説明

蟻酸の製法

本発明は、二酸化炭素を周期系の第8、9又は10族からの元素を含有する触媒、第三級アミン(I)及び極性溶剤の存在で圧力0.2〜30MPa(絶対)及び温度20〜200℃で水素添加することにより二つの液相を生成し、二つの液相を分離するが、その際、第三級アミンが富化された液相(B)を水素添加反応器に戻し、蟻酸/アミン付加生成物を蟻酸/アミン付加生成物及び極性溶剤が富化された液相(A)を蒸留ユニット中で遊離蟻酸及び遊離第三級アミンに分解し、分解で遊離した第三級アミン並びに極性溶剤を水素添加反応器に戻すことによる、蟻酸の製法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期系の第8、9又は10族からの元素を含有する触媒、第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)の存在で圧力0.2〜30MPa(絶対)及び温度20〜200℃で二酸化炭素の水素添加により二つの液相を生成し、蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化され液相(A)をもう一つの液相(B)から分離し、液相(B)を水素添加反応器に戻すことによる、蟻酸の製法に関する。
【0002】
蟻酸及び第三アミノから成る付加生成物は、熱により遊離蟻酸及び第三級アミンに分解することができ、従って蟻酸の製造で中間生成物として役立つ。蟻酸は重要で多方面に亘って使用可能な生成物である。例えば飼料製造で酸性化するために、保存剤として、殺菌剤として、繊維及び皮革工業における助剤として、その塩との混合物として飛行機及び離着陸滑走路の氷結防止用に並びに化学工業における合成成分として使用される。
【0003】
蟻酸及び第三級アミンから成る前記付加生成物は、種々の方法で、例えば(i)第三級アミンと蟻酸の直接反応によって、(ii)蟻酸メチルを第三級アミンの存在で蟻酸に加水分解し又は引き続き加水分解生成物を第三級アミンで抽出することによって又は(iii)一酸化炭素の接触水和又は二酸化炭素を第三級アミンの存在で水素添加して蟻酸にすることによって、製造することができる。最後に挙げた二酸化炭素の接触水素添加の方法は、二酸化炭素が大量に使用可能であり、その起源に関してフレキシブルであるという特別な利点を有する。
【0004】
WO2008/116799には、溶液に懸濁させたか又は均一に溶解させたVIII副族(8、9、10族)の遷移金属を含有する触媒、少なくとも1個のヒドロキシル基を有する第三級アミン及び極性溶剤の存在で二酸化炭素を水素添加して蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物にする方法が開示されている。第三級アミン中のヒドロキシル基によってその他は通常使用されるトリエチルアミンに比して高められた二酸化炭素溶解性が得られる。有利な均一系触媒としては、一座の燐ベースの配位子Lを有するRuH及び二座の燐ベースの配位子LLを有するRuH(LL)、特に有利にはRuH[P(C)]が挙げられる。極性溶剤としては、沸点が常圧で蟻酸の沸点より少なくとも5℃上であるアルコール、エーテル、スルホラン、ジメチルスルホキシド及びアミドが挙げられる。有利に使用される第三級アミンも蟻酸より上の沸点を有する。相分離が起こらないので、全反応搬出物の精製は蒸留によって、場合によって触媒を前以て分離した後に、行うが、その際生成した蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物は熱によって分解され、遊離した蟻酸が塔頂生成物として得られる。第三級アミン、極性溶剤及び場合により触媒を含む塔底生成物は水素添加工程に戻される。
【0005】
この方法の欠点は、場合により前に接続した特別な均一系触媒の分離後に、別の方法工程、例えば抽出−、吸着−又は限外濾過によって、全液体反応搬出物を熱によって分解及び蒸留するための装置へ供給することである。その結果熱分離及び蒸留用の装置は、高い液体処理量及び特別な分離特性に関してもより大規模かつ複雑になり、これは特に設備費用(例えばエンジニアリングインプット、材料、所要面積)にも表れる。更により高い液体処理量によって高いエネルギー使用量となる。
【0006】
しかし二酸化炭素を接触水素添加して蟻酸にするための基本作業は、既に1970年代及び1980年代に行われていた。EP0095321A、EP0151510A及びEP0181078Aの特許出願のBP Chemicals Ltd.の方法はその結果と考えられる。この三つの全ての文書には、VIII副族(8、9、10族)の遷移金属を含有する均一系触媒、第三級アミン及び極性溶剤の存在で二酸化炭素を水素添加して蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物にすることが記載されている。有利な均一系触媒としては、EP0095321A及びEP0181078Aでは各々ルテニウムをベースとするカルボニル−、ハロゲニド−及び/又はトリフェニルホスフィン含有の錯体触媒及びEP0151510Aではロジウム/ホスフィン錯体が挙げられている。有利な第三級アミンは、C−C10−トリアルキルアミン、特に短鎖のC−C−トリアルキルアミン並びに環状及び/又は架橋アミン、例えば1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピリジン又はピコリンである。水素添加は6MPa(60バール)までの二酸化炭素分圧、25MPa(250バール)までの水素分圧及び約室温から200℃までの温度で行う。
【0007】
EP0095321A及びEP0151510Aには、極性溶剤としてアルコールの使用が教示されている。しかし第一アルコールは蟻酸エステル(有機蟻酸塩)を生成し易いので、第二アルコール、特にイソプロパノールが有利である。更に水の存在が有利であると記載されている。EP0095321Aの実施例によれば、反応搬出物の精製を直接後続の二段階蒸留によって行うが、その際第1工程で低沸点成分アルコール、水、第三級アミンを分離し、第2工程で真空条件下に蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物を塔頂から分離する。EP0151510Aは、同じく蒸留による精製を教示しているが、しかしEP0126524Aを参照にして、遊離蟻酸の製造用の後続の熱分解を容易にするか又は可能にするために、その熱分解前に蒸留により分離される付加生成物中の第三級アミンをより弱く、揮発性の僅かな窒素塩基に換える。
【0008】
EP0181078Aは、(i)均一系触媒は極性溶剤に可溶性でなければならない;(ii)極性溶剤は水素添加に不利な影響を与えてはならない;及び(iii)蟻酸及び第三級アミンから成る生成された付加生成物が極性溶剤から容易に分離可能でなければならないという同時に満たすべきである三つの主要基準による極性溶剤の適切な選択を教示している。
【0009】
特に好適な極性溶剤としては、種々のグリコール及びフェニルプロパノールが挙げられる。
【0010】
EP0181078Aの教示 による反応搬出物の精製は、先ず蒸発器中で気体成分(特に反応しなかった出発物質である水素及び二酸化炭素)を塔頂で分離し、極性溶剤に溶けた均一系触媒を塔底部で分離し、水素添加工程に戻すことによって行う。蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物、遊離第三級アミン及び場合により水を含有する残留液相から次いで蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物を分離し、遊離第三級アミン及び場合により水を含有する液相の残分を水素添加工程に戻す。分離は蒸留又は二相系の相分離(デカンテーション)によって行うことができる。
【0011】
EP0181078Aのもう一つの主要な教示は、遊離蟻酸を製造するための後続の熱分解を容易にするか又は可能にするために、分離した付加生成物中の第三級アミンを熱分解前に引き続いて、より弱い、揮発性のより僅かな窒素塩基と必ず交換することである。特に好適なより弱い窒素塩基としては、イミダゾール誘導体、例えば1−n−ブチルイミダゾールが挙げられる。
【0012】
EP0181078Aの方法の欠点は、(i)気体成分並びに均一系触媒及び極性溶剤の蒸発器中での分離及び水素添加工程への返送;(ii)蒸発塔又は相分離器中の蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物の分離及び残留液体流の水素添加工程への返送;(iii)蒸留塔を載せた反応釜中における蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物中の第三級アミンのより弱く揮発性のより僅かな窒素塩基との交換及び遊離した第三級アミンの水素添加工程への返送;及び(iv)蟻酸及びより弱い窒素塩基から成る付加生成物の熱による分離及び遊離したより弱い窒素塩基の塩基交換工程への返送による非常に費用のかかる4段階の反応搬出物の精製である。
【0013】
EP0181078Aの方法並びにEP0095321A及びEP0151510Aの方法のもう一つの主な欠点は、蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物が蒸発器中で精製する際に均一系触媒の存在で部分的に再び二酸化炭素及び水素に再分解することである。従ってEP0329337Aではこの問題の解決策として、均一系触媒を可逆的に抑制する分解抑制剤の添加を提案している。有利な分解抑制剤としては一酸化炭素及び酸化剤が挙げられる。しかしこの欠点は、全方法に更に物質を導入し、抑制された均一系触媒を再び使用する前に再度活性化する必要があることである。
【0014】
EP0357243Aも、蒸発器中の反応搬出物の共同の精製によってEP0181078Aの方法の蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物の部分的な再分解の欠点に取り組んでいる。EP0357243Aで提案された方法は、蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物への二酸化炭素の接触水素添加で、VIII副族(8、9、10族)の遷移金属を含む均一系触媒、第三級アミン及び2種の異なる溶剤、即ち非極性及び極性の、各々不活性溶剤の使用を提案しているが、これは二つの混合しない液相を形成する。非極性溶剤としては、脂肪族及び芳香族炭化水素が挙げられるが、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素基を有するホスフィンも挙げられる。極性溶剤としては、水、グリセリン、アルコール、ポリオール、スルホラン又はその混合物が挙げられるが、その際水が有利である。非極性溶剤には均一系触媒が溶解し、極性溶剤には蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物が溶解する。反応終了後に二つの液相を、例えばデカンテーションによって分離し、均一系触媒を含有する非極性相及び非極性溶剤を水素添加工程に戻す。次いで、引き続いて遊離蟻酸を製造するための後続の熱分解を容易にするか又は可能にするために、熱分解の前に蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物及び極性溶剤を含有する極性相に、より弱く、揮発性のより僅かな窒素塩基による付加生成物中の第三級アミンの絶対必要である交換を行う。EP0181078Aと同様にここでもイミダゾール誘導体、例えば1−n−ブチルイミダゾールが特に好適なより弱い窒素塩基として挙げられる。
【0015】
EP0357243Aの方法の欠点は、(i)二つの液相の分離及び均一系触媒及び非極性溶剤を含有する相の水素添加工程への返送;(ii)蒸留塔を載せた反応釜中における蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物中の第三級アミンのより弱く揮発性のより僅かな窒素塩基との交換及び遊離した第三級アミンの水素添加工程への返送;及び(iii)蟻酸及びより弱い窒素塩基から成る付加生成物の熱による分離及び遊離したより弱い窒素塩基の塩基交換工程への返送による非常に費用のかかる3段階の反応搬出物の精製である。
【0016】
EP0357243Aの方法のもう一つ欠点は、2種類の溶剤の使用、従って全方法への更なる物質の導入である。
【0017】
代わりにEP0357243Aは、1種の溶剤のみを使用する方法を開示している。この場合には、他の場合には蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物が溶解されるであろう極性溶剤の添加は行わない。その際使用される唯一の溶剤は、均一系触媒を溶解する非極性溶剤である。しかしこの方法も前記したものと同様に非常に費用のかさむ3段階の精製が欠点である。
【0018】
DE4431233Aには、同じくVIII副族(8、9、10族)の遷移金属を含有する触媒、第三級アミン及び極性溶剤及び水の存在で二酸化炭素を水素添加して蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物にすることが記載されているが、しかしここでは触媒は不均一であり、活性成分は不活性担体上に担持されている。有利な第三級アミンは、C−C−トリアルキルアミン、アミノ基2〜5個を有するポリアミン、芳香族窒素複素環、例えばピリジン又はN−メチルイミダゾール並びに環状及び/又は架橋したアミン、例えばN−メチルピペリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン又は1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。好適な極性溶剤としては、低沸点のC−C−モノアルコールが挙げられるが、その際EP0095321Aと同様に第二アルコールが有利である。水素添加は全圧4〜20MPa(40〜200バール)及び温度50〜200℃で行う。生成した蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物を精製するためにDE4431233Aは、蟻酸及び第三級アミンから成る付加生成物中で第三級アミンをより弱い、揮発性のより僅かな窒素塩基に交換するEP0357243Aに公開された精製を参照して公知方法を使用することを教示している。EP0357243Aによる方法と同様にDE4431233Aによる方法でも非常に費用のかかる反応搬出物の3段階の精製が欠点である。
【0019】
本発明の課題は、公知技術の前記欠点を全くか又は著しく減少した程度でしか有さず、濃縮した蟻酸を高い収率かつ高い純度で製造することができる、二酸化炭素の水素添加による蟻酸の製法を見出すことであった。更に方法は簡単であるか又は少なくとも公知技術で記載されたより簡単な方法を、例えばその他の簡単な方法概念、簡単な方法工程、より少ない方法工程又はより簡単な装置によって、可能にするものであるべきである。更に方法はできる限り少ないエネルギー消費量で実施することができねばならない。
【0020】
この課題により、二酸化炭素を周期系の第8、9又は10族からの元素を含有する触媒、第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)の存在で圧力0.2〜30MPa(絶対)及び温度20〜200℃で水素添加することにより二つの液相を生成し、蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化された液相(A)をもう一つの液相(B)から分離し、液相(B)を水素添加反応器に戻すことによる、蟻酸の製法を見出したが、これは(a)第三級アミン(I)として、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有し、液相(B)中で富化された形で存在するアミンを使用し;(b)極性溶剤(III)として静電係数が≧200・10−30Cmであり、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有し、液相(A)中に富化された形で存在する溶剤を使用し;(c)分離した液相(A)の蟻酸/アミン付加生成物(II)を蒸留装置中で熱により遊離蟻酸及び遊離第三級アミン(I)に分解し;(d)遊離蟻酸を蒸留により除去し;かつ(e)蒸留ユニットの塔底中に含有される遊離第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)を水素添加反応器に戻すことを特徴とする。
【0021】
本発明による方法で二酸化炭素の水素添加で使用される触媒は、不均一であってもよいし均一であってもよい。これは周期系の第8、9又は10族からの元素、即ちFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir及び/又はPtを含有する。有利には触媒は、Ru、Rh、Pd、Os、Ir及び/又はPt、特に有利にはRu、Rh及び/又はPd、極めて特に有利にはRuを含有する。触媒活性成分は、例えば微細形の、金属自体であってもよいし、錯化合物であってもよい。
【0022】
不均一系触媒の場合には、前記元素は有利には不活性担体上の金属として存在する。不活性担体材料としては、例えば二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又はこれら酸化物の混合物並びにグラファイトであってよい。特に有利な不均一系触媒としては、二酸化珪素上の、Ru/酸化アルミニウム、Pd/グラファイト並びにRh又はRuのトリフェニルホスフィン錯化合物、例えばビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムジクロリド又はトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムクロリドが挙げられる。前記元素の含量は、不均一系触媒に対して通常0.1〜10質量%である。不均一系触媒は種々の幾何学形及び大きさで使用することができる。固定床触媒の場合には、例えばタブレット、円筒形、中空円筒形、球、ロッド又は押出物を使用することができる。その平均粒子直径は通常2〜5mmである。不均一系触媒を使用する場合には前記金属成分の使用量は、触媒の全質量に対して0.01〜100質量%であり、その際完全触媒、例えばラネーニッケル又はナノ−パラジウムは各々の金属100質量%までを含有することができる。好適な不均一系触媒は市販されているか又は公知方法により担体を金属成分の溶液で処理し、次いで乾燥させ、温度処理し及び/又はか焼することによって得られる。
【0023】
本発明による方法で不均一系触媒を使用する場合には、これらは有利には水素添加反応器中に残留する。これは例えば固体で反応器中に固定された固定床触媒の形で存在するか又は懸濁触媒の場合には好適な篩又は好適な濾過器によって反応器中に保持される。
【0024】
均一系触媒の場合には、前記元素は錯体様化合物の形で反応混合物中に均一に溶けて存在する。その際均一系触媒は、液相(B)中で第三級アミン(I)と一緒に富化されて存在するように選択する。その際"富化されて"とは、>1の均一系触媒の分配系数P=[液相(B)中の均一系触媒の濃度]/[液相(A)中の均一系触媒の濃度]を表す。有利には分配係数は≧10であり、特に有利には≧20である。均一系触媒の選択は、通常所望の均一系触媒の分配係数が予定の方法条件下で実験により測定する簡単な試験によって行う。
【0025】
第三級アミン(I)中のその良好な溶解性によって本発明による方法では、均一系触媒として有利には、周期系の第8、9又は10族の元素及び少なくとも1個の枝なし又は枝分かれした、炭素原子1〜12個を有する非環式又は環式、脂肪族基を有する少なくとも1個のホスフィン基を含有する有機金属錯体を使用するが、その際個々の炭素原子は>P−によって置換されていてもよい。それと共に枝分かれした環状脂肪族基には基、例えば−CH−C11が含まれる。好適な基としては、例えばメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、1−(2−メチル)プロピル、2−(2−メチル)プロピル、1−ペンチル、1−ヘキシル、1−ヘプチル、1−オクチル、1−ノニル、1−デシル、1−ウンデシル、1−ドデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、1−(2−メチル)−ペンチル、1−(2−エチル)−ヘキシル、1−(2−プロピル)ヘプチル及びノルボルニルが含まれる。有利には枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の脂肪族基は少なくとも1個並びに有利には最高10個の炭素原子を含有する。前記した意味で環式基のみの場合には、炭素原子の数は3〜12個、有利には少なくとも4個並びに有利には最高8個である。有利な基は、1−ブチル、1−オクチル及びシクロヘキシルである。
【0026】
ホスフィン基は、前記した枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基2個又は3個を含有してよい。これらは同一又は異なるものであってよい。有利にはホスフィン基は前記した枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基3個を含有し、その際特に有利には3個の基全てが同じである。有利なホスフィンは、nが1〜10であるP(n−C2n+1、特に有利にはトリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、極めて特に有利にはトリ−n−ブチルホスフィン及びトリ−n−オクチルホスフィン及び特にはトリ−n−ブチルホスフィンである。
【0027】
既に記載したように、前記した枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基中で個々の炭素原子は>P−によって置換されていてもよい。従って多座、例えば二座又は三座のホスフィン配位子も含まれる。これらは有利には基
【化1】

を含む。ホスフィン基が前記した枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基の他になおその他の基を含む場合には、これはその他通常有機金属錯体触媒用にホスフィン−配位子で使用されるものに相応する。例としてはフェニル、トリル及びキシリルが挙げられる。
【0028】
有機金属錯体は、少なくとも1個の枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基を有する前記ホスフィン基1個以上、例えば2、3又は4個を含有することができる。有機金属錯体の残りの配位子は種々の特性を有してよい。例としてヒドリド、フルオライド、クロライド、ブロマイド、ヨージド、ホルミエート、アセテート、プロピオネート、カルボキシレート、アセチルアセトネート、カルボニル、ジメチルスルホキシド、ヒドロキシド、トリアルキルアミン、アルコキシドが挙げられる。
【0029】
均一系触媒は、直接その活性形で使用することもできるし、通常の標準錯体、例えば[M(p−シメン)Cl、[M(ベンゼン)Cl、[M(COD)(アリル)]、[MCl×HO]、[M(アセチルアセトネート)]、[M(DMSO)Cl][式中、Mは周期系の第8、9又は10族からの元素である]から出発して相応するホスフィン配位子の添加下で反応条件下で製造することもできる。
【0030】
本発明による方法で有利な均一系触媒は、[Ru(PBu(H)]、[Ru(Pオクチル(H)]、[Ru(PBu(1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)−エタン)(H)]、[Ru(Pオクチル(1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン(H)]である。これらを用いて二酸化炭素の水素添加で1000h−1より大きいTOF値(turn−over−frequency)が得られる。
【0031】
均一系触媒を使用する際に、有機金属錯体中の前記金属成分の使用量は、各々水素添加反応器中の全液体反応混合物に対して、通常0.1〜5000質量ppm、有利には1〜800質量ppm、特に有利には5〜500質量ppmである。
【0032】
触媒として本発明による方法では二酸化炭素の水素添加で有利には均一系触媒を使用する。
【0033】
均一系触媒を使用する場合にこれが液相(B)中に富化されて存在し、従って既に十分に液相(B)を介して再び水素添加反応器に戻すことができる場合にも、蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化された液相(A)は通常更になお貴重な触媒の残量を含有する。これらは熱による分解で逆反応を起こし、二酸化炭素及び水素に分解し、これは蟻酸収率の損失が起こることに等しい。更に熱による分解を受けた均一系触媒は通常新たに活性化するか又は精製せずに水素添加工程で使用することができない。従って本発明による方法では、特徴(e)で蒸留ユニットの塔底物を遊離第三級アミン(I)を含有する相及び極性溶剤(III)を含有する相に分離し、二つの相を別々に水素添加反応器に戻し、その際遊離第三級アミン(I)を含有する相を抽出ユニットを介して水素添加反応器に戻し、前記抽出ユニット中で均一系触媒を分離した液相(A)から抽出し、その後分離された液相(A)の蟻酸/アミン付加生成物(II)を特徴(c)により蒸留ユニット中で熱により遊離蟻酸及び遊離第三級アミン(I)に分解するのが有利である。
【0034】
抽出は通常温度0〜150℃並びに圧力0.1〜8.0MPa(絶対)で行う。有利には温度は少なくとも20℃、特に有利には少なくとも30℃及び有利には最高100℃、特に有利には最高80℃である。圧力は有利には少なくとも0.01MPa(絶対)、特に有利には少なくとも0.1MPa(絶対)及び有利には最高10MPa(絶対)、特に有利には最高1MPa(絶対)である。
【0035】
その際抽出ユニットには、抽出用装置並びに二つの液相を分離するための装置が含まれる。二つの部分は統合されて一緒に一つの装置になっていてもよいし、複数の装置に分かれていてもよい。原則として前記抽出は、当業者に公知の全ての好適な装置中で実施することができる。有利には向流抽出塔、ミキサーセトラーカスケード又はミキサーセトラーと塔の組合せを使用する。
【0036】
蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化された液相(A)がなお10質量ppmより多い触媒金属を含有する場合には、付加的な抽出工程を使用するのが特に有利である。しかし液相(A)中に触媒金属が1質量ppmより多い場合に付加的な抽出工程を使用することも既に推奨される。
【0037】
抽出ユニット及び熱分解が起こる蒸留ユニットの間に痕跡の均一系触媒を吸着するための装置を組み込むことが有利であろう。好適な吸着剤は当業者に公知である。好適な吸着剤の例としては、ポリアクリル酸及びその塩、スルホン化ポリスチレン及びその塩、活性炭、モンモリロナイト、シリカゲル並びにゼオライト等が挙げられる。
【0038】
本発明による方法で二酸化炭素の水素添加で使用される第三級アミン(I)は、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有する。その際第三級アミン(I)が液相(B)中で富化されて存在するように第三級アミン(I)を選択するか又は極性溶剤(III)で調節する。その際"富化されて"とは、液相(B)中で遊離の、即ち蟻酸/アミン付加生成物(II)の形で結合していない、第三級アミン(I)の質量割合が二つの液相(A)及び(B)中の遊離第三級アミン(I)の全量に対して>50%であることを意味する。有利には質量割合は>90%、特に有利には>95%、極めて特に有利には>97%である。第三級アミン(I)の選択は通常簡単な試験によって、二つの液相(A)及び(B)中の所望の第三級アミン(I)の溶解性を予定の方法条件下で実験により測定して行う。
【0039】
有利には使用される第三級アミン(I)は、蟻酸より少なくとも10℃、特に有利には少なくとも50℃、極めて特に有利には少なくとも100℃高い沸点を有する。本発明による方法用には第三級アミン(I)のできる限り低い蒸気圧が原則として有利であるので、沸点の上限値に関して制限は必要ない。通常第三級アミン(I)の沸点は、場合により公知方法で真空から1013hPa(絶対)の外挿圧力で500℃より下である。
【0040】
本発明による方法で有利に使用される第三級アミン(I)は一般式(Ia)
NR (Ia)
[式中、基RからRは同一又は異なるものであり、相互に無関係に、各々炭素原子1〜16個、有利には炭素原子1〜12個を有する、枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族、芳香脂肪族又は芳香族基を表し、その際個々の炭素原子は相互に無関係に基−O−及び>N−から選択したヘテロ基によって置換されていてよく並びに2個又は3個全ての基が相互に結合して各々少なくとも4個の原子を含む鎖を形成していてもよい]のアミンである。
【0041】
好適なアミンとして例えば下記が挙げられる:
・ トリ−n−プロピルアミン(bp1013hPa=156℃)、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−ウンデシルアミン、トリ−n−ドデシルアミン、トリ−n−トリデシルアミン、トリ−n−テトラデシルアミン、トリ−n−ペンタデシルアミン、トリ−n−ヘキサデシルアミン、トリ−(2−エチルヘキシル)アミン
・ ジメチル−デシルアミン、ジメチル−ドデシルアミン、ジメチル−テトラデシルアミン、エチル−ジ−(2−プロピル)アミン(bp1013hPa=127℃)、ジオクチル−メチルアミン、ジヘキシル−メチルアミン
・ トリシクロペンチルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリシクロヘプチルアミン、トリシクロオクチルアミン及びそれらの1個以上のメチル−、エチル−、1−プロピル−、2−プロピル−、1−ブチル−、2−ブチル−又は2−メチル−2−プロピル基によって置換された誘導体
・ ジメチル−シクロヘキシルアミン、メチル−ジシクロヘキシルアミン、ジエチル−シクロヘキシルアミン、エチル−ジシクロヘキシルアミン、ジメチル−シクロヘキシルアミン、メチル−ジシクロペンチルアミン
・ トリフェニルアミン、メチル−ジフェニルアミン、エチル−ジフェニルアミン、プロピル−ジフェニルアミン、ブチル−ジフェニルアミン、2−エチル−ヘキシル−ジフェニルアミン、ジメチル−フェニルアミン、ジエチル−フェニルアミン、ジプロピル−フェニルアミン、ジブチル−フェニルアミン、ビス(2−エチル−ヘキシル)−フェニルアミン、トリベンジルアミン、メチル−ジベンジルアミン、エチル−ジベンジルアミン及びそれらの1個以上のメチル−、エチル−、1−プロピル−、2−プロピル−、1−ブチル−、2−ブチル−又は2−メチル−2−プロピル基によって置換された誘導体
・ N−C−〜C12−アルキル−ピペリジン、N,N−ジ−C−〜C12−アルキル−ピペラジン、N−C−〜C12−アルキル−ピロリジン、N−C−〜C12−アルキル−イミダゾール及びそれらの1個以上のメチル−、エチル−、1−プロピル−、2−プロピル−、1−ブチル−、2−ブチル−又は2−メチル−2−プロピル基によって置換された誘導体
・ 1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン("DBU")、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン("DABCO")、N−メチル−8−アザビシクロ[3.2.1]オクタン("Tropan")、N−メチル−9−アザビシクロ[3.3.1]ノナン("Granatan")、1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン("Chinuclidin")
本発明による方法で勿論異なる第三級アミン(I)の混合物を使用することもできる。
【0042】
一般式(Ia)の前記第三級アミンで、基RからRが同一又は異なるものであり、相互に無関係に、各々炭素原子1〜16個、有利には炭素原子1〜12個を有する、枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族、芳香脂肪族又は芳香族基を表し、その際個々の炭素原子は相互に無関係に基−O−及び>N−から選択したヘテロ基によって置換されていてよく並びに2個又は3個全ての基が相互に結合して各々少なくとも4個の原子を含む飽和鎖を形成していてもよいようなものが有利である。
【0043】
基の少なくとも一つがα−炭素原子に2個の水素原子を有するのが有利である。
【0044】
特に有利には本発明による方法で第三級アミン(I)として、式中基RからRが相互に無関係に基C−〜C12−アルキル、C−〜C−シクロアルキル、ベンジル及びフェニルから選択したものである一般式(Ia)のアミンを使用する。
【0045】
特に有利には本発明による方法で第三級アミン(I)として一般式(Ia)の飽和アミンを使用する。
【0046】
極めて特に有利には本発明による方法で第三級アミン(I)として、式中基RからRが相互に無関係に基C−〜C−アルキル、特にトリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジメチル−シクロヘキシルアミン、メチル−ジシクロヘキシルアミン、ジオクチル−メチルアミン及びジメチル−デシルアミンから選択したものである一般式(Ia)のアミンを使用する。
【0047】
有利には第三級アミンは本発明による方法で全方法工程で液体形である。しかしこれは絶対必要条件ではない。第三級アミン(I)が少なくとも好適な溶剤中に溶解されていれば十分である。好適な溶剤は原則として、二酸化炭素の水素添加並びに付加生成物の熱分解に関して化学的に不活性であり、その中に第三級アミン(I)及び、均一系触媒を使用する場合には、これも良好に溶解し、反対に極性溶剤(III)並びに蟻酸/アミン付加生成物(II)を溶解し難く、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有するようなものである。従って原則として、化学的に不活性な非極性溶剤、例えば脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族炭化水素、例えばオクタン及び高級アルカン、トルエン、キシレンが挙げられる。
【0048】
本発明による方法で使用される第三級アミン(I)の量は、各々水素添加反応器中の全液体反応混合物に対して通常5〜95質量%、有利には20〜60質量%である。
【0049】
本発明による方法で二酸化炭素の水素添加で使用される極性溶剤(III)は、≧200・10−30CmのEFとも略記される静電指数を有し、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有する。その際極性溶剤(III)は、極性溶剤(III)が液相(A)中に富化されて存在するように選択するか又は第三級アミン(I)を用いて調節する。その際"富化されて"とは、二つの液相(A)及び(B)中の極性溶剤(III)の全量に対して液相(A)中の極性溶剤(III)の全割合が>50%であることを意味する。有利には全割合は>90%、特に有利には>95%及び極めて特に有利には>97%である。極性溶剤(III)の選択は通常簡単な方法によって、二つの液相(A)及び(B)中の所望の極性溶剤(III)の溶解性が予定される方法条件下で実験により測定して、行われる。
【0050】
静電指数EFは、比誘電率ε及び双極子モーメントμの積と定義される(例えばC.Reichardt著"Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry"第3版、Wiley−VCH Verlag GmbH&Co KGaA、Weinheim 2003、第3.2章、67〜68頁上参照)。静電指数の前記最小値は、極性溶剤(III)が一定の最小極性を有し、蟻酸/アミン付加生成物(II)がこの中に有利に溶解することを保証する。
【0051】
有利には使用される極性溶剤(III)は、蟻酸より少なくとも10℃、特に有利には少なくとも50℃及び極めて特に有利には少なくとも85℃高い沸点を有する。本発明による方法用には極性溶剤(III)のできる限り低い蒸気圧が原則として有利であるので、沸点の上限値に関して制限は必要ない。通常極性溶剤(III)の沸点は、場合により公知方法により真空から1013hPa(絶対)の外挿圧力で、500℃より下である。
【0052】
極性溶剤(III)として好適である物質の種類としては、有利にはジオール並びにその蟻酸エステル、ポリオール並びにその蟻酸エステル、スルホン、スルホキシド、開鎖又は環状アミド並びに前記種類の物質の混合物が挙げられる。
【0053】
好適なジオール及びポリオールとしては、例えばエチレングリコール(EF=290.3・10−30Cm)、ジエチレングリコール(EF=244.0・10−30Cm)、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール(EF=285.6・10−30Cm)、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール(EF=262.7・10−30Cm)、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール(EF=212.5・10−30Cm)、1,6−ヘキサンジオール及びグリセリンが挙げられる。ジオール及びポリオールはそのOH基により蟻酸の存在でエステル化することができる。これは本発明による方法で特に、前記蒸留ユニット中で蟻酸/アミン付加生成物(II)の熱分解で生じる。生成した蟻酸エステルは非常に似通った相挙動を示すので、これらも極性溶剤(III)として好適である。全水素添加混合物に対して5質量%までの量であってよいエステル化で生じる水も、水素添加並びに熱分解で不利ではない。この僅かな量の水は熱分解の蒸留ユニット中で蟻酸−高沸点共沸混合物中で側流生成物を介して分離することができるので、本発明による方法の連続操業における水の蓄積も起こらない。むしろ場合によっては、OH基及び蟻酸エステル基間の平衡をOH基の方向に移すために、ジオール又はポリオールの使用で付加的に水を添加することが有利であるかもしれない。水を添加する場合には添加される水の量は、水素添加反応器中の全液体反応混合物に対して通常0.1〜20質量%である。
【0054】
好適なスルホキシドとしては、例えばジアルキルスルホキシド、有利にはC−〜C−ジアルキルスルホキシド、特にジメチルスルホキシド(EF=627.1・10−30Cm)が挙げられる。
【0055】
好適な開環又は環状アミドとしては、例えばホルムアミド(EF=1243.2・10−30Cm)、N−メチルホルムアミド(EF=2352.9・10−30Cm)、N,N−ジメチルホルムアミド(EF=369.5・10−30Cm)、N−メチルピロリドン(EF=437.9・10−30Cm)アセトアミド及びN−メチルカプロラクタムが挙げられる。
【0056】
有利には本発明による方法で極性溶剤(III)として、OH基2〜5個を有する脂肪族飽和炭化水素並びにその蟻酸エステルを使用する。特に有利なジオール及びポリオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール及びその蟻酸エステルが挙げられる。
【0057】
本発明による方法で使用される極性溶剤(III)対使用される第三級アミン(I)のモル比は、通常0.5〜30、有利には2〜20である。
【0058】
OH基を含む化合物が二酸化炭素の水素添加を促進することは一般に公知である。従って、例えばEP0095321A、EP0151510A、EP0181078A、EP0357234A及びDE4431233Aでは、水の添加を教示している。本発明による方法でも二酸化炭素の水素添加用に促進剤としてOH基を含有する化合物を使用することは原則的に有利である。勿論前記ジオール及びポリオールは既にこのような有利な作用を発揮するので、この場合に更にOH基を含有する化合物の添加は通常更に必要ではない。これに対して、OH基を含有しないその他の極性溶剤(III)、例えば蟻酸エステル、スルホン、スルホキシド又は開環又は環状アミドを使用する場合には、事情は異なる。この場合には、水及び/又はアルコール、例えば脂肪族飽和モノアルコールを添加することが有利である。通常第8族から第10族の金属触媒1mg当たり1〜500ミリモルの添加で十分である。
【0059】
二酸化炭素の水素添加で使用される二酸化炭素は、固体、液体又は気体の形で使用することができる。大規模工業的に入手可能な二酸化炭素を含有する気体混合物も、これらが十分に一酸化炭素不含である限り、使用することができる。二酸化炭素の水素添加で使用される水素は通常気体である。二酸化炭素及び水素は不活性ガス、例えば窒素又は希ガスを含有してもよい。しかし有利にはこれらの含量は、水素添加反応器中の二酸化炭素及び水素の全量に対して10モル%より下である。これより多い量も場合により許容可能であるが、しかし通常反応器中のより高い圧力の使用を必要とし、その際それによって更に圧縮エネルギーが必要である。
【0060】
二酸化炭素の水素添加は、液相中で温度20〜200℃及び全圧力0.2〜30MPa(絶対)で行う。有利には温度は少なくとも30℃、特に有利には少なくとも40℃及び有利には最高150℃、特に有利には最高120℃、極めて特に有利には最高80℃である。全圧力は、有利には少なくとも1MPa(絶対)、特に有利には少なくとも5MPa(絶対)及び有利には最高20MPa(絶対)、特に有利には最高15MPa(絶対)、特に最高10MPa(絶対)である。
【0061】
二酸化炭素の分圧は、その際通常少なくとも0.5MPa、有利には少なくとも2MPa及び通常最高6MPa及び有利には最高5MPaである。水素の分圧は、通常少なくとも0.5MPa、有利には少なくとも1MPa及び通常最高250MPa、有利には最高10MPaである。
【0062】
水素添加反応器の供給中の水素対二酸化炭素のモル比は、有利には0.1〜10、特に有利には1〜3である。
【0063】
水素添加反応器の供給中の二酸化炭素対第三級アミン(I)のモル比は、通常0.1〜10、有利には0.5〜3である。
【0064】
水素添加反応器として原則として、気体/液体反応用に所定の温度及び所定の圧力下で原則として好適である全ての反応器を使用することができる。液体−液体反応系用に好適な標準反応器は、例えばK.D.Henkel著"Reactor Types and Their Industrial Applications"Ullmann’sEncyclopedia of Industrial Chemistry、2005、Wiley−VCH Verlag GmbH&Co.KGaA、DOI:10.1002/14356007.b04_087、第3.3章"Reactors for gas−liquid reactions"に記載されている。例として、攪拌釜反応器、管型反応器又は泡鐘塔反応器が挙げられる。
【0065】
二酸化炭素の水素添加は、本発明による方法では不連続的に実施してもよいし、連続的に実施してもよい。不連続的方法では、反応器に所望の液体及び場合により固体の出発原料及び助剤を装入し、次いで二酸化炭素及び水素を所望の温度で圧入して所望の圧力にする。反応終了後、反応器を通常減圧し、二つの生成した液相(A)及び(B)を相互に分離する。連続的方法では、二酸化炭素及び水素を含めて出発材料及び助剤を連続的に添加する。しかし場合により使用される不均一系固定床触媒は既に反応器中に固定されている。従って液相は連続的に反応器から搬出されるので、液体状態は反応器中で平均して一定に保たれる。二酸化炭素の連続的水素添加が有利である。
【0066】
反応器中の平均滞留時間は通常10分間から5時間である。
【0067】
使用される触媒及び第三級アミン(I)の存在で二酸化炭素の水素添加で生成される蟻酸/アミン付加生成物(II)は、通常一般式(IIa)
NR・x HCOOH (IIa)
[式中、基RからRは第三級アミン(Ia)で記載したものを表し、xは0.5〜5、有利には0.7〜1.5である]を有する。係数xは、例えばフェノールフタレンに対してアルコール性KOH溶液を用いる滴定によって決めることができる。蟻酸/アミン付加生成物(II)の正確な組成は、多くのパラメータは例えば蟻酸及び第三級アミン(I)の存在する濃度、圧力、温度又はその他の成分、特に極性溶剤(III)の存在及び特性に左右される。従って蟻酸/アミン付加生成物(II)の組成は個々の方法工程で変化するが、その際本特許出願で各場合に蟻酸/アミン付加生成物(II)に関する。蟻酸/アミン付加生成物(II)の組成は、各方法工程で酸塩基滴定による蟻酸含量の測定及びガスクロマトグラフィーによるアミン含量の測定によって簡単に求めることができる。
【0068】
本発明の方法による二酸化炭素の水素添加で二つの液相が生成される。液相(A)は蟻酸/アミン付加生成物(II)並びに極性溶剤(III)が富化されている。蟻酸/アミン付加生成物(II)に関して、"富化されて"とは、蟻酸/アミン付加生成物(II)の分配係数P=[液相(A)中の蟻酸/アミン付加生成物(II)の濃度]/[液相(B)中の蟻酸/アミン付加生成物(II)の濃度]が>1であることを意味する。有利には分配係数は≧2、特に有利には≧5である。液相(B)は第三級アミン(I)が富化されている。均一系触媒を使用する場合にはこれも液相(B)中で富化されている。
【0069】
生成した二つの液相(A)及び(B)は本発明による方法で相互に分離し、液相(B)は水素添加反応器に戻す。場合により二つの液相を介して存在する反応しなかった二酸化炭素を含有するその他の液相並びに反応しなかった二酸化炭素及び/又は反応しなかった水素を含有する気相を水素添加反応器に戻すことも有利である。場合により例えば不所望な副生成物又は不純物を除去するために、一部の液相(B)及び/又は一部の二酸化炭素又は二酸化炭素及び水素を含有する液体又は気体相を方法から排出するのが望ましいかもしれない。
【0070】
二つの液相(A)及び(B)の分離は通常重量相分離により行う。このために例えば、E.Muellerその他著"Liquid−Liquid Extraction" Ullmann’sEncyclopedia of Indusrial Chemistry、2005、Wiley−VCH Verlag GmbH&Co.KGaA、DOI:10.1002/14356007.b03_06、第3章"Apparatus"に記載されている標準装置及び標準方法が好適である。通常蟻酸/アミン付加生成物(II)並びに極性溶剤(III)が富化された液相(A)はより重く、下の相を形成する。
【0071】
相分離は、例えばほぼ大気圧又は大気圧近くに減圧し、液体反応混合物を例えばほぼ周囲の温度又は周囲の温度近くに冷却後に行う。勿論その際、少なくとも一部のより高い反応圧力で液相中に溶解した気体、特に二酸化炭素が減圧に際して脱ガスし、ガス流として別々に圧縮され、水素添加反応器に戻される恐れがある。同じく液相(B)も水素添加反応器に戻す前に別々に圧縮する必要がある。返送される気相及び液相用の二つの圧縮工程は、各々克服すべき圧力差に相応する好適な圧縮機を必要とし、操業で更に付加的なエネルギーを使用する。
【0072】
本発明で意外にも、本系で、即ち蟻酸/アミン付加生成物(II)並びに極性溶剤(III)が富化された液相(A)及び第三級アミン(I)及び均一系触媒を使用する場合にはこれでも富化された液相(B)で、二つの液相は著しく高められた圧力でも非常に良好に相互に分離されることが判明した。従って本発明による方法では、蟻酸/アミン付加生成物(II)及び極性溶剤(III)が富化された液相(A)のもう一つの第三級アミン(I)が富化された液相(B)からの分離並びに液相(B)の水素添加反応器への返送は圧力1〜30MPa(絶対)で行うのが有利である。水素添加反応器中の全圧に応じて、圧力は有利には最高15MPa(絶対)、特に有利には最高10MP(絶対)である。従って、前以て減圧することなしに二つの液相を相互に分離し、液相(B)を認め得るほどの圧力上昇なしに水素添加反応器に戻すことさえも可能である。この場合並びにごく僅かな減圧の場合に、場合による気相の返送を省略することも可能である。この省略が各具体的な系に関して可能であるか否かは、疑問である場合には前以て簡単な実験例によって決めることができる。
【0073】
特に有利には相分離を、少なくとも50%、極めて特に有利には少なくとも90%、特には少なくとも95%の反応圧力で行う。相分離の圧力は、特に有利には反応圧力の最高105%、極めて特に有利には最高100%である。
【0074】
意外にも本系で二つの液相は、反応温度に相応する高めた温度で非常に良好に相互に分離されることも判明した。この場合には相分離用に返送される液相(B)の冷却及び引き続いての加熱も必要なく、これもエネルギー節約となる。
【0075】
高めた圧力及び高めた温度下における相分離の知識は更に、本発明による系による液相(B)が圧力下で二酸化炭素の特に高い吸収力を有することによって優れている。これは、場合による過剰な、水素添加反応器中で反応しなかった二酸化炭素が液相(B)中に著しく有利に存在し、それによって問題なく液体として反応に戻すことができることを意味する。
【0076】
分離した液相(A)中の蟻酸/アミン付加生成物(II)を次いで蒸留ユニット中で熱により分離して遊離蟻酸及び遊離第三級アミンにし、その際生成した遊離蟻酸を蒸留により除去し、蒸留ユニットの塔底部に含まれる遊離第三級アミン(I)並びに極性溶剤(III)を水素添加反応器に戻す。その際遊離した蟻酸の取出しは、例えば(i)塔頂部を介して、(ii)塔頂部を介して及び側流生成物として又は(iii)側流生成物として行うことができる。その際、蟻酸を塔頂部を介して取出す場合には、99.9質量%までの蟻酸純度が可能である。側流生成物として取出す場合には、水性蟻酸が得られ、その際蟻酸約85質量%を有する混合物が実際に特に重要である。蒸留ユニットへの供給の水分含量に応じて、蟻酸は濃縮されて塔頂生成物として又は側流生成物として取出される。しかし所望により、蟻酸を側流生成物としてのみ取出すことが可能であり、その際場合により必要な水分量はなお正確に添加することができる。蟻酸/アミン付加生成物(II)の熱分解は通常、圧力、温度並びに装置構成に関する公知技術で公知の方法パラメータにより行われる。従って例えばEP0181078A又はWO2006/021411の記載を参照にされたい。使用される蒸留ユニットには通常、充填剤、充填物及び/又は泡鐘棚段を含む蒸留塔が含まれる。
【0077】
蒸留ユニットから取出した塔底生成物はなお僅かな残量の蟻酸を含有し得るが、しかしその際蟻酸対第三級アミン(I)のモル比は、有利には≦0.1、特に有利には≦0.05である。
【0078】
蒸留塔の塔底温度は通常少なくとも130℃、有利には少なくとも150℃、特に有利には少なくとも170℃及び通常最高210℃、有利には最高190℃、特に有利には最高185℃である。圧力は通常少なくとも1hPa(絶対)、有利には少なくとも50hPa(絶対)、特に有利には少なくとも100hPa(絶対)及び通常最高500hPa(絶対)、有利には最高300hPa(絶対)及び特に有利には最高250hPa(絶対)である。
【0079】
場合により側流生成物としてなお蟻酸の水分含有流を取出す。例えば水素添加を促進するために、水を添加する場合には、これはむしろ有利である。
【0080】
DE3428319Aには既に、分離塔における付加生成物の蟻酸及びC−C14−アルキル基を有する第三級アミンへの熱分解が記載されている。同じくWO2006/021411にも分離塔における付加生成物の蟻酸及び常圧で105〜175℃の沸点を有する第三級アミンへの熱分解が記載されている。EP0563831Aには、付加生成物の蟻酸及び蟻酸より高い沸点を有する第三級アミンへの熱分解が開示されているが、その際添加されるホルムアミドは特に色安定性蟻酸を生じる。
【0081】
図1は、本発明による方法の態様の一つの概略構成図を表す。図中、各文字は下記のものを表す:A=水素添加反応器、B=相分離器、C=蒸留ユニット。
【0082】
二酸化炭素及び水素を水素添加反応器"A"に導入する。その中でこれらは周期系の第8、9又は10族からの元素を含有する触媒、第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)の存在で反応して、蟻酸/アミン付加生成物(II)に成る。その際二つの液相(A)及び(B)が生成する。液相(A)は蟻酸/アミン付加生成物(II)並びに極性溶剤(III)が富化されており、液相(B)は第三級アミン(I)及び均一系触媒(B)を使用する場合にはこの触媒でも富化されている。二つの液相を相分離器"B"に供給し、相互に分離する。通常上の相である液相(B)を水素添加反応器"A"に戻す。液相(A)を蒸留ユニット"C"に供給し、水素添加反応器"A"中で生成した蟻酸/アミン付加生成物(II)をその中で遊離蟻酸及び第三級アミン(I)に熱分解する。遊離蟻酸を例えば塔頂生成物として除去する。蒸留ユニット"C"の塔底物を水素添加反応器"A"に戻す。
【0083】
勿論本発明による方法を所望によりその他の方法工程又は物質流の供給及び排出によって補足することも可能である。非限定的例として、方法でそれらの濃度を維持するための助剤、例えば第三級アミン(I)、極性溶剤(III)、均一系触媒又は水の供給が挙げられる。
【0084】
図2は、本発明による方法の有利な態様の一つの概略構成図を表す。図中、各文字は下記のものを表す:A=水素添加反応器、B=相分離器、C=蒸留塔、D=相分離器、E=抽出装置、F=相分離器。
【0085】
装置"A"及び"B"中での方法実施に関しては、図1に記載したことが当てはまる。図2による有利な方法でも、通常上の相である液相(B)を水素添加反応器"A"に戻す。しかしここで液相(A)は蒸留塔"C"に供給する前に、均一系触媒を更に分離するために、返送される第三級アミン(I)と一緒に抽出する。これは抽出装置"E"中で行い、次に相分離を相分離器"F"中で行う。この相分離器中で二つの液相(C)及び(D)を分離する。均一系触媒が富化されているアミン相であり、通常上の相である液相(C)を水素添加反応器"A"に供給する。蟻酸/アミン付加生成物(II)並びに極性溶剤(III)が富化されている液相(D)を蒸留塔"C"に供給し、その中で蟻酸/アミン付加生成物(II)を遊離蟻酸及び第三級アミン(I)に熱分解する。遊離蟻酸は例えば塔頂生成物として除去する。蒸留塔"C"の塔底物を相分離器"D"中で二つの液相(E)及び(F)に分離する。主として第三級アミン(I)を含有し、通常上の相である液相(E)を抽出装置"E"に供給する。主として極性溶剤(III)を含有する液相(F)を水素添加反応器"A"に戻す。
【0086】
本発明による方法によって二酸化炭素の水素添加により濃縮された蟻酸を高い収率及び高い純度で得ることができる。特に、公知技術に対して簡単な方法概念、簡単な方法工程、僅かな方法工程数並びに簡単な装置を有する特に簡単で優秀な操作方法で優れている。従って例えば均一系触媒を使用する場合には第三級アミン(I)及び極性溶剤の適切な選択によって触媒を相分離によって蟻酸/アミン付加生成物(II)から分離し、更なる精製工程なしに水素添加反応器に戻す。生成した蟻酸/アミン付加生成物(II)からの触媒の迅速な分離により、二酸化炭素及び水素に分解する逆反応が抑制される。更に二相の液体相の生成による触媒の保持又は分離によって、触媒の損失、それによって貴金属の損失が最小になる。更に本発明による方法では費用のかかる、別個の塩基交換が必要ないので、水素添加反応器中で生成した蟻酸/アミン付加生成物(II)を直接熱分解に使用することができる。その際遊離する第三級アミン(I)は再び水素添加反応器に戻される。この相分離は圧力下で行うことができる。簡単な方法概念の結果として、本発明による方法を実施するために必要な製造装置は、僅かな所要床面及び僅かな装置の使用という意味で公知技術に比してコンパクトである。投資費用はより僅かであり、エネルギー需要も少ない。
【0087】
蟻酸/アミン付加生成物(II)を含有する流れを熱分解に供給する前に付加的に抽出することによって、返送される第三級アミン(I)で触媒を更に富化することができる。これによって分離される蟻酸/アミン付加生成物(II)中のなおより低い含量の均一系触媒により、二酸化炭素及び水素へ分解する分離で想定される逆反応が更に良好に抑制される。これによって高められた均一系触媒の再循環率は、新しい触媒の形の均一系触媒の更なる導入を更に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、本発明による方法の態様の一つの概略構成図を表す。
【図2】図2は、本発明による方法の有利な態様の一つの概略構成図を表す。
【図3】図3は、連続的水素添加、相分離、抽出及び触媒再循環を試験するための実験室装置を表す。
【0089】
実施例
他に記載のない限り、前記トリアルキルアミンは各々相応するトリ−n−アルキルアミンである。
【0090】
例A−1からA−27(水素添加及び相分離)
他に記載のない限り、磁気攪拌棒を有するハステロイC製の250mlオートクレーブに不活性条件下で第三級アミン、極性溶剤及び均一系触媒を装入したが、その際2相の混合物が得られた(上相:アミン及び触媒;下相:溶剤)。次いでオートクレーブを閉じ、室温でCOを圧入した。次いでHを圧入し、反応器を攪拌下(700rpm)で加熱した。所望の反応時間後にオートクレーブを冷却し、反応混合物を減圧した。他に記載のない限り、2相の生成物混合物が得られたが、その際上相はなお遊離第三級アミン及び不均一系触媒が富化されており、下相は極性溶剤及び生成した蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化されていた。数例でルテニウムの分散係数K=[上相のRu濃度]/[下相のRu濃度]を原子吸光分析法(AAS)により測定した。蟻酸/アミン付加生成物中の蟻酸の全含量を、盲検値を引いてフェノールフタレンに対して2−プロパノール中の0.1NKOHを用いる滴定によって測定した。これからTON、TOF及び反応速度を計算した。個々の実験のパラメータ及び結果を第1.1から1.7表に表す。
【0091】
盲検値は、僅かな量の二酸化炭素が蟻酸/アミン付加生成物を含有する相中にも溶解し、KOHによってフェノールフタレンに対して滴定することができることをベースとしている。盲検値の測定は、各例に関して別々に、均一系触媒だけを省略し、最後に乳化した全試料を前記したようにして滴定する完全に同じ空試験によって行った。
【0092】
例A−1からA−27は、本発明による方法で配位子及び金属成分、触媒の量に関して第三級アミン、極性溶剤、触媒の変更下でも並びに水の付加的な添加下でも、1モルkg−1−1より上までの高いかないしは非常に高い反応速度を達成することができることを示す。試験した全ての系は二つの相を生成するが、その際上の相は各々なお遊離第三級アミン及び不均一系触媒が富化されており、下の相は各々極性溶剤及び生成した蟻酸/アミン付加生成物が富化されていた。
【0093】
例B−1からB−12(圧力下における相挙動及びCO−溶解性)
これらの実施例で、第三級アミン、極性溶剤及び蟻酸/アミン付加生成物を含有する混合物の相挙動を圧力下でCOの比溶解性に関して試験した。このために各々極性溶剤10.0g及び第三級アミン10.0gから成る2相の混合物に強力な攪拌下で蟻酸0.5gを添加した。蟻酸は各々第三級アミンと反応して相応する蟻酸/アミン付加生成物を生成し、これは各々極性溶剤の相に溶解した。各々得られた乳濁液から4mlを高圧サイトセルに入れ、二つの相が相互に分離するまで待った。次いで二つの液相の容積レベルをマークし、COを20℃で6.5MPa(絶対)に圧入した。更に各々6.5MPa(絶対)の常圧に成るまでCOを導入した。二つの液相の容積レベルを15分後に再びマークし、COの圧入前の最初のレベルと比較した。相容積の上昇はCOの溶解に起因する。個々の試験のパラメータ及び結果を第2.1から2.3表に表す。
【0094】
実施例は一つには、高い圧力で多くの系の二相性が維持され、従って6.5MPa(絶対)でもなお問題なく相分離が可能であることを示す。もう一つには、実施例は、上部の第三級アミンが富化された液相(B)の容積増加によって、試験した第三級アミンの多くが高いCO−吸収力を有することを示す。
【0095】
圧力下での相分離及び液相(B)の水素添加反応器へ返送の有利な態様では、COを溶解された形で返送することができるので、これは特に有利である。更に均一系触媒を使用する場合には液相(B)中の高いCO溶解性は水素添加用にも特に有利である。それは均一系触媒は液相(B)中に存在し、従ってその環境中で高い濃度の溶解したCOが出発物質として存在するからである。
【0096】
例C−1からC−34(均一系触媒の分散)
これらの実施例では、遊離第三級アミンを有する上相及び極性溶剤及び蟻酸/アミン付加生成物を有する下相を含む種々の二相混合物中の種々の均一系触媒の分配を調べた。このために試験C−1からC−26では、蟻酸−トリヘキシルアミン付加生成物(アミン対蟻酸のモル比1:2で蟻酸及びトリヘキシルアミンから製造した)各々5gを室温で攪拌下で極性溶剤5gに溶解させ、トリヘキシルアミン5g及び均一系Ru触媒10mgを加えた。得られた二相系を室温で30分間強力に攪拌した。試験C−27からC−34で、蟻酸各々2.5gを相応するアミン20gと混合し、30分間室温で攪拌した。反応後下相5gを分離するか又は1相の混合物の場合には反応混合物を使用し、[Ru(PnBu(H)]10mg、相応するアミン5g及びエチレングリコール5gから成る混合物に添加し、得られた二相系を10分間室温で強力に攪拌した。次いでC−1からC−34で二つの相を分離後ルテニウムの分配係数K:K=[上相のRu濃度]/[下相のRu濃度]を原子吸光分析法(AAS)により測定した。
【0097】
個々の試験のパラメータ及び結果を第3.1から3.2表に表す。
【0098】
実施例は、試験した全ての系でルテニウムの分配係数Kが1より明らかに上であり、多くの系では10よりも明らかに上でさえあることを示す。種々の均一系Ru触媒は試験した全ての系(種々の極性溶剤、種々の第三級アミン)で各々上のアミン含有相で富化されていた。
【0099】
例D−1からD−2(水素添加、相分離、抽出及び触媒再循環)
連続的水素添加、相分離、抽出及び触媒再循環を試験するために、図3に記載したような実験室装置を使用した。図中、各文字は下記のものを表す:A=水素添加反応器(ブレード攪拌機を有する270mlハステロイC製オートクレーブ)、B=相分離器、E=抽出容器(ガラスブレード攪拌機を有する350mlガラス攪拌容器)、F=相分離器。K=溶剤ポンプ、L=減圧弁、M=第三級アミン(I)及び均一系触媒用の再循環ポンプ、N=生成物流ポンプ、O=アミンポンプ、P=第三級アミン(I)及び抽出した均一系触媒用の再循環ポンプ。
【0100】
更に、Solvent=溶剤、Off−gas=排ガス、アミン(I)=第三級アミン(I)である。
【0101】
不活性条件下で攪拌下で第三級アミン(I)中に均一系触媒を溶解させ、次いで極性溶剤を添加することによって乳濁液を製造した。個々の試験のパラメータ及び結果を第4.1から4.2に表す。次いで製造した乳濁液を水素添加反応器"A"及び相分離器"B"に装入した。抽出容器"E"及び相分離器"F"に第三級アミン(I)及び極性溶剤から成る混合物を装入した。ここで水素添加反応器"A"を攪拌下で加熱し、H−初圧の調節後COを圧入した。次いで更にHを圧入し、水素添加反応器"A"を減圧弁"L"を閉じて記載した最初の反応時間調節した条件下で放置した。次いで減圧弁"L"を開け、装置を連続的に操業した。その際流れ7aとして極性溶剤、流れ1としてCO及び流れ2としてHを連続的に供給した。開けた減圧弁"L"を介して生成物混合物が相分離器"B"中へ達し、二つの相に分離された。上相を流れ4として再び水素添加反応器"A"に戻した。下相は流れ5として抽出容器"E"に導入した。ここで残りの均一系触媒を抽出するために新たな第三級アミン(I)を流れ10aとして添加した。その際、各々流れ8aを介して排出したと同じ量の第三級アミン(I)を添加した。次の相分離器"F"で抽出容器"E"からの搬出物を二つの相に分離した。上相を流れ12として再び水素添加反応器"A"に戻した。下相は流れ8aとして排出させた。相分離器"B"及び抽出容器"E"に集めた気体は排ガスとして除去した。生成した蟻酸の量は流れ8aから2−プロパノール中の0.1NKOHを用いてフェノールフタレンに対して滴定することによって測定した。これからTON、TOF及び反応速度を計算した。ルテニウムの含量を原子吸光分析法(AAS)により測定した。この条件下で装置を各々数時間操業させた。個々の試験の結果を同じく第4.2に表す。
【0102】
例D−1及びD−2は、装置の連続的操業でも相分離を介して均一系触媒の非常に良好な分離及び引き続いての水素添加反応器への再循環が可能であることを示す。従って相分離器"B"の上の返送される相は各々175質量ppm(D−1)又は390質量ppm(D−2)で、下の相(生成物流)中の15質量ppm(D−1)又は26質量ppm(D−2)に対して、非常に明白に富化された均一系触媒を含有していた。抽出容器"E"中の第三級アミン(I)を用いる有利な抽出及び引き続いての相分離器"F"中での相分離によって、生成物流を均一系触媒で、例D−1では15質量ppmから10質量ppm並びに例D−2では26質量ppmから11質量ppmに更に減らすことができたが、これは67%又は42%の更なる減少に相応する。相分離器"F"中の上相は、46質量ppm(D−1)又は160質量ppm(D−2)を含有したが、これは各々水素添加反応器に戻すことができた。従ってより高い割合の均一系触媒を直接分離し、水素添加で新たに使用することができる。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
【表4】

【0107】
【表5】

【0108】
【表6】

【0109】
【表7】

【0110】
【表8】

【0111】
【表9】

【0112】
【表10】

【0113】
【表11】

【0114】
【表12】

【0115】
【表13】

【0116】
【表14】

【符号の説明】
【0117】
図1: A 水素添加反応器、 B 相分離器、 C 蒸留ユニット
図2: A 水素添加反応器、 B 相分離器、 C 蒸留塔、 D 相分離器、 E 抽出装置、 F 相分離器
図3: A 水素添加反応器(ブレード攪拌機を有する270mlハステロイC製オートクレーブ)、 B 相分離器、 E 抽出容器(ガラスブレード攪拌機を有する350mlガラス攪拌容器)、 F 相分離器、 K 溶剤ポンプ、 L 減圧弁、 M 第三級アミン(I)及び均一系触媒用の再循環ポンプ、 N 生成物流ポンプ、 O アミンポンプ、 P 第三級アミン(I)及び抽出した均一系触媒用の再循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を周期系の第8、9又は10族からの元素を含有する触媒、第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)の存在で圧力0.2〜30MPa(絶対)及び温度20〜200℃で水素添加することにより二つの液相を生成し、蟻酸/アミン付加生成物(II)が富化された液相(A)をもう一つの液相(B)から分離し、液相(B)を水素添加反応器に戻すことによって、蟻酸を製造する方法において、
(a)第三級アミン(I)として、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有し、液相(B)中に富化された形で存在するアミンを使用し;
(b)極性溶剤(III)として静電指数が≧200・10−30Cmであり、圧力1013hPa(絶対)で蟻酸より少なくとも5℃高い沸点を有し、液相(A)中に富化された形で存在する溶剤を使用し;
(c)分離した液相(A)の蟻酸/アミン付加生成物(II)を蒸留ユニット中で熱により遊離蟻酸及び遊離第三級アミン(I)に分解し;
(d)遊離蟻酸を蒸留により除去し;かつ
(e)蒸留ユニットの塔底中に含有される遊離第三級アミン(I)及び極性溶剤(III)を水素添加反応器に戻す
ことを特徴とする、蟻酸の製法。
【請求項2】
ルテニウムを含有する触媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒として不均一系触媒を使用し、これが水素添加反応器中に残留することを特徴とする、請求項1から2までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
触媒として均一系触媒を使用し、これが第三級アミン(I)と一緒に液相(B)中に富化されて存在することを特徴とする、請求項1から2までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
均一系触媒として、周期系の第8、9又は10族からの元素及び炭素原子1〜12個を有する枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族基を少なくとも1つ有する少なくとも1個のホスフィン基を含有する有機金属錯体を使用するが、その際個々の炭素原子は>P−によって置換されていてもよいことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
特徴(e)で蒸留ユニットの塔底物を遊離第三級アミン(I)を含有する相及び極性溶剤(III)を含有する相に分離し、二つの相を別々に水素添加反応器に戻し、その際遊離第三級アミン(I)を含有する相を抽出ユニットを介して水素添加反応器に戻し、前記抽出ユニット中で均一系触媒を分離した液相(A)から抽出し、その後に分離された液相(A)の蟻酸/アミン付加生成物(II)を特徴(c)により蒸留ユニット中で遊離蟻酸及び遊離第三級アミン(I)に熱分解することを特徴とする、請求項4から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第三級アミン(I)として、一般式(Ia)
NR (Ia)
[式中、基RからRは同一又は異なるものであり、相互に無関係に、各々炭素原子1〜16個を有する、枝なし又は枝分かれした、非環式又は環式の、脂肪族、芳香脂肪族又は芳香族基を表し、その際個々の炭素原子は相互に無関係に基−O−及び>N−から選択したヘテロ基によって置換されていてよく並びに2個又は3個全ての基が相互に結合して少なくとも各々4個の原子を含む鎖を形成していてもよい]のアミンを使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第三級アミン(I)として、式中基RからRが相互に無関係に基C−〜C12−アルキル、C−〜C−シクロアルキル、ベンジル及びフェニルから選択したものである一般式(Ia)のアミンを使用することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第三級アミン(I)として一般式(Ia)の飽和アミンを使用することを特徴とする、請求項7から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第三級アミン(I)として、式中基RからRが相互に無関係に基C−〜C−アルキルから選択したものである一般式(Ia)のアミンを使用することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
極性溶剤(III)としてOH基2〜5個を有する脂肪族飽和炭化水素並びにその蟻酸エステルを使用することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
水素添加を二酸化炭素対第三級アミン(I)のモル比0.1〜10で行うことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
蟻酸/アミン付加生成物(II)及び極性溶剤(III)が富化された液相(A)のもう一つの第三級アミン(I)が富化された液相(B)からの分離並びに液相(B)の水素添加反応器への返送を圧力1〜30MPa(絶対)で行うことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−530747(P2012−530747A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516632(P2012−516632)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058208
【国際公開番号】WO2010/149507
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】