説明

蛍光X線分析用試料作製器具

【課題】良好な分析感度を有し、且つ、分析結果のバラツキが少なく、蛍光X線分析に用いるのに好適な固体試料が容易に得られる蛍光X線分析用試料作製器具を提供する。
【解決手段】試料原料収容孔11が形成された金枠12と、金枠収容孔14が形成された金枠収容板15と、金枠収容板15を載置するための基台13と、金枠収容板15に収容された金枠12を挟むように金枠収容板15に対向した位置に配置されて金枠12を加圧するための加圧盤16とを有する試料成型治具10と、金枠12を含む金枠収容板15を載置するための土台21と、土台21に対向する位置に配置されて土台21に載置された金枠収容板15を保持するための保持部材22と、保持部材22で土台21に保持された金枠収容板15から成型された固体試料を押し出すための試料押出手段23が形成されたレバー24とを有するオーバーフロー除去治具20とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析に用いる固体試料を作製するのに好適な蛍光X線分析用試料作製器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析用試料、即ち、蛍光X線分析に用いる固体からなる試料(以下、固体試料と言う)の作製においては、固体試料の原料となる試料原料を金枠に投入し、加圧装置で試料原料を含む金枠に圧力を加えて所定の大きさ及び形状に成型することで固体試料を作製する作製方法が知られている。
【0003】
このような作製方法では、加圧装置の容量によって同時に複数の固体試料を作製している。また、蛍光X線分析に用いる固体試料は、蛍光X線分析の際の分析感度を上げること、及び分析結果がバラツキ難くすることを目的として、固体試料の密度を高くし、且つ、固体試料の表面を平滑にすることが望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−71608号公報
【特許文献2】特開2006−242600号公報
【特許文献3】特開昭57−14746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体試料の密度を高くすると共にその表面を平滑にするため、加圧装置にて圧力を加える際、試料原料が金枠から溢れ出す(オーバーフローする)ようにして作製する。
【0006】
このとき、金枠の周辺に試料原料がオーバーフローしてオーバーフロー部分が形成される。このオーバーフロー部分が付着した状態の固体試料のままでは、蛍光X線分析装置の規格を満たすことができず分析ができないため、オーバーフロー部分を除去しなければならない。
【0007】
しかしながら、オーバーフロー部分を除去する際には、固体試料の表面の平滑性を保つように手作業で行われるため、作業中に固体試料が汚れたり、固体試料に異物が付着したりする(コンタミネーション)などが発生して、分析感度が低下する虞がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、良好な分析感度を有し、且つ、分析結果のバラツキが少なく、蛍光X線分析に用いるのに好適な固体試料が容易に得られる蛍光X線分析用試料作製器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために創案された本発明は、試料原料を所定の大きさ及び形状に成型することで、蛍光X線分析に用いる固体試料を作製するための蛍光X線分析用試料作製器具であって、試料原料を収容するための試料原料収容孔が形成された金枠と、前記金枠を収容するための金枠収容孔が形成された金枠収容板と、前記金枠収容板を載置するための基台と、前記金枠収容板に収容された前記金枠を挟むように前記金枠収容板に対向した位置に配置されて前記金枠を加圧するための加圧盤と、を有する試料成型治具と、前記試料成型治具から取り出された前記金枠を含む前記金枠収容板を載置するための土台と、前記土台に対向する位置に配置されて前記土台に載置された前記金枠を含む前記金枠収容板を保持するための保持部材と、前記保持部材で前記土台に保持された前記金枠を含む前記金枠収容板から成型された固体試料を押し出すための試料押出手段が形成されたレバーと、を有するオーバーフロー除去治具と、を備える蛍光X線分析用試料作製器具である。
【0010】
前記加圧盤は、前記金枠と接する面がフッ素樹脂で加工されていると良い。
【0011】
前記金枠収容板には、前記基台と対向する面であって、前記金枠収容孔が形成された位置と対向する位置に、凹形状の溝が形成されており、前記基台には、前記金枠収容板に形成された前記溝と嵌合する凸形状の突部が形成されていると良い。
【0012】
前記保持部材には、前記レバーを前記保持部材側に可動させたときに、前記試料押出手段が前記金枠へ案内されるように案内孔が形成されていると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な分析感度を有し、且つ、分析結果のバラツキが少なく、蛍光X線分析に用いるのに好適な固体試料が容易に得られる蛍光X線分析用試料作製器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る蛍光X線分析用試料作製器具の試料成型治具を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る蛍光X線分析用試料作製器具のオーバーフロー除去治具を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る蛍光X線分析用試料作製器具を用いた蛍光X線分析用試料作の作製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0016】
図1は本発明の好適な実施の形態に係る蛍光X線分析用試料作製器具の試料成型治具を示す斜視図であり、図2はそのオーバーフロー除去治具を示す斜視図である。
【0017】
本実施の形態に係る蛍光X線分析用試料作製器具は、試料原料を所定の大きさ及び形状に成型することで、蛍光X線分析に用いる固体試料を作製するためのものであり、試料成型治具10とオーバーフロー除去治具20とからなる。
【0018】
[試料成型治具の構成]
図1に示すように、試料成型治具10は、試料原料を収容するための試料原料収容孔11が形成された金枠12と、金枠12を収容するための金枠収容孔14が形成された金枠収容板15と、金枠収容板15を載置するための基台13と、金枠収容板15に収容された金枠12を挟むように金枠収容板15に対向した位置に配置されて金枠12を加圧するための加圧盤16と、を有する。
【0019】
金枠12の試料原料収容孔11は、その内径が蛍光X線分析装置の規格を満たす大きさ及び形状を有するように形成されている。なお、規格を満たす形状とは、例えば、円筒状、立方体状を示す。
【0020】
金枠収容板15には、基台13と対向する面であって、金枠収容孔14が形成された位置と対向する位置に、凹形状の溝17が形成されている。一方、基台13には、金枠収容板15に形成された溝17と嵌合する凸形状の突部18が形成されている。これら溝17と突部18とが嵌合することで、金枠収容板15と基台13とが嵌合され固定される。なお、これら溝17と突部18とは、各々の表面がフッ素樹脂で加工されていることが望ましい。これは加圧盤16にて加圧した後に、金枠収容板15を基台13からストレス無く容易に取り出せるようにするためである。
【0021】
また、金枠収容板15は、加圧盤16と接する面が平滑な面で形成されており、この平滑な面に、金枠12を収容するための金枠収容孔14が複数個形成されている。この金枠収容孔14には、金枠12に形成された試料原料収容孔11と同じかそれよりも若干大きい程度の内径を有し、溝17に連通する図示しない連通孔が形成されている。この連通孔は、加圧して成型した固体試料を後述するオーバーフロー除去治具20にて加工する際に、金枠12から加工された固体試料(オーバーフロー部分を除去した固体試料)を取り出すための取出し孔となる。
【0022】
加圧盤16は、金枠12側の表面(金枠12と接する面)が低密着加工されている低密着面19からなる。これは、試料原料を加圧する際に試料原料が加圧盤16に密着することを防ぐためである。低密着面19は、低摩擦性、耐熱性、耐化学薬品性に優れたフッ素樹脂で低密着加工されていることが好ましい。
【0023】
[オーバーフロー除去治具の構成]
図2に示すように、オーバーフロー除去治具20は、試料成型治具10から取り出された金枠12を含む金枠収容板15を載置するための土台21と、土台21に対向する位置に配置されて土台21に載置された金枠12を含む金枠収容板15を保持するための保持部材22と、保持部材22で土台21に保持された金枠12を含む金枠収容板15から成型された固体試料を押し出すための試料押出手段23が形成されたレバー24と、を有する。
【0024】
土台21とレバー24とは、軸部25を介して連結されており、その軸部25を境にして互いに回動自在となるように構成されている。土台21には、金枠12を含む金枠収容板15を載置するための載置部26が形成されている。
【0025】
保持部材22は、土台21上の載置部26に金枠12を含む金枠収容板15を載置した後、この金枠12を含む金枠収容板15を保持するものである。これに加え、保持部材22は、保持された金枠12を含む金枠収容板15の方向にレバー24を閉じるように可動させたときに、試料押出手段23による加圧によって金枠12の内部に形成された固体試料からオーバーフロー部分を切り離すために、金枠収容板15上の金枠12の周辺に付着したオーバーフロー部分を金枠収容板15との間で保持する役割も有する部材である。
【0026】
また、保持部材22には、レバー24を保持部材22側へ可動させたときに、レバー24に形成された試料押出手段23が金枠収容板15上の金枠12へ案内されるように案内孔27が金枠12上に形成されている。この案内孔27によって、試料押出手段23がレバー24の可動に合わせて金枠12の試料原料収容孔11上に案内され、更にレバー24を閉じるように金枠収容板15側に可動させることで、金枠12の内部に形成された固体試料が押し出される。なお、押し出された固体試料は、金枠収容板15に形成された取り出し孔(連通孔)を介して、金枠収容板15の溝17の部分からオーバーフロー除去治具20の外部に取り出される。
【0027】
[蛍光X線分析用試料作製器具を用いた固体試料の作製方法]
蛍光X線分析用試料作製器具を用いた固体試料の作製方法について、図3に基づき以下に説明する。
【0028】
先ず、図3(a)に示すように、基台13の試料下表面(金枠収容板15が接する面)を平滑にし、試料原料を加圧成型する際に試料原料が密着することを防ぐために設けた突部18に金枠収容板15の溝17を嵌め込んで設置する。
【0029】
次いで、図3(b)に示すように、金枠12を収容するために設けた金枠収容板15の金枠収容孔14に金枠12を設置、収容し、試料原料を蛍光X線分析装置の規格を満たす形状に成型するための試料原料収容孔11に試料原料を投入、収容する。
【0030】
そして、図3(c)に示すように、金枠12上部に、加圧盤16を、試料上表面(金枠12が接する面)を平滑にし、試料原料を加圧成型する際に試料原料が密着することを防ぐために設けた低密着面19を下にして設置する。
【0031】
その後、金枠12上から加圧盤16にて金枠12を加圧すると、試料原料収容孔11内に固体試料が形成されると共に、金枠収容板15の上面に試料原料収容孔11から漏れ出た(溢れ出た)試料原料によってオーバーフロー部分が形成される。
【0032】
次いで、図3(d)に示すように、金枠収容板15を基台13から水平方向にスライドさせて取り外す。
【0033】
その後、図3(e)に示すように、取り外した金枠収容板15をオーバーフロー除去治具20の土台21上に形成された金枠収容板15を載置するための載置部26に載置する。
【0034】
金枠収容板15を載置した後、図3(f)に示すように、レバー24を金枠収容板15側に倒すことで、オーバーフロー部分を金枠収容板15とレバー24との間で保持するために金枠12の上方に設けられた保持部材22が、金枠収容板15上のオーバーフロー部分を保持し、試料押出手段23が試料原料収容孔11内に形成された固体試料を上方から下方へ押し出す。
【0035】
これにより、オーバーフロー部分が除去された固体試料が、金枠収容板15の溝17によって金枠収容板15と土台21との間にできた孔から取り出される。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係る蛍光X線分析用試料作製器具によれば、試料原料を所定の大きさ及び形状に成型することで、蛍光X線分析に用いる固体試料を作製するための蛍光X線分析用試料作製器具であって、試料原料を収容するための試料原料収容孔が形成された金枠と、前記金枠を収容するための金枠収容孔が形成された金枠収容板と、前記金枠収容板を載置するための基台と、前記金枠収容板に収容された前記金枠を挟むように前記金枠収容板に対向した位置に配置されて前記金枠を加圧するための加圧盤と、を有する試料成型治具と、前記試料成型治具から取り出された前記金枠を含む前記金枠収容板を載置するための土台と、前記土台に対向する位置に配置されて前記土台に載置された前記金枠を含む前記金枠収容板を保持するための保持部材と、前記保持部材で前記土台に保持された前記金枠を含む前記金枠収容板から成型された固体試料を押し出すための試料押出手段が形成されたレバーと、を有するオーバーフロー除去治具と、を備えることにより、オーバーフロー部分を除去する際に、固体試料の表面の平滑性を保つようにオーバーフロー部分を手作業で行うことなく除去することができる。これにより、作業中に固体試料が汚れたり、固体試料に異物が付着したりする(コンタミネーション)などの問題が発生するのを防止することができる。
【0037】
また、従来のような加圧装置で試料原料に圧力を加えて成型して固体試料を作製する方法では、加圧した際に、試料原料の性質によって加圧装置の加圧盤面に試料原料が密着してしまうことがある。このような場合、加圧盤面に密着した試料原料を、その表面の平滑性を保つことに注意しながら加圧盤から採取する必要があるため、作業に時間が掛かる。
【0038】
これに対し、本実施の形態に係る蛍光X線分析用試料作製器具では、加圧盤16は、金枠12と接する面がフッ素樹脂で加工されているため、試料原料が密着しにくく、作業が短時間で行える。
【0039】
即ち、本発明によれば、良好な分析感度を有し、且つ、分析結果のバラツキが少なく、蛍光X線分析に用いるのに好適な固体試料が容易に得られる。
【0040】
なお、本実施の形態においては、土台21とレバー24とが軸部25で連結されているものとしたが、土台21とレバー24とを連結せず、土台21に対してレバー24をその対向面同士が平行になるように押し込む押込型にしても良い。
【符号の説明】
【0041】
10 試料成型治具
11 試料原料収容孔
12 金枠
13 基台
14 金枠収容孔
15 金枠収容板
16 加圧盤
17 溝
18 突部
19 低密着面
20 オーバーフロー除去治具
21 土台
22 保持部材
23 試料押出手段
24 レバー
25 軸部
26 載置部
27 案内孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料原料を所定の大きさ及び形状に成型することで、蛍光X線分析に用いる固体試料を作製するための蛍光X線分析用試料作製器具であって、
試料原料を収容するための試料原料収容孔が形成された金枠と、前記金枠を収容するための金枠収容孔が形成された金枠収容板と、前記金枠収容板を載置するための基台と、前記金枠収容板に収容された前記金枠を挟むように前記金枠収容板に対向した位置に配置されて前記金枠を加圧するための加圧盤と、を有する試料成型治具と、
前記試料成型治具から取り出された前記金枠を含む前記金枠収容板を載置するための土台と、前記土台に対向する位置に配置されて前記土台に載置された前記金枠を含む前記金枠収容板を保持するための保持部材と、前記保持部材で前記土台に保持された前記金枠を含む前記金枠収容板から成型された固体試料を押し出すための試料押出手段が形成されたレバーと、を有するオーバーフロー除去治具と、
を備えることを特徴とする蛍光X線分析用試料作製器具。
【請求項2】
前記加圧盤は、前記金枠と接する面がフッ素樹脂で加工されている請求項1に記載の蛍光X線分析用試料作製器具。
【請求項3】
前記金枠収容板には、前記基台と対向する面であって、前記金枠収容孔が形成された位置と対向する位置に、凹形状の溝が形成されており、
前記基台には、前記金枠収容板に形成された前記溝と嵌合する凸形状の突部が形成されている請求項1又は2に記載の蛍光X線分析用試料作製器具。
【請求項4】
前記保持部材には、前記レバーを前記保持部材側に可動させたときに、前記試料押出手段が前記金枠へ案内されるように案内孔が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光X線分析用試料作製器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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