説明

血小板減少抑制剤

【課題】血小板減少抑制剤及び血小板減少抑制用飲食品の提供。
【解決手段】チーズに含まれる成分を有効成分とする血小板減少抑制剤、チーズに含まれる成分を配合した血小板減少抑制用飲食品。
チーズに含まれる成分には、血小板の減少を抑制する作用があり、血小板の減少によって生じる様々な症状を予防する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズに含まれる成分を有効成分とする血小板減少抑制剤、あるいはチーズに含まれる成分を配合した血小板減少抑制用飲食品に関する。本発明の血小板減少抑制剤や血小板減少抑制用飲食品は、これを摂取することによりアルコール性血小板減少症などによる血小板の減少を抑制することができるので、血小板の減少に起因する疾患の治療及び予防に有用である。
【背景技術】
【0002】
血小板は白血球、赤血球とともに血液中に含まれる細胞であり、出血箇所における凝集やセロトニン、トロンボキサンといった血管作動物質の産生など、止血作用において主要な役割を担っている。また、止血作用にかかわる働きのほかにも、血小板由来増殖因子や上皮増殖因子など種々の増殖因子の産生、血管平滑筋細胞、繊維芽細胞の増殖、コラーゲン合成促進による血管の修復など、様々な役割を担っている。さらに、近年では肝臓の再生を促す働きがあることも発見されている。
【0003】
血小板の減少は血液疾患や放射線、薬物、栄養不良などに起因する血小板産生能力の低下による場合と、肝硬変や血小板減少性紫斑病などによって血小板自体の破壊が進む場合がある。いずれの場合においても、止血作用が低下し、皮膚の青あざ、点状の出血、粘膜からの出血などの症状が現れる。また、血小板の著しい減少は、胃腸などの粘膜や 脳等の深部臓器に出血する危険性を高めることにもつながる。一方、不適切なアルコール摂取が血小板に影響する因子であることもわかっており、飲酒によって血小板数が低下することも知られている。しかし、熟成したナチュラルチーズが、血小板の減少を抑制する作用を実証した報告はこれまでにはない。
【0004】
近年、食品や食品成分の生理機能に関する研究が盛んに行われるようになり、チーズについても、高脂肪含有食品であるのにも関わらず血中トリグリセリド濃度の低下促進作用やコレステロール代謝の改善作用を有することが報告されている(特許文献1、特許文献2)。また、生体において疾病や老化等に悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による酸化的障害の抑制作用を有することも報告されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−300890号公報
【特許文献2】特開2003−144090号公報
【特許文献3】特開2004−352958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、摂取することで血小板の減少抑制に有用であり、しかも、日常的な摂取が可能であるチーズに含まれる成分を有効成分とする血小板減少抑制剤、あるいは血小板減少抑制用飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、日常的に摂取が可能である食品や食品成分によって生体の種々の機能異常を予防や改善できないかという観点で、チーズに含まれる成分に着目し、その生理機能を確認してきたところ、生体内において血小板の減少を抑制する作用を見出した。そして、この生理機能を利用した血小板減少抑制剤、あるいは血小板減少抑制用飲食品を供することにより、血小板の減少を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。つまり、チーズに含まれる成分の血小板の減少を抑制する作用を利用し、チーズに含まれる成分を有効成分とする血小板減少抑制剤、あるいはチーズに含まれる成分を配合した血小板減少抑制用飲食品を提供することにより課題を解決することができた。
【0007】
なお、チーズは古来より食されてきた食品であり、日常的に摂取しても安全性に問題は全く無いといえるものであるが、日本におけるチーズの消費量は1日当たり5〜6g程度と少ない。
【0008】
本発明で使用することのできる成分は、通常食されているチーズ、例えば、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エメンタールチーズ、エダムチーズ、カマンベール、スチルトンチーズ、ブルーチーズ等のナチュラルチーズ、あるいはこれらのナチュラルチーズを原料として加工されたプロセスチーズ等に含まれている。そして、チーズに含まれる成分として、チーズ自体を使用することもできる。また、チーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、不溶性物質除去、タンパク質除去等を行った画分を使用することもできるし、これらの画分を透析膜やゲル濾過、イオン交換等の各種クロマトグラフィーにより精製した画分を使用することもできる。なお、これらの画分については、濃縮や乾燥を行って使用することもできる。
【0009】
ところで、チーズの熟成の程度を示す熟度(%)は、〔(可溶性窒素/全窒素)×100〕の計算式で算出され、ナチュラルチーズ製造直後では6〜7%程度であるが、熟成が進むにつれて上昇し、24〜30%程度となるチーズもあるが、本発明では、チーズの熟成が進んで熟度が高くなる程、血小板の減少抑制作用が高まることを確認している。このことは、血小板の減少抑制作用に有効な成分が、チーズの熟成と共に増加していることを意味する。したがって、本発明では、チーズに含まれる成分として、チーズの熟成にしたがって増加する成分を使用することが望ましい。
【0010】
本発明の血小板減少抑制剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の製剤を例示することができる。また、血小板減少抑制用飲食品としては、パン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等を挙げることができる。
【0011】
なお、本発明の血小板減少抑制剤の投与量は、治療や予防の目的、症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、チーズ自体では、20〜200g程度を摂取できるようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血小板減少抑制剤や血小板減少抑制用飲食品は、これらを摂取することにより血小板の減少を抑制することができるので、血小板の現象によって引き起こされる様々な症状の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の血小板減少抑制剤は、チーズに含まれる成分を有効成分とする。また、本発明の血小板減少抑制用飲食品は、チーズに含まれる血小板減少抑制作用を有する成分を配合する。そして、本発明の血小板減少抑制剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等とし、また、血小板減少抑制用飲食品は、パン、スナック菓子、ケーキ、プリン、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージ、各種粉乳や離乳食等とする。
【0014】
なお、血小板減少抑制作用を発揮させるためには、成人の場合、1食当たり20〜200g程度のチーズに相当する有効成分を摂取できるようにする。
【0015】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
(細菌熟成タイプのチーズの調製)
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販のチーズ製造用乳酸菌スターター(クリスチャン・ハンセン社)1.5%及び多糖産生乳酸菌のラクトバチルス・ヘルベチカス(L.helveticus)SBT2171(FERMP-14381)3%を添加し、レンネット0.003%を添加して乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが 6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出し、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で熟成させ、ゴーダチーズタイプの硬質ナチュラルチーズを調製した。
【0017】
[試験例1]
(血小板減少抑制作用の確認)
実施例1で製造した熟成5ヶ月チーズ(熟度30%)及び熟成8ヶ月チーズ(熟度38%)を使用して、アルコールによる血小板の減少を抑制する作用を確認した。また、対照として、未熟成チーズを使用した。動物実験は、1群8匹とし、熟成5ヶ月チーズを投与した群(熟成5ヶ月群)、熟成8ヶ月チーズを投与した群(熟成8ヶ月群)及び未熟成チーズを投与した群(未熟成群)として行った。
【0018】
なお、動物実験は液体飼料法に準拠した(Lin, Liquid diet preparation for study of chronic alcohol ingestion in the rat, Lab. Anim. Sci., vol.39, p.618-620, 1989年)。すなわち、各チーズ20%、シュクロース8.5%及びエタノール5%を含有する液体飼料を調製し、C57BL/6マウス(5週齢、雄、日本チャールス・リバー社)に投与し、投与1週間後、血小板数を血球カウンターで測定した。なお、液体飼料の摂取量は、マウス1匹当たり1日平均8.8g±0.4gであり、群間に差はなかった。
【0019】
結果を図1に示す。これによると血小板数は未熟性のゴーダチーズを投与した群に比べて、熟成5ヶ月群及び熟成8ヶ月群で共に有意に高い値を示した。また、熟成8ヶ月群では、アルコール非摂取群と同等の血小板数を示した。すなわち、血小板数はアルコール摂取によって低下するが、チーズの熟成にしたがって増加する成分を摂取することによって血小板の減少を抑制できることが分った。
【実施例2】
【0020】
(カビ熟成タイプのチーズの調製)
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、市販のチーズ製造用乳酸菌スターター(クリスチャン・ハンセン社)2%、レンネット0.003%を添加して乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳を15mm角にカッティングし、30分間保持した後、円柱状モールド(直径110mm、高さ30mm)に充填し、19時間保持してホエーを排除した。次に、凝乳をモールドから取り出した後、23%食塩溶液に浸漬して加塩し、さらにペニシリウム・カゼイコラム(P.caseicolum)の胞子を含有する分散液を凝乳表面に均一に噴霧した。そして、乾燥室(14℃、湿度75%)で1日間乾燥させた後、熟成室(14℃、湿度95%)で7日間熟成させ、さらに熟成室(5℃、湿度75%)で21日間熟成させて白カビ系ナチュラルチーズを製造した。なお、このチーズの熟度は27%であった。
【0021】
得られた白カビ系ナチュラルチーズについて、未熟成チーズを対照とし、試験例1と同様の動物実験方法でアルコールによる血小板の減少を抑制する作用を確認したところ、血小板の減少を抑制できることが分った。
【実施例3】
【0022】
チーズに含まれる有効成分として、実施例1で得られた熟成8ヶ月ゴーダチーズ0.5kg及びチェダーチーズ0.5kgを混合し、溶融塩のポリリン酸ナトリウム20g及び水110mlを加えてケトル乳化機(回転数120rpm)で回転させながら蒸気を吹き込み、85℃まで昇温して乳化した。そして、この乳化したチーズをカルトンに充填し5℃で冷蔵保存して血小板減少抑制用プロセスチーズを得た。
【実施例4】
【0023】
牛乳200ml及び粉寒天2.5gをよく混ぜ加熱し、寒天が溶けたところで砂糖50gを加えて煮溶かし、軽く沸騰させた。そして、チーズに含まれる有効成分として、実施例1で得られた熟成8ヶ月ゴーダチーズ150gを一口大にちぎって加え、粗熱を取り、型に流し込んで冷蔵庫で固め、血小板減少抑制用チーズ羊羹を得た。
【実施例5】
【0024】
チーズに含まれる有効成分として、実施例1で得られた熟成8ヶ月ゴーダチーズ10kgをミートチョッパーで細断した後、溶融塩(リン酸ナトリウム1.2%、ポリリン酸ナトリウム1%)及び乳化剤(シュガーエステル0.6%)と共に、90℃の熱水5kgが入っている溶解タンク中に投入し、pH6.2に調整した後、撹拌し蒸気を吹き込んで乳化液を調製した。そして、この乳化液を均質してフイルターで濾過し、噴霧乾燥して血小板減少抑制用粉末チーズを得た。
【実施例6】
【0025】
実施例5で得られた血小板減少抑制用粉末チーズ100g、ビタミンC40g、グラニュー糖100g及びコーンスターチと乳糖の等量混合物60gを混合し、袋に詰めて血小板減少抑制用栄養健康食品を得た。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験例1における各実験群の血小板数測定結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズに含まれる成分を有効成分とする血小板減少抑制剤。
【請求項2】
チーズに含まれる成分が、チーズの熟成にしたがって増加する成分である請求項1記載の血小板減少抑制剤。
【請求項3】
チーズ自体を使用した請求項1又は2記載の血小板減少抑制剤。
【請求項4】
チーズに含まれる成分を配合した血小板減少抑制用飲食品。
【請求項5】
チーズに含まれる成分が、チーズの熟成にしたがって増加する成分である請求項4記載の血小板減少抑制用飲食品。
【請求項6】
チーズ自体を配合した請求項4記載の血小板減少抑制用飲食品。


【図1】
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【公開番号】特開2007−223980(P2007−223980A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49235(P2006−49235)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】