説明

血流路拡張具

【課題】大動脈解離を発症した大動脈の真腔の血流路を内側から拡張させることにより、真腔の血流路を流れる血液の量を増加させて内臓動脈への血流を確保し、内臓が虚血状態になるのを抑制する。
【解決手段】真腔115の血流方向に延びる線状の弾性部材2を、略円筒状のかご形に配置する。弾性部材2の一端部同士を結合し、他端部同士を結合する。弾性部材2の一側及び他側に一側湾曲部4及び他側湾曲部3をそれぞれ形成する。これら一側湾曲部4と他側湾曲部3との間に直線部5を形成する。この直線部5で真腔115の内壁を外方へ向けて押圧して、真腔115の血流路を拡張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大動脈解離が発症した大動脈の真腔の血流路を拡張させる血流路拡張具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動脈硬化等に起因する大動脈疾患の一つとして、大動脈解離の発症例が増加している。大動脈解離とは、大動脈の内膜組織の一部が破綻してできたエントリーから大動脈を流れる血液が大動脈の内膜組織と外膜組織との間に流れ込んで、これら内膜組織と外膜組織との間に、正常時に血液が流れる血流路を構成する真腔とは別に血流路を構成する解離腔を生じさせる病態である。
【0003】
大動脈解離では、エントリーの大きさや動脈硬化の進行度合いにより、真腔よりも解離腔の方に多くの血液が流れ込むようになる場合がある。こうなると、解離腔に流れ込んだ血液により、真腔と解離腔との間の内膜組織が真腔側へ押されるとともに外膜組織が膨らんで解離腔の血流路が広くなり、一方、上記のようにして内膜組織が真腔側へ押されることにより真腔の血流路が狭くなる。この大動脈から分岐している内臓動脈の近傍で真腔の血流路が狭くなると、内臓動脈への血流量が少なくなって、内臓動脈が閉塞していないにもかかわらず内臓が虚血状態になることがある。この内臓が虚血状態になった場合に最も深刻な症状として現れるのは、腸管組織が虚血状態になって大量の腸管を切除しなければならなくなる非閉塞性腸間膜虚血症である。
【0004】
上記した大動脈解離に起因して内臓が虚血状態になるのを抑制するために、例えば特許文献1に開示されているような動脈の内膜組織用の切開具を用いて、エントリーよりも末梢側で真腔と解離腔との間の内膜組織を切開することにより、真腔の血流路と解離腔の血流路とを連通させて解離腔の血流路を流れる血液を真腔の血流路へ流す手技が行われることがある。
【特許文献1】特開平5−220158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の切開具を用いて真腔の血流路と解離腔の血流路とを連通させるようにしても、エントリーから解離腔の血流路へ流れた血液により真腔と解離腔との間の内膜組織が真腔側へ押されていて既に真腔の血流路が狭くなっているので、解離腔の血流路から真腔の血流路へ流れ込む血液の量は増加し難い。その結果、真腔の血流路が狭いままになって、内臓が虚血状態になるのを抑制できないことがある。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大動脈解離を発症した大動脈の真腔の血流路を内側から拡張させることにより、真腔の血流路を流れる血液の量を増加させて内臓が虚血状態になるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、弾性部材により真腔の内壁を該真腔の外方へ向けて押圧するようにした。
【0008】
具体的には、請求項1の発明では、大動脈の内膜組織と外膜組織との間に該大動脈内の血液が流れ込んで該大動脈に解離腔と真腔とが形成される大動脈解離を発症した大動脈の真腔の血流路に留置される血流路拡張具を対象とする。
【0009】
そして、上記真腔の内壁を該真腔の外方へ向けて押圧するように形成された弾性部材を備えている構成とする。
【0010】
この構成によれば、真腔の内壁が弾性部材により外方へ押圧されるので、真腔の血流路が拡張されて該血流路の血流量を増加させることが可能になる。加えて、真腔と解離腔との間の内膜組織が解離腔側へ押圧されることにより、解離腔の血流路が狭くなるので、エントリーから解離腔の血流路へ流れ込む血流量が減少し、その減少した分が真腔の血流路に流れることになる。これにより、真腔の血流路を流れる血流量が増加して、内臓動脈へ流れる血流量を確保することが可能になる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、弾性部材を複数備え、上記弾性部材は、真腔の血流方向に延びる線状に形成されて該真腔の周方向に並ぶように配置されている構成とする。
【0012】
この構成によれば、各弾性部材が真腔の血流方向に延びているので、該弾性部材が真腔の血流路の血流を阻害する度合いを低くすることが可能になる。また、真腔の周壁における周方向の複数箇所が弾性部材により押圧されることになる。
【0013】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、弾性部材の一端部同士が結合されるとともに他端部同士が結合され、中間部が真腔の内壁を押圧するように形成されている構成とする。
【0014】
この構成によれば、弾性部材が両端部で一体化されているので、真腔の血流路に留置する作業を行う際に弾性部材が分離してしまうのを防止することが可能になる。
【0015】
請求項4の発明では、請求項2の発明において、弾性部材の一端部同士が結合され、他側が真腔の内壁を押圧するように形成されている構成とする。
【0016】
この構成によれば、弾性部材は一端部同士が結合されて一体化されているので、真腔の血流路に留置する作業を行う際に弾性部材が分離してしまうのを防止することが可能になる。そして、弾性部材の他側が真腔の内壁を押圧するように形成されて血流路の外周部に位置しているので、弾性部材が真腔の血流路の血流を阻害する度合いをより一層低くすることが可能になる。
【0017】
請求項5の発明では、請求項1から4のいずれか1つの発明において、弾性部材には、真腔の内壁に引っ掛かるように形成された突起部が設けられている構成とする。
【0018】
この構成によれば、弾性部材の突起部が真腔の内壁に引っ掛かるので、弾性部材が血流路を流れる血流により末梢側にずれるのを抑制することが可能になる。
【0019】
請求項6の発明では、請求項5の発明において、突起部は、真腔の血流方向の末梢側へ向けて突出している構成とする。
【0020】
この構成によれば、弾性部材が血流路を流れる血流により突起部の突出方向に押されることになる。これにより、突起部が真腔の内壁から外れ難くなる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、弾性部材により真腔の内壁を外方へ押圧するようにしたので、真腔の血流路を拡張させ、解離腔の血流路を狭くすることができる。これにより、真腔の血流路を流れる血液の量が増加して内臓動脈へ流れる血流量を確保することができて、内臓が虚血状態になるのを抑制することができる。
【0022】
請求項2の発明によれば、弾性部材を真腔の血流方向に延びるように形成したので、弾性部材が真腔の血流路の血流を阻害する度合いを低くすることができる。さらに、真腔の周壁が弾性部材により周方向の複数箇所で押圧されることになるので、血流路を確実に拡張することができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、弾性部材の一端部同士を結合するとともに他端部同士を結合したので、真腔の血流路に留置する作業を容易にすることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、弾性部材の一端部同士を結合したので、真腔の血流路に留置する作業を容易にすることができる。さらに、弾性部材の他端部が血流路の周縁部に位置することになるので、弾性部材が真腔の血流路の血流を阻害する度合いをより一層低くすることができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、弾性部材の突起部が真腔の内壁に引っ掛かるので、血流路拡張具が血流路の末梢側へずれるのを抑制することができる。これにより、真腔の血流路を狙い通りに拡張することができる。
【0026】
請求項6の発明によれば、突起部の突出方向を血流方向の末梢側としたので、突起部が真腔の内壁から外れるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る血流路拡張具1を示しており、この血流路拡張具1は、大動脈解離を発症した大動脈100の真腔115(図2〜図4に示す)に留置されて該真腔115の血流路を拡張するためのものである。
【0029】
血流路拡張具1は、複数の線状の弾性部材2を組み合わせて略円筒形状のかご型に構成されている。血流路拡張具1の中心線方向(図1(a)の上下方向)の長さは約40mm〜約60mmに設定されている。また、この実施形態では、弾性部材2の本数を10本としている。尚、弾性部材2の本数を例えば8本や9本としてもよい。
【0030】
弾性部材2は、血流路拡張具1を真腔115の血流路に留置した状態で、弾性部材2の長手方向が真腔115の血流方向と略一致するように、かつ真腔115の周方向に並ぶように配置されている。弾性部材2の構成材料としては、例えばNi−Ti合金やステンレス鋼等のバネ性を有する金属材料や樹脂材料を用いることができる。
【0031】
各弾性部材2の一端部(図1(a)に示す血流路拡張具の下側の端部)は、血流路拡張具1の中心線方向一端部で該中心線上及びその近傍に位置している。これら弾性部材2の一端部同士は溶接等の接合方法を用いて結合されている。また、各弾性部材2の他端部(図1(a)に示す血流路拡張具の上側の端部)は、血流路拡張具1の中心線方向他端部で該中心線上及びその近傍に位置している。これら弾性部材2の他端部同士も結合されている。
【0032】
弾性部材2の他端部よりも一側には、血流路拡張具1の中心線から径方向に離れるように湾曲形成された他側湾曲部3が設けられている。弾性部材2の一端部よりも他側には、上記他側湾曲部3と同様に血流路拡張具1の中心線から径方向に離れるように湾曲形成された一側湾曲部4が設けられている。従って、血流路拡張具1の中心線方向一側の外径は他側へ行くほど拡大し、一方、血流路拡張具1の中心線方向他側の外径は一側へ行くほど拡大している。
【0033】
上記他側湾曲部3と一側湾曲部4との間には、血流路拡張具1の中心線と略平行に延びる直線状に形成された直線部5が設けられている。この直線部5が真腔115の内壁を外方へ押圧するようになっている。血流路拡張具1の直線部5に対応する部位の外径は、約20mm〜約30mmに設定されており、血流路拡張具1の中心線方向の長さよりも短くされている。
【0034】
上記弾性部材2には、真腔115の内壁に引っ掛かるように形成された突起部6が設けられている。この突起部6は、直線部5に沿って血流路拡張具1の中心線方向他側へ向かて延びた後、血流路拡張具1の径方向外側へ湾曲して延び、さらに中心線方向一側へ向かって延びている。突起部6の直線部5に沿って延びる部位が弾性部材2に固定されている。
【0035】
次に、上記のように構成された血流路拡張具1を用いて大動脈解離を発症した大動脈の真腔115を拡張する場合について説明する。まず、大動脈100系及び大動脈解離の病態について、図2〜図4に基づいて説明する。大動脈100は、上行大動脈101、弓部大動脈102、胸部下行大動脈103及び腹部大動脈104で構成されている。上行大動脈101の起始部からは冠動脈105が分岐している。弓部大動脈102からは右腕頭動脈106、左総頸動脈107及び左鎖骨下動脈108が分岐している。腹部大動脈104からは、腹部主要4分枝、即ち左腎動脈110、右腎動脈111、腹腔動脈112及び上腸間膜動脈113が分岐している。尚、符号109は横隔膜を示す。
【0036】
上記弓部大動脈102における左鎖骨下動脈108の分岐部よりも末梢側の内膜組織にエントリーEが形成されると、弓部大動脈102内の血液がエントリーEから内膜組織と外膜組織との間に流れ込む。この内膜組織と外膜組織との間に流れ込んだ血液により中膜組織が破壊されて、内膜組織と外膜組織とが末梢側へ向かって剥がれていき、図3及び図4にも示すように、解離腔114が形成される。つまり、この大動脈解離では、弓部大動脈102、胸部下行大動脈103及び腹部大動脈104に、正規の血流路を構成する真腔115と解離腔114とが形成されている。この真腔115の内径は、正常な弓部大動脈102の内径よりも小さく、かつ解離腔114よりも小さくなっており、特に、腹腔動脈112及び上腸間膜動脈113近傍で狭小化している。上記エントリーEは弓部大動脈102の周方向に長いスリット状をなしていて、長手方向の寸法は約20mm〜30mmであり、幅方向の寸法は約10mmである。
【0037】
上記血流路拡張具1は、図5及び図6に示すように、カテーテル20内に収容した状態で上記腹部大動脈104まで挿入される。このカテーテル20は医療現場で用いられているものであり、柔軟性を有する樹脂材で構成されている。このカテーテル20内に血流路拡張具1を挿入する際には、弾性部材2の他側湾曲部3及び一側湾曲部4を径方向内側に弾性変形させることにより血流路拡張具1の外径を小さくする。そして、血流路拡張具1を中心線方向一端部からカテーテル20の挿入方向先端部に挿入して該カテーテル20内に収容する。突起部6の突出方向は、血流路拡張具1をカテーテル20内に収容した状態でカテーテル20の基端側に向いている。
【0038】
また、カテーテル20内には、ワイヤ21が挿通しており、このワイヤ21の一端部が血流路拡張具1の一端部に係合している。ワイヤ21の他端部はカテーテル20の基端部から外方へ突出している。
【0039】
そして、患者の下肢(図示せず)の皮膚を切開して下肢の動脈に上記カテーテル20を挿入する。図6に示すように、このカテーテル20を動脈への挿入方向に移動させていき、先端部を総腸骨動脈116(図2に示す)から腹部大動脈104に挿入する。その後、図7に示すように、ワイヤ21の他端部をカテーテル20内へ押し込んで、血流路拡張具1をカテーテル20の先端から真腔115内に押し出す。
【0040】
血流路拡張具1のうちカテーテル20から押し出された部位は、弾性部材2が径方向外側に変形する。そして、図8に示すように、血流路拡張具1をカテーテル20から完全に押し出すと、弾性部材2の形状がカテーテル20に収容する前の形状に復元して、弾性部材2の直線部5が真腔115の内壁を外方に押圧する。これにより、真腔115の血流路が拡張されて該血流路を流れる血流量を増加させることが可能になる。
【0041】
このとき、真腔115と解離腔114との間の内膜組織が解離腔114側へ押されて解離腔114の血流路が狭くなるので、該解離腔114の血流路を流れる血流量が減少し、その減少した分が真腔115に流れることになる。さらに、弾性部材2が線状に形成されているので、弾性部材2が真腔115の血流路の血流を阻害する度合いは低い。これらのことにより、真腔115の血流路を流れる血流量が多くなって、腹腔動脈112や上腸間膜動脈113等の内臓動脈へ流れる血流量を確保することが可能になる。
【0042】
また、弾性部材2に設けられた突起部6が真腔115の内壁に引っ掛かる。このとき、血流路拡張具1は、突起部6の突出方向が真腔115の末梢側となるように挿入されているので、血流路を流れる血流により弾性部材2が押される方向と突起部6の突出方向とが同じ方向になる。これにより、突起部6が真腔115の内壁に食い込むようになって該内壁から外れ難くなる。
【0043】
また、弾性部材2の本数を10本にしているので、弾性部材2の各々が真腔115の内壁を押圧する力を小さくしながら、真腔115の血流路を確実に拡張させることが可能になる。これにより、真腔115の血流路の拡張時に、弾性部材2の押圧力が内膜組織に局所的に大きく作用するのを回避して内膜組織にかかる負担を小さくすることが可能になる。尚、弾性部材2の本数を8本や9本にした場合も同様に、真腔115の血流路の拡張時に内膜組織にかかる負担を小さくすることが可能になる。
【0044】
また、血流路拡張具1の中心線方向の長さを約40mm〜約60mmに設定しているので、真腔115の拡張が必要な部位だけを拡張することが可能になる。これにより、真腔115を不要な部位まで拡張せずにすむため、内膜組織の損傷を抑制することが可能になる。
【0045】
また、血流路拡張具1の中心線方向の長さを、血流路拡張具1の直線部5に対応する部位の外径よりも長くすることにより、弾性部材2の内壁への接触部位を長くしているので、血流路拡張具1が真腔115内で安定する。
【0046】
したがって、この実施形態に係る血流路拡張具1によれば、弾性部材2により真腔115の内壁を外方へ押圧するようにしたので、真腔115の血流路を拡張させ、解離腔114の血流路を狭くすることができる。さらに、上記弾性部材2を線状に形成したので、弾性部材2が真腔115の血流路の血流を阻害する度合いを低くすることができる。これらのことにより、真腔115の血流路を流れる血液の量が増加して内臓動脈112、113へ流れる血流量を確保することができて、内臓が虚血状態になるのを抑制することができる。
【0047】
また、各弾性部材2を真腔115の血流方向に延びるように形成したので、弾性部材2が真腔115の血流路の血流を阻害する度合いをより一層低くすることができる。
【0048】
また、弾性部材2の一端部同士を結合するとともに他端部同士を結合したので、血流路拡張具1を真腔115の血流路に留置する作業を行う際に弾性部材2が分離してしまうのを防止することが可能になる。これにより、血流路拡張具1を真腔115の血流路に留置する作業を容易にすることができる。
【0049】
また、弾性部材2の突起部6の突出方向を血流方向の末梢側に向けているので、突起部6が真腔115の内壁から外れるのを抑制することができる。これにより、血流路拡張具1が血流路の末梢側へずれるのを抑制することができて、真腔115の血流路を狙い通りに拡張することができる。
【0050】
また、血流路拡張具1は、図9に示す変形例1のような形状にしてもよい。この変形例1では、弾性部材30の本数が8本であり、該弾性部材30の一端部が互いに結合されている。弾性部材30の一端部よりも他側には、血流路拡張具1の中心線から径方向に離れるように湾曲形成された湾曲部31が設けられている。弾性部材30の他側には、血流路拡張具1の中心線と略平行に延びる直線状に形成された直線部32が設けられており、この直線部32と湾曲部31とが連続している。弾性部材30の他端部には、糸等で構成された環状部材34が挿通する孔部33が設けられている。この環状部材34は、例えば、ポリグリコール酸繊維やコラーゲン繊維等の生体吸収性材料を用いることができる。この生体吸収性材料の種類は、従来より医療現場で縫合糸や縫合補助材等の材料として用いられているものであれば特に限定されず、例えば、株式会社ジェイ・エム・エス製のメディフィット(登録商標)が挙げられる。また、環状部材34は、例えば、ゴム等のように伸縮する部材で構成してもよい。
【0051】
上記環状部材34により弾性部材30の他端部が連結されて、中心線の径方向外方へ必要以上に変位するのが抑制されるようになっている。孔部33は、弾性部材30の他端部を円環状に曲げて構成されている。また、弾性部材30の他端部には、孔部33を構成する部位に連続して突起部35が形成されている。この突起部35が真腔115の内壁に引っ掛かるものである。
【0052】
この変形例1のように弾性部材30の他側を形成することで、血流路拡張具1を真腔115に留置した状態で弾性部材30の他側は真腔115の血流路の中心から離れた外周部に位置することになる。これにより、弾性部材30が真腔115の血流路の血流を阻害する度合いをより一層低くすることができる。
【0053】
また、血流路拡張具1は、図10及び図11に示す変形例2のように、螺旋状をなす弾性部材40で構成してもよい。弾性部材40の一端部(図10の下側の端部)は、血流路拡張具1の中心線方向一端部で該中心線上及びその近傍に位置しており、一体化している。また、弾性部材40の一端部よりも他側(図10の上側)は、血流路拡張具1の中心線から径方向外側に離れるとともに、該血流路拡張具1の中心線周りに螺旋状に形成されている。各弾性部材40の他端部には、上記変形例1の環状部材34が連通する孔部41が設けられている。この環状部材34により弾性部材40の他端部が連結されて、中心線の径方向外方へ必要以上に変位するのが抑制されるようになっている。この変形例2の血流路拡張具1によっても、弾性部材40の螺旋状の部分によって真腔115の血流路を狙い通りに拡張することができる。また、この変形例2の血流路拡張具1に、変形例1のような突起部を設けて、該突起部を真腔115の内壁に引っ掛けるようにしてもよい。
【0054】
上記変形例2の血流路拡張具1には、弾性部材40の一端部にフック部42が設けられており、大動脈解離の症状が落ち着いたときに、図12及び図13に示すように血流路拡張具1を真腔115から回収することができるようになっている。このフック部42は、弾性部材40に一体成形されている。血流路拡張具1を回収する際には、回収具50とカテーテル51とを用いる。回収具50は、カテーテル51に挿入可能なワイヤで構成され、一端部は上記フック部42に引っ掛かる形状に形成されている。上記回収具50及びカテーテル51は、上記下肢の動脈から大動脈100に挿入する。その後、回収具50の一端部をカテーテル51の先端部から突出させてフック部42に引っ掛けて連結し、回収具50をカテーテル51の基端部から引く。このとき、弾性部材40が血流路拡張具1の中心線周りに螺旋状をなしているので、回収具50によりフック部42を弾性部材40の螺旋方向に回動させながら、カテーテル51内に引っ張ることで、血流路拡張具1をスムーズに縮径させることができる。このようにして血流路拡張具1をカテーテル51内に収容した後、該カテーテル51と一緒に体外へ取り出すことが可能になる。上記フック部42は、変形例2の血流路拡張具1以外にも設けることができ、このフック部42を設けることで、血流路拡張具1の回収が容易に行えるようになる。
【0055】
また、血流路拡張具1は、図14及び図15に示す変形例3のように、螺旋状の弾性部材40を大略レモン型をなすように組み合わせて構成してもよい。この弾性部材40は、Ni−Ti合金等の超弾性材料を線状に形成してなるものであり、その線径は、約0.2mmとされている。弾性部材40の一端部(図14の下側の端部)は、血流路拡張具1の中心線方向一端部で該中心線上及びその近傍に位置しており、互いに結合し一体化している。また、弾性部材40の一端部よりも他側(図14の上側)は、血流路拡張具1の中心線から径方向外側に離れるとともに、該血流路拡張具1の中心線周りに螺旋状に形成されている。弾性部材40の他端部は、上記した一端部と同様に位置付けられて互いに結合し一体化している。血流路拡張具1の中心線方向両端部には、上記変形例2と同様なフック部42がそれぞれ設けられている。従って、この変形例3の血流路拡張具1も回収具を用いて回収することが可能である。また、弾性部材40には、捻り加工が施されている。この捻り加工は、例えば弾性部材40の一端部を固定した状態で他端部を該弾性部材40の中心線周りに回転させて該弾性部材40に捻り力を加えることにより施される加工である。このように弾性部材40に捻り加工を施すことで、弾性部材40の表面は螺旋状にうねった形状になり、該弾性部材が真腔115の内膜組織に接触した際に該弾性部材40が内膜組織に対し滑り難くなる。これにより、血流路拡張具1の位置ずれが抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明に係る血流路拡張具は、大動脈解離を発症した大動脈の真腔の血流路を拡張するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る血流路拡張具を示し、(a)は斜視図であり、(b)は血流路拡張具の中心線方向他側から見た平面図である。
【図2】大動脈解離が発症した大動脈系を示す概略図である。
【図3】大動脈解離が発症した腹部大動脈の斜視図である。
【図4】大動脈解離が発症した腹部大動脈の縦断面図である。
【図5】血流路拡張具をカテーテルに収容した状態を説明する図である。
【図6】血流路拡張具を収容したカテーテルを腹部大動脈に挿入した状態を示す図4相当図である。
【図7】血流路拡張具の一部をカテーテルから押し出した状態を示す図4相当図である。
【図8】血流路拡張具により真腔の血流路を拡張した状態を拡大して示す図4相当図である。
【図9】実施形態の変形例1に係る図1(a)相当図である。
【図10】実施形態の変形例2に係る図1(a)相当図である。
【図11】実施形態の変形例2に係る図8相当図である。
【図12】実施形態の変形例2に係る血流路拡張具を回収用のカテーテルに収容する途中の状態を示す図8相当図である。
【図13】実施形態の変形例2に係る血流路拡張具を回収用のカテーテルに収容した状態を示す図8相当図である。
【図14】実施形態の変形例3に係る図1(a)相当図である。
【図15】実施形態の変形例3に係る図8相当図である。
【符号の説明】
【0058】
1 血流路拡張具
2 弾性部材
3 一側湾曲部
4 他側湾曲部
5 直線部
6 突起部
100 大動脈
114 解離腔
115 真腔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈の内膜組織と外膜組織との間に該大動脈内の血液が流れ込んで該大動脈に解離腔と真腔とが形成される大動脈解離を発症した大動脈の真腔の血流路に留置される血流路拡張具であって、
上記真腔の内壁を該真腔の外方へ向けて押圧するように形成された弾性部材を備えていることを特徴とする血流路拡張具。
【請求項2】
請求項1に記載の血流路拡張具において、
弾性部材を複数備え、
上記弾性部材は、真腔の血流方向に延びる線状に形成されて該真腔の周方向に並ぶように配置されていることを特徴とする血流路拡張具。
【請求項3】
請求項2に記載の血流路拡張具において、
弾性部材の一端部同士が結合されるとともに他端部同士が結合され、中間部が真腔の内壁を押圧するように形成されていることを特徴とする血流路拡張具。
【請求項4】
請求項2に記載の血流路拡張具において、
弾性部材の一端部同士が結合され、他側が真腔の内壁を押圧するように形成されていることを特徴とする血流路拡張具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の血流路拡張具において、
弾性部材には、真腔の内壁に引っ掛かるように形成された突起部が設けられていることを特徴とする血流路拡張具。
【請求項6】
請求項5に記載の血流路拡張具において、
突起部は、真腔の血流方向の末梢側へ向けて突出していることを特徴とする血流路拡張具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−135628(P2007−135628A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329328(P2005−329328)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】