説明

血圧計、血圧補正方法及び測定開始圧力補正方法

【要 約】
【課 題】被検体の姿勢を原因とする外耳での血圧値の変動を補正することを目的とする。
【解決手段】本発明は、外耳で血圧を測定し、同時に被検体の姿勢を検出することによって、外耳で測定された血圧値を検出された被検体の姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することを特徴とする。被検体の姿勢、特に心臓と外耳との高低を検出することで、外耳で測定することにより発生する血圧値の変動を補正することができる。また、本発明は、被検体の姿勢を検出して、血圧値を測定する際の外耳を圧迫する圧力を可変することを特徴とする。被検体の姿勢を検出することで外耳の血圧値を予測し、加圧又は減圧を始める測定開始圧力値を、予測した血圧値が測定できる圧力に可変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の姿勢の変化に応じて血圧値を補正する血圧計並びに外耳で血圧値を測定する際の血圧補正方法及び測定開始圧力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人の生活習慣病への対応が社会的に大きな課題となっている。特に高血圧値に関連する疾患の場合、長期の血圧値の収集が非常に重要である点が認識されている。このような観点から、血圧値を始めとした各種の生体情報の測定装置が開発されている。
【0003】
日常生活を妨げないで継続的に血圧値を測定することが可能となる生体情報の測定装置として、外耳道又は外耳中の他の部位に挿入されて常時装着する患者モニタ装置がある(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、脈拍、脈波、心電、体温、動脈血酸素飽和度、及び血圧値などを被検体内へ放射した赤外光、可視光の散乱光の受光量から算出するものである。しかし、この装置には血圧値を測定する具体的な手段は明記されていない。
【0004】
一方、血圧値の測定に関しては、血管の脈動波形による血圧測定装置が、他の方式であるカフ振動法や容積補償法などによる血圧測定装置(例えば、非特許文献1参照。)と並んで、有力な血圧値の測定方法として認められている。
【0005】
なお、耳介の名称は非特許文献2、3、4による。また、位置が高いとは重力加速度の方向に対してポテンシャルエネルギーの高いことを指し、位置が低いとは同エネルギーの低いことを指す。
【特許文献1】特開平9−122083号公報
【非特許文献1】山越 憲一、戸川 達男 : 「生体センサと計測装置」日本エム・イー学会編/ME教科書シリーズ A−1、39頁〜52頁
【非特許文献2】Sobotta 図説人体解剖学第1巻(監訳者:岡本道雄)、p.126、(株)医学書院、1996年10月1日発行
【非特許文献3】Sobotta 図説人体解剖学第1巻(監訳者:岡本道雄)、p.127、(株)医学書院、1996年10月1日発行
【非特許文献4】からだの地図帳 (監修・解説:高橋長雄)、p.20、(株)講談社、2004年1月29日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、継続的な血圧値の測定の具体的な方法は明記されていない。また、外耳で測定された血圧値は、外耳と心臓との高低差により静水圧差の影響を受ける。被検体は日常生活を送っており、さまざまな姿勢で血圧値が測定されることが予想されるため、この静水圧差を予め設定することは困難である。このように、外耳で継続的に正確な血圧値を測定するのは困難だった。さらに、外耳で血圧値を測定する場合、末梢血管から脈波を検出することになるため、測定された血圧値は動脈内径の影響を受ける。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、外耳で測定された血圧値を心臓の高さで測定された血圧値に補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、被検体の一部は、外耳及び/又はその周辺であることが好ましい。さらに、被検体の一部は、外耳道及び/又は耳介であることが好ましい。さらに、被検体の一部は、耳珠及び/又はその周辺であることが好ましい。以下では上記代表として、被検体の一部が外耳である場合について説明する。
【0009】
本発明は、外耳で血圧値を測定し、同時に被検体の姿勢を検出することによって、外耳で測定された血圧値を検出された被検体の姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することを特徴とする。姿勢の検出は、特に心臓と外耳との高低を検出する。この心臓と外耳との高低を検出することにより、心臓と外耳との高低差が原因で発生する静水圧差による血圧値の変動を補正することができる。
【0010】
また、本発明は、被検体の姿勢を検出して、血圧値を測定する際の外耳を圧迫する圧力を可変することを特徴とする。被検体の姿勢を検出することで外耳の血圧値を予測し、加圧又は減圧を始める測定開始圧力値を、予測した血圧値が測定できる圧力に可変する。このように、血圧値の測定に必要な圧力を予測することにより、余分な圧力を外耳に印加する必要がなくなるので、効率的に血圧値を測定することが可能になる。
【0011】
具体的には、本発明の血圧計は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、前記被検体の姿勢を検出する姿勢検出手段と、前記血圧測定手段の測定した血圧値を前記姿勢検出手段の検出した姿勢を基に補正して補正血圧値を算出する血圧補正手段と、を備える。
【0012】
補正血圧値は、検出された姿勢に応じて補正された血圧値である。外耳で測定された血圧値を、血圧値の測定と同時に検出した姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、被検体の姿勢による変動を加味した血圧値の補正が可能になる。
【0013】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、前記血圧補正手段は、前記被検体の正中線が鉛直であることを前記姿勢検出手段が検出したときは予め設定された静水圧補正値を前記血圧測定手段の測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出し、前記被検体の正中線が水平であることを前記姿勢検出手段が検出したときは前記血圧測定手段の測定した血圧値を補正血圧値とすることが好ましい。
【0014】
被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳が心臓よりも高い位置にあるのか、同じ水平位置にあるのかを検出することができる。外耳が心臓よりも高い位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。このように、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、静水圧差が発生している場合は、外耳で測定された血圧値に予め設定した静水圧差を加算し、外耳で測定された血圧値を心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0015】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、前記血圧補正手段は、予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記血圧測定手段が測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出することが好ましい。
【0016】
被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出することによって、被検体の心臓と外耳との高低差を算出して、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との静水圧差を算出することができる。これにより、発生した静水圧差に応じた血圧値の補正ができるので、外耳で測定された血圧値をより正確に心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0017】
また、本発明の血圧計は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出する姿勢検出手段と、予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差hを算出し、数1により補正した補正血圧値yを算出する血圧補正手段と、を備える。
【数1】

但し、aは所定の係数、nは正整数、xは前記血圧測定手段の測定した血圧値、b(h)は前記高低差hに対する補正量である。
【0018】
外耳で測定された血圧値を、被検体の心臓と外耳との高低差hを含む数1を用いて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、より正確な補正血圧値を算出することができる。例えば、心臓の高さにある上腕部で測定された血圧値に補正することもできる。
【0019】
前記数1において、n=1としてもよい。
【0020】
前記数1においてn=1であることにより、数1を1次関数にすることができる。単純な比例関係により補正血圧値を算出することができるので、補正血圧値を算出する回路の設計が容易になる。
【0021】
前記数1において、b(h)=bhとしてもよい。但し、bは前記高低差hに対する補正係数である。
【0022】
補正量b(h)は、高低差hに対する補正量である。補正量b(h)を高低差hの関数とすることで、静水圧差をより正確に補正した補正血圧値yを算出することができる。
【0023】
また、本発明の血圧計は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、前記被検体の姿勢を検出する姿勢検出手段と、前記姿勢検出手段の検出した姿勢を基に前記血圧測定手段の圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を補正する圧力補正手段と、を備える。
【0024】
測定開始圧力値は、検出された姿勢に応じて補正された測定開始圧力値である。このように、検出された姿勢に応じて補正した測定開始圧力値で被検体を圧迫することにより、効率的に血圧値を測定することができる。
【0025】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、前記圧力補正手段は、前記被検体の正中線が鉛直であることを前記姿勢検出手段が検出したときは予め設定された静水圧補正値を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出し、前記被検体の正中線が水平であることを前記姿勢検出手段が検出したときは前記測定開始圧力値を補正測定開始圧力値とすることが好ましい。
【0026】
被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳が心臓よりも高い位置にあるのか、同じ水平位置にあるのかを検出することができる。外耳が心臓よりも高い位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。このように、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、予め設定した静水圧差分だけ低くした測定開始圧力値で被検体の外耳を圧迫して血圧値を測定できるので、効率的に血圧値を測定することが可能になる。
【0027】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、前記圧力補正手段は、予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値とすることが好ましい。
【0028】
被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出することによって、被検体の心臓と外耳との高低差を算出して、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との静水圧差を算出することができる。これにより、発生した静水圧差に応じて測定開始圧力値が補正できるので、さらに効率よく血圧値が測定できるようになる。
【0029】
前記血圧測定手段は、前記被検体の一部の動脈に向けて光を出射する発光素子と、前記発光素子の出射した光が前記被検体の一部を透過した光又は前記被検体の一部の内壁で散乱した光を受光する受光素子とで、脈波を検出することが好ましい。
【0030】
血圧測定手段が発光素子と受光素子とを用いて脈波を検出することにより、外耳を走る末梢血管から血圧値を測定することが可能になる。
【0031】
本発明に係る血圧補正方法は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定し、前記被検体の姿勢を検出し、前記測定した血圧値を前記検出した姿勢を基に補正して補正血圧値を算出することを特徴とする。
【0032】
外耳で測定された血圧値を、血圧値の測定と同時に検出した姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、被検体の姿勢による変動を加味した血圧値の補正が可能になる。
【0033】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、前記補正血圧値の算出では、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を前記測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出し、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が水平であるときは前記測定した血圧値を補正血圧値とすることが好ましい。
【0034】
被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳が心臓よりも高い位置にあるのか、同じ水平位置にあるのかを検出することができる。外耳が心臓よりも高い位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。このように、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、静水圧差が発生している場合は、外耳で測定された血圧値に予め設定した静水圧差を加算し、外耳で測定された血圧値を心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0035】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、前記補正血圧値の算出では、予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記被検体の姿勢の検出で検出された傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出することが好ましい。
【0036】
被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出することによって、被検体の心臓と外耳との高低差を算出して、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との静水圧差を算出することができる。これにより、発生した静水圧差に応じた血圧値の補正ができるので、外耳で測定された血圧値をより正確に心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0037】
また、本発明に係る血圧補正方法は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定し、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記検出された傾き角から前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差hを算出し、数2により補正した補正血圧値yを算出する。
【数2】

但し、aは所定の係数、nは正整数、xは前記測定した血圧値、b(h)は前記高低差hに対する補正量である。
【0038】
外耳で測定された血圧値を、被検体の心臓と外耳との高低差hを含む数2を用いて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、より正確な補正血圧値を算出することができる。
【0039】
前記数2において、n=1としてもよい。
【0040】
前記数2においてn=1であることにより数2は1次関数になる。単純な比例関係により補正血圧値を算出することができるので、補正血圧値を算出する回路の設計が容易になる。
【0041】
前記数2において、b(h)=bhとしてもよい。但し、bは前記高低差hに対する補正係数である。
【0042】
補正量b(h)は、高低差hに対する補正量である。高低差hは被検体の心臓と外耳との静水圧差を含む。この静水圧差を高低差hの関数とすることで、外耳で測定された血圧値の静水圧差をより正確に補正した補正血圧値yを算出することができる。
【0043】
また、本発明に係る測定開始圧力補正方法は、被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する際に、前記被検体の姿勢を検出した後、前記被検体を圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を前記検出した姿勢を基に補正することを特徴とする。
【0044】
測定開始圧力値は、検出された姿勢に応じて補正された測定開始圧力値である。このように、検出された姿勢に応じて補正した測定開始圧力値で被検体の外耳を圧迫して血圧を測定することにより、効率的に血圧値を測定することができる。
【0045】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、前記測定開始圧力値の補正では、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出し、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が水平であるときは前記測定開始圧力値を補正測定開始圧力値とすることが好ましい。
【0046】
被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳が心臓よりも高い位置にあるのか、同じ水平位置にあるのかを検出することができる。外耳が心臓よりも高い位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。このように、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、予め設定した静水圧差分だけ低くした測定開始圧力値で被検体の外耳を圧迫して血圧値を測定できるので、効率的に血圧値を測定することが可能になる。
【0047】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、前記測定開始圧力値の補正では、予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記被検体の姿勢の検出で検出された傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出することが好ましい。
【0048】
被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出することによって、被検体の心臓と外耳との高低差を算出して、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との静水圧差を算出することができる。これにより、発生した静水圧差に応じて測定開始圧力値が補正できるので、さらに効率よく血圧値が測定できるようになる。
【発明の効果】
【0049】
本発明は、外耳で測定された血圧値を、検出された被検体の姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。特に心臓と外耳との高低を検出することで、被検体の姿勢で発生した静水圧差による血圧値の変動を補正することができる。
【0050】
また、被検体の姿勢を検出して、血圧値を測定する際に被検体の外耳を圧迫する測定開始圧力値を可変することにより、効率的に血圧値を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明について図面の参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る血圧計の一例を示す回路図である。図1に示す血圧計は、被検体(不図示)の外耳の動脈を圧迫して血圧値1を測定する血圧測定手段11と、被検体の姿勢2を検出する姿勢検出手段21と、血圧測定手段11の測定した血圧値1を姿勢検出手段21の検出した姿勢2を基に補正して補正血圧値3を算出する血圧補正手段31と、を備える。
【0052】
血圧測定手段11は、被検体の外耳の動脈を圧迫して血圧値1を測定するものである。血圧測定手段11は、被検部の動脈を押圧し、押圧して圧迫した被検部の脈波を検出して、脈波と押圧した圧力から血圧値を測定するものを含む。
【0053】
例えば、血圧測定手段11は、被検体の外耳の動脈に向けて光を出射する発光素子と、発光素子の出射した光が被検体の外耳を透過した光又は被検体の外耳の内壁で散乱した光を受光する受光素子とで、脈波を検出するものが例示できる。発光素子は、例えば端面発光型レーザ、面発光レーザ、又はLEDを用いることができる。出射する光の波長、振幅、位相等の特性は限定しない。例えば、測定部位に含まれる血管によって散乱される光であってもよい。また、測定部位の血管内部を流動するヘモグロビン等の流動物によって散乱される光であってもよい。受光素子は、例えば、シリコンフォトダイオードなどのフォトダイオード、CdSなどの光電導素子、光電管、ポジションセンサー、CCD、MOSなどによって受光するものを用いることができる。受光する光の波長、振幅、位相等の特性は限定しない。さらに、発光素子及び受光素子は、ドップラーレーダーであってもよい。上記の受光素子が脈波を検出することによって、外耳を走る末梢血管から血圧値を測定できる。
【0054】
なお、脈波を検出することのできるものとしては、上記のほかに、コロトコフ音を検出するもの、及び脈動による圧力又は振動を検出して圧脈を測定するものが例示できる。
【0055】
被検部の圧迫方法は限定するものではなく、例えば空気カフが例示できる。また、機械的なアクチュエータを用いて圧迫するものでもよい。被検部を押圧する圧力の測定方法も限定するものではなく、例えば圧電センサが例示できる。空気カフであれば、カフ内の空気圧を測定するものでもよい。
【0056】
血圧測定手段11が血圧値1を測定する方法の一例について図2を用いて説明する。図2は、血圧測定手段11の検出する脈波の一例を示すグラフであり、(a)は圧力の時間推移、(b)は脈動波形振幅の時間推移を示す。図2(a)では、心臓の鼓動による被検部の周期的な動脈内圧61と、血圧測定手段11が被検部を押圧する押圧圧力51と、が示されている。図2(b)は、血圧測定手段11の検出した脈動波形71が示されている。血圧測定手段11は、まず被検体の外耳の動脈のある被検部を押圧する圧力を増加させ、動脈の血流が停止する程の圧力P0まで被検部を圧迫する。この圧力P0を測定開始圧力値P0とする。このときの時間はT0であり、時間T0では図2(b)に示した脈動波形71はほぼ検出されなくなる。時間T0を境にして、血圧測定手段11は被検部を押圧する押圧圧力51を徐々に減少させていく。押圧圧力51が心臓の鼓動により脈動する動脈内圧61の最高値と等しくなった時間T1で被検部に血液が流れ始めるので、脈動波形71が出現する。この時間T1での押圧圧力51が最高血圧値P1となる。時間T1から脈動波形振幅71の振幅は徐々に大きくなり、時間T2で最大となる。この時間T2での押圧圧力51が、動脈内圧61の最低値である拡張期血圧値P2となる。押圧圧力51をさらに低下させると脈波信号振幅71は緩やかに減少した後、上端部が一定値となり平坦な状態を示し、さらに若干の時間遅れの後に、時間T3で脈波信号振幅71の下端部も一定値に転換する。この時間T3での押圧圧力51が最低血圧値P3となる。以上のようにして、最高血圧値P1、拡張期血圧値P2、最低血圧値P3を測定することができる。なお、血圧値を測定する方法は上記に限定されるものではなく、徐々に押圧圧力51を増加させるものでもよい。
【0057】
姿勢検出手段21は、被検体の姿勢を検出するものであり、例えば重力加速度の方向を検出する重力センサを応用したものが例示できる。姿勢検出手段21は、重力加速度の方向を検出することにより、被検体の正中線が重力加速度の方向と平行か垂直かを検出できるものでもよく、これを第1の姿勢検出手段とする。被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳が心臓よりも高い位置にあるのか、同じ水平位置にあるのかを検出することができる。また、姿勢検出手段21は、重力加速度の方向を検出することにより、被検体の正中線と重力加速度の方向と平行な鉛直線との傾き角を検出するものでもよく、これを第2の姿勢検出手段とする。被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出することにより、被検体の心臓と外耳との高低差を算出することができる。
【0058】
図1の血圧補正手段31は、姿勢検出手段21の検出した姿勢2を基に血圧値1を補正して補正血圧値3を算出するものである。
【0059】
図1に示す血圧補正手段31の第1形態について図1及び図3を用いて説明する。図3は、血圧測定手段11が被検体91の外耳42に装着されている被検体91の模式図であり、(a)は被検体の正中線が鉛直にある姿勢、(b)は被検体の正中線が水平にある姿勢を示す。被検体91の正中線101が鉛直にあるとき、図3(a)に示すように、被検体91の正中線101は重力方向103と平行な鉛直線102と並行となっている。このとき、被検体91の心臓41は、被検体91の外耳42に装着されている血圧測定手段11よりも低い位置にある。被検体91の正中線101が水平にあるとき、図3(b)に示すように、被検体91の正中線101が水平線104と平行となっている。このとき、被検体91の心臓41は、外耳42に装着されている血圧測定手段11と略同じ水平位置にある。
【0060】
姿勢検出手段21は、被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、血圧補正手段31は、被検体91の正中線101が鉛直であることを姿勢検出手段21が検出したときは予め設定された静水圧補正値を血圧測定手段11の測定した血圧値1に加算して補正血圧値3を算出し、被検体91の正中線101が水平であることを姿勢検出手段21が検出したときは血圧測定手段11の測定した血圧値1を補正血圧値3とする。このとき、図1に示した姿勢2は姿勢検出手段21の検出した被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかという情報である。
【0061】
すなわち、血圧補正手段31の第1形態に係る血圧補正方法は、被検体の姿勢の検出では、被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、補正血圧値の算出では、被検体の姿勢の検出で検出した被検体の正中線101が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を測定した血圧値1に加算して補正血圧値3を算出し、被検体の姿勢の検出で検出した被検体91の正中線101が水平であるときは測定した血圧値1を補正血圧値3とする。
【0062】
この場合、姿勢検出手段21は、前述の第1の姿勢検出手段と同様のものを用いることができる。図3(a)に示したように、外耳42が心臓41よりも高い位置にあれば、外耳42で測定された血圧値1と心臓42の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、図3(b)に示したように、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳42で測定された血圧値1と心臓42の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。図3(a)に示した姿勢で測定された血圧値1は、発生した静水圧差の影響により低くなる。この姿勢で測定された血圧値1に予め設定された静水圧補正値を加算することにより、心臓41の高さで測定された血圧値に補正することができる。なお、静水圧補正値は、心臓41と外耳42との静水圧差とすることができる。静水圧差は心臓41と外耳42との距離に依存するので、予め設定される静水圧補正値は被検体に応じて可変してもよい。以上のように、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、静水圧差が発生している場合は、外耳で測定された血圧値に予め設定した静水圧差を加算し、外耳で測定された血圧値を心臓の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0063】
図1に示す血圧補正手段31の第2形態について図1及び図4を用いて説明する。図4は、血圧測定手段11が被検体91の外耳42に装着されている被検体91の模式図であり、(a)は被検体91の正中線101が鉛直である姿勢、(b)は被検体91の正中線101が鉛直線102に対して傾き角Qである姿勢を示す。図4(a)の被検体91は直立しており、被検体91の正中線101は重力方向103と平行な鉛直線102と並行となっている。このとき、心臓41と外耳42との高低差hは、心臓41と外耳42との距離Lとなる。図4(b)の被検体91は、上体が前傾した姿勢となっている。このときの心臓41と外耳42との鉛直線上に投影した距離が高低差hとなる。
【0064】
姿勢検出手段21は、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出し、血圧補正手段31は、予め測定された被検体91の心臓41と血圧測定手段11との距離L及び姿勢検出手段21の検出した傾き角Qから距離Lに対する被検体91の心臓41と血圧測定手段11との高低差hの割合iを計算し、予め設定された静水圧補正値と高低差hの割合iとの積を血圧測定手段11が測定した血圧値1に加算して補正血圧値3を算出する。このとき、図1に示した姿勢2は、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qであり、姿勢検出手段21は傾き角Qを姿勢2として血圧測定手段12に出力する。
【0065】
すなわち、血圧補正手段31の第2形態に係る血圧補正方法は、被検体の姿勢の検出では、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出し、補正血圧値3の算出では、予め測定された被検体91の心臓41と被検体91の外耳42との距離L及び被検体の姿勢の検出で検出された傾き角Qから距離Lに対する被検体の心臓41と被検体の外耳42との高低差hの割合iを計算し、予め設定された静水圧補正値と高低差hの割合iとの積を測定した血圧値1に加算して補正血圧値3を算出する。
【0066】
高低差hの割合iは、距離L及び傾き角Qから三角関数を用いて高低差hを算出し、距離Lに対する高低差hの割合を求めることで算出することができる。この場合、姿勢検出手段21は、前述の第2の姿勢検出手段と同様のものを用いることができる。この高低差hの割合iと予め設定された静水圧補正値とを積算することにより、心臓41と外耳42との高低差hに応じた静水圧差を算出することができる。なお、静水圧補正値は、心臓41と外耳42との静水圧差とすることができる。静水圧差は心臓41と外耳42との距離に依存するので、予め設定する静水圧補正値は被検体に応じて可変してもよい。このように、心臓41と外耳42との高低差hに応じた血圧値1の補正ができるので、外耳42で測定された血圧値1をより正確に心臓41の高さで測定された血圧値に補正することができる。
【0067】
さらに、図1に示す血圧補正手段31の第3形態について図1及び図4を用いて説明する。血圧補正手段31の第3形態を含む血圧計は、被検体91の外耳42の動脈を圧迫して血圧値1を測定する血圧測定手段11と、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出する姿勢検出手段21と、予め測定された被検体91の心臓41と血圧測定手段11との距離L及び姿勢検出手段21の検出した傾き角Qから被検体91の心臓41と血圧測定手段11との高低差hを算出し、数3により補正した補正血圧値yを算出する血圧補正手段31と、を備える。
【0068】
すなわち、血圧補正手段31の第3形態を含む血圧補正方法は、被検体91の外耳42の動脈を圧迫して血圧値1を測定し、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出し、予め測定された被検体91の心臓41と被検体91の外耳42との距離L及び検出された傾き角Qから被検体91の心臓41と被検体91の外耳42との高低差hを算出し、数3により補正した補正血圧値yを算出する。
【数3】

但し、aは所定の係数、nは正整数、xは測定された血圧値1、b(h)は高低差hに対する補正量である。
【0069】
第3形態の血圧補正手段31は、前述の図4で説明した高低差hを含む一般式によって補正血圧値yを算出する。
【0070】
所定の係数a(n=1、2、・・・n)は、血圧測定手段11で測定した血圧値と基準となる測定方法で測定した血圧値との相関を予め測定して決めることができる。基準となる測定方法は、例えば、心臓41の高さの上腕部で測定した血圧値が例示できる。なお、高低差による補正量はb(h)で補正するので、血圧測定手段11での血圧値の測定は、心臓41と同じ水平位置で測定することが好ましい。
【0071】
なお、前述の数3において、n=1としてもよい。n=1であることにより、数3を1次関数にすることができる。これにより単純な比例関係により補正血圧値を算出することができるので、補正血圧値を算出する回路の設計が容易になる。なお、所定の係数aは、動脈内径による血圧比率を含む。例えば、上腕部の動脈内径と外耳の動脈内径との血圧比率である。さらに、所定の係数aは、被検体に応じて異なる係数としてもよいし、複数の被検体に対して同一の係数としてもよい。
【0072】
補正量b(h)は、高低差hに対する補正量であり、静水圧差を含む。静水圧差は、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との静水圧差である。補正量b(h)は、予め設定した固定値としてもよいが、高低差hの関数であってもよい。
【0073】
補正量b(h)は、例えば、b(h)=bhとしてもよい。但し、bは前記高低差hに対する補正係数である。補正量b(h)を高低差hの関数とすることで、静水圧差をより正確に補正した補正血圧値yを算出することができる。なお、補正係数bは、被検体に応じて異なる係数としてもよいし、複数の被検体に対して同一の係数としてもよい。
【0074】
このように、外耳で測定された血圧値を、被検体の心臓と外耳との高低差hを含む数3に示した一般式を用いて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、より正確な補正血圧値を算出することができる。例えば、心臓41の高さにある上腕部(不図示)で測定した血圧値に補正することもできる。
【0075】
なお、本実施形態の血圧計は、後述の実施形態2で説明する姿勢検出手段21の検出した姿勢又は傾き角を基に血圧測定手段の圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を補正する圧力補正手段を含んでもよい。さらに、血圧測定手段11の測定した血圧値1と血圧値1心臓の高さの血圧値に補正した補正血圧値3とを出力/表示することもできる。
【0076】
以上説明したように、実施形態1の血圧計は、被検体の外耳の動脈を圧迫して血圧値を測定し、前記被検体の姿勢を検出し、前記測定した血圧値を前記検出した姿勢を基に補正して補正血圧値を算出する。前記姿勢は傾き角を含む。このように、外耳で測定された血圧値を、血圧値の測定と同時に検出した姿勢に応じて心臓の高さで測定された血圧値に補正することにより、被検体の姿勢による変動を加味した血圧値の補正が可能になる。
【0077】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る血圧計の一例を示す回路図である。図2に示す血圧計は、被検体(不図示)の外耳の動脈を圧迫して血圧値5を測定する血圧測定手段12と、被検体の姿勢を検出する姿勢検出手段21と、姿勢検出手段21の検出した姿勢2を基に血圧測定手段12の圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を補正した補正測定開始圧力値4を血圧測定手段12に出力する圧力補正手段35と、を備える。
【0078】
血圧測定手段12及び姿勢検出手段21は、前述の実施形態1で説明したものと同様のものを用いることができる。ただし、血圧測定手段12は、加圧又は減圧を開始する前述の図2で説明した測定開始圧力値が、圧力補正手段35から出力された補正測定開始圧力値4であるものである。
【0079】
圧力補正手段35は、前述の実施形態1の図2で説明した測定開始圧力値P0を、姿勢検出手段21の検出した姿勢2を基に補正するものである。
【0080】
図5に示す圧力補正手段35の第1形態について図3及び図5を用いて説明する。図3は、前述したように、血圧測定手段11が被検体91の外耳42に装着されている被検体91の模式図であり、(a)は被検体の正中線が鉛直にある姿勢、(b)は被検体の正中線が水平にある姿勢を示す。姿勢検出手段21は、被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、圧力補正手段35は、被検体91の正中線101が鉛直であることを姿勢検出手段21が検出したときは予め設定された静水圧補正値を測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値4を算出し、被検体91の正中線101が水平104であることを姿勢検出手段21が検出したときは測定開始圧力値を補正測定開始圧力値4とする。このとき、図5に示した姿勢2は、姿勢検出手段21の検出した被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかという情報となる。
【0081】
すなわち、圧力補正手段35の第1形態に係る測定開始圧力補正方法は、被検体の姿勢の検出では、被検体91の正中線101が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、測定開始圧力値の補正では、被検体の姿勢の検出で検出した被検体91の正中線101が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値4を算出し、前記被検体の姿勢の検出で検出した被検体91の正中線101が水平であるときは測定開始圧力値を補正測定開始圧力値4とする。
【0082】
この場合、姿勢検出手段21は、前述の第1の姿勢検出手段と同様のものを用いることができる。図3(a)に示したように、外耳42が心臓41よりも高い位置にあれば、外耳42で測定された血圧値1と心臓42の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生する。一方、図3(b)に示したように、外耳が心臓と同じ水平位置にあれば、外耳42で測定された血圧値1と心臓42の高さで測定された血圧値との間に静水圧差は発生しない。図3(a)に示した姿勢での血圧値1は、静水圧差の影響により心臓41の高さで測定された血圧値よりも低くなる。血圧測定手段12は、この静水圧差分だけ低くした補正測定開始圧力値4で被検体の外耳を圧迫しても動脈の血流を停止させることができる。測定開始圧力値は血圧値を測定する際に被検部を押圧する最大の圧力となるので、この測定開始圧力値を下げることができれば血圧値の測定を効率化することができる。なお、静水圧補正値は、心臓41と外耳42との静水圧差とすることができる。静水圧差は心臓41と外耳42との距離に依存するので、予め設定される静水圧補正値は被検体に応じて可変してもよい。以上より、被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出することによって、外耳で測定された血圧値と心臓の高さで測定された血圧値との間に静水圧差が発生していることを検出することができる。これにより、予め設定した静水圧差分だけ低くした測定開始圧力値で被検体の外耳を圧迫して血圧値を測定できるので、効率的に血圧値を測定することが可能になる。
【0083】
図5に示す圧力補正手段35の第2形態について図4及び図5を用いて説明する。図4は、前述したように、血圧測定手段11が被検体91の外耳42に装着されている被検体91の模式図であり、(a)は被検体91の正中線101が鉛直である姿勢、(b)は被検体91の正中線101が鉛直線102に対して傾き角Qである姿勢を示す。図4(a)の被検体91は直立しており、被検体91の正中線101は重力方向103と平行な鉛直線102と並行となっている。このとき、心臓41と外耳42との高低差hは、心臓41と外耳42との距離Lとなる。図4(b)の被検体91は、上体が前傾した姿勢となっている。このときの心臓41と外耳42との鉛直線上に投影した距離が高低差hとなる。
【0084】
姿勢検出手段21は、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出し、圧力補正手段35は、予め測定された被検体91の心臓41と血圧測定手段12との距離及び姿勢検出手段21の検出した傾き角Qから距離Lに対する被検体91の心臓41と血圧測定手段11との高低差hの割合iを計算し、予め設定された静水圧補正値と高低差hの割合iとの積を測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値4とする。このとき、図5に示した姿勢2は、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qであり、姿勢検出手段21は傾き角Qを姿勢2として血圧補正手段31に出力する。
【0085】
すなわち、圧力補正手段35の第2形態に係る測定開始圧力補正方法は、被検体の姿勢の検出では、被検体91の正中線101と鉛直線102との傾き角Qを検出し、測定開始圧力値の補正では、予め測定された被検体91の心臓41と被検体91の外耳42との距離L及び前記被検体の姿勢の検出で検出された傾き角Qから距離Lに対する被検体91の心臓41と被検体91の外耳42との高低差hの割合iを計算し、予め設定された静水圧補正値と高低差hの割合iとの積を測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値4を算出する。
【0086】
高低差hの割合iは、距離L及び傾き角Qの三角関数を用いて高低差hを算出し、距離Lに対する高低差hの割合を求めることで算出することができる。この場合、姿勢検出手段21は、前述の第2の姿勢検出手段と同様のものを用いることができる。この高低差hの割合iと予め設定された静水圧補正値とを積算することにより、心臓41と外耳42との高低差hに応じた静水圧差を算出することができる。なお、静水圧補正値は、心臓41と外耳42との静水圧差とすることができる。静水圧差は心臓41と外耳42との距離に依存するので、静水圧補正値は被検体に応じて可変してもよい。このように、発生した静水圧差に応じて測定開始圧力値が補正できるので、さらに効率よく血圧値が測定できるようになる。
【0087】
以上説明したように、本発明に係る測定開始圧力補正方法は、被検体の外耳の動脈を圧迫して血圧値を測定する際に、前記被検体の姿勢を検出した後、前記被検体を圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を前記検出した姿勢を基に補正する。前記姿勢は傾き角を含む。このように、検出された姿勢に応じて補正した測定開始圧力値で被検体の外耳を圧迫して血圧を測定することにより、効率的に血圧値を測定することができる。なお、本実施形態の血圧計は、前述の実施形態1で説明した血圧測定手段11の測定した血圧値1を姿勢検出手段21の検出した姿勢2を基に補正して補正血圧値を算出する血圧補正手段を含んでもよい。
【0088】
上記実施形態1及び実施形態2において、被検体の一部として外耳を例として説明したが、被検体の一部は外耳及び/又はその周辺でもよい。また、被検体の一部は、外耳道及び/又は耳介でもよい。さらに、被検体の一部は、耳珠及び/又はその周辺でもよい。
【実施例】
【0089】
外耳で測定された血圧値を心臓の高さで測定された血圧値に補正する実施例について説明する。外耳で最大血圧値P1及び拡張期血圧値P2を5分ごとに測定して、上腕血圧値との測定結果を比較した。2方向加速度センサ(重力センサ)を用いて頭位も検出した。外耳の血圧値は、脈波を光電管脈波センサで検出して測定した。上腕血圧値は、二重カフ血圧計(テルモES−P1000)で測定した。また、対象は、20〜70歳、58例(男性25名、女性33名)である。また、血圧値の範囲は、最大血圧値P1が86〜202mmHg、拡張期血圧値P2が48〜126mmHgであった。
【0090】
上腕血圧値BPbと外耳血圧値BPeとの間には、
【数4】

の関係が成り立つとした。但し、Aは動脈内径による血圧比率、Bは上腕と外耳との静水圧差である。まず、血圧比率A及び静水圧差Bの平均値を求めた。最大血圧値P1での血圧比率Aは1.38±0.17、拡張期血圧値P2での血圧比率Aは1.30±0.27であり、静水圧差Bは25±2.7mmHgであった。これらの数値を用いて対象者の最大血圧値P1及び拡張期血圧値P2を算出したところ、上腕血圧値BPbと上腕血圧測定値BPb’との差の平均は、最大血圧値P1で0.3±14mmHg、拡張期血圧値P2で−2.5±2.7mmHgであった。さらに、上腕血圧値BPbと上腕血圧測定値BPb’との間に、最大血圧値P1で0.86倍、拡張期血圧値P2で0.81倍という相関関係があることが判明した。
【0091】
上記の測定より、数4を用いて外耳血圧値BPeから精度よく上腕血圧測定値BPb’が算出できることが分かる。上腕血圧値BPbと上腕血圧測定値BPb’の相関関係を用いれば、さらに正確な上腕血圧測定値BPb’を算出することができる。なお、血圧比率Aについては若干の個人差があり、対象者ごとに血圧比率Aを設定することで、上腕血圧測定値BPb’の精度が向上することが明らかとなった。ただし、血圧比率Aの個人差は若干でありかつ静水圧差Bについては個人差がないので、相対的な血圧値の変動は上腕血圧値BPbに補正した血圧値で測定することができる。
【0092】
なお、本実施例に用いた外耳装着用の血圧計は、イアーピースの装着感程度であり、カフ加圧時の負担も軽微であった。さらに、従来の血圧計と比較して両上肢の動きが自由であり、日常生活での支障がはるかに少ないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、被検体の姿勢に応じて測定値を補正するものであるので、血圧値に限らず、脈波、心電、体温などの他の生体情報の測定値にも利用することができる。さらに、肌の水分量の測定や、頭皮からの脂の分泌量の測定など、美容目的でも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施形態1に係る血圧計の一例を示す回路図である。
【図2】血圧測定手段の検出する脈波の一例を示すグラフであり、(a)は圧力の時間推移、(b)は脈動波形振幅の時間推移を示す。
【図3】血圧測定手段が外耳に装着されている被検体の模式図であり、(a)は被検体の正中線が鉛直にある姿勢、(b)は被検体の正中線が水平にある姿勢を示す。
【図4】血圧測定手段が外耳に装着されている被検体の模式図であり、(a)は被検体の正中線が鉛直である姿勢、(b)は被検体の正中線が鉛直線に対して傾いている姿勢を示す。
【図5】実施形態2に係る血圧計の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0095】
1、5 血圧値
2 姿勢
3 血圧補正値
4 測定開始圧力値
11、12 血圧測定手段
21 姿勢検出手段
31 血圧補正手段
35 圧力補正手段
41 被検体の心臓
42 被検体の外耳
51 押圧圧力
61 動脈内圧
71 脈動波形
91 被検体
101 正中線
102 鉛直線
103 重力加速度方向
104 水平線
L 距離
h 高低差
Q 傾き角
P0 測定開始圧力値
P1 最高血圧値
P2 拡張期血圧値
P3 最低血圧値
T0、T1、T2、T3 時間



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、
前記被検体の姿勢を検出する姿勢検出手段と、
前記血圧測定手段の測定した血圧値を前記姿勢検出手段の検出した姿勢を基に補正して補正血圧値を算出する血圧補正手段と、を備える血圧計。
【請求項2】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、
前記血圧補正手段は、前記被検体の正中線が鉛直であることを前記姿勢検出手段が検出したときは予め設定された静水圧補正値を前記血圧測定手段の測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出し、前記被検体の正中線が水平であることを前記姿勢検出手段が検出したときは前記血圧測定手段の測定した血圧値を補正血圧値とすることを特徴とする請求項1に記載の血圧計。
【請求項3】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、
前記血圧補正手段は、予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記血圧測定手段が測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出することを特徴とする請求項1に記載の血圧計。
【請求項4】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、
前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出する姿勢検出手段と、
予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差hを算出し、数1により補正した補正血圧値yを算出する血圧補正手段と、を備える血圧計。
【数1】

但し、aは所定の係数、nは正整数、xは前記血圧測定手段の測定した血圧値、b(h)は前記高低差hに対する補正量である。
【請求項5】
請求項4において、n=1であることを特徴とする血圧計。
【請求項6】
請求項4において、b(h)=bhであることを特徴とする血圧計。
但し、bは前記高低差hに対する補正係数である。
【請求項7】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する血圧測定手段と、
前記被検体の姿勢を検出する姿勢検出手段と、
前記姿勢検出手段の検出した姿勢を基に前記血圧測定手段の圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を補正する圧力補正手段と、を備える血圧計。
【請求項8】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、
前記圧力補正手段は、前記被検体の正中線が鉛直であることを前記姿勢検出手段が検出したときは予め設定された静水圧補正値を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出し、前記被検体の正中線が水平であることを前記姿勢検出手段が検出したときは前記測定開始圧力値を補正測定開始圧力値とすることを特徴とする請求項7に記載の血圧計。
【請求項9】
前記姿勢検出手段は、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、
前記圧力補正手段は、予め測定された前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との距離及び前記姿勢検出手段の検出した傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記血圧測定手段との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値とすることを特徴とする請求項7に記載の血圧計。
【請求項10】
前記血圧測定手段は、前記被検体の一部の動脈に向けて光を出射する発光素子と、前記発光素子の出射した光が前記被検体の一部を透過した光又は前記被検体の一部の内壁で散乱した光を受光する受光素子とで、脈波を検出することを特徴とする請求項1から9に記載のいずれかの血圧計。
【請求項11】
前記被検体の一部は、外耳及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項1から10に記載のいずれかの血圧計。
【請求項12】
前記被検体の一部は、外耳道及び/又は耳介であることを特徴とする請求項1から10に記載のいずれかの血圧計。
【請求項13】
前記被検体の一部は、耳珠及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項1から10に記載のいずれかの血圧計。
【請求項14】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定し、
前記被検体の姿勢を検出し、
前記測定した血圧値を前記検出した姿勢を基に補正して補正血圧値を算出する血圧補正方法。
【請求項15】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、
前記補正血圧値の算出では、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を前記測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出し、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が水平であるときは前記測定した血圧値を補正血圧値とすることを特徴とする請求項14に記載の血圧補正方法。
【請求項16】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、
前記補正血圧値の算出では、予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記被検体の姿勢の検出で検出された傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定した血圧値に加算して補正血圧値を算出することを特徴とする請求項14に記載の血圧補正方法。
【請求項17】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定し、
前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、
予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記検出された傾き角から前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差hを算出し、数2により補正した補正血圧値yを算出する血圧補正方法。
【数2】

但し、aは所定の係数、nは正整数、xは前記測定した血圧値、b(h)は前記高低差hに対する補正量である。
【請求項18】
請求項17において、n=1であることを特徴とする血圧補正方法。
【請求項19】
請求項17において、b(h)=bhであることを特徴とする血圧補正方法。
但し、bは前記高低差hに対する補正係数である。
【請求項20】
前記被検体の一部は、外耳及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項14から19に記載のいずれかの血圧補正方法。
【請求項21】
前記被検体の一部は、外耳道及び/又は耳介であることを特徴とする請求項14から19に記載のいずれかの血圧補正方法。
【請求項22】
前記被検体の一部は、耳珠及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項14から19に記載のいずれかの血圧補正方法。
【請求項23】
被検体の一部の動脈を圧迫して血圧値を測定する際に、
前記被検体の姿勢を検出した後、
前記被検体を圧迫する圧力のうち加圧又は減圧を開始する測定開始圧力値を前記検出した姿勢を基に補正する測定開始圧力補正方法。
【請求項24】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線が鉛直にあるか水平にあるかを検出し、
前記測定開始圧力値の補正では、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が鉛直であるときは予め設定された静水圧補正値を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出し、前記被検体の姿勢の検出で検出した前記被検体の正中線が水平であるときは前記測定開始圧力値を補正測定開始圧力値とすることを特徴とする請求項23に記載の測定開始圧力補正方法。
【請求項25】
前記被検体の姿勢の検出では、前記被検体の正中線と鉛直線との傾き角を検出し、
前記測定開始圧力値の補正では、予め測定された前記被検体の心臓と前記被検体の一部との距離及び前記被検体の姿勢の検出で検出された傾き角から前記距離に対する前記被検体の心臓と前記被検体の一部との高低差の割合を計算し、予め設定された静水圧補正値と前記高低差の割合との積を前記測定開始圧力値から減算して補正測定開始圧力値を算出することを特徴とする請求項23に記載の測定開始圧力補正方法。
【請求項26】
前記被検体の一部は、外耳及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項23から25に記載のいずれかの測定開始圧力補正方法。
【請求項27】
前記被検体の一部は、外耳道及び/又は耳介であることを特徴とする請求項23から25に記載のいずれかの測定開始圧力補正方法。
【請求項28】
前記被検体の一部は、耳珠及び/又はその周辺であることを特徴とする請求項23から25に記載のいずれかの測定開始圧力補正方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−102190(P2006−102190A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293441(P2004−293441)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】