説明

血液成分分析装置および血液成分分析装置用の受光回路

【課題】太陽光下など明るい場所においても成分分析が可能となる血液成分分析装置を提供する。
【解決手段】
血液成分分析装置は、血液が付着した試験片に向けてパルス光の反射光を受光して電気信号に変換する受光素子150およびIV変換回路161と、電気信号を濾波することによって電気信号の交流成分を抑制した濾波後の信号を生成するローパスフィルタ回路162と、濾波前の電気信号と濾波後の信号とを差動増幅して外乱光の影響を軽減した出力信号を得る差動増幅回路163と有し、出力信号の信号レベルに基いて血液に含まれる成分の量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分分析装置および血液成分分析装置用の受光回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血糖測定装置など血液成分分析装置の小型化および軽量化に伴って屋外で成分分析をする機会が増加している。しかし、光学式の血液成分分析装置においては、屋外での成分分析は外乱光による影響を受ける場合がある。光学的に血糖を測定する血糖測定装置を例にとると、屋外で血糖を測定する際、太陽光などの外乱光の影響により測定誤差が生じる場合がある。外乱光による測定誤差を軽減する技術としては、下記の特許文献1の光学測定装置が知られている。特許文献1の光学測定装置では、血糖値を算出する段階において、発光素子の点灯時の受光量から発光素子の消灯時の受光量を差し引くことにより、外乱光の影響による測定誤差を軽減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−232662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外乱光が強い場合では、発光素子の点灯時の受光量から発光素子の消灯時の受光量を差し引く前の段階において、受光量に対応する電気信号を増幅する際に既に電気信号が検出限界電圧まで飽和してしまうおそれがある。このように、電気信号が飽和してしまった場合には、上記先行技術のように発光素子の点灯時の受光量から発光素子の消灯時の受光量を差し引くだけでは、血糖を正確に測定することが難しい。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためのなされたものである。したがって、本発明の目的は、外乱光が強い場合でも、受光量に対応する電気信号が検出限界電圧まで飽和することを防止する血液成分分析装置を提供することである。
【0006】
また、本発明の他の目的は、上記血液成分分析装置用の受光回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
本発明の血液成分分析装置は、血液に含まれる成分と反応した試薬の色の変化に基づいて前記成分を分析する血液成分分析装置であって、前記血液が付着した試験片に向けてパルス光を発光する発光手段と、前記パルス光が前記試験片で反射された反射光を受光して電気信号に変換する受光手段と、前記電気信号を濾波することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成するフィルタリング手段と、前記フィルタリング手段による濾波前の電気信号と前記濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る差動増幅手段と、前記パルス光の消灯中と発光中での前記出力信号の信号レベルに基いて前記成分の量を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の受光回路は、血液成分分析装置用の受光回路であって、パルス光を受光して電気信号に変換する受光手段と、前記電気信号を濾波することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成するフィルタリング手段と、前記フィルタリング手段による濾波前の電気信号と前記濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る差動増幅手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外乱光が強い場合でも、受光量に対応する電気信号が検出限界電圧まで飽和することを防止するので、外乱光による影響を低減することができ、太陽光下など明るい場所においても成分分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態における血液成分分析装置を説明するためのブロック図である。
【図2】図1に示す受光処理回路を説明するためのブロック図である。
【図3】図2に示される受光処理部160の回路の一例を示す図である。
【図4】図2および図3に示す受光処理部の動作を説明するための波形図である。
【図5】図2に示す受光処理部に対する比較例を示す図である。
【図6】図2に示される受光処理部の回路の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照して本発明の血液成分分析装置およびその受光回路の実施の形態を説明する。なお、図中、同一の部材には同一の符号を用いる。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態における血液成分分析装置を説明するためのブロック図である。本実施の形態の血液成分分析装置は、受光量に対応する電気信号をローパスフィルタで濾波させることによって外乱光による電圧上昇分を抽出する。そして、この電圧上昇分を電気信号から差し引くように差動増幅することにより、電気信号が検出限界電圧まで飽和することを防止するものである。なお、以下では本実施の血液成分分析装置の主要部について説明し、従来の血液成分分析装置と同様の部分については説明を省略する。
【0014】
本実施の形態では、血液に含まれるグルコースと反応した試薬の色の変化に基づいて血糖値を測定する比色式血糖測定装置を例示して説明する。比色式血糖測定装置では、血液が付着した試験紙(試験片)に光を照射し、試験紙からの反射光を受光して血液と反応した試薬の色の変化に基づいて血液に含まれる成分を分析する。試験紙には、血液中のグルコースに反応して発色する試薬が含まれており、グルコース濃度が濃くなるほど試験紙の発色が濃くなる。この発色濃度の違いにより受光量が変化することを利用して血糖値を測定する。
【0015】
図1に示すとおり、本実施の形態の血液成分分析装置(比色式血糖測定装置)100は、演算制御部110、装着部120、発光素子130、発光駆動部140、受光素子150、受光処理部160、操作部180、表示部190を有する。なお、受光素子150と受光処理部160とを合わせて、受光回路170を構成する。以下、図1に示す各構成要素を順に説明する。
【0016】
演算制御部110は、血液成分分析装置100の全体制御および血糖値の算出を実行するものである。より具体的には、演算制御部110は、たとえばCPU、メモリ、通信回路などを含む周辺回路を備えており、操作部180、発光駆動部140、受光処理部160、および表示部190と電気的に接続されている。演算制御部110は、操作部180を介して入力される、操作者からの指示に応じて血液成分分析装置100を起動し、所定の手順にしたがって測定処理を実行する。
【0017】
血液成分分析装置100の起動手順および測定処理手順は、ROMなどの不揮発性メモリにプログラムとして予め記憶されており、CPUはプログラムを逐次的に実行する。演算制御部110は、血液成分分析装置100を起動したのち、発光駆動部140に対して所定のパルス信号を出力するように指示するとともに、受光処理部160で処理された信号を受光量データとしてRAMなどの揮発性メモリに格納するように指示する。
【0018】
受光処理部160で処理されて出力された信号(以下、「出力信号」という)は、たとえば、演算制御部110に設けられたサンプルホールド回路(不図示)により所定のタイミングでサンプリングされ、A/Dコンバータを介してディジタル値の受光量データに変換されてメモリに格納される。そして、演算制御部110は、格納された受光量データに基いて血糖値を算出して表示部190に出力する。
【0019】
上記の出力信号のサンプリングのタイミングは、演算制御部110によって制御される。具体的には、サンプリングのタイミングは、発光素子130を発光させるタイミングと関連付けて決定される。より具体的には、演算制御部110は、発光素子130がパルス光を発光する直前の第1タイミングと、パルス光を発光中の第2タイミングとで、上記の出力信号のサンプリングをする。第2タイミングは、第1タイミングから所定時間経過後に設定することもできる。そして、演算制御部110は、第2タイミングでの出力信号の信号レベルと、第1タイミングでの出力信号の信号レベルとの差を受光量データとして格納し、血液成分量の算出に用いる。つまり、パルス光の消灯中と発光中での出力信号の信号レベルに基いて血液成分量を算出するといえる。より具体的には、演算制御部110は、第2タイミングでの出力信号の信号レベルから第1タイミングでの出力信号の信号レベルを差し引いた値に基いて血糖値を算出する。
【0020】
本実施の形態では、試験紙121に血液を付着させる前後における試験紙121の吸光度に基づいて血糖値を算出する。血液を付着させる前の試験紙121は、白色に近い色であるため吸光度は小さい値を示す一方で、血液を付着させた後の試験紙121は、血液成分と試薬との反応が進行するにつれて発色して吸光度が増大する。このため、血液を付着させた後の吸光度としては、血液成分と試薬との反応が完結した状態に近づき吸光度の増加率が所定値以内となったときの吸光度を採用することが望ましい。演算制御部110は、算出手段として、メモリに格納された受光量データを利用して試験紙121に血液を付着させる前後における試験紙121の吸光度を算出したのち、吸光度とグルコース濃度との対応関係を利用して血糖値を算出する。吸光度とグルコース濃度との対応関係は、ルックアップテーブルとして予めROMなどの不揮発性メモリに記憶されているか、あるいは吸光度とグルコース濃度との関係式から計算される。
【0021】
なお、試験紙121は、装着部120によって保持される。たとえば、装着部120は、血液成分分析装置100の筺体(不図示)に取り付けられている。これにより試験紙121と、発光素子130および受光素子150との位置関係が定まる。
【0022】
発光素子130は、試験紙121に向けて所定の間隔でパルス光を発光する素子である。発光素子130は、その発光面が試験紙121の方向を向くように血液成分分析装置100の筺体に取り付けられている。発光素子130からの照射光は、図示されていないレンズによってスポット状に集光されて試験紙121を照射する。発光素子130は、たとえば、500〜720nm程度の波長の範囲内で発光する発光ダイオード(LED)である。
【0023】
発光駆動部140は、発光素子130にパルス信号を供給する駆動回路である。より具体的には、発光駆動部140は、演算制御部110の指示に基づいて発光素子130に所定のパルス幅、強度、および周期を有するパルス信号を供給する。発光素子130は、供給されたパルス信号に応じてこのパルス幅の期間だけ点灯し、次のパルス信号の立ち上がりまで消灯することを繰り返す。パルス幅は、概ね10〜1000μsの範囲内であり、好適には100μs程度である。また、周期は1ms〜10ms程度であり、好適には2ms程度である。なお、パルス幅、強度、および周期は、他の構成要素の設計条件に応じて適宜変更されうる。
【0024】
受光素子150は、受光手段として、パルス光が試験紙121で反射された反射光を受光して電流信号(光電流)に変換する素子である。受光素子150は、その受光面が試験紙121の方向に向くように血液成分分析装置100の筺体に取り付けられる。受光素子150は、たとえば、フォトダイオード(PD)である。屋外で血液成分分析装置を作動させる場合、受光素子150には、パルス光が試験紙121で反射された反射光の他に太陽光などの外乱光も入射する可能性がある。一般に太陽光などの外乱光は、時間的に変動の小さい定常的な光であるので、100Hz以下の低周波外乱光である。特に、太陽光は、時間的に変動の小さい光であり、その受光量の周波数が概ね0Hzである。そのため、受光素子150は、パルス光が試験紙121で反射された反射光の成分が外乱光による直流成分によってバイアスされた電流信号を生成する。
【0025】
受光処理部160は、受光素子150で変換された電気信号を信号処理する回路である。より具体的には、受光処理部160は、受光素子150で変換された電気信号をローパスフィルタに通して、交流成分を抑制した信号を生成する。ここで、交流成分を抑制した信号は、太陽光などの外乱光による電圧上昇分として抽出されることになる。次いで、この電圧上昇分を電気信号から差し引くように差動増幅して出力信号を得る。受光処理部160の詳細については後述する。受光素子150と受光処理部160とを合わせて、受光回路170を構成する。
【0026】
操作部180は、操作者からの指示を演算制御部110に伝達する。操作部180は、たとえば押しボタンスイッチを有しており、血液成分分析装置100の筐体に取り付けられる。操作者は、操作部180を介して血液成分分析装置100の起動・停止、測定結果の表示などの指示をする。
【0027】
表示部190は、演算制御部110で算出された血糖値を表示する。表示部190は、たとえば液晶表示パネルを有し、血液成分分析装置100の筐体に取り付けられる。
【0028】
以上のとおり構成される血液成分分析装置は、血液が付着した試験紙に向けて発光素子130がパルス光を発光し、パルス光が試験紙121で反射された反射光を、受光素子150が受光して電気信号に変換する。受光処理部160は、電気信号を濾波(フィルタリング)することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成する。そして、受光処理部160は、フィルタリング手段による濾波前の電気信号と濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る。次いで、演算制御部110は、パルス光の消灯中と発光中での出力信号の信号レベルに基いて血液成分量を算出する。
【0029】
次に、図1に示される受光処理部について、より詳しく説明する。図2は、図1に示される受光処理部の構成を説明するブロック図である。
【0030】
図2に示すとおり、本実施の形態における血液成分分析装置100の受光処理部160は、I/V変換回路(電流電圧変換回路)161、ローパスフィルタ回路162、差動増幅回路163を有する。以下、図2に示す受光処理部160の構成要素を順に説明する。
【0031】
I/V変換回路161は、受光素子150によって受光量に応じて生成された電流信号(光電流)を電流電圧変換して電圧信号に変換する。この電圧信号が、ローパスフィルタ回路162および差動増幅回路163によって処理される電気信号となる。なお、受光素子150が受光量に応じた光電流ではなく光電圧を出力する電圧出力型の素子の場合には、I/V変換回路161は省略できる。
【0032】
ローパスフィルタ回路162は、上記の電気信号(I/V変換回路161からの電圧信号)を濾波することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成するフィルタリング手段である。ローパスフィルタ回路162の入力端は、I/V変換回路161の出力端に接続される。ここで、濾波後の電気信号は、直流あるいは低周波数の外乱光による電圧上昇分に対応する。つまり、ローパスフィルタ回路162は、外乱光による電圧上昇分を抽出するものである。ローパスフィルタ回路162が遮断する周波数帯域は、ローパスフィルタの高域遮断周波数で決定される。高域遮断周波数よりも高い信号成分はローパスフィルタ回路162により大幅に抑制され、高域遮断周波数より低い低周波成分、好適には直流成分がローパスフィルタ回路162から出力される。ローパスフィルタ回路162の高域遮断周波数は、他の構成要素の設計条件に応じて、数Hz〜1kHzの間で設定することができ、より好適には、300Hz以下、さらに好ましくは100Hz以下に設定される。
【0033】
差動増幅回路163は、ローパスフィルタ回路162による濾波前の電気信号と同回路162による濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る差動増幅手段である。つまり、直流あるいは低周波数の外乱光による電圧上昇分を電気信号から差し引くように差動増幅することにより、電気信号が検出限界電圧まで飽和することを防止するものである。差動増幅回路163の第1の入力端には、IV変換回路161の出力端が電気的に接続されており、第2の入力端には、ローパスフィルタ回路162の出力端が電気的に接続されている。差動増幅回路163は、第1および第2入力端にかかる電圧の差分を所定の増幅率で増幅した出力電圧を出力端に出力する。
【0034】
図3は、図2に示される受光処理部160の回路の一例を示す。
【0035】
I/V変換回路161は、オペアンプOP1と、帰還抵抗R1とを含む。帰還抵抗R1は、オペアンプOP1の第1入力端と出力端との間に接続されている。オペアンプOP1の第2入力端は、アースなどに接続されている。オペアンプOP1の第1入力端には、受光素子150であるフォトダイオードの一端が接続されている。
【0036】
ローパスフィルタ回路162は、互いに電気的に接続された抵抗R2とコンデンサC1とを有する。抵抗R2の両端のうち、コンデンサC1と接続されていない側の端部が、ローパスフィルタ回路162の入力端となり、コンデンサC1と接続されている側の端部が、ローパスフィルタ回路162の出力端となる。なお、コンデンサC1の両端のうち、抵抗R2と接続されていない側の端部は、アースなどに接続されている。
【0037】
差動増幅回路163は、オペアンプOP2と、抵抗R3、R4、R5、R6とを含む。帰還抵抗R3は、オペアンプOP2の第1入力端と出力端との間に電気的に接続されている。抵抗R4、R6は、それぞれオペアンプOP2の第1入力端および第2入力端に接続される入力抵抗である。抵抗R4、抵抗R6の各端部が、差動増幅回路163の第1入力端子および第2入力端子となる。なお、オペアンプOP2の第2入力端は、抵抗R5を介してアースなどに接続されている。
【0038】
差動増幅回路163の第1入力端子である抵抗R4には、I/V変換回路161の出力端であるオペアンプOP1の出力端が電気的に接続されている。一方、差動増幅回路163の第2入力端子である抵抗R6には、ローパスフィルタ回路162の出力端が電気的に接続されている。つまり、第1入力端子には、ローパスフィルタ回路(フィルタリング手段)162による濾波前の電気信号Vin1が入力され、第2入力端子には、濾波後の電気信号Vin2が入力される。ここで、オペアンプの各入力端の電圧をV(−)、V(+)とし、出力端の電圧をVoutとすると、以下のとおりの関係が導かれる。
【0039】
V(+)=(R5/(R6+R5))*Vin2
V(−)=(R3/(R3+R4))*(Vout−Vin1)+Vin1
ここで、V(+)=V(−)から、この差動増幅回路163の増幅率が求められる。なお、R3=R5、R4=R6であるとすると、Vout=(R3/R4)(Vin1−Vin2)となる。
【0040】
したがって、ローパスフィルタ回路162によって、外乱光による電圧上昇分に相当する濾波後の電気信号Vin2を抽出し、差動増幅回路163によって、電気信号Vin2を、濾波前の電気信号Vin1から差し引くように、所定の増幅率で差動増幅がされる。
【0041】
以上のように構成される受光処理部160の作用について説明する。図4は、図2および図3に示す受光処理部の動作を説明するための波形図である。また、本実施形態の受光処理部による直流成分の抑制効果について詳しく説明するために比較例と比較しつつ説明する。図5(A)は、図2に示す受光処理部に対する比較例としての受光処理部の構成を示すブロック図である。図5(B)は、図5(A)の増幅回路の出力信号の波形図である。
【0042】
図2および図3に示されるI/V変換回路161の出力端には、図4(A)に示されるように、パルス光が試験紙で反射された反射光の成分が外乱光による直流または低周波成分によって基準電圧からバイアスされた電圧が出力される。基準電圧は受光素子150に光が照射されていない状態におけるI/V変換回路161の出力電圧である。
【0043】
ローパスフィルタ回路162は、I/V変換回路161の出力電圧である電気信号の入力を受ける。ローパスフィルタ回路162は、電気信号を濾波して、電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成する。具体的には、濾波後の電気信号は、直流あるいは低周波数の外乱光による電圧上昇分(バイアス相当分)に対応する。一般に太陽光などの外乱光は、時間的に変動の小さい定常的な光であるので、100Hz以下の低周波外乱光である。特に、太陽光は、時間的に変動の小さい光であり、その受光量の周波数が概ね0Hzである。したがって、ローパスフィルタ回路162は、図3に示すように、I/V変換回路161の出力信号から交流成分を除去し、直流成分、すなわち外乱光によるバイアス分を抽出した信号が出力される(図4(B))。
【0044】
次いで、差動増幅回路163は、ローパスフィルタ回路162による濾波前の電気信号と同回路162による濾波後の電気信号とを差動増幅する。つまり、図4(A)の信号から図4(B)の信号を差し引いて増幅率を乗じた出力信号(図4(C))を生成する。このように、差動増幅によれば、図4(A)の信号から図4(B)の信号を差し引いた上で増幅することになるので、外乱光の影響を低減した出力信号が得られる。この結果、信号が増幅される際に検出限界電圧まで飽和することが防止される。
【0045】
以上のように本実施の形態では、この結果、信号が増幅される際に検出限界電圧まで飽和することが防止されるのに対し、本実施の形態に対する比較例としての受光処理部160’は、飽和を防止することが困難である。つまり、比較例としての受光処理部160’は、図5(A)に示すとおり、I/V変換回路161’および増幅回路163’を有しており、I/V変換回路161’は増幅回路163’に直接的に接続されている。受光処理回路160’では、I/V変換回路161’の電気信号との差動増幅をすることなく、I/V変換回路161’の電気信号を増幅するので、増幅回路163’の出力信号は、検出限界電圧まで飽和してしまう場合がある。たとえば、図5(B)に示すとおり、外乱光によるバイアス電圧が低いvb1の場合、増幅回路163’の出力信号は飽和しない。しかしながら、外乱光によるバイアス電圧が高いvb2の場合、増幅回路163’の出力信号は検出限界電圧まで飽和するので、破線で示す部分の信号が再現されない。
【0046】
したがって、比較例の場合には、図5(B)に示されるように、信号が再現されていない部分があるため、正確に血糖値を測定することが困難である。一方、本実施の形態では、図4(D)に示されるように、差動増幅回路163からの出力信号に対してパルス光の消灯中(サンプリングタイミングT1)と発光中(サンプリングタイミングT2)でサンプリングし、パルス光の消灯中と発光中でサンプリングした出力信号の差分に基いて正確に血糖値を測定することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、ローパスフィルタ回路162を用いて略直流成分の外乱光による電圧上昇分(バイアス相当分)を計算する一方、I/V変換回路161の電気信号をそのまま用いて、差動増幅回路163によって、I/V変換回路161の電気信号から電圧上昇分を差し引くので、バンドパスフィルタやハイパスフィルタなどを用いる場合と比べて、パルス波形の高周波成分に起因する波形の歪みが生じにくい。このように、パルス波形の高周波成分に起因する波形が歪まないので、サンプリングが容易である。つまり、波形が歪んで波形が尖っていると、ピークを捕えるのが難しく、回路のばらつきなどにより、サンプリングタイミングT2が変化した場合に測定値が大きく変動してしまう。これを防ぐためには、ピークホールド回路などが必要となるが、本実施の形態によれば、ピークホールド回路などが不要となる。特に、ピークホールド回路に必要なダイオードを省略することができるので、簡素化でき、1チップ化しやすくなる。
【0048】
以上のとおり、説明した本実施の形態の血液成分分析装置およびその受光回路は、以下の効果を奏する。
【0049】
本実施の形態の血液成分分析装置によれば、低周波または直流の外乱光による電圧上昇分をローパスフィルタ回路によって抽出して、この電圧上昇分を電気信号から差し引くように差動増幅するので、太陽光などの外乱光によるバイアスにより電気信号が検出限界電圧まで飽和することを防止することができる。
【0050】
本実施の形態の血液成分分析装置によれば、ローパスフィルタ回路を用いて低周波または直流の外乱光による電圧上昇分を出力して電気信号から差し引くことができるので、I/V変換回路の出力をアナログディジタルコンバータ(ADコンバータ)で取り込んで、プロセッサによって低周波または直流の外乱光による電圧上昇分を計算して、DAコンバータで出力して、電気信号から差し引くような処理に比べて構成を簡略化できる。
【0051】
差動増幅回路を用いることによって、差分を算出処理と増幅する処理とを統合的に一度に行うことができるので、回路の配置スペースを省略することができる。
【0052】
なお、以上のように本実施の形態の血液成分分析装置を説明したが、本発明の血液成分分析装置はこの場合に限られない。
【0053】
(変形例)
図6は、本実施の形態の血液成分分析装置における受光処理部の変形例を示す。本変形例において、受光処理部160は、マルチプレクサ111、A/Dコンバータ112、および演算制御部110と同じ1チップICとして構成されている。すなわち、ディジタル−アナログ回路混在のカスタムICとして構成されている。図6に示されるように、1チップIC200は、演算制御部(CPUなど)110を搭載しつつ複数のオペアンプOP1、OP2−1、OP2−2、OP2−3を有しており、外部端子にコンデンサC1、C2、抵抗R1、R2などを接続することにより、I/V変換回路161やローパスフィルタ回路162が構成できるようになっている。本実施の形態では、上記のように波形の歪みが生じにくく、ダイオードを含むピークホールド回路が不要となったため、1チップ化しやすくなっている。
【0054】
また、本変形例のI/V変換回路161は、帰還抵抗R1と並列にコンデンサC2が接続されており、一種のフィルタ回路を構成している。したがって、I/V変換回路161は、受光素子150によって受光量に応じて生成された電流信号(光電流)を電流電圧変換して電圧信号に変換するとともに、蛍光灯などその他の交流成分を持つノイズを抑制する。したがって、このI/V変換回路161により交流成分ノイズを抑制した上で、さらに上述のローパスフィルタ回路部162と差動増幅回路163とにより太陽光など低周波または直流成分の外乱光の影響を軽減することができる。
【0055】
さらに本変形例の差動増幅回路163は、第1バッファアンプOP2−1、第2バッファアンプOP2−2、および第3アンプOP2−3の3つのアンプを有する差動アンプ(計装アンプ)となっている。本変形例では、第1バッファアンプOP2−1の第1入力端(+端子)および第2バッファアンプOP2−2の第1入力端(+端子)が、差動増幅回路163の第1入力端子および第2入力端子となる。
【0056】
そして、第1バッファアンプOP2−1の第2入力端(−端子)と第2バッファアンプOP2−2の第2入力端(−端子)とは、抵抗R9を介して電気的に接続されている。第1バッファアンプOP2−1の出力端と第2入力端との間には帰還抵抗R7が接続されている。同様に、第2バッファアンプOP2−2の出力端と第2入力端との間には帰還抵抗R8が接続されている。第3アンプOP2−3は、図3のオペアンプOP2と同様であり、第3アンプOP2−3の2つの入力端には、それぞれ抵抗R4、抵抗R6を介して、上記の第1バッファアンプOP2−1の出力端と第2バッファアンプOP2−2の出力端がそれぞれ電気的に接続されている。なお、本変形例の抵抗R5は、調整電圧Vrefを供給するD/Aコンバータに接続されている。調整電圧Vrefは、演算制御部110によって制御することができる。
【0057】
このような計装アンプを差動増幅回路163として用いることもでき、この場合、R7=R8、R4=R6、R3=R5であるとすると、出力端の電圧をVoutとすると、以下のとおりの関係が導かれる。
【0058】
Vout=−(R3/R4)(1+2・R7/R9)(Vin1−Vin2)+Vrefとなる。
【0059】
したがって、ローパスフィルタ回路162によって、外乱光による電圧上昇分に相当する濾波後の電気信号Vin2を抽出し、差動増幅回路163によって、電気信号Vin2を、濾波前の電気信号Vin1から差し引くように、所定の増幅率で差動増幅がされる。また、調整電圧Vrefを調整することで、部品のばらつきに起因する影響などを軽減することもできる。
【0060】
本変形例では、差動増幅回路163の出力端のみならず、I/V変換回路161の出力端も、たとえば図示しないサンプルホールド回路を介して、マルチプレクサ111の入力側に接続される。そして、マルチプレクサ111の出力側は、アナログディジタルコンバータ112に接続され、ディジタル化された差動増幅回路163の出力信号やI/V変換回路161の出力信号は、受光量データとして、図示していないメモリに格納される。ディジタル化された差動増幅回路163の出力信号は、血糖値を算出するのに用いられる。また、I/V変換回路161の出力信号は、種々の制御に用いることができる。
【0061】
図6に示された変形例によっても、図4に示されたものと同様の作用効果を奏することができ、加えて、以下のような効果を奏する。
【0062】
ダイオードを必要とするピークホールド回路が不要であるので、アナログ−ディジタル混在のカスタムIC化がしやすくなる。
【0063】
フィルタ機能を持つI/V変換回路161によって交流成分ノイズを軽減しつつ、太陽光などの低周波または直流成分の外乱光の影響については上記ローパスフィルタ回路部162と差動増幅回路163とにより影響を軽減することができる。
【0064】
差動増幅回路163により、外乱光による電圧上昇分を電気信号から差し引くことによりバイアス相当分をキャンセルさせて飽和を防止し、さらに部品のばらつきなどによる変化については、調整電圧Vrefを制御することにより調整することができる。
【0065】
以上のとおり、実施の形態および変形例において、本発明の血液成分分析装置および血液成分分析装置用の受光回路について説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0066】
たとえば、本実施の形態では、演算制御部は、パルス光の消灯中と発光中との各時点での出力信号の信号レベル間の差分に基いて血糖値を算出する方法を説明した。しかしながら、演算制御部が血糖値を算出する方法は上記の方法に限定されない。たとえば、演算制御部は、パルス光の消灯中と発光中との各時点での出力信号にそれぞれ所定の補正係数を乗じた上で差分を計算して血糖値を算出することもできる。
【0067】
また、本実施の形態では、サンプルホールド回路が演算制御部に内蔵される場合を説明した。しかしながら、変形例において述べたように、サンプルホールド回路は、受光処理部に内蔵されてもよい。
【0068】
また、本発明は、血糖値を算出するのに好適に用いることができるが、パルス波の透過光や反射光の受光量を定量的に測定して血液成分分析を行う分野において広く利用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0069】
100 血液成分分析装置、
110 演算制御部(算出手段)、
120 装着部、
121 試験紙(試験片)
130 発光素子(発光手段)、
140 発光駆動部、
150 受光素子(受光手段)、
160 受光処理部(フィルタリング手段、差動増幅手段)、
161 I/V変換回路、
162 ローパスフィルタ回路、
163 差動増幅回路、
170 受光回路、
180 操作部、
190 表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液に含まれる成分と反応した試薬の色の変化に基づいて前記成分を分析する血液成分分析装置であって、
前記血液が付着した試験片に向けてパルス光を発光する発光手段と、
前記パルス光が前記試験片で反射された反射光を受光して電気信号に変換する受光手段と、
前記電気信号を濾波することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成するフィルタリング手段と、
前記フィルタリング手段による濾波前の電気信号と前記濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る差動増幅手段と、
前記パルス光の消灯中と発光中での前記出力信号の信号レベルに基いて前記成分の量を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする血液成分分析装置。
【請求項2】
前記フィルタリング手段は、ローパスフィルタを有することを特徴とする請求項1に記載の血液成分分析装置。
【請求項3】
前記濾波後の信号は、太陽光の受光に起因する電圧上昇分の電圧に対応することを特徴とする請求項1または2に記載の血液成分分析装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記パルス光の消灯中での前記出力信号の信号レベルと、前記パルス光の発光中での前記出力信号の信号レベルとの差分に基いて、前記成分の量を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液成分分析装置。
【請求項5】
前記受光手段は、パルス光を受光して光電流を生成する受光素子を有し、
前記血液成分分析装置は、さらに、
前記受光素子によって生成された光電流を電流電圧変換して前記電気信号を生成する電流電圧変換手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液成分分析装置。
【請求項6】
前記差動増幅手段は、
前記濾波前の電気信号が入力される第1バッファ部と、
前記濾波後の信号が入力される第2バッファ部と、
前記第1バッファアンプの出力端が電気的に接続される第1入力端と前記第2バッファアンプの出力端が電気的に接続される第2入力端とを有しており、前記第1入力端と前記第2入力端との間の信号を差動増幅して外乱光の影響を低減した前記出力信号を得る第3アンプ部と、
前記第3アンプ部の前記第1入力端または前記第2入力端に接続されて、調整用電圧を印加するディジタルアナログ変換手段と、を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液成分分析装置。
【請求項7】
パルス光を受光して電気信号に変換する受光手段と、
前記電気信号を濾波することによって当該電気信号の交流成分を抑制した濾波後の電気信号を生成するフィルタリング手段と、
前記フィルタリング手段による濾波前の電気信号と前記濾波後の電気信号とを差動増幅して出力信号を得る差動増幅手段と、を有することを特徴とする血液成分分析装置用の受光回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13524(P2012−13524A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150000(P2010−150000)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】