説明

血管内皮増殖因子(VEGF)に対する組換え抗体

本発明は、ヒト血管内皮増殖因子A(VEGF−A)を特異的に認識し、そのin vivo血管新生促進及びin vitro刺激効果に干渉する、組換え抗体関連ポリペプチド分子に関する。前述の組換えポリペプチド分子は、in vitroでのヒト内皮細胞の増殖、VEGF−Aを含むマトリゲルプラグによって誘導されるマウスにおける皮下血管新生、及びヌードマウスに移植したヒト腫瘍の増殖に影響を与えることができる。これらの分子の幾つかは、非ヒト霊長類実験モデルにおいて脈絡膜血管新生を妨げる。前記分子は、特に加齢性黄斑変性症(滲出型)、癌及びその転移、血管新生緑内障、糖尿病性及び新生児網膜症、急性及び慢性炎症過程、感染性疾患、自己免疫疾患、臓器移植拒絶反応、血管腫及び血管線維腫などの、脈管構造の増大と関係がある過程を有する病的実体の受動免疫療法に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー及び製薬産業の分野に、具体的には、ヒト血管内皮増殖因子A(VEGF−A)を特異的に認識し(Ferrara,N.ら、2003.Nature Medicine 9:669〜676)、そのin vitro刺激効果及びin vivo血管新生促進活性に干渉する抗体に関連する組換えポリペプチド分子の開発及び適用例に関する。これらの分子には、単鎖Fv抗体断片(scFv)、Fab抗体断片、及び「完全抗体」型二価分子(scFv−Fc)がある。
【背景技術】
【0002】
既存の血管からの新たな血管の形成の過程は血管新生と呼ばれ、血管新生促進因子と抗血管新生因子の平衡によって制御される。血管新生促進因子の異常な誘導及び新たな血管の形成と関連している疾患には、癌(原発性腫瘍及びその転移)、喘息、呼吸窮迫症、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症及び組織浮腫などの急性及び慢性炎症過程、肝炎及びカポジ肉腫などの感染由来の疾患、糖尿病、乾癬、関節リウマチ及び甲状腺炎などの自己免疫疾患、及び糖尿病性網膜症、臓器移植拒絶反応、加齢性黄斑変性症(滲出型)、血管新生緑内障、血管腫、及び血管線維腫などの幾つかの他の疾患及び状態がある(Carmeliet,P.and Jain,RK.2000.Nature 407:249〜257;Kuwano M、2001.Intern Med 40:565〜572)。
【0003】
多くのこれらの疾患に魅力的な治療手順は、中和分子の投与による、血管の異常な形成を刺激する血管新生促進因子の活性の阻害に基づいている。医療業務では、ヒトVEGF−Aの血管新生促進効果を認識し中和する、アバスチンとして商業上知られる組換えヒト化抗体ベバシズマブ(Ferrara,N.、2005.Biochem Biophys Res Comun 333:328〜335)は、腫瘍過程の治療のために数カ国において承認されている。その効果は、腫瘍細胞及び腫瘍間質の他の細胞、マクロファージ及び線維芽細胞などによって生じるVEGF−A誘導型血管新生の阻害に主に依存することが示されている。この抗体は本来、哺乳動物細胞から得たヒトVEGF−Aのアイソフォーム165を用いたマウスの免疫感作によって、マウスモノクローナル抗体として得られた(Kim,KJ.ら、1992.Growth Factors 7:53〜64)。次いで抗体を遺伝子工学により改変してそのヒト化を達成し、それは分子にヒトへの使用時のより良い耐性及び治療有効性を与える。
【0004】
近年、前述のアバスチン由来の抗体断片でありルセンティスとして商業上知られる、ラニビツマブ(Gaudreault,J.、2005.Invest Ophthalmol Visual Sci 46:726〜733)は、加齢性黄斑変性症(滲出型)の治療について数カ国において承認されている。ラニビツマブは、遺伝子工学を使用したベバシズマブの操作に由来する組換えFab抗体断片である。ラニビツマブの硝子体内注射は局所生成するVEGF−Aを中和し、この疾患の根本である網膜のさらなる血管新生を制御する。
【0005】
血管内皮増殖因子は、直接及び特異的な型式で新しい血管の形成を誘導する分子のファミリーである(Leung,D.ら、1989.Science 246:1306〜1309)。このファミリーは、現在VEGF−Aと命名されている血管内皮増殖因子としても知られる血管透過性因子(VPF)、胎盤増殖因子(PIGF)、胎盤由来増殖因子(PDGF)PDGF−A及びPDGF−B、及びVEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、及びVEGF−Eと命名されるVEGF−Aに構造的及び機能的に関連がある他の分子を含む(Olofsson,B.ら、1996.Proc Natl Acad Sci USA 93:2576〜2581;Joukov,V.ら、1996.EMBO J 15:290〜298;Yamada,Y.ら、1997.Genomics 42:483〜488;Ogawa,S.ら、1998.J Biol Chem 273:31273〜31282)。
【0006】
VEGF−Aは、5個のモノマーのアイソフォームが存在し、1個の同じリボ核酸(RNA)の差次的スプライシングから誘導される、2個の23kDaサブユニットによって形成されるホモ二量体糖タンパク質である(Ferrara,N.ら、1989.Biochem Biophys Res Comun 161:851〜858)。これらは、細胞膜と結合した状態の2個のアイソフォーム(VEGF189及びVEGF206)、及び3個の可溶性のアイソフォーム(VEGF121、VEGF145、及びVEGF165)を含む。VEGF165は、VEGF189が多量に存在する肺と心臓(Neufeld Gら、1995.Canc Met Rev 15:153〜158)、及びVEGF121が優勢である胎盤(Shibuya,M.1995.Adv Cancer Res 67:281〜316)を除いた、哺乳動物の組織中に最も豊富に存在する。
【0007】
VEGF−Aはこのファミリーの最も研究及び特徴付けられているタンパク質であり、多数の疾患におけるその変化が記載されている。VEGF−Aの過剰発現は、異なる由来及び局在の腫瘍、及びその転移(Grunstein,J.ら、1999.Cancer Res 59:1592〜1598)、潰瘍性大腸炎及びクローン病などの慢性炎症過程(Kanazawa,S.ら、2001.Am J Gastroenterol 96:822〜828)、乾癬(Detmar,M.ら、1994.J Exp Med 180:1141〜1146)、呼吸窮迫症(Thickett,DR.ら、2001.Am J Respir Crit Care Med 164:1601〜1605)、アテローム性動脈硬化症(Celletti,FL.ら、2001.Nat Med 7:425〜429)、子宮内膜症(McLaren,J.2000.Hum Reprod Update 6:45〜55)、喘息(Hoshino,M.ら、2001.J Allergy Clin Immunol 107:295〜301)、関節リウマチ及び変型性関節炎(Pufe,T.ら、2001.J Rheumatol 28:1482〜1485)、甲状腺炎(Nagura,S.ら、2001.Hum Pathol 32:10〜17)、糖尿病性及び新生児網膜症(Murata,T.ら、1996.Lab Invest 74:819〜825;Reynolds,JD.2001.Paediatr Drugs 3:263〜272)、黄斑変性症及び緑内障(Wells,JA.ら、1996.Br J Ophthalmol 80:363〜366)、組織浮腫(Kaner,RJ.ら、2000.Am J Respir Cell Mol Biol 22:640〜641)、肥満(Tonello,C.ら、1999.FEBS Lett 442:167〜172)、血管腫(Wizigmann,S.y Plate,KH.1996.Histol Histopathol 11:1049〜1061)、炎症性萎縮を有する患者の洞房結節液中(Bottomley,MJ.ら、2000.Clin Exp Immunol 119:182〜188)と関係があり、且つ移植片拒絶反応(Vasir,B.ら、2001.Transplantation 71:924〜935)と関係がある。腫瘍の特定の症例では、VEGF−Aの3個の基本的アイソフォーム(121、165及び189)を発現する細胞は、in vivoでより速く増殖する細胞である(Grunstein,J.2000.Mol Cell Biol 20:7282〜7291)。
【0008】
VEGFファミリーの分子によって誘導される内皮細胞の機能の変化は、これまでVEGFR1(Flt1)、VEGFR2(KDR/Flt1)及びVEGFR3(Flt4)を含むチロシンキナーゼクラス3受容体とのそれらの結合によって媒介される(Kaipainen,A.1993.J Exp Med 178:2077〜2088)。これらの受容体の第2のN末端ドメインが、細胞質ドメインのリン酸化及びシグナル翻訳(signal translation)を助長するリガンド結合を担うとして同定されている(Davis−Smyth,T.ら、1996.EMBO 15:4919〜4927)。
【0009】
VEGFR2(KDR/Flk1)はVEGF−Aの生物学的影響を媒介し、さらにVEGF−C、及びVEGF−Dと結合する。この受容体は活性内皮細胞及び腫瘍由来の幾つかの細胞系において差次的に発現され、この場合オートクリン様ループの刺激が分泌されるVEGFによって確立し得る。そのリガンドの過剰発現と関係がある前述の病状と関連があることに加えて、受容体の過剰発現は子宮内膜癌(Giatromanolaki,A.ら、2001.Cancer 92:2569〜2577)、悪性中皮腫(Strizzi,L.ら、2001.J Pathol 193:468〜475)、星状細胞腫瘍(Carroll,RS.ら、1999.Cancer 86:1335〜1341)、原発性乳癌(Kranz,A.ら、1999.Int J Cancer 84:293〜298)、腸型胃癌(Takahashi,Y.ら、1996.Clin Cancer Res 2:1679〜1684)、多型性膠芽腫、未分化希突起グリオーマ及び壊死性上衣細胞腫(Chan,AS.ら、1998.Am J Surg Pathol 22:816〜826)の進行とも関係している。KDRの過剰発現は、自律神経系VHL疾患及び血管芽細胞腫(Wizigmann−Voos,S.ら、1995.Cancer Res 55:1358〜1364)、糖尿病性網膜症の進行(Ishibashi、T.2000.Jpn J Ophthalmol 44:323〜324)とも関係している。Flt−1と共に、KDRは遅延型過敏反応と関係している(Brown,LF.ら、1995.J Immunol 154:2801〜2807)。
【0010】
特に癌における血管新生の阻害に関する新しい治療戦略の大部分は、VEGF−A及び/又はその受容体の阻害に基づく。承認されている製品又は臨床試験中の製品の中で際立ったものとして、本発明者らは以下の:(1)VEGF−A又はKDRを阻害するモノクローナル抗体、(2)ネオバスタット及びプリノマスタットなどのメタロプロテイナーゼ阻害剤、(3)タリドミド、スラミン、トロポニンI、IFN−α及びネオバスタットなどのVEGF阻害剤、(4)SU5416、FTK787及びSU6668などのVEGF受容体阻害剤、(5)エンドスタチン及びCA4−Pなどの腫瘍内皮のアポトーシスの誘導物質、及び(6)VEGFの発現又はその受容体の発現を低下させるリボザイム(アンジオザイム)を見出す。
【0011】
前述の全ての中で、VEGF−Aの血管新生促進効果を中和する抗体(及び抗体断片)は、治療薬品としての用途及び承認に関して最も進んだ抗体(及び抗体断片)である。前述し既に登録されているベバシズマブ及びラニビツマブの例に加えて、ヒトVEGFを認識し中和する抗体及び抗体断片を述べる他の報告が存在する(Muller,Y.ら、1997.Proc Natl Acad Sci USA 94:7192〜7197;Asano,M.ら、1998.Hybridoma 17:185〜190;Vitaliti Aら、2000.Cancer Res 60:4311〜4314;Brekken,RA.y Thorpe,PE.2001.J Controlled Release 74:173〜181;Jayson,G.ら、2002.JNCI 94:1484〜1493;Brekken,RA.ら、2000.Cancer Res 60:5117〜5124;Fuh,G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631;US5730977)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、配列番号7及び配列番号8のヌクレオチド配列、又は相同配列によってコードされるヒト免疫グロブリン可変領域(VR)を含み、必ずしもそれだけに限られないが、残基C102、C57、R56、T31及びL32に対して定義されるヒトVEGF−Aにおけるエピトープを認識し、VEGF−Aの血管新生促進効果に干渉する抗体に関連する組換えポリペプチド分子を記載する。血管新生に関連するin vitro及びin vivoモデルにおいてヒトVEGF−Aの血管新生促進効果を中和する、このような分子の能力を実証する。これらの分子は1つ又は複数の抗原結合部位によって形成され、そのような部位はヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖VRのDNA配列によってコードされるアミノ酸によって構成される。
【0013】
本発明の実施のために、以下の用語を定義する:
組換え抗体
(抗原結合部位と一般に命名される、免疫グロブリン重鎖と軽鎖可変領域の特定の組合せによって形成される)(Gavilondo y Larrick.2000.Biotechniques 29:128〜136)1つ又は複数の相互作用ドメインによって抗原を特異的に認識する、合成手段によって(組換えDNA又は人工遺伝子合成によって)部分的又は完全に生成される、免疫グロブリン又はその一部分を記載する。組換え抗体の例はいわゆるキメラ及びヒト化抗体であり、その中で一種から得られる可変領域(又はその一部分)は、遺伝子工学を使用して他種の免疫グロブリン定常領域と結合させる。組換え抗体の中で、本発明者らは遺伝子工学によって生成する1つ又は複数の抗原結合部位を含む抗体断片も有する。組換え抗体断片の例は、(i)免疫グロブリンのVL、VH、CL及びCH1を含むFab断片、(ii)VH及びCH1ドメインから成るFd断片、(iii)抗体のVL及びVHによって形成されるFv断片、(iv)抗体のVH及びVLドメインが、抗原結合部位を形成するための2ドメインの結合を可能にするペプチドリンカーセグメントによって異なる型(VH−VL又はVL−VH)で連結しているscFv断片(Birdら、1988.Science 242:423〜426;Hustonら、1988.PNAS USA 85:5879〜5883)、(v)「ダイアボディ」という、scFvと同様の型式で構築されるが、小さなサイズのリンカーが1つのscFv分子のVHドメインとVLドメインが互いに結合するのを可能にせず、結合部位が2つ以上の個々のscFv分子の結合によって形成される必要のある多価又は多重特異性断片(WO94/13804;Holliger Pら、1993.PNAS USA 90:6444〜6448)、(vi)dAb(Ward SEら、1989.Nature 341:544〜546)、単離相補性決定領域(CDR)、F(ab’)断片、及びscFv二重特異性二量体(PCT/US92/09965;Holliger P y Winter G.1993.Current Opinion Biotechnol.4:446〜449;de Haard,H.ら、1998.Adv.Drug Delivery Rev.31:5〜31)である。scFv及びFabなどの幾つかの型の断片は抗体ライブラリーから得ることもでき、この場合一種の広いレパートリーの(合成又は天然源由来の)VR遺伝子をランダムに組み合わせて、線状ファージの表面で後に提示される抗体VRの個々の結合をもたらす。
【0014】
遺伝子工学によって抗体定常領域と抗体断片を人為的に組み合わせた「抗体型」分子も、組換え抗体と考えられる。例えば、ヒンジ、CH2、CH3、及び時折免疫グロブリンFcのCH4ドメインによって形成される領域とscFvを結合させることによって、二価「抗体型」分子を構築することが可能である。記載した領域の全て又は幾つかの有用性及びグリコシル化の存在に応じて、抗体型分子は、免疫グロブリンFcと一般に関係があるエフェクター機能を示すことができる。
【0015】
抗原結合部位。エピトープ
最初の用語は、抗原(又はその一部分)と特異的に相互作用する抗体の一部分を記載する。抗原の分子サイズが大きいとき、抗体はエピトープと命名される抗原の特定のゾーンのみと結合することができる。抗体結合部位は、2つの抗体可変領域、軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域によって主に形成される。抗体結合部位は、可変領域の非共有結合相互作用によって形成される。抗体結合部位は、scFv断片の場合と同様に、抗原を特異的に認識するその性質に干渉しないリンカーペプチドと2つの抗体可変領域の連結によって、人為的に安定化することができる。本来、抗体結合部位は、可変領域の非共有結合相互作用によって構築され、これはそれぞれ分子の天然の構造の重鎖と軽鎖可変領域に続くCH1及びCL(カッパ(κ)又はラムダ(λ))ドメインの、非共有結合相互作用によって増強される。天然の完全抗体は、2つの同一の抗原結合部位を有する。抗原がタンパク質である場合に、抗体結合部位によって認識されるエピトープは、アミノ酸の直鎖配列によって形成される可能性があり、或いは立体配座であってよい、即ち抗体結合部位によって認識されるアミノ酸はタンパク質の三次構造中で近接するが、必ずしもその主要構造中で連続的ではない。タンパク質の場合、エピトープは本来、非共有結合によって抗体と相互作用する特定群のアミノ酸によって定義される目立たないゾーンである。
【0016】
相同抗体
これは、他の抗体及び異なる抗体によってさらに特異的に同定される抗原のエピトープを特異的に認識する、天然又は遺伝子工学によって生成した抗体である。問題の2つの抗体はそれらの可変領域の配列の点で関係がある可能性があり(例えば、多かれ少なかれ広範囲であり得る突然変異により一方が他方に由来する)、或いは完全に異なる可変領域の配列を有する可能性がある。後者は、抗体と抗原の間の特異的相互作用は、特にタンパク質の場合、表面の相互作用、即ち、可変領域のアミノ酸残基間の非共有結合(水素結合、ファンデルワールス及び類似の結合)の形成によって行われる、事実によるものである(これは、可変領域と構造上近い幾つか他の目立たない残基が、時折その相互作用に関与する可能性もあると考えられる)。これは、配列の点で別個の結合部位を有するが、それにもかかわらず両者をそれに特異的にする特定のエピトープとの相互作用の十分な同一性を有する可能性がある、2つの異なる抗体を生成する。したがって相同抗体は、他の抗体によって認識される特定のエピトープを特異的に同定することができなければならない。ここで“相同”という用語は、組換え抗体(抗体断片、「抗体型」分子、及びその他)に関する前述の定義中に含まれる他の形の抗体に及ぶ。
【0017】
特異的
抗体又は抗体断片が、その特異的結合パートナーと異なる他の分子に対して有意な結合を示さない状況を指す。この用語は、幾つかの関連又は無関連抗原において現われる特定のエピトープに対して抗原結合部位が特異的である場合にも適用可能であり、その場合、結合部位は前述のエピトープを有する数個の抗原と結合することができる。
【0018】
本発明の一実施形態では、抗体に関連する組換えポリペプチド分子は、単鎖Fv型(scFv)のヒト抗体断片(scFv2H1)、Fab抗体断片(Fab2H1−32)及び「完全抗体」型のscFv−Fc二価分子(scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2)である。これらの全てにおいて、異なるVRが自然に集合して抗原結合部位を形成する。この集合の安定性は、人工連結セグメント(リンカー)又は免疫グロブリン定常ドメインなどの他の抗体関連配列に寄与する。これらのVRは、ヒトλ鎖のVRレパートリーを使用して構築した線状ファージの表面に提示されたヒト抗体断片のライブラリーから単離した、scFv中に含まれるVRに由来する。
【0019】
本発明において採用した方法により、本発明中に記載した抗体に関連する組換えポリペプチド分子は、新規のDNA配列を有し、ハイブリドーマ(Kim,KJ.ら、1992.Growth Factors 7:53〜64;Muller,Y.ら、1997.Proc Natl Acad Sci USA 94:7192〜7197;Asano,M.ら、1998.Hybridoma 17:185〜190;Schaeppi,JM.ら、1999.J Cancer Res Clin Oncol 125:336〜342;Brekken,RA.ら、2000.Cancer Res 60:5117〜5124;Brekken,RA.y Thorpe,PE.2001.J Controlled Release 74:173〜181)、ヒト細胞のウイルス形質転換(US5730977)、遺伝子工学による既存の抗体の改変(Jayson,G.ら、2002.JNCI 94:1484〜1493;Ferrara,N.ら、2005.Biochem Biophys Res Comun 333:328〜335)、及びヒト抗体断片ライブラリー(Vitaliti,A.ら、2000.Cancer Res 60:4311〜4314;Fuh,G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631)から誘導されたVRなどの、VEGF−Aの血管新生促進作用を中和する抗体も入手している他の著者によって報告されたVRと異なる、免疫グロブリンVRを有する。本発明中に記載した抗体に関連する組換えポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aを中和する他の抗体によって定義されるものと異なるヒトVEGF−Aにおける立体配座エピトープを、それらが認識するという意味でも新規である(Muller,Y.ら、1997.Proc Natl Acad Sci USA 94:7192〜7197;Muller,AY.ら、1998.Structure 6:1153〜1167;Schaeppi,JM.ら、1999.J Cancer Res Clin Oncol 125:336〜342;Brekken,RA.ら、2000.Cancer Res 60:5117〜5124;Fuh,G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631;WO2005012359)。
【0020】
本発明中に記載した抗体に関連する組換えポリペプチド分子、及びそれらの同等の変異体の使用によって得られる抗血管新生効果は、活性状態の血管内皮細胞中に存在するヒトVEGF−Aとその受容体の間の相互作用の干渉に基づき、したがって増殖しそれらの生理的安定性を維持する後者の能力に影響を与える。
【0021】
本発明の文脈において、「同等の変異体」は、ヒトVEGF−Aを特異的に認識し、内皮細胞の増殖を刺激するその生物学的影響、及び血管新生促進に干渉する能力を保持する、VRの2H1RVCP(配列番号7)及びVRの2H1RVCL(配列番号8)、及び本発明中に含まれる他の相同VR(配列番号13)内に含まれる配列の他の結合及び操作から誘導されるポリペプチド分子である。これらのポリペプチド分子は、配列中でVLドメインがVHドメインに先行する、或いは当技術分野で知られている他の結合セグメント(リンカー)がVRを結びつけるために使用されているscFvなど、又はF(ab’)2、Fabc、Facb、二量体scFv、三量体scFv、及び四量体scFv抗体断片などの、他の組換え抗体断片の形をとることができる(Winter G、Milstein C.1991.Nature 349:293〜299;WO94/13804;de Haard,H.ら、1998.Adv.Drug Delivery Rev.31:5〜31)。さらに同等の変異体は、多価分子を形成するために免疫グロブリン由来の他の配列を加えた後に生成される(Bestagno Mら、2001.Biochemistry 40:10686〜10692)。「同等の変異体」分子は、分子の一部分がVEGF−Aに対するその特異性を維持し他の部分が異なる特異性を有する二重特異性抗体の形、又はVR配列がヒト又は他の由来の免疫グロブリン定常領域と結合した完全抗体の形であってもよい。遺伝子工学を使用する全てのこれらの操作は、当業者に知られている。
【0022】
「同等の変異体」は、例えばEP−B−0239400、EP−A−184187、GB2188638A又はEP−A−239400中で明らかにされるように、その操作がヒトVEGF−Aを特異的に認識し、内皮細胞の増殖及び血管新生促進に干渉する能力に影響を与えないような方法で、VRの2H1RVCP(配列番号7)及びVRの2H1RVCL(配列番号8)、及び例えば配列番号13中に含まれるVRなどの他の相同VR内に含まれるCDR配列を、原形ではない配列骨格と人為的に隣接させる、いわゆる「CDR移植」によって生成される分子も考慮する。
【0023】
(scFv2H1と命名した)scFv断片の型の組換えポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aの異なるアイソフォームを特異的に認識する。scFvにおいて、ヒト免疫グロブリン重鎖と軽鎖のVRを、この順に16アミノ酸のリンカーにより遺伝子工学によって結合させて、配列番号6で記載するDNA配列を形成する。ヒトλ鎖のVRレパートリーを使用して、既に記載されている方法(Rojas Gら、2005.Biochem Biophys Res Comun 336:1207〜1213)と類似の方法により構築した線状ファージにおいて提示されたscFv断片のライブラリーから選択した、scFv2H1−Fと命名した相同scFvからscFv2H1断片を得た。軽鎖のVRレパートリー中に意図的な偏向を導入して、他の著者によって報告された抗体と異なり、以前に同定された機構と異なる機構によってVEGF−Aを中和し得る抗体を発見する可能性を増大させた。
【0024】
ライブラリーからの選択の過程で、実施例1中に示すように、グルタミン酸とのその置換によって残基R82、K84、H86が突然変異したヒトVEGF−Aのアイソフォーム121を含み、KDR受容体とのその相互作用に影響を与える(Shen,B.ら、1998.J Biol Chem 273:29979〜29985)融合タンパク質を、本発明者らは利用した。(P6447aa−VEGF、配列番号3と命名した)この組換え融合タンパク質は細菌において生成し、ヒトVEGF−Aのin vitroでの生物活性を有する分子種に利用した型と同様の型で精製した。結果として、本発明中で使用する抗原は、ヒトVEGFを認識するモノクローナル又は組換え抗体を入手した他の著者によって使用された、抗原又は免疫原と異なる。P6447aa−VEGFのN末端に局在する髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のP64Kタンパク質のドメインは免疫原性を増大させ、大腸菌中での高レベルの発現及び生物活性を有するヒトVEGFと同様の二量体型の形成を可能にする。突然変異ゾーンは、VEGF−Aの生物学的機能を中和するとして報告された他の抗体によって既に認識されているエピトープを含む(Muller,Y.ら、1997.Proc Natl Acad Sci USA 94:7192〜7197;Muller,AY.ら、1998.Structure 6:1153〜1167)。
【0025】
本発明と一致して、λ鎖のVRレパートリーを含むscFv抗体断片のライブラリーからヒトVEGFに関する結合部位を選択するための、融合タンパク質P6447aa−VEGFの使用は、以前に記載されなかったヒトVEGF−Aの立体配座エピトープを認識する抗体断片(scFv2H1−F)の同定における決定要素であった。
【0026】
ポリペプチド分子scFv2H1を生成するために、ライブラリーから得たscFv2H1−F断片のDNA配列は、対応するファージミドベクターからペリプラズム発現用ベクターにクローニングした。29kDaより幾分大きいみかけの分子量を有するscFv2H1抗体断片を、形質転換細菌の培地及びペリプラズムから回収し、金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC)を使用して容易に精製する(Porath J.1992.Prot.Expr.Purif.3:263〜281)。発現ベクターpACR.1は、分子scFv2H1のC末端に、分析目的の「タグ」として使用されるc−mycペプチドドメイン、次にIMACを使用した精製を容易にするための6ヒスチジンドメインを加える。
【0027】
(Fab2H1−32と命名した)Fab断片の型の組換えポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aの異なるアイソフォームを特異的に認識する。Fabにおいて、2H1RVCP(配列番号7)及び2H1RVCL(配列番号8)と命名したscFv2H1のVRをコードするDNA配列をベクターpFabHum−1にクローニングし、配列番号10及び配列番号9で記載したように、それぞれヒトIgG型免疫グロブリンのCH1及びCλと遺伝子工学によって結合させた。pFabHum−1プラスミドは、細菌ペリプラズムにおけるCλ及びCH1ヒト定常領域を有するFab断片の発現用に構築された、バイシストロン性ベクターである。生成するポリペプチド鎖は、VR及びその各々の軽鎖又は重鎖定常領域を含み、それらが構築して細菌ペリプラズムにおいてFab断片を形成し、ベクターによって与えられるシグナルペプチドによって細胞質からペリプラズムに輸送される。Fabのペリプラズム構築は、軽鎖と重鎖VRの間、及びCH1とCλドメインの間の非共有結合相互作用に基づくが、それは、やはりベクターによってもたらされる、CH1及びCλ領域のC末端の近くに位置する2システイン間のジスルフィド型の共有結合によって補強される。Fab2H1−32は、50kDaのみかけの分子サイズを有する。
【0028】
scFv−Fc2H1−8.2及びscFv−Fc2H1−4.1と命名した「完全抗体」型の組換えポリペプチド二価分子は、scFv2H1のVR配列、次に10個のスペーサーアミノ酸をコードする配列、ヒト免疫グロブリンIgG1型のヒンジ、CH2、及びCH3ドメインをコードするヌクレオチド配列(配列番号14)、及び幾つかのVR塩基の限られた変化を有する前の配列と非常に類似した配列(配列番号13)をそれぞれ含む。これらの分子は、pVSJG−HucFcベクターにおける(c−mycペプチド及び6ヒスチジンをコードする)その3’ドメインを除外したscFv2H1をコードする遺伝子のPCR産物のクローニング後に得た。pVSJG−HucFcベクターは、ヒトIgG1免疫グロブリンのFcと結合した2個の同一のscFvを含む「完全抗体」型分子の哺乳動物細胞における発現用に設計する。これらの二価分子に移行するポリペプチド鎖は、pVSJG−HucFcベクター中に存在する免疫グロブリンシグナルペプチドによって哺乳動物細胞の小胞体に輸送される。ペプチドは小胞体において除去され、2本の同一のポリペプチド鎖は、ヒンジ領域中のジスルフィド結合、CH2領域とCH3領域の非共有結合相互作用によって補強される結合によって共有結合する。scFv−Fc2H1−4.1分子とscFv−Fc2H1−8.2分子は、100kDaと120kDaの間の同様のみかけの分子サイズを有する。これらの分泌タンパク質はそれらのアミノ末端に、ベクターによって与えられる4個の追加的なアミノ酸(QVLK)を有する。
【0029】
scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2のような本発明の組換え抗体は、トランスジェニック植物の場合と同様に、他の真核生物系において生成することもできる(Pujol,M.ら、2005.Vaccine 23:1833〜1837)。
【0030】
本発明の他の態様では、前に記載した組換えポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aのアイソフォーム121及び165を特異的に認識し、マウスのVEGFは同定しない。これらの分子は、可溶性のヒトVEGF−A、固相表面に吸着したヒトVEGF−A、若しくはヒトVEGF−Aを生成するヒト細胞と結合しているか又はそれらの近くのヒトVEGF−A、後者の中ではヌード(無胸腺)マウス中で増殖するヒト腫瘍中に存在するヒトVEGF−Aと結合することができる。
【0031】
本発明中に記載した組換えポリペプチド分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2は、in vitroでのヒト内皮細胞におけるその増殖促進活性、及びin vivoでの血管新生過程に干渉するような形式で、ヒトの活性状態のVEGF−Aと相互作用し、in vivoでの血管新生過程は、マウス中の皮下マトリゲルペレット、及び同系無胸腺マウス(ヌードマウス)に移植したヒト腫瘍細胞の実験モデルにおいて測定する。本発明中に記載した組換えポリペプチド分子はマウスVEGF−Aを認識せず、ヒトVEGF−Aと可溶型のKDR受容体の間の結合に効果的に干渉する。ポリペプチド分子scFv2H1及びscFv−Fc2H1−4.1の施用は、レーザーを用いた光凝固によってCNVが生じる非ヒト霊長類の実験モデルにおいて、脈絡膜血管新生(CNV)を妨げ、又はその展開を改善する。ポリペプチド分子Fab2H1−32及びscFv−Fc2H1−8.2も、ヒトVEGFに対するそれらの特異性がポリペプチド分子scFv2H1及びscFv−Fc2H14.1の特異性と類似しており、他のin vitro及びin vivoモデルにおいて抗血管新生効果を有することを考慮に入れると、CNVに対するこのような影響を生み出し得る。
【0032】
本発明中に記載した組換えポリペプチド分子は、酵素又はその断片、生物学的応答改変物質、毒素又は薬剤、又は放射性同位体と結合することができ、このことは原形分子にヒトVEGF−Aとの結合という特性以外の機能特性を加え、これは、高濃度のヒトVEGF−Aが存在し、又はそのすぐ近くにあり、又は細胞膜と結合したVEGF−A型と相互作用することにより多細胞生物の特定の解剖学的位置にある細胞の生存能力を確認する且つ/又はそれに影響を与える能力である。
【0033】
本発明の目的の組換えポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aを認識しそれと相互作用する能力、及びその血管新生促進活性に干渉する能力、及び内皮細胞の増殖を刺激する能力を有するので、免疫応答の負の調節において分子が作用する生物学的機能などの、ヒトVEGFに関して記載された他の生物学的機能に影響を与えることもできる(Chouaib Sら、1997.Immunology Today 18:493〜497)。
【0034】
一組の要素が、本発明の目的の組換えポリペプチド分子を、ヒトVEGF−Aを中和する他の抗体及び抗体断片に対して新規なものにする。これらの要素の中には以下のものがある:
(a)本発明の目的のポリペプチド分子の抗原結合部位を形成するVRをコードする塩基配列は以前に報告されておらず、他のVEGF−A抗体の塩基配列と異なる。VRのCDR配列、及び特に重鎖VRのCDR3のそれは、特定のエピトープの認識と関係している芳香族アミノ酸チロシン及び/又はトリプトファンが多量に存在する他の以前に報告された配列(Fellouse F.A.ら、2004.PNAS 101:12467〜12472)と著しく異なる。本発明中に記載したポリペプチド分子の場合、重鎖VRのCDR3はチロシンを有していない。
(b)ヒトVEGF−Aに対する本発明の目的のポリペプチド分子の免疫化学的特異性は、マウスVEGF−Aもさらに認識する、他のライブラリー(Fuh G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631)から得られるヒトFab断片のそれと異なる。
(c)還元剤でVEGF−Aを処理した後に検出された認識の消失によって示されるように、本発明中に記載したポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aのそれらの認識をその生物活性がある二量体の立体配座に非常に依存している。
(d)本発明中に記載したポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aの生物学的機能を中和する他の抗体及び抗体断片を認識するエピトープと比較して以前は記載されなかった、ヒトVEGFにおける立体配座エピトープを認識する(Muller Y.ら、1997.PNAS 94:7192〜7197;Muller AY.ら、1998.Structure 6:1153〜1167;Schaeppi J.−M.ら、1999.J Cancer Res Clin Oncol 125:336〜342;Fuh G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631;WO2005012359)。
【0035】
実施例9中に示すように、12アミノ酸のコンビナトリアルペプチドライブラリーからscFv2H1抗体断片によって特異的に選択したペプチド配列間の考えられる結合のin silico分析、及びヒトVEGF−Aの一次構造及び三次構造の既知のデータは、scFv2H1の抗原結合部位はヒトVEGF−A分子における立体配座エピトープと相互作用していることをいずれも示唆する。VEGFの三次構造中の認識されるゾーンは、ヒトVEGF−Aを中和する他の抗体及び抗体断片に関して記載されたエピトープと一致せず、したがって新規である。このエピトープの定義は、まだ依然として解明されていない、ヒトVEGF−Aとその受容体KDRの間の複雑な相互作用に関する知識の新たな可能性も開拓する。
【0036】
本発明中に記載したポリペプチド分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2、及びそれらの同等の変異体は、ヒトの活性VEGF−Aと相互作用することができ、血管新生を刺激するその効果を妨げることができる。このため、これらの分子は、(a)癌(原発性腫瘍及び転移)、(b)加齢性黄斑変性症(滲出型)、血管新生緑内障、糖尿病性及び新生児網膜症などの眼疾患、(c)喘息、呼吸窮迫症、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症及び組織浮腫などの急性及び慢性炎症過程、(d)肝炎及びカポジ肉腫などの感染由来の疾患、(e)糖尿病、乾癬、関節リウマチ、甲状腺炎などの自己免疫疾患、及び(f)臓器移植拒絶反応、血管腫、及び血管線維腫などの他の幾つか疾患及び状態などの、異常及び過剰な血管新生が存在する疾患のための新規な治療の開発に有用である。
【0037】
本発明の他の態様は、血管新生の阻害及び関連病状の治療用の医薬組成物を生成するための、記載した分子の使用である。このような治療は、有効量の本発明中に記載した分子のヒトへの投与を含む。
【0038】
本発明の一実施形態では、ヒトVEGFを認識する組換えポリペプチド分子は、悪性腫瘍形成過程及びそれらの転移の治療に有用である。好ましい実施形態では、これらの分子は癌腫、肉腫及び血管新生腫瘍の治療において有効である。実施例12において本発明者らは、本発明中に記載した分子の適用が、ヌード無胸腺マウスに移植したヒト癌腫の増殖の阻害にどのような影響があったかを示す。この戦略を使用して治療することができる腫瘍の幾つかの例には、類上皮腫、頭部及び頸部腫瘍などの扁平腫、大腸腫瘍、前立腺、乳房、肺(小細胞及び非小細胞腫瘍含む)、膵臓、甲状腺、卵巣、及び肝臓腫瘍がある(が、これらだけには限られない)。これらの分子は、カポジ肉腫、中枢神経系腫瘍形成(神経芽細胞腫、毛細血管腫、髄膜腫、及び脳転移)、黒色腫、腎臓癌、胃腸腫瘍、横紋筋肉腫、膠芽細胞腫、及び平滑筋芽細胞腫などの他の形の腫瘍の治療においても有効であるはずである。
【0039】
本発明中に記載した抗体に関連する組換えポリペプチド分子は、実施例5中に示すように、ベバシズマブとそれらを区別するヒトVEGF−Aのエピトープ認識を示し、したがってそれらがヒトVEGF−Aとその受容体の結合に干渉する形式が異なるので、これらの分子は、この相互作用を阻害することによっても働く他の分子と異なるin vivo治療効果をもたらすことができる。同じ抗原に対して産生されたが、異なるエピトープを認識し、又は抗原に対して異なる親和性を有する抗体を用いて、異なるin vivo治療効果、及び異なる治療の副作用を得ることが可能であることは十分文書化されている(Allan D.G.P.2005.The Oncologist 10:760〜761)。ヒト化抗体ベバシズマブによって同定された領域と異なる領域によってヒトVEGFを認識する分子は、VEGFとその受容体の間の干渉の影響を生み出すことができることも当業者によって知られている(Lee,F−H.ら、2005.PNAS 102)。
【0040】
ベバシズマブ及びラニビツマブなどの抗体及び抗体断片は、過剰な血管新生が進行する他の疾患において用途を有することは知られている(Gaudreault,J.ら、2005.Invest Ophthalmol Visual Sci 46:726〜733;Costa,RA.ら、2006.Investig Ophthalmol Visual Sci 47:4569〜4578)。本発明の一実施形態では、記載した組換えポリペプチド分子は、その滲出型の加齢性黄斑変性症の治療に有用である。本発明中に記載した分子の2つ、具体的にはscFv2H1及びscFv−Fc2H1−4.1は、実験的非ヒト霊長類モデルにおいてレーザー照射によって誘導した、脈絡膜血管新生に対する予防及び治療効果を示した(実施例14)。当技術分野に現存する分子に対する言及した分子の治療可能性の考えられる違いの根本に関して、本発明者らは抗原認識の本質的な違い(異なるエピトープ)、及びscFv2H1はFab断片ラニビツマブの約半分の分子サイズを有するという事実、網膜層のより良い浸透を可能にし得る事実、より良い治療効果に重要であるとして強調されている問題点を強調しなければならない。さらに、scFv−Fc2H1−4.1分子はベバシズマブより小さな分子サイズ、及びこの場合前者と比較したとき同様の考えられる利点を有する。
【0041】
本発明の他の実施形態では、記載した組換えポリペプチド分子、又はそれらの同等の変異体を、例えば結腸、肺又は乳腺腺癌、及びその他などの、VEGFを発現するヒトの癌に関するin vivoの診断手順中で使用する。このため、本発明中に記載したヒトVEGF−Aに特異的なポリペプチド分子は、ヒト中でVEGF−Aを発現する腫瘍の存在及び局在を示す画像の生成を可能にする作用物質の形で、放射標識及び注射することができる。このため、本発明中に記載したのと同様のポリペプチド分子は放射性同位体と結合し、これらと腫瘍の結合を評価する。その方法は、ヒトへの放射標識分子の投与を含むことができる。本発明中に実験的に示したように、125Iで放射標識したscFv2H1断片は、無胸腺ヌードマウスに移植したヒト腫瘍細胞によって発現されるヒトVEGF−Aと結合し、腫瘍領域中に特異的に蓄積する。異常に多量のヒトVEGF−Aを発現する組織との反応性は、任意の適切な方法を用いて検出することができる。125I、111In又は99mTcなどの放射性核種を利用して本発明中に記載したポリペプチド分子を標識するとき、これらは腫瘍中に優先的に局在し、正常組織中には局在せず、腫瘍組織中の放射性標識の存在は、γ線カメラ又はγ線カウンターを使用して検出及び定量化することができる。得られる腫瘍画像の質は、シグナル:バックグラウンド比と直接相関する(Goldenberg DM.1992.Int.J.of Biol.Markers、7;183〜188)。125Iの実験的使用を本発明中に例示するが、他の異なる放射性核種の潜在的使用を制限するものではない。131I、90Yなどの放射性核種が治療能力を有する場合、本発明中に記載した放射標識ポリペプチド分子は、ヒトVEGF−Aを生成する腫瘍の解剖学的領域中のそれらの滞留、並びに腫瘍細胞に対するその影響、腫瘍血管を形成する細胞に対するその影響、及び腫瘍間質を構成しVEGF−Aを生成する他の細胞エレメントに対するその影響により、患者に対して有益な治療効果をもたらすことができる。
【0042】
前述の事項と一致して、且つ前の実施例において示唆されたように、他の作用物質と結合した、本発明中に記載した組換えポリペプチド分子、又はそれらの同等の変異体は、医薬品又は医薬組成物としてのそれらの投与を含む治療法の基盤であり得る。治療用放射性核種、毒素、薬剤、又は生物学的応答改変物質と、化学的に又は遺伝子工学によって結合したこれらの分子は、腫瘍の領域であり得る異常に高い濃度のヒトVEGF−Aを有する解剖学的領域、及びそのすぐ近くに結合した要素の治療効果を誘導することができ、且つ治療効果を発揮することができる。投与量、投与の頻度、及び間隔は、疾患の性質及び重度にいずれも依存し、これらの決定は、当技術分野で既に知られていることに基づいて、専門家及び他の医師の責任である。
【0043】
本発明の組成物は、単離形又は他の治療剤と組み合わせて、同時的又は連続的のいずれかで、いずれも治療する疾患に応じて投与することができる。医薬組成物は、活性成分以外に、薬剤として許容される賦形剤、バッファー、安定剤又は医薬「担体」、又は当業者によく知られている他の物質を含む。これらの物質は無毒であり、活性成分の有効性に干渉せず、且つそれらの正確な性質は、経口、粘膜、又は非経口(例えば、静脈内注射)である投与の経路に依存する。
【0044】
本発明中に記載した分子、又はそれらの同等の変異体は、それらをコードする核酸の発現によって生成される。その結果、これらの記載したポリペプチド分子のいずれかをコードする核酸配列、及びこのような核酸の発現に関する手順も本発明の一部分である。好ましい実施形態では、核酸は、分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2に関して記載したDNA塩基配列を主に(ただしそれのみに限定するものではない)コードする。
【0045】
本発明中に記載した分子、又はそれらの同等の変異体の組換え発現を達成するために、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、ポリアデニル化、マーカー遺伝子、及び他の関連配列を含めた各々の場合に必要となる制御配列を含む、適切なベクターを選択又は構築することができる。ベクターはプラスミドであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】大腸菌のペリプラズム及び培地における可溶性scFv断片の生成中に使用した、プラスミドpACR.1を示す概略図である。そのベクターはLacZプロモーター、リボソーム結合部位(RBS)及びシグナルペプチド(SP)pe/Bを有する。
【図2】大腸菌においてpACR.1ベクターを用いて生成した、組換え抗体断片scFv2H1をコードするDNA配列(配列番号6)を示す図である。最初の354塩基はヒト免疫グロブリン重鎖可変領域(VR)(2H1RVCP、配列番号7と命名)、次に結合セグメント(リンカー)をコードする48塩基と一致し、ヒト免疫グロブリン軽鎖VR(2H1RVCL、配列番号8と命名)をコードする333塩基が続き、ベクター自体によってコードされるクローニング部位、c−mycペプチド、及び6ヒスチジンの近辺で生成するアミノ酸をコードする69塩基で終わる。下線を引いた塩基は、Kabatらに従った相補性決定領域(CDR)の注釈を表す(Sequence of Immunological Interest、Department of Health and Public Services、Fifth Edition、1991)((上部から底部に):重鎖VR(VH)のCDR1、VHのCDR2、VHのCDR3、軽鎖VR(VL)のCDR1、VLのCDR2及びVLのCDR3の順で)。
【図3】形質転換した大腸菌BL−21細胞におけるscFv2H1の発現を示す図である。左から右に:分子量マーカー(66、45、35、29、20及び14.2kDa;レーン1);対照scFv(scFvM3;レーン2)、プラスミドpACR.1−scFv2H1で形質転換した細菌由来の培養上清(レーン3)、この場合29kDa付近を移動する増強バンドを見ることができる、及び空プラスミドpACR.1で形質転換した細菌由来の培養上清(レーン4)。
【図4】IMACを使用したscFv2H1の精製の結果を示す図である。図4Aは、(左から右に):約29kDaの分子サイズを有する対照scFv(scFvM3)(レーン1)、scFv2H1を含む出発物質(レーン2)、及び高純度で溶出したscFv2H1(レーン3)である、12%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の図である。図4Bは、図4A中に示すSDS−PAGEのレプリカのウエスタンブロットを示す図である。これらのタンパク質中に存在するc−mycドメインに対するモノクローナル抗体9E10は、検出のために使用した。
【図5】可溶性VEGF受容体分子(KDR−Fc)とリガンドヒトVEGF−Aのアクセスを阻害する精製scFv2H1の能力を評価した、競合ELISAの結果を示す図である。VEGF−Aは固相に吸着した。異なる濃度(80μg/mLまで)のscFv2H1を使用した。B型肝炎表面抗原に特異的なscFv(scFv抗HBsAg)を陰性対照として使用した。このアッセイでは、VEGF−Aと結合したKDR−Fcの検出は、ペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgG抗体(Sigma)を使用して行った。
【図6】大腸菌のペリプラズム及び培地におけるFab型の可溶性抗体断片の生成に使用した、プラスミドpFabHum−1の概略図である。
【図7】細菌ペリプラズムにおいて自己集合する、Fab断片2H1−32の成熟分子を形成する2本の鎖をコードするDNA配列(配列番号9及び配列番号10)を示す図である。図7A及び5’−3’センスで、免疫グロブリン軽鎖VRをコードし、次に免疫グロブリンCλ定常ドメインをコードする配列を示す。下線を引いた塩基は、(上部から底部に):軽鎖VR(VL)のCDR1、VLのCDR2及びVLのCDR3の順で、CDRの注釈を表す。図7B及び5’−3’センスで、免疫グロブリン重鎖VRをコードし、次にCH1免疫グロブリン定常ドメイン、6ヒスチジン及びc−mycペプチドをコードする配列を示す。下線を引いた塩基は、(上部から底部に):重鎖VR(VH)のCDR1、VHのCDR2及びVHのCDR3の順でCDRの注釈を表す。
【図8】図8Aは、制限部位AflIIとXbaIの間のscFv断片のクローニング後に、「完全抗体」型の二価分子を発現させるために使用したプラスミドpVSJG−HucFcのマップである。図8Bは、所与のscFv挿入物を含むプラスミドでトランスフェクトした哺乳動物細胞によって生成された分子の概略図である。
【図9】scFv−Fc2H1−4.1と命名した成熟抗体様分子をコードするDNA配列(配列番号13)を示す図である。5’−3’センスで、免疫グロブリン重鎖可変領域、次にリンカー及び免疫グロブリン軽鎖可変領域をコードする塩基、10アミノ酸、次にIgG1ヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3ドメインをコードするスペーサーを見ることができる。下線を引いた塩基は、(上部から底部に):VHのCDR1、VHのCDR2、VHのCDR3、VLのCDR1、VLのCDR2及びVLのCDR3の順でCDRの注釈を表す。
【図10】scFv−Fc2H1−8.2と命名した成熟抗体様分子をコードするDNA配列(配列番号14)を示す図である。5’−3’センスで、免疫グロブリン重鎖可変領域、次にリンカー及び免疫グロブリン軽鎖可変領域をコードする塩基、10アミノ酸、次にIgG1ヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3ドメインをコードするスペーサーを見ることができる。下線を引いた塩基は、(上部から底部に):VHのCDR1、VHのCDR2、VHのCDR3、VLのCDR1、VLのCDR2及びVLのCDR3の順でCDRの注釈を表す。
【図11】過剰なヒトVEGF(Peprotech)の存在下で固相に吸着した断片との結合を評価した、ELISAアッセイにおいて決定した、断片scFv2H1の結合部位に関するファージディスプレイペプチドの特異的認識を示す図である。この図は、全35の試験クローンによって示された挙動を代表するペプチドを提示する10のファージクローンを示す。実験中、ファージサンプルは溶液中においてVEGF有り又は無し(w/o)でインキュベートした。
【図12】文献中に記載された他の抗体関連分子と比較した、VEGF−A分子においてscFv2H1によって認識されたエピトープを主として確認する残基のマッピングを示す図である。αヘリックス、β鎖及びループで、その二量体立体配座のヒトVEGF−Aの三次構造を表す図形を使用する。2つの同一の二量体分子はライトグレー及び黒色で存在する。scFv2H1によって認識されたエピトープを主に示すとして定義した残基の位置は、二量体のライトグレー鎖においてのみ記され、ファンデルワールス(VDW)球として表される黒色で存在する。他の抗体によって認識された残基は、図A〜D中でライトグレーのVDWとして示す。図12Eは、scFv2H1に関して主に示された残基(黒色のVDW中)によって定義されるエピトープの位置に関して、ヒトとマウスのVEGF−Aの配列を比較するときの、異なる(ライトグレーのVDW中の)近隣アミノ酸の位置を示す。
【図13】培養中のヒト臍帯静脈内皮細胞(HuVEC)に対するヒトVEGF−Aの増殖刺激効果に干渉する、分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2の能力を示す図である。精製したscFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2を3つの異なる濃度(縞模様線:2μg/mL;黒線:1μg/mL;白線:0.5μg/mL)及び10ng/mLのヒトVEGF−A(Peprotech)で加えた。
【図14】2.5mg/kg(図14A)及び25mg/kg(図14B)の用量での、scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2の抗腫瘍活性を示す図である。曲線中の点は、1群当たり5匹の動物に関して推定した腫瘍体積の平均を指す。陰性対照:最高用量での無関係なモノクローナル抗体CB−Hep.1(抗HBsAg)。
【図15】A431細胞由来のヒト腫瘍を有するヌードマウスに125Iで放射標識した断片scFv2H1(黒線)又は断片scFvHep.1(白線)を接種した後、24時間(各組織中の第1の2本の線)及び48時間(各組織中の第2の2本の線)での組織1グラム当たりの注射用量の割合を示す図である。それぞれの線は、5匹のマウスから得た器官/組織から回収した数の平均を表す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0047】
(実施例1)
P64Kと融合したヒトVEGFのアイソフォーム121のクローニング、細菌における発現及び精製。
(a)ヒトVEGFのアイソフォーム121のクローニング
TaqDNAポリメラーゼ(Roche)及び製造者によって推奨された手順を利用して、VEGFのアイソフォーム121の単離及びクローニングのためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用した。表1中に示す合成オリゴヌクレオチド番号1(配列番号1)及び番号2(配列番号2)を、PCRにおけるプライマーとして使用した。
表1.−ヒトVEGFのアイソフォーム121のPCRにおいて使用したプライマー。
【表1】

【0048】
この技法では、使用したDNA鋳型は、以前にVEGFアミノ酸残基R82、K84及びH86をグルタミン酸に置換する突然変異を含むようにPCRによって改変されたプラスミドpVEGFであった(Ojalvo,A.G.ら、2003.Electronic J.Biotechnol.6、208〜222)。
【0049】
増幅産物に対応するバンドを2%アガロースゲルから抽出した。エンドヌクレアーゼNheI及びBamH1でバンドを消化した後、DNAを精製し、ベクターpM238(Yero,D.ら、2006.Biotechnol.Appl.BioChem 44:27〜34)にクローニングした。このベクターを用いて細菌において発現させたタンパク質は、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のP64Kタンパク質の47アミノ酸のN末端ドメインを有する融合タンパク質である。生成したプラスミド(P6447aa−VEGF)を配列決定し、European Molecular Biology Laboratory(www.embl−heidelberg.de)によって報告された対応するクローニングしたヒトVEGFのアイソフォームのアミノ酸配列に関して、配列番号3で示す、前に記載したexprofeso突然変異のみを含むと決定した。
【0050】
(b)大腸菌における融合タンパク質の発現
プラスミドDNAをクローンP6447aa−VEGFから抽出し、これを使用して大腸菌BL21を形質転換した。幾つかの生成したコロニーを、アンピシリン及びトリプトファンを含む50mLのLB培地に接種し、37℃で5時間増殖させた。25mLのこれらの培養物を、アンピシリンを含む250mLの富栄養M9培地に接種し、37℃で2時間再度インキュベートした。40μg/mLの3−β−インドールアクリル酸を加えることによって誘導を行った。細胞は8時間後に回収し、超音波による破壊後、対象とするタンパク質が沈殿中に残存した。タンパク質の可溶化はリン酸ナトリウムバッファー及び6M尿素で行った。上清はNi−NTAゲル(QIAGEN)中のIMACに施した。
【0051】
溶出分画は26kDa、54kDa及びより大きなバンドを示すSDS−PAGEを使用して評価し、2つの最初のバンドは調製物中に98%を超えるタンパク質を含んだ。最初のサイズはモノマーのサイズに対応し、第2のサイズは二量体分子に対応し、より大きな重量のバンドはさらなる凝集体に対応する。溶出分画はPBSで透析し、Superose F12(Pharmacia)におけるクロマトグラフィーに施し、より大きなみかけの分子量(約54kDa)を有する種のみを選択し、これらをP6447aa−VEGFと命名した。この調製物はさらなる使用のために−20℃で凍結させた。
【0052】
(c)融合タンパク質P6447aa−VEGFの受容体結合アッセイ。
Maxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートを、4℃で16時間PBS中においていずれも5μg/mLで、精製P6447aa−VEGF融合タンパク質又はヒトVEGF−A(Peprotech)を用いてコーティングした。プレートは1時間の間PBS−ミルク4%を用いて22℃でブロッキングした。可溶性ヒト受容体KDR−Fc(Sigma)は異なる濃度でPBS−ミルク4%に希釈し、プレートに加え、22℃で1時間インキュベートした。繰り返し洗浄した後、コーティングと受容体の結合を、ペルオキシダーゼと結合したヤギ抗ヒトIgG抗体(Sigma)、次にオルト−フェニレンジアミン0.5mg/mL及び過酸化水素0.015%で構成され、クエン酸バッファーpH5.5に溶かした基質溶液を使用して発色させた。プレートは492nmにおいてELISAプレートリーダーで読み取り、実験サンプル1つ当たり3つの同一ウエルから平均吸光度の値を推定した。表1は、可溶性受容体の結合は、Peprotechからのヒト非突然変異VEGF−Aでコーティングした固相に限られていたことを示す。3つの重要な突然変異を本発明者らが意図的に導入した(残基R82、K84及びH86がグルタミン酸によって置換された)融合タンパク質P6447aa−VEGFは可溶性KDRによって同定されず、Shenら、(Shen,B.ら、1998.J Biol Chem 273:29979〜29985)によってなされた予測と一致する結果、ヒトVEGFを中和する抗体及び抗体断片の開発に使用された文献中で報告されている他の抗原と、本発明者らの抗原は異なるものとなる。
表1a.ELISAにおけるコーティングとしてVEGF−A又は融合タンパク質P6447aa−VEGFを使用する、KDR−Fcに関する結合アッセイ。
【表2】

【0053】
(実施例2)
P6447aa−VEGFタンパク質を用いたBALB/cマウスの免疫感作及び市販のヒトVEGFのアイソフォーム121を認識する血清の能力の評価。
VEGF中和抗体を生成する融合タンパク質P6447aa−VEGFの能力を、8〜10週齢の10匹のBALB/cメスマウス(CENPALAB、Havana)を免疫感作して評価した。7日間隔、4つの皮下用量のスキームで、VSSPとして知られるアジュバント(Estevez F.ら、1999.Vaccine 99:190〜197)を使用して、1回の投与当たり100μgのP6447aa−VEGFタンパク質で動物を免疫感作した。最後の免疫感作後1週間で動物を出血させ、血清を分離し、−20℃で分割して保存した。
【0054】
P6447aa−VEGFで免疫感作したマウス由来の血清が、VEGFに特異的な抗体を有していたかどうかを決定するために、ヒトVEGF−Aのアイソフォーム121(Peprotech)を用いてコーティングするELISAを開発した。後者は、4℃で16時間PBS中において1μg/mLの濃度で、96ウエルMaxisorp(Nunc)イムノプレートに固定した。プレートは1時間の間PBS−ミルク4%を用いて22℃でブロッキングした。PBS−ミルク4%への一連の血清希釈液は1時間インキュベートし、プレートは洗浄し、抗マウスペルオキシダーゼ結合体(Sigma)と共にインキュベートした。反応混合物は、オルト−フェニレンジアミン0.5mg/mL及び過酸化水素0.015%で構成され、クエン酸バッファーpH5.5に溶かした基質溶液を用いて発色させた。P6447aa−VEGFタンパク質で免疫感作した動物の血清は、1:32,000までの力価で市販のヒトVEGFを特異的に認識した。
【0055】
(実施例3)
ヒトVEGFに対する抗体結合部位の選択。
ヒトVEGFのアイソフォーム121に対する結合部位を選択するために、本発明用に特異的に構築したヒト単鎖Fv(scFv)抗体断片の線状ファージディスプレイライブラリーを、本発明者らは使用した。このライブラリー中、生成するscFv中に存在するヒト軽鎖可変領域(VR)は、λVRレパートリーに対応する。公開された手順(Rojas Gら、2005.Biochem Biophys Res Comun 336:1207〜1213)に従い構築する、λVR(Vλ)に偏ったこのライブラリーを開発するプロセスでは、ヒト重鎖VRのレパートリーをコードする遺伝子をセミライブラリーから回収し、1:1ベクター:挿入物の比でVλ領域の他のセミライブラリーのプラスミドDNAと連結させた。連結の生成物はTG1細胞にエレクトロポレーションして、最終ライブラリーを得た。挿入物の存在又はサイズは、30コロニー、及びクローニングしたscFvの隣接領域と結合したオリゴヌクレオチドのサンプルにおいて決定した。
【0056】
選択において、この新たに構築したライブラリーを使用して、本発明者らは組換え融合タンパク質P6447aa−VEGFを抗原として利用した。ライブラリーに適合するファージの混合物は、過剰(1mg/mL)のP64k溶液を用いた吸着除去過程に事前に施して、このタンパク質に特異的である望ましくないscFvを排除した。吸着除去した混合物を使用して、Maxisorp(Nunc)イムノチューブに固定したP6447aa−VEGFタンパク質をプローブ処理した。このために、イムノチューブは一晩4℃でPBS中において10μg/mLのタンパク質でコーティングし、次いでPBS−スキムミルク4%を用いてブロッキングした。非結合ファージは、PBS−Tween0.1%の溶液を用いた20回の洗浄、次にPBSを用いた2回の洗浄によって排除した。結合ファージを10分間100mmol/Lのトリエチルアミン溶液を用いて溶出させ、それを0.5mol/Lのトリス(pH7.5)ですぐに中和した。溶出ファージはTG1大腸菌株において増幅させ、次の選択サイクル用の出発物質として使用した。この手順を同じ条件下で3回繰り返した。第2及び第3の選択サイクルから溶出したファージを感染させたTG1細胞のランダムな個々のコロニーを使用して、96ウエルスケールでファージを生成した。scFv抗体断片を提示してP6447aa−VEGFと結合するこれらのファージクローンの能力を、ELISAを使用して評価した。Maxisorp(Nunc)96ウエルプレートを、10μg/mLのP6447aa−VEGFでコーティングし、次いでブロッキングした。PBS−スキムミルク4%に希釈したファージを22℃で1時間プレート中においてインキュベートし、次いで数回洗浄した。結合ファージは、22℃で1時間ペルオキシダーゼと結合した抗M13抗体(Amersham)を用いて検出した。数回の洗浄後、反応混合物は基質溶液を加えることによって発色させた。吸光度は492nmにおいてマイクロプレートリーダーで読み取った。ELISAで評価した96個のファージクローンの中で、87個が陽性の結果を示した。ELISA中で陽性の結果を示したファージクローンによって提示されるscFv抗体断片をコードするDNAをPCRによって増幅させ、酵素BstN−Iを用いた制限分析に施した。この消化の産物は4%アガロースゲルで調べた。この分析から、本発明者らは7個の異なる制限パターンを同定し、各々を代表するクローンを選択した。選択クローンは、16時間28℃で増殖させたTG1細菌細胞を感染させることによって生成した。培養上清中に含まれていたファージは、PEG5000の2.5MNaCl溶液を用いて沈殿させ、以下の免疫化学的特徴付けのために分割して保存した。
【0057】
(実施例4)
ライブラリーから選択したファージにおけるscFvの免疫化学的特徴付け。
(a)ヒト及びマウスVEGFの異なるアイソフォームの認識
ヒトVEGFのアイソフォーム121及び165、及びマウスVEGFのアイソフォーム120の特異的認識を決定するために、scFv断片を提示する7個のファージクローンにELISAアッセイを施した。イムノプレートは、PBS中に1μg/mLの濃度での、ヒトVEGF−Aのアイソフォーム121及び165(Peprotech)及びマウスVEGFのアイソフォーム120(R&D)によってコーティングした。プレートをブロッキングした後、前に記載したように精製しPBS−スキムミルク4%に希釈したファージを加え、22℃で1時間インキュベートした。数回の洗浄後、抗M13ペルオキシダーゼ結合抗体を用いて結合ファージを検出した。反応混合物は、実施例2に記載したように発色させ定量化した。陰性対照として、前に記載したように沈殿させた、非選択ライブラリーのファージの混合物のサンプルを使用した。表2中に見られるように、7個の選択ファージクローンはヒトVEGFのアイソフォーム121及び165を特異的に同定する。これらの中で、クローン2H1−F及び3C1はマウスVEGFのアイソフォーム120を認識しない。この表は、ELISAにおいて得られる光学濃度の値が陰性対照の値の少なくとも5倍であるとき、陽性(+)として分類されるクローンの認識能力を示す。
表2.線状ファージにおいて提示されたscFvの7個のクローンによる、ヒト及びマウスVEGF−Aの異なるアイソフォームの認識。
【表3】

【0058】
(b)天然及び還元型のヒトVEGF−Aの差次的認識
ライブラリーから選択した異なる抗体断片による認識に関するVEGF−Aの天然ホモ二量体のフォールディングの重要性を、ヒトVEGF−Aのアイソフォーム121(Peprotech)をELISAプレートにコーティングしたELISAを使用して試験した。プレートをブロッキングした後、ウエルの半分を22℃で1時間の間50mMのDTT溶液、PBS−ミルク4%中で処理し、他の半分はPBS−ミルク4%のみで処理した。数回の洗浄後、VEGF−AをDTT溶液で還元したウエルを100mMのヨードアセトアミド、PBS−ミルク4%中で処理し、22℃で1時間インキュベートした。残りのウエルはPBS−ミルク4%で維持した。プレートを新たに洗浄した後、PBS−ミルク4%に希釈した精製ファージを全てのウエルに加え、22℃で1時間インキュベートした。数回の洗浄後、抗M13ペルオキシダーゼ結合抗体を用いて結合ファージを検出した。陰性対照として、非選択ライブラリーのファージの混合物のサンプルを使用した。表3は、3パターン、(クローン31Cによって例示される)認識がVEGF還元によって影響を受けなかった第1パターン、(クローン2B2及び3E8によって例示される)還元の部分的な影響が見られた第2パターン、及び(クローン2D2、2E1、2H1−F及び2E3によって例示される)還元型のVEGFに対する認識の完全な消失が記された第3パターンを示す。VEGF−Aに関するクローンの認識の能力を、陰性対照により得られたものを低い方の参照値として、実験中の3つの同一ウエルの平均光学濃度(492nm)の観点で測定した。
表3.線状ファージにおいて提示された7個のscFvクローンによるDTT処理有り又は無しでのヒトVEGF−Aの認識。
【表4】

【0059】
(c)可溶型のKDR受容体(KDR−Fc)とヒトVEGF−Aに関して選択したファージの間の競合ELISA
競合ELISAを使用して、可溶性VEGF受容体と抗原のアクセスを阻害する選択したファージクローンの能力を評価した。このために、Maxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートを、ヒトVEGF−Aのアイソフォーム121(Peprotech)でコーティングした。プレートをブロッキングし、2μg/mLの可溶性受容体(KDR−Fc、Sigma)有り又は無しで、PBS−ミルク4%に希釈した対応するファージの混合物と共にさらにインキュベートした。抗M13ペルオキシダーゼ結合抗体を使用して結合ファージを検出した(Amersham)。表4中に示すように、VEGF−AとのKDR−Fc結合の高い阻害を示したクローンは2H1−Fと命名した。この表は、陰性対照により得られたものを低い方の参照値として、実験中の3つの同一ウエルの平均光学濃度(492nm)の観点で測定した、VEGF−Aに関するクローンの認識の能力を示す。
表4.7個のファージディスプレイscFvクローンと2μg/mLのKDR−Fcを個々に混合した後、又はしなかった場合の、ヒトVEGF−Aの認識。
【表5】

【0060】
(実施例5)
大腸菌におけるscFv2H1断片の発現、精製、及びそのヒトVEGF認識の特徴付け。
(a)pACR.1ベクターにおけるscFv2H1のクローニング及び配列決定
pACR.1ベクターは、大腸菌のペリプラズムにおける抗体断片の発現用に設計したプラスミドである(図1)。ベクターの主なエレメントとして、本発明者らはLacZプロモーター、シグナルペプチド、断片遺伝子の挿入用の制限部位NcoI及びNotI、c−mycペプチド及びIMACを使用する発現産物の精製用の6ヒスチジンをコードする配列をコードするドメインを有する。2H1−Fと命名したscFvを含むファージミドDNAを、PCR用の鋳型として使用した。この手順は、製造者の説明書の下で酵素ProofStart(Stratagene)を用いて行った。合成オリゴヌクレオチド番号3(配列番号4)及び番号4(配列番号5)を、この手順におけるプライマーとして使用した(表5)。
表5.ベクターpACR.1におけるそのクローニング用のファージミドベクター中に含まれるscFv2H1−Fを増幅及び改変するための合成オリゴヌクレオチド。
【表6】

【0061】
増幅後に得た予想サイズ(700bp)のバンドを、QIAGENのDNAゲル抽出キットを使用して1%アガロースゲルから精製し、NcoI及びNotI(Promega)で消化し、連結用に再度精製した。pACR.1ベクターはNcoI及びNotI(Promega)で消化し、T4DNAリガーゼ(Promega)を使用して消化したバンドと連結させた。連結産物を使用して、エレクトロポレーションによって大腸菌コンピテント細胞(菌株XL−1Blue;Stratagene)を形質転換した。形質転換細胞は選択固体培地に平板培養し、37℃で増殖させた。利用した方法は広く知られている(Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition.1989.Sambrook、Fritsch and Maniatis)。
【0062】
プラスミドDNAを異なるコロニーから精製し(QIAGENのMiniPrepキット)、既に記載した制限酵素を用いた予想連結産物に関する消化によって調べた。幾つかのプラスミドを選択し、自動配列決定法及びベクターpACR.1のクローニング領域と外面的にハイブリダイズする特異的プライマーを使用して、scFv2H1のDNAコンセンサス配列を得た。scFv2H1と命名した完全断片(VH−リンカー−VL−c myc−ヒスチジン)に関して得たDNAコンセンサス配列(配列番号6)は、図2中に示す。この構築体の代表的なプラスミドはpACR.1−scFv2H1と命名した。この図は、重鎖VR(2H1RVCPと命名、配列番号7)及び軽鎖VR(2H1RVCLと命名、配列番号8)の個々の配列を表す。Kabatらの分類に従えば、2H1RVCPはヒト免疫グロブリンVRの亜群Iに属し、2H1RVCLはヒト免疫グロブリンλ型VRの幾つかの群に分類することができる。図中で下線を引いたのは、Kabatらの分類に従い注釈付けしたCDR配列である。
【0063】
(b)大腸菌におけるscFv2H1の発現
pACR.1−scFv2H1を使用して、コンピテントBL21大腸菌細胞を形質転換した。この菌株は、ペリプラズム及び/又は培地における異種タンパク質の発現を可能にする。形質転換細胞は選択固体培地に平板培養し、37℃で増殖させた。構築体の代表的なコロニーを液体培地中で増殖させ、1.0のDO530nmを得たとき、培地中で1mMのデイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を使用して12時間誘導を行った。細胞は遠心分離にかけ、浸透圧ショック及び簡単な超音波処理によってペリプラズム含有物を単離した。このペリプラズム分画と培養上清の両方を、12%変性SDS−PAGEで評価した。このアッセイは、分子量マーカー及び癌胎児性抗原に対するscFv[scFv−M3]と比較したとき、29kDaを超える予想上のみかけの分子量のタンパク質の発現を示した(Perez L.ら、2006.Biotechnol.Appl.Biochem.43:39〜48)(図3)。大部分のscFv2H1断片は培養上清中に見られる。
【0064】
(c)IMACを使用するscFv2H1断片の精製
pACR.1ベクターによって与えられたタンパク質中に存在する6ヒスチジンのドメインを使用して、精製手順を確立した。この配列は、異なるクロマトグラフィー支持体にキレート化し得る金属イオン(例えばZn+2、Cu+2、Ni+2)に対する非常に高い親和性をタンパク質に与える。pACR.1−scFv2H1ベクターで形質転換した細菌を遠心分離にかけ、上清を単離し、カップリングバッファー(NaHPO4 50mM、300mM NaCl、pH7〜8)中で72時間透析し、アガロース−NTA(QIAGEN)に直接施した。図4Aは、ゲル中で移動する29kDaをわずかに超える高純度タンパク質が、精製後に得られることを示す。得られた分画は、scFv中及び対照(scFv−M3)中に存在するc−mycペプチドに特異的なモノクローナル抗体(9E10)、次にペルオキシダーゼと結合したウサギ抗マウスIgG抗体(Sigma)を使用するウエスタンブロットに施した。図4Bは、9E10モノクローナル抗体がscFv2H1を検出したこと、及び重大な分解は見られないことを示す。
【0065】
(d)ELISAにおけるscFv2H1によるヒトVEGFの特異的認識
Maxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートを、4℃で16時間、PBS中に1μg/mLの濃度でのヒトVEGF−Aのアイソフォーム121及び165(Peprotech)及びマウスVEGFのアイソフォーム120(R&D)でコーティングした。PBS−スキムミルク4%でプレートをブロッキングした後、精製したscFv2H1をPBS−スキムミルク4%に溶かした異なる濃度で加え、22℃で1時間インキュベートした。数回の洗浄後、c−mycペプチドに特異的なモノクローナル抗体(9E10)(1μg/mL)、次に西洋ワサビペルオキシダーゼと結合したウサギ抗マウスIgG抗体(Sigma)を加えた。固相中の抗原と断片の結合が明らかとなり、それを他の実施例中に記載したように測定した。無関係な抗HBsAgAscFvを陰性対照として使用し、scFv2H1に関して前に記載したのと同様の形式で入手し精製した。表6は、scFv2H1は原型ファージscFv(2H1−F)の特異的認識を維持することを示す。この表は、陰性対照により得られた値を参照として、実験中の3つの同一ウエルから報告された値から計算した平均光学濃度(492nm)の観点で、異なるVEGF−Aに関する断片の認識の能力を示す。
表6.断片scFv2H1による、ヒト及びマウスVEGF−Aの異なるアイソフォームの認識。
【表7】

【0066】
(e)可溶型のKDR受容体(KDR−Fc)とVEGF−Aに関するscFv2H1断片の間の競合ELISA
競合ELISAを使用して、可溶性VEGF受容体と抗原のアクセスを阻害する精製scFv2H1断片の能力を評価した。このアッセイは、高濃度のscFv2H1を加えた後の、可溶型のKDR−Fc受容体と固相にコーティングしたヒトVEGF−Aの阻害に基づく。このために、Maxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートを、4℃において16時間PBSに溶かしたヒトVEGF−Aのアイソフォーム121(Peprotech)でコーティングした。プレートをブロッキングし、高濃度の精製scFv2H1、及び0.5μg/mLの可溶性受容体(KDR−Fc、Sigma)又は賦形剤のみ(PBS−ミルク4%)と共にさらにインキュベートした。抗HBsAgscFv抗体断片は陰性対照として使用した。抗M13ペルオキシダーゼ結合抗体(Amersham)を使用して結合ファージを検出した。固相中でヒトVEGF−Aと結合したKDR−Fcは、ペルオキシダーゼと結合した抗ヒトIgG抗体(Sigma)を用いて検出した。図5中に示すように、scFv2H1は固相中での可溶性受容体とヒトVEGF−Aの結合に干渉することができ、使用する用量に明らかに依存する。
【0067】
(f)scFv2H1とアバスチンの免疫化学的比較
細菌のscFv2H1を、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標)、Genentech)と、scFv2H1−Fを生成した実施例3中に記載済みの抗体ファージ選択手順に本来使用した融合タンパク質P6447aa−VEGFの、それらの識別能力に関して比較した。P6447aa−VEGF又はヒトVEGF−A(Peprotech)を、4℃で16時間の間、PBS中に1μg/mlの濃度でMaxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートに固定した。プレートは、1時間の間PBS−ミルク4%を用いて22℃でブロッキングした。PBS−ミルク4%に希釈した精製scFv2H1又はベバシズマブの連続希釈液を1時間インキュベートし、プレートは洗浄し、以下のように:(i)scFv2H1に関しては、9E10抗c−mycモノクローナル抗体、次に抗マウスIgGペルオキシダーゼ結合体(Sigma)と共に、及び(ii)ベバシズマブに関しては、ペルオキシダーゼと結合したヤギ抗ヒトIgG抗体(Sigma)と共に、さらにインキュベートした。反応混合物は、オルト−フェニレンジアミン0.5mg/mL及び過酸化水素0.015%で構成され、クエン酸バッファーpH5.5に溶かした基質溶液を用いて発色させた。
【0068】
試験サンプル1つ当たり3つの同一ウエルでELISAプレートリーダーにおいて得られた492nmにおける平均吸光度値を示す、表6a中に見られるように、scFv2H1はP6447aa−VEGFとヒトVEGF−Aの両方を認識し、一方ベバシズマブはPeprotechからのヒトVEGF−Aのみを認識することができた。
【0069】
無関係なscFv抗HBsAg及びTheraCIM(抗EGF受容体ヒト化IgG1抗体;CIMAB SA、Havana)は陰性対照として使用した。
表6a.P6447aa−VEGF及びヒトVEGF−Aのアイソフォーム121に対する、断片scFv2H1及びベバシズマブの免疫反応性。
【表8】

【0070】
(実施例6)
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)におけるscFv2H1の発現及びヒトVEGFに対するその認識の実証。
(a)pPS9ベクターにおけるscFv遺伝子のクローニング
scFv2H1をコードする遺伝子を、ピキア・パストリス発現ベクターpPS9におけるクローニング用のpACR.1−2H1ベクターからNcoI/XbaIで消化した。プラスミドpPS9は、酵素アルコールオキシダーゼのプロモーター(AOX.1)に対応する1.15kb断片、次に出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のスクロースインベルターゼの分泌シグナル(sucII)をコードする遺伝子、マルチクローニングサイト、転写終結に関する酵素グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapt)に対応する960bp断片、及び選択マーカーとしての出芽酵母(S.cerevisiae)のHIS3遺伝子を含む組込みベクターである。このベクターは、AOX.1遺伝子の3’配列に対応する2.1kb断片も含む。全てのこれらのエレメントはpCU18ベクター中に挿入する(EP0438200A1)。
【0071】
scFv−2H1遺伝子のNcoI/XbaI消化及びアガロースゲルからのその精製後、生成した配列を事前にNcoI/SpeIで消化したpPS9と連結させ、その連結産物を使用してXL−1Blue大腸菌株を形質転換した。単離した形質転換コロニーは、プロモーター領域中でハイブリダイズするプライマーを用いたコロニーPCRを使用して分析し、挿入物を含んでいたコロニーを選択した。配列決定は他の実施例中で報告したように行なった。pPS2H1−12及びpPS2H1−13と命名した組換えプラスミドに関して得た配列は同一であり、配列番号6で報告するscFv−2H1のそれを含む。
【0072】
P.パストリス(P.pastoris)組換え菌株は、エレクトロポレーション及び野生型菌株MP36his3(Yong V.ら、1992.Biotechnol.Applic.9:55〜61)及び選択用のヒスチジンが欠損した最少培地を使用して、(PvuII[Promega]で事前に消化した)これらの2つのプラスミドを用いて得た。プラスミドとP.パストリスのゲノム中の特定部位の異なる組換え機構によって、本発明者らは2つの異なる表現型の分泌細胞:(a)AOX.1遺伝子が組換え中に影響を受けず、メタノール中で増殖することができ、野生型菌株と同様の挙動を示す菌株(Mut+)、及び(b)AOX.1遺伝子が発現カセットによって置換され、メタノールの存在下で遅い増殖を示した菌株(Muts)を単離した。
【0073】
(b)発現試験
抗体断片に関する発現試験を、選択培地プレート中で増殖させた原栄養体Hisコロニーから始めて行なった。コロニーは、28℃及び150rpm下で、50mLチューブ中の10mlの富栄養緩衝培地において増殖させた。培養物が600nmで2O.Dを得たとき、それらを2000rpmで10分間遠心分離にかけた。細胞ペレットは、唯一の炭素源としてグリセロールの代わりにメタノールを含む10mLの富栄養培地中に再懸濁させた。その瞬間から、及び次の96時間、対象とするタンパク質の誘導を、培養物に1%まで純メタノールを1日1回加えることによって行なった。空ベクターで形質転換したMP36his3菌株は、陰性対照として使用した。
【0074】
誘導終了時に、細胞を遠心分離にかけ、代謝培地を回収し、最終浄化のために再度遠心分離にかけ、15%SDS−PAGEを利用してscFv2H1を検出した。このアッセイは、いずれの場合も予想上のみかけの分子量(29kDa)を有するタンパク質の存在を明らかにし、これらは後に一次抗体としてモノクローナル抗体(Mab)9E10、次にペルオキシダーゼと結合したウサギ抗マウスIgG抗体(Sigma)を使用するウエスタンブロットによって評価した。2つの組換えタンパク質はMab9E10によって同定した。
【0075】
(c)scFv2H1によるELISAにおけるヒトVEGF−Aの認識
大腸菌由来のscFv2H1に関する前に記載したアッセイと、固相、試薬、コーティング、インキュベーション、発色及び制御条件に関して類似のELISAアッセイを使用した。PBS−1%ミルクに希釈した誘導型組換え酵母菌株の代謝培地の培養物サンプルを加え、室温で2時間インキュベートした。陰性対照として、野生型菌株MP36his3の代謝培地、及び無関係なscFv抗HBsAg断片を使用した。陽性対照として、細菌由来の精製scFv2H1断片を使用した。陰性対照によって生じた吸光度値より少なくとも4倍高い吸光度値を、陽性と考えた。形質転換P.パストリス酵母細胞の誘導後に生成した、scFv2H1−Pp17と命名したscFv2H1断片を含む代謝培地のサンプルは、固相と結合したヒトVEGF−Aを認識するそれらの能力に関して陽性であった。
【0076】
(実施例7)
scFv2H1の可変領域(VR)を使用した細菌Fab断片の獲得及びそのヒトVEGFの認識の特徴付け。
(a)pFabHum−1ベクターにおけるscFv2H1のVRのクローニング及び配列決定
図6は、大腸菌のペリプラズム及び培地におけるFab型抗体断片の生成に使用した、プラスミドpFabHum−1のスキームである。そのベクターはLacZプロモーター、RBS、シグナルペプチド(PS)の配列、軽鎖可変領域(VR)のクローニング用部位(SalI及びAvrII)、ヒト免疫グロブリンCλドメインをコードする配列、次に他のRBS及びPSの配列、重鎖VRのクローニング用部位(ApaLI及びBstEII)、次に延長してヒトIgG1ヒンジ領域の第1システインを含むヒト免疫グロブリンCH1ドメインをコードする配列を有する。どちらもそのC末端でIMAC精製用の6ヒスチジンドメイン及び分析目的のc−mycペプチドと結合した状態でVR−CH1タンパク質が発現され、それはベクターによって得られる。
【0077】
2H1−Fと命名したscFvを有するファージミドに対応するDNAを、最初にSalI及びAvrIIで消化して、軽鎖VRを得た。1.5%アガロースゲル中でそのサイズを調べた後、pFabHum−1においてクローニングを行った。制限酵素を使用してクローニングを確認した後に、(pFab−Hum−1RVLと命名した)プラスミドを複製し、精製し、ApaLI及びBstEIIで新たな消化を施した。BstEIIの場合、消化は部分的であった。1.5%アガロース中でバンドのサイズを確認した後、pFabHum−1RVLにおいてクローニングを行った。クローニングは、制限酵素及びpFab2H1−32と命名したプラスミドを用いて確認した。このプラスミドを複製し、精製し、自動配列決定を施した。成熟タンパク質Fab2H1−32をコードするDNA配列を図7中に示す。図7Aは軽鎖VRとCλの組合せの配列を示し(配列番号9)、且つ図7Bは重鎖VRとCH1の組合せの配列を示す(配列番号10)。CDRは下線で表し、Kabatらの分類に従い注釈付けする。
【0078】
(b)大腸菌におけるFabの発現
プラスミドpFab2H1−32を使用して、大腸菌BL21コンピテント細胞を形質転換した。形質転換細胞は固体選択培地に平板培養し、16時間37℃で増殖させた。代表的なコロニーを液体培地中で増殖させ、1のOD530nmを得た後、培養物は1mMのIPTGを用いて12時間誘導した。細胞を遠心分離にかけ、浸透圧ショック及び簡単な超音波処理によってペリプラズム含有物を単離し、このペリプラズム分画と培養上清の両方を12%SDS−PAGEで分析した。このアッセイは予想サイズ(約50kDa)のタンパク質の存在を明らかにし、これらは後に一次抗体としてc−mycペプチドに対するモノクローナル抗体(9E10)、次にペルオキシダーゼと結合したウサギ抗マウスIgG抗体(Sigma)を使用するウエスタンブロットによって評価した。ウエスタンブロットは、培養上清中とペリプラズムサンプル中の両方で、9E10抗体が予想サイズのタンパク質を検出したことを示した。
【0079】
(c)IMACを使用したFab2H1−32の精製及びELISAによるそのVEGFの認識の特徴付け
pFab2H1−32を用いた形質転換によって生成した組換え細菌を遠心分離にかけ、上清をカップリングバッファーで72時間透析した。Fabを含む調製物はアガロース−NTA(QIAGEN)に直接施した。洗浄して大腸菌汚染物質を排除した後、12%SDS−PAGEを使用して推測して85%に近い純度で、溶出分画中にFab2H1−32を得た。
【0080】
ELISAアッセイを使用して、ヒトVEGFを認識するその能力に関して精製Fab断片を評価した。Maxisorp(Nunc)96ウエルプレートを、1μg/mLにおいてヒトVEGF−Aのアイソフォーム121及び165(Peprotech)又はマウスVEGF−Aのアイソフォーム120(R&D)でコーティングした。精製Fab断片を希釈し、22℃で1時間インキュベートした。洗浄後、抗c−mycペプチドモノクローナル抗体(1μg/mL)、次にペルオキシダーゼと結合したウサギ抗マウスIgG抗体(Sigma)を加えた。抗HBsAgscFvは陰性対照として使用し、細菌の精製scFv2H1は陽性対照として使用した。表7中に示すように、大腸菌において生成したFabは、ELISAにおいてヒトVEGFを特異的に認識する。この表は、陰性対照により得られた値を参照として、3つの同一ウエルから得られた平均光学濃度(492nm)値の観点で、異なるVEGF−Aアイソフォームに関するFabFab2H1−32断片の認識の能力を示す。
表7.Fab断片2H1−32による、ヒトVEGF−A及びマウスVEGF−Aの異なるアイソフォームの認識。
【表9】

【0081】
(実施例8)
ヒトIgG1Fcと遺伝子工学によって融合させた2つのscFv単位を含む二量体分子の生成及び認識の特徴付け。
(a)抗VEGFscFv−Fc分子を生成するトランスフェクトーマ(形質転換細胞)
scFv2H1によって定義される2つの同一結合部位を有する「完全抗体」型分子を得るために、scFv2H1の遺伝子配列を含むプラスミドpACR.1−scFv2H1、及び表8中に示すプライマー番号5(配列番号10)及び番号6(配列番号11)を鋳型として使用してPCRを行い、抗体断片をコードするDNA配列を改変し、それを以下のクローニングに適合させた。この手順は、製造者の説明書の下でPanoTaq(Panorama Inc.)で行った。
表8.pVSJG−HucFcにおけるそのクローニング用にpACR.1−scFv2H1を改変するために使用したPCRプライマー。
【表10】

【0082】
増幅したDNAはベクターpVSJG−HucFcにおいてクローニングした。このベクターを図8A中に示し、それはポリペプチド鎖の哺乳動物細胞における発現用に設計し、マウスモノクローナル抗体の重鎖のリーダー配列(シグナルペプチド)、次にscFv断片、10アミノ酸のスペーサー、及びヒトIgG1免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3領域のコンセンサス配列をこの順に含む。リーダー配列はペプチド鎖を小胞体に誘導し、そこでそれはヒンジ領域間のジスルフィド結合の形成、及び2つの同一ポリペプチドのCH2領域とCH3領域の相補的結合によって二量体化する。そのN末端が2つの同一scFvを分けているヒト免疫グロブリンFcの二量体化ヒンジ、CH2及びCH3ドメインは、この二価構築体を「完全抗体」型分子に変換する(図8B)。このベクターの主な特徴の中で、本発明者らはサイトメガロウイルスプロモーターを発見する。
【0083】
増幅産物に対応するバンドはAflII及びXbaIで消化し、事前に同じ酵素で消化したpVSJG−HucFcにクローニングした。形質転換から生じた細菌コロニーの中で、2つを配列決定用に選択した。自動配列決定は、2つのコロニーはscFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2と命名したほぼ同一の組換えプラスミドを生成したことを示した。この2つのプラスミド間の配列の唯一の違いは、前者はコードされるアミノ酸に関して異なり且つ「サイレント」である1つの重鎖VR塩基、及びscFv2H1のVR配列(配列番号7及び配列番号8)に関して全てが異なる3つの軽鎖VR塩基を有することである。成熟scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2タンパク質をコードする配列は、それぞれ図9(配列番号13)及び図10(配列番号14)中に示す。図中、CDR配列に下線を引き、Kabatらの分類に従い注釈付けする。
【0084】
2つのプラスミドはPure Yield Plasmid Midiprep(Promega)システムを使用してエンドトキシンフリー状態で精製し、これを利用してP3/x63.Ag8.653ミエローマ細胞を、SuperFect(QIAGEN)を使用してトランスフェクトした。G418に耐性があった細胞から開発したトランスフェクトーマの上清を、ELISAによって評価した。Maxisorp(Nunc)96ウエルイムノプレートは、ヒトVEGFのアイソフォーム121(Peprotech)でコーティングした。トランスフェクトーマコロニーの上清はPBS−ミルク2%に希釈し、プレートに加え、scFv−Fc型の抗VEGF分子の存在は、ペルオキシダーゼと結合した抗ヒトFc抗体(Sigma)を用いて検出した。ELISAにより検出して多量の抗VEGFscFv−Fc分子を分泌したトランスフェクトーマ細胞コロニーは、G418の存在下で限界希釈法によって繰り返しクローニングし、ELISAにおいて抗ヒトVEGFシグナルを生成する選択したクローンの能力を絶えず評価した。2回の独立且つ連続したクローニングの後、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2と命名したscFv−Fcを生成した、2つの安定したクローンを得た。
【0085】
(b)scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2の精製、及びELISAにおいてヒトVEGFを認識するそれらの能力の評価
scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2分子を生成するトランスフェクトーマクローンを、10%ウシ胎児血清の存在下において162cmフラスコ中で培養し、高い細胞密度を得た後に上清を回収した。上清は0.1Mリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0に1:1に希釈し、Protein A Sepharose Fast Flow4(Amersham)を使用して、親和性クロマトグラフィーによって個別に精製した。分子scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2はグリシン0.2M、pH4.0バッファー中に溶出させ、1Mのトリス、pH10.0を用いて迅速な中和を施した。PBSで透析した後、280nmでのUV吸光度及び12%SDS−PAGEによって推定した純度を使用して濃度を計算した。調製物は85%を超えて純粋であったと決定した。精製分子は前に記載したようにELISAに施し、非精製上清と比較すると、両方の精製調製物がヒトVEGF−Aを認識することができたことが示された。
【0086】
(実施例9)
scFv2H1によって認識されるヒトVEGFエピトープの同定
(a)線状ファージにおいて提示されるコンビナトリアルペプチドライブラリーからscFv2H1によって認識されるペプチドの選択
scFv2H1によって認識されるヒトVEGF−Aエピトープを同定するために、本発明者らは線状ファージにおいて提示されるコンビナトリアル12アミノ酸直鎖ペプチドライブラリー(Combinatoria Molecular.Santiago Vispo,N.(Ed.)Elfos Scientiae、2004、La Havana)にscFv2H1を向ける戦略に従った。PBS−スキムミルク4%に希釈したライブラリーを構成するファージ混合物を、イムノチューブ(Nunc、Maxisorp)に加え、そこに精製scFv2H1を固定した。チューブをscFvでコーティングし、固相をPBS−スキムミルク4%でさらにブロッキングした。イムノチューブ中でscFvと結合しなかったファージは、PBS−0.1%Tween溶液の20回の洗浄、次にPBSでの2回の洗浄によって排除した。結合したファージを100mmol/Lのトリエチルアミン溶液を用いて溶出させ、これを0.5mol/Lのトリス(pH7.5)ですぐに中和した。溶出したファージをTG1細菌中で増幅し、新たな選択サイクル用の出発物質として使用した。この手順は同様の条件下で3回繰り返した。第2及び第3選択サイクルから溶出したファージを感染させたTG1細胞のランダムなコロニーを使用して、96ウエルスケールでファージを生成した。
【0087】
scFv2H1と結合するこれらのペプチドディスプレイファージクローンの能力を、ファージELISAを使用して評価した。Maxisorp(Nunc)96ウエルプレートはscFv2H1でコーティングし、次いでブロッキングした。1つのウエルによって生成したファージをPBS−スキムミルク4%に希釈し、scFv2H1でコーティングしたプレートの特定のウエルにおいて22℃で1時間インキュベートし、次にPBS−0.1%Tweenで数回洗浄した。結合したファージは、ペルオキシダーゼと結合した抗M13抗体(Amersham)を使用して検出した。ELISAにおいてアッセイした40個のファージクローンの中で、35個が陽性の結果を示し、以下の方法の中で使用した。
【0088】
(b)scFv2H1結合ELISA競合アッセイ
ペプチドディスプレイファージの選択した35個のクローンが、scFv2H1の結合部位を特異的に認識するかどうか試験するために、固相にコーティングしたscFv2H1との結合に関してファージ上のペプチドとVEGF−Aが競合するELISAを行った。Maxisorp(Nunc)96ウエルプレートは1ウエル当たり10μgのscFv2H1でコーティングし、次いでブロッキングした。ウエルの半分はPBS−4%スキムミルクに溶かした10μg/mLのVEGF(Peprotech)と共にインキュベートし、PBS−0.1%Tweenによる数回の洗浄後、10μg/mLのVEGF(Peprotech)を含むPBS−4%スキムミルクに希釈したファージ調製物を加え、これらは既に記載した条件と同様の条件でインキュベートした。同時に、96ウェルプレートの残りのウェルをPBS−スキムミルクと共にインキュベートし、PBS−0.1%Tweenによる数回の洗浄後、PBS−4%スキムミルクに希釈したファージ調製物を加えた。結合したファージは、ペルオキシダーゼと結合した抗M13抗体(Amersham)を使用して検出した。試験クローンのサンプルに関する図11中に示すように、VEGFの存在はファージにおいて提示されるペプチドと固定scFv2H1の結合に完全に干渉する。
【0089】
(c)ペプチド配列決定
前述の手順で特徴付けられた35個のペプチドファージクローンの20のサンプルを使用して、自動配列決定用にファージミドDNAを抽出した。20の試験クローンに関して得られた配列は同一であり、これらはCCRTLMLLQYHR(配列番号15)であった。
【0090】
(d)scFv2H1によって認識されるエピトープの予測試験
前に得た配列は、プログラムFINDEPI(http://www.biocomp.cigb.edu.cu/findepi)及び3D Epitope Explorer(Schreiber A.J.2005.Comput Chem 26:879〜887)を使用して分析し、同様の結果であった。前の方法は、タンパク質−タンパク質相互作用に関与する表面タンパク質群を予想する計算法である。インプットデータとして、これらの方法は、相互作用結合中のエレメントの1つ(鋳型タンパク質;本発明者らの場合、PDBタンパク質データバンクからのヒトVEGF−A、コード1BJ1)、及び相互作用中の第2のエレメントのアミノ酸配列(結合タンパク質;本発明者らの場合、ペプチドCCRTLMLLQYHR;配列番号15)の3D構造を使用する。一例として、FINDEPIプログラムは、幾つかの立体化学的規則を適用して、鋳型タンパク質中のそれぞれの表面群の考えられるミモトープ(Mimotope)のデータベースを生成する。このデータベースは、その結合により実験的に選択したペプチドとおそらく類似するミモトープを検出するための、プロファイルアラインメント法を使用して検索する。グルーピングアルゴリズムを適用した後、このプログラムは、2つのタンパク質の相間相互作用において局在する可能性がある、鋳型タンパク質の表面における一群の露出残基を報告する。方法の確実性は、その結晶構造が知られているタンパク質−タンパク質複合体を用いて評価されており、且つそれに関する実験データは、これらの分子によって結合したペプチドの配列に利用可能である。
【0091】
いずれの使用したプログラムも、(PDBタンパク質データバンク、コード1BJ1に従い注釈付けした)残基C102、C57、R56、T31及びL32を主に含むヒトVEGF−A分子における類似した相互作用ゾーンを定義する。本発明において、これらの残基はscFv2H1によって認識されるエピトープの主な指標と考えられる。予想に従うと、他の残基も前述の主な指標である残基と関係がある可能性があり、一方低いスコアを有するのは、これらのG59、C68、V69、P70及びH99である。残基C102、C57、R56、T31及びL32によって主に定義されるエピトープは、ヒトVEGFを中和する他の抗体及び抗体断片に関して報告されたエピトープと一致しない(Muller AYら、1997.PNAS 94:7192〜7197;Muller AY.ら、1998.Structure 6:1153〜1167;Schaeppi J.−M.ら、1999.J Cancer Res Clin Oncol 125:336〜342;Fuh G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631;WO2005012359)。二量体をモノマーに分離するジスルフィド結合の還元で抗原を処理したときにヒトVEGF−Aに関するscFv2H1の認識の消失を示す、実施例4中に示す実験の結果を本発明者らが考慮する場合、残基C102、C57、R56、T31及びL32によって主に定義されるエピトープは、VEGF−Aの二量体構造の保存と関係がある可能性がある。
【0092】
図12は、他の抗体に関して記載された残基と比較した、scFv2H1によりVEGF−A分子において認識されるエピトープを主に定義する残基のマッピングを示す。αヘリックス、β鎖及びループで、その二量体立体配座のヒトVEGF−Aの三次構造を表すカートン(cartoon)タイプの図形を使用する。二量体中の2つの同一の分子は、ライトグレー及び黒色として存在する。簡略化のために、scFv2H1によって認識されるエピトープの主な指標として定義した残基の位置は、ライトグレー鎖においてのみ示し、黒色のファンデルワールス表示(VDW)で存在する。他の抗体によって認識される残基は、図12A〜12D中でライトグレーのVDWとして示す。図12A及び12Bは、scFv2H1に関する主な指標残基によって定義されるエピトープは、FabG6及びB20−4によって定義されるエピトープと隣接するが重複はしないことを示す(Fuh G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631)。図12Cは、scFv2H1に関する主な指標残基によって定義されるエピトープは非常に異なり、アバスチンとして商業上知られているヒト化抗体ベバシズマブに関して定義されるエピトープと構造上離れていることを示す。図12Dは、scFv2H1に関する主な指標残基によって定義されるエピトープは、抗体3.2E3.1.1によって定義されるエピトープと構造上重複しないことを示す(Muller AYら、1997.PNAS 94:7192〜7197)。
【0093】
図12Eは、scFv2H1に関する主な指標残基C102、C57、R56、T31及びL32(黒色のVDW中)によって定義されるエピトープに関して、ヒトとマウスのVEGF−Aの配列を比較するときの、異なる(ライトグレーのVDW中の)近隣アミノ酸の位置を示す。所与のエピトープの隣接残基はその三次構造突出、したがって抗体によるその認識のために重要であること、及び単一アミノ酸の変化は、他種のそれに関する所与の種の分子に対する抗体の特異性を決定するのに十分であることは、当技術分野で知られている(Fuh G.ら、2006.J.Biol Chem 281:6625〜6631)。これらの結果は、何故scFv2H1断片がマウスのVEGF−Aを認識しないかを説明することができる。
【0094】
全てのこれらのエレメントは、scFv2H1断片を構成するVRによって定義される抗原結合部位は、アミノ酸配列に関してだけでなく、抗原において認識されるエピトープ、及び結果として、天然ヒトVEGFの生物学的機能に干渉するその考えられる機構の点でも、文献中に報告されたヒトVEGFを中和する他の抗体及び抗体断片の抗原結合部位と異なることを示す。
【0095】
(実施例10)
ヒトVEGFで刺激したヒト臍帯内皮細胞のモデルにおける、ヒトVEGFを認識する異なる分子のin vitroでの抗増殖効果の評価。
分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2のin vitroでの抗増殖効果を、ヒトVEGFで刺激したヒト臍帯静脈内皮細胞(HuVEC)のモデルにおいて決定した。簡単に言うと、1%(v/v)ウシ胎児血清(Gibco)を補充したRPMI1640培地において、1%ゼラチン(Sigma)で事前にコーティングした96ウエル培養プレート(Costar)の1ウエル当たり3,000個のHuVEC細胞(PromoCell GmbH)を平板培養し、24時間の間5%CO中で37℃において増殖させた。細胞は10ng/mLのヒトVEGF−A(Peprotech)を補充した新たな培地で刺激し、異なる濃度の分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2と共にインキュベートした。
【0096】
図13は、100%(干渉無しの増殖対照、VEGF線)として任意に定義し、精製分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2の混合物を3つの異なる濃度(縞模様線:2μg/mL;黒線:1μg/mL;及び白線:0.5μg/mL)で、10ng/mLのヒトVEGF−A(Peprotech)と共に細胞に加えたときの、10ng/mLのヒトVEGF−Aの存在下で増殖させたHuVEC細胞の増殖を示す。阻害対照として、0.5μg/mLの可溶性受容体KDR−Fc(Sigma)の混合物を使用した。陰性対照として、scFv抗HBsAgを混合物中に利用した。72時間のインキュベーション後、20%メタノールに溶かした0.5%クリスタルバイオレットで細胞を染色した。プレートを水で洗浄し、空気乾燥させた。染色液はエタノールと0.1Mクエン酸ナトリウムの1:1溶液で溶出させ、562nmでプレートリーダーにおいて吸光度を読み取った。基底増殖状態の吸光度の値を全てのプレート値に対して引き、阻害対照と最大増殖対照の割合としてデータを表した。図13中に示したように、分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2は、45%と58%の間の値まで用量依存的にHuVEC細胞の増殖を阻害する。
【0097】
(実施例11)
マウス中の皮下マトリゲルペレットモデルにおける、ヒトVEGFを認識する異なる分子のin vivoでの抗血管新生効果の評価。
分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2のin vivoでの抗血管新生効果を、Passanitiら(Passaniti Aら、1992.Lab Invest.67:519〜28)によって記載された実験モデルにおいて試験した。このモデルでは、血管新生促進因子の存在下で細胞外マトリクス(マトリゲル、Becton Dickinson)のタンパク質の抽出物を、C57BI/6マウスに皮下接種することによって血管新生を誘導する。動物は10のグループに分け、100ngのヒトVEGF(Peprotech)を含む500μLのマトリゲル、及び無関係な抗体(CB−Hep.1、抗HBsAg、Heber Biotec、Havana)を含めた異なる濃度のアッセイ用分子を腹部領域に皮下注射した。6日後に動物を屠殺し、マトリゲルペレットを抽出し、製造者の説明書に従いDrabkinの試薬キット(Sigma)を使用するDrabkin法によって、それぞれのヘモグロビン含有量を決定した。分子scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2は、マトリゲルペレットにおいてヒトVEGFによって誘導される血管形成を有意に阻害し(p<0.001)、これはヘモグロビン含有量の低下と相関関係がある。
【0098】
(実施例12)
A431ヒト腫瘍細胞を異種移植したヌードマウスの実験モデルにおける、ヒトVEGFを認識する異なる分子のin vivoでの抗血管新生効果の評価。
腫瘍及び幾つかの腫瘍間質細胞によって誘導される血管新生は、それらの増殖及び播種に必要不可欠であり、この血管新生は主にこれらの細胞エレメントによって生成されるVEGFによるものなので、抗血管新生物質のアッセイの有効なモデルは、動物における腫瘍増殖の阻害のモデルである。scFv2H1、及びそのVR由来の全ての他の分子はマウスVEGFではなくヒトVEGFを同定するので、ヒト腫瘍細胞を同系無胸腺マウス(ヌードマウス;nu/nu)に接種した、マウスにおける腫瘍増殖モデルを確立した。実験中、本発明者らは、8〜10週齢であるBALB/c系統(CENPALAB、Havana)の5匹のnu/nu無胸腺マウスの9群を使用した。治療群は、2つの用量レベル:PBSpH7.2中でマウス1匹当たり25mg/kg及び2.5mg/kgを考慮して、試験用の4分子(scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2)のそれぞれに関して編成した。第9群(陰性対照)は賦形剤(PBSpH7.2)で治療した。右背面領域に5×10個のヒトA431腫瘍細胞(ATCC、CRL1555)をマウスに皮下注射した。腫瘍が200mmの体積に達したとき、マウスを5匹の9群に無作為に分け、それぞれの実験群に関して示したように治療を開始した。投与は腹腔内に、3週間の間2日毎に200μLの体積で行った。対照には、最高用量で無関係なマウスモノクローナル抗体CB−Hep.1を接種した。腫瘍増殖の追跡は、デジタルカリパスを使用して、最高(長さ)、及び最小(幅)の腫瘍径の測定によって行った。腫瘍体積は、腫瘍体積(mm)=0.52×長さ(mm)×幅(mm)として計算した。観察期間中の腫瘍体積は、一元配置ANOVA統計量及びボンフェロニの事後検定を使用して比較した。確定治療期間後、動物を屠殺し、腫瘍は外科手術によって除去し、ヘマトキシリン及びエオシンを使用して組織学的に分析した。
【0099】
図14中に示したように、scFv2H1、Fab2H1−32、scFv−Fc2H1−4.1及びscFv−Fc2H1−8.2を接種した全ての動物が、陰性対照に対する統計上有意な腫瘍体積の減少、及びマーカー用量依存性を示した。4個の分子の中で、scFv−Fc2H14.1とscFv−Fc2H18.2から最良の結果が得られたが、おそらくこれは分子の大きなサイズと関係があり、それらの生物学的利用能を増大させるが、しかしながら単位質量当たりの結合部位の数の点で、scFv2H1はこれらの分子に優るわずかな利点を有する。FabとscFv2H1断片に関して見られた違いは統計上有意ではなかったが、しかしながら分子質量はFabがほぼ二倍である。これは、可溶性分子を中和するはずである抗体にとって、腫瘍細胞に直接影響を与えるよりも、(おそらく小さなサイズがよい)腫瘍浸潤は生物学的利用能ほど重要ではなく、FcRnによって媒介される再循環と適合性があるFcの存在によりscFv−Fc2H14.1及びscFv−Fc2H18.2のような「IgG型」分子のみを好むことに起因する可能性がある(Vaccaro C.ら、2005.Nature Biotechnol 23:1283〜1288)。後者の性質に関しては、両者ともFcを欠くので、scFv断片とFab断片はそれほど異ならない。組織学的分析は、治療した腫瘍には、血管密度の有意な低下、血管の直径の減少、腫瘍細胞アポトーシスの増大、及び有糸分裂数の減少があったことを示した。
【0100】
(実施例13)
A431細胞を接種したヌードマウスを使用する腫瘍領域中に選択的に滞留する125I放射標識scFv2H1断片の能力。
A431細胞が増殖していた領域中に滞留するscFv2H1断片の能力を決定するために、この断片、及び対照断片(マウス抗B型肝炎表面抗原scFv;scFv−Hep.1)を、それぞれ1.3MBq/5μg及び1.28MBq/5μgの最終比放射能のためのヨードゲン手順(Fraker PJ、Speck JC Jr.1978.Biochem Biophys Res Comm 80:849〜857)を使用して125I(Amersham、UK)で標識した。
【0101】
放射標識産物を薄層クロマトグラフィーで分析して、タンパク質の取り込みを検出し、それぞれ93%と95%の放射能の値を報告した。それらの対応する抗原(ヒトVEGF及びHBsAg)を検出する放射標識産物の能力を、ポリスチレン製イムノチューブをヒト組換えVEGFのアイソフォーム121(5μg/mL;Peprotech)、又は組換えHBsAg(5μg/mL;Heber Biotec、Havana)でコーティングしたシステムで試験し、次いでブロッキングし、対応する特異性の放射標識断片のサンプルと接触させて置き、理論上固相によって捕捉することが可能である量に調節した。インキュベーション及び洗浄の後、本発明者らは固相がそれぞれscFv2H1とscFv−Hep.1に関して84%と82%の放射能で結合することができたことを決定し、放射標識手順は重要なことに断片の生物活性を変えなかったことを示した。
【0102】
生体内分布を試験するために、本発明者らは20匹のnu/nuマウスを使用した。右背面領域に5×10個のA431培養系のヒト腫瘍細胞を動物に皮下接種した。腫瘍が約300mmの体積に達したとき、動物を5匹の動物の4群に無作為に分け、治療を開始した。マウスは放射標識産物を尾静脈付近に注射し(10匹にはscFv2H1、及び10匹にはscFvHep.1)、24時間及び48時間後にそれぞれの産物に関して5匹の群を屠殺した。腫瘍、脾臓、肝臓、腎臓、腸、筋肉、骨髄及び血液サンプルを外科手術によって除去し、又はサンプリングした。放射能の蓄積は、組織1グラム当たりの注射用量の割合として表した。較正は標準サンプルの注射用量を使用して行った。放射能はシンチレーションγ線カウンターを使用して測定した。
【0103】
図15は、注射全放射能に対する、異なる時間で試験組織1個当たりから回収した放射能の割合を示す。腫瘍:血液の放射能の比の具体例に関する表9中に示す結果と一緒にすると、この実験は、注射後24〜48時間で、非特異的scFvHep.1と異なり、scFv2H1断片は腫瘍組織中に優先的に局在することを示した。
表9.ヒトVEGFを発現するヒト腫瘍A431細胞を移植したヌードマウスに関する腫瘍:血液の放射能の比。
【表11】

【0104】
これらの結果は、scFv2H1断片は、A431腫瘍中と同様に、高い局所濃度のヒトVEGFが存在する解剖学的領域に特異的に局在する可能性があるが、しかしながら放射性同位体、又は最終的には毒素又は薬剤などの、異なる治療薬のこの領域への特異的送達に有用であることを示唆する。値は、動物への異なる125I放射標識分子の注射後24時間及び48時間に対応する。5匹のマウスから回収した組織から導いた平均値から始めて、それぞれの比を計算した。
【0105】
(実施例14)
scFv2H1断片及び二価分子scFv−Fc2H1−4.1を使用する非ヒト霊長類における実験的脈絡膜血管新生(CNV)の予防。
実験的脈絡膜血管新生(CNV)に関するモデルとして、本発明者らはKrzystolikら(Krzystolik M.G.ら、2006.Acta Ophthalmol、120:338〜346)によって報告されたモデルを利用した。6匹のカニクイザル(Macaca fascicularis、CENPALAB、Havana)を、Good Laboratory Animal Practice機構のガイダンスに従い維持し扱った。動物には塩酸ケタミン、マレイン酸アセプロマジン、及び硫酸アトロピンの筋肉内注射を用いた全手順で麻酔をかけた。塩酸プロパラカインを用いた局所麻酔も使用した。摘出及び安楽死前の麻酔は、ペントバルビタールナトリウムの静脈内注射によって行った。黄斑におけるCNV膜はアルゴンレーザー照射を使用して誘導し、50μmと100μmの間の施用点で水膨れ及びわずかな出血をもたらす手順を確実にした。写真撮影及び蛍光血管造影法を使用して、病変の拡大及び特徴を検出及び測定した。動物の眼は、異なる日数、断片の施用前後、及びプラセボ及びレーザー照射手順、並びに摘出及び動物屠殺で終わる実験終期において調べた。
【0106】
試験する分子scFv2H1抗体断片又は免疫グロブリン型の二価分子scFv−Fc2H1−4.1によって、動物を3匹の2群に分けた。それぞれの動物の右眼には、硝子体内注射により50μLのPBSに溶かした500μgのscFv2H1又はscFv−Fc2H1−4.1を群によって与え、一方左眼には賦型剤のみを注射した。眼にはレーザー治療の前に2回注射した(第0日及び第14日)。第21日に、CNVを誘導するためにレーザー治療を全ての眼に与えた。特定製品又は賦型剤を用いて第2日に、それぞれの眼において注射を繰り返した。レーザー誘導後3週間(第42日)で、動物に硝子体内注射を行い、今回は全てにscFv2H1断片又はscFv−Fc2H1−4.1分子を群によって与え、第56日に最後の同様の注射で終了した。
【0107】
治療の第1段階(第42日より前)では、試験は、それぞれの対照の眼と比較して、scFv2H1又はscFv−Fc2H1−4.1を投与した眼のグレード4の病変の発症の減少を示し、これらはいずれも分子がCNVの予防を手助けすることを示唆する。治療の第2段階では、全ての眼にscFv2H1又はscFv−Fc2H1−4.1を与えたとき、本発明者らはグレード4の病変の減少を検出したが、これは断片及び二価分子は確立した病変にも有効であることを示唆する。
【0108】
(実施例15)
トランスジェニックタバコ植物における、ヒトIgG1のFcと遺伝子工学によって融合させたscFv断片の2単位を含む二量体分子の発現。
実施例8に記載したPCR条件を使用して、scFv−Fc2H1−4.1をコードする遺伝子を増幅させ、適切な制限部位(NcoI及びXbaI)を加えることにより末端を改変して植物細胞ベクターにクローニングした。PCR中で使用した基本合成オリゴヌクレオチドは、配列番号13で報告された配列に関して設計した。増幅したDNA断片は約1.4kbの主要バンドとして検出し、QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN、GmbH)を使用して1%アガロースゲル(Sigma)上で精製した。DNAは前述の酵素を用いて消化し、サツマイモスポラミンに関するシグナル配列の前にscFv−ヒンジ−CH2−CH3構築体の型のベクターpHES74(Lopez A.ら、1996.Biotecnologia Aplicada 13:265〜270)にクローニングした。このベクターは、CaMV35Sプロモーター、生成タンパク質の翻訳量の増強因子として作用するオメガタバコモザイクウイルスのリーダー領域、及びトランスジェニック植物における外来遺伝子の高発現も促進するノパリンシンターゼターミネーターを有する。プロモーター−scFv−Fc−ターミネーター遺伝子発現「カセット」をバイナリーベクターpDE1001中に導入して、最終プラスミドpDEscFv−Fc.70を生成した。この実施例中で使用した構築体に関する詳細は、以前に報告された詳細(Ramirez,N.ら、2002.Transgenic Res.11:61〜64)と同様である。
【0109】
最終プラスミドpDEscFv−Fc.70を使用して、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)によって媒介される遺伝子導入によってタバコ品種Petit Havana SR1細胞を形質転換した。F0及びF1植物を以前に記載された従来の手順によって得て、活性scFv−Fc分子の発現は、実施例8に記載したのと同様のELISAアッセイを使用して検出した。
【0110】
生物活性scFv−Fc分子は、他に記載されたように微粉を得るまで、液体窒素中で0.4gの形質転換したタバコ植物の葉、又は非形質転換対照を粉砕することによって抽出した完全可溶性植物タンパク質(TSP)の型で調製する。粉末は反応チューブに移し、抽出バッファー(61mMのトリス−HClpH6.9;2%SDS;12.5%グリセロール)と1:2(w/v)で混合し、5分間氷中でインキュベートする。不溶性物質は13,000rpmで遠心分離にかけることによって除去し、可溶性分画は、アルカリホスファターゼと結合した抗ヒトFc抗体(Sigma)を使用して、異なる希釈でELISAにおいてアッセイし発現を検出した。本発明者らは、トランスジェニック植物由来のTSPが、対照植物由来のTSPによって同定されなかった、固相にコーティングされたヒトVEGFを認識することができる分子を含んでいたことを検出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7及び配列番号8のヌクレオチド配列、又は相同配列によってコードされるヒト免疫グロブリン可変領域を含み、必ずしもそれだけに限られないが、その残基C102、C57、R56、T31及びL32との関連で定義されるヒトVEGF−Aにおけるエピトープを認識し、その血管新生促進効果に干渉することを特徴とする組換え抗体。
【請求項2】
配列番号7及び配列番号8の配列、又は相同配列が単鎖Fv抗体断片(scFv)をコードする配列内に含まれ、ヒト抗体由来の重鎖と軽鎖の可変領域がリンカーセグメントによって分離されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換え抗体。
【請求項3】
scFvコード配列が配列番号6である、請求項2に記載の組換え抗体。
【請求項4】
配列番号7及び配列番号8の配列、又は相同配列がコンセンサスヒトIgG免疫グロブリンの定常ドメインを伴うFab型抗体断片をコードする配列内に含まれることを特徴とする、請求項1に記載の組換え抗体。
【請求項5】
Fab型断片をコードする配列が配列番号9及び配列番号10であることを特徴とする、請求項4に記載の組換え抗体。
【請求項6】
配列番号7及び配列番号8の配列、又は相同配列がヒト免疫グロブリンヒンジ、CH2及びCH3定常ドメインとスペーサーによって連結したscFv断片によって構成されるポリペプチド鎖をコードする配列内に含まれ、そのタンパク質形が他の同一ポリペプチド鎖と共有結合して二量体分子を形成することを特徴とする、請求項1に記載の組換え抗体。
【請求項7】
ヒト免疫グロブリン定常ドメインがIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4型のドメインであることを特徴とする、請求項6に記載の組換え抗体。
【請求項8】
ヒンジ、CH2及びCH3定常ドメインとスペーサーによって連結したscFv断片によって構成されるポリペプチド鎖をコードする配列が、配列番号13又は配列番号14であることを特徴とする、請求項6及び7に記載の組換え抗体。
【請求項9】
抗腫瘍又は抗血管新生能力を有する放射性同位体、又は化学的若しくは生物学的作用物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1から8までに記載の組換え抗体。
【請求項10】
in vivo腫瘍診断の潜在性を与える放射性同位体をさらに含むことを特徴とする、請求項1から8までに記載の組換え抗体。
【請求項11】
組換え細菌若しくは酵母によって、又は哺乳動物細胞若しくは他の真核生物系中で生成されることを特徴とする、請求項1から8までに記載の組換え抗体。
【請求項12】
組換えDNAを介した遺伝子操作によって得られ、宿主細胞に組み込むことができるプラスミド又は配列である、請求項1から8までに記載の組換え抗体をコードするベクター。
【請求項13】
請求項1から9までに記載の組換え抗体を含む医薬組成物。
【請求項14】
受動免疫療法によって、眼の実体、腫瘍形成過程、急性及び慢性炎症過程、並びに自己免疫過程などの血管新生の増大と共に発達する実体を治療するための医薬品を製造するための、請求項1から9までに記載の組換え抗体の使用。
【請求項15】
受動免疫療法によって悪性腫瘍及び転移を治療するための医薬品を製造するための、請求項1から9までに記載の組換え抗体の使用。
【請求項16】
受動免疫療法によって加齢性黄斑変性症を治療するための医薬品を製造するための、請求項1から9までに記載の組換え抗体の使用。
【請求項17】
画像化技法を使用した、悪性腫瘍及びその転移のin vivo診断用の放射性医薬品を製造するための、請求項10に記載の組換え抗体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図14】
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【図15】
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【図8】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−508033(P2010−508033A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534978(P2009−534978)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000019
【国際公開番号】WO2008/052489
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】