説明

血小板凝集を阻害するためのヒト起源の抗体

【課題】改善された特性を有する抗体を発見すること、およびかかる抗体を同定する方法を提供すること。
【解決手段】血小板凝集を阻害し、活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性よりも高いことを特徴とする、ヒト起源の単鎖抗体断片(scFv)を含む抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集を阻害するための抗体、かかる抗体を同定および/または単離する方法に関する。さらに、本発明は、この抗体をコードするDNAおよび抗体またはそれをコードするDNAを含む医薬または診断調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は、血栓症、心筋梗塞および不安定なアンギナの分野で重要な役割を果たす:血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaは特に重要である。なぜなら、それは二価血漿分子フィブリノーゲンの結合により血小板凝集を媒介するからである。このレセプターは、少なくとも2つのコンフォメーション状態を有する:1)非活性化状態、これは未刺激の血小板におけるデフォルト状態である。この非活性化状態では、レセプターは、そのリガンドに対して非常に低い親和性を示し、血小板凝集を誘導することはできない。2)例えば、トロンビンによる、血小板活性化後に存在する活性化状態。この活性化状態では、GPIIb/IIIaは、コンフォメーション変化を受け、これはフィブリノーゲンの高親和性結合を導く(非特許文献1)。
【0003】
結果的に、GPIIb/IIIaの治療的遮断は、非常に効果的な抗血小板ストラテジーである。なぜなら、それは、血小板活性化カスケードの最後の共通の終末点に影響するからである。数年の間に、非常に多様なGPIIb/IIIa-ブロッカーが開発された。これらは、GPIIb/IIIa-ブロッキングモノクローナル抗体(Abciximab)のキメラマウス/ヒトFab-断片(非特許文献2)、環状ペプチド(エプチフィバチド(Eptifibatide))または多環式合成ペプチド模倣物(例えば、チロフィバン(Tirofiban)(非特許文献3;非特許文献4)のいずれかである。この治療は有効であることが示されたが、この状況においていくつかの問題が依然存在する:
−特に、Abciximabでの治療下で、重篤な血小板減少症の増大した罹患率が存在する(約1%)(非特許文献5)。
−費用がかかる生産のために、治療のコストが、特にAbciximabについて、相当に高い。(非特許文献6)。
−GPIIb/IIIa-ブロッカーが血栓溶解と合わされる場合、特に重要である出血の合併症の増大がある。
−経口投与される合成GPIIb/IIIa-ブロッカーは、その薬物動態学的特性、特にレセプターに対するやや低い親和性、のために期待はずれの結果をもたらした。(非特許文献7)。
−GPIIb/IIIa-ブロッカー、特に低分子薬剤が、結合後にレセプターと相互作用する証拠がある。これは、逆説的内因性活性化効果を生じるかもしれない(非特許文献8)
−Abciximabの効果の可逆性は非常に低い(>12時間)
−Abciximabでの処置した患者の約6%は抗ヒトキメラ抗体(AHAC)を発生した;繰り返し処置した患者の場合には11%(非特許文献9)。
【0004】
現在使用される全てのGPIIb/IIIaブロッカーは、活性化および非活性化レセプターに同様の親和性で結合する。活性化特異的インヒビターはいくつかの利点を提供するかもしれない。例えば、血小板接着は、インタクトなままであり、これは出血事象の低減をもたらす。さらに、非活性化レセプターとの相互作用は妨げられる。これは、抗体と同様の親和性を有するより小さいGPIIb/IIIa-ブロッキング剤を開発するために望ましく、これはより良好な薬物動態学的特性を示す。
【0005】
活性化特異的抗体の別の適用は、活性化血小板の検出であり、これは、種々の研究および診断の設定において非常に有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shatillら、J.Biol.Chem. 1985: 260 (20): 11107-11114
【非特許文献2】Coller, B.ら、J.Clin.Invest. 1983, 72: 325-338
【非特許文献3】Bhatt DLおよびTopol EJ. JAMA. 2000; 284(12):1549-58
【非特許文献4】Topol EJら、Lancet. 1999; 353(9148): 227-31
【非特許文献5】Dasgupta H.ら、Am Heart J. 2000; 140(2): 206-11
【非特許文献6】Hillegass WBら、Pharmacoeconomics. 2001; 19(1): 41-55
【非特許文献7】Chew DP.ら、Circulation. 2001, 103 (2): 201-206
【非特許文献8】Peter K.ら、Blood. 1998; 92 (9): 3240-
【非特許文献9】Gawaz M., Therapie bei koronarer Herzerkrankung. Stuttgart, New York: Thieme, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、本発明の目的は、かかる改善された特性を有する抗体を発見すること、およびかかる抗体を同定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項1の抗体を提供することにより解決される。本発明のさらに有利な特徴、態様および局面は、さらなる独立および従属請求項、明細書および図面を見た場合により容易に理解できよう。
【0009】
従って、本発明は、活性化状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの実質的に排他的な結合により有効であることにより特徴づけられる、血小板凝集のためのヒト起源の抗体に関する。
【0010】
用語、血小板(thrombocyteおよびplatelet)は、本明細書において同義的に使用される。一般的な用語「血小板インテグリンレセプター」は、「血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIa」を意味する。
【0011】
即ち、本発明は、
〔1〕血小板凝集を阻害し、活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性よりも高いことを特徴とする、ヒト起源の単鎖抗体断片(scFv)を含む抗体、
〔2〕該断片が配列番号4に示されるアミノ酸配列または配列番号4の配列に少なくとも60%相同であるアミノ酸配列を含むことを特徴とする〔1〕記載の抗体、
〔3〕該抗体が、配列番号4のアミノ酸配列の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む、〔1〕記載の抗体、
〔項4〕該単鎖抗体断片の軽鎖がCLLYYGGGQQGVFGGGまたはCLLYYGGAWVFGGGからなる軽鎖CDR配列を含む、〔1〕記載の抗体、
〔5〕二価または多価scFv抗体構築物であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕いずれか記載の抗体断片、
〔6〕重鎖および軽鎖可変ドメインを含む単鎖抗体断片をコードする配列を含む核酸のライブラリーを提供する工程;
該単鎖抗体断片のCDR3領域に少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列を導入する工程
該核酸ライブラリーからファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーを逐次、非活性血小板、活性血小板、非活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞、および活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞と反応させる工程;および
該ファージライブラリーから活性インテグリンレセプター分子に結合するファージを溶出することによって、該血小板または活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞に結合したファージを得る工程
を含む方法によって得られ得る、
血小板凝集を阻害し、活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性よりも高いことを特徴とする、ヒト起源の単鎖抗体断片(scFv)、
〔7〕〔1〕〜〔5〕いずれか記載の抗体をコードする配列からなるDNA分子、
〔8〕〔7〕記載のDNA分子を含有してなる発現ベクター、
〔9〕〔7〕記載のDNA分子または〔8〕記載の発現ベクターを含有してなる細胞株、
〔10〕〔1〕〜〔5〕いずれか記載の抗体、〔7〕記載のDNA分子または〔8〕記載の発現ベクターを含有してなる医薬組成物、
〔11〕血小板上の血小板インテグリンレセプターをブロックするための医薬組成物の調製のための、〔1〕〜〔5〕いずれか記載の抗体、〔7〕記載のDNA分子または〔8〕記載の発現ベクターの使用、
〔12〕活性化血小板の数を決定するための診断組成物の調製のための、〔1〕〜〔5〕いずれか記載の抗体、〔7〕記載のDNA分子または〔8〕記載の発現ベクターの使用、
〔13〕非活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaに結合しない、〔1〕〜〔5〕いずれか記載の抗体
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、抗体は、血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIa(αIIb/β 3)に結合し、天然のリガンドフィブローゲン(fibrogen)の結合を阻害する。上記に詳述されたように、このレセプターは、フィブリノーゲンがそれに結合する場合、凝集方法を誘導することにより特徴づけられる。このレセプターのブロッキングにより架橋が不可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1の態様の抗体断片を発現するクローンのFACS解析を示す。
【図2】図2aは、本発明のscFV抗体をコードするクローンMB9の核酸配列を示す。図2bはMB9のアミノ酸配列を示す。
【図3】図3は、C9 scFvおよびE4 scFvの配列を示す。
【図4】図4は、合成ライブラリーに基づくヒトscFvの公知のために使用されるオリゴヌクレオチドを示す。BbsI制限酵素認識部位は太字で示され、切断部位は下線が付される。
【図5】図5は、pEXHAM4/C9およびpEXHAM4/E4の構築のために使用されるオリゴヌクレオチドのアニーリング位置の模式図を示す。pEXHAM1にクローニングされたscFv'のC9およびE4はボックスで示される。黒く塗られた領域はCDR領域を表す;オリゴヌクレオチドは矢印で表され、番号によって同定される(図4参照)。BpiI制限エンドヌクレアーゼ認識部位が示される。
【図6】図6はpEXHAM4/C9およびpEXHAM4/E4のベクター地図を示す。
【図7】図7はpEXHAM7/C9およびpEXHAM7/E4のベクター地図を示す。
【図8】図8は、ヒト重鎖および軽鎖可変領域の増幅のための1. PCRのプライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドを列挙する。
【図9】図9は、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(太字で標識する)の導入のための2 PCRのプライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドを列挙する。
【図10】図10は、クローンSA8、SA10およびSA11のFACS解析を示す。活性(黒色の曲線)および非活性(灰色の曲線)血小板への示されるscFv'の結合。
【図11−1】図11は、ベクターマップpEXHAM4/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図11−2】図11は、ベクターマップpEXHAM4/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図11−3】図11は、ベクターマップpEXHAM4/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図11−4】図11は、ベクターマップpEXHAM4/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図12−1】図12は、ベクターマップpEXHAM4/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図12−2】図12は、ベクターマップpEXHAM4/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図12−3】図12は、ベクターマップpEXHAM4/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図12−4】図12は、ベクターマップpEXHAM4/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図13−1】図13は、ベクターマップpEXHAM7/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図13−2】図13は、ベクターマップpEXHAM7/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図13−3】図13は、ベクターマップpEXHAM7/E4に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図14−1】図14は、ベクターマップpEXHAM7/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図14−2】図14は、ベクターマップpEXHAM7/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図14−3】図14は、ベクターマップpEXHAM7/C9に関する全体のヌクレオチド配列を示す。
【図15−1】図15aは、MB9 scFvを用いたアグレゴメトリー(aggregometry)を示す。種々の濃度のMB9 scFvの添加による血小板凝集の阻害。凝集は、光伝達の増大によりモニターした。図15bは、アグレゴメトリーおよびFACS解析による活性血小板へのReoproおよびMB9結合の比較を示す。
【図15−2】図15aは、MB9 scFvを用いたアグレゴメトリー(aggregometry)を示す。種々の濃度のMB9 scFvの添加による血小板凝集の阻害。凝集は、光伝達の増大によりモニターした。図15bは、アグレゴメトリーおよびFACS解析による活性血小板へのReoproおよびMB9結合の比較を示す。
【図16】図16は、pEXHAM9/C9およびpEXHAM9/E4の構築のために使用されるオリゴヌクレオチドのアニーリング位置の模式図を示す。pEXHAM1にクローニングされたscFV' C9およびE4の遺伝子がボックスで示される。黒いボックスは、CDR領域を表す;オリゴヌクレオチドは矢印で表し、番号により同定される(図17参照)。BpiI制限エンドヌクレアーゼ認識部位が示される。
【図17】図17は、合成VLライブラリーに基づくヒトscFvの構築のために使用されるオリゴヌクレオチドを示す。BpsI制限酵素認識部位は太字で示され、切断部位は下線が付される。
【図18】図18は、親和性成熟scFv SCE5およびSCE18のFACS解析を示す。非活性(黒色の曲線)および活性(灰色の曲線)血小板へのSA2のscFv調製物(オリジナルクローン)および軽鎖シャッフル誘導体SCE5およびSCE18の結合。測定は、フィブリノーゲンの存在下で全血を用いて行われた。「対照」は、二次抗-His抗体の結合なしを示す。
【図19】図19は、ディアボディ形成のためのVHおよびVL-ドメイン(下線を付した)に連結した本来のMB9 scFvリンカー(斜体)および短縮リンカー(斜体)のアミノ酸配列を示す。
【図20】図20は、pREFAB9中のMB9 Fabの重鎖および軽鎖断片の位置および特徴を示す。
【図21】図21は、非活性ヒト血小板へは結合しない、活性ヒト血小板へのMB9 Fabの結合(暗灰色の曲線)を示す(平均蛍光強度が示される)。
【図22−1】図22はpREFAB9/MB9プラスミドの配列を示す。
【図22−2】図22はpREFAB9/MB9プラスミドの配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
入手可能なより選択的な効果のために、抗体は、活性化されたコンフォメーションの血小板インテグリンレセプターに「実質的に排他的に結合する」。これは、活性化コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターへのその結合親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターへのその結合に関する親和性よりも大いに高いことを意味する。せいぜい、この薬剤は、非活性化コンフォメーションのインテグリンレセプターに実質的に結合することができない。
【0015】
本明細書中では、用語「抗体」はヒト起源の免疫グロブリンを意味する。免疫グロブリンはまた、重鎖および軽鎖の可変ドメインを含有するヒト免疫グロブリンの断片であり得る。断片は、単鎖抗体断片(scFv)、Fabまたは組換え構築物およびその誘導体でありうる。これは、一価、二価または多価でありうる。
【0016】
これは、本物の抗体と比べた場合、そのアミノ酸配列に改変を含み、改変されたドメイン構造を示しうる。しかし、これは、天然の抗体、およびアミノ酸配列で見出される典型的なドメイン立体配置に適合することができ、これは抗特異性で標的(抗原)に結合することができる。抗体誘導体の典型的な例は、他のポリペプチド、再配列された抗体ドメインまたは抗体の断片に結合した抗体である。抗体はまた、少なくとも1つのさらなる化合物、例えば、タンパク質ドメインを含み得、該タンパク質ドメインは共有結合または非共有結合により結合する。この結合は、当該分野で公知の方法による遺伝子融合に基づきうる。本発明に従って使用される抗体を含有する融合タンパク質に存在するさらなるドメインは、好ましくはフレキシブルリンカー、好都合にペプチドリンカーにより結合され、ここで該ペプチドリンカーは、さらなるタンパク質ドメインのC末端から抗体のN末端または逆も同様の距離にわたるのに十分な長さの複数の、親水性、ペプチド結合アミノ酸を含有する。上記の融合タンパク質は、さらに切断可能なリンカーまたはプロテイナーゼの切断部位を含む。従って、例えば、抗体は、生物学的活性または固相、生物学的に活性な物質(例えば、サイトカインまたは成長ホルモン)、化学薬品、ペプチド、タンパク質または薬物への選択的結合のために適切なコンフォメーションを有するエフェクター分子に結合されうる。
【0017】
本発明の抗体はヒト起源である。これは、本発明の特に重要な特徴である。なぜならば、これは、他の「外来」抗体型に対する有害な免疫反応の危険を伴うことなく、ヒト患者における治療へのかかる抗体の使用を解放するからである。特に、全体の構造/配列および使用される抗体の定常領域はヒト起源である。ヒト抗体の供給源は、天然または改変されたヒト抗体断片のファージディスプレイライブラリーであり、血小板に対して親和性を有する抗体についてスクリーニングされる。
【0018】
好ましくは、抗体は、VHドメインがVLドメインに結合されている単鎖抗体である。用語「結合」は、好ましくはペプチド結合を意味する。かかる単鎖抗体は、好ましくは、組換えscFv抗体である。上記の特性を有するかかる単鎖抗体、またはかかる抗体をコードするDNA配列の作製、適切な宿主でのその発現およびその回収および精製のための方法は、例えば、WO-A-89/09622、WO-A-89/01783、EP-A-0 239 400、WO90/07861およびColcherら、Cancer Research 49 (1989), p. 1732-1745に記載されている。配列へのかかる再配列または変化が所望の産物を得るために必要である場合、使用されるscFvは、単鎖抗体断片の組換え構築物であり得る。当業者は、例えば、アミノ酸欠失、挿入、置換および/または組換えにより、それぞれの免疫グロブリンドメインを改変する方法を知っている。免疫グロブリン鎖のコード配列内にかかる改変を導入する方法は当業者に公知である(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning - A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor (1989), N.Y.)。他方で、単鎖抗体断片は、例えば、ヒトIgMまたはIgG抗体に由来しうる。あるいは、組換えBsAbまたはディアボディ(diabody)(好ましくは、ペプチドリンカーにより連結された2つのscFv断片を含む)が形成されうる。2つの異なる特異性の4つの抗体可変ドメイン(VHおよびVL)を含有する単鎖断片のホモ二量体化によりタンデムディアボディを構築することも有利である。
【0019】
免疫応答の過程における抗体産生方法の大きな可変性のために、外来抗原を攻撃するのに適切な一般に多数の異なる配列が産生されうる。それゆえ、抗体配列のいくつかの態様が本発明の必要な条件を満たすことが見出されることは当業者に明らかである。十分に試験され、研究されている例としては、本発明の抗体は、断片が図2(配列番号1)の核酸配列の翻訳産物を含むアミノ酸配列を含むことにより特徴づけられうる。さらに好ましい態様では、それは図2に示されるアミノ酸配列を含むか、それは図2のアミノ酸配列からなる。さらなる態様では、本発明は、図2と実質的に同一の特性を有する上記ポリペプチドの断片、誘導体または対立遺伝子改変体をコードする核酸分子を提供する。本文脈における用語「誘導体」は、これらの分子の配列が、1つまたはいくつかの位置で図2の核酸分子および/またはアミノ酸配列の配列とは異なるが、これらの配列に高いレベルの相同性を有することを意味する。ここでは相同性は、少なくとも60%の配列同一性、少なくとも70または80%の同一性、好ましくは、90%より高く、特に好ましくは95%よりも高いことを意味する。上記核酸分子またはペプチド分子の変種は、欠失、置換、挿入または組換えにより作製されてうる。
【0020】
別の適切な例は、抗体配列の合成ライブラリーである。同定された断片は、配列ELEAYCRGDCYPPYYGまたは匹敵する構造および特性を有するその誘導体を含む重鎖CDR3ドメインを含む。この配列は、おそらくフィブリノーゲン構造を模倣しうるので、インテグリンレセプターに結合できることが見出されている。
【0021】
さらに好ましい態様は、単鎖抗体をコードするDNA配列に関する。これらのDNA配列は、ベクターまたは発現ベクターに挿入されうる。従って、本発明はまた、これらのDNA配列を含むベクターおよび発現ベクターに関する。用語「ベクター」は、プラスミド(pUC18、pBR322、pBlueScript、等)、ウイルスまたは任意の他の適切な伝達体を意味する。好ましい態様では、DNA配列は、原核生物または真核生物宿主細胞における発現を可能にする調節エレメントに機能的に結合される。かかるベクターは、調節エレメント(例えば、プロモーター)の他に、複製起点および形質転換された宿主細胞の表現型選択を可能にする特異的な遺伝子を含む。原核生物(例えば、E.coli)における発現のための調節エレメントは、lac-、trp-プロモーターまたはT7プロモーター、および真核生物での発現のためのAOX1-またはGalプロモーター(酵母での発現のため)およびCMV-、SV40-、RVS-40プロモーター、CMV-またはSV40エンハンサー(動物細胞での発現のため)である。プロモーターのさらなる例は、メタロチオネイン(metallothein)Iおよびポリヘドリンプロモーターである。E.coliのための適切な発現ベクターは、pGEMEX、pUC誘導体、pEXHAMおよびpGEX-2Tである。酵母での発現のための適切なプロモーターは、pY100およびYcpad1であり、哺乳動物細胞での発現のための適切なプロモーターは、pMSXND、pKCR、pEFBOS、cDM8およびpCEV4である。
【0022】
当該分野で公知の一般的な方法は、本発明のDNA配列および適切な調節エレメントを含む発現ベクターの構築のために使用されうる。これらの技術の例は、インビトロ組換え技術、合成法およびインボ組換え技術(Sambrookら、Molecular Cloning - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor (1989), N.Y.参照)である。本発明のDNA配列はまた、融合タンパク質として発現するための他のタンパク質またはペプチドをコードするDNA配列と組み合わせてベクターに挿入されうる。
【0023】
本発明はさらに、これらのベクターを含有する宿主細胞に関する。これらの宿主細胞は、例えば、細菌(例えば、大腸菌株XL1blue、HB101、DH1、x1776、JM101、JM109、BL21およびSG13009)、酵母(好ましくは、S.cervisiae)、昆虫細胞(好ましくは、sf9細胞)および動物細胞(好ましくは、哺乳動物細胞)である。好ましい哺乳動物細胞は、ミエローマ細胞、好ましくは、マウスミエローマ細胞)である。前述のベクターを使用することにより、これらの宿主細胞を形質転換する方法、形質転換体の表現型選択のための方法および本発明のDNA配列の発現のための方法は当該技術分野において公知である。
【0024】
本発明はさらに、前述の発現ベクターを使用することによる(単鎖)抗体の組換え産生のための方法に関する。本方法は、タンパク質(または融合タンパク質)の発現(好ましくは、安定な発現)を可能にする条件下での前述の宿主細胞の培養および培養物または宿主細胞からのタンパク質の回収を含む。当業者は、形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞を培養する条件を知っている。タンパク質の組換え産生のための適切な方法は公知である(例えば、Holmgren, Annual Rev. Biochem. 54 (1985), 237; La Valleら、Bio/Technology 11 (1993), 187, Wong, Curr. Opin. Biotech. 6 (1995), 517; Davies, Curr. Opin. Biotech 6 (1995), 543)。さらに、適切な精製方法は公知である(例えば、調製用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、HPLC等)。
【0025】
本発明はさらに、活性化形態の血液血小板のインテグリンレセプターGPIIb/IIIaに結合することにより、血小板凝集を阻害するための抗体の同定および/または単離方法に関する。
【0026】
本発明のかかる方法は以下の工程:
−候補物の配列をコードする核酸のライブラリーを提供する工程;
−かかる核酸ライブラリーからファージライブラリーを作製する工程;
−該ファージライブラリーを、逐次(successively)、非活性血小板、活性血小板、非活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞、および活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞と連続して反応させる工程;および
該血小板または活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞に結合したファージを溶出する工程
を含む。
【0027】
本発明の方法の重要な工程は、ファージライブラリーから、あまり適切でないポリペプチド(これは非活性血小板、または活性血小板の表面上の他の成分)を枯渇することである。各々の結合工程後、選択されたファージの回収が行わればならず、これは公知の方法で行われうる。最後に、インテグリンレセプターに特異的に結合するポリペプチドを有するこれらのファージはブロック活性について試験される。
【0028】
他の細胞での選択の工程もまた省略されうる。この改変により、他の機構により血小板凝集を阻害するファージが検出されうる。
【0029】
ライブラリーを提供するための工程は、以下の工程:
−ヒトドナーから全RNAを単離する工程;
−抗体ポリペプチドをコードする全RNAに含まれるmRNAを単離する工程;
−cDNAの作製;および
−抗体ポリペプチドをコードするcDNA分子から単鎖断片をコードするDNA分子を引き出す(derive)工程
を含む。
【0030】
これにより、ドナーの抗体集団に基づく「天然のライブラリー」が得られうる。
【0031】
あるいは、合成ライブラリーが使用され得、ここでライブラリーを提供する工程は以下の工程:
−重鎖および軽鎖可変ドメインを含む単鎖抗体断片の配列を含む核酸を提供する工程;および
−該単鎖抗体断片の領域に少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列を導入する工程
を含む。
【0032】
少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列が導入される領域は、好ましくは、scFv等のvHまたはvLのCDR3領域である。
【0033】
前記他の細胞は、好ましくはCHO細胞であり得、これは周知であり、形質転換後にその表面上のインテグリンレセプターを発現しうる。
【0034】
さらに、本発明は、血小板上の血小板インテグリンレセプターをブロックするための、本発明の抗体、DNAまたは発現ベクターを含有する医薬組成物の使用に関する。
【0035】
またさらに、本発明は、医薬組成物を製造するための、本発明の抗体、DNAまたは発現ベクターの使用に関する。
【0036】
本発明の主題はまた診断目的である。これは、患者の非活性血小板と比較した活性血小板の数を決定するために使用されうる。これは、患者が血小板凝集インヒビターで処置される場合、活性化(不活性化)状態をモニターするために特に有用である。
【0037】
医薬または診断組成物はさらに、薬学的に許容されうる担体を含みうる。適切な担体は、リン酸緩衝化生理食塩水溶液、水、エマルジョン(例えば、油中水エマルジョン)、界面活性剤、無菌溶液等である。医薬組成物の投与は、経口でも非経口(例えば、局所的、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、くも膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内または鼻腔内)でもよい。適切な投薬量は医師により決定され、種々の条件(例えば、患者の年齢、性別、体重、疾患の種類および投与の種類等)に依存する。
【0038】
本発明のDNA配列はまた、例えば、組織特異的プロモーターの制御下で、遺伝子治療に適切なベクターに挿入されうる。好ましい態様では、DNA配列を含むベクターはウイルス(例えば、アデノウイルス、ワクシニアウイルスまたはアデノ随伴ウイルス)である。レトロウイルスが好ましい。適切なレトロウイルスの例は、MoMuLV、HaMuSV、RSVまたはGaLVである。遺伝子治療目的のために、本発明のDNA配列はまた、標的細胞にコロイド分散液の形態で運搬されうる。これに関連して、リポソームおよびリポプレックス(lipoplexes)がまた言及される(Manninoら、Biotechniques 6 (1988), 682)。
【0039】
最後に、本発明は、以下の工程:
薬学的有効量の本発明の医薬組成物を患者に投与すること
を含む、患者を処置する方法に関する。
【0040】
以下に、本発明は、限定されない態様を例示することによりさらに詳述され、ここでは付随の図面を参照する。
【0041】
以下に、活性血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaに特異的なヒトscFv抗体の生産の例が示される。
【0042】
一般的ストラテジー
単鎖抗体断片(scFv)のディスプレーのためのファージライブラリーは、ヒトIgM抗体遺伝子から作製される。あるいは、合成ライブラリーは、ヒト起源の2つのscFvマスターフレームワークの重鎖のCDR3領域の無作為化により作製される。両方のライブラリーは、活性血小板における選択のためにそれらを使用する前に、休止血小板におけるインキュベーションにより活性化特異的でないバインダーについて減算される。GPIIbIIIaレセプターにおける選択に焦点を合わせるために、さらなるラウンドの選択が、組換えGPIIbIIIaレセプターを発現するインビトロで培養された細胞において行われる。
【0043】
選択後、scFvクローンを、活性化血小板への結合およびフィブリノーゲン結合の競合についてFACS解析により解析する。
【実施例】
【0044】
実施例1:ヒトscFv抗体断片MB9の産生
RNAおよびcDNA調製
16例のヒトドナーの脾臓試料および5例の健常ヒトドナーの末梢血リンパ球(PBL)(それぞれ約1〜5×108 PBL、RNeasy (TM) Midiprep. Kit, Qiagen)から全RNAを単離する。全RNAからRNAポリA+-RNAを調製し(Oligotex mRNA Kit, Qiagen)、cDNA合成に使用する(SuperScriptTM Preamplifications System, Gibco BRL/LIFE Technologies)。
【0045】
ヒトIg可変領域の増幅
図8のヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域の増幅ためのPCRに使用したオリゴヌクレオチド。重鎖を、単一のIgM特異的定常プライマーおよび可変領域に特異的ないくつかの異なるプライマー(VH-1〜VH-7)の1つを用いて別々のPCR反応において増幅する。相応して、λおよびκ軽鎖を、単一のλおよびκ特異的定常プライマーおよびいくつかの可変プライマー(Vλ-1〜Vλ-10およびVκ-1〜6)のうちの1つを用いて別々のPCR反応において増幅する。PCRを、50μlの容量で、0.5μl cDNA、1単位のVent exo--DNAポリメラーゼ(New England Biolab)および0.5μMの各プライマーを、以下の条件:3分95℃、20×[30秒95℃、1分55℃、1分72℃]5分72℃で用いて行う。第1回のPCRの産物を、PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、クローニングのための制限部位を導入するための図9のオリゴヌクレオチドプライマーの対応する組を用いる第2回のPCRの鋳型として使用する。第2回のPCRは、各プライマー組について、第1回のPCRにしたがって別個に行うが、アニーリングには1分間57℃を使用する。重鎖の第2回のPCRの産物、λ軽鎖およびκ軽鎖をプールし、PCR精製キット(Qiagen)により精製する。
【0046】
scFvファージディスプレーライブラリーのクローニング
供給元の指示書にしたがって、重鎖断片をNcoIおよびHindIIIで、軽鎖断片をMluIおよびNotI(それぞれNew England Biolab)で消化し、最後に、ゲル抽出キット(Qiagen)を用いて1%アガロースゲルからのゲル抽出により精製する。サブライブラリーを作製するため、まず重鎖を、stuffer scFvを含有するファージディスプレーベクターpEXHAM1(図1)にクローン化する。ベクターDNAをNcoIおよびHindIIIで切断し、ゲル抽出により精製し、異なるドナー起源の重鎖断片で別々にライゲートする。50ngベクター、9ng重鎖断片および1単位のT4 DNAリガーゼ(Roche)を用い、20μlの容量でライゲーションを3時間室温で行う。エレクトロポレーションのため、供給元の指示書にしたがって、ライゲーション混合物を沈殿させ、10μlの水に再懸濁し、35μlのエレクトロコンピテント(electrocompetent)大腸菌XL1 blue細胞(Stratagene)と混合する。形質転換細胞を、50mMグルコース、100μg/mlアンピシリンおよび20μg/mlテトラサイクリンを含有する選択LB培地にプレーティングし、30℃で一晩インキュベートする。適切な希釈物のプレーティングにより測定したサブライブラリーのサイズは1.5×106〜7.1×107の範囲内である。
【0047】
細菌クローンをプレートから掻き集め、完全ライブラリーのクローニング用ベクターDNAを調製するために、DNA-maxipreparation (Qiagen)に使用する。サブライブラリーDNAをMluIおよびNotIで切断し、ゲル抽出により精製し、λおよびκ軽鎖断片それぞれとライゲートする。1gベクターDNAおよび2倍モル過剰の軽鎖DNAを用い、20μlの容量でライゲーションを3時間室温で行う。1単位のT4リガーゼ(Roche)との一晩8℃でのインキュベーション後、ライゲーション混合物を沈殿させ、2.5μl Tris 10mM、pH 8.5に再溶解させる。このうち2μlを電気応答性大腸菌XL1 blue細胞の50μlのアリコートの形質転換に使用する。細胞を選択寒天培地にプレーティングし、形質転換体の数を、上記のようにして適切な希釈物のプレーティングにより測定する。脾臓およびPBL RNA材料から作製したすべてのライブラリーの全サイズは1.75×109である。
【0048】
ライブラリーレスキュー
scFvのファージディスプレイのため、50mMグルコース、100μg/mlアンピシリンおよび20μg/mlテトラサイクリンを補給したLB培地のアリコート250ml中にライブラリーを、細胞数の複雑度が10倍を超えることを確実にする0.025の開始OD600で播種する。OD600が0.2まで細胞を37℃で200rpmでインキュベートし、M13K07ヘルパーファージで感染多重度が10で感染させる37℃での1時間のインキュベーション後、細胞を遠心分離により回収し、250mlのグルコース無含有培地に再懸濁し、一晩30℃で200rpmにてインキュベートする。ファージをPEG沈殿(PEG6000 20%、NaCl 2.5M)により単離し、ファージ希釈バッファー(Tris 10mM pH 7.5、NaCl 20mM、EDTA 2mM)に再溶解する。
【0049】
活性化血小板を結合するscFvのライブラリーのスクリーニング
非活性化血小板を結合するscFvのライブラリーの枯渇:
ヒト静脈血5mlを、25μlプロスタグランジンE10(10mM)を含有するS-Monovette(Sarstedt)に回収し、110gで10分間遠心分離する。血小板に富む血漿(上相)の1mlを新たなチューブに移し、9mlのCGSバッファー(クエン酸ナトリウム10mM、デキストロース30mM、NaCl 120mM)と混合し、1000gで10分間遠心分離する。ペレットを、2%のスキムミルクパウダーを含有する4mlのタイロードバッファー(NaCl (150mM)、NaHCO3 (12mM)、KCl、MgCl (各2mM)、グルコース、BSA (各1mg/ml)、pH 7.4))に再懸濁し、1.75×1012のバクテリオファージ(複雑度1000倍)とともに2時間、室温でインキュベートする。血小板を1000gで10分間遠心分離し、上清みを除去し、4℃で保存する。
【0050】
活性化血小板への結合:
ヒト静脈血5mlを、S-Monovette(Sarstedt)に回収し、110gで10分間遠心分離する。血小板に富む血漿(上相)の1mlを新たなチューブに移し、9mlのCGSバッファーと混合し、1000gで10分間遠心分離する。ペレットを、CaCl2、MgCl2 (各2mM)、ADP(15μM)を含有する4mlの枯渇ファージ溶液に再懸濁し、2時間、室温でインキュベートする。血小板を遠心分離(1000g、10分間)により2回洗浄し、14mlのタイロードバッファーに再懸濁する。
【0051】
溶出:
結合ファージの溶出のため、血小板を遠心分離(1000g、10分間)し、1mlのグリシンバッファー(0.1M、pH 2.2)に再懸濁し、10分間室温で遠心分離する。遠心分離(1000gで10分間)後、Tris(2M、pH 8.0)の添加により上清みを中和する。
【0052】
再感染:
溶出したファージを10mlの対数成長期の大腸菌XL1 blue細胞と混合し、37℃で30分間インキュベートする。遠心分離(10分間、6000g)後、細胞を400μlのLBGAT 培地(50mMグルコース、100μg/mlアンピシリンおよび20μg/mlテトラサイクリンを含有するLG培地)に再懸濁し、LBGAT 寒天培地上にプレーティングし、一晩37℃でインキュベートする。
【0053】
パッケージング:
2回5mlのLBGAT 培地を用いてコロニーを寒天プレートから掻き集め、0.1のOD600で20mlのLBGAT 培地の播種に使用する。細胞を37℃で200rpmにて1時間インキュベートし、約1×1010M13K07ヘルパーファージで再感染させる。37℃で1時間後、細胞を遠心分離(5分間、6000g)により回収し、アンピシリン(100μg/ml)およびカナマイシン(50μg/ml)を補給したLB培地に再懸濁し、一晩30℃で200rpmでインキュベートする。ファージを、PEG沈殿により回収し、1mlのファージ希釈バッファー(ライブラリーレスキューで記載)に再懸濁する。
【0054】
CHO細胞の組換えGPIIb/IIIaに結合するscFvのためのライブラリーのスクリーニング
非活性化GPIIb/IIIaを結合するscFvのライブラリーの枯渇:
非活性化GPIIb/IIIaレセプターを発現するチャイニーズハムスター卵細胞(CHO)(A5細胞;Peterら, Blood, Vol 9, 1998, pp.3240-3249)をトリプシン処理し、遠心分離(10分間、140g)し、5×106細胞/mlでタイロードバッファー中に再懸濁する。第1回目の選択由来の約109のパッケージファージを4mlの細胞権懸濁液と混合し、1時間室温でインキュベートする。細胞を20分間140gで遠心分離し、再度遠心分離(20分間、3200g)により上清みを透明にする。
【0055】
活性化GPIIb/IIIaに対する結合:
活性GPIIb/IIIaを提示するCHO細胞(C13細胞、Peter KおよびO'Toole TE, J Exp Med. 1995, 181 (1): 315-326)をトリプシン処理により回収し、遠心分離し、1mlのタイロードバッファーを用いて1回洗浄する。4×106細胞を、4mlの枯渇ファージ溶液とともに30分間室温でインキュベートする。
【0056】
抗体競合による溶出:
細胞を10分間140gで遠心分離し、50mlのタイロードバッファーに再懸濁し、20分間700gで3回遠心分離し、1mのタイロードバッファーに再懸濁し、最後に200μlのReopro(2mg/ml)に再懸濁する。室温で20分後、ベンチトップ(benchtop)遠心機において13000rpmで10分間の遠心分離により細胞を除去する。
【0057】
酸性溶出:
細胞を10分間140gで遠心分離し、50mlの改変タイロードバッファー(HepesでpH6に調製し、CaCl2、MgCl2 (各2mM)および1mg/ml BSAを含有するタイロードバッファー)に再懸濁し、20分間700gで2回遠心分離し、1mlの改変タイロードバッファーに再懸濁し、最後に1mlのグリシン(pH 2.2)に再懸濁する。室温で15分後、混合物を、100μlのTris(2M、pH8)の添加により中和し、ベンチトップ遠心機において13000rpmで10分間の遠心分離により透明にする。
【0058】
再感染およびパッケージングは上記の通りに行う。
【0059】
選択したクローンの制限エンドヌクレアーゼ消化解析
製造者(Qiagen)の推奨にしたがってDNAスピンカラムを用い、選択実験由来のクローンのDNAを調製する。DNAをBstNI(New England Biolab)で消化し、1%アガロースゲルで解析する。
【0060】
ペリプラズム抽出物の調製
5mlのLBGAT 培地に250μlの一晩培養物を播種し、37℃で180rpmにて4時間インキュベートする。細胞を遠心分離(5分間、6000g)により回収し、アンピシリン(10μg/ml)およびIPTG(100μM)を含むLB培地に再懸濁し、一晩28℃で180rpmでインキュベートする。遠心分離により細胞を再度回収し、500μlのショック溶液(50mM Tris HCl pH 8.0, 20%サッカロース、1mM EDTA)に再懸濁し、8℃で1時間インキュベートする。遠心分離(10分間、13000rpmベンチトップ遠心機)により細胞を除去し、上清みを4℃でPBSに対して3時間2回透析する。
【0061】
FACS解析
FACSCalibur装置(Becton Dickinson)を用いてFACS解析を行う。
【0062】
活性化特異性の解析:
完全クエン酸化血液(S-Monovette, Sarstedt)を、ADP(20μM)を含有または非含有タイロードバッファー50μl中で1/50に希釈し、10μlのペリプラズムscFv抽出物とともに20分間室温でインキュベートする。第二抗体としてFITC標識抗His抗体(Dianova)を添加し、20分間インキュベートし、Cellfix(1×)で固定する。
【0063】
フィブリノーゲン競合の解析:
完全クエン酸化血液(S-Monovette, Sarstedt)を、ADP(20μM)を含有または非含有タイロードバッファー50μl中で1/50に希釈し、Cellfix(1×, Becton Dickinson)での固定前のペリプラズムscFv抽出物20μlの存在下または非存在下で、FITC標識抗フィブリノーゲン抗体(WAK-Chemie Medical)とともに20分間インキュベートする。
【0064】
アグレゴメトリー(aggergometry)測定:
アグレゴメトリーを、製造者の推奨にしたがってBiodata PAP-アグレゴメーター(aggergometer)を用いて行った。10分間37℃でのscFvとのインキュベーション後、20μMの添加により凝集を誘導した。
【0065】
結果
GPIIb/IIIa結合scFvの選択
脾臓およびPBL起源のヒトscFvファージディスプレーライブラリーを、1回の活性化ヒト血小板に関する選択により、GPIIb/IIIa特異的クローンについてスクリーニングする。非活性化特異的結合体を除去するため、非活性化血小板に関してライブラリーを事前に枯渇させる。第2および第3回目の選択を、非活性化バリアントを提示する細胞において、枯渇後に、組換え活性化GPIIa/IIIbレセプターを発現するCHO細胞において行う。溶出を、酸により、またはReoproとの競合のいずれかにより行う。第3回目の選択後、クローンを無作為に選出し、BstNI消化による富化および血小板に対する活性化特異的結合に関して最初に解析する(表1)。1つのクローンMB9は、酸性溶出および競合的溶出を用いると、それぞれ、80クローンのうち10、60クローンのうち10に富化されることがわかる。また、MB9は、血小板結合において非常に活性化特異的であり、図1に示すFACS解析により示されるように、血小板へのフィブリノーゲンの結合を阻害する。そこでは、以下のこと:左側ヒストグラム:MB9 scFvは、活性化ヒト血小板には結合する(黒)が、非活性化ヒト血小板には結合しない(灰)こと:右側ヒストグラム:フィブリノーゲンは、活性化血小板には結合する(黒)が、非活性化血小板には結合しない(灰)ことを示す。活性化血小板へのフィブリノーゲンの結合は、MB9 scFvの存在下では阻害される(明灰色曲線)。
【0066】
さらに、MB9は、結合についてReoproと競合する。MA1のような他の富化クローンもまた、活性化特異的結合を示したが、フィブリノーゲン結合の阻害は不良であり、MA3またはMB1のような活性化血小板に対して強い特異性は示さない。
【0067】
クローンMB9のDNA配列を配列番号1(図2)に示す。重鎖および軽鎖に隣接する制限エンドヌクレアーゼ認識配列(それぞれ、NcoI、HindIII、MluIおよびNotI)を示す。
【0068】
MB9をコードするクローンを、ブダペスト条約のもと、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, D-38124 Braunschweig」に2001年9月6日に、DSM 14491 (XL1blue (pEXHAM4/MP9))の元で寄託している。
【0069】
表1:活性化GPIIb/IIIaで富化されたscFvクローンの特徴づけ
【0070】
【表1】

【0071】
MB9 scFvについて、フィブリノーゲンの存在下で濃度依存的なヒト血小板の凝集の阻害が、アグレゴメトリー(図15a)により示された。この方法により、血小板凝集の最大阻害の半減は、25μg/ml(806nM)のMB9 scFv(31KDa)により、および2.7μg/ml(54nM)のReopro(Fab, 50KDa)により達成された一方、FACSにおけるフィブリノーゲン結合の最大阻害の半減は、MB9 scFvでは1.1μg/ml(35nM)で、およびReoproでは0.75μg/ml(15nM)で達成された(図15b)。
【0072】
実施例2:合成ヒトフレームワークに基づくscFv抗体断片の作製
ヒトscFvマスターフレームワークの起源
重鎖のCDR3領域のランダム化による合成ライブラリーの作製のため、大腸菌細胞での優れた産生特性により2つのヒトマスターフレームワーク(C9およびE4、図3)を選択する。両scFvは、大ヒトファージディスプレー抗体ライブラリーに由来し(Little, M.ら、J. Immunol. Methods 1999, 231: 3-9)、それぞれ、B型肝炎ウイルス抗原(C9)およびエストラジオール(E4)に特異的である。
【0073】
合成scFvライブラリーのためのベクター構築
C9およびE4 scFvを、NcoIおよびNotIクローニングサイトを用い、標準的組換えクローニング技術を用いることにより、stuffer scFvを置換するpEXHAM1ベクターDNAにクローン化する。
元の配列の変化を伴わずに重鎖のCDR3のランダム化を可能にするベクターを調製するため、この領域を、IIS型酵素BbsI(BpiI)の制限酵素認識部位を含有するstuffer DNA断片と置換する。図4に示すようなオリゴヌクレオチドプライマーを用い、標準的PCR反応を行い、図5に概略を示した特有のNpiIクローニングサイトを含む重鎖CDR3の3'および5'のscFv領域のDNA断片を作製する。図5は、pEXHAM4/C9およびpEXHAM4/E4の構築のために使用したオリゴヌクレオチドのアニーリング位置の概略図である。pEXHAM1でクローン化したscFv C9およびE4の遺伝子をボックスで示す。黒で塗った部分は、CDR領域を示し、オリゴヌクレオチドは矢印で示し、番号で識別する(cp. 配列定義)。BpiI制限エンドヌクレアーゼ認識部位を示す。
【0074】
Stuffer DNA断片を、合成オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより直接作製する。DNA断片をBpiIで切断し、BpiIで切断したpEXHAM1ベクターDNAにクローン化し、pEXHAM4/C9およびpEXHAM4/E4を作製する(図6、11および12)。
【0075】
BbsIによるクローニングのためのpEXHAM4ベクターDNAの直接使用は、サイズが3.8および0.5kbの2つのベクター断片の精製を必要とする。これを回避するため、scFv配列の外側の両BbsI制限部位を、ミスマッチオリゴヌクレオチドをPCR用のプライマーとして用い、タンパク質配列を変化させずに、数段階で除去するか、または合成オリゴヌクレオチドに直接ハイブリダイズさせ、隣接する制限部位によるクローニングによりDNA断片を含有するBbsIを置換する。最終構築物を、それぞれ、pEXHAM7/C9およびpEXHAM7/E4と命名する(図7、13および14)。
【0076】
合成ヒトフレームワークに基づくscFvライブラリーの作製
ライブラリーを作製するため、NNKコドンによる4〜7つのランダムアミノ酸をコードする合成オリゴヌクレオチド(VHCDR3#3.4/cutからVHCDR3#3.7/cutまで;各1μM)を、オリゴヌクレオチドVHCDR3#for/cutおよびVHCDR3#back/cut(0.2μM)(図4)を使用し、1単位のVent exo--DNAポリメラーゼ(New England Biolab)を用いて以下のPCR条件:100μlの容量で2分94℃、5×[1分94℃、1分40℃、1分72℃]10分72℃で別々に埋め込む。PCR産物を、PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製する。物質の2/3を100単位のBbsIで6時間切断し、上記のキットで再度精製する。VHCDR3#3.4/cutおよびVHCDR3#3.5/cutの場合は、ベクターDNA pEXHAM4/C9およびpEXHAM4/E4をBbsIで切断し(1単位/μgで6時間)、両ベクター断片(3.8および0.5kb)を、1%アガロースゲル(ゲル抽出キット、Qiagen)からのゲル溶出により精製する。VHCDR3#3.6/cutおよびVHCDR3#3.7/cutでは、pEXHAM6/C9およびpEXHAM6/E4を使用し、したがって、たった1つのベクター断片を精製しなければならなかった。すべての断片を等モル比ですべての場合においてライゲーションを行う。その後、本質的に実施例1に記載のようにして、ライゲーション混合物を沈殿させ、Tris 10mM、pH 8.5に再溶解し、XL1 blue細胞の形質転換に使用する。
【0077】
合成ランダム化DNA断片に加えて、重鎖のCDR3もまた、天然ライブラリーの第1回目のPCRの産物から増幅した天然CDR3配列(実施例1参照)と置換し、機能的なインビボで使用するこの領域の配列に焦点をあてる。C9およびE4フレームワーク配列を改変せずにヒト重鎖CDR3領域のほとんどをカバーするため、使用し、図4に示すオリゴヌクレオチドを設計する。各ヒトVH PCR鋳型について、1単位のVent exo--DNAポリメラーゼ(New England Biolab)および0.2μMのプライマーを用い、100μlの容量で、以下の条件下:2分94℃、30×[1分95℃、1分50℃、1分72℃]10分72℃で別々にPCRを行う。オリゴヌクレオチド#42、#43および#44を当モル量混合物として使用する。PCR産物をPCR精製キットにより精製し、それぞれ脾臓またはPBLに由来する物質をプールする。BbsIでの制限、それぞれpEXHAM6/C9およびpEXHAM6/E4とのライゲーションおよび形質転換を上記のようにして行う。
【0078】
この実施例における全合成ライブラリー(C9およびE4フレームワーク内でクローン化された合成および天然CDR3)のサイズは、7.5×108クローンである。
【0079】
ライブラリーレスキュー
合成ライブラリーのパッケージングを、天然ライブラリー(実施例1)で記載のようにして行う。
【0080】
合成ライブラリーのスクリーニング
合成ライブラリーのスクリーニングを、1.75×1011のバクテリオファージ(複雑度1000倍)で開始し、天然ライブラリー(実施例1)で記載したのと全く同様にして行う。
【0081】
結果
ヒトscFvフレームワーク(C9およびE4)由来の合成ライブラリーを、GPIIb/IIIa特異的クローンについて、実施例1で記載したのと全く同様にしてスクリーニングする。第3回目の選択後、クローンを無作為に選出し、VH-CDR3領域のDNA配列を決定した(表2参照)。
【0082】
【表2】

【0083】
すべてのクローンは、E4フレームワーク配列を使用する。解析した11のクローンのうち3つは、CDR3内のアミノ酸配列RGD(フィブリノーゲンにも存在する)をコードする(SA3、SA8およびSA10)。クローンSA3およびSA8において、RGDモチーフは、ジスルフィド結合によりループを安定化させ得る2つのシステイン残基と直接隣接している。クローンSA3は、11個の解析したクローンに2回見出され、したがって、おそらくスクリーニング手順により富化されている。クローンSA11についても同じことがいえる。これらのscFvクローンは、RGD-様配列を含み、かつ活性化レセプターをブロックすることによりフィブリノーゲン結合を阻害する(Shatillら, 1985)PAC-1のような抗体と類似する。SA8、SA10およびSA11のみが、フィブリノーゲンの存在下で血小板に対する活性化特異的結合を示した(図10参照)。
【0084】
選択したクローンは、おそらく、GPIIb/IIIaレセプターのフィブリノーゲン結合部位と正確に相互作用するが、親和性はフィブリノーゲンと同様またはそれより低い。親和性は、scFv抗体断片のVHおよび/もしくはVLドメインまたは全VLドメイン内での変異により富化されている(チェインシャッフリング)。
【0085】
実施例3:軽鎖シャッフリングによるGPIIb/IIIa特異的合成scFv断片の改良
ベクター構築:
pEXHAM1におけるC9およびE4 scFvの軽鎖の可変領域のCDR3配列を、図16に概略を示した隣接BbsI制限部位を導入する合成stufferと置換した。標準的PCR反応を、図17に示すオリゴヌクレオチドを用いて行い、軽鎖CDR3の3'および5'方向のscFv領域のDNA断片を増幅した。PCR断片を精製し、BbsIで切断した。表示したオリゴのハイブリダイゼーションによりstuffer CDR3断片を直接作製した。すべての3つの断片を、BbsI消化pEXHAM1ベクターDNAにライゲートし、それぞれ、pEXHAM9/C9およびpEXHAM9/E4を作製した。さらなるBbsI部位を除去するため、pEXHAM9/C9およびpEXHAM9/E4の軽鎖断片を、MluIおよびNotI部位を用いてpEXHAM6/C9およびpEXHAM6/E4に再クローン化した。ランダム化VLCDR3配列のクローニングを容易にするため、1.5kb DNA断片をバクテリオファージλDNA(bp 15629-17152)から標準PCR反応を用いて増幅し、プライマーLAM1およびLAM2(図17)を、pEXHAM10誘導体のstuffer領域のBbsI間のSacIにより導入し、pEXHAM11(C9)およびpEXHAM11/(E4)を作製した(E4)。
【0086】
合成ヒトフレームワークに基づく軽鎖ライブラリーの作製
VLラブラリーを作製するため、NNKコドンによる4〜6つのランダムアミノ酸をコードする合成オリゴ(C9VLCDR3#4/cutからC9VLCDR3#6/cutまでおよびE4VLCDR3#4/cutからE4VLCDR3#6/cutまで、図17)を、オリゴC9VLCDR3#for/cutおよびC9VLCDR3#back/cutまたはE4VLCDR3#for/cutおよびE4LCDR3#back/cut(図17)を使用し、本質的に実施例2に記載のようにして別々に埋め込む。本質的に実施例1に記載のようにして、PCR産物をBbsIで切断し、pEXHAM11/C9およびpEXHAM11/E4それぞれのBbsI消化ベクターDNA断片にライゲートし、大腸菌XL1 blue細胞の形質転換に使用した。
【0087】
合成ランダム化DNA断片に加えて、軽鎖のCDR3もまた、天然VLCDR3配列と置換した。実施例1に記載のようにしてPBLおよび脾臓由来ヒトcDNAに関する第1回目のPCRで増幅したVλ遺伝子を鋳型として使用し、オリゴVLCDR3#ev/for/cutおよびVLCDR3#ev/back/cut(図17)を用い、本質的に実施例2に記載のようにしてVLCDR3を増幅する。pEXHAM11/C9およびpEXHAM11/E4でのBbsI消化後、PCR産物をクローン化し、上記のようにして大腸菌XL1 blue細胞の形質転換に使用した。
【0088】
VLライブラリーの全サイズは、C9フレームワークでは3.6×107クローンであり、E4フレームワークでは4.7×107クローンである。
【0089】
チェインシャッフリングによるGPIIb/IIIa特異的合成scFvサブライブラリーの作製
実施例2に記載のscFvクローンSA2、SA3、SA8、SA10およびSA11をチェインシャッフリングのために選択した。これらのクローンのVL遺伝子を、標準的クローニング手順を用い、MluIおよびNotI部位を介して、E4 VLライブラリー由来ランダム化VL遺伝子で置換した。大腸菌XL1 blue細胞の形質転換の反復により、2.6×107から6.5×107までの別々のサブライブラリーを作製した。
【0090】
ライブラリーレスキュー
サブライブラリーのパッケージングを、実施例1に記載のようにして行なった。
GPIIb/IIIa特異的ライブラリーのスクリーニング
5回のパンニングを活性化GPIIb/IIIa発現CHO細胞において、本質的に実施例1に記載のようにして行なったが、CHO細胞は105だけ使用した。最初の4回は、結合したファージを低pHにより溶出し、5回目は、Eptifibatide(0.1〜1000μg/ml)の濃度を増加させることにより溶出した。100μg/mlで溶出したファージをさらに調べた。
【0091】
結果
合成ライブラリーから単離し、重鎖のCDR3内にRXDモチーフを示した5つのscFvクローン(SA2、SA3、SA8、SA10およびSA11、実施例2参照)を、チェインシャッフリングにより親和性成熟のために選択した。各クローンについて、定常軽鎖ドメインを、ランダム化合成または天然CDR3領域を有するE4軽鎖ライブラリーと置換した。これらのサブライブラリーを、4回のパンニングについて酸性溶出を用い、GPIIb/IIIa提示CHO細胞に関して再度スクリーニングした。5回目では、低分子量GPIIb/IIIaインヒビター(RGD-擬態)であるEptifibatideの濃度を増加させることにより溶出を行ない、親和性が増大したクローンを選択した。単一のクローンを、活性化血小板への結合について最初にFACSにより解析した。クローンのほとんどが、増加したが不均一な活性化血小板への結合を示した。続くDNA配列決定により、単一クローンの強い富化は観察されなかった。2つのクローン、SCE5およびSCE18が同定され、すべての活性化血小板を均一に染色した(図18)。両クローンは、SA2フレームワークに由来し、類似の軽鎖CDR3配列(SCE5: CLLYYGGGQQGVFGGG, SCE18: CLLYYGGAWVFGGG)を有する。
【0092】
実施例4:GPIIb/IIIa特異的scFvの他の形式への変換
MB9 scFvを異なる組換え抗体形式に変換し、おそらく改良された(例えば、大きさ、安定性または親和性)バリアントを作製した。
【0093】
MB9ダイアボディ(diabody)
MB9のサイズを増大するため、例えばVHとVLとの間のリンカーを縮小することによりダイアボディを作製し、機能的scFvを形成することはできないが、2つの抗原結合部位を有する非共有結合により連結したホモダイマーを形成することができる分子を作製し得る。かかるダイアボディは、標準的PCR法を用い、元のリンカーを3個のアミノ酸に短縮することにより作製した(図19)。scFvモノマーの非存在およびダイマー(およびマルチマー)形態の存在は、このMB9誘導体に関するサイズ排除クロマトグラフィーおよび活性化血小板へのフィブリノーゲン結合の阻害により示された。
【0094】
MB9 Fab
MB9 scFvをFab形式に変換するため、重鎖および軽鎖の可変領域をPCRにより別々に増幅し、FabベクターpREFAB9(図20)に、それぞれCH1およびClambdaの前にクローン化した。配列を図22に示す。MB9 Fabのペリプラズム調製物のFACS解析は、活性化ヒト血小板へのMB9 Fabの特異的結合を示した(図21)。
【0095】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの実質的に排他的な結合により有効であることを特徴とする、血小板凝集を阻害するためのヒト起源の抗体またはその誘導体。
[2]抗体誘導体が、その軽鎖および重鎖の可変ドメインを含有する免疫グロブリンの断片であることを特徴とする[1]記載の抗体。
[3]断片が単鎖抗体断片(scFv)またはFabであることを特徴とする[2]記載の抗体。
[4]断片が単鎖抗体断片(scFv)の組換え構築物であることを特徴とする[2]または[3]記載の抗体。
[5]単鎖抗体断片がIgMまたはIgG抗体に由来することを特徴とする[2]または[3]記載の抗体。
[6]該断片が図2のアミノ酸またはそれに少なくとも60%相同であるアミノ酸配列を含有することを特徴とする[3]または[4]記載の抗体。
[7]活性化状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaに特異的に結合する抗体の可変ドメインを含有する二価または多価抗体構築物であることを特徴とする[1]〜[6]いずれか記載の抗体。
[8]抗体の配列をコードする核酸のライブラリーを提供する工程;
該核酸ライブラリーからファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーを逐次、非活性血小板、活性血小板、非活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞、および活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞と反応させる工程;および
該血小板または活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞に結合したファージ結合を溶出する工程
を含む、血液血小板の活性化インテグリンレセプターへの結合により血小板凝集を阻害するための抗体を同定および/または単離する方法。
[9]ヒトドナーから全RNAを単離する工程;
全RNAに含まれるmRNAを単離する工程;
cDNAの作製;
抗体ポリペプチドをコードするcDNA分子から単鎖断片をコードするDNA分子を引き出す工程
を含む、ライブラリーを提供する工程を特徴とする[8]記載の方法。
[10]重鎖および軽鎖可変ドメインを含む単鎖抗体断片の配列を含む核酸を提供する工程;および
該単鎖抗体断片の領域に少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列を導入する工程
を含むライブラリーを提供する工程を特徴とする[8]記載の方法。
[11]少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列が導入される領域がCDR3領域であることを特徴とする[10]記載の方法。
[12][1]〜[7]いずれか記載の抗体をコードするDNA配列。
[13][12]記載のDNA配列を含有してなる発現ベクター。
[14][12]記載のDNA配列または[13]記載の発現ベクターを含有してなる細胞株。
[15][1]〜[7]いずれか記載の抗体、[12]記載のDNA配列または[13]記載の発現ベクターを含有してなる医薬組成物。
[16]血小板上の血小板インテグリンレセプターをブロックするための医薬組成物の調製のための、[1]〜[7]いずれか記載の抗体、[12]記載のDNA配列または[13]記載の発現ベクターの使用。
[17]活性化血小板の数を決定するための診断組成物の調製のための、[1]〜[7]いずれか記載の抗体、[12]記載のDNA配列または[13]記載の発現ベクターの使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板凝集を阻害し、活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性よりも高いことを特徴とする、ヒト起源の単鎖抗体断片(scFv)を含む抗体。
【請求項2】
該断片が配列番号4に示されるアミノ酸配列または配列番号4の配列に少なくとも60%相同であるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1記載の抗体。
【請求項3】
該抗体が、配列番号4のアミノ酸配列の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
該単鎖抗体断片の軽鎖がCLLYYGGGQQGVFGGGまたはCLLYYGGAWVFGGGからなる軽鎖CDR配列を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
二価または多価scFv抗体構築物であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の抗体断片。
【請求項6】
重鎖および軽鎖可変ドメインを含む単鎖抗体断片をコードする配列を含む核酸のライブラリーを提供する工程;
該単鎖抗体断片のCDR3領域に少なくとも1つの無作為化されたヌクレオチド配列を導入する工程
該核酸ライブラリーからファージライブラリーを作製する工程;
該ファージライブラリーを逐次、非活性血小板、活性血小板、非活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞、および活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞と反応させる工程;および
該ファージライブラリーから活性インテグリンレセプター分子に結合するファージを溶出することによって、該血小板または活性インテグリンレセプター分子を発現する他の細胞に結合したファージを得る工程
を含む方法によって得られ得る、
血小板凝集を阻害し、活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性が、非活性コンフォメーションの血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaへの親和性よりも高いことを特徴とする、ヒト起源の単鎖抗体断片(scFv)。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか記載の抗体をコードする配列からなるDNA分子。
【請求項8】
請求項7記載のDNA分子を含有してなる発現ベクター。
【請求項9】
請求項7記載のDNA分子または請求項8記載の発現ベクターを含有してなる細胞株。
【請求項10】
請求項1〜5いずれか記載の抗体、請求項7記載のDNA分子または請求項8記載の発現ベクターを含有してなる医薬組成物。
【請求項11】
血小板上の血小板インテグリンレセプターをブロックするための医薬組成物の調製のための、請求項1〜5いずれか記載の抗体、請求項7記載のDNA分子または請求項8記載の発現ベクターの使用。
【請求項12】
活性化血小板の数を決定するための診断組成物の調製のための、請求項1〜5いずれか記載の抗体、請求項7記載のDNA分子または請求項8記載の発現ベクターの使用。
【請求項13】
非活性状態の血小板インテグリンレセプターGPIIb/IIIaに結合しない、請求項1〜5いずれか記載の抗体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22−1】
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【図22−2】
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【公開番号】特開2010−29203(P2010−29203A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248999(P2009−248999)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【分割の表示】特願2003−534458(P2003−534458)の分割
【原出願日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【出願人】(504099171)アフィメート テラポイティクス アーゲー (1)
【Fターム(参考)】