説明

血液処理用フィルター、血液処理システム及び血液製剤の製造方法

【課題】濾過後の血液を収容する回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実に排出するのに有用な血液処理用フィルターを提供すること。
【解決手段】本発明の血液処理用フィルターは、シート状の濾過材と、これを収容する可撓性シートを接合してなる容器と、濾過材と容器とを接合して血液処理領域を画成する第1の接合部と、容器の周縁部を接合する第2の接合部と、容器の一方面に設けられた入口と、容器の他方面に設けられた出口とを備える。第1の接合部は、容器の入口側の可撓性シートと濾過材の入口側の面とを接合する入口側接合部、及び、容器の出口側の可撓性シートと濾過材の出口側の面とを接合する出口側接合部を有する。出口側接合部は、入口側接合部よりも剥離強度が低く、容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって出口側接合部において濾過材の出口側の面から当該可撓性シートが剥離可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去するための血液処理用フィルター及びこれを用いた血液処理システムに関し、更に当該システムを用いて血液製剤を製造する方法に関する。なお、本発明でいう「血液」は、全血のみならず、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤をも包含する。
【背景技術】
【0002】
輸血の分野において、血液製剤中に含まれている混入白血球を除去してから血液製剤を輸血する、いわゆる白血球除去輸血が普及している。これは、輸血に伴う頭痛、吐き気、悪寒、非溶血性発熱反応などの比較的軽微な副作用や、受血者に深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、ウィルス感染、輸血後GVHDなどの重篤な副作用が、主として血液製剤中に混入している白血球が原因で引き起こされることが明らかにされたためである。
【0003】
白血球除去方法には、いくつかの方法がある。そのうちフィルター法は、白血球除去性能に優れていること、操作が簡便であること、及びコストが安いことなどの利点を有するため現在普及している。例えば、特許文献1には、フィルター部材を収容するハウジングが軟質樹脂製からなる白血球除去器が記載されている。
【0004】
フィルター法に用いられる血液処理システムは、フィルターの上流側に血液を収容したバッグを接続し、フィルターの下流側に血液回収用のバッグを接続することによって構成される(図4参照)。白血球などを含む可能性がある血液製剤を収容したバッグをフィルターよりも20cmから100cm高い位置に置き、重力の作用によって血液製剤を濾過して下流側のバッグに回収することが一般的に行われている。濾過処理後、血液成分を収容したバッグは当該システムから分離されて保存される。
【0005】
上記のような構成のシステムで血液の濾過処理を行うと、フィルター内の空気が血液とともに回収バッグに収容される場合がある。回収バッグ内に空気が混入した状態で血液を保存すると、血液成分に変質や劣化が生じやすいという問題がある。このため、回収バッグを血液処理システムから分離するのに先立って、回収バッグ内の空気を排除する操作が行われる。この操作は、「バーピング」と称され、回収バッグを手で直接押圧したり、装置を用いて機械的に圧力を加えたりすることによって実施される。
【0006】
特許文献2には、回収バッグ内の空気を排除するためのバイパス回路や逆止弁を備えたフィルターシステムが記載されている。特許文献3には、バーピングを容易かつ確実に実施するため、内部に空気貯留部を有するフィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−342680号公報
【特許文献2】特開2004−249087号公報
【特許文献3】特開2006−43297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、濾過材をなす不織布や多孔質体は、乾燥した状態では高い通気性を有するものの、濾過処理後において血液を含んだ状態では通気性が著しく低下するという性質を有する。特許文献1に記載の白血球除去器は、フィルター部材を収容するハウジングが軟質樹脂製からなるため、回収バッグを加圧することにより白血球除去器のハウジングの流出側血液室が膨らみ、そこに回収バッグ内の空気を排出できる可能性がある。しかし、回収バッグの押圧に大きな力を要するため、回収バッグやチューブに負荷がかかるとともに、操作性が悪いという問題がある。
【0009】
特許文献2に記載のフィルターシステムは、バーピングのためのバイパス回路や逆止弁等が必要であり、また煩雑なクランプ操作を要し操作性の点において改善の余地がある。特許文献3に記載のフィルターは、内部に空気貯留部を有するためサイズが大きくなり取り扱い性の問題があるとともに、フィルター内に血液が残留しやすく血液回収量が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、濾過後の血液を収容する回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実に排出するのに有用な血液処理用フィルターを提供することを目的とする。また、本発明は、当該フィルターを用いた血液処理システム、及び、当該システムを用いて血液製剤を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る血液処理用フィルターは、シート状の濾過材と、濾過材を収容しており、可撓性シートを接合することによって形成されている容器と、当該フィルターの厚さ方向に、濾過材と容器とを接合して血液処理領域を画成する第1の接合部と、容器の周縁部を当該フィルターの厚さ方向に接合する第2の接合部と、容器の一方面に設けられた入口と、容器の他方面に設けられた出口とを備え、第1の接合部は、容器の入口側をなす可撓性シートと濾過材の入口側の面とを接合する入口側接合部、及び、容器の出口側をなす可撓性シートと濾過材の出口側の面とを接合する出口側接合部を有しており、出口側接合部は、入口側接合部よりも剥離強度が低く、容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって出口側接合部において濾過材の出口側の面から当該可撓性シートが剥離可能である。
【0012】
本発明の血液処理用フィルターは、以下の態様であってもよい。すなわち、本発明に係る血液処理用フィルターは、シート状の濾過材と、濾過材を収容しており、可撓性シートを接合することによって形成されている容器と、当該フィルターの厚さ方向に、濾過材と容器とを接合して血液処理領域を画成する第1の接合部と、容器の周縁部を当該フィルターの厚さ方向に接合する第2の接合部と、容器の一方面に設けられた入口と、容器の他方面に設けられた出口とを備え、第1の接合部は、容器の入口側をなす可撓性シートと濾過材の入口側の面とを接合する入口側接合部、及び、容器の出口側をなす可撓性シートと濾過材の出口側の面とを接合する出口側接合部を有しており、出口側接合部は、第2の接合部よりも剥離強度が低く、容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって出口側接合部において濾過材の出口側の面から当該可撓性シートが剥離可能である。
【0013】
本発明のフィルターは、容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって出口側接合部において濾過材の出口側の面から可撓性シートが剥離することがポイントの一つである。第1の接合部における出口側接合部から可撓性シートが剥離することで、可撓性シートの張りが弱まり、容器の出口側に収容できる流体の体積を事後的に増大できる。このため、回収バッグに対する押圧力が小さくても、回収バッグ内の空気をフィルターの出口側へと排出できる。
【0014】
第1の接合部における出口側接合部は、入口側接合部及び/又は第2の接合部よりも剥離強度が低く設定されており、出口側接合部における剥離が生じる前に入口側接合部及び第2の接合部が破損しないようになっている。このため、出口側接合部から可撓性シートを十分容易に剥離できるとともに、濾過後にフィルター内に残存している血液が第2の接合部からリークすることも十分に防止できる。
【0015】
本発明のフィルターにおいて、剥離作業の容易性及び血液のリーク防止の観点から、出口側接合部は剥離強度が0.5〜1.5N/mmであることが好ましい。
【0016】
本発明の血液処理システムは、濾過すべき血液を収容するための貯留バッグと、上記血液処理用フィルターと、フィルターによる濾過がなされた血液を収容するための回収バッグと、貯留バッグとフィルターの入口を連結する第1のチューブと、フィルターの出口と回収バッグを連結する第2のチューブとを備える。
【0017】
上記血液処理システムによれば、濾過後、フィルターの容器の出口側に収容できる流体の体積を事後的に増大することで、回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実にフィルターに排出できる。
【0018】
上記血液処理システムにおいては、バーピングのためのバイパス回路を設ける必要がない。すなわち、このシステムは、第1のチューブと第2のチューブとを連通しておりフィルターをバイパスするチューブを具備しないものであってもよい。この場合、第2のチューブは、フィルターを通過した血液を回収バッグに移送する流路をなすとともに、濾過の終了後に回収バッグ内に残留している空気をフィルターに移送する流路をなす。
【0019】
本発明は、上記血液処理システムを用いた血液製剤の製造方法を提供する。この方法は、
A)濾過すべき血液を貯留バッグに入れる工程と、
B)貯留バッグ内の血液をフィルターで濾過する工程と、
C)フィルターを通過した血液を回収バッグに回収する工程と、
D)フィルターの容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって出口側接合部において濾過材の出口側の面から当該可撓性シートを剥離する工程と、
E)上記C)工程後に回収バッグ内に残留している空気を、上記D)工程後のフィルターの出口側に移送する工程と、
F)上記E)工程後の回収バッグを密封する工程と、
を備える。
【0020】
回収バッグに血液を回収した後(C)工程後)、上記D)工程を実施することで、フィルターの容器の出口側に収容できる流体の体積を事後的に増大させることができる。これにより、上記E)工程において回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実にフィルターに排出できる。また、容器の出口側に収容可能な流体の体積を増大させるのが事後的であるため、濾過終了時点においてフィルター内に残存する血液量が従来と比較して増大し血液回収量が低下するという問題が生じることもない。
【0021】
上記方法においては、バーピングのためのバイパス回路を使用必要がない。すなわち、上記C)工程において、フィルターを通過した血液を、第2のチューブを通じて回収バッグに移送し、かつ、上記E)工程において、回収バッグ内に残留している空気を、第2のチューブを通じてフィルターの出口側に移送してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、濾過後の血液を収容する回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実にフィルターに排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るフィルターの好適な実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】出口側接合部において濾過材の出口側の面から可撓性シートが剥離した状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係るフィルターを備えた血液処理システムの構成を示す模式図である。
【図5】本発明に係るフィルターの形状のバリエーションを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[血液処理用フィルター]
本実施形態に係るフィルター10は、輸血用の血液から副作用の原因となる微小凝集物や白血球を除去するためのものであり、矩形扁平状の形状を有する。図1に示す通り、フィルター10は、シート状の濾過材1と、これを収容する可撓性容器3と、血液処理領域Rを画成する内側接合部(第1の接合部)5と、外側接合部(第2の接合部)6とを備える。
【0025】
容器3は可撓性シートからなり、一方面F1には入口7が設けられており、他方面F2には出口8が設けられている。入口7及び出口8にはチューブ接続用のポート7a,8aがそれぞれ設けられている。フィルター10は、使用時において、入口7から流入した血液が鉛直方向下向きに流れて出口8に至るように、入口7が上方に位置し、出口8が下方に位置するように鉛直方向に配置される。以下、フィルター10の構成について説明するが、フィルター10の要素の位置関係の説明はフィルター10の使用時の配置に基づいて行う。
【0026】
フィルター10は、濾過材1の形状が略正方形であり、容器3の形状の略正方形である。内側接合部5は、濾過材1と容器3とを一体的に接合してフィルター10の血液処理領域R(以下、「領域R」という。)を画成している。
【0027】
領域Rは、内側接合部5と同様、その形状が略正方形である。図1に示す通り、領域Rにおいて、入口用ポート7a及び出口用ポート8aは、上方の頂点C1と下方の頂点C2とを結ぶ対角線上に配置されている。入口用ポート7a及び出口用ポート8aをこのような位置に形成することで、入口7と出口8との間の距離を長くすることができ、血液が濾過材1内を流れる距離を十分に確保できる。
【0028】
内側接合部5は、図2に示す通り、容器3の入口側をなす可撓性シート3aと濾過材1の入口側の面1aとを接合する入口側接合部5a、及び、容器3の出口側をなす可撓性シート3bと濾過材1の出口側の面1bとを接合する出口側接合部5bを有する。出口側接合部5bは、入口側接合部5aよりも剥離強度が低く設定されており、また外側接合部6よりも剥離強度が低く設定されている。これにより、容器3の出口側をなす可撓性シート3bを引っ張ることによって出口側接合部5bにおいて濾過材1の出口側の面1bから可撓性シート3bが剥離可能となっている。
【0029】
内側接合部5における出口側接合部5bから可撓性シート3bが剥離することで、図3に示す通り、可撓性シート3bの張りが弱まる。これにより、容器3の出口側に収容できる流体の体積が事後的に増大する。このため、図4に示す回収バッグ22に対して小さい押圧力を加えるだけで、回収バッグ22内の空気を容器の出口側へと排出することが可能となる。
【0030】
内側接合部5における可撓性シート3bの濾過材1に対する剥離強度(出口側接合部5bの剥離強度)は、好ましくは0.5〜1.5N/mmであり、より好ましくは0.8〜1.2N/mmである。この強度が0.5N/mm未満であると、0.5N/mm以上の場合と比較して内側接合部5と外側接合部6の間の領域に血液が浸入しやすくなる傾向にあり、他方、1.5N/mmを越えると1.5N/mm以下の場合と比較して剥離作業がやりにくくなる傾向にある。
【0031】
内側接合部5における可撓性シート3aの濾過材1に対する剥離強度(入口側接合部5aの剥離強度)は、出口側接合部5bの剥離強度よりも高く設定されている。このように剥離強度を設定すると、可撓性シート3bを引っ張ることにより、内側接合部5において可撓性シート3bを可撓性シート3aよりも先に濾過材1から剥離させることができる。入口側接合部5aの剥離強度は、好ましくは2.0〜6.0N/mmであり、より好ましくは3.0〜5.0N/mmである。
【0032】
外側接合部6は、外部環境から濾過材1をより確実に保護するため、フィルター10の厚さ方向に容器3をシールしている。外側接合部6は、矩形の容器3の外周をなすように設けられている。
【0033】
外側接合部6は、内側接合部5における出口側接合部5bよりも剥離強度が高く設定されており、内側接合部5における剥離によって外側接合部6が破損しないようになっている。これにより、濾過後にフィルター10内に残存している血液が外側接合部6からリークすることを十分に防止できる。外側接合部6における可撓性シート3aと可撓性シート3bの間の剥離強度(外側接合部6の剥離強度)は、好ましくは2.0〜6.0N/mmであり、より好ましくは3.0〜5.0N/mmである。この強度が2.0N/mm未満であると、2.0N/mm以上の場合と比較し、内側接合部5における剥離によって外側接合部6が破損しやすくなる傾向にある。
【0034】
[血液処理用フィルターの製造方法]
まず、血液に含まれる凝集物や白血球を吸着する性能を有するシート状の濾過材用材料を準備し、これを所定のサイズに切断して濾過材1を得る。濾過材用材料の切断は、刃、超音波カッター又はレーザーカッターによって実施することができる。
【0035】
濾過材用材料としては、柔軟性を有したものが好ましく、メルトブロー法などによって製造された不織布等の繊維構造物や、連続した細孔を有する多孔質体(スポンジ状構造物)、多孔膜などが挙げられる。濾過材用材料として、繊維構造物、多孔質体又は多孔膜からなるもの、あるいは、これらを基材とし、その表面に化学的又は物理的な改質を施したものを使用してもよい。濾過材用材料は、繊維構造物、多孔質体又は多孔膜を単層で用いてもよいし、これらを組み合わせて複数層で用いてもよい。
【0036】
上記繊維構造物の素材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリトリフルオロエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。濾過材1又はその基材として繊維構造物を使用する場合、繊維構造物はほぼ均一な繊維径を有する繊維からなるものであってもよいし、国際公開第97/232266号に開示されているような、繊維径の異なる、複数種の繊維が混繊された形態であってもよい。濾過後の血液の白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、濾過材1を形成する繊維の平均繊維径は、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは0.9〜2.5μmである。
【0037】
上記多孔質体又は多孔膜の素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、セルロースアセテート、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンなどが挙げられる。濾過後の血液の白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、多孔質体又は多孔膜の平均孔径は2μm以上10μm未満であることが好ましい。
【0038】
容器3を形成するための可撓性を有する樹脂シート又はフィルムを準備する。容器3の素材としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル;ポリウレタン;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン;スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物;スチレン−イソプレン−スチレン共重合体又はその水添物等の熱可塑性エラストマー;ならびに、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が挙げられる。滅菌のための高圧蒸気や電子線の透過性が良好であること、更には遠心時の負荷に耐える強靭性を有する点から、容器3の素材として、軟質塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーが特に好適である。
【0039】
内側接合部5を形成することによって、濾過材1と容器3とを一体的に接合してフィルター10の領域Rを画成する。内側接合部5は、例えば高周波溶着によって形成することができる。外側接合部6も内側接合部5と同様、高周波溶着によって形成することができる。
【0040】
内側接合部5において、出口側接合部5bの剥離強度を入口側接合部5aの剥離強度よりも低くするには、出口側接合部5bを形成する際の温度を低くしたり、接合処理の時間を短くしたりすればよい。また、フィルターの溶融素材の材質及び使用量を、入口側接合部5aと出口側接合部5bで変えることにより剥離強度を調整することができる。
【0041】
入口用ポート7a及び出口用ポート8aは、容器3の所定の位置に、例えば溶着によってそれぞれ設け、入口7及び出口8を通じて領域Rと外部とを連通させればよい。上記過程を経ることにより、フィルター10が製造される。
【0042】
[血液処理システム]
本実施形態に係る血液処理システム50は、図4に示す通り、血液を収容したバッグ21、フィルター10及び血液回収用のバッグ22が上方から下方に向けてこの順序で並ぶように接続されている。フィルター10はバック21,22とチューブ25,26によって接続されており、チューブ25の途中にはロバートクランプ27及びチャンバー28が配設されている。
【0043】
血液処理システム50によれば、濾過後、フィルター10の容器3の出口側に収容できる流体の体積を事後的に増大することで、回収バッグ22内の空気を十分容易かつ確実にフィルター10に排出できる。
【0044】
血液処理システム50においては、チューブ25とチューブ26とを連通しておりフィルター10をバイパスするチューブ(バイパス回路)を設ける必要がない。血液処理システム50にあっては、チューブ26がフィルター10を通過した血液を回収バッグ22に移送する流路をなすとともに、濾過の終了後に回収バッグ22内に残留している空気をフィルター10に移送する流路をなす。なお、血液処理システム50は、バーピングのためのバイパス回路を必ずしも必要としないのであって、何らかの目的のためにパイパス回路を設けてもよい。
【0045】
[血液製剤の製造方法]
本実施形態に係る血液製剤の製造方法は、血液処理システム50を用いて行うものである。この方法は、
A)濾過すべき血液を貯留バッグ21に入れる工程と、
B)貯留バッグ21内の血液をフィルター10で濾過する工程と、
C)フィルター10を通過した血液を回収バッグ22に回収する工程と、
D)フィルター10の容器3の出口側をなす可撓性シート3bを引っ張ることによって出口側接合部5bにおいて濾過材1の出口側の面1bから可撓性シート3bを剥離する工程と、
E)上記C)工程後に回収バッグ22内に残留している空気を、上記D)工程後のフィルター10の出口側に移送する工程と、
F)上記E)工程後の回収バッグ22を密封する工程と、
を備える。
【0046】
上記C)工程を経て回収バッグ22に血液を回収した後、上記D)工程を実施することで、フィルター10の容器3の出口側に収容できる流体の体積を事後的に増大させることができる。これにより、上記E)工程において回収バッグ22内の空気を十分容易かつ確実にフィルター10に排出できる。また、容器3の出口側に収容可能な流体の体積を増大させる作業を濾過後に行うため、濾過終了時点においてフィルター10内に残存する血液量が従来と比較して増大し血液回収量が低下するという問題が生じることもない。
【0047】
上記C)工程において、フィルター10を通過した血液を、チューブ26を通じて回収バッグ22に移送し、かつ、上記E)工程において、回収バッグ22内に残留している空気を、チューブ26を通じてフィルター10の出口側に移送することができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、フィルター10として略正方形の形状を有するものを例示したが、その形状はこれに限定されず、図5に示すように、円形や長方形であってもよく、図示しないが楕円形や多角形(例えば、六角形、八角形)であってもよい。
【0049】
また、上記実施形態においては、血液処理システム50を鉛直方向に配置する場合について例示したが、例えば、血液の移送に重力の代わりにポンプなどを利用する場合には血液処理システム50を水平方向に配置してもよい。
【実施例】
【0050】
(実施例)
繊維径12μm、目付30g/m、厚さ0.189mmのポリエステル不織布である第一のフィルター要素、及び、繊維径1.2μm、目付40g/m、厚さ0.235mmのポリエステル不織布である第二のフィルター要素をそれぞれ準備した。第一のフィルター要素を血液の入口側に4枚、第二のフィルター要素を血液の出口側に26枚、第一のフィルター要素をさらに血液の出口側に4枚重ね、二種の不織布からなる濾過材用材料を得た。この濾過材用材料を切断して87mm×87mmの正方形の濾過材を得た。
【0051】
濾過材の両表面に可撓性を有する樹脂シートを配置し、血液処理領域が一辺70mmの正方形となるように、高周波溶着法によって内側接合部及び外側接合部を形成し、本実施例に係るフィルターを得た。なお、内側接合部を形成すべき位置において、高周波による1次溶着によって入口側の樹脂シートと濾過材を接合して入口側接合部を形成した。その後、高周波による2次溶着によって出口側の樹脂シートと濾過材を接合して出口側接合部を形成するとともに入口側接合部を再度加熱した。これにより、入口側接合部よりも出口側接合部の剥離強度が低い内側接合部を形成した。
【0052】
上記のようにして得たフィルターの出口側接合部の剥離強度は1.1N/mmであり、入口側接合部の剥離強度は2.6N/mmであった。なお、内側接合部における出口側接合部及び入口側接合部の剥離強度は、以下のようにして測定した。
【0053】
[剥離強度の測定方法]
(1)試験片の作成
溶着接合部を横切るようにカッターで2カ所に切れ目を入れた。切れ目の間隔は約25mm、切れ目の長さは接合部の両側それぞれ40mm程度になるようにした。次に接合部の両側、それぞれ接合部から30mm程度離れた箇所に、接合部と平行に切れ目を入れて試験片を切り出した。かみそり刃を用いて接合部切断面の凹凸を削り、切断面表面を平滑にした。一つの試験片を剥離試験用のサンプルとし、その接合部の長さを3箇所ノギスで測定し、平均値を接合部の長さとした。更に残ったもう一つの試験片を境界線長さの測定用サンプルとした。
(2)剥離試験方法
(1)の方法で作製した幅約25mmの剥離試験用のサンプルを、接合部から10mm離れた位置でつかみ具に固定した後、引張試験機で10mm/minの速度で引っ張り、接合部を引き剥がすような力を加えて試験片の引張破壊強さを測定した(23℃)。測定された引張破壊強さを、接合部の長さで除した値を剥離破壊強さとした。
【0054】
(比較例)
高周波溶着によって入口側接合部及び出口側接合を同時に形成し、これらの剥離強度がほぼ同等の内側接合部を形成した以外は、実施例と同様にフィルターを作製した。得られたフィルターの出口側接合部の剥離強度は2.8N/mmであり、入口側接合部の剥離強度は2.7N/mmであった。
【0055】
実施例及び比較例に係るフィルターに対して剥離試験を実施した。実施例のフィルターは可撓性シートを手で引っ張ることにより、内側接合部において入口側可撓性シートよりも先に出口側可撓性シートを容易に濾過材から剥離させることができた。しかし、比較例のフィルターは、可撓性シートを手で引っ張っても入口側可撓性シート及び出口側可撓性シートを内側接合部から剥離させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、濾過後の血液を収容する回収バッグ内の空気を十分容易かつ確実にフィルターに排出することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…濾過材、3…容器、3a,3b…可撓性シート、5…内側接合部、5a…入口側接合部、5b…出口側接合部、6…外側接合部、7…入口、8…出口、10…フィルター、21,22…バック、25,26…チューブ、50…血液処理システム、F1…一方面、F2…他方面、R…血液処理領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液処理用フィルターであって、
シート状の濾過材と、
前記濾過材を収容しており、可撓性シートを接合することによって形成されている容器と、
当該フィルターの厚さ方向に、前記濾過材と前記容器とを接合して血液処理領域を画成する第1の接合部と、
前記容器の周縁部を当該フィルターの厚さ方向に接合する第2の接合部と、
前記容器の一方面に設けられた入口と、
前記容器の他方面に設けられた出口と、
を備え、
前記第1の接合部は、前記容器の入口側をなす可撓性シートと前記濾過材の入口側の面とを接合する入口側接合部、及び、前記容器の出口側をなす可撓性シートと前記濾過材の出口側の面とを接合する出口側接合部を有しており、
前記出口側接合部は、前記入口側接合部よりも剥離強度が低く、前記容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって前記出口側接合部において前記濾過材の出口側の面から当該可撓性シートが剥離可能である、フィルター。
【請求項2】
血液処理用フィルターであって、
シート状の濾過材と、
前記濾過材を収容しており、可撓性シートを接合することによって形成されている容器と、
当該フィルターの厚さ方向に、前記濾過材と前記容器とを接合して血液処理領域を画成する第1の接合部と、
前記容器の周縁部を当該フィルターの厚さ方向に接合する第2の接合部と、
前記容器の一方面に設けられた入口と、
前記容器の他方面に設けられた出口と、
を備え、
前記第1の接合部は、前記容器の入口側をなす可撓性シートと前記濾過材の入口側の面とを接合する入口側接合部、及び、前記容器の出口側をなす可撓性シートと前記濾過材の出口側の面とを接合する出口側接合部を有しており、
前記出口側接合部は、前記第2の接合部よりも剥離強度が低く、前記容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって前記出口側接合部において前記濾過材の出口側の面から当該可撓性シートが剥離可能である、フィルター。
【請求項3】
前記出口側接合部は、剥離強度が0.5〜1.5N/mmである、請求項1又は2に記載のフィルター。
【請求項4】
濾過すべき血液を収容するための貯留バッグと、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の血液処理用フィルターと、
前記フィルターによる濾過がなされた血液を収容するための回収バッグと、
前記貯留バッグと前記フィルターの入口を連結する第1のチューブと、
前記フィルターの出口と前記回収バッグを連結する第2のチューブと、
を備える、血液処理システム。
【請求項5】
前記第2のチューブは、前記フィルターを通過した血液を前記回収バッグに移送する流路をなすとともに、濾過の終了後に前記回収バッグ内に残留している空気を前記フィルターに移送する流路をなすものである、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1のチューブと前記第2のチューブとを連通しており前記フィルターをバイパスするチューブを具備しない、請求項4又は5に記載のシステム。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の血液処理システムを用いた血液製剤の製造方法であり、
A)濾過すべき血液を前記貯留バッグに入れる工程と、
B)前記貯留バッグ内の血液を前記フィルターで濾過する工程と、
C)前記フィルターを通過した血液を前記回収バッグに回収する工程と、
D)前記フィルターの前記容器の出口側をなす可撓性シートを引っ張ることによって前記出口側接合部において前記濾過材の出口側の面から当該可撓性シートを剥離する工程と、
E)前記C)工程後に前記回収バッグ内に残留している空気を、前記D)工程後の前記フィルターの出口側に移送する工程と、
F)前記E)工程後の前記回収バッグを密封する工程と、
を備える方法。
【請求項8】
前記C)工程において、前記フィルターを通過した血液を、前記第2のチューブを通じて前記回収バッグに移送し、かつ
前記E)工程において、前記回収バッグ内に残留している空気を、前記第2のチューブを通じて前記フィルターの出口側に移送する、請求項7に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−235189(P2011−235189A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−187834(P2011−187834)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】