説明

蛍光X線分析装置および方法

【課題】分析対象の測定面が曲率を有する場合でも、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得る。
【解決手段】制御部11Cで、分析対象20の表面の曲率1/Rまたは半径Rに基づいて、蛍光X線強度から算出される量的情報を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線を用いて分析対象に含まれる成分を分析する蛍光X線分析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
分析の対象である分析対象に含まれる成分のうち、分析対象を構成する組成元素、または表面の付着元素を、非破壊で分析する手法の1つとして蛍光X線分析法がある。この蛍光X線分析法を実行する装置を蛍光X線分析装置と呼ぶ。
蛍光X線分析法は、分析対象中の多くの種類の元素について、定性分析、定量分析、化学状態分析、またはこれらのうちのいずれか複数を同時に行える分析法であり、液体そのものを分析する事例もあるが、分析対象は主として固体材料である。
【0003】
上記分析法のうち、定量分析とは、組成分析、微量分析といった当該元素の濃度に関する分析であり、例えばめっき膜厚など、膜厚の測定などをも含む。本発明では、これらを量的情報と呼ぶことにする。
定量分析では、物理的または化学的定数の設定など、物理的または化学的前提をおいて、測定された元素の蛍光X線強度から、計算を経て、当該元素の量的情報を得る。量的情報は、濃度そのものを表すこともあるが、濃度の大小を示す相対値の場合もある。計算を経ないで、測定された元素の蛍光X線強度自体を、当該元素の量的情報として扱うこともあるが、本発明ではこれを含まない。
【0004】
蛍光X線分析装置は、実験室に置かれる大型の装置が主流であるが、最近では携帯型蛍光X線分析装置も販売されている。例えば、株式会社堀場製作所が販売する携帯型蛍光X線分析装置がある(例えば、非特許文献1など参照)。
量的情報の応用として、建築構造物などの分析対象に対して、この分析対象が存在する現場での非破壊での定性分析、定量分析を挙げることができる。
【0005】
一方、社会インフラである電力や電気通信の分野において、送電線や通信線を支える構造物の多くは屋外に設置させることから、塩害など、設置環境による腐食が生じることがあり、塩分は腐食を加速する要素であることから、塩分に含まれる塩素を現場で測定するニーズがある(例えば、非特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】http://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/x-ray-fluorescence-analysis/details/mesa-portable-8946/
【非特許文献2】http://www.ourstex.co.jp/application/data029.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来の技術による蛍光X線分析法では、定量分析を行う場合、物理的または化学的前提の1つとして、分析対象の均一性を前提としている。分析対象の均一性とは、例えば、分析対象自体をそのままの状態で分析する場合、分析のための測定面が平坦であること、あるいは、分析対象からその場でサンプリングして測定する場合には、ある平面の上に均一に分散させることを指している。
【0008】
しかしながら、分析対象からその場でサンプリングして測定する場合、ある平面の上に均一に分散させることは、サンプリングにおいて分析対象を破壊することを意味する。例えば、コンクリート構造物の中の塩分を測定する場合、コンクリート構造物からコア抜きと呼ばれるサンプリングを行い、サンプリングされた試料(コア供試体)を粉砕して、分析対象の粉末を得て、平面状に均一に分散させて、蛍光X線分析装置により、塩素の蛍光X線強度を測定し、物理的または化学的前提をおいて、計算を経て、塩素および塩分の量的情報を得る。
【0009】
このとき、コンクリート構造物が、例えば、大規模な橋梁や橋脚であれば、埋め戻すなどの事後措置を講ずることでコア抜きに伴う支障はないが、小規模なコンクリート電柱などであれば、コア抜きに伴う支障が懸念されるため、このようなコア抜きに類したサンプリングは通常行われない。また、分析対象が金属製である場合、コンクリート製のように、分析対象の粉末を得ること事態が困難である。
【0010】
一方で、分析対象自体をそのままの状態で分析する場合、蛍光X線分析装置により、表面における元素の蛍光X線強度を測定し、分析のための測定面が平坦であることを前提として、元素の量的情報を得る。この場合、例えば、分析対象の測定面が橋脚の平坦な面であれば、その前提が十分に成り立つものと見なせるが、例えば、分析対象が鋼棒であれば、測定面はある曲率を有するため、このような前提は成り立たない。この前提が成り立たない場合、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得ることはできない。
【0011】
屋外構造物として鋼棒を材料とするものとしては、例えば、送電線や通信線が架かるコンクリート電柱を支える支線と呼ばれるものがある。支線には、様々な規格があり、規格によっては、鋼棒の部分の直径は異なり、すなわち曲率は異なる。曲率が変われば、曲率以外の物理的化学的性質が同一の複数の分析対象であっても、被分析元素の蛍光X線強度は変化する。すなわち、曲率が異なる条件では、被分析元素の蛍光X線強度自体は、当該元素の量に比例しない。すなわち相対値であっても、被分析元素の蛍光X線強度の多寡をもって論ずることはできない。
【0012】
以上のように、従来の技術による蛍光X線分析法および蛍光X線分析装置では、分析対象の測定面が曲率を有する場合、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得ることができないという問題点があった。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、分析対象の測定面が曲率を有する場合でも、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得ることができる蛍光X線分析技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明にかかる蛍光X線分析装置は、X線を発生させて分析対象へ照射するX線発生部と、X線に応じて分析対象の表面から発生した蛍光X線を検出してその強度を計測するX線検出器と、X線検出器で計測した蛍光X線強度に基づいて、分析対象の表面に存在する元素に関する量的情報を算出する制御部とを備え、制御部で、分析対象表面の曲率または半径に基づいて、蛍光X線強度から算出される量的情報を補正するようにしたものである。
【0015】
この際、分析対象表面の曲率を計測する曲率計測部をさらに備え、制御部で、曲率計測部で得られた曲率に基づいて、蛍光X線強度から算出される量的情報を補正するようにしてもよい。
【0016】
また、分析対象表面は、曲率1/Rを持つ曲面からなり、X線検出部は、曲面と対向する位置に配置されて、曲面からの蛍光X線を検出する検出面を有し、制御部で、曲面の半径方向と平行する仮想平面において、検出面のうち仮想平面と交差する交差線分の長さをDとし、交差線分の中央点Pから曲面の中心点へ延びる検出面の法線が曲面と直交する位置を点Aとし、中央点Pから点Aまでの距離をLとし、中心点を中心として回転する動径が曲面と直交する任意の位置を点Bとし、中心点に対して点Aと点Bとがなす角度をθとし、点Bと点Pとを結ぶ線分の長さをdとし、線分と点Bの接線とがなす角度をαとした場合、後述する式(12)で表される補正係数により、量的情報を補正するようにしてもよい。
【0017】
また、本発明にかかる蛍光X線分析方法は、分析対象へ照射したX線に応じて分析対象の表面から発生した蛍光X線を検出してその強度を計測し、当該蛍光X線強度に基づいて、分析対象の表面に存在する元素に関する量的情報を算出する際、分析対象表面の曲率または半径に基づいて量的情報を補正するようにしたものである。
【0018】
この際、分析対象表面の曲率を計測し、当該曲率に基づいて量的情報を補正するようにしてもよい
【0019】
また、分析対象表面は、曲率1/Rを持つ曲面からなり、X線を検出する際、曲面と対向する位置に配置された検出面で、曲面からの蛍光X線を検出し、量的情報を補正する際は、曲面の半径方向と平行する仮想平面において、検出面のうち仮想平面と交差する交差線分の長さをDとし、交差線分の中央点Pから曲面の中心点へ延びる検出面の法線が曲面と直交する位置を点Aとし、中央点Pから点Aまでの距離をLとし、中心点を中心として回転する動径が曲面と直交する任意の位置を点Bとし、中心点に対して点Aと点Bとがなす角度をθとし、点Bと点Pとを結ぶ線分の長さをdとし、線分と点Bの接線とがなす角度をαとした場合、後述する式(12)で表される補正係数により、量的情報を補正するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、分析対象の測定面が曲率を有する場合でも、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施の形態にかかる蛍光X線分析装置の構成を示す説明図である。
【図2】一実施の形態にかかる蛍光X線分析処理を示すフローチャートである。
【図3】テンプレートを用いた曲率計測機構を示す説明図である。
【図4】分析対象とX線検出器との位置関係を示す斜視図である。
【図5】分析対象とX線検出器との位置関係(仮想平面上)を示す平面図である。
【図6】従来の蛍光X線分析法における量的情報の算出手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[発明の原理]
蛍光X線分析方法では、分析対象にX線を照射し、分析対象に含まれる元素の元素種に特有の波長の蛍光X線について、蛍光X線強度を得る。このとき、直接目的とするのは被分析元素であるが、被分析元素に関する量的情報を得るために、分析対象に含まれる被分析元素以外の元素を測定し、当該元素の蛍光X線強度を得ることが必要な場合もある。
【0023】
図6は、従来の蛍光X線分析法における量的情報の算出手順を示すフローチャートである。
従来の蛍光X線分析法では、まず、分析対象にX線を照射して得られる蛍光X線の強度を計測し(ステップ200)、得られた蛍光X線強度を演算処理して、被分析元素の量的情報を算出し(ステップ201)、得られた量的情報を出力する(ステップ202)、ものとなっている。
【0024】
一般に、上記演算処理のうち最も簡単なものの1つは、元素の蛍光X線強度が元素の量に比例するとして、被分析元素の量が既知の標準試料における被分析元素の量とこの被分析元素の蛍光X線強度との比例定数による除算ないし乗算を、分析対象に含まれる量が未知の被分析元素の蛍光X線強度に対して施すものである。
【0025】
このような従来法では、分析対象の曲率が変化した場合、曲率に応じた補正を行わないため、被分析元素の量とこの被分析元素の蛍光X線強度との対応関係は1対1ではなく、すなわち、分析元素の蛍光X線強度から被分析元素の量的情報を得ることは、曲率の値の範囲を限定しなければ、困難である。
【0026】
これに対して、本発明では、演算処理の一部分として曲率による量的情報の補正を含み、変数である曲率を入力した後、元素の蛍光X線強度に演算を施して元素の量的情報を得るようにしたものである。したがって、本発明によれば、被分析元素を含む分析対象の曲率に合わせて、被分析元素の量的情報を得るための補正を行うようにしたので、被分析元素の蛍光X線強度から、曲率に応じた補正を経て、被分析元素の量についての情報を正確に得ることができる。
【0027】
[蛍光X線分析装置]
次に、図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態にかかる蛍光X線分析装置について説明する。図1は、一実施の形態にかかる蛍光X線分析装置の構成を示す説明図である。図2は、一実施の形態にかかる蛍光X線分析処理を示すフローチャートである。
【0028】
蛍光X線分析装置10は、全体として、ハンドヘルドでの利用を考慮したガン型をなしており、分析対象にX線を照射して得られる蛍光X線の強度を計測し、この計測結果に基づいて、分析対象を構成する元素に関する、例えば濃度などの量的情報を算出する装置である。
【0029】
分析対象20は、蛍光X線分析を行う対象である。具体例としては、通信に関わる線路設備として、鋼管柱、つり線、支線など、曲面を有する屋外設備がある。
この種の設備に付着した塩分は、設備の腐食に大きな影響を及ぼすため、塩分付着量を評価する必要がある。蛍光X線分析は、設備が設置されている現場での非破壊測定が可能であることから、蛍光X線分析装置10を用いた塩分測定方法が用いられる。
【0030】
この蛍光X線分析装置10は、主に、本体11、X線出入口12、曲率計測部13、表示部14、把持部15、およびX線出射ボタン16から構成されている。
【0031】
本体11には、X線発生部11A、X線検出器11B、および制御部11Cが内包されている。
X線発生部11Aは、X線発生ボタン16の操作に応じて照射X線21を発生させて、X線出入口12から分析対象20へ出射する機能を有している。
X線検出器11Bは、照射X線21が分析対象20に照射した照射X線21により分析対象20から発生した蛍光X線22の強度を、各波長ごと、すなわちX線の光子エネルギーごとに計測する機能を有している。この蛍光X線22は、分析対象20に含まれる元素に特有の波長、すなわち光子エネルギーを有している。
【0032】
制御部11Cは、CPUなどの演算処理回路からなり、X線検出器11Bで得られた計測結果に基づいて、分析対象20を構成する元素の濃度などの量的情報を算出する機能と、分析対象20の曲率や当該装置に固有の装置定数に基づいて量的情報を補正するための補正係数を算出する機能と、この補正係数により量的情報を補正する機能と、計測結果や量的情報などの各種情報を表示部14で表示する機能を有している。
【0033】
X線出入口部12は、本体11の先端部に設けられた開口部からなり、X線発生部11Aからの照射X線21や分析対象20からの蛍光X線22が出入りする。
【0034】
曲率計測部13は、X線出入口部12の先端部に設けられて、分析対象20の曲率を計測する機能を有している。曲率計測部13の具体的な機構としては、例えば、複数の曲率を有するテンプレートを用いて、これらと分析対象20を密着させ、もっとも密着性のよいテンプレートの曲率を採用する機構がある。
【0035】
図3は、テンプレートを用いた曲率計測機構を示す説明図であり、図3(a)は、外観図、図3(b)は平面図である。
曲率計測部13の先端には、ある曲率を有する凹部13Bが形成されたテンプレート13Aが取り付けられており、図3に示すように、円柱棒状の分析対象20にテンプレート13Aの凹部13Bを密着させる。これにより、分析対象20の曲率と凹部13Bの曲率が一致した場合、分析対象20の曲率を把握できる。
【0036】
したがって、任意の曲率の分析対象20に対応するには、異なる曲率のテンプレート13Aを複数用意しておき、これらテンプレート13Aを交換して分析対象20に密着させ、最も密着性のよいテンプレート13Aの曲率を採用すればよい。この際、曲率計測部13に取り付けられたテンプレート13Aを識別して識別信号を制御部11Cへ出力する識別回路を設けておけば、このテンプレート13Aの識別結果、すなわち分析対象20の曲率を制御部11Cで自動的に検出することが可能となる。
【0037】
また、設備の断面形状が円であることが明らかな場合は、テンプレートを用いず、外周すなわち円周を計測するか、あるいは直径を計測して、半径Rを得て、曲率1/Rを得てもよい。また、以上の操作を自動化する機構を備えてもよい。
なお、曲率を計測する具体的な機構としては、前述したテンプレートを用いる機構のほか、レーザ光のスキャニングを用いた分析対象20の形状測定を行い、この形状に近似できる球面あるいは円筒面を得て曲率を得る機構、カメラの機械的な絞りに見られるような調整機能により分析対象20の直径を得て曲率を得る機構など、公知の技術を利用すればよい。
【0038】
表示部14は、本体11の上部に設けられて、LCDやLEDなどの表示装置からなり、制御部11Cから出力された各種情報を表示する機能を有している。この表示部14に、タッチパネルやカーソルキーなどの操作入力部を設けて、例えばテンプレートで計測した曲率などの各種情報を制御部11Cへ入力するようにしてもよい。また、曲率計測部13で計測した曲率などの各種情報を表示部14で表示するようにしてもよい。
【0039】
把持部15は、本体11の下部に設けられて、蛍光X線分析を行う際に利用者に把持されて、分析対象20と対向する位置に蛍光X線分析装置10を保持する機能を有している。
X線発生ボタン16は、押しボタンや操作レバーなどの操作部からなり、利用者のX線発生操作を検出して、X線照射部11Aや制御部11Cへ通知する機能を有している。
【0040】
[蛍光X線分析処理]
次に、図2を参照して、本発明の一実施の形態にかかる蛍光X線分析装置10における蛍光X線分析処理について説明する。ここでは、曲率計測部13で計測した分析対象20の曲率に基づき、量的情報を補正する場合を例として説明する。
【0041】
X線発生ボタン16の押下に応じて、本体11に内包されているX線発生部11Aから、X線出入口12を介して、照射X線21が分析対象20に照射される。図1では、説明の都合上、X線出入口12との間に距離があるように見えるが、実際には近接している。
これにより、分析対象20に含まれる元素に特有の波長、すなわち光子エネルギーを有する蛍光X線22が、X線出入口12を介して、本体11に内包されているX線検出器11Bで検出され、X線の光子エネルギーごとに強度が計測される(ステップ100)。
【0042】
次に、曲率計測部13は、分析対象20の曲率を計測する(ステップ101)。
また、本体11に内包されている制御部11Cは、制御部11Cの記憶部に予め登録されている、X線検出器11Bの検出器の大きさなど、量的情報の補正に用いる蛍光X線分析装置10に固有の装置定数を取得する(ステップ102)。
続いて、制御部11Cは、曲率計測部13で得られた分析対象20の曲率、および記憶部から取得した装置定数に基づいて、量的情報を補正するための補正係数を算出する(ステップ103)。
【0043】
この後、制御部11Cは、X線検出器11Bで得られたX線の光子エネルギーごとに強度に基づき、分析対象20の量的情報を算出して(ステップ104)、これを補正係数で補正し(ステップ105)、表示部14で表示する(ステップ106)。
【0044】
[量的情報の補正]
次に、図4および図5を参照して、本発明の一実施の形態にかかる蛍光X線分析装置10における量的情報の補正について説明する。図4は、分析対象とX線検出器との位置関係を示す斜視図である。図5は、分析対象とX線検出器との位置関係(仮想平面上)を示す平面図である。
ここでは、図4に示すように、分析対象20が柱形状をなし、分析対象20の表面が、一定の半径R(曲率1/R)を持つ曲面Cからなる場合を例として説明する。
【0045】
曲面Cの半径Rの半径方向と平行する仮想平面Zを想定した場合、分析対象とX線検出器とは、図5に示す位置関係となる。
X線検出部11Bの検出面11Sは、曲面Cと対向する位置に配置されており、曲面Cの長手方向Yに沿って延びる矩形形状をなしている。したがって、検出面11Sは仮想平面Zと交差線分Sで交差し、この交差線分Sの長さ、すなわち仮想平面Zにおける蛍光X線の有効検出領域の長さをDとする。換言すれば、検出面11Sのうち、曲面Cの湾曲方向Qと対向する幅がDとなる。なお、図4において、X線検出部11Bは、厚みを持つよう描かれているが、X線の検出に寄与する部分は検出面11Sのみである。
【0046】
検出面11Sのうち、交差線分Sの中央点を点Pとし、この中央点Pの位置に、X線発生部11Aの光源が点光源として配置されているものとする。この際、点光源の位置は、実際には、中央点Pを通過して仮想平面Zと直交する線上であって、検出面11SでのX線検出の妨げとならない、中央点Pから直近の位置に配置するようにしてもよい。なお、ここでは、説明を容易とするため、長手方向Yについては考えず、照射X線、蛍光X線の両方について空間での吸収も考えないものとする。
【0047】
図5において、交差線分Sの中央点Pから曲面Cの中心点Oへ延びる検出面11Sの法線Tが曲面Cと直交する位置を点Aとし、中央点Pから点Aまでの距離をLとする。したがって、距離Lは、検出面11Sと曲面Cとの最短距離となる。この距離Lは装置定数として、あるいは装置定数と半径Rから与えられる。また、横幅Dは装置定数として与えられる。
【0048】
また、曲面Cのうち、任意の点で発生した蛍光X線が検出面11Sで検出されうる領域を有効領域Wとする。また、この有効領域Wのうち、中心点Oを中心として回転する動径Vが曲面Cと直交する任意の位置を点Bとし、中心点Oに対して点Aと点Bとがなす角度をθとする。
また、点Bと点Pとを結ぶ線分Dの長さをdとし、線分Dと点Bの接線Hとがなす角度をαとする。
また、点Bのうち、有効領域Wの両側端部に位置する点を限界点とする。このうち、点Aから反時計回りに動径Vが正の角度θMAXだけ回転した位置にある限界点をBMAXとし、点Aから時計回りに動径Vが負の角度−θMAXだけ回転した位置にある限界点をB−MAXとする。
【0049】
図5において、点Bと点Pとを結ぶ線分Dの長さdは、次の式(1)で求められる。
【数1】

【0050】
また、法線Tと線分Dとのなす角度をβとすると、接線Hと線分Dとのなす角度αと、式(1)の長さdを用いて、最短距離Lと曲率半径Rとの和L+Rは、次の式(2)で求められる。
【数2】

【0051】
ここで、照射X線21が分析対象20の曲面Cに照射された場合、曲面Cのうち蛍光X線が検出面11Sで検出されうる有効領域Wについて、曲面C上の角度領域を示すθMAXは、次の式(3)で与えられる。
【数3】

【0052】
点Bのある円周上のごく短い円弧の長さを微小な角度dθを用いて、Rdθで表す。照射X線21が距離の二乗で減衰するとすれば、点BにおけるRdθでの照射X線強度dIについて、次の式(4)が成り立つ。
【数4】

【0053】
また、分析対象20の表面に均一に薄く被分析元素が存在する場合、単位面積あたりの被分析元素の濃度cを用いて、点BにおけるRdθで発生する被分析元素の蛍光X線強度dI’について、同様に次の式(5)が成り立つ。
【数5】

【0054】
ここで、点BにおけるRdθで発生する被分析元素の蛍光X線は等方的に広がるものとすれば、X線検出器11Bで検出される被分析元素の蛍光X線強度dFは、X線検出器11Bの検出部が点Bに対して張る立体角に比例する。図5の例では、分析対象20が円柱状であるものとしているので、立体角の代わりに角度γを用いる。このとき、蛍光X線強度dFについて、次のような近似式(6)を得る。Kは、濃度cと蛍光X線強度Fとの比例定数である。
【数6】

【0055】
したがって、X線検出器11Bで検出される被分析元素の全蛍光X線強度Fは、次の式(7)で与えられる。
【数7】

【0056】
ここで、前述した式(1)と式(2)を参照すれば、式(7)におけるα、dは、Rを含むθの関数であるので、次の式(8)に示すように、被積分関数もRを含むθの関数として表される。
【数8】

【0057】
したがって、式(8)をθで積分した関数をG(R,θ)とすれば、式(7)は、次の式(9)となる。
【数9】

【0058】
また、式3により、θMAXもRの関数であるので、式(9)を改めて、次の式(10)のように表記する。
【数10】

【0059】
これにより、通常、比例定数Kを介して蛍光X線強度Fと比例関係を有する単位面積あたりの被分析元素の濃度c、すなわち量的情報が、分析対象20の曲率Rによって変化する関数G(R)からなる補正係数で補正されることを示す式(11)が得られる。
【数11】

【0060】
したがって、式(11)において、蛍光X線強度Fおよび比例定数Kで算出される濃度cが、曲率Rで特定される関数G(R)で補正されることがわかる。
これにより、このような補正方法を用いて、X線検出器11Bで計測した全蛍光X線強度Fから、単位面積あたりの被分析元素の濃度c、すなわち、被分析元素の量についての量的情報を正確に得ることができる。
【0061】
前述したように、一般的には、分析対象が平面の場合、蛍光X線強度Fと濃度cとは、比例係数Kを用いて、F=cKという比例関係で表現できる。このため、前述した式(7)のうちの積分項と前述した式(3)とを用いて、曲面Cの場合の係数、すなわち補正係数G(R)を、次の式(12)で表すこともできる。
【数12】

【0062】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、制御部11Cで、分析対象20の表面の曲率1/Rまたは半径Rに基づいて、蛍光X線強度から算出される量的情報を補正するようにしたので、分析対象の測定面が曲率を有する場合でも、分析対象に含まれる成分の被分析元素の量についての情報を正確に得ることができる。
【0063】
また、本実施の形態では、曲率計測部13で、分析対象20の表面の曲率を計測し、制御部は、曲率計測部で得られた曲率に基づいて、蛍光X線強度から算出される量的情報を補正するようにしたので、表面の曲率を予め調べて置く必要がなくなり、蛍光X線分析に要する作業負担を軽減することができる。
【0064】
また、本実施の形態では、分析対象20の表面が、曲率1/Rを持つ曲面からなり、X線検出部11Bが、曲面と対向する位置に配置されて、曲面からの蛍光X線を検出する検出面11Sを有する場合、曲面Cの半径方向と平行する仮想平面Zにおいて、検出面のうち仮想平面と交差する交差線分の長さをDとし、交差線分の中央点Pから曲面の中心点へ延びる検出面の法線が曲面と直交する位置を点Aとし、中央点Pから点Aまでの距離をLとし、中心点を中心として回転する動径が曲面と直交する任意の位置を点Bとし、中心点に対して点Aと点Bとがなす角度をθとし、点Bと点Pとを結ぶ線分の長さをdとし、線分と点Bの接線とがなす角度をαとした場合、補正係数は、前述した式(12)で求めるようにしたので、極めて精度良く量的情報を補正することが可能となる。
【0065】
なお、本実施の形態において、曲率の補正に必要な装置定数は測定時に入力してもよいが、装置固有の定数なので、予め、計算機の記憶部などに保持していたほうがよい。曲率は、曲率が異なる場合ごとに入力すればよいようにすることもできる。その場合、曲率が同一で、異なる分析対象を測定する場合は、曲率を入力せず、前の測定で入力した曲率をそのまま用いてもよい。曲率の代わりに、曲率の逆数である曲率半径を入力する方式としてもよい。また、曲率については、分析対象の形状の自動計測あるいは手計測、またはその両方を用いて得るようにしてもよい。また、曲率を表示するようにしてもよい。
【0066】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0067】
10…蛍光X線分析装置、11…本体、12…X線出入口部、13…曲率計測部、13A…テンプレート、13B…凹部、14…表示部、15…把持部、16…X線発生ボタン、20…分析対象、21…照射X線、22…蛍光X線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生させて分析対象へ照射するX線発生部と、
前記X線に応じて前記分析対象の表面から発生した蛍光X線を検出してその強度を計測するX線検出器と、
前記X線検出器で計測した蛍光X線強度に基づいて、前記分析対象の表面に存在する元素に関する量的情報を算出する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記分析対象表面の曲率または半径に基づいて、前記蛍光X線強度から算出される前記量的情報を補正する
ことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記分析対象表面の曲率を計測する曲率計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記曲率計測部で得られた前記曲率に基づいて、前記蛍光X線強度から算出される前記量的情報を補正する
ことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記分析対象表面は、曲率1/Rを持つ曲面からなり、
前記X線検出部は、前記曲面と対向する位置に配置されて、前記曲面からの蛍光X線を検出する検出面を有し、
前記制御部は、
前記曲面の前記半径方向と平行する仮想平面において、
前記検出面のうち前記仮想平面と交差する交差線分の長さをDとし、
前記交差線分の中央点Pから前記曲面の中心点へ延びる前記検出面の法線が前記曲面と直交する位置を点Aとし、
前記中央点Pから前記点Aまでの距離をLとし、
前記中心点を中心として回転する動径が前記曲面と直交する任意の位置を点Bとし、
前記中心点に対して前記点Aと前記点Bとがなす角度をθとし、
前記点Bと前記点Pとを結ぶ線分の長さをdとし、
前記線分と前記点Bの接線とがなす角度をαとした場合、
次の式
【数1】

で表される補正係数により、前記量的情報を補正する
ことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
分析対象へ照射したX線に応じて前記分析対象の表面から発生した蛍光X線を検出してその強度を計測し、当該蛍光X線強度に基づいて、前記分析対象の表面に存在する元素に関する量的情報を算出する際、前記分析対象表面の曲率または半径に基づいて前記量的情報を補正することを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光X線分析方法において、
前記分析対象表面の曲率を計測し、当該曲率に基づいて前記量的情報を補正することを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の蛍光X線分析方法において、
前記分析対象表面は、曲率1/Rを持つ曲面からなり、
前記X線を検出する際、前記曲面と対向する位置に配置された検出面で、前記曲面からの蛍光X線を検出し、
前記量的情報を補正する際は、
前記曲面の前記半径方向と平行する仮想平面において、
前記検出面のうち前記仮想平面と交差する交差線分の長さをDとし、
前記交差線分の中央点Pから前記曲面の中心点へ延びる前記検出面の法線が前記曲面と直交する位置を点Aとし、
前記中央点Pから前記点Aまでの距離をLとし、
前記中心点を中心として回転する動径が前記曲面と直交する任意の位置を点Bとし、
前記中心点に対して前記点Aと前記点Bとがなす角度をθとし、
前記点Bと前記点Pとを結ぶ線分の長さをdとし、
前記線分と前記点Bの接線とがなす角度をαとした場合、
次の式
【数2】

で表される補正係数により、前記量的情報を補正する
ことを特徴とする蛍光X線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−229967(P2012−229967A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97839(P2011−97839)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】