説明

融雪装置

【課題】装置の運用に必要な電力を大幅に削減できるとともに、環境に対して十分に配慮する。
【解決手段】貯水槽11から供給された融雪用水をピストン15で押圧することにより屋根30まで送水する動力槽14を設け、雪受け部13で、降った雪を受けてヒータで溶かして得られた水を、ピストン15を押し下げるための動力用水として動力槽14へ供給し、動力用水の供給によりピストン15がトリガー位置まで押し下げられた際に、排水口16によりピストン15を押し下げていた動力用水を動力槽14から排水し、給水制御部12により、動力用水の供給によりピストン15がトリガー位置まで押し下げられた際に、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給を開始し、動力槽14への融雪用水の供給に応じたピストン15の上昇に応じて、動力槽14への融雪用水の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根に積もった雪を屋根に登るという危険な行為をせずとも,流水によって融かすことのできる融雪技術に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪量の多い地域では、毎年、建物の屋根に雪が降り積もる。屋根の雪下ろしの作業は、一般的には人の手によってなされているが、転落事故など危険が伴う作業である。そこで、特許文献1に示すような人力を使わない融雪機が提案されている。
特許文献1に示されている融雪機は、油と薪の両炊きの温水をセットし、揚水ポンプを通して屋根上のパイプに送り、パイプの放水噴射用の穴より温水を噴射して屋根に積もった雪を融かす。そして融かして流れた水を軒先に設置した水受桶にて貯場温水器に貯めて、また揚水ポンプにて屋根のパイプに送り、放水するといった循環式の融雪機である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3132687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の融雪機によると、屋根に積もる雪を水および温水を使い、雪の積もるのを事前に流すことができるという利点が認められる。しかしながら、従来の融雪機では、凍結防止のために温水を常時噴出して水を止めない構成であり、揚水ポンプ運転時や温水を保温するためには常時電力が必要とされる。また、油や薪などの燃料を用いて温水を生成するため、少なからずとも煙や二酸化炭素が放出されることになる。このため、装置の運用に多くの電力が必要とされるとともに、環境への配慮が十分ではないという問題点があった。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、装置の運用に必要な電力を大幅に削減できるとともに、環境に対して十分に配慮した融雪装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明にかかる融雪装置は、屋根に放水するための融雪用水を貯水する貯水槽と、貯水槽から供給された融雪用水をピストンで押圧することにより屋根まで送水する動力槽と、動力槽から送水された融雪用水を、放水孔から屋根へ放水することにより、当該屋根に積もった雪を溶かす放水パイプと、降った雪を受けてヒータで溶かして得られた水を、ピストンを押し下げるための動力用水として動力槽へ供給する雪受け部と、動力用水の供給によりピストンが予め定めたトリガー位置より下に下降した場合に、当該ピストンを押し下げていた当該動力用水の排水を開始する排水口と、動力用水の供給によりピストンがトリガー位置より下に下降した場合に、貯水槽から動力槽への融雪用水の供給を開始し、動力用水の排水によりピストンがトリガー位置より上に上昇した場合に、動力槽への融雪用水の供給を停止する給水制御部とを備えている。
【0006】
この際、給水制御部に、上下に移動することにより開閉して、貯水槽から動力槽への融雪用水の供給の開始・停止を行うバルブと、定滑車を介してバルブと連結されて、ピストンがトリガー位置より下に下降した場合に下降してバルブを開き、ピストンがトリガー位置より上に上昇した場合に上昇してバルブを閉じるトリガーとを設けてもよい。
【0007】
また、屋根の端部に設けられた水受け部と、この水受け部で集められた水を貯水槽へ供給する給水パイプとをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屋根に積もった雪を除雪に人の手を使わず、融雪用水を屋根に放水することで雪を融かすことができ、これにより、除雪作業中の転落事故などを防ぐ事ができる。さらに、雪を融かして得られた動力用水の重みを利用して、融雪用水を屋根まで揚水することができ、装置の運用に必要なエネルギーを削減することができる。また、油や薪などの燃料を用いる必要もない。したがって、本実施の形態にかかる融雪装置によれば、従来の融雪機の課題であった消費電力や環境配慮といった点を、大いに改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明にかかる融雪装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明にかかる融雪装置の外観図である。
【図3】動力部の構成を示す説明図である。
【図4】動力部の構成を示す平面図である。
【図5】本発明にかかる融雪装置の揚水動作を示す説明図である。
【図6】本発明にかかる融雪装置のバルブ開閉動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、図1〜図4を参照して、本実施の形態にかかる融雪装置100について説明する。図1は、本発明にかかる融雪装置の構成を示すブロック図である。図2は、本発明にかかる融雪装置の外観図である。図3は、動力部の構成を示す説明図である。図4は、動力部の構成を示す平面図である。
【0011】
この融雪装置100は、建物の屋根30から融雪用水を放水することにより、屋根30に積もった雪を融かす装置である。本実施の形態では、融雪用水を屋根30まで持ち上げるための動力として、雪を融かして得た水からなる動力用水の重みを利用するようにしたものである。
【0012】
融雪装置100には、主な構成として、動力部10、送水パイプ22、放水パイプ24、水受け部25、および給水パイプ26が設けられている。また、必要に応じて、揚水ポンプ21やヒータ23を追加してもよい。
また、動力部10には、主な構成として、貯水槽11、給水制御部12、雪受け部13、および動力槽14、ピストン15、および排水口16が設けられている。また、給水制御部12には、主な構成として、バルブ12A、定滑車12B、トリガー12C、およびワイヤ12Dが設けられている。
【0013】
貯水槽11は、屋根30に放水するための融雪用水を貯水する機能を有している。
動力槽14は、貯水槽11から供給された融雪用水をピストン15で押圧することにより屋根30まで送水する機能を有している。
放水パイプ24は、動力槽14から送水された融雪用水を、放水孔24Aから屋根30へ放水することにより、屋根30に積もった雪を溶かす機能を有している。
雪受け部13は、降った雪を受けてヒータで溶かして得られた水を、ピストン15を押し下げるための動力用水として動力槽14へ供給する機能を有している。
【0014】
排水口16は、動力用水の供給によりピストン15が予め定めたトリガー位置より下に下降した場合に、動力槽14内のピストン15上部から動力槽14の外部へ、ピストン15を押し下げていた動力用水の排水を開始する機能を有している。
給水制御部12は、動力用水の供給によりピストン15がトリガー位置より下に下降した場合に、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給を開始し、動力用水の排水によりピストン15がトリガー位置より上に上昇した場合に、動力槽14への融雪用水の供給を停止する機能を有している。
【0015】
バルブ12Aは、上下に移動することにより開閉して、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給の開始・停止を行う機能を有している。
トリガー12Cは、定滑車12Bを介してバルブ12Aと連結されて、ピストン15がトリガー位置より下に下降した場合に下降してバルブ12Aを開き、ピストン15がトリガー位置より上に上昇した場合に上昇してバルブ12Aを閉じる機能を有している。
【0016】
動力部10は、雪受け部13により雪を融かして得た動力用水の重量を利用して、融雪用水を屋根30まで揚水する。動作前の状態において、動力槽14および貯水槽11内には、予め融雪用水(または融雪剤を溶かした溶液)が入っており、バルブ12Aは閉じている。
動力槽14には、動力槽14の内部を滑らかに上下動するピストン15が設置されており、ヒータを内蔵した雪受け部13によって雪を融かして得た動力用水の重みによりピストン15に荷重がかかると、ピストン15が押し下げられて、ピストン15により密閉された動力槽14内の融雪用水が、送水パイプ22に送り出される仕組みとなっている。
【0017】
このような仕組みで、雪を融かして得た動力用水の重みを利用して揚水する機能が構成されている。これにより、従来の融雪装置のように、融雪時に電力駆動の揚水ポンプを常時用いるのではなく、雪を融かした水の重さといった自然の力を利用することで、常時、電力を用いたポンプを必要としないため、消費電力を削減することができる。
【0018】
また、動力部10は、使用した融雪用水および雪解け水を循環させる機能を有している。この循環機能は、動力部10に設けられた貯水層11と動力槽14の2つの槽と、両槽間に設けられた給水制御部12とから構成される。
給水制御部12には、バルブ12A、定滑車12B、トリガー12C、およびワイヤ12Dが設けられている。
【0019】
この循環機能では、雪を融かして得た動力用水の重みでピストン15が、トリガー位置まで押し下げられた場合、ピストン15の下端がトリガー12Cに当接して、トリガー12Cが押し下げられる。この際、定滑車12Bを介してトリガー12Cとワイヤ12Dで連結されたバルブ12Aが引き上げられる。これにより、貯水槽11に貯められた融雪用水が、動力槽14に供給されるという仕組みとなっている。
【0020】
このとき、貯水槽11から動力槽14へ流れる融雪用水の抵抗を受けて、バルブ12Aが自重により下降して速度が低下する。これにより、ピストン15の下端からトリガー12Cが離れ、トリガー位置の上昇に遅れてトリガー12Cが上昇し、トリガー12Cがトリガー位置まで上昇した時点でバルブ12Aが閉じて、動力槽14への融雪用水の供給が停止される。
【0021】
この遅れにより、十分な量の融雪用水が動力槽14へ供給される。なお、トリガー12Cが上昇して定滑車12Bが元に戻る方向へ回転する動作に抵抗をかけるなどの工夫を施して、バルブ12Aが閉じるタイミングを、ピストン15の上昇にくらべて遅らせるようにしてもよい。
【0022】
また、動力部10に揚水ポンプ21を設けて、屋根30に積雪する前から揚水ポンプ21を利用して、動力槽14の融雪用水を屋根30から放水することで、事前に屋根30への積雪を軽減することができる。この揚水ポンプ21をピストン15による揚水の補助として使用してもよい。揚水ポンプ21の能力は、動力槽14の容積によって決まる。また、動力部10にヒータ23を設けて、屋根30から放水する融雪用水を温めることにより、融雪効果を高めるようにしてもよい。動力部10のうち、これら揚水ポンプ21、ヒータ23、これら電気機器への電源を供給する電源装置を収納する収納部17については、浸水を避けるため、その上部が密閉されている。
【0023】
また、融雪装置100には、送水パイプ22、放水パイプ24、給水パイプ26の3種類のパイプが設置されている。これらの機能は以下の通りである。
送水パイプ22は、動力槽14から送り出された融雪用水を、屋根30に設置された放水パイプ24に供給する機能を有している。放水パイプ24は、屋根30の上部に設置されて、屋根30に向けて放水孔24Aが空けられており、送水パイプ22から供給された融雪用水を屋根30に放水する機能を有している。給水パイプ26は、屋根30を流れてきた融雪用水または雪解け水を、屋根30の軒先に設置した水受け部25を通じて受け取り、貯水槽11へ供給する機能を有している。これら各パイプには逆流防止弁を設置し、凍結防止のために断熱材を巻きつけるなどの対策を施してもよい。
【0024】
[揚水の原理]
次に、本実施の形態かかる融雪装置100の揚水の原理について説明する。
融雪装置100の動力は、ピストン15が融雪用水を押圧する押圧面積Spと送水パイプ22の断面積Stの比で決まる。ピストン15にかかる力をFuとし、ピストン15による力をFpとし、送水パイプ22にかかる力をFtとすると、パスカルの原理より、次の式(1)が成立する。
Fp/Ft=Sp/St …(1)
【0025】
この式(1)において、Fp=Fuとすると、式(1)は次の式(2)のように表される。
Fu/Ft=Sp/St …(2)
【0026】
一方、水の密度をρとし、ピストン15上部の動力用水が溜まる部分の底面積をSuとし、ピストン15上部上に溜まった動力用水の水位をHuとし、送水パイプ22内の水の水位をHtとし、重力加速度をgとすると、ピストン15にかかる力Fuは、次の式(3)で求められ、送水パイプ22にかかる力Ftは、次の式(4)で求められる。
Fu=ρ×Su×Hu×g …(3)
Ft=ρ×St×Ht×g …(4)
【0027】
したがって、これら式(3)および式(4)を式(2)に代入すると、ピストン15上部上に溜まった動力用水の水位Huは、次の式(5)で求められる。
Hu=Sp/Su×Ht …(5)
【0028】
この式(5)において、ピストン15上部の動力用水が溜まる部分の底面積Su:押圧面積SpをX:1とし、ピストン15上部上に溜まった動力用水の水位Ht=5mとすると、Hu=5/X[m]となる。
【0029】
ここで、例えば、底面積Su=50×50cm2で押圧面積Sp=50cm2に相当するX=50の場合、Ht=10cmとなる。この場合、動力用水の体積は25000cm3となるため、雪の密度を水の半分とすると、これは雪の体積の50000cm3に相当する。この雪の体積は、雪受け部13の面積が100×100cm2である場合、積雪量5cmに相当する。したがって、この例では、5cm程度の積雪量があれば、融雪用水を屋根30へ揚水することができる。なお、雪受け部13の雪受け面積の大きさを調整することで、融雪用水の揚水に必要な積雪量を調整することができる。
【0030】
本実施の形態にかかる融雪装置100と従来装置との違いは、従来装置は電動ポンプのみで屋根に設置したパイプまで水を汲み上げていたのに対し、本実施の形態にかかる融雪装置100では、主な動力として雪を融かして得られた動力用水の重みを利用する点である。これにより、電動ポンプを常時稼動させる必要はなくなり、無駄な電力消費を抑えることができる。
【0031】
ただし、揚水ポンプ21をピストン15による放水の補助として設置することも可能である。雪が降る前に揚水ポンプ21を起動させておくことで、より効果的な融雪が見込めると考えられる。
【0032】
また、水循環型の融雪装置の課題となる凍結防止に関しては、ヒータを使った温水による対応だけではなく、予め動力槽14や貯水槽11内の融雪用水に、融雪剤(塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなど)を溶かして凝固点を下げておくことで、凍結を防ぐようにしてもよい。融雪剤の利用により、凍結防止のために常時水を循環させるポンプの常時運転の必要がなくなり、温水を常時保温するといったヒータの過度な使用を避けることができる。これにより、消費電力を削減することが可能になる。
【0033】
ただし、さらに厳しい気象条件で、融雪剤を投与しても凍結の恐れが見込まれる場合にはヒータ23を使用して凍結を防止することも可能である。また、水のみでの融雪が見込めない場合は、融雪用水として温水を用いる。温水を生成する際、油や薪を用いて排煙を放出するような環境負荷の高い方法ではなく、電気で駆動するヒータを用いて温水を生成するといった環境負荷の低い方法を採用する点が従来装置と異なる点である。
上記の凍結対策のほかにも、送水パイプ22、放水パイプ24、給水パイプ26に、断熱材を巻きつけるなどの対策を施し、外気からの影響を緩和してもよい。
【0034】
[揚水動作]
次に、図5を参照して、本実施の形態にかかる融雪装置100の揚水動作について説明する。図5は、本発明にかかる融雪装置の揚水動作を示す説明図である。
【0035】
動力部10には、送水パイプ22、放水パイプ24、給水パイプ26が接続されている。それぞれのパイプには逆支弁を設置し、水の逆流を防止するようにしてもよい。放水パイプ24には、放水孔24Aが空けられており、動力部11から送り出された融雪用水が、送水パイプ22と放水パイプ24を通り、放水孔24Aから屋根30に対して放水される。
【0036】
屋根30に放水された融雪用水は、屋根30に積もった雪を融かし、水受け部25に到達する。水受け部25から給水パイプ26に向けて、わずかな傾きが設けられており、水受け部25に到達した融雪用水や雪解け水は、貯水槽11へ導かれる。貯水槽11の大きさは、雪解け水による水量の増加を考慮して、動力槽14よりも大きめに設計する。
【0037】
図5(a)に示すように、降雪が始まって、雪受け部13に雪が積もり、雪受け部13に溜まった雪が、内蔵されたヒータによって融かされて動力用水となり、ピストン15上部に溜まって荷重がかかる。
ピストン15に十分な荷重がかかると、ピストン15は押し下げられ、上部に溜まった動力用水の増加とともにピストン15は下降する。動力槽14内に予め満たしていた融雪用水は、ピストン15により押し下げされ、押し下げられた分だけ送水パイプ22へと送りこまれ、送水パイプ22内の水位が上昇する。
【0038】
この後、図5(b)に示すように、ピストン15の下降が続くと、送水パイプ22内は融雪用水で十分満たされ、その水位は屋根30に設置された放水パイプ24まで達する。したがって、放水パイプ24に融雪用水が次第に満たされると、放水パイプ24に空けられた放水孔24Aから融雪用水が屋根30上に向けて放水される。
この放水により、屋根30に降り積もった雪は融かされて、放水された融雪用水と共に軒先に設置された水受け部25へたどり着き、給水パイプ26へと流れ込む。これら雪解け水および融雪用水は、給水パイプ26を介して貯水槽11へ溜められる。
【0039】
次に、図5(c)に示すように、ピストン15がトリガー位置より下に下降した場合、貯水槽11と動力槽14の間に設置されているバルブ12Aが開くため、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給が開始される。
また、ピストン15がトリガー位置より下に下降した場合、排水口16よりピストン15の上部に溜まった動力用水の排水も開始される。
【0040】
したがって、図5(d)に示すように、排水口16から動力槽14外部への動力用水の排水により、ピストン15を下方に押下していた動力用水の重みが減っていくため、ピストン15の浮力と動力用水の重みとが釣り合う位置まで、ピストン15が下降する。
この後、排水により動力用水の重みがさらに減少するため、ピストン15が自身の浮力により上昇を開始する。また、動力槽14内の液面も、貯水槽11からの融雪用水の供給により、貯水槽11と動力槽14内の液面が釣り合う位置まで上昇する。
【0041】
このようにして、ピストン15の上昇に連れてトリガ12Cも上昇し、ピストン15がトリガー位置より上に上昇した場合に、バルブ12Aが閉じられるため、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給が停止される。したがって、ピストン15上部に十分な動力用水が溜まれば、前述した図5(a)の状態となって、再び融雪用水の揚水および放水を行う過程へと戻ることになる。
【0042】
[バルブ開閉動作]
次に、図6を参照して、本実施の形態にかかる融雪装置100のバルブ開閉動作について説明する。図6は、本発明にかかる融雪装置のバルブ開閉動作を示す説明図である。
【0043】
図6に示すように、貯水槽11と動力槽14との間には、バルブ12Aが設置されており、動力槽14内のピストン15の上下動と連動して、バルブ12Aが開閉する仕組みとなっている。このバルブ開閉の仕組みには滑車の原理を利用する。
定滑車12Bに懸架されたワイヤ12Dには、その両端にバルブ12Aとトリガー12Cが取り付けられている。バルブ12Aの重さはトリガー12Cよりも重いため、トリガー12Cに対してピストン15から外力がかからない状態では、バルブ12Aは閉じた状態を保つ。
【0044】
図6(a)に示すように、まず雪を融かして得られた動力用水の重みで下降してきたピストン15が、動力槽14内のトリガー位置まで降下すると、ピストン15がトリガー12Cを押し下げていく。
この後、図6(b)に示すように、トリガー12Cとバルブ12Aとは、定滑車12Bを介するワイヤ12Dで連動しているため、トリガー12Cがピストン15により下降するに従って、滑車の原理により、バルブ12Aが上昇し、バルブ12Aが開かれる。
【0045】
このようにして、図6(c)に示すように、バルブ12Aが開くと、貯水槽11に貯められた融雪用水が動力槽14へと流れ込む。このバルブ開放時に、動力槽14から貯水槽11への水の逆流を防止するために、バルブ12Cに逆支弁を設置してもよい。また、ピストン15がトリガー位置より下に下降した状態で、ピストン15上部と動力槽14の外部とを連通させる排水口16が、動力槽14の壁部に設けられている。
【0046】
したがって、ピストン15がトリガー位置より下に下降すると、ピストン15上部の動力用水が、排水口16から外部へ排水される。これにより、ピストン15にかかる動力用水の重さが減少するとともに、動力槽14へ融雪用水が流入することで、押し下げられていたピストン15が、自身の浮力により上昇を開始し、貯水槽11と動力槽14の水位が釣り合う位置まで押し上げられる。
【0047】
ここで、ピストン15は、水(動力用水)より軽く、浮力を伴う軽い素材(プラスチックなど)が使用されているため、動力槽14内の水位上昇による浮力を受けて、上昇しやすい状態となる。
これに対して、バルブ12Aは自重により下降して閉じる方向へ移動するものの、貯水槽11から動力槽14へ融雪用水が流れているため、この融雪用水の抵抗を受けている。このため、バルブ12Aは、ピストン15が上昇する速度よりも、ゆっくりと下降して、元の閉鎖位置に戻るものとなる。
【0048】
このバルブ閉鎖の遅れにより、貯水槽11から動力槽14へ、十分な量の融雪用水が供給される。この際、定滑車12Bにバルブ12Aが閉じる方向に、ばねなどを用いて抵抗を掛けておくことにより、バルブ12Aの閉鎖を遅らせることもできる。
【0049】
この後、図6(d)に示すように、ピストン15が釣り合いの位置まで上昇するとともに、バルブ12Aが閉鎖した後、再びピストン15に雪受け部13から動力用水が供給されて荷重がかかり、ピストン15の下降が始まり、図6(a)の放水過程に移ることになる。
【0050】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、屋根30に放水するための融雪用水を貯水する貯水槽11と、貯水槽11から供給された融雪用水をピストン15で押圧することにより屋根30まで送水する動力槽14とを設け、放水パイプ24により、動力槽14から送水された融雪用水を、放水孔24Aから屋根30へ放水することにより、屋根30に積もった雪を溶かすようにしたものである。
【0051】
また、この際、雪受け部13で、降った雪を受けてヒータで溶かして得られた水を、ピストン15を押し下げるための動力用水として動力槽14へ供給し、動力用水の供給によりピストン15が予め定めたトリガー位置より下に下降した場合に、排水口16によりピストン15を押し下げていた動力用水を動力槽14から排水し、給水制御部12により、動力用水の供給によりピストン15が予め定めたトリガー位置より下に下降した場合に、貯水槽11から動力槽14への融雪用水の供給を開始し、動力用水の排水によりピストン15が予め定めたトリガー位置より上に上降した場合に、動力槽14への融雪用水の供給を停止するようにしたものである。
【0052】
これにより、屋根30に積もった雪を除雪に人の手を使わず、融雪用水を屋根30に放水することで雪を融かすことができ、これにより、除雪作業中の転落事故などを防ぐ事ができる。さらに、雪を融かして得られた動力用水の重みを利用して、融雪用水を屋根30まで揚水することができ、装置の運用に必要なエネルギーを削減することができる。また、油や薪などの燃料を用いる必要もない。したがって、本実施の形態にかかる融雪装置100によれば、従来の融雪機の課題であった消費電力や環境配慮といった点を、大いに改善することができる。
【0053】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0054】
100…融雪装置、10…動力部、11…貯水槽、12…給水制御部、12A…バルブ、12B…滑車、12C…トリガー、12D…ワイヤ、13…雪受け部、14…動力槽、15…ピストン、16…排水口、17…収納部、21…揚水ポンプ、22…送水パイプ、23…ヒータ、24…放水パイプ、24A…放水孔、25…水受け部、26…給水パイプ、30…屋根。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根に放水するための融雪用水を貯水する貯水槽と、
貯水槽から供給された前記融雪用水をピストンで押圧することにより前記屋根まで送水する動力槽と、
前記動力槽から送水された前記融雪用水を、放水孔から前記屋根へ放水することにより、当該屋根に積もった雪を溶かす放水パイプと、
降った雪を受けてヒータで溶かして得られた水を、前記ピストンを押し下げるための動力用水として前記動力槽へ供給する雪受け部と、
前記動力用水の供給により前記ピストンが予め定めたトリガー位置より下に下降した場合に、当該ピストンを押し下げていた当該動力用水の排水を開始する排水口と、
前記動力用水の供給により前記ピストンが前記トリガー位置より下に下降した場合に、前記貯水槽から前記動力槽への前記融雪用水の供給を開始し、前記動力用水の排水により前記ピストンが前記トリガー位置より上に上昇した場合に、前記動力槽への前記融雪用水の供給を停止する給水制御部と
を備えることを特徴とする融雪装置。
【請求項2】
請求項1に記載の融雪装置において、
前記給水制御部は、
上下に移動することにより開閉して、前記貯水槽から前記動力槽への前記融雪用水の供給の開始・停止を行うバルブと、
定滑車を介して前記バルブと連結されて、前記ピストンが前記トリガー位置より下に下降した場合に下降して前記バルブを開き、前記ピストンが前記トリガー位置より上に上昇した場合に上昇して前記バルブを閉じるトリガーと
を有することを特徴とする融雪装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の融雪装置において、
前記屋根の端部に設けられた水受け部と、
この水受け部で集められた水を前記貯水槽へ供給する給水パイプと
をさらに備えることを特徴とする融雪装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23875(P2013−23875A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158708(P2011−158708)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】