説明

螺合締結構造

【課題】コストアップを招くことなく座面の陥没を適切に防止することができる螺合締結構造を提供すること。
【解決手段】本発明による螺合締結構造1は、螺合体2と螺合体2が螺合される被螺合体3との螺合により締結対象に締結される被締結体4の螺合体2の頭部2aに対向する対向面4aに被締結体4よりも限界面圧の高い材料の膜5を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両又は家庭用、業務用の機器や設備において、機器及び部品相互間の締結等に適用されて好適な螺合締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
機器や部品等の被締結部材を締結対象に固定する用途に適用される螺合締結構造としては、例えば特許文献1に記載されたようなものがある。この螺合締結構造においては、ボルトのナットへの螺合後において、ボルトの軸力により平座金が押圧されることによって被締結部材の座面が陥没することを抑制することを目的として、皿バネ座金を追加している。この皿バネ座金が軸力により徐々に偏平となることにより作業者に対して締め付けトルクの増大を知らしめて、ボルト締結に用いられる締め付けトルクを適正化して、陥没を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−187911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような螺合締結構造においては、平座金に加えて皿バネ座金を追加する必要が生じて、部品点数の増大と重量増大を招きコストアップを招く。これとともに、ボルト締結に供せられる締め付けトルクが、作業者による皿バネ座金の変形の確認が失念された場合には過大となり、軸力による座面の陥没を依然として防止できず、作業者の確認作業の増大に伴う作業工数の増大によるコストアップを招く。従って、コストアップを招くことなく座面の陥没を適切に防止することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、コストアップを招くことなく座面の陥没を適切に防止することができる螺合締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するため、本発明に係る螺合締結構造は、
螺合体と当該螺合体が螺合される被螺合体との螺合により締結対象に締結される被締結体の前記螺合体の頭部に対向する対向面に前記被締結体よりも限界面圧の高い材料の膜を含むことを特徴とする。
【0007】
前記螺合締結構造によれば、前記被締結体の材質の変更や確認作業を追加を伴わず、かつ、平座金や皿バネ座金等の部品を追加することなく、前記限界面圧の高い材料の膜により、前記螺合体と前記被螺合体の螺合に伴う軸力を支持して、前記被締結体の座面が前記螺合体の前記頭部の前記軸力による押し付け力により陥没してしまうことを防止することができる。
【0008】
ここで、前記膜は適宜の成膜方法により形成することが可能であり、例えばコールドスプレーにより形成されてもよく、その他の成膜方法により形成されてもよい。
【0009】
さらに、前記螺合締結構造において、
前記被螺合体は前記締結対象に予め接合されることを特徴としてもよく、予め一体的に含まれることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、部品点数や作業工数の増大に伴うコストアップを招くことなく座面の陥没を適切に防止することができる螺合締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る螺合締結構造1の一実施形態を示す模式図である。
【図2】従来の螺合締結構造を示す模式図である。
【図3】本発明に係る螺合締結構造1の成膜方法の一実施形態を示す模式図である。
【図4】従来の螺合締結構造における締結態様を示す模式図である。
【図5】本発明に係る螺合締結構造1における締結態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0013】
図1に示すように、本実施例の螺合締結構造1は、ボルト2(螺合体)と、ナット3(被螺合体:締結対象)と、アルミ板4と、SUS膜5とを含む。ボルト2が含む雄ネジ部2aはナット3が含む雌ネジ部3aに対応した形状を有しており、ボルト2は、ナット3に螺合可能とされる。
【0014】
本実施例1においては、被螺合体であるナット3は締結対象を兼ねており、アルミ板4はボルト2とナット3との螺合によりナット3に締結される。ここでは、ナット3はアルミ板4の裏面側、つまり、図1中下面側に配置され、ボルト2の頭部2bはアルミ板4の表面側、つまり、図1中上面側に配置される。なお、図1においては、図示の便宜上、雄ネジ部2aに対して雌ネジ部3aを径方向に拡大して示し、これに合わせて、孔部4aも径方向に拡大して径方向の隙間を誇張して示している。
【0015】
アルミ板4は背面側のナット3の含む雌ネジ部3aに対して、ボルト2の雄ネジ部2aを挿通可能な孔部4aを含み、孔部4aの外周側には円環状にボルト2の頭部2bに対向する対向面4bが形成され、この対向面4bに例えばコールドスプレーにより、被締結体であるアルミ板4を構成するAl(例えばA1200)よりも限界面圧の高い材料のSUS膜5(例えばSUS304)が予め形成されている。なお、限界面圧とは、それ以上の面圧が表面に作用した場合に、軸力を表面が支持できずにボルト2の頭部2bがアルミ板4の表面に食い込む所謂陥没が発生する面圧を指す。
【0016】
ここで、被締結体であるアルミ板4の表面にSUS膜5を形成する手法としては、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)、印刷、溶射、コールドスプレー等の種々の方法を用いることができる。
【0017】
上述した種々の方法の中でもコールドスプレーは、原料粉末の融点以下に加熱された搬送ガスにここではSUSである原料粉末を混合させて混合気を生成し、この混合気を例えば音速以上の高速に加速させてノズルにより噴射する工法である。コールドスプレーは、基材よりも硬質で限界面圧の高い皮膜を運動エネルギーによる硬度増大効果により得やすいため、本実施例のSUS膜5を構成するにあたりより有利な手法である。
【0018】
ここで、アルミ板4の表面にSUS膜5をコールドスプレーにより成膜する具体的手順は以下の通りである。図3上段に示すように、アルミ板4のナット3が位置しない表面側にノズルDを配置し、ノズルDの噴射中心をアルミ板4の孔部4aの中心に一致させ、かつ、孔部4aを適宜の手段によりマスキングした上で、図3中段に示すように混合気を噴射して、図3下段に示すようにSUS膜5をアルミ板4の孔部4aの外周側に成膜する。なお噴射速度は求められる表面祖度と基材との接合性を考慮して適宜設定される。この成膜により、例えば限界面圧が140MPaであるアルミ板4に対して、SUS膜5を含むアルミ板4全体の限界面圧は314MPaとして、成膜前に比べて成膜後においては約2.24倍程度の軸力を支持可能なものとすることができる。
【0019】
本実施例の螺合締結構造1においては、上述したようにアルミ板4の表面側の孔部4aの周囲に円環状のSUS膜5を予め形成しておくことにより、SUS膜5を含まない図2に示す締結構造において図4に示すような締結を行った場合に比べて、図5に示す締結にあたり以下のような有利な作用効果を得ることができる。
【0020】
すなわち、図4に示すように被締結体であるアルミ板4にSUS膜5を成膜しない状態で、ボルト2をナット3に螺合して、ナット3に対してアルミ板4を締結する過程においては、図4中段に示す締結初期においてまず、ボルト2の頭部2bがアルミ板4の表面に接触する。その後、さらに、ボルト2をナット3に対して螺合すると、頭部2bの底面がアルミ板4の表面に与える圧力がアルミ板4の限界面圧である140MPaを超えると、アルミ板4の表面はボルト2とナット3の螺合に伴う軸力を支持できず、頭部2bがアルミ板4の表面に食い込む陥没が発生する。
【0021】
ところが、図5に示すように、アルミ板4の孔部4aの外周側に円環状にSUS膜5を成膜しておくことにより、図5中段に示す締結初期において、ボルト2の頭部2bがアルミ板4の表面に接触した後、さらに、ボルト2をナット3に対して螺合しても以下のように陥没を防止できる。つまり、頭部2bの底面がアルミ板4の表面に与える圧力がアルミ板4の限界面圧である140MPaを超えても、SUS膜5とアルミ板4を合わせた限界面圧314MPaを超えない範囲においては、アルミ板4の表面はボルト2とナット3の螺合に伴う軸力を支持することができるため、頭部2bがアルミ板4の表面に食い込む陥没の発生を防止することができる。
【0022】
すなわち、アルミ板4にアルミ板4よりも限界面圧の高いSUS膜5を予め形成しておくことによって、陥没の発生をより確実に防止することができる。これとともに、本実施例の螺合締結構造1においては、従来技術において陥没防止に用いられる平座金を省略することができる。このことにより部品点数の削減と接合面の削減を実現することができる。加えて、このSUS膜5は一般に10〜500μm程度のμmのオーダーの厚みとすることができることから、平座金に比べて締結時の陥没を防止するにあたって必要な部品の体積を縮小することができる。
【0023】
つまり、本実施例の螺合締結構造1においては、陥没防止にあたり必要な部品の体積を縮小した上で、ボルト2をナット3に螺合した場合に発生する軸力に対してアルミ板4の陥没を生じさせないために必要な限界面厚を有するSUS膜5の厚みを予め設定した上で、螺合締結構造1を構成することができる。
【0024】
特に、平座金つまりワッシャは一つの独立した部品であり部品単独の強度を具備する必要があり、アルミ板4に対して上述した限界面圧の向上に当たって必要な厚み及び/又は径方向寸法よりも一般的に大きく構成する必要性がある。このことから、ボルトをナットに螺合させた後の締結構造全体の厚み及び/又は径方向寸法も必然的に大きくする必要が生じるが、本実施例においては、SUS膜5の厚みは上述した陥没を防止するにあたり必要な限界面圧の向上に寄与する厚み及び/又は径方向寸法のみとすれば必要十分であるため、螺合締結構造1全体の厚み及び/又は径方向寸法を低減することができる。
【0025】
さらに、皿バネ座金を用いてその偏平の度合により作業者が締め付けトルクを管理して不必要な軸力を低減することに比べて、作業者の目視による不確実性を排除でき、かつ、作業者の目視による確認作業そのものをなくすことができる。また、コールドスプレーによる成膜では被締結体を構成する基材そのものの強度変化を招きにくいことから、例えば熱間加工により表面を硬化させることに比べて、被締結体の材質の選定の自由度を高めることができる。
【0026】
以上のことにより、本実施例の螺合締結構造1によれば、部品点数を削減し特には厚み及び/又は径方向寸法を削減して、全体としての重量を軽減してコストダウンを図り、かつ、確認作業を省略した上で、ボルト2の頭部2bが当接する座面の陥没を防止することができる。
【0027】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0028】
例えば、上述した実施例においては、被締結体をアルミ板とし、膜をSUS膜としているが、基材と膜の材質の組合せはこれに限られるものでなく、必要とされる限界面圧の向上度合に応じて適宜選択することができる。例えば、膜に用いる原材料はニッケルとすることもできる。また、限界面圧の向上度合についても適宜選択することができる。
【0029】
また、上述した実施例においては、締結対象をナット3としているが、ナット3を例えばウェルドナットとし、アルミ板や鋼板に予め溶接等の手段により一体化した状態で、ボルト2をナット3に螺合させる形態とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の螺合締結構造においては、軸力低減のための部品を追加することによる部品点数の増大や確認作業を含む作業工数の増大に伴うコストアップを招くことなく座面の陥没を適切に防止することができる。つまり、本発明は、比較的軽微な変更により、所望の効果を得ることができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に用いられる螺合締結構造はもとより家庭用、オフィス用、産業上の各種機器や設備等に適用して有益なものである。
【符号の説明】
【0031】
1 螺合締結構造
2 ボルト(螺合体)
2a 雄ネジ部
2b 頭部
3 ナット(被螺合体:締結対象)
3a 雌ネジ部
4 アルミ板(被締結体)
4a 孔部
4b 対向面
5 SUS膜(膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺合体と当該螺合体が螺合される被螺合体との螺合により締結対象に締結される被締結体の前記螺合体の頭部に対向する対向面に前記被締結体よりも限界面圧の高い材料の膜を含むことを特徴とする螺合締結構造。
【請求項2】
前記膜はコールドスプレーにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の螺合締結構造。
【請求項3】
前記被螺合体は前記締結対象に予め接合される又は一体的に含まれることを特徴とする請求項2に記載の螺合締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87900(P2012−87900A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236174(P2010−236174)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】