2、及び、
11≦e≦13
を満たす正の数を表わす。)
【請求項5】
前記M1がMnであるとともに、前記XがCeである
ことを特徴とする請求項4記載の蛍光体。
【請求項6】
前記式[1]において、aの値が0.3≦a≦1.5を満たす
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛍光体と、液状媒体とを含有する
ことを特徴とする蛍光体含有組成物。
【請求項8】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蛍光体を含有する
ことを特徴とする、発光装置。
【請求項9】
請求項8記載の発光装置を光源として備える
ことを特徴とする、画像表示装置。
【請求項10】
請求項8記載の発光装置を光源として備える
ことを特徴とする、照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−174621(P2008−174621A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8352(P2007−8352)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】