説明

蛍光体パネル及びステレオ撮影装置並びにステレオ撮影方法

【課題】ステレオ撮影において、少なくとも1つの撮影方向で撮影された放射線画像の解像度の低下を防止できるようにする。
【解決手段】支持基板1aと支持基板1a上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層1bとを備えてなるステレオ撮影用の蛍光体パネル1であって、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に柱状結晶の成長方向を合わせた蛍光体パネル1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状結晶からなる蛍光体層を備えてなる蛍光体パネルに関し、特にステレオ撮影用の蛍光体パネル、該蛍光体パネルを備えたステレオ撮影装置及び前記蛍光体パネルを使用するステレオ撮影方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線写真法に代る方法として、蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を用いる放射線像変換方法が知られている。この方法は、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体パネル(放射線像変換パネルとも称する)を利用するもので、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、蛍光体パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得、得られた電気信号に基づいて被写体あるいは被検体の放射線画像を可視像として再生するものである。
【0003】
また蛍光体パネルの感度および画質を高めることを目的として、蛍光体層を気相堆積法により形成する蛍光体パネルの製造方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を与えることができる。
【0004】
一方、X線撮影等の直接医療用放射線撮影においては、近年、被検体に対して互いに異なる方向から放射線を照射し、その被検体を透過した放射線を放射線画像検出器によりそれぞれ検出して互いに視差のある複数の放射線画像を取得するステレオ撮影が知られており、これらの放射線画像に基づいて立体視画像を生成することによって観察者は奥行感のある放射線画像を観察することができ、より診断に適した放射線画像を観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−236704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、蛍光体パネルは該蛍光パネルの基板表面に柱状結晶が垂直方向に延びるように形成されている。このような蛍光体パネルを組み込んだ放射線画像検出器においては、放射線を蛍光体パネルに対して垂直に入射させたときと、斜めに入射させたときとでは、斜めに入射させたときの方がエネルギーが落ちるので、S/Nが小さくなり解像度が低下してしまうという問題がある。特に上述したステレオ撮影においては、例えばステレオ撮影のための輻輳角θがθ=±2°のときには、θ=+2°での撮影とθ=−2°での撮影の両方において、放射線が蛍光体パネルに斜めに入射することになるので、取得した左目用放射線画像と右目用放射線画像の両方の解像度が低下してしまう。
【0007】
特許文献1には、放射線照射角度に起因し、放射線検出パネルの中心部より周辺部の解像度の低下の問題を改善するために、放射線発生源に向けて傾きを有するように柱状結晶を形成した蛍光体パネルが開示されているが、特許文献1には、ステレオ撮影に関する記載はなく、特許文献1の蛍光体パネルをステレオ撮影に使用した場合には、例えばステレオ撮影のための輻輳角θがθ=±2°のときには画像の中心及び、左側画像又は右側画像の解像度が低下してしまう。また高画質の撮影を行うためには、左右の放射線量を共に多くする必要があり、被験者の被曝量が多くなってしまう問題がある。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、ステレオ撮影において少なくとも1つの撮影方向で撮影された放射線画像の解像度の低下を防止することができる蛍光体パネル、ステレオ撮影装置及びステレオ撮影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蛍光体パネルは、支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備えてなるステレオ撮影用の蛍光体パネルであって、
前記ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明のステレオ撮影装置は、支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備え、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたステレオ撮影用の蛍光体パネルと、
前記柱状結晶の成長方向を合わせた一の撮影方向の放射線照射量を他の撮影方向の放射線照射量よりも多くして被写体に放射線を照射するステレオ撮影用の放射線源とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のステレオ撮影方法は、支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備え、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の放射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたステレオ撮影用の蛍光体パネルを使用するステレオ撮影方法であって、
前記柱状結晶の成長方向を合わせた一の撮影方向の放射線照射量を他の撮影方向の放射線照射量よりも多くすることを特徴とする。
【0012】
なお本発明において「成長方向を合わせる」は、柱状結晶の成長方向と放射線の照射方向(撮影方向)が−10°〜+10°の範囲で一致していることをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光体パネルによれば、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に柱状結晶の成長方向を合わせたので、ステレオ撮影において取得される複数の放射線画像のうち上記一の撮影方向で撮影して取得した1枚の放射線画像の解像度の低下を防止することができる。
【0014】
また本発明のステレオ撮影装置及びステレオ撮影方法によれば、ステレオ撮影において、柱状結晶の成長方向を合わせた一の撮影方向の放射線照射量を他の撮影方向の放射線照射量よりも多くして被写体に放射線を照射するようにしたので、解像度の低下を防止することができる上記一の撮影方向での撮影のみ放射線照射量を多くするので、上記一の撮影方向での撮影により取得する画像のみ、より高感度で撮影することができるとともに不要な放射線照射量の増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかる蛍光体パネルの概略構成図
【図2】本発明のステレオ撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの概略構成図
【図3】図2に示す乳房画像撮影表示システムのアーム部を図2の右方向から見た図
【図4】図2に示す乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図
【図5】図1の蛍光体パネルを使用したステレオ撮影方法を説明する図
【図6】本発明の一実施形態にかかる乳房画像撮影表示システムの一連の処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の蛍光体パネル1について説明する。図1は、本実施形態の蛍光体パネル1の概略構成図である。
【0017】
本実施形態の蛍光体パネル1は、被検体に対して複数の異なる方向から放射線を照射し、その被検体を透過した放射線を放射線画像検出器によりそれぞれ検出して互いに視差のある複数の放射線画像を取得するステレオ撮影用の蛍光体パネルであり、支持基板1aと、該支持基板1a上に形成された蛍光体層1bとを少なくとも備えている。
【0018】
なお本実施形態では蛍光体層1bを輝尽性蛍光体層とし、気相堆積法の一種である真空蒸着等の物理蒸着法により形成する場合を例にとって詳細に述べる。蒸着によって作製される蛍光体層1bは、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、バインダなどの蓄積性蛍光体以外の成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。
【0019】
蛍光体層1b形成のための支持基板1aは、通常は蛍光体パネル1の支持体を兼ねるものであり、従来の蛍光体パネル1の支持体として公知の材料から任意に選ぶことができるが、特に好ましい支持基板1aは、カーボン板、CFRP(carbon fiber reinforced plastic)、ガラス板、石英基板、サファイア基板、鉄、スズ、クロム、アルミニウムなどから選択される金属シートなどから適宜選ぶことができ、表面に蛍光体層1bを構成する結晶領域を形成させうる限りにおいて特にこれらに限定されない。
【0020】
公知の蛍光体パネル1においてはパネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られているが、本発明で用いられる支持基板1aについても、これらの各種の層を設けることができ、それらの構成は所望の蛍光体パネル1の目的、用途に応じて任意に選択することができる。さらに、気相堆積膜の柱状結晶性を高める目的で、支持基板1aの蛍光体層1bが形成される側の表面(基板の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0021】
本実施形態に用いられる蛍光体層1bは、柱状結晶で構成されており、CsI:Tl、GOS(GdS:Tb)、NaI:Tl(タリウム賦活ヨウ化ナトリウム)、CsI:Na(ナトリウム賦活ヨウ化セシウム)からなる結晶を用いることができるが、蛍光体層1bは、これらの材料からなるものに限られるものではない。なお、これらのなかでも、発光スペクトルがa−Siフォトダイオードの分光感度の極大値(550nm付近)と適合する点、及び、湿度による経時的な劣化が生じがたいという点で、CsI:Tlを用いてなるものが好ましい。なお本実施形態の蛍光体層1bはCsI:Tlからなる結晶を用いるものとする。
【0022】
ここで、柱状結晶構造とは、蒸着した多数の輝尽性蛍光体の粒が互いに蒸発流方向(高さ方向)に融着して連続した形状をとるものを一本の柱とみなし、このような柱多数から構成されていることを意味する。柱状結晶構造からなる領域つまり蛍光体層1bにおいては、柱状結晶は、結晶の成長方向に対しほぼ均一な断面径を示し、且つ、柱状部分が周辺部に間隙を有しており、互いに独立して存在する。この領域が発光効率の高い領域となるとともに柱状結晶の間隙が光の拡散を抑制する光ガイドとなる。
【0023】
蒸着膜は、柱状結晶性が良好であることが望ましく、特に柱状結晶の各柱は、その結晶径が2μm以上15μm以下であることが、効率的な光誘導性を与える観点から好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0024】
なお、本発明における結晶径とは、柱状結晶の成長方向上面から観察した結晶の最大径を示す。具体的な測定方法としては、柱状結晶の膜厚方向に対して垂直な面からSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することで柱径(結晶径)を測定する。1回の撮影でシンチレータを表面から見た時に柱状結晶が100本から200本観察できる倍率(約2000倍程度)で観察し、1撮影に含まれる結晶全てに対し、柱状結晶の柱径の最大値を測定して平均した値を採用している。柱径(μm)は小数点以下2桁まで読み、平均値をJIS Z 8401に従い小数点以下2桁目を丸めた値とした。
【0025】
そして本発明において特徴的なのは、蛍光体層1bを構成する柱状結晶が、支持基板1a上に斜めに成長させたものであり、その成長方向をステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に合わせたことである。蛍光体パネル1が、輻輳角θがθ=±2°でのステレオ撮影のためのものである場合、θ=+2°の撮影方向の放射線の照射方向に合わせて、柱状結晶の成長方向が、図1に示すように支持基板1a上面からの垂線に対して+2°の角度を成すように蛍光体層1bが形成されている。
【0026】
なお本実施形態の蛍光体パネル1は、θ=+2°の撮影方向の放射線の照射方向に合わせて柱状結晶を成長させたものとするが、本発明はこれに限られるものではなく、θ=−2°の撮影方向の放射線の照射方向に合わせて柱状結晶を成長させたものであってもよい。また蛍光体パネル1が、輻輳角θがθ=0°,+4°でのステレオ撮影のためのものである場合、蛍光体パネル1はθ=+4°の撮影方向の放射線の照射方向に合わせて柱状結晶を成長させたものとする。
【0027】
上記のような蛍光体層1bを多元蒸着(共蒸着)により形成する場合には、蒸発源として、上記輝尽性蛍光体の母体(蛍光体がCsI:Tlの場合にはCsI)成分を含むものと付活剤(蛍光体がCsI:Tlの場合にはTl)成分を含むものとからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤成分の蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸着速度を各々制御することができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする輝尽性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0028】
蛍光体の母体成分は、蛍光体がCsI:Tlの場合にはCsIそれ自体であってもよいし、または反応してCsIとなりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般にはTlを含む化合物であり、例えばTlのハロゲン化物が用いられる。
【0029】
蒸発源は、突沸防止などの点からその含水量が0.5質量%以下であることが好ましい。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理したり、あるいは窒素雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、蛍光体成分の融点以上の温度で数十分〜数時間加熱することにより行うことができる。
【0030】
蒸発源の相対密度は、80%以上98%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以上96%以下である。蒸発源が相対密度の低い粉体状態であると、蒸着の際に粉体が飛散するなどの不都合が生じたり、蒸発源の表面から均一に蒸発しないで蒸着膜の膜厚が不均一となったりする。よって、安定した蒸着を実現するためには蒸発源の密度がある程度高いことが望ましい。上記相対密度とするには一般に、粉体を20MPa以上の圧力で加圧成形したり、あるいは融点以上の温度で加熱溶融して、タブレット(錠剤)の形状にする。ただし、蒸発源は必ずしもタブレットの形状である必要はない。
【0031】
また、蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外のアルカリ土類金属)の含有量が1ppm以下であることが望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。これによって、不純物の混入が少ない蒸着膜を形成することができるとともに、そのような蒸着膜は発光量が増加する。
【0032】
上記のような蛍光体層1bを多元蒸着(共蒸着)により形成するためには、上記の蒸発源および支持基板1aを蒸着装置内に設置する。このとき蒸発源からの蒸発流方向が支持基板1aの蛍光体層1bが形成される側の表面からの垂線に対してθ=2°の角度を成すように蒸発源と支持基板1aとを配置して、蛍光体層1bを斜め蒸着法により形成する。
【0033】
装置内を排気して0.1〜10Pa、より好ましくは0.5〜3Pa程度の真空度とすることが望ましい。このとき、真空度をこの程度に保持しながら、Arガス、Neガス、N2ガスなどの不活性ガスを導入してもよい。ただし、装置内の雰囲気中の酸素分圧を、1×10-6〜1×10-2Paの範囲とする。また、装置内の雰囲気中の水分圧を、ディフュージョンポンプとコールドトラップとの組合せなどを用いることによって、7.0×10-3Pa以下にすることが好ましい。
【0034】
良好な柱状結晶性を得るためには、基板を裏面からヒータなどを用いて50℃〜300℃の温度に加熱することが好ましく、特には100℃〜290℃の温度に加熱することが好ましい。
【0035】
次に、抵抗加熱容器を抵抗加熱用の電源を通電して発熱させ、蒸発源をそれぞれ抵抗加熱によって加熱/蒸発させ、基板の表面にCsI:Tl輝尽性蛍光体を堆積させる。なお、上記輝尽性蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体の母体(CsI)のみからなる蒸着膜を形成してもよい。この場合にも熱伝導性シートを介して加熱プレートを接触させ、前記基板を加熱することが好ましい。これによって、より一層柱状結晶性の良好な蒸着膜を得ることができる。なお、蛍光体からなる蒸着膜中の付活剤など添加物は、特に蒸着時の加熱および/または蒸着後の熱処理によって、蛍光体母体からなる蒸着膜中に拡散するために、両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0036】
このようにして、CsI:Tlの輝尽性蛍光体の柱状結晶がステレオ撮影におけるθ=+2°の撮影方向の放射線の照射方向に成長した蛍光体層1bが得られる。このように構成された蛍光体パネル1によれば、ステレオ撮影におけるθ=+2°の撮影方向の放射線の照射方向に柱状結晶の成長方向を合わせたので、θ=+2°の撮影方向で撮影して取得した1枚の放射線画像の解像度の低下を防止することができる。
【0037】
なお、本発明において、気相堆積法は上記の電子線蒸着法に限られるものではなく、抵抗加熱法、スパッタ法、化学蒸着(CVD)法など公知の他の方法を利用することもできる。これら他の蒸着法および気相堆積法の詳細は、各種公報を含む公知の各種の文献に記載されており、それらを参照することができる。
【0038】
蛍光体層1bの表面には、蛍光体パネル1の搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、図示しない保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から蛍光体パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0039】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0040】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm〜20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0041】
上述のようにして本発明の蛍光体パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、得られる画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し輝尽発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【0042】
次に上記蛍光体パネル1を備えてなる本発明のステレオ撮影装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムについて説明する。図2は本実施形態の乳房画像撮影表示システム全体の概略構成を示す図、図3は図2の右方向から見たアーム部13を示す図、図4は図2に示す乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図、図5は図1の蛍光体パネルを使用したステレオ撮影方法を説明する図である。
【0043】
本実施形態の乳房画像撮影表示システムは、図1に示すように、乳房画像撮影装置10と、乳房画像撮影装置10に接続されたコンピュータ2と、コンピュータ2に接続されたモニタ3および入力部4とを備えている。
【0044】
そして、乳房画像撮影装置10は、図2に示すように、基台11と、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12と、回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。
【0045】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、その一端には撮影台14が、その他端には撮影台14と対向するように放射線照射部16が取り付けられている。アーム部13の回転および上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ51により制御される。
【0046】
撮影台14の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線画像検出器15と、放射線画像検出器15からの電荷信号の読み出しなどを制御する検出器コントローラ53が備えられている。放射線画像検出器15は、上述した蛍光体パネル1と、蛍光体パネル1からの可視光を吸収して電荷を生成および輸送する光導電層と、該光導電層に生成した電荷を取り出す電極部とを備えている。
【0047】
なお放射線画像検出器15は、蛍光体パネル1の支持基板1aの表面からの垂線が、図3に示すアーム部13が0°に位置するときの後述する放射線源17の中心を通るようにして設置されている。
【0048】
また、撮影台14の内部には、放射線画像検出器15から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。
【0049】
また、撮影台14はアーム部13に対し回転可能に構成されており、基台11に対してアーム部13が回転したときでも、撮影台14の向きは基台11に対し固定された向きとすることができる。
【0050】
放射線照射部16の中には放射線源17と、放射線源コントローラ32が収納されている。放射線源コントローラ32は、放射線源17から放射線を照射するタイミングと、放射線源17における放射線発生条件(管電流、時間、管電圧等)を制御するものである。本実施形態の乳房画像撮影装置10においては、放射線源コントローラ32は、後述する輻輳角θが+2°での撮影の方が、輻輳角θが−2°での撮影よりも被写体に照射する放射線照射量が多くなるように放射線発生条件を制御している。
【0051】
また、アーム部13の中央部には、撮影台14の上方に配置されて乳房を押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する支持部20と、支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ34により制御される。
【0052】
コンピュータ2は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスなどを備えており、これらのハードウェアによって、図4に示すような制御部8a、放射線画像記憶部8b、画像処理部8cおよび表示制御部8dが構成されている。
【0053】
なお図5は図2に示す乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図であり、図6は図2に示す乳房画像撮影表示システムの作用を説明するためのフローチャートである。
制御部8aは、各種のコントローラ31〜35に対して所定の制御信号を出力し、システム全体の制御を行うものである。具体的な制御方法については後で詳述する。
【0054】
放射線画像記憶部8bは、互いに異なる2つの撮影方向からの撮影によって放射線画像検出器15によって検出された2枚の放射線画像信号を予め記憶するものである。
【0055】
画像処理部8cは、放射線画像記憶部8bから読み出された2枚の放射線画像信号に対して、拡大や縮小、トリミング等の画像処理、周波数処理、諧調処理、及び画像中の石灰化や腫瘤などの可能性のある領域である異常陰影候補を検出するための異常陰影候補検出処理等の画像処理を行うものである。
【0056】
なお異常陰影候補検出処理方法については、異常陰影の濃度分布の特徴や形態的な特徴に基づいて検出するようにすればく、具体的には、主として腫瘤陰影を検出するのに適したアイリスフィルタ処理や、主として微小石灰化陰影を検出するのに適したモフォロジーフィルタ処理等を利用して異常陰影候補を検出するようにすればよい。
【0057】
表示制御部8dは、放射線画像記憶部8bから読み出された2枚の放射線画像信号に対して所定の処理を施した後、モニタ3に乳房Mの通常撮影のステレオ画像を表示させるものである。
【0058】
モニタ3は、放射線画像記憶部8bから読み出された2枚の放射線画像信号に基づく放射線画像で構成されたステレオ画像を表示する。なおモニタ3に表示される上記ステレオ画像は、モニタ3に表示された視差のある複数の放射線画像を観察者が自分の頭の中で構築することにより立体的にみることができる画像のことをいう。
【0059】
ステレオ画像を表示する構成としては、たとえば、2つの画面を用いて2つの放射線画像信号に基づく放射線画像をそれぞれ表示させて、これらをハーフミラーや偏光グラスなどを用いることで一方の放射線画像は観察者の右目に入射させ、他方の放射線画像は観察者の左目に入射させることによってステレオ画像を表示する構成を採用することができる。または、たとえば、2つの放射線画像を所定の視差量だけずらして重ね合わせて表示し、これを偏光グラスで観察することでステレオ画像を生成する構成としてもよいし、もしくはパララックスバリア方式およびレンチキュラー方式のように、2つの放射線画像を立体視可能な3D液晶に表示することによってステレオ画像を生成する構成としてもよい。
【0060】
入力部4は、観察者による撮影条件や観察条件などの入力や操作指示の入力などを受け付けるものであり、たとえば、キーボードやマウスなどの入力デバイスによって構成されるものである。
次に、本実施形態の乳房画像撮影表示システムの作用について説明する、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0061】
図6に示すように、まず、撮影台14の上に患者の乳房Mが設置され、圧迫板18により乳房Mが所定の圧力によって圧迫される(S10)。
【0062】
次に、入力部4おいて、撮影者によって種々の撮影条件が入力され、撮影条件が設定された後(S11)、撮影開始の指示が入力される(S12)。そして、入力部4において撮影開始の指示があると、乳房Mのステレオ画像を構成する2枚の放射線画像のうちの1枚目の放射線画像の撮影が行われる(S13)。
【0063】
具体的には、まず、制御部8aが、予め設定されたステレオ画像の撮影のための輻輳角θを読み出し、その読み出した輻輳角θの情報をアームコントローラ51に出力する。なお、本実施形態においては、このときの輻輳角θの情報としてθ=±2°が予め記憶されているものとするが、これに限らず、撮影者によって入力部4において任意の輻輳角を設定可能である。なお輻輳角θがθ=±2°以外に設定された場合には、放射線画像検出器15内部の蛍光体パネルを設定された輻輳角θに対応する蛍光体パネルを使用するものとする。
【0064】
そして、アームコントローラ51において、制御部8aから出力された輻輳角θの情報が受け付けられ、アームコントローラ51は、この輻輳角θの情報に基づいて、図3に示すように、アーム部13が撮影台14に垂直な方向に対して+θ°回転するよう制御信号を出力する。すなわち、本実施形態においては、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して+2°回転するよう制御信号を出力する。
【0065】
そして、このアームコントローラ51から出力された制御信号に応じてアーム部13が、+2°だけ回転した状態において、制御部8aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ53に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源17から放射線が射出され、乳房を+2°方向から撮影した放射線画像が放射線画像検出器15によって検出され、検出器コントローラ53によって放射線画像信号が読み出され、その放射線画像信号に対して所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部8bに記憶される。
【0066】
なお本実施形態においては、輻輳角θが+2°のときの放射線源17からの放射線照射方向が蛍光体パネル1の柱状結晶の成長方向と合うように構成され、輻輳角θが+2°の撮影のときの放射線照射量を、輻輳角θが−2°の撮影(後述する)のときの放射線照射量よりも多くして被写体に放射線を照射するようにしたので、放射線の照射方向と柱状結晶の成長方向が一致することにより解像度の低下を防止された撮影のみ放射線照射量が多くなるので、輻輳角θが+2°の撮影により取得する画像のみ、より高感度で撮影することができる。
【0067】
次に、乳房Mのステレオ画像を構成する2枚の放射線画像のうちの2枚目の放射線画像の撮影が行われる(S14)。具体的には、アームコントローラ51が、図3に示すように、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して−θ°回転するよう制御信号を出力する。すなわち、本実施形態においては、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して−2°回転するよう制御信号を出力する。
【0068】
そして、このアームコントローラ51から出力された制御信号に応じてアーム部13が−2°だけ回転した状態において、制御部8aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ53に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源17から放射線が射出され、乳房を−2°方向から撮影した放射線画像が放射線画像検出器15によって検出され、検出器コントローラ53によって放射線画像信号が読み出され、所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部8bに記憶される。
【0069】
なお本実施形態においては、輻輳角θが−2°の撮影のときの放射線照射量は、輻輳角θが+2°の撮影のときの放射線照射量よりも少なくして被写体に放射線を照射するようにしたので、不要な放射線照射量の増加を防止することができる。
【0070】
次に、上述したようにして放射線画像記憶部8bに記憶された2枚の放射線画像信号は表示制御部8dによって読み出され、画像処理部8cが2枚の放射線画像信号に対して所定の処理を施した後、モニタ3に出力して、乳房Mの通常撮影のステレオ画像をモニタ3に表示させる(S15)。以上のようにして本実施形態の乳房画像撮影表示システムによる画像表示処理を行う。
【0071】
以上のように本実施形態のステレオ撮影装置10及びステレオ撮影方法によれば、ステレオ撮影において、柱状結晶の成長方向を合わせた輻輳角θが+2°の撮影方向の放射線照射量を輻輳角θが−2°の撮影方向の放射線照射量よりも多くして被写体に放射線を照射するようにしたので、輻輳角θが+2°の撮影すなわち放射線の照射方向と柱状結晶の成長方向が合うように構成されたことにより解像度の低下を防止することができる撮影のみ放射線照射量を多くするので、輻輳角θが+2°の撮影により取得する画像のみ、より高感度で撮影することができるとともに不要な放射線照射量の増加を防止することができる。
【0072】
なお本実施形態のステレオ撮影装置10及びステレオ撮影方法においては、輻輳角をθ=±2°としたが、本発明はこれに限られるものではなく、輻輳角は、設置される放射線画像検出器15の蛍光体パネル10の柱状結晶の角度によって設定する。
なお上述した実施形態は、本発明の立体視画像表示装置の一実施形態を乳房画像撮影表示システムに適用したものであるが、本発明の被写体としては乳房に限らず、たとえば、胸部や頭部などを撮影する放射線画像撮影表示システムにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 蛍光体パネル
1a 支持基板
1b 蛍光体層
10 乳房画像撮影表示システム
2 コンピュータ
3 モニタ
3a 表示面
4 入力部
8a 制御部
8b 放射線画像記憶部
8c 画像処理部
8d 表示制御部
10 乳房画像撮影装置
13 アーム部
14 撮影台
15 放射線画像検出器
16 放射線照射部
17 放射線源
18 圧迫板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備えてなるステレオ撮影用の蛍光体パネルであって、
前記ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたことを特徴とする蛍光体パネル。
【請求項2】
支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備え、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の照射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたステレオ撮影用の蛍光体パネルと、
前記柱状結晶の成長方向を合わせた一の撮影方向の放射線照射量を他の撮影方向の放射線照射量よりも多くして被写体に放射線を照射するステレオ撮影用の放射線源とを備えていることを特徴とするステレオ撮影装置。
【請求項3】
支持基板と該支持基板上に斜めに成長させた柱状結晶からなる蛍光体層とを備え、ステレオ撮影における複数の撮影方向のうち一の撮影方向の放射線の放射方向に前記柱状結晶の成長方向を合わせたステレオ撮影用の蛍光体パネルを使用するステレオ撮影方法であって、
前記柱状結晶の成長方向を合わせた一の撮影方向の放射線照射量を他の撮影方向の放射線照射量よりも多くすることを特徴とするステレオ撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72841(P2013−72841A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214201(P2011−214201)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】