説明

蛍光検出装置

【課題】 従来のプリズムを用いたエバネッセント照明による蛍光単分子観察装置では,プリズムとサンプルの間を満たすマッチング液の操作性が悪く,装置を汚したり,エバネッセント照明の障害となったりする。
【解決手段】 プリズムのサンプル基板と対向する面にウェルを設け,前記ウェル内にマッチング液を充填し,サンプル基板を内包させてプリズムとの間を前記マッチング液で満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,透明材質の基板の表面上にエバネッセント場を生成し,基板表面上に供給された液体試料中の蛍光標識された生体分子をエバネッセント場で励起し,その結果生体分子から放射された蛍光を検出することにより,生体分子を定性的に検出あるいは定量する分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,励起光源から出力された励起光を透明なサンプル基板に照射し,その内部で励起光を全反射させることにより,基板表面に生じるエバネッセント場を利用した,蛍光1分子観察が行われている。
【0003】
例えば(非特許文献1)では,蛍光1分子観察において,エバネッセント場を生成するために,プリズム平面とサンプル基板を平行かつ向かい合わせに配置し,その間を両者の屈折率を整合させるマッチング液で満たす構成が用いられている。
【0004】
また,(非特許文献2)では,全反射エバネッセント照射検出方式を用いた単分子レベルのDNAシーケンシングを行っている。レーザとして波長532 nmおよび635 nmを用いて,それぞれ蛍光体Cy3および蛍光体Cy5の蛍光検出に利用している。溶液で満たされたサンプル基板上に,単一のターゲットDNA分子をビオチン−アビジンのタンパク質結合を利用して固定化し,溶液中にCy3一分子で標識されたプライマを溶液交換によって一定濃度になるように導入すると,単一の蛍光標識プライマ分子がターゲットDNA分子にハイブリダイズする。この時,Cy3はエバネッセント場に存在するため,ターゲットDNA分子の結合位置を蛍光検出によって確認することができる。確認後,Cy3を高出力の532 nmの励起光で照射することによって蛍光退色させ,以降の蛍光発光を抑制する。次に,溶液中に,ポリメラーゼ,およびCy5一分子で標識された一種類の塩基のdNTP(NはA,C,G,Tのいずれか)を,溶液交換によってそれぞれ一定濃度になるように導入すると,ターゲットDNA分子に対して相補関係である場合に限り,蛍光標識dNTP分子がプライマ分子の伸長鎖に取り込まれる。この時,Cy5はエバネッセント場に存在するため,ターゲットDNA分子の結合位置における蛍光検出によって相補関係を確認することができる。確認後,Cy5高出力の635 nmの励起光で照射することによって蛍光退色させ,以降の蛍光発光を抑制する。以上のdNTPの取り込み反応プロセスを,塩基の種類を例えばA→C→G→T→A→のように順次段階的に繰り返すことによって(段階的伸長反応),ターゲットDNA分子と相補関係にある塩基配列を決定することが可能である。また,蛍光検出イメージの同一視野内に複数のターゲットDNA分子を固定化し,上記のdNTPの取り込み反応プロセスを並列処理することによって,複数のターゲットDNA分子の同時DNAシーケンシングが可能となる。この際の同時並列処理数は,従来の電気泳動をベースにしたDNAシーケンシングと比較して飛躍的に大きくすることできると期待されている。
【0005】
このような従来の蛍光1分子観察では,サンプル基板を配置する際,プリズムにマッチング液を垂らすことで,サンプル基板とプリズムの間に空気が入らないよう両者間をマッチング液で満たしている。しかしこの際,垂らすマッチング液が多いと,サンプル基板の交換時などに液が垂れて装置を汚し,ステージ制度や測定に影響を及ぼす恐れがある。
【0006】
このため,(特許文献1)では,プリズムの外周に溝からなる油だまりを設けることで,サンプル基板交換の際にこぼれるマッチング液を受け止める方法を示している。
【0007】
【非特許文献1】Funatsu et al., Nature Vol. 374, 555-559 (1995).
【非特許文献2】Braslavsky et al., PNAS Vol. 100, 3960-3964 (2003).
【特許文献1】特開平8−136554
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の蛍光1分子観察において,サンプル基板を配置する際,プリズムとサンプル基板の間に空気が入らないようにマッチング液で満たす必要がある。この際,垂らすマッチング液の量が少ないと,マッチング液の表面エネルギーによりサンプル基板の移動が困難となる。たとえ移動が出来たとしても,サンプル基板の水平移動に伴い,マッチング液が移動し,プリズムとの間に空気が生じてサンプル基板まで励起光が届かなくなる。一方,垂らすマッチング液が多ければ,サンプル基板の交換時だけでなく,プリズムをサンプル基板に押し付ける時,サンプル基板の移動時にも液が垂れて装置を汚すことになる。
これにより,プリズムの励起光入射面にマッチング液が付着し,エバネッセント場が形成されなくなる恐れもある。
【0009】
また,(特許文献1)の方法であっても,垂らすマッチング液の量が多すぎると,プリズムをサンプル基板に押し付けたり,移動させたりする際に,マッチング液が油だまりに流れ出し,プリズムとサンプル基板間のマッチング液が不足し,空気が存在しやすくなる。また,マッチング液が少なすぎても同様に空気が存在しやすくなるという問題が残っており,マッチング液の充填量およびその後の基板移動に注意を払う必要があり,総じて操作性に課題を有していた。
このように上記の従来技術においては,操作性が良好で,且つ常に安定したエバネッセント場を形成できるような装置構造については十分考慮されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では,基板の表面上にエバネッセント場を生成し,基板表面上に蛍光標識された生体分子をエバネッセント場で励起し,その結果生体分子から放射された蛍光を検出することにより,生体分子を定性的に検出あるいは定量する分析技術に関し,プリズムのサンプル基板と対向する面にウェルを設け,前記ウェル内にマッチング液を充填し,サンプル基板を内包させてプリズムとの間を前記マッチング液で満たすことで前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
プリズムのサンプル基板と対向する面にウェルを設けることで,マッチング液流出を防ぎ,プリズムの励起光入射面や装置がマッチング液により汚れるのを防ぐことができる。また,マッチング液充填の操作は,マッチング液をウェルに注ぐという簡便な操作によるため,操作性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,図面に従って本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0013】
図1(a)に本発明の実施例1の構成図を示す。プリズム101およびその周辺の構成は拡大斜視図として図1(b)に示した。
【0014】
ウェルを設けたプリズム101の作成例は,3面の大きさが共に60 mm×50 mmで素材S-BAL14の60°等辺長プリズムの一面(サンプル基板106の対向面)に,高さ約8 mm(後にウェルの深さとなる)のアクリル製の枠を接着し,ウェルの壁面とするものとした。前記方法の他,プリズム101の面を切削してウェル構造を作成してもよい。
【0015】
ウェルの高さは,サンプル支持部材105を含めたサンプル基板106のプリズム101との対向面をマッチング液104に浸すことができる程度に調整しておく必要がある。プリズムの素材は,S-BAL14だけでなくBak4,石英など任意のガラスでもよく,PDMSなどの樹脂でも可能であり,つまりは励起波長に対して吸収および自家蛍光の小さいものが好適に使用できる。
【0016】
また,プリズムの形状は図1に示すようなものの他,図2の201〜205に示すようなプリズム形状でも問題ないが,(式1)の全反射条件を満たすように,プリズム101, 201〜205からマッチング液104に対して入射させられることが必要である。
θp>sin-1(naq/np) (式1)
ここで,上記の(式1)の全反射条件について図3を用いて説明する。図3に示すようにθpはプリズム301からマッチング液302への入射角,naqはサンプル溶液304の屈折率,npはプリズム301の屈折率である。本実施例では,プリズム301の素材S-BAL14より,np=1.57,サンプル溶液304は水溶液naq=1.33ゆえ,(式1)より全反射する入射角条件はθp>57.9度となり,これを満たすように入射角度を調整した。これを満たさない値で入射すると,励起光は全反射せずにサンプル溶液304を透過するので,水のラマン散乱などによる背景光の影響で測定感度が低下し,結果として蛍光単分子の測定精度は著しく低下する。
【0017】
プリズム101はプリズム支持部材102でプリズム駆動部103に固定されており,プリズム駆動部103を手動または制御部で自動制御することでXYZ軸方向に移動させることが可能である。
【0018】
プリズム101のウェルにマッチング液104としてグリセロールを充填し,プリズム駆動部103のZ軸を動かして,マッチング液104がサンプル基板106に一様に触れるまでゆっくり近づけて,サンプル基板106とプリズム101の間をマッチング液104で満たした。マッチング液104は,他にもイマージョンオイルなどでもかまわないが,サンプル基板106およびプリズム101と屈折率が近く,励起波長に対して吸収および自家蛍光の小さいものが望ましい。屈折率が大きく異なると,マッチング液104とプリズム101やサンプル基板106の界面での励起光の反射による損失が大きくなり励起強度が低下したり,反射光が周辺部材での反射を繰り返して測定領域での背景光となったりすることがあり,測定の妨げとなる。また,励起波長に対して吸収や蛍光が大きいと励起強度落ちたり,蛍光により背景光が高くなったりして,測定の障害となる。
【0019】
サンプル基板106の作成は,プリズム101との対向面(下面)に45 mm×25 mmの石英ガラスを,上面に流路が形成されたPDMS基板(大きさは下面と同じ)を用いて,2つの基板を貼り合わせて実施した。前記PDMSの両端に結合した流入路107と流出路108を通して,サンプル基板106内の観察領域に目的の溶液を流し,溶液交換を行える仕組みとした。尚,サンプル基板106の素材は上記以外でも,励起波長に対して吸収が少なく,自家蛍光が測定に及ぼさない程度のものであればよく,大きさはウェルに内包されるように小さくするか,サンプル基板106を内包するようにプリズム101を大きくする必要がある。
【0020】
サンプル支持部材105は,サンプル基板106をサンプルステージ109に押し付けて,強固に固定するためのものである。これにより,測定中のサンプル基板105のドリフトによる不規則な蛍光画像のズレを防止することができる。
本実施例では,サンプル支持部材105に厚さ2mm大きさ35 mm×5 mmのポリカーボネート板2枚を使用し,それぞれの両端にネジを通すキリ穴を空け,サンプル基板106を挟んでサンプルステージ109のネジ穴を使用して締めつけることで,サンプル基板106を強固に固定した。この他,サンプル支持部材105として,板バネのようなものを用いることが可能である。また、上記では、サンプル基板を上下に挟み込む構造であるが、支持部材に凹部等を設け左右から高さ方向を併せるように挟み込んで保持するような構成とすることも可能である。
【0021】
サンプルステージ109はXYα軸方向に移動可能なサンプル駆動部110に固定されており,これを手動または制御部135で自動制御することでサンプル基板106をXY方向にスキャンしたり,α軸を駆動させて傾けたりすることができる。サンプル駆動部110は,さらにZ軸を付加して蛍光観察時のピント補正などに利用してもよい。ここでZ軸は,マッチング液104表面に対して垂直な軸であり,X軸は,Z軸に対して垂直かつ励起光路を含む面と平行である。またY軸は,XZ平面に対して垂直であり,αはXZ平面内でX軸となす角度である。
【0022】
また,サンプルステージ109の形状は,他にも図4の401〜403に示すようなものでもよい。ただし,装置の物理的干渉を避けるため,図1と同様のXY軸方向を定義したとき,サンプル基板106を押し付ける支持部のX軸方向の外幅W(X)SPとY軸方向の外幅W(Y)SPは,それぞれ対応する軸方向のウェル幅よりも小さく,X軸方向の内幅W(X)SPNは対物レンズの外径よりも大きくする必要がある。
【0023】
以下に図1の光学系周辺を説明する。励起光源111または112から射出された励起光は励起フィルター113または114でスペクトル純度を高めたのち,ミラー115または116で反射して,λ/4板141または142で円偏光となり,角度調整用のミラー118または117で反射して,集光レンズ119または120で絞られたあと,プリズム101に入射し,さらにサンプル基板106に入射する。サンプル基板106に入射した励起光はサンプル基板とサンプル水溶液との界面で全反射し,サンプル基板106の表面にエバネッセント場を生成する。エバネッセント場によって励起されたサンプル基板106表面からの発光が,対物レンズ121で集光されて,平行化された後,発光フィルター122および123によって,発光のうち励起光と同一の波長を持つ成分(弾性散乱光)を除去する。
その後にダイクロイックミラー124〜126で波長ごとに異なる方向へ透過または反射させ,結像レンズ127〜130でイメージセンサ131〜134の光電面上に結像させる。イメージセンサ131〜134で得られた画像は,演算,記憶および制御機能を備えたコンピュータとしての機能を有する制御部135に記録される。
【0024】
本実施例では励起光源111として波長488nmと514.5 nmのAr-ionレーザを,励起光源112として波長約633nmのレーザーダイオードをそれぞれ使用したが,もちろんNd-YAGの第二高調波レーザ,ヘリウムネオンレーザ,半導体レーザを用いても良い。発光フィルター122に波長525 nm以上を透過させるロングパスフィルター,123に620 nm-645 nmを遮断するノッチフィルタ用いているが,検出する波長範囲を透過させるバンドパスフィルタでももちろん良い。ダイクロイックミラー124〜126として,124に620 nm以上を透過,125に560 nm以上を透過,126に690 nm以上を透過させる特性のものをそれぞれ用いたが,使用する励起波長,蛍光色素に合わせて異なる特性のダイクロイックミラー124〜126を使用してもよい。
【0025】
本実施例では,図1の構成を用いて,図5に示すような方法でDNAの塩基配列をリアルタイムで決定した。配列を決定したいDNA一本鎖とプライマの複合体501が固定されたサンプル基板502表面に蛍光修飾された塩基503〜506と伸長反応を起こすための酵素が含まれている反応液を展開して伸長反応を開始させる(図5A)。
【0026】
ここで503は赤外で発光する色素で修飾されたチミン,504は緑で発光する色素で修飾されたアデニン,505は赤色で発光する色素で修飾されたシトシン,506はオレンジ色で発光する色素で修飾されたグアニンである。励起光源507と508としてAr-ionレーザとレーザーダイオードで基板に全反射照明をすることで,DNA一本鎖に塩基が取り込まれて相補鎖が伸長するごとに,伸長した塩基に対応した発光が基板上のエバネッセント場で励起され放射される(図5B)。
【0027】
色素が消光または切り離されることで発光がなくなり(図5C),次の塩基が取り込まれる。同様の過程を繰り返すことで伸長が進み(図5D),その際に発光する輝点の色の違いによりイメージセンサ131〜134に入射するシグナルの強度が異なることを利用して,塩基配列を決定する。
以下,図6のフローチャートに沿って測定の工程を示す。
【0028】
予めプリズム101とサンプルステージ109は離した状態にしておく。サンプル基板106をサンプルステージ109に固定し(601),サンプル駆動部110によってα軸に対し,サンプルステージ109の駆動を制御してサンプル基板106をプリズム101の対向面に対して傾ける(602)。こうすることでプリズム101のウェルに充填したマッチング液104とサンプル基板106が触れたときに気泡が入りにくくなる。
【0029】
次にプリズム101のウェルにマッチング液104を手動で充填し(603),プリズム駆動部103のZ軸を利用してウェル内のマッチング液104が傾いたサンプル基板106に触れるまでゆっくり近づける(604)。ただし,前記マッチング液104の充填は,後述する実施例6に記すようにプリズム101にマッチング液104を注入・排出する機構を設けて,バルブの開閉によって実施してもよい。
【0030】
また,前記プリズム駆動部には,マッチング液104とサンプル基板106が離れたときの粗動機構と近いときに使用する微動機構を持たせると操作性が向上するため,このような構成を採っても良い。このとき,プリズム101表面ないしマッチング液104層表面とサンプル基板106との距離を把握するための,センサ等の位置検出手段を設けて,所定の位置に近づいたときに微動機構に切り替える制御を制御部135が行うようにすることも可能である。ここでは,プリズム駆動部103によりマッチング液104とサンプル基板106を接触させる例を示したが,これらの機構をサンプル駆動部110が備えるようにすることも可能である。
【0031】
その後,サンプル駆動部110のα軸で傾いていたサンプル基板106をマッチング液面104に対して水平に戻す(605)。こうすることで,マッチング液104がサンプル基板106の対向面に一様に満たされる。前記サンプル駆動部110およびプリズム駆動部103による一連お駆動作業は,制御部135を用いて自動で行った。
【0032】
次に,ビオチンーアビジン結合を利用したDNA一本鎖とプライマ複合体の基板上への固定作業(606)を以下の通りに行った。流入容器136として,ビオチン化BSAを含むトリスバッファーで満たされた容器を装着して,流入路107から流出路108へ前記溶液をフローさせて,サンプル基板106表面をビオチン化BSAでコートした。流出路108から出た余剰溶液は廃液容器137に溜めた。サンプル基板表面にコートされなかった浮遊ビオチン化BSAを除去するため,流入容器136をトリスバッファー溶液容器に切り替え,十分な量をフローさせる洗い作業を行った。以下同様にストレプトアビジン溶液→赤色で発光する色素で標識したビオチン化DNA一本鎖とプライマ複合体溶液の順にフローさせて固定を行った。ただし各溶液をフローさせた後は洗い作業を行っている(606)。
【0033】
単分子の蛍光観察を行うため,シャッター139,140を開放してAr-ionレーザとレーザーダイオードでサンプル基板106を全反射照明し(607),制御部135に映し出されるイメージセンサ131〜134の蛍光像を見ながら,対物レンズ駆動部138を利用してフォーカスをあわせた(608)。サンプル駆動部110のXY軸を利用して観察したい領域にサンプル基板106を移動し(609),発光輝点からDNA一本鎖とプライマ複合体の位置を確認した。流入容器136から蛍光修飾塩基と酵素を含む反応液を導入して反応開始させ(610),同時に制御部135に毎秒10フレームのフレームレートで画像データを5000枚連続的に記録し,塩基伸長反応リアルタイム測定を行った。
【0034】
サンプル基板106を取り出す際は,プリズム駆動部103のZ軸を用いて,サンプル基板106からマッチング液104が離れるまで,ゆっくりプリズム101を下方に移動させた。この際,サンプルステージ109のα軸でサンプル基板106を傾けることで,プリズム101を下方移動させる際のマッチング液104の表面エネルギーを利用して,サンプル基板106表面に付着したマッチング液104を取れやすくした。プリズムと101を引き離した後,所定時間引き離した状態を保持,ないし再度基板の一部を液表面にわずかに漬けてマッチング液の表面張力により液滴を吸収させる等して,サンプル基板106からマッチング液104が垂れなくなるのを確認してα軸を水平に戻し,サンプルステージ109から取り外し,新たなサンプル基板106を装着する。
【0035】
また,ここではプリズム駆動部103を用いてサンプル基板106とマッチング液104とを離す例を示したが,サンプル駆動部110の駆動によりサンプル基板106とマッチング液104とを離すような構成を採ってもよい。
【0036】
本実施例ではサンプル基板に流路を1つ設けたが,複数の流路にそれぞれ流入路107と流出路108を設け,前記606から612を繰り返せば,複数のサンプルを連続的に測定することができる。
【0037】
実施例1の構造により,マッチング液の操作性が向上することで,マッチング液操作に関わる測定上の隘路が解消され,安定した測定を繰り返すことが可能となり,測定準備から終了までにかかる時間を短縮できる。
【実施例2】
【0038】
次に,実施例2では,高開口の油浸型対物レンズによる測定例を示す。
【0039】
色素単分子からの蛍光シグナルは微弱である。そのためバックグランドが高かったり,装置由来のノイズが大きかったりすると発光輝点の検出が困難になる。それゆえ,より高感度な検出手段が必要となるが,その有効なものとして,開口数の高い対物レンズを用いることが挙げられる。
【0040】
しかし,開口数1.3以上の対物レンズは油浸の状態で使用する必要があるため,サンプル基板と対物レンズの間をイマージョンオイルで満たす必要がある。その際の操作性は悪く,イマージョンオイルが周辺に垂れて装置を汚したり,充填作業に手間がかかったりする。さらに,実施例1の測定を自動化する場合は,イマージョンオイル充填用の装置が必要となり,スペースとコストの面で負荷がかかる。
【0041】
本発明の実施例2では,前記問題に有効な手段を示す。基本構成は実施例1とほぼ同一である。
図7は図1のプリズム周辺の励起光路を含む断面図である。ウェルに油浸型対物レンズ703で用いるイマージョンオイルを充填し,サンプル基板704とプリズム701のマッチング液702を兼用する。
【0042】
図7のように,マッチング液702にサンプル基板704と対物レンズ703の先端を浸した状態にするには,施例1と同様にマッチング液702を充填したプリズム701をサンプル基板704に接するまで近づけ,小型バルブ707を開いてマッチング液容器708から対物レンズ703に固定したノズル709を通してマッチング液702を供給することで実施する。ノズル709による供給なしでも,プリズム701を上方に動かし続けることで,サンプル基板704を浸漬させることは可能だが,マッチング液702とサンプル基板704周囲の表面エネルギーにより,それ以上の移動が困難となり操作性はよくない。
【0043】
そこで,本実施例では実施例1に記載の操作でプリズム701を上方に移動させ,マッチング液702がサンプル基板704に気泡の混入がなく接していることを確認した後,サンプル基板704上方に設けたノズル709からマッチング液702を供給する機構を付与した。ここで,ノズル709によるマッチング液702供給のタイミングをマッチング液702とサンプル基板704が接した後としたが,接する前でも良い。ただし,その場合,接した後よりも使用するマッチング液702の量が増えるので,ランニングコストが高くなる。また,万が一,ノズル709からのマッチング液702供給により,気泡が混入した場合,サンプル基板704の上面はすでにマッチング液702で濡れているので,目視による確認が困難となる。
【0044】
本実施例の装置によれば,対物レンズ703のイマージョンオイルとサンプル基板704とプリズム701のマッチング液702を兼用することで,イマージョンオイルの操作性良く,高開口の対物レンズでの高感度測定が可能になる。
【実施例3】
【0045】
実施例1において,図1のように励起光源111と112は,異なる光路を個々に設けてプリズム101両面から入射させている。図16に示すように,ミラー1601の前にダイクロイックミラー1602を置いて2つの光源1603と1604からの励起光路を同一にすることができれば,集光レンズ1609やミラーなどの光学部品のコストを削減だけでなく,装置をコンパクトにできる。
【0046】
しかし,前記の如く同一光路にして,プリズム1605の同一面から入射させた場合,波長に依存したプリズム1605-マッチング液1606界面の屈折角差により,波長の異なる光源からのエバネッセントの照射位置はサンプル基板1607とプリズム1605の距離と共にズレが大きくなる。
【0047】
図17(A)は,波長λ1とλ2の励起光が,同一光路でプリズム1701を透過し,条件式1を満たす入射角θpでマッチング液1702に入射し,サンプル基板1703とサンプル溶液1704の界面で全反射したときのそれぞれの光路を示したものである。ただし,励起光はXZ軸平面に平行としているので,ズレはX軸方向でのみ生じる。
【0048】
図17(A)において,前記2つの励起光がマッチング液1704入射後に異なる光路を進むのは,プリズム1701,マッチング液1702,サンプル基板1703の屈折率が波長によって異なるので,屈折角が異なるためである。図17(A)より,プリズム1701から,マッチング液1702への入射位置および入射角θpが2つの励起波長λ1とλ2で同じと仮定すると,エバネッセント照射位置のズレΔlは,励起光がマッチング液1702中を透過する際に生じるズレΔl1とサンプル基板1703中を透過する際に生じるズレΔl2の和で求まる(式7)。
Δl=Δlm+Δlp (式7)
ここで,ΔlmとΔlpを求めるために,波長λ1とλ2の励起光のプリズム1701,マッチング液1702,サンプル基板1703での屈折率をそれぞれ,np1),np2) , nm1),nm2) ,ns1),ns2)として,マッチング液1702,サンプル基板1703の厚みをそれぞれΔm,Δsと定義する(図17(A))。このとき波長λ1とλ2の励起光のプリズム1701からマッチング液1702への透過光角θm1とθm2は,スネルの法則より
θm1=sin-1((np1)/nm1))sin(θp)) (式8)
θm2=sin-1((np2)/nm2))sin(θp)) (式9)
で与えられる。これより,Δlmは,
Δlm=Δm×|tan(θm1)- tan(θm2)| (式10)
となる。同様にΔlsを(式8)〜(式10)をまとめた形で表すと,
Δls=Δs×|tan(sin-1((nm1)/ns1))sin(θm1)))
- tan(sin-1((nm2)/ns2))sin(θm2)))| (式11)
となるので,(式10)と(式11)の値を(式7)に代入すれば,エバネセント照射位置のズレΔlを求めることができる。
【0049】
図18(B)は,一般的なプリズム1701素材である,S-BAL14,石英,BK7を用いて,励起光波長λ1=488 nm, λ2=633 nmを入射させたときの,マッチング液1702の厚みΔmに対するエバネセント照射位置のズレΔlを計算してプロットしたものである。計算に用いたパラメータ値は,図17(C)の表に示した。ただし,入射角θpは(式1)を満たす最大値(臨界角)とした。実施例1の2つの励起光路を図16のように同一にまとめた場合を考える。サンプル支持部材1608の厚み(ネジ頭部とポリカーボネート板の厚み)は約3.5 mmなので,サンプル基板106とプリズム1605の間隔は最低でも4mm離れている。このとき,図17(C)によると,どのプリズム1701素材でも2つの励起光のエバネッセント照射位置のズレは,約 0.3 mm以上となる。計測視野内に2つのエバネッセント照射位置を確認する条件として,上記の位置ズレは照射領域直径と視野サイズの和よりも小さくする必要がある。実施例1での視野サイズはφ約100 μm,照射領域の直径は120 μmなので,上記条件は0.22 μm以下となり,約 0.3 mm以上の照射位置ズレが生じる場合,最低1つのエバネッセント照射位置は視野外となる。そのため,光源1603,1604やミラー1615の角度を調整して,エバネッセント照射領域を移動させる必要があるが,視野から外れると,照射領域を目視で確認することができないため,光軸の調整は非常に困難である。すなわち,実施例1のプリズム形状では,図16のような同一光路からの照射にした場合,光軸調整に手間がかかる可能性がある。
【0050】
また,別の問題として,プリズム101,マッチング液104,サンプル基板106の界面で起こる,励起光の反射成分がある。前記三物質の屈折率差が大きくなるに従い,反射による損失が大きくなり励起強度が下がるという問題がある。また,反射光の強度が強いと,プリズム周辺で繰り返す反射が観察領域に入る場合があり,結果として背景光を上昇させ,測定感度を低下させる。然るに,プリズム101,マッチング液104,サンプル基板106の屈折率は近いものを選ぶ必要があるが,サンプル基板106の材質は,励起波長に対して蛍光を発しない合成石英のようなものに限られる。
【0051】
そのため,プリズム101の材質が制限されるだけでなく,合成石英のように製造コストも高くなる場合がある。本発明では,サンプル基板106を内包することができる大きさのものを用いるため,前記の製造コストの問題は無視できない。
【0052】
本実施例では,前記2点の課題に有効なプリズム構成を示す。基本構成は実施例1とほぼ同一である。図8(A)は図1のプリズム周辺の励起光路を含む断面図である。ウェル底面にプリズム801外面と平行な斜面を設けた。励起光を斜面に対して垂直に入射させたときにサンプル基板802表面で全反射するように斜面の角度は設定されている。すなわち,図8(B)で定義する斜面の角度βは次の(式2)を満たす。
β>sin-1(naq/nm) (式2)
ここで,naqはサンプル溶液803の屈折率,npはマッチング液804の屈折率である。本実施例の構成では,プリズム801斜面およびウェル底面に対して励起光は垂直に入射するので,同じ光路に複数種の光源が混ざっていても,前記界面での波長に依存した光路のズレは生じない。本実施例では,垂直入射であることを確認する機構として,集光レンズ808の光源側に励起光の直径とほぼ同じ径をもつ開口絞り809を配置した。垂直入射であれば,プリズム801表面での反射光は,実質的に入射と同一光路で光源方向に戻るので,開口絞り809に映る戻り光を確認することができる。前記方法で合わせれば,対物レンズ807の視野付近にエバネッセント照射領域を収めることができるので,光源1603,1604やミラー1615の角度を微動調整するだけで,エバネッセント領域を視野内に合わせることができる。尚,開口絞り809を集光レンズ808の光源側に配置したが,プリズム側やミラー1601の光源側に配置してもかまわない。また,前記入射の垂直性はエバネッセント照射領域の位置あわせの手間を軽減するための指標であり,入射角が垂直からずれたために,本実施例固有の効果がなくなる訳ではない。
【0053】
次に,反射光の影響について説明する。
図9(A)は,屈折率npのプリズム901から屈折率nmのマッチング液902への入射光角度θiと透過光角度θtを表している。
フレネルの公式より,入射面に電場ベクトルが平行なp-偏光と垂直なs-偏光の反射率は,
i)θi≠0のとき
(p-偏光反射率)=(sin(θit)/ sin(θit))2 (式3)
(s-偏光反射率)=(tan(θit)/ tan(θit))2 (式4)
ii)θi=0のとき
(p/s-偏光反射率)=((n1-n2)/(n1+n2)) 2 (式5)
となる。ここで,透過光角度θtは,スネルの法則から
npsinθi= nmsinθt (式6)
で求まるので,以上(式3)〜(式6)より,実施例1同様,マッチング液902にグリセロール(屈折率nm=1.47),プリズム901素材をS-BSL14(屈折率np=1.57)としたときの反射率は,図9(B)のようになる。結果,プリズム901からマッチング液902へ垂直入射したとき(θi=0)に,反射光が最も少なくなり,徐々に上昇する。
【0054】
反射光が観察領域に入る場合,その光強度は1 μW以下に抑える必要がある。プリズム表面で最低2回の反射をする必要があるので,2回の反射で光強度が0.3 μW以下になる反射率を許容範囲とすると,一般的な単分子蛍光計測の入射光強度は高々50 mWなので,反射率0.2%以下であれば許容できると考えられる。
【0055】
図9(B)のプリズム901素材にS-BSL14,マッチング液902にグリセロールを使用したときの入射角θiの許容範囲は,0〜31度である。また,プリズム901にBK7(np=1.52)を用いたときは0〜53度,プリズム901に石英(np=1.46),マッチング液902にイマージョンオイル(nm=1.52)に組み合わせでは0〜45度がそれぞれθiの許容範囲となる。上記の規定角度はいずれもプリズム901からマッチング液902への入射角なので,これを空気からプリズム901への入射角に変更して,上記3つの組み合わせを満たす許容範囲を算出すると,0〜54度となる。但し,上述した(式1)に記載の全反射条件を考慮する必要はある。
【0056】
次に,プリズムのウェル底面と励起光入射面の平行度の許容角度について実施例1で使用した3面の大きさが共に60 mm×50 mmで素材S-BAL14の60°等辺長プリズムを例に説明する。垂直入射のとき,図8(B)の3つのβ角は,全て60度である。ここで,便宜的に前記3つのβ角を,励起光入射面とマッチング液表面の成す角をβ,プリズムのウェル底面とマッチング液表面なす角をβ2,励起光のサンプル基板への入射角をβ3とする。マッチング液にグリセロール(屈折率1.47)を使用し,プリズムに励起光を垂直入射させたときの,βの許容角度を求める。ただし,β2=60度(一定)とする。まず,βがΔβ(-)度小さくなったときの許容角度を考える。(式1)の全反射条件より,β3>57.9度となるので,(式8)または(式9)のスネルの式より,プリズムからマッチング液への入射角θi<1.97度が導ける。垂直入射の許容角度を考える。前記で求めた,プリズム901にS-BSL14,マッチング液902にグリセロールを使用したときの反射光の影響が無視できる入射角θiの許容範囲より,Δβ(+)<31度となる。以上より,プリズムのウェル底面と励起光入射面の平行度のズレの許容角度は,-1.97〜+31度となる。
【0057】
以上より,本実施例の構成において、プリズムのウェル底面と励起光入射面が上記の平行度の条件を満たすように概略平行であって、垂直入射のときに,効果は最も大きくなるが,垂直からずれたとしてもプリズムの光入射面に対して0(垂直)〜54度の範囲で入射をすればよい。但し,上述した(式1)に記載の全反射条件を考慮する必要はある。また,プリズムのウェル底面と励起光入射面の平行度のズレは,-2〜30度程度であればよい。このような条件によれば,プリズム素材は必ずしもマッチング液の屈折率に合わせる必要はなく,素材の選択の尤度が広がるので,コスト削減に繋がる。
【0058】
よって,ウェル底面にプリズム801外面と該略平行な斜面を設け,励起光を斜面に対して略垂直に入射させる本実施例の形態は,前記二点の問題解決に有効であることがわかる。本実施例の形態は,実施例1または2に組み込んでも良い。
【実施例4】
【0059】
本発明の実施例4の基本構成は実施例1とほぼ同一であるが,図10のようにプリズム1001のウェル底面に突起部1002を設けたことに特徴がある。この突起部1002は,プリズム1001をサンプル基板に近づけて,相対位置を合わせる際のガイドとして使用できる。その他,プリズム1001とサンプル基板の対向面を再現良く平行に保つことができるので,両者の相対的角度がずれることによるエバネッセント照射強度の変化を抑えることができる。また,サンプル基板とプリズムの密着を防ぎ,取り外しを容易にする効果もある。
【0060】
突起部は,1002のような支柱上のPDMSを,高さをそろえてプリズム表面に接着して作成したが,1003のように2本の蒲鉾状のものや,一部が欠けたドーナッツ状のものを接着してもよい。ドーナッツ状の場合,断面が完全な円形だとマッチング液を充填したときにサンプル基板との間に空気が入り,測定に支障をきたす場合があるので,図10の突起部の類似の断面のほうがより好ましい。また,突起部1002の接着部1004は,図10(A)の拡大図のように曲面にして,気泡が付着しにくい形状にした。素材は,PDMSのような弾性のある樹脂だけでなく,アクリルのような硬いプラスチックでも良い。本実施例の形態は,実施例1または2に組み込んでも良い。
【実施例5】
【0061】
本発明の実施例5の基本構成は実施例1とほぼ同一だが,図11のようにプリズム1101のウェルを形成する壁に液漏れ防止溝1102を設けたところに特徴がある。万が一,マッチング液1103を充填した状態でプリズム1101が傾いたり,衝撃が加わったりしてマッチング液1103がプリズム1101表面に沿って流れ出ても,溝1102で受け止めることができる。同様の効果を示す構造としては,プリズム1104のような液漏れ防止段1105を設けてもよい。作成には,プリズム1101の平面に大小2つの四角いPDMSの枠を接着したが,アクリルなどのプラスチックやガラス素材を枠の形状に加工して用いてもよい。もちろんプリズム1101の平面を切削して実施してもよい。本実施例の形態は,実施例1〜4に組み込んでも良い。
【実施例6】
【0062】
本発明の実施例6の基本構成は実施例1とほぼ同一だが,図12のようにプリズム1201のウェルを形成する壁にマッチング液1202を交換する注入口1203と排出口1204を設けたところに特徴がある。注入口1203は新たなマッチング液が溜められたマッチング液容器1205につながっており,バルブ1206を開閉することでマッチング液を流して,ウェル内のマッチング液1202を交換することができる。使用済みのマッチング液1202はマッチング液廃容器1207に溜められる。本実施例に固有の効果は,古くなったマッチング液の交換を簡便に行えることである。本実施例の形態は,実施例1〜5に組み込んでも良い。
【0063】
尚,実施例2の形態に組み込む際は,マッチング液容器708と1205に同一のものを使用することができる。
【実施例7】
【0064】
本発明の実施例7の基本構成は実施例1とほぼ同一である。図13(A)にプリズム1301周辺を示す。本実施例では,マッチング液1302の温度を調整するための温調部1303を設けた。温調部1303の温度は温度制御部1304で調整し,マッチング液1302の温度は温度センサ1305でモニターすることができる。温度制御部1304は実施例1における制御部135で兼ねることもできる。温調部1303には,70℃まで加熱可能な厚さ約0.3mmのITO膜を使った発熱フィルムをプリズム1301のウェル底面に貼り付けて用いた。温調部1303は他にも,ニクロム線のようなワイヤ状のものや板状のものでも良い。また,マッチング液1302の温調方法は,図13(B)のようにプリズム1301の両側を温調部1306で挟み込んだり,図13(C)のようにウェル両端の壁面に管を接続して,マッチング液体1302を温調部1307内に循環させたりすることで実施してもよい。本実施例に固有の効果は,マッチング液を介してサンプル基板の温度制御を行うことで,温度むらのすくない温度制御を行えることである。特に実施例1のような伸長反応を行う場合は,酵素の活性を高めるために,反応温度を70℃程度まで上げる必要があるが,温度ムラがあると伸長効率がサンプル基板位置によって異なり,測定の効率が著しく落ちるため深刻な問題となる。それゆえ,本実施例によって,リアルタイム塩基配列決定法の高スループット化が狙える。本実施例の形態は,実施例1〜6に組み込んでも良い。
【実施例8】
【0065】
本発明の実施例8の基本構成は実施例1とほぼ同一だが,図14(A)のように,サンプル基板1401にマッチング液保持部材1403を付加して,マッチング液1402を滞留するウェルを形成したところに特徴がある。尚,本実施例ではプリズム1404側にウェルを設けていない。図14(B)は,(A)の励起光路を含む断面図である。プリズム1404を前記ウェルに滞留したマッチング液1402に浸漬させて,実施例1と同様の測定を行う。本実施例では,プリズム1404と対向するウェル面を上面にする必要があるため,蛍光検出側と対向する対物レンズ1405をサンプル基板の下に配置した。その他の構成部品の相対位置は同じだが,前記に付随して照射系と検出系の構成部品の位置を上下反転させて配置した。
【0066】
サンプル基板1401の作成は,プリズム1404との対向面(上面)に50 mm×40 mmの石英ガラスを,下面に流路が形成されたPDMS基板(大きさは上面と同じ)を用いて,2つの基板を貼り合わせて実施した。尚,サンプル基板1401の素材は前記以外でも,励起波長に対して吸収が少なく,自家蛍光が測定に及ぼさない程度のものであればよい。マッチング液1402を滞留するウェルの作成は,図15のようにサンプル基板1501の上面に25 mm×25 mm,高さ5 mmのアクリル製の枠から成るマッチング液保持部材1403,1502を接着して,ウェルの壁面とすることで実施した。マッチング液保持部材1403,1502の素材は,硬いプラスチックの他にも,シリコンやPDMSのような柔らかい樹脂でもよい。また,前記ウェルを形成する手段は,他にも図15(B)のような容器形状のマッチング液保持部材1403,1502をサンプル基板1401,1501に接着したり,図15(C)のようにサンプル基板1401,1501を切削して窪みを設けたりしてもよい。プリズム1404は,面のサイズ10 mm×15 mmで,素材S-BAL14の60°等辺長プリズムを用いたが,前記ウェルに内包されるサイズであればよく,素材は,Bak4,石英など任意のガラスのほか,PDMSなどの樹脂でも可能であり,つまりは励起波長に対して吸収および自家蛍光の小さいものであれば好適に使用できる。本実施例に固有の効果は,実施例1に比べて,小さなプリズムを用いることができるので,プリズム製造コストを下げられることである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
伸長反応を利用したDNAシーケンサ,全反射蛍光方式のDNAマイクロアレイリーダーなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例1の構成図。
【図2】実施例1におけるプリズム形状の変形型。
【図3】実施例1におけるエバネッセント照射の角度。
【図4】実施例1におけるプリズム支持部材Bの変形型(図の2は1の矢印方向から見た射影図)。
【図5】実施例1におけるリアルタイム塩基配列決定法の概念図。
【図6】実施例1における測定工程のフローチャート。
【図7】実施例2におけるプリズム周辺の励起光路を含む断面図。
【図8】実施例3におけるプリズム周辺の励起光路を含む断面図。
【図9】実施例3における(A)プリズムとマッチング液界面の透過・反射の様子(B)入射角に対する反射率の関係。
【図10】実施例4におけるプリズムの拡大図。
【図11】実施例5におけるプリズムの拡大図。
【図12】実施例6におけるプリズム周辺の拡大図。
【図13】実施例7におけるプリズム周辺の拡大図。
【図14】実施例8におけるプリズム周辺の拡大図。
【図15】実施例8におけるサンプル基板上に施すウェル形状の変形型。
【図16】実施例3における2つの光源からの励起光路を同一にしたときのプリズム周辺の励起光路を含む断面図。
【図17】実施例3における2つの光源からの励起光路を同一にしたときの(A)マッチング液入射後の光路(B)マッチング液の厚みとエバネッセント照射位置ズレの関係(C)(B)の計算に使用したパラメータ値。
【符号の説明】
【0069】
101,201〜205,301,701,801,901,1001,1101,1104,1201,1301,1404,1605,1701…プリズム
102…プリズム支持部材
103…プリズム駆動部
104,302,702,804,902,1103,1202,1302,1402,1606,1702…マッチング液
105,705,805,1410,1608…サンプル支持部材
106,303, 502,704,802,1401,1501,1607,1703…サンプル基板
107,1406…流入路
108,1407…流出路
109,401〜403,706,806,1408,1618…サンプルステージ
110,1409…サンプル駆動部
111,112,507,508,1603,1604…励起光源
113,114,1611,1614…フィルター
115,116,117,118,1601,1615…ミラー
119,120,807,1609…集光レンズ
121,703,1405,1617…対物レンズ
122,123…発光フィルター
124〜126,1602…ダイクロイックミラー
127〜130…結像レンズ
131〜134…イメージセンサ
135…制御部
136…流入容器
137…廃液容器
138…対物レンズ駆動部
139,140,1610,1613…シャッター
141,142,1612,1616…λ/4板
304,803,1704…サンプル溶液
501…DNA一本鎖とプライマの複合体
503…チミン
504…アデニン
505…シトシン
506…グアニン
707…小型バルブ
708,1205…マッチング液容器
709…ノズル
1002,1003…突起部
1004…接着部
1102…液漏れ防止溝
1105…液漏れ防止段
1203…注入口
1204…排出口
1206…バルブ
1207…マッチング液廃容器
1303,1306,1307…温調部
1304…温度制御部
1305…温度センサ
1403,1502…マッチング液保持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に蛍光標識された生体分子が固定される基板と,
該基板を保持するサンプル保持部と,
前記基板からエバネッセント場を生じさせるように,前記基板に光を照射する少なくとも1つの光源と,
前記光源から照射される前記光の光路上に配置されたプリズムと,
前記生体分子から放射された光を所定の波長毎に分光する分光部と,
前記分光部により分光された光を検出するセンサと,
前記センサによって検出された光を処理する制御部とを有し,
前記プリズムは前記基板を浸漬させるマッチング液の液層を形成するように前記マッチング液を滞留させる手段を備えることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
表面に蛍光標識された生体分子が固定される基板と,
該基板を挟持するサンプル保持部と,
該サンプル保持部を駆動するサンプル駆動部と,
前記基板からエバネッセント場を生じさせるように,前記基板の裏面方向から光を照射する少なくとも1つの光源と,
前記光源から照射される前記光の光路上に配置されたプリズムと,
前記プリズムを駆動させるプリズム駆動部と,
前記生体分子から放射された光を分光する分光部と,
前記分光部による分光された光を検出するセンサと,
前記センサによって検出された光を処理する制御部とを有し,
前記プリズムは前記基板を浸漬させるマッチング液層を形成するようにマッチング液を滞留させる壁面を備え,
前記制御部は,前記基板を前記マッチング液層に接触させるときに,前記サンプル保持部を前記マッチング液層表面に対して傾斜させることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の蛍光検出装置において,
前記制御部は,前記基板を前記マッチング液層に接触させるときに,前記サンプル保持部を前記マッチング液層表面に対して傾斜させることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の蛍光検出装置において,
前記制御部は,前記プリズム駆動部を制御して前記基板と前記プリズムとの距離を調整することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光検出装置において,
前記プリズム駆動部は,粗動機構と微動機構を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項6】
請求項1また2に記載の蛍光検出装置において,
前記プリズムの前記基板と対向する面は,前記光源から照射される前記光が入射する面と平行であり,
両者の前記マッチン液面と成す角βは,naq ,npをそれぞれ前記生体分子を含有するサンプル溶液,マッチング液804の屈折率として,
β>sin-1(naq/nm)
を満たし,
前記光源から照射される前記光は,前記プリズム面に対して実質的に垂直に入射することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記分光部は,ダイクロイックミラーと,複数のイメージセンサを備えることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項8】
請求項1または2の蛍光検出装置において,
前記基板に少なくとも一種類の生体分子を含む溶液をフローさせる手段を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記生体分子から放射された光を通過させる対物レンズを備え,
前記マッチング液に対物レンズ用イマージョンオイルを用いることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記プリズムにおける前記マッチング液層が形成される面の底面に突起部を有し,
前記プリズムに前記基板を押し付けたときに,両者の対向面を平行にすることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項11】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記壁面に前記マッチング液を受け止める溝を有することを特徴とする蛍光検出装置
【請求項12】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記プリズムに前記マッチング液を注入する注入手段及び前記マッチング液を排出する排出手段を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項13】
請求項1または2に記載の蛍光検出装置において,
前記プリズムに注入された前記マッチング液の温度を調整する温度調整機構を備え,前記制御部によって該温度調整機構を制御することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項14】
表面に蛍光標識された生体分子が固定される基板と,
該基板を挟持するサンプル保持部と,
前記基板からエバネッセント場を生じさせ、かつ前記基板の裏面方向に対して同一光路となるように波長の異なる光を夫々出射する複数の光源と,
前記複数の光源から夫々出射される前記光の光路上に配置されたプリズムと,
前記生体分子から放射された光を所定の波長毎に分光する分光部と,
前記分光部により分光された光を検出するセンサと,
前記センサによって検出された光を処理する制御部とを有し,
前記プリズムは前記基板を浸漬させるマッチング液の液層を形成するように前記マッチング液を滞留させる手段を備え、
前記プリズムの前記基板と対向する面は,前記光源から照射される前記光が入射する面と概略平行であり,
前記プリズムの表面に対する前記光源から照射される前記光の入射角度は0度から54度であることを特徴とする蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−156723(P2009−156723A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335612(P2007−335612)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】