説明

蛍光体薄膜とその成膜方法

【課題】無機EL及びPDP用として良好な、色純度が良く高輝度の蛍光体薄膜と、それを高い成膜速度で形成することができる成膜方法を提供する。
【解決手段】亜鉛、バリウム、アルミニウム、イオウ及びユウロピウムから構成される次の組成式:Znx0Bax1Alx2x3Eux4(式中、x0〜x4は、下記の(1)〜(5)に示す要件を満たす。)で表される硫化物から形成される蛍光体薄膜であって、その化合物組織は、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体として含む相からなることを特徴とする。
(1) 0.01≦x0≦0.02
(2) x1+x4=1
(3) 2.01≦x2≦3.0
(4) 4.0<x3≦4.3
(5) 0.03≦x4≦0.10

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体薄膜とその成膜方法に関し、さらに詳しくは、組成式がBaAl:Euで表される化合物からのみ発光させることができ、すなわち蛍光の発光波長の長波長へのシフトが小さく、かつ発光強度が高い特性を有する、無機EL(エレクトロルミネッセンス)及びPDP(プラズマデスプレイパネル)用として良好な、色純度が良く高輝度の蛍光体薄膜と、それを、硫化水素ガスを使用することなく形成することができる成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータのモニター及び携帯機器の表示素子として、無機EL素子の開発が盛んに行われている。この中で、特に、無機EL素子の蛍光体薄膜として高輝度の青色蛍光体を用いてフルカラー表示を行う方法が提案され、その実用化が注目されている。これまでに開発された有望な蛍光体薄膜としては、組成式がBaAl:Euで表される化合物を主体とする薄膜が挙げられている。これは、組成式がBaAlで表される半導体材料を母体材料として発光中心となる元素(Eu)を置換させたものである。例えば、BaAlからなる母体材料に、Ba格子位置の0.03〜0.10原子%に当たる分のEuSが添加された蛍光体薄膜は色純度が良く、無機EL用蛍光体として期待されている。
【0003】
このような蛍光体薄膜の製造方法としては、硫化水素ガスをスパッタリングガス中に含む反応性スパッタ法、構成する各元素を含む蒸気ガスを供給して膜を形成する反応性蒸着法、分子線エピタキシー法、化学的気相成長法等が行われていた(例えば、特許文献1参照。)。また、組成式がBaAl2:Euで表される化合物(以下、「BaAl2:Eu化合物」と呼称する場合がある。)からなる焼結体ターゲットを用いて、アルゴンと硫化水素の混合ガス中でスパッタリングする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
また、組成式が少なくともバリウムのような2価金属元素、アルミニウムのような3価金属元素及びイオウにより表せる母体材料と発光中心材料とを含有し、酸素の含有割合が5質量%以下であり、さらに硫化亜鉛を含有するターゲットを用いて、亜鉛をスパッタリング中に蒸発させ膜中にイオウを補填する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、組成がバリウムのような2価金属元素、アルミニウムのような3価金属元素により表せる合金ターゲットを硫化水素中でスパッタリングする方法が開示されている(特許文献4)。
【0004】
ところで、昨今のディスプレイ画面の大型化にともない、大型化が容易なスパッタリング法によって、色純度がよく、かつ輝度が高い蛍光体薄膜が望まれ、そのため、このような蛍光体薄膜の成膜に好適な成膜方法が求められている。
【0005】
しかしながら、従来行なわれている、BaAl2:Eu化合物からなる焼結体ターゲット又はBaAl:Eu合金ターゲットを硫化水素中でスパッタリングする蛍光体薄膜作成法には、解決すべき技術的課題が残されている。
例えば、組成がバリウムのような2価金属元素、アルミニウムのような3価金属元素により表せる合金ターゲットを硫化水素中でスパッタリングする方法では、スパッタ中に硫化水素を添加するため、スパッタ装置から硫化水素ガスが漏洩しないように特殊なパッキンを使用したり、漏洩時に硫化水素ガス検知したり、ボンベを自動的に閉じるなどの安全対策が必要である。またアルゴンプラズマで硫化水素が分解、発生したイオウがチャンバーや真空系を汚染する。特に配管、真空イオンゲージや真空弁にイオウが付着すると真空排気速度低下、イオンゲージの断線や真空弁のガス漏洩が発生するためメンテナンス性が悪く量産し難い。また、成膜速度も遅い。
【0006】
以上の状況から、組成式がBaAl:Euで表される化合物を主体として含む、色純度が良く高輝度の蛍光体薄膜を、硫化水素ガスを使用することなく形成することができる成膜方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平07−122364号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開平08−134440号公報(第1〜3頁)
【特許文献3】特開2001−118677号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献4】WO 2005/085493 A1(第14〜17頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、組成式がBaAl:Euで表される化合物からのみ発光させることができ、すなわち蛍光の発光波長の長波長へのシフトが小さく、かつ発光強度が高い特性を有する、無機EL(エレクトロルミネッセンス)及びPDP(プラズマデスプレイパネル)用として良好な、色純度が良く高輝度の蛍光体薄膜と、それを、硫化水素ガスを使用することなく形成することができる成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体として含む蛍光体薄膜とその成膜方法において、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成式で表される膜組成を有する、組成式:BaAl:Euで表される化合物相のみからなる化合物組織を有する硫化物薄膜では、組成式がBaAl:Eu化合物からのみ発光させることができ、蛍光の発光波長の長波長へのシフトが小さく、かつ発光強度が高い特性を有するので色純度が良く、高輝度の青色蛍光体薄膜が得られることを見出した。なお、ここに記載の「相」とは、例えば、「BaAl相」は、組成式がBaAlで表される化合物からなる析出相であることを意味する。
【0010】
また、その成膜方法において、スパッタリング成膜する際に、まず、硫化亜鉛の焼結体からなるターゲットを用いて、特定の基板温度で硫化亜鉛膜を成膜し、続いて硫化亜鉛膜の上に、バリウム、アルミニウム及びユウロピウムから構成され、特定組成で表される合金ターゲットを用いて、特定の基板温度でバリウム、アルミニウム及びユウロピウムからなる合金膜を成膜し、さらに、特定の条件で硫化亜鉛をスパッタリングしたところ、硫化亜鉛(ZnS)がBaAlEu合金と反応し、ZnSが分解し合金が硫化されると共に亜鉛が蒸発し、上記組成の硫化物薄膜が形成され、この方法で色純度が良く高輝度の青色蛍光体薄膜を得ることができることを見出した。本発明はこれらの知見により完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、亜鉛、バリウム、アルミニウム、イオウ及びユウロピウムから構成される次の組成式:
Znx0Bax1Alx2x3Eux4
(式中、x0〜x4は、下記の(1)〜(5)に示す要件を満たす。)
で表される硫化物から形成される蛍光体薄膜であって、
その化合物組織は、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体として含む相からなることを特徴とする蛍光体薄膜が提供される。
(1) 0.01≦x0≦0.02
(2) x1+x4=1
(3) 2.01≦x2≦3.0
(4) 4.0<x3≦4.3
(5) 0.03≦x4≦0.10
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を300〜600℃に保ちながら硫化亜鉛層を成膜し、次いで該硫化亜鉛層の上に、下記の焼結体ターゲット(B)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を400〜650℃に保ちながらBaAlEu合金層をスパッタリング成膜し、続いて、該BaAlEu合金層の上に、下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、基板温度を550〜720℃に保ちながら、硫化亜鉛のスパッタ量が、該BaAlEu合金層中のバリウムのモル数の4.0〜4.2倍になるように硫化亜鉛をスパッタリングすることを特徴とする第1の発明の蛍光体薄膜の成膜方法が提供される。
(A)硫化亜鉛から構成される。
(B)バリウム、アルミニウム、及びユウロピウムから構成される組成式:Bay1Aly2Euy3 (但し、式中、y1〜y3は、y1+y3=1、1.5≦y2≦3.0、0.03≦y3≦0.10、の各要件を満たす。)で表される合金から構成される。
【発明の効果】
【0013】
以上から明らかなように、本発明の蛍光体薄膜は、第1の発明において、所定の組成式で表される膜組成を有し、かつその化合物組織は、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体とする硫化物薄膜であるので、組成式がBaAl:Euで表される化合物からのみ発光させ、蛍光の発光波長の長波長へのシフトが小さく、かつ発光強度が高い特性を有するので色純度が良く、さらに亜鉛濃度が低いため、ZnS相は勿論のことZnAl相も検出されないので、高輝度の青色蛍光体薄膜である。
【0014】
また、本発明の蛍光体薄膜の成膜方法である第2の発明によれば、ZnSから構成される焼結体ターゲット(A)を用いて、上記成膜条件でZnS層を成膜し、次いで所定の組成を有するBaAlEu合金から構成される焼結体ターゲット(B)を用いてBaAlEu合金膜を成膜して、続いて、その上に、焼結体ターゲット(A)を用いて、ZnSをスパッタリングすることにより、ZnSがBaAlEu合金膜と反応して分解し、BaAlEu合金膜の硫化と亜鉛の蒸発が生じて、上記薄膜を形成することができるので、無機EL及びPDP用として良好な、色純度が良く高輝度の蛍光体薄膜を得ることができる。
しかも、基板温度を550℃以上の温度に保ちながら硫化亜鉛をスパッタリングし反応させるので、反応で生じた亜鉛の残留がなく、膜中の亜鉛濃度が低下する。同時に、成膜速度も大きくなり安定した成膜を行うことができる。さらに、硫化水素ガスを添加しないので、スパッタ装置の安全対策が軽減される。また、スパッタリング時にプラズマによる硫化水素の分解とイオウの発生がないのでイオウによるスパッタリングチャンバー及び真空排気配管の汚染をなくすることができる。これらのことより、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の蛍光体薄膜とその成膜方法について詳細に説明する。
1.蛍光体薄膜
本発明の蛍光体薄膜は、亜鉛、バリウム、アルミニウム、イオウ及びユウロピウムから構成される次の組成式:Znx0Bax1Alx2x3Eux4(式中、x0〜x4は、下記の(1)〜(5)に示す要件を満たす。)で表される硫化物から形成される蛍光体薄膜であって、その化合物組織は、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体として含む相からなることを特徴とする。
(1) 0.01≦x0≦0.02
(2) x1+x4=1
(3) 2.01≦x2≦3.0
(4) 4.0<x3≦4.3
(5) 0.03≦x4≦0.10
【0016】
本発明の蛍光体薄膜において、薄膜の化合物組織が、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体とすることが重要である。これによって、無機EL及びPDP用として良好な、色純度が良い蛍光体薄膜が得られる。
【0017】
すなわち、通常、硫化物のスパッタリングにおいては、ターゲット組成と膜組成とを比較すると、BaとAlの比が大きく変動している。例えば、ターゲットのAl/Baモル比が2.2の場合、膜のAl/Baモル比は2.05〜2.10程度に変動する。このように、膜のBaとAlの組成比がAl過剰側になると、膜中にBaAl相が形成されるため、蛍光の発光波長が5nm程度長波長側にシフトし、さらに発光強度も2割程度低下している。
これに対して、本発明ではZnS層とBaAlEu合金膜を別々に成膜し、その上にZnSをスパッタするため組成の制御性が非常に良い。
【0018】
また、上記薄膜の組成は、組成式:Znx0Bax1Alx2x3Eux4で表され、該式中のx0〜x4は、下記の(1)〜(5)で示される関係式を満足することが重要である。これによって、膜中の亜鉛濃度が低いので、無機EL及びPDP用として良好な、特に高輝度の蛍光体薄膜が得られる。
(1) 0.01≦x0≦0.02
(2) x1+x4=1
(3) 2.01≦x2≦3.0
(4) 4.0<x3≦4.3
(5) 0.03≦x4≦0.10
【0019】
まず、亜鉛の組成比(x0)は、0.01≦x0≦0.02の関係式を満足する。この範囲内において、特に高輝度の膜が形成される。すなわち、亜鉛の組成比が0.02を超えると、亜鉛の薄膜中への残留量が多いため、ZnAl相のほかにZnS相も形成されるので、発光強度が低下し輝度が悪くなる。一方、亜鉛の組成比が0.01未満では、BaAlEu合金の全部と反応できないため、膜中に未反応な部分が形成され、蛍光の発光強度が小さくなり、輝度が悪くなるため好ましくない。
【0020】
バリウムの組成比(x1)とユウロピウムの組成比(x4)は、x1+x4=1と、0.03≦x4≦0.10の関係式を満足する。すなわち、ユウロピウムは、蛍光体薄膜の蛍光を発する元素であり、組成式がBaAlで表される母体材料のBaの格子位置を置換している。ユウロピウム(Eu)は、バリウム(Ba)に対して組成比が0.03〜0.10になるように添加される。Euの組成比が0.03未満では、蛍光の発光強度が低くなり、輝度が悪くなるため好ましくない。一方、Euの組成比が0.10を超えると、前記母体材料の結晶性が悪くなるため好ましくない。
【0021】
また、アルミニウムの組成比(x2)は、2.01≦x2≦3.0である。すなわち、Alの組成比が2.01未満では、Ba含有比が高い組成式がBaAlで表される化合物相が蛍光体薄膜中に生成し、蛍光のピーク波長が長波長側にずれるため色純度が悪くなる。一方、Alの組成比が3.0を超えると、組成式がBaAlで表される化合物相が蛍光体薄膜中に生成し、前記母体材料の発光強度が低下し輝度が悪くなるため好ましくない。
【0022】
また、イオウの組成比(x3)は、4.0<x3≦4.3である。すなわち、化学量論組成である4より多い組成比とする。イオウの組成比が4.0以下では、前記母体材料の形成が困難になる。一方、イオウの組成比が4.3を超えると、膜中にイオウが析出する、Baの多硫化物ができやすくなるので、上記薄膜の化合物組織の形成が安定しないため好ましくない。
【0023】
2.蛍光体薄膜の成膜方法
本発明の蛍光体薄膜を得るための成膜方法としては、下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を300〜600℃に保ちながら硫化亜鉛層を成膜し、次いで該硫化亜鉛層の上に、下記の焼結体ターゲット(B)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を400〜650℃に保ちながらBaAlEu合金層をスパッタリング成膜し、続いて、該BaAlEu合金層の上に、下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、基板温度を550〜720℃に保ちながら、硫化亜鉛のスパッタ量が、該BaAlEu合金層中のバリウムのモル数の4.0〜4.2倍になるように硫化亜鉛をスパッタリングすることを特徴とする。
(A)硫化亜鉛から構成される。
(B)バリウム、アルミニウム、及びユウロピウムから構成される組成式:Bay1Aly2Euy3 (但し、式中、y1〜y3は、y1+y3=1、1.5≦y2≦3.0、0.03≦y3≦0.10、の各要件を満たす。)で表される合金から構成される。
【0024】
上記成膜方法では、例えば、ZnSから構成される焼結体ターゲット(A)とBaAlEu合金から構成される焼結体ターゲット(B)の2つのターゲットをスパッタリング装置の2つのカソードに装着し、それらをスパッタリングする手段が適している。このように1つのソースから、基板にZnSとBaAlEu合金を供給することにより、膜中の組成、及び成膜速度が安定し、再現性良く成膜することができる。
【0025】
上記基板としては、特に限定されるものではなく、LCD用の無アルカリガラス又はPDP用のソーダライムガラス基板などのガラス基板、或いはガラス基板上に電極層と誘電体層が積層された基板が用いられる。また、小型の表示基板には、シリコン基板を用いても良い。
【0026】
上記スパッタリングに用いる装置としては、マグネトロンRFスパッタリング装置、例えば、アネルバ(株)製のSPF210H、ULVAC製のMB04−1055等を用いて、所定のアルゴンガス圧下で通常の成膜条件下で行われる。
【0027】
上記成膜方法において、まず、ZnSから構成される焼結体ターゲット(A)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を300〜600℃、好ましくは350℃〜500℃の温度に保ちながら硫化亜鉛層を成膜する。すなわち、ZnSの成膜は室温でも可能であるが、室温で成膜された硫化亜鉛膜が加熱されるときには、ZnS結晶粒が生成し、それが基板から離脱しやすくなる。この離脱された粉末は、基板などに付着してピンホールの原因となる。スパッタリング時に上記温度範囲に基板を保持することにより、成膜された硫化亜鉛層と基板との密着性が向上するため、基板からのZnS結晶粒の離脱は改善される。
ここで用いるZnSはスパッタリング速度が速く、しかも組成ずれもおき難いのでスパッタリング法での成膜に好適な材料である。ここで、スパッタリング時の雰囲気としては、アルゴンガス雰囲気であるので、硫化水素を添加する場合のように、アルゴンプラズマで分解発生したイオウがチャンバー及び真空系を汚染する恐れがない。
【0028】
上記焼結体ターゲット(A)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、硫化亜鉛粉末を焼結する方法が用いられる。上記硫化亜鉛粉末としては、特に限定されるものではなく、純度99.9重量%以上、及び平均粒径3〜20μmの市販の粉末が用いられる。上記焼結方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、硫化亜鉛粉末をカーボン製等の成形型に入れ、アルゴンガス雰囲気下でホットプレス中、或いは雰囲気制御可能な管状炉中で焼結する。上記焼結温度としては、850〜1200℃、好ましくは900〜1100℃である。すなわち、焼結温度が850℃未満では、焼結が進行しないため焼結体密度が低く、また焼結体強度も低いためターゲットとしての取り扱いが難しい。一方、焼結温度が1200℃を超えると、硫化亜鉛が昇華して、均一なターゲットが得られない。
【0029】
次いで、上記硫化亜鉛層の上に、上記BaAlEu合金から構成される焼結体ターゲット(B)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を400〜650℃に保ちながらBaAlEu合金層をスパッタリング成膜する。この焼結体ターゲットは、金属ターゲットであるので、直流、高周波のどちらのスパッタリングでも成膜することができるので、高速に成膜することが可能である。ここで、スパッタリング時の雰囲気としては、アルゴンガス雰囲気であるので、硫化水素を添加する場合のように、アルゴンプラズマで分解発生したイオウがチャンバー及び真空系を汚染する恐れがない。
【0030】
このときスパッタリング時に基板を400〜650℃の温度に加熱する。すなわち、基板の温度が400℃未満では、下地のZnS層と反応しない。一方、基板の温度が650℃を超えると、BaAlEu合金層中のバリウムが反応してZnS面側でBaSを形成し、一方表面側ではバリウムの蒸発が起こるため、組成が均一にならないので好ましくない。
【0031】
上記BaAlEu合金から構成される焼結体ターゲット(B)としては、バリウム、アルミニウム、及びユウロピウムから構成される組成式:Bay1Aly2Euy3で表され、式中のy1〜y3は、y1+y3=1、1.5≦y2≦3.0、0.03≦y3≦0.10、の各要件を満たすものが用いられる。
ここで、y2に関しては、1.5≦y2≦3.0の要件を満足する。すなわち、y2が1.5未満では、最終的に得られる蛍光体膜に望まれる化合物相であるBaAlが得られない。これは、過剰なアルミニウムは、アニール時に硫化アルミニウムとして蒸発するか、或いは亜鉛と反応してZnBaAlとなる。ただし、ZnBaAlは、輝度への影響は少ないので、ZnS層の上に成膜されるBaAlEu合金層中のAlは過剰な組成であることが望ましい。一方、y2が3.0を超えると、最終的に得られる蛍光体膜にBaAl4相が残留するため輝度が低下する。
【0032】
上記焼結体ターゲット(B)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、バリウム、アルミニウム、及びユウロピウムを所定量熔解して合金化する。次に、粉砕し、篩にかけて50〜200μmの原料粉末を作成する。この原料粉末を型詰めし、アルゴンガス雰囲気下で真空ホットプレスを用いて焼結する。
【0033】
続いて、上記BaAlEu合金層の上に、焼結体ターゲット(A)を用いて、基板温度を550〜720℃に保ちながらZnSをスパッタリングし、蛍光体薄膜を作成する。ここで、ZnSのスパッタリングは、次の化学式(1)を基本として、バリウムとアルミニウムの硫化を狙っている。
化学式(1):BaAl+4ZnS=BaAl+4Zn
なお、下地のZnS層の表面はBaAlのスパッタ時に分解し、Baの一部を硫化するが、Alを硫化することは困難である。したがって、ZnSのスパッタ量は、該BaAlEu合金層中のバリウムのモル数の4.0〜4.2倍になるように調整することが望まれる。なお、スパッタ量は、室温でZnSとBaAlEu合金膜を別々に成膜して膜重量を測定してスパッタ速度を求め、スパッタ時間で調整した。
【0034】
すなわち、ZnSのスパッタ量が、4.0未満ではBaAlEu合金層が硫化できない。一方、4.2倍を超えると、過剰なZnやZnSが膜中に残存するため好ましくない。また、基板温度が550℃未満では、硫化膜が作成できないため好ましくない。一方、基板温度が720℃を超えると、反応が均一に進行せず、部分的に焼けたような跡ができるため好ましくない。また、この温度範囲で、ZnSがBaAlEu合金と反応して生成するZnを蒸発させることができる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた焼結体及び膜の組成、焼結体の組織、スパッタリングで得られた膜の蛍光の発光波長と輝度の評価方法は、以下の通りである。
(1)焼結体及び膜の組成の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)焼結体の組織の同定:X線回折法(XRD)で行った。
(3)膜の蛍光の発光波長測定:分光蛍光強度計(ジャスコ製FP−6500ST)で測定し、ピーク波長を求めた。
(4)膜の輝度の測定:分光蛍光強度計(ジャスコ製FP−6500ST)で測定し、ピーク波長での発光強度を求めた。発光強度を相対比較して相対輝度とした。
【0036】
また、実施例及び比較例で用いたスパッタリング方法としては、下記の[スパッタリング方法]の通りである。
[スパッタリング方法]
ターゲットをマグネトロンRFスパッタリング装置(ULVAC製、MB04−1055)のカソードに取り付けて、成膜を行った。ロータリーポンプで2Paまで引いた後、さらに分子ターボポンプで2×10−5Paまで真空に引いた。その後Arガスを入れてスパッタリング圧力0.35Pa、スパッタリングパワー(RF電力)100Wの条件で放電させた。
なお、ターゲットを取り付け後、約60分間プリスパッタを行って表面層を除去した。また、基板には2インチのシリコン基板を用い、得られるZnS層の膜厚が約300nm、またBaAlEu合金層の膜厚が約200nmとなるように成膜した。また、BaAlEu合金薄膜上への硫化亜鉛のスパッタ量は、各実施例又は比較例で所望量になるようにスパッタ時間を調整した。
【0037】
また、実施例及び比較例で用いた焼結体ターゲット(A)、(B)は、それぞれ下記の製造方法により得られたものである。
[焼結体ターゲット(A)の製造]
まず、ZnS粉末(堺化学製)を用いて、これを遠心ボールミル(フリッチュ社製)で粉砕した後、真空ホットプレス(大亜真空製)を用いてアルゴンガス中1050℃の温度で焼結した。その後、得られた焼結体の表面を100μm研磨した後、直径2インチ(50mm)のターゲットを製造した。
【0038】
[焼結体ターゲット(B)の製造]
Ba(ケメタル製2N)とAl(高純度化学製4N)、Eu(高純度化学製3N)を所定量熔解して合金化した。次にスタンプミルで粉砕、篩にかけて50〜200μmの原料粉末を作成した。この原料粉末を型詰めし、真空ホットプレス(大亜真空製)を用いてアルゴンガス中850℃の温度で焼結した。その後、得られた焼結体の表面を100μm研磨した後、直径2インチ(50mm)のターゲットを製造した。ターゲットの組成はBay1Aly2Euy3として、y1=0.94、y2=2.2、y3=0.06であった。
【0039】
(実施例1)
上記ターゲットを用いて、上記[スパッタリング方法]に従ってスパッタリングを行ない、基板温度400℃でZnS層を成膜し、次いでその上に基板温度600℃でBaAlEu合金層を成膜した。続いて、BaAlEu合金層の上に、基板温度を700℃にして、硫化亜鉛をスパッタリングして、蛍光体薄膜を得た。ここで、硫化亜鉛のスパッタ量としては、室温でZnSとBaAlEu合金膜を別々に成膜して膜重量を測定しスパッタ速度を求め、バリウムのモル数の4.0倍になるようにスパッタ時間を調整した。
その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。なお、表1の組成は、BaとEuを加えたものを1.00として、組成比を示した。また、表2では、X線回折法での化合物のピークが、表中の記号で、○は検出されたこと、×は検出されないことを表す。
【0040】
(実施例2)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際の基板温度を600℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0041】
(実施例3)
BaAlEu合金層の成膜時の基板温度を550℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0042】
(実施例4)
ZnS層の成膜時の基板温度を500℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0043】
(実施例5)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際、上記硫化亜鉛のスパッタ量が4.15倍であったこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0044】
(比較例1)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際の基板温度を760℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。なお、得られた膜は中央部が変色し、膜が薄くなっていた。また、蛍光は疎らで均一な蛍光は観察されなかった。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0045】
(比較例2)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際の基板温度を500℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。なお、蛍光は観察されなかった。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0046】
(比較例3)
BaAlEu合金層の成膜時の基板温度を300℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。なお、蛍光は観察されなかった。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0047】
(比較例4)
BaAlEu合金層の成膜時の基板温度を700℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。なお、蛍光は観察されなかった。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0048】
(比較例5)
ZnS層の成膜時の基板温度を100℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。膜は部分的に剥離したため評価することができなかった。
【0049】
(比較例6)
ZnS層の成膜時の基板温度を650℃にしたこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。なお、蛍光は観察されなかった。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0050】
(比較例7)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際、上記硫化亜鉛のスパッタ量が3.5であったこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0051】
(比較例8)
BaAlEu合金層上へ硫化亜鉛をスパッタリングする際、上記硫化亜鉛のスパッタ量が4.5であったこと以外は実施例1と同様に行ない、蛍光体薄膜を得た。その後、上記評価方法に従って、得られた膜の組成、膜の組織、及び膜の蛍光の発光波長と輝度とを求めた。結果を、それぞれ表1、2、3に示す。
【0052】
(比較例9)
従来法による成膜状況を確認するため、上記焼結体ターゲット(B)を用いて、基板温度を600℃とし、硫化水素ガスを0.5Pa流し、さらにArガスを加えてガス圧を0.8Pa、RFパワー100ワットで成膜を行った。
その結果、蛍光体層成膜速度は、実施例1のBaAlEu合金層の成膜速度と比較すると22%と低かった。また、硫化水素がプラズマで分解されるため、成膜直後に真空度を測定するイオンゲージが点灯できない、またスパッタを2時間行うと排気用の配管にイオウが付着する等の問題があった。すなわち、このような従来法による硫化水素ガス中のスパッタリング法では、イオウによるトラブルが発生するとともに、成膜速度が著しく低くかった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表1、2、3より、実施例1〜5では、ターゲット、雰囲気、基板温度等の成膜条件で本発明の方法に従って行われ、形成された蛍光体薄膜の化合物組織がBaAl相の単相であり、かつ膜の組成が本発明の条件を満足しているので、蛍光の発光波長の長波長へのシフトが小さく、かつ輝度が高い特性を有することが分かる。これにより、色純度が良く、かつ高輝度の蛍光体薄膜が達成される。なお、実施例1〜5では、硫化水素ガスを用いないので、これに伴うトラブルは発生しなかった。
【0057】
これに対して、比較例1〜4、6〜8では、成膜時の基板温度又は硫化亜鉛のスパッタ量のいずれかが本発明の方法の条件に従って行われなかったので、膜の組成又は化合物組織において満足すべき結果が得られないことが分かる。そのため、蛍光は観察されても、微弱であった。また、比較例5では、膜が部分的に剥離したため評価することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上より明らかなように、本発明の蛍光体膜とその成膜方法は、無機EL及びPDP用として色純度が良く、高い輝度の蛍光体薄膜とその成膜方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、バリウム、アルミニウム、イオウ及びユウロピウムから構成される次の組成式:
Znx0Bax1Alx2x3Eux4
(式中、x0〜x4は、下記の(1)〜(5)に示す要件を満たす。)
で表される硫化物から形成される蛍光体薄膜であって、
その化合物組織は、組成式:BaAl:Euで表される化合物相を主体として含む相からなることを特徴とする蛍光体薄膜。
(1) 0.01≦x0≦0.02
(2) x1+x4=1
(3) 2.01≦x2≦3.0
(4) 4.0<x3≦4.3
(5) 0.03≦x4≦0.10
【請求項2】
下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を300〜600℃に保ちながら硫化亜鉛層を成膜し、次いで該硫化亜鉛層の上に、下記の焼結体ターゲット(B)を用いて、アルゴンガス雰囲気下に、基板温度を400〜650℃に保ちながらBaAlEu合金層をスパッタリング成膜し、続いて、該BaAlEu合金層の上に、下記の焼結体ターゲット(A)を用いて、基板温度を550〜720℃に保ちながら、硫化亜鉛のスパッタ量が、該BaAlEu合金層中のバリウムのモル数の4.0〜4.2倍になるように硫化亜鉛をスパッタリングすることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体薄膜の成膜方法。
(A)硫化亜鉛から構成される。
(B)バリウム、アルミニウム、及びユウロピウムから構成される組成式:Bay1Aly2Euy3 (但し、式中、y1〜y3は、y1+y3=1、1.5≦y2≦3.0、0.03≦y3≦0.10、の各要件を満たす。)で表される合金から構成される。

【公開番号】特開2009−73965(P2009−73965A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245075(P2007−245075)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】