説明

蛍光X線分析装置

【課題】分析チャンバ内の雰囲気をヘリウムガスで置換する際のヘリウムガス消費量を低減可能な蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】
蛍光X線分析装置において、試料Sに一次X線を照射するX線源12と、前記一次X線の照射により試料Sから放出される蛍光X線を検出するX線検出器13と、前記一次X線と蛍光X線の光路を内包する分析チャンバ10と、分析チャンバ10内にヘリウムガスを導入するヘリウムガス導入手段17と、分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度を測定するヘリウムガス濃度測定手段18と、ヘリウムガス濃度測定手段18によるヘリウムガス濃度の測定結果に基づき、分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度が予め定められた目標値となるようにヘリウムガス導入手段17を制御する制御手段31とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、固体試料、粉体試料、又は液体試料に一次X線を照射し、該一次X線により励起されて放出される蛍光X線を検出することによって、その試料に含まれる元素の定性又は定量分析を行うものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
こうした蛍光X線分析では、一般に、分析チャンバ内の雰囲気をできる限り真空雰囲気とすることが望ましい。なぜなら、X線源から照射される一次X線の試料までの光路や試料表面で発生した蛍光X線の検出器までの光路に雰囲気ガスが存在すると、雰囲気ガスの吸収によりX線が減衰してしまうからである。しかしながら、測定対象とする試料が液体試料や飛散し易い粉体試料である場合には雰囲気を真空状態にすることが困難である。
【0004】
そこで、このような場合には、空気よりもX線吸収の少ないヘリウムガスによって分析チャンバ内の雰囲気ガスを置換することが行われる。このような雰囲気置換機能を備えた蛍光X線分析装置は、例えば、分析チャンバと、該分析チャンバ内の雰囲気を安定に保ちつつ試料交換を行うための予備室と、分析チャンバにヘリウムガスを導入するためのガス導入手段とを有しており、該ガス導入手段を用いて分析チャンバにヘリウムガスを導入することにより分析チャンバ内の空気をヘリウムガスで置換し、その上で予備室内の試料を分析チャンバに移して該試料の蛍光X線分析を実行するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-197205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の蛍光X線分析装置では、分析チャンバ内にヘリウムガスを充満させるため、分析チャンバ内にヘリウムガスを一定の流量で流し続けた状態で試料の測定が行われる。そのため、ヘリウムガスを多量に消費するという問題があった。また、上記のようにヘリウムガスを一定流量で流し続けることで雰囲気置換を行う構成であるため、試料の測定時における分析チャンバ内の雰囲気が期待した通りのヘリウムガス濃度になっているかを知ることができない。そのため、試料と検出器の間に介在する雰囲気ガスによるX線減衰の影響を正確に把握することができず、測定結果の信頼性を十分に確保できない場合があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的の1つは、分析チャンバ内の雰囲気をヘリウムガスで置換する機能を備えた蛍光X線分析装置において、ヘリウムガスの消費量を低減することにある。また、本発明の他の目的は、分析チャンバ内の雰囲気ガスによるX線減衰の影響を正確に把握し、これを考慮した信頼性の高い測定結果を得ることのできる蛍光X線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る蛍光X線分析装置は、
a) 試料に一次X線を照射するX線源と、
b) 前記一次X線の照射により前記試料から放出される蛍光X線を検出するX線検出器と、
c) 前記一次X線と蛍光X線の光路を内包する分析チャンバと、
d) 前記分析チャンバ内にヘリウムガスを導入するヘリウムガス導入手段と、
e) 前記分析チャンバ内のヘリウムガス濃度を測定するヘリウムガス濃度測定手段と、
f) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によるヘリウムガス濃度の測定結果に基づき、前記分析チャンバ内のヘリウムガス濃度が予め定められた目標値となるように前記ヘリウムガス導入手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴としている。
【0009】
また、上記本発明に係る蛍光X線分析装置は、
g) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によって測定された、前記試料の蛍光X線分析時における分析チャンバ内のヘリウムガス濃度の値に基づいて、前記分析チャンバ内の雰囲気ガスによるX線減衰率を求め、該X線減衰率に基づいて前記蛍光X線分析の結果を補正する補正手段、
を更に有するものとすることが望ましい。
【0010】
また、上記本発明に係る蛍光X線分析装置は、更に、
h) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によって測定された、前記試料の蛍光X線分析時における分析チャンバ内のヘリウムガス濃度の値を、前記蛍光X線分析の結果と関連付けて記憶又は出力する手段、
を有するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明に係る蛍光X線分析装置によれば、ヘリウムガス濃度測定手段によって分析チャンバ内部のヘリウムガス濃度が測定され、その測定結果に基づいてヘリウムガス導入手段がフィードバック制御される。そのため、従来のようにヘリウムガスを一定流量で流し続けた状態で試料測定を行う必要がなく、ヘリウムガスの使用量を低減することができる。
【0012】
更に、上記のような補正手段を備えた構成とした場合、ヘリウムガス濃度の測定結果に基づいて分析チャンバ内の雰囲気ガスによるX線減衰率を正確に把握し、これに基づいて試料の蛍光X線分析の結果を補正することができる。これにより、雰囲気ガスによるX線減衰の影響を考慮した信頼性の高い分析結果を得ることが可能となる。
【0013】
また、上記のように、試料の蛍光X線分析時における分析チャンバ内のヘリウムガス濃度の値を、該試料の蛍光X線分析の結果と関連付けて記憶又は出力する手段を備えた構成とした場合、過去の測定について分析結果の信頼性を証明することができ、分析結果のトレーサビリティを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る蛍光X線分析装置を示す概略構成図。
【図2】同実施例に係る蛍光X線分析装置の動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について実施例を挙げて説明する。図1は、本発明の一実施例に係る蛍光X線分析装置を示す概略構成図である。本実施例に係る蛍光X線分析装置は、検出器13として半導体検出器を使用したエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であり、且つ試料Sの下面側からX線照射を行う下面照射方式のものである。
【0016】
分析チャンバ10は、上面壁が試料Sを載置するためのベース板11となっており、分析チャンバ10の内部には、X線管12と全波長帯域のX線を取り込み可能な検出器13が斜め上向きに設置されている。ベース板11には、一次X線及び蛍光X線を通過させるための照射窓14が形成され、ベース板11の上方には、開閉可能なカバーケース20が設けられている。
【0017】
検出器13は、一次X線の照射によって試料Sから放出された蛍光X線を受光してそれに応じた検出信号を出力する。その検出信号は、信号処理部32でエネルギー毎(即ち波長毎)に分離して処理され、各エネルギー位置における蛍光X線強度が求められる。補正部33は、着目するエネルギー位置における蛍光X線強度に対して補正処理(詳細は後述する)を施すものであり、定量分析部34は、補正後の蛍光X線強度に基づいて試料中における目的元素の含有量を算出する。
【0018】
分析チャンバ10の内部空間は、ガスボンベ等を含むHeガス供給源15から分析チャンバ10へとヘリウムガスを導入するためのガス流路16と連通しており、該ガス流路16上にはヘリウムガスの流量を制御するための流量制御バルブ17が設けられている。また、分析チャンバ10の内部には、該分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度を測定するためのガスセンサ18が取り付けられている。該ガスセンサ18としては、例えば、気体熱電動式のガスセンサや超音波式のガスセンサ等を好適に用いることができる。
【0019】
制御部31は、上記各部の制御を行うものであり、該制御部31には、キーボード等から成る入力部35と、モニタ等から成る表示部36が接続される。また、制御部31は上記ガスセンサ18によるヘリウムガス濃度の測定結果に基づいて前記流量制御バルブ17の開度をフィードバック制御する。記憶部37は、入力部35を介して入力された測定条件や補正部33における補正処理に利用する補正情報等を記憶するものである。本実施例において、制御部31、信号処理部32、補正部33、定量分析部34、及び記憶部37は、周知のパーソナルコンピュータ等により具現化され、このパーソナルコンピュータにおいて所定の制御プログラムに従った処理を実行させることで各部の動作制御及び信号処理が達成される。なお、これに限らず、制御部31、信号処理部32、補正部33、定量分析部34、及び記憶部37は、専用のハードウェアによって具現化するようにしてもよい。
【0020】
以下、本実施例の蛍光X線分析装置による試料測定時の動作について、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0021】
まず、ユーザが、力バーケース20を開放してベース板11の上に試料Sを載置する。続いて、ユーザがカバーケース20を閉じると共に、入力部35から制御部31へ雰囲気置換の開始を指示する。前記指示を受けた制御部31は、流量制御バルブ17を所定の開度で開放させる(ステップS11)。これにより、Heガス供給源15から供給されるヘリウムガスがガス流路16を通じて分析チャンバ10に流入し、これに押し出されるようにして分析チャンバ10内の大気が図示しない排気口から外部へ排出される。また、前記流量制御バルブ17の開放と同時に、又はそれから所定の時間後に、ヘリウムガス供給のフィードバック制御が開始される(ステップS12)。即ち、分析チャンバ10内に取り付けられたガスセンサ18によって該分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度が測定され、その測定値が制御部31に出力される。そして、該測定値が予め定められた目標値に近づくように制御部31が流量制御バルブ17の開度を調節する。
【0022】
その後、分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度が上昇し、前記ガスセンサ18によるヘリウムガス濃度の測定値が前記目標値に到達すると(ステップS13でYes)、制御部31により、雰囲気置換が完了したと判定される(ステップS14)。
【0023】
以上により雰囲気置換が完了すると、一次X線がX線管12から照射窓14を通して試料Sに照射され、該一次X線の照射を受けて試料Sから発せられた蛍光X線が検出器13により検出される(ステップS15)。なお、上記の雰囲気置換の完了後も、ガスセンサ18によるヘリウムガス濃度の測定、及びその測定値に基づく流量制御バルブ17のフィードバック制御が継続されるため、分析チャンバ10内のヘリウム濃度を目標値に維持した状態で試料Sの蛍光X線測定を行うことができる。また、試料測定時におけるヘリウムガス濃度の測定値が記憶部37に記憶され、後述の補正処理に利用される。
【0024】
以上の蛍光X線測定における検出器13からの出力信号が信号処理部32に入力され、該出力信号から各エネルギー位置における蛍光X線強度が求められる。但し、ここで求められた各エネルギー位置における蛍光X線強度(以下、「蛍光X線強度の測定値」と呼ぶ)は、分析チャンバ10内の雰囲気ガスによるX線減衰の影響を含んでいる。そこで、補正部33において、前記蛍光X線強度の測定値を上記のようなX線減衰の影響を考慮して補正することにより、雰囲気ガスによるX線減衰の影響を除いた蛍光X線強度(以下、「真の蛍光X線強度」と呼ぶ)を算出する(ステップS16)。以下に、補正部33における補正方法の一例を示す。
【0025】
X線が雰囲気ガスを通過する際の減衰率は、X線のエネルギー、光路長、及び雰囲気ガスの組成に依存する。ここで、X線のエネルギーと光路長(即ち、X線管12から試料Sまでの距離及び試料Sから検出器13までの距離)は既知である。また、分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度が分かれば該チャンバ10内の雰囲気ガス(ヘリウムガスと少量の大気)の組成を知ることができる。従って、試料測定時における分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度が分かれば、計算により分析チャンバ10内の雰囲気ガスによるX線減衰率を求めることができる。
【0026】
そこで、本実施例に係る蛍光X線分析装置では、分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度から前記X線減衰率を算出するための計算式を予め補正情報として記憶部37に記憶させておくと共に、上述のように、試料測定の際にガスセンサ18で測定されたヘリウムガス濃度の値を記憶部37に記憶させる。そして、試料測定が完了した時点で、補正部33が、前記計算式とヘリウムガス濃度を記憶部37から読み出し、これらを用いて試料測定時の雰囲気ガスによる一次X線及び蛍光X線の減衰率を算出する。ここで、X線の減衰率αを算出するための計算式としては、例えば次のような式を用いることができる。
α=exp[-(μ/ρ)ρa・t]
μ/ρ:雰囲気ガスの質量吸収係数
ρa:雰囲気ガスの密度
t:距離(光路長に相当)
なお、前記雰囲気ガスの質量吸収係数μ/ρは、ヘリウムガスの質量吸収係数(固有値)と大気の質量吸収係数(固有値)、及び雰囲気ガスにおける両者の濃度比から算出することができる。また、前記雰囲気ガスの密度ρは、ヘリウムガスの密度(固有値)と大気の密度(固有値)、及び雰囲気ガスにおける両者の濃度比から算出することができる。
【0027】
その後、以上で求められたX線減衰率を用いて蛍光X線強度の測定値を補正することにより、測定値を真の蛍光X線強度に変換する。
【0028】
以上で得られた真の蛍光X線強度(即ち、補正後の蛍光X線強度)の値は、定量分析部34に出力され、これに基づいて試料S中の目的元素の濃度が算出される(ステップS17)。
【0029】
以上の通り、本実施例に係る蛍光X線分析装置によれば、分析チャンバ10内にヘリウムガス濃度を測定するためのガスセンサ18を設け、該ガスセンサ18による測定結果が予め定められた目標値となるように流量制御バルブ17の開度を制御する構成としたことにより、従来のようにヘリウムガスを一定流量で流し続けながら測定を行う必要がなくなり、ヘリウムガスの消費量を抑えることができる。また、分析チャンバ10内の雰囲気を全てヘリウムガスに置換しなくても分析に必要な蛍光X線強度が得られる場合には、前記の目標値を低く設定することにより、ヘリウムガスの消費量を一層低減することができる。また、試料の分析時における分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度を記憶部37に記録しておき、これに基づいて補正部33にて蛍光X線強度の測定値を補正することにより、雰囲気ガスによるX線減衰の影響を考慮した正確な測定結果を得ることができ、定量分析の精度を向上させることができる。なお、更に、試料Sの分析時における分析チャンバ10内のヘリウムガス濃度の値を、該試料Sの測定結果と関連付けて記憶部37に記憶、又はプリンタ等に出力させるようにしてもよい。これにより、定量値のトレーサビリティを確保することができる。
【0030】
以上、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明を行ったが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更が許容されるものである。例えば、上記実施例では、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置で、且つ下面照射方式のものを例に説明を行ったが、分析チャンバ内部に波長分散素子と波長分散されたX線を検出する検出器とを設けた波長分散型のものや、試料の上面から一次X線を照射する上面照射方式の蛍光X線分析装置に対しても同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10…分析チャンバ
11…ベース板
12…X線管
13…検出器
14…照射窓
15…Heガス供給源
16…ガス流路
17…流量制御バルブ
18…ガスセンサ
20…カバーケース
31…制御部
32…信号処理部
33…補正部
34…定量分析部
37…記憶部
S…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 試料に一次X線を照射するX線源と、
b) 前記一次X線の照射により前記試料から放出される蛍光X線を検出するX線検出器と、
c) 前記一次X線と蛍光X線の光路を内包する分析チャンバと、
d) 前記分析チャンバ内にヘリウムガスを導入するヘリウムガス導入手段と、
e) 前記分析チャンバ内のヘリウムガス濃度を測定するヘリウムガス濃度測定手段と、
f) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によるヘリウムガス濃度の測定結果に基づき、前記分析チャンバ内のヘリウムガス濃度が予め定められた目標値となるように前記ヘリウムガス導入手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
更に、
g) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によって測定された、前記試料の蛍光X線分析時における分析チャンバ内のヘリウムガス濃度の値に基づいて、前記分析チャンバ内の雰囲気ガスによるX線減衰率を求め、該X線減衰率に基づいて前記蛍光X線分析の結果を補正する補正手段、
を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
更に、
h) 前記ヘリウムガス濃度測定手段によって測定された、前記試料の蛍光X線分析時における分析チャンバ内のヘリウムガス濃度の値を、前記蛍光X線分析の結果と関連付けて記憶又は出力する手段、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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