説明

血液浄化器およびその製造方法

【課題】血液流速をより均一化することができる、工業的に採用可能な血液浄化器を提供する。
【解決手段】ケーシング筒と、一方向に引き揃えられた状態でケーシング筒に内装されている中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をケーシング筒の内壁に中空糸膜の中空部が開口するように固定している隔壁と、中空糸膜束の開口端面を包囲し、ケーシング筒の両端部に液密に取り付けられる、ノズルを備えたヘッダー部材と、を有する血液浄化器であって、隔壁は、ノズルに対向する側の端面が平面であり、かつ、該ノズルに対向する側の端面においてケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜非存在領域を有していることを特徴とする血液浄化器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜(半透膜)を用いた血液浄化器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液浄化器として、例えば、血液透析器、持続緩徐式血液ろ過器、血液成分吸着器、血漿分離器等が知られている。これらの中で、その使用数量や製品使用の多様さから人工透析治療に用いられる中空糸膜型血液透析器(以下、ダイアライザーと称する)が血液浄化器の代表例といえる。以下、ダイアライザーを中心に詳しく説明する。
【0003】
ダイアライザーは、例えば図8に示すように、一端部に透析液入口ポート11を、他端部に透析液出口ポート12を備えたケーシング筒10と、このケーシング筒10に内装された中空糸膜束5と、この中空糸膜束5を各端部においてケーシング筒10の内壁に固定している隔壁3、6とを有し、ヘッダー部材1、8が、隔壁3、6の外側表面に形成された中空糸膜束5の中空部開口面4、7の全体を包囲するように、ケーシング筒10の両端に取り付けられている。該ヘッダー部材1、8には血液入口ポート2、血液出口ポート9が備えられている。
【0004】
上述したようなダイアライザーは、ケーシング筒10の内部に、そのケーシング筒10の長さよりもやや長い中空糸膜束5を挿通し、挿通した中空糸膜束5の両端部に高分子材料を注型・固化して隔壁3、6を形成した後、その隔壁3、6の端部を鋭利な刃物で切断し、隔壁端面に中空糸膜束5の中空部を開口させ、該開口部全体を包囲するヘッダー部材1、8を被着させることによって得ている。
【0005】
このようにして製造されたダイアライザーは、例えば中空糸膜の内側に血液を流し、中空糸の外側に透析液を流すことで、その圧力差による濾過や、濃度差による拡散によって、中空糸膜を介して血液中の尿毒素やβ2ミクログロブリンなどの除去したい物質を透析液側に移動させ、血液を浄化することができる。すなわち、ヘッダー部材1の血液入口ポート2から流入した血液は、隔壁3の中空部開口面4から中空糸膜の内部に流入し、中空糸膜の内側を流れて、他端の隔壁6の中空部開口面7から流出し、ヘッダー部材8に備えられた血液出口ポート9から流出する。一方、ケーシング筒10の透析液入口ポート11から流入した透析液は、中空糸膜の外側を流れて透析液出口ポート12から流出する。図1に示すように、血液と透析液の流れ方向を対向させる、いわゆるカウンターフローで使用するのが一般的である。こうすることで中空糸膜を介しての物質交換が良好に行われるようにするためである。
【0006】
このようなダイアライザーの中空糸膜で物質交換を良好に行うためには、中空糸膜1本1本の内側に均等に血液を流し、中空糸膜の外側に均等に透析液を流すことが有効である。血液や透析液の流れに偏りがあると、血液浄化器全体でみたとき、浄化性能が低くなってしまうためである。
【0007】
血液や透析液の流れを均等にするための試みとしては、ヘッダー部材形状の工夫による血液流れの改善策や、ケーシング筒形状の工夫による透析液流れの改善策が数多く特許出願されている。例えば、特許文献1、2には、ヘッダー部材の内面形状の最適化を図ることで血液流れを改善する技術が開示されている。しかしながら、ヘッダー部材の形状を最適化することによれば、ヘッダー部材内部での血液のよどみを小さくすることはできても、例えば図2に示すように、ヘッダー部材のノズルの延長線上に位置する中空糸膜に流入する血液の流速がその他の部分の血液の流速に比べて早くなってしまうという問題についてはまだまだ改善の余地がある。すなわち、血流の均一化は十分とはいえず、そのため、内側の中空糸膜と外側の中空糸膜とで浄化性能に違いがでる。なお、図2は、血液浄化器における血液流速分布を色の違いで示した図であり、図2において左側から右側に伸びる曲線がヘッダー部材の輪郭に相当し、その曲線に続くL字の線がケーシング筒の輪郭に相当する。また、その曲線よびL字の線に対向する直線が、血液浄化器の中心軸に相当する。
【0008】
そして、特許文献3および特許文献4には、中空糸膜束の中央部に、両端が山形の傾斜面を形成している芯材を設け、血液の流入速度が速くなる中空糸膜束中心部の中空糸膜を無くすことで、中空糸膜束全体としての流速分布を均一化した血液浄化器が開示されている。しかしながら、これらの文献に記載の血液浄化器は、実際に製造するとなると、従来は単純に束ねれば良かった中空糸膜を、わざわざ芯材に巻きつけなければならず、また、中空部開口端面を得るためにはケーシング筒を回転させるなどして、中心の芯材を切断しないようにかつ中空糸膜の中空部は開口するように中空糸膜を切断しなければならないなど、製造面での課題を残している。加えて、完成した血液浄化器は、充填膜面積を従来と同じにしようとするとケーシング筒が芯材の容積分だけ太く重くなってしまい、医療現場で使用する際にハンドリングし難く、また、高コストになってしまうなど、多くの課題を残している。そのため、実際の製造販売に繋がっていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第1985811号公報
【特許文献2】特許第2137170号公報
【特許文献3】特開平8−299435号公報
【特許文献4】特開2004−105483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を鑑み、血液流速をより均一化することができる、工業的に採用可能な血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成せんとするものであり、以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1) ケーシング筒と、一方向に引き揃えられた状態でケーシング筒に内装されている中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をケーシング筒の内壁に中空糸膜の中空部が開口するように固定している隔壁と、中空糸膜束の開口端面を包囲し、ケーシング筒の両端部に液密に取り付けられる、ノズルを備えたヘッダー部材と、を有する血液浄化器であって、隔壁は、ノズルに対向する側の端面が平面であり、かつ、該ノズルに対向する側の端面においてケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜非存在領域を有していることを特徴とする血液浄化器。
(2) 隔壁が、ケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜の押分部材を有している、前記(1)に記載の血液浄化器。
(3) 中空糸膜の押分部材は、ノズルに対向する側の隔壁端面において、ノズルの内径よりも大きい径を有している、前記(2)に記載の血液浄化器。
(4) 中空糸膜の押分部材は、ノズルに対向する側の隔壁端面において、φ3.5mm以上の径を有している、前記(2)または(3)に記載の血液浄化器。
(5) 中空糸膜の押分部材は、隔壁を構成するその他の部分と同じ材質で構成されている、前記(2)〜(4)のいずれかに記載の血液浄化器。
(6) ケーシング筒に一方向に引き揃えられた中空糸膜束を装填する工程と、中空糸膜束の端部の中空部を樹脂で封止する工程と、中空糸膜束の端部をケーシング筒の内壁に固定する隔壁を形成する工程と、隔壁および中空糸膜の端部を切断して中空糸膜の中空部を開口する工程と、中空糸膜束の中空部開口端面を包囲するようにケーシング筒の両端部にノズルを有するヘッダー部材を液密に取り付ける工程と、を有する血液浄化器の製造方法であって、隔壁を形成する工程では、中空糸膜束の端部をケーシング筒の径方向に押し広げた状態で隔壁を形成し、中空糸膜の中空部を開口する工程で隔壁および中空糸膜の端部を切断した際に中空糸膜の端部がケーシング筒の径方向に関する中心に存在しないようにすることを特徴とする血液浄化器の製造方法。
(7) 隔壁を形成する工程までに、ケーシング筒に装填された中空糸膜束の端部の中心に中空糸膜の押分部材を配置し、かつ、中空糸膜の中空部を開口する工程で、押分部材を含む隔壁および中空糸膜の端部を切断する、前記(6)に記載の血液浄化器の製造方法。
(8) 隔壁を構成する中空糸膜の押分部材とその他の部分とに同じ材質の部材を用いる、前記(7)に記載の血液浄化器の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空糸膜の端部をケーシング筒内壁に固定している隔壁のノズルに対向する側の端面が平面であり、かつ、該隔壁が、ノズルに対向する側の端面においてケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜非存在領域を有している血液浄化器となるので、ヘッダーから血液を導入すると、該ヘッダーのノズルに対向している隔壁の中空糸膜非存在領域が血液衝突部となり、血液が周囲に拡散する。すなわち、ノズルから流入した血液は、直接中空糸膜の中空部開口端面には衝突せず、周囲に拡散する。そのため、血液の流れがより均等になる。また、通常血液浄化器においては、ケーシング筒の端部側面(中空糸膜束の端部付近)に設けられたポートから透析液を流入するが、上記のような中空糸膜非存在領域を備えたことで、透析液流入部における中空糸膜束の中央部分に空洞ができることになり、いわゆるドーナツ状に中空糸膜が配列されることになる。そのため、透析液が中空糸膜束の中央部まで流れ込みやすくなり、透析液流れの均一化までもが図れる。
【0013】
そして、隔壁のノズルに対向する側の端面が平面であり、ヘッダー部材と隔壁とで形成される空間を区分するような部材を設けないので、流入する血液に偏流があった場合でも、血液流れが平準化されやすく、偏流の影響を受けにくい。さらに、得られる血液浄化器は軽量でハンドリングしやすいものとなる。
【0014】
また、本発明の製法においては、隔壁を形成する工程で、中空糸膜束の端部をケーシング筒の径方向に押し広げた状態で隔壁を形成し、その後、中空糸膜の中空部を開口するように隔壁および中空糸膜の端部を切断するため、複雑な工程を経ずに容易かつ低コストに上記のような構成の血液浄化器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る血液浄化器の概略縦断面図である。
【図2】図2は、従来の血液浄化器における血液流速分布のコンピュータ解析結果の一例を示す図(血液浄化器の部分縦断面図に相当)である。
【図3】図3は、図1に示した血液浄化器において、血液入口ポートのある端部を示す概略部分縦断面図である。
【図4】図4は、図1に示した血液浄化器において、透析液入口ポートのある端部を示す概略部分縦断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る血液浄化器を製造する際の一工程を示す概略部分縦断面図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る血液浄化器を製造する際の一工程を示す概略部分縦断面図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係る血液浄化器を製造する際の一工程を示す概略部分縦断面図である。
【図8】図8は、従来の血液浄化器の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、図面に基づいて、本発明の血液浄化器を説明する。
【0017】
図1は、本発明の血液浄化器の一例について示すものである。図1において、血液浄化器は、ケーシング筒10と、ケーシング筒10に内装されている中空糸膜束5と、中空糸膜束5の両端部をケーシング筒の内壁に中空糸膜の中空部が開口するように固定している隔壁3、6と、ケーシング筒10の一方の端部に装着されたヘッダー部材1と、ケーシング筒10の他方の端部に装着されたヘッダー部材8などから構成されている。
【0018】
ケーシング筒10は、一端部の側面に透析液の入口ポート11を備え、他端部の側面に透析液の出口ポート12を備えている。材質は特に限定されるものではないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、あるいはABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)等のプラスチックからなるケーシング筒が好適に用いられる。
【0019】
中空糸膜束5は、複数本の中空糸膜(半透膜)が一方向(ケーシング筒3の筒軸方向)に引き揃えられた状態でケーシング筒10に内装されてなり、各端部が隔壁3、5により中空部が開口するようにケーシング筒10の内壁に固定されている。中空糸膜は特に限定されるものではないが、アクリル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、セルロース、トリアセテート、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の素材からなる中空糸膜が好適に用いられる。
【0020】
隔壁3、6は、基本的に、ポリウレタン、シリコーン、またはエポキシ等の高分子材料(換言すれば、2液混合硬化型の高分子接着剤)を注型してなる。
【0021】
ヘッダー部材1は、血液入口ポート2(ノズル)を備え、中空糸膜の中空部開口端面4を包囲するように、ケーシング筒10の一方の端部に液密に装着されている。そして、ヘッダー部材8も、血液出口ポート9(ノズル)を備え、中空糸膜の中空部開口端面7を包囲するように、反対側の端部に液密に嵌着されている。なお、これらヘッダー部材1、8は、ケーシング筒10と同様の材料で構成することができる。
【0022】
そして、本発明にかかる図1に示す血液浄化器においては、隔壁3の、ヘッダー部材1の血液入口ポート2に対向する側の端面、ならびに、隔壁6の、ヘッダー部材8の血液出口ポート9に対向する側の端面が、図3、図4に示すように、平面に形成されている。さらに、隔壁3には、ヘッダー部材1の血液入口ポート2に対向する側の端面において、また、隔壁6には、ヘッダー部材8の血液出口ポート9に対向する端面において、ケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜非存在領域13、14が設けられている。かかる中空糸膜非存在領域13、14は、後述するように、例えばケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜の押分部材を配置することで、設けられる。
【0023】
中空糸膜非存在領域13は、血液が流入する際には血液衝突部として作用する。具体的には、ヘッダー部材1の血液入口ポート2から流入した血液は、隔壁3の中心に備えられた中空糸膜非存在領域13にまず衝突し、そこから周囲に均等に分配される。そして、周囲に拡散した血液は、中空糸膜の中空部開口面4から中空糸膜の内部に流入し、中空糸膜の内側(中空部)を流れて、他端の血液出口ポート9へと流れていくことになる。
【0024】
このとき、隔壁3は、中空糸膜非存在領域を含めて、血液入口ポート2に対向する側の端面が平面であり、ヘッダー部材と隔壁とで形成される空間を区分するような部材が設けられていないので、流入する血液に偏流があった場合でも、血液流れが平準化されやすく、偏流の影響を受けにくい。さらに、得られる血液浄化器は軽量でハンドリングしやすいものとなる。
【0025】
なお、本発明においては、少なくとも、血液が流入する側のヘッダー部材に対向する隔壁に、このような中空糸膜非存在領域が設けられていればよいが、図1に示すように隔壁3、6の両方に中空糸膜非存在領域13、14が設けられていることが好ましい。以下、血液が流出する側のヘッダー部材に対向する隔壁にも中空糸膜非存在領域が設けられていることによる作用効果を説明する。
【0026】
図4は、図1に示した血液浄化器において、透析液の入口ポート11側の端部を示す部分拡大断面図である。図4において、ケーシング筒10の透析液入口ポート11から流入した透析液は、ケーシング筒10に設けられたバッフル板15に衝突して中空糸膜束の周囲に流入する。このとき、透析液が流入する部分の中空糸膜束は、中空糸膜非存在領域14を備えていることで、透析液流入部における中空糸膜束の中央部に空洞ができ、いわゆるドーナツ状に中空糸膜が配列されているため、透析液が中空糸膜束の中央部まで流れ込みやすくなっている。そのため、透析液が中空糸膜1本1本の外側に均一に流れ込み、均等な透析液流れを得ることが出来る。その後、流入した透析液は、他端の透析液出口ポート12に向かって流れていく
血液が流出する側のヘッダー部材に対向する隔壁にも中空糸膜非存在領域が設けられている場合には、このようにして、中空糸膜1本1本の内側に均等に血液を流し、中空糸膜1本1本の外側に均等に透析液を流すことができ、中空糸膜を介しての物質交換が良好に行われ、血液浄化性能を高めることが出来る。
【0027】
以上のような血液浄化器は、一方向に引き揃えられた中空糸膜束5をケーシング筒10に装填する工程と、中空糸膜束5の端部の中空部を樹脂で封止する工程と、中空糸膜束5の端部をケーシング筒10の内壁に固定する隔壁3、6を形成する工程と、隔壁3および中空糸膜束5の端部を切断して各中空糸膜の中空部を開口する工程と、中空糸膜束5の中空部開口端面を包囲するようにケーシング筒10の両端部に血液入口ポート2や血液出口ポート9などのノズルを有するヘッダー部材1、8を液密に取り付ける工程、等を経て製造される。なお、中空糸膜束5の端部の中空部を樹脂で封止する工程と、中空糸膜束5の端部をケーシング筒10の内壁に固定する隔壁3、6を形成する工程とは、必ずしも別々に行われる必要はなく、一つの工程で中空部の封止と隔壁の形成とが行われてもよい。
【0028】
以上のような工程を経て血液浄化器を製造する際、中空糸膜束5の中空部開口端面と同一平面を形成する中空糸膜非存在領域13、14を簡単な方法で形成するために、本発明においては、隔壁3、6を形成する工程で、中空糸膜束5の端部をケーシング筒10の径方向に押し広げた状態で隔壁3、6を形成し、中空糸膜の中空部を開口する工程で隔壁3、6および中空糸膜束5の端部を切断する際に、中空糸膜の端部がケーシング筒の径方向に関する中心に存在しないようにする。
【0029】
このような製造方法は、具体的には以下のように実施される。
【0030】
まず、ケーシング筒10の内部に中空糸膜束5を筒軸方向に装填し、その中空糸膜束5の軸方向端部の径方向中心に、図5のごとく弾丸形状に成形した中空糸膜の押分部材16を挿入する。その後、該押分部材16で中空糸膜束5の軸方向端部をケーシング筒10の径方向に押し広げた状態を維持しながら図6のように注型キャップ17を被せ、例えば、特公昭63−17464号公報等に開示されている方法、いわゆる遠心ポッティング方法で中空糸膜束5の両端部をケーシング筒10の端部にポッティング材(高分子材料)で接着封止して隔壁4、6を形成する。このとき、隔壁4、6は、注型キャップ17の内面形状に沿って形成される。
【0031】
上記のごとく形成された隔壁4、6は、ポッティング材固化後に図7のごとく端部を鋭利な刃物で切断し、ポッティング材からなる隔壁4、6の端面に、中空糸膜の中空部を開口、露出させる。こうすることで、上記中空糸膜束端部の中心に挿入した中空糸膜の押分部材16が隔壁4、6の一部となり、隔壁4、6の中心に中空糸膜非存在領域13、14を設けることができる。
【0032】
中空糸膜非存在領域13、14の範囲(直径)は、予め挿入しておく中空糸膜の押分部材16の直径で決めることができ、ヘッダー部材1、8のノズルの内径(血液流路)よりも大きくしておくことが好ましい。ダイアライザーのヘッダー部材のノズルは、ISO8637;2004(E)で規格が定められており、その規格を考慮すると、中空糸膜の押分部材16は、ノズルに対向する側の隔壁端面において、φ3.5mm以上の直径を有するものが好ましく、流体解析結果から、φ8mm以上の直径を有するものがより好ましい。一方、中空糸膜非存在領域13、14の範囲を必要以上に大きくしすぎるとヘッダー部材1、8の大型化に繋がる等の弊害があるので、押分部材16の直径は、血液流速分布の解析結果から考慮して、ノズルに対向する側の隔壁端面においてφ16mm以下程度になるようにするのが好ましい。
【0033】
また、該押分部材16は、接着性や溶出物の安全性の観点から、隔壁4の該押分部材以外の部分(すなわちポッティング樹脂)と同一の材質であることが好ましい
上述した方法が中空糸膜非存在領域を形成するのに最も適した方法であるが、この方法以外にも、例えば、中空糸膜束端部の中心に圧縮空気を吹き付け中空糸膜束の端部をケーシング筒の径方向に押し広げて、中心に空間を形成した状態で、上述したような遠心ポッティング方法で隔壁を形成したり、注型キャップの底中央部に突起を設けておいて、中空糸膜束端部を押すことによって、中空糸膜束端部をケーシング筒の径方向に押し広げて提灯状に変形させ、中空糸膜束端部の中心に空間を形成した状態で、上述したような遠心ポッティング方法で隔壁を形成したりすることで、中空糸膜束の開口端面の中心に中空糸膜非存在領域を形成することができる。
【0034】
以上のようにして、中空糸膜束5の中空部開口端面の中心に血液衝突部となる中空糸膜非存在領域13、14を形成した後は、ケーシング筒10の両端部にマニホールドを形成するためのヘッダー部材1、8をそれぞれ超音波接着などの熱溶着や螺合等で接合して、本発明の血液浄化器を得ることができる。
【実施例】
【0035】
図1に示す血液浄化器を製作するため、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のポリカーボネートからなるケーシング筒と、日本特開2001−170172号公報の実施例に開示されているポリサルホン中空糸膜を用意した。
【0036】
中空糸膜は9600本を束ねて一方向に引き揃えて中空糸膜束とし、該中空糸膜束をケーシンング筒の内部に筒軸方向から装填し、その中空糸膜束の両端部の中心に弾丸形状に成形した中空糸膜の押分部材をそれぞれ挿入した。中空糸膜の押分部材は日本ポリウレタン(株)のウレタン樹脂(品名:KC399/N4223)で作成し、その寸法は、直径φ8mm、全長25mm、弾丸形状の先端角度20°とした。その後、注型キャップを被せ、遠心ポッティング方法(約80Gの遠心力下)で、中空糸膜束の端部の中空部を樹脂で封止してから、中空糸膜束の両端部をケーシング筒の内壁にポッティング材で接着封止して隔壁を形成した。ポッティング材は、中空糸膜の押分部材と同じ日本ポリウレタン(株)のウレタン樹脂(品名:KC399/N4223)を使用した。このとき、ケーシング筒の長さは282mmであった。
【0037】
隔壁が固化した後に注型キャップを取り外し、両端部を鋭利な刃物で切断して隔壁の端面に中空糸膜を開口、露出させた。このとき、中空糸膜束端部の中心に挿入した中空糸膜の押分部材は隔壁の一部となっていて、中空部開口端面の中心(ケーシング筒の径方向に関する中心)に中空糸膜非存在領域を形成することができた。中空糸膜非存在領域の範囲(直径)は、狙い通りφ8mmとなっていた。
【0038】
その後、ケーシング筒の両端部にマニホールドを形成するために、シリコーン製のOリングを装填したヘッダー部材をそれぞれ超音波接着で接合して、本発明の血液浄化器を得た(実施例1)。なお、ヘッダー部材の材質は、ケーシング筒と同じ三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のポリカーボネートを使用した。
【0039】
また、比較例として、中空糸膜束端部の中心に中空糸膜の押分部材を挿入せず、中空糸膜非存在領域を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、一般的な血液浄化器を得た(比較例1)。
【0040】
これら2つの血液浄化器の性能を比較評価した結果、表1の結果を得、実施例の血液浄化器の方が優れた性能を発揮していることを確認した。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、上記溶質のクリアランス測定は、平成20年8月1日発行日本医療器材工業会編「ダイアライザー機能分類実施マニュアル」に基づいて行った。この中で測定方法が2種類あるが、本実験はクリアランス測定時の測定条件を基準とした。クリアランスは以下の式を用いて計算した。
【0043】
【数1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の血液浄化器は、上述したように人工透析用のダイアライザーとして用いるが、下排水の浄化や、飲料水の製造、燃料電池の加湿装置等に用いられる中空糸膜モジュールの構造にも応用することが出来る。
【符号の説明】
【0045】
1 ヘッダー部材
2 血液入口ポート
3 隔壁
4 中空部開口端面
5 中空糸膜束
6 隔壁
7 中空部開口端面
8 ヘッダー部材
9 血液出口ポート
10 ケーシング筒
11 透析液入口ポート
12 透析液出口ポート
13 中空糸膜非存在領域
14 中空糸膜非存在領域
15 バッフル板
16 中空糸膜の押分部材
17 注型キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング筒と、一方向に引き揃えられた状態でケーシング筒に内装されている中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をケーシング筒の内壁に中空糸膜の中空部が開口するように固定している隔壁と、中空糸膜束の開口端面を包囲し、ケーシング筒の両端部に液密に取り付けられる、ノズルを備えたヘッダー部材と、を有する血液浄化器であって、隔壁は、ノズルに対向する側の端面が平面であり、かつ、該ノズルに対向する側の端面においてケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜非存在領域を有していることを特徴とする血液浄化器。
【請求項2】
隔壁が、ケーシング筒の径方向に関する中心に中空糸膜の押分部材を有している、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
中空糸膜の押分部材は、ノズルに対向する側の隔壁端面において、ノズルの内径よりも大きい径を有している、請求項2に記載の血液浄化器。
【請求項4】
中空糸膜の押分部材は、ノズルに対向する側の隔壁端面において、φ3.5mm以上の径を有している、請求項2または3に記載の血液浄化器。
【請求項5】
中空糸膜の押分部材は、隔壁を構成するその他の部分と同じ材質で構成されている、請求項2〜4のいずれかに記載の血液浄化器。
【請求項6】
ケーシング筒に一方向に引き揃えられた中空糸膜束を装填する工程と、中空糸膜束の端部の中空部を樹脂で封止する工程と、中空糸膜束の端部をケーシング筒の内壁に固定する隔壁を形成する工程と、隔壁および中空糸膜の端部を切断して中空糸膜の中空部を開口する工程と、中空糸膜束の中空部開口端面を包囲するようにケーシング筒の両端部にノズルを有するヘッダー部材を液密に取り付ける工程と、を有する血液浄化器の製造方法であって、隔壁を形成する工程では、中空糸膜束の端部をケーシング筒の径方向に押し広げた状態で隔壁を形成し、中空糸膜の中空部を開口する工程で隔壁および中空糸膜の端部を切断した際に中空糸膜の端部がケーシング筒の径方向に関する中心に存在しないようにすることを特徴とする血液浄化器の製造方法。
【請求項7】
隔壁を形成する工程までに、ケーシング筒に装填された中空糸膜束の端部の中心に中空糸膜の押分部材を配置し、かつ、中空糸膜の中空部を開口する工程で、押分部材を含む隔壁および中空糸膜の端部を切断する、請求項6に記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項8】
隔壁を構成する中空糸膜の押分部材とその他の部分とに同じ材質の部材を用いる、請求項7に記載の血液浄化器の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−224026(P2011−224026A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93683(P2010−93683)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】