説明

血小板減少性紫斑病治療剤

【課題】 難治性疾患である突発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対し、副腎皮質ホルモンに代わる、有効な治療剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンを有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤であり、具体的には、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンから選択される群の少なくとも1種を有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難治性疾患の一種である突発性血小板減少性紫斑病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
突発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)は、明らかな基礎疾患・原因薬剤の関与なく発症し、血小板数が減少するため種々の出血症状をひき起こす病気であり、臨床的には、血小板減少をきたす原因疾患がなく、赤血球系や白血球系には本質的な異常はなく、骨髄の低形成を認めないことを特徴とする疾患である。
通常健常人では血小板数は、1mm当たり15万〜35万といわれているが、このITPの場合には、10万以下になっている。但し、白血病や再生不良貧血などの血液系の疾患にあっても血小板数の減少が認められることから、併せて骨髄細胞が正常なものかどうか診断する必要がある。
【0003】
難治性疾患の一つに指定されているが、この疾患の原因は完全には解明されておらず、血小板に対する自己抗体が産生され、血小板が脾臓などの網内系組織で破壊されるために血小板が減少する疾患と考えられている。
昭和57年に当時の厚生省研究班で登録を開始して以来、毎年約200名前後の発症が報告されており、発症年齢は、小児では5歳未満が最も多く、次いで5〜9歳、10〜14歳と順に多くみられており、成人では20歳代後半と40歳代後半に多くみられる疾患である。また、重症ITPの場合、脳内出血が発生しやすくなり、死亡に至る疾患である。
【0004】
この治療には、副腎皮質ホルモンの投与が第一次選択治療剤であるが、ステロイドホルモンによるムーンフェースをはじめ、易感染性、糖尿病、骨粗鬆症、精神症状などの合併症を来たし、長期緩解が得られる症例は少ないものとなっている。そのため、重症例に対しては脾臓の摘出(摘脾)が施行され(第二次選択治療法)、その有効率は高いものの、侵襲を伴う手術であり、無効例や再発例も存在する厄介な疾患である。
【0005】
ガンマグロブリンの大量投与も有効な治療法として検討されているが、その効果は一過性であり、主に手術前や出産時に限定して用いられている。その他、抗RH0(D)法、Cyclophosphamide法、Cyclosporine法、Danazol法、Dapsone法、漢方薬、抗癌剤、リンパ球に対する抗体(anti-CD20)療法など種々の試み的な方法(第三次選択治療法)が報告されているが(非特許文献1)、難治性のITPに対しては確立された治療法がないのが現状である。
近年、ヘリコバクタ・ピロリ(H. pylori)の除菌治療によりITP患者で血小板の増加する症例が主に日本とイタリアで報告されており(非特許文献2〜4)、アメリカで2006年にフェーズI/IIが終わったばかりのAMG531というthrombopoietin製剤(遺伝子関連物)がITPに対する新たな治療戦略の可能性が示唆されているが(非特許文献5)、かかる疾患に対する効果的な治療剤の開発が望まれているのが現状である。
【非特許文献1】Bromberg M.E., N. Engl. J. Med.,: 355(16):1643, 2006
【非特許文献2】Gasbarrini A.ら、Lancet: 352: 878, 1998
【非特許文献3】Emilia G.ら、Blood: 97:812-814, 2001
【非特許文献4】Kohda K.ら、Br. J. Haemotol., 118: 584-588, 2002
【非特許文献5】Bussel J.B.ら、N. Engl. J. Med.,: 355(16):1672, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は、難治性疾患である突発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対し、副腎皮質ホルモンに代わる、有効な治療剤を提供することを課題とする。
本発明者等は、かかる課題を解決するべく、コレステロールから作られる最大量の生体内物質である胆汁酸の成分に着目し、これらの成分について血小板減少性紫斑病のモデルマウスを対象に検討した結果、胆汁酸成分には優れた血小板増殖作用があることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明はその基本な態様として、請求項1に記載の発明は、胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンを有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤である。
【0008】
より具体的な請求項2に記載の発明は、胆汁酸が、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体からなるものである血小板減少性紫斑病治療剤である。
【0009】
そのなかでも最も具体的な請求項3に記載の本発明は、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンから選択される群の少なくとも1種を有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、これまでITPの治療薬として副腎皮質ホルモンが第一次選択薬として投与されていたが、かかるステロイドホルモン投与による副作用の発現が無く、また、摘脾による侵襲性の手術を行うことなく、ITPを治療しうる点で、特に優れた治療剤が提供される。
したがって、難治性疾患であるITPを効果的に治療しうる点で、その医療上の効果は多大なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、ITPに対する有効成分である胆汁酸は、胆汁の主要成分であり、胆汁自体は、melancholy(black bear bile:黒熊胆汁、憂鬱の原因と考えられた)という言葉の由来からもわかるように、古くギリシャ時代から身体の重要な構成要素とされていたものである。
18世紀には、胆汁の生理的意義として、脂肪の消化、吸収を助けるという役割が指摘されており、それは主要な成分である胆汁酸によるものであった。その後、この胆汁酸の化学構造の解明と、生合成や代謝に精力的な検討が加えられ、その後、胆汁酸の一つであるケノデオキシコール酸及びウルソデオキシコール酸にコレステロール系胆石を溶解する作用のあることが報告され、外科的手術の対象だった胆石症を薬物療法で治療できるということで、大きな注目を浴びた成分である。
【0012】
本発明においては、かかる胆汁酸として、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体からなるものを挙げることができる。
【0013】
また、漢方薬として使用されている熊胆(くまのい:熊の胆嚢)を本発明の胆汁酸を含有する成分の一つとして使用することもできる。
日本では漢方薬として知られている熊胆(くまのい)は、古くより胆嚢付近の痛み(三大疼痛とも言われる)に用いられてきたが、主要成分としてウルソデオキシコール酸を含有するものであり、ケノデオキシコール酸とよく構造が類似しており、これも同様の作用を持つものである。
【0014】
また、タウリンは、体内で重要な働きを示す含硫アミノ酸の一種であり、胆汁の成分でもあり、胆汁の主要な成分である胆汁酸と結合(抱合)し、タウロコール酸などの形で存在する。
【0015】
本発明にあっては、これらの胆汁酸、タウリンについて、優れた血小板増殖作用があることが確認された。その上、これらの成分のいくつかは、既に日本薬局方に収載されている成分であるが、これら成分に特異的な血小板増殖増強作用があることはこれまで知られていなかったものである。
【0016】
本発明が提供する血小板減少性紫斑病治療剤は、胆汁酸であるコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンを有効成分とするものである。
【0017】
好ましくは、コール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンから選択される群の少なくとも1種を有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤であり、最も好ましくは、ウルソデオキシコール酸のグリシン抱合体又はタウリン抱合体を有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤である。
【0018】
これらの各成分のいくつかは、日本薬局方に収載されており、その安全性は既に確立したものである。また、熊胆(くまのい:熊の胆嚢)にあっても、漢方薬として使用されているものであり、その安全性は確立されたものである。したがって、重篤な副作用を伴うことなく血小板減少性紫斑病を治療しうる点で、極めて特異的なものといえる。
【0019】
本発明が提供する血小板減少性紫斑病治療剤にあっては、有効成分である胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、具体的には、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンを含有する種々の剤型を採ることができる。
例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口投与製剤、または静脈注射用製剤、局所注射用製剤、点鼻剤、点眼剤、吸入剤、噴霧剤などの非経口投与用製剤として適用することができるが、なかでも経口投与製剤、並びに静脈注射用製剤とすることで、当該有効成分の特性、効果をより良く発揮することができる。
【0020】
これらの経口投与製剤及び非経口投与用製剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に許容され、使用されている各種基剤、成分を挙げることができる。具体的には、結晶性セルロース、単糖類、二糖類、糖アルコール類、多糖類などの糖類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなどの高分子添加剤;イオン性又は非イオン性界面活性剤;などが剤型に応じて適宜選択され、使用することができる。
【0021】
また、その製剤への調製は、一般的に製剤分野で汎用されている製剤化技術をそのまま使用し、所望の製剤へ調製することができる。
【0022】
本発明が提供する血小板減少性紫斑病治療剤においては、その有効成分である胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、具体的には、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンの含有量は一概に限定することができず、症状、年齢、体重等に応じ種々変更することができる。しかしながら、一般的には、およそ100〜1,000mg/日量を目安に含有させることができる。
【0023】
本発明の治療剤において有効成分である胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、具体的には、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンは、実験的血小板減少性紫斑病モデルマウスにおいて、顕著な血小板増殖作用を示すことが確認された。
以下にその試験例を説明しながら、本発明をより詳細に説明していく。
【0024】
試験例1:実験的血小板減少性紫斑病モデルマウスの作製
[血小板抗原の調製]
液体パラフィンと無水ラノリンを4:1の比率で充分に混和研磨し、freund incomplete adjuvant(FIA)を得、このFIAにBCG(baciliii Calmette-Guerin)ワクチンを最終濃度として10ng/mLとなるよう添加し、充分に混和研磨するとfreund complete adjuvant(FCA)が得られる。上述のfreund adjuvant(FA)に8〜9ポンドの圧力を20分間かけて滅菌した後、冷蔵保存した。
【0025】
一方、BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)30匹から心臓採血(2%EDTA-Na含有生理食塩水抗凝固、血液:抗凝固剤=9:1)し、500rpm/minで20分間遠心後、血小板含有(platelet rich plasma:PRP)の上清を採取し、沈殿物に少量の生理食塩水を加え、再度遠心を行い(同じ操作を2回繰り返す)、上清部分を合併させた。合併後の上清(PRP)を500rpm/minで20分間遠心後、沈殿した赤血球を除去し、最後に3,500rpm/minで10分間遠心を行うことにより上清を捨て、沈殿した血小板を得た。得られた血小板は生理食塩水で3回洗浄(3,500rpm/minで10分間)を行い、濃度が400×10/Lの血小板懸濁液を得た。
なお、この操作は無菌状態にて実施した。
【0026】
上述のFA(2種類)を滅菌グラス研鉢に別々に入れ、室温に戻してからこの血小板懸濁液を1:1の比例で一滴一滴混和、研磨し、油包水型(water-in-oil)の乳剤(血小板抗原)を作製した。
なお、この乳剤は、毎回使用日に新たに作製する新鮮なものを使用した。乳剤はミルク色をし、ドロドロしたものであり、冷水中に滴入れると、滴状のまま分散しないで水面上に浮かぶものを乳化合格品として使用した。
【0027】
[モルモット抗BALB/Cマウス血小板血清(anti-platelet serum;APS)の作製]
体重250〜350gの10〜13週齢のモルモット10匹を使用し、0、1、2及び4週目に皮膚下6箇所(腹部、背中及び足の裏)に、上記の血小板抗原を注射し、免役させた。初回はFCAと血小板懸濁液で作製した乳剤を0.1mL/箇所に注射し、あとの3回はFIAと血小板懸濁液で作製した乳剤を毎回0.2mL/箇所に注射し、免疫を増強させた。
5週目にモルモットを全部断頭殺し、血液を採取し、室温で30分間静置させた後、3,000rpm/minで10分間遠心を行い、上清を分離して−80℃にて保存した。
【0028】
BALB/Cマウス50匹から心臓採血(2%EDTA-Na含有生理食塩水抗凝固、血液:抗凝固剤=9:1)を行い、2,500rpm/nimにて10分間遠心後、上清を捨てて、下の赤血球を等量の生理食塩水で1回洗浄(2,500rpm/min/5分間遠心)した後、上清をすて、Ca2+及びMg2+フリーのHanks液で上述の赤血球を3回洗い(2,500rpm/min/5分間遠心)、赤血球を得た。
上記の冷蔵庫保存のモルモット血清を、56℃に設定した水浴槽の中に30分間温浴させた後、等容積の赤血球で2回吸収させ(3,000rpm/min/5分間遠心)、赤血球抗体フリーのモルモット抗BALB/Cマウス血小板血清(anti-platelet serum;APS)を作製した。得られた血清を1mLの蓋つき遠心管に分注し、−80℃にて保存し、使用時に必要量だけを出して使用した。
【0029】
[実験的免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスの作製]
モルモット抗BALB/Cマウス血小板血清(anti-platelet serum;APS)を冷蔵庫から取り出し、生理食塩水にて4〜6倍希釈を行い、BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)の腹腔内に注射投与すると免疫性血小板減少性紫斑病のモデルマウスが作成される。
モデルマウスが作成されたとする確認は、APSを1回注射投与24時間後からマウス全身の皮膚下(足、肛門周辺、口周辺が著しい)に徐々に出血が認められ、肉眼で紫斑が観察される。希釈倍数が少ない場合には死亡例も観察されるが、死亡したマウスの剖検によると、皮膚下、粘膜下、内臓部分に出血が観察され、脾臓が数倍の大きさに膨張していた。
【0030】
静脈血(尻尾静脈)の血液学的検査によれば、APSを1回投与し36時間から72時間の間血小板が著しく減少している(42時間前後がピーク)。赤血球の減少も僅かに観察されたが、これはAPS中の赤血球抗体の除去が不十分であったためと思われる。
他の血液学的検査項目はほとんど正常であった。投与約1週間後には、血小板が正常値まで回復した。
なお、BALB/Cマウス以外のマウスにAPS(モルモット抗BALB/Cマウス血小板血清)を投与して免疫性血小板減少性紫斑病のモデルマウスが作成されるか否かを、NIH系のマウスで検討した。その結果、NIH系マウスでも免疫性血小板減少性紫斑病のモデルマウスが作成されることが確認された。
BALB/Cマウス(正常群12匹/ITP群13匹)及びNIH系マウス(正常群12匹/ITP群11匹)の両者について、APSを投与42時間後における血液検査結果を下記表1にまとめて示した。
なお、正常マウスはAPSの投与を行わなかったマウスである。
【0031】
【表1】

【0032】
WBC:白血球
RBL:赤血球
HGB:ヘモグロビン
HCT:ヘマトクリット値
MCV:平均赤血球容積
MCH:平均赤血球ヘモグロビン量
MCHC:平均ヘモグロビン濃度
PLT:血小板
MPV:平均血小板容積
*:対コントロール p<0.001
**:対コントロール p<0.01
【0033】
試験例2:試験物質の免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスへの作用(生存率)
免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスとして急性モデルを作成する場合、すなわちAPSの希釈倍率を少なくするとBALB/Cマウスではその生存率が低いものとなる。
(A)そこで、APSを3倍希釈し、BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)腹腔内に単回(100μL/マウス量)投与し、その24時間後の生存率を求めた。
それに併せ、試験化合物[プレドニゾン、熊の胆嚢、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、タウリン及びケノデオキシコール酸(CDCA)]をそれぞれ下記表に記載の容量投与しておいたマウスにおいては、その生存率は著しく高いものであった。
その結果を下記表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
対コントロール群 ***:p<0.001
対ITPモデル群 ###:p<0.001 ##:p<0.01 #:p<0.05
【0036】
(B)APSの希釈倍数として、6倍希釈して、14日間にわたり7回(投与開始1、4、6、8、10、12及び14日目)それぞれ100μL/マウス量をBALB/Cマウスの腹腔内に投与し、投与開始後15日目での生存率を以下の表3に示した。
なお、このときのマウスとして血小板数の減少モデルマウスであることを確認した。
【0037】
【表3】

対ITPモデル群 ###:p<0.001 ##:p<0.01 #:p<0.05
【0038】
以上の結果から、本発明の有効成分である胆汁酸は、安全性が高いものであると共に、免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスの生存率を向上させており、血小板減少に基づく症状の改善をしているものと推測された。
【0039】
試験例3:免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスへの血小板数に対する試験化合物の作用
APSを5倍希釈して、BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)の腹腔内に100μL/マウス量で単回投与した。投与後、試験化合物を下記表に記載の用量で1日1回経口投与し、42時間後(トータル2回経口投与)及び66時間後(トータル3回経口投与:ただし、最終投与時から1時間後)に免役したマウスの尾静脈より70μL/マウス量の血液を採取し、140μL血小板希釈液にいれ、充分混和後、血球分類機械で白血球(WBC)、赤血球(RBC)及び血小板(PLT)を測定した。
なお、APSを投与しないコントロール群(無処置群)及びITPモデル群(薬剤無投与群)には、生理食塩水を経口投与し、活性コントロールとして副腎皮質ホルモンであるプレドニゾン投与群を使用した。
その結果を、下記表4(42時間後)及び表5(66時間後)に示した。
【0040】
【表4】

対コントロール群 *:p<0.05
対モデル群 #:p<0.05 ###:p<0.001
【0041】
【表5】

対コントロール群 **:p<0.01
対モデル群 #:p<0.05 ##:p<0.01
【0042】
以上の結果から判明するとおり、本発明の有効成分である化合物(UDCA、熊の胆嚢、タウリン)には、ITPにより減少した血小板について、優れた血小板増殖作用があることが理解される。
【0043】
試験例4:慢性免疫性血小板減少性紫斑病モデルマウスの血小板数に対する試験化合物の作用
BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)をランダムに7群に分け(10匹/群)、APSを8倍希釈してから0、1、2、4及び6日目にマウス腹腔内に1回/日、0.1mL/マウス量で注射投与した。APSの投与開始日から試験化合物を1回/日、下記表6に記載の容量で7日間連続経口投与し、APSを注射投与した最終日(6日目)から24時間経過日に試験化合物を経口投与してから1時間後に免役したマウスの尾静脈より血液を採取し、白血球(WBC)、赤血球(RBC)及び血小板(PLT)を測定した。
また、マウスを断頭殺し、脾臓、胸腺及び副腎を取り出し、重量を測定し、各臓器の臓器インデックスを求めた。
なお、APSを投与しないコントロール群(無処置群)及びITPモデル群(薬剤無投与群)には、生理食塩水を経口投与し、活性コントロールとして副腎皮質ホルモンであるプレドニゾン投与群を使用した。
その結果を、下記表6(血液学的結果)及び表7(臓器インデックス)に示した。
【0044】
【表6】

対コントロール群 ***:p<0.001
対モデル群 #:p<0.05 ##:p<0.01
【0045】
【表7】

対コントロール群 ***:p<0.001
対モデル群 #:p<0.05 ##:p<0.01 ###:p<0.001
【0046】
以上の結果から判明するとおり、各試験における臓器インデックスは大きな変化が認められず、本発明の有効成分である化合物は、免疫臓器(脾臓、胸腺及び副腎)に対して悪影響を与えるものではなかった。また、臨床上、突発性血小板減少性紫斑病の患者は、血小板が脾臓で破壊されるため、脾臓が膨張することが知られている。本モデル動物実験においても脾臓の膨張が確認されたが、本発明の有効成分である化合物の投与により、脾臓の膨張が有意に抑制されていた。
【0047】
試験例5:血小板減少性紫斑病モデルマウスに対する試験化合物の作用
BALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)に、APSを7倍希釈してから0、1、2、4及び6日目にマウス腹腔内に1回/日、0.1mL/マウス量で注射投与した。APSの投与開始日から試験化合物を1回/日、下記表に記載の容量で7日間連続経口投与し、APSを注射投与した最終日(6日目)から24時間経過日に試験化合物を経口投与してから1時間後に免役したマウスの尾静脈より血液を採取し、白血球(WBC)、赤血球(RBC)、ヘマトグロビン(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、血小板(PLT)及び平均血小板容積(MPV)を測定した。
また、マウスを断頭殺し、脾臓、胸腺及び副腎を取り出し、重量を測定し、各臓器の臓器インデックスを求めた。
なお、APSを投与しないコントロール群(無処置群)及びITPモデル群(薬剤無投与群)には、生理食塩水を経口投与し、活性コントロールとして副腎皮質ホルモンであるプレドニゾン投与群を使用した。
その結果を、下記表8に示した。
【0048】
【表8】

【0049】
プラセボを投与した群と、タウリンの投与量を大用量と小用量とで変化させた結果を、下記表9に示した。
【0050】
【表9】

【0051】
上記の表から判明するように、タウリンについては、その投与量を変化させても、同様の血小板増殖作用が認められているものであった。
次いで、UDCA、TUDCA(ウルソデオキシコール酸のタウリン抱合体)及びCA(コール酸)について、そのそれぞれの投与量を大用量と小用量とで変化させた結果を、下記表10に示した。
【0052】
【表10】

【0053】
上記の表から判明するように、タウリンと同様に、UDCA(ウルソデオキシコール酸)、TUDCA(ウルソデオキシコール酸のタウリン抱合体)及びCA(コール酸)についても、その投与量を大用量と小用量とで変化させた場合であっても、同様の血小板増殖作用が認められているものであった。
【0054】
なお、各試験における臓器インデックスは、大きな変化が認められず、本発明の化合物は、臓器(脾臓、胸腺及び副腎)に対して、悪影響を与えるものではなかった。
以上の試験は、モデルマウスとしてBALB/Cマウス(体重16〜17g/6〜7週齢)を使用したものであるが、モデルマウスとしてNIH系のマウスで検討した場合であっても、同様の血小板増殖作用を示すものであった。
【0055】
その点を、試験化合物として本発明のDCA(デオキシコール酸)、LCA(リトコール酸)及びGUDCA(ウルソデオキシコール酸のグリシン抱合体)について、ITPモデルNIH系マウスを使用し、その投与量を大用量、小用量と変化させ投与したときの血液学的検査結果を表11に示した。
【0056】
【表11】

【0057】
この表に示した結果からも判明するように、NIH系のモデルマウスで検討した場合であっても、本発明のDCA(デオキシコール酸)、LCA(リトコール酸)及びGUDCA(ウルソデオキシコール酸のグリシン抱合体)は、同様の血小板増殖作用を示すものであった。
【0058】
さらに、試験化合物として本発明のタウリン、UDCA(ウルソデオキシコール酸)、TUDCA(ウルソデオキシコール酸のタウリン抱合体)及びCA(コール酸)について、ITPモデルNIH系マウスを使用し、血液凝固性能に対する影響を検討した結果を、下記表12にまとめて示した。
なお、活性コントロールとして副腎皮質ホルモンであるプレドニゾン投与群を使用し、また、無処置コントロール群及びITPモデル(薬剤無投与群)を置いた。
【0059】
【表12】

【0060】
以上記載のように、本発明の有効成分である胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンは血小板の減少を抑え、更に血小板増殖能を有するものであり、難治性疾患の一種である突発性血小板減少性紫斑病に対して、有効な治療剤となることが確認された。
特に、ウルソデオキシコール酸のタウリン抱合体(TUDCA)及びグリシン抱合体(GUCDCA)の活性は高いものであった。また、タウリン単独でも活性は強いものであった。
【0061】
以下に、実施例に代わるいくつかの製剤例を記載する。
製剤例1:錠剤
ウルソデオキシコール酸 50mg
ヒドロキシプロピルセルロース 200mg
結晶セルロース 100mg
乳糖 40mg
ステアリン酸マグネシウム 10mg
上記の処方により、常法に従い400mgの錠剤を調製した。
【0062】
製剤例2:顆粒剤
ウルソデオキシコール酸のタウリン抱合体 100mg
乳糖 300mg
ステアリン酸マグネシウム 10mg
上記の処方により、常法に従って、顆粒剤を調製した。
【0063】
製剤例3:散剤
タウリン 1,000mg
形質無水ケイ酸 2,000mg
タルク 100mg
上記処方を、常法に従って混合し、散剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、突発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療薬として副腎皮質ホルモンに代わる、副作用の発現が無い、優れた治療剤が提供される。したがって、難治性疾患であるITPを効果的に治療しうる点で、その医療上の効果は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆汁酸、及びそのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンを有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤。
【請求項2】
胆汁酸が、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオコール酸、ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、α−ムリコール酸、β−ムリコール酸、ω−ムリコール酸、ムリデオキシコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体からなるものである請求項1に記載の血小板減少性紫斑病治療剤。
【請求項3】
コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソコール酸、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸、並びにそれらのグリシン抱合体又はタウリン抱合体、又はタウリンから選択される群の少なくとも1種を有効成分とする血小板減少性紫斑病治療剤。

【公開番号】特開2008−280276(P2008−280276A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124876(P2007−124876)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(507151836)
【出願人】(507151320)
【Fターム(参考)】