説明

血液処理装置

【課題】スペースSP間にエアーが滞留しにくいため、エアー抜きを容易に行うことができ、その結果プライミング作業、透析治療を迅速に実施できる、血液処理装置を提供する。
【解決手段】基端部(11.1)がハウジング(2)内に固定されると共に、本体部(11.2)の先端部が前記ハウジング(2)の長さ方向で、前記血液ポート出口(5.2)方向に延設される障害部材(11)を設け、当該障害部材(11)の基端部(11.1)の外周に、複数の孔(11.3)を形成し、当該基端部(11.1)は、前記ハウジング(2)の前記移行部(2.3)近傍に対応する位置に配置した血液処理装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析、血液透析ろ過等に用いる血液処理装置であって、中空糸膜をハウジング(「ケーシング」ともいう)の内部に装填した血液処理装置の改良に関し、プライミング時(透析治療の開始直前に、ハウジング内に透析液、中空糸内部に生理食塩水溶液を充填して、ハウジング内及び中空糸膜内のエアーを追い出す作業)、透析治療中に、ハウジング内のエアー抜きを容易に行えるように改良した血液処理装置に関する。特にハウジングに形成した障害部材(「バッフル板(筒)」ともいう)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ハウジング内への透析液の流入状態を改善し、透析効率を向上させるために、ハウジング内に、全周のバッフル板を形成した体液処理装置が市販されている。ところが、プライミング時に、エアー抜きを行うに際し、全周のバッフル板が障害となり、エアー抜き作業が実施しづらい等の問題点が指摘されている。
さらに詳述すれば、プライミング作業は、血液ポート入口側から血液ポート出口側に向けて体液処理装置の中空糸膜内に生理食塩水溶液を充填し、同時に透析液ポート入口側から透析液ポート出口側に向けて透析液を充填して、体液処理装置の中空糸膜及びハウジング内が生理食塩水溶液又は透析液で一杯になったら、体液処理装置の上下を180°反転させて、血液ポート出口側と透析液ポート出口側から体液処理装置内のエアー抜きを行う。
このとき、ハウジングの小径部から大径部の移行部(くびれ部ともいう)の内周壁面ないし大径部の内周壁面と、全周バッフル板外周壁面との間のスペースに、エアーが溜まりやすく、また溜まったエアーが抜けにくく、プライミング作業、透析治療の妨げになっていた。
【0003】
特許文献1(特開2006−116134号公報、要約、段落[0011]、図2から図4)には、バッフル板(41)は基端部がケーシング(2)の内表面に固定されるとともに、先端部がケーシング(2)の開口端部に向けて延出され、バッフル板(41)の内表面に、中空糸束(5)側へ向けて突出した突起部(42)を、バッフル板(41)の幅方向の一側から他側に亘って形成し、樹脂液の這い上がりが生じても緩衝板と中空糸束の一部とが固着することなく、中空糸膜の損傷を回避できる発明が開示されている。
特許文献1では、バッフル板(41)は、ケーシング(2)の全周に形成されている。
【0004】
特許文献2(実開昭56−166042号公報)には、人工腎臓用のダイアライザ装置において、環状の邪魔板(バッフル板)の中腹部(側面)に、円周状の連通孔(7)を複数配置した発明が記載されている。これにより透析液の流れを均一にして、透析効率を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−116134号公報(要約、段落[0011]、図2から図4)
【特許文献2】実開昭56−166042号公報(実用新案登録請求の範囲、明細書第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする問題点は、
特許文献1に記載の発明では、ハウジングの小径部から大径部の移行部(くびれ部ともいう)の内周壁面ないし大径部の内周壁面と、全周バッフル板外周壁面との間のスペースに、エアーが溜まりやすく、溜まったエアーが抜けにくい点である。
特許文献2に記載の発明では、バッフル板中腹部(側面)近傍のエアーは抜けやすくなるが、ハウジングの移行部(くびれ部ともいう)の内周壁面間のスペースに、依然としてエアーが溜まりやすく、これらのスペースに溜まったエアーは抜けにくい点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、プライミング時、透析治療中に、ハウジング内のエアー抜きを容易に行えるようにできる障害部材を有する血液処理装置の発明に到達した。
[1]本発明は、小径部(2.1)と当該小径部(2.1)の両側に、移行部(2.3)を介して大径部(2.2)を形成したハウジング(2)を有し、
当該ハウジング(2)の内部に、当該ハウジング(2)の長さ方向に沿って中空糸膜(4)を配置し、
当該中空糸膜(4)端部を固定材(3)によりハウジング(2)端部内面に固定し、
当該ハウジング(2)の前記長さ方向と交差する断面方向の端部に、透析液ポート入口(7.1)と透析液ポート出口(7.2)を装着し、
当該ハウジング(2)の前記長さ方向の端部に、血液ポート入口(5.1)と血液ポート出口(5.2)を装着し、
基端部(11.1)がハウジング(2)内に固定されると共に、本体部(11.2)の先端部が前記ハウジング(2)の長さ方向で、前記血液ポート出口(5.2)方向に延設される障害部材(11)を設け、
当該障害部材(11)の基端部(11.1)の外周に、複数の孔(11.3)を形成し、
当該基端部(11.1)を、前記ハウジング(2)の前記移行部(2.3)近傍に対応する位置に配置した、血液処理装置(1)を提供する。
[2]本発明は、前記障害部材(11)は、前記ハウジング(2)と別部品で形成され、
前記ハウジング(2)の前記小径部(2.1)と前記移行部(2.3)の間に段部(2.4)を形成し、
当該段部(2.4)に、前記障害部材(11)の基端部(11.1)を装着した、[1]に記載の血液処理装置(1)を提供する。
[3]本発明は、前記複数の孔(11.3)を、前記ハウジング(2)の長さ方向と交差する断面方向に沿って4個から12個、略均等の間隔をおいて配置した、[1]または[2]に記載の血液処理装置(1)を提供する。
[4]本発明は、前記複数の孔(11.3)を、略矩形、略正方形、略楕円、略円のいずれか一の形状に形成した、[1]から[3]のいずれか一項に記載の血液処理装置(1)を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血液処理装置では、障害部材11の基端部11.1の外周に、複数の孔11.3を形成し、基端部11.1は、ハウジング2の移行部2.3近傍に対応する位置に配置しているので、ハウジング2の移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペースSP間に、エアーが滞留しにくく、エアー抜きが容易に実施でき、プライミング作業、透析治療を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の血液処理装置1の概略図(全体側面図)である。
【図2】本発明の血液処理装置の概略図(一部拡大断面図)である。
【図3】血液処理装置の組み立て状態を示す概略図(一部拡大断面図)である。
【図4】(a)は障害部材11の断面図である。(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、ハウジング2の長さ方向を第一方向X、前記第一方向Xと交差する断面(横断する)方向を第二方向Yと記載する。ハウジング2は、第二方向Yに第一方向Xにのびる中心Cを有する。
また前記第一方向Xにおいて、血液ポート入口5.1を装着した方向を第一X1方向、血液ポート出口5.2を装着した方向を第一X2方向と記載する。
また前記第二方向Yにおいて、透析液ポート入口7.1と透析液ポート出口7.2を装着した方向を第二Y1方向、透析液ポート入口7.1と透析液ポート出口7.2を装着していない、前記第二Y1方向と略180°反対側方向を第二Y2方向と記載する。
【0011】
本発明の血液処理装置1は、小径部2.1の両側に、移行部2.3を介して大径部2.2を形成したハウジング2を有する。
ハウジング2の内部に、ハウジング2の第一方向Xに沿って中空糸膜4を配置し、中空糸膜4端部を固定材3によりハウジング2端部内面に固定している。
ハウジング2の第二方向Y(第二Y1方向)の端部に、透析液ポート入口7.1と透析液ポート出口7.2を装着し、ハウジング2の第一方向X端部に、血液ポート入口5.1と血液ポート出口5.2を装着している。
【0012】
ハウジング2の内部には、障害部材11が設けられている。障害部材11は、基端部11.1がハウジング2内に固定されると共に、本体部11.2の先端部がハウジング2の第一X2方向に延設されている。
障害部材11は、図3、図4(a)に例示するように、略円筒状に形成され、小径の基端部11.1と大径の本体部11.2を有する。
基端部11.1は、外周(側面)に複数の孔11.3を形成している。
基端部11.1及び本体部11.2の外周は、ストレートに形成されているが、本体部11.2の内周には、第一X2方向に向けて広がるように傾斜S1が形成され、基端部11.1の内周には、第一X1方向に向けて広がるように傾斜S2が形成されている。
傾斜S1は、中空糸膜4をハウジング2内に挿入するときに、ハウジング2端部に、中空糸膜4が第二方向Yに均一に分散するのを促進する機能を有する。
傾斜S2は、透析液ポート入口7.1から流入した透析液とともに混入したエアーがハウジング2内(中空糸膜4領域)方向へ抜けるのを促進する。
障害部材11の基端部11.1の外周に、第二方向Yに沿って複数の孔11.3を形成している。
【0013】
基端部11.1は、ハウジング2の移行部2.3近傍に対応する位置に配置している。
移行部2.3近傍に対応する位置とは、図2に例示するように移行部2.3の直近で、第一方向Xに見て移行部2.3と実質的に同じ位置でもよいし、移行部2.3から若干離れて、第一X1方向または第一X2方向に、若干ずれた位置でもよいことを意味する。
換言すれば複数の孔11.3は、ハウジング2の移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペースSP近傍に対応する位置に配置される。
スペースSP近傍に対応する位置とは、図2に例示するように移行部2.3の直近で、第一方向Xに見て移行部2.3と実質的に同じ位置でもよいし、移行部2.3から若干離れて、第一X1方向または第一X2方向に、若干ずれた位置でもよいことを意味する。
要するにスペースSPにエアーが滞留せず、エアーが抜けやすい位置であればよい。
障害部材11は、ハウジング2と別部品で形成され、ハウジング2は、小径部2.1と移行部2.3の間に段部2.4を形成し、段部2.4に基端部11.1を装着している。装着方法は、圧入、溶着(熱、高周波、超音波)等何でもよい。
【0014】
図3、図4(a)の例示では、複数の孔11.3は、ハウジング2の第一X2方向に向けて延設され(略矩形状に形成され)、さらにハウジング2の外周からハウジング2の中心C方向に向けて貫通して形成されている。複数の孔11.3は、図4(b)に例示するように反時計回りに30°間隔で12個形成されている。
エアー抜き効果の貢献を考慮すると、孔11.3の数を多く設け、また孔11.3のサイズ(寸法)を大きく形成するほど好ましいように思われるが、あまり数を多くしたり、サイズ(寸法)を大きくしすぎると、透析液ポート入口7.1から流入した透析液が、ハウジング2の第二Y2方向に流れにくく、孔11.3から直接、中空糸膜4領域に流れやすくなり、透析液の流量が均一になりにくいので、好ましくない。
孔11.3は、上記したものに限定されることはなく、要するに、プライミング作業時、透析治療時に、ハウジング2の移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペースSPにエアーが滞留せず、エアーが抜けやすい役割を果たすことができる形態であれば、若干の形態の変更は許容される。
【0015】
さらに孔11.3について詳述すれば、孔11.3の数は、4個から12個、それぞれの間隔は、略90°(4個の場合)から略30°(12個の場合)のように、略均等の間隔をおいて配置するのが好ましい。
略均等の間隔とは、孔11.3の数にもよるが、それぞれの間隔のずれ(孔11.3の数が最も少ない4個の場合は最大20°、孔11.3の数が最も多い12個の場合、最大10°)があってもよいことを意味する。
例えば、孔11.3を12個配置する場合、第1番目から第12番目の孔11.3のそれぞれの間隔は、均等に30°間隔でなくてもよい。
例えば、
第1番目の孔11.3と第2番目の孔11.3の間隔:25°、
第2番目の孔11.3と第3番目の孔11.3の間隔:35°、
第3番目の孔11.3と第4番目の孔11.3の間隔:25°、
第4番目の孔11.3と第5番目の孔11.3の間隔:35°、
第5番目の孔11.3と第6番目の孔11.3の間隔:25°、
第6番目の孔11.3と第7番目の孔11.3の間隔:35°、
第7番目の孔11.3と第8番目の孔11.3の間隔:25°、
第8番目の孔11.3と第9番目の孔11.3の間隔:35°、
第9番目の孔11.3と第10番目の孔11.3の間隔:25°、
第10番目の孔11.3と第11番目の孔11.3の間隔:35°、
第11番目の孔11.3と第12番目の孔11.3の間隔:25°、
第12番目の孔11.3と第1番目の孔11.3の間隔:35°等でもよい。
また、孔11.3を4個配置する場合、第1番目から第4番目の孔11.3のそれぞれの間隔は、均等に90°間隔でなくてもよい。
例えば、
第1番目の孔11.3と第2番目の孔11.3の間隔:80°、
第2番目の孔11.3と第3番目の孔11.3の間隔:100°、
第3番目の孔11.3と第4番目の孔11.3の間隔:90°、
第4番目の孔11.3と第1番目の孔11.3の間隔:90°、または
第1番目の孔11.3と第2番目の孔11.3の間隔:80°、
第2番目の孔11.3と第3番目の孔11.3の間隔:100°、
第3番目の孔11.3と第4番目の孔11.3の間隔:100°、
第4番目の孔11.3と第1番目の孔11.3の間隔:80°等でもよい。
【0016】
また孔11.3の形状は、略正方形、略楕円、略円のいずれか一の形状に形成することができる。
さらに孔11.3のサイズ(寸法)は、例えば、略矩形、略正方形、略楕円の場合、好ましくは[縦(長径)]2mmから4mm、[横(短径)]1mmから3mmに形成される。また略円形の場合、好ましくは(直径)2mmから4mmに形成される。
【0017】
本発明の血液処理装置1では、障害部材11の基端部11.1の外周に、複数の孔11.3を形成し、基端部11.1を、ハウジング2の移行部2.3近傍に対応する位置に配置しているので、プライミング作業時、透析治療時に、透析液ポート入口7.1からハウジング2に導入される透析液とともにエアーが混入し、ハウジングの移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペース間に一時的にエアーが滞留しても、これらのエアーは、スペースSPから複数の孔11.3及びハウジング2内(中空糸膜4領域)を経て、透析液ポート出口7.2へ速やかに排出される。なお障害部材11の本体部11.2の傾斜S2により、エアーがハウジング2内(中空糸膜4領域)方向へ抜けるのを促進される。
特許文献2のように、単にバッフル板の中腹部(側面)に円周状に複数形成した連通孔7では、移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペースSPに滞留したエアーは、依然としてスペース内に滞るが、本発明の血液処理装置1では、移行部2.3の内周壁面と障害部材11の外周壁面との間のスペースSPにエアーは滞留しにくいので、エアー抜きが容易に実施でき、プライミング作業、透析治療を快適に行うことができる。
【符号の説明】
【0018】
1 血液処理装置
2 ハウジング
2.1 小径部
2.2 大径部
2.3 移行部
2.4 段部
3 固定材
4 中空糸膜
5.1 血液ポート入口
5.2 血液ポート出口
7.1 透析液ポート入口
7.2 透析液ポート出口
11 障害部材
11.1 基端部
11.2 本体部
11.3 孔
S1、S2 傾斜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径部(2.1)と当該小径部(2.1)の両側に、移行部(2.3)を介して大径部(2.2)を形成したハウジング(2)を有し、
当該ハウジング(2)の内部に、当該ハウジング(2)の長さ方向に沿って中空糸膜(4)を配置し、
当該中空糸膜(4)端部を固定材(3)によりハウジング(2)端部内面に固定し、
当該ハウジング(2)の前記長さ方向と交差する断面方向の端部に、透析液ポート入口(7.1)と透析液ポート出口(7.2)を装着し、
当該ハウジング(2)の前記長さ方向の端部に、血液ポート入口(5.1)と血液ポート出口(5.2)を装着し、
基端部(11.1)がハウジング(2)内に固定されると共に、本体部(11.2)の先端部が前記ハウジング(2)の長さ方向で、前記血液ポート出口(5.2)方向に延設される障害部材(11)を設け、
当該障害部材(11)の基端部(11.1)の外周に、複数の孔(11.3)を形成し、
当該基端部(11.1)を、前記ハウジング(2)の前記移行部(2.3)近傍に対応する位置に配置した、ことを特徴とする血液処理装置(1)。
【請求項2】
前記障害部材(11)は、前記ハウジング(2)と別部品で形成され、
前記ハウジング(2)の前記小径部(2.1)と前記移行部(2.3)の間に段部(2.4)を形成し、
当該段部(2.4)に、前記障害部材(11)の基端部(11.1)を装着した、請求項1に記載の血液処理装置(1)。
【請求項3】
前記複数の孔(11.3)を、前記ハウジング(2)の長さ方向と交差する断面方向に沿って4個から12個、略均等の間隔をおいて配置した、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の血液処理装置(1)。
【請求項4】
前記複数の孔(11.3)を、略矩形、略正方形、略楕円、略円のいずれか一の形状に形成した、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の血液処理装置(1)。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−166970(P2010−166970A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10185(P2009−10185)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】