説明

血管内グルコースセンサ

発蛍光団の寿命をモニタリングすることによりグルコース濃度を測定するように構成されている、グルコース濃度の血管内測定用のグルコースセンサであって、グルコースに選択的に結合する受容体及びその受容体に会合している発蛍光団を備える指示システムであり、発蛍光団が100ナノ秒未満の寿命を有する、指示システムと、光源と、光を光源から指示システムに導くように構成されている光ファイバーと、指示システムから放射された蛍光を受光するように構成されている検出器と、少なくともその検出器の出力信号に基づいて、発蛍光団の蛍光寿命に関する情報を判定するように構成されている信号処理部とを備えるセンサ。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、グルコースの血管内測定用センサ及び血管内グルコース測定方法に関する。
【0002】
[発明の背景]
「厳格な血糖管理」(tight glycaemic control、TCG)を使用する術後患者の処置、すなわち一時的なインスリン抵抗性(temporary insulin resistance)に対する治療的な補償は、患者の予後に明確な改善をもたらしてきた。同レベルの患者治療を非外科系、医療用ICU患者及びその他に適用することによって、類似の有効性が見られる。
【0003】
多くの病院が、強化インスリン療法(intensive insulin therapy、「IIT」)によるTGCを実行しようとしてきた。TGC/IITの採用への最大の障害は、厳格な管理、使いやすさ、自動モニタリング、及び労力に伴う結果に対する顧客のニーズを満たす適切な技術が欠如していることである。TGC/IITは低血糖症及び有害事象の危険性を防ぐために頻繁な測定を必要とするので、間欠的技術(intermittent technologies)を使用して患者のグルコースレベルを目標範囲内に維持することは困難である。すでに広く採用されているが、TGCの実践は病院にとっての課題である。すなわち、現在グルコースのモニタリングは、看護職員による手作業で行われているが、主にフィンガースティック(finger stick)法及び血糖計を使用しており、それゆえ限定された精度(通常、95%の測定に対して±20%)の間欠的なデータ(intermittent data)しか得られない。
【0004】
頻繁に採血する必要性を回避するために、血液よりもむしろ組織の間質液中のグルコースを測定するいくつかのセンサが開発されてきた。しかし、全血中での測定と比較した場合、このようなセンサは、通常、グルコースに対して長い生理的応答時間を示す。加えて、ショック状態の患者、特に集中治療中の患者は、しばしば末梢潅流の低下を患い、したがって全血グルコース濃度の変化が間質液へ直ちに伝達はされない。
【0005】
非侵襲性のセンサが開発中であり、組織中のグルコースの測定に通常は適用されることになり、したがって同じ短所に悩まされることになると思われる。非侵襲性グルコース検知法の開発はまた、重大な技術的課題も伴う。
【0006】
グルコースセンサ開発者の中には、ex vivo法を採るものもいた。その方法では血液は患者から採取され、次いで患者の体外に置かれたセンサに流されて、その後流されて廃棄される又は患者に戻される。この方法は、迅速で間欠的なグルコース測定手段に過ぎず、累積的に著しい量の患者の血液を利用するという短所がある。無菌状態及びブラッドアクセスラインの開口部(blood access lines open)の維持もまた、この技術の課題である。
【0007】
1980〜1990年代に、血液ガス、すなわち酸素、二酸化炭素とpHとを血管内で連続的に測定するためのマルチパラメーター光学的センサ(multi parameter optical sensor)の開発に伴って、血管内光学的センサの構成が規定された。血液ガス用のこれら平衡型受容体は、吸収又は蛍光強度に基づく指示体(indicator)であった。これらのセンサは、長時間に渡る信号のドリフトに悩まされ、使用直前の較正を一般に必要とした。これら血液ガスセンサの一般的な光学的構成は、適切なグルコース受容体化学物質を使用するグルコースの検知に適しているが、センサドリフト及び較正の必要性に関する問題が残っている。
【0008】
したがって、センサドリフトの問題点を回避し、理想的には末端使用者による較正の必要性を回避する、全血グルコースセンサの必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lakowicz、Analytical Biochemistry、294巻、154〜160頁(2001年)
【0010】
[発明の概要]
本発明は、発蛍光団の寿命をモニタリングすることによりグルコース濃度を測定するように構成されているセンサであって、
グルコースに選択的に結合する受容体(receptor)及び受容体に会合している発蛍光団(fluorophore)を備える指示システム(indicator system)であり、発蛍光団が100ナノ秒未満の寿命を有する、指示システムと、
光源と、
光を光源から指示システムに導くように構成されている光ファイバーと、
指示システムから放射された蛍光を受光するように構成されている検出器と、
少なくとも検出器の出力信号に基づいて発蛍光団の蛍光寿命に関する情報を判定するように構成されている信号処理部と
を具備する、グルコース濃度の血管内測定用のグルコースセンサを提供する。
【0011】
本発明のセンサは、したがって、発蛍光団の蛍光寿命の変化を決定することによって、血流中のグルコース濃度を決定する。
【0012】
インジケーター(indicator)の蛍光寿命は固有の特性であり、光源強度の変化、検出器の感度、光学的システム(光ファイバーなど)の光スループット(through put)、固定化センサの厚み及び指示体濃度に影響されない。加えて、発蛍光団の光退色は、蛍光強度を測定するときには信号ドリフトに変換されるが、蛍光寿命を測定するときには重要性がずっと低いものになる。これは、強度に基づく測定とは対照的に、蛍光寿命を測定する場合、光退色の変数に対するいかなる補正も必要ないことを意味している。したがって、これは、較正又は再較正の必要性が全く無いことを意味している。したがって、グルコースの寿命測定は、センサ能力、較正及び最終使用者にとっての使いやすさという点で、強度に基づく測定に勝る著しい有効性を有している。
【0013】
しかし、実用的に有用な寿命測定デバイスの開発には現在多くの障壁がある。蛍光寿命を正確に測定するために必要とされる計器は、現在、高額で大きくて扱いにくい。グルコースの光学的測定用指示体として長寿命(>100ナノ秒)蛍光性の金属−リガンド/ボロン酸複合体を使用することにより、励起用発光ダイオード、フォトダイオード検出器、位相蛍光測定法及び参照テーブルなど、小型、低費用の計器の使用を容易にすることができる。しかし、グルコースの測定用にこれらの長寿命発蛍光団を使用する際には問題がある。長寿命発蛍光団は、常に酸素による衝突蛍光消光(collisional fuluorescence quenching)を受け、その消光の程度は、消光を受けていない寿命(unquenched lifetime)に比例する。長い蛍光寿命を有する金属リガンド複合体が、酸素の検出及び決定に一般に使用されている。したがって、組織、間質液若しくは血液又はその他の体液中のグルコースをモニタリングするためにこれらの長寿命指示体を使用する場合、酸素は干渉物質とみなされる可能性がある。
【0014】
しかし、本発明は、小型、低費用の計器を使用して100ナノ秒未満の寿命を測定することが可能なセンサを提供することによって、これらの問題に対処する。したがって、本発明によって、病院環境における臨床医による使用に適しており、かつ酸素感受性の問題点を解消又は軽減するデバイスで、寿命測定の有効性を実現することが可能になる。
【0015】
好ましい実施形態によれば、検出器は、単一光子アバランシェフォトダイオードである。この実施形態の一態様において、光源によって放射される光の強度は第1周波数で変調され、単一光子アバランシェフォトダイオードに印加されるバイアス電圧は、第1周波数とは異なる第2周波数で変調されている。そのバイアス電圧は、単一光子アバランシェフォトダイオードの降伏電圧を上回っている。このバイアス電圧の選択は、検出器の単一光子感度が維持されることを意味するだけでなく、ヘテロダイン測定法を使用できるという利点も有している。いいかえれば、単一光子アバランシェフォトダイオードから得られる、対象とする測定信号は、第1及び第2周波数の差に相当する周波数である。第1及び第2周波数は、1MHz又はこれよりはるかに高い程度になることがあるが、その差が例えば10kHz代程度になるように選択することができる。したがって、測定電子機器の操作上の帯域幅は、第1及び第2変調周波数よりかなり低くできるので、より単純な設計及びより低い雑音感度が可能になる。
【0016】
さらに有利な態様は、光源に対する変調信号に一連の追加的な位相角(位相シフト)を導入することである。次いで測定信号の変調度を、導入した位相角に関連付けて一連の測定値を得ることができる。これらの結果を分析することにより、発光寿命測定の全体の精度を改善できる。
【0017】
本発明によって、グルコース濃度の血管内測定方法であって、
本発明のセンサの指示システムを静脈又は動脈に挿入するステップと、
入射光を、光ファイバーを介して光源から指示システムに伝えるステップと、
光源から指示システムに入射する光に応答して、指示システムから放射された蛍光を、検出器を使用して受光し、出力信号を発生させるステップと、
少なくとも検出器の出力信号に基づいて、発蛍光団の蛍光寿命に関する情報を判定するステップと
を含む方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1及び図1aは、本発明によるセンサを表す図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態を概略的に表す図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態による、グルコース濃度測定方法のフローチャートである。
【0019】
[発明の詳細な説明]
本明細書では、用語アルキル又はアルキレンは、直鎖状又は分枝状のアルキル基又は部分である。アルキレン部分は、例えば、1〜15個の炭素原子を含有でき、C1〜12アルキレン部分、C1〜6アルキレン部分又はC1〜4アルキレン部分など、例えばメチレン、エチレン、n−プロピレン、i−プロピレン、n−ブチレン、i−ブチレン及びt−ブチレンである。C1〜4アルキルは通常、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル又はt−ブチルである。誤解を避けるために言及すると、2個のアルキル基又はアルキレン部分が存在する場合、アルキル基又はアルキレン部分は、同じであってもよく又は異なってもよい。
【0020】
アルキル基又はアルキレン部分は、非置換であってもよく又は置換されていてもよく、例えばアルキル基又はアルキレン部分は、ハロゲン、ヒドロキシル、アミン、(C1〜4アルキル)アミン、ジ(C1〜4アルキル)アミン及びC1〜4アルコキシから選択される1、2又は3個の置換基を持つことができる。好ましくは、アルキル基又はアルキレン部分は非置換である。
【0021】
本明細書では、用語アリール又はアリーレンは、C6〜14アリール基又は部分を意味し、これはフェニル、ナフチル及びフルオレニル、好ましくはフェニルなどの単環又は多環式であることができる。アリール基は、非置換であってもよく又は任意の位置で置換されていてもよい。通常、アリール基は0、1、2又は3個の置換基を持つ。アリール基の好ましい置換基には、ハロゲン、C1〜15アルキル、C2〜15アルケニル、−C(O)R(Rは水素又はC1〜15アルキルである)−C(O)R、−COR(Rは水素又はC1〜15アルキルである)、ヒドロキシ、C1〜15アルコキシが含まれ、置換基それ自体は非置換である。
【0022】
本明細書では、ヘテロアリール基は通常、5〜14員芳香環、例えば5〜10員環、より好ましくは5又は6員環であり、例えばO、S及びNから選択される少なくとも1個のヘテロ原子、例えば1、2又は3個のヘテロ原子を含有する。例には、チオフェニル、フラニル、ピロリル及びピリジルが含まれる。ヘテロアリール基は、非置換であってもよく又は任意の位置で置換されていてもよい。特に明記しない限り、ヘテロアリール基は、0、1、2又は3個の置換基を持つ。ヘテロアリール基の好ましい置換基には、アリール基に関して上に挙げた置換基が含まれる。
【0023】
本発明は、グルコース濃度の血管内測定用のセンサ及び測定技術を提供する。本発明のセンサは、指示システムに光を導くように構成されている光ファイバーに基づいている。指示システムは検知領域内に備えられており、検知領域は通常光ファイバーの遠位端のセル中に含有されている、又は遠位端に取り付けられている。使用中に、ファイバーの遠位端は血管に挿入され、その結果指示システムは血流内に位置する。グルコースは検知領域に入ることができ、したがって素早く指示システムに接触する。
【0024】
グルコースが指示システムに接触すると、受容体とグルコース分子との結合が起こる。受容体に結合したグルコース分子の存在により、指示システムの蛍光寿命に変化が生じる。したがって、指示システム中の発蛍光団の寿命をモニタリングすることにより、受容体に結合しているグルコースの量の指標が得られる。ライフタイムディケイ(lifetime decay)のモニタリングによるグルコース濃度の測定は、Lakowicz、Analytical Biochemistry、294巻、154〜160頁(2001年)によって以前に記述されている。位相変調による測定についてそこに記述されているが、位相変調及び単一光子計数法の両方が本発明の用途に適している。位相変調が、好ましい。
【0025】
指示システムは、グルコースに選択的に結合する少なくとも1つの受容体、及び受容体に会合している発蛍光団を含有する。グルコースが受容体に結合しているとき、発蛍光団の蛍光ディケイ(fluorescence decay)の寿命が変わるので、発蛍光団の寿命をモニタリングすることによりグルコースを検出することが可能になる。一実施形態において、受容体及び発蛍光団は、互いに共有結合している。
【0026】
グルコースに適切な受容体は、1つ又は複数の、好ましくは2つのボロン酸基を含有する化合物である。特定の実施形態において、受容体は式(I)の基である。
【0027】
【化1】


式中、m及びnは、同じである又は異なり、通常1又は2、好ましくは1である。Spは、脂肪族スペーサであり、通常はアルキレン部分、例えばC1〜C12アルキレン部分、例えばC6アルキレン部分である。L1及びL2は、他の部分、例えば発蛍光団への可能な結合点を表す。例えば、L1及びL2は、官能基に連結したアルキレン、アルキレン−アリーレン、又はアルキレン−アリーレン−アルキレン部分を表すことができる。他の部分への結合が想定されない場合、官能基は保護されている又は水素原子で置き換えられている。L1及びL2の典型的なアルキレン基は、C1〜C4アルキレン基、例えばメチレン基及びエチレン基、特にメチレン基である。典型的なアリーレン基は、フェニレン基である。官能基は、通常、例えば発蛍光団又はヒドロゲルと反応する任意の基であり、例えばエステル、アミド、アルデヒド又はアジドである。指示システムにおいて、受容体は1つ又は複数の官能基を介して発蛍光団、及び任意選択でヒドロゲルなどの支持構造体に通常連結している。
【0028】
スペーサSpの長さを変化させることにより、受容体の選択性が変わる。通常、C6−アルキレン鎖は、グルコースに対して良好な選択性を有する受容体を提供する。
【0029】
これらの受容体のさらなる詳細は、米国特許第6,387,672号にあり、その内容は全体としてが参照により本書に組み込まれる。式(I)及び(II)の受容体は公知の技術よって調製でき、合成の詳細は米国特許第6,387,672号にある。
【0030】
本発明が、上述の特定の受容体には限定されず、特に2つのボロン酸基を有する他の受容体も本発明において使用できることは理解されよう。
【0031】
適切な発蛍光団の例には、アントラセン、ピレン及びそれらの誘導体、例えばGB0906318.1に記載の誘導体が含まれ、その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。発蛍光団は、通常は非金属である。通常、発蛍光団は、内因性ではない。発蛍光団の寿命は、通常100ナノ秒以下、例えば30ナノ秒以下である。その寿命は1ナノ秒以上、例えば10ナノ秒以上、例えば20ナノ秒以上とすることができる。適切な発蛍光団の特定の例は、1〜10ナノ秒の典型的な寿命を有するアントラセン及びピレンの誘導体並びに10〜30ナノ秒の典型的な寿命を有するアクリドン及びキナクリドンの誘導体である。
【0032】
例えば米国特許第6,387,672号に記載されているように、受容体及び発蛍光団は通常は互いに結合して、受容体−発蛍光団構造体を形成している。この構造体は、ポリマーマトリックスなどの支持構造体にさらに結合でき、又はプローブ内に物理的に捕捉されることができ、例えばポリマーマトリックス内、又はグルコース透過性膜によって捕捉されることができる。ヒドロゲル(架橋ポリアクリルアミドなど高親水性の架橋ポリマーマトリックス)は、適切なポリマーマトリックスの一例である。好ましい実施形態において、受容体−発蛍光団構造体は、例えば受容体の官能基を介してヒドロゲルに共有結合している。したがって、指示体は、発蛍光団−受容体−ヒドロゲル複合体の形態である。
【0033】
他の好ましい実施形態において、指示体(すなわち受容体及び発蛍光団分子又は受容体−発蛍光団構造体)は水溶液で提供され、通常指示体が水溶液に溶解している。この実施形態において、指示体は、センサ内のセル中、通常は光ファイバーの遠位端の、又は遠位端の中のセル、及びセル中のいずれかの開口部を覆うように備えられたグルコース透過性膜の中に含有されている。指示体がセル中に残留することを確実にするために、指示体は、膜を通じてセルから外へ漏出することを実質的に防ぐのに十分な高分子量にしなければならない。これは、適切な分子量カットオフを有する膜の選択及び高分子量の指示体を供給することによって達成できる。
【0034】
指示体(受容体及び発蛍光団、通常は受容体−発蛍光団構造体の形態を含んでいる)を水溶液として準備することには、各指示体部分を囲んでいる微環境が実質的に一定のままであるという特定の利点がある。蛍光センサは、指示体の微環境に著しく影響される可能性がある。指示体を囲む局所的な微環境の変化が、蛍光応答に変化をもたらす可能性がある。ポリマーマトリックス上に固定された指示体の場合、微環境に著しい変化があり、それにより、減衰時間の連続分布及び複雑な多指数関数の形で、ライフタイムディケイ信号がもたらされる可能性がある。これに対して、指示体分子が凝集せずに単分散するような特に低い濃度で指示体を水に溶解した場合、均一性が最大になり、所与の溶媒に対して理想的な蛍光特性が得られる。これは、単純な、単一指数関数信号をもたらす。
【0035】
均一性を得るための別の手段は、高分子量の単一分子支持体上に指示体(indicator)を固定することである。好ましくはその支持体が対称的であり、蛍光指示体の空間的結合は、結果も対称的となるような方法で達成される。後述するようにこれは、例えば支持体としてデンドリマーを用いることにより達成できる。したがって、デンドリマー支持体に結合した各蛍光指示体分子の環境は等価になる。加えて、このような担持分子を適切な濃度で水に溶解できる場合、担持指示体の環境は均質になり、改善された信号特性がさらにもたらされる。
【0036】
したがってこの他の好ましい実施形態において、受容体及び発蛍光団は支持体に結合して、支持体、受容体及び発蛍光団の複合体を形成し、その複合体は溶液に溶解している。その受容体及び発蛍光団が支持体に結合し続ける限り、複合体の性質は重要でない。例えば、支持体は受容体−発蛍光団構造体に結合できる。あるいは、支持体は、発蛍光団及び受容体に別々に結合していてもよい。後者の場合、受容体及び発蛍光団は互いに直接結合されておらず、支持体を介してのみ連結されている。本発明の一実施形態において、複合体は発蛍光団−受容体−支持体の形態をとる。
【0037】
通常、高分子量支持体が使用される。これによって当業者は、指示体を高分子量の複合体内に提供することにより、指示体の膜を通じての通過を制限できる。好ましい支持体は、少なくとも500、例えば少なくとも1000、1500又は2000又は10,000の分子量を有する。支持体はまた、水に可溶性であるべきであり、センサ自体に干渉しないという意味において不活性であるべきである。
【0038】
支持体として使用するのに適切な材料にはポリマーが含まれる。使用する溶媒に可溶性である任意の架橋していない直鎖状ポリマーが利用できる。あるいは、支持体は、ヒドロゲルを水中で形成できる架橋ポリマー(例えば、若干架橋したポリマー)であることができる。例えば支持体は、ポリマー及び水性領域との間に明瞭な界面が存在しないように少なくとも30%の水分含量を有する架橋したポリマーから形成されるヒドロゲルであることができる。
【0039】
ポリアクリルアミド及びポリビニルアルコールが、適切な水溶性直鎖状ポリマーの例である。好ましくは、使用するポリマーは低い多分散性を有する。より好ましくは、ポリマーは、均一な(又は単分散)ポリマーである。このようなポリマーは、均一な分子量及び構造を有する分子からなる。より低い多分散性は、改善されたセンサの変調をもたらす。ヒドロゲルを形成するための架橋ポリマーは、エチレングリコールジメタクリレート及び/又はヒドロキシルエチルジメタクリレートと架橋した上述の水溶性直鎖状ポリマーから形成できる。
【0040】
一実施形態において、指示体は高い水分含量を有するヒドロゲルに結合している。この実例において、指示システムはヒドロゲルを含有する水溶液を通常備えている。ヒドロゲルの水分含量は、ポリマー及び水性領域の間に明瞭な固体界面が存在しない流動体の混合物とみなすことができるほど高く、好ましくは少なくとも30%w/wである。本明細書では、流動性ヒドロゲルは、非常に高い(通常は少なくとも30%w/w)水分含量を有するヒドロゲルであり、したがってヒドロゲルを水中に置いた場合、ポリマー領域と水性領域との間に明瞭な固体界面は存在しない。このようなヒドロゲルは、溶媒に溶解できる若干架橋したポリマー、又は流動性ヒドロゲルを比較的低い水分含量で形成できる若干架橋したポリマーを含むことができ、あるいはヒドロゲルは、ヒドロゲルが流動体の形態になるようにより高い水分含量を有するより多く架橋したポリマーを含むことができる。
【0041】
特に好ましい態様において、支持体はデンドリマーである。本発明で使用するデンドリマーの性質は特に限定されず、いくつかの市販のデンドリマーを使用でき、例えばポリアミドアミン(PAMAM)例えばスターバースト(STARBURST)(登録商標)デンドリマー、及びポリプロピレンイミン(PPI)例えばアストラモル(ASTRAMOL)(登録商標)デンドリマーである。想定されるデンドリマーの他の型には、フェニルアセチレンデンドリマー、フレシェ(Frechet)(すなわちポリ(ベンジルエーテル))デンドリマー、超分枝(hyperbranched)デンドリマー及びポリリシンデンドリマーが含まれる。本発明の一態様において、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが使用される。
【0042】
デンドリマーは、金属コア型(metal−cored)及び有機コア型(organic−cored)の両方を含み、その両方を本発明で利用できる。有機コアデンドリマーが一般に好ましい。
【0043】
デンドリマーの特性は、その表面基(surface group)に影響される。本発明において、表面基は受容体及び発蛍光団に結合するための結合点として作用する。したがって、好ましい表面基にはこのような結合反応で使用できる官能基、例えばアミン基、エステル基又はヒドロキシル基が含まれ、アミン基が好ましい。しかし、表面基の性質は、特に限定されない。本発明で使用するのに想定され得るいくつかの従来の表面基には、アミドエタノール、アミドエチルエタノールアミン、ヘキシルアミド、カルボン酸ナトリウム、スクシンアミド酸、トリメトキシシリル、トリス(ヒドロキシメチル)アミドメタン及びカルボキシメトキシピロリジノン、特にアミドエタノール、アミドエチルエタノールアミン及びカルボン酸ナトリウムが含まれる。
【0044】
デンドリマーの表面基の数は、デンドリマーの世代に影響される。好ましくは、デンドリマーは少なくとも4個、より好ましくは少なくとも8個又は少なくとも16個の表面基を有する。通常、デンドリマーの全ての表面基が受容体又は発蛍光団部分に結合するであろう。しかし、デンドリマーの表面基うち、受容体又は発蛍光団部分(又は受容体及び発蛍光団の構造体)に結合しないままのものがある場合、その表面基を使用して、特定の望ましい特性を付与することができる。例えば、ヒドロキシル基、カルボン酸基、硫酸基、ホスホン酸基又はポリヒドロキシル基などの水溶性を増強する表面基が存在し得る。硫酸基、ホスホン酸基及びポリヒドロキシル基は、水溶性表面基の好ましい例である。
【0045】
一態様において、デンドリマーは、重合性基(polymerisable group)を含有する少なくとも1個の表面基を組み込んでいる。重合性基は、重合反応を受けることができる任意の基であってもよいが、通常は炭素炭素二重結合である。重合性基を組み込んでいる適切な表面基の例は、窒素原子が式−リンカー−C=CHの基で置換されているアミドエタノール基である。リンカー基は通常、アルキレン、アルキレン−アリーレン又はアルキレン−アリーレン−アルキレン基である。ここでアルキレンは通常、C1又はC2アルキレン基であり、アリーレンは通常、フェニレンである。例えば、表面基は、窒素原子が−CH−Ph−CH=CH基で置換されているアミドエタノールを含むことができる。
【0046】
デンドリマー表面に重合性基が存在することにより、デンドリマーはポリマーに、デンドリマーを1つ又は複数のモノマー又はポリマーと重合させることによって結合することができる。したがって、デンドリマーは、デンドリマーの水溶性を増強するために例えば水溶性ポリマーにつなぐことができ、又はデンドリマーをセル内に備える助けるためにヒドロゲル(すなわち、高度に親水的な架橋ポリマーマトリックス、例えばポリアクリルアミド)につなぐことができる。
【0047】
好ましくは、デンドリマーは対称形である、すなわち、デンドロンの全てが同一である。
【0048】
デンドリマーは、一般式
CORE−[A]
を有する。
式中、COREは、デンドリマーの金属又は有機(好ましくは有機)コアを表し、nは、通常4以上、例えば8以上、好ましくは16以上である。適切なCORE基の例には、ベンゼン環並びに式−RN−(CH−NR−及びN−(CH−Nの基が含まれ、pは2〜4、例えば2であり、Rは水素又はC1〜C4アルキル基、好ましくは水素である。−HN−(CH−NH−及びN−(CH−Nが好ましい。
【0049】
各基AはCORE又はさらなる基Aのいずれかに結合していてもよく、したがって、デンドリマーの典型的なカスケード構造(cascading structure)を形成できる。好ましい態様において、2個以上、例えば4個以上の基Aが、COREに結合している(第1世代基A)。デンドリマーは、通常は対称的であり、すなわちCOREは2つ以上、好ましくは4つ以上の同一のデンドロンを持つ。
【0050】
各基Aは、1個又は複数の分枝基(branching group)を有する基本構造から構成されている。基本構造は通常、アルキレン若しくはアリーレン部分又はそれらの組合せを含む。好ましくは、基本構造はアルキレン部分である。適切なアルキレン部分は、C1〜C6アルキレン部分である。適切なアリーレン部分は、フェニレン部分である。アルキレン及びアリーレン部分は非置換であってもよく又は置換されていてもよく、好ましくは非置換であることができる。アルキレン部分は−NR’−、−O−、−CO−、−COO−、CONR’−、−OCO−及び−OCONR’から選択される官能基によって中断又は終了されていてもよく、R’は水素又はC1〜C4アルキル基である。
【0051】
分枝基は、基本構造に結合しており2つ以上のさらなる結合点を有する少なくとも三価基である。好ましい分枝基には、分枝状アルキル基、窒素原子、及びアリール又はヘテロアリール基が含まれる。窒素原子が好ましい。
【0052】
分枝基は通常、(i)基Aの基本構造、及び(ii)2個以上のさらなる基Aに結合している。しかしデンドリマー表面にある場合、分枝基はそれ自体がデンドリマーを終了させることができ(すなわち、分枝基は表面基である)、又は分枝基は2個以上の表面基に結合していてもよい。
【0053】
好ましい基Aの例は、式
−(CH−(FG)−(CH−NH
の基である。
式中、q及びrは、同じである又は異なり、1〜4の整数、好ましくは1又は2、より好ましくは2を表す。sは、0又は1である。FGは−NR’−、−O−、−CO−、−COO−、CONR’−、−OCO−及び−OCONR’から選択される官能基を表し、R’は水素又はC1〜C4アルキル基である。好ましい官能基は−CONH−、−OCO−及び−COO−、好ましくは−CONH−である。
【0054】
上述の通り、表面基は、デンドリマーの指示体への(又は別々に受容体及び発蛍光団部分への)結合点を形成する。したがって、表面基は通常、非置換若しくは置換されたアルキレン若しくはアリーレン部分又はそれらの組合せ、好ましくは非置換若しくは置換されたアルキレン部分、及び指示体に結合するのに適切な少なくとも1個の官能基を含む。官能基は通常、アミン基又はヒドロキシル基であり、アミン基が好ましい。表面基の特定の例は、上述されている。
【0055】
利用されるデンドリマーが金属コアデンドリマーである場合、デンドリマー自体が蛍光特性を有することができる。この場合、デンドリマー自体が発蛍光団部分を形成できると想定される。この場合、支持体に結合した指示体は、デンドリマーに結合した受容体部分を単に含む。
【0056】
さらなる態様において、支持体は、高分子量(すなわち、少なくとも500、好ましくは少なくとも1000、1500又は2000又は10,000)を有する非デンドリマー非ポリマー高分子である。シクロデキストリン、クリプタン及びクラウンエーテルは、このような高分子の例である。このような高分子はまた、指示体にとって均一な環境も提供し、分析物の結合に対する発蛍光団の応答のさらなる一貫性をもたらす。
【0057】
受容体及び発蛍光団は支持体に、任意の適切な手段で結合していてもよい。共有結合が好ましい。通常、発蛍光団及び受容体は連結して発蛍光団−受容体構造体を形成し、次いでこの構造体が支持体に結合している。あるいは、受容体及び発蛍光団は支持体に別々に結合していてもよい。支持体部分1つ当たりの受容体−発蛍光団構造体部分の数は、通常1より大きく、例えば4以上又は8以上である。デンドリマー支持体を使用する場合、そのデンドリマーの表面を指示部分で覆うことができる。これは、指示部分が表面デンドロンの全て(又は実質的に全て)に結合することにより達成できる。
【0058】
ポリマー支持体が使用される場合、受容体−発蛍光団構造体は修飾されて二重結合を含み、(メタ)アクリレート又は他の適切なモノマーと共重合されて指示体に結合したポリマーをもたらすことができる。代替の重合反応又は単純な付加反応を利用することもできる。Wangら(Wang B.、Wang W.、Gao S.、(2001年)、Bioorganic Chemistry、29巻、308〜320頁)は、アントラセン発蛍光団に連結したモノボロン酸グルコース受容体を含む重合反応の例を提供している。
【0059】
デンドリマー支持体の場合、デンドリマーは、発蛍光団及び受容体部分と別々に反応するか、又はより好ましくは、予め形成された受容体−発蛍光団構造体と反応するかのいずれかである。任意の適切な結合反応を使用できる。適切な方法の一例は、表面アミン基を有するデンドリマーを、反応性アルデヒド基を有する発蛍光団−受容体構造体と還元的アミノ化によってホウ化水素型試薬の存在下で反応させる技術である。得られた構造体は限外濾過によって精製できる。ボロン酸受容体及びアントラセン発蛍光団に結合したデンドリマーの一例は、Jamesら(Chem.Commum.、1996年、706頁)によって提供されている。
【0060】
重合性基を表面基として有するデンドリマー支持体の場合、デンドリマーは、ポリマーがデンドリマーの表面に結合しているデンドリマー−ポリマー構造体を形成するために、1つ又は複数のモノマーと重合反応を受けることができる。通常、デンドリマーは重合反応の後期に添加されて、その結果デンドリマーはポリマー連鎖を終了させる。
【0061】
あるいは、デンドリマーは予め形成されたポリマーと反応されてもよい。これは、例えばポリマーのカルボン酸基とデンドリマーのヒドロキシル基との間の縮合反応によって達成されて、形成されたエステルを介する連結を提供できる。
【0062】
これらの反応で使用できるモノマー及びポリマーの例は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドン並びにそれらの組合せ及びそれらに対応するポリマーである。好ましいポリマーは、水溶性ポリマーである。好ましくはポリマーの水溶性は、適切な蛍光信号が、ポリマー/指示体が水に溶解している場合生成されるような水溶性である(理想的には無限の溶解性)。ポリアクリルアミドは、デンドリマーに結合した高水溶性ポリアクリルアミド鎖の形成をもたらすので特に好ましい。この実施形態の一態様において、デンドリマー支持体に結合したポリマー(例えばポリアクリルアミド)鎖は、架橋されてヒドロゲルを形成する。任意選択で、ヒドロゲルは水中に置かれたとき、水相とポリマー相との間に明瞭な界面が存在しないような、高い水分含量を有する(本明細書では、ヒドロゲルは流動体である)。この場合、ヒドロゲルは通常、水又は水溶液との混合物の形態で提供される。
【0063】
デンドリマーの表面からの重合は、発蛍光団と受容体部分との結合の前又は後に実施できる。
【0064】
受容体及び発蛍光団が水溶液でセンサに供給されている場合、受容体−発蛍光団構造体又は支持体に結合した構造体の適切な濃度は、10−6〜10−3Mである。その濃度は必要とされるセンサの特性によって変わることがある。溶液中の受容体及び発蛍光団の濃度又は量が高いほど、信号レベルは、大きくなる。
【0065】
本発明のセンサの一例を、図1及び図1aに図示する。センサ1は、遠位端に検知領域3を含む光ファイバー2を備えている。ファイバー2は、例えばカニューレを通して患者の血管に挿入するように構成されている。
【0066】
本発明のセンサは、血管内で使用するように構成されており、したがって血管、通常は静脈また動脈に挿入できなければならない。通常、本発明のセンサは、標準的な20ゲージカニューレなどのカニューレを通して挿入される。したがって、センサは一般に血管に入る部分で0.5mmの最大直径を有している(図1及び図1aで、ファイバーの検知領域3は0.5mmの最大直径を有している)。検知領域が血管内に位置し、カニューレ内に残らないように、センサの長さは一般に少なくとも5cmであり、ファイバーがカニューレを通り抜けることができるようになっている。通常、センサは、5cmより著しく長く、ファイバーの遠位部だけに、検知領域が組み込まれ、血管に挿入されるファイバーを備えるであろう。
【0067】
検知領域3は、指示システムを含有するセル又はチャンバ7を含んでいる。光ファイバーは、ケーブル4を通じてコネクタ5まで伸び、適切なモニタ8と結合するように構成されている。モニタには通常、5aでコネクタ5と接続し、他端で二叉に分岐して(a)光学的センサ用の適切な入射光の光源9と(b)帰還信号用の検出器10とを接続するさらなる光学的ケーブル4aが含まれる。
【0068】
図1に図示するように、検知領域3は、ファイバー内にチャンバの形態のセル7を組み込んでいる。光ファイバーによって導かれる入射光の進路に指示システムを含有することができる限り、セルは任意の形態をとることができる。したがって、セルはファイバーの遠位端に付着させることができ、又は任意の望ましい形状を有するファイバー内でチャンバの形態をとることができる。セルは少なくとも一つの開口部(aperture)(図示しない)を有し、グルコースを血流からセルに侵入させる。
【0069】
一実施形態において、受容体/発蛍光団は、ヒドロゲル又は他のポリマーマトリックス中に備えられる。あるいは、これらは水溶液で提供することができる。グルコース透過性膜を、好ましくはその開口部又は各開口部を横切って配置して、指示システムをセル内に保持し、グルコースを侵入させる。
【0070】
本発明の一実施形態において、蛍光信号は温度補正できる。この実施形態において、熱電対(サーミスタ又は他の温度プローブ)はファイバーの遠位端の中又は上にある指示システムのそばに置かれるであろう。
【0071】
また、本発明のセンサにおいて、適切な波長の入射光を指示体に伝達するための光源9及び帰還信号を検出するための検出器10も提供される。光源は、好ましくはLEDであるが、レーザダイオードなど他の光源であってもよい。光源は、温度に対して安定化することができる。光源の波長は、使用する発蛍光団によって決められるであろう。「光」という用語は、光源の発光波長に対するいかなる特定の制限も含意するものではなく、特に可視光に限定されるわけではない。光源9は、励起波長を選択する光学フィルタを含むことができるが、光源が十分に狭帯域又は単色である場合、このフィルタリングは不要になることがある。
【0072】
蛍光寿命を検出できる任意の適切な検出器10を使用できる。一態様において、検出器10は、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)(一種のフォトダイオード)である。適切なSPADには、SensL社SPMMicro、浜松フォトニクス社MPPC、Idquantique社ID101、及び他の類似のデバイスが含まれる。(単一光子アバランシェダイオードはまた、ガイガーモード(Geiger−mode)APD又はG−APDとして公知であることもあり、APDはアバランシェフォトダイオードを表す)。光学フィルタ(図示しない)を備えて、検出器10に到達できる光の波長を制限し、例えば対象の蛍光波長を除く実質的に全ての光を遮断することができる。
【0073】
図2は、SPAD検出器を使用する本発明による蛍光センサの好ましい実施形態を概略的に示している。この実施形態は、周波数領域測定法を使用する発蛍光団の寿命測定に関して記載するが、同じ装置が時間領域測定用に等しく使用できる。信号発生器11は、ドライバ12に伝えられる第1周波数の高周波周期信号を発生させる。ドライバ12は、第1信号を変調することができ、次いで第1信号を使用して光源9の変調を操作する。
【0074】
ドライバ12は光源9を操作して、励起光の強度(振幅)を変調する。好ましくは、この変調は、電気的に光源を変調しているドライバ12によってなされて、発光強度を変化させる。あるいは、光源9が可変光変調器を含んで、最終出力強度を変化させることができる。信号発生器11及びドライバ12によって制御される光源9からの光の強度の変調の形(波形)は、状況に応じて正弦波、三角波、脈波を含めた様々な形をとることができるが、第1周波数において変調波は周期波である。
【0075】
光源9からの光出力は、光ファイバー2を介してセル7中の指示システムに伝達される。この実施形態において、光源9の出力は周期的に変調されるので、その蛍光の光も同じ基本的な第1周波数で事実上変調される。しかし、発蛍光団の蛍光挙動のために、蛍光放射光に導入された時間遅延があり;時間遅延は、励起光の変調と蛍光の光の変調との間の位相遅延として現われる。
【0076】
放射された蛍光の光は、光ファイバー2を介して検出器10に伝達される。この実施形態において、検出器10は、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)である。単一光子アバランシェダイオード検出器10は、低降伏電圧(閾値)又は高降伏電圧を有する種類であることができる。バイアス電圧が単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高くなるように、バイアス電圧をバイアス電源22によって単一光子アバランシェダイオード検出器に印加できる。この状態で、検出器10は単一光子の受光によって出力電流パルスが生じるような極めて高い感度を有しており、したがって強度が極めて低い場合でも、総出力電流は受け取った光の強度に関連づけられる。
【0077】
単一光子アバランシェダイオード検出器10に印加されるバイアス電圧が第2周波数で変調されるように、バイアス電源22は信号発生器11から第2周波数で周期信号を受信する。好ましい実施形態において、単一光子アバランシェダイオード検出器は低電圧型であり、平均バイアス電圧は25〜35Vdcの範囲にあるが、実際のデバイスの降伏電圧に応じて、第2周波数で通常3〜4Vの変調度でより高く又は低くなることがある。変調波の波形は、光源の波形のように、いかなる特定の波形にも限定されないが、通常は正弦波である。検出器10の出力は、信号処理部24に伝えられる。アナログ−デジタル変換器(ADC)(図示しない)を備えて単一光子アバランシェダイオードのアナログ出力信号をデジタル領域に変換することができ、信号処理部24は、デジタル信号処理(DSP)を利用できる。
【0078】
信号処理部24は専用の電子機器、若しくは汎用プロセッサで動作するソフトウェア、又はその2つの組合せで実行できる。好ましい実施形態において、マイクロプロセッサ(図示しない)は、分析を行う信号処理部24及び信号発生器11の両方を制御する。したがって、信号処理部24は、光源の変調信号周波数及び位相、並びに検出器のバイアス電圧の変調周波数及び位相に関する情報を有する。
【0079】
バイアス電圧の変調は、単一光子アバランシェダイオード検出器10の利得(gain)を変調する。光源9、したがって受光した蛍光の光は第1周波数で変調されるが、単一光子アバランシェダイオード検出器10のバイアス電圧は、第1周波数とは異なる第2周波数で変調される。これにより、第1周波数と第2周波数との差に等しい周波数の分析信号で動作する信号処理部24によってヘテロダイン測定法を使用することが可能になる。好ましくは、第1及び第2周波数は10%未満だけ、より好ましくは1%未満だけ異なる。第1及び第2周波数の周波数の差は、使用される指示システムによって決まるが、例えば50kHzとすることができる。
【0080】
他の実施形態によれば、第1及び第2周波数を名目上同じとすることもできるが、様々な位相シフトが、信号間に導入される(例えば、連続的に変化する遅延による、他の信号に対する一方の信号の遅延による)。位相シフトが各周期を変化させるので、実はこれは2つの異なる周波数を有するのと同じである。好ましくは、導入した位相シフトは速やかに掃引される。
【0081】
信号を分析し、光源9の変調及び検出器のバイアス電圧の変調の両方の周波数及び位相を知ることにより、信号処理部24はシステムに導入された位相遅延を測定できる。センサに固有の位相遅延(いずれの発蛍光団の存在もなしに、又は既知の蛍光寿命(既知の位相遅延)の試料を用いて算出できる)を差し引いて、純粋に指示システム中の発蛍光団による位相シフトが得られる。この情報は、次いで適切な較正データを使用してグルコース濃度に変換できる。必要とされた測定結果は、次いで出力26に提示される。測定結果の出力はディスプレイ(図示しない)に表示でき、及び/又は後で検索できるようにメモリ28に記録できる。
【0082】
上記の方法は、単一のデータポイントを基本的に使用して、所望の蛍光関連情報を得ている。しかし、本発明のさらに好ましい実施形態によれば、一連の測定は行われるが、各測定について位相角を制御可能に進める又は遅らせることができるような異なる位相シフト及び/又は周波数の差が電子的に導入される。信号発生器11によって発生される2つの信号波形は、それら信号の相対位相がこれら周波数で時間と共に変化するような、互いに異なる第1及び第2周波数である。しかし、装置は制御されており、したがって例えば、2つの周波数の波形を特定の瞬間に同期させることができ、次いで他のどの時間の実位相シフトも算出することができる。一例では、10kHz、20kHz及び30kHzの周波数の差でシフトしながら、測定が繰り返される。加えて、同期の際に特定の位相シフトを導入することができ、その結果、波形は公知の初期位相差を有する。位相変調空間を効果的に緻密に計画するために、導入する各位相角シフトについて、分析されている信号の変調度が得られる。導入する位相角は、例えば0〜180度で5度ずつ増加させることができる。その結果は、変調度を、導入した位相角と関連付ける一連のデータポイントになる。これらのデータポイントは、例えば曲線あてはめ及び/或いはいかなる試料も存在しない又は1つ若しくは複数の標準較正試料が存在する状態での位相角に対する変調度の較正データと比較することによって、分析可能なグラフを構成する。一般論として、異なる初期位相差及び/又は異なる周波数の差を使用する測定の結果は統合することができ、したがって全体の測定精度を改善することができる。
【0083】
上記の方法の概要を、図3のフローチャートに概略的に表している。
【0084】
センサ装置全体は、マイクロプロセッサによって制御できる(図示しない)。図2はいくつかの個別の電子回路の項目を示すが、これら項目の少なくともいくつかは、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又は特定用途向け集積回路(ASIC)など単一の集積回路に組み込むことができる。
【0085】
本発明は、様々な特定の実施形態及び実施例を参照して説明されているが、本発明がこれらの実施形態及び実施例に限定されないことは理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発蛍光団の寿命をモニタリングすることによりグルコース濃度を測定するように構成されているセンサであって、
グルコースに選択的に結合する受容体及び前記受容体に会合している発蛍光団を有する指示システムであり、前記発蛍光団が100ナノ秒未満の寿命を有する、指示システムと、
光源と、
光を前記光源から前記指示システムに導くように構成されている光ファイバーと、
前記指示システムから放射された蛍光を受光するように構成されている検出器と、
少なくとも前記検出器の出力信号に基づいて、前記発蛍光団の蛍光寿命に関する情報を判定するように構成されている信号処理部と、
を備える、グルコース濃度の血管内測定用のグルコースセンサ。
【請求項2】
前記検出器が単一光子アバランシェダイオードである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
第1周波数で前記光源強度を変調するように構成されているドライバと、
前記単一光子アバランシェダイオードにバイアス電圧を印加するように構成されているバイアス電源と、
をさらに備え、
前記バイアス電圧が、前記第1周波数とは異なる第2周波数で変調されており、前記バイアス電圧が前記単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高い、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記信号処理部が、前記第1及び第2周波数の差によって与えられる周波数における前記単一光子アバランシェダイオードの前記出力信号の成分で動作する、請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
信号発生器を制御して、前記第1及び第2周波数間の周波数の差と、前記第1及び第2周波数における前記光源の変調及び前記バイアス電圧の変調に使用された信号間の位相差とのうちの少なくとも一方を変化させる、請求項3又は4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記指示システムが、ヒドロゲルに結合した発蛍光団−受容体構造体を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記ヒドロゲルが、少なくとも30%w/wの水分含量を具備する流動性ヒドロゲルである、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記指示システムが、前記受容体及び発蛍光団が溶解している水溶液である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項9】
前記発蛍光団が、30ナノ秒以下の寿命を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記発蛍光団が非金属発蛍光団である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項11】
グルコース濃度の血管内測定方法であって、
請求項1又は6〜10のいずれか一項に記載のセンサの指示システムを静脈又は動脈に挿入するステップと、
入射光を、前記光ファイバーを介して光源から前記指示システムに伝えるステップと、
前記光源から前記指示システムに入射する光に応答して、前記指示システムから放射された蛍光を、前記検出器を使用して受光し、出力信号を発生させるステップと、
少なくとも前記検出器の前記出力信号に基づいて、前記発蛍光団の前記蛍光寿命に関する情報を判定するステップと
を備える方法。
【請求項12】
前記検出器が単一光子アバランシェダイオードであり、
第1周波数で光源強度を変調するステップと、
前記単一光子アバランシェダイオードにバイアス電圧を印加するステップと、
をさらに備え、
前記バイアス電圧が、前記第1周波数とは異なる第2周波数で変調されており、前記バイアス電圧が前記単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高い、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1及び第2周波数の差によって与えられた周波数における、前記単一光子アバランシェダイオードの前記出力信号の成分に基づいて前記蛍光寿命の情報を判定するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び第2周波数間の前記周波数の差を変化させるステップと、前記第1及び第2周波数における前記光源の変調及び前記バイアス電圧の変調に使用された信号間の位相差を制御するステップとのうちの少なくとも一方をさらに含む、請求項12又は13に記載の方法。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−519484(P2013−519484A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553395(P2012−553395)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000211
【国際公開番号】WO2011/101628
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(509002132)グリシュア リミテッド (4)
【Fターム(参考)】