説明

血清コレステロール低下剤及びその製造方法

【課題】医薬剤の副作用を回避することが可能な血清コレステロール低下剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】スッポンの全卵粉を有効成分とした血清コレステロール低下剤を調製する。洗浄したスッポンの卵全体を細かく粉砕し、得られた卵液を凍結乾燥させて粉末状にする。水で洗浄したスッポン卵をダイヤモンド砥石による擦り合わせによって全体を殻ごと細かく粉砕する。次に、細かく粉砕した殻と卵液を、80メッシュのふるいに通し、得られた卵液を凍結乾燥機に移して脱水する。80メッシュのふるいに通すことにより、特に、粉砕した卵の殻の摂取を助け、カプセルに包んで使用することも可能になる。凍結乾燥機では、−80℃にて72時間凍結させ、60℃、8Paで乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スッポンの卵中に含まれる成分を利用した血清コレステロール低下剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、血中脂肪を下げる主な方法は薬物療法であるが、高脂血症治療薬にはみな多少の副作用がある。特に重大な副作用として、原因不明の血清GPTの持続的な上昇があり、その他にも肝機能障害が報告されている。そのため、専門家も、脂肪代謝障害である大多数の高脂血症患者に対する処置として、薬物治療を進める前に、まず食事の関与と調節を考慮することを推奨している。
【0003】
高脂血症等、循環器系疾患の一因となる多数のリスク因子のうち、血漿中の総コレステロール及び低密度リポタンパク質コレステロールが、循環器系疾患の主だったリスク因子とみなされてきた。これらの血漿中の総コレステロールや低密度リポタンパク質コレステロールの低下は、脂質低下用の医薬剤を使用する代わりに、食事という手段によって達成することが可能である。例えば、大豆タンパク質、魚類タンパク質、ポリ不飽和脂肪酸、卵レシチン、食物繊維及び植物ステロイドは、動物モデル及びヒトにおいてコレステロールのレベルを下げることが知られている。特許文献1には、大豆タンパク質を利用した血中コレステロール低下剤が記載されている。
【0004】
また、特許文献2に、お茶の1種である羅布麻茶が、高コレステロール血症に対するコレステロール低下剤として有効であるとの記載がある。特に、LDL-コレステロール値を低下させると同時に、HDL-コレステロール値を上昇させ、動脈硬化の指標である動脈硬化指数を低下させることが報告されている。この羅布麻茶は、中国では解熱などの民間薬としても利用されており、高血圧、心不全、気管支炎、水腫等に有効であることも知られていた。特許文献2は、この羅布麻茶をLDL-コレステロール低下剤として用いたものである。
【0005】
一方、中国産のスッポン(Trionrx triunguis)は、東洋医学における強壮剤としての食物として、中国において数千年間食されている。スッポン卵の薬効についてはマテリア・メディカ『本草書』に記載されている。そこには、スッポン卵が「滋養強壮」や、「肝機能を高める」とある。また、『本草綱目』や『本草蒙筌』の中にも記録があり、小児の下痢止めや、陰虚を補う効果等が記録されている。スッポン卵の成分を分析すると、独特のアミノ酸特性を持ち、その中でもホスファチジルコリン含有量は豊富であり、コレステロール含有量は極めて少ない。鶏卵と比べると、スッポン卵には豊富な蛋白質、リン脂質、不飽和脂肪酸、ビタミンE、およびビタミンB群などの血中脂質を調節する効能のあるものが含まれている。
【特許文献1】特許第3157531号公報
【特許文献2】特許第3517318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スッポン卵の前記成分や効果に注目したもので、大豆や羅布麻茶を使用した血中コレステロール低下剤のように、血中コレステロールを低下せしめる効果がスッポン卵にも存在するとの想定からスッポン卵を研究することで、医薬剤の副作用を回避することが可能な血清コレステロール低下剤及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成すべく本発明血清コレステロール低下剤は、スッポンの全卵粉を有効成分として用いるものである。
【0008】
また、本発明製造方法は、洗浄したスッポンの卵を殻ごと細かく粉砕し、得られた卵液および粉砕された殻を80メッシュのふるいに通した後、凍結乾燥させて粉末状にすることを課題解消の手段とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、スッポンの全卵粉を有効成分とした血清コレステロール低下剤により、モデルラットの血清コレステロールを低下させる効果が証明された。また、ラットの肝臓では、総脂質、血清における総コレステロール及び中性脂肪の濃度が低下し、糞便中のコレステロール、および胆汁酸の排出を増加させることも明らかになった。この結果、本発明によると、医薬剤の副作用を回避して血清コレステロールを低下せしめることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
洗浄したスッポンの卵全体を細かく粉砕して得られた卵液を、凍結乾燥させて粉末状に製造することで、スッポンの全卵粉を有効成分として用いることができる。
【実施例】
【0011】
本発明血清コレステロール低下剤で使用するスッポン卵は、特に、古くから食されている中国産のスッポン(Trionrx triunguis)の卵を使用している。本発明では、このスッポン卵を粉末化して経口採取できるように製造している。粉末化したスッポン卵は、そのまま食し、あるいは他の飲食物等に添加することも可能であるが、この粉末を油脂成分に調合し、ゲル化したものを、ゼラチン、グリセリン、カラメルからなる皮膜部で包含してカプセル化することも可能である。
【0012】
本発明血清コレステロール低下剤の製造方法は次の通りである。まず、水で洗浄したスッポン卵をダイヤモンド砥石による擦り合わせによって全体を殻ごと細かく粉砕する。スッポン卵の殻は、鶏卵に比べて繊維組織が蜜に集合した柔軟性を有するものなので、一般の粉砕機等では、細かく粉砕することができない。そこで、ダイヤモンド砥石等を使用するものである。次に、細かく粉砕した殻と卵液を、80メッシュのふるいに通し、得られた卵液を凍結乾燥機に移して脱水した。80メッシュのふるいに通すことにより、特に、粉砕した卵の殻の摂取を助け、カプセルに包んで使用することも可能になる。凍結乾燥機では、−80℃にて72時間凍結させ、60℃、8Paで乾燥させている。このように粉末化したスッポン卵(以下、TEと称する)におけるタンパク質のアミノ酸含有量を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
このような成分を含有する粉末化したスッポン卵(TE)が、コレステロール代謝に対する効果を調べ、それがコレステロールの低下効果を有するかどうかを確定する実験を行った。次に実験の詳細及び結果について述べる。
【0015】
[実験の要約] 実験では、オスSDラット(n=40)に、24週間、洗浄法により投与された0g/kgbw、0.75g/kgbw、1.50g/kgbw又は3.00g/kgbwのTEを補完した高脂肪食を与えた。酵素法により、血清総コレステロール(TC)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C)、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL−C)及び糞便中総胆汁酸レベルを測定した。ガスクロマトグラフィにより、糞便中のステロイド濃度を測定した。値については適宜、平均値±SDを算出し、SPSS10.0のANOVA汎用プログラムを用いて、一方向ANOVAによりデータを検定した。TEを補完した高脂肪食を与えて24週後、ラットでは、血清TC及びLDL−Cのレベル、肝コレステロール及び肝脂質のレベルが低下した。TE補完物は、糞便排泄には影響しなかったが、糞便におけるステロイド濃度を有意に高めたということは、ステロイド排泄を高めることを示している。肝CYP7A1(チトクロームP450、ファミリー7、サブファミリーA、ポリペプチド1)のmRNAの上昇で証明されるように、糞便中の胆汁酸の排泄も高まった。このような実験結果により、TEが総胆汁酸及び中性ステロイドの排泄を高めることによってコレステロール低下効果を有することを実証した。
【0016】
[動物及び餌について] 体重160〜180gのオスのスプラーグ・ドーリー系ラットに、普通の餌(表2参照)を7日間与え、次いで、高脂肪食(ラード10%、卵黄粉末10%、コレステロール1%、食物79%)を与えた。
【表2】

【0017】
摂氏22±2度、及び60±5%の相対湿度、12h:12hの明暗サイクルの部屋でラットを維持し、水と餌は自由摂取とした。血清中のLDL−Cのレベル及び体重に従って、ラットを10匹ずつ4群に分け、スッポン卵(TE)、0g/kgbw、0.75g/kgbw、1.50g/kgbw又は3.00g/kgbwを強制栄養投与法により、高脂肪食に補完した。
【0018】
24週間の試験中、毎週、体重及び食物摂取量を記録した。実験期間の最後の7日間、各ケージから糞便試料を回収し、プールして分析まで−20℃に保存した。実験の最後にラットを16時間絶食させ、大腿動脈穿刺により血液試料を試験管に採り、摂氏4度にて4000rpmで15分間遠心した。氷冷した0.9%NaCl(塩化ナトリウム)で洗浄した後、肝臓を秤量し、分析まで摂氏−80度で保存した。
【0019】
[血清中のTC、HDL−C及びLDL−Cについて] 英国ランドックス社が提供するキットを用いて、酵素比色法により、例外なく、血清における総コレステロール(TC)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL−C)及び低密度リポタンパク質コレステロール(LDL−C)の血清濃度を測定した。
【0020】
[肝臓における総脂質、総コレステロール及び中性脂肪について] Folchに従って肝総脂質を測定した。肝臓の総コレステロール及び中性脂肪(TG)は、肝臓試料をメタノール/クロロホルム(体積比2:1)で抽出した後、血清と同じキットを用いて測定した。
【0021】
[糞便中の中性ステロイドの分析について] Folchに従って、以下の手順を用いて、乾燥糞便から先ず、糞便ステロイドを抽出した。糞便ステロール類の抽出に同量の乾燥糞便(100mg)を用いた。5[α]−コレスタン(シグマ−アルドリッチ)を含むメタノール/クロロホルム(体積比2:1)で抽出した後、2mlのメタノール含有水酸化カリウム中にて摂氏50度で2時間、試料を鹸化した。常温に冷却した後、2mlの脱イオン水を加え、5mlのヘキサン中に脂質を抽出した。ガスクロマトグラフィ(GC)の前に、100μlのピリジン(フルカ)を加え、次いで50μlのシロンBTZ(スペルコ)を加えて、試料を誘導体化した。以下の条件下にてDB−1キャピラリーカラム(30m、0.25mm)を用いてGCを行った:キャリアとして水素ガスを用いた。温度プログラムは摂氏90度で開始した。最初に1分間保った後、摂氏15度/分の割合で摂氏285度(30分)までオーブンをプログラムした。
【0022】
[糞便中の胆汁酸について] セテヘルとローソンの方法により糞便を抽出し、抽出した溶液を使って、酵素的に胆汁酸濃度(Ausbio)を測定した。
【0023】
[半定量的RT−PCRについて] トリゾール(インビトロゲン)を用いて全RNAを精製し、逆転写キット(プロメガ製)を用いて逆転写した。半定量的RT−PCRによって、HMGCoA還元酵素、コレステロール7−αヒドロキシラーゼ(CYP7A1)、ATP結合カセットトランスポータ1(ABCA1)、肝X受容体(LXR−α)及びGAPDH(無変異の対照として使用)をコード化するRNAを解析した。プライマー配列は表3に列記する。
【表3】

【0024】
以下のようにPCRを行った:第1のサイクルとして摂氏94度にて5分間の変性、次いで、摂氏94度で1分間、摂氏60度で1分間のアニーリング、摂氏72度で2分間の伸長から成る各サイクル。GAPDHについては25サイクル行い、LXR−αでは30サイクル、HMGCoA還元酵素では35サイクル、及びABCA1では26サイクル行った。増幅産物を1.5%アガロースゲル上で電気泳動し、X線を伴ったデンシトメータ走査(スマートビュー2002)により、mRNAの相対的な量を推定した。
【0025】
[統計的解析について] 値は、平均値±SDで表し、適宜、SPSSのANOVA汎用プログラムのLSDを用いて、一方向ANOVAによりデータを検定した。最少2乗法により個々の比較を行った。P<0.05の差異を有意であるとみなした。
【0026】
[結果] 食物摂取量及び体重 食物摂取量、最終的な体重、体重増加及び食物効率は4群間で差異はなかった(表4参照)。
【表4】

【0027】
[血清中の脂質] 1.50g/kgbw及び3.00g/kgbwのTEを補完したラットでは、血清のTC濃度はそれぞれ、20%及び14%有意に低下した(表5参照)。
【表5】

【0028】
1.50g/kgbwのTEを補完したラットでは、血清のLDL−C及びHDL−Cのレベルは26%(P=0.017)及び12.5%(P=0.052)低下した。各群でHDL−C/TCの比には差異はなかった。1.50g/kgbwのTEを補完したラットでは、血清のLDL−C及びTCに大きな低下が見られた。
【0029】
[肝臓の総脂質、コレステロール及び中性脂肪] 1.50g/kgbwのTEを補完したラットの肝臓の相対重量は有意に低下した。1.50g/kgbw及び3.00g/kgbwのTEを補完したラットの肝臓では、総脂質、TC及びTGの濃度が低下した(表6参照)。
【表6】

【0030】
[糞便中の胆汁酸及び中性ステロイドの排泄] 各群で糞便の重量に差異はなかった。1.50g/kgbw及び3.00g/kgbwのTEを補完したラットでは、糞便中の総胆汁酸濃度(μmol/g)及び日々の糞便中の胆汁酸の排泄(μmol/日)の双方が有意に高かった(表7参照)。
糞便中の総ステロイド排泄=糞便中の総中性ステロイド排泄+糞便中の胆汁酸。
コレステロールの見かけの吸収 =コレステロールの摂取−総ステロイドの排泄。
見かけ上吸収された餌中のコレステロールの比率=100×(コレステロールの摂取−総ステロイドの排泄)/コレステロールの摂取。
【表7】

【0031】
ラットの糞便では、コレステロール、コプロスタノール及びコプロスタノンが主な中性ステロイドである。1.50g/kgbw及び3.00g/kgbwのTEを補完したラットでは、糞便中の総中性ステロールの濃度及び中性ステロールの日々の排泄の双方が有意に増加していた。糞便中のコレステロール及びコプロスタノールの日々の排泄はそれぞれ、1.50g/kgbwのTEを補完したラットでは172.6%及び99.7%有意に増加しており、3.00g/kgbwのTEを補完したラットでは、81.35%及び61.4%有意に増加していた。さらに1.50g/kgbwのTEを補完したラットでは、糞便中のコプロスタノンの排泄もTEを補完しなかったラットに比べて高かった。TEの補完によって、吸収される餌中のコレステロールは明らかに低下した。
【0032】
[mRNAレベル] ABCA1、CYP7A1、HMGCoA還元酵素、LXR−αの肝mRNAのレベルをRT−PCRにより定量した。肝CYP7A1のmRNA濃度は、TEを補完したラットで上方調節されていた。LXR−αも3.00g/kgbwのTEを補完したラットのみで上方調節されていた。そのほかの遺伝子の転写は影響を受けなかった(データは示さず)。
【0033】
[考察] TEはSDラットへの認容性が良く、3.0g/kgbwの高用量でも食物摂取量、成長、体重又は臓器重量に影響を与えなかった。TEの補完は、特に1.5及び3.0g/kgbwの用量にてコレステロール低下効果を有意に発揮した。さらに、TEによって誘発される血清コレステロールの変化は今まで記載されていない。
【0034】
このように、SDラットを動物モデルとして用いた試験により、TEのコレステロール低下効果を実証した。すなわち、TE補完なしの対照群に比べて、TEを24週間補完することにより、血清のTC及びLDL−Cのレベルならびに肝臓の脂質及びコレステロールの濃度が有意に低下することが明らかになったものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スッポンの全卵粉を有効成分とすることを特徴とする血清コレステロール低下剤。
【請求項2】
洗浄したスッポンの卵を殻ごと細かく粉砕し、得られた卵液および粉砕された殻を80メッシュのふるいに通した後、凍結乾燥させて粉末状にすることを特徴とする血清コレステロール低下剤の製造方法。


【公開番号】特開2007−63184(P2007−63184A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251227(P2005−251227)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(399076404)株式会社ドーモコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】