説明

血液分析装置

【課題】 アバランシェフォトダイオードの出力信号の増幅信号に含まれるノイズを十分に減衰させ、高精度に血液試料の分析を行うことが可能な血液分析装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る血液分析装置は、アバランシェフォトダイオードを受光素子として用いたWBC検出部5と、出力信号を処理する信号処理回路8aを備える。信号処理部8aは、アンプ81aと、ローパスフィルタ82aと、AD変換器83aとを備えている。また、信号処理回路8aによって処理された信号に基づき、血液試料に含まれる白血球が5種類に分類されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料を分析する血液分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学式のフローサイトメータを備え、血液試料に対して分析を行う血液分析装置が知られている。フローサイトメータには、血液試料の液流を通流させるためのフローセルと、このフローセルへ光を照射する光源と、受光素子とが設けられており、光源から照射された光がフローセル中の粒子によって散乱される。また血液試料に溶血剤及び蛍光試薬が添加されることにより赤血球の溶血処理と白血球等の粒子の染色処理とがなされ、染色された粒子が前記光を受けることにより蛍光を発する。このときの散乱光及び蛍光を受光素子によって受け、この検出信号を解析することにより、血液試料中の白血球を測定し、また白血球をリンパ球、単球、顆粒球等に分類することが行われている。このようなフローサイトメータでは、白血球とゴースト(溶血剤で収縮しきらなかった赤血球膜)の分類を蛍光信号を用いて弁別することができるため、白血球とゴーストとの大きさが明確に区別できる程度に赤血球を収縮させるような溶血能力の高い溶血剤を用いる必要がなく、白血球が損傷を受ける程度を軽くして白血球の形態を保持することが可能である。このように、白血球の形態を保持しつつ赤血球を溶解させ、血液試料を白血球の分類に好適な状態とするための試薬が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、フローサイトメータによる白血球の分類は、各白血球の細胞や核の大きさ及び形態の僅かな違いに基づいて行われるため、測定精度の高い光学系が必要となる。これに加えて、ゴーストの中にも蛍光色素が少量付着して蛍光信号を示すものがあるため、白血球とゴーストとを蛍光信号により弁別するためには測定精度の高い光学系が必要である。そこで、蛍光用の受光素子に感度の高いフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)が一般的に用いられている(例えば、特許文献2)。また、蛍光受光用の受光素子としてアバランシェフォトダイオード(APD)を使用しているフローサイトメータも開示されている(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−319010号公報
【特許文献2】特開2000−214070号公報
【特許文献3】特許第3306828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アバランシェフォトダイオードは、素子自身が有する信号の増幅率がフォトマルチプライヤに比べて低いため、素子の後段に設けられる増幅回路のゲインを大きく設定する必要がある。ところが、このようにゲインを大きく設定した増幅回路によってアバランシェフォトダイオードの出力信号を増幅すると、増幅回路で発生する高周波ノイズのレベルが高くなり、精度の高い試料の分析が困難となるといった問題が生じる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、アバランシェフォトダイオードの出力信号の増幅信号に含まれるノイズを十分に減衰させ、高精度に血液試料の分析を行うことが可能な血液分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る血液分析装置は、血液試料に溶血剤と染色試薬とを添加する血液試料調製部と、溶血剤と染色試薬とが添加された血液試料の液流を形成するフローセルと、当該フローセルに光を照射する光源と、前記液流から生じる散乱光を検出する散乱光検出部と、前記液流から生じる蛍光を検出する蛍光検出部とを備える光検出部と、前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号を処理する信号処理部と、処理された前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の血球を分析する分析部とを備え、前記蛍光検出部は、アバランシェフォトダイオードにより構成されており、前記信号処理部は、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号の増幅信号に含まれる高周波ノイズを低減するノイズ低減部を備え、前記分析部は、高周波ノイズが低減された前記増幅信号及び前記散乱光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の白血球を分類するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
白血球には、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球等の種類があり、血液分析において血液試料中の白血球をこれらの種類に分類することは重要な分析項目の一つである。かかる白血球分類では、血液試料に溶血剤と染色試薬とを添加して血液試料中の白血球を染色試薬で染色し、染色された白血球に光を照射して、白血球にて励起される蛍光を検出するとともに、白血球から生じる散乱光を検出し、白血球の染色度合いを反映する蛍光強度と、白血球の細胞の状態等を反映する散乱光強度とに基づいて白血球を分類する。このように、蛍光強度は白血球を分類する上で重要な情報であり、かかる蛍光強度を正確に表す信号が得られなければ白血球を精度よく分類することはできない。そこで、かかる構成とすることにより、増幅信号に含まれる高周波ノイズを十分に低減し、蛍光強度を正確に表す信号を得ることで、白血球を分類することが可能となる。
【0009】
上記発明においては、前記分析部は、血液試料中の白血球を少なくとも4つに分類するように構成されていることが好ましい。
【0010】
上記発明においては、前記分析部は、血液試料中の白血球を、好中球、リンパ球、単球、及び好酸球に分類するように構成されていることが好ましく、また、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球に分類するように構成されていることがより一層好ましい。
【0011】
上記発明においては、前記ノイズ低減部は、前記増幅信号に含まれるノイズを、分析部における前記増幅信号の信号レベルの使用範囲に対して13%以下に減衰させるように構成されていることが好ましい。本願発明者らは、鋭意研究の結果、増幅信号のノイズを上記のように減衰させることで、血液の分析を高精度に行うことができることを知見した。したがって、上記のように増幅信号のノイズを減衰させることにより、高精度に血液を分析することができる。
【0012】
上記発明においては、前記ノイズ低減部は、前記増幅信号に含まれるノイズを、分析部における前記増幅信号の信号レベルの使用範囲に対して8%以下に減衰させるように構成されていることが好ましい。本願発明者らは、鋭意研究の結果、増幅信号のノイズを上記のように減衰させることで、血液の分析をより一層高精度に行うことができることを知見した。したがって、上記のように増幅信号のノイズを減衰させることにより、更に高精度に血液を分析することができる。
【0013】
本発明に係る血液分析装置は、血液試料に染色試薬を添加して染色する血液試料調製部と、染色された血液試料の液流を形成するフローセルと、当該フローセルに光を照射する光源と、前記液流から生じる散乱光を検出する散乱光検出部と、前記液流から生じる蛍光を検出する蛍光検出部とを備える光検出部と、前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号を処理する信号処理部と、処理された前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の血球を分析する分析部とを備え、前記蛍光検出部は、アバランシェフォトダイオードにより構成されており、前記信号処理部は、前記増幅信号の高周波成分を減衰させるハイカットフィルタを備えており、前記ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数が、式(3)により与えられる周波数Y以下とされていることを特徴とする。
Y=17.289EXP(−0.022C)+2 …(3)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【0014】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数を上記の(3)式により与えられる周波数Yより小さくすることにより、血液の分析を高精度に行うことができることを知見した。したがって、上記のようにハイカットフィルタの高域カットオフ周波数を設定して増幅信号の高周波ノイズを減衰させることにより、高精度に血液を分析することができる。
【0015】
上記発明においては、前記信号処理部は、前記増幅信号の高周波成分を減衰させるハイカットフィルタを備えており、前記ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数が、式(4)により与えられる周波数Y以下とされていることが好ましい。
Y=10.482EXP(−0.018C)+1.3 …(4)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【0016】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数を上記の(4)式により与えられる周波数Yより小さくすることにより、血液の分析をより一層高精度に行うことができることを知見した。したがって、上記のようにハイカットフィルタの高域カットオフ周波数を設定して増幅信号の高周波ノイズを減衰させることにより、より一層高精度に血液を分析することができる。
【0017】
上記発明においては、前記アバランシェフォトダイオードの受光面は、直径が0.1mm以上2mm以下の円形に構成されているか、一辺の長さが0.1mm以上2mm以下の四角形に構成されていることが好ましい。アバランシェフォトダイオードは、その受光面が大きくなるほど端子間容量が増大して出力信号のS/N比が低くなるため、この点では可及的に受光面を小さくすることが好ましい。その一方、受光面が小さすぎると、正確に受光面のみに集光させることが困難となり、またレンズの収差の影響が大きくなるため高い検出精度が期待できない。よって、血球(直径数μm〜数十μm程度)を含む血液試料を分析する場合には、受光面のサイズを上記のようにすることにより、高いS/N比を維持しつつ、受光面へ確実に集光させ、またレンズの収差の影響を除去することが容易に達成できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る血液分析装置によれば、アバランシェフォトダイオードの出力信号の増幅信号に含まれるノイズを十分に減衰させることができ、高精度に血液試料の分析を行うことが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る血液分析装置及びフローサイトメータについて、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る血液分析装置の概略構成を示す正面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る血液分析装置1は、血液検査に使用される装置であり、測定ユニット2と、データ処理ユニット3とによって主として構成されていて、測定ユニット2によって血液検体中に含まれる成分について所定の測定を行い、この測定データをデータ処理ユニット3で受信して分析処理を行うようになっている。かかる血液分析装置1は、例えば、病院または病理検査施設等の医療機関の施設内に設置されている。測定ユニット2とデータ処理ユニット3とは、互いにデータ通信が可能であるように、データ伝送ケーブル3aによって接続されている。なお、データ伝送ケーブル3aで測定ユニット2とデータ処理ユニット3とを直接接続する構成に限らず、例えば、電話回線を使用した専用回線、LAN、またはインターネット等の通信ネットワークを介して測定ユニット2とデータ処理ユニット3とが接続されていてもよい。
【0021】
図2は、測定ユニット2の外観を示す斜視図である。図2に示すように、測定ユニット2の正面の右下部分には、血液試料を収容した採血管20をセット可能な採血管セット部2aが設けられている。この採血管セット部2aは、その近傍に設けられたボタンスイッチ2bをユーザが押すことにより前方へ開いて迫り出すようになっており、この状態でユーザが採血管20をセットすることが可能となっている。採血管20をセットされた後には、ユーザが再度前記ボタンスイッチ2bを押すことによって採血管セット部2aが後方へ移動して閉止する。
【0022】
図3は、測定ユニット2の内部構造を示す斜視図であり、図4は、その側面図である。採血管20がセットされた採血管セット部2aは、前述したように測定ユニット2の内部に収容され、採血管20が所定の吸引位置に位置決めされる。測定ユニット2の内部には、試料を吸引するピペット21、血液と試薬とを混合調製するためのチャンバ22,23等を有する試料供給部4が設けられている。ピペット21は、上下方向に延びた管状に形成されており、その先端は鋭く尖っている。また、ピペット21は、図示しないシリンジポンプに連結されており、このシリンジポンプの動作によって液体を所定量だけ吸引し、また吐出することが可能であるとともに、移動機構に接続されており、上下方向及び前後方向にそれぞれ移動可能となっている。採血管20はゴム製のキャップ20aによって密閉されており、ピペット21の鋭利な先端によって前記吸引位置にセットされた採血管20のキャップ20aを穿刺し、この採血管20に収容された血液試料をピペット21によって所定量吸引することが可能である。また、図4に示すように、採血管セット部2aの後方にはチャンバ22,23が設けられており、このように血液試料を吸引した状態のピペット21を前記移動機構により移動させて、チャンバ22,23の中に血液試料が吐出されることにより、チャンバ22,23に血液試料が供給されるようになっている。
【0023】
図5は、測定ユニット2の構成を示すブロック図であり、図6は、試料供給部4の構成を示す流体回路図である。図4に示すように、測定ユニット2は、試料供給部4と、WBC検出部5と、RBC検出部6と、HGB検出部7と、制御部8と、通信部9とを備えている。制御部8は、信号処理回路8aと、CPU,ROM,RAM等から構成された制御回路8bとを備えており、WBC検出部5、RBC検出部6、HGB検出部7から出力された信号を処理したり、測定ユニット2の各種構成要素の動作制御を行ったりするようになっている。通信部9は、例えばRS-232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、データ処理ユニット3との間でデータの送受信を行うことが可能である。
【0024】
図6に示すように、試料供給部4は、チャンバ、複数の電磁弁、ダイヤフラムポンプ等を備えた流体ユニットである。チャンバ22は、赤血球、血小板の測定、及びヘモグロビンの測定に供される試料の調製に使用される。また、チャンバ23は、白血球の測定に供される試料の調製に使用される。なお、図6では、説明を簡単にするためにチャンバ23の周辺の流体回路の構成のみを示している。チャンバ23は、溶血剤を収容する試薬容器FFDと、染色試薬を収容する試薬容器FFSとにチューブ等の流体通流路P1,P2を介して接続されている。溶血剤にはストマトライザー4DS又はストマトライザー4DL(シスメックス株式会社製)が用いられる。チャンバ23と試薬容器FFDとを繋ぐ流体通流路P1の途中には、電磁弁SV19,SV20が設けられており、また電磁弁SV19,SV20の間には、ダイヤフラムポンプDP4が設けられている。ダイヤフラムポンプDP4は、陽圧源及び陰圧源が接続されており、ダイヤフラムポンプDP4を陽圧駆動及び陰圧駆動することができるようになっている。また、チャンバ23と試薬容器FFSとを繋ぐ流体通流路P2の途中には、電磁弁SV40,SV41が設けられており、また電磁弁SV40,SV41の間には、ダイヤフラムポンプDP5が設けられている。
【0025】
このような電磁弁SV19,SV20,SV40,SV41及びダイヤフラムポンプDP4,DP5を制御部8が次のように動作制御して、溶血剤及び染色試薬をチャンバ23に供給することが可能である。まず、ダイヤフラムポンプDP4よりも試薬容器FFD側に配されている電磁弁SV19を開放し、ダイヤフラムポンプDP4よりもチャンバ23側に配されている電磁弁SV20を閉止した状態で、ダイヤフラムポンプDP4を陰圧駆動することにより、試薬容器FFDから溶血剤が定量分取される。その後、電磁弁SV19を閉止し、電磁弁SV20を開放させ、ダイヤフラムポンプDP4を陽圧駆動することにより、定量された溶血剤がチャンバ23に供給される。同様に、ダイヤフラムポンプDP5よりも試薬容器FFS側に配されている電磁弁SV40を開放し、ダイヤフラムポンプDP5よりもチャンバ23側に配されている電磁弁SV41を閉止した状態で、ダイヤフラムポンプDP5を陰圧駆動することにより、試薬容器FFDから染色試薬が定量分取される。その後、電磁弁SV40を閉止し、電磁弁SV41を開放させ、ダイヤフラムポンプDP5を陽圧駆動することにより、定量された染色試薬がチャンバ23に供給されることとなる。このようにして、血液試料と試薬(溶血剤、染色試薬)が混合され、白血球測定用の試料が調製される。
【0026】
また、チャンバ23はチューブ及び電磁弁SV4を含む流体通流路P3を介してフローサイトメータであるWBC検出部5に接続されている。この流体通流路P3は途中で分岐しており、その分岐先に電磁弁SV1,SV3が直列接続されている。また、電磁弁SV1,SV3の間には、シリンジポンプSP2が設けられている。シリンジポンプSP2にはステッピングモータM2が接続されており、このステッピングモータM2の動作によってシリンジポンプSP2が駆動されるようになっている。また、チャンバ23とWBC検出部5とを繋ぐ流体通流路P3は、更に分岐しており、この分岐先には電磁弁SV29及びダイヤフラムポンプDP6が接続されている。WBC検出部5により白血球を測定する場合には、電磁弁SV4,SV29を開放した状態でダイヤフラムポンプDP6を陰圧駆動し、チャンバ23から試料を吸引することにより、流体通流路P3に当該試料をチャージングする。試料のチャージングが終了すると、電磁弁SV4,SV29を閉止する。その後、電磁弁SV3を開放し、シリンジポンプSP2を駆動することにより、チャージングした試料がWBC検出部5へと供給される。
【0027】
図6に示すように、試料供給部4にはシース液チャンバ24が設けられており、このシース液チャンバ24がWBC検出部5に流体通流路P4を介して接続されている。この流体通流路P4には、電磁弁SV31が設けられている。かかるシース液チャンバ24は、WBC検出部5に供給されるシース液を貯留するためのチャンバであり、チューブ、電磁弁SV33を含む流体通流路P5を介して、シース液が収容されたシース液容器EPKに接続されている。白血球の測定の開始前には、電磁弁SV33が開放されてシース液がシース液チャンバ24に供給され、予めシース液チャンバ24にシース液が貯留される。そして、白血球の測定が開始されるときには、前述したWBC検出部5への試料の供給と同期して、電磁弁SV31が開放され、シース液チャンバ24に貯留されたシース液がWBC検出部5へ供給される。
【0028】
WBC検出部5は、光学式のフローサイトメータであり、白血球を半導体レーザによるフローサイトメトリー法により測定することが可能である。かかるWBC検出部5は、試料の液流を形成するフローセル51を備えている。図7は、フローセル51の構成を模式的に示す斜視図である。フローセル51は、透光性を有する石英、ガラス、合成樹脂等の材料によって管状に構成されており、その内部が試料及びシース液が通流する流路となっている。かかるフローセル51には、内部空間が他の部分よりも細く絞り込まれたオリフィス51aが設けられている。フローセル51の当該オリフィス51aの入口付近は二重管構造となっており、その内側管部分は試料ノズル51bとなっている。この試料ノズル51bは、試料供給部4の流体通流路P3に接続されており、この試料ノズル51bから試料が吐出される。また、試料ノズル51bの外側の空間はシース液が通流する流路51cであり、この流路51cは前述した流体通流路P4に接続されている。シース液チャンバ24から供給されたシース液は、流体通流路P4を介して流路51cを通流し、オリフィス51aへ導入される。このようにフローセル51に供給されたシース液は、試料ノズル51bから吐出された試料を取り囲むように流れることとなる。そして、オリフィス51aによって試料の流れが細く絞り込まれ、試料に含まれる白血球、赤血球等の粒子がシース液に取り囲まれて一つずつオリフィス51aを通過する。
【0029】
図8は、WBC検出部5の構成を模式的に示す概略平面図である。WBC検出部5には、半導体レーザ光源52が、フローセル51のオリフィス51aへ向けてレーザ光を出射するように配置されている。半導体レーザ光源52とフローセル51との間には、複数のレンズからなる照射レンズ系53が配されている。この照射レンズ系53によって、半導体レーザ光源から出射された平行ビームがビームスポットに集束されるようになっている。また、半導体レーザ光源52から直線的に延びた光軸上には、フローセル51を挟んで照射レンズ系53に対向するように、ビームストッパ54aが設けられており、半導体レーザ光源52からの直接光はビームストッパ54aによって遮光される。また、ビームストッパ54aの更に光軸下流側には、フォトダイオード54が配されている。
【0030】
フローセル51に試料が流れると、レーザ光により散乱光及び蛍光の光信号が発生する。このうち前方の信号光が前記フォトダイオード54へ向けて照射される。半導体レーザ光源52から直線的に延びた光軸に沿って進行する光のうち、半導体レーザ光源52の直接光はビームストッパ54aによって遮断され、フォトダイオード54には概ね前記光軸方向に沿って進行する散乱光(以下、前方散乱光という)のみが入射する。フローセル51から発せられた前方散乱光は、フォトダイオード54で光電変換され、これによって生じた電気信号がアンプ54bによって増幅され、増幅信号(以下、前方散乱光信号という)が制御部8に出力される。かかる前方散乱光信号は、血球の大きさを反映しており、制御部8がこの前方散乱光信号を信号処理することによって、血球の大きさ等を得るようになっている。
【0031】
また、フローセル51の側方であって、半導体レーザ光源52からフォトダイオード54へ直線的に延びる光軸に対して直行する方向には、側方集光レンズ55が配されており、フローセル51内を通過する血球に半導体レーザを照射したときに発生する側方光(前記光軸に対して交差する方向へ出射される光)がこの側方集光レンズ55で集められるようになっている。側方集光レンズ55の下流側にはダイクロイックミラー56が設けられており、側方集光レンズ55から送られた信号光は、ダイクロイックミラー56で散乱光成分と蛍光成分とに分けられる。ダイクロイックミラー56の側方(側方集光レンズ55とダイクロイックミラー56とを結ぶ光軸方向に交差する方向)には、側方散乱光受光用のフォトダイオード57が設けられており、ダイクロイックミラー56の前記光軸下流側には、光学フィルタ58a及びアバランシェフォトダイオード58が設けられている。そして、ダイクロイックミラー56で分けられた側方散乱光成分は、フォトダイオード57で光電変換され、これによって生じた電気信号がアンプ57aによって増幅され、増幅信号(以下、側方散乱光信号という)が制御部8に出力される。この側方散乱光信号は、血球の内部情報(核の大きさ等)を反映しており、制御部8がこの側方散乱光信号を信号処理することによって、血球の核の大きさ等を得るようになっている。また、ダイクロイックミラー56から発せられた側方蛍光成分は光学フィルタ58aによって波長選択された後、アバランシェフォトダイオード58で光電変換され、これによって生じた電気信号がアンプ58bによって増幅され、増幅信号(側方蛍光信号)が制御部8に出力される。この側方蛍光信号は、血球の染色度合いに関する情報を反映しており、この側方蛍光信号を信号処理することによって、血球の染色性等を得るようになっている。
【0032】
RBC検出部6は、赤血球数及び血小板数を、シースフローDC検出法により測定することが可能である。このRBC検出部6は、フローセルを有しており、このフローセルに上述したチャンバ22から試料が供給されるようになっている。赤血球及び血小板の測定を行う場合には、チャンバ22では血液に希釈液を混合した試料が調製される。かかる試料がシース液とともに試料供給部4からフローセルに供給され、フローセル中ではシース液によって試料が取り囲まれた液流が形成される。また、フローセル中の流路の途中には電極を有するアパーチャが設けられており、試料中の血球が一つずつ当該アパーチャを通過するときのアパーチャにおける直流抵抗を検出し、この電気信号を制御部8へ出力するようになっている。前記直流抵抗は、アパーチャを血球が通過するときに増大するため、この電気信号はアパーチャの血球の通過情報を反映しており、この電気信号を信号処理することによって、赤血球及び血小板を計数するようになっている。
【0033】
HGB検出部7は、血色素量を、SLSヘモグロビン法によって測定することが可能である。HGB検出部7は、希釈試料を収容するセルが設けられており、このセルにチャンバ22から試料が供給されるようになっている。ヘモグロビンの測定を行う場合には、チャンバ22では血液に希釈液と溶血剤とを混合した試料が調製される。この溶血剤は、血液中のヘモグロビンをSLS−ヘモグロビンへと転化する性質を有している。また、セルを間に挟んで発光ダイオードとフォトダイオードとが対向配置されており、発光ダイオードからの光がフォトダイオードで受けられる。発光ダイオードは、SLS−ヘモグロビンによる吸光率が高い波長の光を発するようになっており、また、セルは透光性の高いプラスチック材料で構成されている。これにより、フォトダイオードでは、発光ダイオードの発光が概ね希釈試料によってのみ吸光された透過光が受光されることとなる。フォトダイオードは、受光量(吸光度)に応じた電気信号を制御部8へと出力するようになっており、制御部8では、この吸光度と予め測定された希釈液のみの吸光度とを比較し、ヘモグロビン値を算出するようになっている。
【0034】
制御部8は、以上のようにしてWBC検出部5、RBC検出部6、HGB検出部7から電気信号を受信し、血球の大きさ、血球の核の大きさ、血球の染色性、赤血球数、血小板数、ヘモグロビン値等を表す測定データを得るようになっている。図5に示すように、制御部8は、信号処理回路8a及び制御回路8bを備えており、信号処理回路8aにより、WBC検出部5の出力信号(側方蛍光信号、前方散乱光信号、側方散乱光信号)、RBC検出部6の出力信号、HGB検出部7の出力信号をそれぞれ信号処理して測定データを取得し、制御回路8bにより測定データをデータ処理ユニット3へと送信する。
【0035】
データ処理ユニット3は、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、通信インタフェース、キーボード及びマウス等の入力部、及びディスプレイ装置を備えるコンピュータによって構成されている。通信インタフェースは、例えばRS-232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、測定ユニット2との間でデータの送受信を行うことが可能である。また、データ処理ユニット3のハードディスクには、オペレーティングシステムと、測定ユニット2から受信した測定データを分析処理するためのアプリケーションプログラムがインストールされている。このアプリケーションプログラムをCPUで実行することにより、データ処理ユニット3では、測定データを分析処理し、白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、血色素量(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球血色素量(MCH)、平均赤血球血色素濃度(MCHC)、血小板数(PLT)を算出し、また前方散乱光信号、側方散乱光信号、側方蛍光信号を用いてスキャッタグラムを作成して、白血球を好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球に分類するようになっている。
【0036】
図9は、本実施の形態に係る血液分析装置を用いて作成したスキャッタグラムである。図9において、縦軸は側方蛍光の強度(受光レベル)を示しており、横軸は側方散乱光の強度(受光レベル)を示している。なお、本実験では、同一の正常な血液試料を用いて測定を行った。本実施の形態に係る血液分析装置1は、上述したように白血球を一度に好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球の5つに分類する構成であり、図9に示す通り、この血液分析装置1によって作成されたスキャッタグラムでは、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球のそれぞれのクラスタが明確に形成されており、白血球が高精度に分類されていることがわかる。
【0037】
ここで、制御部8の信号処理回路8aの構成について更に詳しく説明する。図10は、図5に示す信号処理回路8aの概略構成を示すブロック図である。図10に示すように、信号処理回路8aは、アンプ81a〜81cと、信号処理フィルタ82a〜82cと、AD変換器83a〜83cとを備えている。信号処理フィルタ82a〜82cは、高周波ノイズを低減するローパスフィルタ(ハイカットフィルタ)84a〜84cと、信号のベースラインの揺らぎを低減するハイパスフィルタ85a〜85cと、信号のベースラインを所定のレベルに調整するベースライン調整部86a〜86cとを備えている。アンプ81a、信号処理フィルタ82a、及びAD変換器83aによって、WBC検出部5から出力された側方蛍光信号が処理され、アンプ81b、信号処理フィルタ82b、及びAD変換器83bによって、WBC検出部5から出力された前方散乱光信号が処理され、またアンプ81c、信号処理フィルタ82c、及びAD変換器83cによって、WBC検出部5から出力された側方散乱光信号が処理される。なお、図10には、説明を簡単にするためにWBC検出部5からの出力信号を処理する回路のみを示しているが、信号処理回路8aには、RBC検出部6及びHGB検出部の出力信号を処理する回路も設けられている。
【0038】
アンプ81a〜81cのゲインは、測定モード(白血球分類モード、網状赤血球測定モード等)によって設定値が切り替えられる。このゲイン調整は、適切にゲイン調整された場合におけるスキャッタグラム上の出現位置が予め知られている標準粒子(例えば、コントロール血液、キャリブレータ)を測定したときに、前記出現位置に標準粒子が出現するようにゲインを調整することによって行われる。また、ローパスフィルタ84a〜84cは、側方蛍光信号、前方散乱光信号、及び側方散乱光信号のノイズを効率的に減衰するように適切な高域カットオフ周波数が設定されている。例えば、ローパスフィルタ84aの高域カットオフ周波数は次式(5)により与えられる周波数Y以下に設定されている。
Y=10.482EXP(−0.018C)+1.3 …(5)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【0039】
これは、以下のような本願発明者らの知見による。図11は、側方蛍光信号の増幅信号の分析に使用する範囲を説明する模式図である。図11に示すように、本実施の形態に係る血液分析装置1では、AD変換器83aのフルスケール入力電圧が4Vとされており、分解能が8bitとされている。また、上述した白血球分類用のスキャッタグラムの縦軸の解像度は250であり、AD変換器83aの出力により得られる256段階のデータのうち上位6段階を除いている。すなわち、データ処理ユニット3の分析においてアンプ81aの出力電圧を使用している範囲は、250×4000/256=3906.25mVとなっている。本願発明者らは、上記条件の場合においてローパスフィルタ84aの高域カットオフ周波数を複数設定して実験を行い、ローパスフィルタ84aにおけるノイズ低減後の信号に含まれるノイズの最大許容レベルをどの程度に設定すれば良好な分析結果が得られるかを調査した。図12〜図21は、それぞれノイズの最大許容レベルを80mVp−p、100mVp−p、150mVp−p、200mVp−p、250mVp−p、300mVp−p、400mVp−p、500mVp−p、600mVp−p、及び700mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。図12〜図21中、実線の閉じた領域は、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球の出現領域をそれぞれ示している。ノイズのレベルが300mVp−pにおいては、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球を出現領域に重なりが少なく、この程度のノイズレベルであれば白血球を5つの種類に良好に分類することが可能であることがわかる。つまり、データ処理ユニット3の分析においてアンプ81aの出力電圧(増幅電圧)を使用している範囲(3906.25mV)に対して、増幅電圧に含まれるノイズの最大許容レベルが約8%(100×300/3906.25=7.68%)以下であれば極めて良好に分析することが可能である。
【0040】
一方、最大許容ノイズレベルが600mVp−p以上の場合には、図20及び図21に示すように、リンパ球の出現領域がゴーストの出現領域と重なっているが、500mVp−pの場合には、図19に示すように、リンパ球の出現領域とゴーストの出現領域とが重なっていない。ストマトライザー4DSやストマトライザー4DLのような溶血能力があまり高くない溶血剤では、白血球を適度に損傷させて白血球の形態を保持しつつ高い染色性を確保することができる一方で、赤血球の溶解の程度が低いため、側方散乱光だけではゴーストの出現領域とリンパ球の出現領域とが重なっていてこれらを良好に弁別することができない。このように、白血球の分類においては、かかるリンパ球とゴーストとの弁別を正確に行うことが特に重要であり、側方蛍光強度を用いて両者を高精度に弁別するためには、側方蛍光強度におけるそれぞれの出現位置が重なっていないことが望ましい。このような観点から、最大許容ノイズレベルが500mVp−p以下の場合には、上述のようにリンパ球とゴーストの出現位置が重なっておらず、両者を良好に弁別することができ、この結果白血球を良好に分類することができる。また、好塩基球は通常白血球全体の1%以下と個数が少なく、好中球、リンパ球、単球、及び好酸球に4分類することができれば十分に実用的であることから、好塩基球の分画を行わない場合もある。さらに、上記の白血球4分類を行うとともに、好塩基球を単独で測定し、両者を併せて5分類することもある。この点においても、図19に示すように、500mVp−p以下のノイズレベルであれば好中球、リンパ球、単球、及び好酸球の出現領域に重なりが少なく、良好に白血球を4分類することができることがわかる。したがって、データ処理ユニット3の分析における増幅電圧の使用範囲に対して、増幅電圧に含まれるノイズの最大許容レベルが約13%(100×500/3906.25=12.8%)以下であっても良好に分析することが可能であることがわかる。
【0041】
アバランシェフォトダイオードは、その受光面が大きくなるほど端子間容量が大きくなり、そのため出力信号のS/N比が低くなるという特性を有する。したがって、アバランシェフォトダイオードの受光面が大きくなるほど側方蛍光信号に含まれるノイズ成分が大きくなり、ローパスフィルタ84aの高域カットオフ周波数を低く設定する必要がある。すなわち、同一のノイズの最大許容レベルに対応する高域カットオフ周波数は、アバランシェフォトダイオードの端子間容量に応じて変化するということになる。
【0042】
図22及び図23は、ノイズの最大許容レベルが300mVp−p及び500mVp−pのときのアバランシェフォトダイオード端子間容量とローパスフィルタ84aの高域カットオフ周波数との関係をそれぞれ示すグラフである。実験の結果、図23に示すように、端子間容量が0pFのときにおけるノイズ最大許容レベル300mVp−pに対応する高域カットオフ周波数は10.28MHzであった。同様に、ノイズの最大許容レベルを300mVp−pとする場合においては、端子間容量が1pF、3pF、5pF、10pF、18pF、36pF、56pF、120pF、240pF、470pFのときに、それぞれ高域カットオフ周波数が10.11MHz、9.6MHz、9.14MHz、7.97MHz、6.62MHz、5.19MHz、4.18MHz、2.22MHz、1.55MHz、1.35MHz、0.87MHzとなった。そして、ノイズの最大許容レベルが300mVp−pのときの端子間容量と限界周波数との関係の近似式を求めると上記の(5)式のようになった。図23中では(5)式の曲線を実線で表している。一方、図24に示すように、ノイズの最大許容レベルを500mVp−pに設定する場合には、端子間容量が0pF、1pF、3pF、5pF、10pF、18pF、36pF、56pF、120pF、240pF、470pFのときに、それぞれ高域カットオフ周波数が18.86MHz、18.62MHz、16.94MHz、16.35MHz、13.47MHz、10.48MHz、8.09MHz、6.32MHz、3.46MHz、2.47MHz、2.18MHz、1.52MHzとなった。そして、ノイズの最大許容レベルが500mVp−pのときの端子間容量と限界周波数との関係の近似式は(6)式のようになった。なお、図24中では(6)式の曲線を実線で表している。
Y=17.289EXP(−0.022C)+2 …(6)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【0043】
したがって、本実施の形態においては、高域カットオフ周波数を(5)式で与えられる周波数Y以下に設定し、ローパスフィルタ84aによるノイズ低減後の信号に含まれるノイズレベルを300mVp−p以下としたが、これに限定されるものではなく、高域カットオフ周波数を(6)式で与えられる周波数Y以下に設定し、ノイズレベルを500mVp−p以下としてもよく、この場合にも良好な分析結果を得ることができる。特に、白血球を4分類する場合には、上記ノイズレベルを500mVp−p以下としても十分な分析精度を得ることができる。
【0044】
上述したように、アバランシェフォトダイオード58の端子間容量を小さくするほど、出力信号に含まれるノイズを小さくすることができる。また、半導体レーザ光源52から発する光の強度を高めることによってもS/N比は改善されるものの、アバランシェフォトダイオード58の受光面(すなわち端子間容量)を小さくした場合に比べてその効果は低く、また出力光のレベルを高めるとエネルギー消費が増大することから消費電力量の観点からも好ましくない。このため、アバランシェフォトダイオード58の受光面を可及的に小さくすることが重要である。その一方で、アバランシェフォトダイオード58の受光面を過剰に小さくすると、側方集光レンズ55によりアバランシェフォトダイオード58の受光面に投影された粒子の像よりも当該受光面が小さくなる場合があり、粒子に関する情報を正確に反映した側方蛍光信号を得ることができなくなる。また、側方集光レンズ55の倍率を小さくして受光面よりも粒子の像を小さくすることも考えられるが、受光面が小さすぎると光軸との位置調整が困難となり、高い組立精度が要求され、製造コストの増大を招く。このため、アバランシェフォトダイオードの出力信号のノイズレベル、光学レンズの製造コスト、WBC検出部5の組立精度等を勘案し、本実施の形態においては、直径1.5mmの円形の受光面を有するアバランシェフォトダイオード58を使用した。また、このアバランシェフォトダイオード58の端子間容量は8.4pFであった。また本実施の形態においては、ローパスフィルタ84aの高域カットオフ周波数を2.3MHzとした。
【0045】
なお、本実施の形態においては、アバランシェフォトダイオード58の受光面の形状を直径が1.5mmの円形としたが、これに限るものではなく、例えば、直径が0.1mm〜2mmの円形であってもよく、また一辺の長さが0.1〜2mmの正方形としてもよいし、同程度の面積を有する長方形その他の形状としてもよい。
【0046】
また、本実施の形態においては、測定ユニット2とデータ処理ユニット3とを別個に設け、これらによって血液分析装置1が構成される場合について述べたが、これに限定されるものではなく、測定ユニット2の機能とデータ処理ユニット3の機能との両方を有する一体型の血液分析装置としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る血液分析装置及びフローサイトメータは、アバランシェフォトダイオードにより多くの光を集めることができ、アバランシェフォトダイオードの性能を十分に発揮し、高精度に試料の分析を行うことが可能となるという効果を奏し、粒子を含む試料を分析する血液分析装置及び当該血液分析装置に使用されるフローサイトメータとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る血液分析装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る血液分析装置が備える測定ユニットの外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る血液分析装置が備える測定ユニットの内部構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る血液分析装置が備える測定ユニットの内部構造を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る血液分析装置が備える測定ユニットの構成を示すブロック図である。
【図6】測定ユニットに設けられた試料供給部の構成を示す流体回路図である。
【図7】測定ユニットが備えるフローセルの構成を模式的に示す斜視図である。
【図8】測定ユニットが備えるフローサイトメータの構成を模式的に示す概略平面図である。
【図9】本実施の形態に係る血液分析装置を用いて作成したスキャッタグラムである。
【0049】
【図10】図5に示す信号処理回路の概略構成を示すブロック図である。
【図11】側方蛍光信号の増幅信号の分析に使用する範囲を説明する模式図である。
【図12】ノイズの最大許容レベルを80mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図13】ノイズの最大許容レベルを100mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図14】ノイズの最大許容レベルを150mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図15】ノイズの最大許容レベルを200mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図16】ノイズの最大許容レベルを250mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図17】ノイズの最大許容レベルを300mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図18】ノイズの最大許容レベルを400mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図19】ノイズの最大許容レベルを500mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図20】ノイズの最大許容レベルを600mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図21】ノイズの最大許容レベルを700mVp−pに設定したときに得られたスキャッタグラムである。
【図22】ノイズの最大許容レベルが300mVp−pのときのアバランシェフォトダイオード端子間容量とAD変換器の高域カットオフ周波数との関係を示すグラフである。
【図23】ノイズの最大許容レベルが500mVp−pのときのアバランシェフォトダイオード端子間容量とAD変換器の高域カットオフ周波数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 血液分析装置
2 測定ユニット
2a 採血管セット部
2b ボタンスイッチ
3 データ処理ユニット
3a データ伝送ケーブル
4 試料供給部
5 WBC検出部
6 RBC検出部
7 HGB検出部
8 制御部
8a 信号処理回路
8b 制御回路
9 通信部
20 採血管
20a キャップ
21 ピペット
22,23 チャンバ
24 シース液チャンバ
51 フローセル
51a オリフィス
51b 試料ノズル
51c 流路
52 半導体レーザ光源
53 照射レンズ系
54a ビームストッパ
54 フォトダイオード
54b,57a,58b アンプ
55 側方集光レンズ
56 ダイクロイックミラー
57 フォトダイオード
58 アバランシェフォトダイオード
58a 光学フィルタ
81a〜81c アンプ
82a〜82c 信号処理フィルタ
83a〜83c AD変換器
84a〜84c ローパスフィルタ
85a〜85c ハイパスフィルタ
86a〜86c ベースライン調整部
DP4,DP5,DP6 ダイヤフラムポンプ
EPK シース液容器
FFD,FFS 試薬容器
M2 ステッピングモータ
P1,P2,P3,P4,P5 流体通流路
SV1,SV3,SV4,SV19,SV20,SV29,SV31,SV33,SV40,SV41 電磁弁
SP2 シリンジポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料に溶血剤と染色試薬とを添加する血液試料調製部と、
溶血剤と染色試薬とが添加された血液試料の液流を形成するフローセルと、当該フローセルに光を照射する光源と、前記液流から生じる散乱光を検出する散乱光検出部と、前記液流から生じる蛍光を検出する蛍光検出部とを備える光検出部と、
前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号を処理する信号処理部と、
処理された前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の血球を分析する分析部とを備え、
前記蛍光検出部は、アバランシェフォトダイオードにより構成されており、
前記信号処理部は、前記アバランシェフォトダイオードの出力信号の増幅信号に含まれる高周波ノイズを低減するノイズ低減部を備え、
前記分析部は、高周波ノイズが低減された前記増幅信号及び前記散乱光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の白血球を分類するように構成されている血液分析装置。
【請求項2】
前記分析部は、血液試料中の白血球を少なくとも4つに分類するように構成されている請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記分析部は、血液試料中の白血球を、好中球、リンパ球、単球、及び好酸球に分類するように構成されている請求項2に記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記分析部は、血液試料中の白血球を、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球に分類するように構成されている請求項2に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記ノイズ低減部は、前記増幅信号に含まれるノイズを、分析部における前記増幅信号の信号レベルの使用範囲に対して13%以下に減衰させるように構成されている請求項1乃至4のいずれかに記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記ノイズ低減部は、前記増幅信号に含まれるノイズを、分析部における前記増幅信号の信号レベルの使用範囲に対して8%以下に減衰させるように構成されている請求項5に記載の血液分析装置。
【請求項7】
血液試料に染色試薬を添加して染色する血液試料調製部と、
染色された血液試料の液流を形成するフローセルと、当該フローセルに光を照射する光源と、前記液流から生じる散乱光を検出する散乱光検出部と、前記液流から生じる蛍光を検出する蛍光検出部とを備える光検出部と、
前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号を処理する信号処理部と、
処理された前記散乱光検出部及び前記蛍光検出部の検出信号に基づいて、血液試料中の血球を分析する分析部とを備え、
前記蛍光検出部は、アバランシェフォトダイオードにより構成されており、
前記信号処理部は、前記増幅信号の高周波成分を減衰させるハイカットフィルタを備えており、
前記ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数が、式(1)により与えられる周波数Y以下とされている血液分析装置。
Y=17.289EXP(−0.022C)+2 …(1)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【請求項8】
前記ハイカットフィルタの高域カットオフ周波数が、式(2)により与えられる周波数Y以下とされている請求項7に記載の血液分析装置。
Y=10.482EXP(−0.018C)+1.3 …(2)
C:アバランシェフォトダイオードの端子間容量
【請求項9】
前記アバランシェフォトダイオードの受光面は、直径が0.1mm以上2mm以下の円形に構成されている請求項1乃至8の何れかに記載の血液分析装置。
【請求項10】
前記アバランシェフォトダイオードの受光面は、一辺の長さが0.1mm以上2mm以下の四角形に構成されている請求項1乃至8の何れかに記載の血液分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−139438(P2007−139438A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329919(P2005−329919)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】