説明

血液の病態を回復させるための装置及び方法

本発明は、血液又は血液成分から有害物質を体外除去するための装置であって、共有末端結合で固体基材に固定化された全長ヘパリンを含む装置に関する。本発明は、また、哺乳類の血液又は血液成分から有害物質を体外除去する方法に関する。本発明は、更に固体基材に、全長ヘパリンを共有末端結合させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液又は血液成分から有害物質を体外除去するための装置であって、共有末端結合で固体基材上に固定化された全長ヘパリンを含む装置に関する。本発明はまた、哺乳類の血液又は血液成分から有害物質を体外除去する方法に関する。本発明は、更に、固体基材に、全長ヘパリンを共有末端結合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、最も一般的には、グラム陰性菌の全身性感染によって誘発され、そして今日、抗生物質耐性細菌株によって起こった感染が主たる問題をなす場合、予防と治療のための代わりの方法が必要である。初期の生体外及び生体内での研究は、固定化されたヘパリンを含む組成物が、微生物感染に対して予防的な特性を有することを明らかにしている。また、体外回路の生体不適合によって引き起こされる炎症反応は、重大な臨床上の問題であり、最終的に敗血症を引き起こす可能性がある。
【0003】
ヘパラン硫酸は、殆ど全ての哺乳類細胞の表面に存在するプロテオグリカンである。微生物の多くは、哺乳類細胞の表面のヘパラン硫酸を受容体として利用する。更に、炎症細胞及びサイトカインは、結合及び活性化のために細胞表面上のヘパラン硫酸を利用する。ヘパリンは、哺乳類組織の肥満細胞の好塩基顆粒内プロテオグリカンから分離される15〜25kDaの分子量を有する別のプロテオグリカンである。ヘパリンとヘパラン硫酸の間の構造的類似性により、固体表面に固定化されたヘパリンは、炎症細胞及びサイトカインと同様に、細菌、ウイルス及び寄生虫も結合する。
【0004】
炎症誘発状態の進行は、敗血症、ウイルス血症、急性又は慢性腎疾患、心臓血管疾患、血液量減少性ショック、アナフィラキシー反応及び自己免疫疾患を含む多くの哺乳類の疾患における罹病率及び死亡率の劇的な増加に関連する。組織損傷及び臓器機能障害は、外来微生物によってだけでなく、そのような感染に反応して放出される炎症誘発性メディエーターによって、又は従来の体外回路による表面活性化(補体活性化など)によっても、引き起こされる可能性がある。サイトカイン(腫瘍壊死因子、インターロイキン−1、インターロイキン−6など)及び非サイトカイン(一酸化窒素、血小板活性化因子、補体及びエイコサノイド)は、代償的な組織の損傷を加え、複数の臓器系の機能障害及び生物細胞の死の一因となる可能性がある。細菌、寄生虫、真菌又はウイルス由来の成分は、多くの細胞タイプによって炎症誘発性サイトカインの活性化を惹起する可能性がある。マクロファージ、リンパ球及び顆粒球を含む炎症細胞が活性化される。感染に反応して内在性の抗炎症メディエーターが放出され、重篤な全身性の炎症反応をコントロールするために作用する。最初に、病原性微生物を除去することが、炎症反応を減退させるために極めて重要である。第2に、炎症性メディエーターのネガティブ・フィードバックとポジティブ・フィードバックの間の脆弱なバランスは、細胞損傷を調節しそして臨床転帰に影響を及ぼす重要な要因であり、従って、循環する炎症誘発性刺激物及び/又は炎症誘発性サイトカインを減少させることは、敗血症性合併症をコントロールする重要な事象である。
【0005】
特許文献1は、微生物とアガロースに固定化されたヘパリンとの相互作用に基づいて、フラビウイルス及び他の出血性ウイルスの分離、診断及び治療の方法を開示している。特許文献1で使用されるヘパリンアガロースは、アガロース上に固定化された切断されたヘパリン分子を含む。
【0006】
非特許文献1では、炎症誘発性サイトカインが、ヘパリンコーティングの体外回路を用いて吸着される。体外回路は、静電気的に多数点で結合したヘパリンによるBaxter Duraflo IIヘパリン表面を備えている。
【0007】
血液の体外処理のための改善された方法及び装置についての要望が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,197,568号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Artificial Organs, 26(12):1020-1025 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、哺乳類の血液又は血液成分から有害物質の体外除去のための改善された装置及び方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、例えば、血液透析又は酸素投与用の従来の体外循環システムに使用し、哺乳類の血液又は血液成分から有害物質を除去するための装置を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、全長ヘパリンを、ヘパリン分子の必要な生物学的活性を変化させないで装置に固定化させる方法を提供することである。更に、その表面は、使用される反応条件下で、特にヘパリンの浸出に関して安定でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その第1の側面において、本発明は、血液又は血液成分から有害物質を体外除去するための装置であって、共有末端結合で固体基材上に固定化された全長ヘパリンを含む装置を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
表面のヘパリン化のために現在使用されている最も有効な技術は、Carmeda Bioactive Surface(CBAS(登録商標))である。CBAS(登録商標)表面の調製では、表面に末端結合するヘパリン断片に反応基を付与するために、ヘパリン分子は切断される。多糖類の末端結合は、ヘパリンの結合相手が、ヘパリン分子に接近し結合することを可能にするために必要である。CBAS(登録商標)法によって結合されるヘパリン分子の平均分子量は、6〜9kDaである。
【0015】
本発明による装置ではヘパリン固定化技術が使用され、この場合平均分子量が21kDa以上の全長ヘパリン分子が表面に末端結合される。本発明の方法を使用すると、現在のCBAS(登録商標)の技術状態と比較して、表面に付着するヘパリンの量を、ほぼ倍増させることができる。本発明の方法によって結合した長い鎖は、また、ヘパリン結合相手が結合に利用できる、大量の接近可能なヘパリンオリゴマーをもたらすスペーサ機能をも備える。
【0016】
本発明者らは、本発明による全長ヘパリンでコーティングされた表面は、一般に従来技術で使用されるようなヘパリン断片でコーティングされた従来の表面よりも効率的に、TNF−αを結合することを見出した。従来技術では、殆どのヘパリンコーティング表面は、固体基材にヘパリン断片を結合させるために役立つ反応基を得るために、ヘパリン分子の断片化を含む方法によって製造されている。全長ヘパリンを固体表面に連結させるこれまでの試みは、結合したヘパリン表面濃度が低く、実際の適用に役に立たないヘパリン表面をもたらした。他の全長ヘパリンを固体表面に結合させるこれまでの試みでは、ヘパリンの結合能力を大きく低下させる、固体基材へのヘパリン分子の多点結合が生じている。
【0017】
従って、本発明の実施態様では、固定化されたヘパリン分子は、10kDaを超える平均分子量を有する。本発明の別の実施態様では、固定化されたヘパリン分子は、15kDaを超える平均分子量を有する。本発明の更に別の実施態様では、固定化されたヘパリン分子は、21kDaを超える平均分子量を有する。本発明の更に別の実施態様では、固定化されたヘパリン分子は、30kDaを超える平均分子量を有する。好ましくは、固定化されたヘパリン分子は、15〜25kDaの範囲の平均分子量を有する。平均分子量は、また、25〜35kDaの範囲のように、より大きくてもよい。
【0018】
本発明による装置の固定化されたヘパリン分子の平均分子量は、従って、現行の技術で使用されるヘパリン分子の平均分子量よりも著しく大きい。本発明に従って使用される全長ヘパリン分子は、固体基材の表面積単位当たり結合できるヘパリン結合分子の量の観点、及び固定化された全長ヘパリン分子によって提示される結合モチーフの選択支の増加によって、表面によって結合し得る分子の範囲の観点、の両者から、ヘパリン結合分子に対する改善された結合能力を提供する。
【0019】
本発明は、末端結合した全長ヘパリンを持つ表面の製造法に関するものであり、その方法は、高い全長ヘパリン表面濃度を有する全長ヘパリンでコーティングされた表面をもたらす。本発明のさまざまな側面で用いられる全長ヘパリン分子は、従来技術のヘパリン表面と比較すると、単位表面積当たりのヘパリン結合実体の結合能力に、大幅な増加をもたらす。ヘパリンは、好ましくは共有結合で前記固体基材に結合する。ヘパリン分子の共有結合は、ヘパリンコーティング表面との接触で血液中にヘパリンが浸出することを防止する。ヘパリンの浸出は、例えば、ヘパリンの表面への静電的結合を使用している従来技術において、問題になっている。
【0020】
より具体的な実施態様では、前記ヘパリンが、共有末端結合によって前記固体基材に結合する。固体基材へのヘパリンの共有結合は、非共有結合に比べて、固定化される分子の表面密度及び配向性のようなパラメータを良くコントロール出来る。本発明者らは、これらのパラメータが、固定化されたヘパリン分子に対してヘパリン結合有害物質の最適結合を提供するために重要であることを見出した。1つの実施態様では、固体基材上のヘパリンの表面濃度は、1〜20μg/cm2の範囲である。別の実施態様において、固体基材上のヘパリンの表面濃度は、5〜15μg/cm2の範囲である。共有末端結合は、ヘパリンが、ヘパリン分子の末端残基を介して固体基材に共有結合的に結合することを意味する。
【0021】
本発明の実施態様では、表面への全長ヘパリン分子の共有結合は、ヘパリン分子のアルデヒド基と表面に存在する第一級アミノ基の反応によって達成される。全ての炭水化物の固有の特性は、還元末端にヘミアセタールを有することである。このアセタールはアルデヒドの形態と平衡状態にあり、第一級アミンとシッフ塩基を形成することができる。これらのシッフ塩基は、次に還元されて安定な第二級アミンになることができる。本発明の装置の1つの実施態様では、前記ヘパリンは、安定な第二級アミノ基を介して前記固体基材に共有結合で結合される。
【0022】
1つの実施態様では、装置は、ヘパリン化固体基材を含有するケーシングを含むカラムであり、前記カラムは、血液がカラムに入る入口及び血液がカラムから出る出口を有し、前記の入口及び出口は、入口から入る血液が、出口から出る前に前記ヘパリン化固体基材と接触するように配置される。
【0023】
装置の固体基材は、好ましくは大きな表面積を有する材料を含んでもよい。装置の固体基材は、微粒子又は中空糸を含むことができるが、他の種類の固体基材が使用されてもよい。前記固体基材の全表面積は、0.1〜20m2の範囲、好ましくは0.5〜3m2の範囲であればよい。本発明の或る実施態様では、前記固体基材の材料は、ガラス、セルロース、セルロースアセテート、キチン、キトサン、架橋デキストラン、架橋アガロース、架橋アルギン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、シリコン、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)及びポリウレタンから成るグループから選択される。
【0024】
固体基材は、粒子又はビーズを含んでもよい。本発明の固体基材が粒子又はビーズである装置の1つの実施態様では、前記粒子又はビーズは、好ましくはポリウレタン、ポリオレフィン、シリコン、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ガラス、架橋アルギン酸、及びアガロース、デキストラン、セルロース、キトサン及びデンプンのような架橋多糖類から成るグループから選択される材料を含んでもよい。医療用の微粒子に一般に使用される他の材料も使用することができる。本発明の別の実施態様では、固体基材は、架橋多糖類を含む。
【0025】
本発明の固体基材が中空糸を含む装置の実施態様では、前記中空糸は、好ましくはポリスルホン、ポリアミド、ポリニトリル、ポリプロピレン、架橋アルギン酸及びセルロースから成るグループから選択される材料を含んでもよい。医療用の中空糸に一般に使用される他の材料も使用することができる。中空糸は、好ましくはポリスルホンを含むことができる。
【0026】
装置の固体基材は、もちろん大きな表面積を与える他の形状又は形態で存在してもよい。
【0027】
固体基材のサイズ及び空孔率は、それぞれの適用又は処理に対して、許容される装置圧力損失で好適な血液流速が実現できるように選択されるべきである。高血液流量で低圧損を要求するある種の適用のために、より大きい径の粒子、孔、中空糸又は他の固体基材が要求される。高血液流量及び低圧損を必要としない他の適用では、より小さい径の粒子、孔、中空糸又は他の固体基材が使用されてもよい。従って、本発明の固体基材が粒子の形態で存在する実施態様では、粒径は、10μm〜5mmの範囲であればよい。粒径は、また、10μm〜1,000μmの範囲であってもよい。一般に、20〜200μmの範囲の粒径が有用であるが、高流速の適用では大きな粒子が必要である可能性がある。固体基材は、1本又はそれ以上の中空糸を含んでもよい。本発明の固体基材が中空糸の形態で存在する実施態様では、前記の中空糸の内径は、1μm〜1,000μmの範囲であればよい。一般に、内径は20〜200μmの範囲が有用であるが、特定の用途においては、より大きい又は小さい径の糸が使用されてもよい。
【0028】
本発明の装置は、好ましくは、意図される適用で必要とされる血流速度のために好適に寸法調整されるべきである。非限定的な例として、腎臓透析のための体外回路における血流速度は、一般に200〜500mL/分の範囲であるのに対して、酸素を与えるための体外回路における血流速度は、一般に2,000〜7,000mL/分の範囲である。急性敗血症の治療のための体外回路におけるような或る適用においては、血流速度はより低く、例えば、1〜100mL/分の範囲である。
【0029】
従って、1つの実施態様において、本発明の装置は、200〜500mL/分の血流に好適である。別の実施態様において、本発明の装置は、2,000〜7,000mL/分の血流に好適である。更に別の実施態様において、本発明の装置は、1〜100mL/分の血流に好適である。
【0030】
体外循環用の血液接触医療機器内の局所血流パターンは、停滞域でずり活性化(shear activation)による血塊形成及び血小板凝集に影響することが知られている。従って、本発明の装置は、これらの問題が生じない方式に設計されるべきである。
【0031】
1つの実施態様において、本発明の装置は、静脈から静脈、又は動脈から静脈への体外バイパス回路状に配列される。そのような回路には、更にポンプ、チューブ及びカニューレが含まれてもよい。装置は、好ましくは、さまざまな医療処置に要求される血流に、好適であればよい。
【0032】
別の実施態様において、本発明の装置は、装置を通して血液を輸送するポンプを含む。特定の実施態様では、装置は、他の機器に独立して操作できる独立型ユニットとして存在してもよい。
【0033】
本発明の第1の側面の実施態様では、装置は、体外回路と共に使用するために配置されるカラムである。カラムはヘパリン化固体基材を含有するケーシングを含み、前記カラムは、血液がカラムに入る入口及び血液がカラムから出る出口を有し、前記入口及び出口は、入口から入る血液が、出口から出る前に前記ヘパリン化固体基材と接触するように配置される。ヘパリン化固体基材は、約10μg/cm2の表面濃度で、共有末端結合した全長ヘパリンによってコーティングされる。
【0034】
本発明による装置は、例えば、敗血症性ショック、敗血症、播種性血管内凝固、自己免疫疾患、移植拒絶反応のような適応症の治療又は予防に有用である可能性がある。他の臨床応用は、微小生物(例えば、マラリア、C型肝炎及びHIV)及びヘパリン結合性毒(例えば、ヘビ毒)の除去を含む。人工肺及び透析装置を含む従来の体外循環用の回路と組み合わせた本発明の装置の使用は、そのような回路の長期使用に関連する罹病率及び死亡率を低下させるだろう。
【0035】
本発明の有害物質は、例えば、炎症誘発性細胞又は炎症誘発性タンパク質のような炎症誘発性メディエーターであってもよい。しかし、本発明の装置は、炎症誘発性細胞及び炎症誘発性タンパク質の除去に限定されない。ヘパリンに結合親和性を有するいかなる内因性又は外因性分子も、本発明の装置を用いて除去することができる。同様に、ヘパリンに結合親和性を有する分子を含む微生物は、本発明の装置を用いて除去することができる。本発明による装置を用いて、血液から除去することができる微生物及び分子には、例えば、細菌、ウイルス及び寄生虫から成るグループから選択される微生物、及び付随的にそのような微生物によってコードされる又はそれに関連するタンパク質又は他の分子が含まれる。
【0036】
1つの実施態様では、前記有害物質は、ウイルスである。より具体的な実施態様では、前記ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、インフルエンザAウイルス、サイトメガロウイルス及びヒト免疫不全ウイルスから成るグループから選択される。別のより具体的な実施態様では、前記ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型又は単純ヘルペスウイルス2型から成るグループから選択される。
【0037】
別の実施態様において、前記有害物質は、細菌である。より具体的な実施態様では、前記細菌は、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)のような連鎖球菌、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のようなブドウ球菌、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)のような大腸菌、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aureginosa)のような緑膿菌、ニューモコッカス・タイプ2(Pneumococcus type 2)のような肺炎球菌から成るグループから選択される。好ましい実施態様では、前記有害物質は、スタフィロコッカス・アウレウスである。
【0038】
更に別の実施態様では、前記有害物質は、寄生虫である。より具体的な実施態様では、前記原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)及びクルーズトリパノソーマ(Tryoanosoma cruzi)から成るグループから選択される。
【0039】
更なる実施態様では、炎症誘発性メディエーターは、炎症性リンパ球、炎症性マクロファージ及び炎症性顆粒球から成るグループから選択される炎症誘発性細胞であってもよい。
【0040】
その上更なる実施態様では、炎症誘発性メディエーターは、炎症誘発性サイトカインのような炎症誘発性タンパク質であってもよい。炎症誘発性タンパク質の例として、J. Biol. Chem., 2007, Mar 30;282(13):10018-27 に開示されているようなヘパリン結合モチーフを含むタンパク質、及び腫瘍壊死因子、インターロイキン−1、インターロイキン−6、プロテインC、インターロイキン−8、高速移動群ボックス1タンパク質又はマクロファージ遊走阻止因子から成るグループから選択されるタンパク質が挙げられる。より具体的な実施態様では、前記炎症誘発性サイトカインは、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、腫瘍壊死因子ベータ(TNF−β)、インターロイキン−1(IL−1)及びインターロイキン−6(IL−6)から成るグループから選択される。
【0041】
その第2の側面では、本発明は、哺乳類の血液から有害物質を体外除去するための、以下の工程:
a)哺乳類の血液のサンプルを備える;
b)該サンプルを、共有末端結合で固体基材に固定化された全長ヘパリンと、ヘパリンへの上記有害物質の結合を可能にする条件下で、接触させる;
c)該有害物質が少なくとも部分的に固体基材に保持されるように、サンプルを固体基材から分離する;そして
d)減少した量の上記有害物質を含有する上記サンプルを回収する;
を含む方法を提供する。
【0042】
本発明の第2の側面の実施態様において、この方法の工程b)及びc)は、本発明の第1の側面によって画成された装置を用いて実施される。本発明の第2の側面に記載の方法の更なる実施態様は、本発明の第1の側面に記載された装置について、先に、有害物質、炎症誘発性細胞、炎症誘発性タンパク質、哺乳類の血液、固体基材及びヘパリン固定化に関して特定した実施態様に対応する。
【0043】
その第3の側面では、本発明は、有害物質によって引き起こされ又は悪化した状態に苦しむ哺乳類の対象を治療するための、以下の工程:
a)対象(subject)から血液を採取する;
b)採取した血液を、共有末端結合で固体基材に固定化された全長ヘパリンと、ヘパリンへの上記有害物質の結合を可能にする条件下で、接触させる;
c)減少した量の上記有害物質を含有する血液を、対象の血流に再導入する;
を含む方法を提供する。
【0044】
本発明の第3の側面の実施態様において、この方法の工程b)は、本発明の第1の側面によって画成された装置を用いて実施される。本発明の第3の側面に記載の方法の更なる実施態様は、本発明の第1の側面に記載された装置について、先に、有害物質、炎症誘発性細胞、炎症誘発性タンパク質、哺乳類の血液、固体基材及びヘパリン固定化に関して特定した実施態様に対応する。
【0045】
1つの実施態様において、本発明の方法は、哺乳類の血液から炎症誘発性サイトカインを除去するために使用することができる。
【0046】
その第4の側面では、本発明は、従来の体外血液処理装置と本明細書に記載の有害物質の除去のための装置を含む、血液又は血液成分の体外循環のための装置を提供する。
【0047】
患者の敗血症又は腎不全のような病態の治療には、しばしば透析装置を含む体外回路での患者血液の処理を必要とする。体外血液処理で使用される処理法は、それ自体炎症誘発性サイトカインの活性化を誘導し、治療中の患者の血流におけるこれらの物質の増加をもたらす可能性がある。サイトカインの活性化は、例えば、体外循環血液処理システムのチューブ、接続部及び部品を通って輸送される間に、血液に加わる機械的ストレスによって引き起こされる可能性がある。これが重要な問題となる別の例は、例えば、外傷後の急性呼吸不全の間、血液に酸素を与えるために使用される人工肺である。特に、狭い直径の孔又は通路を通す血液輸送は、血液中に存在する血液細胞に対してずり応力を起こす可能性がある。また、血液を接触させる様々な成分の表面材料は、血液中の炎症誘発性サイトカインの活性化に影響を及ぼす可能性がある。本発明による装置は、従来の血液処理装置で発生する炎症誘発性サイトカインの活性化に関連する問題を減少させる。
【0048】
本発明の第4の側面による方法の実施態様は、本発明の第1の側面に記載された方法について、先に、有害物質、炎症誘発性細胞、炎症誘発性タンパク質及び哺乳類の血液に関して特定した実施態様に対応する。
【0049】
装置の実施態様では、前記の従来の体外血液処理装置は、血液に酸素を与えるための装置である。
【0050】
装置の別の実施態様では、前記の従来の体外血液処理装置は、血液透析用の装置である。
【0051】
他のタイプの従来の体外血液処理装置も、また、本発明の装置に使用することが考えられる。
【0052】
本発明の装置では、有害物質の除去のための装置は、好ましくは従来の体外血液処理装置の下流に配置すべきである。
【0053】
本発明の装置の好ましい実施態様では、前記の有害物質除去のための装置は、固体基材に固定化されたヘパリンを含む。
【0054】
有害物質除去のための装置の固体基材は、好ましくは大きな表面積を有する材料を含んでもよい。装置の固体基材は、微粒子又は中空糸を含むことができるが、他の種類の固体基材が使用されてもよい。前記固体基材の全表面積は、0.1〜20m2の範囲であればよく、好ましくは0.5〜3m2の範囲であればよい。
【0055】
固体基材は、粒子又はビーズを含んでもよい。固体基材が粒子又はビーズである装置の実施態様では、前記の粒子又はビーズは、好ましくは、ポリウレタン、ポリオレフィン、シリコン、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ガラス、架橋アルギン酸、及びアガロース、デキストラン、セルロース、キトサン及びデンプンのような架橋多糖類から成るグループから選択される材料を含んでもよい。医療用の微粒子に一般に使用される他の材料も使用することができる。別の実施態様では、固体基材は、架橋多糖類を含む。
【0056】
固体基材が中空糸を含む装置の実施態様では、前記中空糸は、好ましくは、ポリスルホン、ポリアミド、ポリニトリル、ポリプロピレン、架橋アルギン酸及びセルロースから成るグループから選択される材料を含んでもよい。医療用の中空糸に一般に使用される他の材料も使用することができる。
【0057】
装置の固体基材は、また、もちろん大きな表面積を与える他の形状又は形態で存在してもよい。
【0058】
本発明による装置の固体基材が粒子の形態で存在する実施態様において、粒径は、10μm〜5mmの範囲であればよい。粒径はまた、10μm〜1,000μmの範囲であってもよい。一般的に、20〜200μmの範囲の粒径が有用であるが、高流速の適用では大きな粒子が必要である可能性がある。固体基材は、1本又はそれ以上の中空糸を含んでもよい。本発明の固体基材が中空糸の形態で存在する実施態様では、前記の中空糸の内径は、1μm〜1,000μmの範囲であればよい。一般に、内径は20〜200μmの範囲が有用であるが、特定の用途においては、より大きい又は小さい径の糸が使用されてもよい。
【0059】
有害物質を除去するための装置は、好ましくはヘパリン化固体基材を含有するケーシングを含むカラムであり、前記カラムは、血液がカラムに入る入口及び血液がカラムから出る出口を有し、前記の入口及び出口は、入口から入る血液が、出口から出る前に前記ヘパリン化固体基材と接触するように配置される。
【0060】
本発明の装置は、好ましくは、意図される適用で必要とされる血流速度に適した寸法に調整すべきである。従って、1つの実施態様において、本発明の装置は、200〜500mL/分の血流に好適である。別の実施態様において、本発明の装置は、2,000〜7,000mL/分の血流に好適である。更に別の実施態様において、本発明の装置は、1〜100mL/分の血流に好適である。有害物質の除去のための装置は、好ましくは、停滞域でずり(shear)活性化を介する血塊形成及び血小板凝集を起こさない方式に設計されるべきである。
【0061】
前記ヘパリンの表面濃度は、好ましくは1〜20μg/cm2の範囲であり、5〜15μg/cm2の範囲が好ましい。前記装置の固定化ヘパリンは、好ましくは共有結合で固体基材に結合され得る。前記装置の固定化ヘパリンは、安定な第二級アミノ基を介して共有結合で固体基材に結合され得る。より好ましくは、前記装置の固定化ヘパリンは共有末端結合した全長ヘパリンである。従って、本発明の第4の側面による装置の実施態様では、有害物質を除去するための装置は、本発明の第1の側面に関して先に開示したような装置であってもよい。
【0062】
その第5の側面では、本発明は、血液又は血液成分の体外処理のために上記で定義した装置の使用を提供する。
【0063】
1つの実施態様では、上記で定義された装置は、血液透析を必要としている患者の治療に用いられる。そのような実施態様では、前記血液又は血液成分の流量は、好ましくは200〜500mL/分の範囲であればよい。
【0064】
別の実施態様において、上記で定義された装置は、酸素投与を必要としている患者の治療に用いられる。そのような実施態様では、前記血液又は血液成分の流量は、好ましくは2,000〜7,000mL/分の範囲であればよい。
【0065】
更に別の実施態様では、上記で定義された装置は、急性敗血症に罹っている患者の治療に用いられる。そのような実施態様では、前記血液又は血液成分の流量は、好ましくは1〜100mL/分の範囲であればよい。
【0066】
本発明の装置の更なる用法は、血液の体外処理の当業者には明らかである。
本発明の更なる態様では、全長ヘパリンを固体基材に共有末端結合させる方法が提供され、前記方法は以下の工程:
a)第一級アミノ官能基を有する固体基材を備える;
b)該固体基材を、水性媒体中で全長ヘパリン及び還元剤と混合する;
c)ヘパリンを、アミノ官能基に還元的に結合させる;そして
d)表面に共有結合した全長ヘパリンを有する固体基材を回収する;
を含む。
【0067】
1つの実施態様において、混合物中の全長ヘパリンの初期濃度は、20〜50g/Lの範囲である。本発明の方法で使用される還元剤は、有機合成の当業者によって認識されているような、任意の好適な還元剤であればよい。1つの実施態様において、還元剤は、NaBH3CNである。本発明の方法の工程c)の還元的結合は、好ましくは、3〜5の範囲のpH値で行われ得る。本発明の方法の工程c)の還元的結合は、好ましくは、高温で行われ得る。1つの実施態様において、前記の還元的結合は、60℃、24時間で行われる。その方法は、場合により、還元的結合の工程c)の間に、2回目のNaBH3CNを添加する追加の工程を含んでもよい。
【0068】
本明細書で用いられるように、「血液」及び「血液成分」の用語は、哺乳類の全血、血漿及び/又は、例えば、赤血球又は血小板のような血球を指す。血液又は血液成分は、希釈又はさもなければ修飾される可能性があることが意図されている。
【0069】
本明細書で用いられるように、用語「全長ヘパリン」は、固体表面に結合する反応性末端基を得るための切断がなされていないヘパリン又はその誘導体を意味する。生体内に存在するような全長ヘパリンの分子量は、一般的に約3〜40kDaの範囲に分布している。市販ヘパリン製剤に含まれるヘパリンの分子量は、一般に15〜25kDaの範囲に分布している。全長ヘパリンの平均分子量は、約21kDaである。
【0070】
本明細書で用いられるように、用語「有害物質」は、疾患又は障害の症候を示す、炎症誘発性サイトカインのような有害物質と同様、哺乳類における病気又は疾患の原因となる、ウイルス、細菌又は寄生虫のような微生物を含んでもよい。有害な微生物の例としては、スタフィロコッカス属菌、HIV、C型肝炎、デング熱ウイルス及びマラリア起因菌のプラスモジウム属菌が挙げられる。有害物質は、例えば、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、インフルエンザAウイルス、サイトメガロウイルス及びヒト免疫不全ウイルスなどのウイルスであってもよい。有害物質は、例えば、ストレプトコッカス・ニューモニエのような連鎖球菌、スタフィロコッカス・アウレウスのようなブドウ球菌、エシェリキア・コリのような大腸菌、シュードモナス・エルギノーサのような緑膿菌、ニューモコッカス・タイプ2のような肺炎球菌から成るグループから選択される細菌であってもよい。有害物質は、例えば、熱帯熱マラリア原虫又はクルーズトリパノソーマのような原虫であってもよい。有害物質は、例えば、炎症性リンパ球、炎症性マクロファージ又は炎症性顆粒球のような炎症誘発性細胞であってもよい。有害物質は、また、例えば、炎症誘発性サイトカインのような炎症誘発性タンパク質、例えば、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、腫瘍壊死因子ベータ(TNF−β)、インターロイキン−1(IL−1)及びインターロイキン−6(IL−6)であってもよい。上記の有害物質の例は、本発明の範囲を制限すると見なされるべきではない。当業者によって容易に認識されるように、全ての種類のヘパリン結合性有害物質は、本発明によって開示される装置又は器具又は方法を用いて除去することができる。
【0071】
本明細書で用いられるように、用語「炎症誘発性細胞」は、哺乳動物における炎症反応に関与する細胞を意味する。「炎症誘発性細胞」の例としては、炎症性リンパ球、炎症性マクロファージ及び炎症性顆粒球を含む。
【0072】
本明細書で用いられるように、用語「炎症誘発性タンパク質」は、例えば、微生物感染又は免疫付与に伴って放出されるサイトカインのようなタンパク質を意味する。
【0073】
本明細書で用いられるように、用語「サイトカイン」は、例えば、微生物感染又は免疫付与に伴って放出される、インターロイキン、インターフェロン、ケモカイン及び腫瘍壊死因子から成るグループから選択されるタンパク質を意味する。
【実施例】
【0074】
〔実施例1〕
表面固定化ヘパリンの一般的な定量方法
本方法の原理は、酸性水溶液におけるヘパリンと亜硝酸ナトリウムの間の化学反応に基づく。ヘパリンのD−グルコサミン単位は、グリコシド結合の切断と同時に、2,5−アンヒドロD−マンノースに変換される。2,5−アンヒドロD−マンノースの末端アルデヒド基は、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン塩酸塩水和物(MBTH)と反応し、塩化鉄(III)・六水和物(FeCl3・6H2O)の存在で着色した錯体を形成する。錯体の色強度は、650nmの波長で分光光度計で測定する。
【0075】
〔実施例2〕
セファデックスG10のアミノ化
メタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4、12.0g)を水(1.6L)に溶解し、セファデックスG10(100g)に添加した。混合物は、振とうしながら17時間暗所に保持した。濾過し、水(4L)で洗浄し、最後に0.1Mリン酸緩衝液、pH7.0(1L)で洗浄した後、得られた生成物を、200mLの Lupasol(登録商標)(5%水溶液)を含む0.1Mリン酸緩衝液、pH7.0(1.2L)に懸濁させた。
ゲルは、NaBH3CNの水溶液を添加して安定化させた。シアノ水素化ホウ素ナトリウム(1.0g)を含む0.1Mリン酸緩衝液、pH7.0(200mL)を、ゲル混合物に添加した。混合物は、振とうしながら室温で24時間保持した。ゲルを濾別し、水(2L)、0.1Mリン酸緩衝液、pH7.0(2L)、水(2L)、0.1M酢酸衝液、pH4.0(2L)及び水(2L)で洗浄した。ゲルは、風乾した。
【0076】
〔実施例3〕
ポリエチレンビーズのアミノ化
エッチング
ポリエチレンビーズ(PEビーズ)(直径おおよそ300μm、60g)は、クロロホルム(200mL)中で攪拌して1時間洗浄した。ビーズを、ガラスフィルター上に集め、3×50mLのクロロホルムで洗浄し、放置して風乾した。過マンガン酸カリウム(KMnO4、1.2g)を濃硫酸(600mL)に溶解し、予洗浄したビーズを添加した。懸濁液を5分間攪拌した。ビーズをガラスフィルター上に集め、注意深く水(5L)で洗浄し、風乾した。
【0077】
エッチングしたビーズのアミノ化
以下の溶液を調製した:
水性ホウ酸緩衝液:ホウ酸(53.0g)及び塩化ナトリウム(3.5g)を、水(5.0L)に加えた。生成した溶液のpH値を、水酸化ナトリウムのペレットを加えて9.0に調整した。
S1:水性ホウ酸緩衝液(5.0L)に、クロトンアルデヒド(1.7mL)及びLupasol(登録商標)(5.0mL、5%水溶液)を添加し、溶液S1を得た。
S2:塩化ナトリウム(146.5g)及びデキストラン硫酸(0.5g)を水(5.0L)に加えた。生成した溶液のpH値を、1M塩酸を加えて3.0に調整し、S2溶液を得た。
S3:Lupasol(登録商標)(25mL、5%水溶液)を、水(2.5L)に添加し、1MNaOHでpHを9.0に調整し、溶液S3を得た。
【0078】
コーティング手順
1.エッチングされたPEビーズをS1(2.5L)に添加した。懸濁液を、室温で10分間攪拌した。
2.ビーズをガラスフィルター上に集め、水(2.5L)で洗浄した。
3.ビーズをS2(2.5L)に添加した。懸濁液を60℃で10分間攪拌した。
4.ビーズをガラスフィルター上に集め、水(2.5L)で洗浄した。
5.工程1を新しいS1で繰り返した。
6.ビーズをガラスフィルター上に集め、水(2.5L)で洗浄した。
7.工程2を新しいS2で繰り返した。
8.ビーズをガラスフィルター上に集め、水(2.5L)で洗浄した。
9.得られたビーズをS3(2.5L)に添加し、懸濁液を室温で10分間攪拌した。
10.ビーズをガラスフィルター上に集め、水(5.0L)で洗浄し、アミノ化PEビーズを得た。
【0079】
〔実施例4〕
亜硝酸分解ヘパリンのアミノ化クロマトグラフィーゲルへの共有末端結合
実施例2に記載したようにアミノ化したセファデックスG10(10g)を、0.1M酢酸緩衝液pH4.0(100mL)に懸濁し、亜硝酸分解ヘパリン(1.6g)を添加した。15分間振とうした後、0.1M酢酸緩衝液、pH4.0(10mL)に溶解したNaBH3CN(100mg)を添加した。反応混合物は、室温で24時間振とうし、そして追加の0.1M酢酸緩衝液、pH4.0(10mL)に溶解したNaBH3CN(100mg)を添加し、室温で更に24時間振とうを継続した。
ゲルを濾過し、水(200mL)、0.17Mホウ酸緩衝液pH9.0(250mL)及び水(2L)の順で洗浄した。ゲルは、風乾した。
セファデックスG10ビーズは、約100μmの平均直径を有する。概算では、1cm3は106個のビーズを含み、300cm2/cm3の表面積を与えることになる。ヘパリン化セファデックスゲルの硫黄の分析の結果、0.024%の硫黄が得られた。 更に、ヘパリンがビーズの表面だけに結合したとすれば、ヘパリン化セファデックスG10は、約7μg/cm2のヘパリンを有していた。
【0080】
〔実施例5〕
亜硝酸分解ヘパリンのアミノ化PEビーズへの共有末端結合
実施例3に記載したように製造したアミノ化PEビーズを、実施例4に記載したようにヘパリン化した。
実施例1に記載の手順に従って、ヘパリン化PEビーズは、2.6mg/gビーズのヘパリンを含むことが決定された。
【0081】
〔実施例6〕
全長ヘパリンのアミノ化クロマトグラフィーゲルへの共有末端結合
実施例2におけるようにアミノ化したセファデックスG10(10g)を、0.1M酢酸緩衝液、pH4.0(45mL)に懸濁し、NaCl(1.46g)及び全長ヘパリン(1.6g)を添加した。0.5時間振とうした後、0.1M酢酸緩衝液、pH4.0(5mL)に溶解したNaBH3CN(100mg)を添加した。反応混合物を60℃で24時間振とうした。8時間後、追加のNaBH3CN(100mg)を添加した。ゲルを濾過し、水(200mL)、0.17Mホウ酸緩衝液pH9.0(250mL)及び水(2L)の順で洗浄した。ゲルは、風乾した。
セファデックスG10ビーズは、約100μmの平均直径を有する。概算では、1cm3は106個のビーズを含み、300cm2/cm3の表面積を与えることになる。ヘパリン化セファデックスゲルの硫黄の分析の結果、0.037%の硫黄が得られた。 更に、ヘパリンがビーズの表面だけに結合したとすれば、ヘパリン化セファデックスG10は約11μgヘパリン/cm2を有していた;即ち、全長ヘパリンを用いた場合、分解ヘパリンを使用した場合よりも約36%多いヘパリンが固定化された(実施例4を参照)。
【0082】
〔実施例7〕
全長ヘパリンのアミノ化PEビーズへの共有末端結合
実施例3に記載したように製造したアミノ化PEビーズを、実施例6に記載したようにヘパリン化した。
実施例1に記載の手順に従って、ヘパリン化PEビーズは、2.6mgヘパリン/gビーズ含むことが決定された。
【0083】
〔実施例8〕
亜硝酸分解ヘパリンの中空糸内腔への共有末端結合
この実施例では、小児のヘモフロー(haemoflow)透析器を使用した。 中空糸はポリスルホン製で、内径が200μm、壁厚が40μmであった。 材料と血液が接触する総表面積は4000cm2であり、プライミング容積は28mLであった。
アミノ化の手順は、エッチング工程が省略される以外は、PEビーズについて実施例3で説明したように行った。 ポリスルホンは親水性であり、エッチングする必要はなかった。ヘパリンの固定化は、基本的に実施例4に記載したように、亜硝酸分解ヘパリンとNaBH3CNを含む溶液を中空糸内にポンプ注入することによって行った。
ヘパリン量の測定は破壊的方法であるため、同一条件下でヘパリン化された対照透析器を犠牲にし、その中空糸を硫黄の分析に供した。 その結果、約5μgヘパリン/cm2のヘパリン含量であること、そしてそれは、装置内では20mgのヘパリン含量に相当することが明らかになった。
【0084】
〔実施例9〕
全長ヘパリンの中空糸内腔への共有末端結合
実験は、全長ヘパリンが使用されることを除けば、実施例8に記載した通りに行った。その結果、約8μgヘパリン/cm2のヘパリン含量であること、そしてそれは、装置内では32mgのヘパリン含量に相当することが明らかになった。
【0085】
〔実施例10〕
血漿中の腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のヘパリン化PEビーズへの付着
亜硝酸分解ヘパリン(実施例5に記載の通りに製造)又は全長ヘパリン(実施例7に記載の通りに製造)を有するPEビーズを使用した。200mgのビーズを、差込み継手蓋付きのカラム(MoBiTec, M1002)(1mL)に添加した。
ヒト患者から採取した4mLの血漿から、サンプル(0.5mL)をシリンジで抜き取った。血漿サンプルを、それぞれのカラムに30秒間で通した。カラムを通過させる前及び通過後のサンプル中のTNF−α含有量は、EVOLIS機器(BioRad)で、Quantikine (登録商標)ヒトTNF−α/TNFSF1A高感度ELISAキット(R&D Systems)を用いて測定した。
亜硝酸分解ヘパリンを有する200mgのPEビーズのカラムを通過した後、サンプル中に残ったTNF−α濃度は、4.5pg/mLであった。全長ヘパリンを有する200mgのPEビーズのカラムを通過した後、サンプル中に残ったTNF−α濃度は、4.1pg/mLであった。このように、全長ヘパリン(Mw:20kDa)でヘパリン化された200mgのビーズを通過した血漿のTNF−α濃度の低下は、亜硝酸分解ヘパリン(Mw:8kDa)でヘパリン化されたビーズでの減少よりもより大きかった。
【0086】
〔実施例11〕
アンチトロンビン(AT)のヘパリン化PEビーズへの付着
亜硝酸分解ヘパリン(実施例5に記載の通りに製造)又は全長ヘパリン(実施例7に記載の通りに製造)を有するPEビーズを使用した。200mgのビーズを、差込み継手蓋付きのカラム(MoBiTec, S1012)(2.5mL)に添加した。
トリス緩衝液(pH7.4)中に2IU/mLのヒトアンチトロンビンIII(Octapharma)の溶液を、カラムに添加した。15分間インキュベーションした後、固定化ヘパリン上の低親和性部位に結合したアンチトロンビンを、トリス緩衝液で数回洗浄して除去した。 次に、固定化ヘパリン上の高親和性部位に結合したアンチトロンビンは、トリス緩衝液に1mgヘパリン/mLの大容量を使用して溶離した。得られた溶出液のヘパリン・アンチトロンビン複合体含有量は、Berichrom Antithrombin III試薬(Sysmex)を用いてSysmex CA 1500機器(Sysmex)で測定した。 結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
これらの結果から、全長ヘパリンは、亜硝酸分解ヘパリンよりも質量単位当たり1.5倍多くのアンチトロンビンと結合することは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液又は血液成分から有害物質を体外除去するための装置であって、共有末端結合で固体基材に固定化された全長ヘパリンを含む装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、全長ヘパリンが15〜25kDaの範囲の平均分子量を有する装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、全長ヘパリンが21kDaを超える平均分子量を有する装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置であって、全長ヘパリンの表面濃度が1〜20μg/cm2である装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置であって、全長ヘパリンの表面濃度が5〜15μg/cm2である装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置であって、ヘパリンが安定な第二級アミノ基を介して固体基材に共有結合している装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置であって、固体基材の全表面積が0.5〜3m2の範囲である装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置であって、固体基材が粒子又はビーズを含む装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、粒子又はビーズの直径が10〜1,000μmの範囲である装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置であって、粒子又はビーズの直径が20〜200μmの範囲である装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の装置であって、粒子又はビーズがポリウレタン、ポリオレフィン、シリコン、フルオロポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ガラス、架橋アルギン酸、及びアガロース、デキストラン、セルロース、キトサン及びデンプンのような架橋多糖類から成るグループから選択される材料を含む装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置であって、固体基材が1本又はそれ以上の中空糸を含む装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置であって、中空糸の内径が10〜1,000μmの範囲である装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置であって、中空糸の内径が20〜200μmの範囲である装置。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1項に記載の装置であって、中空糸がポリスルホン、ポリアミド、ポリニトリル、ポリプロピレン、架橋アルギン酸及びセルロースから成るグループから選択される材料を含む装置。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の装置であって、装置はヘパリン化固体基材を含有するケーシングを含むカラムであり、該カラムは、血液がカラムに入る入口及び血液がカラムから出る出口を有し、該入口及び出口は、入口から入る血液が、出口から出る前に上記ヘパリン化固体基材と接触するように配置される装置。
【請求項17】
2,000〜7,000mL/分の血流速度に好適な、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
200〜500mL/分の血流速度に好適な、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
1〜100mL/分の血流速度に好適な、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
哺乳類の血液から有害物質を体外除去するための方法であって、以下の工程:
a)哺乳類の血液のサンプルを備える;
b)該サンプルを、共有末端結合で固体基材上に固定化された全長ヘパリンと、ヘパリンへの上記有害物質の結合を可能にする条件下で、接触させる;
c)上記有害物質が少なくとも部分的に固体基材に保持されるように、サンプルを固体基材から分離する;そして
d)減少した量の上記有害物質を含有する上記サンプルを回収する;
を含む方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、有害物質が炎症誘発性サイトカインである方法。
【請求項22】
有害物質によって引き起こされた又は悪化した病態に罹患する哺乳類の対象を治療するための方法であって、以下の工程:
a)対象から血液を採取する;
b)採取した血液を、共有末端結合で固体基材上に固定化された全長ヘパリンと、ヘパリンへの上記有害物質の結合を可能にする条件下で、接触させる;
c)減少した量の上記有害物質を含有する血液を、対象の血流に再導入する;
を含む方法。
【請求項23】
従来の体外血液処理装置及び有害物質の除去のための装置を含む、血液又は血液成分の体外循環のための装置。
【請求項24】
請求項23に記載の装置であって、有害物質の除去のための装置が従来の体外血液処理装置の下流に配置される装置。
【請求項25】
請求項23又は24に記載の装置であって、有害物質の除去のための装置が固体基材に固定化されたヘパリンを含む装置。
【請求項26】
請求項25に記載の装置であって、ヘパリンの表面濃度が1〜20μm/cm2である装置。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の装置であって、ヘパリンが共有末端結合した全長ヘパリンである装置。
【請求項28】
請求項23〜27のいずれか1項に記載の装置であって、従来の体外血液処理装置が血液透析用の装置である装置。
【請求項29】
請求項23〜27のいずれか1項に記載の装置であって、従来の体外血液処理装置が血液に酸素を与えるための装置である装置。
【請求項30】
血液又は血液成分の体外処理のための、請求項23〜29のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項31】
血液透析を必要とする患者の治療のための、請求項28に記載の装置の使用。
【請求項32】
請求項31に記載の使用であって、血液又は血液成分の流速が200〜500mL/分の範囲である使用。
【請求項33】
酸素を与える必要がある患者の治療のための、請求項29に記載の装置の使用。
【請求項34】
請求項33に記載の使用であって、血液又は血液成分の流速が2,000〜7,000mL/分の範囲である使用。
【請求項35】
急性敗血症に罹患した患者の治療のための、請求項23〜28のいずれか1項に記載の使用であって、血液又は血液成分の流速が1〜100mL/分の範囲である使用。
【請求項36】
全長ヘパリンを固体基材に共有末端結合させる方法であって、以下の工程:
a)第一級アミノ官能基を有する固体基材を備える;
b)該固体基材を、水性媒体中で全長ヘパリン及び還元剤と混合する;
c)ヘパリンを、アミノ官能基に還元的に結合させる;そして
d)表面に共有結合した全長ヘパリンを有する固体基材を回収する;
を含む方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、全長ヘパリンの濃度が20〜50g/Lの範囲である方法。
【請求項38】
請求項36又は37に記載の方法であって、還元剤がNaBH3CNである方法。
【請求項39】
請求項36〜38のいずれか1項に記載の方法であって、工程c)の水溶液のpH値が3〜5の範囲である方法。
【請求項40】
請求項36〜39のいずれか1項に記載の方法であって、工程c)の還元的結合が60℃、24時間で行われる方法。
【請求項41】
還元的結合の工程c)の間に2回目のNaBH3CNを添加する追加の工程を更に含む、請求項36〜40のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−530288(P2010−530288A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513365(P2010−513365)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/067271
【国際公開番号】WO2008/157570
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509347181)エクステラ・メディカル・エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】