蛍光組織マーカー及びその製造方法
【課題】臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】まず、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する蛍光組織マーカーとする。または、第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、前記懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する、蛍光組織マーカーの製造方法とする。
【解決手段】まず、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する蛍光組織マーカーとする。または、第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、前記懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する、蛍光組織マーカーの製造方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光組織マーカー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を用いた手術が発展し、診断・治療の手法として多く利用されるようになってきている。上記手術において、組織マーカーは極めて有用である。組織マーカーとは、診断・治療するために必要な部位にマーキングを施すものであり、マーキングを施すことで診断・治療するための部位を簡便に特定することができるようになる。
【0003】
公知の組織マーカーに関する技術としては、例えば、インドシアニングリーンに関する技術が、例えば下記非特許文献1乃至6、特許文献1及び2(以下これらを「文献」という。)に記載されている。下記文献には、インドシアニングリーンとゼラチンとを混合して作製した組織マーカーを用い、内視鏡カメラによって可視領域の吸収を観察したことが開示されている。
【0004】
【非特許文献1】草野満夫 編著,ICG 蛍光Navigation Surgeryのすべて,インターメディカ,2008.
【非特許文献2】S.Yoneya et al,Investigative Ophtalmolgy and Visual Science 1998;39:1286−1290.
【非特許文献3】S.Ito et al,Endoscopy 2001;33:849−853
【非特許文献4】R.Ashida et al,Endoscopy 2006;38:190−192.
【非特許文献5】S.Taoka et al,Digestive Endoscopy 1999;11:321−326.
【非特許文献6】J.V.Frangioni,Current Opinion inChemical Biology 2003;7:626−634.
【特許文献1】特開2007−262062号公報
【特許文献2】特開2008−69107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の技術は、内視鏡のみで対応できる手術には非常に有用であるものの、実際に開腹し、腫瘍等を含む組織を切除する手術にまで応用することは容易でない。具体的に説明すると、上記文献に記載の技術では、内視鏡により臓器内側の組織及び当該組織にマーキングされたマーカーを直接観察することができるものの、可視領域の光を殆ど通さない臓器の外側からマーキングした位置を確認し、必要な部分のみを切除しようとする場合等に困難性がある。また、ICGを単にゼラチンと混合して使用しただけでは、体内組織内における血管を通じて早期に拡散してしまい、マーキングした位置の特定が困難になってしまう。
【0006】
これら課題は、マーカーとしての機能において改善の余地があることを意味する。すなわち、生体透過率が高い近赤外領域の蛍光が弱く可視光の吸収に大きく依存したマーカーでは、臓器内側からマーキングしたとしても外側から発見することが困難であり、また、マーカーがすぐに拡散してしまうと、マーキング箇所が拡散して広くなる結果、体内組織を必要以上切除しなければならず、患者に対する負担が大きくなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について、発明者らが鋭意検討を行ったところ、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合されたベシクルを形成し、更に、このベシクルを親水性溶媒に分散させ、乳化剤のカプセルに内包し、かつ、これらカプセルを複数凝集化させることで従来よりも近赤外領域で強く蛍光を発する蛍光組織マーカーとして活用できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点に係る蛍光組織マーカーは、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する。
【0010】
また、本発明の他の一観点に係る蛍光組織マーカーの製造方法は、第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明により、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るベシクルクラスターのイメージ図である。
【図2】実施形態に係るベシクルのイメージ図である。
【図3】実施形態に係るベシクルクラスターの製造方法の工程の概略を示す図である。
【図4】実施形態に係る、懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する工程のイメージを示す図である。
【図5】実施例に係るベクシルクラスターの微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図6】実施例に係るベクシルクラスターを膜染色剤で染めた蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図7】実施例に係るベクシルクラスターの微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図8】実施例に係るベクシルクラスターを膜染色剤で染めた蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図9】実施例に係る蛍光観察の結果を示す図である。
【図10】実施例に係る蛍光観察の一例における蛍光強度のプロファイルを示す図である。
【図11】実施例に係るベクシルクラスター分散液の蛍光強度の卵黄レシチン濃度依存性を示す図である。
【図12】図11における蛍光強度のプロファイルを示す図である。
【図13】実施例に係るベクシルクラスター分散液の粘度測定の結果(25℃)を示す図である。
【図14】実施例に係るベクシルクラスター分散液の粘度測定の結果(37℃)を示す図である。
【図15】実施例に係るベクシルクラスターのブタの胃における蛍光観察の結果(ゼラチン無し)を示す図である。
【図16】実施例に係るベクシルクラスターのブタの胃における蛍光観察の結果を示す図(ゼラチン有り)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における例示に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0014】
(蛍光組織マーカー)
本実施形態に係る蛍光組織マーカーは、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスター(以下「クラスター」という。)を有する。図1は、本実施形態に係る蛍光組織マーカーにおけるクラスター1のイメージ図であり、図2は、クラスター1に含まれるベクシル2のイメージ図である。
【0015】
まず図2で示すように、本実施形態に係るベシクル2は、リン脂質21と、近赤外蛍光色素22と、を有して形成されている。ここでベシクルとは、リン脂質が分子間力により自己集合することで形成される袋状の二分子膜をいう。そして近赤外蛍光色素22は、リン脂質21と複合化され、ベシクルの構成要素となっている。ここで「複合」とは、主に疎水性相互作用の分子間相互作用によってベシクルと複合体を形成する状態もしくは、ベシクルの内部に溶解している状態を意味する。近赤外蛍光色素22をリン脂質21に結合させることで、本実施形態に係るベシクルは近赤外蛍光色素22を安定化させ、近赤外領域において蛍光を安定的に発することができるようになる。
【0016】
なお本実施形態においてリン脂質21は、ベシクルを形成することができるものである限りにおいて限定されるわけではないが、例えばレシチン、フォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。なおレシチンとしては、限定されるわけではないが、卵黄レシチン、大豆レシチン又はこれらの混合物を例示することができるが、体内における蛍光強度の関係から、リン脂質は卵黄レシチンが好適である。
【0017】
またフォスファチジルコリンの場合、上記の要求を満たす限りにおいて限定されるわけではないが、例えば1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジオレオイル−3−sn−フォスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジステアリル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジリノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。
【0018】
また本実施形態において、近赤外蛍光色素22は、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンそのものを含み、その誘導体を含む。インドシアニングリーンは下記式で示される化合物をいい、近赤外蛍光色素とは、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンの主要な骨格及び機能を維持しつつその一部を他の官能基等で置換した化合物をいう。
【化1】
【化2】
【0019】
本実施形態におけるベシクル2の大きさとしては、特に限定されないが、一般に10nm以上100μm以下となっていることが好ましく、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0020】
本実施形態のベシクルにおいて、含まれるリン脂質及び近赤外蛍光色素の量は、適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、リン脂質であるレシチンの重量を1とすると、近赤外蛍光色素であるインドシアニングリーンは、1×10−4以上1×10−3以下であることが好ましく、4×10−3以上6×10−3以下であることがより好ましい。1×10−4以上1×10−3以下とすることで、臓器内部のマーキングされた組織部分を臓器外部からより容易に認識することができるといった利点があり、4×10−3以上6×10−3以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0021】
また図1で示すように、本実施形態に係るクラスター1は、親水性溶媒3が内包されたカプセル4を、乳化剤により複数形成、凝集させものとなっている。なお親水性溶媒3には、上記ベクシル2が内包されている。
【0022】
親水性溶媒3は、ベクシル2を安定的に内包するために用いるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。なお、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液の場合、pH6.5以上8以下であることが好ましい。
【0023】
また親水性溶媒3には、体内組織のマーキングされた位置で長時間安定して留まることが可能となるよう、食用増粘剤を加えておくことが好ましい。食用増粘剤の種類としては、限定されるわけではないが、例えばゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0024】
ゼラチンの場合、限定されるわけではないが、コラーゲンI型、コラーゲンII型、コラーゲンIII型、コラーゲンV型及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0025】
寒天の場合、限定されるわけではないが、分子量が数千〜数万のアガロース、アガロペクチン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0026】
フィブリノーゲンの場合、限定されるわけではないが、濃度5mg/mL〜50mg/mLのフィブリノーゲンを主成分とし、塩化カルシウム、プロトロンビン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0027】
糖類の場合、限定されるわけではないが、例えばグルコース、スクロース、マントース、ガラクトース、アラビノース、リブロース、フルクトース、ルトース、マンノース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0028】
また、食用増粘剤を添加する量としては、限定されるわけではないが、カプセルに含まれる親水性溶媒の重量を1とすると、1×10−3以上10以下であることが好ましく、1×10−1以上1以下とすることがより好ましい。1×10−3以上とすることで親水性溶媒3の粘度を向上することができるといった効果があり、1×10−1以上とすることでこの効果がより顕著となる。また10以下とすることで親水性溶媒3の流動性低下を抑制できるといった効果があり、1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0029】
また、本実施形態において、親水性溶媒に加える近赤外蛍光色素とリン脂質の合計の重量(通常ベクシルの重量)は、組織マーカーとして十分な光の量を確保することができる限りにおいて限定されるわけではないが、親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルではなくラメラ相に変化することを抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0030】
また、本実施形態において、乳化剤は、親水性溶媒を内包するカプセルの壁部を形成すると共に、これらをクラスターとして凝集させるために用いられるものである。そして本実施形態における乳化剤は、カプセルの壁部を形成するとともに、クラスター全体を覆う表皮をも形成することができ、複数のカプセルを凝集、結合させることができる。本実施形態に係る乳化剤としては、限定されるわけではないが、例えばポリグリセリルポリリシノレート、ポリグリセリルポリリシノレート誘導体、グリセリン脂肪酸エステル誘導体およびこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0031】
また、本実施形態において、カプセル形成のための乳化剤の重量(通常ベクシルの重量)は、組織マーカーとして十分な光の量を確保することができる限りにおいて限定されるわけではないが、 またこの工程において、加える乳化剤の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば親水性溶媒(近赤外蛍光色素およびリン脂質の合計の重量、食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0032】
なお本実施形態において、クラスターの粒径としては、組織マーカーとしての機能を保持することができる限りにおいて限定されないが例えば50μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上250μm以下である。50μm以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができ、100μm以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500μm以下とすることで内視鏡を通じて注射する針が詰まることを抑制することができ、250μm以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0033】
また本実施形態において、1つのクラスター内におけるカプセルの数は、組織マーカーとしての機能を維持することができる限りにおいて限定されないが例えば1個以上103個以下であることが好ましく、より好ましくは10個以上102個以下である。1個以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上するといった効果があり、10個以上とすることでこの効果がより顕著となる。また103個以下とすることでカプセルの強度の向上とマーカーが安定化するといった効果があり、102個以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0034】
また、本実施形態における蛍光組織マーカーは、クラスターを保持するために、例えば疎水性溶媒を用い、この疎水性溶媒にクラスターを保持させることが好ましい。このようにすることで、カプセルを複数形成して凝集させることができるようになるといった効果がある。またもちろん、上記溶媒のほか、蛍光組織マーカーの機能を安定又は増強させるために他の要素、例えば疎水性高分子等を加え架橋することができる。
【0035】
以上、本実施形態に係る蛍光組織マーカーにより、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができる。より具体的に説明すると、本実施形態に係る蛍光組織マーカーは、近赤外蛍光色素がベシクルに結合しているため近赤外の蛍光を強く安定に発し、かつベシクルを親水性溶媒に内包しそのカプセルをクラスターとして形成するため、臓器へ打ち込んで生体内の組織液に接してもカプセルどうしが解離しにくく、長期にわたって局所的に留まるといった利点があり、更にクラスターのカプセルに食用増粘剤を用いるため、局所的に長期に留まるだけの強度をもちつつ、内視鏡の流路を経て臓器へ注射される柔軟性を有するといった利点がある。
【0036】
(クラスターの製造方法)
ここで、上記蛍光組織マーカーの製造方法(以下「本製造方法」という。)の一例について、詳細に説明する。図3は、本製造方法の概略を示す図である。
【0037】
本図で示すように、本製造方法は、(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、(2)疎水性溶媒に、上記の近赤外蛍光色素とリン脂質が加えられた第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離することを特徴とする。
【0038】
(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌する工程によると、近赤外蛍光色素が結合したリン脂質を含むベクシルを形成することができるようになる。
【0039】
この工程において、第一の親水性溶媒は、上記カプセルの内部に存在する親水性溶媒と同一のものを採用することがカプセル4を容易に形成する観点から好ましい。すなわち水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。
【0040】
また、第一の親水性溶媒には、食用増粘剤を含ませることも好ましい。含ませる食用増粘剤は、上記の通り、ゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0041】
また、第一の親水性溶媒の量に対する近赤外蛍光色素とリン脂質の量は、限定されるわけではないが、カプセル内に存在する親水性溶媒における近赤外蛍光色素とリン脂質との重量関係と同様の範囲とすることが好ましい。すなわち、例えば、第一の親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルではなくラメラ相に変化することと抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0042】
また、この工程を行なう温度は、ベクシルを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、4℃以上80℃以下であることが好ましく、室温程度で行なうことが簡便でありより好ましい。またこの工程において、第一の親水性溶媒を攪拌する時間も、ベクシルを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、5分以上1時間以内であることが好ましく、より好ましくは10分以上30分以下である。
【0043】
(2)疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成する工程によると、ベクシルを内包させた第一の親水性溶媒の周囲に乳化剤を取り囲ませ、疎水性溶媒中にカプセル状のエマルションを多数形成させることができる。
【0044】
本工程おいて、疎水性溶媒は、4℃以上80℃以下でカプセル状のエマルションができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばケロシン、ヘキサン、デカン、ドデカン、ヘプタン、スクアレン、スクアラン、流動パラフィン、ミネラルオイル及びこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0045】
また、本実施形態において疎水性溶媒の重量は、限定されるわけではないが、第一の親水性溶媒の重量を1とした場合、1以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上10以下である。1以上とすることでカプセル状のエマルションがゲル相へ転移してしまうことを抑制することができ、5以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、100以下とすることでカプセル状のエマルションの粒径を安定に保持してクラスターとすることができるといった効果があり、10以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0046】
なお本工程において乳化剤は、上記記載したものを採用することができる。
【0047】
またこの工程において、加える第一の親水性溶媒の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば疎水性溶媒の重量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることでクラスターあたりのカプセルの数を増加させマーカーの蛍光強度を向上できるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで親水性溶媒と疎水性溶媒との相分離を抑制するといった効果があり、10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0048】
またこの工程において、加える乳化剤の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば加える第一の親水性溶媒の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0049】
本実施形態において、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する工程は、疎水性溶媒層と親水性溶媒層を相分離させて配置し、疎水性溶媒中に存在するカプセル状のエマルションを遠心分離を用いて親水性溶媒側に沈降させていく方法であり、このイメージを図4に示しておく。この結果、疎水性溶媒層と親水性溶媒層との間の界面の乳化剤がカプセルからクラスターを形成させることができる。
【0050】
第二の親水性溶媒は、遠心分離するために用いられるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物を好適に用いることができる。
【0051】
なお、第二の溶媒の量としては、限定されるわけではないが、例えば懸濁液の重量を1とした場合、1以上1000以下であることが好ましく、より好ましくは10以上100以下である。1以上とすることで疎水性溶媒層と親水性溶媒層との相分離を安定化させることができるといった効果があり、10以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1000以下とすることでマーカーの粘度が減少することを抑制することができるといった効果があり、100以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0052】
そしてこの結果、上記した蛍光組織マーカーを構成することができる。
【実施例】
【0053】
ここで、上記実施形態において説明した蛍光組織マーカーについて、実際に作製を行い、その効果を確認した。以下詳細に説明する。
【0054】
(組織マーカーの作製)
まず、卵黄レシチン(0〜60mM)とインドシアニングリーンを水に分散させ、ベクシル分散液を調製した。そして、この分散液に、スクロース(1M)とゼラチン(0〜45mg/mL)を含むTRIS塩酸緩衝液(50mM、pH7.7)を混合し、この混合液500μLをポリグリセリンポリリシノレート(5〜60%)と膜染色剤としてローダミン6G(0.050mM)を溶解したケロシン3.5mL中に懸濁しエマルションを調製した。
【0055】
このエマルションを、グルコース1Mを溶解したTRIS塩酸緩衝液(50mM、pH7.7)7.0mL上に重層し、遠心分離することでベクシルクラスターを形成した。なお、遠心分離の条件は、遠心力3500rpm、遠心時間40分、温度29℃とした。遠心沈降後、ポンプにより油相上澄みを除去し、更に、水相上澄みについても残存液量が約2mLとなるよう除去した。
【0056】
(ベクシルクラスターの確認)
ここで、微分干渉顕微鏡と蛍光顕微鏡を用い、ベクシルクラスターの確認を行なった。ポリグリセリンポリリシノレートの重量%濃度が5%のベクシルクラスター分散液の微分干渉顕微鏡像を図5に、蛍光顕微鏡像を図6にそれぞれ示す。
【0057】
この結果、ベクシルクラスターの膜が薄く染色されていることが確認でき、親油性の膜染色剤であるローダミン6Gがベクシルクラスターの親油性溶媒であるケロシンに溶解し、それが遠心分離によって沈降することで水相を取り込みながら二分子膜を形成していると考えられた。
【0058】
そして次に、ポリグリセリンポリリシノレートの重量%濃度を40%にして、上記と同様の確認を行なった。ベクシルクラスター分散液の微分干渉顕微鏡像を図7に、蛍光顕微鏡像を図8にそれぞれ示す。
【0059】
この結果、クラスターにおけるカプセルの数が多いことに加え、膜にローダミン6Gが組み込まれる様子もより鮮明に得ることができた。
【0060】
(蛍光観察)
そして、上記得られたベクシルクラスターを用い、蛍光観測を行なった。蛍光観察は、LED光源(フィルタ:780nm以下)をベシクルクラスターのサンプルに照射し、試料において励起した蛍光をモノクロカメラ(フィルタ:810nm以上)で観察した。なお、試料は、インドシアニングリーンの濃度をパラメータとしてふり、形成したベシクルクラスターの分散液100μLをプラスチックケースに入れて作成した。なおLED光源及びモノクロカメラとサンプルとの距離は約20cmとした。この結果を図9に示す。
【0061】
この結果、インドシアニングリーンの濃度が3.2×10−2mMの場合に最も強い蛍光を確認することができた。また、この場合における蛍光強度のプロファイルを図10に示しておく。なおこの結果から、低濃度では、励起される分子数が少ないために蛍光強度が低い一方、高濃度としすぎると未励起分子と励起分子との衝突による消光や未励起分子同士の衝突による消光などが生じるためであろうと考えられる。
【0062】
次に、卵黄レシチンの濃度をパラメータとしてふり、同様に蛍光観察を行なった。この結果を図11に示す。
【0063】
この結果、卵黄レシチンの濃度が上昇するにつれて蛍光強度も上昇することが確認できた。なお、この結果における蛍光強度のプロファイルを図12に示しておく。なおこの結果は、卵黄レシチン濃度とインドシアニングリーンの蛍光強度には相関があることが見て取れる。これは、卵黄レシチンの疎水性部位にインドシアニングリーンの発色団部位が取り込まれることで、発色団部位の平面構造が維持され、吸収エネルギーが振動エネルギーとして熱変換されることを抑制でき、光学的に安定化したインドシアニングリーンの蛍光強度を得ることができることを意味していると考えられる。
【0064】
(粘度測定)
一方、上記作成したベクシルクラスター分散液約0.5mLを全量が約2mLとなるようグルコース(1M)を溶解したTRIS緩衝液(50mM、pH7.7)に分散させた。そしてこの分散液の粘度をコーンプレート型レオメータにより測定した。測定は、温度25℃の場合と37℃の場合とで行なった。この結果を図13、図14に示しておく。
【0065】
この結果、一般的に、ゼラチンのある場合の方が、ゼラチンがない場合よりも粘度が高くなっていることが確認できた。特に37℃の場合、ゼラチンがある場合、PGPR重量%濃度が10重量%より大きい場合、粘度が顕著に高くなっていくことが確認できた。
【0066】
(ブタの胃における蛍光観察)
次に、ゼラチンを45mg/mLとなるように添加したベクシルクラスター分散液を、麻酔をかけたブタの胃の内壁粘膜下層へ内視鏡(バリクサー)を用いて約300μL局所注射し、注射直後とその5時間後に、開腹した状態で外部から胃をLED−モノクロカメラ観察装置で観察した。なおこの観察は、ゼラチンのあるベシクルクラスターを用いた状態、ゼラチンの無いベシクルクラスターを用いた状態のそれぞれにおいて行なった。なおその他の条件としては、ポリグリセリンポリリシノレート重量%濃度5重量%、卵黄レシチン濃度60mM、インドシアニングリーン濃度は3.2×10−2mMとした。この結果の図を図15(ゼラチン無し)、図16(ゼラチン有り)にそれぞれ示しておく。
【0067】
この結果、ゼラチン無しのベシクルクラスターの分散液を注射した場合では、注射直後であっても拡散していることが確認でき、5時間後には更に広範囲に拡散していることが確認できた。一方、ゼラチン添加ありのベシクルクラスター分散液を注射した場合、注射直後だけでなく、5時間経過しても殆ど拡散していない様子が確認できた。
【0068】
この結果、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、蛍光組織マーカーとして産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0070】
1…ベシクルクラスター、2…ベシクル、3…親水性溶媒、4…カプセル
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光組織マーカー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を用いた手術が発展し、診断・治療の手法として多く利用されるようになってきている。上記手術において、組織マーカーは極めて有用である。組織マーカーとは、診断・治療するために必要な部位にマーキングを施すものであり、マーキングを施すことで診断・治療するための部位を簡便に特定することができるようになる。
【0003】
公知の組織マーカーに関する技術としては、例えば、インドシアニングリーンに関する技術が、例えば下記非特許文献1乃至6、特許文献1及び2(以下これらを「文献」という。)に記載されている。下記文献には、インドシアニングリーンとゼラチンとを混合して作製した組織マーカーを用い、内視鏡カメラによって可視領域の吸収を観察したことが開示されている。
【0004】
【非特許文献1】草野満夫 編著,ICG 蛍光Navigation Surgeryのすべて,インターメディカ,2008.
【非特許文献2】S.Yoneya et al,Investigative Ophtalmolgy and Visual Science 1998;39:1286−1290.
【非特許文献3】S.Ito et al,Endoscopy 2001;33:849−853
【非特許文献4】R.Ashida et al,Endoscopy 2006;38:190−192.
【非特許文献5】S.Taoka et al,Digestive Endoscopy 1999;11:321−326.
【非特許文献6】J.V.Frangioni,Current Opinion inChemical Biology 2003;7:626−634.
【特許文献1】特開2007−262062号公報
【特許文献2】特開2008−69107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の技術は、内視鏡のみで対応できる手術には非常に有用であるものの、実際に開腹し、腫瘍等を含む組織を切除する手術にまで応用することは容易でない。具体的に説明すると、上記文献に記載の技術では、内視鏡により臓器内側の組織及び当該組織にマーキングされたマーカーを直接観察することができるものの、可視領域の光を殆ど通さない臓器の外側からマーキングした位置を確認し、必要な部分のみを切除しようとする場合等に困難性がある。また、ICGを単にゼラチンと混合して使用しただけでは、体内組織内における血管を通じて早期に拡散してしまい、マーキングした位置の特定が困難になってしまう。
【0006】
これら課題は、マーカーとしての機能において改善の余地があることを意味する。すなわち、生体透過率が高い近赤外領域の蛍光が弱く可視光の吸収に大きく依存したマーカーでは、臓器内側からマーキングしたとしても外側から発見することが困難であり、また、マーカーがすぐに拡散してしまうと、マーキング箇所が拡散して広くなる結果、体内組織を必要以上切除しなければならず、患者に対する負担が大きくなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について、発明者らが鋭意検討を行ったところ、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合されたベシクルを形成し、更に、このベシクルを親水性溶媒に分散させ、乳化剤のカプセルに内包し、かつ、これらカプセルを複数凝集化させることで従来よりも近赤外領域で強く蛍光を発する蛍光組織マーカーとして活用できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点に係る蛍光組織マーカーは、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する。
【0010】
また、本発明の他の一観点に係る蛍光組織マーカーの製造方法は、第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明により、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るベシクルクラスターのイメージ図である。
【図2】実施形態に係るベシクルのイメージ図である。
【図3】実施形態に係るベシクルクラスターの製造方法の工程の概略を示す図である。
【図4】実施形態に係る、懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する工程のイメージを示す図である。
【図5】実施例に係るベクシルクラスターの微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図6】実施例に係るベクシルクラスターを膜染色剤で染めた蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図7】実施例に係るベクシルクラスターの微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図8】実施例に係るベクシルクラスターを膜染色剤で染めた蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図9】実施例に係る蛍光観察の結果を示す図である。
【図10】実施例に係る蛍光観察の一例における蛍光強度のプロファイルを示す図である。
【図11】実施例に係るベクシルクラスター分散液の蛍光強度の卵黄レシチン濃度依存性を示す図である。
【図12】図11における蛍光強度のプロファイルを示す図である。
【図13】実施例に係るベクシルクラスター分散液の粘度測定の結果(25℃)を示す図である。
【図14】実施例に係るベクシルクラスター分散液の粘度測定の結果(37℃)を示す図である。
【図15】実施例に係るベクシルクラスターのブタの胃における蛍光観察の結果(ゼラチン無し)を示す図である。
【図16】実施例に係るベクシルクラスターのブタの胃における蛍光観察の結果を示す図(ゼラチン有り)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における例示に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0014】
(蛍光組織マーカー)
本実施形態に係る蛍光組織マーカーは、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスター(以下「クラスター」という。)を有する。図1は、本実施形態に係る蛍光組織マーカーにおけるクラスター1のイメージ図であり、図2は、クラスター1に含まれるベクシル2のイメージ図である。
【0015】
まず図2で示すように、本実施形態に係るベシクル2は、リン脂質21と、近赤外蛍光色素22と、を有して形成されている。ここでベシクルとは、リン脂質が分子間力により自己集合することで形成される袋状の二分子膜をいう。そして近赤外蛍光色素22は、リン脂質21と複合化され、ベシクルの構成要素となっている。ここで「複合」とは、主に疎水性相互作用の分子間相互作用によってベシクルと複合体を形成する状態もしくは、ベシクルの内部に溶解している状態を意味する。近赤外蛍光色素22をリン脂質21に結合させることで、本実施形態に係るベシクルは近赤外蛍光色素22を安定化させ、近赤外領域において蛍光を安定的に発することができるようになる。
【0016】
なお本実施形態においてリン脂質21は、ベシクルを形成することができるものである限りにおいて限定されるわけではないが、例えばレシチン、フォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。なおレシチンとしては、限定されるわけではないが、卵黄レシチン、大豆レシチン又はこれらの混合物を例示することができるが、体内における蛍光強度の関係から、リン脂質は卵黄レシチンが好適である。
【0017】
またフォスファチジルコリンの場合、上記の要求を満たす限りにおいて限定されるわけではないが、例えば1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジオレオイル−3−sn−フォスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジステアリル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジリノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。
【0018】
また本実施形態において、近赤外蛍光色素22は、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンそのものを含み、その誘導体を含む。インドシアニングリーンは下記式で示される化合物をいい、近赤外蛍光色素とは、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンの主要な骨格及び機能を維持しつつその一部を他の官能基等で置換した化合物をいう。
【化1】
【化2】
【0019】
本実施形態におけるベシクル2の大きさとしては、特に限定されないが、一般に10nm以上100μm以下となっていることが好ましく、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0020】
本実施形態のベシクルにおいて、含まれるリン脂質及び近赤外蛍光色素の量は、適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、リン脂質であるレシチンの重量を1とすると、近赤外蛍光色素であるインドシアニングリーンは、1×10−4以上1×10−3以下であることが好ましく、4×10−3以上6×10−3以下であることがより好ましい。1×10−4以上1×10−3以下とすることで、臓器内部のマーキングされた組織部分を臓器外部からより容易に認識することができるといった利点があり、4×10−3以上6×10−3以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0021】
また図1で示すように、本実施形態に係るクラスター1は、親水性溶媒3が内包されたカプセル4を、乳化剤により複数形成、凝集させものとなっている。なお親水性溶媒3には、上記ベクシル2が内包されている。
【0022】
親水性溶媒3は、ベクシル2を安定的に内包するために用いるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。なお、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液の場合、pH6.5以上8以下であることが好ましい。
【0023】
また親水性溶媒3には、体内組織のマーキングされた位置で長時間安定して留まることが可能となるよう、食用増粘剤を加えておくことが好ましい。食用増粘剤の種類としては、限定されるわけではないが、例えばゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0024】
ゼラチンの場合、限定されるわけではないが、コラーゲンI型、コラーゲンII型、コラーゲンIII型、コラーゲンV型及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0025】
寒天の場合、限定されるわけではないが、分子量が数千〜数万のアガロース、アガロペクチン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0026】
フィブリノーゲンの場合、限定されるわけではないが、濃度5mg/mL〜50mg/mLのフィブリノーゲンを主成分とし、塩化カルシウム、プロトロンビン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0027】
糖類の場合、限定されるわけではないが、例えばグルコース、スクロース、マントース、ガラクトース、アラビノース、リブロース、フルクトース、ルトース、マンノース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0028】
また、食用増粘剤を添加する量としては、限定されるわけではないが、カプセルに含まれる親水性溶媒の重量を1とすると、1×10−3以上10以下であることが好ましく、1×10−1以上1以下とすることがより好ましい。1×10−3以上とすることで親水性溶媒3の粘度を向上することができるといった効果があり、1×10−1以上とすることでこの効果がより顕著となる。また10以下とすることで親水性溶媒3の流動性低下を抑制できるといった効果があり、1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0029】
また、本実施形態において、親水性溶媒に加える近赤外蛍光色素とリン脂質の合計の重量(通常ベクシルの重量)は、組織マーカーとして十分な光の量を確保することができる限りにおいて限定されるわけではないが、親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルではなくラメラ相に変化することを抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0030】
また、本実施形態において、乳化剤は、親水性溶媒を内包するカプセルの壁部を形成すると共に、これらをクラスターとして凝集させるために用いられるものである。そして本実施形態における乳化剤は、カプセルの壁部を形成するとともに、クラスター全体を覆う表皮をも形成することができ、複数のカプセルを凝集、結合させることができる。本実施形態に係る乳化剤としては、限定されるわけではないが、例えばポリグリセリルポリリシノレート、ポリグリセリルポリリシノレート誘導体、グリセリン脂肪酸エステル誘導体およびこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0031】
また、本実施形態において、カプセル形成のための乳化剤の重量(通常ベクシルの重量)は、組織マーカーとして十分な光の量を確保することができる限りにおいて限定されるわけではないが、 またこの工程において、加える乳化剤の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば親水性溶媒(近赤外蛍光色素およびリン脂質の合計の重量、食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0032】
なお本実施形態において、クラスターの粒径としては、組織マーカーとしての機能を保持することができる限りにおいて限定されないが例えば50μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上250μm以下である。50μm以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができ、100μm以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500μm以下とすることで内視鏡を通じて注射する針が詰まることを抑制することができ、250μm以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0033】
また本実施形態において、1つのクラスター内におけるカプセルの数は、組織マーカーとしての機能を維持することができる限りにおいて限定されないが例えば1個以上103個以下であることが好ましく、より好ましくは10個以上102個以下である。1個以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上するといった効果があり、10個以上とすることでこの効果がより顕著となる。また103個以下とすることでカプセルの強度の向上とマーカーが安定化するといった効果があり、102個以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0034】
また、本実施形態における蛍光組織マーカーは、クラスターを保持するために、例えば疎水性溶媒を用い、この疎水性溶媒にクラスターを保持させることが好ましい。このようにすることで、カプセルを複数形成して凝集させることができるようになるといった効果がある。またもちろん、上記溶媒のほか、蛍光組織マーカーの機能を安定又は増強させるために他の要素、例えば疎水性高分子等を加え架橋することができる。
【0035】
以上、本実施形態に係る蛍光組織マーカーにより、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができる。より具体的に説明すると、本実施形態に係る蛍光組織マーカーは、近赤外蛍光色素がベシクルに結合しているため近赤外の蛍光を強く安定に発し、かつベシクルを親水性溶媒に内包しそのカプセルをクラスターとして形成するため、臓器へ打ち込んで生体内の組織液に接してもカプセルどうしが解離しにくく、長期にわたって局所的に留まるといった利点があり、更にクラスターのカプセルに食用増粘剤を用いるため、局所的に長期に留まるだけの強度をもちつつ、内視鏡の流路を経て臓器へ注射される柔軟性を有するといった利点がある。
【0036】
(クラスターの製造方法)
ここで、上記蛍光組織マーカーの製造方法(以下「本製造方法」という。)の一例について、詳細に説明する。図3は、本製造方法の概略を示す図である。
【0037】
本図で示すように、本製造方法は、(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、(2)疎水性溶媒に、上記の近赤外蛍光色素とリン脂質が加えられた第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離することを特徴とする。
【0038】
(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌する工程によると、近赤外蛍光色素が結合したリン脂質を含むベクシルを形成することができるようになる。
【0039】
この工程において、第一の親水性溶媒は、上記カプセルの内部に存在する親水性溶媒と同一のものを採用することがカプセル4を容易に形成する観点から好ましい。すなわち水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。
【0040】
また、第一の親水性溶媒には、食用増粘剤を含ませることも好ましい。含ませる食用増粘剤は、上記の通り、ゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0041】
また、第一の親水性溶媒の量に対する近赤外蛍光色素とリン脂質の量は、限定されるわけではないが、カプセル内に存在する親水性溶媒における近赤外蛍光色素とリン脂質との重量関係と同様の範囲とすることが好ましい。すなわち、例えば、第一の親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルではなくラメラ相に変化することと抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0042】
また、この工程を行なう温度は、ベクシルを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、4℃以上80℃以下であることが好ましく、室温程度で行なうことが簡便でありより好ましい。またこの工程において、第一の親水性溶媒を攪拌する時間も、ベクシルを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、5分以上1時間以内であることが好ましく、より好ましくは10分以上30分以下である。
【0043】
(2)疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成する工程によると、ベクシルを内包させた第一の親水性溶媒の周囲に乳化剤を取り囲ませ、疎水性溶媒中にカプセル状のエマルションを多数形成させることができる。
【0044】
本工程おいて、疎水性溶媒は、4℃以上80℃以下でカプセル状のエマルションができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばケロシン、ヘキサン、デカン、ドデカン、ヘプタン、スクアレン、スクアラン、流動パラフィン、ミネラルオイル及びこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0045】
また、本実施形態において疎水性溶媒の重量は、限定されるわけではないが、第一の親水性溶媒の重量を1とした場合、1以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上10以下である。1以上とすることでカプセル状のエマルションがゲル相へ転移してしまうことを抑制することができ、5以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、100以下とすることでカプセル状のエマルションの粒径を安定に保持してクラスターとすることができるといった効果があり、10以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0046】
なお本工程において乳化剤は、上記記載したものを採用することができる。
【0047】
またこの工程において、加える第一の親水性溶媒の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば疎水性溶媒の重量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることでクラスターあたりのカプセルの数を増加させマーカーの蛍光強度を向上できるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで親水性溶媒と疎水性溶媒との相分離を抑制するといった効果があり、10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0048】
またこの工程において、加える乳化剤の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば加える第一の親水性溶媒の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0049】
本実施形態において、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する工程は、疎水性溶媒層と親水性溶媒層を相分離させて配置し、疎水性溶媒中に存在するカプセル状のエマルションを遠心分離を用いて親水性溶媒側に沈降させていく方法であり、このイメージを図4に示しておく。この結果、疎水性溶媒層と親水性溶媒層との間の界面の乳化剤がカプセルからクラスターを形成させることができる。
【0050】
第二の親水性溶媒は、遠心分離するために用いられるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物を好適に用いることができる。
【0051】
なお、第二の溶媒の量としては、限定されるわけではないが、例えば懸濁液の重量を1とした場合、1以上1000以下であることが好ましく、より好ましくは10以上100以下である。1以上とすることで疎水性溶媒層と親水性溶媒層との相分離を安定化させることができるといった効果があり、10以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1000以下とすることでマーカーの粘度が減少することを抑制することができるといった効果があり、100以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0052】
そしてこの結果、上記した蛍光組織マーカーを構成することができる。
【実施例】
【0053】
ここで、上記実施形態において説明した蛍光組織マーカーについて、実際に作製を行い、その効果を確認した。以下詳細に説明する。
【0054】
(組織マーカーの作製)
まず、卵黄レシチン(0〜60mM)とインドシアニングリーンを水に分散させ、ベクシル分散液を調製した。そして、この分散液に、スクロース(1M)とゼラチン(0〜45mg/mL)を含むTRIS塩酸緩衝液(50mM、pH7.7)を混合し、この混合液500μLをポリグリセリンポリリシノレート(5〜60%)と膜染色剤としてローダミン6G(0.050mM)を溶解したケロシン3.5mL中に懸濁しエマルションを調製した。
【0055】
このエマルションを、グルコース1Mを溶解したTRIS塩酸緩衝液(50mM、pH7.7)7.0mL上に重層し、遠心分離することでベクシルクラスターを形成した。なお、遠心分離の条件は、遠心力3500rpm、遠心時間40分、温度29℃とした。遠心沈降後、ポンプにより油相上澄みを除去し、更に、水相上澄みについても残存液量が約2mLとなるよう除去した。
【0056】
(ベクシルクラスターの確認)
ここで、微分干渉顕微鏡と蛍光顕微鏡を用い、ベクシルクラスターの確認を行なった。ポリグリセリンポリリシノレートの重量%濃度が5%のベクシルクラスター分散液の微分干渉顕微鏡像を図5に、蛍光顕微鏡像を図6にそれぞれ示す。
【0057】
この結果、ベクシルクラスターの膜が薄く染色されていることが確認でき、親油性の膜染色剤であるローダミン6Gがベクシルクラスターの親油性溶媒であるケロシンに溶解し、それが遠心分離によって沈降することで水相を取り込みながら二分子膜を形成していると考えられた。
【0058】
そして次に、ポリグリセリンポリリシノレートの重量%濃度を40%にして、上記と同様の確認を行なった。ベクシルクラスター分散液の微分干渉顕微鏡像を図7に、蛍光顕微鏡像を図8にそれぞれ示す。
【0059】
この結果、クラスターにおけるカプセルの数が多いことに加え、膜にローダミン6Gが組み込まれる様子もより鮮明に得ることができた。
【0060】
(蛍光観察)
そして、上記得られたベクシルクラスターを用い、蛍光観測を行なった。蛍光観察は、LED光源(フィルタ:780nm以下)をベシクルクラスターのサンプルに照射し、試料において励起した蛍光をモノクロカメラ(フィルタ:810nm以上)で観察した。なお、試料は、インドシアニングリーンの濃度をパラメータとしてふり、形成したベシクルクラスターの分散液100μLをプラスチックケースに入れて作成した。なおLED光源及びモノクロカメラとサンプルとの距離は約20cmとした。この結果を図9に示す。
【0061】
この結果、インドシアニングリーンの濃度が3.2×10−2mMの場合に最も強い蛍光を確認することができた。また、この場合における蛍光強度のプロファイルを図10に示しておく。なおこの結果から、低濃度では、励起される分子数が少ないために蛍光強度が低い一方、高濃度としすぎると未励起分子と励起分子との衝突による消光や未励起分子同士の衝突による消光などが生じるためであろうと考えられる。
【0062】
次に、卵黄レシチンの濃度をパラメータとしてふり、同様に蛍光観察を行なった。この結果を図11に示す。
【0063】
この結果、卵黄レシチンの濃度が上昇するにつれて蛍光強度も上昇することが確認できた。なお、この結果における蛍光強度のプロファイルを図12に示しておく。なおこの結果は、卵黄レシチン濃度とインドシアニングリーンの蛍光強度には相関があることが見て取れる。これは、卵黄レシチンの疎水性部位にインドシアニングリーンの発色団部位が取り込まれることで、発色団部位の平面構造が維持され、吸収エネルギーが振動エネルギーとして熱変換されることを抑制でき、光学的に安定化したインドシアニングリーンの蛍光強度を得ることができることを意味していると考えられる。
【0064】
(粘度測定)
一方、上記作成したベクシルクラスター分散液約0.5mLを全量が約2mLとなるようグルコース(1M)を溶解したTRIS緩衝液(50mM、pH7.7)に分散させた。そしてこの分散液の粘度をコーンプレート型レオメータにより測定した。測定は、温度25℃の場合と37℃の場合とで行なった。この結果を図13、図14に示しておく。
【0065】
この結果、一般的に、ゼラチンのある場合の方が、ゼラチンがない場合よりも粘度が高くなっていることが確認できた。特に37℃の場合、ゼラチンがある場合、PGPR重量%濃度が10重量%より大きい場合、粘度が顕著に高くなっていくことが確認できた。
【0066】
(ブタの胃における蛍光観察)
次に、ゼラチンを45mg/mLとなるように添加したベクシルクラスター分散液を、麻酔をかけたブタの胃の内壁粘膜下層へ内視鏡(バリクサー)を用いて約300μL局所注射し、注射直後とその5時間後に、開腹した状態で外部から胃をLED−モノクロカメラ観察装置で観察した。なおこの観察は、ゼラチンのあるベシクルクラスターを用いた状態、ゼラチンの無いベシクルクラスターを用いた状態のそれぞれにおいて行なった。なおその他の条件としては、ポリグリセリンポリリシノレート重量%濃度5重量%、卵黄レシチン濃度60mM、インドシアニングリーン濃度は3.2×10−2mMとした。この結果の図を図15(ゼラチン無し)、図16(ゼラチン有り)にそれぞれ示しておく。
【0067】
この結果、ゼラチン無しのベシクルクラスターの分散液を注射した場合では、注射直後であっても拡散していることが確認でき、5時間後には更に広範囲に拡散していることが確認できた。一方、ゼラチン添加ありのベシクルクラスター分散液を注射した場合、注射直後だけでなく、5時間経過しても殆ど拡散していない様子が確認できた。
【0068】
この結果、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能な蛍光組織マーカー及びその製造方法を提供することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、蛍光組織マーカーとして産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0070】
1…ベシクルクラスター、2…ベシクル、3…親水性溶媒、4…カプセル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する蛍光組織マーカー。
【請求項2】
前記近赤外蛍光色素は、インドシアニングリーン及びその誘導体、ブリリアントグリーン及びその誘導体の少なくともいずれかである請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項3】
前記リン脂質は、レシチン及びフォスファチジルコリンの少なくともいずれかである請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項4】
前記親水性溶媒は、水と食用増粘剤を含む、請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項5】
第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、
疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、
前記懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する、蛍光組織マーカーの製造方法。
【請求項6】
前記リン脂質は、レシチン及びフォスファチジルコリンの少なくともいずれかである請求項5記載の蛍光組織マーカーの製造方法。
【請求項7】
前記第一の親水性溶媒は、水と食用増粘剤を含む、請求項5記載の蛍光組織マーカーの製造方法。
【請求項1】
リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する蛍光組織マーカー。
【請求項2】
前記近赤外蛍光色素は、インドシアニングリーン及びその誘導体、ブリリアントグリーン及びその誘導体の少なくともいずれかである請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項3】
前記リン脂質は、レシチン及びフォスファチジルコリンの少なくともいずれかである請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項4】
前記親水性溶媒は、水と食用増粘剤を含む、請求項1記載の蛍光組織マーカー。
【請求項5】
第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素とリン脂質を加えて攪拌し、
疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、
前記懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する、蛍光組織マーカーの製造方法。
【請求項6】
前記リン脂質は、レシチン及びフォスファチジルコリンの少なくともいずれかである請求項5記載の蛍光組織マーカーの製造方法。
【請求項7】
前記第一の親水性溶媒は、水と食用増粘剤を含む、請求項5記載の蛍光組織マーカーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−265231(P2010−265231A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119338(P2009−119338)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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