説明

蛍光体粒子の処理方法、発光装置、蛍光体粒子

【課題】 樹脂への分散性を高めることができると共に、蛍光特性を高めることができる蛍光体粒子の処理方法を提供する。
【解決手段】 金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆するにあたって、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液を、蛍光体粒子に接触させる。金属錯イオンが水と反応して生成されるフッ化物イオンが蛍光体粒子の表面にエッチング作用し、蛍光体粒子の表面の欠陥部分を除去することができると共に、ネッキングして凝集体となっている蛍光体粒子を解離させることができる。さらに引き続いて、蛍光体粒子の表面で金属錯イオンが水と反応して生成される金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の表面を金属酸化物で被覆する蛍光体粒子の処理方法、金属酸化物を被覆処理した蛍光体粒子を用いた発光装置、及び金属酸化物を被覆した蛍光体粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の波長の光を発する光源を集めて配列することによって、カラー画像表示装置、電飾、信号灯、照明装置などを構成することが従来から行なわれている。この光源としては発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)などの半導体発光素子を単独で用いる他に、この発光素子と蛍光体とを組み合わせたものが用いられている。蛍光体を発光素子と組み合わせて用いる場合、蛍光体は発光素子からの光で励起され、種々の波長の蛍光を発するものが選択して使用されている。このように蛍光体を発光素子と組み合わせて形成される発光装置にあって、蛍光体の発光色の選択によって、白色光を出力するいわゆる白色LEDを形成することができ、この白色LEDは照明器具等としての利用が期待されている。
【0003】
そしてこのように蛍光体を発光素子と組み合わせて使用する場合、蛍光体の粉末を透明樹脂に混合して、透明樹脂中に分散させた状態で用いるのが一般的である。このように蛍光体の粉末を樹脂に分散させる場合、蛍光体の粒子の粒径が大きいと、その自重により樹脂の硬化中に沈降するなど、分散性が悪く、発色に色ムラが生じる等の問題があった。
【0004】
そこで、粒径を300nm以下の微粒子に調製した蛍光体粒子を透明樹脂に分散させることによって、分散性を向上させることが検討されている。このような粒径300nm以下の蛍光体粒子を調製する方法としては、共沈法、アルコキシド法などがあるが、これらの方法で蛍光体粒子を調製するにあたって、蛍光体の性能を発揮させるために1000℃以上の温度で焼結処理することが必要である場合があり、このように焼結すると小粒子同士のネッキングが生じ、蛍光体粒子が凝集して粒径が1μm以上になり、分散性を向上することが難しくなるという問題があった。しかもネッキングの結果、蛍光体粒子の粒径が不均一になって、樹脂への高充填に限界が生じるという問題もあった。また、蛍光体粒子を300nm以下の粒径に調製すると、その表面積の増加から、表面欠陥による発光効率の低下が顕著になるという問題もあった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、上記のように共沈法やアルコキシド法などで調製した蛍光体粒子を焼結処理した後、蛍光体粒子にエッチング処理を施すことによって、小粒子同士のネッキング部分をエッチングし、粒径300nm以下の蛍光体粒子を製造する方法が検討されている。さらに、蛍光体粒子の表面の欠陥を低減させる方法として、蛍光体粒子の表面をエッチングし、表面の欠陥部分を除去した後、金属アルコキシドなどを利用した方法で、蛍光体粒子の表面をSiO等の金属酸化物で被覆する方法が提案されている(非特許文献1等参照)。
【非特許文献1】磯部徹彦、黒川清、藤本啓二「IIB−VIB族ナノクリスタル蛍光体に関する研究開発の進展」、応用物理、物理学会、2003年、第72巻、第12号、p1516−1521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように金属アルコキシドを用いて蛍光体粒子の表面に金属酸化物を被覆するにあたっては、蛍光体粒子をエッチング処理して取出した後に、金属酸化物の被膜を形成する処理を行なう必要があり、蛍光体粒子を取出した際に蛍光体粒子の表面に再度欠陥が生じ易く、従って、蛍光体粒子の表面を金属酸化物の被膜で被覆しても、蛍光特性は低下してしまう傾向があった。また金属酸化物の被膜は蛍光体粒子の表面にムラに形成される傾向があり、蛍光体粒子の表面を完全に金属酸化物で被覆することはできず、未被覆表面に再度欠陥が生じ易く、同様に蛍光特性は低下してしまう傾向があった。蛍光体粒子の表面を金属酸化物で完全に被覆するには、金属酸化物の被膜の厚みを厚く形成する必要があるが、このときには蛍光体粒子への光の入出の度合いが低減し、蛍光特性が低下するという問題が生じるものであった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、樹脂への分散性を高めることができると共に、蛍光特性を高めることができる蛍光体粒子の処理方法を提供することを目的とし、またこの処理を施した蛍光体粒子を用いた発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る蛍光体粒子の処理方法は、金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆するにあたって、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液を、蛍光体粒子に接触させることを特徴とするものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、蛍光体粒子は金属酸化物で形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記金属錯イオンはSiF2−であることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、上記処理溶液には、フッ素を配位子とするSi錯イオンと、フッ素を配位子とするTi錯イオンと、フッ素を配位子とするY錯イオンと、フッ素を配位子とするZr錯イオンから選ばれた少なくとも2種以上の金属錯イオンを含有することを特徴とするものである。
【0012】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、蛍光体粒子の表面を被覆する金属酸化物を2〜5nmの厚みで形成することを特徴とするものである。
【0013】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、上記処理溶液の金属錯イオン濃度は、0.01〜0.2mol/Lであることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明の請求項7に係る発光装置は、発光波長が300nm〜480nmに発光ピークを有する発光素子と、発光素子の光を吸収して発光する請求項1乃至6のいずれかの方法で処理された蛍光体粒子を樹脂に分散させた蛍光発光体とを具備して成ることを特徴とするものである。
【0015】
また本発明の請求項8に係る蛍光体粒子は、請求項1乃至6のいずれかの方法で表面が金属酸化物で被覆されて成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蛍光体粒子に、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液を接触させることによって、金属錯イオンが水と反応して生成されるフッ化物イオンが蛍光体粒子の表面にエッチング作用し、蛍光体粒子の表面の欠陥部分を除去することができると共に、ネッキングして凝集体となっている蛍光体粒子を解離させることができ、引き続いて蛍光体粒子の表面で金属錯イオンが水と反応して生成される金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆することができる。この結果、蛍光体粒子の表面に再度欠陥が生じることなく、金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆することができ、蛍光体粒子の蛍光特性を高めることができると共に、蛍光体粒子の樹脂への分散性を高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
本発明において、蛍光体粒子の表面を金属酸化物の被膜で被覆するにあたって、この金属酸化物としては、波長250nm以上の光の透過率が85%以上のものであることが望ましい。具体的には、SiO、TiO、Al、Sc、GeO、Y、ZrO、SnOなどの中から選ばれる金属酸化物、あるいはこれらの金属酸化物の2種以上から構成される複合金属酸化物を挙げることができる。
【0019】
また蛍光体粒子の組成は、その励起波長、発光波長に応じて任意に設定されるが、LED発光素子との組み合わせで白色発光装置を形成する場合には、青色光励起黄色蛍光体、紫外光励起青色蛍光体、紫外光励起緑色蛍光体、紫外光励起赤色蛍光体などを用いることができる。具体的には、青色光励起黄色蛍光体としてYAG:Ce、紫外光励起青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euや、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu、紫外光励起緑色蛍光体として(Zn,Cd)S:Cu,AlやBaMgAl1017:Eu,Mn、紫外光励起赤色蛍光体としてLnS:Eu(Ln=Y,La,Gd,Lu,Sc)やYVO:Eu等を挙げることができる。
【0020】
蛍光体粒子の粒径は、樹脂への分散性を考慮すると、5〜300nmの範囲が好ましい。粒径が大きすぎると、樹脂中での沈降がみられ、分散性が悪くなる傾向がある。逆に粒径が小さすぎると、蛍光体粒子の表面の欠陥の除去が難しく、蛍光特性の低下が顕著になる傾向がある。蛍光体は一般に固相法より製造されるが、粒径が5〜300nmの蛍光体粒子は共沈法、アルコキシド法などの方法で得ることができる。
【0021】
蛍光体粒子の表面に上記のような金属酸化物の被膜を被覆する処理をするにあたって、本発明では、この金属酸化物を構成する金属イオンを中心原子とし、フッ素を配位子とする金属錯イオンと、水とを含有する処理溶液を用い、この処理溶液を蛍光体粒子の表面に接触させることによって行なうことができる。このような金属錯イオンとしては、具体的には例えば、フッ素を配位子とするSi錯イオン、フッ素を配位子とするTi錯イオン、フッ素を配位子とするSc錯イオン、フッ素を配位子とするGe錯イオン、フッ素を配位子とするY錯イオン、フッ素を配位子とするZr錯イオン、フッ素を配位子とするSn錯イオンなどを挙げることができる。
【0022】
ここで、金属錯イオンと水とを含有する処理溶液中で、フッ素を配位子とする金属錯イオンと水は次のように反応する。
【0023】
MF(x−2n)−+nHO⇔MO+nF+2nH
(ただし、Mは金属イオン、xは金属イオンに対するフッ素の配位数、n=(金属イオンの価数/2))
この反応式の右辺への反応を進行させるために、金属錯イオンと水とを含有する処理溶液にほう酸を添加することができる。
【0024】
そしてフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液で蛍光体粒子を処理すると、まず、上記のように金属錯イオンが水と反応して生成されるフッ化物イオン(F)が蛍光体粒子の表面にエッチング作用し、蛍光体粒子の表面の欠陥がエッチング除去される。このとき、共沈法やアルコキシド法などの方法で粒径5〜300nmの蛍光体粒子を調製するにあたって、十分な蛍光特性を得るために1000℃以上の温度で焼成処理を施す場合があり、蛍光体粒子はネッキングして径が1〜100μm程度の凝集体となっているが、フッ化物イオンの作用でネッキング部分がエッチングされ、粒径5〜300nmの蛍光体粒子に解離させることができるものである。エッチングの程度は、蛍光体粒子の基材の組成、処理溶液中の金属錯イオンの濃度、処理溶液の温度、処理時間等により異なるが、通常表面から1〜10nm程度である。
【0025】
次に、このようにエッチングされた蛍光体粒子の表面に、上記のように金属錯イオンが水と反応して生成される金属酸化物(MO)の被膜が形成される。この金属酸化物の被膜が形成される反応は、蛍光体粒子と処理溶液の界面で生じ易く、蛍光体粒子の表面を均一に覆うように金属酸化物が析出し、蛍光体粒子の表面に均一な金属酸化物の被膜を形成することができるものである。金属酸化物の被膜の厚みは、蛍光体粒子と処理溶液との接触時間により制御することが可能であり、2〜50nm程度の範囲で均一な厚みの金属酸化物被膜を形成することが可能である。
【0026】
ここで、上記のエッチング反応と、金属酸化物被膜の形成の反応は、処理溶液中において一連の反応で行なわれるので、エッチングで欠陥が除去された蛍光体粒子の表面に、金属酸化物の被膜を形成することができるものである。そしてこのように蛍光体粒子の表面を金属酸化物の被膜で被覆することによって、蛍光体粒子の表面に欠陥が再度生じることを抑制することができ、蛍光体粒子の蛍光特性を高めた状態に保持することができるものである。
【0027】
上記のようにフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液で蛍光体粒子を処理するにあたって、フッ素を配位子とする金属錯イオンの処理溶液中の濃度は0.01〜0.2mol/Lの範囲が好ましく、0.04〜0.1mol/Lの範囲がより好ましい。金属錯イオンの濃度が低いと、フッ素を配位子とする金属錯イオンと水が反応して生成されるフッ化物イオン濃度が低いため、蛍光体粒子の表面のエッチング能力が低下し、蛍光体粒子の表面の欠陥の除去を十分に行なうことができず、蛍光特性が低下するおそれがあり、また蛍光体粒子がネッキングにより連なった凝集体を解離するまでに至らず、樹脂への蛍光体粒子の分散性が低下するおそれがある。逆に金属錯イオンの濃度が高いと、フッ素を配位子とする金属錯イオンと水との反応が急激に進行するため、金属酸化物の被膜が蛍光体粒子の表面に局所的に形成され易く、均一な金属酸化物被膜を形成することが困難になり、蛍光体粒子の表面に局所的に欠陥が生成されて蛍光特性が低下するおそれがある。このために、本発明ではフッ素を配位子とする金属錯イオンの濃度は上記の範囲が好ましいものである。
【0028】
また、金属酸化物被膜の膜厚は上記の範囲で形成することができるが、蛍光体粒子の表面に形成される金属酸化物被膜の厚みが大きくなると、後述のように発光素子の光を蛍光体粒子に照射して蛍光を発生させるにあたって、発光素子からの光は金属酸化物被膜に遮られて蛍光体粒子の内部にまで侵入することができなくなり、蛍光特性が低下するおそれがある。このため、蛍光体粒子の表面に形成される金属酸化物被膜の厚みは可能な限り薄いほうが好ましい。そして本発明のように、金属錯イオンと水を含有する処理溶液で蛍光体粒子を処理して金属酸化物被膜を形成する場合、金属酸化物被膜を5nm以下の厚みで薄く形成することが可能であり、光が蛍光体粒子の内部に侵入することを金属酸化物被膜で遮られることを低減して、蛍光特性が低下することを防ぐことが可能になるものである。しかし、金属酸化物被膜の厚みが薄すぎると、蛍光体粒子の表面を金属酸化物被膜で完全に被覆することができなくなり、蛍光体粒子の表面に欠陥が再度生じて蛍光特性が低下するおそれがあり、金属酸化物被膜を均一に形成するためには、金属酸化物被膜の厚みは2nm以上であることが必要である。このため本発明では、金属酸化物被膜の厚みは2〜5nmの範囲が特に好ましい。
【0029】
蛍光体粒子としては、上記に例示した種々のものを用いることができるが、なかでも金属酸化物で形成された蛍光体粒子を用いるのが好ましい。金属酸化物の蛍光体粒子として、具体的には、YAG:Ce、BaMgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mn、LnS:Eu(Ln=Y,La,Gd,Lu,Sc)、YVO:Eu等を挙げることができる。
【0030】
フッ素を配位子とする金属錯イオンと水が反応して生成されるフッ素化物イオンによるエッチング作用は、金属酸化物に対してより有効に作用する性質を有する。従って、蛍光体粒子がこのように金属酸化物で構成されている場合、蛍光体粒子にエッチングが有効に作用し、蛍光体粒子がネッキングにより連なった凝集体を解離することが容易になると共に、蛍光体粒子の表面の欠陥の除去も容易になるものである。また、フッ素を配位子とする金属錯イオンと水が反応して形成される金属酸化物被膜は、金属酸化物の表面に対してより均一で緻密に形成される性質を有する。従って、蛍光体粒子が金属酸化物で構成されている場合、蛍光体粒子の表面に均一で緻密な金属酸化物被膜を形成することができるものであり、蛍光体粒子の表面の未被覆部分が減少し、蛍光体粒子の表面に欠陥が再度生じることをより有効に防止することができるものである。
【0031】
また、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンとしては、上記に例示した種々のものを用いることができるが、なかでもSiF2−であることが好ましい。金属錯イオンSiF2−と水とを含有する処理溶液では、SiF2−と水は次のように反応する。
【0032】
SiF2−+2HO⇔SiO+6F+4H
そしてSiF2−と水とを含有する処理溶液で蛍光体粒子の表面を処理すると、蛍光体粒子の表面にはエッチングの後に酸化物被膜としてSiO被膜が形成されるが、SiO被膜は緻密性が高いため、蛍光体粒子の表面の未被覆部分が減少し、蛍光体粒子の表面に欠陥が再度生じることをより有効に防止することができるものである。
【0033】
さらに、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンとしては、複数種の金属錯イオンを任意の配合比で混合して使用することもできる。このように処理溶液中に複数種の金属錯イオンを含有すると、蛍光体粒子の表面に形成される金属酸化物被膜は複合金属酸化物の被膜であり、複合金属酸化物の構成金属元素比は処理溶液中の金属錯イオンの含有比率によって決定することができるので、任意の組成の複合金属酸化物被膜を容易に形成することができるものである。このように金属錯イオンとして複数種の金属錯イオンを併用する場合、フッ素を配位子とするSi錯イオンと、フッ素を配位子とするTi錯イオンと、フッ素を配位子とするY錯イオンと、フッ素を配位子とするZr錯イオンから選ばれる2種以上の金属錯イオンを用いることが好ましい。これらの金属錯イオンを用いることよって、均一で緻密な複合金属酸化物を形成することができるものである。
【0034】
ここで、後述のように樹脂に蛍光体粒子を分散させて調製される蛍光発光体に、発光素子からの光を照射する場合、樹脂と蛍光体粒子との界面での屈折率差のために反射光が大きくなり、蛍光体粒子の内部にまで侵入する光が減少し、蛍光特性が低下する傾向があるが、樹脂と蛍光体粒子との界面に、樹脂の屈折率と蛍光体粒子の屈折率の中間の屈折率を有する層を形成すると、反射光が減少して、蛍光特性を向上させることができる。従って、上記のように複数種の金属錯イオンと水を含有する処理溶液を用いて蛍光体粒子の表面に複合金属酸化物の被膜を形成するにあたって、金属錯イオンの種類と配合比率を調整して、蛍光体粒子の表面に形成される複合金属酸化物被膜の屈折率を、樹脂の屈折率と蛍光体粒子の屈折率の中間に形成することによって、反射光を減少することができ、蛍光特性を向上させることができるものである。
【0035】
上記のように表面処理をした蛍光体粒子は、シリコーン樹脂などの透明樹脂に混合し、樹脂中に分散させて使用されるものであり、発光波長が300nm〜480nmに発光ピークを有する発光素子と組み合わせて発光装置を形成することができるものである。発光波長が300nm〜480nmに発光ピークを有する発光素子としては、窒化ガリウム系化合物半導体による紫外線あるいは青色光を放射するLEDチップなどを挙げることができる。
【0036】
図1(a)は発光装置の一例を示すものであり、実装基板1の実装凹部2の底部にLEDなどの発光素子3を実装し、蛍光体粒子を分散させた透明樹脂を実装凹部2に充填して硬化させることによって、蛍光体粒子を分散させた樹脂からなる蛍光発光体4で発光素子3を封止して覆うようにしてある。発光素子3の実装個数は1個であっても複数個であってもよい。そしてこのように形成される発光装置にあって、発光素子3から発光した光のうち、一部は蛍光発光体4を透過して外部に出射されると共に、他の一部は蛍光発光体4中の蛍光体粒子に一次放射光として吸収される。あるいは、発光素子3から発光した光のほぼ全体が蛍光体粒子に吸収される。蛍光体粒子はこの一次放射光を吸収して励起され、一次放射光より長波長で発光して外部に出射される。このとき、蛍光発光体4に含有させる蛍光体粒子の種類や、発光素子3の発光波長の選定によって、白色発光の発光装置を形成することができるものである。蛍光発光体4は上記のように蛍光体粒子を分散させた樹脂で発光素子3を封止するものとして形成する他に、蛍光体粒子を分散させた樹脂を板状に成形して蛍光発光体4を形成し、図1(b)のように、この板状他の蛍光発光体4を発光素子3の上に配置して発光装置を形成し、発光素子3の光をこの蛍光発光体4に通過させるようにすることもできる。
【0037】
ここで、蛍光体粒子を分散した樹脂を硬化させて蛍光発光体4を調製するにあたって、蛍光体粒子の粒径が大きいと、樹脂が硬化する時間内にその自重により蛍光体粒子が沈降し、蛍光発光体4内での蛍光体粒子の分散が不均一になり、蛍光発光体4内での蛍光体粒子による波長変換が不均一になって蛍光発光体4の発光に色ムラが生じるが、蛍光体粒子は上記のようにフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液で処理することによって、蛍光体粒子の凝集体を解離させて小粒子化することができる。従って、樹脂への蛍光体粒子の分散性が向上し、樹脂が硬化する間に蛍光体粒子が沈降するようなことはなく、色ムラなく発光させることができるものである。また蛍光体粒子は小粒子化によって、表面に欠陥が発生し易くなって蛍光特性の低下が生じる傾向があるが、上記のように蛍光体粒子をフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液で処理することによって、蛍光体粒子の欠陥は除去されていると共に、欠陥が再度生じないように金属酸化物で被覆されているので、蛍光体粒子の蛍光特性が低下することを防ぐことができる。従って、本発明で処理した蛍光体粒子を用いた発光装置は、蛍光発光体4内での蛍光体粒子による波長変換が均一になり、色ムラなく発光させることができるものである。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
硝酸イットリウム(Y(NO・6HO)を2.7g、塩化アルミニウム(AlCl・6HO)を3.0g、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)を0.2g、純水100mlに溶解し、この混合溶液に、1mol/Lアンモニア水溶液70mLを攪拌しながらゆっくりと滴下し、一晩反応させた。反応終了後、濾過水洗し、得られた粉末を乾燥機中で100℃にて加熱乾燥させた。さらにこの粉末を1300℃で2時間焼結させ、YAG:Ce蛍光体粒子を得た。このYAG:Ce蛍光体粒子の平均粒径は100nmであった。
【0040】
次に、表1の水溶液濃度になるように調製した処理溶液50mLに、上記のYAG:Ce蛍光体粒子を混合し、室温にて20分間攪拌して反応させ、エッチング処理及びSiO被膜の形成処理を行なった後、濾過水洗し、100℃の乾燥機で乾燥して、SiO被膜を表面に被覆したYAG:Ce蛍光体粒子を得た。
【0041】
このSiO被覆YAG:Ce蛍光体粒子を、シリコーン樹脂(信越シリコーン社製「KE106」)100質量部に対して20質量部混合して分散させた。そして実装基板に実装したLED発光素子(発光波長460nm)の上に、この蛍光体粒子を分散させた樹脂を封止して硬化させ、白色LED発光装置(図1参照)を作製した。
【0042】
このようにして得られた白色LED発光装置からの出力光は、色ムラのない、色温度が約4730Kの白色光であり、その効率は25ml/Wであった。
【0043】
(実施例2)
表1の水溶液濃度になるように調製した処理溶液50mLに、実施例1と同様に調製したYAG:Ce蛍光体粒子を混合し、室温にて20分間攪拌して反応させ、エッチング処理及びSiO−TiO被膜の形成処理を行なった後、濾過水洗し、100℃の乾燥機で乾燥して、SiO−TiO被膜を表面に被覆したYAG:Ce蛍光体粒子を得た。
【0044】
そしてこのSiO−TiO被覆YAG:Ce蛍光体粒子を用い、実施例1と同様にして白色LED発光装置を作製した。このようにして得られた白色LED発光装置からの出力光は、色ムラのない、色温度が約4730Kの白色光であり、その効率は26ml/Wであった。
【0045】
(比較例)
HFを0.1質量%となるように希釈したHF水溶液に、実施例1と同様に調製したYAG:Ce蛍光体粒子を混合し、室温にて1時間攪拌して、エッチング処理を行ない、エッチング終了後、濾過水洗して洗浄した。次に、このYAG:Ce蛍光体粒子を、テトラエトキシシラン1.0gを溶解したイソプロパノール50ml中に分散させ、室温で1時間攪拌して反応させ、SiO被膜の形成処理を行なった。反応終了後、濾過水洗し、100℃の乾燥機で乾燥して、SiO被膜を表面に被覆したYAG:Ce蛍光体粒子を得た。
【0046】
そしてこのSiO被覆YAG:Ce蛍光体粒子を用い、実施例1と同様にして白色LED発光装置を作製した。このようにして得られた白色LED発光装置からの出力光は、色温度が約4730Kの白色光であるが、色ムラが所々でみられ、その効率は22ml/Wであった。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】発光装置の一例を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 実装基板
3 発光素子
4 蛍光発光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆するにあたって、金属酸化物を構成する金属を中心原子としフッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液を、蛍光体粒子に接触させることを特徴とする蛍光体粒子の処理方法。
【請求項2】
蛍光体粒子は金属酸化物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体粒子の処理方法。
【請求項3】
上記金属錯イオンはSiF2−であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体粒子の処理方法。
【請求項4】
上記処理溶液には、フッ素を配位子とするSi錯イオンと、フッ素を配位子とするTi錯イオンと、フッ素を配位子とするY錯イオンと、フッ素を配位子とするZr錯イオンから選ばれた少なくとも2種以上の金属錯イオンを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光体粒子の処理方法。
【請求項5】
蛍光体粒子の表面を被覆する金属酸化物を2〜5nmの厚みに形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光体粒子の処理方法。
【請求項6】
上記処理溶液の金属錯イオン濃度は、0.01〜0.2mol/Lであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光体粒子の処理方法。
【請求項7】
発光波長が300nm〜480nmに発光ピークを有する発光素子と、発光素子の光を吸収して発光する請求項1乃至6のいずれかの方法で処理された蛍光体粒子を樹脂に分散させた蛍光発光体とを具備して成ることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかの方法で表面が金属酸化物で被覆されて成ることを特徴とする蛍光体粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−232949(P2006−232949A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48001(P2005−48001)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】