説明

血液浄化装置及び血液浄化装置の作動方法

【課題】血液供給流路内の血液の流れの停止時間を短縮して、血圧を安定して測定する。
【解決手段】血液透析装置1は、血液浄化器10と、動脈穿刺針11から血液浄化器10に血液を供給するための血液供給流路12と、血液浄化器10から静脈穿刺針13に血液を返送するための血液返送流路14と、血液供給流路12上に設けられ、血液を血液浄化器10に間欠的に送出可能な血液ポンプ15と、血液ポンプ15による血液の送出が停止している間において血液供給流路12内における血液ポンプ15よりも上流側の圧力を測定する圧力測定装置16と、血液供給流路12における圧力測定装置16による圧力測定位置Aと血液ポンプ15との間を開閉する電磁弁17と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置及び血液浄化装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば血液透析処理中に、しばしば突然に血圧が低下することがある。血圧の低下は患者にとって好ましくない。この血圧低下を早期に発見するために、血液透析処理中、頻回に、理想的には連続的に血圧を測定する必要がある。最も一般的に行われているのは、マンシェットを用いる血圧計でマンシェットを上肢に巻きっぱなしにして、間欠的に、しかし頻回に血圧を測る方法である。この方法での測定は、最も頻回でも15分おきが限度で、それ以上行うと、患者が不快を覚えたり、マンシェットにより上肢にうっ血が生じてしまう。またこの方法では、透析用の穿刺が行われているシャント側と反対側の上肢にマンシェットを巻かなければならないため、患者は両上肢を拘束されて不快である等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】菊池和実他、プレポスピタルケアー、2003、13、43−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、血液透析処理中の血圧をシャント側の上肢を用いてさらに頻回に測定する方法として、図7に示すように動脈穿刺針120と透析浄化器121を接続する血液供給流路122における血液ポンプ123の上流側に、圧力測定装置124を設け、血液透析処理中に間欠的に血液ポンプ123を停止して、血液供給流路122内の圧力を測定し、それによって血圧を測定する方法が提案されている。この方法は、血液が流通していない状態において血液供給流路122内の圧力はシャント血管圧に等しく、さらにそのシャント血管圧は血圧に比例することに基づいている。この方法によれば、マンシェットを巻く必要がないため患者に不快を与えることなく、いつでも血圧を測定できる。
【0005】
しかし、この方法では、透析中に血液ポンプ123を一旦停止し血液の流れを止める必要があるが、血液ポンプ123が停止している時間が短すぎると、ポンプ停止時に生じる血液供給流路122の脈動、膨縮、振動や血液供給流路122内の圧力変動等により、血液供給流路122内の圧力が安定せず、血圧が安定して測定できなくなる。一方で、血液ポンプ123が停止している時間が長すぎると、血液浄化器121内等で血液が凝固する恐れがあり、好ましくない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、血液ポンプなどの血液送出装置による血液の流れの停止時間を短縮して、血液浄化器内における血液の凝固を抑制しつつ、血圧を安定して測定可能な血液浄化装置、及び血液浄化装置の作動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、血液浄化装置であって、血液を浄化する血液浄化器と、動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に間欠的に送出可能な血液送出装置と、前記血液送出装置による血液の送出が停止している間において前記血液送出装置よりも上流側の血液供給流路内の圧力を測定する圧力測定装置と、前記圧力測定装置による圧力測定位置と前記血液送出装置との間で前記血液供給流路を開閉する開閉装置と、を有する。
【0008】
本発明によれば、圧力測定のために血液送出装置による血液の送出を停止した際に、開閉装置により、血液供給流路の圧力測定位置と血液送出装置との間を閉鎖できるので、圧力測定位置の周辺の血液供給流路やその内部の挙動が短時間で収束する。これにより、血液供給流路内の圧力が短時間で安定し、圧力測定装置による圧力測定を直ちに行うことができる。この結果、血液供給流路における血流の停止時間を短縮して、血液浄化器内における血液の凝固を抑制しつつ、安定した圧力測定を行うことができる。
【0009】
前記血液浄化装置は、前記血液送出装置による血液送出の間欠的な停止時に、前記開閉装置により前記血液供給流路を閉鎖させ、更に、前記圧力測定装置により前記血液供給流路の圧力を測定させる制御装置を有していてもよい。これにより、血液浄化中における前記血液供給流路の圧力の間欠的な測定が安定して自動的に行われる。
【0010】
前記制御装置は、前記血液送出の間欠的な停止時間を4秒以上、15秒以内に制御するようにしてもよい。血液の送出の間欠的な停止時間が4秒以上であれば、確実に前記血液供給流路内の圧力が安定してから、圧力を測定することができ、一方、血液の送出の間欠的な停止時間が15秒以内であれば、確実に血液浄化器内における血液の凝固を抑制しつつ、前記血液供給流路内の圧力を測定することができる。
【0011】
前記圧力測定装置が、圧力検出部と、当該圧力検出部と前記血液供給流路とを連通させる圧力検出用流路と、を有するようにしてもよい。
【0012】
前記制御装置は、前記圧力検出用流路を開閉する他の開閉装置を有するようにしてもよい。かかる場合、血液浄化中の前記血液送出装置が血液を送出している時に、前記血液送出装置よりも上流側の前記血液供給流路内の圧力が陰圧になった場合にあっても、圧力検出用流路内の空気が血液供給流路内に入り込むことが防止される。
【0013】
前記圧力検出用流路の内径が2mm以下であってもよい。
【0014】
前記圧力検出用流路内の前記血液供給流路側が液体に満たされ、前記圧力検出部側が空気に満たされて、前記圧力検出用流路内に液体と空気との境界面が存在していてもよい。かかる場合、前記血液供給流路内の血液と連結している圧力検出用流路内の液体が前記圧力検出部に接触することにより、細菌などにより血液が汚染される危険が有効に防止される。
【0015】
前記血液浄化装置は、前記圧力検出用流路内の液体と空気との境界面を一定の高さに維持する高さ維持機構をさらに有していてもよい。かかる場合、圧力の変動に伴って、該圧力検出用流路内の空気が収縮あるいは膨張しても該圧力検出用流路内の液体と空気との境界面の高さが変化しないため、前記圧力測定装置による圧力測定が正確に行われる。
【0016】
前記高さ維持機構は、前記圧力検出用流路に設けられたエアチャンバーであってもよい。
【0017】
前記高さ維持機構は、前記液体と空気との境界面が存在する前記圧力検出用流路の領域を一定の高さに維持する機構であってもよい。かかる場合、該圧力検出用流路内の液体と空気との境界面が、圧力の変動に伴う空気の圧縮と膨張により、該圧力検出用流路内を移動しても、前記圧力測定装置による圧力測定が影響を受けることがない。
【0018】
前記血液浄化装置は、前記圧力検出部により測定された測定値を、シャント血管に対する前記圧力検出用流路内の前記液体と空気との境界面の高さにより補正する機能を有するようにしてもよい。かかる場合、前記シャント血管に対する前記圧力検出用流路内の前記液体と空気との境界面の高さだけ過小評価されていた前記圧力検出部により測定された測定値を、血圧と比例する前記シャント血管と同じ高さにおける血液供給流路の圧力値に補正することができる。
【0019】
上記血液浄化装置は、前記圧力測定装置において、血液浄化処理中の血圧を測定していない時であって、血液供給流路に通じる圧力検出用流路を閉鎖し、圧力検出部を大気に解放したゼロ点補正、及び/或いは、圧力検出部を、予め高さが分かっている電解質液バッグと連通させることにより、電解質液バッグ内の液面との高低差に相当する静水圧にて圧力調整するようにしてもよい。
【0020】
上記血液浄化装置は、入力された実測の血圧と、当該実測時に前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路内の圧力との比を用いて、前記圧力測定装置によりその後に測定される前記血液供給流路の圧力から血圧を算出する演算部を有していてもよい。かかる場合、前記血液供給流路を血液が流通していない状態においては、該血液供給流路内の圧力はシャント血管圧に等しく、さらにそのシャント血管圧は血圧に比例するため、血液浄化治療の開始直後に、一度だけ血圧を実測すれば、該実測血圧と前記圧力測定装置により測定される前記血液供給流路内の圧力との比を用いて、その後に該圧力測定装置により測定される該血液供給流路の圧力から、血圧を算出することができる。
【0021】
前記血液浄化装置は、前記演算部において算出された前記血圧を表示する表示部を有していてもよい。
【0022】
別の観点による本発明は、血液浄化装置の作動方法であって、前記血液浄化装置は、血液を浄化する血液浄化器と、動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に間欠的に送出可能な血液送出装置と、前記血液送出装置による血液の送出が停止している間において前記血液送出装置よりも上流側の血液供給流路内の圧力を測定する圧力測定装置と、前記圧力測定装置による圧力測定位置と前記血液送出装置との間で前記血液供給流路を開閉する開閉装置と、を有するものであり、前記血液送出装置による血液の送出を間欠的に停止させ、該血液送出装置の上流側において、該血液送出装置の停止と共に前記開閉装置により前記血液供給流路を閉鎖させ、前記圧力測定装置により前記血液供給流路の圧力を測定させる制御装置が作動する。
【0023】
前記制御装置は、前記血液の送出の間欠的な停止時間を4秒以上、15秒以内に制御してもよい。
【0024】
前記制御装置は、実測の血圧と、当該実測時に前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路の圧力との比に基づいて、前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路の圧力から血圧を算出するようにしてもよい。
【0025】
前記圧力測定装置は、圧力検出部と、当該圧力検出部と前記血液供給流路とを連通する圧力検出用流路とを有し、前記血液浄化装置は、前記圧力検出用流路を開閉する他の開閉装置をさらに有し、前記制御装置は、前記血液の送出の停止時には、前記他の開閉装置により前記圧力検出用流路を開放し、前記血液の送出時には、前記他の開閉装置により前記圧力検出用流路を閉鎖するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、血液浄化装置を用いて血圧を、頻回に、安定的に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】血液透析装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】圧力検出用流路内における液体と空気との境界面を示す説明図である。
【図3】圧力測定時の血液透析装置の状態を示す説明図である。
【図4】エアチャンバーのある圧力検出用流路を示す説明図である。
【図5】評価症例1のシャント血圧測定の結果を示すグラフである。
【図6】評価症例2のシャント血圧測定の結果を示すグラフである。
【図7】改良前の血液透析装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態にかかる血液浄化装置としての血液透析装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0029】
血液透析装置1は、血液を浄化する血液浄化器10と、動脈穿刺針11から血液浄化器10に血液を供給するための血液供給流路12と、血液浄化器10から静脈穿刺針13に血液を返送するための血液返送流路14と、血液供給流路12上に設けられ、血液を血液浄化器10に送出するための血液送出装置としての血液ポンプ15と、血液供給流路12内における血液ポンプ15よりも上流側の圧力を測定する圧力測定装置16と、血液供給流路12における圧力測定装置16による圧力測定位置Aと血液ポンプ15との間を開閉する開閉装置としての電磁弁17等を有している。
【0030】
血液浄化器10は、例えば中空糸の膜18を内蔵した中空糸モジュールであり、膜18の一次側10aに血液を通し、二次側10bに透析液を通し、一次側10aの血液中の不要物質を膜18を通じて二次側10bの透析液に取り込んで血液を透析することができる。
【0031】
血液供給流路12及び血液返送流路14には、例えば軟質のチューブが用いられている。血液ポンプ15は、例えばチューブポンプであり、血液供給流路12のチューブを扱いて血液を血液浄化器10側に圧送できる。
【0032】
血液供給流路12の血液ポンプ15と血液浄化器10との間には、ドリップチャンバ30が設けられている。また、血液返送流路14には、ドリップチャンバ31が設けられ、当該ドリップチャンバ31には、静脈圧力センサ32が設けられている。
【0033】
圧力測定装置16は、例えば圧力検出部40と、当該圧力検出部40と血液供給流路12の圧力測定位置Aとを接続する圧力検出用流路41とを有している。圧力検出部40は、例えば気圧センサである。圧力検出用流路41は、血液供給流路12よりも内径が小さい内径が2mm以下のチューブにより形成されている。圧力検出用流路41内の血液供給流路12側は液体に満たされ、圧力検出部40側は空気に満たされており、以て、圧力検出用流路41内には、液体と空気との境界面が形成されている。故に、圧力測定装置16は、液圧を気圧に変換することによって血液供給流路12内の圧力を測定できる。
【0034】
図2には、圧力検出用流路41内における液体と空気との境界面44を示す。圧力検出用流路41が、内径が2mm以下のチューブにより形成されている場合には、圧力検出用流路41方向に対して直角に、液体と空気との境界面44が形成される。
【0035】
液体と空気との境界面44が存在する圧力検出用流路41の領域は、例えば図1に示すように渦巻き状に巻かれて、渦巻き状圧力検出用流路部41aを形成している。そして、圧力の変動による空気の圧縮や膨張に伴って、渦巻き状圧力検出用流路部41a内で液体と空気との境界面44が移動しても、該境界面44の高さが変わらないように、渦巻き状圧力検出用流路部41aは、渦巻き面が水平になるように固定されている。なお、本実施の形態においては、渦巻き状圧力検出用流路部41aが、境界面44を一定の高さに維持する高さ維持機構を構成している。
【0036】
圧力検出用流路41の血液供給流路12近傍には、他の開閉装置としての電磁弁42が設けられている。
【0037】
圧力検出部40により検出された圧力情報は、制御装置50に出力される。制御装置50は、例えば汎用のコンピュータであり、記憶部51、演算部52、表示部53等を有している。記憶部51は、例えば検出された血液供給流路12の圧力情報を記憶し、演算部52は、当該圧力情報から患者の血圧を算出できる。当該血圧の算出は、例えば記憶部51に記憶されている、患者の血圧と、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面の高さで補正された血液供給流路12の圧力との比を用いて行われる。以下、「血液供給流路12の圧力」は、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面の高さで補正されたものとする。当該比には、例えば血液透析処理開始直前に実測され入力された患者の血圧Bと、その実測時に圧力測定装置16を用いて測定された血液供給流路12の圧力Cとの比R(R=B/C)が用いられる。よって、血液透析処理時の血圧(mmHg)は、例えば、圧力検出部40により検出された水銀柱圧力(mmHg)に、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面の高さに相当する水柱圧(cmH20)から換算された水銀柱圧(mmHg)を加え、この値に比Rを掛け合わせて求められる。血液供給流路12の圧波動のピーク値とボトム値が、それぞれ血圧の収縮期血圧と拡張期血圧に対応する。
【0038】
表示部53は、算出された患者の血圧をリアルタイムで表示できる。また、表示部53は、算出された患者の血圧の経時的変化を表示してもよい。
【0039】
制御装置50は、血液透析装置1全体の動作も制御している。制御装置50は、血液ポンプ15、電磁弁17、圧力測定装置16、電磁弁42等の動作を制御し、血液透析処理及び当該血液透析処理中の患者の血圧測定を実行することができる。
【0040】
次に、以上のように構成された血液透析装置1の作動方法を、血液透析処理のプロセスと共に説明する。
【0041】
図1に示すように電磁弁42が閉鎖され、電磁弁17が開放された状態で、血液ポンプ15が稼働され、患者の血液が動脈穿刺針11から血液供給流路12を通って血液浄化器10に送られる。血液浄化器10において血液中の不要物質が除去される。血液浄化器10を通過して浄化された血液は、血液返送流路14を通って静脈穿刺針13から患者に戻される。
【0042】
この血液透析処理中に、例えば5分間に1回の頻度で間欠的に患者の血圧が測定される。
患者の血圧測定は、例えば次のように行われる。先ず図3に示すように、血液ポンプ15が停止されて血液供給流路12内の血液の送出が停止される。これにより血液の流れが止まる。これと同時に電磁弁17が閉じられ、血液供給流路12の血液ポンプ15の上流側が閉じられる。また、電磁弁42が開けられ、圧力検出用流路41が開放される。その後、圧力検出部40により血液供給流路12の圧力測定位置Aの圧力が検出され、その圧力情報が制御装置50に出力される。制御装置50の演算部52では、予め記憶部51に記憶されている患者の血圧と血液供給流路12の圧力との比Rに基づいて、圧力情報から患者の血圧が算出される。このとき、血液供給流路12の圧波動のピーク値とボトム値が、それぞれ収縮期血圧と拡張期血圧になる。当該算出された患者の圧力は、表示部53にリアルタイムで表示される。
【0043】
圧力測定のための血液の送出の停止時間は、例えば4秒以上、15秒以内に制御される。一定の停止時間経過後、電磁弁42が閉鎖され、電磁弁17が開放され、その後血液ポンプ15が再稼働して、血液の送出が再開される。
【0044】
本実施の形態によれば、圧力測定のために血液ポンプ15による血液の送出を停止した際に、電磁弁17により血液供給流路12の血液ポンプ15の上流側を閉鎖できるので、血液ポンプ15の停止により生じた血液供給流路12内の圧力変化や血液供給流路12自体の振動等がそこで断ち切られ、圧力測定位置Aの周辺の血液供給流路12やその内部の挙動が短時間で収束する。これにより、血液供給流路12内の圧力が短時間で安定し、圧力測定装置16による圧力測定を直ちに行うことができる。この結果、血液供給流路12における血流の停止時間を短縮して、血液浄化器10内等における血液の凝固を抑えつつ、安定した圧力測定を行うことができる。
【0045】
圧力測定装置16は、圧力検出部40と、圧力検出用流路41を有しているので、血液供給流路12の血液の流れを乱すことなく圧力の測定を適切に行うことができる。
【0046】
血液透析装置1は、圧力検出用流路41を開閉する電磁弁42を有しているので、例えば、血液透析中における血液ポンプ15の稼働時に、血液ポンプ15よりも上流側の血液供給流路12内の圧力が大気圧以下になった場合にあっても、圧力検出用流路41内の空気が血液供給流路12内に入り込むことを防止できる。
【0047】
血液透析装置1では、圧力検出用流路41の内径が2mm以下であるので、血液ポンプ15の停止時の圧力検出用流路41の挙動も短時間で安定する。このため、血液の送出の停止後に直ちに圧力測定を開始することができる。更に、圧力検出用流路41の内径が2mm以下では、圧力検出用流路41内の液体と空気が該圧力検出用流路に対して直角の境界面44を形成する。すなわち、圧力検出用流路41の断面における上部に空気層が形成され、下部に液体層が形成されるようなことがない。したがって、圧力測定装置16に対して、液体が流れ込むことがない。
【0048】
制御装置50は、血液ポンプ15による血液の送出を間欠的に停止させ、その停止時に電磁弁17により血液供給流路12を閉鎖させ、圧力測定装置16により血液供給流路12の圧力を測定させるので、圧力測定のプロセスを自動で適切に行うことができる。
【0049】
制御装置50は、血液の送出の間欠的な停止時間を4秒以上、15秒以内に制御するので、確実に血液供給流路12内の圧力を安定させ、確実に血液浄化器10内等における血液の凝固を抑制しつつ、血液供給流路12内の圧力を測定することができる。
【0050】
制御装置50は、入力された実測の血圧と、当該実測時の圧力測定装置16により測定され血液供給流路12の圧力との比Rに基づいて、圧力測定装置16により測定された血液供給流路12の圧力から血圧を算出する演算部52を有している。これにより、血圧の算出を簡単かつ正確に行うことができる。
【0051】
制御装置50は、算出された血圧を表示する表示部53を有している。これにより、患者の血圧状態を適時確認できる。
【0052】
液体と空気との境界面44が存在する圧力検出用流路41の領域を一定の高さに維持する渦巻き状圧力検出用流路部41aが形成されているので、境界面44の高さが変動せず、圧力検出部40による圧力検出を安定かつ正確に行うことができる。
【0053】
なお、圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面44を一定の高さに維持する高さ維持機構は、図4に示すように圧力検出用流路41に設けられたエアチャンバー60であってもよい。かかる場合、エアチャンバー60を、血液透析装置1の外壁等に固定することによって、検出用流路41内の液体と空気との境界面44を一定の高さに維持することができる。
【0054】
上記実施の形態においては、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面44の高さにより、圧力測定装置16の検出圧力を補正している。すなわち、記憶部51に記憶されているシャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面44の高さに相当する静水圧を圧力測定装置16の検出圧力に加えることにより、シャント血管と同じ高さにおける血液供給流路12の圧力をより正確に測定することができる。
【0055】
上記実施の形態において、血液透析処理中であって血圧を測定していない時に、血液供給流路12に対して圧力検出用流路41を閉鎖している際、圧力検出部40を大気に解放することによりゼロ点を調整してもよい。これにより、長時間使用による圧力検出異常を防ぐことができる。また、圧力検出流路41と、予め高さが分かっている電解質液バックと電解質液供給流路を介して接続することにより、圧力検出流路41と電解質液バックとの液面の高低差による静水圧で、圧力検出部40の検出値を補正してもよい。また、これら両方の補正を行ってもよく、かかるこの2点補正により、圧力補正精度の一層の向上が図れる。なお、電解質液バックは、血液透析終了時の血液回収時の血液供給流路12に電解質液を供給する際に使用できる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、開閉装置は、電磁弁に限られない。また、液体と空気との境界面の存在する領域の前記圧力検出用流路を同一の高さに維持する機構は、渦巻き状圧力検出用流路部41aやエアチャンバー60に限られない。更に、本発明は、血液透析装置以外の血液浄化装置にも適用できる。
【実施例】
【0057】
(実験1)
比較例として、圧力検出用流路41にエアチャンバーが設けられており、圧力検出用流路41の内径が4.7mmであり、且つ、血液供給流路12の電磁弁17が存在しない、血液透析装置(以下、「比較用血液透析装置100」という。)を作製した。本発明にかかる血液透析装置1として、圧力検出用流路41にエアチャンバー60が設けられており、圧力検出用流路41の内径が1mmであり、且つ、血液ポンプ15の停止と共に血液供給流路12の電磁弁17が閉じるものを使用した。末期維持透析患者6名に対し、本発明の血液透析装置1と、比較用血液透析装置100を用いて、各々血液浄化療法を行った。そして、血液浄化処理時に血液ポンプ15を停止させた後、圧力検出部40により血液供給流路12の圧力を測定し、血液ポンプ15を停止させた時点から圧力検出部40によりモニターしている血液供給流路12の圧力が安定するまでの時間を測定した。
【0058】
その結果、比較用血液透析装置100においては、血液ポンプ15を停止させた時点から圧力検出部40によりモニターしている血液供給流路12の圧力が安定するまでの時間が17.7±3.4秒であった。これに対し、本発明にかかる血液透析装置1においては、血液ポンプ15を停止させた時点から圧力検出部40によりモニターしている血液供給流路12の圧力が安定するまでの時間が5.5±1.1秒であった。両者間にはP(probability)(両群の群間差が存在する確立)<0.001で有意の差があった。すなわち、血液供給流路12の脈動、膨縮、振動などの要因による緩和時間の短縮が明らかとなり、精度の高い測定が短時間でできるようになった。この結果は、本発明では、血液ポンプ15を停止させている時間を短縮することができ、以って、血液浄化器10内などで血液が凝固することを有効に防止することができ、更に、より明らかな圧力の変化曲線を得ることができることを示している。
(評価症例1)
末期腎不全血液透析患者(女性、74才、透析歴4年)において、シャント肢とは反対側の腕の上腕部にマンシェットを巻き、血液浄化治療中に間欠的に収縮期血圧と拡張期血圧を測定し、これらの血圧から以下の式(1)を用いて平均血圧を算出した。この算出値を実測平均血圧とする。
【0059】
実測平均血圧=(収縮期血圧−拡張期血圧)/3+拡張期血圧 (1)
また、血圧の測定と同時に、図1に示す血液透析装置1において、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面の高さで補正された血液供給流路12の平均圧を測定した。以下、「血液供給流路12の平均圧」は、シャント血管に対する圧力検出用流路41内の液体と空気との境界面の高さで補正されたものとする。初回測定時における血液供給流路12の平均圧に対する実測平均血圧の比R1(初回測定時における実測平均血圧÷初回測定時における血液供給流路の平均圧)を用いて、式(2)により、その後に測定された血液供給流路12の平均圧を平均血圧に変換することにより、測定平均血圧を算出した。測定平均血圧=R1×補正血液供給流路の平均圧 (2)
ただし、R1は、初回測定時における血液供給流路12の平均圧対する実測平均血圧の比である。
【0060】
図5に示すように、測定平均血圧は実測平均血圧に一致した。
(評価症例2)
末期腎不全血液透析患者(女性、66才、透析歴6年)において、シャント肢とは反対側の腕の上腕部にマンシェットを巻き、血液浄化治療中に間欠的に収縮期血圧と拡張期血圧を測定し、これらの血圧から上記の式(1)を用いて実測平均血圧を算出した。
【0061】
また、血圧の測定と同時に、図1に示す血液透析装置1において、血液供給流路12の平均圧を測定し、血液供給流路12の平均圧から上記の式(2)により測定平均血圧を算出した。
【0062】
図6に示すように、この患者でも推定平均血圧は実測平均血圧に一致した。このように、本発明によれば、患者の負担なく血圧の変化を把握できることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 血液透析装置
10 血液浄化器
11 動脈穿刺針
12 血液供給回路
13 静脈穿刺針
14 血液返送回路
15 血液ポンプ
16 圧力測定装置
17 電磁弁
40 圧力検出部
41 圧力検出用流路
41a 渦巻き状圧力検出用流路部
42 電磁弁
44 境界面
50 制御装置
51 記憶部
52 演算部
53 表示部
A 圧力測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化装置であって、
血液を浄化する血液浄化器と、
動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、
前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、
前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に間欠的に送出可能な血液送出装置と、
前記血液送出装置による血液の送出が停止している間において前記血液送出装置よりも上流側の血液供給流路内の圧力を測定する圧力測定装置と、
前記圧力測定装置による圧力測定位置と前記血液送出装置との間で前記血液供給流路を開閉する開閉装置と、を有する、血液浄化装置。
【請求項2】
前記血液送出装置による血液送出の間欠的な停止時に、前記開閉装置により前記血液供給流路を閉鎖させ、更に、前記圧力測定装置により前記血液供給流路の圧力を測定させる制御装置を有する、請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記血液送出の間欠的な停止時間を4秒以上、15秒以内に制御する、請求項2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記圧力測定装置が、圧力検出部と、当該圧力検出部と前記血液供給流路とを連通させる圧力検出用流路と、を有する、請求項1〜3に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記圧力検出用流路を開閉する他の開閉装置を有する、請求項4に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記圧力検出用流路の内径が2mm以下である、請求項4又は5のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記圧力検出用流路内の前記血液供給流路側が液体に満たされ、前記圧力検出部側が空気に満たされて、前記圧力検出用流路内に液体と空気との境界面が存在している、請求項4〜6のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記圧力検出用流路内の液体と空気との境界面を一定の高さに維持する高さ維持機構をさらに有する、請求項7に記載の血液浄化装置。
【請求項9】
前記高さ維持機構は、前記圧力検出用流路に設けられたエアチャンバーである、請求項8に記載の血液浄化装置。
【請求項10】
前記高さ維持機構は、前記液体と空気との境界面が存在する前記圧力検出用流路の領域を一定の高さに維持する機構である、請求項8に記載の血液浄化装置。
【請求項11】
前記圧力検出部により測定された測定値を、シャント血管に対する前記圧力検出用流路内の前記液体と空気との境界面の高さにより補正する機能を有する、請求項7〜10のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項12】
前記圧力測定装置において、血液浄化処理中の血圧を測定していない時であって、血液供給流路に通じる圧力検出用流路を閉鎖し、圧力検出部を大気に解放したゼロ点補正、及び/或いは、圧力検出部を、予め高さが分かっている電解質液バッグと連通させることにより、電解質液バッグ内の液面との高低差に相当する静水圧にて圧力調整する、請求項4〜11のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項13】
入力された実測の血圧と、当該実測時に前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路内の圧力との比を用いて、前記圧力測定装置によりその後に測定される前記血液供給流路の圧力から血圧を算出する演算部を有する、請求項1〜12に記載の血液浄化装置。
【請求項14】
前記演算部において算出された前記血圧を表示する表示部を有する、請求項13に記載の血液浄化装置。
【請求項15】
血液浄化装置の作動方法であって、
前記血液浄化装置は、
血液を浄化する血液浄化器と、
動脈穿刺針から前記血液浄化器に血液を供給するための血液供給流路と、
前記血液浄化器から静脈穿刺針に血液を返送するための血液返送流路と、
前記血液供給流路上に設けられ、血液を前記血液浄化器に間欠的に送出可能な血液送出装置と、
前記血液送出装置による血液の送出が停止している間において前記血液送出装置よりも上流側の血液供給流路内の圧力を測定する圧力測定装置と、
前記圧力測定装置による圧力測定位置と前記血液送出装置との間で前記血液供給流路を開閉する開閉装置と、を有するものであり、
前記血液送出装置による血液の送出を間欠的に停止させ、該血液送出装置の上流側において、該血液送出装置の停止と共に前記開閉装置により前記血液供給流路を閉鎖させ、前記圧力測定装置により前記血液供給流路の圧力を測定させる制御装置が作動する、血液浄化装置の作動方法。
【請求項16】
前記制御装置は、前記血液の送出の間欠的な停止時間を4秒以上、15秒以内に制御する、請求項15に記載の血液浄化装置の作動方法。
【請求項17】
前記制御装置は、実測の血圧と、当該実測時に前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路の圧力との比に基づいて、前記圧力測定装置により測定された前記血液供給流路の圧力から血圧を算出する、請求項15又は16に記載の血液浄化装置の作動方法。
【請求項18】
前記圧力測定装置は、圧力検出部と、当該圧力検出部と前記血液供給流路とを連通する圧力検出用流路とを有し、
前記血液浄化装置は、前記圧力検出用流路を開閉する他の開閉装置をさらに有し、
前記制御装置は、前記血液の送出の停止時には、前記他の開閉装置により前記圧力検出用流路を開放し、前記血液の送出時には、前記他の開閉装置により前記圧力検出用流路を閉鎖する、請求項15〜17のいずれかに記載の血液浄化装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−152289(P2012−152289A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12187(P2011−12187)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【出願人】(500277803)有限会社ネクスティア (17)
【Fターム(参考)】