説明

蛍光相関分光分析装置及び方法並びにそのためのコンピュータプログラム

【課題】 蛍光相関分光分析を用いて複数の種類の成分の分子が共存する試料中の各成分の存在比を検出する測定に於いて、各成分のみを含むコントロール試料の蛍光測定の回数をできるだけ少なくできるようにすること。
【解決手段】 本発明の蛍光分析装置、方法及びコンピュータプログラムに於いては、蛍光相関分光分析法により蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の各成分の存在比を検出する場合に、各成分の並進拡散時間の比の値を用いて少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光相関分光分析による蛍光分析装置、蛍光分析方法並びにそのためのコンピュータプログラムに係り、より詳細には、蛍光相関分光分析を用いて、種々の分子、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、糖鎖、アミノ酸及びその他の生体分子(以下、「生体分子等」とする。)の相互作用、結合・解離状態の検出及び解析を行うための装置、方法並びにコンピュータプログラムに係る。
【背景技術】
【0002】
近年の光計測技術の発展により、分子レベルの蛍光を測定・解析することが可能な蛍光相関分光分析(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)が利用できるようになっている(非特許文献1、2、)。蛍光相関分光分析に於いては、端的に述べれば、レーザー共焦点顕微鏡の光学系とフォトンカウンティング(1光子検出)が可能な超高感度の光検出装置とを用いて、溶液試料中の微小領域(顕微鏡のレーザー光が集光された焦点領域−コンフォーカル・ボリュームと称される。)内に出入りする蛍光分子又は蛍光標識された分子(蛍光分子等)からの蛍光強度が測定され、その蛍光強度の自己相関関数が演算される。自己相関関数は、蛍光分子等からの蛍光強度の揺らぎの指標となるものであり、蛍光強度の揺らぎは、微小領域内の蛍光分子等の数の揺らぎに対応するので、自己相関関数の値には、微小領域内に於ける蛍光分子等の平均の滞留時間(並進拡散時間)及び滞留数(平均分子数)が反映されている。従って、かかる自己相関関数の値から蛍光分子等の運動の速さ又は大きさ、濃度といった情報が得られ、これらの情報に基づいて、分子の構造又は大きさの変化や分子の結合・解離反応又は分散・凝集といった種々の現象を検出することができる。
【0003】
生物科学、医学又は薬学の分野に於いては、上記の如き蛍光相関分光分析を生体分子等の状態及び運動の検出・観測に応用し、種々の生体分子等の現象・反応を細胞レベル又は分子レベルで解明する試みがなされている(特許文献1、2、非特許文献3)。例えば、互いに結合する一対の分子(抗原と抗体、DNAとタンパク質など)のうち、少なくとも一方の分子に蛍光分子等の蛍光標識を付加した上で、それらの分子を反応させると、一方の分子上の蛍光分子等の運動や状態の変化が蛍光分子からの蛍光強度の揺らぎに反映され、これにより、タンパク質又はDNA等の分子間の結合が検出できることとなる。特に、蛍光が観察される微小領域に複数成分の蛍光分子等が出入りする場合の蛍光強度の自己相関関数値を与えるモデル式が提案されており、かかるモデル式を用いると、溶液試料中の複数成分の蛍光分子等の存在比が決定され、その値から解離定数、結合定数なども算出できるようになってきている(非特許文献2)。また、蛍光相関分光分析は、従前の生化学的な方法に比して極めて微量な試料にて且短時間にて計測が可能であるので、医学・薬理学等の分野に於いて、種々の病気の臨床診断や生理活性物質のスクーリングに於ける応用も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−098876
【特許文献2】特開2008−292371
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】金城政孝、蛋白質 核酸 酵素 Vol.44、No.9、1431−1438頁 1999年
【非特許文献2】エフ・ジェイ・メイヤー・アルムス(F.J.Meyer-Alms)、フルオレセンス・コリレーション・スペクトロスコピー(Fluorescence Correlation Spectroscopy)、アール・リグラー編(R.Rigler)、スプリンガー(Springer)、ベルリン、2000年、204−224頁
【非特許文献3】加藤則子外4名、遺伝子医学、Vol.6、No.2、271−277頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の蛍光相関分光分析を用いて複数の種類の成分の分子が共存する試料中の各成分の存在比(分子の数の比)を検出する場合、例えば、少なくとも二つの成分の分子間の結合比の検出や分子量の変化を伴う反応の進行の度合の検出を行う場合などに於いて、検査されるべき試料についての蛍光強度の測定、自己相関関数の算出が実行された後、典型的には、算出された自己相関関数C(τ)に対して下記の式のフィッティングが為され、各成分の存在比yiが決定される。
【数1】

ここに於いて、Nは、コンフォーカル・ボリューム内に存在する蛍光分子等の数の平均値であり、ARは、ストラクチャパラメータと称されるコンフォーカル・ボリュームの長軸wzと横方向半径woとの比(AR=wz/wo)であり(図1(B)参照)、τiは、各成分の並進拡散時間である。従って、式(1)による自己相関関数のフィッティングをして、各成分の存在比yiを決定するためには、ストラクチャパラメータARと各成分の並進拡散時間τiが予め決定されていることが好ましい(Nは、C(0)により与えられるので、フィッティングにより与えられる。)。この点に関し、ストラクチャパラメータARと並進拡散時間τiとには、測定条件や装置の調整による変動がある。そこで、通常、精度良く測定を実行しようとする場合には、検査されるべき試料についての蛍光強度の測定を行う度に、検査されるべき試料中の成分に付加されている蛍光標識(通常、蛍光色素)の試料について蛍光強度の測定、自己相関関数の算出が為され、算出された自己相関関数の値からストラクチャパラメータARが決定され、また、試料中の各成分が単独にて存在する状態の試料(例えば、或る蛍光分子等が他の分子と結合する反応の場合には、全ての蛍光分子等が当該他の分子に結合した状態の試料と全ての蛍光分子等が相手の分子から解離した状態の試料)について蛍光強度の測定、自己相関関数の算出が為され、各成分の並進拡散時間の算出が実行される。(以下、試料中の各成分が単独にて存在する状態の試料を「コントロール試料」と称する。)
【0007】
しかしながら、上記の如く、検査されるべき試料についての蛍光強度の測定を行う度に、蛍光標識の試料、コントロール試料のついての蛍光測定、自己相関関数の算出を行うことは、検査時間や手間を要することとなる。特に、検査されるべき試料中の成分に付加される蛍光標識の試料は、入手及び調製が比較的容易であるが(通常、予め十分な量にて準備されている。)、コントロール試料は、しばしば、高価又は希少な試料となる場合があり、また、調製にも手間がかかることがあるので、コントロール試料のついての蛍光測定の回数は、できるだけ少なくできることが好ましい。
【0008】
そこで、本発明の一つの課題は、蛍光相関分光分析を用いて複数の種類の成分の分子が共存する試料中の各成分の存在比を検出する測定に於いて、コントロール試料の蛍光測定の回数をできるだけ少なくすることができる蛍光相関分光分析装置、方法又はそのためのコンピュータプログラムを提供することである。
【0009】
この点に関し、本発明の発明者による研究によれば、任意の複数成分の分子のそれぞれの並進拡散時間の絶対的な値は、測定条件や装置の調整による変動があるところ、同一の測定条件及び装置の調整状態にて検出された複数成分の分子の並進拡散時間の値の比は、測定条件や装置の調整状態が異なっていても、略不変であることが実験的に確認された。本発明では、かかる知見を生かして、上記の課題を達成することが提案される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、一つの態様として、蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出することができるよう構成された蛍光相関分光分析装置であって、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域を含み、その記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて、少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出することを特徴とする装置が提供される。
【0011】
既に触れたように、任意の分子の並進拡散時間の値は、蛍光測定時の測定条件、例えば、温度、溶液の粘度等、及び装置の調整状態、特に、コンフォーカル・ボリュームの寸法(レーザー光の集光状態や溶液試料の容器のカバーガラスの厚みなどによって変化する。)等によって変動するところ、本発明の発明者による実験によれば、任意の複数の種類の分子の並進拡散時間の値の比は、測定条件、装置の調整状態によらず略一定となることが確認された。そこで、本発明では、予め少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を装置に記憶しておき、溶液試料内の少なくとも二種類の成分の各々の存在比は、並進拡散時間の比の値を参照して溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から検出されるよう構成される。かかる構成によれば、測定条件、装置の調整状態が変わる毎に行っていた検査されるべき溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々、即ち、コントロール試料の並進拡散時間の検出を省略することが可能となり、従って、コントロール試料の調製、測定、解析を大幅に低減することが可能となる。なお、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値は、典型的には、検査されるべき溶液試料中の成分に付加された蛍光標識を有する基準物質(典型的には、蛍光色素分子そのものであってよいが、これに限定されない。)の並進拡散時間に対する少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であってよい。これにより、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の絶対的な値は、基準物質の並進拡散時間に少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比を乗じた値により与えられる。また、装置のストラクチャパラメータは、測定条件、装置の調整状態が変わる毎に基準物質について測定された蛍光強度の自己相関関数値から決定され、装置内に記憶されるようになっていてよい。
【0012】
上記の本発明の装置の構成に於いて、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値は、一つの態様に於いては、少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から決定された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間から算出されて、前記のデータ記憶領域に記憶されるようになっていてよい。この点に関し、一旦、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値が決定されれば、その比の値は、測定条件、装置の調整状態が変わっても保存されるので、少なくとも二種類の成分の各々の蛍光測定、自己相関関数の演算、並進拡散時間の算出の処理は、各成分について同一の測定条件及び装置の調整状態で十分な精度にて少なくとも一回ずつ行われればよく、これにより、検査に要する時間や手間が大幅に低減されることとなる。なお、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値は、測定条件、装置の調整状態が変わっても保存されることから、同一の装置にて決定されたものではなく、別の装置にて実験的に又は理論的に予め決定された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値がデータ記憶領域に記憶されるようになっていてもよい。
【0013】
本発明の装置の実施の態様に於いて、検査されるべき溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々の存在比は、少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む自己相関関数の理論式をフィッティングすることにより、検出されるようになっていてよい。理論式に於いては、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられてよい。
【0014】
なお、上記の如きフィッティングに於いて、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間は、検出値ではなく、推定値になるので、このことにより、フィッティングの精度が低下してしまうことも考えられる。そこで、本発明の装置は、フィッティングに於けるchi2乗値が所定の閾値を越えたとき、フィッティングの精度が不十分あることの警告が発せられるよう構成されていてよく、これにより、フィッティングの精度の低い検出結果が採用されることを回避できるようになっていてよい。また、フィッティングが巧く行えるか否かは、蛍光の励起波長や検出波長によってばらつきがあるので(波長によってレーザー光の集光度合や光検出器の感度が異なるため)、chi2乗値のための所定の閾値は、基準物質毎に設定可能となっていることが好ましい。
【0015】
上記の本発明の装置に於ける少なくとも二種類の成分の各々の「並進拡散時間の比」を用いるという特徴的な構成は、汎用のコンピュータによっても実現可能である。従って、本発明のもう一つの態様によれば、蛍光相関分光分析を用いて蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出するためのコンピュータプログラムであって、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域に記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する手順をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【0016】
かかるコンピュータプログラムに於いても、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値は、前記の蛍光標識を有する基準物質の並進拡散時間に対する少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であってよい。また、少なくとも二種類の成分の各々の存在比は、少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む自己相関関数値の理論式をフィッティングすることにより少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から検出されるようになっていてよく、理論式に於いて少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられるようになっていてよい。更に、上記の本発明のコンピュータプログラムに於いても、少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間を決定し、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を算出してデータ記憶領域に記憶する手順、予め決定された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値をデータ記憶領域に記憶させる手順及び/又はフィッティングに於いてchi2乗値が所定の閾値を越えたとき、フィッティングの精度が不十分あることの警告を発する手順をコンピュータに実行させるようになっていてよい。
【0017】
更に、上記の本発明の装置又はコンピュータプログラムによれば、少なくとも二種類の成分の各々の「並進拡散時間の比」を用いて蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々の存在比を決定する方法が提供される。従って、本発明の溶液試料中の少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する方法は、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域に記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する過程を含むことを特徴とする。
【0018】
かかる方法に於いても、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値が、前記の蛍光標識を有する基準物質の並進拡散時間に対する少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であってよい。また、少なくとも二種類の成分の各々の存在比は、少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む自己相関関数値の理論式をフィッティングすることにより少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から検出されるようになっていてよく、理論式に於いて少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられるようになっていてよい。そして、上記の方法に於いて、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値の記憶は、少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間を決定し、少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を算出してデータ記憶領域に記憶する過程又は予め決定された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値をデータ記憶領域に記憶する過程のいずれかにより為されてよい。
【発明の効果】
【0019】
上記の本発明の構成によれば、コントロール試料についての蛍光測定、自己相関関数の演算及び並進拡散時間の検出の回数を大幅に低減することが可能となる。従って、検査されるべき試料についての蛍光強度の測定を行う度にコントロール試料の調製を行う必要はなくなり、また、測定時間が短縮される(多数のウェルを有するマイクロプレートのウェルに試料を分注して測定を実行する場合には、コントロール試料のために余分なウェルを使用しなくてよくなる。)。
【0020】
また、本発明では、検査されるべき試料中の少なくとも二つの成分の各々の並進拡散時間は、各成分について十分な精度にて実行された測定から得られた並進拡散時間の比に基づいて決定可能となるので、検査されるべき試料についての検出結果の信頼性が高くなることが期待される。蛍光相関分光分析では、蛍光測定の結果を統計的に処理して並進拡散時間を算出するので、並進拡散時間の算出結果は、本質的に、ばらつきが大きい。従って、検査されるべき試料についての蛍光強度の測定を行う度にコントロール試料の各々について少ない又は限られた測定回数にて検出された並進拡散時間の値の信頼性は必ずしも高くなく、そのような並進拡散時間を用いて得られる検査されるべき試料についての検出結果は、精度が悪化しているおそれがある。一方、本発明の場合、十分な時間をかけて決定されたコントロール試料の各々の並進拡散時間の比を用いることで、検査されるべき試料についての検出結果の精度を高くすることができることとなる。
【0021】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(A)は、本発明による蛍光相関分光分析装置の内部構造の模式図である。図1(B)は、コンフォーカル・ボリューム(共焦点顕微鏡の観察領域)の模式図である。
【図2】図2は、本発明の蛍光相関分光分析装置にて算出される蛍光強度の自己相関関数を模式的に示したグラフ図(左図)と、計測される試料中の分子を模式的に示した図(右図)である。(A)は、検査試料中に含まれる一つの成分のコントロール試料1について得られる自己相関関数、(B)は、検査試料中に含まれるもう一つの成分のコントロール試料2について自己相関関数、(C)は、検査試料について得られる自己相関関数を、それぞれ示している。図中、矢印は、検査試料中の各成分の並進拡散時間(τ1、τ2)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0024】
蛍光相関分光分析装置の構成と分析方法の概要
図1(A)を参照して、本発明による好ましい実施形態である蛍光相関分光分析装置1は、光学系2〜17と、光学系の各部の作動を制御すると共にデータを取得し解析するためのコンピュータ18とから構成される。蛍光相関分光分析装置1の光学系は、通常の共焦点顕微鏡の光学系と同様であってよい。端的に述べれば、まず、光源2から放射されシングルモードファイバー3内を伝播したレーザー光(Ex)が、ファイバーの出射端に於いて固有のNAにて決まった角度にて発散する光となって放射され、コリメーター4によって平行光となり、ダイクロイックミラー5、反射ミラー6、7にて反射され、対物レンズ8へ入射される。対物レンズ8の上方には、典型的には、1〜数十μlの溶液試料が分注される試料容器又はウェル10が配列されたマイクロプレート9が配置されており、対物レンズ8から出射したレーザー光は、試料容器又はウェル10内の溶液試料中で焦点を結び、光強度の強い領域(励起領域)が形成される。溶液試料中の成分(分子)には、蛍光色素等の蛍光標識が付加されており、かかる成分が溶液試料中にてブラウン運動により移動し、励起領域に進入すると、その間、蛍光標識が励起され蛍光が放出される。放出された蛍光(Em)は、対物レンズ8、ダイクロイックミラー5を通過し、ミラー11にて反射してコンデンサーレンズ12にて集光され、ピンホール13を通過し、バリアフィルター14を透過して(ここで、特定の波長帯域の光成分のみが選択される。)、マルチモードファイバー15に導入される。なお、当業者に於いて知られている如く、ピンホール13は、対物レンズ8の焦点位置と共役の位置に配置されており、これにより、図1(B)に模式的に示されている如き対物レンズ8の焦点領域、即ち、励起領域内から発せられた蛍光のみが光検出器16に到達し、励起領域以外からの光は遮断される。図1(B)に例示された対物レンズ8の焦点領域は、コンフォーカル・ボリュームと称され、その体積は、通常、1fl程度である。
【0025】
かくして、光検出器16にて検出された蛍光は、逐次的に、時系列の電気信号に変換された後、コントローラー17を経て、コンピュータ18へ入力される。そして、コンピュータ18に於いては、図示していないメモリ装置に記憶されたプログラムに従って、蛍光強度I(t)の自己相関関数C(τ)の演算が
【数2】

(ここに於いて、t、τ及びnは、それぞれ、計測時間、相関時間及び総和演算の項数である。)
を用いて為され、種々の解析が為される。かかる解析に於いては、基本的には、蛍光の自己相関関数の値に対して、下記の式(3)がフィッティングされ、並進拡散時間τD、即ち、コンフォーカル・ボリューム内に進入した成分の滞在時間の平均と、コンフォーカル・ボリューム内に滞在する(蛍光を発する)粒子の数の平均Nとが決定される。
【数3】

ここに於いて、ARは、ストラクチャパラメータと称される装置の調整状態を表す特性値であり、図1(B)に例示されている如きコンフォーカル・ボリュームの長軸方向の長さwzと半径woとの比(=wz/wo)に相当する。また、溶液試料中に複数の(少なくとも2種類の)成分が含まれており、これらの成分の各々の存在比が決定される場合には、自己相関関数に対して下記の式をフィッティングして各成分の存在比yiが決定される。
【数4】

ここに於いて、τiは、各成分の並進拡散時間である。
【0026】
上記の如き蛍光相関分光分析装置1を用いて任意の溶液試料について実際に測定を実行する際には、一般的には、数秒〜十数秒間程度の蛍光測定を数回実行し、各回の測定毎に自己相関関数の演算とフィッティングが為され、並進拡散時間、平均粒子数又は各成分の存在比が算出され、数回の算出値の平均値が最終的な値として採用される。
【0027】
また、任意の溶液試料について上記の如き蛍光相関分光分析による測定を実行する場合には、典型的には、全ての蛍光測定に先立って、装置の調整状態の確認が行われる。特に、自己相関関数値及び並進拡散時間、平均粒子数等の検出値に影響を与えるコンフォーカル・ボリュームの寸法(半径woと長軸方向の長さwz)は、レーザー光の集光状態又はパワー、対物レンズ8の上方に配置される試料容器又はマイクロプレートのウェルの底面を為すカバーガラスの厚み並びに対物レンズの補正環の設定状態、ピンホール13の位置及び/又は寸法によって異なる。そこで、通常、検査されるべき溶液試料中の成分に付加されている蛍光標識を含む基準物質(蛍光色素分子そのものであってよい。)の溶液について、蛍光測定、自己相関関数値の演算が実行され、算出された自己相関関数値に対して式(3)のフィッティングし、ストラクチャパラメータAR(及び並進拡散時間τD)が決定される。そして、このストラクチャパラメータARの値が、所定の範囲内に収まっていれば、装置の調整状態が正常であると判断され、得られたARが、その後に行われる測定・解析に於いて用いられる(装置の調整状態が正常でなければ、調整がやり直される。)。
【0028】
更に、複数の成分を含む溶液試料中の各成分の存在比を決定する測定・解析が行われる場合には、各成分の並進拡散時間τiが決定される(図2(A)、(B)参照)。そのために、各成分のみを含有するコントロール試料が調製され、かかる各コントロール試料について、蛍光測定、自己相関関数値の演算が実行され、各コントロール試料について算出された自己相関関数値に対してストラクチャパラメータARを既知数として式(3)のフィッティングが為されて、各成分の並進拡散時間τiが算出される。そして、含有する成分の存在比が検査されるべき試料の蛍光の自己相関関数値に対する式(4)のフィッティングに於いて、上記の如く決定されたストラクチャパラメータARと各成分の並進拡散時間τiとが既知数として用いられる(図2(C)参照)。
【0029】
なお、ストラクチャパラメータAR、各成分の並進拡散時間τiを決定するための蛍光標識の溶液、コントロール試料についての蛍光測定も、それぞれ、通常、数回実行され、それらの蛍光自己相関関数から算出されたAR、τiの平均値が最終的な値として採用される。
【0030】
本発明による蛍光相関分光分析の改良
上記の如き蛍光相関分光分析を用いた複数の成分を含む溶液試料中の各成分の存在比の測定・解析に於いて、「発明の概要」の欄に於いて述べたように、式(4)によるフィッティングに用いられるストラクチャパラメータARと各成分の並進拡散時間τiは、蛍光測定時の測定条件、例えば、温度、溶液の粘度等や装置の調整状態、特に、コンフォーカル・ボリュームの寸法等によって変動するパラメータである。従って、従前では、或る検査されるべき試料についての測定・解析を行う度に、基準物質溶液と各成分のコントロール試料とが準備され(例えば、図1(A)に例示されている如き複数のウェル10が配列されたマイクロプレート9が試料容器として使用される場合、いくつかのウェルに基準物質溶液と各成分のコントロール試料とが分注される。)、基準物質溶液と各成分のコントロール試料の各々について蛍光測定と自己相関関数の演算が行われていた。しかしながら、特に、コントロール試料は、高価又は希少な試料である場合があり、また、調製にも手間がかかることがある。そこで、本発明に於いては、コントロール試料のついての蛍光測定の回数をできるだけ少なくできるよう蛍光相関分光分析の処理が以下の如く改良される。
【0031】
(i)改良の原理
或る成分iについて、その並進拡散時間τiは、
τi=wo/4Di …(5)
により定義される。ここで、Diは、成分iの分子の拡散定数である。拡散定数は、分子が水溶液中で半径riの球体にて振舞うと仮定したとき、
Di=k・T/6π・ri・η(T) …(6)
[ここで、kは、ボルツマン定数であり、Tは、溶液試料の絶対温度であり、η(T)は、溶液試料の粘性係数であり、温度Tの関数である。]
により与えられる。結局、並進拡散時間τiは、
τi=(3π/2k)・wo・(η(T)/T)・ri …(7)
となる。そこで、複数の成分を含む溶液試料について蛍光測定することを考えると、式(7)に於いて、woは、コンフォーカル・ボリュームの寸法であり、η(T)/Tは、測定時の環境条件であり、溶液試料中の各成分について共通の値である。かくして、成分1,2,…,i,…の並進拡散時間の比τ1:τ2:…:τi:…は、コンフォーカル・ボリューム、測定時の環境条件が変わっても、
τ1:τ2:…:τi:…=r1:r2:…:ri:… …(8)
により与えられ、保存されることとなる。従って、各成分について、つまり、各コントロール試料について、少なくとも1回、同一のコンフォーカル・ボリューム、測定時の環境条件に於いて並進拡散時間を測定し、その比を記憶しておけば、コンフォーカル・ボリューム、測定時の環境条件が変わっても、コントロール試料の蛍光測定、自己相関関数の演算を行わなずに、各成分の並進拡散時間の値が推定できることとなる。
【0032】
(ii)確認実験
上記の如く、複数の成分を含む溶液試料の蛍光相関分光分析に於いて、各成分の並進拡散時間の比が保存されることは、以下の実験により確認された。実験に於いては、蛍光色素の一つであるATT0633と、ATT0633が付加されたペプチド(図2(A)右図)、ATT0633が付加されたペプチドが結合した抗体(図2(B)右図)をそれぞれ単独にて含む溶液試料について、異なる温度条件にて、上記の蛍光測定を行い、測定された蛍光の自己相関関数から並進拡散時間を算出した。結果は、以下の通りとなった。
【表1】

上記の結果の如く、同一の試料でも並進拡散時間の絶対的な値は、温度条件が異なると変動することが確認される。しかしながら、上記の結果を、それぞれの回のATT0633の並進拡散時間の値で規格化する、即ち、並進拡散時間の比を取ってみると、表2の通りとなり、並進拡散時間の絶対的な値が変動しても、各成分の並進拡散時間の比が略保存されることが確認された。
【表2】

【0033】
(iii)改良の構成
本実施形態に於いては、測定条件等が変わっても、複数の成分を含む溶液試料中の各成分の並進拡散時間の比が保存されるという上記の知見を用いて、蛍光相関分光分析を用いて複数の成分を含む溶液試料中の各成分の存在比を決定する方法及びそのための蛍光相関分光分析装置1の構成並びに装置1の作動を制御するコンピュータプログラムの一部が変更される。
【0034】
複数の成分を含む或る溶液試料中の各成分の存在比を決定する際に於いては、まず、各成分の並進拡散時間の比が未知である場合にのみ、各成分のコントロール試料が調製され、かかる各成分のコントロール試料についての蛍光測定、自己相関関数の演算、式(3)のフィッティングを用いた並進拡散時間の算出が為される(コントロール試料の蛍光測定に先立って、基準物質溶液を用いたストラクチャパラメータARの算出と基準物質の並進拡散時間の算出が為される点は、従前と同様である。)。そして、(基準物質の並進拡散時間に対する)各成分の並進拡散時間の比κiが、算出された各成分の並進拡散時間を基準物質溶液の並進拡散時間で規格化することにより、即ち、
κi=τi/τ0 …(9)
(τ0は、基準物質の並進拡散時間とする。)
により決定され、任意のデータ記憶領域に保存される。例えば、検査されるべき溶液試料が、基準物質0にて蛍光標識された二つの成分、成分1、成分2を含むときには、成分1のコントロール試料1、成分2のコントロール試料2について、蛍光測定を行い、図2(A)、(B)にそれぞれ例示されている如き自己相関関数を演算して並進拡散時間τ1、τ2を決定した後、並進拡散時間の比κ1、κ2が
κ1=τ1/τ0 …(10a)
κ2=τ2/τ0 …(10b)
により決定され記憶される。
【0035】
かくして、各成分の並進拡散時間の比が決定された後、溶液試料中の各成分の存在比を決定する際には、基準物質溶液と検査されるべき溶液試料とが調製され、基準物質溶液を用いたストラクチャパラメータARの算出と基準物質の並進拡散時間τ0の算出が為された後、溶液試料の蛍光測定が為され、自己相関関数が算出される。しかる後、溶液試料についての自己相関関数に対して、各成分の並進拡散時間の比κiと基準物質の並進拡散時間τ0との積を各成分の並進拡散時間として含む
【数5】

がフィッティングされ、各成分の存在比yiが決定される。例えば、検査されるべき溶液試料が、基準物質0にて蛍光標識された成分1、成分2を含むときには、基準物質0及び検査されるべき溶液試料のみが調製され、溶液試料の蛍光測定を行い、図2(C)に例示されている如く得られた自己相関関数に対して、
【数6】

がフィッティングされ、成分1の存在比y1と、成分2の存在比y2=1−y1とが決定される。なお、平均粒子数Nを用いて、成分1、2の粒子数N1、N2が、
N1=N・y1 …(13a)
N2=N・y2 …(13b)
により与えられてよい。なお、コンフォーカル・ボリュームの体積Vcが任意の手法にて決定されると、成分1、2の濃度が、
N・y1/Vc;N・y2/Vc
により決定される。
【0036】
上記の蛍光相関分光分析を達成するために、コンピュータ18には、並進拡散時間の比κiを記憶するデータ記憶領域が準備され、並進拡散時間の比κiを取得し記憶するための構成が設けられる。また、コンピュータ18を作動させるコンピュータプログラムに於いては、コントロール試料の自己相関関数から算出される並進拡散時間の比κiを取得し記憶する手順、データ記憶領域に記憶された並進拡散時間の比κiを用いて上記の式(11)又は(12)のフィッティングをする手順が組み込まれる。
【0037】
なお、各成分の並進拡散時間の比κiの値は、測定条件等が変わっても保存されることから、必ずしも同一の蛍光相関分光分析装置1にて測定された値でなくてもよい。従って、蛍光相関分光分析装置1並びにコンピュータプログラムは、装置1の外部で別に決定された各成分の並進拡散時間の比κiを操作者が装置1のデータ領域へ入力できるようになっていてよい。入力される並進拡散時間の比κiの値は、任意の手法、例えば、高度な分子動力学的な計算によって決定された値であってもよい。
【0038】
(iv)フィッティング精度の悪化防止
上記の如く蛍光測定から得られた自己相関関数に対して並進拡散時間の比κiを用いた式(11)又は(12)をフィッティングする場合、各成分の並進拡散時間は、実測値ではなく、推定値であり、このことに起因して、フィッティング精度が悪化してしまうこともあり得る。そこで、本実施形態に於いては、式(11)又は(12)によるフィッティング精度が操作者に確認できるようになっていてよい。具体的には、式(11)又は(12)のフィッティングが為される際、実際の自己相関関数値とフィッティング関数値との差異を表す特性パラメータであるchi2乗値が算出される(chi2乗値は、端的に述べれば、実際の自己相関関数値とフィッティング関数値との差の2乗の総和である。)。そして、chi2乗値が所定の閾値を越えたときには、フィッティングの精度が不十分であることがコンピュータのモニター上に表示されるなどして、操作者に対して警告が発せられるよう構成される。また、装置に於いて、レーザー光の集光度合や光検出器の感度が波長によって異なるため、フィッティングが巧く行えるか否かは、励起波長や検出波長(蛍光の波長)によって異なることがある。そこで、chi2乗値のための所定の閾値は、基準物質毎に設定できるよう構成されていてよい。
【0039】
かくして、上記の実施形態によれば、測定条件等が変わっても、複数の成分を含む溶液試料中の各成分の並進拡散時間の比が保存されるという知見に基づき、蛍光相関分光分析に於いて任意の溶液試料に含まれる成分の存在比を検出する場合に、一度、各成分の並進拡散時間の比が取得されれば、その後は、各成分のコントロール試料の蛍光測定及び自己相関関数の演算が省略することができることとなる。これにより、コントロール試料を節約することが可能となり、また、コントロール試料のための測定・解析時間を大幅に低減され、スループットを向上することが可能となる(溶液試料を複数のウェルが配列されたマイクロプレートに分注して測定が為される場合には、ウェルをコントロール試料のために割り当てる必要性が低減される。)。
【0040】
また特に、検査されるべき試料中の成分の並進拡散時間の比として、その成分に付加される蛍光色素分子(基準物質)の並進拡散時間に対するその成分の並進拡散時間の比を採用しておくことが好ましい。その場合、基準物質の並進拡散時間に対する比が求められている任意の成分についての並進拡散時間は、その成分を含む試料についての蛍光測定を行ったときの基準物質の並進拡散時間に当該成分の並進拡散時間の比を乗ずるだけで決定されるので、任意の成分の任意の組合せを含む溶液試料についての測定の度に個々の成分の並進拡散時間の検出を行う必要がなくなり有利である。[例えば、成分1、2、3の、基準物質の並進拡散時間に対する並進拡散時間の比が求められている場合、成分1と2の組合せ、成分1と3の組合せ、成分2と3の組合せ、又は、成分1、2及び3の組合せの溶液試料中の各成分の存在比を決定しようとするとき、成分1、2、3の各々の並進拡散時間の検出を繰り返す必要がなくなる。]
【0041】
上記の本発明の手法は、任意の複数の分子の結合又は解離の結合のし易さ又は結合定数若しくは解離定数を決定する際などに有利に用いられる。
【符号の説明】
【0042】
1…蛍光相関分光分析装置
2…光源
3…シングルモードオプティカルファイバー
4…コリメータレンズ
5…ダイクロイックミラー
6、7、11…反射ミラー
8…対物レンズ
9…マイクロプレート
10…ウェル
12…コンデンサーレンズ
13…ピンホール
14…バリアフィルター
15…マルチモードオプティカルファイバー
16…光検出器
18…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比が検出可能な蛍光相関分光分析装置であって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域を含み、前記記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出することを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値が、前記蛍光標識を有する基準物質の並進拡散時間に対する前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1又は2の装置であって、前記少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間を決定し、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を算出して前記データ記憶領域に記憶することが可能なことを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの装置であって、予め決定された前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を前記データ記憶領域に記憶させることが可能なことを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの装置であって、前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む前記自己相関関数値の理論式をフィッティングすることにより前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出することを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項2を引用する請求項5の装置であって、前記理論式に於いて前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に前記基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項5又は6の装置であって、前記フィッティングに於いて、chi2乗値が所定の閾値を越えたとき、前記フィッティングの精度が不十分あることの警告が発せられることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項2を引用する請求項7の装置であって、前記所定の閾値が前記基準物質毎に設定可能であることを特徴とする装置。
【請求項9】
蛍光相関分光分析を用いて蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出するためのコンピュータプログラムであって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域に記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する手順をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9のコンピュータプログラムであって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値が、前記蛍光標識を有する基準物質の並進拡散時間に対する前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項9又は10のコンピュータプログラムであって、更に、前記少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間を決定し、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を算出して前記データ記憶領域に記憶する手順をコンピュータに実行させることが可能なことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれかのコンピュータプログラムであって、予め決定された前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を前記データ記憶領域に記憶させる手順をコンピュータに実行させることが可能なことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれかのコンピュータプログラムであって、前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む前記自己相関関数値の理論式をフィッティングすることにより前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する手順をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項10を引用する請求項13のコンピュータプログラムであって、前記理論式に於いて前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に前記基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項13又は14のコンピュータプログラムであって、前記フィッティングに於いて、chi2乗値が所定の閾値を越えたとき、前記フィッティングの精度が不十分あることの警告を発する手順をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
蛍光相関分光分析を用いて蛍光標識が付加された少なくとも二種類の成分を含む溶液試料中の前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する方法であって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を記憶するデータ記憶領域に記憶された少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を用いて前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値が、前記蛍光標識を有する基準物質の並進拡散時間に対する前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16又は17の方法であって、前記少なくとも二種類の成分の各々について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間を決定し、前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を算出して前記データ記憶領域に記憶する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16乃至18のいずれかの方法であって、予め決定された前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比の値を前記データ記憶領域に記憶する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項16乃至19のいずれかの方法であって、前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値に対して前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比をパラメータとして含む前記自己相関関数値の理論式をフィッティングすることにより前記少なくとも二種類の成分を含む溶液試料について測定された蛍光強度の自己相関関数値から前記少なくとも二種類の成分の各々の存在比を検出する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17を引用する請求項20の方法であって、前記理論式に於いて前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間の比に前記基準物質の並進拡散時間を乗じて得られた値が前記少なくとも二種類の成分の各々の並進拡散時間として用いられることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−276380(P2010−276380A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126878(P2009−126878)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】