説明

血圧降下剤

【課題】風味良好で苦味がなく、血圧降下作用が高い血圧降下剤を提供すること。
【解決手段】プロテアーゼ及びホスホリパーゼAで処理した酵素処理卵黄を有効成分として含有することを特徴とする血圧降下剤。好ましくは、アルカリ性プロテアーゼで処理するのと同時に、ホスホリパーゼAで処理して卵黄中のリン脂質を加水分解することによって、反応系のpHを下げながら処理を行なって得られた酵素処理卵黄を有効成分として含有する血圧降下剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下剤に関し、詳しくは、特定の酵素を併用して得られる酵素処理卵黄を有効成分とする血圧降下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、糖尿病、高脂血症等とともに生活習慣病と呼ばれ、その予防や改善は最近重要な課題になってきている。特に高血圧症は、昔から日本人に多い疾患であり、その予防や改善は、大きな問題になってきている。
【0003】
血圧を降下させる作用を有する物質として、最近は各種の化学品に加えて、天然物を起源とする物質が多く紹介されるようになってきている。その主要な物質は、たんぱく質をプロテアーゼで部分分解して得られる酵素処理物であり、その有効成分はアミノ酸が2〜20個ほど連なったペプチド鎖である。
【0004】
そして、様々なたんぱく質を起源とした様々なたんぱく質のプロテアーゼ分解物、及びその有効成分であるペプチド鎖が、血圧降下剤として紹介されている。例えば、マグロや牡蠣等の海産物たんぱく質を起源とするもの(例えば特許文献1、2参照)や、グルテンたんぱく質や米タンパク質等の植物たんぱく質を起源とするもの(例えば特許文献3、4参照)、さらには乳蛋白質を起源とするもの(例えば特許文献5参照)、卵黄たんぱく質を起源とするもの(例えば特許文献6参照)等が紹介されている。
【0005】
しかし、これらのたんぱく質のプロテアーゼ分解物は、その有効成分であるアミノ酸が2〜20個ほど連なったペプチド鎖が強い苦味を呈するという問題があり、また、血圧降下作用を呈する有効成分濃度が、プロテアーゼ分解物中において低く、経口摂取時の効果が低いという問題があった。
【0006】
一方、加工食品においては、天然の乳化成分として、レシチンあるいは鶏卵が使用されている。また、それらの乳化性を向上させる目的でホスホリパーゼにより処理したリゾレシチン(酵素処理レシチン)やリゾ卵黄(酵素処理卵黄)も使用されている。そして、これらのホスホリパーゼ処理物の一部の成分についても、血圧降下作用を呈することが見出されている(例えば特許文献7参照)。
【0007】
しかし、これらのレシチンや卵黄のホスホリパーゼ処理物は、強い苦味を呈することはないものの、その血圧降下作用を呈する有効成分濃度が、極めて低く、上述のプロテアーゼ分解物に比べても一層低いという問題があった。
【0008】
また、耐熱性や乳化性等の優れた機能性を有する酵素処理卵黄として、プロテアーゼ及びホスホリパーゼで処理した酵素処理卵黄が提案されている(例えば特許文献8、9参照)。しかし、該酵素処理卵黄の血圧降下作用についての知見は得られていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平1−313498号公報
【特許文献2】特開2003−081997号公報
【特許文献3】特開平04−066594号公報
【特許文献4】特開平04−279529号公報
【特許文献5】特開昭62−270533号公報
【特許文献6】特開2005−145827号公報
【特許文献7】特開2006−316015号公報
【特許文献8】特開2004−305021号公報
【特許文献9】特開2005−052052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、風味良好で苦味がなく、血圧降下作用が高い血圧降下剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、血圧降下剤として用いられる酵素処理物において従来併用されることがなかった、プロテアーゼとホスホリパーゼの2種の酵素を併用して得られた卵黄酵素処理物は、プロテアーゼのみを使用して得られた酵素処理卵黄に比べて、意外にも、その血圧降下作用が高まり、また苦味も減少し風味が良好になるということを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、プロテアーゼ及びホスホリパーゼAで処理した酵素処理卵黄を有効成分として含有することを特徴とする血圧降下剤を提供するものである。
また、本発明は、該血圧降下剤を含有することを特徴とする飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、風味良好で苦味がなく、少量の使用で高い血圧降下作用を呈する医薬品や飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の血圧降下剤について詳述する。
【0015】
本発明の血圧降下剤は、卵黄をプロテアーゼ及びホスホリパーゼAで処理することにより得られた酵素処理卵黄を有効成分として含有する。
上記酵素処理卵黄の基質である上記卵黄としては、生卵黄、殺菌卵黄、加塩卵黄、加糖卵黄等のいずれをも使用することができるが、得られる酵素処理卵黄の風味や、酵素反応時の微生物の増殖を抑えることを考慮すると、加塩卵黄が適しており、例えば食塩が3〜20重量%添加された加塩卵黄を用いるのが良く、さらに好ましくは食塩が5〜15重量%、最も好ましくは食塩が5〜8重量%添加された加塩卵黄を用いるのが良い。
【0016】
基質としての上記卵黄の酵素処理の際に用いる酵素としては、プロテアーゼ及びホスホリパーゼAを使用する。
プロテアーゼとは、蛋白質を加水分解分解する反応を触媒する酵素であり、本発明で用いられる上記プロテアーゼとしては、活性のpH域で性質の分類される中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、又は活性部位の特徴で分類されるセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、金属プロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、さらには、その起源で分類される、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、ブロメライン、パンクレアチン、サブチリシン、サーモライシン、コラゲナーゼ、アルカラーゼ、遺伝子組換え等の技術によって同種あるいは異種の起源の遺伝子を導入し、発現・生産させたもの等を特に限定することなく使用することができ、これらの二種以上を併用して用いることもできる。
【0017】
本発明では、これらのプロテアーゼの中でも、より苦味が少なく風味が良好な酵素処理卵黄が得られる点で、アルカリ性プロテアーゼを使用することが好ましく、なかでも、バチルス(Bacillus)属細菌由来のものであることが好ましく、さらに好ましくはバチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細菌由来のものを使用する。具体的には、アルカラーゼAF(ノボザイム(株)製)が特に適している。
【0018】
ホスホリパーゼAは、リン脂質加水分解酵素とも呼ばれ、リン脂質をリゾリン脂質に分解する反応を触媒する酵素である。ホスホリパーゼAには、作用するエステル結合の位置の違いにより、ホスホリパーゼA1(EC3.1.1.32)とホスホリパーゼA2(EC3.1.1.4)の2種類があるが、本発明で用いる上記ホスホリパーゼAとしては、ホスホリパーゼA2を使用するのが好ましい。上記ホスホリパーゼAとしては、豚等の哺乳類の膵液や、微生物を起源とした市販のホスホリパーゼAを使用することができる。
【0019】
上記プロテアーゼ及び上記ホスホリパーゼAは、遊離酵素の形で基質としての上記卵黄に配合して使用してもよいし、固定化酵素の形で使用してもよい。
【0020】
遊離酵素で使用する場合は、上記卵黄中に遊離酵素を添加し、撹拌羽根で撹拌する方法や、上記卵黄中に遊離酵素を添加したものを収容する容器を回転・振盪する方法等、卵黄と酵素とが十分に接触できる方法であれば、卵黄に遊離酵素を作用させる方法は特に限定されない。
【0021】
固定化酵素の形で使用する場合は、上記卵黄中に固定化酵素を添加し、撹拌羽根で撹拌する方法や、上記卵黄中に固定化酵素を添加したものを収容する容器を回転・振盪する方法、あるいは固定化酵素をカラム状の筒に詰め、上記卵黄を通す又は循環させる方法等、卵黄と固定化酵素とが十分に接触できる方法であれば、卵黄に固定化酵素を作用させる方法は特に限定されない。
【0022】
遊離酵素で使用する場合、及び、卵黄中に固定化酵素を添加し、撹拌羽根で撹拌する方法や、卵黄中に固定化酵素を添加したものを収容する容器を回転・振盪する方法の場合、上記プロテアーゼの卵黄に対する使用量は、0.01〜0.1重量%が好ましく、0.03〜0.07重量%が特に好ましく、上記ホスホリパーゼAの卵黄に対する使用量は、0.005〜0.1重量%が好ましく、0.01〜0.08重量%が特に好ましい。
【0023】
固定化酵素をカラム状の筒に詰め、卵黄を通す又は循環させる方法の場合は、固定化酵素1g当たりの基質卵黄の通液量(単位通液速度)は、充填した固定化酵素の活性に大きく依存するが、概ね卵黄0.5〜10(g)/hr/固定化酵素(g)である。
【0024】
固定化酵素の形で使用する場合、酵素の固定化に用いられる担体の種類としては、陽イオン又は陰イオン交換樹脂、キトサン、セルロース、セラミック、ヒドロキシアパタイト、活性炭、多孔性ガラス、アルミナ、シリカゲル等、水不溶性担体であれば種類を問わないが、特に多孔質に加工された水不溶性多孔性担体が好ましく、アミノ基、アミン、カルボキシル基、スルホン酸基、ジエチルアミノエチル基、直鎖アルキル基、芳香族アルキル基、フェニル基等の官能基や疎水基を有する担体を用いることができる。これらの担体は二種以上組合せて用いることもできる。担体の形状は、特に限定されるものではないが、ビーズ状が好ましい。また、担体は、任意のサイズのものを用いることができる。
【0025】
酵素の固定化方法としては、用いる担体の性質により適切な任意の方法を用いることができるが、具体的には、共有結合法、イオン結合法、物理的吸着法のような担体結合法、あるいは架橋法、包括法が挙げられる。担体結合法で固定化する場合は、必要に応じて活性化処理を行った担体と酵素溶液とを混合、撹拌すればよい。架橋法で固定化する場合は、担体に、グルタールアルデヒド等の多官能性架橋剤を、酵素溶液を混合する前、酵素溶液と同時、あるいは酵素溶液を混合した後に、添加すればよい。包括法で固定化する場合は、ポリアクリルアミド、κ−カラギーナン、アルギン酸等のゲル化剤と酵素溶液とを混合し、所定の方法でゲル化し、必要に応じてビーズ状等の形状に加工すればよい。本発明の血圧降下剤を特に人体に対する用途に用いる場合は、担体の活性化試薬や架橋試薬の必要のないイオン結合法や物理吸着法、包括法で固定化されたものが好ましい。
【0026】
本発明で使用する上記酵素処理卵黄は、上記プロテアーゼによる酵素処理の後に上記ホスホリパーゼAで酵素処理した酵素処理卵黄であっても、上記ホスホリパーゼAによる酵素処理の後に上記プロテアーゼで酵素処理した酵素処理卵黄であってもよく、また、上記プロテアーゼによる酵素処理と上記ホスホリパーゼAによる酵素処理とを同時に行なった酵素処理卵黄であってもよい。上記酵素処理卵黄は、上記アルカリ性プロテアーゼで処理するのと同時に、上記ホスホリパーゼAで処理して卵黄中のリン脂質を加水分解することによって、反応系のpHを下げながら処理を行なうことで得られた酵素処理卵黄であることが好ましい。
【0027】
上記プロテアーゼによる酵素処理の後に上記ホスホリパーゼAで酵素処理する場合、又は、上記ホスホリパーゼAによる酵素処理の後に上記プロテアーゼで酵素処理する場合、上記プロテアーゼや上記ホスホリパーゼAを基質である上記卵黄に作用させる方法や、上記卵黄に対するこれらの酵素の使用量は、上述のとおりであり、好ましい反応温度及び反応時間は、50〜60℃で、3〜20時間である。
【0028】
上記アルカリ性プロテアーゼで処理するのと同時に、上記ホスホリパーゼAで処理して卵黄中のリン脂質を加水分解することによって、反応系のpHを下げながら処理を行なう方法について、以下に詳しく述べる。
この方法においては、アルカリ性プロテアーゼは、弱酸性域で卵黄に作用させることが好ましい。具体的には、卵黄の酵素処理開始時のpHが6.0以下、特に5.6以上6.0以下であることが好ましい。また、酵素処理の反応温度は、50℃より低いと、雑菌汚染の危険性が増し、60℃より高いと、卵黄蛋白の変性が起こるため、50〜60℃が好ましい。このような条件で酵素処理を行なうと、酵素処理反応終了時に酵素活性が失活した状態になるので特に好ましい。
【0029】
さらに詳しく説明すると、卵黄の酵素処理反応開始時のpHを5.6以上6.0以下にして、上記アルカリ性プロテアーゼ及び上記ホスホリパーゼAを該卵黄に同時に添加し、酵素処理反応を行なう。このような酵素処理反応によれば、ホスホリパーゼAにより卵黄中のリン脂質が加水分解され、脂肪酸が遊離し、反応系がpH5.5程度の弱酸性となる。この場合、反応温度が50℃以上であると、酵素の失活が促進される効果があり、目標とする分解度合いまで酵素処理反応が進むと、酵素は特別な加熱処理を行なわずとも失活することになる。好ましい反応温度及び反応時間は、50〜60℃で、3〜20時間である。
尚、卵黄の酵素処理開始時のpH調整については、従来、アルカリ性プロテアーゼは、アルカリ性で活性を有しているため、水酸化ナトリウム水溶液の添加を行なっていたが、本発明ではそのような調整は必要としない。
【0030】
また、上記プロテアーゼ及び上記ホスホリパーゼAによる酵素処理反応において、目標とする分解度合い、即ち酵素処理反応の終了は、これらの酵素を卵黄に作用させる方法や作用させる順序にかかわらず、卵黄の粘度で管理すればよい。通常、酵素処理卵黄の粘度が酵素処理反応前の1/3以下になればよく、1/4以下、さらには1/5以下が好ましく、具体的にはE型粘度計を用いた40℃での粘度が120Pa・s以下が好ましい。
【0031】
また、上記酵素処理卵黄は、酵素処理卵黄自体の経時変化やそれに伴う性能低下、及び酵素処理卵黄が配合された加工食品等の変性を防止する観点から、酵素処理反応終了時に、プロテアーゼ活性が消失していることが好ましい。プロテアーゼ活性は、例えば、後述する実施例において詳述するゼラチン軟化試験(酵素処理卵黄を添加したゼラチン水溶液をゲル化させ、破断強度を測定する)により確認することができる。プロテアーゼ活性は、該破断強度が酵素処理反応前の卵黄についての値の70%以上、具体的には100gf以上となるレベルまで消失していることが好ましく、該破断強度が酵素処理反応前の卵黄と同じとなるレベルまで完全に消失していることがさらに好ましい。
また、プロテアーゼはアミラーゼ活性も有している場合があるが、該アミラーゼ活性についても、上記プロテアーゼ活性についてと同様の観点から、酵素処理反応終了時に消失していることが好ましい。
【0032】
本発明の血圧降下剤は、上記酵素処理卵黄を有効成分として含有するものである。本発明の血圧降下剤の形態は、特に制限されるものではない。上記プロテアーゼ及び上記ホスホリパーゼAで処理して得られた上記酵素処理卵黄は液状を呈しているが、これを、必要に応じ、スプレードライ、フリーズドライ等の方法で乾燥させたり、賦形剤、結合剤、光沢剤、崩壊剤等の添加剤と混合して、ペースト状、粉末状、顆粒状等の形態に製剤化して、本発明の血圧降下剤としてもよい。
【0033】
本発明の血圧降下剤の投与量は、対象とする人の年令、血圧の程度等により異なるため一概には言えないが、上記酵素処理卵黄の固形分に換算して1日あたり、約10mg〜2000mg程度であり、通常1日1〜3回程度に分けて投与することができる。本発明の血圧降下剤中において、有効成分である上記酵素処理卵黄の含有量は、投与量及び投与回数を考慮の上、適宜決定すればよく、特に制限はない。
【0034】
本発明の血圧降下剤は、錠剤、粉剤、カプセル剤、注射剤等の医薬品として使用することができる。
【0035】
また、本発明の血圧降下剤は、上記酵素処理卵黄が風味良好で苦味が少ないことから、カプセル剤、錠剤等としたサプリメントをはじめ、多様な飲食品に配合してその機能を発揮させることもできる。その際には、上記酵素処理卵黄そのものを、本発明の血圧降下剤として、該飲食品に配合してもよい。本発明の血圧降下剤を配合する飲食品としては、例えば、マーガリン、ファストスプレッド、チョコレート、アイスクリーム、ホイップクリーム、マヨネーズ、タルタルソース、焼き菓子及びプリン等、卵黄を通常含有する飲食品が好適である。上記酵素処理卵黄が特に乳化性に優れるという特徴を有するため、水中油型乳化物や油中水型乳化物への使用が好ましく、特に油中水型乳化物への使用が好ましい。また、上記酵素処理卵黄は耐熱性に優れるという特徴も有するため、本発明の血圧降下剤は、加熱して飲食される飲食品にも好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
下記実施例1及び2においては、プロテアーゼ及びホスホリパーゼAで処理した酵素処理卵黄からなる本発明の血圧降下剤を作製した。下記比較例1及び2は、プロテアーゼ、ホスホリパーゼAのいずれかのみで処理した酵素処理卵黄を作製した。下記評価例においては、実施例2で得た本発明の血圧降下剤の効果を、高血圧自然発症ラットを用いて確認した。
【0037】
〔実施例1〕
10重量%加塩卵黄(pH6.0)に、アルカリ性プロテアーゼとしてアルカラーゼ2.4 AF(ノボザイム(株)、Bacillus licheniformis起源)0.07重量%、及びホスホリパーゼA2としてレシターゼ10L(ノボザイム(株)、豚膵臓起源)0.02重量%を添加し、50℃にて15時間反応させて、酵素処理卵黄を得た。
得られた酵素処理卵黄の風味を以下のようにして評価した。また、得られた酵素処理卵黄の粘度、残存プロテアーゼ活性、リゾ化率、残存アミラーゼ活性及び耐熱性を、それぞれ以下のようにして分析した。
【0038】
(風味)
酵素処理卵黄を9人のパネラーに試食させ、その苦味について、下記風味評価基準により4段階評価させ、その合計点数について下記風味評価算定基準で3段階評価を行なった。
・風味評価基準
苦味を全く感じない・・・・・・・・・・・・・・ 2点
やや苦味を感じるが問題ない範囲である・・・・・ 1点
強い苦味を感じる・・・・・・・・・・・・・・・ 0点
耐え難い苦味を感じる・・・・・・・・・・・・ −1点
・風味評価算定基準
◎:10〜18点
○:1〜9点
×:0点以下
【0039】
(粘度)
酵素処理卵黄の粘度を、E型粘度計により40℃で測定した。
【0040】
(残存プロテアーゼ活性)
酵素処理卵黄について以下のゼラチン軟化試験を行ない、残存プロテアーゼ活性の指標として破断強度を測定した。即ち、0.1M酢酸緩衝液(pH4.4)に、該緩衝液基準で5重量%の豚ゼラチンを溶解し、これに該緩衝液基準で10重量%の酵素処理卵黄を添加し、50℃で2時間静置した後、5℃で一晩冷却静置し、RHEONER RE-33005(Yamaden(株)製)、φ15mm、25℃、歪率10%にて破断強度を測定した。
【0041】
(リゾ化率)
リン脂質の加水分解で生成するリゾリン脂質について、酵素処理卵黄のリン脂質画分をクロロホルム/メタノール溶液(体積基準;2/1)で抽出し、TLC/FID(薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出装置、イアトロスキャンMK−5)にて分析し、総リン脂質に対するリゾリン脂質の割合(リゾ化率)を測定した。
【0042】
(残存アミラーゼ活性)
酵素処理卵黄の残存アミラーゼ活性は、「国税庁所定分析法・固体こうじ・αアミラーゼ」に基づいて測定した。即ち、デンプンを基質とし、40℃、pH5.0、30分間で、デンプン溶液1mlを、ヨウ素呈色度が波長670nm、光路長10mmで66%の透過率を与えるまで分解する活性を1Uとして、アミラーゼ残存活性を測定した。尚、この場合の検出限界は50U/gである。
【0043】
(耐熱性)
酵素処理卵黄について耐熱性を評価するため、以下の加熱試験を行ない、熱凝固性を測定した。即ち、酵素処理卵黄100gをパックして85℃にて40分加熱し、5℃で一晩放置後、FUDOU REOMETER NMR2002J(不動工業(株)製)にて、プランジャー径20mm、侵入深度8mm、侵入速度20mm/min.の条件で測定した。
【0044】
以上の評価及び分析の結果の詳細を、酵素処理前の10重量%加塩卵黄についての結果と共に、表1に示す。
表1から明らかなように、苦味の発生は抑制されていた。反応により粘度は反応前のほぼ1/7まで低下していた。加熱試験では熱凝固性が抑制されており、耐熱性が向上していることが確認された。ゼラチン軟化試験では、ゼラチンの軟化が僅かに認められた程度で、プロテアーゼ活性は殆ど消失していた。なお、アミラーゼ活性は認められなかった。
【0045】
〔比較例1〕
レシターゼ10L(ノボザイム(株)、豚膵臓起源)0.02重量%を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、反応を行い、得られた酵素処理卵黄について評価、分析を行った。それらの結果を表1に示す。
表1から明らかなように、得られた酵素処理卵黄には苦味が発生していた。反応により粘度は反応前のほぼ1/3まで低下していた。加熱試験では熱凝固性が抑制されており、耐熱性が向上していることが認められた。ゼラチン軟化試験では、ゼラチンの軟化が僅かに認められた程度で、プロテアーゼ活性は殆ど消失していた。
【0046】
〔比較例2〕
アルカラーゼ2.4 AF(ノボザイム(株)、Bacillus licheniformis起源)0.07重量%を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、反応を行い、得られた酵素処理卵黄について評価、分析を行った。それらの結果を表1に示す。
表1から明らかなように、苦味の発生は抑制されていた。
反応時間15時間では、粘度は反応前のほぼ1/4まで低下して平衡となった。この粘度測定結果からは、この酵素処理反応によるたんぱく質の分解の程度は、実施例1に比べて低く、その結果、得られた酵素処理卵黄中に含まれる有効成分としてのペプチド鎖の量が、実施例1に比べて少ないことが分かる。
また、加熱試験では、酵素処理前に比べると熱凝固性が改善されており、耐熱性が向上していることが確認されたが、実施例1で得られた酵素処理卵黄と比較すると劣る結果であった。
【0047】
【表1】

【0048】
〔実施例2〕
実施例1によって得られた酵素処理卵黄からなる液状の血圧降下剤を凍結乾燥して、粉末状の血圧降下剤を得た。
【0049】
〔評価例〕
4週齢の雄性SHR(高血圧自然発症ラット)をステンレスケージに個別に入れて飼育し、飼料及び水(水道水)を自由に摂取させ、毎朝同一時刻に体重及び摂食量を計測した。なお、飼育室は、室温23℃、湿度55%前後、明暗周期を12時間(明期8:00〜20:00、暗期20:00〜8:00)に設定した。
オリエンタル酵母(株)の固形飼料CRF-1(基本食)で1週間飼育した後、基本食の一部を上記実施例2で得られた血圧降下剤に置き換えた、5%添加飼料、10%添加飼料、又は対照群としての無添加標準飼料を、各群7匹ずつに自由に摂取させた。なお、塩分については、10%添加飼料の含有量に揃えた。
5%添加飼料、10%添加飼料、無添加標準飼料の各組成を下記の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
(体重測定)
5%添加飼料、10%添加飼料又は無添加標準飼料の摂取の開始後、1週間ごとにSHRラットの体重を測定した。その変化状況を図1に示す。
なお、無添加標準飼料投与群は、7週目までに50%が、12週目までに100%が死亡したため、図1に示すデータは、測定時に生存していたラットに基づくものである。
【0052】
(血圧測定)
5%添加飼料、10%添加飼料又は無添加標準飼料の摂取の開始後、1週間ごとにSHRラットの血圧を測定した。血圧の測定においては、ラットの尾動脈にセンサーを取り付けて、収縮期血圧(最高血圧)及び拡張期血圧(最低血圧)を測定した。収縮期血圧の変化状況を図2に、拡張期血圧の変化状況を図3に示す。
なお、無添加標準飼料投与群は、7週目までに50%が、12週目までに100%が死亡したため、図2、図3に示すデータは、測定時に生存していたラットに基づくものである。
【0053】
図2、3に示すように、収縮期血圧及び拡張期血圧とも、5%添加飼料群及び10%添加飼料群では無添加標準飼料群に比べ有意に低下し、特に10%添加飼料群で大きく低下した。尚、図1に示すように、5%添加飼料群及び10%添加飼料群では、無添加標準飼料群に比べ、体重の有意な差は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、評価例において本発明の血圧降下剤を含む又は含まない飼料で飼育した、高血圧自然発症ラットの体重の変化を示すグラフである。
【図2】図2は、評価例において本発明の血圧降下剤を含む又は含まない飼料で飼育した、高血圧自然発症ラットの収縮期血圧(最高血圧)の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、評価例において本発明の血圧降下剤を含む又は含まない飼料で飼育した、高血圧自然発症ラットの拡張期血圧(最低血圧)の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ及びホスホリパーゼAで処理した酵素処理卵黄を有効成分として含有することを特徴とする血圧降下剤。
【請求項2】
上記プロテアーゼが、アルカリ性プロテアーゼであることを特徴とする請求項1記載の血圧降下剤。
【請求項3】
上記酵素処理卵黄が、上記アルカリ性プロテアーゼで処理するのと同時に、上記ホスホリパーゼAで処理して卵黄中のリン脂質を加水分解することによって、反応系のpHを下げながら処理を行なって得られた酵素処理卵黄であることを特徴とする請求項2記載の血圧降下剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の血圧降下剤を含有することを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227601(P2009−227601A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73271(P2008−73271)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】