説明

蛍光体ペーストおよびそれを用いたプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法

【課題】PDPを発光させたときの輝度低下、発光方向および発光量の偏りを防止し、高品質なPDPが得られる蛍光体ペーストの提供。
【解決手段】少なくとも脂肪酸アミド化合物、蛍光体粉末および下記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド誘導体からなることを特徴とする蛍光体ペースト。 RO−(RO)−R (1) (式中、Rは、炭素数2以上のアルキレン基である。R、Rは、水素原子、アルキル基、グリセリル基、アリル基、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基から選ばれたものであり、同じであっても異なってもよい。nは、3〜12の範囲の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)の蛍光体層の形成に好適な蛍光体ペーストおよび該蛍光体ペーストを用いたPDP用背面板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPは液晶パネルに比べて高速の表示が可能であり、かつ大画面化が容易であることから、OA機器および公報表示装置などの分野に普及している。また、高品位テレビジョンの分野などへの進展が進んでいる。
【0003】
PDPは、前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で電極間にプラズマ放電を生じさせ、上記放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線を放電空間内の蛍光体層に当てることにより表示を行うものである。
【0004】
この蛍光体層の形成方法としては、蛍光体粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤から構成される蛍光体ペーストを用いたスクリーン印刷法、インクジェット法や蛍光体ペーストに感光性有機成分が含まれた感光性蛍光体ペーストを用いたフォトフィルム法やフォトペースト法などが知られている。
【0005】
これら蛍光体形成に用いられる蛍光体ペーストや感光性蛍光体ペーストは、PDPとして発光させた時の輝度を十分発揮させるために、焼成後の有機物残留量が少ないことが望まれる。
【0006】
従来、蛍光体ペーストのバインダー樹脂としては、エチルセルロースに代表されるセルロース樹脂が用いられている(例えば、特許文献1)が、セルロース樹脂は、熱分解性が悪く、発光させた時の輝度が低下する問題がある。この熱分解性を改良するためにバインダー樹脂にアクリル樹脂を用いることが提案されている(例えば、特許文献2)が、アクリル樹脂でも熱分解性を満足するとは言い難い。
【0007】
理想的には、熱分解性の不良なバインダー樹脂を用いず、蛍光体粉末と粘度の高い有機溶剤からなる組成物が好ましいが、蛍光体ペースト保管中の沈降による特性悪化の問題や蛍光体層を形成する際の形状不良による発光させた時の発光方向および発光量の偏りが問題となる。
【0008】
一方、この形状不良を改良するために蛍光体ペーストにバインダー樹脂と共にチキソトロピー性付与剤を添加することが提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、バインダー樹脂と共にチキソトロピー付与剤を用いると形状不良が改良されても熱分解性が不良で、発光させた時の輝度が低下する問題がある。
【特許文献1】特開平7−201281号公報
【特許文献2】特開2001−329256号公報
【特許文献3】特開2000−144124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、PDPを発光させたときの輝度低下、発光方向および発光量の偏りを防止できるプラズマディスプレイ部材の蛍光体層形成用ペーストおよび該ペースト用いた高品質なPDP背面板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも脂肪酸アミド化合物、蛍光体粉末および下記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド誘導体からなることを特徴とする蛍光体ペーストに関する。
【0011】
O−(RO)−R (1)
(式中、Rは、炭素数2以上のアルキレン基である。R、Rは、水素原子、アルキル基、グリセリル基、アリル基、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基から選ばれたものであり、同じであっても異なってもよい。nは、3〜12の範囲の整数である。)
また、本発明は前記蛍光体ペーストを少なくとも電極および隔壁が形成された基板上に塗布して乾燥する工程を含むプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法であって、前記蛍光体ペーストを用いることを特徴とするディスプレイパネル用部材の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光体ペーストを用いることにより、PDPを発光させたときの輝度低下、発光方向および発光量の偏りを防止し、高品質なPDPを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、少なくとも脂肪酸アミド化合物、蛍光体粉末および特定の構造を有するアルキレンオキサイド誘導体からなる蛍光体ペーストに関する。
【0014】
本発明における脂肪酸アミド化合物としては、分子内に脂肪族アミノ基を有する化合物と脂肪族基を有する脂肪酸化合物から得られるものであれば、特に限定されるものではないが、蛍光体ペーストの塗布性制御、貯蔵安定性の点から、炭素数2〜6の脂肪族基を有する脂肪族プライマリージアミンと、該ジアミンに対し当量の水素添加ひまし油脂肪酸および/または炭素数2〜10の脂肪族基を有する脂肪族ジカルボン酸から得られる脂肪酸アミド化合物であることが好ましい。
【0015】
脂肪酸アミド化合物を構成する炭素数2〜6の脂肪族基を有する脂肪族プライマリージアミンとしては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0016】
脂肪族基を有する脂肪酸化合物としては、水素添加ひまし油脂肪酸及び炭素数2〜10の脂肪族基を有する脂肪族ジカルボン酸を好ましく用いることができる。かかる炭素数2〜10の脂肪族基を有する脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、グルタール酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を用いることができる。より好ましくは、水素添加ひまし油脂肪酸単独、もしくは、水素添加ひまし油脂肪酸と炭素数2〜10の脂肪族基を有する脂肪族ジカルボン酸を併用して用いることができる。
【0017】
脂肪酸アミド化合物の反応は、例えば、脂肪酸化合物と脂肪族ジアミン化合物を150〜200℃の反応温度にて脱水反応をせしめ、反応の終点を酸価で管理する。その好ましい酸価は、15mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下である。酸価を15mgKOH/g以下とすることで、蛍光体ペーストの貯蔵を安定化することができる。酸価は、脂肪酸アミド化合物試料1g中の遊離酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表す。具体的には、試料を0.5〜5gを秤量(Sg)した後、中性溶剤(キシレン/イソプロピルアルコールの8/2(体積比)混合溶剤をフェノールフタレイン指示薬を用い、0.1mol/dmエタノール性水酸化カリウム溶液で中和したもの)50mlを加え、溶解させたものに、0.1mol/dmエタノール性水酸化カリウム溶液(力価f)で滴定する。終点(指示薬の微紅色が10秒続いた状態)をAとすると、酸価は(5.61×A×f)/Sで求める。
【0018】
得られた脂肪酸アミド化合物は、蛍光体ペースト作製時に添加して用いることができるが、蛍光体ペースト作製時の分散工程の分散熱のばらつきにより蛍光体ペーストの粘度が変化する場合があるため、予め有機溶剤で膨潤させた状態で用いることが、蛍光体ペースト作製工程の簡略化、蛍光体ペーストの品質安定化の点で好ましい。
【0019】
予め有機溶剤で膨潤させる方法としては、脂肪酸アミド化合物を有機溶剤中に分散させた後に30〜90℃の温度範囲で加温することが好ましい。
【0020】
用いる有機溶剤としては、特に限定されることはないが、好ましくは、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のアルコール系有機溶剤、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン等の炭化水素系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸アミル、エトキシプロピオン酸エチル、コハク酸メチル、アジピン酸メチル等のエステル系有機溶剤等を用いることができる。さらに、沸点160〜260℃の範囲内にあるアルコール系の有機溶剤を用いることが、蛍光体ペーストの貯蔵安定性や蛍光体層の形状制御の点からより好ましい。
【0021】
有機溶剤で膨潤させる濃度としては、有機溶剤中に脂肪酸アミドを1〜50質量%の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは、5〜40質量%の範囲内、更に好ましくは10〜30質量%の範囲内である。この範囲内とすることで、蛍光体粉末の分散性を向上することができる。
【0022】
本発明における蛍光体粉末としては、例えば、赤色では、Y:Eu、YVO:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、YS:Eu、γ−Zn(PO:Mn、(ZnCd)S:Ag+Inなどがあげられる。緑色では、ZnGeO:M、BaAl1219:Mn、ZnSiO:Mn、LaPO:Tb、ZnS:Cu,Al、ZnS:Au,Cu,Al、(ZnCd)S:Cu,Al、ZnSiO:Mn,As、YAl12:Ce、CeMgAl1119:Tb、GdS:Tb、YAl12:Tb、ZnO:Znなどがあげられる。青色では、Sr(POCl:Eu、BaMgAl1423:Eu、BaMgAl1627:Eu、BaMgAl1424:Eu、ZnS:Ag+赤色顔料、YSiO:Ceなどがあげられる。
【0023】
また、ツリウム(Tm)、テルビウム(Tb)およびユーロピウム(Eu)からなる群より選ばれた少なくとも1つの元素で、イットリウム(Y)、ガドリウム(Gd)およびルテチウム(Lu)から選ばれた少なくとも1つの母体構成希土類元素を置換したタンタル酸稀土類蛍光体を用いることもできる。好ましくは、タンタル酸稀土類蛍光体が組成式Y1−XEuTaO(式中、Xは、およそ0.005〜0.1である)で表されるユーロピウム付活タンタル酸イットリウム蛍光体である。赤色蛍光体には、ユーロピウム付活タンタル酸イットリウムが好ましく用いられ、緑色蛍光体には、タンタル酸稀土類蛍光体が組成式Y1−XTbTaO(式中、Xは、およそ0.001〜0.2である)で表されるテルビウム付活タンタル酸イットリウムが好ましく用いられる。また、青色蛍光体には、タンタル酸稀土類蛍光体がY1−XTmTaO(式中、Xは、およそ0.001〜0.2である)で表されるツリウム付活タンタル酸イットリウムが好ましく用いられる
本発明の蛍光体ペーストに使用される蛍光体粉末は、比表面積が300〜1500m/kgであることが好ましい。更に好ましくは、400〜1500m2/kgの範囲である。比表面積が、この範囲にあることで、分散性が向上し、塗布性に優れた蛍光体ペーストが得ることができる。また、分散性が向上したことで、緻密な蛍光体層を形成できるため、発光効率が向上でき、高寿命になる。
【0024】
比表面積の測定は、リー・ナンス法、サブシーブサイザー、ブレーン法、恒圧通気式比表面積測定装置等の空気透過法を用いた方法や粉末表面に大きさが既知の分子やイオンを吸着させて、その量から粉末の比表面積を測定する吸着法が一般に用いられるが、本発明では、窒素ガスを吸着させて比表面積を測定するユアサアイオニクス製モノソーブQUATACHOOMEを用いて測定した。本装置では、窒素ガスを吸着させる前に測定する粉末の表面に吸着しているガス成分を加熱して取り除く必要があるが、その加熱条件によって、得られる比表面積の値が変化するため、注意を要する。本発明で用いた値は、200℃で1時間加熱後に測定した値である。
【0025】
本発明におけるアルキレンオキサイド誘導体としては、下記一般式(1)で表されるものであることが必要となる。
【0026】
O−(RO)−R (1)
式中、Rは、炭素数2以上のアルキレン基である。R、Rは、水素原子、アルキル基、グリセリル基、アリル基、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基から選ばれたものであり、同じであっても異なってもよい。nは、3〜12の範囲の整数である。
【0027】
特に、一般式(1)において、Rの炭素数が3以上であること、nが3以上であること、およびR、Rがアルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基およびグリセリル基のいずれかであることで蛍光体層を形成する際の形状を制御できるため、PDPを発光させたときの輝度低下、発光方向および発光量の偏りを防止でき、高品質なPDPを得ることができる。
【0028】
アルキレンオキサイド誘導体の具体例として、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールグリセリルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールブチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリグリセリン、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテルなどが挙げられる。特に、ポリグリセリンまたはその誘導体を好ましく用いることができる。
【0029】
また、用いるアルキレンオキサイド誘導体の分子量によって、蛍光体層の形状が変化する場合がある。好ましいアルキレンオキサイド誘導体の分子量としては、300〜3000の範囲内、より好ましくは、300〜1000の範囲内である。アルキレンオキサイド誘導体の分子量が上記範囲となるように、上記一般式(1)におけるR、R、Rの種類を選択し、nを3〜12の範囲で調整することが好ましい。
【0030】
アルキレンオキサイド誘導体は、無機粉末含有ペースト中に5〜60重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、10〜50重量%の範囲内である。5重量%未満の場合、効果が現れにくい場合があり、60重量%を越えると乾燥に多大なエネルギーと時間を要する等の問題を生じる傾向がある。
【0031】
上記の有機溶剤で膨潤させた脂肪酸アミド、蛍光体粉末、アルキレンオキサイド誘導体の好ましい組成としては、脂肪酸アミド5〜30質量%赤、緑、青いずれか一色に発光する蛍光体粉末30〜70質量%、アルキレンオキサイド誘導体5〜40質量%である。この範囲内の組成にすることによって、隔壁側面と放電空間底部に均一な厚みの蛍光体層を形成できる。
【0032】
本発明の蛍光体ペーストのその他の構成成分としては、粘度調整用の有機溶剤、分散剤、酸化防止剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0033】
本発明で用いられる粘度調整用の有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テルピネオール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ−ブチルラクトン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ジブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモ安息香酸、クロロ安息香酸、などやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。
【0034】
有機溶剤の含有率は、少なすぎると蛍光体ペーストの粘度が高くなりすぎ形成した蛍光体層の気泡を抜くことが困難となり、レベリング不良により塗布面の平滑性が不良となる傾向がある。反対に多すぎる場合には、分散粒子の沈降が速くなり、蛍光体ペーストの組成を安定化することが困難となったり、乾燥に多大なエネルギーと時間を要する等の問題を生じる傾向があるため、溶剤の好ましい含有率はペースト中に20〜70質量%、更に好ましくは、30〜60質量%である。
【0035】
分散剤としては、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸、脂肪酸アルキロールアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどを一例として挙げることができる。また、脂肪酸ナトリウム石けんなどの脂肪酸石けん、アルキルサルフェート、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、エトキシフォスフェートなどは、輝度が低下する可能性があるため、使用する際は、添加量に注意を要する。
【0036】
本発明の蛍光体ペーストは、従来の蛍光体ペーストに用いられているセルロース樹脂やアクリル樹脂等のバインダー樹脂を必要としないため、焼成後の有機残留物が少なく、PDPとして発光させたときの輝度を十分発揮させることができる。
【0037】
また、本発明の蛍光体ペーストは、上述のアミド化合物、蛍光体粉末、上記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド誘導体を含むため、保管中の蛍光体粉末の沈降による特性悪化が起こらず、形状の良好な蛍光体層を形成することができる。
【0038】
さらに、緻密で発光特性の優れた蛍光体層とするため、本発明の蛍光体ペーストは、上述のアミド化合物、蛍光体粉末、上記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド誘導体ならびに有機溶剤、分散剤、酸化防止剤および消泡剤からなる群から選ばれる1以上の成分からなるペーストとすることが好ましい。
【0039】
本発明の蛍光体ペーストは、各種成分を所定の組成となるように調合した後、3本ローラや混練機などの混連・分散手段によって均質に混合・分散し作製する。
【0040】
次に、ディスプレイパネル用部材の製造方法の一例を挙げる。
【0041】
基板上に、書き込み電極として、感光性銀ペーストを用いてフォトリソグラフィー法により、ストライプ状電極を形成し、この基板に誘電体ペーストをスクリーン印刷法により塗布した後、500〜600℃℃で焼成して、誘電体層を形成する。
【0042】
さらに、誘電体層上に感光性ガラスペーストを用いて、フォトリソ法でパターン形成後、500〜600℃℃で10〜60分間焼成し、ストライプ状の隔壁パターンを形成する。
【0043】
このようにして形成された隔壁に、上記蛍光体ペーストを形成する。蛍光体の形成方法は特に限定されないが、例えば、スクリーン印刷法、口金から蛍光体ペーストを吐出する方法、感光性ペースト法などが挙げられるが、この中でも口金から蛍光体ペーストを吐出する方法が簡便で、低コストのPDPを得ることができるため好ましい。
【0044】
蛍光体ペーストを塗布後、焼成して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成しする。この焼成温度は、通常500℃程度で行われるが、本発明の蛍光体ペーストを用いることにより、400〜450℃の焼成が可能となる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中の濃度(%)は質量%である。
【0046】
本発明の実施例および比較例に使用した材料および測定方法を以下に示す。
(1)赤色蛍光体粉末:(Y,Gd,Eu)BO
(2)緑色蛍光体粉末:(Zn,Mn)SiO
(3)青色蛍光体粉末:(Ba,Eu)MgAl1017
(4)アルキレンオキサイド誘導体
A:ポリグリセリン(坂本薬品工業社製#310、分子量約310)
B:ポリグリセリン(坂本薬品工業社製#500、分子量約500)
C:ポリグリセリン(坂本薬品工業社製#750、分子量約750)
D:カプリン酸ポリグリセリル
(青木油脂工業社製“グリサーフ”6MC、分子量約600)
E:グリセリン(坂本薬品工業社製、分子量92)
(5)その他添加物
F:エチルセルロース
(ダウ社製STD−100をターピネオールで溶解し、10%溶液としたもの)
G:酸化ポリエチレン系の増粘剤(楠本化成社製4401−25X)
H:シリカ(日本アエロジル社製“アエロジル”200をジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートで10質量%濃度に膨潤させたもの)
(6)発光保持率
まず、蛍光体の発光特性である発光強度(エネルギー)を測定した。蛍光体粉末約600mgを直径24mm、深さ1mmのSUS製の皿(サンプルホルダー)に盛り、ガラス板を押し当てて平らにした。この試料をチャンバー内に入れ、一度、ロータリーポンプでチャンバー内を5Pa以下に真空引きした後、純度99.9%以上の窒素ガスを流し、そのまま30分間放置してチャンバー内を窒素ガスで置換した。その後、ウシオ電機製エキシマ光発光ランプH0012(照射口:直径27mm)を内蔵したエキシマ光照射装置から146nm紫外光を入射角20度で試料面から25cm離れたところから照射した。発光強度の測定は、試料面の真上23cmから大塚電子社製瞬間マルチ測光システムMCPD−2000で測定した。
【0047】
次に、蛍光体ペースト焼成後の発光特性を測定した。蛍光体ペーストをスクリーン印刷法(スクリーン版:SUS#200)を用いてガラス基板上に乾燥厚み30μmになるように形成した塗布膜を、80℃のオーブンで30分間乾燥させ、その後焼成炉に入れ、500℃で15分間焼成したものを掻き取り上記と同じサンプルホルダーに入れ測定した。
【0048】
ペースト焼成後の発光保持率は、蛍光体粉末の発光強度の分光スペクトルの積分値(エネルギー)をIp、蛍光体ペーストにして焼成した後の蛍光体粉末の発光エネルギーIsとした場合、Is/Ip×100(%)で示した。
(7)パネルの発光特性
パネルの輝度、色度は、放電維持電圧170V、周波数30kHz、パルス幅3μmの放電させた時のパネル輝度、500時間駆動した時のパネル輝度の変化率を測定した。パネル輝度の変化率は、初期のパネル輝度L、500時間駆動後のパネル輝度L500とした時、(L−L500)で示した。
【0049】
合成例1
まず、水素添加ひまし油脂肪酸600gを撹拌装置、温度計、分水器を備えた4つ口フラスコに計量し、100℃で加熱溶解させた。次に1,4−ジアミノブタン88gを除々に加え、130℃で30分間攪拌した。さらに190℃まで昇温し、6時間脱水反応を行った。得られた脂肪酸アミド200gとベンジルアルコール600gをクリアミックス(エム・テクニック社製)にセットし、3000rpmで30分撹拌した。続いて、密閉容器に充填し、60℃の恒温槽で48時間静置した後、室温まで冷却して有機溶剤で膨潤させた脂肪酸アミドを得た。
【0050】
合成例2
まず、水素添加ひまし油脂肪酸300g、アゼライン酸94gを撹拌装置、温度計、分水器を備えた4つ口フラスコに計量し、120℃で加熱溶解させた。次に100℃まで冷却した後、ヘキサメチレンジアミン116gを除々に加え、100℃で30分間攪拌した。さらに200℃まで昇温し、6時間脱水反応を行った。得られた脂肪酸アミド200gとベンジルアルコール800gをクリアミックス(エム・テクニック社製)にセットし、3000rpmで30分撹拌した。続いて、密閉容器に充填し、60℃の恒温槽で48時間静置した後、室温まで冷却して有機溶剤で膨潤させた脂肪酸アミドを得た。
【0051】
合成例3
まず、水素添加ひまし油脂肪酸450g、セバシン酸51gを撹拌装置、温度計、分水器を備えた4つ口フラスコに計量し、120℃で加熱溶解させた。次に100℃まで冷却した後、ヘキサメチレンジアミン116gを除々に加え、100℃で30分間攪拌した。さらに200℃まで昇温し、6時間脱水反応を行った。得られた脂肪酸アミド200gとベンジルアルコール800gをクリアミックス(エム・テクニック社製)にセットし、3000rpmで30分撹拌した。続いて、密閉容器に充填し、60℃の恒温槽で48時間静置した後、室温まで冷却して有機溶剤で膨潤させた脂肪酸アミドを得た。
【0052】
合成例4
まず、水素添加ひまし油脂肪酸450g、セバシン酸51gを撹拌装置、温度計、分水器を備えた4つ口フラスコに計量し、120℃で加熱溶解させた。次に100℃まで冷却した後、ヘキサメチレンジアミン116gを除々に加え、100℃で30分間攪拌した。さらに200℃まで昇温し、6時間脱水反応を行った。得られた脂肪酸アミド100gとメチルアルコール300gおよびエチルアルコール600gをクリアミックス(エム・テクニック社製)にセットし、3000rpmで30分撹拌した。続いて、密閉容器に充填し、60℃の恒温槽で48時間静置した後、室温まで冷却して有機溶剤で膨潤させた脂肪酸アミドを得た。
【0053】
実施例1〜7
合成例で得られた脂肪酸アミド化合物(表1)200gと赤色蛍光体粉末500g、アルキレンオキサイド誘導体(表1)150gおよびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート150gを混合し、三本ローラーで分散・混練し、赤色蛍光体ペーストを得た。同様にして、緑色蛍光体ペースト、青色蛍光体ペーストを得た。得られた蛍光体ペーストの発行保持率を測定したところ、92〜101%であり良好であった。
【0054】
次に、340×260×2.8mmサイズのガラス基板(旭硝子(株)製“PD−200”)を使用してAC(交流)型プラズマディスプレイパネルの背面板を形成した。
【0055】
基板上に、書き込み電極として、感光性銀ペースト(東レ社製)を用いてフォトリソグラフィー法により、ピッチ140μm、線幅60μm、焼成後厚み4μmのストライプ状電極を形成した。この基板に誘電体ペースト(東レ社製)をスクリーン印刷法により塗布した後、550℃で焼成して、厚み10μmの誘電体層を形成した。
【0056】
さらに、誘電体層上に上記の感光性ガラスペースト(東レ社製)を用いて、フォトリソグラフィー法でパターン形成後、570℃で15分間焼成し、ピッチ140μm、線幅20μm、高さ100μmのストライプ状の隔壁パターンを形成した。
【0057】
このようにして形成された隔壁に、表1に示した各種蛍光体ペーストを口金から蛍光体ペーストを吐出する方法を用いて塗布した。塗布後、乾燥、焼成(500℃、30分)して隔壁の側面および底部に蛍光体層を形成した。
【0058】
次に、前面板を以下の工程によって作製した。まず、背面板と同じガラス基板上に、ITOをスパッタ法で形成後、レジスト塗布し、露光・現像処理、エッチング処理によって厚み0.1μm、線幅200μmの透明電極を形成した。また、黒色銀粉末からなる感光性銀ペースト(東レ社製)を用いてフォトリソグラフィー法により、焼成後厚み10μmのバス電極を形成した。電極はピッチ140μm、線幅60μmのものを作製した。
【0059】
さらに、電極形成した前面板上に透明誘電体ペースト(東レ社製)を20μm塗布し、430℃で20分間保持して焼き付けた。次に形成した透明電極、黒色電極、誘電体層を一様に被覆するように電子ビーム蒸着機を用いて、厚みは0.5μmのMgO膜を形成して前面板を完成させた。
【0060】
得られた前面ガラス基板を、前記の背面ガラス基板と貼り合わせ封着した後、放電用ガスを封入し、駆動回路を接合してプラズマディスプレイ(PDP)を作製した。このPDPを放電維持電圧170V、周波数30kHzさせた時のパネル輝度および500時間駆動させた時のパネル輝度を測定した。パネル輝度の変化率は、−1〜−3%であり良好であった。
【0061】
比較例1
アルキレンオキサイド誘導体として、グリセリンを用いた他は、実施例1〜7と同様に蛍光体ペーストを作製した。発光保持率は良好であったが、蛍光体層の形状が不良(隔壁側面に蛍光体層がほとんど形成されなかった)であったため、パネルの輝度が低いものであった。
【0062】
比較例2
アルキレンオキサイド誘導体を用いなかった他は、実施例1〜7と同様に蛍光体ペーストを作製した。発光保持率は良好であったが、蛍光体ペーストの流動性が不良で、蛍光体層が形成できなかった。
【0063】
比較例3
エチルセルロース100g、赤色蛍光体粉末500g、テルピネオール300g、合成例2で得られた脂肪酸アミド化合物100gからなる組成とした他は、実施例1〜7と同様に蛍光体ペーストを作製した。発光保持率の変化率はで不良であった。また、蛍光体層の形状は良好であったが、パネル輝度は低く、パネル輝度の変化率も大きく低下した。
【0064】
比較例4
脂肪酸アミド化合物の代わりに酸化ポリエチレンを用いた他は実施例1〜7と同様に蛍光体ペーストを作製した。発光保持率は良好であったが、蛍光体層の形状が不良(隔壁側面に蛍光体層がほとんど形成されなかった)であったため、パネルの輝度が低いものであった。
【0065】
比較例5
脂肪酸アミド化合物の代わりにシリカを用いた他は実施例1〜7と同様に蛍光体ペーストを作製したが、保管中に蛍光体ペーストの粘度が著しく上昇し、流動性がなくなったため、蛍光体層の形成ができなかった。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アミド化合物、蛍光体粉末および下記一般式(1)で表されるアルキレンオキサイド誘導体を含むことを特徴とする蛍光体ペースト。
O−(RO)−R (1)
(式中、Rは、炭素数2以上のアルキレン基である。R、Rは、水素原子、アルキル基、グリセリル基、アリル基、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基から選ばれたものであり、同じであっても異なってもよい。nは、3〜12の範囲の整数である。)
【請求項2】
前記アルキレンオキサイド誘導体がポリグリセリン誘導体である請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項3】
前記脂肪酸アミド化合物が、炭素数2〜6の脂肪族基を有する脂肪族プライマリージアミンと、該ジアミンに対し当量の水素添加ひまし油脂肪酸および/または炭素数2〜10の脂肪族基を有する脂肪族ジカルボン酸から得られる脂肪酸アミド化合物である請求項1または2に記載の蛍光体ペースト。
【請求項4】
前記脂肪酸アミド化合物が、沸点160〜260℃の範囲内にあるアルコールの存在下で加温膨潤させた脂肪族アミド化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体ペースト。
【請求項5】
少なくとも電極および隔壁が形成された基板上に請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体ペーストを塗布して乾燥する工程を含むプラズマディスプレイパネル用部材の製造方法。
【請求項6】
前記蛍光体ペーストを塗布する際に、ディスペンサーを用いて塗布を行う請求項5に記載プラズマディスプレイパネル用部材の製造方法。

【公開番号】特開2007−254574(P2007−254574A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80165(P2006−80165)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】