説明

蛍光体

【課題】 陰極線管(CRT)やフィールドエミッションディスプレイ(FED)などで電子線を照射した場合に、発光輝度が十分に高い蛍光体を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1);
(Lna(1−x−y)LnbReSiO ・・・(1)
[式(1)中、LnaはY、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、LnbはY、La、Gd及びLuからLnaで選ばれたものを除く群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、ReはLa、Gd及びLuを除くランタニド元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。また、x及びyはそれぞれ0≦x≦0.2及び0.001≦y≦0.1の条件を満たす数値を示す。]
で表され、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1〜10%である、蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体に関し、より詳しくは、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の構成材料として使用可能な蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
大画面のテレビジョンとして、価格的に優位なCRT方式の投写型ディスプレイが広く用いられている。これは、赤、緑及び青のモノクロームCRT(陰極線管)3個を用い、画像をスクリーン上に拡大投影する方式のディスプレイである。このディスプレイに用いられる陰極線管の蛍光面には蛍光体が含有されており、この蛍光体に電子線を印加することで励起し、発光させる。
【0003】
ところで、近年のディスプレイの薄型化に伴い、フィールドエミッションディスプレイ(FED)が注目されている。FEDの駆動原理は、上記の陰極線管(CRT)と同様であり、蛍光面に電子線を印加することによって蛍光体を励起し、発光させる。
【0004】
ここで、CRTとFEDとでは、蛍光面に印加する電子線の電圧が大きく異なる。CRTでは25〜30kVの高電圧の電子線を蛍光面に印加するため、電子線が蛍光体粒子内部まで侵入して励起する。
【0005】
これに対し、FEDでは10kV以下の低電圧の電子線を蛍光面に印加するため、電子線は蛍光体粒子表面のみを励起する。このため、FEDにおいては、蛍光体粒子表面の酸素欠陥など、蛍光体粒子の表面状態の制御が、十分な発光輝度を得るために非常に重要となる。
【0006】
CRTやFED等に用いられる蛍光体としては、従来、希土類珪酸塩などからなる蛍光体が知られており、それらについては、例えば、下記非特許文献1及び2で検討されている。
【0007】
CRTやFED等に用いられる蛍光体は、従来、一般的に以下のようにして製造されている。まず、蛍光体の原料となる金属酸化物粉末を混合したものを坩堝などの容器に入れた後、高温で長時間加熱することにより固相反応を進行させる。次に、反応後に得られた固体をボールミルなどで微粉砕した後、分級して蛍光体を得る。この固相法による製造方法は、蛍光体の製造方法として一般的である(例えば、特許文献1参照)。また最近では、噴霧熱分解法などによる蛍光体の製造方法も検討されてきている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【非特許文献1】J.Felche, Struct. Bonding, 1973年, 13号, 99頁
【非特許文献2】J. Wang et al., Mater. Res. Bull., 2001年, 36号, 1855頁
【特許文献1】特開2002−080847号公報
【特許文献2】特開2000−096048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に示されるような固相法により製造される蛍光体は、高温・長時間の加熱及びボールミルなどでの微粉砕によって、粒子表面に、図1に示すような酸素欠陥や、加工変質層などの欠陥が発生しやすい。図1は、蛍光体粒子表面の酸素欠陥を示すために、オージェ電子分光法により観察したYSiO:Tb粒子断面の酸素濃度分布を示す写真であり、破線で示した部分に酸素濃度の高い粒子内部1や、酸素濃度の低い粒子表面2が認められる。そのため、この蛍光体をFED等に用いた場合、十分な発光輝度が得られなかった。
【0010】
また、上記特許文献2に示される方法では、得られる蛍光体は必ずしも十分に高い結晶性を有しておらず、その結果、十分な発光輝度が得られなかった。更に、液滴の形成に超音波を用いているため、製造される蛍光体の平均粒径が1.1μmと小さく、この蛍光体をFEDに用いた場合、十分な発光輝度が得られなかった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などで電子線を照射した場合に、十分に高い発光輝度を得ることが可能な蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、下記一般式(1);
(Lna(1−x−y)LnbReSiO ・・・(1)
[式(1)中、LnaはY、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、LnbはY、La、Gd及びLuからLnaで選ばれたものを除く群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、ReはLa、Gd及びLuを除くランタニド元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。また、x及びyはそれぞれ0≦x≦0.2及び0.001≦y≦0.1の条件を満たす数値を示す。]
で表され、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1〜10%である、蛍光体を提供する。
【0013】
かかる蛍光体では、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合を1〜10%とすることによって、粒子表面の酸素欠陥等の欠陥生成を抑制していると考えられる。すなわち、一般的に粒子表面の欠陥は、上記特許文献1に示されるような、高温・長時間の焼成を行った場合に生成しやすい。上記特許文献1に示される条件下では、空間群B2/bに属する結晶相に完全に転移し、空間群P2/cに属する結晶相は存在しなくなる。また、上記一般式(1)で示される蛍光体において、空間群P2/cに属する結晶相は、低温で焼成を行った場合に生成し、結晶性を低下させる。従って、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1〜10%となる条件で上記一般式(1)で示される蛍光体を製造することによって、当該蛍光体は、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などで電子線を照射した場合に、十分に高い発光輝度を得ることができる。特に、FEDなどで10kV以下の低電圧の電子線を照射した場合、電子線の侵入は粒子表面付近にとどまり、粒子表面のみが発光するため、本発明の効果が十分に発現する。すなわち、上記本発明の蛍光体によれば、FEDなどで10kV以下の低電圧の電子線を照射した場合、十分に高い発光輝度を得ることができる。また、10kVを超える高電圧の電子線を照射した場合でも、電子線の侵入は粒子内部まで及び粒子内部から発光するが、粒子表面も依然として発光に関与しており、本発明の効果の発現が期待できる。
【0014】
また、本発明の蛍光体の平均粒径は、2μm以上であることが好ましい。蛍光体の平均粒径が2μm以上であることにより、粒子内の発光中心間の距離、すなわち、上記一般式(1)中のRe間距離が最適な値となる。その結果、蛍光体に電子線を照射した際、発光を伴わずに失活する無輻射失活の起こる確率が小さくなり、より十分に高い発光輝度が得られる傾向になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などで電子線を照射した場合、特に10kV以下の低電圧の電子線を照射した場合にも、十分に高い発光輝度を得ることが可能な蛍光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
本発明の蛍光体は、下記一般式(1);
(Lna(1−x−y)LnbReSiO ・・・(1)
[式(1)中、LnaはY、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、LnbはY、La、Gd及びLuからLnaで選ばれたものを除く群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、ReはLa、Gd及びLuを除くランタニド元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。また、x及びyはそれぞれ0≦x≦0.2及び0.001≦y≦0.1の条件を満たす数値を示す。]
で表され、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1〜10%であることを特徴とするものである。本発明者らは、上記一般式(1)で表される蛍光体の結晶構造、具体的には、空間群B2/bに属する結晶相に対する、空間群P2/cに属する結晶相の存在割合に最適な範囲が存在することを見出し、上記本発明を成すに至ったものである。
【0018】
ここで、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が10%を超えると、蛍光体粒子の結晶性が低くなり、その結果、10kV以下の電子線で励起された時の発光輝度が低くなる。一方、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1%未満であると、蛍光体粒子表面の酸素欠陥が増大し、その結果、10kV以下の電子線で励起された時の発光輝度が低くなる。また、より高い発光輝度を得る観点から、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合は、1.5〜8%であることが好ましく、2〜6%であることがより好ましい。
【0019】
なお、本発明で規定する、空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合とは、以下のように定義されるものである。
【0020】
まず、上記の非特許文献1及び非特許文献2等により、YSiOの結晶相として、空間群B2/bに属するYSiO結晶相と、空間群P2/cに属するYSiO結晶相とが存在することが知られており、空間群B2/bに属するYSiO結晶相は高温相、空間群P2/cに属するYSiO結晶相は低温相であることが非特許文献2に記載されている。そして、上記一般式(1)で表される蛍光体もYSiOと同様の結晶構造を有しており、空間群B2/bに属する結晶相(高温相)と、空間群P2/cに属する結晶相(低温相)とが存在する。
【0021】
以降、本明細書においては、上記一般式(1)で表される蛍光体における、空間群B2/bに属する結晶相、すなわち高温相を「X結晶相」、空間群P2/cに属する結晶相、すなわち低温相を「X結晶相」とそれぞれ表記する。
【0022】
上記一般式(1)で表される蛍光体において、X結晶相に対するX結晶相の存在割合は、リートベルト解析により次の方法で算出する。
【0023】
まず、Rigaku社製、Geigerflex RAD−IIAなどのX線回折測定装置を用いて、得られた蛍光体のX線回折パターンを測定する。このとき、精密な解析パラメータを得るために、測定する回折角度2θは10〜110°であることが好ましい。同様に、測定する回折角度間隔は0.02°以下であることが好ましい。同様に、測定する時間は、得られるX線回折パターンの最大ピークの回折強度が5000以上になるように設定することが好ましい。
【0024】
以上の測定で得られたX線回折パターン、すなわちピークプロファイルを、pseudo−Voigt関数、及びHowardの手法により非対称化し、X結晶相に関係する尺度因子sx1及びX結晶相に関係する尺度因子sx2をそれぞれ精密化し、さらに下記式(2);
x1={(sx1x1x1)/(sx2x2x2)}×100 ・・・(2)
[式(2)中、Dx1及びDx2はそれぞれ、X結晶相及びX結晶相の密度を示し、Vx1及びVx2はそれぞれ、X結晶相及びX結晶相の体積を示す。これらの代表的な値は、上記非特許文献1及び上記非特許文献2等により得たり求めたりすることができ、上記に示したリートベルト解析によってDx1、Dx2、Vx1及びVx2を精密化した。]
に代入することによって、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1(%)を求めることができる。
【0025】
なお、リートベルト解析には、RIETAN−2000などのリートベルト解析用のソフトウェアを使用することができる。また、上記一般式(1)中のxは、0≦x≦0.2の条件を満たす数値であり、0.05≦x≦0.2の条件を満たすことが好ましく、0.1≦x≦0.2の条件を満たすことがより好ましい。更に、上記一般式(1)中のyは、0.001≦y≦0.1の条件を満たす数値であり、0.005≦y≦0.08の条件を満たすことが好ましく、0.007≦y≦0.07の条件を満たすことがより好ましい。
【0026】
また、本発明の蛍光体の平均粒径は、2μm以上であることが好ましく、3〜7μmであることがより好ましく、3〜5μmであることが特に好ましい。平均粒径が2μm未満であると、蛍光体粒子1個あたりの発光輝度が低くなり、その結果、蛍光体に電子線を照射したときに得られる発光輝度が低くなる傾向がある。
【0027】
ここで、蛍光体の平均粒径は以下の方法で求められる。まず、走査電子顕微鏡により1500倍の蛍光体粒子像を観察して、複数個の蛍光体粒子をランダムに選択する。このとき、正確を期するために200個以上の蛍光体粒子を選択することが好ましい。次いで、それぞれの蛍光体粒子について最大の径(長径)及び最小の径(短径)を測定する。そして、長径及び短径の積の平方根を算出して、それを蛍光体粒子の粒径とする。求められたそれぞれの蛍光体粒子の粒径を、測定した蛍光体粒子の個数で割ったものを蛍光体(蛍光体粒子群)の平均粒径として定義する。
【0028】
上記一般式(1)で表され、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%である蛍光体の粒子は、例えば、ゾル・ゲル法や噴霧熱分解法等、溶液を原料として用いる方法によって蛍光体の前駆体となる粒子を作製し、その前駆体を焼成することによって製造することができる。ここで、前駆体の粒子を作製する際には、その平均粒径が所望の範囲となるように調整することが好ましい。なお、従来用いられている固相法では、金属酸化物粉末を原料とするため、上記一般式(1)で表される蛍光体の粒子を得るためには、高温で長時間の反応を必要とする。そのため、固相法では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%である蛍光体を得ることが困難であり、発光輝度が低下する。
【0029】
なお、本発明において、ゾル・ゲル法、及び噴霧熱分解法は、次のように定義される方法である。
【0030】
まず、ゾル・ゲル法では、得ようとする上記一般式(1)の蛍光体を構成する金属元素を含有する水溶液、すなわち、Lna、Lnb、Re及びSiの元素をそれぞれ含有する水溶液を、所望の化学組成(目的とする上記一般式(1)で表される蛍光体の化学組成)に合わせて混合する。
【0031】
なお、上記一般式(1)中、Lna、Lnb及びReで表記される金属を含有する水溶液としては、これら金属の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物などを水溶液にしたものが好適に用いられる。また、より十分な発光輝度を得るためには、これらの水溶液中における全金属元素中のLna、Lnb及びReの純度は99.9原子%以上であることが好ましい。
【0032】
さらに、上記一般式(1)中、Siを含有する溶液の原料として、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケートなどを好適に用いることができる。これらは、エタノール等を溶媒とした溶液として用いることができる。なお、より十分な発光輝度を得るためには、Siを含む溶液における全Si塩中のテトラメチルオルトシリケート及びテトラエチルオルトシリケートの純度は、Si換算で99.9原子%以上であることが好ましい。
【0033】
次に、上述した各金属元素を含有する溶液を攪拌混合して原料溶液を調製する。得られた原料溶液を、それと同容量のアルカリ水溶液中に滴下し、上記一般式(1)で表される蛍光体の前駆体を作製する。このときに用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられるが、金属元素を含まないアンモニア水溶液を用いることが好ましい。またこのとき、平均粒径が2μm以上の蛍光体粒子を得るために、蛍光体の前駆体の平均粒径が2μm以上になるように調整することが好ましい。
【0034】
そして、上記の方法により得られた前駆体を、株式会社広築製の超高速昇温電気炉HLF−2030型や、株式会社モトヤマ製のNLA−2025D型等の電気炉を用いて焼成することにより、上記一般式(1)で表される蛍光体を製造する。
【0035】
ここで、前駆体の焼成温度は1100℃〜1500℃とすることが好ましい。1100℃未満の焼成温度では、本発明で規定した存在割合Wx1の範囲を超えるX結晶相が存在しやすくなるため、蛍光体の結晶性が不十分となり、発光輝度が低下する傾向がある。一方、1500℃を超える焼成温度では、X結晶相の存在割合Wx1が、本発明で規定した範囲を下回りやすく、発光輝度が低下する傾向がある。
【0036】
前駆体の焼成時間は30分以上5時間以下であることが好ましい。30分未満の焼成時間では、本発明で規定した存在割合Wx1の範囲を超えるX結晶相が存在しやすくなるため、蛍光体の結晶性が不十分となり、発光輝度が低下する傾向がある。一方、焼成時間が5時間を超えると、X結晶相の存在割合Wx1が、本発明で規定した範囲を下回りやすく、発光輝度が低下する傾向がある。
【0037】
なお、焼成雰囲気としては、大気雰囲気、窒素ガス流通下などの不活性ガス雰囲気、希釈水素ガス流通下などの還元雰囲気等が挙げられるが、より十分な発光輝度を有する蛍光体を得るためには、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気とすることが好ましく、更に高い発光輝度を有する蛍光体を得るためには、還元雰囲気とすることがより好ましい。
【0038】
次に、噴霧熱分解法では、得ようとする上記一般式(1)の蛍光体を構成する金属元素を含有する水溶液、すなわち、Lna、Lnb、Re及びSiの元素をそれぞれ含有する水溶液を、所望の化学組成(目的とする上記一般式(1)で表される蛍光体の化学組成)に合わせて混合する。
【0039】
また、上記一般式(1)中、Lna、Lnb及びReで表記される金属を含有する水溶液としては、これら金属の硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物などを水溶液にしたものが好適に用いられる。また、より十分な発光輝度を得るためには、これらの水溶液中における全金属元素中のLna、Lnb及びReの純度は99.9原子%以上であることが好ましい。
【0040】
さらに、上記一般式(1)中、Siを含有する溶液の原料として、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケートなどを好適に用いることができる。これらは、エタノール等を溶媒とした溶液として用いることができる。なお、より十分な発光輝度を得るためには、Siを含む溶液における全Si塩中のテトラメチルオルトシリケート及びテトラエチルオルトシリケートの純度は、Si換算で99.9原子%以上であることが好ましい。
【0041】
次に、上述した各金属元素を含有する溶液を攪拌混合して原料溶液を調製する。次いで、得られた原料溶液の液滴を形成し、キャリアーガスを用いた噴霧によりその液滴を熱分解炉内に導入する噴霧熱分解法を用いて、上記一般式(1)で表される蛍光体の前駆体を作製する。
【0042】
ここで、原料溶液の液滴を形成する方法としては、2流体ノズルを利用する方法、超音波を利用する方法などが挙げられるが、生成する液滴の径及び収量を好適なものとする観点から、2流体ノズルを利用する方法が好ましい。超音波によって液滴を形成する方法は、例えば上記特許文献2等に示されているが、かかる方法では得られる液滴の径が小さいとともに、液滴の量が少なく、蛍光体の収率が低いという不都合がある。
【0043】
2流体ノズルは公知のものを用いることができ、例えば図2に模式的に示す2流体ノズル10を用いることができる。2流体ノズル10は、円筒状の本体部15と、本体部の端面に設けられた切頭円錐状の液滴噴出部14と、本体部15の側面から突出して設けられた円筒状のガス導入部13とを備えている。本体部15は、その軸方向に円筒状の中空部16を有している。液滴噴出部14は、本体部15の中空部16と接続した円筒状の中空部146を、底面から先端に向かって備えている。中空部16の液滴噴出部14とは反対側の端部は溶液導入口12であり、ここから金属元素を含む原料溶液が2流体ノズル10内に流れ込む。ガス導入部13は、その軸方向に円筒状の中空部136を有している。中空部136の本体部15とは反対側の端部はガス導入口132であり、ここからキャリアーガスが2流体ノズル10に流れ込む。中空部16と136とは、本体部15内で導通しており、その接続部18で原料溶液とキャリアーガスとが互いに接触する。接続部18で接触した原料溶液及びキャリアーガスは、混合により液滴を形成しながら、中空部16を液滴噴出部14に向かって流れる。液滴噴出部14の中空部146に到達した原料溶液とキャリアーガスとの混合物(一部又は大部分は液滴を形成している)は、液滴噴出部14の液滴噴出口142から噴出し、液滴が噴霧される。
【0044】
2流体ノズルに流通させる原料溶液の流通速度及びキャリアーガスの流通速度は、原料溶液の濃度などに合わせて調整することができる。本発明の蛍光体粒子をより効率的に得るためには、形成した液滴の熱分解炉内での滞留時間が1秒間以上10分間以下になるように設定することが好ましく、30秒間以上8分間以下がより好ましく、1分間以上3分間以下が更に好ましい。
【0045】
また、平均粒径が2μm以上の蛍光体粒子を得るために、2流体ノズルから生成する液滴の平均粒径は5μm以上であることが好ましく、7〜20μmであることがより好ましく、10〜15μmであることが特に好ましい。なお液滴の平均粒径は、落下する液滴にレーザー光線を照射したときの、レーザーの回折角度から液滴の径を算出する方法により測定することができる。
【0046】
また、液滴を熱分解炉内に導入する際に2流体ノズルに流通させるキャリアーガスの種類としては、空気及び窒素などが挙げられるが、特に限定されない。
【0047】
熱分解炉内の温度は、2流体ノズルに流通させる原料溶液の流通速度や流量及びキャリアーガスの流通速度や流量、並びに液滴の熱分解炉内での滞留時間に合わせて調整することができる。本発明の蛍光体粒子をより効率的に得るためには、熱分解炉内での温度を460℃以上950℃以下に設定することが好ましい。
【0048】
次に、上記の方法により得られた前駆体を、株式会社広築製の超高速昇温電気炉HLF−2030型や、株式会社モトヤマ製のNLA−2025D型等の電気炉を用いて焼成することにより、上記一般式(1)で表される蛍光体を製造する。
【0049】
ここで、前駆体の焼成温度は1100℃〜1500℃とすることが好ましい。1100℃未満の焼成温度では、本発明で規定した存在割合Wx1の範囲を超えるX結晶相が存在しやすくなるため、蛍光体の結晶性が不十分となり、発光輝度が低下する傾向がある。一方、1500℃を超える焼成温度では、X結晶相の存在割合Wx1が、本発明で規定した範囲を下回りやすく、発光輝度が低下する傾向がある。
【0050】
前駆体の焼成時間は30分以上5時間以下であることが好ましい。30分未満の焼成時間では、本発明で規定した存在割合Wx1の範囲を超えるX結晶相が存在しやすくなるため、蛍光体の結晶性が不十分となり、発光輝度が低下する傾向がある。一方、焼成時間が5時間を超えると、X結晶相の存在割合Wx1が、本発明で規定した範囲を下回りやすく、発光輝度が低下する傾向がある。
【0051】
なお、焼成雰囲気としては、大気雰囲気、窒素ガス流通下などの不活性ガス雰囲気、希釈水素ガス流通下などの還元雰囲気等が挙げられるが、より十分な発光輝度を有する蛍光体を得るためには、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気とすることが好ましく、更に高い発光輝度を有する蛍光体を得るためには、還元雰囲気とすることがより好ましい。
【0052】
本発明の蛍光体を励起する電子線の電圧は特に制限されないが、10kV以下であることが好ましい。10kVを超える電圧の電子線を照射した場合、電子線は蛍光体粒子の表面だけでなく、粒子内部にも侵入するようになる。一方、10kV以下の電圧の電子線を照射した場合、電子線は蛍光体粒子の内部に侵入することなく、粒子表面のみを励起することとなる。そのため、本発明の蛍光体を用いたことによる発光輝度の向上効果を極めて有効に得ることができる。したがって、本発明の蛍光体は、高電圧の電子線を蛍光面に印加するCRT等に利用することも可能であるが、FED等の10kV以下の低電圧の電子線を蛍光面に印加する用途に特に有効に利用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜3及び比較例1)
実施例1ではまず、噴霧熱分解法により、(Y0.89Gd0.10Ce0.01SiO蛍光体の前駆体を製造した。具体的には、始めに、0.5mol/l硝酸イットリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.5mol/l硝酸ガドリニウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.1mol/l硝酸セリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)及び1mol/lテトラエチルオルトシリケートエタノール溶液(多摩化学工業株式会社製、純度99.9%のエタノール溶液)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、その混合溶液1000mlを1200〜1300rpmで5分間攪拌することにより、熱分解炉内に液滴として導入する原料溶液を調製した。
【0055】
次に、図2に模式的に示したものと同様の2流体ノズルを用いて上記原料溶液から液滴(平均粒径12μm)を形成し、その液滴を620℃の熱分解炉内に噴霧により導入した。このとき、原料溶液の流通速度(流量)は1000ml/hr、キャリアーガスである空気の流通速度(流量)は15000ml/minとした。液滴の炉内滞留時間を、キャリアーガス流通速度及び炉内容積(31400cm)から算出したところ、2分間であった。こうして蛍光体の前駆体を製造した。得られた前駆体は、クリーム色の粉末状であった。
【0056】
次に、上記蛍光体の前駆体をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1300℃で5時間焼成して、実施例1の蛍光体(平均粒径3.3μm)を得た。なお、焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0057】
また、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1400℃で5時間焼成した以外は実施例1と同様にして、実施例2の蛍光体(平均粒径3.9μm)を得た。更に、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1500℃で5時間焼成した以外は実施例1と同様にして、実施例3の蛍光体(平均粒径4.3μm)を得た。
【0058】
比較例1では、固相反応法により(Y0.89Gd0.10Ce0.01SiO蛍光体を製造した。すなわち、まず、酸化イットリウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、酸化ガドリニウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、酸化セリウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)及び酸化ケイ素粉末(多摩化学工業株式会社製、純度99.99%)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、混合粉末を500g作製した。混合にはメノウ乳鉢を用い、30分間混合した。
【0059】
次いで、上記混合粉末をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1500℃で12時間焼成した。焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0060】
次に、焼成により得られた蛍光体の焼結体を、フリッチュ・ジャパン製ボールミル(P−5)を用いて微粉砕した。微粉砕後の粉末を水中に分散させた後静置し、上澄みを除去する沈降分級によって比較例1の蛍光体(平均粒径4.4μm)を得た。
【0061】
実施例1〜3及び比較例1で得られた蛍光体をリートベルト解析によって解析し、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1を算出した。その結果を、蛍光体粒子の物性として表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜3の蛍光体では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲内であるが、比較例1の蛍光体ではこの範囲外である。
【0064】
次に、実施例1〜3及び比較例1の蛍光体の発光特性を比較した。始めに、3×2cmのITO(インジウム−スズ酸化物)基板上に蛍光体を次の手順で沈降塗布し、蛍光膜を形成した。すなわち、まず、蛍光体0.1gをイオン交換水120mlの入った200mlビーカーに加えて15分間超音波分散させ、蛍光体分散水溶液を作製した。次いで、蛍光体分散水溶液を、ITO基板と150mlのイオン交換水とが入った300mlビーカーに加え、1日静置して蛍光体をITO基板上に堆積させた。蛍光体堆積後のITO基板を水中から取り出し、室温で1日静置した後、真空中、240℃で2時間乾燥させ、ITO基板表面に蛍光膜を形成した。なお、蛍光体の塗布量は、ITO基板表面1cm当たり3.2mgであった。
【0065】
こうして得られた蛍光膜に、セテック株式会社製の電子線照射装置を用いて1.4kV、300μAの電子線を照射し、このときの発光輝度をコニカミノルタホールディングス株式会社製の輝度計(LS−110)を用いて測定した。なお、発光輝度は、比較例1の蛍光体を用いた場合の発光輝度を基準(100)にした相対輝度として評価した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示されるように、実施例1〜3の蛍光体と比較例1の蛍光体とを比較すると、実施例の蛍光体では7〜10%の輝度改善効果が得られている。これは、比較例1の蛍光体は、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲から外れているためであると推察される。
【0068】
(実施例4〜6及び比較例2)
実施例4ではまず、噴霧熱分解法により、(Y0.83Gd0.10Tb0.07SiO蛍光体の前駆体を製造した。具体的には、始めに、0.5mol/l硝酸イットリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.5mol/l硝酸ガドリニウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.1mol/l硝酸テルビウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.9%の水溶液)及び1mol/lテトラエチルオルトシリケートエタノール溶液(多摩化学工業株式会社製、純度99.9%のエタノール溶液)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、混合溶液1000mlを1200〜1300rpmで5分間攪拌することにより、熱分解炉内に液滴として導入する原料溶液を調製した。
【0069】
次に、図2に模式的に示したものと同様の2流体ノズルを用いて上記原料溶液から液滴(平均粒径14μm)を形成し、その液滴を620℃の熱分解炉内に噴霧により導入した。このとき、原料溶液の流通速度(流量)は1000ml/hr、キャリアーガスである空気の流通速度(流量)は15000ml/minとした。液滴の炉内滞留時間を、キャリアーガス流通速度及び炉内容積(31400cm)から算出したところ、2分間であった。こうして蛍光体の前駆体を製造した。
【0070】
次に、上記蛍光体の前駆体をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1300℃で5時間焼成して、実施例4の蛍光体(平均粒径3.6μm)を得た。なお、焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0071】
また、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1300℃で1時間焼成した以外は実施例4と同様にして、実施例5の蛍光体(平均粒径3.4μm)を得た。更に、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1300℃で3時間焼成した以外は実施例4と同様にして、実施例6の蛍光体(平均粒径3.3μm)を得た。
【0072】
比較例2では、固相反応法により(Y0.83Gd0.10Tb0.07SiO蛍光体を製造した。すなわち、まず、酸化イットリウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、酸化ガドリニウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、酸化テルビウム粉末(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)及び酸化ケイ素粉末(多摩化学工業株式会社製、純度99.9%)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、混合粉末を500g作製した。混合にはメノウ乳鉢を用い、30分間混合した。
【0073】
次いで、上記混合粉末をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1500℃で12時間焼成した。焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0074】
次に、焼成により得られた蛍光体の焼結体を、フリッチュ・ジャパン製ボールミル(P−5)を用いて微粉砕した。微粉砕後の粉末を水中に分散させた後静置し、上澄みを除去する沈降分級によって比較例2の蛍光体(平均粒径5.2μm)を得た。
【0075】
実施例4〜6及び比較例2で得られた蛍光体をリートベルト解析によって解析し、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1を算出した。その結果を、蛍光体粒子の物性として表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
実施例4〜6の蛍光体では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲内であるが、比較例2の蛍光体ではこの範囲外である。
【0078】
次に、実施例4〜6及び比較例2の蛍光体の発光特性を比較した。始めに、3×2cmのITO(インジウム−スズ酸化物)基板上に蛍光体を次の手順で沈降塗布し、蛍光膜を形成した。すなわち、まず、蛍光体0.1gをイオン交換水120mlの入った200mlビーカーに加えて15分間超音波分散させ、蛍光体分散水溶液を作製した。次いで、蛍光体分散水溶液を、ITO基板と150mlのイオン交換水とが入った300mlビーカーに加え、1日静置して蛍光体をITO基板上に堆積させた。蛍光体堆積後のITO基板を水中から取り出し、室温で1日静置した後、真空中、240℃で2時間乾燥させ、ITO基板表面に蛍光膜を形成した。なお、蛍光体の塗布量は、ITO基板表面1cm当たり3.2mgであった。
【0079】
こうして得られた蛍光膜に、セテック株式会社製の電子線照射装置を用いて1.4kV、300μAの電子線を照射し、このときの発光輝度をコニカミノルタホールディングス株式会社製の輝度計(LS−110)を用いて測定した。なお、発光輝度は、比較例2の蛍光体を用いた場合の発光輝度を基準(100)にした相対輝度として評価した。その結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4に示されるように、実施例4〜6の蛍光体と比較例2の蛍光体とを比較すると、実施例4〜6の蛍光体では2〜9%の輝度改善効果が得られている。これは、比較例2では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲から外れているためであると推察される。
【0082】
(実施例7〜9)
実施例7ではまず、ゾル・ゲル法により(Y0.89Gd0.10Ce0.01SiO蛍光体の前駆体を製造した。具体的には、始めに、0.5mol/l硝酸イットリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.5mol/l硝酸ガドリニウム水溶液(信越化学工業製、純度99.99%の水溶液)、0.1mol/l硝酸セリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)及び1mol/lテトラエチルオルトシリケートエタノール溶液(多摩化学工業株式会社製、純度99.9%のエタノール溶液)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、混合溶液100mlを200〜300rpmで3分間攪拌することにより、原料溶液を調製した。
【0083】
この原料溶液100mlを、4質量%に希釈したアンモニア水溶液(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)100ml中に10分間かけて滴下し、蛍光体の前駆体を製造した。得られた前駆体は、白色の粉末状であった。
【0084】
次に、上記蛍光体の前駆体をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1300℃で5時間焼成して、実施例7の蛍光体(平均粒径4.2μm)を得た。なお、焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0085】
また、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1400℃で5時間焼成した以外は実施例7と同様にして、実施例8の蛍光体(平均粒径4.6μm)を得た。更に、蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1500℃で5時間焼成した以外は実施例7と同様にして、実施例9の蛍光体(平均粒径4.3μm)を得た。
【0086】
実施例7〜9で得られた蛍光体をリートベルト解析によって解析し、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1を算出した。その結果を、蛍光体粒子の物性として表5に示す。
【0087】
【表5】

【0088】
実施例7〜9の蛍光体では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲内である。
【0089】
次に、実施例7〜9の蛍光体の発光特性を、比較例1の蛍光体の発光特性と比較した。始めに、3×2cmのITO(インジウム−スズ酸化物)基板上に蛍光体を次の手順で沈降塗布し、蛍光膜を形成した。すなわち、まず、蛍光体0.1gをイオン交換水120mlの入った200mlビーカーに加えて15分間超音波分散させ、蛍光体分散水溶液を作製した。次いで、蛍光体分散水溶液を、ITO基板と150mlのイオン交換水とが入った300mlビーカーに加え、1日静置して蛍光体をITO基板上に堆積させた。蛍光体堆積後のITO基板を水中から取り出し、室温で1日静置した後、真空中、240℃で2時間乾燥させ、ITO基板表面に蛍光膜を形成した。なお、蛍光体の塗布量は、ITO基板表面1cm当たり3.2mgであった。
【0090】
こうして得られた蛍光膜に、セテック株式会社製の電子線照射装置を用いて5kV、1mAの電子線を照射し、このときの発光輝度をコニカミノルタホールディングス株式会社製の輝度計(LS−110)を用いて測定した。なお、発光輝度は、比較例1の蛍光体を用いた場合の発光輝度を基準(100)にした相対輝度として評価した。その結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
表6に示されるように、実施例7〜9の蛍光体と比較例7の蛍光体とを比較すると、実施例7〜9の蛍光体では7〜10%の輝度改善効果が得られている。これは、比較例1の蛍光体では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合Wx1が1〜10%の範囲から外れているためであると推察される。
【0093】
(比較例3及び4)
比較例3ではまず、ゾル・ゲル法により、(Y0.89Gd0.10Ce0.01SiO蛍光体の前駆体を製造した。具体的には、始めに、0.5mol/l硝酸イットリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)、0.5mol/l硝酸ガドリニウム水溶液(信越化学工業製、純度99.99%の水溶液)、0.1mol/l硝酸セリウム水溶液(信越化学工業株式会社製、純度99.99%の水溶液)及び1mol/lテトラエチルオルトシリケートエタノール溶液(多摩化学工業株式会社製、純度99.9%のエタノール溶液)を、作製する蛍光体の化学組成にあわせた比率で混合し、混合溶液100mlを200〜300rpmで3分間攪拌することにより、原料溶液を調製した。
【0094】
この原料溶液100mlを、4質量%に希釈したアンモニア水溶液(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)100ml中に10分間かけて滴下し、蛍光体の前駆体を製造した。得られた前駆体は、白色の粉末状であった。
【0095】
次に、上記蛍光体の前駆体をアルミナ製の容器に入れ、株式会社モトヤマ製の雰囲気式高速昇温電気炉(NLA−2025D)を用いて、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1050℃で8時間焼成して、比較例3の蛍光体(平均粒径4.4μm)を得た。なお、焼成温度は、JIS−Bダブルタイプの熱電対によって確認し、株式会社チノー製のデジタルプログラム調節計(KP1130B005)で制御した。
【0096】
また、上記蛍光体の前駆体を、0.5%の窒素バランス水素気流5000ml/min中、1600℃で8時間焼成した以外は比較例3と同様にして、比較例4の蛍光体(平均粒径4.5μm)を得た。
【0097】
比較例3及び4で得られた蛍光体をリートベルト解析によって解析し、X結晶相に対するX結晶相の存在割合WX1を算出した。その結果を、蛍光体粒子の物性として表7に示す。
【0098】
【表7】

【0099】
比較例3及び4の蛍光体では、いずれもX結晶相に対するX結晶相の存在割合WX1が1〜10%の範囲外である。
【0100】
次に、比較例3及び4の蛍光体の発光特性を、比較例1の蛍光体と比較した。始めに、3×2cmのITO(インジウム−スズ酸化物)基板上に蛍光体を次の手順で沈降塗布し、蛍光膜を形成した。すなわち、まず、蛍光体0.1gをイオン交換水120mlの入った200mlビーカーに加えて15分間超音波分散させ、蛍光体分散水溶液を作製した。次いで、蛍光体分散水溶液をITO基板と150mlのイオン交換水の入った300mlビーカーに加え、1日静置して蛍光体をITO基板上に堆積させた。蛍光体堆積後のITO基板を水中から取り出し、室温で1日静置した後、真空中、240℃で2時間乾燥させ、ITO基板表面に蛍光膜を形成した。なお、蛍光体の塗布量は、ITO基板表面1cm当たり3.2mgであった。
【0101】
こうして得られた蛍光膜に、セテック株式会社製の電子線照射装置を用いて5kV、1mAの電子線を照射し、このときの輝度をコニカミノルタホールディングス株式会社製の輝度計(LS−110)を用いて測定した。なお、発光輝度は、比較例1の蛍光体を用いた場合の発光輝度を基準(100)にした相対輝度として評価した。その結果を表8に示す。
【0102】
【表8】

【0103】
表8に示されるように、比較例3及び4の蛍光体と比較例1の蛍光体とを比較すると、比較例3及び4の蛍光体では輝度改善効果は得られない。これは、比較例3及び4の蛍光体では、X結晶相に対するX結晶相の存在割合WX1が1〜10%の範囲から外れているためであると推察される。
【0104】
以上より、本発明の蛍光体(実施例1〜9)によれば、比較例1〜4の蛍光体と比較して、電子線を照射した場合(特に10kV以下の低電圧の電子線を照射した場合)に、十分に高い発光輝度が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】オージェ電子分光法により観察したYSiO:Tb粒子断面の酸素濃度分布を示す写真である。
【図2】2流体ノズルの模式透視側面図である。
【符号の説明】
【0106】
1…酸素濃度の高い粒子内部、2…酸素濃度の低い粒子表面、10…2流体ノズル、12…溶液導入口、13…ガス導入部、14…液滴噴出部、15…本体部、16、136、146…中空部、18…接続部、132…ガス導入口、142…液滴噴出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
(Lna(1−x−y)LnbReSiO ・・・(1)
[式(1)中、LnaはY、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、LnbはY、La、Gd及びLuからLnaで選ばれたものを除く群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、ReはLa、Gd及びLuを除くランタニド元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。また、x及びyはそれぞれ0≦x≦0.2及び0.001≦y≦0.1の条件を満たす数値を示す。]
で表され、
空間群B2/bに属する結晶相に対する空間群P2/cに属する結晶相の存在割合が1〜10%である、蛍光体。
【請求項2】
平均粒径が2μm以上である、請求項1記載の蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314747(P2007−314747A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218689(P2006−218689)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】