説明

蛍光体及びその作製方法、並びに発光素子

【課題】安全かつ安価な発光輝度の高い蛍光体、その作製方法、及び発光素子の提供。
【解決手段】母体として、結晶構造内に少なくとも1つの原子を包接できるカゴ状格子を有する物質を用い、付活剤を包接サイトに付活、或いは包接サイトとそれ以外の格子内サイトとに共付活させた蛍光体。該蛍光体は、例えばCa、Sr又はBaとAlを含み、焼成の際に分解して酸化物となり得る母体混合物に付活剤を添加し焼成することにより製造される。さらに焼成持に、導電性金属を含む導電性酸化物となり得る化合物を添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその作製方法並びにこの蛍光体を含む発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、ディスプレイ分野では、ブラウン管(CRT)から薄型のフラットパネルディスプレイ(FPD)に移行しつつあり、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の、様々なFPDが開発されている。その中でFEDは、CRTと同様の発光原理で、陰極から発生した電子線を陽極の蛍光体に衝突させて発光させるものである。また、PDPは、放電ガスから放出される真空紫外線が蛍光体に照射させて発光させるものである。これらの発光源を担う蛍光体は、発光輝度・色純度・寿命等の特性が優れたものであることが望ましい。従来のCRTや現状のFEDやPDPで主に用いられている蛍光体は、高コストであったり、劇物であったり、蛍光体表面の劣化に起因した発光効率の低下を引き起こすこと、また、赤・緑・青の三色のうち青色は、材料自身が低輝度であること等、未だ解決すべき課題があり、代替材料の開発も盛んに行われている。しかし、未だに満足すべきものは得られていない。
【0003】
蛍光体としては、例えば、式:M121433(式中のMはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる1種以上であり、MはAl及びGaからなる群から選ばれる1種以上である。)により表される化合物に付活剤としてLn(LnはCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びMnからなる群より選ばれる1種以上である。)が含有されているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この蛍光体は、紫外線発光体素子用のものである。
【特許文献1】特開2004−300261号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、CRTやFED用の蛍光体として現在用いられている蛍光体に代わり、安全で発光輝度の高い蛍光体及びその作製方法並びにこの蛍光体を含んでなる発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、蛍光体の開発過程において、結晶構造内に少なくとも1種の原子を包接することのできるカゴ状格子を有する物質を母体とすることで、その包接サイトに添加された付活剤に対する電子線及び/又は紫外線の照射により得られた励起エネルギーをカゴ状格子内にとどめ易くすることができ、その結果、高効率な発光が示されること、また、付活剤を包接サイトとそれ以外の格子内サイトとに共付活させることで、相乗効果により発光輝度が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。この場合、母体に、さらに導電性金属を添加することにより、電子線励起を利用する場合に、電子線照射時のチャージアップ防止による発光輝度が向上することも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明の蛍光体は、結晶構造内に少なくとも1種の原子を包接できるカゴ状格子を有する物質を母体とすることを特徴とする。
【0007】
前記母体に付活剤を添加せしめてなり、この付活剤が母体のカゴ状格子の包接サイトとそれ以外の格子内サイトとに共付活されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明の蛍光体はまた、励起手段に応じて異なる発光をする物質を母体とすることを特徴とし、この母体に付活剤を添加せしめてなる。
【0009】
前記励起手段が紫外線照射及び電子線照射であり、物質が結晶構造内に少なくとも1種の原子を包接できるカゴ状格子を有する物質であることを特徴とする。
【0010】
前記付活剤は、Mn、Sn、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びBiからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。
【0011】
前記母体に、さらに導電性金属を添加せしめてなることを特徴とする。
【0012】
この導電性金属は、Zn、In、Sn、Cr、Mo、Os、Re、Nb、V、W、Sm、Ir、Ru、Nd、La、及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属である。
【0013】
本発明の蛍光体の作製方法は、Ca、Sr又はBaを含み、焼成の際に分解してカルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物又はバリウム酸化物となり得る化合物と、Alを含み、焼成の際に分解してアルミニウム酸化物となり得る化合物とをCa、Sr又はBaとAlとの原子当量比で12:14となるように配合して得た母体混合物に、付活剤を、その元素に換算して、母体混合物基準で、0.001〜10原子%添加し、かくして得られた混合物を焼成することにより、式:(Ca(又はSr若しくはBa)12Al1433)100:A(式中、Aは付活剤としての前記少なくとも1種の元素を表し、xは0.001〜10である)で表される蛍光体を得ることを特徴とする。
【0014】
前記焼成の際に分解してカルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物又はバリウム酸化物となり得る化合物及び前記焼成の際に分解してアルミニウム酸化物となり得る化合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物及びシュウ酸塩から選ばれた化合物であり、好ましくは炭酸塩である。
【0015】
前記作製方法において、付活材は、Mn、Sn、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びBiから選ばれた少なくとも1種の元素又はその酸化物からなる。
【0016】
前記作製方法において、さらに、導電性金属を含む導電性酸化物となり得る化合物を、その金属に換算して、前記母体混合物基準で、1〜40原子%添加し、かくして得られた混合物を焼成することにより、式:(Ca(又はSr若しくはBa)12Al1433)100:A(式中、Aは付活剤としての前記少なくとも1種の元素を表し、Bは前記少なくと1種の導電性金属を表し、xは0.001〜10であり、yは1〜40である)で表される蛍光体を得ることが好ましい。
【0017】
前記作製方法において、導電性酸化物となり得る化合物は、Zn、In、Sn、Cr、Mo、Os、Re、Nb、V、W、Sm、Ir、Ru、Nd、La、及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性金属を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物並びにシュウ酸塩から選ばれた化合物であり、酸化物であることが好ましい。
【0018】
本発明の発光素子は、前記蛍光体を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の蛍光体によれば、結晶構造内にカゴ状格子を有する物質を母体とするため、包接サイト内を占有する付活剤の効率的な励起や、複数の占有サイトへの共付活や、導電性金属の添加が可能であることに起因して、優れた発光輝度・色純度を示すと共に、チャージアップも防止されるという効果を奏する。
【0020】
本発明によれば、紫外線照射及び電子線照射に応じて異なる発光、例えば赤色及び青色という発光をするため、蛍光体としての用途が広がる。
【0021】
また、結晶構造内にカゴ状格子を有する物質として、例えばCa12Al1433で表される化合物を使用する場合は、資源の豊富なCaとAlとの複合酸化物を母体とするため、従来用いられている蛍光体に比べて、低環境負荷、低コストも実現できるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明の蛍光体は、通常の焼成による容易なプロセスで作製することができるという効果を奏する。
【0023】
さらに、本発明の蛍光体は、上記したようにして優れた発光輝度・色純度を示すと共に、チャージアップも防止されるので、この蛍光体を含んでなる発光素子は、FED等のFPDやCRTディスプレイ等への利用が期待され得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
本発明によれば、励起手段に応じて異なる発光をする物質であり、例えば、その結晶構造内に少なくとも1つの原子を包接できるカゴ状格子を基本構造としている物質を母体として用い、この母体に付活剤、さらに所望により導電性金属を添加せしめてなる蛍光体を提供することにより、所期の目的を達成することができた。
【0026】
カゴ状格子を基本構造とする物質としては、例えば、式:M121433(式中、MはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、NはAl、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。)で表される組成の化合物や、Siクラスレート、スクッテルダイト、フラーレン及び正20面体準結晶(例えば、Al系準結晶)等を挙げることができる。これらの化合物は、原理的には、励起エネルギーの発散をとどめるので、高効率発光が可能である。
【0027】
このカゴ状格子内には特定の付活剤が所望の量で包接され得る。例えば、結晶学的なナノ細孔とその中にランダムに存在するフリー酸素イオン(O2−)で結晶が構成されており、結晶中で電子が特定のアニオンサイトを占有するいるいわゆるエレクトライドであるCa12Al1433母体中には、付活される元素の占有サイトは3種類、すなわちカゴ状格子を構成する3価のAlサイトと2価のCaサイト、そしてカゴ状格子の包接サイトが存在する。付活剤元素は、包接サイトや、それ以外の格子内サイトであるAlサイトサイトやCaサイトに添加され得る。このようなCa12Al1433で表される化合物は、安全であると共に、クラーク数上位の豊富な元素(Ca:5位、Al:3位、O:1位)で構成されており、安価な蛍光体の母体材料として利用できる。
【0028】
本発明の蛍光体中に添加、含有される付活剤量は、母体基準で、一般に0.001〜10原子%、好ましくは0.1〜6.0原子%である。0.001原子%未満であり、また、10原子%を超えると、輝度が著しく低下する。
【0029】
また、本発明の蛍光体中に添加、含有される導電性金属量は、母体基準で、1.0〜40原子%、好ましくは1.0〜10原子%の量である。1.0原子%未満であり、また、40原子%を超えると、輝度が著しく低下する。
【0030】
本発明の蛍光体は、母体が有するカゴ状格子内に付活剤が包接されるようにして作製され得る。また、包接サイトのみならず、格子内サイトをも占有するように2種類以上の付活剤を添加して共付活させても目的とする蛍光体を作製できる。さらに、包接サイトを占有する付活剤に加えて、所望によりさらに少なくとも1種の導電性金属を含有せしめてなる蛍光体を作製することができる。
【0031】
以下、本発明の蛍光体の作製方法の一実施の形態について説明する。
【0032】
本発明の蛍光体の作製方法は、特に限定されるものではない。例えば、エレクトライドであるCa(或いはストロンチウム等)12Al1433を母体として用いる蛍光体の場合、母体を構成するカルシウム等及び/又はアルミニウムを含む化合物と付活剤元素又はその酸化物と所望により導電性酸化物となり得る化合物との混合物を焼成することにより作製することができる。この母体を構成する元素を含む化合物及び導電性化合物となり得る化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、及びシュウ酸塩等のような焼成温度で分解して酸化物となり得る化合物を用いることができる。これらの化合物を母体の所定の組成となるように配合し、混合して用いる。母体のみを先に調製し、次いでこの母体に付活剤元素又はその酸化物と所望により導電性酸化物となり得る化合物とを配合して得た混合物を焼成することにより、目的とする蛍光体を作製することもできる。
【0033】
本発明によれば、例えば、上記母体を構成する元素を含む化合物と付活剤元素又はその酸化物と所望により導電性酸化物となり得る化合物とを、目的とする蛍光体の組成に併せて秤量し、既知のボールミル、ジェットミル、V型混合器、攪拌装置等を用いて混合・粉砕し、得られた混合物を、例えば、不活性ガス雰囲気(アルゴン等の希ガスや窒素等の雰囲気)、酸化性ガス雰囲気(空気、酸素、酸素原子含有ガス等の雰囲気)、還元性ガス雰囲気(水素ガス、水素原子含有ガス等の雰囲気)中、1000〜1500℃(好ましくは、1200〜1300℃)で所定の時間焼成し、目的とする蛍光体を得ることができる。これらの焼成雰囲気のうち、輝度の点からは、窒素ガス雰囲気が最も好ましい。
【0034】
本発明の蛍光体の一つの実施の形態として、Ca12Al1433で表される組成の化合物を母体として用いる場合の作製方法を以下に記す。
【0035】
本発明によれば、具体的には、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)と酸化アルミニウム(Al)とを、その混合比がCaとAlとの原子当量比で12:14となるように配合し、これに、付活剤として、Mn、Sn、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びBiから選ばれた少なくとも1種の元素又はその酸化物を、その元素に換算して、Ca12Al1433基準で、0.001〜10原子%、好ましくは0.1〜6.0原子%の量で混合し、かくして得られた混合粉末をボールミル中で粉砕・攪拌した後、これを不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気又は還元性ガス雰囲気中において好ましくは1200〜1300℃(例えば、1200℃)で焼成することにより、所望の蛍光体を得ることができる。
【0036】
この場合、付活剤を添加した後又は付活剤の添加と同時に、さらに、Zn、In、Sn、Cr、Mo、Os、Re、Nb、V、W、Sm、Ir、Ru、Nd、La、及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性金属を含む導電性酸化物となり得る化合物を、その金属に換算して、Ca12Al1433基準で、1〜40原子%、好ましくは1.0〜10原子%の量で混合し、かくして得られた混合物を上記雰囲気中で好ましくは1200〜1300℃(例えば、1200℃)で焼成することにより、(Ca12Al1433)100:A(式中、Aは付活剤としての前記少なくとも1種の元素を表し、Bは前記少なくとも1種の導電性金属を表し、xは0.0 01〜10、好ましくは0.1〜6.0であり、yは1〜40、好ましくは1.0〜10である)で表される蛍光体を得ることができる。
【0037】
上記したようにして得られる本発明の蛍光体は従来の蛍光体よりも優れた発光輝度を有する。この蛍光体を用いて、公知の製造方法により発光素子を製造できる。この蛍光体を用いるFEDやCRT用発光素子のうちFED用発光素子を例にとり、以下簡単に説明する。
【0038】
例えば、本発明の蛍光体粒子を高分子化合物(例えば、セルロース系化合物、ポリビニルアルコール等)からなるバインダーの有機溶媒溶液中に分散せしめて、蛍光体ペーストを調製する。この蛍光体ペーストを公知のスクリーン印刷等の塗布方法により導電性膜(例えば、ITO(酸化インジウムスズ))が形成された(この導電性膜をアノード電極とする)前面基板の表面に塗布する。この蛍光体層と、電子源(例えば、カーボンナノチューブ、グラファイトナノチューブ)及びカソード電極を備えた背面基板とを、真空領域を確保するためのスペーサーを挟んで重ねて貼り合わせる。次いで、内部を排気して真空封止し、電子飛行空間を形成させることにより、目的とするFEDモデルを製造することができる。
【0039】
以下に、本発明の実施例として、結晶構造内にカゴ状格子を有するCa12Al1433で表される組成の化合物を母体として用い、このカゴ状格子内に付活剤を包接せしめる例や、さらに導電性金属を含有せしめる例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合して得た母体(Ca12Al1433)の原料粉末に、
(1)酸化ユーロピウム(Eu)を、Euに換算して、Ca12Al1433基準で、0.48原子%添加した試料((Ca12Al1433)100:Eu0.48)、
(2)酸化ツリウム(Tm)を、Tmに換算して、Ca12Al1433基準で、4.8原子%添加した試料((Ca12Al1433)100:Tm4.8)、
(3)酸化ユーロピウム(Eu)を、Euに換算して、Ca12Al1433基準で、0.48原子%添加し、さらに酸化ツリウム(Tm)を、Tmに換算して、Ca12Al1433基準で、4.8原子%添加した試料((Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4。8)、及び
(4)酸化ユーロピウム(Eu)を、Euに換算して、Ca12Al1433基準で0.48原子%添加し、さらに導電性酸化物として酸化亜鉛(ZuO)を、Znに換算して、Ca12Al1433基準で、10原子%添加した試料((Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn10)、並びに
(5)付活剤も導電性酸化物も添加しない試料(Ca12Al1433)
の5種類の試料の混合粉末を乾式粉砕・攪拌した後、大気中にて1時間30分で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持して焼成した。
【0041】
図1に、焼成した(Ca12Al1433)100:Eu0.48の粉末XRD回折スペクトルを示す。図中、下段に併せて示してある結晶構造データより求めたピークと比べて分かるように非常に単相性の良い試料が作製された。図中、C12A7はCa12Al1433を意味する。
【0042】
次に、得られた焼成粉末の蛍光特性評価について説明する。
【0043】
測定サンプルの準備として、まず、エタノール20ccを注入したビーカーに上記各焼成粉末0.01gを入れ、十分攪拌した。このビーカー中に導電性を持つITOの成膜されたガラス基板を投入し、エタノール混合液を乾燥させた。この手法により堆積した粉末に波長254nmの紫外線、又は加速電圧3kV電子線を照射し、分光光度計により蛍光特性を評価した。
【0044】
図2に波長254nmの紫外線を(Ca12Al1433)100:Eu0.48試料に照射したときの発光スペクトルを示す。この発光スペクトルは、波長約615nmにシャープなピークを持ち、色座標は、CIE色度図上ではx=0.636、y=0.361に位置する良質な赤色発光を示した。また、図3に、(Ca12Al1433)100:Eu0.48試料に加速電圧3kVの電子線を照射したときの発光スペクトルを示す。この発光スペクトルは、波長395nm程度にピークを持ち、色座標は、CIE色度図上ではx=0.186、y=0.054に位置する青色発光を示した。これは、従来のCRT用青色蛍光体であるZnS:Agの色座標x=0.146、y=0.074と同等であり、ZnS:Agに匹敵する色度であることが確認できた。
【0045】
次に、(Ca12Al1433)100:Tm4.8及び(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8の各試料に加速電圧3kVの電子線を照射した時の発光スペクトルを図4に示す。比較のため、(Ca12Al1433)100:Eu0.48試料の結果を合わせて示す。図中、C12A7はCa12Al1433を意味する。Tmを付活剤として添加した場合、460nm付近にシャープなピークを持った青色発光を示す。また、EuとTmとを共付活させた(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8試料では、波長約395nmと約460nmとにピークを持っており、それぞれ1種類の添加を行った試料と比べて、相乗効果により大幅に発光輝度が増加していることが分かる。従来の蛍光体では、付活剤の占有サイトは1種類のため、2種類以上の付活剤を添加してもそのサイトの限界濃度までしか置換できないが、本実施例の場合には、Euが包接サイト、TmがCaサイトを占有するため、発光輝度の相乗効果を引き起こしている。ちなみに、色座標は、CIE色度図上ではx=0.187、y=0.088に位置する青色発光を示した。これは、従来のCRT用青色蛍光体であるZnS:Agの色座標x=0.146、y=0.074と同等であり、ZnS:Agに匹敵する色度であることが確認できた。
【0046】
さらに、(Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn10試料に加速電圧3kVの電子線を照射した時の発光スペクトルを図5に示す。比較のため、Ca12Al1433(C12A7)及び(Ca12Al1433)100:Eu0.48試料の結果を併せて示す。図中、C12A7は母体自体であり、ほとんど発光しない。(Ca12Al1433)100:Eu0.48の発光輝度は約94cd/mであった。これと比較して、(Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn10では、波長430nm付近に大きなピークを持った青色発光を示した。発光輝度は約430cd/mという値を示し、Znのような導電性金属を添加すると約5倍の発光輝度の向上が見られ、低加速電圧においてもチャージアップの防止により高輝度を示した。
【実施例2】
【0047】
CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合し、これに、付活剤として、酸化ユーロピウム(Eu)を、Euに換算して、Ca12Al1433基準で、0.48原子%及び酸化ツリウム(Tm)を、Tmに換算して、Ca12Al1433基準で、4.8原子%、また、導電性酸化物として酸化亜鉛(ZnO)を、Znに換算して、Ca12Al1433基準で、2.0原子%添加し(この試料の組成式は(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8Zn2.0で表される)、乾式粉砕・攪拌した粉末を大気中にて1時間30分で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持して焼成した。ここで、Zn添加効果を検討するために、(Ca12Al1433)100:Eu0.48及び(Ca12Al1433)100:Tm4.8についても上記作製方法に準じて作製した。
【0048】
次に、得られた焼成粉末の蛍光特性評価について説明する。
【0049】
測定サンプルの準備として、まず、エタノール20ccを注入したビーカーに上記各焼成粉末0.01gを入れ、十分攪拌した。このビーカー中に導電性を持つITOの成膜されたガラス基板を投入し、エタノール混合液を乾燥させた。この手法により堆積した粉末に加速電圧3kV電子線を照射し、分光光度計により蛍光特性を評価した。
【0050】
(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8Zn2.0、(Ca12Al1433)100:Eu0.48及び(Ca12Al1433)100:Tm4.8のそれぞれに加速電圧3kVの電子線を照射したときの発光スペクトルを図6に示す。付活剤としてEuを添加した(Ca12Al1433)100:Eu0.48は波長400nm付近にピークを持っており、発光輝度は約94cd/mであり、また、(Ca12Al1433)100:Tm4.8は510nm付近にピークを持っており、発光輝度は約400cd/mであった。これに対し、(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8Zn2.0では、波長約400及び510nm付近に大きなピークを持つており、発光輝度は約550cd/mであり、導電性金属を添加することで発光輝度の向上が見られた。
【実施例3】
【0051】
実施例1記載の方法に従って、CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合し、これに、酸化ユーロピウム(Eu)を、Ca12Al1433基準で、Euに換算して0〜8原子%の範囲で変動させて添加し、乾式粉砕・攪拌した粉末を大気中にて1時間30分で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持して焼成した。かくして得られた式:(Ca12Al1433)100:Eu(x=0〜8)で表される蛍光体に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光輝度(任意単位)に対するEu濃度依存性を評価した。その結果、付活剤としてのEuの濃度が一般に0.001〜8原子%の範囲である程度の発光輝度が得られ、1〜4原子%の範囲でそれより高い発光輝度が得られ、1.6〜2原子%の範囲でさらに高い発光輝度が得られ、1.6原子%で最も高い発光輝度が得られることが分かった。
【実施例4】
【0052】
実施例1記載の方法に従って、CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合し、これに、酸化ツリウム(Tm)を、Ca12Al1433基準で、Tmに換算して0〜10原子%の範囲で変動させて添加し、乾式粉砕・攪拌した粉末を大気中にて1時間30分で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持して焼成した。かくして得られた式:(Ca12Al1433)100:Tm(x=0〜10)で表される蛍光体に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光輝度(cd/m)に対するTm濃度依存性を評価した。その結果、付活剤としてのTmの濃度が一般に0.001〜10原子%の範囲である程度の発光輝度が得られ、3〜8原子%の範囲でそれより高い発光輝度が得られ、4〜6原子%の範囲で最も高い発光輝度が得られることが分かった。
【実施例5】
【0053】
実施例1記載の方法に従って、CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合し、これに、酸化ユーロピウム(Eu)を、Ca12Al1433基準で、Euに換算して0.48原子%、また、導電性金属酸化物として酸化亜鉛(ZnO)を、Znに換算して、Ca12Al1433基準で、0〜10原子%の範囲で変動させて添加し、乾式粉砕・攪拌した粉末を大気中にて1時間30分で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持して焼成した。かくして得られた式:(Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn(x=0〜10)で表される蛍光体に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光輝度(任意単位)に対するZn濃度依存性を評価した。その結果、Znの濃度が一般に0.1〜10.0原子%の範囲である程度の発光輝度が得られ、1.0〜3.0原子%の範囲でそれより高い発光輝度が得られ、2.0原子%で最も高い発光輝度が得られることが分かった。このように輝度が向上するのは、導電性金属の導電性に起因した蛍光体のチャージアップ防止のためである。
(参考例1)
【0054】
CaCOとAlとをCaとAlとの原子当量比で12:14となるように混合し、これに、酸化ユーロピウム(Eu)を、Ca12Al1433基準で、Euに換算して0.48原子%((Ca12Al1433)100:Eu0.48)添加し、乾式粉砕・攪拌した粉末を大気中1200℃、大気中1300℃、Nガス中1200℃、及びNガス中1300℃の4種類の焼成雰囲気にて、焼成時間1、2、4及び8時間の4種類で焼成すると共に、ロータリーポンプにより排気焼成についても実施した。
【0055】
かくして得られた蛍光体に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光輝度(任意単位)に対する焼成時間依存性を評価し、その結果を図7に示す。図中、C12A7は、Ca12Al1433を意味する。図7から明らかなように、焼成時間1〜8時間でほぼ満足できる輝度を有する蛍光体が得られ、特に2〜4時間でより高い輝度を有する蛍光体が得られることが分かる。なお、焼成雰囲気としては、Nガス中の場合により高い輝度を有する蛍光体が得られる傾向があった。
【0056】
上記参考例1と上記実施例とから、参考例1で得られた蛍光体にTmを含有せしめたものやさらに導電性金属を含有せしめたものも、参考例の結果と同様な結果が得られ、焼成雰囲気としては、Nガス中の場合に、より高い輝度を有する蛍光体が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、結晶構造内にカゴ状格子を有する物質を母体とするため、包接サイト内を占有する付活剤の効率的な励起や、複数の占有サイトへの共付活や、導電性酸化物の添加が可能であることに起因して、優れた発光輝度・色純度を示すと共に、チャージアップも防止された蛍光体が実現できるので、この蛍光体は発光素子用に好適である。本発明は、薄型のFPD(液晶ディスプレイ、PDP、有機ELディスプレイ、FED等)、特にFEDやCRT等のディスプレイ分野への利用が工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】上段は、実施例1で得られた(Ca12Al1433)100:Eu0.48のX線回折スペクトル、下段は、既知結晶構造から求めたピーク位置と強度を表すグラフ。
【図2】実施例1で得られた(Ca12Al1433)100:Eu0.48に波長254nmの紫外線を照射した時の発光スペクトル。
【図3】実施例1で得られた(Ca12Al1433)100:Eu0.48に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光スペクトル。
【図4】実施例1で得られた(Ca12Al1433)100:Eu0.48、(Ca12Al1433)100:Tm4。8、及び(Ca12Al1433)100:Eu0.48Tm4.8)の各試料に、電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光スペクトル。
【図5】実施例1で得られたCa12Al1433、(Ca12Al1433)100:Eu0.48、及び(Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn10に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光スペクトル。
【図6】実施例2で得られたCa12Al1433、(Ca12Al1433)100:Eu0.48、及び(Ca12Al1433)100:Eu0.48Zn10に電子線を加速電圧3kVで照射した時の発光スペクトル。
【図7】参考例1で得られた蛍光体の輝度に対する、焼成条件依存性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造内に少なくとも1種の原子を包接できるカゴ状格子を有する物質を母体とすることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記母体に付活剤を添加、含有せしめてなり、この付活剤が母体のカゴ状格子の包接サイトとそれ以外の格子内サイトとに共付活されてなることを特徴とする請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
励起手段に応じて異なる発光をする物質を母体とすることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
前記励起手段が紫外線照射及び電子線照射であり、前記物質が結晶構造内に少なくとも2種の原子を包接できるカゴ状格子を有する物質であることを特徴とする請求項3記載の蛍光体。
【請求項5】
前記母体に付活剤を添加せしめてなることを特徴とする請求項3又は4記載の蛍光体。
【請求項6】
前記付活剤が、Mn、Sn、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びBiからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項2又は5記載の蛍光体。
【請求項7】
前記母体にさらに導電性金属を添加せしめてなることを特徴とする請求項2又は5記載の蛍光体。
【請求項8】
前記導電性金属が、Zn、In、Sn、Cr、Mo、Os、Re、Nb、V、W、Sm、Ir、Ru、Nd、La、及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項7記載の蛍光体。
【請求項9】
Ca、Sr又はBaを含み、焼成の際に分解してカルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物又はバリウム酸化物となり得る化合物と、Alを含み、焼成の際に分解してアルミニウム酸化物となり得る化合物とをCa、Sr又はBaとAlとの原子当量比で12:14となるように配合して得た母体混合物に、付活剤を、その元素に換算して、前記母体混合物基準で、0.001〜10原子%添加し、かくして得られた混合物を焼成することにより、式:(Ca(又はSr若しくはBa)12Al1433)100:A(式中、Aは付活剤としての前記少なくとも1種の元素を表し、xは0.001〜10である)で表される蛍光体を得ることを特徴とする蛍光体の作製方法。
【請求項10】
前記焼成の際に分解してカルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物又はバリウム酸化物となり得る化合物及び前記焼成の際に分解してアルミニウム酸化物となり得る化合物が、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物及びシュウ酸塩から選ばれた化合物であることを特徴とする請求項9記載の蛍光体の作製方法。
【請求項11】
前記付活材が、Mn、Sn、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、及びBiから選ばれた少なくとも1種の元素又はその酸化物からなることを特徴とする請求項9又は10に記載の蛍光体の作製方法。
【請求項12】
請求項9において、さらに導電性金属を含む導電性酸化物となり得る化合物を、その金属に換算して、前記母体混合物基準で、1〜40原子%添加し、かくして得られた混合物を焼成することにより、式:(Ca(又はSr若しくはBa)12Al1433)100:A(式中、Aは付活剤としての前記少なくとも1種の元素を表し、Bは前記少なくと1種の導電性金属を表し、xは0.001〜10であり、yは1〜40である)で表される蛍光体を得ることを特徴とする蛍光体の作製方法。
【請求項13】
前記導電性酸化物となり得る化合物が、Zn、In、Sn、Cr、Mo、Os、Re、Nb、V、W、Sm、Ir、Ru、Nd、La、及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の導電性金属を含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物並びにシュウ酸塩から選ばれた化合物であることを特徴とする請求項12記載の蛍光体の作製方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体又は請求項9〜13のいずれかに記載の作製方法により作製された蛍光体を含んでなることを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−77284(P2007−77284A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267161(P2005−267161)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】