説明

血液疾患の治療におけるHLA−Gの可溶形を含む組成物の使用

本発明は、血液および循環系の疾患(貧血および虚血)の治療におけるHLA-Gの可溶型を含む組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液および循環系の疾患(貧血および虚血)の治療におけるHLA-Gの可溶形を含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
主要組織適合複合体(MHC)抗原は、いくつかのクラスに分けられる。3つの球状ドメイン(α1、α2およびα3)を有し、これらのうちα3ドメインはβ2-ミクログロブリンと関連するクラスI抗原(HLA-A、HLA-BおよびHLA-C)、クラスII抗原(HLA-DP、HLA-DQおよびHLA-DR)ならびにクラスIII抗原(補体)である。
【0003】
クラスI抗原は、上記の抗原の他に、非古典的(nonclassical)クラスI抗原とよばれるその他の抗原、特に抗原HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gを含む。
【0004】
HLA-G遺伝子(HLA-6.0遺伝子)の配列は、Geraghtyら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 9145〜9149)により記載されている。これは4396塩基対を含み、HLA-A、-Bおよび-C遺伝子のものと相同なイントロン/エキソン機構を有する。より具体的には、この遺伝子は8つのエキソン、7つのイントロンおよび非翻訳(untranslated)3'末端を含む。8つのエキソンは、それぞれ、エキソン1:シグナル配列、エキソン2:α1細胞外ドメイン、エキソン3:α2細胞外ドメイン、エキソン4:α3細胞外ドメイン、エキソン5:膜貫通領域、エキソン6:細胞質ドメインI、エキソン7:細胞質ドメインII (非翻訳)、エキソン8:細胞質ドメインIII (非翻訳)および3'非翻訳領域に対応する(Geraghtyら, 上記;Ellisら, J. Immunol., 1990, 144, 731〜735;Kirszenbaum M.ら, Oncogeny of hematopoiesis. Aplastic anemia E. Gluckman, L. Coulombel編, Colloque INSERM/John Libbey Eurotext Ltd)。しかし、HLA-G遺伝子は、フレーム内翻訳停止コドンがエキソン6の第2コドンに位置し、結果としてこのHLA-6.0遺伝子によりコードされるタンパク質の細胞質領域がHLA-A、-Bおよび-Cタンパク質の細胞質領域より短いという点において他のクラスI遺伝子から異なる。
【0005】
これらのHLA-G抗原は、本来、胎盤の細胞栄養層細胞により発現され、胎児の保護(母からの拒絶の欠如)において役割を担っていると考えられている。さらに、HLA-G抗原が単形性であるかぎりは、HLA-G抗原は胎盤細胞の増殖または機能にも関連し得る(Kovatsら, Science, 1990, 248, 220〜223)。
【0006】
この非古典的クラスI抗原に関するその他の研究(Ishitaniら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1992, 89, 3947〜3951)は、HLA-G遺伝子の一次転写産物が多くの様式でスプライスされ、少なくとも3つの区別される成熟mRNAを産生し得ることを示している。HLA-Gの一次転写産物は、1200 bpの完全なコピー(G1)、900 bpの断片(G2)および600 bpの断片(G3)を与える。
【0007】
G1転写産物はエキソン7を含まず、Ellisら(上記)に記載の配列に相当する。すなわち、これはシグナル配列、3つの外部ドメイン、膜貫通領域および細胞質配列を含むタンパク質をコードする。G2 mRNAはエキソン3を含まず、すなわちα1およびα3ドメインが直接結びついている(attach)タンパク質をコードする。G3 mRNAは、エキソン3もエキソン4も含まない。すなわち、これは、α1ドメインと膜貫通ドメインとが直接結びついたタンパク質をコードする。
【0008】
HLA-G2抗原を得るために広く行なわれるスプライシングは、アデニン(A) (α1コーディングドメインを起源とする)を配列AC (α3コーディング領域に由来)に隣接させ、このことによりGACコドン(アスパラギン酸)の位置にAACコドン(アスパラギン)がつくり出され、これはHLA-G1においてα3ドメインをコードする配列の始めに生じる。
【0009】
HLA-G3を得るために生じるスプライシングは、スプライシング領域内に新しいコドンの形成をもたらさない。
この文献の著者らは、発現された種々のタンパク質をも分析した。3つのmRNAは、.221-G細胞系統でのタンパク質に翻訳される。
【0010】
この文献の著者らは、HLA-G分子が、母仔免疫応答に対して胎児を保護する基本的な役割(免疫寛容の誘導)を有すると結論付けている。本発明者の幾人かは、この役割を確認している。栄養膜の表面で発現されるHLA-G分子は、母性ナチュラルキラー(NK)細胞による溶解に対して胎児細胞を効果的に保護する(Carosella E.D.ら, C.R. Acad. Sci., 318, 827〜830; Carosella E.D.ら;Immunol. Today, 1996, 407〜409)。
【0011】
さらに、本発明者の幾人かは、HLA-G mRNAの他のスプライスされた形、エキソン4を含まないHLA-G4転写産物;エキソン4と5との間にイントロン4を含み、よってこの転写産物の翻訳の間にリーディングフレームの修飾をもたらし、特にイントロン4のアミノ酸21の後に停止コドンの出現をもたらすHLA-G5転写産物;イントロン4を有するがエキソン3を失っているHLA-G6転写産物 (Kirszenbaum M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1994, 91, 4209〜4213:欧州特許出願EP 0 677 582;Kirszenbaum M.ら, Human Immunol., 1995, 43, 237〜241;Moreau P.ら, Human Immunol. 1995, 43, 231〜236);ならびにイントロン2を含み、それによりこの転写産物の翻訳の間にリーディングフレームの修飾およびイントロン2のアミノ酸2の後に停止コドンの出現をもたらすHLA-G7転写産物の存在を示している。彼らは、これらの種々の転写産物が胎児および成人のヒトの細胞のいくつかのタイプ、特にリンパ球で発現されることも示している(Kirszenbaum M.ら, Human Immunol., 1995, 上記;Moreau P.ら, Human Immunol. 1995, 上記)。
【0012】
よって、少なくとも7つの異なるHLA-G mRNAが存在し、これらは7つのHLA-Gアイソフォームをコードする可能性があり、そのうち4つは膜アイソフォーム(HLA-G1、G2、G3およびG4)であり3つは可溶性アイソフォーム(HLA-G5、G6およびG7)である。
【0013】
HLA-G抗原の分布は、免疫の恩恵を受ける部位(immune-privileged site)、特に母子中間面(feto-maternal interface)に限定される。
【0014】
今回、膜結合HLA-G1タンパク質が絨毛外(extravillous)細胞栄養層細胞において主に発現され、ここで該タンパク質は母性起源の免疫細胞に対して胎児を保護することが確立された。膜結合アイソフォームおよび可溶性アイソフォームの両方は免疫寛容であり、すなわちこれらはNK細胞媒介およびCTL媒介の細胞溶解ならびに異種増殖性(alloproliferative) T応答を阻害する。さらに、これらはCD8+ NK細胞およびT細胞においてアポトーシスを誘導する。
【0015】
よって、HLA-Gタンパク質は、細胞表面で発現されるときと、分泌されるとき(遠隔作用)の両方においてその機能を局所的にはたらかせる。よって、該タンパク質は、体の免疫監視を行う(Teyssier Em.ら, Nat. Immunol., 1995, 14, 262〜270)。
【0016】
以前の研究により、全ての選択可能な転写産物をつくり出す可能性があるゲノムHLA-G DNAを含むベクターでのトランスフェクションにより得られる標的細胞の表面でのHLA-G分子の発現は、該標的細胞を母性の子宮内膜の脱落膜のNK細胞の溶解活性に対して保護することを可能にすることが明らかになっている(Chumbley G.ら, Cell Immunol., 1994, 155, 312〜322;Deniz G.ら, J. Immunol., 1994, 152, 4255〜4261)。
【0017】
研究を続けた本発明者らは、ある特定の充実性腫瘍がHLA-G抗原を発現し、腫瘍系統に応じて膜結合および可溶性のHLA-Gアイソフォームが異なりかつ膜結合形HLA-G1-G4の存在がNK細胞誘導溶解に対して腫瘍細胞を保護したことを示している(特許出願FR 2 775 294)。
【0018】
さらに、本発明者らの幾人かは、炎症性の病理的皮膚症状の治療におけるHLA-G可溶形の利点を示している(PCT国際出願WO 00/78337)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者らは、今回、驚くべきことに、可溶形HLA-Gの他の所在位置を見出した。特に、これらの可溶性HLA-Gアイソフォームは、妊娠の第1トリメスターの胎盤血管の赤血球系細胞ならびに胚の早期脈管化および赤血球産生の間に存在する。
【0020】
よって、驚くべきことに、本発明者らは、可溶性HLA-Gアイソフォームが非免疫学的な機能も行うことを示している。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のねらいは、可溶性HLA-Gアイソフォームの非免疫学的な機能に直接つながる、特に血液循環疾患、例えば貧血または虚血における可溶性HLA-Gアイソフォームの新規な適用を提供することである。
【0022】
よって、本発明の主題は、少なくとも1種の可溶性HLA-Gアイソフォームと少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤とを含む組成物の、血液循環疾患の治療用の医薬品を製造するための使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の目的のために、「血液循環疾患」の用語は、血液疾患および循環系(循環手段)疾患の両方を意味することを意図する。
【0024】
上記の使用の有利な実施形態によると、上記の疾患は貧血および虚血からなる群より選択される。
【0025】
実際に、本発明者らは:
1. 赤芽球の網状赤血球への増殖、分化および成熟
(HLA-Gの導入は、ある特定の循環系疾患において観察され得る循環赤芽球の成熟を刺激し得る(K. V. Wagnerら, Development, 2000, 127, 4949〜4958;M. Ogawaら, Blood, 1997, 50, 6, 1081〜1092))
および
2. 新血管新生(脈管形成プロセス)
における可溶性HLA-Gアイソフォームの利点を示している。
【0026】
本発明によると、上記の組成物は、次の形態の1つである。
- 非経口または経口投与に適する液体の形態、
- 溶解または懸濁の後に非経口投与に適するかまたは経口投与に適する固体の形態。
【0027】
これらの2つの形態に適する添加剤は、好ましくは:水、NaCl、デキストロース、グリセロール、エタノールまたはこれらの物質の組み合わせである。他の物質、例えば湿潤剤、乳化剤または緩衝剤を有利に添加し得る。
【0028】
また、本発明の主題は、生物学的試料中の可溶性HLA-Gアイソフォームを発現する非免疫学的機能を有する細胞(赤血球系および内皮系の細胞)を検出しかつ任意に弁別する方法でもあり、該方法は少なくとも次の工程を含むことを特徴とする。
(a) 試験されるべき生物学的試料を、次のマーカー:可溶性HLA-Gアイソフォーム、CD71、CD34およびCD45に指向された抗体からなる群より選択される抗体のパネルと接触させ、そして
(b) (a)で規定されるマーカーの赤血球系および内皮系の発現プロフィルにより、赤血球系および内皮系の分化の種々の段階に対応する細胞を検出しかつ任意に弁別する。
【0029】
上記の方法の有利な実施形態によると、該方法は:
(a) 試験されるべき生物学的試料を、次のマーカー:可溶性HLA-Gアイソフォーム、CD71、CD34およびCD45に指向された抗体からなる群より選択される抗体のパネルと接触させ、そして
(a') 可溶性HLA-Gアイソフォームを発現する細胞を選択し、そして
(b) CD71マーカーを用いて細胞のタイプを検出する
ことを含む。
【0030】
実際に、HLA-Gを発現する内皮細胞と、HLA-Gを発現する赤血球系の細胞とは、後者のみがCD71マーカーを発現するという事実により区別され得る。
【0031】
本発明によると、生物学的試料は、有利には、血液試料(赤血球系の循環細胞の検出)または骨髄試料である。
【0032】
定義
- 初期造血(primitive hematopoiesis):卵黄嚢における発生の第一段階において。短期の赤血球系骨髄(erythromyeloid)の再構成。
- 造血幹細胞(HSC)の産生:胚内大動脈周囲内臓包葉/大動脈−生殖腺−中腎(intraembryonic para-aortic splanchnopleura/aorta-gonad-mesonephros;P-Sp/AGM)領域がHSCを産生し、これは自己再生が可能な多分化能前駆体に相当し、続いて胎児の肝臓および胸腺を確立する。
【0033】
- 永続(definitive)造血:骨髄において胚内生命の第2トリメスターから開始し、成体の生命を通して持続する。
- 赤血球系細胞:胚内生命の間に現れる最初の造血細胞であり、成熟赤血球のもとである。
- 卵黄嚢:胚発生の15〜24日の間の細胞の群の形で卵黄嚢内に現れ、クラスタの外細胞(outer cell)から内皮細胞に分化しかつ内細胞(inner cell)から造血細胞に分化する血島。
- 血管芽細胞:卵黄嚢に存在する内皮細胞と造血細胞との共通の前駆体。
【0034】
- 初期造血器官:胚性肝臓、胎児骨髄。
- 出芽血管(budding vessel):卵黄嚢の絨毛膜絨毛および尿膜近傍部にある。
【0035】
上記の方法の有利な実施形態によると、工程a)に先立って、上記の生物学的試料の細胞を透過可能にする。この工程は、細胞質中に分泌される検出されるべきマーカーに、それらが通常の循環に入る前(可溶性HLA-Gアイソフォームの場合)に、抗体が近づくことを効果的に獲得することを許容する。
【0036】
よって、以下に示すような細胞に特徴的な分布のプロフィルが得られる。
【0037】
【表1】

【0038】
結果として:
- 可溶性HLA-Gアイソフォームは、胚から成体まで赤血球系の全ての細胞および造血器官の全てで発現されるが、成熟赤血球では見出されない。さらに、CD34+ CD45+造血幹細胞(HSC)では可溶性HLA-Gアイソフォームの発現は観察されない。このことは、可溶性HLA-Gアイソフォームが多分化能幹細胞に何の作用も有さないことを意味する。
赤血球系の分化の間に、成熟の段階に関わらず、インビトロで可溶性HLA-Gアイソフォームが産生されるということもできる。これらの結果は、可溶性HLA-Gアイソフォームが赤血球系の前駆体の増殖および/または成熟に関係することを確かにする。
【0039】
- 可溶性HLA-Gアイソフォームは、胚の早期の段階で内皮細胞において発現されるが、成熟血管の内皮細胞では見出されない。特に、可溶性HLA-Gアイソフォームは、絨毛膜絨毛および卵黄嚢の尿膜近傍部の出芽血管において検出される。
【0040】
上記の規定の他に、本発明は、本発明の実施例および添付の図面に言及する以下の記載から明らかになるであろうその他の規定も含む。添付の図面では、
- 図1は、可溶型HLA-Gに対する5A6G7抗体の特異性を示す。
図1Aは、ウェスタンブロッティングにより得られた結果を示す。5A6G7抗体の特異性は、M8-pcDNA、M8-HLA-G1、M8-HLA-G5およびM8-HLA-G6系統について試験された。並行して、4H84抗体(McMasterら, J. immunol., 1998およびPaulら, Hum. Immunol., 2000)を用いた。4H84抗体は、HLA-G1、HLA-G5およびHLA-G6に対応する3つのバンドを明らかにする。5A6G7抗体は、HLA-G5およびHLA-G6に対応する2つのバンドを明らかにする。HLA-Gを発現しないM8-pcDNA系統は、4H84抗体または5A6G7抗体のいずれでも標識されない。
【0041】
図1Bは、免疫細胞化学により得られた結果を示す。4H84抗体およびイソタイプのコントロールと並行して5A6G7抗体の特異性を、M8-pcDNA、M8-HLA-G1およびM8-HLA-G5系統について試験した。陽性の標識は灰色により特徴付けられる。3つの系統のそれぞれについて、標識に用いられた抗体を最上部に示す。ライン1:HLA-Gを発現しないM8-pcDNA系統は、4H84抗体または5A6G7抗体のいずれでも標識されない。ライン2:5A6G7抗体により認識されるエピトープを有さないM8-HLA-G1系統は、4H84抗体でのみ標識される。ライン3:M8-HLA-G5系統は、2つの抗体4H84および5A6G7で標識される(倍率×40)。
【0042】
図1Cは、共焦顕微鏡により分析される免疫蛍光により得られた結果を示す。5A6G7抗体の特異性をM8-pcDNA、M8-HLA-G1、M8-HLA-G5、FOおよびFO-HLA-G6系統について試験した。予想されたように、M8-HLA-G5およびFO-HLA-G6細胞は5A6G7B12抗体で標識されるが、5A6G7抗体により認識されるエピトープを有さないM8-pcDNA、M8-HLA-G1およびFO細胞は標識されない。4H84抗体は、全てのHLA-Gアイソフォームを特異的に認識する参照抗体である。
【0043】
- 図2は、妊娠の第1トリメスターからの栄養膜の赤芽球における可溶性HLA-G5およびG6アイソフォームの存在を示す。a:パラフィン包埋栄養膜切片に対する5A6G7抗体を用いた免疫組織化学的分析により測定された、細胞島栄養膜(cell island trophoblast)またはCITによる可溶性アイソフォームの発現、しかしPVT (絨毛周囲(perivillous)栄養膜)では発現しない。b:第1トリメスターの栄養膜に存在する発達中の血管に対する次のマーカーの発現の免疫化学による分析:HLA-G5/G6、CD34、CD71およびCD45。c:32日胚の栄養膜の切片での分化した血管の、HLA-G5/G6に指向された抗体(5A6G7)、血管の内皮細胞(ED)を標識するCD34、赤血球系細胞(ER)を同定するCD71ならびに骨髄性細胞およびリンパ系細胞の両方を標的するCD45に指向された抗体を用いる免疫組織化学染色。
【0044】
- 図3は、HLA-G5が胎児肝臓の赤血球系細胞に存在することを示す。a:2つの胎児肝臓(9週および12週)から抽出された全タンパク質をSDS-PAGEゲル上に流し、続いて5A6G7抗体を用いてイムノブロッティングすることによる、可溶性HLA-G5アイソフォームの同定。HLA-G5 DNAでトランスフェクションされたM8細胞(M8-HLA-G5)またはコントロールベクターのみでトランスフェクションされたM8細胞(M8-pcDNA)を、それぞれ陽性および陰性コントロールとして用いる。b:32日胚の肝臓の、HLA-G5、CD34およびCD45のそれぞれに指向された抗体を用いる免疫組織化学分析。HLA-G5は、卵黄嚢起源でかつ洞様毛細血管の管腔(胚の毛細血管)に存在する赤血球系細胞に検出される。内皮細胞はCD45+である。幹細胞に関連するいくつかの細胞はCD34+およびCD45+であり、AGMからくる最初の前駆細胞であるとみなし得る。
【0045】
- 図4は、免疫組織化学により分析される胚、胎児、小児および成体の各段階を示す。
【実施例】
【0046】
実施例1:可溶性HLA-Gアイソフォームに特異的に指向された5A6G7とよばれるモノクローナル抗体の産生
1.1 腹水の取得
5A6G7モノクローナル抗体を、オボアルブミン(OVA)キャリアタンパク質に結合した、
SKEGDGGIMSVRESRSLSEDL (配列番号1)
の配列の、可溶型HLA-Gのイントロン4によりコードされるC-末端部分に対応する合成21マーペプチドで免疫したBalb/cマウスの脾細胞から、通常のプロトコルを用いて作製する。
【0047】
1.2 5A6G7モノクローナル抗体の精製の工程
5A6G7モノクローナル抗体を、腹水からプロテインA-セファロースアフィニティクロマトグラフィを用いて精製し、該抗体は可溶型HLA-Gの検出、抗体価測定および精製に用い得る。
【0048】
1.3 可溶性HLA-G5およびHLA-G6についての特異性の試験
良好な特異性を有する抗体を得るために要求される基準は、次のとおりである。
- ベクターpcDNA単独、またはHLA-G1、-G2、-G3、-G4、-G5もしくは-G6 cDNAでそれぞれトランスフェクションされたM8細胞(M8黒色腫細胞系統に由来する細胞)からのタンパク質溶解物に存在する37 kDa HLA-G5および28 kDa HLA-G6タンパク質の検出、しかし他のHLA-Gアイソフォームおよび他のクラスI HLA分子の非検出。M8-pcDNA、M8-HLA-G1、M8-HLA-G5およびM8-HLA-G6は、それぞれ、空のベクター、HLA-G1、HLA-G5またはHLA-G6でトランスフェクションされたM8黒色腫細胞系統由来の細胞である。 FOおよびFO-HLA-G6は、それぞれ、空のベクターまたはHLA-G6でトランスフェクションされたFO黒色腫細胞系統由来の細胞である。
【0049】
- 異なるタイプのクラスI HLAを発現するヒト細胞系統からのタンパク質溶解物のウェスタンブロッティング分析によるHLA-A、-B、-Cおよび-Eタンパク質の非検出。
- M8-HLA-G5細胞上清からの37 kDa HLA-G5タンパク質の免疫沈降。
- M8-HLA-G5およびM8-HLA-G6細胞の特異的免疫細胞化学染色、しかしM8-pcDNA、-HLA-G1、-G3および-G4でトランスフェクションされた他の細胞または明確なクラスI HLAタイプを発現する健康が良好な数人の成体のドナーからの末梢血単核細胞の非染色。
【0050】
- パラフィン包埋栄養膜組織切片の免疫組織化学染色、しかし正常な成体のパラフィン包埋組織切片(すなわち皮膚、肝臓、腎臓、十二指腸)の非染色。このモノクローナル抗体は、イントロン4によりコードされるエピトープを含有しない膜結合型HLA-Gの剥離により生じる可溶性HLA-Gタンパク質と、代わりにイントロン4を含有するスプライスされたmRNAから産生されるHLA-G5/-G6タンパク質との間の区別を特に可能にする。
【0051】
実施例2:第1トリメスター段階の胎盤を起源とする長期にわたる(chorionic)血管の循環細胞中の可溶性HLA-Gの検出
実施例1に記載のモノクローナル抗体(5A6G7)は、組織切片における可溶性HLA-Gアイソフォームの組織分布を研究することを可能にした。予備的な分析において、第1トリメスター段階の胎盤組織を分析した。
【0052】
2.1 材料および方法
2.1.1 組織
ヒトの胚および胎児の組織を、子宮外妊娠、流産および異常胎児からの中絶(本質的に21トリソミーおよび18トリソミー)を起源とする保管されたスライドから分析した。胚の発達段階を、カーネギー(Carnegie)分類(O'Rahillyら, 1987)に従ういくつかの解剖学的基準を基に評価する。合計で、19の胚、6の胎児および5の成体を選択し、合計で56の組織を図4に示すような免疫組織化学により分析した。
【0053】
2.1.2 モノクローナル抗体
- 5A6G7抗体を実施例1に記載のようにして調製した。
- 4H84抗体は、全てのHLA-Gアイソフォームを認識する参照抗体である。
- トランスフェリンCD71受容体に指向されたモノクローナル抗体(Novocastra Laboratories, UK)を用いて赤血球系細胞を同定した。
【0054】
- CD34に指向されたモノクローナル抗体(Novocastra Laboratories)およびCD45に指向されたモノクローナル抗体(Dako, FR)は、造血前駆細胞を検出することを可能にするが、CD34に指向されたモノクローナル抗体だけが内皮前駆細胞を認識することを可能にする。
【0055】
2.1.3. 赤血球系細胞培養
赤血球系細胞の培養(1.105の臍帯血細胞または骨髄細胞)を、メチルセルロース、10%のLCM (リンパ球馴化培地;lymphocyte conditioned medium) (Stem cell, Vancouver)および2 U/mlのEPO (Roche, FR)を含有する半固形培地上に播種した。これらの培養を37℃で、5% CO2含有雰囲気下に14日間インキュベートする。
【0056】
2段階(two-phase)液体培養を用い、次のように規定する。簡単に、(例えば臍帯の)細胞をフィコール(Ficoll) 1077 (SIGMA)勾配での遠心分離により単離し、10%のウシ胎児血清(FCS, Sigma)、1μg/mlのシクロスポリンA (Novartis)およびHLA-G-陰性5637膀胱癌腫細胞系統(ATCC no. HTB-9)から回収された培地10%を補ったアルファ最少必須培地(α-MEM, Sigma)中に106細胞/mlの密度で培養に付す。培養物を7日間、37℃で、5% CO2を含有する雰囲気下に98%湿度の空気中でインキュベートする。この第I段階培養の後に、非付着細胞を回収し、洗浄し、α-MEM、30% FCS、1%ウシ血清アルブミン、10-5 Mのβ-メルカプトエタノール、15 mMのL-グルタミン、10-6 Mのデキサメタゾンおよび1 U/mlの組換えエリスロポエチン(Epo, Roche)中に0.4×106細胞/mlの密度で5〜6日間播種する(第II段階培養とよばれる)。
【0057】
2.1.4. 免疫組織化学分析
脱パラフィン組織切片を、免疫反応性を最適化するために、市販の電子レンジを用いる10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)中での高温エピトープ回収処理に付す。組織切片を0.1%サポニンを含む1×PBSと10 mM Hepes緩衝液を用いて透過可能にした。内因性ペルオキシダーゼ活性を、切片を5分間、周囲温度で水中の3%過酸化水素で処理することにより阻害する。非特異的結合は、一次抗体で30分間、周囲温度で染色する前に、50 mM Tris、3% BSA (Sigma)および40%ヒト血清を20分間加えることにより防止する。次いで、HLA-Gタンパク質の発現を、一連の組織切片または細胞について、UltraTech HRPユニバーサルビオチン検出システム(Immunotech, Coulter, France)を製造業者の使用説明に従って用いて評価する。BFU-E細胞によるHLA-G発現の免疫細胞化学分析は、スピンの前に半固形培地での培養から回収してPBSで洗浄したサイトスピンしたBFU-E細胞について行う。
【0058】
2.2 結果
図2aに示すように、HLA-G5およびHLA-G6タンパク質は、絨毛外栄養膜細胞に局在化する。さらに驚くべきことに、これらの可溶性HLA-G分子は、5A6G7モノクローナル抗体での染色により、栄養膜細胞層に付随する出芽血管と近接する細胞または絨毛軸(villous axes)が全くない細胞または成熟血管のルーメンに位置する細胞のいずれかにおいて検出された(図2bおよび2c)。HLA-Gのこの新規な細胞局在性は、別の抗-HLA-G抗体、参照87Gモノクローナル抗体を用いて確かめられる。
【0059】
形態学的に赤芽球に類似する、HLA-Gタンパク質を発現するこれらの細胞をより精密に同定するために、32日胚を起源とする一連のパラフィン包埋栄養膜切片について、以下のマーカーの検出により、免疫組織化学分析を行なった。
- CD71トランスフェリン受容体:赤血球(BFU-E、バースト形成単位)から網状赤血球まで発現される。
- CD34:内皮および造血前駆細胞の両方により発現される。
- CD45:造血前駆細胞からリンパ球系および骨髄系の成熟細胞まで発現される。
- 可溶性HLA-G5およびHLA-G6タンパク質。
【0060】
結果は、可溶性アイソフォームがCD71+赤血球系細胞の副次集団全体により発現される一方、ほとんどのHLA-G+細胞はCD34幹細胞マーカーを共発現しないことを示す(図2bおよび2c)。
逆に、成熟慢性血管の内皮細胞は、CD34+、HLA-G-、CD71-およびCD45- (図2c)である。
これらの結果は、可溶性HLA-Gアイソフォームが、赤血球産生系に属する造血細胞中に存在すると結論付けることを効果的に可能にする。
【0061】
実施例3:胎児赤芽球における可溶性HLA-G5アイソフォームの同定
胎児赤血球系細胞に存在する可溶性HLA-Gアイソフォームを特徴付けるために、赤芽球が主要な構成成分である器官、すなわち胎児での赤血球細胞の主要な生産者である肝臓を用いた。
【0062】
3.1 材料および方法
3.1.1 組織およびモノクローナル抗体
タンパク質を、2つの別個の胚、それぞれ9週および12週のものから得られた肝臓から抽出する。分析を行う組織は、実施例2に記載されたものである。
実施例1に記載の5A6G7モノクローナル抗体を、免疫組織化学分析に用いた。
【0063】
3.1.2 ウェスタンブロッティング分析
9-および12-週の胎児肝臓を粉砕し、プロテアーゼ阻害剤と冷緩衝剤を含有する50 mMのTris-HCl、pH 7.4、150 mMのNaCl、1% ノニデット(Nonidet) P-40 (Sigma)中で1時間溶解する。M8-HLA-G5およびM8-pcDNAでトランスフェクションされた細胞の溶解物を、HLA-G5に対するそれぞれ陽性および陰性コントロールとして用いた。15000 g、4℃で30分間の遠心分離の後、6×Laemmliバッファーを上清に加えた。試料を10分間95℃で加熱し、その後12% SDS-PAGEゲルにのせた。次いで、タンパク質をニトロセルロースメンブレン(Hybond-Cエクストラ)にエレクトロブロッティングした。メンブレンを非特異的結合に対抗して、4℃で一晩、0.2%のTween 20を含有するPBS (PBST)中の5%乾燥スキムミルクで処理した。PBST中での洗浄の後、メンブレンをHRP-コンジュゲート抗-マウス抗体で30分間、室温でインキュベートし、PBSTで洗浄した。HLA-Gタンパク質を化学発光(ECL Plusキット) (Menierら, Hum. Immunol., 2003, 64, 315〜326)により検出した。
【0064】
3.2 結果
5A6G7モノクローナル抗体を用いるウェスタンブロッティングにより、HLA-G5重鎖の分子量に相当する37 kDaのタンパク質が検出される(図3)。M8-pcDNAおよびM8-HLA-G5トランスフェクタントは、HLA-G5に対するそれぞれ陽性および陰性コントロールとして用いる。この結果は、胎児赤芽球で検出される可溶性HLA-GアイソフォームがHLA-G5アイソフォームであることを示す。この結果に一致して、免疫組織化学分析は、パラフィン包埋胎児肝臓組織において、以下の実施例で詳細に述べるように、多くのHLA-G+細胞(5A6G7モノクローナル抗体とのインキュベーション)を検出することを可能にした。
【0065】
実施例4:全ての胚および胎児造血器官における可溶性HLA-G5アイソフォームの分布
胚および胎児の造血器官の全てにおける可溶性HLA-G5アイソフォームの分布を、パラフィン包埋胎児組織および胚切片について、HLA-G5、CD71、CD34またはCD45に指向されたモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学実験を行うことにより分析する。
【0066】
4.1 材料および方法
分析した組織は、実施例2に記載のような胚および胎児の造血器官からである。
実施例1のHLA-G5に指向されたモノクローナル抗体(5A6G7)およびマーカーCD71、CD34およびCD45は、実施例2に記載の条件で用いた。
【0067】
4.2 結果
HLA-GとCD71受容体との共局在化は、全ての胚および胎児の造血器官:卵黄嚢、胚内大動脈周囲内臓包葉/大動脈−生殖腺−中腎(P-Sp/AGM)、肝臓、脾臓および骨髄において観察される。これらの結果は、HLA-G+細胞が赤芽球であることを確かにする。
【0068】
【表2】

【0069】
これらの結果は、HLA-G+細胞がCD71受容体も発現することと、この共局在化が胚および胎児の発達の間にわたって、卵黄嚢において、16日胚において、32日胚の全ての造血器官において、12-、34-および36-週の肝臓において、12-、14-および16-週の骨髄において、そして成体の骨髄においても存在することを示す。よって、これらは明らかに赤血球系のマーカーである。
よって、これらの結果は、赤血球産生における可溶性HLA-Gアイソフォームの、赤血球系の分化におけるマーカーとしての役割を示す。
【0070】
さらに、これらの結果は、16日胚の卵黄嚢には、CD71+赤芽幹細胞とは違って、CD34+造血幹細胞が存在しないことを示す。
実際に、CD34+、CD45+造血幹細胞は全てHLA-G-である。
このことは、HLA-Gが多分化能幹細胞に含まれないことを示す。
【0071】
実施例5:臍帯血赤芽球はHLA-G5を発現する
HLA-G5アイソフォームが、それが他の細胞により産生された後に、赤芽球により直接産生されるかまたは特異的HLA-G受容体を介して赤芽球の細胞表面に付着するかを確かめるために、臍帯血を赤芽球の供給源として選択した。
【0072】
5.1 材料および方法
5.1.1 組織
臍帯血の複数のユニット(p/CB)を、パリのRobert Debre病院(France)の産科で母への説明された承諾の後に、通常期間の分娩の間に得た。
5.1.2 半固形培地での赤血球バースト形成細胞(BFU-E)試験
実施例2の赤血球系細胞培養の章を参照。
【0073】
5.1.3 2段階液体培養における前駆細胞の成熟
実施例2の赤血球系細胞培養の章を参照。
上清のHLA-G5の濃度は、HLA-G5/G6を特異的に測定するELISAにより評価する。
【0074】
5.1.4 ELISAアッセイ
HLA-G5の濃度を、2段階液体培養の第I段階および第II段階のそれぞれ最後の上清で測定する(「サンドウィッチ」型方法)。96ウェルのマイクロタイトレーションプレート(Corning Costar, France)を、5A6G7モノクローナル抗体でコートする。0.2%のTween 20および0.1%のウシ血清アルブミン(BSA, Sigma)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で5回洗浄した後、プレートを1%のBSAおよび0.1%のTween 20を含有するPBSで2時間、37℃で飽和させる。0.2%のTween 20含有PBSで5回洗浄後、試料100μlを各ウェルに加え、重複してアッセイする。1時間、37℃でのインキュベーションの後、プレートをPBST (リン酸緩衝生理食塩水-Tween)中で5回洗浄する。β2-ミクログロブリンに結合するクラスI HLA重鎖の単形決定基を認識する検出抗体、ビオチン化モノクローナル抗体W6/32 (Leinco Technologies Inc., Ballwin)を予め1/250に希釈し、1時間、37℃でインキュベートした。PBSTで洗浄後、AMDEX (商標)ストレプトアビジンセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(Amersham)中で1時間、37℃でのインキュベーション、次いでTMB基質(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン, Sigma)で周囲温度でのインキュベーションにより視覚化を行う。反応を、1N HClの添加により停止する。吸光度を450 nmで測定する。標準曲線を、精製組換え可溶性HLA-G5の一連の希釈を用いて作製する。HLA-G5濃度を、標準曲線に従って吸光度の値から決定する。結果は、重複の平均として表す。ELISAアッセイの検出限界は5 ng/mlである。
【0075】
5.2 結果
培養の状態がどのようなものであっても、すなわち最も初期の細胞(BFU-E)から最も分化した赤血球系細胞(網状赤血球)まで、HLA-G5濃度は25.5 ng/mlと44.3 ng/mlとの間である。対応する細胞の免疫細胞化学分析により、2段階液体培養が、CD71に陽性でかつCD36 (トロンボスポンジン受容体でかつCFU-Eおよび赤血球系の赤芽球段階を同定するためのマーカー)を第2段階の培養のD=7で共発現する赤血球系細胞を分化させることを可能にすることが確かめられる。これらの結果に従って、培養上清でELISAにより検出されたHLA-G5分子は、赤血球系細胞の分化の過程で赤血球系細胞により実際に産生されたと結論付けることができる。
【0076】
実施例6:HLA-G5を発現する成体骨髄の赤芽球
成体の寿命を通しての赤血球産生系統におけるHLA-G5アイソフォームの発現の維持を研究した。造血作用が成体の骨髄で起こるということからして、BFU-E細胞を骨髄造血前駆細胞の半固形培養(実施例2を参照)から回収した。
【0077】
6.1 材料および方法
6.1.1 モノクローナル抗体
次のモノクローナル抗体を用いてHLA-Gを検出した。
- 4H84は、HLA-Gのα1ドメインのペプチド61〜83に指向され、遊離のHLA-G重鎖を認識する。
- MEM-G/09 (Exbio, Prague, Czech Republic)。
全てのこれらの抗体は、正確に折り畳まれたβ2m-関連HLA-G分子と反応する。
【0078】
6.1.3 方法
半固形培地でのBFU-E細胞の培養法および免疫細胞化学分析は、実施例2に記載のようにして行った。
【0079】
6.2 結果
可溶性HLA-G5アイソフォームを、いくつかの抗-HLA-Gモノクローナル抗体、例えば5A6G7、MEM-G/9および4H84を用いて免疫細胞化学分析によりBFU-E細胞中に検出する。さらに、パラフィン包埋骨切片についての免疫化学分析において、HLA-G5は、次いで、成体の骨髄からの赤芽球に局在化する。
【0080】
実施例7:胚の内皮細胞による可溶性HLA-Gアイソフォームの発現
可溶性HLA-Gアイソフォームは、2つの部位:絨毛膜絨毛の間葉性核および早期胚の卵黄嚢の尿膜近傍部における出芽血管内の内皮細胞においても同定される。
それぞれの場合において、HLA-GアイソフォームはCD34マーカーと共局在化する。
絨毛膜絨毛の出芽血管および卵黄嚢の尿膜近傍部の内皮細胞における可溶性HLA-Gアイソフォームの存在は、それが脈管形成プロセスに参加することを示す。
【0081】
実施例8:赤血球分化に対するHLA-G5の影響
赤血球分化に対するHLA-G5の効果を、HLA-G5を発現するかまたは発現しない赤白血病系統(K562, ATCC)、すなわちHLA-G5発現プラスミドでトランスフェクションされHLA-G5を分泌するK562系統(K562-pcDNA-HLA-G5)およびコントロールとして、空のベクターでトランスフェクションされたK562系統(K562-pcDNA)について分析した。
【0082】
赤血球の分化の最終段階(赤芽球、網状赤血球、成熟赤血球)で現れる分化マーカーグリコホリンA (GPA)およびCD36の発現を、これらのマーカーに指向された市販の抗体を用いてフローサイトメトリーにより分析した。結果を以下に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
免疫標識の結果は、HLA-G5分泌系統が、赤血球の分化のマーカーのほとんどの量を発現するより多数の成熟赤血球系細胞からなることを示す。
赤血球の分化に対するHLA-G5の効果は、K562-pcDNA-HLA-G5により分泌されるHLA-G5型がK562-pcDNA系統の分化を誘発することを証明するための2つの系統の間の共培養実験により確かめられる。
【0085】
上記から明らかになるように、本発明は、ここでより明確に記載した本発明の実施、実行および適用の方法に限定されるものではない。一方、本発明は、本発明の状況または範囲を逸脱することなく当業者が想到するであろう本発明の全ての変形を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】可溶型HLA-Gに対する5A6G7抗体の特異性を示す。
【図2】妊娠の第1トリメスターからの栄養膜の赤芽球における可溶性HLA-G5およびG6アイソフォームの存在を示す。
【図3】HLA-G5が胎児肝臓の赤血球系細胞に存在することを示す。
【図4】免疫組織化学により分析される胚、胎児、小児および成体の各段階を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液循環疾患の治療における使用を意図する医薬品を製造するための、少なくとも1種の可溶性HLA-Gアイソフォームの使用。
【請求項2】
前記疾患が、貧血および虚血からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記可溶性HLA-Gアイソフォームが、少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤をも含む組成物の形態にあることを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が、液体の形態にあることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が、固体の形態にあることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項6】
a) 試験されるべき生物学的試料を次のマーカー:可溶性HLA-Gアイソフォーム、CD71、CD34およびCD45に指向された抗体と接触させ、そして
b) a)で規定されるマーカーの赤血球系または内皮系の発現プロフィルに従って、赤血球系または内皮系の分化の種々の段階に対応する細胞を検出しかつ任意に弁別する
ことを含むことを特徴とする、赤血球系または内皮系の細胞の分化の状態により赤血球系または内皮系の細胞を検出しかつ任意に弁別する方法。
【請求項7】
a) 試験されるべき生物学的試料を次のマーカー:可溶性HLA-Gアイソフォーム、CD71、CD34およびCD45に指向された抗体からなる群より選択される抗体のパネルと接触させ、
a') 可溶性HLA-Gアイソフォームを発現する細胞を選択し、そして
c) CD71マーカーを用いて細胞のタイプを検出する
ことを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
生物学的試料が、血液試料または骨髄試料からなる群より選択されることを特徴とする請求項6または7に記載の検出方法。
【請求項9】
工程a)に先立って、前記生物学的試料の細胞を透過可能にすることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1つに記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−520428(P2007−520428A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516337(P2006−516337)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001663
【国際公開番号】WO2005/002617
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(500539103)コミッサリア ア レネルジ アトミック (29)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】31−33,rue de la Federation,F−75015 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】