説明

蛍光検査装置及び蛍光検査方法

【課題】コロニーを形成した微生物群等の複数の測定対象物であっても、従来のフローサイトメータのように単離することなく、迅速に複数の測定対象物の発する蛍光の測定を行う。
【解決手段】複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光するとき、測定対象物が分散する基板に対してレーザ光の照射範囲を定めてレーザ光を照射する。これにより、レーザ光を受光した測定対象物のそれぞれが発する蛍光の蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出する。この特徴量を用いて、測定対象物が目的対象物を含むか否かの判定をする。この判定の結果に応じて、レーザ光の照射範囲を狭くして、レーザ光の照射、蛍光の受光、信号処理、上記判定を繰り返す。これにより、目的対象物の基板上における位置を特定する。さらに、特定された位置にある目的対象物を測定対象物から抜き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光することにより、蛍光検査を行う蛍光検査装置及び蛍光検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物や細胞等の生体の培養には、無菌環境における厳密な管理が行われている。しかし、微生物や細胞等の生体の培養時、異なる種類の微生物の混入が容易に起こるため、定期的に有用な微生物の選別が行われている。有用な微生物の選別とは、例えば、雑多な微生物から特定の微生物を選別することである。また、紫外線及び放射線による突然変異が生じた変異種の微生物を有用な微生物として選別することも行われている。変異種の微生物の選別は、専ら、顕微鏡を用いて行われ、あるいは、培地培養等を行って成長した微生物のコロニーの微視的な特徴や巨視的な特徴を利用して行われる。
【0003】
近年、特定の蛍光を発する有機薬剤により、特定のタンパク質を染色し、有機薬剤の発する特定の蛍光を受光することにより、特定のタンパク質を識別する方法が広く行われている。この方法は、微生物の識別のために、盛んに用いられている。
【0004】
例えば、細胞内の含硫化合物含有量が上昇した微生物、特に酵母、を効率よく迅速にスクリーニングする方法が知られている(特許文献1)。
当該スクリーニング方法は、具体的には、親株に遺伝子改変処理を施して得られた微生物細胞群に-SH基と結合する蛍光指示薬を導入し含硫化合物を標識させ、励起光照射し、細胞内の蛍光指示薬が発する蛍光を光学的検出器を用いて検出する。このとき、細胞群の中から蛍光強度が相対的に高い細胞を分別機構により分取する。
【0005】
より具体的には、当該スクリーニング方法は、検出する光学的検出器としてフローサイトメータを使用する。このとき、分別機構としてフローサイトメータからの信号に対応して作動するセルソータが用いられる。フローサイトメータは、細胞懸濁液を細管中に高速で流し、一方からレーザ光などを照射して前方散乱光、側方散乱光あるいは発せられた蛍光細胞からの光の強度を測定することで細胞一つ一つの情報を自動的にサンプリングし解析する。セルソータ機能を有するフローサイトメータを用いることにより、指定した散乱光および蛍光を発する特定の細胞のみを分取する。
これにより、極めて低い頻度でしか出現しない細胞内の含硫化合物含有量が上昇した微生物変異体を迅速にスクリーニングすることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−37534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フローサイトメータでは、個々の微生物を培養液中で分離して培養する必要があるため、凝集して単離するのが困難な微生物等を検査対象とすることは難しい。
基板に載せられた培養液中で培養されてコロニーを形成した微生物群に、レーザ光を照射して蛍光強度を測定する場合、コロニーのサイズによって蛍光強度が異なるため、蛍光強度のみでは、特定の細胞を分取することは難しい。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、コロニーを形成した微生物群等の複数の測定対象物であっても、従来のフローサイトメータのように単離することなく、複数の測定対象物が発する蛍光の測定を行って、測定対象物内に目的対象物が含まれているか否かを迅速に判定する蛍光検査装置及び蛍光検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光することにより、蛍光検査を行う蛍光検査装置であって、
基板上に分散する測定対象物に対してレーザ光の照射範囲を定めてレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記レーザ光を受光した測定対象物のそれぞれが発する蛍光を受光して、蛍光信号を出力する受光部と、
前記蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出することにより、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かを判定する処理部と、
前記処理部の判定結果に応じて、前記レーザ光の照射範囲を変更する制御部と、を有することを特徴とする蛍光検査装置である。
【0010】
前記処理部が、前記測定対象物が目的対象物を含むと判定した場合、前記制御部は、前記レーザ光の前記照射範囲を狭くして、前記レーザ光を前記測定対象物の一部に照射するように制御する、ことが好ましい。
また、前記制御部は、前記レーザ光の照射位置の前記照射範囲を狭くすることにより、前記目的対象物の位置を特定する、ことが好ましい。
さらに、特定された位置にある前記目的対象物を前記測定対象物から抜き取る抜き取り部を有する、ことが好ましい。
【0011】
前記測定対象物に照射される前記レーザ光は、例えば、所定の周波数の変調信号で強度変調され、前記処理部は、蛍光信号の、前記変調信号に対する位相遅れを、前記特徴量として算出する。
前記目的対象物は、例えば、第1の物質と第2の物質とが結合した構成物を含み、
前記第1の物質には、第1の蛍光物質が設けられ、
前記第2の物質には、第2の蛍光物質が設けられ、
前記受光部は、前記レーザ光の照射により前記第2の蛍光物質が発する第1の蛍光と、前記レーザ光の照射により受けた前記第1の蛍光物質の励起エネルギーが第2の蛍光物質に移動することにより、前記第2の蛍光物質が発する第2の蛍光と、を受け、
前記処理部は、前記第1の蛍光および前記第2の蛍光の信号のそれぞれを、前記蛍光信号として処理する、ことが好ましい。
その際、前記処理部は、前記第1の蛍光の発光過程に起因して生じる位相遅れと前記第2の蛍光の発光過程に起因して生じる位相遅れとの間の比率に基づいて、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かを判定する、ことが好ましい。
前記測定対象物は、例えば、前記基板上の培地において複数の生体が互いに集まった生体コロニーである。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光することにより、測定対象物の蛍光検査を行う蛍光検査方法であって、
基板上に分散する測定対象物に対してレーザ光の照射範囲を定めてレーザ光を照射する第1ステップと、
前記レーザ光を受光した測定対象物のそれぞれが発する蛍光を受光して、蛍光信号を出力する第2ステップと、
前記蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出することにより、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かの判定をする第3ステップと、
前記判定の結果に応じて、前記レーザ光が照射する、前記基板上の照射範囲を狭くして、前記第1ステップ、前記第2ステップおよび前記第3ステップを繰り返す、第4ステップと、
前記第4ステップを行うことにより、目的対象物の前記基板上における位置を特定する第5ステップと、を有する蛍光検査方法である。
【0013】
前記蛍光検出方法には、さらに、特定された位置にある前記目的対象物を前記測定対象物から抜き取る第6ステップを有する、ことが好ましい。
前記測定対象物は、例えば、前記基板上の培地において複数の生体が互いに集まった生体コロニーである。
【発明の効果】
【0014】
上述の蛍光検査装置及び蛍光検査方法は、コロニーを形成した微生物群等の複数の測定対象物であっても、従来のフローサイトメータのように単離することなく、複数の測定対象物が発する蛍光の測定を行って、測定対象物内に目的対象物が含まれているか否かを迅速に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の蛍光検査装置の一例を説明する図である。
【図2】図1に示す蛍光検査装置の照射ユニットを説明する図である。
【図3】(a),(b)は、図2に示す照射ユニットが照射するレーザ光の照射範囲を説明する図である。
【図4】図1に示す蛍光検査装置の受光ユニットを説明する図である。
【図5】(a),(b)は、図1に示す蛍光検査装置のデータ処理部・制御部を説明する図である。
【図6】図1に示す蛍光検査装置の分析装置を説明する図である。
【図7】(a),(b)は、図6に示す分析装置で行われるFRETの発生の有無の判定法を説明する図である。
【図8】図1に示す蛍光検査装置で用いるマニピュレータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の蛍光検査装置および蛍光検査方法について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の蛍光検査装置10の一例を説明する図である。
蛍光検査装置10は、基板上の培地にて培養した微生物や生体組織等に対して、蛍光検査を行う装置である。蛍光検査装置10は、培養した微生物や生体組織が、取り出すべき目的対象物(目的微生物や目的生体組織)であるか否かを判定し、判定結果に応じて、目的微生物や目的生体組織を取り出す。
【0017】
蛍光検査を行う複数の測定対象物は、予め以下のようなラベル処理が施されている。
2種類の蛍光色素(ドナー蛍光色素およびアクセプター蛍光色素)が別々に付加されている2種類の物質A,Bが用意される。蛍光色素を有する物質Aは、微生物や生体組織等の測定対象物が備える特定部分に結合する物質である。この物質Aが、測定対象物に付着して、蛍光色素でラベル化されている。
この後、別の蛍光色素を有する物質Bを含む培地を用いて、測定対象物を培養する。培養中、物質Bとして、測定対象物群のうち目的対象物特有の反応や活性により目的対象物内に取り込まれ、物質Aと近接する物質が用いられる。こうして、培養された測定対象物に対して、蛍光検査を行う。
【0018】
このとき、物質Aと物質Bが近接する場合、2種類の蛍光色素も近接する。物質A,Bに付加する2種類の蛍光色素は、近接することにより、一方の蛍光色素であるドナー蛍光色素がレーザ光の照射により励起したエネルギーが蛍光を発することなくアクセプター蛍光色素に移動する(蛍光共鳴移動(FRET:Fluorescence Resonant Energy Transfer ))。アクセプター蛍光色素は、この移動したエネルギーにより、励起されて特定の波長の蛍光を発する。以降、この蛍光をFRET蛍光という。
なお、測定対象物に照射されるレーザ光によってアクセプター蛍光色素も励起されるので、このレーザ光の励起によって発する蛍光も発する。以降、この蛍光をアクセプター蛍光という。
蛍光検査装置10は、FRET蛍光とアクセプター蛍光のそれぞれの発光過程に起因して生じる位相遅れの比を用いて、FRETの発生の有無を判定する。
【0019】
蛍光検査装置10は、移動台12と、レーザ光照射ユニット14と、受光ユニット16と、
データ処理部・制御部18と、分析装置20と、マニピュレータ30(図8参照)と、を有する。
【0020】
移動台12は、測定対象物を培養する培地容器22を載置するステージ24と、ステージ24を2次元的に(図中のx方向、y方向に)移動する移動機構26と、を有する。
移動機構26は、分析装置20から延びる制御線と接続され、分析装置20からの指示に基づいて培地容器22を2次元的に移動することができる構成になっている。ステージ24に載置される培地容器22は、測定対象物が培地中に分散して基板上に載せられている。本実施形態の測定対象物は、培地中で複数の生体が互いに集まった複数の生体コロニーである。複数の生体コロニーは、基板上の培地において分散している。この生体コロニーは、1つの生体が培養されて増殖して形成されたものである場合が多い。したがって、生体コロニー内の1つの生体が選別対象である場合、この生体コロニーに属する生体は略全て選別対象である場合が多い。
選別対象の生体コロニーは、ステージ24におけるこの生体コロニーの位置を特定することにより、特定された位置に基づいてマニピュレータ30により抜き取られる。これにより、目的対象物である生体コロニーを、他の生体コロニーから抜き取ることができる。
【0021】
以降、蛍光検査装置10の構成を説明する。
レーザ光照射ユニット14は、培地容器22内の測定対象物に照射するレーザ光を出射する。図2は、レーザ光照射ユニット14の構成を示すブロック図である。レーザ光照射ユニット14は、レーザ光源14a,14bと、レーザドライバ14c,14dと、スキャニングミラー14eと、駆動部14fと、駆動制御部14gと、ダイクロイックミラー14hと、を有する。
レーザ光源14aは、ドナー蛍光色素を励起するレーザ光L1を出射する。レーザ光源14bは、アクセプター蛍光色素を励起するレーザ光L2を出射する。ドナー蛍光色素を励起するレーザ光L1と、アクセプター蛍光色素を励起するレーザ光L2とは、ドナー蛍光色素、アクセプター蛍光色素をそれぞれ好適に励起することができるように波長帯域が異なっている。例えば、ドナー蛍光色素としてCFP(Cyan Fluorescent Protein)を用いる場合、波長405〜440nmのレーザ光が用いられ、アクセプター蛍光色素としてYFP(Yellow Fluorescent Protein)を用いる場合、波長470〜530nmのレーザ光が用いられる。レーザ光照射ユニット14は、このような可視光帯域の連続波のレーザ光L1,L2を所定の周波数で強度変調して出射する。
【0022】
ダイクロイックミラー14hは、反射特性および透過特性が波長によって異なるミラーである。ダイクロイックミラー14hは、レーザ光源14aから出射するレーザ光L1を透過し、レーザ光源14bから出射するレーザ光L2を反射することにより、レーザ光を1つのビームとして、測定対象物に照射する。
各レーザ光源には、それぞれの光源を駆動してレーザ光L1,L2を出射させるレーザドライバ14c,14dが接続されている。レーザドライバ14c,14dは、後述するデータ処理部・制御部18aからの信号によって、レーザ光を強度変調するように制御される。
【0023】
レーザ光を出射するレーザ光源14a,14bとして例えば半導体レーザが用いられ、例えば5〜100mW程度の出力でレーザ光がレーザ光源14a,14bから出射される。レーザ光の強度変調の周波数(変調周波数)は、その強度変調の周期がドナー蛍光色素、アクセプター蛍光色素が発する蛍光の蛍光緩和時間に比べて長く、例えば10〜100MHzである。ドナー蛍光色素を励起するためのレーザ光L1とアクセプター栄光色素を励起するためのレーザ光L2とは、強度変調の周波数が100〜2MHz異なり、ドナー蛍光色素を励起するレーザ光L1の強度変調の周波数が、アクセプター蛍光色素を励起するレーザ光L2の強度変調の周波数に対して、高くなっている。アクセプター蛍光色素を励起するレーザ光L2の強度変調の周波数がドナー蛍光色素を励起するためのレーザ光L1の強度変調の周波数に比べて高くてもよい。このように、レーザ光L1,L2の強度変調の周波数を僅かに変えるのは、後述するように、受光した蛍光の蛍光信号の処理が短時間に行われるようにするためである。
【0024】
レーザ光源14a,14bのそれぞれが出射するレーザ光L1,L2は、レーザ光L1,L2がドナー蛍光色素及びアクセプター蛍光色素をそれぞれ励起して特定の波長帯域の蛍光を発するように、予め定められた波長帯域で発振する。レーザ光L1,L2によって発する蛍光は、測定対象物中のドナー蛍光色素及びアクセプター蛍光色素の発する蛍光であり、培地容器22上のレーザ光を照射する照射範囲に位置する測定対象物は、レーザ光L1,L2の照射を受けて蛍光色素特有の波長で蛍光を発する。
【0025】
スキャニングミラー14eは、レーザ光源14a,14bが出射するレーザ光L1,L2を反射して、レーザ光を、培地容器22上の所定の範囲に照射する。具体的には、スキャニングミラー14eはレーザ光の反射角度を制御することにより、培地容器22上の所定の範囲を、一定の径のレーザ光のビームをスキャンさせる。スキャニングミラー14eは、駆動部14fによって駆動される。駆動部14fは、駆動制御部14gから送られた制御信号に基づいて、スキャニングミラー14eを駆動する。これにより、スキャニングミラー14eの反射角度は制御される。駆動制御部14gは、後述する測定範囲制御部20hと接続されて、制御信号が提供される。
【0026】
スキャニングミラー14eを用いたレーザ光L1,L2の照射範囲は、例えば、図3(a)に示すように、レーザ光を一方向に延在した線状の範囲である。また、スキャニングミラー14eの反射角度の制御により、例えば、図3(b)に示すように、図3(a)に示す線状の範囲を狭くして、レーザ光を照射する。このように、スキャニングミラー14eの反射角度の制御により、レーザ光の照射範囲は自在に調整される。レーザ光の照射範囲は、後述する測定範囲制御部20hにより、測定対象物である生体コロニーの位置を通るように、直線状に設定されている。なお、レーザ光のスポット径と生体コロニーの大きさとは、同程度であることが好ましい。例えば、レーザ光のスポット径が1mm程度とすると、コロニーも1mm程度に成長したものを測定対象に用いることが好ましい。
【0027】
図4は、受光ユニット16の概略の構成を示すブロック図である。
受光ユニット16は、レンズ系16aと、ダイクロイックミラー16bと、バンドパスフィルタ16c,16dと、光電子増倍管やアバランシェフォトダイオード等の光電変換器16e,16fと、撮影器16gと、制御器16hと、を有する。
レンズ系16aは、受光ユニット16に入射した蛍光を光電変換器16e,16fの受光面に集束させるように構成される。
【0028】
ダイクロイックミラー16bは、アクセプター蛍光色素の蛍光を透過させ、ドナー蛍光色素の蛍光を反射させるように、反射、透過の波長特性が定められて構成されたミラーである。バンドパスフィルタ16c,16dでフィルタリングして光電変換器16e,16fは、それぞれドナー蛍光色素の蛍光及びアクセプター蛍光色素の蛍光の所定の波長帯域の蛍光を取り込む。したがって、光電変換器16eは、ドナー蛍光色素の発する蛍光を受光し、光電変換器16fは、アクセプター蛍光色素の発する蛍光を受光する。
【0029】
バンドパスフィルタ16c,16dは、各光電変換器16e,16fの受光面の前面に設けられ、所定の波長帯域の蛍光のみが透過するフィルタである。透過する蛍光の波長帯域は、ドナー蛍光色素の蛍光及びアクセプター蛍光色素の蛍光の波長帯域に対応して設定されており、互いに異なる波長帯域となっている。
【0030】
光電変換器16e,16fは、例えば光電子増倍管等のセンサを備え、受光面で受光した光を電気信号に変換するセンサである。ここで、受光する蛍光は強度変調されたレーザ光の照射によって発する位相が遅れた蛍光である。この蛍光は、位相遅れの情報を持った光信号として受光される。このため、出力される電気信号は位相差の信号情報を持った蛍光信号となる。この蛍光信号は、データ処理部・制御部18に供給され、増幅器で増幅される。
【0031】
撮影器16gは、測定しようとする培地容器22中の培地全体を撮影する。撮影した画像は、後述する分析装置20において、基板上の生体コロニーの位置を特定するために画像処理が施される。撮影した画像上の各位置は、培地容器22上の各位置と対応付けられている。したがって、生体コロニーの画像上の位置が特定されると、生体コロニーの培地容器22上の位置を特定することができる。
制御部16hは、撮像器16gの動作を制御する。
【0032】
図5(a),(b)は、データ処理部・制御部18の概略の構成を示すブロック図である。
データ処理部・制御部18は、制御部18a(図5(a)参照)とデータ処理部18b(図5(b)参照)とを有する。
制御部18aは、システム制御器19と、発振部18cとを有する。発振部18cは、発振器18d,18eと、パワースプリッタ18fと、SSB(Single Side Band)変調器18gと、アンプ18hと、を有する。
システム制御器19は、本装置全体の動作指示及び動作タイミングの制御を行う。発振部18cに対しては、システム制御器19が変調信号の生成を指示する。
【0033】
発振器18d,18eは、システム制御器19の指示に応じた所定の周波数の信号(正弦波信号)を発振する。
発振器18dは周波数fの信号(10〜100MHz)の信号を発振する。出力した周波数fの信号は、パワースプリッタ18fに入力される。パワースプリッタ18fは、入力された周波数fの信号を分割し、一方の信号をレーザドライバ14dに出力する。分割した周波数fの信号は、レーザドライバ14dに出力され、レーザ光の変調信号として用いられる。他方の信号は、増幅器18hで増幅された後、データ処理部18bに出力され、さらに他方の信号は、SSB変調器18gに出力される。周波数fの信号をデータ処理部18bに出力するのは、データ処理部18bにおいて、蛍光信号の検波のための参照信号として用いるためである。
一方、発振器18eは、周波数Δf(100kHz〜2MHz)の信号を発振する。周波数の信号Δfは、SSB変調器18gに出力される。SSB変調器18gは、入力された周波数fの信号と、周波数Δfの信号に基づいて、周波数(f+Δf)の信号を生成する。生成した周波数(f+Δf)の信号は、レーザドライバ14cに出力され、レーザ光の変調信号として用いられる。
【0034】
データ処理部18bは、光電変換器16e,16fから出力される蛍光信号を用いて、レーザ光の照射により測定対象物が発する蛍光の位相遅れに関する情報(位相差)を抽出する。データ処理部18bは、アンプ18i,18jと、パワースプリッタ18kと、IQミキサ18l,18mと、ローパスフィルタ18nと、増幅器18oと、AD変換器18pと、を有する。アンプ18i,18jは、光電変換器16e,16fから出力される蛍光信号を増幅する。パワースプリッタ18kは、蛍光信号のそれぞれに対して、発振部18cから供給された周波数fの信号である変調信号を分配する。IQミキサ18m,18lは、増幅された蛍光信号を上記変調信号とミキシングする。
【0035】
IQミキサ18l、18mは、ドナー蛍光色素が発する蛍光の蛍光信号及びアクセプター蛍光色素が発する蛍光の蛍光信号を、発振部18cから供給される信号を参照信号としてミキシングするために、光電変換器16e,16f別に設けられている。変調信号を参照信号として同期してミキシングすることで、後述するように、蛍光の位相遅れを求めることができる。具体的には、IQミキサ16e,16fのそれぞれは、参照信号を蛍光信号(RF信号)と乗算して、蛍光信号のcos成分(実数部)と高周波成分を含む処理信号を算出するとともに、参照信号の位相を90度シフトさせた信号を蛍光信号と乗算して、蛍光信号のsin成分(虚数部)と高周波成分を含む処理信号を算出する。処理信号は、ドナー蛍光色素が発した蛍光の信号及びアクセプター蛍光色素が発した2つの蛍光の信号である。このcos成分を含む処理信号及びsin成分を含む処理信号は、ローパスフィルタ18nに出力される。
【0036】
ローパスフィルタ18nは、入力したcos成分、sin成分に高周波成分が加算された処理信号から高周波成分を取り除く。アンプ18oは、高周波成分の取り除かれたcos成分、sin成分の処理信号を増幅する。AD変換器18pは、増幅された処理信号をサンプリングする。AD変換器18pでは、高周波成分の取り除かれたcos成分、sin成分の処理信号がサンプリングされて、分析装置20に出力される。サンプリングは、上述の周波数Δfの整数倍(好ましくは3倍以上の整数倍)の周波数をサンプリング周波数とする。ローパスフィルタ18nは、AD変換器18pによるデジタル化のときのアンチエリアジングのために、かつ周波数Δfの信号成分を通過させるために、周波数特性が定められる。
【0037】
分析装置20は、AD変換器18pでデジタル化された蛍光信号(cos成分、sin成分)を用いて、蛍光強度と蛍光の発光過程における位相遅れを蛍光の特徴量として算出し、この特徴量に基づいて、FRETが発生しているか否かを判定する。これにより、分析装置20は、FRETが発生しているとき、測定対象物(複数の生体コロニー)に目的対象物(選別すべき生体コロニー)が含まれていると判定する。さらに、この判定結果に応じて、レーザ光の照射範囲を変更する、例えば、照射範囲を狭くする。こうして、分析装置20は、レーザ光の照射範囲を狭くすることにより、目的対象物の位置を特定することができる。もし、レーザ光の照射範囲内で、FRETが発生していないと判定した場合、分析装置20は、レーザ光の照射範囲を、別の範囲に移動するように、レーザ光照射ユニット14を制御する。
【0038】
分析装置は、CPU20aと、メモリ20bと、データベース20cと、を有するコンピュータで構成される。分析装置20は、メモリ20bに記憶されているプログラムを起動することにより、モジュールが立ち上がる。
モジュールは、周波数分析部20dと、位相遅れ算出部20eと、蛍光強度算出部20fと、FRET判定部20gと、画像処理部20iと、測定範囲制御部20hと、を含む。
データベース20cは、例えば、撮像器16gで撮像した画像上の測定対象物の位置情報や、特定した目的対象物の位置情報を記憶する。
【0039】
周波数分析部20dは、データ処理部18bから供給された蛍光信号について周波数分析を行い、周波数0の信号成分の値と、周波数Δfの信号成分の値を算出する。周波数0の信号成分の値および周波数Δfの信号成分の値として、例えば周波数0,Δfに対して所定の範囲のパワースペクトル値が用いられてもよい。レーザ光照射ユニット14は、スキャニングミラー14eの反射角度の制御によってレーザ光を定められている照射範囲でスキャンするが、このレーザ光のスキャンによって収集される蛍光信号のcos成分およびsin成分の時系列信号が周波数分析部20dに入力される。したがって、周波数分析部20dは、このcos成分およびsin成分の時系列信号に対して、例えばFFT(Fast Fourier Trandformation)処理を行う。
蛍光信号は、cos成分の信号とsin成分の信号を有するので、算出される値は、cos成分の周波数0の成分の値および周波数Δfの成分の値と、sin成分の周波数0の成分の値および周波数Δfの成分の値とを含む。しかも、cos成分の信号とsin成分の信号は、光電変換器16fから出力されたアクセプター蛍光色素が発する蛍光の信号に由来するものと、光電変換器16eから出力されたドナー蛍光色素が発する蛍光の信号に由来するものがある。
アクセプター蛍光色素が発する蛍光の信号に由来する周波数0におけるcos成分およびsin成分は、アクセプター蛍光色素がレーザ光で励起されて発するアクセプター蛍光の信号成分である。アクセプター蛍光色素が発する蛍光の信号に由来する周波数Δfにおけるcos成分およびsin成分は、FRETによりアクセプター蛍光色素が発するFRET蛍光の信号成分である。
同様に、ドナー蛍光色素が発する蛍光の、周波数Δfにおけるcos成分およびsin成分は、ドナー蛍光色素がレーザ光で励起されて発するドナー蛍光の信号成分である。
これらの算出された値は、位相遅れ算出部20eおよび蛍光強度算出部20fに提供される。
【0040】
位相遅れ算出部20eは、周波数0,Δfにおけるcos成分およびsin成分の値を用いて、(sin成分の値)/(cos成分の値)を算出することにより、位相遅れtanθを周波数0,Δfについて算出する。
例えば、アクセプター蛍光色素が発する蛍光の信号に由来する周波数0における位相遅れtanθは、レーザ光の照射を受けたアクセプター蛍光色素が発する蛍光の発光過程(一次緩和過程)に起因する遅れを表す。アクセプター蛍光色素が発する蛍光の信号に由来する周波数Δfにおける位相遅れtanθΔfは、FRET蛍光の発光過程(一次緩和過程)に起因する遅れを表す。算出された周波数0,Δfにおける位相遅れtanθ,tanθΔfは、FRET判定部20gに提供される。このような位相遅れtanθ,tanθΔfと蛍光の発光過程については、WO2009/028063公報に記載されている。
蛍光強度算出部20fは、周波数0,Δfにおけるcos成分およびsin成分の値の二乗加算和の平方根を算出することにより、蛍光強度P,PΔfを算出する。算出された周波数0,Δfにおける蛍光強度P,PΔfは、FRET判定部20gに提供される。
【0041】
FRET判定部20gは、算出された周波数0,Δfにおける蛍光強度P,PΔfと、周波数0,Δfにおける位相遅れtanθ,tanθΔfを用いて、FRETの発生の有無を調べることにより、測定対象物群内に、目的対象物が含まれているか否かを判定する。
図7(a),(b)は、FRET判定部20gがFRETの発生の有無の判定方法の一例を説明する図である。この例では、アクセプター蛍光とFRET蛍光の蛍光強度と位相遅れを用いる。なお、アクセプター蛍光とは、レーザ光によってアクセプター蛍光色素が直接励起されることにより発する蛍光をいう。FRET蛍光とは、レーザ光の照射を受けて励起したドナー蛍光色素の励起エネルギーがFRETによりアクセプター蛍光色素に移動し、この励起エネルギーによってアクセプター蛍光色素が発する蛍光をいう。
図7(a)に示すように、周波数0におけるアクセプター蛍光の蛍光強度Pの値のα倍(0<α<1)を閾値として、周波数ΔfにおけるFRET蛍光の蛍光強度PΔfの値がこの閾値以下の場合、FRET判定部20gは、FRETは発生していないと判定する。一方、周波数ΔfにおけるFRET蛍光の蛍光強度PΔfの値がこの閾値を越える場合であっても、周波数0におけるアクセプター蛍光の位相遅れtanθの値のβ倍(1<β)を閾値として、周波数Δfにおける位相遅れtanθΔfの値がこの閾値以下である場合、FRET判定部20gは、FRETは発生していないと判定する。FRET蛍光の蛍光強度PΔfが閾値α・P0を越え、FRET蛍光の位相遅れtanθΔfが閾値β・tanθを越える場合、FRET判定部20gは、FRETの発生は発生している、と判定する。FRET判定部20gは、FRETの発生の有無により、レーザ光の照射範囲内に目的対象物が存在したか否かを判定する。
この他の判定方法として、アクセプター蛍光の蛍光強度Pおよび位相遅れtanθの代わりに、ドナー蛍光色素が発する蛍光における蛍光強度Pおよび位相遅れtanθを用いることもできる。判定結果の情報は、測定範囲制御部20hに提供される。
【0042】
このようにFRET判定部20gがFRET蛍光の蛍光強度PΔfを調べるのは、位相遅れtanθΔfが閾値β・tanθを越える場合であっても、FRETが発生していない場合があるからである。位相遅れtanθΔfは、(sin成分の値)/(cos成分の値)で算出されるので、FRETが発生せず、蛍光強度PΔfが極めて小さくても、位相遅れtanθΔfがノイズ成分の影響を受けて閾値β・tanθを越える場合があるからである。このため、FRET判定部20gは、蛍光強度PΔfが閾値を越えるときのみ、位相遅れtanθΔfが閾値β・tanθを越えるか否かを調べる。
なお、培地容器22内では、生体コロニーを形成するが、このような生体コロニーのサイズは生体コロニー間でばらばらであるため、従来のように、蛍光強度を用いるだけでは、精度の高い判定はできない。本実施形態のように、生体コロニーのサイズに影響を受けない位相遅れを用いることにより、精度の高い判定が達成できる。
判定に用いられた、位相遅れtanθ,tanθΔf及び蛍光強度P,PΔfは図示されないディスプレイあるいはプリンタ等の出力装置に出力される。
【0043】
測定範囲制御部20hは、後述する画像処理部20iから提供される、培地上の測定対象物である生体コロニーの位置情報に基づいて、レーザ光の照射範囲を自動的に定めて、レーザ光照射ユニット14を制御する。さらに、測定範囲制御部20hは、FRET判定部20gから提供される判定結果の情報に応じて、レーザ光の照射範囲を変更する。レーザ光の照射範囲の変更とは、定められているレーザ光の照射範囲を狭くすること、及び、定められているレーザ光の照射範囲を他の照射範囲に移すこと、を含む。例えば、FRET判定部20gの判定により、FRETの発生がなく、レーザ光の照射範囲に目的対象物が存在しない場合、測定範囲制御部20hは、レーザ光の照射範囲を他の照射範囲に移す。一方、FRET判定部20gの判定により、FRETの発生が認められ、レーザ光の照射範囲に目的対象物が存在する場合、測定範囲制御部20hは、レーザ光の照射範囲を狭くする。この場合、レーザ光の照射範囲を徐々に狭くして、レーザ光による蛍光の検査を繰り返すことにより、測定範囲制御部20hは、FRETが発生する目的対象物の位置を特定することができる。
なお、測定範囲制御部20hは、画像処理部20iで定まる画像上の位置と、ステージ24上の位置とを関連付けた参照テーブルを有する。測定範囲制御部20hは、この参照テーブルを用いて、画像上の測定対象物の位置からステージ24上の位置を求め、レーザ光の照射範囲を定める。
測定範囲制御部20hは、レーザ光の照射範囲の情報をレーザ光照射ユニット14に提供し、システム制御器19に蛍光検出を行うように指示をする。さらに、測定範囲制御部20hは、目的対象物を見出して位置が特定されたとき、後述するマニピュレータ30に、特定された位置の情報を提供する。
【0044】
画像処理部20iは、撮像器16g(図4参照)にて撮影された培地上の測定対象物の画像のコントラスト処理、明度処理、二値化処理等を行って、測定対象物である生体コロニーの位置を特定する。生体コロニーの位置は、画像上の位置座標により特定される。コロニーの位置座標は、コロニーの位置情報として、データベース20cに記憶されるとともに、測定範囲制御部20hに提供される。
【0045】
マニピュレータ30は、図8に示すように、測定範囲制御部20hによってステージ24上の特定された位置にある目的対象物を培地内から抜き取り、目的サンプル容器32に集める。目的対象物の抜き取りは、マニピュレータ30の先端に設けられた管により吸引により行われる。このとき、測定範囲制御部20hは、移動機構26によりステージ24をx方向、y方向に移動させて、効率よく目的対象物を抜き取ってもよい。
以上が、蛍光検査装置10の構成である。
【0046】
このような蛍光検査装置10は、以下の蛍光検査方法を行う。
まず、測定範囲制御部20hは、測定対象物が分散する培地容器22の基板に対してレーザ光の照射範囲を設定する。具体的には、測定範囲制御部20は、予め撮像器16gにより得られる測定対象物の画像から分散する測定対象物の位置を特定することにより、この測定対象物を照射するように、レーザ光の照射範囲を設定する。
レーザ光照射ユニット14は、定められた照射範囲でレーザ光を照射する。例えば、スキャニングミラー14eの反射角度を制御することにより、図3(a)に示すように、レーザ光が一定の範囲をスキャンしながら直線状に照射する。このとき、レーザ光は、所定の周波数fと周波数Δfで強度変調された2つのレーザ光L1,L2が重なったビームである。
【0047】
次に、受光ユニット16は、レーザ光の照射を受けた測定対象物のそれぞれが発する蛍光を受光して、蛍光信号を出力する。
この後、データ処理部18bは、蛍光信号の信号処理を行う。さらに、分析装置20は、蛍光の特徴量である位相遅れtanθ,tanθΔf及び蛍光強度P,PΔfを算出することにより、測定対象物が目的対象物を含むか否かの判定をする。この判定は、図7(a),(b)に示す方法によってFRETが発生しているか否かを調べることにより行われる。
【0048】
さらに、分析装置20は、上記判定の結果に応じて、レーザ光が照射する照射範囲を狭くする。蛍光検出装置10は、レーザ光照射ユニット14によるレーザ光の照射、受光ユニット16による蛍光の受光、およびデータ処理部18bにおける信号処理、分析装置20における判定、を繰り返す。
こうして、分析装置20は、レーザ光の照射範囲を徐々に狭くすることにより、目的対象物の位置を特定する。
この後、分析装置20で特定された位置にある目的対象物を抜き取り、目的サンプル容器32に集める。
【0049】
以上のように、本実施形態は、レーザ光を受光した測定対象物が発する蛍光の蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出することにより、測定対象物が目的対象物を含むか否かを判定する。本実施形態は、この判定結果に応じて、レーザ光の照射範囲を変更する、このため、レーザ光を照射した測定対象物内に目的対象物が含まれない場合、本実施形態は、すぐに測定対象物の別の範囲を検査することができるので、効率よく目的対象物を見出すことができる。また、本実施形態は、測定対象物内に目的対象物が含まれる場合、レーザ光の照射範囲を狭くすることができるので、効率よく目的対象物の位置を特定することができる。特に、FRETを利用して、精度の高く目的対象物を見出すことができる。
従来は、蛍光強度に基づいて目的対象物を判別するが、目的対象物の大きさに応じて蛍光強度を規格化する必要があり、目的対象物の判別が容易でなかったが、本実施形態のようにFRETを用いることにより、迅速に目的対象物の有無を判定することができる。
このような実施形態は、生体コロニーを形成した微生物群等の複数の測定対象物であっても、従来のフローサイトメータのように単離する必要がなく、コロニー単位で目的対象物を見出すことができる。また、本実施形態は、生体コロニーを単離する必要がないので、生体が損傷を受ける可能性が極めて少ない。
また、本実施形態では、FRETを用いるので、FRETの発生する目的対象物の割合が少なくても、FRETの発生を効率よく見つけ出すことができる。
【0050】
本実施形態では、目的対象物の存在の判定を行うために、2つの蛍光色素を用いたFRETを利用するが、このFRETを利用した判定方法として、WO2009/028062公報に記載される、1つのレーザ光源を用いて行うFRET検出方法を用いることもできる。
なお、本実施形態では、目的対象物の存在の判定を行うために、2つの蛍光色素を用いたFRETを利用するが、必ずしもFRETを利用しなくてもよい。例えば、選別対象とする生体のみが取り込みやすい物質あるいは取り込みにくい物質に付着した蛍光色素をラベルとして用いて、蛍光検査を行うこともできる。この場合、レーザ光を出射するレーザ光源は、2つではなく、1つのみが用いられてもよい。
また、本実施形態では、ドナー蛍光色素が発する蛍光を受光する光電変換器16eと、アクセプター蛍光色素が発する蛍光を受光する光電変換器16fが用いられる。しかし、ドナー蛍光色素の発する蛍光の蛍光強度及び蛍光緩和時間が、FRETの判定に用いられない場合、ドナー蛍光色素が発する蛍光を受光する光電変換器16eを用いず、アクセプター蛍光色素が発する蛍光を受光する光電変換器16fのみが用いられてもよい。
本実施形態は、蛍光の位相遅れとしてtanθを用いるが、tanθの代わりに角度であるθを用いてもよい。
【0051】
以上、本発明の蛍光検査装置および蛍光検査方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
10 蛍光検査装置
12 移動台
14レーザ光照射ユニット
14a,14b レーザ光源
14c,14d レーザドライバ
14e スキャニングミラー
14f 駆動部
14g 駆動制御部
14h ダイクロイックミラー
16 受光ユニット
16a レンズ系
16b ダイクロイックミラー
16c,16d バンドパスフィルタ
16e,16f 光電変換器
16g 撮影器
16h 制御器
18 データ処理部・制御部
18a 制御部
18b データ処理部
18c 発振部
18d,18e 発振器
18f パワースプリッタ
18g SSB変調器
18h アンプ
18i,18j アンプ
18k パワースプリッタ
18l,18m IQミキサ
18n ローパスフィルタ
18o増幅器
18p AD変換器
19 システム制御器
20 分析装置
20a CPU
20b メモリ
20c データベース
20d 周波数分析部
20e 位相遅れ算出部
20f 蛍光強度算出部
20g FRET判定部
20h 測定範囲制御部
20i 画像処理部
22 培地容器
24 ステージ
26 移動機構
30 マニピュレータ
32 目的サンプル容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光することにより、蛍光検査を行う蛍光検査装置であって、
基板上に分散する測定対象物に対してレーザ光の照射範囲を定めてレーザ光を照射するレーザ光照射部と、
前記レーザ光を受光した測定対象物のそれぞれが発する蛍光を受光して、蛍光信号を出力する受光部と、
前記蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出することにより、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かを判定する処理部と、
前記処理部の判定結果に応じて、前記レーザ光の照射範囲を変更する制御部と、を有することを特徴とする蛍光検査装置。
【請求項2】
前記処理部が、前記測定対象物が目的対象物を含むと判定した場合、
前記制御部は、前記レーザ光の前記照射範囲を狭くして、前記レーザ光を前記測定対象物の一部に照射するように制御する、請求項1に記載の蛍光検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記レーザ光の照射位置の前記照射範囲を狭くすることにより、前記目的対象物の位置を特定する、請求項2に記載の蛍光検査装置。
【請求項4】
さらに、特定された位置にある前記目的対象物を前記測定対象物から抜き取る抜き取り部を有する、請求項3に記載の蛍光検査装置。
【請求項5】
前記測定対象物に照射される前記レーザ光は、所定の周波数の変調信号で強度変調され、
前記処理部は、蛍光信号の、前記変調信号に対する位相遅れを、前記特徴量として算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光検査装置。
【請求項6】
前記目的対象物は、第1の物質と第2の物質とが結合した構成物を含み、
前記第1の物質には、第1の蛍光物質が設けられ、
前記第2の物質には、第2の蛍光物質が設けられ、
前記受光部は、前記レーザ光の照射により前記第2の蛍光物質が発する第1の蛍光と、前記レーザ光の照射により受けた前記第1の蛍光物質の励起エネルギーが第2の蛍光物質に移動することにより、前記第2の蛍光物質が発する第2の蛍光と、を受け、
前記処理部は、前記第1の蛍光および前記第2の蛍光の信号のそれぞれを、前記蛍光信号として処理する、請求項5に記載の蛍光検査装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記第1の蛍光の発光過程に起因して生じる位相遅れと前記第2の蛍光の発光過程に起因して生じる位相遅れとの間の比率に基づいて、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かを判定する、請求項6に記載の蛍光検査装置。
【請求項8】
前記測定対象物は、前記基板上の培地において複数の生体が互いに集まった生体コロニーである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光検査装置。
【請求項9】
複数の測定対象物のそれぞれがレーザ光の照射を受けて発する蛍光を受光することにより、測定対象物の蛍光検査を行う蛍光検査方法であって、
基板上に分散する測定対象物に対してレーザ光の照射範囲を定めてレーザ光を照射する第1ステップと、
前記レーザ光を受光した測定対象物のそれぞれが発する蛍光を受光して、蛍光信号を出力する第2ステップと、
前記蛍光信号の信号処理を行い、蛍光の特徴量を算出することにより、前記測定対象物が目的対象物を含むか否かの判定をする第3ステップと、
前記判定の結果に応じて、前記レーザ光が照射する、前記基板上の照射範囲を狭くして、前記第1ステップ、前記第2ステップおよび前記第3ステップを繰り返す、第4ステップと、
前記第4ステップを行うことにより、目的対象物の前記基板上における位置を特定する第5ステップと、を有する蛍光検査方法。
【請求項10】
さらに、特定された位置にある前記目的対象物を前記測定対象物から抜き取る第6ステップを有する、請求項9に記載の蛍光検査方法。
【請求項11】
前記測定対象物は、前記基板上の培地において複数の生体が互いに集まった生体コロニーである、請求項9または10に記載の蛍光検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−174791(P2011−174791A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38528(P2010−38528)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】